説明

前立腺癌においてTMPRSS2/ERG転写物変異体を検出するための組成物および方法

前立腺癌におけるTMPRSS2/ERG転写物変異体を検出するための組成物および方法を提供する。該組成物および方法は、前立腺癌の診断において有用性を有する。一実施形態において、本発明は、配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含む第1の増幅オリゴヌクレオチド、配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含む第2の増幅オリゴヌクレオチド、および配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含むオリゴヌクレオチドプローブを含む組成物を提供し、この第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドは、配列番号1における異なる標的配列に特異的にハイブリダイズする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば癌のマーカーを包含するがそれに限定されない、癌の診断および研究のための組成物および方法に関する。特に本発明は、前立腺癌に関する診断マーカーとしての再発性遺伝子融合に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の研究における中心的目的は、腫瘍形成への原因としての関与が示唆されている改変された遺伝子を同定することである。塩基置換、挿入、欠失、転座、および染色体の増加および減少を包含する数種の型の体細胞変異が同定されており、これらの全ては癌遺伝子または腫瘍サプレッサー遺伝子の改変された活性をもたらす。1900年代初期に最初の仮説が唱えられ、現在では癌における染色体再配列の原因的役割に関する説得力のある証拠が存在している(非特許文献1)。再発性染色体異常は、主に白血病、リンパ腫、および肉腫の特徴であると考えられていた。遙かに一般的であり、そしてヒトの癌に関連する罹患率および死亡率の相対的に大きな割合に寄与している上皮腫瘍(癌腫)は、既知の疾患特異的な染色体再配列の1%未満を含んでいる(非特許文献2)。血液学的な悪性疾患は、均衡した疾患特異的な染色体再配列を特徴とする場合が多いが、大部分の固形腫瘍は、多数の非特異的な染色体異常を有する。固形腫瘍の核型の複雑性は、癌の発生または進行を通じて獲得される二次的な改変によるものと考えられる。
【0003】
染色体再配列の2つの主要な機序が説明されている。1つの機序においては、1つの遺伝子のプロモーター/エンハンサーエレメントがプロト癌遺伝子に隣接して再配列され、これにより癌遺伝子タンパク質の改変された発現が生じる。この型の転座は、MYCへの免疫グロブリン(IG)およびT細胞受容体(TCR)遺伝子の関連性により例示され、それぞれ、BおよびT細胞の悪性疾患におけるこの癌遺伝子の活性化をもたらしている(非特許文献3)。第2の機序においては、再配列は、新しい機能または改変された活性を有する場合がある融合タンパク質を生成する2つの遺伝子の融合をもたらす。この転座の典型例は、慢性骨髄性白血病(CML)におけるBCR−ABL遺伝子融合である(非特許文献4;非特許文献5)。重要な点は、この所見が、BCR−ABLキナーゼを良好にターゲティングするイマチニブメシレート(Gleevec(登録商標)、Novartis(登録商標)製造)の合理的な開発をもたらしたことである(非特許文献6)。即ち、一般的な上皮腫瘍における再発性遺伝子再配列を同定することは、癌治療薬の発見の労作ならびに患者の治療のために多大な意義を有すると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Rowley,Nat Rev Cancer(2001)1:245
【非特許文献2】Mitelman,Mutat Res(2000)462:247
【非特許文献3】Rabbitts,Nature(1994)372:143
【非特許文献4】Rowley,Nature(1973)243:290
【非特許文献5】de Kleinら、Nature(1982)300:765
【非特許文献6】Deiningerら、Blood(2005)105:2640
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、例えば、限定しないがTMPRSS2/ERG転写物変異体を増幅および検出するための組成物および方法を提供する。
【0006】
配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含む第1の増幅オリゴヌクレオチド、配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含む第2の増幅オリゴヌクレオチド、および配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含むオリゴヌクレオチドプローブを含み、そして、第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号1における異なる標的配列に特異的にハイブリダイズするようにした組成物を提供する。
【0007】
生物学的試料中のERG転写物を増幅および検出するための方法であって、ERG転写物を含有する該試料を、配列番号1に特異的にハイブリダイズする第1の増幅オリゴヌクレオチドおよび配列番号1に特異的にハイブリダイズする第2の増幅オリゴヌクレオチドに接触させる工程(ここで第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドは、配列番号1における異なる標的配列にハイブリダイズする);該第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドに接触させた該試料をERG転写物を増幅させる条件に曝露することにより、増幅された産物を作製する工程;および増幅された産物の存在を、配列番号1または配列番号1に完全に相補的である配列に特異的にハイブリダイズする検出プローブに該産物を特異的にハイブリダイズさせることにより検出し、これにより試料中のERG転写物の存在を検出する工程、を含む方法を提供する。
【0008】
患者試料中のTMPRSS2/ERG転写物変異体を増幅および検出するための別の方法であって、該患者試料を配列番号14よりなる標的特異的配列を含む第1の増幅オリゴヌクレオチド、配列番号17または19よりなる標的特異的配列を含む第2の増幅オリゴヌクレオチド、および配列番号29よりなる標的特異的配列を含む検出プローブに接触させる工程;該患者試料をTMPRSS2/ERG転写物変異体を増幅するために十分な条件に曝露する工程;および該TMPRSS2/ERG転写物変異体が該患者試料中にあるか否かを決定する工程、を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、12種の異なるTMPRSS2/ERG転写物変異体および本発明の標的領域を特性化したものである。
【図2】図2は、配列番号47に相当するポリヌクレオチド配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本発明の理解を容易にするために、多くの用語および表現を以下の通り定義する。
【0011】
本明細書において、「遺伝子融合物」という用語は、第1の遺伝子の少なくとも一部分の第2の遺伝子の少なくとも一部分への融合から生じるキメラゲノムDNA、キメラメッセンジャーRNA、短縮タンパク質またはキメラタンパク質を指す。遺伝子融合物は、遺伝子全体または遺伝子のエクソンを包含する必要はない。
【0012】
本明細書において、「転写調節領域」という用語は、5’未翻訳領域(5’UTR)とも称する遺伝子の非コーディング上流調節配列を指す。
【0013】
本明細書において、「アンドロゲン調節遺伝子」という用語は、アンドロゲン(例えばテストステロン)により自身の発現が開始または増強される遺伝子または遺伝子の一部分を指す。アンドロゲン調節遺伝子のプロモーター領域は、アンドロゲンまたはアンドロゲンシグナリング分子(例えば下流のシグナリング分子)と相互作用する「アンドロゲン応答エレメント」を含有してよい。
【0014】
本明細書において、「検出する」、「検出している」、または「検出」という用語は、検出可能に標識された組成物を発見または確認することまたはその具体的な観察の一般的な行動の何れかを説明し得る。
【0015】
本明細書において、「対象」という用語は、何れかの動物(例えば哺乳類)、例えば、限定しないがヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等を指し、特定の治療のレシピエントとなるべきものである。典型的には、「対象」および「患者」という用語は、ヒト対象に言及する場合には本明細書において互換的に使用される。
【0016】
本明細書において、「癌の危険性のある対象」という用語は、特定の癌を発症する危険因子を1つ以上有する対象を指す。危険因子は、例えば、限定しないが性別、年齢、遺伝的素因、環境曝露、過去の癌の発生、既存の非癌疾患、および生活様式を包含する。
【0017】
本明細書において、「対象における癌を特性化すること」という用語は、対象における癌試料の1つ以上の特性、例えば、限定しないが良性の前癌性または癌性の組織、癌の病期、および対象の予後の同定を指す。癌は、本明細書に開示した癌マーカーを包含するがそれに限定されない1つ以上の癌マーカー遺伝子の発現の同定により特徴付けられ得る。
【0018】
本明細書において、「対象における前立腺組織を特徴付けること」という用語は、前立腺組織試料の1つ以上の特性(例えば、限定しないが癌性組織の存在、癌性となる可能性の高い前癌性の組織の存在、および転移する可能性の高い癌性の組織の存在)の同定を指す。一部の実施形態においては、組織は、本明細書に開示した癌マーカーを包含するがそれに限定されない1つ以上の癌マーカー遺伝子の発現の同定により特徴付けられ得る。
【0019】
本明細書において、「癌の病期」という用語は、癌の進行のレベルの定性的または定量的な評価を指す。癌の病期を決定するために使用される基準は、例えば、限定しないが腫瘍の大きさおよび転移の程度(例えば局在または遠隔)を包含する。
【0020】
本明細書において、「核酸分子」という用語は、DNAまたはRNAを包含するがこれらに限定されない分子を含有する何れかの核酸を指す。この用語は、DNAおよびRNAの既知の塩基類縁体、例えば、限定しないが4−アセチルシトシン、8−ヒドロキシ−N6−メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)−ウラシル、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルシュードウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルケオシン、5’−メトキシカルボニルメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、ケオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、N−ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、シュードウラシル、ケオシン、2−チオシトシン、および2,6−ジアミノプリンの何れかを包含する配列を包含する。
【0021】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、前駆体、またはRNA(例えばrRNA、tRNA)の産生のために必要なコーディング配列を含む核酸(例えばDNA)配列を指す。ポリペプチドは、完全長コーディング配列によるか、または完全長またはフラグメントの所望の活性または機能的特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナルトランスダクション、免疫原性等)が保持されている限りにおいて、コーディング配列の何れかの部分により、コードされ得る。この用語はまた、遺伝子が完全長mRNAの長さに相当するように、構造遺伝子のコーディング領域、および何れかの末端において約1kb以上の距離が生じるように5’および3’末端上のコーディング領域に隣接して位置する配列を包含する。コーディング領域の5’側に位置し、そしてmRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と称される。コーディング領域の3’側または下流に位置し、そしてmRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と称される。「遺伝子」という用語は、cDNAおよび遺伝子のゲノム型の両方を包含する。遺伝子のゲノム型またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非コーディング配列で中断されたコーディング領域を含有する。イントロンは、核RNA(hnRNA)内に転写される遺伝子のセグメントであり、イントロンは、エンハンサーのような調節エレメントを含有し得る。イントロンは、核または一次転写物から除去または「スプライスアウト」され、従って、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物中に非存在となる。mRNAは、翻訳中は発生期のポリペプチド中のアミノ酸の配列または順序を特定するために機能する。
【0022】
本明細書において、「異種遺伝子」という用語は、自身の天然の環境中にはない遺伝子を指す。例えば、異種遺伝子は、1つの種由来の遺伝子が別の種に導入されたものを包含する。異種遺伝子はまた、何らかの様式で改変されている(例えば突然変異している、多数コピー中に付加されている、非ネイティブの調節配列に連結されている等)生物にとってネイティブである遺伝子を包含する。異種遺伝子が内因性遺伝子と区別される点は、異種遺伝子配列が、典型的には染色体中の遺伝子配列を伴っては天然には存在しないか、または天然には存在しない染色体の部分を伴っている、DNA配列に連結されているという点である(例えば遺伝子が通常は発現されない遺伝子座において発現された遺伝子)。
【0023】
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、1本鎖ポリヌクレオチド鎖の短鎖長を指す。オリゴヌクレオチドは、典型的には200残基長未満(例えば15〜100残基長)であるが、本明細書において、この用語はまた、より長いポリヌクレオチド鎖を包含することを意図している。オリゴヌクレオチドは、その長さにより呼称される場合が多い。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドは、「24量体」と称される。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズにより、または他のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることにより、2次および3次構造を形成することができる。そのような構造は、例えば、限定しないがデュプレックス、ヘアピン、十字架型、屈曲型、およびトリプレックスを包含し得る。
【0024】
本明細書において、「相補的な」または「相補性」という用語は、塩基対合規則により関連付けられるポリヌクレオチド(即ちヌクレオチドの配列)に言及して使用される。例えば、配列「5’−A−G−T−3’」は、配列「3’−T−C−A−5’」に相補的である。相補性は「部分的」であってよく、その場合、核酸の塩基の一部分のみが塩基対合規則に従ってマッチする。あるいは、核酸の間には「完全」または「全」相補性があり得る。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に多大な影響を有している。このことは、増幅反応ならびに核酸間の結合に依存している検出方法において特に重要である。
【0025】
「相同性」という用語は、相補性の程度を指す。部分的な相同性または完全な相同性(即ち同一性)が存在し得る。部分相補配列は、完全に相補的な核酸分子が標的核酸にハイブリダイズすることを少なくとも部分的に抑制する核酸分子であり、「実質的に相同である」。標的配列への完全に相補的な配列のハイブリダイゼーションの抑制は、低ストリンジェンシーの条件下でのハイブリダイゼーション試験(サザンまたはノーザンブロット、溶液ハイブリダイゼーション等)を用いて検査され得る。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシーの条件下での標的への完全に相同な核酸分子の結合(即ちハイブリダイゼーション)と競合し、そしてそれを抑制することになる。このことは、低ストリンジェンシーの条件が非特異的結合を許可するという意味ではなく、低ストリンジェンシー条件が、2つの配列の相互への結合が特異的(即ち選択的)な相互作用であることを要することを意味する。非特異的結合が存在しないことは、実質的に非相補的である(例えば約30%未満の同一性)第2の標的の使用により試験され得、非特異的結合の非存在下においては、プローブは第2の非相補標的にはハイブリダイズしないことになる。
【0026】
cDNAまたはゲノムクローンのような2本鎖核酸配列に言及して使用する場合、「実質的に相同な」という用語は、上記した低ストリンジェンシーの条件下で2本鎖核酸配列の何れかまたは両方の鎖にハイブリダイズできる何れかのプローブを指す。
【0027】
遺伝子は、一次RNA転写物の示差的スプライシングにより形成される多数のRNA種を産生する場合がある。同じ遺伝子のスプライス変異体であるcDNAは、配列同一性または完全相同の領域(両方のcDNA上の同じエクソンまたは同じエクソンの一部の存在を示す)および完全非同一の領域(例えばcDNA1上のエクソン「A」の存在、およびcDNA2がその代わりにエクソン「B」を含有することを示す)を含有することになる。2つのcDNAが配列同一性の領域を含有しているため、それらは両方とも、両方のcDNA上に存在する配列を含有する遺伝子全体または遺伝子の一部分から誘導されたプローブにハイブリダイズすることになり、従って、2つのスプライス変異体は、そのようなプローブに対し、そして相互に、実質的に相同である。
【0028】
1本鎖核酸配列に言及して使用する場合、「実質的に相同」という用語は、上記した低ストリンジェンシー条件下で1本鎖核酸配列にハイブリダイズできる(即ちその相補体である)何れかのプローブを指す。
【0029】
本明細書において、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補核酸の対合に言及して使用される。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(即ち核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのT、および核酸内のG:C比のような要因により影響を受ける。自身の構造内部に相補核酸の対合を含有する単一の分子は、「自己ハイブリダイズしている」ということができる。
【0030】
本明細書において、「ストリンジェンシー」という用語は、核酸ハイブリダイゼーションが実施される条件、例えば温度、イオン強度、および有機溶媒のような他の化合物の存在に言及して使用される。「低ストリンジェンシー条件」下では、目的の核酸配列は、その厳密な相補体、1塩基ミスマッチを有する配列、密接に関連した配列(例えば90%以上の相同性を有する配列)、および部分的な相同性のみを有する配列(例えば50〜90%相同性を有する配列)にハイブリダイズすることになる。「中ストリンジェンシー条件」下では、目的の核酸配列は、その厳密な相補体、1塩基ミスマッチを有する配列、および密接に関連した配列(例えば90%以上の相同性を有する配列)にのみハイブリダイズすることになる。「高ストリンジェンシー条件」下では、目的の核酸配列は、その厳密な相補体、および(温度のような条件に応じて)1塩基ミスマッチを有する配列にのみハイブリダイズすることになる。換言すれば、高ストリンジェンシー条件下では、1塩基ミスマッチを有する配列へのハイブリダイゼーションを排除するように温度を上昇させることができる。
【0031】
「高ストリンジェンシー条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに言及して使用する場合、約500ヌクレオチド長のプローブを用いる場合には、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPOOおよび1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調節)、0.5%SDS、5×Denhardt試薬および100μg/ml変性サケ精子DNAよりなる溶液中42℃における結合またはハイブリダイゼーション、その後の42℃における0.1×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中での洗浄と同等の条件を含む。
【0032】
「中ストリンジェンシー条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに言及して使用する場合、約500ヌクレオチド長のプローブを用いる場合には、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPOOおよび1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調節)、0.5%SDS、5×Denhardt試薬および100μg/ml変性サケ精子DNAよりなる溶液中42℃における結合またはハイブリダイゼーション、その後の42℃における1.0×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中での洗浄と同等の条件を含む。
【0033】
「低ストリンジェンシー条件」は、約500ヌクレオチド長のプローブを用いる場合には、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPOOおよび1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調節)、0.1%SDS、5×Denhardt試薬[50×Denhardtは500ml当たり、5gのFicoll(Type 400、Pharmacia)、5gのBSA(Fraction V;Sigma)を含む]および100μg/ml変性サケ精子DNAよりなる溶液中42℃における結合またはハイブリダイゼーション、その後の42℃における5×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中での洗浄と同等の条件を含む。
【0034】
当該分野でよく知られている通り、低ストリンジェンシー条件を含むように多くの同等の条件を使用してよく、プローブの長さおよび性質(DNA、RNA、塩基組成)および標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか固定化されているか等)および塩および他の成分の濃度(例えばホルミアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの存在または非存在)のような要因が考慮され、そしてハイブリダイゼーション溶液は、上記列挙した条件とは異なるがそれと同等の低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションの条件を作製するために変更してよい。さらにまた、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイゼーションを促進する条件は、当業者の知る通りである(例えばハイブリダイゼーションの温度を上昇させ、および/または洗浄工程数を増加させること、ハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの使用等)(「ストリンジェンシー」に関しては上記定義参照)。
【0035】
本明細書において、「増幅オリゴヌクレオチド」という用語は、標的核酸またはその相補体にハイブリダイズし、そして核酸増幅反応に関与するオリゴヌクレオチドを指す。増幅オリゴヌクレオチドの例は、増幅過程においてポリメラーゼにより伸張される、鋳型核酸にハイブリダイズし、そして3’OH末端を有する「プライマー」である。増幅オリゴヌクレオチドの別の例は、ポリメラーゼにより伸張されないが(3’ブロック末端を有するため)、増幅に関与するか、増幅を促進するオリゴヌクレオチドである。増幅オリゴヌクレオチドは、場合により、増幅反応に関与するが標的核酸に相補的ではないか、またはそれに含有されない、修飾されたヌクレオチドまたは類縁体、または追加的なヌクレオチドを包含してよい。増幅オリゴヌクレオチドは、標的または鋳型の配列に相補的ではない配列を含有し得る。例えば、プライマーの5’領域は、標的核酸に非相補的なプロモーター配列を包含し得る(「プロモーター−プライマー」と称する)。当業者の理解する通り、プライマーとして機能する増幅オリゴヌクレオチドを修飾して5’プロモーター配列を包含させることにより、プロモーター−プライマーとして機能させ得る。同様に、プロモーター−プライマーは、プロモーター配列の除去またはそれを使用しない合成により修飾し、そしてなおプライマーとして機能させ得る。3’ブロック増幅オリゴヌクレオチドは、プロモーター配列を提供し、そして重合のための鋳型として機能し得る(「プロモーター−プロバイダー」と称する)。
【0036】
本明細書において、「プライマー」という用語は、精製された制限消化物中の場合のように天然に存在するか、または合成により製造されるかに関わらず、核酸鎖に相補的であるプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下に置かれた場合に(例えばヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼのような誘導剤の存在下、そして適当な温度およびpHにおいて)合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、増幅における最大効率のためには好ましくは1本鎖であるが、2本鎖であってもよい。2本鎖の場合は、プライマーは、伸長産物を製造するために使用されるよりも前に、その鎖を分離するためにまず処理される。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘導剤の存在下に伸長産物の合成をプライミングするために十分長くなければならない。プライマーの厳密な長さは、温度、プライマー原料および方法の使用を包含する多くの要因に応じたものとなる。
【0037】
本明細書において、「プローブ」という用語は、精製された制限消化物中の場合のように天然に存在するか、または合成、組み換えまたはPCR増幅により製造されるかに関わらず、目的の別のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド(即ちヌクレオチドの配列)を指す。プローブは、1本鎖または2本鎖であってよい。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定および単離において有用である。本発明において使用される何れかのプローブは、何れかの「レポーター分子」で標識されることにより、例えば、限定しないが酵素(例えばELISAならびに酵素系の組織化学的試験)、蛍光、放射能、およびルミネセント系を包含する何れかの検出系において検出可能となることを想定している。本発明は、何れかの特定の検出系または標識に限定されることを意図していない。
【0038】
「単離された」という用語は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」におけるように核酸に関連して使用される場合、自身の天然の起源において通常会合している少なくとも1つの成分または夾雑物から同定および単離される核酸配列を指す。単離された核酸は、それが天然に存在する場合とは異なる形態または状況においてそれ自体存在している。これとは対照的に、DNAおよびRNAのような核酸としての非単離の核酸は、それらが天然に存在する状態において観察される。例えば、所定のDNA配列(例えば遺伝子)は、近隣の遺伝子に近接した宿主細胞染色体上に観察され、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列のようなRNA配列は、多数のタンパク質をコードする多くの他のmRNAとの混合物として細胞中に観察される。しかしながら、所定のタンパク質をコードする単離された核酸は、例えば、核酸が天然の細胞の場合とは異なる染色体位置にあるか、天然に観察されるものとは異なる核酸配列により別様にフランキングされている所定のタンパク質を通常発現する細胞における核酸を包含する。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、1本鎖または2本鎖の型において存在してよい。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを利用することによりタンパク質を発現する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは最小限でもセンスまたはコーディング鎖を含有することになる(即ちオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは1本鎖であってよい)が、センスおよびアンチセンスの鎖の両方を含有し得る(即ちオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは2本鎖であってよい)。
【0039】
本明細書において、「精製された」または「精製するため」という用語は、試料からの成分(例えば夾雑物)の除去を指す。例えば、抗体は、夾雑する非免疫グロブリンタンパク質の除去により精製され、それらはまた標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去により精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または標的分子に結合しない免疫グロブリンの除去は、試料中の標的反応性免疫グロブリンの割合を上昇させる。別の例においては、組み換えポリペプチドを細菌宿主細胞中で発現させ、そしてポリペプチドを宿主細胞タンパク質の除去により精製し、これにより試料中の組み換えポリペプチドの割合を上昇させる。
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、前立腺癌における再発性の遺伝子融合物の発見に基づく。本発明は、直接的または間接的に遺伝子融合物を検出する診断および研究の方法を提供する。本発明はまた、診断および研究目的のための組成物を提供する。
【0041】
I.TMPRSS2/ERG遺伝子融合物
ETSファミリーメンバー遺伝子ERG、ETV1、ETV4、またはFLI1とのアンドロゲン調節遺伝子TMPRSS2の再発性の遺伝子融合物は、最近、前立腺癌の50〜80%において確認されている(国際公開WO2007/033187)。これらのうち50〜70%は、ERGにTMPRSS2を融合させる染色体再配列に起因している。再発性であるにも関わらず、TMPRSS2がERGに融合する接合部は変動している。その結果、今日まで、少なくとも12種の異なるTMPRSS2/ERG転写物変異体が報告されている(Tomlinsら、Science 310:644(2005);Wangら、Cancer Research 66(17):8347(2006);Sollerら、Genes Chromosomes Cancer 45(7):717(2006);Clarkら、Oncogene 26(18):2667(2007))。12種の異なるTMPRSS2/ERG転写物変異体の特性化を図1に示す。本発明は、配列番号1により定義される領域をターゲティングすることにより多数のTMPRSS2/ERG転写物変異体を検出するための組成物および方法を提供する。配列番号1はDNAとして示したが、当業者の知る通り、相当するRNAは全てのチミン(T)をウラシル(U)で置換する。
【0042】
II.診断用途
本発明は、TMPRSS2/ERG転写物変異体を直接的または間接的に検出するDNAおよびRNA系の診断方法を提供する。本発明はまた、診断目的のための組成物およびキットを提供する。
【0043】
本発明の診断方法は、定性的または定量的であってよい。定量的な診断方法は、例えばカットオフまたは閾値レベルを介して無痛性の癌と侵襲性の癌との間の判別を行うために使用され得る。適切な場合は、定性的または定量的な診断方法はまた、標的、シグナルまたは中継的物質(例えばユニバーサルプライマー)の増幅を包含し得る。
【0044】
初期の試験は、TMPRSS2/ERG転写物変異体の存在は確認し得るが、特定の転写物変異体を同定しない。次に2次的な試験を実施することにより、所望により特定の転写物変異体の実体を決定する。第2の試験は、初期の試験とは異なる検出技術を用いてよい。本発明の診断方法は、病期、疾患の侵襲性または進行、または転移の存在または危険性に特定のTMPRSS2/ERG転写物変異体を相関付けるデータを参照して変更してもよい。究極的には、本発明の方法により提供される情報は、医師が特定の患者に関する治療の最も良い過程を選択する支援をすることになる。
【0045】
TMPRSS2/ERG転写物変異体は、多重またはパネルのフォーマットにおいて他のマーカーとともに検出され得る。マーカーは、それらの予測値単独に関して、またはTMPRSS2/ERG転写物変異体との組み合わせにおいて選択される。例示される前立腺癌マーカーは、例えば、限定しないがAMACR/P504S(米国特許6,262,245);PCA3(米国特許7,008,765);PCGEM1(米国特許6,828,429);プロステイン/P501S、P503S、P504S、P509S、P510S、プロスターゼ/P703P、P710P(米国特許公開20030185830);および米国特許5,854,206および6,034,218、および米国特許公開20030175736に開示されているものを包含する。他の癌、疾患、感染症、および代謝状態に関するマーカーもまた、パネルフォーマットの多重物への包含を意図される。
【0046】
A.試料
TMPRSS2/ERG転写物変異体を含有することが疑われる何れかの患者の試料を、本発明の方法に従って試験してよい。非限定的に例示すれば、試料は組織(例えば前立腺生検試料または前立腺切開術で得られた組織試料)、血液、尿、精液、前立腺分泌物またはその画分(例えば血漿、血清、尿上澄み、尿中細胞ペレットまたは前立腺細胞)であってよい。尿の試料は、好ましくは、前立腺由来の前立腺細胞を尿管中に注ぎ込む注意深いデジタル直腸検査(DRE)の直後に収集する。
【0047】
患者試料は、典型的にはTMPRSS2/ERG転写物変異体またはTMPRSS2/ERG転写物変異体を含有する細胞に関して試料を単離または富化するために設計された予備的処理を必要とする。この目的のために、当業者の知る種々の手法、例えば、限定しないが遠心分離;イムノ捕捉;細胞溶解;および核酸標的捕捉を用いてよく、これらは全て欧州特許1409727に記載されている。
【0048】
B.DNAおよびRNAの検出
TMPRSS2/ERG転写物変異体は、核酸配列決定;核酸ハイブリダイゼーション;および核酸増幅を包含するがこれらに限定されない、当業者に知られた種々の核酸手法を用いて検出してよい。
【0049】
1.配列決定
核酸配列決定手法の代表的な非限定的例は、鎖ターミネーター(Sanger)配列決定およびダイターミネーター配列決定を包含するが、これらに限定されない。当業者の知る通り、RNAは細胞内でより不安定であり、そして実験的にはヌクレアーゼ攻撃に対してより感受性であるため、RNAは、通常は配列決定の前にDNAに逆転写される。
【0050】
鎖ターミネーター配列決定は、修飾されたヌクレオチドの基質を用いたDNA合成反応の配列特異的終止を使用する。伸長は、鋳型DNAの特定の部位において、その領域における鋳型に相補的である短鎖の放射性、または他の標識された、オリゴヌクレオチドプライマーを用いて開始される。オリゴヌクレオチドプライマーは、DNAポリメラーゼ、標準的な4デオキシヌクレオチド塩基、および低濃度の1鎖終止ヌクレオチド、最も一般的にはジデオキシヌクレオチドを用いて伸長される。この反応は、4つの別個の試験管中で、ジデオキシヌクレオチドとして塩基の各々を交代させながら反復される。DNAポリメラーゼによる鎖終止ヌクレオチドの制限された取り込みにより、その特定のジデオキシヌクレオチドが使用される位置においてのみ終止された関連するDNAフラグメントのシリーズがもたらされる。各反応試験管に関して、スラブポリアクリルアミドゲルまたは粘稠な重合体を充填した毛細管中の電気泳動により、フラグメントをサイズ分離する。ゲルを上端から下端までスキャンしながら、どのレーンが標識されたプライマーから可視化されたマークを生じさせているかを読み取ることにより、配列が決定される。
【0051】
ダイターミネーター配列決定は、代わりにターミネーターを標識している。完全な配列決定は、異なる波長において蛍光を発する別個の蛍光染料でジデオキシヌクレオチド鎖ターミネーターの各々を標識することにより、単一の反応において実施できる。
【0052】
2.ハイブリダイゼーション
核酸ハイブリダイゼーション手法の代表的な非限定的例は、インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)、マイクロアレイ、およびサザンまたはノーザンブロットを包含するがこれらに限定されない。
【0053】
インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)は、組織の一部分または切片(インサイチュ)、または組織が十分小型である場合は組織全体(ホールマウントISH)中の特定のDNAまたはRNA配列を位置決めするためのプローブとして、標識された相補DNAまたはRNA鎖を使用するハイブリダイゼーションの型である。DNAISHは、染色体の構造を決定するために使用される。RNAISHは、組織切片またはホールマウント内部のmRNAおよび他の転写物を計測および位置決めするために使用される。試料の細胞および組織は、通常は、標的転写物の位置を固定し、そしてプローブの出入を増強するために処理される。プローブは、高温において標的配列にハイブリダイズし、そして次に過剰なプローブが洗浄除去される。放射性物質、蛍光物質または抗原で標識された塩基で標識されたプローブは、それぞれオートラジオグラフィー、蛍光顕微鏡分析または免疫組織化学的分析を用いて組織中において位置決めおよび定量される。ISHはまた、放射性または他の非放射性の標識で標識された2つ以上のプローブを使用することにより、2つ以上の転写物を同時に検出することができる。
【0054】
異なる種類の生物学的試験は、マイクロアレイ、例えば、限定しないがDNAマイクロアレイ(例えばcDNAマイクロアレイおよびオリゴヌクレオチドマイクロアレイ);タンパク質マイクロアレイ;組織マイクロアレイ;トランスフェクションまたは細胞マイクロアレイ;化合物マイクロアレイ;および抗体マイクロアレイと称されている。DNAマイクロアレイは、遺伝子チップ、DNAチップ、またはバイオチップとして一般的に知られているが、同時に数千個の遺伝子に関して発現プロファイリングを行う、または発現レベルをモニタリングする目的のためのアレイを形成する固体表面(例えばガラス、プラスチックまたはシリコンチップ)に結合した微細なDNAスポットの収集物である。固定されたDNAセグメントはプローブとして知られており、その数千個が単一のDNAマイクロアレイ中で使用できる。マイクロアレイは疾患細胞および正常細胞における遺伝子発現を比較することにより、疾患遺伝子を同定するために使用できる。マイクロアレイは、種々の技術、例えば、限定しないがスライドガラスへの微細ポイントピンによる印刷;作製済みマスクを用いたフォトリソグラフィー;ダイナミックマイクロミラー装置を用いたフォトリソグラフィー;インクジェット印刷;またはマイクロ電極アレイ上の電気化学的方法を用いて作製できる。
【0055】
サザンおよびノーザンブロッティングを用いて特定のDNAまたはRNA配列をそれぞれ検出する。試料から抽出されたDNAまたはRNAをフラグメント化し、マトリックスゲル上で電気泳動的に分離し、そしてメンブレンフィルターに転写する。フィルター結合DNAまたはRNAを、目的の配列に相補的である標識されたプローブとのハイブリダイゼーションに付す。フィルターに結合したハイブリダイズしたプローブを検出する。操作法の変法は、逆ノーザンブロッティングであり、この場合、膜に固定化された基質核酸は、単離されたDNAフラグメントの収集物であり、そしてプローブは組織から単離され標識されたRNAである。
【0056】
3.増幅
TMPRSS2/ERG転写物変異体は、検出の前、またはそれと同時に増幅してよい。核酸増幅の手法の代表的な非限定的例は、例えば、限定しないがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、転写媒介増幅(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、および核酸配列系の増幅(NASBA)を包含する。当業者の知る通り、特定の増幅手法(例えばPCR)は、増幅の前にRNAをDNAに逆転写することを必要とする(例えばRT−PCR)が、他の増幅手法は、RNAを直接増幅する(例えばTMAおよびNASBA)。
【0057】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、米国特許4,683,195、4,683,202、4,800,159および4,965,188に詳細に記載されている。慨すれば、PCRは、複数のサイクルの変性、対向する鎖へのプライマー対のアニーリング、および標的核酸配列のコピー数を指数的に増大させるためのプライマー伸長を使用する。RT−PCRと称される変法においては、逆転写酵素(RT)を使用することによりmRNAから相補DNA(cDNA)を作製し、そして次にcDNAをPCRで増幅することによりDNAの多数のコピーを製造する。PCRの他の種々の変形例に関しては、米国特許4,683,195、4,683,202および4,800,159;Mullisら、Meth.Enzymol.155:335(1987);およびMurakawaら、DNA7:287(1988)を参照のこと。
【0058】
転写媒介増幅(TMA)は、米国特許5,824,518、5,480,784および5,399,491に詳述されている。慨すれば、TMAは、標的配列の多数のRNAコピーが自己触媒的に追加のコピーを生成する、実質的に一定の温度、イオン強度、およびpHの条件下で、自己触媒的に標的核酸配列の多数のコピーを合成する。米国特許公開20060046265に記載されている変形例においては、TMAは、場合によりブロッキング部分、終止部分、および他の修飾部分の使用を組み込むことにより、TMAプロセスの感度および確度を向上させている。
【0059】
リガーゼ連鎖反応(LCR)は、Weiss、R.,Science 254:1292(1991)に記載されている。慨すれば、LCRは、標的核酸の隣接する領域にハイブリダイズする相補DNAオリゴヌクレオチドの2つのセットを使用する。DNAオリゴヌクレオチドは、熱変性、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションの反復サイクルにおいてDNAリガーゼにより共有結合的に連結されることにより、検出可能な2本鎖のライゲーションされたオリゴヌクレオチド産物を産生する。
【0060】
鎖置換増幅(SDA)は、Walker、G.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:スペース392−396(1992);米国特許5,270,184および5,455,166に記載されている。慨すれば、SDAは、標的配列の対向する鎖にプライマー配列の対をアニーリングするサイクル、デュプレックスの半ホスホロチオエート化されたプライマー伸長産物を産生するためのdNTPαSの存在下でのプライマー伸長、半修飾された制限エンドヌクレアーゼ認識部位のエンドヌクレアーゼ媒介のニッキング、および既存の鎖を置換して次の回のプライマーアニーリング、ニッキングおよび鎖置換のための鎖を産生するためのニックの3’末端からのポリメラーゼ媒介プライマー伸長を使用することにより、産物の幾何学的増幅を行う。熱親和性SDA(tSDA)は、本質的には同じ方法においてより高い温度で熱親和性のエンドヌクレアーゼおよびポリメラーゼを使用する(EP特許0684315)。
【0061】
他の増幅方法は、例えば米国特許5,130,238に記載されている核酸配列系の増幅(NASBA);Lizardiら、BioTechnol.6:1197(1988)に記載されているプローブ分子自体を増幅するためにRNAレプリカーゼを使用するQ−ベータレプリカーゼ;Kwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:1173(1989)に記載の転写系の増幅方法;およびGuatelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:1874(1990)に記載の自己持続性配列複製を包含する。既知の増幅方法をさらに検討するには、Persing,David H.の「In Vitro Nucleic Acid Amplification Techniques」、Diagnostic Medical Microbiology:Principles and Applications(Persingら編)、pp.51−87(American Society for Microbiology,Washington,DC(1993))を参照のこと。
【0062】
4.検出方法
非増幅または増幅TMPRSS2/ERG転写物変異体は、何れかの従来の手段により検出できる。例えば、TMPRSS2/ERG転写物変異体は、検出可能に標識されたプローブによるハイブリダイゼーションおよび得られたハイブリッドの計測により検出できる。検出方法の代表的な非限定的な例を、以下に記載する。
【0063】
1つの代表的な検出方法であるハイブリダイゼーション保護試験(HPA)では、標的配列にケミルミネセントのオリゴヌクレオチドプローブ(例えばアクリジニウムエステル標識(AE)プローブ)をハイブリダイズさせ、未ハイブリダイズのプローブ上に存在するケミルミネセント標識を選択的に加水分解し、そしてルミノメーターで残存するプローブから生じたケミルミネセンスを計測する。HPAは、米国特許5,283,174およびNorman C.Nelsonら、Nonisotopic Probing,Blotting,and Sequencing,ch.17(Larry J.Kricka編、第2版、1995)に記載されている。
【0064】
別の代表的な検出方法は、リアルタイムで増幅プロセスの定量的評価を可能にする。「リアルタイム」での増幅プロセスの評価では、増幅反応の間に連続的または周期的に反応混合物中のアンプリコンの量を測定し、そして測定された値を使用することにより試料中に最初から存在していた標的配列の量を計算する。リアルタイム増幅に基づいた、試料中に存在する初期標的配列の量を測定するための種々の方法が、当該分野で良く知られている。それらには、米国特許6,303,305および6,541,205に記載されている方法が包含される。リアルタイム増幅に基づくものではないが、試料中に最初から存在していた標的配列の量を測定するための別の方法が、米国特許5,710,029に開示されている。
【0065】
増幅産物は、種々の自己ハイブリダイズプローブの使用を介してリアルタイムで検出してよく、その大部分がステム−ループ構造を有している。そのような自己ハイブリダイズプローブは、プローブが自己ハイブリダイズ状態または標的配列へのハイブリダイゼーションにより改変された状態の何れにあるかに応じて、異なって検出可能であるシグナルを放出するように標識される。非限定的に例示すれば、「分子トーチ」は、接合領域(例えば非ヌクレオチドリンカー)により連結され、そして所定のハイブリダイゼーション試験条件下で相互にハイブリダイズする自己相補性の区別可能な領域(「標的結合ドメイン」および「標的封鎖ドメイン」と称する)を包含する自己ハイブリダイズプローブの型である。1つの実施形態において、分子トーチは、1〜約20塩基長であり、そして鎖置換条件下で増幅反応において存在する標的配列へのハイブリダイゼーションのために出入可能である標的結合ドメイン中の1本鎖塩基領域を含有する。鎖置換条件下では、標的結合ドメイン中に存在する1本鎖領域に結合し、そして標的封鎖ドメインの全てまたは一部分を置換することになる標的配列の存在下を除いて、分子トーチの完全または部分的に相補的であってよい2つの相補領域のハイブリダイゼーションが好ましい。分子トーチの標的結合ドメインおよび標的封鎖ドメインは、分子トーチが標的配列にハイブリダイズする場合ではなく分子トーチが自己ハイブリダイズする場合に異なるシグナルが発生し、これにより未ハイブリダイズ分子トーチの存在下で被験試料中のプローブ:標的デュプレックスの検出を可能にするように位置づけられた、検出可能な標識または相互作用標識対(例えばルミネセント/クエンチャー)を包含する。分子トーチおよび種々の型の相互作用標識対は、米国特許6,534,274に開示されている。
【0066】
自己相補性を有する検出プローブの別の例は、「分子ビーコン」である。分子ビーコンは、標的相補配列、増幅反応において存在する標的配列の非存在下において封鎖されたコンホーメーションでプローブを保持するアフィニティー対(または核酸アーム)、およびプローブが封鎖されたコンホーメーションにある場合に相互作用する標識対を有する核酸分子を包含する。標的配列および標的相補配列のハイブリダイゼーションは、アフィニティー対のメンバーを分離し、これによりプローブを開放されたコンホーメーションにシフトさせる。開放されたコンホーメーションへのシフトは、例えば蛍光団およびクエンチャー(例えばDABCYLおよびEDANS)であってよい標識対の相互作用が低減されることによって検出され得る。分子ビーコンは、米国特許5,925,517および6,150,097に開示されている。
【0067】
他の自己ハイブリダイゼーションプローブは、当業者に良く知られている。非限定的に例示すれば、米国特許5,928,862に開示されているもののような相互作用標識を有するプローブ結合対を、本発明における使用のために適合させてよい。単一のヌクレオチド多形(SNP)を検出するために使用されるプローブ系もまた本発明において利用してよい。追加的な検出系は、米国特許公開20050042638に開示されている「分子スイッチ」を包含する。インターカレーション染料および/または蛍光色素を含むもののような他のプローブもまた、本発明における増幅産物の検出のために有用であり、そして米国特許5,814,447に記載されている。
【0068】
C.データ分析
一部の実施形態においては、コンピュータ系分析プログラムを用いることにより、検出試験により生成した生データ(例えば所定のマーカー(単数または複数)の存在、非存在、または量)を、医師のための予測値のデータに翻訳する。医師は、何れかの適当な手段を用いて予測データにアクセスできる。即ち、一部の実施形態においては、本発明は、遺伝学または分子生物学において熟練していない可能性の高い医師が、生データを理解する必要がないという追加的な利点を与える。データは、その最も有用な形態において医師に直接提示される。次に医師は、対象の看護を最適化するために情報を即座に利用できる。
【0069】
本発明は、試験を実施している研究室、情報提供、医療従事者、および対象への、またはそれらからの情報を受領、処理、および伝達することができる何れかの方法を意図している。例えば、本発明の一部の実施形態においては、試料(例えば生検試料または血清または尿の試料)を対象から入手し、そして世界の何れかの部分(例えば対象が居住する、あるいは情報が最終的に使用される国とは異なる国)に所在するプロファイリング業者(例えば医療施設の臨床研究室、ゲノムプロファイリング業者等)に提出することにより生データを発生させる。試料が組織または他の生物学的試料を含む場合、対象は医療センターを訪問して試料を取得してもらい、そしてそれを直接プロファイリングセンターに送付してもらってもよいし、対象が自身で試料(例えば尿試料)を収集して、それを直接プロファイリングセンターに送付してもよい。試料があらかじめ測定された生物学的情報を含む場合、情報は対象によりプロファイリングセンターに直接送付されてよい(例えば情報を含む情報カードをコンピュータでスキャンし、そして電子通信システムを用いてプロファイリングセンターのコンピュータにデータを転送してよい)。プロファイリング業者が受領した後、試料は処理され、対象にとって望ましい診断または予後の情報に特化されたプロファイル(例えば発現データ)が作製される。
【0070】
次に治療担当医師による解釈に適するフォーマットでプロファイルデータが作製される。例えば、生の発現データを提供するよりはむしろ、作製されたフォーマットのほうが、対象に関する診断または危険性の評価(例えば癌が存在する尤度)を特定の治療選択肢を推奨して提示する場合がある。データは何れかの適当な方法により医師に表示され得る。例えば、一部の実施形態においては、プロファイリング業者は、医師用に印刷される(例えば看護場所において)か、コンピュータモニタ上で医師にディスプレイされることができる報告書を作製する。
【0071】
一部の実施形態においては、情報は看護場所において、または地域の施設において、最初に分析される。次に生データは、さらに分析するためおよび/または生データを医師または患者にとって有用な情報に変換するために、中央処理施設に送付される。中央処理施設は、データ分析のプライバシー(全データが均一なセキュリティプロトコルを有する中央施設に保管される)、速度、および均一性の利点を提供する。次に中央処理施設は、対象の治療に引き続き、データの後処理を制御できる。例えば、電子通信システムを使用して、中央施設は医師、対象、または研究者にデータを提供できる。
【0072】
一部の実施形態においては、対象は、電子通信システムを用いてデータに直接アクセスできる。対象は、結果に基づいて今後の介入またはカウンセリングを選択できる。一部の実施形態においては、データは研究用途に使用される。例えば、データは、疾患の特定の状態または病期の有用な指標としてマーカーの包含または排除をさらに最適化するために使用され得る。
【0073】
D.組成物およびキット
本発明の診断方法における使用のための組成物は、例えば、限定しないが増幅オリゴヌクレオチドおよびプローブを包含する。これらの組成物の何れも、単独または本発明の他の組成物と組み合わせて、キットの形態において提供され得る。例えば、TMPRSS2/ERG転写物変異体の増幅および検出のためのキットとして、一対の増幅オリゴヌクレオチドおよび検出プローブが提供され得る。キットは、適切な対照品および/または検出試薬をさらに含んでよい。
【0074】
以下の実施例は、本発明の特定の好ましい実施形態および特徴を明確化し、そしてさらに説明するために提示するものであり、それらの範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0075】
増幅オリゴヌクレオチドおよび検出プローブを、合成の標的配列を用いた増幅反応において増幅オリゴヌクレオチド(表1)の種々の組み合わせを作製し、そして標的配列の増幅の効率を測定するために増幅反応を実施することにより、設計、インビトロ合成、および試験した。増幅オリゴヌクレオチドの異なる組み合わせの相対的な効率を、一般的には標識されたプローブ(表2)を増幅産物に結合させ、そして作製された増幅産物の量を示すシグナルの相対的な量を検出することにより、増幅反応の増幅産物を検出することにより、モニタリングした。
【0076】
TMPRSS2−ERG変異体の3’UTRに関する増幅オリゴヌクレオチドの実施形態は、表1に示すものを包含する。増幅オリゴヌクレオチドは、プライマー、プロモーター−プライマー、およびプロモーター−プロバイダーとして機能し得る表1の小文字で示すプロモーター配列を有するものを包含する。一部の実施形態は、何れかの既知のプロモーター配列の3’末端に場合により結合していてよい、表1に列挙したプロモーター−プライマーまたはプロモーター−プロバイダーの標的特異的配列である。バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼに特異的なプロモーター配列の例は、配列番号46(AATTTAATACGACTCACTATAGGGAGA)である。増幅オリゴヌクレオチドの実施形態は、DNAおよびRNA塩基の混合物、またはRNA塩基を連結している骨格のための2’メトキシ連結部を包含してよい。増幅オリゴヌクレオチドの実施形態はまた、3’がブロックされたオリゴヌクレオチドを合成することによりそれらを修飾し、これにより、単一プライマー転写媒介増幅反応における使用のためにそれらを最適化する、即ちブロッカーまたはプロモーター−プロバイダーとして機能させてもよい。3’ブロックオリゴヌクレオチドの好ましい実施形態は、3’末端近傍または該末端においてブロックされたCを包含する配列番号16、18、20および22のものを包含する。
【0077】
【表1】

標的配列の増幅産物に関する検出プローブの実施形態を表2に示す。好ましい検出プローブは、表2における配列番号24、26、28および30のものを包含するプローブ配列の、小文字で示す分子内ハイブリダイゼーション配列との分子内ハイブリダイゼーションによりヘアピン配置を形成する。ヘアピンプローブの実施形態は、配列の一端に結合した蛍光標識および配列のもう一端に結合したクエンチャー化合物を用いて合成した。ヘアピンプローブの実施形態は、5’蛍光団および3’クエンチャー、例えば5’フルオレセイン標識および3’DABCYLクエンチャーで標識してよい。ヘアピンプローブの一部の実施形態はまた、配列内部の選択された位置における非ヌクレオチドリンカー部分を包含する。そのような実施形態の例は、配列番号24の残基5と6との間、配列番号26の残基5と6との間、配列番号28の残基19と20との間、および配列番号30の残基24と25との間に非塩基性の9炭素(「C9」)リンカーを含むものを包含する。
【0078】
【表2】

他の試料成分に由来する標的核酸を分離するために試料製造において使用する標的捕捉オリゴヌクレオチドの実施形態は、表3の標的特異的配列を含有するものを包含する。
【0079】
【表3】

捕捉オリゴヌクレオチドの好ましい実施形態は、支持体上の固定化プローブに標的核酸と捕捉オリゴヌクレオチドから形成されたハイブリダイゼーション複合体を結合する結合相手として作用するために標的特異的配列に共有結合された3’テール領域を包含する。配列番号31〜38の標的特異的配列を包含する捕捉オリゴヌクレオチドの好ましい実施形態は、dT30重合体のような実質的に単独重合体の配列から形成された3’テール領域をさらに包含する。
【0080】
標的捕捉は、場合により標的特異的捕捉オリゴヌクレオチドに隣接して結合するヘルパーオリゴヌクレオチドを包含してよい。ヘルパーオリゴヌクレオチドは、標的核酸を開放することにより、それを捕捉のためにより接触しやすくする場合に寄与していると考えられている。ヘルパーオリゴヌクレオチドの好ましい実施形態は、配列番号39〜45を包含する。
【0081】
本明細書に記載した実施例における標的捕捉、増幅および検出の工程において使用される試薬は、一般に以下のものの1つ以上を包含する。試料輸送溶液は、15mM 一塩基リン酸ナトリウム、15mM 二塩基リン酸ナトリウム、1mM EDTA、1mM EGTA、および3%(w/v)ラウリル硫酸リチウムをpH6.7で含有するものとした。尿輸送媒体は、150mM HEPES、8%(w/v)ラウリル硫酸リチウム、100mM硫酸アンモニウム、および2M水酸化リチウム、そしてpH7.5とする分量の水酸化リチウム1水和物を含有するものとした。標的捕捉試薬は、250mM HEPES、310mM LiOH、100mM EDTA、1800mM LiCl、0.250mg/mLの常磁性粒子(0.7〜1.05μ粒子、SERA−MAGTMMG−CM、Seradyn,Inc.,Indianapolis,IN)とそれに共有結合した(dT)14オリゴヌクレオチド、および0.01μM標的捕捉オリゴヌクレオチドを含有するものとした。標的捕捉において使用される洗浄溶液は、10mM HEPES、150mM NaCl、1mM EDTA、0.3%(w/v)エチルアルコール、0.02%(w/v)メチルパラベン、0.01%(w/v)プロピルパラベンおよび0.1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウムをpH7.5において含有するものとした。増幅試薬は、47.6mM Na−HEPES、12.5mM N−アセチル−L−システイン、2.5%TRITONTMX−100、54.8mM KCl、23mM MgCl、3mM NaOH、0.35mMの各dNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、7.06mM rATP、1.35mM rCTP、1.35mM UTP、8.85mM rGTP、0.26mM NaEDTA、5%(v/v)グリセロール、2.9%トレハロース、0.225%エタノール、0.075%メチルパラベン、0.015%プロピルパラベン、および0.002%フェノールレッドをpH7.5〜7.6において含有する混合物を製造するために他の反応成分(例えば試料または標本希釈成分)と混合した濃縮混合物とした。増幅オリゴヌクレオチド(プライマー、プロモーター−プライマー、ブロッカー、プロモーター−プロバイダー)、および場合によりプローブを、増幅試薬中の反応混合物に添加するか、または増幅試薬から分離してよい。酵素は、反応当たり約30U/μLのMMLV逆転写酵素(RT)および約20U/μLのT7RNAポリメラーゼとなるようにTMA反応混合物に添加した(1UのRTは、200〜400マイクロモルのオリゴdTプライミングされたポリA鋳型を用いて37℃で10分間に1nmolのdTTPを取り込み、そして1UのT7RNAポリメラーゼは、DNA鋳型中のT7プロモーターを用いて37℃で1時間にRNA内に1nmolのATPを取り込む)。全ての試薬添加および混合の工程は、手作業により、手作業と自動化工程の組み合わせを用いて、あるいは完全に自動化されたシステムを用いて、実施してよい。転写媒介増幅(TMA)を用いる増幅方法は、実質的には米国特許5,399,491および5,554,516、Kacianらにおいて既に詳細に開示されている操作法を使用する。単一プライマー転写媒介増幅を用いる増幅方法は、実質的には米国特許公開2006−0046265に既に詳細に開示されている操作法を使用する。ヘアピンプローブを使用するための方法は、良く知られており、そして米国特許6,849,412、6,835,542、6,534,274、および6,361,945、Beckerらにおいて既に詳細に開示されているものを包含する。
【0082】
これらの増幅オリゴヌクレオチドおよび検出プローブの種々の組み合わせを使用することにより、試料が標的配列の少なくとも15〜50コピーを含有する場合に、標的配列は特異的に検出された。以下の実施例は、標的配列の検出のための本発明の実施形態の一部を説明するものである。
【0083】
実施例1:転写媒介の増幅および検出
本実施例は、終点における増幅産物を検出する標的核酸に関する増幅および検出の試験を説明するものである。増幅反応は、上記した増幅オリゴヌクレオチド実施形態の一部を使用して、米国特許5,399,491および5,554,516、Kacianらにおいて以前に詳細に説明されている操作法を用いた転写媒介増幅とした。配列番号47の合成標的RNAは、ヘルパーオリゴヌクレオチド(5pmol/反応)の存在下、dT30重合体(5pmol/反応)に共有結合した標的特異的捕捉オリゴヌクレオチドを用いて捕捉した。配列番号47はDNAとして示したが、当業者の知る通り、相当するRNAは、全てのチミン(T)をウラシル(U)で置き換える。試験の各々は、プロモーター−プライマー(10pmol/反応)およびプライマー(15pmol/反応)とともに、本質的に上記したもののような標的RNAおよび増幅試薬を含有する増幅反応物(総容量0.075mL)中で実施した。増幅オリゴヌクレオチド、標的および増幅試薬(酵素ではない)を含有する反応混合物を、200μLの油脂で被覆することにより蒸発を防止し、62℃で10分間、次に42℃で5分間インキュベートした。酵素添加(25μL)の後、反応混合物を混合し、そして42℃で60分間インキュベートした。次に検出プローブ(0.05pmol/反応)を添加し(100μL)、そして62℃で20分間インキュベートすることによりハイブリダイズした。室温で5分間の後、選択試薬(250μL)を添加することにより、62℃での10分間インキュベーションの間に未ハイブリダイズの検出プローブを切断した。反応混合物が室温まで冷却された後、RLUシグナルをHC+リーダー中0.02秒の時間間隔において100回計測した。
【0084】
【表4】

これらの結果は、配列番号8および9が適当な検出プローブであることを示している。配列番号8は、その高いシグナル:ノイズ比およびその有意に高値のTのために最終的に選択された。配列番号8のT計算値は65.1℃であり、配列番号9のT計算値は60.9℃であった。標的配列への検出プローブのハイブリダイゼーションが62℃におけるものであったため、62℃超のTを有する検出プローブが、より効果的に作用するはずである。
【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

捕捉オリゴヌクレオチドの全てが、反応感度当たり少なくとも50コピーを示した。配列番号31は、その低い標準偏差および直線的なアウトプットのために最終的に選択された。
【0087】
【表7】

これらの実験の結果は、反応当たり15〜50コピーの感度を示している。
【0088】
総括すれば、試験の結果は、標的捕捉のための配列番号31および41、およびTMPRSS2−ERG変異体の3’UTRの転写媒介増幅および検出のための配列番号2、5および8の好ましい組み合わせを明らかにしている。
【0089】
実施例2:単一プライマー転写媒介増幅および検出
本実施例は、リアルタイムで増幅産物を検出する標的核酸に関する増幅および検出の試験を説明している。増幅反応は、上記した増幅オリゴヌクレオチド実施形態の一部を用いて、米国特許公開2006−0046265において以前に詳細に説明されている操作法を用いた単一プライマー転写媒介増幅とした。試験の各々は、プロモーター−プロバイダー(6pmol/反応)、プライマー(6pmol/反応)、ブロッカー(0.6pmol/反応)、および分子トーチ(8pmol/反応)とともに、配列番号47の合成標的RNAおよび実質的に上記した増幅試薬を含有する増幅反応物(総容量0.040mL)中で実施した。ブロッカーの実施形態は、表8に示すものを包含する。増幅オリゴヌクレオチド、標的および増幅試薬(酵素ではない)を含有する反応混合物を被覆して蒸発を防止し、60℃で10分間、次に42℃で5分間インキュベートした。検出プローブは、0.8pmol/μLで酵素試薬に添加した。次に、得られた試薬を反応混合物に添加し(10μL)、そして反応混合物を42℃で旋回混合した。酵素添加後の増幅反応中30秒毎に反応混合物の蛍光を計測した。
【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

本実験の結果は、反応当たり50コピーにおける感度を示しており、配列番号18または20が配列番号16または22よりも遙かに良好な性能を有していた。
【0092】
【表10】

本実験の結果は、反応当たり50コピーにおける感度を示しており、配列番号14が配列番号12または13よりも遙かに良好な直線性能を有していた。
【0093】
【表11】

配列番号24、26、28および30に関して計測された平均のRFU範囲(RFUmax−RFUmin)は、それぞれ1.767、0.628、1.468および1.850であった。実験の結果は、反応当たり50コピーにおける感度を示しており、配列番号30が配列番号24、26または28よりも遙かに良好な性能およびRFUダイナミックレンジを有していた。
【0094】
【表12】

【0095】
【表13】

本実験の結果は、反応当たり1,000コピーにおける感度を示しており、配列番号51が配列番号48、49、50、52または53よりも良好な性能および標準偏差を有していた。
【0096】
総括すれば、試験の結果は、TMPRSS2−ERG変異体の3’UTRの単一プライマー転写媒介増幅および検出に関する配列番号14、18または20、30および51の好ましい組み合わせを明らかにしている。
【0097】
上記明細書において言及した全ての公開公報、特許、特許出願およびアクセッション番号は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。本発明を特定の実施形態との関連において説明してきたが、請求項に記載した本発明は、そのような特定の実施形態に不当に制限されてはならないと理解しなければならない。実際、本発明の記載した組成物および方法の種々の変更例および変形例は、当業者には自明となるものであり、以下の請求項の範囲内であることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含む第1の増幅オリゴヌクレオチド;
配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含む第2の増幅オリゴヌクレオチド;および
配列番号1に特異的にハイブリダイズする配列を含むオリゴヌクレオチドプローブ;
を含む組成物であって、
該第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号1における異なる標的配列に特異的にハイブリダイズする、組成物。
【請求項2】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチドが、19〜49ヌクレオチド長である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記第2の増幅オリゴヌクレオチドが、19〜66ヌクレオチド長である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドプローブが、18〜31ヌクレオチド長である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
配列番号47に特異的にハイブリダイズする捕捉オリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記捕捉オリゴヌクレオチドの標的特異的配列が、24〜34ヌクレオチド長である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドプローブが、配列番号8、9、10、11、23、25、27または29よりなる標的特異的配列を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドプローブが分子トーチである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号4または6よりなる標的特異的配列を含み、そして前記第2の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号2または3よりなる標的特異的配列を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号4よりなる標的特異的配列を含み、そして前記第2の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号2よりなる標的特異的配列を含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチドがプロモーター配列をさらに含む、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記プロモーター配列が配列番号46である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記オリゴヌクレオチドプローブが配列番号8よりなる標的特異的配列を含む、請求項10記載の組成物。
【請求項14】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号12、13または14よりなる標的特異的配列を含み、そして前記第2の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号15、17、19または21よりなる標的特異的配列を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号14よりなる標的特異的配列を含み、そして前記第2の増幅オリゴヌクレオチドが、配列番号17または19よりなる標的特異的配列を含む、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
前記第2の増幅オリゴヌクレオチドがプロモーター配列をさらに含む、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記プロモーター配列が配列番号46である、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
前記オリゴヌクレオチドプローブが配列番号29よりなる標的特異的配列を含む、請求項15記載の組成物。
【請求項19】
前記第1の増幅オリゴヌクレオチド、前記第2の増幅オリゴヌクレオチド、および前記検出プローブがキット内にある、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
生物学的試料中のERG転写物を増幅および検出するための方法であって、以下:
(a)ERG転写物を含有する該試料を、配列番号1に特異的にハイブリダイズする第1の増幅オリゴヌクレオチドおよび配列番号1に特異的にハイブリダイズする第2の増幅オリゴヌクレオチドに接触させる工程であって、ここで該第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドは、配列番号1における異なる標的配列にハイブリダイズする、工程;
(b)該第1および第2の増幅オリゴヌクレオチドに接触させた該試料をERG転写物を増幅させる条件に曝露することにより、増幅された産物を作製する工程;および
(c)該増幅された産物の存在を、配列番号1または配列番号1に完全に相補的である配列に特異的にハイブリダイズする検出プローブに該産物を特異的にハイブリダイズさせることにより検出し、これにより該試料中のERG転写物の存在を検出する工程;
を含む、方法。
【請求項21】
患者試料中のTMPRSS2/ERG転写物変異体を増幅および検出するための方法であって、以下:
(a)該患者試料を配列番号14よりなる標的特異的配列を含む第1の増幅オリゴヌクレオチド、配列番号17または19よりなる標的特異的配列を含む第2の増幅オリゴヌクレオチド、および配列番号29よりなる標的特異的配列を含む検出プローブに接触させる工程;
(b)該患者試料をTMPRSS2/ERG転写物変異体を増幅するために十分な条件に曝露する工程;および
(c)該TMPRSS2/ERG転写物変異体が該患者試料中にあるか否かを決定する工程;
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−533497(P2010−533497A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517160(P2010−517160)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/070334
【国際公開番号】WO2009/012387
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(500506530)ジェン−プロウブ インコーポレイテッド (58)
【Fターム(参考)】