説明

刺繍入りシート及び製造方法

【課題】シート刺繍後切断されても刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生じない刺繍入りシート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シートに刺繍されてなる刺繍入りシートであって、該シートと刺繍糸24−1,24−2とがあらかじめ刺繍前の前記刺繍糸に含有させていた接着剤22を介して結合された刺繍入りシートであり、接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、該刺繍糸をシートに刺繍する工程、刺繍されたシートの刺繍組織部を加熱して前記接着剤を溶融後固化または硬化させる工程を含む刺繍入りシートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍入りシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シートに刺繍を施して外観を向上させ付加価値を向上させることが一般に行われる。
【0003】
例えば、刺繍を施して外観を向上させた網戸用のネットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
あるいは、粗布に刺繍を施した壁紙、刺繍を施したジーンズ、あるいは刺繍を施した皮製品、刺繍を施した和服、刺繍を施したドレスが知られている。和紙に刺繍を施したものは行燈用の張り地として使用される。
【0005】
刺繍を施されたシートは、通常は長尺のシートに刺繍を施したのち使用目的に合わせて所定のサイズに切断して切断されるので、シートの切断端で刺繍糸も切断される。このため、加工段階で刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生ずる場合がある。
【0006】
また、刺繍を施されたシートからなる製品を使用しているうちに刺繍糸がなんらかのトラブルで切断され、その切断箇所から刺繍がほぐれるというトラブルが生ずる場合がある。
【0007】
例えば、網戸用のネットについては、通常は長尺の網戸用のネットに刺繍を施したのち、ネットを張る枠の寸法にあわせてネットが切断されるので、ネットの切断端で刺繍糸も切断される。このため、ネットを張る操作時に刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生ずる場合がある。
【0008】
刺繍の切断箇所からのほぐれに対処する方法としては、シート基材に熱溶融性繊維による刺繍を行なった後、超音波加工機による溶断または溶着によって縁部を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)が、この方式では、鋏などにより非加熱状態で刺繍部が切断された場合にはその切断箇所から刺繍がほぐれるというトラブルに対処できない。また、刺繍部を備える製品において、その製品の使用時に刺繍部の糸がほつれるというトラブルに対処できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実登3070327号公報
【特許文献2】特開平8−226072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、刺繍を施されたシートが非加熱状態で切断されても刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生じない刺繍を施されたシート及びその製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的は、刺繍を施されたシートを用いた製品の使用中になんらかのトラブルで刺繍糸が一部の箇所で切断されても、その切断箇所から刺繍がほぐれるというトラブルが生じにくい、刺繍入りシート及びその製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、刺繍を施されたシートを用いた製品の使用中に刺繍糸がほつれにくい、刺繍入りシート及びその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、刺繍が施されたネットが非加熱状態で切断されても刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生じない網戸用刺繍入りネット及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨とするところは、布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍が施されてなる刺繍入りシートであって、該シートと刺繍組織部を形成する刺繍糸とがあらかじめ刺繍前の刺繍糸に含有させられていた接着剤を介して結合された刺繍入りシートであることにある。
【0015】
また、本発明の要旨とするところは、布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍が施されてなる刺繍入りシートであって、刺繍組織部で互いに隣接する刺繍糸同士が、あらかじめ刺繍前の刺繍糸に含有させられていた接着剤を介して結合された刺繍入りシートであることにある。
【0016】
前記接着剤は熱溶融性であり得る。
【0017】
さらに、本発明の要旨とするところは、前記刺繍入りシートからなり、前記シートが網戸用ネットである、網戸用刺繍入りネットであることにある。
【0018】
また、本発明の要旨とするところは、熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、
該刺繍糸を布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍することにより刺繍組織部を形成する工程、
形成された該刺繍組織部を加熱して前記接着剤を溶融後固化させる工程
を含む刺繍入りシートの製造方法であることにある。
【0019】
さらに、本発明の要旨とするところは、
熱硬化性の接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、
該刺繍糸を布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍することにより刺繍組織部を形成する工程、
形成された該刺繍組織部を加熱して前記接着剤を硬化させる工程
を含む刺繍入りシートの製造方法であることにある。
【0020】
前記熱溶融性の接着剤は前記熱溶融性樹脂を含む繊維からなり得る。
【0021】
前記接着剤は熱溶融性または熱硬化性の樹脂のパウダーであり得、
前記接着剤を含有する刺繍糸が該パウダーを糸表面に付着させてなる刺繍糸であり得る。
【0022】
また、本発明の要旨とするところは、前記刺繍入りシートの製造方法からなり、前記シートが網戸用ネットである、網戸用刺繍入りネットの製造方法であることにある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、刺繍を施されたシートが非加熱状態で切断されても刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生じにくい刺繍入りシート及びその製造方法が提供される。
【0024】
本発明によると、刺繍を施されたシートを用いた製品の使用中になんらかのトラブルで刺繍糸が一部の箇所で切断されても、その切断箇所から刺繍がほぐれるというトラブルが生じにくい、刺繍入りシート及びその製造方法が提供される。
【0025】
本発明の目的は、刺繍を施されたシートを用いた製品の使用中に刺繍糸がほつれにくい、刺繍入りシート及びその製造方法を提供することである。
【0026】
本発明の目的は、刺繍を施されたネットが非加熱状態で切断されても刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生じない網戸用刺繍入りネット及びその製造方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】刺繍された網戸用ネットの外観の一例を示す平面図。
【図2】接着剤を含有する刺繍糸を準備する工程の一例を説明する説明図。
【図3】網戸用ネットの線条と刺繍糸との結合の態様の一例を説明する模式図。
【図4】網戸用ネットの線条と刺繍糸との結合の他の態様の一例を説明する模式図。
【図5】網戸用ネットの線条と刺繍糸との結合のさらに他の態様の一例を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の刺繍入りシートは、布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍糸で刺繍が施されて刺繍組織部が形成されてなる刺繍入りシートである。この刺繍入りシートにおいては、シートと刺繍組織部を形成する刺繍糸とがあらかじめ刺繍前の刺繍糸に含有させていた接着剤を介して結合されている。
さらに、本発明の他の態様においては、本発明の刺繍入りシートはシートに刺繍糸で刺繍が施されて刺繍組織部が形成されてなる刺繍入りシートであって、刺繍組織部を形成し互いに隣接する刺繍糸同士があらかじめ刺繍前の刺繍糸に含有させられていた接着剤を介して結合されている。
【0029】
かかる構成の本発明の刺繍入りシートは上記の結合により刺繍糸が拘束されているので、刺繍を施されたシートが非加熱状態で切断されても刺繍が糸の切断箇所からほぐれるというトラブルが生じにくい。
【0030】
また、本発明の刺繍入りシートを用いた製品の使用中になんらかのトラブルで刺繍糸が一部の箇所で切断されても、その切断箇所から刺繍がほぐれるというトラブルが生じにくい。
【0031】
この、シートに刺繍糸で刺繍が施されて刺繍組織部が形成されてなる刺繍入りシートについて、刺繍入り網戸用ネットを例に説明するならば、刺繍された網戸用ネット(刺繍されたシート)の外観の一例を図1に示す。網戸用ネット(シート)4に柄模様などの刺繍が施されて刺繍組織部6が形成され、刺繍された網戸用ネット(刺繍されたシート)2となる。
【0032】
刺繍は通常の刺繍機、例えばエンブロイダリー刺繍機、コンピュータミシン、などを用いて行うことができる。手刺繍で行ってもよい。
【0033】
刺繍されたシート2が網戸用ネットである場合、網戸用ネットは長尺であり、枠の寸法に合わせて切断して網戸の枠に嵌めこまれるが、通常の刺繍糸が用いられている場合、切断端部で刺繍糸も切断されるため、刺繍組織部6が刺繍糸の切断端からほぐれて刺繍組織部6が崩れるとともに刺繍糸の切断端が長く延びて網戸の外観が損なわれるとともに嵌めこみ作業に支障をきたす。
【0034】
本発明の刺繍入りシートは、まずその製造方法の態様を説明することにより構成があきらかになる。本発明の刺繍入りシートの製造方法の態様の一例においては、刺繍入りシートの製造方法が、
熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、
該刺繍糸をシートに刺繍することにより刺繍組織部を形成する工程、
形成された刺繍組織部を加熱してこの接着剤を溶融し次いで室温に冷却して溶融後固化させ、シートと刺繍糸とをこの接着剤を介して少なくとも部分的に結合させる工程
を含んでなる。
【0035】
刺繍組織部の加熱は、刺繍されたシートを刺繍組織部ごと加熱することにより行われてもよい。
【0036】
刺繍組織部や、刺繍されたシートの加熱は、ドライヤや熱風乾燥機による熱風加熱や、アイロン等による熱板接触加熱、熱ロールによる熱ロール接触加熱、赤外線ヒータによる非接触加熱、電磁波による誘導加熱などの手段を用いることができる。
【0037】
かかる製造方法により、網戸用ネットに刺繍を施す前の刺繍糸に含有されていた熱溶融性の接着剤が刺繍後に加熱溶融されて網戸用ネットと刺繍糸とがこの接着剤を介して少なくとも部分的に結合された本発明の網戸用刺繍入りネットが上述のような簡単な操作で得られる。すなわち、シートと刺繍糸とが結合された状態の本発明の刺繍入りシートを簡単な操作で得ることができる。
【0038】
シートと刺繍糸とが結合された状態は、シートと刺繍糸とが接着剤を介して接着された状態であってもよい。あるいは、シートと刺繍糸とが直接接着していなくても、互いに隣接の刺繍糸同士が接着することにより、シートと刺繍糸とが離脱できないように係合している状態であってもよい。例えば、刺繍組織部の一の箇所である刺繍糸が隣接の別の刺繍糸と接着し、その刺繍糸がその一の箇所から延出してシートを貫通して刺繍組織部の他の箇所に達し、その、他の箇所で隣接のさらに別の刺繍糸と接着していれば、一の箇所と他の箇所がシートを貫通する刺繍糸を介して繋がっているのでシートと刺繍糸とが離脱できないように係合する状態を得ることができる。例えば、シートのおもて面がわの刺繍組織部において互いに隣接の刺繍糸同士が接着し、シートの裏面がわの刺繍組織部において互いに隣接の刺繍糸同士が接着していれば、おもて面がわの刺繍組織部と裏面がわの刺繍組織部とはシートを貫通する刺繍糸を介して繋がっているのでシートと刺繍糸とが離脱できないように係合する状態を得ることができる。
【0039】
接着剤による刺繍糸同士の接着、あるいは刺繍糸とシートとの接着は、接着界面における分子間の化学結合によるものであってもよい。接着界面における分子間の分子間力によるものであってもよい。接着剤がシートや刺繍糸を構成する糸条や繊維の間に入り込んでシートや刺繍糸を構成する糸条や繊維の移動が機械的に拘束されるアンカー効果による結合も本発明においては接着と定義する。
【0040】
本発明の刺繍入りシートは、所定のサイズに切断され、その切断により刺繍糸が切断されても、シートと前記刺繍糸とを接着剤を介して結合されているので、刺繍糸がその切断端部からほつれ出すことを防止でき、刺繍組織が崩れたり、ほつれ出した刺繍糸が延び出してシートの外観を損ねたり後工程での操作の障害になったりすることを防止できる。
【0041】
さらに、切断端部のみならずシートと刺繍糸との係合が比較的緩い刺繍組織部分においてもシートと刺繍された刺繍糸とが接着剤を介して結合されているので、シートと刺繍糸との係合が比較的緩い刺繍組織部分から刺繍組織が崩れたり、ほつれ出したりすることを防止できる。
【0042】
シートが網戸用ネットであり、本発明の刺繍入りシートが刺繍入り網戸ネットである場合には、ネットの網戸の枠への嵌めこみ操作の障害になったりすることを防止できる。
【0043】
例えば、通常の刺繍糸で網戸用ネットのようなシートに刺繍を施したのち、この刺繍後のシートを樹脂液に浸漬したのち加熱して樹脂を硬化させることも切断端での刺繍糸のほつれ防止にとっては有効であるが、このような工程操作は、織物の樹脂加工工程と同様の手間がかかり、網戸用刺繍入りネットのような小ロットの繍入りシートのための加工には経済的に不適である。
【0044】
本発明において用いられる熱溶融性の接着剤としては熱融着性樹脂が挙げられる。熱融着性樹脂の種類としては、ポリウレタン系樹脂やその共重合体、ポリエステル系樹脂やその共重合体、ポリアミド系樹脂やその共重合体、ポリオレフィン系樹脂やその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリレート共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸(またはその塩)共重合体など)、ポリビニルアルコール系重合体、アクリロニトリル系共重合体、をはじめとする種々の樹脂(エラストマーを含む)が挙げられ、刺繍糸の本体の素材より融点の低い樹脂が選択される。
【0045】
刺繍糸の本体の素材としては綿、レーヨン、ベンベルグ、アセテート等のセルロース系繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール系繊維等の市販の合成繊維が例示される。
【0046】
本発明の他の態様にあっては、熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸にかえて熱硬化性の接着剤を含有させた刺繍糸が用いられてもよい。この場合は、本発明の刺繍入りシートの製造方法が、
熱硬化性の接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、
該刺繍糸をシートに刺繍して刺繍組織部を形成する工程、
刺繍組織部を加熱してこの接着剤を硬化させてシートと刺繍糸とをこの接着剤を介して少なくとも部分的に結合させる工程
を含んでなる。
【0047】
本発明において用いられる熱硬化性の接着剤を含有させた刺繍糸としては、熱硬化性樹脂のパウダーからなる接着剤を表面に付着させた刺繍糸が挙げられる。この熱硬化性樹脂のパウダーとしては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂パウダーが例示される。
【0048】
かかる製造方法により、シートに刺繍を施す前の刺繍糸に含有させていた熱硬化性の接着剤が刺繍後に加熱により硬化してシートと刺繍糸とが該接着剤を介して少なくとも部分的に結合された本発明の刺繍入りシートが得られる。
【0049】
本発明に用いる、接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程の一例を説明する。図2において通常の刺繍糸10を走行させつつ槽12に貯留した液14をくぐらせ次いでトンネル型の乾燥機16を通して乾燥させる。液14にはホットメルトパウダー、あるいは熱硬化際性樹脂のパウダーが混合されており、さらにデンプン糊のような水溶性の糊剤が溶解している。液14をくぐらせた通常の刺繍糸10を乾燥機16で加熱乾燥することにより、通常の刺繍糸10に付着した液14が乾いて、通常の刺繍糸10の表面にホットメルトパウダー、あるいは熱硬化際性樹脂のパウダーが付着した刺繍糸、すなわち、接着剤を含有させた刺繍糸が得られる。
【0050】
本発明においては、熱溶融性の接着剤が前記熱溶融性樹脂を含む繊維からなり、前記熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸が該繊維または該繊維を含む糸条を混紡、混繊または合糸してなる刺繍糸であることができる。
【0051】
本発明において用いられる熱溶融性の接着剤は、熱溶融性の樹脂からなる繊維や、熱溶融性の樹脂を含む例えばその熱溶融性の樹脂と異なる樹脂とのサイドバイサイドあるいは芯鞘タイプの複合繊維であってもよい。
【0052】
本発明において用いられる熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸としては、熱溶融性の樹脂からなる繊維あるいは熱溶融性の樹脂を含む繊維を混紡した刺繍糸や、熱溶融性の樹脂からなる繊維あるいは熱溶融性の樹脂を含む繊維からなる糸条やそのような熱溶融性の樹脂を含む繊維を含む糸条を通常の糸と合撚した刺繍糸や、熱溶融性の樹脂からなるフィラメントあるいは熱溶融性の樹脂を含むフィラメントを混繊した刺繍糸であってもよい。
【0053】
本発明において用いられる熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸としては、例えば、コットンやレーヨンと融点が130℃ほどのポリアミド共重合繊維との混紡糸であってもよい。あるいは、ポリエステル繊維等の合成繊維と、その合成繊維より融点の低い繊維からなる低融点繊維との混紡糸、合撚糸、あるいは混繊糸であってもよい。あるいは、このような低融点繊維を含む糸条とこのような低融点繊維を含まない糸条との合撚糸のような複合糸であってもよい。
【0054】
接着剤と刺繍糸を構成する主成分の繊維との接合状態については、その繊維の周面の少なくとも大部分が接着剤で覆われてアンカー効果で接着剤と刺繍糸を構成する主成分の繊維とが接合された態様であってもよい。接着剤がその繊維の表面と接着して接着剤と刺繍糸を構成する主成分の繊維とが接合された態様であってもよい。
【0055】
シートと刺繍糸との結合は、シートとして網戸用ネットを例にすれば、図3に模式的に示すように、網戸用ネットを構成する線条20の表面と接着剤22とが接着されて、その接着剤を介して網戸用ネットと刺繍糸24とが結合された態様であってもよい。あるいは図4に模式的に示すように、網戸用ネットを構成する線条20の周面の少なくとも大部分が接着剤22で覆われてアンカー効果でこの線条20と刺繍糸24とが結合されて、その接着剤22を介して網戸用ネットと刺繍糸とが結合された態様であってもよい。
【0056】
また、刺繍糸に含有させている接着剤がシートを構成する線条や繊維に接着しない接着剤であっても、接着剤を含有する刺繍糸が刺繍されたシートを加熱してこの刺繍糸の、この線条や繊維束条を挟む一の部分と他の部分とをこの接着剤を介して少なくとも部分的に結合させることができる。
【0057】
これにより、シートとして網戸用ネットを例にすれば、図5に示すように、刺繍糸に含有させている接着剤22が刺繍後に加熱溶融あるいは硬化されて、線条20を挟む、刺繍糸24の一の部分24−1と他の部分24−2とが接着剤22を介して少なくとも部分的に結合された、本発明の網戸用刺繍入りネットが得られる。図4に示す態様においては刺繍糸の一の部分24−1と他の部分24−2とが接着剤22を介して環をなし、その環の中に線条20が存在する状態となり、網戸用ネットと刺繍糸とが結合された状態となる。
【0058】
この場合、刺繍糸の一の部分24−1と他の部分24−2との結合は、刺繍糸を構成する繊維の表面と接着剤とが接着されて、その接着剤を介して刺繍糸の一の部分の繊維と他の部分の繊維とが結合された態様であってもよい。あるいは刺繍糸を構成する繊維の周面の少なくとも大部分が接着剤で覆われてアンカー効果でこの繊維と接着剤とが接合されて、その接着剤を介して刺繍糸の一の部分の繊維と他の部分の繊維とが結合された態様であってもよい。
【0059】
本発明に用いるシートとしては、網戸用ネットのほかに、和紙、布、皮革のような刺繍可能な基材を用いることができる。
【0060】
シートとして和紙を用いた場合は刺繍入り和紙を行燈用の張り地として好適に用いることができる。
【0061】
シートとして粗布を用いた場合は刺繍入り粗布を壁紙として好適に用いることができる。
【0062】
シートとしてジーンズ生地を用いた場合は刺繍入りジーンズをファッション衣料として好適に用いることができる。
【0063】
シートとして皮革を用いた場合は刺繍入り皮革をファッション衣料やカバンやアクセサリー用品として好適に用いることができる。
【0064】
シートとして不織布を用いた場合は刺繍入り不織布を日用品やアクセサリー用品の素材として好適に用いることができる。
【0065】
シートとして衣料用生地を用いた場合は刺繍入り生地を洋装や和装の衣料用に好適に用いることができる。
【0066】
その他、本発明の刺繍入りシートはカーテン地、敷物などのインテリア用品に適用することができる。
【0067】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は網戸に限らず例えば、空気浄化装置等の空調機器のフィルタに用いるネットや、食品保存用その他の通気性のケースの開口部に取り付けるネットや、レースカーテン地などの目(組織の開口)が0.5mm以上の粗い布やネットに適用して刺繍糸のほつれを特に効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0069】
2:刺繍された網戸用ネット(刺繍されたシート)
4:網戸用ネット(シート)
6:刺繍組織部
10:通常の刺繍糸
12:槽
14:液
16:乾燥機
20:線条
22:接着剤
24:刺繍糸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍が施されてなる刺繍入りシートであって、該シートと刺繍組織部を形成する刺繍糸とがあらかじめ刺繍前の刺繍糸に含有させられていた接着剤を介して結合された刺繍入りシート。
【請求項2】
布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍が施されてなる刺繍入りシートであって、刺繍組織部で互いに隣接する刺繍糸同士が、あらかじめ刺繍前の刺繍糸に含有させられていた接着剤を介して結合された刺繍入りシート。
【請求項3】
前記接着剤が熱溶融性である請求項1または2に記載の刺繍入りシート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の刺繍入りシートからなり、前記シートが網戸用ネットである、網戸用刺繍入りネット。
【請求項5】
熱溶融性の接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、
該刺繍糸を布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍することにより刺繍組織部を形成する工程、
形成された該刺繍組織部を加熱して前記接着剤を溶融後固化させる工程
を含む刺繍入りシートの製造方法。
【請求項6】
熱硬化性の接着剤を含有させた刺繍糸を準備する工程、
該刺繍糸を布、不織布、紙、皮革、ネットから選択されるシートに刺繍することにより刺繍組織部を形成する工程、
形成された該刺繍組織部を加熱して前記接着剤を硬化させる工程
を含む刺繍入りシートの製造方法。
【請求項7】
前記熱溶融性の接着剤が前記熱溶融性樹脂を含む繊維からなる請求項5に記載の刺繍入りシートの製造方法。
【請求項8】
前記接着剤が熱溶融性または熱硬化性の樹脂のパウダーであり、
前記接着剤を含有する刺繍糸が該パウダーを糸表面に付着させてなる刺繍糸である請求項5または6に記載の刺繍入りシートの製造方法。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の刺繍入りシートの製造方法からなり、前記シートが網戸用ネットである、網戸用刺繍入りネットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−12746(P2012−12746A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152797(P2010−152797)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(510185871)西武産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】