前眼部断面画像の解析方法及び前眼部撮影装置、その記録媒体およびそのプログラム
【課題】隅角鏡による観察の対象となる部位の視認性を前眼部断面の画像を利用して擬似的に評価可能な解析方法の提供。
【解決手段】被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析方法において、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と前記隅角鏡情報に基づいて前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを有することを特徴とする。
【解決手段】被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析方法において、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と前記隅角鏡情報に基づいて前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科分野にて使用される前眼部の断面を撮影可能な装置により取得された複数の断面画像に基づいて、隅角鏡において観察される被検眼隅角領域の見え方をシミュレートして、緑内障と密接に関係する閉塞隅角症の評価において参考となる情報の取得を行なう方法ならびにそれを利用した装置・記憶媒体及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野で取扱われる病気のひとつに緑内障がある。緑内障は、房水と呼ばれる眼球内を循環する液体の排出が悪化することで眼球内の圧力上昇を引き起こし、それにより圧迫された視神経に障害を及ぼす病気である。房水の排出を悪化させる要因は様々であるが、循環経路が狭くなることも原因のひとつにあげられる。
【0003】
図1は眼球10の概略を示したものである。眼球10内を循環した房水は、領域Aとして示される前眼部を経て排出される。図2は前眼部を拡大して示したもので、角膜11、強膜12、虹彩13、水晶体14等に代表される組織により構成されている。特に、領域Bで示される角膜11ならびに強膜12の内面と虹彩13により挟まれた領域は隅角と呼ばれる。図3は、隅角領域(図2の領域B)を拡大して示したものである。房水のほとんどは、強膜岬SS(強膜12と虹彩13の境界)とシュワルベ線SL(角膜11と強膜12の境界)の間に存在する線維柱帯TMと呼ばれる部位から排出されるため、従来から隅角領域の観察は緑内障の重要な検査項目にあげられている。非特許文献1には、発症の要因が多岐にわたる緑内障の治療に反映させるため、症状毎に詳細に分類するための基準が数多く定められており、その中には隅角の観察所見に基づいて分類を行なうものも挙げられている。
【0004】
隅角の観察には、隅角鏡と呼ばれる検査用コンタクトレンズが広く利用されている。図4は、間接観察型として分類される隅角鏡の基本的な構造を示したもので、筐体21の内部は本体23と1あるいは複数の傾斜したミラー22により構成されている。ミラー22の傾斜は、隅角鏡の中心軸を眼球10の中心に合わせた際に線維柱帯TM近傍の像が観察されるように、観察面Pvに対して角度θMの位置関係で配置されている。また、本体23は光透過性が高い光学部材であり、括弧書きのngは部材の屈折率である。隅角の観察時に眼球10の角膜11に接触される接触面Pcは、図4でRgとして示される半径の眼球面に沿う曲面とされている。ここで、図4に示されるDgは隅角鏡の接眼部の直径である。ミラー角度θM、接触面Pcの曲面半径Rg、ならびに接眼部の直径Dgは、メーカーあるいは組み込まれるミラーの枚数等により様々な仕様のものが準備されている。
【0005】
図5は、観察時の隅角鏡と眼球10の位置ならびに観察光線の関係を示している。隅角領域の像は、図5(a)に示した直線VB’に沿って進み、ミラー22によって隅角鏡の中心軸に平行な方向に反射されて観察光線VBとして観察者に導かれる。このとき、ミラー22にはPv’とθαの角度をなす方向から観察像が入射する。Pv’は観察面Pvと平行の関係であるため、θαとθMは以下の関係があることが幾何学的に導かれる。
【数1】
従って、観察対象となる部位の位置とθMが特定されることにより、VBとして観察される光線の観察部位からミラー22までの経路に相当する直線VB’が導き出されることになる。しかしながら、角膜と隅角鏡の境界等における屈折により、眼球10の内外の観察光線の経路を同一直線によって表すことはできない。図5(b)は、角膜と隅角鏡の接眼面における屈折の影響を示したものである。図5(a)に示すVBのように、観察面Pvに対して垂直方向に進行する光線は、ミラー22に入射する角度がθαのものに限定される。しかしながら、角膜11と隅角鏡21の境界における屈折の影響を受け直線VB0に沿って進行する光線は、観察部位CPを通過しない直線VB0’に沿って点Q0に到達したものであるため、ミラー22に入射する角度がθαであるが観察面Pvに観察部位CPの像を導くものではない。観察面Pvに向けて観察部位CPの像を導く光線は、観察部位を通過した光線が屈折によりミラー22に角度θαで入射するようになったもので、図5(b)では観察部位CPならびに点Qを通る直線が該当する。この直線は、前述のミラー角度θMの他に隅角鏡の形状や角膜11の曲率等の情報に基づいて特定することが可能であり、手順については実施例にて述べる。
【0006】
近年では、光学あるいは超音波を利用して隅角近傍の撮影を行ない、撮影された画像による観察を可能な装置が様々なメーカーから提供され、診断において有益な情報の取得に利用されているが、隅角鏡は前述の撮影装置と比較して非常に安価であり、依然として世界的に広く利用されている。しかしながら、隅角鏡を眼球10に対して常に同じ位置に保持することは不可能であり、観察者が異なる場合のみならず同一の観察者による観察においても眼球10と隅角鏡の位置関係によって観察結果にばらつきを生じる問題がある。
【0007】
前述の隅角近傍の撮影を行なう装置には、断層像の撮影で従来から利用されている超音波を高周波にすることにより、取得される画像の解像度を向上させ、隅角近傍の観察を可能にした超音波顕微鏡(UBM)と呼ばれるものが登場している。
【0008】
また、特許文献1には、被検眼の角膜頂点を通るスリット投影光軸を回転軸とし、シャインプルークの原理に基づいて構成された光学系を回転させて眼球断面の撮影を行なうと同時に撮影位置を特定するために回転角情報を取得し、撮影された複数の断面画像を回転角情報に基づいて関連付けを行ない、水晶体内の混濁等の位置を3次元的に把握可能とする装置が示されている。図6は、光学系を回転させた撮影における撮影位置(切断面)と撮影画像の関係を示しており、図6(a)、(b)は前眼部を構成する角膜11、強膜12、水晶体14を正面及び側面から眺めた状態、図6(c)〜(e)は図6(a)に示される角膜11の頂点Pを通り角度が異なるC1−C1〜C3−C3のそれぞれの位置において撮影された断面画像を示している。角膜11の頂点Pを通る断面が撮影された画像は図6(c)〜(e)に示されるように、撮影位置が移動されても撮影範囲に含まれる前眼部がほぼ同じ大きさであるため、取得される画像もほぼ同じ大きさになっている。ここで、C1−C1が基準面として設定されている場合、C2−C2及びC3−C3の位置で撮影された画像の回転角情報はそれぞれ45°、90°となる。
【0009】
さらに、特許文献2には光干渉を利用して対象物断面を高解像度で撮影可能な光干渉断層像撮影装置(OCT)により撮影された被検眼の眼底領域の断面画像から3次元画像を構築する技術が開示されている。特許文献2に示されているOCTは眼底領域を撮影対象とする装置であるが、隅角領域を含む前眼部を撮影対象としたOCTも登場しており、特許文献1に開示された装置より高解像度の隅角領域の断面画像が取得可能になっている。図7は、OCTにおいて採用されている撮影における撮影位置(切断面)と撮影画像の関係を示しており、図7(a)、(b)は前眼部を構成する角膜11、強膜12、水晶体14を正面及び側面から眺めた状態、図7(c)〜(e)はC1’−C1’〜C3’−C3’のそれぞれの位置において撮影された断面画像を示している。撮影された画像は図7(c)〜(e)に示されるように、角膜11の頂点Pを通るC1’−C1’に平行である撮影位置を直線的に移動させたC2’−C2’及びC3’−C3’の位置で撮影された画像は、眼球の周辺部に移動するのに伴い、撮影範囲に含まれる前眼部が小さくなり、取得される画像に隅角領域が含まれなくなくなるため、このままでは隅角領域の観察に利用可能な画像は、C1’−C1’のごく近傍において撮影されたもののみになってしまう。しかしながら、図7(a)に示されるC0’−C0’からC4’−C4’の範囲で上下方向に移動しながら撮影された画像に、特許文献1に記載されている回転角情報に該当する撮影位置の上下方向の撮影位置に関する位置情報を関連させることにより、3次元的な画像データを構築可能であり、構築された3次元的な画像データから図6(c)〜(e)と同様な断面画像を任意方向で抽出することが可能である。
【0010】
なお、特許文献1あるいは特許文献2に示される装置は、眼球に非接触で撮影を行なうことが可能であるものが多くのメーカーから提供され、その中には眼球と装置の位置合わせ及び撮影を自動で行なうために、眼球と装置の位置関係を検出する手段を設けている装置も少なくない。このような装置は、眼球(被検者)に対する負担を軽減するとともに、装置の操作者の熟練度に影響されない安定した画像の取得を実現している。
【0011】
しかしながら、前述の非特許文献1に記載されている隅角の観察に関わる基準においては、隅角鏡を使用して行なった観察に基づいて分類を行なうことと定められている。従って、前述の撮影装置が眼球に負担を軽減するとともに、操作者の熟練度の影響を受けることなく安定した隅角領域の観察が可能であるにも関わらず、非特許文献1に準じるために隅角鏡による観察を別に行なっているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−111731号公報
【特許文献2】特開2007−117714号公報
【非特許文献1】日本緑内障学会,「緑内障診断ガイドライン(第2版)」,日眼会誌,2006年,110巻,10号,777−814頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、その目的とするところは、前眼部の断面画像を利用して隅角鏡検査、具体的には間接観察式の隅角鏡検査と同様な評価を可能とする前眼部断面画像の解析方法及び前眼部撮影装置、その記録媒体及びその処理プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載の前眼部断面画像の解析方法は、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析方法において、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と前記隅角鏡情報に基づいて前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の前眼部断面画像の解析方法は、前記解析を行なうステップにおいて取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なうステップを有することを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の前眼部断面画像解析装置は、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像を取得可能な撮影手段を有する眼球撮影装置において、解析を行なう断面画像を選択する断面画像選択手段と、前記断面画像を表示する表示手段と、前記表示手段に表示された断面画像の断面位置の情報を設定する断面位置情報設定手段と、前記表示手段に表示された断面画像上に基準直線を設定する基準直線設定手段と、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定する解析対象点設定手段と、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定する隅角鏡情報設定手段と、前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定する解析用直線設定手段と、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なう解析手段を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の前眼部断面画像解析装置は、前記解析手段により取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なう解析結果分類手段を有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の前眼部断面画像解析装置は、前記解析結果分類手段により分類された前記解析結果を解析対象点別に数値あるいはグラフィックにより前記表示手段に表示を行なうことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の記録媒体は、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうプログラムが記録されているコンピュータで処理可能な記録媒体において、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載のプログラムは、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうコンピュータで処理可能なプログラムにおいて、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のような構成とすることにより、眼球の前眼部断面の画像を利用して隅角鏡による観察の対象となる部位の視認性を擬似的に評価可能となるため、隅角鏡による観察を重点的に行なう領域の決定や、隅角鏡による観察の要否を判断する上で参考となる情報を診察医に予め提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図8は本発明の第1の実施形態である超音波により眼球断面画像を取得する眼球撮影装置の外観を示したものである。なお、一般的には超音波による画像を取得することを「撮影」と表現することは行なわれていないが、対象物により反射されて受信された超音波エコー信号の強度を輝度に反映している画像データは、CCD等の受光手段を利用する光学的な撮影装置により取得される画像データと同等の情報を有しているため、本明細では超音波による画像の取得についても「撮影」と記載する。
【0024】
眼球撮影装置100は、本体内部に装置の制御等に必要な回路(図示せず)、断面画像や解析結果等を表示する液晶ディスプレイ108、装置の操作や解析に必要な情報を入力する回転ツマミ106及びタッチパネル107、解析結果等を印刷するプリンタ110、及び超音波を送受信して撮影するプローブ104を備え、本体とプローブ104は接続コネクタ105を介して接続される。
【0025】
プローブ104の内部には超音波の送受信を行なう探触子ならびに駆動機構(図示せず)が設けられ、探触子を直線あるいは摺動駆動させて超音波信号を2次元的に送信可能とされている。また、探触子の送信周波数及び駆動範囲の変更により超音波信号の送受信範囲が変化するため、探触子と駆動機構が異なる別のプローブ104’を接続コネクタ105において差替えることにより、図1〜図3に示される範囲の画像が撮影可能となる。例えば、送信される周波数が低いほど超音波は遠くまで伝播するため、周波数が10MHz程度である場合は図1に示す眼球10全体を撮影可能であるが、周波数が50MHzまで高くなると水晶体14の表面付近までしか伝播しないため、撮影範囲は図3に示す程度に狭くなってしまう。しかしながら、周波数を高くすることにより撮影される画像の解像度は向上するため、精密な検査を行なうためには周波数を高く設定する方が有効である。ここで、探触子の周波数切換え及び駆動制御は従来から数多く開示されている技術を利用して実現される。さらに、タッチパネル107は液晶ディスプレイ108の表面に貼付けられており、液晶ディスプレイ108の画面に表示される入力項目の表示エリアに触れることにより、装置の各種操作が可能とされている。
【0026】
図9は、図8の眼球撮影装置100の概略構成を示したものである。装置全体の駆動ならびに制御を行なう制御回路101には、解析等を行なう演算回路102、画像あるいは解析結果等を記憶するメモリ103、ならびに図8に示されている入力装置106及び107、液晶ディスプレイ108、プリンタ110、プローブ104が接続され、図中に示される矢印の方向に制御信号を伝達することにより撮影・画像表示・解析等の各種制御が行なわれる。以上の構成を備える装置の動作について説明する。撮影に際して、検者はタッチパネル107から撮影条件の設定あるいは撮影情報等を入力した後、プローブ104の駆動信号を入力する。この時、タッチパネル107から入力された撮影条件等の情報は制御回路101を介してメモリ103に記憶され、駆動信号は制御回路101に伝達され、制御回路101はプローブ104内の駆動及び探触子から超音波信号を送信する制御を行なう。検者はプローブ104を被検者の眼部に直接あるいは間接的に接触させることにより、被検者の眼球内に超音波信号を照射する。照射された超音波信号は眼球内の様々な組織境界にて反射され、反射信号は探触子において受信される。探触子に受信された反射信号は、制御回路101を介して演算回路102にて処理され、液晶ディスプレイ108に2次元的な画像として表示される。この時、演算回路102において処理された画像データはメモリ103にも転送され、プローブ104の駆動を停止した後も画像データを呼び出して液晶ディスプレイ108に表示可能となる。さらに、タッチパネル107から表示画像の撮影位置等の情報を入力することで、表示中の画像と関連付けられてメモリ103に記憶が行なわれる。ここで、メモリ103には、複数の画像データを記憶することが可能である。なお、予め撮影位置等が決定されている場合は、プローブ104を駆動して撮影を行なう前の撮影条件等の入力時に合わせて行なってもよい。
【0027】
図10は、以上のような手順で図2に示される範囲を撮影した画像を利用して、図3に示すSS・TM・SL等の隅角領域の特徴的部位に関する隅角鏡観察の可否についての評価を行なう手順を示したフローである。
【0028】
S1において、解析を行なう断面画像を選択する。前述のように、本実施形態の眼球撮影装置100では、プローブ104において受信された超音波信号が演算回路102を介して液晶ディスプレイ108の他にメモリ103にも送られる構成とされている。従って、メモリ103に記憶されている画像を呼び出すことにより、過去に取得された画像を解析の対象として選択することも可能であり、操作者は液晶ディスプレイ108に表示されている画像とメモリ103に記憶されている画像の中から解析を行なう画像を選択する。
【0029】
続いてS2において、撮影時に眼の動き等の影響を受け画像毎に方向が異なる眼球像について、前述のVB’で示される眼球内の観察光線を撮影画像における眼球像の傾斜の影響が排除された条件下で設定するための基準となる基準直線BLを設定する。図11は、基準直線BLの設定方法の一例を示すもので、装置の位置合わせの基準として一般的に利用される角膜11の頂点Pの法線を基準直線BLとして設定するものである。最初に、図11(a)に示すように、操作者に表示画像内の頂点Pの位置を指定させる。指定は、先端が細い棒等で表示画像の該当位置のタッチパネル面を触れる、あるいは、画像に重ね合わせて表示される任意位置に移動可能なカーソルを該当位置に移動させる等で行なう。続いて、図11(b)に領域Dで示す頂点P近傍の輝度分布を利用して、頂点Pから所定距離に位置する角膜11の表面上の2点(図11(b)の領域Dの両端:CFL、CFR)を自動的に設定することにより、角膜11の表面曲面を円DCにて近似することができる。なお、CFL及びCFRの指定を角膜11の頂点Pと同様に操作者に行なわせても良い。ここで、図中の直線TLは近似円DCの角膜11の頂点Pにおける接線である。従って、図11(c)に示すように近似円の中心CCと角膜11の頂点Pを通る直線は、角膜11の頂点Pにおいて接線TLと直交する角膜11の頂点Pの法線に他ならず、この直線を基準直線BLとして設定することができる。図11(d)は、設定された基準直線BLと表示画面の鉛直線VLの関係を示すもので、角度Δθは表示画面に対する断面画像の傾斜を表すものである。このΔθを打ち消す方向に画像を回転させることで画像を常に同じ方向で表示できるとともに、画面上の位置情報を利用する際に傾斜の影響を排除する処理を容易に行なうことが可能となる。回転の基準は、角膜11の頂点P等の基準直線BL上に存在する点を設定すれば良い。
【0030】
次にS3において、解析対象点の設定を行なう。ここで、解析対象点として隅角領域の特徴的な部位(強膜岬SS、線維柱帯TM、シュワルベ線SL等)を設定する。設定は、前述のS2において角膜11の頂点Pを設定したのと同様に、操作者が液晶ディスプレイ108に表示される画像の当該部位を指定する。図12はS2において基準直線BLが設定された図11(c)の領域B’を液晶ディスプレイ108に拡大表示を行なった画像に解析対象点として強膜岬SSを指定した状態を示したものである。拡大表示を行なう理由は、図11(a)〜(d)に示す範囲が表示された画像では隅角領域が小さいため、解析対象点の指定を詳細に行なうには拡大された画像の方が好ましいからである。
【0031】
S4では、隅角鏡を用いた観察を仮想するための隅角鏡情報を設定する。ここで設定する情報は、図4に示されるミラー角度θM、接眼面Pcの曲面半径Rg、接眼部の直径Dg、ならびに本体23の部材の屈折率である。図13は、隅角鏡情報の入力画面の例であり、操作者は各項目の入力を行なう。
【0032】
S5では、S2〜S4において設定された情報に基づいて、観察光線の眼球内の光路に相当する解析用直線を設定する。図14は、図5に示す隅角鏡による観察において、眼球内に設定された解析対象点の観察光線の経路を隅角鏡の接眼面を基準として幾何学的に示したものである。基準を隅角鏡の接眼面としたのは、この位置において観察光線の屈折が生じるためである。図14において、隅角鏡の接眼面は半円GSに該当し、その中心(Og)を基準0とする2次元座標が設定されている。この2次元座標のY軸は断面画像では基準直線BLに該当している。また、点状の円弧で示されるCSは角膜の表面であり、円弧CSとY軸の交点(P)は角膜の頂点である。ここで、角膜の頂点Pは隅角鏡の接眼面GSに接していると仮定すると、前述の2次元座標の中心は、基準直線BL上で角膜の頂点Pから隅角鏡の接眼面GSの曲率半径の距離分離れた位置に該当することになる。厳密には、角膜の表面の曲率半径Rcが隅角鏡の接眼面GSの曲率半径Rgより小さい場合、隅角鏡の接眼面GSと角膜の頂点Pの近傍では隙間が生じるが、その量はわずかであるため、隅角鏡の接眼面GSと角膜の頂点Pは接しているものとして取扱うことが可能である。参考として、CSとGSの関係により変化する眼球に対する隅角鏡の当接状態及び前述の2次元座標の基準0を正確に設定する方法を図15に基づいて説明を行なう。図15は、GSの半径RgとCSの半径Rcの大小による角膜と隅角鏡の接眼面の当接状態と、隅角鏡の接眼面GSの曲率中心Ogと角膜の頂点Pの距離関係を示したものである。なお、図15の各図に記載されているOcは角膜の表面の曲率中心である。図15(a)は、Rg≧Rcの場合を示している。この場合、隅角鏡は角膜の頂点Pで眼球と当接することになる。従って、隅角鏡の接眼面GSの曲率中心Ogと角膜の頂点Pの距離は隅角鏡の接眼面GSの半径Rgとなる。図15(b)は、Rg<Rcの場合を示している。この場合は、隅角鏡は角膜の頂点Pではなく、接眼部の円環状の稜線(本図ではPI1、PI2)において眼球と当接することになり、角膜の頂点Pと隅角鏡の接眼面GSの間にΔLの隙間が生じる。従って、隅角鏡の接眼面GSの曲率中心Ogと角膜の頂点Pの距離はRg−ΔLとなる。図15(c)は、図15(b)に挙げられた中心線CLの左側に存在する点の関係を表したものである。これらの点によって形成される隅角鏡の接眼面GSと角膜の表面CSに関連づけられる複数の三角形のそれぞれの幾何学的な関係から、Rg−ΔLは以下の式で表わされる。
【数2】
従って、角膜の頂点Pの位置ならびに角膜の表面の曲率半径Rcを特定することで、基準0(Og)を正確に設定することが可能になる。本実施形態においては、S2の基準直線の設定の過程において、角膜の頂点Pの位置及び角膜の曲率半径が特定されているため、そのデータを利用することにより、新規に入力を行なうことが不要となる。Rc=7.7mm、Rg=7.4mm、Dg=12mmの場合、ΔLは約0.2mmとなり、角膜の頂点Pから2次元座標の基準までの距離はおよそ7.2mmとなる。
点Qは、解析対象点である点VPを通過する観察光線が図5の直線VB’と同じθαの傾きとなる屈折を生じる隅角鏡の接眼面CSの位置であり、括弧付で記載されているng、ncは隅角鏡の本体及び角膜の屈折率を表している。角膜の屈折率ncの値は1.376が一般的に使用されている。また、涙液、防水等を含む眼球を構成する組織の屈折率はおよそ1.33〜1.38と水の屈折率に近いため、本発明においては眼球内の組織の境界における屈折は生じないものとして取扱っている。本ステップにおいて行なう解析用直線の設定はVP・Q間の線分ALを特定することであり、これは点Qの位置が決定されることで達成される。基準0と点Qを結ぶ直線OQがX軸に対して角度θの関係である場合、点Qの座標は(Rg×cosθ,Rg×sinθ)と表わされる。従って、解析対象点VPの座標を(x,y)とすると線分ALのX軸に対する傾斜角θβは、
【数3】
また、点Qでは点Pからの光線の入射角θcと(図示しない)隅角鏡のミラーに向かう光線の出射角θgの間にはスネルの法則により、
【数4】
の関係が成立する。ここで、入射角θc、出射角θgを前述のθ、θα、θβにより表すと、
【数5】
さらに、θαは図5の説明において前述したように隅角鏡のミラー角度θMにより示すことができるため、前述のスネルの法則の式は、
【数6】
と表すことができる。上式において、直線OQの角度θ以外の値は、解析対象点ならびに隅角鏡情報としてS3ならびにS4において設定済のため、θを特定することにより解析用直線である線分ALが導き出される。解析対象点VPの座標(−5.84,3.8)、想定する隅角鏡のミラー角度θM=62°、接眼面の曲率半径Rg=7.4mm、本体屈折率=1.52である場合、θ=78.5°と特定されるため、点Qの座標(1.48,7.25)が導かれる。
【0033】
S6では、上述のようにして設定された解析用直線ALを利用して、解析対象点が設定された部位と角膜11の間に別の組織が存在するか否かについて評価を行なう。図16は、S5にて設定された解析用直線ALの解析対象点と基準直線間の画像内に示したものであり、図17は前述の線分上に存在する画素の輝度分布を示すものである。図17中の設定輝度は、撮影画像内の組織の境界を識別するための閾値であり、この値は撮影画像全体の輝度分布等に基づいて適宜決定すればよい。例えば、画像内の最大輝度の50〜90%で適切と思われる値を選択することや所定値を予め定めておいてもよい。図16(a)及び図17(a)は隅角が正常に開いている状態の例であり、図16(b)及び図17(b)は隅角の開きが小さい状態の例である。図16(a)では、解析対象点SSと基準直線BLの間の解析用直線ALは、角膜11の裏面CP0以外の組織境界と交差していないため、図17(a)では解析対象点SSと基準直線BL間で設定輝度を超える領域はCP0近傍を除き存在していない。図16(b)では、解析対象点SSと角膜11の裏面CP0の間に虹彩13’が存在するため、解析用直線ALは角膜11以外に虹彩13’の前面CP1及びCP2において交差し、図17(b)において基準直線BL近傍以外に設定輝度を超える領域として抽出されている。ここで、解析用直線ALにおける基準直線BL近傍の領域には角膜以外が存在する可能性は低く、角膜11は光学的にほぼ透明であることから、基準直線BL近傍の所定領域(例えば基準直線BLから解析用直線ALの10%の長さ)を除外した輝度分布から、画像が取得された断面の隅角鏡による観察を行なった際の解析対象点の視認性が推測される。以上の手順により、1枚の断面画像について隅角鏡による解析対象点の観察の可否について解析される。
【0034】
図18は、S6の解析による結果を表示する例を示している。この例は、解析の対象とされた画像が取得される断面について、第2行に示す仕様の隅角鏡を用いて観察を行なった場合、60%の信頼度で強膜岬SSを視認することが可能であることを示すものである。ここで示される信頼度は、解析に用いた画像の解像度(倍率)等の情報を利用して解析結果の信頼性を評価する。例えば、用いた画像の解像度が高い場合は信頼性が高く、解像度が低い画像では信頼性が低くなる。あるいは、S6の輝度分布の評価における設定輝度値や、前述の設定輝度値を連続的に超える領域の長さ等を総合的に評価して算出しても良い。
【実施例2】
【0035】
図19は、本発明の第2の実施形態である前眼部画像解析装置を示したものである。
【0036】
前眼部画像解析装置200は解析を行なう制御・解析部201、別の前眼部断面画像撮影装置220により撮影された画像を取得するための画像データ取得装置205、解析に必要な情報等を入力するマウス206及びキーボード207、断面画像や解析結果等を表示するディスプレイ208、プリンタ210等により構成されている。制御・解析部201は、装置全体の制御を行なう制御回路、解析処理等を行なう演算回路、解析用プログラムや画像データ、演算結果等を記憶する記憶部を含んでいる。制御・解析部201は市販のパーソナルコンピュータを利用して構成することができる。また、その他の構成品についても市販のものが利用できる。前眼部断面画像撮影装置220により撮影された画像データは、外部記憶媒体等により提供され、画像データ取得装置205から取得され、制御・解析部201内の記憶部に読込まれる。また、前眼部断面画像撮影装置220が通信機能を備えている場合、図示しない通信ケーブル等を介して画像データ取得装置205を使用することなく直接制御・解析部201内の記憶部に読込むことも可能である。制御・解析部201は記憶部に読込まれた画像データをディスプレイ208に表示させる。なお、複数の画像データを記憶部に読込むことが可能である場合は、ディスプレイ208に画像データの一覧を表示させ、解析を行なう画像データをマウス206やキーボード207により選択可能にしても良い。
【0037】
以下に、本実施形態についての説明を、第1の実施形態と同様に図10のフローに基づいて行なう。本発明において利用可能な画像データは、第1の実施形態に示した角膜の頂点を通る断面を撮影した画像データのみに限定されない。例えば、図7に示すように撮影断面を平行に移動させて連続的に撮影された画像データから構築される3次元的な画像データに対して角膜の頂点の位置を特定すれば、任意位置の断面画像を取得可能である。本実施形態においては、3次元的な画像データを構築可能な断面画像、あるいは、既に構築されている3次元的な画像データを取扱うものとする。なお、図7のように撮影された複数の断面画像に基づいて3次元的な画像データを構築することは、特許文献2に光干渉を利用した眼底の断層撮影装置の画像表示において利用する例が開示されており、詳細な手順についての説明は省略するが、一般的な画像処理技術を用いて行なうことが可能である。
【0038】
図20は、光干渉による断層撮影装置に一般的に採用されている撮影機構により取得される複数の画像から構築される、3次元的な画像データを利用して任意方向の断面画像を取得する手順の概要を示すものである。図20(a)は、正面からみた眼球に対する画像の撮影面の位置関係を示している。ここに示す例では撮影は互いに平行で間隔Δy毎に設定される撮影面のそれぞれにおいて行なわれ、Y方向として示す下から上にL箇所の撮影面が設定されている。ここで、Δyは撮影装置の仕様により変動し、Δyが小さいほど高い解像度の画像を撮影可能であり、Lの数により撮影範囲が決定される。また、各撮影面における撮影はX方向として示す左から右に向かって行われる。図20(b)は各撮影面において取得される画像の元となる干渉信号の測定位置を行および列の情報として取得する例を示し、X方向を列、Z方向を行に割り当てている。ここに示す画像はM×N個の干渉信号により構成されている。測定点の間隔ΔxおよびΔzは、前述のΔyと同様に撮影装置の仕様により変動し、MあるいはNの数により撮影範囲が決定される。ここで、X方向は図20(a)と同一であり、Z方向は図20(a)では紙面の奥行き方向に該当する。それぞれの撮影面では列単位にX方向(図の左から右)に干渉信号が取得され、全ての列において干渉信号が取得されるとその撮影面での撮影が完了する。従って、図20(a)に示す撮影面Lまで撮影が完了した場合に3次元的に分布するL×M×N個の干渉信号が取得されることになる。
【0039】
ここから、本実施形態におけるS1の解析画像の選択について述べる。前眼部画像解析装置200の制御・解析部201内の記憶部は、画像データ取得装置205から複数の断面画像の読込み及び解析を行なう。なお、前述の3次元的な画像データは任意位置の断面画像の取得が可能(後述)であり、複数の断面画像に該当するものとして取扱うことが可能である。読み込まれた画像データはディスプレイ208に表示され、操作者はマウス206等により表示された画像の中から解析を行なう画像の選択を行なう。表示された画像データが3次元的な画像データの場合は、角膜頂点ならびに断面方向を指定する入力情報により特定される断面画像が選択されることになる。制御・解析部201は、入力された情報に基づいて角膜頂点を含む断面画像を構築する。
【0040】
図21は、角膜の頂点Pの位置ならびに図20(a)に示す撮影面に対する傾斜角度の情報により設定される断面CPの断面画像を取得する手順を説明するものである。なお、以下の説明においては、装置と眼球の位置関係が変動しない(眼球の動きが無い)状態で図20(a)に示す撮影面1〜Lにおける撮影が行なわれ、それぞれの撮影画像の撮影基準は同一であるものとする。
【0041】
図21(a)は、撮影面に対して角度θγ傾斜して設定される断面CPと各撮影面の画像信号の関係を示している。本例では角膜の頂点Pを含む画像として第i番目の撮影面で撮影された画像が特定されている。ここで特定された画像における角膜の頂点PのX方向位置については、図20(b)に示すX方向の列位置として特定される。ここでは、図20(b)でCol−pとして示される第p列が角膜の頂点PのX方向位置として特定されたものとして説明を行なう。また、CrLi、CrLj、CrLkは、断面CPと撮影面i、j、kの交差位置を示している。
【0042】
図21(b)〜(d)は、撮影面i、j、kで撮影された断面画像における前述の交差位置CrLi、CrLj、CrLkの位置を示している。撮影範囲として示される枠外の左及び下には、横及び縦方向の位置を図20(b)の行及び列により示してある。ここでは、CrLi、CrLj、CrLkのX方向の位置はそれぞれ第p列、第q列、第r列となっている。また、図21(c)及び(d)のXLij、XLikは、CrLiを基準とするX方向の距離を定義したものである。このXLijあるいはXLikは、前述の列によってそれぞれ以下のように表すことができる。
【数7】
しかしながら、上述のように導かれた交差位置の情報は各撮影面における画像についてのものであり、このままでは断面CPの画像を取得できない。ここで、断面CPにおける交差位置CrLi、CrLj、CrLkについて、CrLiを基準とする距離をそれぞれLij、Likと定義すると、図21(a)から幾何学的にXLij及びXLikと以下の関係になることが導かれる。
【数8】
これは、CrLiを基準とする各撮影面のX方向の距離は1/cosθγ倍で断面CPへ投影されることを意味している。図21(e)は、断面CP上の交差位置CrLi、CrLj、CrLkの関係を示したものである。ここで、交差位置CrLi、CrLj、CrLkにはそれぞれ撮影面iの第p列、撮影面jの第q列、撮影面kの第r列の画像情報が反映されている。従って、撮影面1から撮影面Nについて前述の操作を行なうことにより、図21(e)に点線で示される前眼部断面の画像が取得でき、S1における解析画像の選択が完了する。この後、ディスプレイ208の表示範囲に合わせて倍率変換された画像が表示される。
【0043】
図22は、S2における基準直線の設定を角膜の頂点ではなく、隅角領域に存在する強膜岬を基準として行なう例を示す。これは、本発明において対象とする角膜の頂点を含む断面画像が、円環状に分布する隅角の直径に相当する位置にて取得されることを前提としている。図22(a)に示すように、同一の断面画像内に2点の強膜岬SS1及びSS2が認められる場合、線分SS1−SS2の長さは円環状に分布する強膜岬の直径、SS1とSS2の中点MPが強膜岬の分布円の中心に該当する。従って、SS1とSS2の中点MPを通る直線の中でSS1及びSS2の位置情報のみで特定が可能である垂直二等分線を基準直線BLとすることにより、強膜岬SSを含む隅角領域が反映された基準の設定を容易に行なうことが可能となる。ここで、SS1及びSS2の設定は、第1の実施形態における角膜の頂点Pの設定と同様に、表示画像内の任意位置を指定することで行なわれる。図22(b)は、設定された基準直線BLと表示画面の鉛直線の関係を示すもので、第1の実施形態と同様に画像の回転による表示方向の統一等に利用可能な眼球像の傾斜情報の取得が可能となる。画像の回転基準には中点MPが利用できる。
【0044】
続いて、S3の解析対象点の設定を行なうことになる。ここでの設定は、第1の実施形態と同様に表示画像内を指定することは言うまでもなく、S2において設定したSS1、SS2の情報をそのまま利用しても良い。
【0045】
S4において行なう隅角鏡情報の設定は、図23に示すような隅角鏡の仕様一覧をディスプレイ208に表示して、操作者が想定する隅角鏡を指定することにより、隅角鏡情報の誤入力を防止することが可能となる。指定は、一覧のNo.の直接入力、マウス206あるいはキーボード207からの入力に連動して一覧表示の任意位置に移動可能なキャラクタ図形を選択する隅角鏡の情報が表示されている行に合わせる等により行なう。なお、隅角鏡情報は制御・解析部201に含まれる記憶部に予めデータを登録する、あるいは画像データ取得装置205を利用して登録済の情報を読込むことが可能とされている。
【0046】
以上のS1〜S4において設定された情報に基づいて、第1の実施形態と同様にS5の処理を行なうことにより解析用直線ALが設定される。なお、図15にて示した事情を考慮した2次元座標の基準による処理を行なう場合、画像内の角膜の頂点Pの位置と角膜の表面の曲率の設定が必要であるが、基準直線BLの設定において前述の情報を取得した第1の実施形態と異なり、S4までに未設定である本実施形態においては本ステップの初めに設定を行なうようにする。設定は、第1の実施形態の基準直線BLの設定における手順と同様に、角膜の頂点Pの画像内位置の指定は手動にて行ない、角膜の表面の曲率は輝度分布を利用して自動的に行なう。なお、本実施形態においては既に特定済である基準直線BLを利用可能であるため、角膜の頂点Pを手動による設定の案内として画面に表示させることや、基準直線BL上に存在する画素の輝度分布に基づいて角膜の表面の境界が識別される場合は設定を自動で行なうことも可能となる。
【0047】
続いて、S6の視認性の解析が行なわれる。第1の実施形態においては解析用直線AL上に位置する画素の輝度分布によって視認性の評価を行なう例を示されているが、本実施形態では解析対象点の視認に直接影響する虹彩の前面の境界位置を画像の輝度情報により近似曲線として求め、前述の解析用直線との関係により視認性を評価する。この手順について、図24ならびに図25に基づいて説明する。
【0048】
図24は、表示画面における虹彩の前面の境界位置の特定前後の状態を示している。図24(a)は、境界を特定する範囲をIFLならびにIFRとして設定した状態である。この設定は、前述のS2あるいはS3と同様に、画像内の任意位置を指定して行なわれる。設定された2点間に存在する虹彩前面の境界位置は輝度情報に基づいて特定され、特定された境界の情報により近似曲線が求められる。図24(b)は、S5において求められた解析用直線ALと、輝度情報により求められた近似曲線ACとの関係を示している。解析対象点の視認性は、解析用直線ALと近似曲線ACの交点の有無により評価される。
【0049】
図25は、図24(a)に示すIFLならびにIFRの2点間の輝度情報に基づいて虹彩の前面の境界を特定する手順を説明するものである。図25(a)は、図24(a)に領域Eとして示す範囲の表示画面の輝度情報を画素毎に示している。ここで、○で表示される画素は所定値以上の輝度を有し、●で表示される画素は所定値以下の輝度であることを示している。なお、この図の左下の画素が図24(a)のIFLに該当する。図25(b)は、境界位置の特定において輝度情報を取得する画素をグループにした例であり、この例では列単位に連続した7個の画素をグループとしている。なお、画素数の7は例でありこれに限定されるものではない。ここで、基準画素として示される点状の円で囲まれる中央の画素は輝度情報を取得する列が変更された場合に基準となる画素であり、その役割については以下の説明において述べる。
【0050】
図25(c)は、図25(b)に示した画素グループにより取得される輝度情報に基づいて虹彩の前面の境界に位置する画素を特定する方法を示している。ここでは、n列とされる最も左に位置する列から右方向に列を移動させながら境界位置を特定していく様子を示している。なお、○は所定値以上の輝度を有する画素、●は所定値以下の輝度の画素を表す。始めに、n列においてM行に位置する基準画素を中心に±3行の画素について輝度情報を取得し、所定値以上の輝度を有する画素の中で最も端に位置する画素を特定する。ただし、全ての画素の輝度が所定値以上あるいは所定値以下である場合は境界の特定が不可としてその列の評価を終了して次の列に移動する。n列は全ての画素が所定値以上の輝度を有するため、境界の特定は行われず次のn+1列に移動する。このとき、境界位置が特定されなかったことにより、基準画素の行位置は前回のn列と同じM行に設定される。n+1列の輝度は、所定値以下の輝度の画素がM+1行まで存在しているため、境界位置として点状の四角で囲まれるM+2行の画素を特定して制御・解析部201の記憶部に行及び列の情報を記憶する。続いて、n+2列に移動して同様に輝度情報の取得を行なうのであるが、基準画素の位置は前列において境界位置として特定されたM+2行に設定される。n+2列においては、境界位置はM行の画素として特定される。従って、n+3列における基準画素はM行に設定され、輝度情報によって特定される境界はM−2行の画素になる。図25(d)は、前述の手順を図25(a)の領域FについてIFLを開始位置として実施した場合の結果を示したものである。点状の円が各列の基準画素であり、◎は境界として特定された画素である。これを図24(a)のIFRとして設定した画素に至るまで繰返すことにより、IFLからIFRまでの虹彩の前面の境界を特定される。その後、特定された境界画素の行及び列の情報に基づいて、近似曲線を求めることが可能である。近似曲線の次数は予め設定しておいても、低次から順次上げていき特定された全ての境界画素の位置が所定の誤差範囲に収まる次数を決定しても良い。特定された近似直線ALと解析用直線ALの交点の有無を判別することにより、視認性の評価を行なうことができるのである。
【0051】
なお、解析対象点を複数設定し、それぞれの解析対象点に対してS4〜6を繰り返し行なうことによって、画像内の異なる部位の視認性の評価を一度に行なうことも可能である。図26はその例を示したもので、図26(a)は正常に開いている隅角、図26(b)は開きが小さい隅角の画像の強膜岬SS及びシュワルベ線SLに解析対象点を設定したものである。図26(a)では、強膜岬SSならびにシュワルベ線SLのいずれも観察可能と評価されるが、図26(b)では、シュワルベ線SLのみが観察可能で強膜岬SSは観察不可能と評価される。ここで、この2点以外にも強膜岬SSとシュワルベ線SLの間の線維柱帯TMにも解析対象点を設定してもよい。
【0052】
同一の眼球の異なる断面に関わる複数の画像が存在し、それぞれの断面の位置情報と解析結果を関連付けが可能である場合、緑内障の診断においてより有益な情報を取得することも可能となる。図27は、角膜の頂点を通る軸を回転軸として所定角度毎に移動した断面の画像のそれぞれに設定された解析対象点について解析を行なった結果を一覧可能に表示する例を示している。本例では、角度5°毎に取得された画像に解析対象点として設定された強膜岬SS、シュワルベ線SL、および前述の2点の中間に位置する線維柱帯TMの一点の視認性並びに信頼度が表示されている。観察可能と判断された解析対象点は○、観察不可能と判断された解析対象点は×で表示されている。また、図28に示すように解析を行なった解析対象点の数に対する観察可能とされた数の割合を求めることも可能である。図28は、図27と同一のデータについて、観察対象点が設定された部位別に観察可能率を求めた結果を表示するものである。ここで求められている繊維柱帯TMの観察可能率は、非特許文献1において定義されている狭隅角の評価パラメータと同等であり、この値が25%以下の場合は狭隅角の疑いがあることを推察することが可能となる。さらに、図29は解析結果をグラフィック的に示す例であり、図27と同一のデータについて、図29(a)は強膜岬SS、図29(b)は強膜岬SS、シュワルベ線SL、繊維柱帯TMを対象として取得された観察の可否を、断面画像の取得位置と対応させてプロットしたものである。このような表示を行なうことで、円環状に分布する隅角領域の視認性を2次元的に把握することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の各実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】眼球の前眼部領域を示した図である。
【図2】前眼部の隅角領域を示した図である。
【図3】隅角領域の特徴的な部位を示した図である。
【図4】隅角鏡(間接検査式)の構造を示した図である。
【図5】隅角鏡検査時の眼球と隅角鏡の関係を示した図である。
【図6】撮影位置を回転させた場合の断面画像を示した図である。
【図7】撮影位置を平行移動させた場合の断面画像を示した図である。
【図8】本発明に係わる眼球撮影装置の外観を示した図である。
【図9】本発明に係わる眼球撮影装置のブロック図を示した図である。
【図10】本発明に係わる処理フローを示した図である。
【図11】基準直線の設定方法の一例を示した図である。
【図12】解析対象点の設定方法の一例を示した図である。
【図13】隅角鏡情報の入力画面の一例を示した図である。
【図14】断面画像の傾斜による影響を示した図である。
【図15】断面画像に解析用直線が設定された状態を示した図である。
【図16】解析用直線上の輝度分布を示した図である。
【図17】複数の解析用直線が断面画像に設定された状態を示した図である。
【図18】解析結果を数値により示した例である。
【図19】本発明に係わる装置の別の構成を示した図である。
【図20】光干渉を利用した断面画像撮影装置において一般的に採用されている画像データの取得方法の例を示した図である。
【図21】3次元的な画像を構築する複数の断面画像から任意位置の断面画像を取得する例を示した図である。
【図22】基準直線の設定方法の他の例を示した図である。
【図23】隅角鏡情報の入力画面の他の例を示した図である。
【図24】表示画像に含まれる組織の境界を特定する前後の状態を示した図である。
【図25】表示画像に含まれる組織の境界を輝度情報に基づいて特定する例を示した図である。
【図26】複数の解析対象点が設定された断面画像の解析用直線を示した図である。
【図27】解析結果を数値により示した他の例である。
【図28】解析結果を数値により示した他の例である。
【図29】解析結果をグラフィックにより示した例である。
【符号の説明】
【0055】
10:眼球
11:角膜
12:強膜
13、13’:虹彩
14、14’:水晶体
21:筐体
22:ミラー
100:眼球撮影装置
101:制御回路
102:演算回路
103:メモリ
104、104’:プローブ
105:接続コネクタ
106:回転ツマミ
107:タッチパネル
108:液晶ディスプレイ
109:外部記憶手段
110:プリンタ
200:前眼部画像解析装置
201:制御・演算回路
206:マウス
207:キーボード
208:ディスプレイ
210:プリンタ
220:眼球撮影装置
SS、SS1、SS2:強膜岬
TM:線維柱帯
SL:シュワルベ線
CL:隅角鏡中心軸
Pv:隅角鏡観察面
θM:隅角鏡ミラー角度
VB、VB’、VB1、VBn:観察光線
BL:(解析)基準直線
AL:解析用直線
AC:(虹彩前面)近似曲線
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科分野にて使用される前眼部の断面を撮影可能な装置により取得された複数の断面画像に基づいて、隅角鏡において観察される被検眼隅角領域の見え方をシミュレートして、緑内障と密接に関係する閉塞隅角症の評価において参考となる情報の取得を行なう方法ならびにそれを利用した装置・記憶媒体及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野で取扱われる病気のひとつに緑内障がある。緑内障は、房水と呼ばれる眼球内を循環する液体の排出が悪化することで眼球内の圧力上昇を引き起こし、それにより圧迫された視神経に障害を及ぼす病気である。房水の排出を悪化させる要因は様々であるが、循環経路が狭くなることも原因のひとつにあげられる。
【0003】
図1は眼球10の概略を示したものである。眼球10内を循環した房水は、領域Aとして示される前眼部を経て排出される。図2は前眼部を拡大して示したもので、角膜11、強膜12、虹彩13、水晶体14等に代表される組織により構成されている。特に、領域Bで示される角膜11ならびに強膜12の内面と虹彩13により挟まれた領域は隅角と呼ばれる。図3は、隅角領域(図2の領域B)を拡大して示したものである。房水のほとんどは、強膜岬SS(強膜12と虹彩13の境界)とシュワルベ線SL(角膜11と強膜12の境界)の間に存在する線維柱帯TMと呼ばれる部位から排出されるため、従来から隅角領域の観察は緑内障の重要な検査項目にあげられている。非特許文献1には、発症の要因が多岐にわたる緑内障の治療に反映させるため、症状毎に詳細に分類するための基準が数多く定められており、その中には隅角の観察所見に基づいて分類を行なうものも挙げられている。
【0004】
隅角の観察には、隅角鏡と呼ばれる検査用コンタクトレンズが広く利用されている。図4は、間接観察型として分類される隅角鏡の基本的な構造を示したもので、筐体21の内部は本体23と1あるいは複数の傾斜したミラー22により構成されている。ミラー22の傾斜は、隅角鏡の中心軸を眼球10の中心に合わせた際に線維柱帯TM近傍の像が観察されるように、観察面Pvに対して角度θMの位置関係で配置されている。また、本体23は光透過性が高い光学部材であり、括弧書きのngは部材の屈折率である。隅角の観察時に眼球10の角膜11に接触される接触面Pcは、図4でRgとして示される半径の眼球面に沿う曲面とされている。ここで、図4に示されるDgは隅角鏡の接眼部の直径である。ミラー角度θM、接触面Pcの曲面半径Rg、ならびに接眼部の直径Dgは、メーカーあるいは組み込まれるミラーの枚数等により様々な仕様のものが準備されている。
【0005】
図5は、観察時の隅角鏡と眼球10の位置ならびに観察光線の関係を示している。隅角領域の像は、図5(a)に示した直線VB’に沿って進み、ミラー22によって隅角鏡の中心軸に平行な方向に反射されて観察光線VBとして観察者に導かれる。このとき、ミラー22にはPv’とθαの角度をなす方向から観察像が入射する。Pv’は観察面Pvと平行の関係であるため、θαとθMは以下の関係があることが幾何学的に導かれる。
【数1】
従って、観察対象となる部位の位置とθMが特定されることにより、VBとして観察される光線の観察部位からミラー22までの経路に相当する直線VB’が導き出されることになる。しかしながら、角膜と隅角鏡の境界等における屈折により、眼球10の内外の観察光線の経路を同一直線によって表すことはできない。図5(b)は、角膜と隅角鏡の接眼面における屈折の影響を示したものである。図5(a)に示すVBのように、観察面Pvに対して垂直方向に進行する光線は、ミラー22に入射する角度がθαのものに限定される。しかしながら、角膜11と隅角鏡21の境界における屈折の影響を受け直線VB0に沿って進行する光線は、観察部位CPを通過しない直線VB0’に沿って点Q0に到達したものであるため、ミラー22に入射する角度がθαであるが観察面Pvに観察部位CPの像を導くものではない。観察面Pvに向けて観察部位CPの像を導く光線は、観察部位を通過した光線が屈折によりミラー22に角度θαで入射するようになったもので、図5(b)では観察部位CPならびに点Qを通る直線が該当する。この直線は、前述のミラー角度θMの他に隅角鏡の形状や角膜11の曲率等の情報に基づいて特定することが可能であり、手順については実施例にて述べる。
【0006】
近年では、光学あるいは超音波を利用して隅角近傍の撮影を行ない、撮影された画像による観察を可能な装置が様々なメーカーから提供され、診断において有益な情報の取得に利用されているが、隅角鏡は前述の撮影装置と比較して非常に安価であり、依然として世界的に広く利用されている。しかしながら、隅角鏡を眼球10に対して常に同じ位置に保持することは不可能であり、観察者が異なる場合のみならず同一の観察者による観察においても眼球10と隅角鏡の位置関係によって観察結果にばらつきを生じる問題がある。
【0007】
前述の隅角近傍の撮影を行なう装置には、断層像の撮影で従来から利用されている超音波を高周波にすることにより、取得される画像の解像度を向上させ、隅角近傍の観察を可能にした超音波顕微鏡(UBM)と呼ばれるものが登場している。
【0008】
また、特許文献1には、被検眼の角膜頂点を通るスリット投影光軸を回転軸とし、シャインプルークの原理に基づいて構成された光学系を回転させて眼球断面の撮影を行なうと同時に撮影位置を特定するために回転角情報を取得し、撮影された複数の断面画像を回転角情報に基づいて関連付けを行ない、水晶体内の混濁等の位置を3次元的に把握可能とする装置が示されている。図6は、光学系を回転させた撮影における撮影位置(切断面)と撮影画像の関係を示しており、図6(a)、(b)は前眼部を構成する角膜11、強膜12、水晶体14を正面及び側面から眺めた状態、図6(c)〜(e)は図6(a)に示される角膜11の頂点Pを通り角度が異なるC1−C1〜C3−C3のそれぞれの位置において撮影された断面画像を示している。角膜11の頂点Pを通る断面が撮影された画像は図6(c)〜(e)に示されるように、撮影位置が移動されても撮影範囲に含まれる前眼部がほぼ同じ大きさであるため、取得される画像もほぼ同じ大きさになっている。ここで、C1−C1が基準面として設定されている場合、C2−C2及びC3−C3の位置で撮影された画像の回転角情報はそれぞれ45°、90°となる。
【0009】
さらに、特許文献2には光干渉を利用して対象物断面を高解像度で撮影可能な光干渉断層像撮影装置(OCT)により撮影された被検眼の眼底領域の断面画像から3次元画像を構築する技術が開示されている。特許文献2に示されているOCTは眼底領域を撮影対象とする装置であるが、隅角領域を含む前眼部を撮影対象としたOCTも登場しており、特許文献1に開示された装置より高解像度の隅角領域の断面画像が取得可能になっている。図7は、OCTにおいて採用されている撮影における撮影位置(切断面)と撮影画像の関係を示しており、図7(a)、(b)は前眼部を構成する角膜11、強膜12、水晶体14を正面及び側面から眺めた状態、図7(c)〜(e)はC1’−C1’〜C3’−C3’のそれぞれの位置において撮影された断面画像を示している。撮影された画像は図7(c)〜(e)に示されるように、角膜11の頂点Pを通るC1’−C1’に平行である撮影位置を直線的に移動させたC2’−C2’及びC3’−C3’の位置で撮影された画像は、眼球の周辺部に移動するのに伴い、撮影範囲に含まれる前眼部が小さくなり、取得される画像に隅角領域が含まれなくなくなるため、このままでは隅角領域の観察に利用可能な画像は、C1’−C1’のごく近傍において撮影されたもののみになってしまう。しかしながら、図7(a)に示されるC0’−C0’からC4’−C4’の範囲で上下方向に移動しながら撮影された画像に、特許文献1に記載されている回転角情報に該当する撮影位置の上下方向の撮影位置に関する位置情報を関連させることにより、3次元的な画像データを構築可能であり、構築された3次元的な画像データから図6(c)〜(e)と同様な断面画像を任意方向で抽出することが可能である。
【0010】
なお、特許文献1あるいは特許文献2に示される装置は、眼球に非接触で撮影を行なうことが可能であるものが多くのメーカーから提供され、その中には眼球と装置の位置合わせ及び撮影を自動で行なうために、眼球と装置の位置関係を検出する手段を設けている装置も少なくない。このような装置は、眼球(被検者)に対する負担を軽減するとともに、装置の操作者の熟練度に影響されない安定した画像の取得を実現している。
【0011】
しかしながら、前述の非特許文献1に記載されている隅角の観察に関わる基準においては、隅角鏡を使用して行なった観察に基づいて分類を行なうことと定められている。従って、前述の撮影装置が眼球に負担を軽減するとともに、操作者の熟練度の影響を受けることなく安定した隅角領域の観察が可能であるにも関わらず、非特許文献1に準じるために隅角鏡による観察を別に行なっているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−111731号公報
【特許文献2】特開2007−117714号公報
【非特許文献1】日本緑内障学会,「緑内障診断ガイドライン(第2版)」,日眼会誌,2006年,110巻,10号,777−814頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、その目的とするところは、前眼部の断面画像を利用して隅角鏡検査、具体的には間接観察式の隅角鏡検査と同様な評価を可能とする前眼部断面画像の解析方法及び前眼部撮影装置、その記録媒体及びその処理プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載の前眼部断面画像の解析方法は、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析方法において、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と前記隅角鏡情報に基づいて前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の前眼部断面画像の解析方法は、前記解析を行なうステップにおいて取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なうステップを有することを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の前眼部断面画像解析装置は、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像を取得可能な撮影手段を有する眼球撮影装置において、解析を行なう断面画像を選択する断面画像選択手段と、前記断面画像を表示する表示手段と、前記表示手段に表示された断面画像の断面位置の情報を設定する断面位置情報設定手段と、前記表示手段に表示された断面画像上に基準直線を設定する基準直線設定手段と、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定する解析対象点設定手段と、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定する隅角鏡情報設定手段と、前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定する解析用直線設定手段と、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なう解析手段を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の前眼部断面画像解析装置は、前記解析手段により取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なう解析結果分類手段を有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の前眼部断面画像解析装置は、前記解析結果分類手段により分類された前記解析結果を解析対象点別に数値あるいはグラフィックにより前記表示手段に表示を行なうことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の記録媒体は、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうプログラムが記録されているコンピュータで処理可能な記録媒体において、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載のプログラムは、被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうコンピュータで処理可能なプログラムにおいて、解析を行なう断面画像を選択するステップと、選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のような構成とすることにより、眼球の前眼部断面の画像を利用して隅角鏡による観察の対象となる部位の視認性を擬似的に評価可能となるため、隅角鏡による観察を重点的に行なう領域の決定や、隅角鏡による観察の要否を判断する上で参考となる情報を診察医に予め提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図8は本発明の第1の実施形態である超音波により眼球断面画像を取得する眼球撮影装置の外観を示したものである。なお、一般的には超音波による画像を取得することを「撮影」と表現することは行なわれていないが、対象物により反射されて受信された超音波エコー信号の強度を輝度に反映している画像データは、CCD等の受光手段を利用する光学的な撮影装置により取得される画像データと同等の情報を有しているため、本明細では超音波による画像の取得についても「撮影」と記載する。
【0024】
眼球撮影装置100は、本体内部に装置の制御等に必要な回路(図示せず)、断面画像や解析結果等を表示する液晶ディスプレイ108、装置の操作や解析に必要な情報を入力する回転ツマミ106及びタッチパネル107、解析結果等を印刷するプリンタ110、及び超音波を送受信して撮影するプローブ104を備え、本体とプローブ104は接続コネクタ105を介して接続される。
【0025】
プローブ104の内部には超音波の送受信を行なう探触子ならびに駆動機構(図示せず)が設けられ、探触子を直線あるいは摺動駆動させて超音波信号を2次元的に送信可能とされている。また、探触子の送信周波数及び駆動範囲の変更により超音波信号の送受信範囲が変化するため、探触子と駆動機構が異なる別のプローブ104’を接続コネクタ105において差替えることにより、図1〜図3に示される範囲の画像が撮影可能となる。例えば、送信される周波数が低いほど超音波は遠くまで伝播するため、周波数が10MHz程度である場合は図1に示す眼球10全体を撮影可能であるが、周波数が50MHzまで高くなると水晶体14の表面付近までしか伝播しないため、撮影範囲は図3に示す程度に狭くなってしまう。しかしながら、周波数を高くすることにより撮影される画像の解像度は向上するため、精密な検査を行なうためには周波数を高く設定する方が有効である。ここで、探触子の周波数切換え及び駆動制御は従来から数多く開示されている技術を利用して実現される。さらに、タッチパネル107は液晶ディスプレイ108の表面に貼付けられており、液晶ディスプレイ108の画面に表示される入力項目の表示エリアに触れることにより、装置の各種操作が可能とされている。
【0026】
図9は、図8の眼球撮影装置100の概略構成を示したものである。装置全体の駆動ならびに制御を行なう制御回路101には、解析等を行なう演算回路102、画像あるいは解析結果等を記憶するメモリ103、ならびに図8に示されている入力装置106及び107、液晶ディスプレイ108、プリンタ110、プローブ104が接続され、図中に示される矢印の方向に制御信号を伝達することにより撮影・画像表示・解析等の各種制御が行なわれる。以上の構成を備える装置の動作について説明する。撮影に際して、検者はタッチパネル107から撮影条件の設定あるいは撮影情報等を入力した後、プローブ104の駆動信号を入力する。この時、タッチパネル107から入力された撮影条件等の情報は制御回路101を介してメモリ103に記憶され、駆動信号は制御回路101に伝達され、制御回路101はプローブ104内の駆動及び探触子から超音波信号を送信する制御を行なう。検者はプローブ104を被検者の眼部に直接あるいは間接的に接触させることにより、被検者の眼球内に超音波信号を照射する。照射された超音波信号は眼球内の様々な組織境界にて反射され、反射信号は探触子において受信される。探触子に受信された反射信号は、制御回路101を介して演算回路102にて処理され、液晶ディスプレイ108に2次元的な画像として表示される。この時、演算回路102において処理された画像データはメモリ103にも転送され、プローブ104の駆動を停止した後も画像データを呼び出して液晶ディスプレイ108に表示可能となる。さらに、タッチパネル107から表示画像の撮影位置等の情報を入力することで、表示中の画像と関連付けられてメモリ103に記憶が行なわれる。ここで、メモリ103には、複数の画像データを記憶することが可能である。なお、予め撮影位置等が決定されている場合は、プローブ104を駆動して撮影を行なう前の撮影条件等の入力時に合わせて行なってもよい。
【0027】
図10は、以上のような手順で図2に示される範囲を撮影した画像を利用して、図3に示すSS・TM・SL等の隅角領域の特徴的部位に関する隅角鏡観察の可否についての評価を行なう手順を示したフローである。
【0028】
S1において、解析を行なう断面画像を選択する。前述のように、本実施形態の眼球撮影装置100では、プローブ104において受信された超音波信号が演算回路102を介して液晶ディスプレイ108の他にメモリ103にも送られる構成とされている。従って、メモリ103に記憶されている画像を呼び出すことにより、過去に取得された画像を解析の対象として選択することも可能であり、操作者は液晶ディスプレイ108に表示されている画像とメモリ103に記憶されている画像の中から解析を行なう画像を選択する。
【0029】
続いてS2において、撮影時に眼の動き等の影響を受け画像毎に方向が異なる眼球像について、前述のVB’で示される眼球内の観察光線を撮影画像における眼球像の傾斜の影響が排除された条件下で設定するための基準となる基準直線BLを設定する。図11は、基準直線BLの設定方法の一例を示すもので、装置の位置合わせの基準として一般的に利用される角膜11の頂点Pの法線を基準直線BLとして設定するものである。最初に、図11(a)に示すように、操作者に表示画像内の頂点Pの位置を指定させる。指定は、先端が細い棒等で表示画像の該当位置のタッチパネル面を触れる、あるいは、画像に重ね合わせて表示される任意位置に移動可能なカーソルを該当位置に移動させる等で行なう。続いて、図11(b)に領域Dで示す頂点P近傍の輝度分布を利用して、頂点Pから所定距離に位置する角膜11の表面上の2点(図11(b)の領域Dの両端:CFL、CFR)を自動的に設定することにより、角膜11の表面曲面を円DCにて近似することができる。なお、CFL及びCFRの指定を角膜11の頂点Pと同様に操作者に行なわせても良い。ここで、図中の直線TLは近似円DCの角膜11の頂点Pにおける接線である。従って、図11(c)に示すように近似円の中心CCと角膜11の頂点Pを通る直線は、角膜11の頂点Pにおいて接線TLと直交する角膜11の頂点Pの法線に他ならず、この直線を基準直線BLとして設定することができる。図11(d)は、設定された基準直線BLと表示画面の鉛直線VLの関係を示すもので、角度Δθは表示画面に対する断面画像の傾斜を表すものである。このΔθを打ち消す方向に画像を回転させることで画像を常に同じ方向で表示できるとともに、画面上の位置情報を利用する際に傾斜の影響を排除する処理を容易に行なうことが可能となる。回転の基準は、角膜11の頂点P等の基準直線BL上に存在する点を設定すれば良い。
【0030】
次にS3において、解析対象点の設定を行なう。ここで、解析対象点として隅角領域の特徴的な部位(強膜岬SS、線維柱帯TM、シュワルベ線SL等)を設定する。設定は、前述のS2において角膜11の頂点Pを設定したのと同様に、操作者が液晶ディスプレイ108に表示される画像の当該部位を指定する。図12はS2において基準直線BLが設定された図11(c)の領域B’を液晶ディスプレイ108に拡大表示を行なった画像に解析対象点として強膜岬SSを指定した状態を示したものである。拡大表示を行なう理由は、図11(a)〜(d)に示す範囲が表示された画像では隅角領域が小さいため、解析対象点の指定を詳細に行なうには拡大された画像の方が好ましいからである。
【0031】
S4では、隅角鏡を用いた観察を仮想するための隅角鏡情報を設定する。ここで設定する情報は、図4に示されるミラー角度θM、接眼面Pcの曲面半径Rg、接眼部の直径Dg、ならびに本体23の部材の屈折率である。図13は、隅角鏡情報の入力画面の例であり、操作者は各項目の入力を行なう。
【0032】
S5では、S2〜S4において設定された情報に基づいて、観察光線の眼球内の光路に相当する解析用直線を設定する。図14は、図5に示す隅角鏡による観察において、眼球内に設定された解析対象点の観察光線の経路を隅角鏡の接眼面を基準として幾何学的に示したものである。基準を隅角鏡の接眼面としたのは、この位置において観察光線の屈折が生じるためである。図14において、隅角鏡の接眼面は半円GSに該当し、その中心(Og)を基準0とする2次元座標が設定されている。この2次元座標のY軸は断面画像では基準直線BLに該当している。また、点状の円弧で示されるCSは角膜の表面であり、円弧CSとY軸の交点(P)は角膜の頂点である。ここで、角膜の頂点Pは隅角鏡の接眼面GSに接していると仮定すると、前述の2次元座標の中心は、基準直線BL上で角膜の頂点Pから隅角鏡の接眼面GSの曲率半径の距離分離れた位置に該当することになる。厳密には、角膜の表面の曲率半径Rcが隅角鏡の接眼面GSの曲率半径Rgより小さい場合、隅角鏡の接眼面GSと角膜の頂点Pの近傍では隙間が生じるが、その量はわずかであるため、隅角鏡の接眼面GSと角膜の頂点Pは接しているものとして取扱うことが可能である。参考として、CSとGSの関係により変化する眼球に対する隅角鏡の当接状態及び前述の2次元座標の基準0を正確に設定する方法を図15に基づいて説明を行なう。図15は、GSの半径RgとCSの半径Rcの大小による角膜と隅角鏡の接眼面の当接状態と、隅角鏡の接眼面GSの曲率中心Ogと角膜の頂点Pの距離関係を示したものである。なお、図15の各図に記載されているOcは角膜の表面の曲率中心である。図15(a)は、Rg≧Rcの場合を示している。この場合、隅角鏡は角膜の頂点Pで眼球と当接することになる。従って、隅角鏡の接眼面GSの曲率中心Ogと角膜の頂点Pの距離は隅角鏡の接眼面GSの半径Rgとなる。図15(b)は、Rg<Rcの場合を示している。この場合は、隅角鏡は角膜の頂点Pではなく、接眼部の円環状の稜線(本図ではPI1、PI2)において眼球と当接することになり、角膜の頂点Pと隅角鏡の接眼面GSの間にΔLの隙間が生じる。従って、隅角鏡の接眼面GSの曲率中心Ogと角膜の頂点Pの距離はRg−ΔLとなる。図15(c)は、図15(b)に挙げられた中心線CLの左側に存在する点の関係を表したものである。これらの点によって形成される隅角鏡の接眼面GSと角膜の表面CSに関連づけられる複数の三角形のそれぞれの幾何学的な関係から、Rg−ΔLは以下の式で表わされる。
【数2】
従って、角膜の頂点Pの位置ならびに角膜の表面の曲率半径Rcを特定することで、基準0(Og)を正確に設定することが可能になる。本実施形態においては、S2の基準直線の設定の過程において、角膜の頂点Pの位置及び角膜の曲率半径が特定されているため、そのデータを利用することにより、新規に入力を行なうことが不要となる。Rc=7.7mm、Rg=7.4mm、Dg=12mmの場合、ΔLは約0.2mmとなり、角膜の頂点Pから2次元座標の基準までの距離はおよそ7.2mmとなる。
点Qは、解析対象点である点VPを通過する観察光線が図5の直線VB’と同じθαの傾きとなる屈折を生じる隅角鏡の接眼面CSの位置であり、括弧付で記載されているng、ncは隅角鏡の本体及び角膜の屈折率を表している。角膜の屈折率ncの値は1.376が一般的に使用されている。また、涙液、防水等を含む眼球を構成する組織の屈折率はおよそ1.33〜1.38と水の屈折率に近いため、本発明においては眼球内の組織の境界における屈折は生じないものとして取扱っている。本ステップにおいて行なう解析用直線の設定はVP・Q間の線分ALを特定することであり、これは点Qの位置が決定されることで達成される。基準0と点Qを結ぶ直線OQがX軸に対して角度θの関係である場合、点Qの座標は(Rg×cosθ,Rg×sinθ)と表わされる。従って、解析対象点VPの座標を(x,y)とすると線分ALのX軸に対する傾斜角θβは、
【数3】
また、点Qでは点Pからの光線の入射角θcと(図示しない)隅角鏡のミラーに向かう光線の出射角θgの間にはスネルの法則により、
【数4】
の関係が成立する。ここで、入射角θc、出射角θgを前述のθ、θα、θβにより表すと、
【数5】
さらに、θαは図5の説明において前述したように隅角鏡のミラー角度θMにより示すことができるため、前述のスネルの法則の式は、
【数6】
と表すことができる。上式において、直線OQの角度θ以外の値は、解析対象点ならびに隅角鏡情報としてS3ならびにS4において設定済のため、θを特定することにより解析用直線である線分ALが導き出される。解析対象点VPの座標(−5.84,3.8)、想定する隅角鏡のミラー角度θM=62°、接眼面の曲率半径Rg=7.4mm、本体屈折率=1.52である場合、θ=78.5°と特定されるため、点Qの座標(1.48,7.25)が導かれる。
【0033】
S6では、上述のようにして設定された解析用直線ALを利用して、解析対象点が設定された部位と角膜11の間に別の組織が存在するか否かについて評価を行なう。図16は、S5にて設定された解析用直線ALの解析対象点と基準直線間の画像内に示したものであり、図17は前述の線分上に存在する画素の輝度分布を示すものである。図17中の設定輝度は、撮影画像内の組織の境界を識別するための閾値であり、この値は撮影画像全体の輝度分布等に基づいて適宜決定すればよい。例えば、画像内の最大輝度の50〜90%で適切と思われる値を選択することや所定値を予め定めておいてもよい。図16(a)及び図17(a)は隅角が正常に開いている状態の例であり、図16(b)及び図17(b)は隅角の開きが小さい状態の例である。図16(a)では、解析対象点SSと基準直線BLの間の解析用直線ALは、角膜11の裏面CP0以外の組織境界と交差していないため、図17(a)では解析対象点SSと基準直線BL間で設定輝度を超える領域はCP0近傍を除き存在していない。図16(b)では、解析対象点SSと角膜11の裏面CP0の間に虹彩13’が存在するため、解析用直線ALは角膜11以外に虹彩13’の前面CP1及びCP2において交差し、図17(b)において基準直線BL近傍以外に設定輝度を超える領域として抽出されている。ここで、解析用直線ALにおける基準直線BL近傍の領域には角膜以外が存在する可能性は低く、角膜11は光学的にほぼ透明であることから、基準直線BL近傍の所定領域(例えば基準直線BLから解析用直線ALの10%の長さ)を除外した輝度分布から、画像が取得された断面の隅角鏡による観察を行なった際の解析対象点の視認性が推測される。以上の手順により、1枚の断面画像について隅角鏡による解析対象点の観察の可否について解析される。
【0034】
図18は、S6の解析による結果を表示する例を示している。この例は、解析の対象とされた画像が取得される断面について、第2行に示す仕様の隅角鏡を用いて観察を行なった場合、60%の信頼度で強膜岬SSを視認することが可能であることを示すものである。ここで示される信頼度は、解析に用いた画像の解像度(倍率)等の情報を利用して解析結果の信頼性を評価する。例えば、用いた画像の解像度が高い場合は信頼性が高く、解像度が低い画像では信頼性が低くなる。あるいは、S6の輝度分布の評価における設定輝度値や、前述の設定輝度値を連続的に超える領域の長さ等を総合的に評価して算出しても良い。
【実施例2】
【0035】
図19は、本発明の第2の実施形態である前眼部画像解析装置を示したものである。
【0036】
前眼部画像解析装置200は解析を行なう制御・解析部201、別の前眼部断面画像撮影装置220により撮影された画像を取得するための画像データ取得装置205、解析に必要な情報等を入力するマウス206及びキーボード207、断面画像や解析結果等を表示するディスプレイ208、プリンタ210等により構成されている。制御・解析部201は、装置全体の制御を行なう制御回路、解析処理等を行なう演算回路、解析用プログラムや画像データ、演算結果等を記憶する記憶部を含んでいる。制御・解析部201は市販のパーソナルコンピュータを利用して構成することができる。また、その他の構成品についても市販のものが利用できる。前眼部断面画像撮影装置220により撮影された画像データは、外部記憶媒体等により提供され、画像データ取得装置205から取得され、制御・解析部201内の記憶部に読込まれる。また、前眼部断面画像撮影装置220が通信機能を備えている場合、図示しない通信ケーブル等を介して画像データ取得装置205を使用することなく直接制御・解析部201内の記憶部に読込むことも可能である。制御・解析部201は記憶部に読込まれた画像データをディスプレイ208に表示させる。なお、複数の画像データを記憶部に読込むことが可能である場合は、ディスプレイ208に画像データの一覧を表示させ、解析を行なう画像データをマウス206やキーボード207により選択可能にしても良い。
【0037】
以下に、本実施形態についての説明を、第1の実施形態と同様に図10のフローに基づいて行なう。本発明において利用可能な画像データは、第1の実施形態に示した角膜の頂点を通る断面を撮影した画像データのみに限定されない。例えば、図7に示すように撮影断面を平行に移動させて連続的に撮影された画像データから構築される3次元的な画像データに対して角膜の頂点の位置を特定すれば、任意位置の断面画像を取得可能である。本実施形態においては、3次元的な画像データを構築可能な断面画像、あるいは、既に構築されている3次元的な画像データを取扱うものとする。なお、図7のように撮影された複数の断面画像に基づいて3次元的な画像データを構築することは、特許文献2に光干渉を利用した眼底の断層撮影装置の画像表示において利用する例が開示されており、詳細な手順についての説明は省略するが、一般的な画像処理技術を用いて行なうことが可能である。
【0038】
図20は、光干渉による断層撮影装置に一般的に採用されている撮影機構により取得される複数の画像から構築される、3次元的な画像データを利用して任意方向の断面画像を取得する手順の概要を示すものである。図20(a)は、正面からみた眼球に対する画像の撮影面の位置関係を示している。ここに示す例では撮影は互いに平行で間隔Δy毎に設定される撮影面のそれぞれにおいて行なわれ、Y方向として示す下から上にL箇所の撮影面が設定されている。ここで、Δyは撮影装置の仕様により変動し、Δyが小さいほど高い解像度の画像を撮影可能であり、Lの数により撮影範囲が決定される。また、各撮影面における撮影はX方向として示す左から右に向かって行われる。図20(b)は各撮影面において取得される画像の元となる干渉信号の測定位置を行および列の情報として取得する例を示し、X方向を列、Z方向を行に割り当てている。ここに示す画像はM×N個の干渉信号により構成されている。測定点の間隔ΔxおよびΔzは、前述のΔyと同様に撮影装置の仕様により変動し、MあるいはNの数により撮影範囲が決定される。ここで、X方向は図20(a)と同一であり、Z方向は図20(a)では紙面の奥行き方向に該当する。それぞれの撮影面では列単位にX方向(図の左から右)に干渉信号が取得され、全ての列において干渉信号が取得されるとその撮影面での撮影が完了する。従って、図20(a)に示す撮影面Lまで撮影が完了した場合に3次元的に分布するL×M×N個の干渉信号が取得されることになる。
【0039】
ここから、本実施形態におけるS1の解析画像の選択について述べる。前眼部画像解析装置200の制御・解析部201内の記憶部は、画像データ取得装置205から複数の断面画像の読込み及び解析を行なう。なお、前述の3次元的な画像データは任意位置の断面画像の取得が可能(後述)であり、複数の断面画像に該当するものとして取扱うことが可能である。読み込まれた画像データはディスプレイ208に表示され、操作者はマウス206等により表示された画像の中から解析を行なう画像の選択を行なう。表示された画像データが3次元的な画像データの場合は、角膜頂点ならびに断面方向を指定する入力情報により特定される断面画像が選択されることになる。制御・解析部201は、入力された情報に基づいて角膜頂点を含む断面画像を構築する。
【0040】
図21は、角膜の頂点Pの位置ならびに図20(a)に示す撮影面に対する傾斜角度の情報により設定される断面CPの断面画像を取得する手順を説明するものである。なお、以下の説明においては、装置と眼球の位置関係が変動しない(眼球の動きが無い)状態で図20(a)に示す撮影面1〜Lにおける撮影が行なわれ、それぞれの撮影画像の撮影基準は同一であるものとする。
【0041】
図21(a)は、撮影面に対して角度θγ傾斜して設定される断面CPと各撮影面の画像信号の関係を示している。本例では角膜の頂点Pを含む画像として第i番目の撮影面で撮影された画像が特定されている。ここで特定された画像における角膜の頂点PのX方向位置については、図20(b)に示すX方向の列位置として特定される。ここでは、図20(b)でCol−pとして示される第p列が角膜の頂点PのX方向位置として特定されたものとして説明を行なう。また、CrLi、CrLj、CrLkは、断面CPと撮影面i、j、kの交差位置を示している。
【0042】
図21(b)〜(d)は、撮影面i、j、kで撮影された断面画像における前述の交差位置CrLi、CrLj、CrLkの位置を示している。撮影範囲として示される枠外の左及び下には、横及び縦方向の位置を図20(b)の行及び列により示してある。ここでは、CrLi、CrLj、CrLkのX方向の位置はそれぞれ第p列、第q列、第r列となっている。また、図21(c)及び(d)のXLij、XLikは、CrLiを基準とするX方向の距離を定義したものである。このXLijあるいはXLikは、前述の列によってそれぞれ以下のように表すことができる。
【数7】
しかしながら、上述のように導かれた交差位置の情報は各撮影面における画像についてのものであり、このままでは断面CPの画像を取得できない。ここで、断面CPにおける交差位置CrLi、CrLj、CrLkについて、CrLiを基準とする距離をそれぞれLij、Likと定義すると、図21(a)から幾何学的にXLij及びXLikと以下の関係になることが導かれる。
【数8】
これは、CrLiを基準とする各撮影面のX方向の距離は1/cosθγ倍で断面CPへ投影されることを意味している。図21(e)は、断面CP上の交差位置CrLi、CrLj、CrLkの関係を示したものである。ここで、交差位置CrLi、CrLj、CrLkにはそれぞれ撮影面iの第p列、撮影面jの第q列、撮影面kの第r列の画像情報が反映されている。従って、撮影面1から撮影面Nについて前述の操作を行なうことにより、図21(e)に点線で示される前眼部断面の画像が取得でき、S1における解析画像の選択が完了する。この後、ディスプレイ208の表示範囲に合わせて倍率変換された画像が表示される。
【0043】
図22は、S2における基準直線の設定を角膜の頂点ではなく、隅角領域に存在する強膜岬を基準として行なう例を示す。これは、本発明において対象とする角膜の頂点を含む断面画像が、円環状に分布する隅角の直径に相当する位置にて取得されることを前提としている。図22(a)に示すように、同一の断面画像内に2点の強膜岬SS1及びSS2が認められる場合、線分SS1−SS2の長さは円環状に分布する強膜岬の直径、SS1とSS2の中点MPが強膜岬の分布円の中心に該当する。従って、SS1とSS2の中点MPを通る直線の中でSS1及びSS2の位置情報のみで特定が可能である垂直二等分線を基準直線BLとすることにより、強膜岬SSを含む隅角領域が反映された基準の設定を容易に行なうことが可能となる。ここで、SS1及びSS2の設定は、第1の実施形態における角膜の頂点Pの設定と同様に、表示画像内の任意位置を指定することで行なわれる。図22(b)は、設定された基準直線BLと表示画面の鉛直線の関係を示すもので、第1の実施形態と同様に画像の回転による表示方向の統一等に利用可能な眼球像の傾斜情報の取得が可能となる。画像の回転基準には中点MPが利用できる。
【0044】
続いて、S3の解析対象点の設定を行なうことになる。ここでの設定は、第1の実施形態と同様に表示画像内を指定することは言うまでもなく、S2において設定したSS1、SS2の情報をそのまま利用しても良い。
【0045】
S4において行なう隅角鏡情報の設定は、図23に示すような隅角鏡の仕様一覧をディスプレイ208に表示して、操作者が想定する隅角鏡を指定することにより、隅角鏡情報の誤入力を防止することが可能となる。指定は、一覧のNo.の直接入力、マウス206あるいはキーボード207からの入力に連動して一覧表示の任意位置に移動可能なキャラクタ図形を選択する隅角鏡の情報が表示されている行に合わせる等により行なう。なお、隅角鏡情報は制御・解析部201に含まれる記憶部に予めデータを登録する、あるいは画像データ取得装置205を利用して登録済の情報を読込むことが可能とされている。
【0046】
以上のS1〜S4において設定された情報に基づいて、第1の実施形態と同様にS5の処理を行なうことにより解析用直線ALが設定される。なお、図15にて示した事情を考慮した2次元座標の基準による処理を行なう場合、画像内の角膜の頂点Pの位置と角膜の表面の曲率の設定が必要であるが、基準直線BLの設定において前述の情報を取得した第1の実施形態と異なり、S4までに未設定である本実施形態においては本ステップの初めに設定を行なうようにする。設定は、第1の実施形態の基準直線BLの設定における手順と同様に、角膜の頂点Pの画像内位置の指定は手動にて行ない、角膜の表面の曲率は輝度分布を利用して自動的に行なう。なお、本実施形態においては既に特定済である基準直線BLを利用可能であるため、角膜の頂点Pを手動による設定の案内として画面に表示させることや、基準直線BL上に存在する画素の輝度分布に基づいて角膜の表面の境界が識別される場合は設定を自動で行なうことも可能となる。
【0047】
続いて、S6の視認性の解析が行なわれる。第1の実施形態においては解析用直線AL上に位置する画素の輝度分布によって視認性の評価を行なう例を示されているが、本実施形態では解析対象点の視認に直接影響する虹彩の前面の境界位置を画像の輝度情報により近似曲線として求め、前述の解析用直線との関係により視認性を評価する。この手順について、図24ならびに図25に基づいて説明する。
【0048】
図24は、表示画面における虹彩の前面の境界位置の特定前後の状態を示している。図24(a)は、境界を特定する範囲をIFLならびにIFRとして設定した状態である。この設定は、前述のS2あるいはS3と同様に、画像内の任意位置を指定して行なわれる。設定された2点間に存在する虹彩前面の境界位置は輝度情報に基づいて特定され、特定された境界の情報により近似曲線が求められる。図24(b)は、S5において求められた解析用直線ALと、輝度情報により求められた近似曲線ACとの関係を示している。解析対象点の視認性は、解析用直線ALと近似曲線ACの交点の有無により評価される。
【0049】
図25は、図24(a)に示すIFLならびにIFRの2点間の輝度情報に基づいて虹彩の前面の境界を特定する手順を説明するものである。図25(a)は、図24(a)に領域Eとして示す範囲の表示画面の輝度情報を画素毎に示している。ここで、○で表示される画素は所定値以上の輝度を有し、●で表示される画素は所定値以下の輝度であることを示している。なお、この図の左下の画素が図24(a)のIFLに該当する。図25(b)は、境界位置の特定において輝度情報を取得する画素をグループにした例であり、この例では列単位に連続した7個の画素をグループとしている。なお、画素数の7は例でありこれに限定されるものではない。ここで、基準画素として示される点状の円で囲まれる中央の画素は輝度情報を取得する列が変更された場合に基準となる画素であり、その役割については以下の説明において述べる。
【0050】
図25(c)は、図25(b)に示した画素グループにより取得される輝度情報に基づいて虹彩の前面の境界に位置する画素を特定する方法を示している。ここでは、n列とされる最も左に位置する列から右方向に列を移動させながら境界位置を特定していく様子を示している。なお、○は所定値以上の輝度を有する画素、●は所定値以下の輝度の画素を表す。始めに、n列においてM行に位置する基準画素を中心に±3行の画素について輝度情報を取得し、所定値以上の輝度を有する画素の中で最も端に位置する画素を特定する。ただし、全ての画素の輝度が所定値以上あるいは所定値以下である場合は境界の特定が不可としてその列の評価を終了して次の列に移動する。n列は全ての画素が所定値以上の輝度を有するため、境界の特定は行われず次のn+1列に移動する。このとき、境界位置が特定されなかったことにより、基準画素の行位置は前回のn列と同じM行に設定される。n+1列の輝度は、所定値以下の輝度の画素がM+1行まで存在しているため、境界位置として点状の四角で囲まれるM+2行の画素を特定して制御・解析部201の記憶部に行及び列の情報を記憶する。続いて、n+2列に移動して同様に輝度情報の取得を行なうのであるが、基準画素の位置は前列において境界位置として特定されたM+2行に設定される。n+2列においては、境界位置はM行の画素として特定される。従って、n+3列における基準画素はM行に設定され、輝度情報によって特定される境界はM−2行の画素になる。図25(d)は、前述の手順を図25(a)の領域FについてIFLを開始位置として実施した場合の結果を示したものである。点状の円が各列の基準画素であり、◎は境界として特定された画素である。これを図24(a)のIFRとして設定した画素に至るまで繰返すことにより、IFLからIFRまでの虹彩の前面の境界を特定される。その後、特定された境界画素の行及び列の情報に基づいて、近似曲線を求めることが可能である。近似曲線の次数は予め設定しておいても、低次から順次上げていき特定された全ての境界画素の位置が所定の誤差範囲に収まる次数を決定しても良い。特定された近似直線ALと解析用直線ALの交点の有無を判別することにより、視認性の評価を行なうことができるのである。
【0051】
なお、解析対象点を複数設定し、それぞれの解析対象点に対してS4〜6を繰り返し行なうことによって、画像内の異なる部位の視認性の評価を一度に行なうことも可能である。図26はその例を示したもので、図26(a)は正常に開いている隅角、図26(b)は開きが小さい隅角の画像の強膜岬SS及びシュワルベ線SLに解析対象点を設定したものである。図26(a)では、強膜岬SSならびにシュワルベ線SLのいずれも観察可能と評価されるが、図26(b)では、シュワルベ線SLのみが観察可能で強膜岬SSは観察不可能と評価される。ここで、この2点以外にも強膜岬SSとシュワルベ線SLの間の線維柱帯TMにも解析対象点を設定してもよい。
【0052】
同一の眼球の異なる断面に関わる複数の画像が存在し、それぞれの断面の位置情報と解析結果を関連付けが可能である場合、緑内障の診断においてより有益な情報を取得することも可能となる。図27は、角膜の頂点を通る軸を回転軸として所定角度毎に移動した断面の画像のそれぞれに設定された解析対象点について解析を行なった結果を一覧可能に表示する例を示している。本例では、角度5°毎に取得された画像に解析対象点として設定された強膜岬SS、シュワルベ線SL、および前述の2点の中間に位置する線維柱帯TMの一点の視認性並びに信頼度が表示されている。観察可能と判断された解析対象点は○、観察不可能と判断された解析対象点は×で表示されている。また、図28に示すように解析を行なった解析対象点の数に対する観察可能とされた数の割合を求めることも可能である。図28は、図27と同一のデータについて、観察対象点が設定された部位別に観察可能率を求めた結果を表示するものである。ここで求められている繊維柱帯TMの観察可能率は、非特許文献1において定義されている狭隅角の評価パラメータと同等であり、この値が25%以下の場合は狭隅角の疑いがあることを推察することが可能となる。さらに、図29は解析結果をグラフィック的に示す例であり、図27と同一のデータについて、図29(a)は強膜岬SS、図29(b)は強膜岬SS、シュワルベ線SL、繊維柱帯TMを対象として取得された観察の可否を、断面画像の取得位置と対応させてプロットしたものである。このような表示を行なうことで、円環状に分布する隅角領域の視認性を2次元的に把握することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の各実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】眼球の前眼部領域を示した図である。
【図2】前眼部の隅角領域を示した図である。
【図3】隅角領域の特徴的な部位を示した図である。
【図4】隅角鏡(間接検査式)の構造を示した図である。
【図5】隅角鏡検査時の眼球と隅角鏡の関係を示した図である。
【図6】撮影位置を回転させた場合の断面画像を示した図である。
【図7】撮影位置を平行移動させた場合の断面画像を示した図である。
【図8】本発明に係わる眼球撮影装置の外観を示した図である。
【図9】本発明に係わる眼球撮影装置のブロック図を示した図である。
【図10】本発明に係わる処理フローを示した図である。
【図11】基準直線の設定方法の一例を示した図である。
【図12】解析対象点の設定方法の一例を示した図である。
【図13】隅角鏡情報の入力画面の一例を示した図である。
【図14】断面画像の傾斜による影響を示した図である。
【図15】断面画像に解析用直線が設定された状態を示した図である。
【図16】解析用直線上の輝度分布を示した図である。
【図17】複数の解析用直線が断面画像に設定された状態を示した図である。
【図18】解析結果を数値により示した例である。
【図19】本発明に係わる装置の別の構成を示した図である。
【図20】光干渉を利用した断面画像撮影装置において一般的に採用されている画像データの取得方法の例を示した図である。
【図21】3次元的な画像を構築する複数の断面画像から任意位置の断面画像を取得する例を示した図である。
【図22】基準直線の設定方法の他の例を示した図である。
【図23】隅角鏡情報の入力画面の他の例を示した図である。
【図24】表示画像に含まれる組織の境界を特定する前後の状態を示した図である。
【図25】表示画像に含まれる組織の境界を輝度情報に基づいて特定する例を示した図である。
【図26】複数の解析対象点が設定された断面画像の解析用直線を示した図である。
【図27】解析結果を数値により示した他の例である。
【図28】解析結果を数値により示した他の例である。
【図29】解析結果をグラフィックにより示した例である。
【符号の説明】
【0055】
10:眼球
11:角膜
12:強膜
13、13’:虹彩
14、14’:水晶体
21:筐体
22:ミラー
100:眼球撮影装置
101:制御回路
102:演算回路
103:メモリ
104、104’:プローブ
105:接続コネクタ
106:回転ツマミ
107:タッチパネル
108:液晶ディスプレイ
109:外部記憶手段
110:プリンタ
200:前眼部画像解析装置
201:制御・演算回路
206:マウス
207:キーボード
208:ディスプレイ
210:プリンタ
220:眼球撮影装置
SS、SS1、SS2:強膜岬
TM:線維柱帯
SL:シュワルベ線
CL:隅角鏡中心軸
Pv:隅角鏡観察面
θM:隅角鏡ミラー角度
VB、VB’、VB1、VBn:観察光線
BL:(解析)基準直線
AL:解析用直線
AC:(虹彩前面)近似曲線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析方法において、
解析を行なう断面画像を選択するステップと、
選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、
前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、
前記基準直線と前記隅角鏡情報に基づいて前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを有することを特徴とする前眼部断面画像の解析方法。
【請求項2】
前記解析を行なうステップにおいて取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なうステップを有することを特徴とする請求項1に記載の前眼部断面画像の解析方法。
【請求項3】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像を取得可能な撮影手段を有する眼球撮影装置において、
解析を行なう断面画像を選択する断面画像選択手段と、
前記断面画像を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された断面画像の断面位置の情報を設定する断面位置情報設定手段と、
前記表示手段に表示された断面画像上に基準直線を設定する基準直線設定手段と、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定する解析対象点設定手段と、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定する隅角鏡情報設定手段と、
前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定する解析用直線設定手段と、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なう解析手段を有することを特徴とする眼球撮影装置。
【請求項4】
前記解析手段により取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なう解析結果分類手段を有することを特徴とする請求項3に記載の眼球撮影装置。
【請求項5】
前記解析結果分類手段により分類された前記解析結果を解析対象点別に数値あるいはグラフィックにより前記表示手段に表示を行なうことを特徴とする請求項4に記載の眼球撮影装置。
【請求項6】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうプログラムが記録されているコンピュータで処理可能な記録媒体において、
解析を行なう断面画像を選択するステップと、
選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、
前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、
前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とするコンピュータで処理可能な記録媒体。
【請求項7】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうコンピュータで処理可能なプログラムにおいて、
解析を行なう断面画像を選択するステップと、
選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、
前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、
前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とするコンピュータで処理可能なプログラム。
【請求項1】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析方法において、
解析を行なう断面画像を選択するステップと、
選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、
前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、
前記基準直線と前記隅角鏡情報に基づいて前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを有することを特徴とする前眼部断面画像の解析方法。
【請求項2】
前記解析を行なうステップにおいて取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なうステップを有することを特徴とする請求項1に記載の前眼部断面画像の解析方法。
【請求項3】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像を取得可能な撮影手段を有する眼球撮影装置において、
解析を行なう断面画像を選択する断面画像選択手段と、
前記断面画像を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された断面画像の断面位置の情報を設定する断面位置情報設定手段と、
前記表示手段に表示された断面画像上に基準直線を設定する基準直線設定手段と、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定する解析対象点設定手段と、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定する隅角鏡情報設定手段と、
前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定する解析用直線設定手段と、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なう解析手段を有することを特徴とする眼球撮影装置。
【請求項4】
前記解析手段により取得された解析結果に前記断面位置の情報を関連付けるとともに、前記解析結果を解析対象点が設定された部位別に分類を行なう解析結果分類手段を有することを特徴とする請求項3に記載の眼球撮影装置。
【請求項5】
前記解析結果分類手段により分類された前記解析結果を解析対象点別に数値あるいはグラフィックにより前記表示手段に表示を行なうことを特徴とする請求項4に記載の眼球撮影装置。
【請求項6】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうプログラムが記録されているコンピュータで処理可能な記録媒体において、
解析を行なう断面画像を選択するステップと、
選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、
前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、
前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とするコンピュータで処理可能な記録媒体。
【請求項7】
被検眼の角膜頂点ならびに隅角領域が含まれる前眼部の断面画像の解析を行なうコンピュータで処理可能なプログラムにおいて、
解析を行なう断面画像を選択するステップと、
選択された前記断面画像の断面位置の情報を設定するステップと、
前記断面画像内に基準直線を設定するステップと、
前記隅角領域の特徴的な部位に解析対象点を設定するステップと、
前記基準直線に対する隅角鏡情報を設定するステップと、
前記基準直線と交差する角度が前記隅角鏡情報に基づいて決定される前記解析対象点を通る直線を解析用直線として設定するステップと、
前記解析用直線上に存在する前記断面画像を構成する画素の位置あるいは輝度情報に基づいて前記解析用直線上に所定の組織が存在するか否かについて解析を行なうステップを実行することを特徴とするコンピュータで処理可能なプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図11】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2009−291517(P2009−291517A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150344(P2008−150344)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(501299406)株式会社トーメーコーポレーション (48)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(501299406)株式会社トーメーコーポレーション (48)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
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