説明

制震金具

【課題】複数回の揺れを受けても粘弾性体シートが剥離し難く、安定的に十分な制震効果を発揮することができる制震金具を提供する。
【解決手段】柱や梁に、連結片17を重ねてボルトナット連結により取り付ける。この金具では、粘弾性体シート39、41が、第1取付板3と第2取付板19との間と、第2取付板19と補強板31との間にそれぞれ溶着した状態で挟まれている。従って、溶着しなかった場合に比べて、せん断方向に大きな力が掛かっても剥離し難く、長期間にわたって安定的に制震効果を発揮させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制震金具に係り、特に地震時等における建物の震動を低減するための制震金具に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の制震金具は通常一対の取付板を有し、その一対の取付板は板状のバネを介して連結されている。即ち、板状のバネの一端が一対の取付板のうち一方の取付板に連結され、他端が他方の取付板に連結されて一体に構成されている。また、一対の取付板の間には粘弾性体シート(=摩擦板)が挟み込まれている。
この制震金具は、一方の取付板を柱に取り付け、他方の取付板を土台や梁などの横架材に取り付けて使用する。
地震等により建物が揺れたときには、バネと粘弾性体シートによる減衰力と復元力が利用されて、揺れが早期に収まると共に建物の変形が抑えられること、即ち制震効果が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−200882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、粘弾性体シートが大きなせん断力を受けていずれかの取付板から剥離してしまうと、一対の取付板からの相対変形力を受けとることができなくなるので、制震効果が大きく低下する。そのような場合に、制震金具を一々取り替えるのは面倒でもあり、経済的にも負担となる。また、そもそも、事前に、粘弾性体シートが剥離しているかどうかを検査するのは容易ではない。
本発明は上記従来の問題点に着目してなされたものであり、複数回の揺れを受けても粘弾性体シートが剥離し難く、安定的に十分な制震効果を発揮することができる制震金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、一辺に連結部を有し前記連結部が直交するように重ね合わされた一対の取付板と、前記一対の取付板に渡設されたバネと、前記一対の取付板の夫々対向する板面間に挟み込まれた粘弾性体シートを具備する制震金具において、前記粘弾性体シートは前記一対の取付板に溶着されていることを特徴とする建物の制震金具である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載した建物の制震金具において、前記粘弾性体シートに対向する取付板の板面には周囲から突出した凸状突起群が形成されており、前記粘弾性体シートは各凸状突起の形状に追従して変形され溶着されていることを特徴とする建物の制震金具である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した制震金具において、連結部は直角に折り曲げられた連結片によって構成されていることを特徴とする建物の制震金具である
【発明の効果】
【0008】
本発明の制震金具によれば、粘弾性体シートが取付板から剥離するのを防止でき、安定的に十分な制震効果を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る制震金具を柱と梁に取り付けた状態の斜視図である。
【図2】図1の制震金具の分解斜視図である。
【図3】図1の制震金具の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係る制震金具1を図面に従って説明する。
図1に示すように、この制震金具1は柱Cと梁Bに連結されて固定されている。
制震金具1の構成を説明する。
制震金具1は鋼材によって構成された一対の取付板3、19を有している。一対の取付板3、19のうち、一方を第1取付板3、他方を第2取付板19と称して説明する。
【0011】
第1取付板3は平板状の主部5を有しており、この主部5は全体として略四角形をなしているが、二つの角が小さく、一つの角が大きく切欠かれている。この主部5の大きく切り欠かれた外周辺の近傍にはその辺に沿って、1つの矩形穴7が形成されている。また、プレス加工により表面(=第2取付板19の主部5に対向する板面)側が凸状、裏面側が凹状となる小さな湾曲部9が3箇所形成され、各湾曲部9の中心には挿通穴11が形成されている。各湾曲部9は外周辺付近に形成されており、互いに正三角形近似の三角形の頂点位置を占めるように配置されている。また、2つの湾曲部9の間に矩形穴7が配置するように調整されている。
【0012】
符号13は小さい凸状突起を示し、この凸状突起13は第1取付板3の表面側の3つの湾曲部9、9、9より内方に、複数個互いに所定距離離間して整列した状態で取り付けられており、凸状突起群15をなしている。なお、各凸状突起13の高さは湾曲部9の高さより十分に低く設定されている。
符号17は連結部としての小矩形状の連結片を示す。この連結片17は主部5の矩形穴7から遠い側の一長辺に連なった部分を表面側に垂直に折り曲げたものである。
符号20は補強片を示し、この補強片20は連結片17と主部5の一部分にかけてその表面側に重ねられ溶接されており、主部5と連結片17との境界に沿って表面側に直角に折り曲げられている。連結片17とそれに重ねられた補強片20には、それらを貫通する3つの取付穴18が形成されている。
【0013】
第2取付板19は第1取付板3と似たような形状をしているが、それぞれの連結片17、補強片20が直交するように重ね合わされるため、連結片17の位置が異なっている。
主部5には2つの長穴21と1つの丸穴23が形成されている。そのうち長穴21、21は第1取付板3の主部5の矩形穴7を挟んで対向する湾曲部9、9に対向した位置に形成され、丸穴23は残りの湾曲部9に対向した位置に形成されている。長穴21の短軸寸法と丸穴23の直径は湾曲部9が入り込める大きさに設定されている。
【0014】
図2、図3に示すように、第2取付板19の主部5にも、同じように凸状突起群25、27が、裏面(=第1取付板3の表面に対向する板面)側と、表面の両側に夫々形成されている。
第1取付板3の主部5の表面に形成された凸状突起群15と、第2取付板19の主部5の裏面に形成された凸状突起群25は対向しているが、各凸状突起13は互い違いになっており、対向していない。また、第2取付板19の裏面と表面に夫々形成された凸状突起群25と凸状突起群27は対向しているが、各凸状突起13は互い違いになっており、対向していない。
【0015】
さらに、第2取付板19の主部5には第1取付板3の矩形穴7に対向してその矩形穴7に入り込む大きさで一方の板バネ取付台29が取り付けられている。また、第1取付板3にも同様に他方の板バネ取付台(図示省略)が取り付けられている。
【0016】
符号31は鋼材によって構成された補強板を示し、この補強板31は第2取付板19の主部5に似た平板状をしている。補強板31には第1取付板3の湾曲部9に対向して同じような湾曲部33が3箇所形成され、各湾曲部33の中心には挿通穴35が形成されている。湾曲部33は裏面(=第2取付板19に対向する板面)側が凸状、表面側が凹状となっている。
補強板31の裏面にも、同じように凸状突起群37が形成されている。第2取付板19の主部5の表面に形成された凸状突起群27と、上記した凸状突起群37は対向しているが、各凸状突起13は互い違いになっており、対向していない。
【0017】
符号39、41は四角形の粘弾性体シートを示し、この粘弾性体シート39、41はスチレン−イソブチレン系熱可塑性エラストマーによって構成されている。
粘弾性体シート39、41は夫々第1取付板3と第2取付板19の主部5どうしの間と、第2取付板19の主部5と補強板31の間に挟み込まれる。粘弾性体シート39は第1取付板3の凸状突起群15と第2取付板19の凸状突起群25を覆うように、粘弾性体シート41は第2取付板19の凸状突起群27と補強板31の凸状突起群37を覆うように夫々配置される。
【0018】
次に、制震金具1の組立方法について説明する。
第1取付板3の主部5の凸状突起群15上に粘弾性体シート39を被せ、第1取付板3と第2取付板19の連結片17どうしが直交するように第1取付板3の主部5の表面側に第2取付板19の主部5の裏面側を重ね合わせ、続いて、第2取付板19の主部5の凸状突起群27上に粘弾性体シート41を被せ、さらに、補強板31を重ね合わせる。
そのとき、第1取付板3の3つの湾曲部9、9、9と補強板31の3つの湾曲部33、33、33は第2取付板19に形成された2つの長穴21内と丸穴23内でそれぞれ当接している。その状態で、3本のボルト43を補強板31の挿通穴35からそれぞれ挿入し、先端部を第1取付板3の裏面から突出させ、この突出部分にナット45を取り付けて締め付ける。これにより、粘弾性体シート39が第1取付板3と第2取付板19の間で挟み込まれ、粘弾性体シート41が第2取付板19と補強板31との間で挟み込まれる。
【0019】
上記のように重ね合わせると、第2取付板19の板バネ取付台29は、第1取付板3の矩形穴7を通って、第1取付板3の主部5の裏面側へ突出しており、第1取付板3の主部5の裏面側に取り付けられた板バネ取付台(図示省略)と対向している。そこで、板バネ47の一端をその突出してきた板バネ取付台29に挿入して固定し、他端を第1取付板3の主部5の裏面に取り付けられた板バネ取付台(図示省略)に挿入して固定することで、第1取付板3と第2取付板19との間で渡設させる。
【0020】
上記のように組立が完了すると、粘弾性体シート39は対向する第1取付板3の主部5の表面の凸状突起群15と第2取付板19の主部5の裏面の凸状突起群25に追従して変形する。従って、図2に示すように、粘弾性体シート39は第1取付板3と第2取付板19に対して、夫々の板面方向(即ち二次元方向)だけでなく、凸状突起13の周面である深さ方向でも接合することになり、板面方向のせん断力を受けても剥離し難くなっている。しかも、第1取付板3側の凸状突起13と第2取付板19側の凸状突起13は互い違いになっており対向していないので、粘弾性体シート39が凹凸に追従して変形しても極端に薄くなることはなく、亀裂は発生し難い。
粘弾性体シート41についても同じように第2取付板19と補強板31に対して接合することになる。
【0021】
上記のようにして組み立てられた制震金具1を加熱炉に入れて、150℃で120分加熱する。これにより、粘弾性体シート39が主部5、凸状突起13に対し溶着して、図3に示す状態が固定化される。
【0022】
次に、この制震金具1の使用方法について説明する。
図1に示すように、建物の梁Bに第2取付板19の連結片17を重ね合わせ、取付穴18にビス49を通して梁中に打ち込む。また、建物の柱Cにも第1取付板3の連結片17を重ね合わせ、取付穴18にビス49を通して梁中に打ち込む。
このように制震金具1は梁Bと柱Cに対して取り付けられる。
【0023】
上記のように制震金具1の第1取付板3の連結片17が柱Cに取り付けられ、第2取付板19の連結片17が梁Bに取り付けられているので、地震等により建物が揺れても、早期に揺れが収まり、また、梁Bや柱Cの相対変形による建物の変形も抑えられる。
しかも、粘弾性体シート39、41は凸状突起13の側面にも接合し、しかも粘弾性体シート39が主部5、凸状突起13に対し溶着しているので、板面に平行なせん断方向に大きな力が掛かっても剥離し難い。従って、長期間にわたって安定的に制震効果を発揮させることができる。
【0024】
制震金具1の第1取付板3と第2取付板19の夫々の主部5と補強板31を模して凸状突起群15、25、27、37が夫々形成された3枚の鋼板を用意した。そして、中間の鋼板がその余の鋼板より上方側に突出し、且つ下方側に後退するように対向させ、鋼板の間に粘弾性体シート39、41を挟み込んだ状態で重ね合わせ、ボルト・ネット締結により一体化した試験品を作製した。また、粘弾性体シート39、41を主部5、凸状突起13に対して熱溶着していないことを除いては同じ構成の比較品を作製した。
そして、上方から中間の鋼板を引張り、下方から両側の鋼板を引張ることで変位を調べたところ、試験品は、比較品より変位量が有意的に小さくなったことを確認した。
【0025】
以上、本発明の実施例について詳述してきたが、具体的構成は、この実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、粘弾性体シートは熱可塑性を有するものであれば、種類は特に限定されないが、制震金具1の加熱温度、時間は用いる粘弾性体シートの種類によって適宜変更することになる。
補強板31を備えない構成とすることも可能であり、この場合は第2取付板19の長穴21、21の代わりに丸穴23と同様な丸穴を形成する。
また、上記実施の形態では、制震金具1を柱Cと梁Bとに取り付けたが、柱と土台とに取り付けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の制震金具によれば、粘弾性体シートによる制震効果が長時間にわたって安定的に期待できるので、金具寿命が長い。
【符号の説明】
【0027】
1…制震金具 3…第1取付板 5…主部
7…矩形穴 9…湾曲部 11…挿通穴 13…凸状突起
15…凸状突起群 17…連結片 19…第2取付板
20…補強片 21…長穴
23…丸穴 25…凸状突起群 27…凸状突起群
29…板バネ取付台 31…補強板 33…湾曲部 35…挿通穴
37…凸状突起群 39…粘弾性体シート 41…粘弾性体シート
43…ボルト 45…ナット 47…板バネ 49…ビス
C…柱 B…梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一辺に連結部を有し前記連結部が直交するように重ね合わされた一対の取付板と、前記一対の取付板に渡設されたバネと、前記一対の取付板の夫々対向する板面間に挟み込まれた粘弾性体シートを具備する制震金具において、前記粘弾性体シートは前記一対の取付板に溶着されていることを特徴とする建物の制震金具。
【請求項2】
請求項1に記載した建物の制震金具において、前記粘弾性体シートに対向する取付板の板面には周囲から突出した凸状突起群が形成されており、前記粘弾性体シートは各凸状突起の形状に追従して変形され溶着されていることを特徴とする建物の制震金具。
【請求項3】
請求項1または2に記載した制震金具において、連結部は直角に折り曲げられた連結片によって構成されていることを特徴とする建物の制震金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−64290(P2013−64290A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204403(P2011−204403)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(594173843)イケヤ工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】