前立腺癌の処置のためのサイトカイン発現細胞ワクチン
前立腺癌の処置においてワクチンとして用いるための、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞が提供される。より詳細には、β−フィラミンに対する免疫応答の増強を引き起こす手段としての遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞、および前立腺癌の処置における該細胞の使用が記載される。1つの局面において、本発明は、被検体における前立腺癌を処置する方法を提供する。この方法は、(a)GM−CSFを産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変する工程;(b)該腫瘍細胞を被検体に投与する工程;(c)SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答を検出する工程であって、該免疫応答は、該投与の前には検出されない工程を包含する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、前立腺癌の処置のためにワクチンとして用いるための、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞に関する。より詳細には、本発明は、抗原であるβ−フィラミン(これは、遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞を前立腺癌患者へ投与することによって検出される)に対する増強された免疫応答の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
免疫系は、多種多様な癌の病因に重要な役割を果たしている。癌が進行すると、免疫系が十分に応答しないか、または適切に応答せず、癌細胞が増殖可能になると広く考えられている。現在、化学療法、外科手術、放射線療法および細胞療法を含む、癌のための標準の医学的処置は、効力と毒性のいずれについても明らかな限界を有する。現在まで、これらのアプローチは、癌のタイプ、患者の全身的な健康状態、診断時の病期などに応じて、さまざまな程度で成功している。標準の医学的処置と組み合わせた、癌に対する免疫応答の特定の操作を組み合わせる改良ストラテジーは、効力の増強および毒性の低下のための手段を提供し得る。
【0003】
免疫系が機能すると、抗原が処理されて、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIおよびクラスII分子に関して細胞表面上に提示される。MHCクラスIおよびクラスII分子は、抗原に複合体化されると、それぞれCD8+T細胞およびCD4+T細胞に認識される。この認識により、2次的な細胞内シグナルおよび特異的サイトカインのパラクリン放出の両方が生じ、これらは、細胞間の相互作用を媒介し、疾患を撃退するための宿主防御を促進する。次いで、サイトカインの放出は、抗原特異的免疫細胞の増殖を引き起こす。
【0004】
多数のサイトカインが、腫瘍に対する免疫応答の調節に影響を及ぼすことがわかっている。例えば、米国特許第5,098,702号(特許文献1)は、既存の腫瘍を治療するのに相乗的に有効な量のTNF、IL−2およびIFN−βの組み合わせを使用することを記載している。米国特許第5,078,996号、同第5,637,483号および同第5,904,920号(特許文献2〜4)は、腫瘍の処置のためにGM−CSFを使用することを記載している。しかし、癌治療のためのサイトカインの直接投与は、しばしば全身的に毒性であるため、実用的ではない場合がある。(例えば、Asherら、J.Immunol.146:3227−3234,1991およびHavellら、J.Exp.Med.167:1067−1085,1988(非特許文献1および2)を参照のこと)。
【0005】
このアプローチの拡大は、ワクチン部位で局所的にサイトカインを発現する、遺伝子改変された腫瘍細胞の使用に関連する。IL−4、IL−2、TNF−α、G−CSF、IL−7、IL−6およびGM−CSFを含む多種多様な免疫調節サイトカインを用いた腫瘍モデルにおいて、それぞれ以下に記載されるように、活性が証明されている:Golumbeck PTら、Science 254:13−716,1991;Gansbacher Bら、J.Exp.Med.172:1217−1224,1990;Fearon ERら、Cell 60:397−403,1990;Gansbacher Bら、Cancer Res.50:7820−25,1990;Teng Mら、PNAS 88:3535−3539,1991;Columbo MPら、J.Exp.Med.174:1291−1298,1991;Aokiら、Proc Natl Acad Sci USA.89(9):3850−4,1992;Porgador Aら、Nat Immun.13(2−3):113−30,1994;Dranoff Gら、PNAS 90:3539−3543,1993;Lee CTら、Human Gene Therapy 8:187−193,1997;Nagai Eら、Cancer Immunol.Immonther.47:2−80,1998およびChang Aら、Human Gene Therapy 11:839−850,2000(非特許文献3〜14)。抗腫瘍免疫を増強するためのワクチンとしての自己癌細胞の使用が、ここしばらく探究されてきた。例えば、Oettgenら、「The History of Cancer Immunotherapy」,Biologic Therapy of Cancer,Devitaら(編)J.Lippincot Co.,pp87−199,1991;Armstrong TDおよびJaffee EM,Surg Oncol Clin N Am.11(3):681−96,2002;およびBodey Bら、Anticancer Res 20(4):2665−76,2000(非特許文献15〜17)を参照のこと。
【0006】
GM−CSFを分泌する自己または同種異系の腫瘍細胞ワクチンを用いた、いくつかの第一/第二段階の人体試験が実施されている(Simonsら、Cancer Res 1999 59:5160−8;Soifferら、Proc Natl Acad Sci USA 1998 95:13141−6;Simonsら、Cancer Res 1997 57:1537−46;Jaffeeら、J Clin Oncol 2001 19:145−56;Salgiaら、J Clin Oncol 2003 21:624−30;Soifferら、J Clin Oncol 2003 21:3343−50;Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.2004年2月18日、96(4):326−31;BorelloおよびPardoll,Growth Factor Rev.13(2):185−93,2002;ならびにThomasら、J.Exp.Med.200(3)297−306,2004(非特許文献18〜26))。
【0007】
遺伝子改変されたGM−CSFを発現する癌細胞を患者に投与すると、免疫応答の増強が結果として認められ、前立腺癌または他の癌に対する予備的な臨床効果が、第一/第二段階の臨床試験において証明された。しかしながら、前立腺癌の処置に用いるための細胞ワクチンの使用に関するストラテジーの改善の必要性が、依然として残されている。
【特許文献1】米国特許第5,098,702号明細書
【特許文献2】米国特許第5,078,996号明細書
【特許文献3】米国特許第5,637,483号明細書
【特許文献4】米国特許第5,904,920号明細書
【非特許文献1】Asherら、J.Immunol.146:3227−3234,1991
【非特許文献2】Havellら、J.Exp.Med.167:1067−1085,1988
【非特許文献3】Golumbeck PTら、Science 254:13−716,1991
【非特許文献4】Gansbacher Bら、J.Exp.Med.172:1217−1224,1990
【非特許文献5】Fearon ERら、Cell 60:397−403,1990
【非特許文献6】Gansbacher Bら、Cancer Res.50:7820−25,1990
【非特許文献7】Teng Mら、PNAS 88:3535−3539,1991
【非特許文献8】Columbo MPら、J.Exp.Med.174:1291−1298,1991
【非特許文献9】Aokiら、Proc Natl Acad Sci USA.89(9):3850−4,1992
【非特許文献10】Porgador Aら、Nat Immun.13(2−3):113−30,1994
【非特許文献11】Dranoff Gら、PNAS 90:3539−3543,1993
【非特許文献12】Lee CTら、Human Gene Therapy 8:187−193,1997
【非特許文献13】Nagai Eら、Cancer Immunol.Immonther.47:2−80,1998
【非特許文献14】Chang Aら、Human Gene Therapy 11:839−850,2000
【非特許文献15】Oettgenら、「The History of Cancer Immunotherapy」,Biologic Therapy of Cancer,Devitaら(編)J.Lippincot Co.,pp87−199,1991
【非特許文献16】Armstrong TDおよびJaffee EM,Surg Oncol Clin N Am.11(3):681−96,2002
【非特許文献17】Bodey Bら、Anticancer Res 20(4):2665−76,2000
【非特許文献18】Simonsら、Cancer Res 1999 59:5160−8
【非特許文献19】Soifferら、Proc Natl Acad Sci USA 1998 95:13141−6
【非特許文献20】Simonsら、Cancer Res 1997 57:1537−46
【非特許文献21】Jaffeeら、J Clin Oncol 2001 19:145−56
【非特許文献22】Salgiaら、J Clin Oncol 2003 21:624−30
【非特許文献23】Soifferら、J Clin Oncol 2003 21:3343−50
【非特許文献24】Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.2004年2月18日、96(4):326−31
【非特許文献25】BorelloおよびPardoll,Growth Factor Rev.13(2):185−93,2002;
【非特許文献26】Thomasら、J.Exp.Med.200(3)297−306,2004
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を含む、被検体における前立腺癌を処置するための組成物および方法を提供する。1つの局面において、本発明は、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を、前立腺癌の処置のために被検体に投与することによって、被検体における前立腺癌を処置する方法を含む。
【0009】
この方法は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)を産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変(形質導入)し、この第1の腫瘍細胞集団を単独かまたは第2の腫瘍細胞集団と組み合わせて被検体に投与することによって実行される。遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞の投与後、SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答が検出されるが、この免疫応答は、サイトカイン発現細胞を投与する前には検出されない。約278kD抗原は、β−フィラミンと同定された。
【0010】
腫瘍細胞は、同じ個体由来の(自己の)腫瘍細胞であっても、異なる個体由来の(同種異系の)腫瘍細胞であっても、バイスタンダー細胞であってもよく、典型的には投与前に増殖不能にされる。典型的には、腫瘍細胞は、処置される腫瘍または癌と同じ型のものである。例えば、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞は、前立腺細胞または前立腺癌細胞(例えば、PC−3細胞またはLNCaP細胞)であり、被検体は、前立腺癌を有する。免疫応答は、体液性免疫応答であっても、細胞性免疫応答であってもよい。
【0011】
サイトカイン発現細胞を前立腺癌患者に投与後に、患者に対する治療結果の改善が明らかであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の上記および他の目的、その種々の特徴、ならびに本発明自体は、以下の説明が添付の図面と共に読まれると、より完全に理解され得る。
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施では、他に指示がない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA、遺伝学、免疫学、細胞生物学、細胞培養およびトランスジェニック生物学の従来技術を利用し、これらは、当該分野の範囲内である。
【0014】
【化1】
(定義)
他に指示がない限り、本明細書中で使用されるすべての用語は、当業者が意図する意味と同じ意味を有する。
【0015】
本明細書中に記載のすべての特許、特許出願、刊行物(公表された特許出願を含む)、およびデータベース登録番号を含む、刊行物および他の材料は、本発明の背景を明らかにするために、特に、実施についてさらなる詳細を提供する場合に、本明細書中で使用される。
【0016】
本発明を記載するにあたり、以下の用語が使用され、これらの用語は下記のように定義されることが意図される。
【0017】
用語「核酸」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のそれらの重合体(「ポリヌクレオチド」)のことをいう。特に限定しない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドに類似した様式で代謝される、天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。他に指示がない限り、特定の核酸分子/ポリヌクレオチドはまた、保存的に改変されたそれらの改変体(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列を、明示的に示された配列と同様に、暗に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの第3位が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。ヌクレオチドは、その塩基によって以下の標準的な略称に従って示される:アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、およびグアニン(G)。
【0018】
用語「コード配列」および「コード領域」とは、mRNA、rRNA、tRNA、snRNA、センスRNAまたはアンチセンスRNAなどのようなRNAに転写される核酸配列をいう。1つの実施形態において、このRNAは、次いで細胞内で翻訳されてタンパク質を産生する。
【0019】
用語「ORF」は、オープンリーディングフレームを意味する。
【0020】
用語「遺伝子」とは、ゲノム内に位置し、かつ、上記コード配列に加えて、発現(すなわち、コード部分の転写および翻訳)の制御を担う他の(主に調節)核酸配列を含む、規定領域をいう。遺伝子はまた、他の5’および3’非翻訳配列および終止配列も含み得る。遺伝子の供給源に依存して、存在し得るさらなるエレメントは、例えばイントロンである。
【0021】
用語「異種の」および「外来の」とは、プロモーターおよび遺伝子コード配列などのような核酸分子に関連して本明細書中で使用される場合、特定のベクターまたは宿主細胞にとって外来の供給源に由来する配列か、あるいは、同一の供給源に由来する場合には、その元の形態から改変された配列をいう。従って、ウイルスまたは細胞の異種遺伝子は、特定のウイルスまたは細胞にとって内因性であるが、例えばコドン最適化によって改変された遺伝子を含む。用語「異種の」および「外来の」はまた、天然に存在する核酸配列の天然に存在しない複数のコピーに関しても用いられ得る。従って、これらの用語は、ウイルスまたは細胞にとって外来または異種の核酸セグメント、あるいは、ウイルスまたは細胞にとって同種であるが、宿主ウイルスまたは細胞ゲノム内で通常見出されるのとは異なる位置に存在する核酸フラグメントをいう。
【0022】
用語「同種の」とは、核酸分子に関連して本明細書中で使用される場合、宿主ウイルスまたは細胞に天然に関連する核酸配列をいう。
【0023】
用語「相補体」および「相補的」とは、逆平行ヌクレオチド配列中の相補的な塩基残基間の水素結合形成の際に互いに対形成可能な逆平行ヌクレオチド配列を含む、2つのヌクレオチド配列をいう。
【0024】
用語「ネイティブの」とは、野生型のウイルスまたは細胞のゲノムに存在する遺伝子またはタンパク質をいう。
【0025】
用語「天然に存在する」または「野生型の」は、人によって人工的に作製されたものを除外して、天然に見出され得る対象物を記述するために使用される。例えば、生物体(ウイルスを含む)に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列であって、天然の供給源から単離され得、かつ、実験室で人によって意図的に改変されていないものは、天然に存在する。
【0026】
用語「組換えの」とは、核酸分子に関連して本明細書中で使用される場合、組換えDNA技術を用いて子孫核酸分子に連結される核酸分子の組合せをいう。ウイルス、細胞、および生物体に関連して本明細書中で使用される場合、用語「組換えの」、「形質転換された」、および「トランスジェニック」とは、異種核酸分子が導入された宿主ウイルス、細胞、または生物体をいう。核酸分子は、宿主のゲノム中に安定的に組み込まれてもよく、核酸分子はまた、染色体外分子として存在してもよい。このような染色体外分子は、自己複製することができる。組換えウイルス、細胞、および生物体は、形質転換プロセスの最終産物のみならず、その組換え後代をも包含すると理解される。「非形質転換」、「非トランスジェニック」、または「非組換え」宿主とは、異種核酸分子を含まない野生型のウイルス、細胞、または生物体をいう。
【0027】
「調節エレメント」は、ヌクレオチド配列の発現の制御に関与する配列である。調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、および終止コドンを含む。調節エレメントはまた、典型的にはヌクレオチド配列の適切な翻訳に必要な配列も包含する。
【0028】
用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼIIの結合部位を含み、DNAの転写を開始させる、コード領域の上流に通常位置する非翻訳DNA配列をいう。プロモーター領域はまた、遺伝子発現の調節因子として作用する他のエレメントを含んでもよい。用語「最小プロモーター」とは、プロモーターエレメント(特に、不活性であるか、または上流の活性化エレメントの非存在下でプロモーター活性が大幅に低下している、TATAエレメント)をいう。
【0029】
本発明の意味の範囲内での用語「エンハンサー」は、任意の遺伝因子(例えば、コード配列に作動可能に連結された場合に、プロモーター自体によって達成される転写活性化よりも高い程度まで、プロモーターに作動可能に連結されたコード配列の転写を増加させる(すなわち、プロモーターからの転写を増加させる)ヌクレオチド配列)であってもよい。
【0030】
用語「発現」とは、細胞内における内因性遺伝子、導入遺伝子またはコード領域の転写および/または翻訳をいう。アンチセンス構築物の場合、発現とは、アンチセンスDNAのみの転写のことをいってもよい。
【0031】
用語「アップレギュレートされた」とは、本明細書中で使用される場合、標的細胞において、別の細胞と比較して、特定の遺伝子のRNAがより多量に検出され得ることを意味する。例えば、腫瘍細胞が、非腫瘍細胞と比較してより多くのテロメラーゼRNAを産生する場合、腫瘍細胞は、テロメラーゼの発現をアップレギュレートしている。発現は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)中の特定のRNAの量が、別の細胞(非腫瘍細胞)中におけるよりも少なくとも3倍大きい場合、アップレギュレートされたとみなされる。別の実施形態において、特定のRNAの量は、少なくとも5倍大きい。別の実施形態において、特定のRNAの量は、当業者によって慣用的に使用される技術(例えば、ノーザンブロット法)を用いて、少なくとも10倍大きい。
【0032】
用語「ベクター」、「ポリヌクレオチドベクター」、「ポリヌクレオチドベクター構築物」、「核酸ベクター構築物」、および「ベクター構築物」は、本明細書中で交換可能に使用され、当業者によって理解されるように、遺伝子導入のための任意の核酸構築物を意味する。本発明において利用されるベクターは、必要に応じて選択マーカーをコードし得る。
【0033】
本明細書中で使用される場合、用語「ウイルスベクター」は、当該分野で認められている意味に従って使用される。ウイルスベクターは、ウイルス起源の少なくとも1つのエレメントを含み、ウイルスベクター粒子中にパッケージングされ得る、核酸ベクター構築物をいう。ウイルスベクター粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかでDNA、RNAまたは他の核酸を細胞内に運搬する目的で利用され得る。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、ワクシニアベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター(例えば、HSV)、バキュロウイルスベクター、サイトメガロウイルス(CMV)ベクター、パピローマウイルスベクター、シミアンウイルス(SV40)ベクター、シンドビスベクター、セムリキ森林ウイルスベクター、ファージベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。適切なウイルスベクターは、米国特許第6,057,155号、同第5,543,328号および同第5,756,086号(本明細書中に参考として明示的に援用される)に記載される。
【0034】
用語「ウイルス」、「ウイルス粒子」、「ベクター粒子」、「ウイルスベクター粒子」、および「ビリオン」は、交換可能に用いられ、例えば、本発明のウイルスベクターが、感染性粒子の産生のために、適切な細胞または細胞株へ形質導入される場合に形成される、感染性ウイルス粒子を意味するものとして広く理解されるべきである。本発明に従うウイルス粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかでDNAを細胞内に運搬する目的で利用され得る。
【0035】
核酸配列が、別の核酸配列と機能的な関係で配置されている場合、「作動可能に連結される」。例えば、プロモーターまたは調節DNA配列とRNAまたはタンパク質をコードするDNA配列の2つの配列が作動可能に連結される場合、あるいは、プロモーターまたは調節DNA配列がコードDNA配列または構造DNA配列の発現レベルに影響を及ぼすように位置する場合、該プロモーターまたは調節DNA配列は、該RNAまたはタンパク質をコードするDNA配列に「作動可能に連結された」といわれる。作動可能に連結されたDNA配列は、典型的には近接しているが、必ずしもそうであるとは限らない。
【0036】
「選択マーカー」は、細胞内における発現が、その細胞に選択的優位性を与えるタンパク質である。選択マーカー遺伝子で形質転換された細胞が有する選択的優位性は、非形質転換細胞と比較して、ネガティブ選択薬剤(例えば、抗生物質)の存在下で成長する能力に起因し得る。この形質転換された細胞が有する選択的優位性はまた、非形質転換細胞の成長と比較して、栄養分、成長因子またはエネルギー源として添加された化合物を利用する、増強された能力かまたは新規の能力に起因してもよい。選択マーカータンパク質としては、形質導入細胞の検出を可能にし、かつ、非形質転換細胞からの形質導入細胞の分離をできる限り可能にするものが挙げられる。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)は、選択マーカーとして用いられ得る。1つの実施形態において、細胞は、β−フィラミンまたはその免疫原性フラグメントとGFPタンパク質の両方をコードするベクターで形質導入される。これらのGFPを発現する形質導入細胞は、蛍光標識細胞分取(FACS)を用いて分離される。選択マーカータンパク質により、形質導入細胞は、非形質導入細胞から大部分分離されることが可能になる。選択技術および分離技術が通常100%ではないこと、ならびに、わずかな比率の非選択細胞集団が本発明では許容されることは、当業者であれば理解する。
【0037】
用語「本質的に〜からなる(consists essentially of)」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、特定のヌクレオチド配列に関連して本明細書中で使用される場合、特定の配列が、5’末端または3’末端のいずれかあるいはその両方にさらなる残基を有し得ることを意味し、このさらなる残基は、記載された配列の基本特性および新規特性に実質的に影響しない。
【0038】
用語「形質導入」とは、物理的手段によって細胞内に外来性核酸を導入することを意味する。例えば、形質導入には、本発明のウイルス粒子を用いて細胞内に外来性核酸を導入することが含まれる。哺乳動物細胞を操作するための種々の技術については、Keownら、Methods of Enzymology 185:527−537(1990)を参照のこと。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「パッケージング細胞」は、ウイルスゲノムまたはウイルス粒子を産生するために改変されたゲノムをパッケージ可能な細胞である。これにより、欠失した遺伝子産物またはその等価物を提供し得る。従って、パッケージング細胞は、ウイルスゲノムにおいて欠失している遺伝子を補完する機能を提供し得、ウイルス粒子中にウイルスゲノムをパッケージ可能である。このような粒子の産生は、ゲノムが複製され、かつ、感染性ウイルスを構築するのに必要なタンパク質が産生されることを必要とする。これらの粒子はまた、ウイルス粒子の成熟に必要な特定のタンパク質も必要とし得る。このようなタンパク質は、ベクターによるかまたはパッケージング細胞によって提供され得る。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「レトロウイルストランスファーベクター」とは、導入遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含み、かつ、ベクターのパッケージングに必要なヌクレオチド配列をさらに含む発現ベクターをいう。好ましくは、レトロウイルストランスファーベクターはまた、細胞内で導入遺伝子を発現するのに必要な配列も含む。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「第2世代」レンチウイルスベクターシステムとは、機能的なアクセサリー遺伝子を欠くレンチウイルスパッケージングシステム(例えば、アクセサリー遺伝子のvif、vpr、vpuおよびnefが欠損しているかまたは不活性化されたもの)をいう。例えば、Zuffereyら、1997,Nat.Biotechnol.15:871−875を参照のこと。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「第3世代」レンチウイルスベクターシステムとは、第2世代ベクターシステムの特性を有し、さらに機能的なtat遺伝子も欠く、レンチウイルスパッケージングシステム(例えば、tat遺伝子が欠損しているかまたは不活性化されたもの)をいう。典型的には、revをコードする遺伝子は、別個の発現構築物上で提供される。例えば、Dullら、1998,J.Virol.72(11):8463−8471を参照のこと。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「シュードタイプ(偽型の)」とは、ネイティブのエンベロープタンパク質を、異種のエンベロープタンパク質かまたは機能的に改変されたエンベロープタンパク質と置き換えたものをいう。
【0044】
用語「曝露すること」とは、本明細書中で使用される場合、導入遺伝子をコードするベクターを標的細胞と接触させて運び込むことを意味する。このような「曝露すること」は、インビトロでも、エキソビボでも、またはインビボで行われてもよい。
【0045】
本明細書中で使用される場合、用語「安定的に形質転換された」、「安定的にトランスフェクトされた」および「トランスジェニック」とは、非ネイティブの(異種の)核酸配列がゲノムに組み込まれた細胞をいう。安定な形質転換は、トランスフェクトするDNAを含む娘細胞集団から構成される細胞株またはクローンの確立によって実証される。ある場合には、「形質転換」は安定ではない(すなわち、一過性である)。一過性の形質転換の場合には、外来DNAまたは異種DNAが発現されるが、導入された配列はゲノムへ組み込まれない。
【0046】
本明細書中において、用語「サイトカイン」または文法的に等価なものは、リンホカイン、モノカインなどを含む免疫系の細胞のホルモンの一般的分類を意味する。この定義は、限定されないが、局所的に作用し、かつ血中を循環しないホルモンを包含し、このホルモンが本発明に従って使用される場合、個体の免疫応答の変更をもたらす。用語「サイトカイン(単数)」または「サイトカイン(複数)」とは、本明細書中で使用される場合、免疫系の細胞に影響を及ぼす生物学的分子の一般的分類をいう。この定義は、局所的に作用するか血中を循環し得る生物学的分子を包含することを意味するが、これらに限定されず、この生物学的分子が本発明の組成物または方法で使用される場合、癌に対する個体の免疫応答を調節または変調する役割を果たす。本発明の実施に用いられる例示的なサイトカインとしては、IFN−α、IFN−β、およびIFN−γ、インターロイキン(例えば、IL−1〜IL−29、特に、IL−2、IL−7、IL−12、IL−15およびIL−18)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF−αおよびTNF−β)、エリスロポエチン(EPO)、MIP3a、ICAM、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
サザンおよびノーザンハイブリダイゼーションのような核酸ハイブリダイゼーション実験に関連して、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントな洗浄条件」は、配列依存的であり、異なる環境パラメータ下では異なる。配列が長いほど、高い温度でハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションについての広範なガイドは、Tijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Acid Probes、第1部、第2章「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」Elsevier,New Yorkに見出される。一般に、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列に対する熱融点(Tm)よりも約5〜20℃(好ましくは5℃)低くなるように選択される。典型的には、高度にストリンジェントな条件下では、プローブはその標的サブ配列にハイブリダイズするが、他の無関係の配列にはハイブリダイズしない。
【0048】
Tmは、標的配列の50%が、完全に一致するプローブにハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度およびpHで)である。非常にストリンジェントな条件は、特定のプローブのTmに等しくなるように選択される。サザンまたはノーザンブロットのフィルター上での100を超える相補的残基を有する相補的な核酸のハイブリダイゼーションのためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、1mgのヘパリンを含む50%ホルムアミドで42℃にてハイブリダイゼーションを一晩行う条件である。高度にストリンジェントな洗浄条件の例は、0.15M NaClで72℃にて約15分間である。ストリンジェントな洗浄条件の例は、65℃にて15分間の0.2×SSC洗浄である(SSC緩衝液の説明については、Sambrook(下記)を参照のこと)。高ストリンジェンシー洗浄は、しばしば、バックグラウンドのプローブシグナルを除去するために、低ストリンジェンシー洗浄の後に行われる。例えば100ヌクレオチドを超える二重鎖のための例示的な中程度のストリンジェンシー洗浄は、1×SSCで45℃にて15分間である。例えば100ヌクレオチドを超える二重鎖のための例示的な低ストリンジェンシー洗浄は、4〜6×SSCで40℃にて15分間である。短いプローブ(例えば、約10〜50ヌクレオチド)についてのストリンジェントな条件は、典型的には、塩濃度が約1.0M Naイオン未満であり、典型的には約0.01〜1.0M Naイオン濃度(または他の塩)(pH7.0〜8.3)であり、そして温度が、典型的には少なくとも約30℃である。ストリンジェントな条件はまた、脱安定剤(例えば、ホルムアミド)の添加によって達成され得る。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて、無関係なプローブに見られるシグナル/ノイズ比に比べて2倍(または、より高い)シグナル/ノイズ比は、特異的なハイブリダイゼーションの検出を示す。
【0049】
2以上の核酸配列またはタンパク質配列に関連して、用語「同一」または「同一性」パーセントとは、本明細書中に記載される配列比較アルゴリズムの1つを用いるかまたは目視検査によって測定されるように、最大に一致するように比較および整列された場合に、同一であるか、あるいは同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドを特定の割合(パーセント)で有する、2以上の配列またはサブ配列をいう。
【0050】
配列比較について、典型的には、1つの配列は試験配列が比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを用いる場合は、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要であればサブ配列座標が指定され、そして配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定のプログラムパラメータに基づき、参照配列と比較して試験配列(単数または複数)の配列同一性パーセントを算出する。
【0051】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、局所ホモロジーアルゴリズム(Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981))によって、ホモロジーアラインメントアルゴリズム(Needleman & Wunsch,J.MoI.Biol.48:443(1970))によって、類似性検索方法(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:2444(1988))によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化した実行(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.)によって、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公に入手可能なソフトウェアを用いる、BLASTアルゴリズム(Altschulら、J.MoI Biol.215:403−410(1990))によって、あるいは、目視検査(概して、Ausubelら(下記)を参照のこと)によって、行われ得る。本発明の目的のために、比較のための配列の最適なアラインメントは、最も好ましくは、局所ホモロジーアルゴリズム(Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981))によって行われる。
【0052】
「正常な細胞状態」または「正常な生理的状態」は、正常な生理的条件で存在し、非分裂性かまたは調節された様式で分裂する細胞(すなわち、正常な生理的状態の細胞)の状態である。「異常な細胞状態」は、非分裂状態/調節された分裂状態で、かつ正常な生理的条件下の、同じ型の細胞に関して定義される。要するに、「異常な細胞状態」を有する細胞は、無秩序な細胞分裂を示すということである。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「癌」、「癌細胞」、「新生細胞」、「新生物形成」、「腫瘍」、および「腫瘍細胞」(交換可能に使用される)とは、相対的に自律的増殖を示し、その結果、細胞増殖の著しい制御不能を特徴とする、異常増殖の表現型または異常な細胞状態を示す細胞をいう。腫瘍細胞は、過形成細胞であっても、インビトロまたはインビボでの増殖の接触阻止の欠如を示す細胞であっても、インビボで転移できない細胞であっても、あるいはインビボで転移できる細胞であってもよい。新生細胞は、悪性であっても良性であってもよい。要するに、癌細胞は、異常な細胞状態を有するとみなされる、ということである。「腫瘍細胞」は、原発腫瘍由来であっても、腫瘍転移由来であってもよい。この「腫瘍細胞」は、患者から最近単離されたものであっても(「原発腫瘍細胞」)、長期のインビトロ培養の産物であってもよい。
【0054】
用語「原発腫瘍細胞」は、当該分野における意味に従って使用される。原発腫瘍細胞は、哺乳動物の腫瘍から単離され、インビトロで広く培養されていない癌細胞である。
【0055】
用語「腫瘍細胞由来の抗原」および「腫瘍抗原」および「腫瘍細胞抗原」は、本明細書中で交換可能に使用され得、免疫応答を惹起することができる、腫瘍細胞に由来するかまたは腫瘍細胞によって発現される任意のタンパク質、ペプチド、炭水化物または他の成分をいう。この定義は、全腫瘍細胞、腫瘍細胞フラグメント、腫瘍細胞から採取された原形質膜、腫瘍細胞の細胞表面または細胞膜から精製されたタンパク質、腫瘍細胞の細胞表面に付随する特有の炭水化物成分あるいは細胞内のベクターから発現される腫瘍抗原を包含することを意味するが、これらに限定されない。この定義はまた、アクセスするには細胞の特別な処理を必要とする、細胞の表面由来の抗原も包含する。
【0056】
用語「遺伝子改変された腫瘍細胞」とは、本明細書中で使用される場合、導入遺伝子を発現させるために遺伝子改変され、癌処置レジメンの一部として患者に投与される、細胞の集団を含む組成物をいう。遺伝子改変された腫瘍細胞ワクチンは、処置を受ける患者にとって「自己の」または「同種異系の」腫瘍細胞、あるいは患者から採取された腫瘍細胞と混合された「バイスタンダー細胞」を含む。GM−CSFを発現する遺伝子改変腫瘍細胞ワクチンは、本明細書中で「GVAX」(登録商標)と呼ばれ得る。サイトカイン(例えば、GM−CSF)を発現するように遺伝子改変され、続いて癌の処置のために患者に再投与された、自己の癌細胞および同種異系の癌細胞は、米国特許第5,637,483号、同第5,904,920号、同第6,277,368号および同第6,350,445号に記載される。膵癌の処置のためのGM−CSFを発現する遺伝子改変癌細胞の1つの形態、すなわち「サイトカイン発現細胞ワクチン」は、米国特許第6,033,674号および同第5,985,290号(これらはいずれも本明細書中に参考として明示的に援用される)に記載される。一般的な免疫調節性のサイトカインを発現するバイスタンダー細胞株は、米国特許第6,464,973号(本明細書中に参考として明示的に援用される)に記載される。
【0057】
用語「発現の増強」とは、本明細書中で使用される場合、天然に存在する細胞またはその細胞が由来する親細胞によって産生されるよりも高いレベルの特定のタンパク質を産生する細胞をいう。細胞は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)または抗原(この抗原に対する免疫応答が、サイトカイン発現細胞ワクチン(例えば、GVAX(登録商標))の投与後に増強される)の発現を増大させるために、遺伝子改変されてもよい。内因性抗原の発現は、抗原の産生を増大させるために、ゲノム配列のプロモーター領域を遺伝子改変するか、または細胞のシグナル伝達経路を遺伝子操作するなどの当該分野で公知の任意の方法を用いて増大され得る。また、細胞は、抗原またはその免疫原性フラグメントをコードするベクターで形質導入されてもよい。
【0058】
本明細書中において、用語「全身性の免疫応答」または文法的に等価なものは、局所的ではなく個体全体として影響を及ぼすことにより、同じ刺激に対する特定のその後の応答を可能にする免疫応答を意味する。
【0059】
本明細書中で使用される場合、用語「増殖不能の」または「不活化された」とは、複数回の有糸分裂を行うことはできないが、サイトカインまたは腫瘍抗原のようなタンパク質を発現する能力を依然として保持している細胞をいう。これは、当業者に公知の多数の方法によって実現され得る。本発明の実施形態は、少なくとも約95%、少なくとも約99%または実質的に100%の細胞がさらに増殖するのを阻害する処理を含むが、これに限定されない。1つの実施形態において、これらの細胞は、哺乳動物に投与される前に、約50〜約200ラド/分または約120〜約140ラド/分の線量で照射される。典型的には、照射を用いる場合、必要とされるレベルは、2,500ラド、5,000ラド、10,000ラド、15,000ラドまたは20,000ラドである。本発明のいくつかの実施形態において、これらの細胞は、照射2日後、生細胞数について標準化した場合に照射前のレベルの少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約50%または少なくとも約100%の率で、β−フィラミンまたはその免疫原性フラグメントを産生する。本発明の1つの実施形態において、細胞は、被験体への投与前に照射によって増殖不能にされる。
【0060】
用語「個体」、「被験体」またはその文法的に等価なものは、任意の1個体の哺乳動物を意味する。
【0061】
本明細書中において、用語「定着腫瘍の逆転」または文法的に等価なものは、先在する腫瘍の抑制、退縮、または部分的もしくは完全な消失を意味する。この定義は、先在する腫瘍のサイズ、勢力または成長速度の任意の減少を含むことを意味する。
【0062】
用語「処置」、「治療用途」、または「医薬用途」は、本明細書中で使用される場合、どのような方法であれ、疾患状態または症状を改善するか、あるいは、疾患または他の望ましくない症状の進行を阻止するか、妨害するか、遅らせるか、または逆転させる、特許請求される組成物のありとあらゆる用途をいうものとする。
【0063】
用語「投与された」とは、哺乳動物に本発明の細胞(例えば、癌ワクチン)を導入する任意の方法をいう。これには、皮内、非経口、筋肉内、皮下、腹腔内、鼻腔内、静脈内(留置カテーテルによる方法を含む)、腫瘍内、輸入リンパ管による方法、または患者の状態を考慮して適切な別の経路による方法が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、被験体の任意の部位に投与されてもよい。例えば、本発明の組成物は、原発腫瘍に対して「遠位の」部位に、または原発腫瘍から「離れた」部位に送達され得る。
【0064】
用語「免疫応答の増加」とは、本明細書中で使用される場合、特定の免疫活性化の検出可能な増加(例えば、B細胞および/またはT細胞応答の増加)が検出可能であることを意味する。免疫応答の増加の例は、本発明のサイトカイン発現細胞ワクチンの投与前には検出されないか、またはより低いレベルで検出される抗原に結合する抗体の量の増加である。別の例は、細胞性免疫応答の増加である。細胞性免疫応答にはT細胞が関与し、インビトロ(例えば、クロム遊離法によって測定される)またはインビボで観察され得る。免疫応答の増加は、典型的には、特定の免疫細胞集団の増加を伴う。
【0065】
用語「腫瘍の成長を遅延させること」とは、腫瘍の成長速度の緩徐化、腫瘍サイズまたは腫瘍細胞数の増加の阻害、あるいは腫瘍細胞数、腫瘍サイズ、または腫瘍の数の減少を意味する。
【0066】
用語「腫瘍成長を阻害すること」とは、腫瘍重量、腫瘍体積、腫瘍細胞の量または腫瘍の成長速度の任意の測定可能な減少をいう。腫瘍重量の測定可能な減少は、当業者に公知の多数の方法によって検出され得る。これらの方法としては、接近可能な腫瘍の直接測定、腫瘍細胞(例えば、血液中に存在する)の計数、腫瘍抗原(例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、αフェトプロテイン(AFP))の測定、および種々の視覚化技術(例えば、MRI、CATスキャンおよびX線)が挙げられる。腫瘍成長速度の減少は、典型的には、癌を有する哺乳動物のより長い生存時間と相関する。
【0067】
本明細書中において、用語「治療有効量」または文法的に等価なものは、刺激または抑制のいずれかによって個体の免疫応答を変調するのに十分な、薬剤(例えば、本発明のサイトカイン発現細胞ワクチン)の量をいう。この量は、異なる個体、異なる腫瘍型、および異なる調製物について、異なってもよい。「治療有効量」は、「治療結果の改善」がもたらされるように、当業者によって慣例的に用いられる手順を用いて決定される。
【0068】
癌に関連して本明細書中で使用される場合、用語「治療結果の改善」および「治療効力の改善」とは、癌細胞または充実性腫瘍の成長の緩徐化または減少、あるいは癌細胞の総数または全身腫瘍組織量の減少をいう。従って、「治療結果の改善」または「治療効力の改善」は、平均余命の増加または生活の質の改善(本明細書中にさらに記載されるように)を含む、任意の臨床的に許容可能な基準に従う患者の状態の改善があることを意味する。
【0069】
本明細書中において、用語「不活性化された細胞」および「増殖不能の細胞」または文法的に等価なものは、増殖不能にする処理によって不活性化された細胞を意味する。この処理により、複数回の有糸分裂を行うことができないが、サイトカインおよび/または腫瘍抗原のようなタンパク質を発現する能力を依然として保持している細胞を得る。これは、当業者に公知の多数の方法によって実現され得る。「照射を受けた細胞」は、このような不活性化された細胞の一例である。このような照射を受けた細胞は、増殖不能にするのに十分な照射に曝露されている。
【0070】
(本発明の細胞ワクチン組成物)
本発明は、癌の治療的処置の一部として、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を被験体に投与することにより、被検体における前立腺癌を処置する方法に関する。この方法は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)を産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変(形質導入)し、この第1の腫瘍細胞集団を単独でまたは第2の腫瘍細胞集団と組み合わせて被検体に投与することによって実行され、その結果、投与後に、SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答が検出されるが、この免疫応答は、サイトカイン発現細胞を投与する前には検出されない。腫瘍細胞は、同じ個体由来の(自己の)腫瘍細胞であっても、異なる個体由来の(同種異系の)腫瘍細胞であっても、バイスタンダー細胞(以下にさらに記載される)であってもよい。典型的には、腫瘍細胞は、処置される腫瘍または癌と同じ型の腫瘍細胞株に由来する。例えば、改変された細胞は、前立腺または前立腺癌細胞であり、患者は、前立腺癌を有する。約278kD抗原は、β−フィラミンであると同定された。
【0071】
本発明の1つの局面において、免疫応答は、体液性免疫応答である。典型的には、遺伝子改変された腫瘍細胞は、投与前に増殖不能にされる。1つの実施形態において、哺乳動物は、遺伝子改変されたサイトカイン発現腫瘍細胞と同じ型の前立腺腫瘍細胞を有するヒトである。好ましい実施形態において、治療結果の改善は、被験体への遺伝子改変されたサイトカイン発現腫瘍細胞の投与後に明らかである。当業者に公知の、前立腺癌患者に対する治療結果の改善の種々のパラメータのいずれかが、遺伝子改変されたサイトカイン発現腫瘍細胞療法の効力(例えば、血中PSA濃度の減少)を評価するのに用いられ得る。
【0072】
なお別の局面において、本発明は、増殖不能の遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞の治療有効量を被験体に投与することによって、前立腺癌患者における全身性の免疫応答を刺激する方法を提供する。腫瘍に対する全身性の免疫応答は、腫瘍退縮をもたらすか、または腫瘍の成長を阻害し得る。
【0073】
本発明の1つの好ましい実施形態において、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを利用して、エキソビボでヒトGM−CSF導入遺伝子(コード配列)をヒト腫瘍細胞に送達する。形質導入後、これらの細胞を照射して、増殖不能にする。次いで、この増殖不能のGM−CSF発現腫瘍細胞は、患者に再投与され(例えば、皮内または皮下経路によって)、それによって、癌ワクチンとして機能する。ヒト腫瘍細胞は、原発腫瘍細胞であっても、腫瘍細胞株由来であってもよい。
【0074】
一般に、本発明の実施に用いられる遺伝子改変された腫瘍細胞としては、1種以上の自己腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞および腫瘍細胞株(すなわち、バイスタンダー細胞)が挙げられる。これらの腫瘍細胞は、インビトロで、エキソビボで、またはインビボで形質導入され得る。サイトカイン(例えば、GM−CSF)を発現するように遺伝子改変され、続いて癌の処置のために患者に再投与された、自己癌細胞および同種異系癌細胞は、米国特許第5,637,483号、同第5,904,920号および同第6,350,445号に記載される。膵癌の処置のための、GM−CSFを発現する遺伝子改変癌細胞の1つの形態、すなわち「サイトカイン発現細胞ワクチン」(「GVAX」(登録商標))は、米国特許第6,033,674号および同第5,985,290号に記載される。一般的な免疫調節性の遺伝子改変されたバイスタンダー細胞株は、米国特許第6,464,973号に記載される。
【0075】
細胞ワクチンがDU145、PC−3、およびLNCaPからなる群より選択される1種以上の前立腺腫瘍細胞株を含む、GVAX(登録商標)の同種異系の形態は、WO/0026676に記載される。LNCaPは、PSAを産生する前立腺腫瘍細胞株であり、一方、PC−3およびDU−145は、PSAを産生しない前立腺腫瘍細胞株である(Pang S.ら、Hum Gene Ther.1995年11月;6(ll):1417−1426)。
【0076】
GM−CSF発現細胞ワクチン(GVAX(登録商標))を用いた臨床試験は、前立腺癌、黒色腫、肺癌、膵癌、腎癌、および多発性骨髄腫の処置のために行われてきた。とりわけ黒色腫、ならびに前立腺癌、腎癌および膵癌において、GVAX(登録商標)細胞ワクチンを用いた多くの臨床試験が記載されてきた(Simons JWら、Cancer Res.1999;59:5160−5168;Simons JWら、Cancer Res 1997;57:1537−1546;Soiffer Rら、Proc.Natl.Acad.Sci USA 1998;95:13141−13146;Jaffeeら、J Clin Oncol 2001;19:145−156;Salgiaら、J Clin Oncol 2003 21:624−30;Soifferら、J Clin Oncol 2003 21:3343−50;Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.,2004年2月18日,96(4):326−31)。
【0077】
例として、1つのアプローチにおいて、遺伝子改変されたGM−CSF発現腫瘍細胞が同種異系またはバイスタンダー細胞株として提供され、そして1つ以上のさらなる癌治療薬が処置レジメンに含まれる。別のアプローチにおいて、1つ以上のさらなる導入遺伝子が同種異系またはバイスタンダー細胞株によって発現され、一方、サイトカイン(すなわち、GM−CSF)が自己細胞または同種異系細胞によって発現される。GM−CSFコード配列は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターおよび当業者に一般に使用される慣用的な方法を用いて、腫瘍細胞に導入される。GM−CSFの好ましいコード配列は、Huebner K.ら、Science 230(4731):1282−5(1985)に記載されたゲノム配列であるが、いくつかの場合においては、GM−CSFのcDNA形態が、本発明を実施するのに役立つことが見出されている(Cantrellら、Proc.Natl.Acad.Sci.,82,6250−6254,1985)。
【0078】
一般に、遺伝子改変された腫瘍細胞は、投与の前に凍結保存される。好ましくは、遺伝子改変された腫瘍細胞は、患者に投与される前に、約50〜約200ラド/分、さらにより好ましくは約120〜約140ラド/分の線量で照射される。好ましくは、細胞は、細胞のさらなる増殖を実質的に100%阻害するのに十分な総線量で照射される。従って、細胞は、約10,000〜20,000ラドの総線量で、最適には、約15,000ラドの総線量で照射されるのが望ましい。
【0079】
サイトカイン(例えば、GM−CSF)産生細胞は、典型的には2回以上、治療過程で被験体に投与される。特定の治療過程に応じて、複数回の注射が単一時点で投与され、この処置が種々の時間間隔で繰り返されてもよい。例えば、初期処置または「初回刺激」処置に続いて、1回以上の「追加免疫」処置を行ってもよい。このような「初回刺激」および「追加免疫」処置は、典型的には、同じ投与経路で、および/またはほぼ同じ部位に投与される。複数回投与で投与される場合、最初の免疫化用量は、引き続く免疫化用量よりも高くてもよい。例えば、5×106個の初回刺激用量に続いて、複数回の106〜3×106個の追加抗原投与量で、GM−CSF産生細胞を投与してもよい。
【0080】
サイトカイン産生細胞の単回投与は、典型的には、約106〜108個の間の細胞、例えば、1×106個、2×106個、3×106個、4×106個、5×106個、6×106個、7×106個、8×106個、9×106個、107個、2×107個、5×107個、さらには108個の細胞である。1つの実施形態において、単位用量あたり106〜108個の間のサイトカイン産生細胞が存在する。サイトカイン産生細胞の数は、所定のサイトカイン産生細胞ワクチンによって産生されるサイトカインのレベルに従って調整され得る。
【0081】
本発明の実施形態には、100万個の細胞あたり24時間で少なくとも500ngのGM−CSFを産生することができる用量のサイトカイン産生細胞が含まれるが、これらに限定されない。最適な細胞投与量および割合の決定は、後に実施例の項で記載するように、日常的な決定事項であり、本明細書中に提供される開示を考慮すれば、当業者の技術範囲内である。
【0082】
本発明の組成物および方法を用いた前立腺癌患者の処置において、主治医は、より低用量のサイトカイン発現腫瘍細胞ワクチンを投与して、患者の応答を観察してもよい。より大用量のサイトカイン発現腫瘍細胞ワクチンを、治療結果の改善が明らかになるまで投与してもよい。
【0083】
本発明のサイトカイン産生細胞は、細胞を調製するのに用いられるほとんどの追加成分を除去するために処理される。特に、培地中のウシ胎仔血清、ウシ血清成分、または他の生物学的補充物質が除去される。1つの実施形態において、細胞は、例えば穏やかな遠心分離を繰り返すことによって、適切な薬理学的適合性の賦形剤中に洗い込まれる。適合性の賦形剤としては、生理学的適合性の緩衝液、例えばリン酸塩またはHepes、および栄養分、例えばデキストロース、生理学的適合性のイオン、またはアミノ酸(特に、他の免疫原性成分を含まないもの)を含むかあるいは含まない、種々の細胞培養培地、等張食塩水が挙げられる。担持試薬、例えばアルブミンおよび血漿画分ならびに非活性増粘剤も用いられ得る。
【0084】
(自己由来)
自己の遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞の使用は利点を有する。なぜなら、各患者の腫瘍が、別の患者に由来する、組織学的に類似した、MHCが一致する腫瘍細胞上に見出される腫瘍抗原のセットとは異なり得る、ユニークな腫瘍抗原のセットを発現するためである。例えば、Kawakamiら、J.Immunol.,148,638−643(1992);Darrowら、J.Immunol.,142,3329−3335(1989);およびHornら、J.Immunother.,10,153−164(1991)を参照のこと。対照的に、MHCが一致する腫瘍細胞は、遺伝子改変された腫瘍細胞の産生のための患者の腫瘍のサンプルを得るために、患者に外科手術を行う必要がないという利点を有する。
【0085】
1つの好ましい局面において、本発明は、以下の工程を実施することにより前立腺癌を処置する方法を含む:(a)前立腺腫瘍を有する哺乳動物被験体から腫瘍細胞を得る工程;(b)この腫瘍細胞を、未改変の腫瘍細胞と比較して上昇したレベルのGM−CSFの産生を可能にするために、遺伝子改変する工程;(c)この改変された腫瘍細胞を増殖不能にする工程;および(d)この遺伝子改変された腫瘍細胞を、この腫瘍細胞が得られた元の哺乳動物被験体へ、またはこの腫瘍細胞が得られた元の哺乳動物と同じMHC型を有する哺乳動物へ、再投与する工程。投与された腫瘍細胞は、自己由来であり、MHCが宿主と一致する。好ましくは、組成物は、哺乳動物被験体に皮内投与、皮下投与、または腫瘍内投与される。
【0086】
いくつかの場合において、単一の自己腫瘍細胞は、GM−CSFのみを発現しても、またはGM−CSFに加えて1つ以上のさらなる導入遺伝子を発現してもよい。他の場合において、GM−CSFおよび1つ以上のさらなる導入遺伝子は、異なる自己腫瘍細胞によって発現され得る。本発明の1つの局面において、自己腫瘍細胞は、GM−CSFをコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。別の局面において、この同じ自己腫瘍細胞または別の自己腫瘍細胞は、少なくとも1つのさらなる導入遺伝子をコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。この1つ以上の導入遺伝子をコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを用いて、同じかまたは異なる自己腫瘍細胞に導入される。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結された選択マーカー配列をさらに含んでも、含まなくてもよい。望ましくは、自己腫瘍細胞は、高レベルのGM−CSFを発現する。
【0087】
(同種異系)
Jaffee(Seminars in Oncology,22,81−91(1995))らによって概説されるように、研究者らは、腫瘍ワクチンとして、自己由来の、MHCが一致する細胞の代替を探求した。初期の腫瘍ワクチンストラテジーは、ワクチン接種細胞が、そのMHCクラスIおよびクラスII分子上に腫瘍抗原を提示する抗原提示細胞(APC)として機能して、免疫系のT細胞アームを直接活性化するという理解に基づいていた。Huangら(Science,264,961−965,1994)の結果は、ワクチン接種細胞よりもむしろ宿主のプロフェッショナルAPCが、GM−CSFのようなサイトカイン(単数または複数)を分泌し、その結果、骨髄由来APCが腫瘍の部位に補充されることによって、免疫系のT細胞アームを初回刺激することを示している。骨髄由来APCは、腫瘍の全細胞タンパク質をプロセシングのために取り込み、次いで抗原ペプチド(単数または複数)をMHCクラスIおよびクラスII分子上に提示することによって、免疫系のCD4+およびCD8+の両方のT細胞アームを初回刺激し、その結果、全身性の腫瘍特異的な抗腫瘍免疫応答を引き起こす。理論に制約されるわけではないが、これらの結果から、抗癌免疫応答を惹起するために自己細胞またはMHCが一致する細胞を用いることは必須ではないか、または最適ではない場合があること、および同種異系のMHC遺伝子(同じ種の遺伝的に異なる個体に由来する)の転座が腫瘍免疫原性を増強し得ることが示唆される。より詳細には、ある場合において、同種異系のMHCクラスI分子を発現する腫瘍の拒絶により、未改変の親腫瘍でのその後のチャレンジに対する全身性の免疫応答が増強される。例えば、Jaffeeら(前出)、およびHuangら(前出)を参照のこと。
【0088】
本明細書中に記載されるように、「腫瘍細胞株」は、初めに腫瘍に由来した細胞を含む。このような細胞は、典型的には形質転換されている(すなわち、培養下で無限の増殖を示す)。1つの好ましい局面において、本発明は、以下の工程を実施することにより前立腺癌を処置する方法を提供する:(a)腫瘍細胞株を得る工程;(b)この腫瘍細胞株を遺伝子改変して、これらの細胞がサイトカイン(例えば、GM−CSF)を未改変の腫瘍細胞株と比較して上昇したレベルで産生できるようにする工程;(c)この改変された腫瘍細胞株を増殖不能にする工程;および(d)この腫瘍細胞株を、この腫瘍細胞株が得られた元の腫瘍と同じ腫瘍型の少なくとも1つの腫瘍を有する哺乳動物被験体(宿主)に投与する工程。投与された腫瘍細胞株は、宿主と同種異系であり、MHCが一致しない。このような同種異系細胞株は、予め調製され、特徴づけられ、既知数の導入遺伝子(例えば、GM−CSF)発現細胞を含むバイアルに分取され、そして保存(すなわち凍結)され得るので、患者への投与のために十分に特徴づけられた細胞が得られるという利点を有する。遺伝子改変された同種異系細胞の産生方法は、例えばWO00/72686に記載される。
【0089】
遺伝子改変された、GM−CSFを発現する同種異系細胞を調製する1つのアプローチにおいて、GM−CSFを単独でコードするかまたは1つ以上のさらなる導入遺伝子の核酸コード配列と組み合わせてコードする核酸配列(導入遺伝子)が、同種異系の腫瘍細胞株(すなわち、処置される個体以外の個体由来)である細胞株に導入される。別のアプローチにおいて、GM−CSFを単独でコードするかまたは1つ以上のさらなる導入遺伝子の核酸コード配列と組み合わせてコードする核酸配列(導入遺伝子)が、別々の同種異系の腫瘍細胞株に導入される。さらに別のアプローチにおいて、2つ以上の異なる遺伝子改変された同種異系のGM−CSF発現細胞株(例えば、LNCaPおよびPC−3)が、組み合わせて(典型的には1:1の比で)投与される。一般に、細胞または細胞の集団は、処置される腫瘍または癌(例えば、前立腺癌)と同じ型の腫瘍細胞株に由来する。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを用いて、同じかまたは異なる同種異系腫瘍細胞に導入されてもよい。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結された選択マーカー配列をさらに含んでも、含まなくてもよい。望ましくは、同種異系細胞株は、高レベルのGM−CSFを発現する。
【0090】
本発明の別の局面において、1つ以上の、遺伝子改変された、GM−CSFを発現する同種異型細胞株は、抗原に対する患者の免疫応答がGM−CSF(例えば、GM−CSFを発現するように遺伝子改変された同種異系細胞またはバイスタンダー細胞)の存在下で増大するように、抗原に曝露される。このような曝露は、エキソビボで行われてもインビボで行われてもよい。1つの好ましい実施形態において、この抗原は、β−フィラミンであると同定された、SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原である。β−フィラミンは、被験体に投与される細胞によって(細胞上に)提供されるか、または患者にネイティブな細胞によって提供され得る。このような場合、組成物は、典型的には照射(本明細書中にさらに記載されるように、これらの同種異型細胞は、組織培養プレート中で平板培養され、Cs線源を用いて室温で照射される)によって、増殖不能にされる。本発明の同種異系細胞ワクチン組成物は、同種異系細胞に加えて、遺伝子改変されていてもされていなくてもよい他の細胞(すなわち、異なる型の同種異型細胞、自己細胞、またはバイスタンダー細胞)を含み得る。遺伝子改変されている場合、異なる型の同種異型細胞、自己細胞、またはバイスタンダー細胞は、GM−CSFまたは別の導入遺伝子を発現し得る。所定の投与における同種異系細胞と他の細胞の比は、その組み合わせに応じて変動する。
【0091】
同種異型細胞株の組成物を患者へ導入するために、任意の適切な投与経路が用いられ得、好ましくは、この組成物は、皮内に、皮下にまたは腫瘍内に投与される。
【0092】
本発明の実施における同種異系細胞株の使用は、遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞株を癌患者へ投与することにより、自己癌抗原(GM−CSFのパラクリン産生)とともに、腫瘍に対する有効な免疫応答を引き起こすという、治療上の利点をもたらす。これにより、各患者につき自己腫瘍細胞を培養して形質導入する必要性が除去される。
【0093】
(バイスタンダー)
1つのさらなる局面において、本発明は、少なくとも1つの導入遺伝子を発現する、一般的な免疫調節性の遺伝子改変された導入遺伝子を発現するバイスタンダー細胞を提供する。同じ一般的なバイスタンダー細胞株が、2つ以上の導入遺伝子を発現してもよく、異なる一般的なバイスタンダー細胞株によって、個々の導入遺伝子が発現されてもよい。一般的なバイスタンダー細胞株は、主要組織適合性クラスI(MHC−I)抗原および主要組織適合性クラスII(MHC−II)抗原を天然に欠失するか、またはMHC−I抗原およびMHC−II抗原を欠失するように改変された細胞を含む。本発明の1つの局面において、一般的なバイスタンダー細胞株は、導入遺伝子(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)をコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。別の局面において、この同じ一般的なバイスタンダー細胞株または別の一般的なバイスタンダー細胞株は、少なくとも1つのさらなる導入遺伝子をコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。この導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを用いて、同じかまたは異なる一般的なバイスタンダー細胞株に導入され得る。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結された選択マーカー配列をさらに含んでも、含まなくてもよい。抗腫瘍免疫応答を刺激する導入遺伝子(単数または複数)の任意の組み合わせが、本発明の実施に役立つことが見出されている。好ましくは、一般的なバイスタンダー細胞株は、規定培地(すなわち、無血清培地)中で、好ましくは懸濁液として、培養される。
【0094】
好ましい一般的なバイスタンダー細胞株の一例は、K562(ATCC CCL−243;Lozzioら、Blood 45(3):321−334(1975);Kleinら、Int.J.Cancer 18:421−431(1976))である。ヒトバイスタンダー細胞株の作製の詳細な記載は、例えば米国特許第6,464,973号に記載される。
【0095】
望ましくは、一般的なバイスタンダー細胞株は、高レベルの導入遺伝子(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)を発現する。
【0096】
本発明の実施において、1つ以上の一般的なバイスタンダー細胞株は、例えば自己腫瘍細胞によって提供される、自己癌抗原(一般的なバイスタンダー細胞株組成物を一緒に含む)とともにインキュベートされ、次いで、この一般的なバイスタンダー細胞株組成物が患者に投与される。一般的なバイスタンダー細胞株組成物を患者へ導入するために、任意の適切な投与経路が用いられ得る。好ましくは、この組成物は、皮内に、皮下にまたは腫瘍内に投与される。
【0097】
典型的には、自己癌抗原は、処置される癌の細胞(すなわち、自己癌細胞)によって提供される。このような場合、組成物は、照射(上に詳述されるように、これらのバイスタンダー細胞および癌細胞は、組織培養プレート中で平板培養され、Cs線源を用いて室温で照射される)によって、増殖不能にされる。
【0098】
所定の投与におけるバイスタンダー細胞と自己癌細胞の比は、その組み合わせに応じて変動する。GM−CSFを産生するバイスタンダー細胞に関して、所定の投与におけるバイスタンダー細胞と自己癌細胞の比は、治療上有効レベルのGM−CSFが産生されるような比であるべきである。GM−CSFの閾値とは別に、バイスタンダー細胞と自己癌細胞の比は、1:1を超えるべきではない。バイスタンダー細胞と腫瘍細胞または腫瘍抗原との適切な比は、当該分野で公知の慣用的な方法を用いて決定され得る。
【0099】
本発明の実施におけるバイスタンダー細胞株の使用は、サイトカインを発現するバイスタンダー細胞株および少なくとも1つのさらなる癌治療薬(同じかまたは異なる細胞によって発現される)を癌患者へ投与することにより、自己癌抗原(免疫調節性サイトカインのパラクリン産生)とともに、腫瘍に対する有効な免疫応答を引き起こすという、治療上の利点をもたらす。これにより、各患者につき自己腫瘍細胞を培養して形質導入する必要性が除去される。
【0100】
最大約30,000ラドまでの線量が許容可能であるが、典型的には、最小線量の約3500ラドが、細胞を不活性化し、かつ増殖不能にするのに十分である。いくつかの実施形態において、細胞は、哺乳動物に投与される前に、約50〜約200ラド/分または約120〜約140ラド/分の線量で照射される。照射を用いる場合、必要なレベルは、典型的には2,500ラド、5,000ラド、10,000ラド、15,000ラドまたは20,000ラドである。1つの実施形態において、細胞を不活性化し、かつ増殖不能にするために、約10,000ラドの線量が用いられる。照射は、細胞を増殖不能にする1つの方法にすぎず、細胞が複数回の細胞分裂を行うことは不可能になるが、導入遺伝子(例えば、サイトカイン)を発現する能力は保持する他の不活性化方法も、本発明に包含されると理解される(例えば、マイトマイシンC、シクロヘキシミド、および概念的に類似する薬剤を用いた処理、または細胞による自殺遺伝子の取り込み)。
【0101】
(サイトカイン)
「サイトカイン」または文法的に等価なものは、限定されないが、局所的に作用し、かつ血中を循環しないホルモンを包含し、このホルモンが本発明に従って使用される場合、個体の免疫応答の変更をもたらす。このサイトカインの定義には、個体の免疫応答の変更をもたらす接着分子またはアクセサリー分子も含まれる。従って、サイトカインの例としては、IL−1(aまたはP)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF、M−CSF、G−CSF、LIF、LT、TGF−P、y−IFN、a−IFN、P−IFN、TNF−a、BCGF、CD2またはICAMが挙げられるが、これらに限定されない。上記のサイトカインおよび他の適用可能な免疫調節薬の説明は、「Cytokines and Cytokine Receptors」、A.S.Hamblin,D.Male(編)、Oxford University Press,New York,NY(1993))、または「Guidebook to Cytokines and Their Receptors」、N.A.Nicola(編),Oxford University Press,New York,NY(1995))に見出され得る。ヒトにおける治療用途が意図される場合、サイトカインは、好ましくはヒト型のタンパク質に実質的に類似しているか、ヒト配列に由来する(すなわち、ヒト起源のサイトカイン)。1つの好ましい実施形態において、導入遺伝子は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)である。
【0102】
さらに、ヒト型の所定のサイトカインと実質的な構造上の相同性および/またはアミノ酸配列同一性を有する他の哺乳動物のサイトカインは、ヒト免疫系に対して類似の活性を示すことが証明されている場合に、本発明において有用である。同様に、任意の特定のサイトカインに実質的に類似しているが、タンパク質配列に保存的な変化を有するタンパク質もまた、本発明における用途が見出される。従って、タンパク質配列における保存的置換は、タンパク質分子の機能的能力を妨害することなく行われ得るので、タンパク質は、本発明においてサイトカインとして機能するが、現在既知の配列とはわずかに異なるアミノ酸配列を有するように作製され得る。このような保存的置換としては、典型的には、以下の群内での置換が挙げられる:グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0103】
顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、線維芽細胞、内皮細胞、T細胞およびマクロファージによって産生されるサイトカインである。このサイトカインは、顆粒球およびマクロファージ系の造血細胞の増殖を誘導することが示されている。さらに、このサイトカインはまた、免疫系の主要な抗原提示細胞(APC)である樹状細胞の抗原プロセシングおよび提示機能を活性化する。動物モデル実験の結果は、GM−CSF産生細胞(すなわち、GVAX(登録商標))が親の非形質転換細胞に対する免疫応答を誘導し得ることを、納得のいくように示した。
【0104】
GM−CSFは、強い抗腫瘍応答を刺激し得る樹状細胞(DC)のサブクラスの抗原提示能力を増強する(Gassonら、Blood、1991年3月15日;77(6):1131−45;Machら、Cancer Res.2000年6月15日;60(12):3239−46;MachおよびDranoff、Curr Opin Immunol.2000年10月;12(5):571−5に概説)。例えば、BoonおよびOld、Curr Opin Immunol.1997年10月1日;9(5):681−3を参照のこと)。流入領域リンパ節におけるT細胞への腫瘍抗原エピトープの提示により、腫瘍転移に対する全身性の免疫応答が生じると予想される。また、照射されたGM−CSF発現腫瘍細胞は、腫瘍チャレンジに対する強力なワクチンとして機能することが示された(「GVAX(登録商標)」と題される、下記の節でさらに記載されるように)。遺伝子改変された細胞によって送達された局所的に高濃度の特定のサイトカインは、腫瘍退縮をもたらすことが見出されている(Abeら、J.Cane.Res.Clin.Oncol.121:587−592(1995);Gansbacherら、Cancer Res.50:7820−7825(1990);Forniら、Cancer and Met.Reviews 7:289−309(1988)。PCT公開番号WO200072686は、種々のサイトカインを発現する腫瘍細胞を記載する。
【0105】
本発明の1つの実施形態において、細胞ワクチンは、ワクチンの細胞内での発現のための調節エレメントに作動可能に連結された、GM−CSFコード配列を含む。GM−CSFコード配列は、マウスまたはヒトのGM−CSFをコードし得、ゲノムDNA(配列番号1)またはcDNA(配列番号2)の形態であり得る。cDNAの場合、GM−CSFのコード配列は、翻訳前にスプライスアウトされるイントロン配列を含まない。対照的に、ゲノムGM−CSFについては、コード配列は、翻訳前にスプライスアウトされる少なくとも1つのネイティブのGM−CSFイントロンを含む。1つの実施形態において、GM−CSFコード配列は、配列番号3をコードする。GM−CSFコード配列の他の例は、GenBank登録番号AF373868、AC034228、AC034216、M10663およびNM000758に見出される。
【0106】
本発明によるGM−CSFコード配列は、ストリンジェントな条件下で配列番号1または配列番号2に示される配列にハイブリダイズする、完全長の相補体であってもよい。「にハイブリダイズする」という句は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物中に存在する(例えば、全細胞の)DNAまたはRNAである場合、ストリンジェントな条件下でこのヌクレオチド配列に分子が結合するか、二重鎖を形成するか、またはハイブリダイズすることをいう。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸の間の相補的なハイブリダイゼーションをいい、標的核酸配列の所望の検出を達成するために、ハイブリダイゼーション培地のストリンジェンシーを低下させることにより適応され得る、軽微なミスマッチを包含する。
【0107】
従って、本発明によれば、GM−CSFのようなサイトカインのコード配列は、ネイティブのGM−CSFコード配列に対し、その全長にわたって少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性パーセントを有することになる。例えば、本発明によるGM−CSFコード配列は、配列比較アルゴリズムで(上記のように)または目視検査によって測定されるように、最大一致について比較および整列される場合、配列番号1または配列番号2で示される配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約50ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約100ヌクレオチド長の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約200ヌクレオチド長の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、配列の全長にわたって存在する。
【0108】
さらに、本発明によれば、GM−CSFのようなサイトカインのアミノ酸配列は、最大一致について比較および整列される場合、配列番号3で示される配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。
【0109】
1つの実施形態において、細胞は、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)の発現を増強するように操作(遺伝子改変)され、かつ、前立腺癌に対する免疫応答を増強する1つ以上のタンパク質(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)を発現するようにさらに操作されるか、または前立腺癌に対する免疫応答を増強する1つ以上のタンパク質(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)を発現するようにさらに操作された異なる細胞と組み合わせて投与される。
【0110】
(β−フィラミン)
本発明の1つの実施形態は、β−フィラミンのような抗原に対する免疫応答の増強を引き起こす様式で前立腺癌を処置する方法であり、この免疫応答の増強は、被験体に対する治療結果の改善(例えば、患者の血清中のPSAレベルの低下、癌に関連した痛みの減少、または任意の臨床的に許容可能な基準による患者の状態の改善(転移の減少、平均余命の増加、もしくは生活の質の改善が挙げられるが、これらに限定されない))と関連する。β−フィラミンは、患者のネイティブな細胞によって内因的に発現されてもよく、または被験体(患者)に外因的に提供されてもよい。
【0111】
哺乳動物は、3つのフィラミン遺伝子、フィラミン−A、フィラミン−B(β−フィラミン;フィラミン−3)およびフィラミンCを有する。ヒトフィラミンは、N末端のアクチン結合ドメインに続いて24個の特徴的な繰り返しを含む、280kDaのタンパク質である。ヒトフィラミンはまた、多くの他の細胞タンパク質と相互作用する。フィラミンは、通常、他のフィラミンとともに形成された約560kDAのホモダイマーまたはヘテロダイマーとして見出される。β−フィラミンはまた、ABP−278/276としても知られている(Xuら、1998、Blood 92:1268−1276)。例えば、Takafutaら1998 J Biol Chem 273:17531−17538;Flierら、J.Cell Biol.,156(2)361−376,2002を参照のこと。2602アミノ酸のβ−フィラミンタンパク質配列は、GenBank登録番号NP_001448で見出され得る。フィラミンBおよびフィラミン−Aの発現パターンは、例えば、Sheenら、Human Mol.Gen.11(23)2845−2854,2002に記載される。Leedmanら(Proc Natl Acad Sci USA.90(13):5994−8,1993)は、後に指定されたβ−フィラミンである、アクチン結合タンパク質に関連するタンパク質のクローニングを記載する。
【0112】
本発明に従う1つの実施形態において、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)のコード配列は、ストリンジェントな条件下で配列番号4に示した配列にハイブリダイズする全長の相補体を有する。「にハイブリダイズする」という句は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物(例えば、全細胞)中に存在するDNAまたはRNAである場合、ストリンジェントな条件下でこのヌクレオチド配列に分子が結合するか、二重鎖を形成するか、またはハイブリダイズすることをいう。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸の間の相補的なハイブリダイゼーションをいい、標的核酸配列の所望の検出を達成するために、ハイブリダイゼーション培地のストリンジェンシーを低下させることにより適応され得る、軽微なミスマッチを包含する。
【0113】
従って、本発明によれば、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)のコード配列は、ネイティブのコード配列に対し、その全長にわたって少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性パーセントを有することになる。例えば、本発明によるβ−フィラミンコード配列は、配列比較アルゴリズムで(上記のように)または目視検査によって測定されるように、最大一致について比較および整列される場合、配列番号4で示される配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約50ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約100ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約200ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、配列の全長にわたって存在する。
【0114】
さらに、本発明によれば、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)のアミノ酸配列は、最大一致について比較および整列される場合、配列番号5で示されるネイティブのβ−フィラミン配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。
【0115】
本発明の実施において、β−フィラミンに対する免疫応答は、サイトカイン発現細胞ワクチン、例えば、GM−CSF発現腫瘍細胞(すなわちGVAX(登録商標))の患者への投与の後に増強される。
【0116】
本発明の1つの実施形態において、β−フィラミンを発現する細胞の集団は、細胞ワクチンの一部として患者に投与される。β−フィラミン発現細胞は、GM−CSFのようなサイトカインを発現する細胞と同じであっても、異なっていてもよい。本発明の別の実施形態において、細胞ワクチンは、精製されたβ−フィラミンタンパク質またはその免疫原性フラグメントから構成される。細胞ワクチンは、免疫増強剤(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン、アジュバントなど)をさらに含み得る。本発明の実施において、完全長のβ−フィラミンタンパク質は、抗原として用いられ得る。しかし、β−フィラミンに対する検出された免疫応答は、β−フィラミンのフラグメントへの被験体の曝露後か、または外因的に提供されたβ−フィラミンの非存在下における細胞ワクチン(例えば、GVAX(登録商標))の投与の際にも明らかであることが、当業者には理解される。β−フィラミンフラグメントは、完全長のアミノ酸配列または選択的スプライシングバリアントの線状セグメント、欠失変異体あるいは他の変異体を含み得る。本発明で有用であるために、β−フィラミンフラグメントは、免疫原性フラグメントである(すなわち、免疫応答を惹起し得る)べきである。
【0117】
細胞は、当業者に公知の種々の方法によって、β−フィラミン発現について増強され得る。例えば、細胞は、β−フィラミンコード配列に作動可能に連結された、β−フィラミンをコードするベクターで形質導入され得る。適切なプロモーターは、当業者に公知であり、かつ入手可能である。細胞を形質導入するのに有用なベクターは、β−フィラミンの発現の増強をもたらすのに有効な任意のベクターであり得る。1つの実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクターのようなレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクター)である。ベクターはまた、被験体における癌に対する免疫応答を増強するタンパク質(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)のコード領域を細胞に形質導入するのに用いられ得る。このコード領域とβ−フィラミンコード領域は、1つのベクターに配置されても、別々のベクターに配置されてもよく、かつ、同じ細胞に導入されても、異なる細胞に導入されてもよい。別々のベクターに配置される場合、この別々のベクターは、同じ起源の(例えば、レトロウイルスの)ベクターであっても、異なる起源のベクターであってもよい。1つの実施形態において、細胞は、まずβ−フィラミンをコードするベクターで形質導入され、次いで、GM−CSFをコードするベクターで形質導入される。別の実施形態において、細胞は、まず前立腺癌に対する免疫応答を増強する少なくとも1つのタンパク質をコードするベクターで形質導入され、次いで、β−フィラミンをコードするベクターで形質導入される。
【0118】
本発明の1つの実施形態において、ベクター内のβ−フィラミンコード配列は、ネイティブ配列(GenBank NM_001457;配列番号4)または「再コード化(recoded)」配列である。「再コード化」遺伝子とは、核酸によってコードされるポリペプチドがもとの配列のまま変化しないが、ポリペプチドをコードする核酸配列が変化するように改変されるコード配列をいう。遺伝暗号の縮重のため、同じアミノ酸翻訳産物をコードし得る複数のDNAおよびRNAコドンが存在することが、当該分野で周知である。さらに、異なる生物体は、アミノ酸を合成するための特定のコドンの利用について異なる優先度を有することも公知である。従って、本発明の1つの実施形態において、ベクターは、ヒトに好ましいコドンで再コード化されたβ−フィラミンコード配列を含む。1つの実施形態において、β−フィラミンコード配列は、選択的にスプライスされた形態のβ−フィラミンをコードする。選択的にスプライスされた形態のβ−フィラミンは、GenBank登録番号AF353666およびAF353667ならびにvan der Flierらに記載される。
【0119】
本発明の別の実施形態は、腫瘍細胞および/またはβ−フィラミンに対する免疫応答を増加させる方法であって、この方法は、本発明の遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を前立腺癌患者に投与して、患者に治療結果の改善をもたらす工程を包含する。本発明の別の実施形態は、腫瘍細胞および/またはβ−フィラミンに対する免疫応答を増加させる方法であって、この方法は、β−フィラミンの発現の増強を示す遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を前立腺癌患者に投与し、この投与後に、前立腺癌に対する患者の免疫応答が増加する工程を包含する。本発明のさらに別の実施形態は、腫瘍細胞およびβ−フィラミンに対する免疫応答を増加させる方法であって、この方法は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)の発現の増強を示す遺伝子改変された細胞を前立腺癌患者に投与し、投与後に、β−フィラミンに対する哺乳動物の免疫応答が増加する工程を包含する。1つの実施形態において、増加した免疫応答は、体液性である。なお別の実施形態において、増加した免疫応答は、細胞性である。なおさらなる実施形態において、増加した免疫応答は、細胞性および体液性の両方である。本発明の好ましい局面において、遺伝子改変されたサイトカイン産生細胞の投与後に、前立腺癌細胞の増殖が阻害される。
【0120】
これらの細胞が、検出可能なレベルのβ−フィラミンを発現するか否か、および/または、β−フィラミンに対する免疫応答が、サイトカイン発現細胞ワクチンの投与後に変化したか否かを決定するアッセイとしては、ELISA、ウエスタンブロット、免疫蛍光アッセイ(IFA)、FACSまたは電気化学発光(ECL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
(癌ワクチンとして使用するための細胞の遺伝子改変)
本発明の方法および組成物は、特定のベクターシステムによって本明細書中に詳細に例示されるが、同じ方法および組成物が、遺伝子送達システムとは無関係に、前立腺癌の処置に有用であることが見出されることを、当業者は容易に理解する。
【0122】
本発明は、哺乳動物細胞へのGM−CSFまたはβ−フィラミンのような導入遺伝子の導入のための任意のベクターの使用を企図する。例示的なベクターとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス(Ad)ベクター(その複製可能型、複製欠損型および弱い型(gutless form)を含む)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルス40(SV−40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン−バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、Harveyマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクターおよび非ウイルス性プラスミドベクターのような、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。1つの好ましいアプローチにおいて、ベクターは、ウイルスベクターである。ウイルスは、効率的に細胞に形質導入して、ウイルス自体のDNAを宿主細胞に導入することができる。組換えウイルスベクターを作製する際に、非必須遺伝子は、異種(または非ネイティブの)タンパク質の遺伝子またはコード配列に置換される。
【0123】
ウイルスベクターを構築する際に、非必須遺伝子は、1つ以上の治療化合物または因子をコードする1つ以上の遺伝子に置換される。典型的には、ベクターは、複製開始点を含み、かつ、ベクターは、ベクターを同定および選択可能にする「マーカー」または「選択マーカー」機能をさらに含んでも、含まなくてもよい。任意の選択マーカーが使用され得るが、このような発現ベクターで用いる選択マーカーは、一般に当該分野で公知であり、適切な選択マーカーの選択は、宿主細胞に依存する。抗生物質または他の毒素に対する耐性を付与するタンパク質をコードする選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン、メトトレキサート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southernら、J.,J MoI Appl Genet.1982;1(4):327−41(1982))、ミコフェノール酸(Mulliganら、Science 209:1422−7(1980))、ピューロマイシン、ゼオマイシン、ハイグロマイシン(Sugdenら、MoI Cell Biol.5(2):410−3(1985))またはG418が挙げられる。
【0124】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターは、インビトロでの強力な発現、優れた力価、ならびにインビボでの分裂および非分裂細胞に形質導入する能力を示すことが知られている(Hittら、Adv in Virus Res 55:479−505(2000))。これらのベクターは、インビボで用いられる場合、ベクター骨格に対して惹起される免疫応答により、強力であるが一過性の遺伝子発現を引き起こす。本発明で用いられる組換えAdベクターは、以下を含む:(1)複製欠損Adビリオンへのベクターの組み込みを可能にするパッケージング部位;および(2)治療化合物コード配列。感染性ビリオンへの組み込みに必要であるか、または組み込みに役立つ他のエレメントとしては、5’および3’Ad ITR、E2およびE3遺伝子などが挙げられる。
【0125】
本発明の組換えAdベクターをカプセル化する複製欠損Adビリオンは、Adパッケージング細胞およびパッケージ技術を用いる当該分野で公知の標準技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,872,005号(その全体が本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。治療化合物をコードする遺伝子は、一般に、アデノウイルスのウイルスゲノムの欠失させたE1A、E1BまたはE3領域に挿入される。本発明の実施に用いられる好ましいアデノウイルスベクターは、1つ以上の野生型Ad遺伝子産物(例えば、E1a、E1b、E2、E3、E4)を発現しない。好ましい実施形態は、典型的に、E1、E2A、E4および必要に応じてE3遺伝子領域の機能を補完するパッケージング細胞株とともに用いられるビリオンである。例えば、米国特許第5,872,005号、同第5,994,106号、同第6,133,028号および同第6,127,175号を参照のこと。アデノウイルスベクターは、当該分野で公知の標準技術を用いて、精製および処方される。組換えAAVベクターは、標的化細胞において選択された遺伝子組換え産物の発現および産生を行わせ得ることを特徴とする。従って、組換えベクターは、キャプシド形成に必須のAAVの配列および標的細胞の感染のための物理的構造の少なくともすべてを含む。
【0126】
本発明の実施に用いられる組換えAAV(rAAV)ビリオンは、当業者に公知の標準的な方法論を用いて作製され得、かつ、これらのビリオンは、構成要素が転写の方向に作動可能に連結されるように、転写開始および終止配列を含む制御配列、ならびに治療化合物のコード配列またはその生物活性フラグメントを含むように構築される。これらの構成要素は、機能的AAV ITR配列によって5’および3’末端に結合される。「機能的AAV ITR配列」とは、ITR配列が、AAVビリオンのレスキュー、複製およびパッケージングを目的として機能することを意味する。従って、本発明のベクターで用いるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更されてもよく、あるいはAAV ITRは、いくつかのAAV血清型のうちのいずれかに由来するものであってもよい。AAVベクターは、アデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターであり、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいAAVベクターは、野生型REPおよびCAP遺伝子の全部または一部を欠失しているが、機能的なフランキングITR配列を保持している。表1は、遺伝子導入に用いる例示的なAAV血清型を示す。
【0127】
【表1】
典型的には、AAV発現ベクターは、プロデューサー細胞内へ導入され、続いてAAVヘルパー構築物の導入が行われるが、このヘルパー構築物は、プロデューサー細胞内で発現され得るAAVコード領域を含み、AAVベクターに欠けているAAVヘルパー機能を補完する。ヘルパー構築物は、米国特許第6,548,286号に記載されるように、典型的にはp5に続く開始コドンをATGからACGまで変異させることによって、大きなREPタンパク質(Rep78およびRep68)の発現をダウンレギュレートするように設計され得る。続いて、プロデューサー細胞内へのヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターの導入が行われるが、このヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターは、効率的なrAAVウイルス産生を支持し得る補助機能を提供する。次いで、このプロデューサー細胞は培養されて、rAAVを産生する。これらの工程は、標準的な方法論を用いて実施される。本発明の組換えAAVベクターをカプセル化する複製欠損AAVビリオンは、AAVパッケージング細胞およびパッケージング技術を用いる当該分野で公知の標準技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,436,146号;同第5,753,500号、同第6,040,183号、同第6,093,570号および同第6,548,286号に見出され得る。AAVをパッケージングするためのさらなる組成物および方法は、Wangら(US2002/0168342)に記載され、当業者の知識の範囲内の技術を含む。
【0128】
AAVの多数の血清型が現在公知であるが、新しい血清型および既存の血清型の変種が今日依然として同定されており、本発明の範囲内であると考えられる。Gaoら(2002),PNAS 99(18):11854−6;Gaoら(2003),PNAS 100(10):6081−6;BossisおよびChiorini(2003),J.Virol.77(12):6799−810)を参照のこと。特定の標的細胞の形質導入を最適化するために、または特定の標的組織(例えば、脳)内の特定の細胞型を標的化するために、種々のAAV血清型が用いられる。種々のAAV血清型の使用は、悪性組織の標的化を容易にし得る。AAV血清型(1型、2型、4型、5型および6型を含む)は、脳組織に形質導入することが示されている。例えば、Davidsonら(2000),PNAS 97(7)3428−32;Passiniら(2003),J.Virol 77(12):7034−40)を参照のこと。特定のAAV血清型は、標的組織または細胞をより効率的に標的化し得、そして/あるいは標的組織または細胞内で複製し得る。単一の自己相補的AAVベクターは、形質導入効率を増加させ、その結果、導入遺伝子発現のより速い開始をもたらすために、本発明の実施に用いられ得る(McCartyら、Gene Ther.2001年8月;8(16):1248−54)。
【0129】
本発明の実施において、rAAVビリオンを産生するための宿主細胞としては、哺乳動物細胞、昆虫細胞、微生物および酵母が挙げられる。宿主細胞はまた、AAVのREPおよびCAP遺伝子が宿主細胞内に安定して維持されるパッケージング細胞であってもよく、あるいは宿主細胞は、AAVベクターゲノムが安定して維持されるプロデューサー細胞であってもよい。例示的なパッケージング細胞およびプロデューサー細胞は、293細胞、A549細胞またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当該分野で公知の標準技術を用いて精製および処方される。
【0130】
レトロウイルスベクターは、遺伝子送達のための一般的なツールである(Miller,1992,Nature 357:455−460)。レトロウイルスベクター、およびより詳細にはレンチウイルスベクターは、本発明を実施するのに用いられ得る。レトロウイルスベクターは、試験されて、広範な標的細胞のゲノムDNAへ種々の目的の遺伝子を安定して導入するのに適した送達ビヒクルであることが見出されている。再配列されていない単一コピー導入遺伝子を細胞内に送達するレトロウイルスベクターの能力により、レトロウイルスベクターは、遺伝子を細胞内に移すのに十分に適したものになっている。さらに、レトロウイルスは、宿主細胞上の特定細胞表面レセプターへのレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質の結合によって、宿主細胞に入る。従って、コードされたネイティブのエンベロープタンパク質が、このネイティブのエンベロープタンパク質とは異なる細胞特異性を有する(例えば、ネイティブのエンベロープタンパク質と比較して異なる細胞表面レセプターに結合する)異種エンベロープタンパク質で置換された、シュードタイプレトロウイルスベクターも、本発明の実施に有用であることが見出され得る。特定の型の標的細胞に対して導入遺伝子をコードするレトロウイルスベクターの送達を行う能力は、遺伝子治療用途に非常に望ましい。
【0131】
本発明は、例えば、1つ以上の導入遺伝子配列を含むレトロウイルストランスファーベクターおよび1つ以上のパッケージングエレメントを含むレトロウイルスパッケージングベクターを含む、レトロウイルスベクターを提供する。特に、本発明は、シュードタイプレトロウイルスを産生するために、異種のエンベロープタンパク質かまたは機能的に改変されたエンベロープタンパク質をコードする、シュードタイプレトロウイルスベクターを提供する。
【0132】
本発明のレトロウイルスベクターのコア配列は、例えば、B型、C型およびD型レトロウイルス、ならびにスプマウイルスおよびレンチウイルスを含む、多種多様なレトロウイルスから容易に得られ得る(RNA Tumor Viruses,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,1985を参照のこと)。本発明の組成物および方法に用いるのに適したレトロウイルスの例としては、レンチウイルスが挙げられるが、これに限定されない。本発明の組成物および方法に用いるのに適した他のレトロウイルスとしては、ニワトリ白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、マウス白血病ウイルス、ミンク細胞フォーカス誘導ウイルス(Mink−Cell Focus−Inducing Virus)、マウス肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルスおよびラウス肉腫ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましいマウス白血病ウイルスとしては、4070Aおよび1504A(HartleyおよびRowe,J.Virol.19:19−25,1976)、Abelson(ATCC番号VR−999)、Friend(ATCC番号VR−245)、Graffi、Gross(ATCC番号VR−590)、Kirsten、Harvey肉腫ウイルスおよびRauscher(ATCC番号VR−998)、ならびにモロニーマウス白血病ウイルス(ATCC番号VR−190)が挙げられる。このようなレトロウイルスは、American Type Culture Collection(「ATCC」;Rockville,Md.)のような保管所またはコレクションから容易に得られるか、または一般に利用可能な技術を用いて既知の供給源から単離され得る。
【0133】
好ましくは、本発明のレトロウイルスベクター配列は、レンチウイルスに由来する。好ましいレンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス、例えば、1型または2型(すなわち、HIV−1またはHIV−2であり、HIV−1は、以前はリンパ節症関連ウイルス3(HTLV−III)および後天性免疫不全症候群(AIDS)関連ウイルス(ARV)と呼ばれていた)、あるいは、同定されており、AIDSまたはAIDS様疾患に関連する、HIV−1またはHIV−2に関連する別のウイルスである。他のレンチウイルスベクターとしては、ヒツジビスナ/マエディウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシレンチウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、およびヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)が挙げられる。
【0134】
本組成物および方法に用いるのに適したレトロウイルスの種々の属および系統は、当該分野で周知である(例えば、Fields Virology、第3版、B.N.Fieldsら編、Lippincott−Raven Publishers(1996)を参照、例えば、第58章、Retroviridae:The Viruses and Their Replication,Classification、1768−1771頁(表1を含む)を参照(本明細書中に参考として援用される))。
【0135】
本発明は、レトロウイルスを産生するプロデューサー細胞およびプロデューサー細胞株を作製するためのレトロウイルスパッケージングシステム、ならびにこのようなパッケージングシステムを作製する方法を提供する。従って、本発明はまた、このようなパッケージングシステム内にレトロウイルストランスファーベクターを導入することによって(例えば、トランスフェクションまたは感染によって)作製されるプロデューサー細胞および細胞株、ならびにこのようなパッケージング細胞および細胞株を作製する方法も提供する。
【0136】
本発明の実施に用いられるレトロウイルスパッケージングシステムは、以下の少なくとも2つのパッケージングベクターを含む:gag遺伝子、pol遺伝子、またはgagおよびpol遺伝子を含む第1のヌクレオチド配列を含む、第1のパッケージングベクター;ならびに異種のエンベロープ遺伝子かまたは機能的に改変されたエンベロープ遺伝子を含む第2のヌクレオチド配列を含む、第2のパッケージングベクター。好ましい実施形態において、レトロウイルスエレメントは、レンチウイルス(例えば、HIV)に由来する。好ましくは、ベクターは、機能的なtat遺伝子および/または機能的なアクセサリー遺伝子(vif、vpr、vpu、vpx、nef)を欠く。別の好ましい実施形態において、このシステムは、rev遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む、第3のパッケージングベクターをさらに含む。このパッケージングシステムは、第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、および必要に応じて第3のヌクレオチド配列を含むパッケージング細胞の形態で提供され得る。
【0137】
本発明は、種々のレトロウイルスのシステムに適用可能であり、レトロウイルスの異なる群間で共有される共通のエレメントを当業者は認識する。本明細書中での記載は、代表的な例としてレンチウイルスのシステムを用いる。しかし、すべてのレトロウイルスは、表面突起で包まれたビリオンの特徴を共有し、1分子の直鎖状のポジティブセンス一本鎖RNA、ダイマーからなるゲノム、ならびに共通のタンパク質であるgag、polおよびenvを含む。
【0138】
レンチウイルスは、エンベロープ糖タンパク質SU(gpl20)およびTM(gp41)(これらは、env遺伝子によってコードされる);CA(p24)、MA(p17)およびNC(p7−11)(これらは、gag遺伝子によってコードされる);ならびにpol遺伝子によってコードされるRT、PRおよびINを含む、いくつかの構造ビリオンタンパク質を共有する。HIV−1およびHIV−2は、ウイルスRNAの合成およびプロセシングならびに他の複製機能の調節に関与する、アクセサリータンパク質および他のタンパク質を含む。vif、vpr、vpu/vpx、およびnef遺伝子によってコードされるアクセサリータンパク質は、組換えシステムから削除(または不活性化)され得る。さらに、tatおよびrevは、例えば変異または欠失によって、削除または不活性化され得る。
【0139】
第1世代のレンチウイルスベクターパッケージングシステムは、gag/polおよびenvごとに別個のパッケージング構築物を提供し、そして典型的には、安全上の理由で、異種のエンベロープタンパク質かまたは機能的に改変されたエンベロープタンパク質を用いる。第2世代のレンチウイルスベクターシステムでは、アクセサリー遺伝子(vif、vpr、vpuおよびnef)が削除されるかまたは不活性化される。第3世代のレンチウイルスベクターシステムは、tat遺伝子が削除されたかさもなければ不活性化されたものである(例えば、変異によって)。
【0140】
tatによって通常提供される転写の調節に対する補償は、強力な構成的プロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス前初期(HCMV−IE)エンハンサー/プロモーター)の使用によって提供され得る。他のプロモーター/エンハンサーは、当該分野で理解されるように、構成的プロモーター活性の強さ、標的組織に対する特異性(例えば、肝臓特異的プロモーター)、または発現の所望の制御に関連する他の因子に基づいて選択され得る。例えば、いくつかの実施形態において、制御された発現を達成するために、tetのような誘導性プロモーターを使用することが望ましい。Revをコードする遺伝子は、好ましくは別個の発現構築物上に提供され、その結果、典型的な第3世代レンチウイルスベクターシステムは、以下の4つのプラスミドを含む:gagpolのプラスミド、revのプラスミド、エンベロープのプラスミドおよびトランスファーベクターのプラスミド。使用されたパッケージングシステムの世代にかかわらず、gagおよびpolは、単一の構築物上かまたは別個の構築物上に提供され得る。
【0141】
典型的には、パッケージングベクターは、パッケージング細胞内に含まれており、トランスフェクション、形質導入または感染によってこの細胞内に導入される。トランスフェクション、形質導入または感染の方法は、当業者に周知である。本発明のレトロウイルストランスファーベクターは、トランスフェクション、形質導入または感染によってパッケージング細胞株へ導入されて、プロデューサー細胞または細胞株を作製し得る。本発明のパッケージングベクターは、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを含む標準方法によって、ヒト細胞または細胞株へ導入され得る。いくつかの実施形態において、パッケージングベクターは、優性選択マーカー(例えば、neo、DHFR、Gln合成酵素またはADA)とともに細胞へ導入され、続いて、適切な薬剤の存在下での選択およびクローンの単離が行われる。選択マーカー遺伝子は、パッケージングベクターによってコードされる遺伝子に物理的に連結され得る。
【0142】
パッケージング機能が適切なパッケージング細胞によって発現されるように構成されている、安定な細胞株が公知である。例えば、米国特許第5,686,279号;およびOryら、Proc.Natl.Acad.Sci.(1996)93:11400−11406(これらは、パッケージング細胞について記載する)を参照のこと。安定な細胞株の作製のさらなる記載は、Dullら、1998,J.Virology 72(11):8463−8471;およびZuffereyら、1998,J.Virology 72(12):9873−9880;Zuffereyら、1997,Nature Biotechnology 15:871−875に見出され得、これらは、HIV−1エンベロープ遺伝子を含むpolの3’配列が削除されているレンチウイルスパッケージングプラスミドを教示する。この構築物は、tatおよびrev配列を含み、3’LTRがポリA配列で置換されている。5’LTRおよびpsi配列は、別のプロモーター(例えば、誘導性プロモーター)で置換されている。例えば、CMVプロモーターまたはその誘導体が用いられ得る。
【0143】
目的のパッケージングベクターは、レンチウイルスタンパク質発現を増強し、かつ、安全性を高めるために、パッケージング機能にさらなる変更を含み得る。例えば、gagの上流のHIV配列はすべて除去され得る。また、エンベロープの下流の配列も、除去され得る。さらに、ベクターを改変する工程を行って、RNAのスプライシングおよび翻訳を増強し得る。
【0144】
必要に応じて、Dullら(1998、J.Virology 72(11):8463−8471)に記載されるように、条件付きパッケージングシステムが用いられる。また、例えばZuffereyら(1998,J.Virology 72(12):9873−9880)に記載されるように、HIV−1末端反復配列(LTR)の欠失によってベクターのバイオセイフティーを改善する、自己不活性化ベクター(SIN)の使用も好ましい。誘導性ベクターも用いられ得る(例えば、tet誘導性LTRによる)。
【0145】
(調節エレメント)
本発明の遺伝子治療ベクターは、典型的には、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、腫瘍選択的プロモーターおよびエンハンサーが挙げられるがこれらに限定されない、異種の制御配列を含み、これらとしては、E2Fプロモーターおよびテロメラーゼ(hTERT)プロモーター;サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチン/ウサギβ−グロビンプロモーター(CAGプロモーター;Niwa H.ら1991.Gene 108(2):193−9);伸長因子1−αプロモーター(EF1−αプロモーター)(Kim DWら、1990.Gene.91(2):217−23およびGuo ZSら1996.Gene Ther.3(9):802−10);グリア特異的プロモーター(例えば、グリア細胞繊維性酸性タンパク質プロモーター)およびニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼプロモーターまたはシナプシンプロモーター)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
いくつかの場合において、構成的プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、CAGプロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ−1プロモーター(PGK)またはSV−40プロモーター)が使用され得る。本発明の遺伝子治療ベクターはまた、シグナルペプチドのエンハンサーおよびコード配列も含み得る。ベクター構築物は、イントロンを含んでも含まなくてもよい。従って、本発明の遺伝子治療ベクターが、多数の導入遺伝子、導入遺伝子の組み合わせ、および導入遺伝子/調節エレメントの組み合わせのうちのいずれかを含み得ることが理解される。
【0147】
(本発明の方法および組成物)
本発明は、単独で用いられても従来の治療法と組み合わせて用いられてもよい、前立腺癌の処置に対する代替アプローチを提供する。
【0148】
本発明の1つの実施形態は、遺伝子改変された細胞(代表的には、前立腺癌患者への投与後にβ−フィラミンタンパク質に対する免疫応答の増強が検出される、GM−CSFのようなサイトカインを発現する細胞)から構成される癌ワクチンである。さらなる実施形態において、細胞は、哺乳動物の腫瘍細胞と同じ型である。一般に、癌ワクチンは、遺伝子改変された腫瘍細胞から構成されるが、非腫瘍性前立腺細胞もまた、本発明の実施に有用であることが見出されている。これらの細胞は、インビトロで増殖および維持される樹立細胞株であってもよい。本発明の実施に用いられる樹立腫瘍細胞株としては、PC−3細胞(ATCC番号CRL−1435)、HeIa細胞(ATCC番号CCL−2)、A549細胞(ATCC番号CCL−185)、LNCaP細胞(ATCC番号CRL−1740)、H157細胞(ATCC番号CRL−5802)、またはH1359細胞が挙げられるが、これらに限定されない。1つのアプローチにおいて、遺伝子改変された細胞は、被験体から単離された腫瘍細胞に由来し、サイトカイン(例えば、GM−CSF)の発現の増強を引き起こすベクターで形質導入される。次いで、遺伝子改変された細胞は、癌ワクチンの一部として、もとの同じ被験体かまたは異なる被験体に投与され得る。細胞の子孫が、親細胞と完全には同一でなくてもよい(形態学的に、遺伝子型的に、または表現型的に、のいずれかで)ことが理解される。さらに、細胞は、未選択の細胞の集団または特定の細胞のクローンのいずれかであり得る。例えば、細胞は、GM−CSFのようなサイトカインまたはβ−フィラミンのような抗原の高い発現レベルについてスクリーニングされ得るか、あるいは遺伝子改変され得る。これらの細胞は、典型的にはヒト細胞であり、そして一般に、被験体に投与される前に凍結保存された細胞である。典型的には、これらの細胞は、増殖不能である。1つの実施形態において、細胞は、エキソビボ培養で樹立された原発前立腺腫瘍の子孫である。
【0149】
前立腺癌の重症度は、種々の系に基づき、その1つは以下に例示する疾患の病期分類である:
病期1:癌は非常に小さく、完全に前立腺の内部であり、直腸診を行った場合、正常に感じられる。
【0150】
病期2:癌は依然として前立腺の内部であるが、より大きく、直腸診を行った場合、しこりまたは硬い領域が感じられる場合がある。
【0151】
病期3:癌は前立腺の被膜を通り抜けて、膀胱頸または精嚢内に成長している場合がある。
【0152】
病期4:癌は体の別の部分に転移し、前立腺癌が転移する最も一般的な部位は骨である。他の臓器に転移することはめったにない。
【0153】
前立腺癌疾患の重症度を評価するために適用される別の基準は、グリーソンスコア(等級を表す別の方法)である。生検が行われると、癌細胞を示す各領域が、細胞の外観に従い、重症度が最も低いかまたは最も正常に見える場合を1とし、重症度が最も高いかまたは最も正常には見えない場合を5として、1〜5段階で評価される。グリーソンスコアは、重症度が最も高い細胞を含む2つの領域の平均に基づいて作成され、これらのスコアを合計してグリーソンスコアを得る。
【0154】
グレード/グリーソンは、単に、いかに前立腺癌が進行し、かつ/または処置に応答するかの見解を医師に与えるにすぎない。
【0155】
本発明によるサイトカイン発現細胞ワクチンを含む薬学的組成物は、被験体における前立腺癌を処置するための他の治療に続いて、他の治療に先行して、他の治療の代わりに、または他の治療と組み合わせて、前立腺癌の任意の段階で患者を処置するのに用いられ得る。例えば、被験体は、以下にさらに記載されるように、化学療法、外照射放射線療法、および他の形態の免疫療法/細胞療法によって、予めまたは同時に処置され得る。
【0156】
前立腺癌の処置レジメンは、外科手術(すなわち、前立腺全摘出術);放射線療法(すなわち、外照射または近接照射療法);例えば「アンドロゲン除去」(例えば、抗アンドロゲンの投与)のようなホルモン療法;および化学療法の1つ以上を含むがこれらに限定されない、ある範囲の治療選択肢を含み、かつ変動する。
【0157】
前立腺癌の処置において最もよく用いられる抗アンドロゲンとしては、前立腺癌を処置するのに用いられる注射可能な合成ホルモンである、ロイプロリドが挙げられるが、これに限定されない。ロイプロリド(リュプロン)は、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログであり、進行した前立腺癌の処置に使用され得る。ロイプロリドは、ゴセレリン(ゾラデックス(登録商標))およびカソデックス(ビカルタミド)の一方または両方と組み合わせて用いられ得る。ゴセレリン(ゾラデックス(登録商標))は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)(性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニストアナログとしても公知)の合成デカペプチドアナログを含む。カソデックス(ビカルタミド)は、活性成分ビカルタミドを含む経口非ステロイド性抗アンドロゲンである。カソデックス(ビカルタミド)は、テストステロンのような男性ホルモンの作用をブロックすることによって作用する。
【0158】
フルタミドもまた、進行した前立腺癌の処置に使用され得る。フルタミドは、テストステロンが前立腺のアンドロゲンレセプターに結合するのを阻止することによって作用する。フルタミドはまた、視床下部と呼ばれる脳の領域にも作用し、体内で産生されるテストステロンの量を最終的に減少させる。前立腺癌の処置において、フルタミドは、しばしばLHRHアナログと組み合わせて用いられる。LHRHアナログは、前立腺癌の標準的な処置の1つであり、ブセレリン、ゴセレリン、リュープロレリンおよびトリプトレリンなどの医薬が挙げられる。
【0159】
前立腺癌の処置に用いられる別の薬物は、アンドロゲンレセプターに対して親和性を有する(しかし、プロゲストゲンレセプター、エストロゲンレセプター、またはグルココルチコイドレセプターに対しては有さない)、非ステロイド性抗アンドロゲンのニルタミド(アナンドロン(登録商標))である。
【0160】
American Society of Clinical Oncologyの第38回年次大会およびAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)の第40回年次大会で示された結果によると、タキソテール(登録商標)(ドセタキセル)、エストラムスチン(Emcyt(登録商標))およびプレドニゾンを含む処置レジメンは、ホルモン抵抗性前立腺癌(HRPC)の処置においてかなり有効であった。
【0161】
本発明によるサイトカイン発現細胞ワクチンを含む薬学的組成物は、現在使用されている任意の前立腺癌治療(そのいくつかの例は、上に記載される)に続いて、または現在使用されている任意の前立腺癌治療と組み合わせて、前立腺癌患者に投与されてもよい。
【0162】
被検体における前立腺癌をモニタリングする代表的な手段は、当該分野で一般に公知のように、抗原に対する免疫応答(この抗原に対する免疫応答の増強は、本発明によるサイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンの投与後に検出される)の評価と組み合わせて実施される。患者は、腫瘍重量、腫瘍体積、腫瘍細胞の数または腫瘍の成長速度の評価のような多数の方法のいずれかをモニターされ得る。評価され得るパラメータとしては、接近可能な腫瘍の直接測定、腫瘍細胞(例えば、血中の)の計数、腫瘍抗原(例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、αフェトプロテイン(AFP)など)の測定、種々の可視化技術(例えば、MRI、CATスキャンおよびX線)、骨密度の決定、または骨転移の評価が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分析から得られた情報は、個体の応答を最適化し、かつ前立腺癌に関する治療結果の改善をもたらすために、細胞ワクチンの投与の用量またはスケジュールを調整するのに有用である。所望の作用が得られるまで、典型的には隔週の頻度で、さらなる用量が必要に応じて投与され得る。その後、さらなる追加免疫用量または維持量が、必要に応じて投与されてもよい。典型的な処置レジメンにおいて、サイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンは、腕、脚または腹部の皮膚に皮内注射(皮膚の下に直接針が配置される)で投与される。
【0163】
本発明の1つの局面は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンの最初の投与前に、および処置の開始後の種々の時点で、前立腺癌患者から血清サンプルを得ることによってβ−フィラミンに対する免疫応答を検出するためのアッセイを含む。次いで、各時点でのβ−フィラミンに結合する抗体の量が比較される。サンプル中の抗β−フィラミン抗体の量を定量する任意のアッセイが、β−フィラミンに結合する抗体について血清を分析するのに用いられ得る。β−フィラミンに結合する抗体についての血清の分析に用いられ得るアッセイの例としては、ELISA、ウエスタンブロット、免疫蛍光アッセイ(IFA)、FACSまたは電気化学発光(ECL)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、ウエスタンブロットは、β−フィラミン抗原の供給源として、PC−3細胞の細胞溶解物を用いる。
【0164】
本発明の実施において、β−フィラミンに対する細胞性免疫応答は、抗原特異的細胞アッセイ、増殖アッセイ、細胞溶解性細胞アッセイ、および組換え腫瘍関連抗原または免疫原性フラグメントまたは抗原由来のペプチドを用いたインビボ遅延型過敏性試験を用いて、サイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンの最初の投与前に、および処置の開始後の種々の時点で、患者において評価され得る。免疫応答の増加を測定するためのさらなる方法としては、遅延型過敏性試験、ペプチド主要組織適合遺伝子複合体テトラマーを用いたフローサイトメトリー、リンパ球増殖アッセイ、酵素結合免疫吸着検定法、酵素結合免疫スポット検定法(enzyme−linked immunospot assay)、サイトカインフローサイトメトリー、直接細胞毒性アッセイ、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によるサイトカインmRNAの測定、および限界希釈法のような、T細胞応答を測定するのに現在用いられているアッセイが挙げられる。例えば、Lyerly HK,Semin Oncol.2003年6月;30(3補遺8):9−16を参照のこと。
【0165】
本発明を以下の実施例を参照することにより説明するが、これらの実施例は、例示の目的で挙げられるものであり、本発明を限定することを何ら意図するものではない。当該分野で周知の標準技術または以下に具体的に記載される技術が利用される。
【0166】
本発明の方法および組成物は、種々の実施形態(その少数のみが本明細書中に開示される)の形態で組み込まれ得ることが理解される。他の実施形態が存在し、本発明の趣旨から逸脱しないことが、当業者には明らかである。従って、記載された実施形態は例示的なものであって、限定的なものとして解釈されるべきでない。
【実施例】
【0167】
実施例1:GVAX(登録商標)ワクチンの調製のための組換えウイルスベクターの作製
サイトカインをコードする以下のウイルスベクターを、腫瘍細胞株中かまたは切除されたヒト腫瘍から得られた原発腫瘍細胞中への導入のために構築した。
(1)レトロウイルスベクター
レトロウイルスベクターの構築には、当該分野で十分に理解されている標準的な連結技術および制限技術を使用する。目的のサイトカインをコードする遺伝子(単数または複数)を含む種々のレトロウイルスベクターを用いた。MFGベクターは、米国特許第6,544,771号および同第5,637,483号に記載される。これらはまた、特にサイトカインをコードする遺伝子の組み込みおよび発現に関して以下に記載される。さらに、数種のMFGベクターがATCCに寄託されている:未改変のMFGベクターは、ATCC受諾番号68754として寄託され;第VIII因子が挿入されたMFGベクターは、ATCC受諾番号68726として寄託され;そしてtPAが挿入されたMFGベクターは、ATCC受諾番号68727として寄託された。MFGベクターは、pEmベクターと類似している(以下に記載され、かつ米国特許第6,544,771号および同第5,637,483号に記載される)が、パッケージング細胞株における組換えゲノムのキャプシド形成を増加させるために、MoMuLVの1038塩基対のgag配列を含み、かつ、スプライスアクセプター配列を含むMOV−9に由来する350塩基対を含む。Nco I部位およびBam HI部位を含む18塩基対のオリゴヌクレオチドは、MOV−9配列に直接続き、適合する部位での遺伝子の簡便な挿入を可能にする。この遺伝子のコード領域を、Nco I部位およびBam HI部位でMFGベクターの骨格に導入した。ATG開始メチオニンコドンをNco I部位にインフレームでサブクローン化し、かつ、生成物を不安定にすることと、あいまいな部位を導入することを避けるために、終止コドンより後にはわずかな(たとえあったとしても)配列も含まなかった。結果として、インサートのATGは、ベクター中の野生型ウイルスATGが存在する部位に存在した。従って、スプライスは、モロニーマウス白血病ウイルスで生じるスプライスと本質的に同じであり、ウイルスは非常に良好に機能した。MoMuLV LTRは転写を制御し、そして得られたmRNAは、ネイティブのgag転写産物の真正の5’非翻訳領域(その後に、挿入された遺伝子のオープンリーディングフレームが直接続く)を含む。このベクターにおいて、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo−MuLV)末端反復配列を用いて、全長ウイルスRNA(ウイルス粒子中へのキャプシド形成のため)、および挿入された配列の発現を担うサブゲノムmRNA(Mo−MuLV env mRNAと類似している)の両方を産生させた。このウイルスgag領域に両方の配列を保持するベクターは、env mRNAの産生に必要な正常な5’および3’スプライス部位ならびにウイルスRNAのキャプシド形成の改善を示した。すべてのオリゴヌクレオチド結合を、ジデオキシ終止法およびT7 DNAポリメラーゼを用いて配列決定した。このウイルスは、優性選択マーカーを含まない(必要に応じて挿入され得るが)という点でマーカーフリーであり、かつ、ベクターの構造に固有の高レベルの形質導入効率および発現を示し、MFG誘導体での形質導入は、一般に選択工程を含まないかまたは必要としない。
【0168】
以下のタンパク質の遺伝子を含むMFGベクターを構築した:マウスIL−2、GM−CSF、IL−4、IL−5、γ−IFN、IL−6、ICAM、CD2、TNF−αおよびIL−1−RA(インターロイキン−1−レセプターアンタゴニスト)。さらに、公的に利用可能な配列情報を用いて、TNF−α、GM−CSFおよびIL−2をコードするヒト配列を構築した。MFGへサブクローン化された正確なcDNA配列は、以下のとおりであった:マウスIL−2塩基対49−564;マウスIL−4塩基対56−479;マウスIL−5塩基対44−462;マウスGM−CSF(29)塩基対70−561;マウスICAM−1塩基対30−1657;マウスCD2塩基対48−1079;マウスIL−1レセプターアンタゴニスト塩基対16−563;ヒトTNF−α塩基対86−788。
(2)アデノウイルスベクター
ヒトGM−CSFのコード配列の細胞への導入のためのアデノウイルスベクター(ヒトGM−CSF;AV−GM−CSF)は、アデノウイルス5型のE1遺伝子で置換され、ウイルスゲノムのE3領域をさらに欠失しているGM−CSF発現カセットを含む。Ad5の完全なGenBank配列(登録番号M73260)によれば、欠失はE1領域の455〜3327である。番号付けは、左側逆方向末端反復の第一塩基から始まる。
【0169】
アデノウイルスベクターの構築には、当該分野で十分に理解されている標準的な連結技術および制限技術を使用する。野生型300(H.Ginsbergより)(0〜27330)とdl324(Thimmappayaら(1982)Cell 31:543−551)(21561〜右端)との間の重複組換えによって、E3欠失を導入した。CRE8細胞におけるpAdlox MC hGMとE3欠失アデノウイルスとの間のcre/lox媒介組換えによって、GM−CSF発現カセットをE1領域に組み込んだ(Hardyら(1997)J.Virol.71:1842−1949)。pAdlox MD hGMは、pAdlox(Hardyら(1997)およびpMD.G(Naldiniら、(1996)Science 272:263−267)から誘導され、以下の配列を含む:Ad5に由来する0〜455、pBC12/CMV/IL−2(Cullen(1986)Cell 46:973−982)に由来するサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター/エンハンサー(ヌクレオチド位置−670〜+72、GenBank登録番号X03922)、ヒトβグロビンエキソン2の小領域および短縮された第2介在配列(IVS2)(ヌクレオチド位置62613〜62720+63088〜63532、GenBank登録番号J00179)、ヒトβグロビンに由来するエキソン3およびポリアデニル化シグナル(ヌクレオチド位置63532〜64297)、エキソン3(位置63530)に挿入されたGM−CSF cDNA、SV40に由来する第2ポリアデニル化部位(位置2681〜2534)、(GenBank登録番号J02400)およびloxP部位に続いてBluescriptに由来する細菌の配列。GM−CSF cDNAは、プラスミドから得た(DNAX Research Institute of Molecular and Cellular Biology(Palo Alto,CA))。DNA配列は、哺乳動物細胞における機能的発現によりコンカナバリンA活性化ヒトT細胞クローンから調製されたcDNAライブラリーから単離した。このcDNA(遺伝子の全配列を含む)の単離および特徴づけは、科学文献に報告されている。(Leeら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)82:4360−4364)。クローンの同一性は、受け取った際に制限エンドヌクレアーゼ消化によって確認した。MD発現カセットは、IVS2の下流に導入遺伝子の挿入のためのPmlI、EcoRIおよびBglIIの制限酵素認識部位を含むように、PCRによって改変した。GM−CSF cDNAを、pMFG−S hGM(Dranoffら(1997)Human Gene Ther.7:111−123)からPmlIおよびBamHIを用いて除去し、MDカセットのPmlIおよびBglII部位に挿入した。アデノウイルス(Ad GMウイルス)に組み込まれたpAdlox MD hGMプラスミドの領域を、両鎖について配列決定した。初期のウイルス構築物の正確な構造は、感染HeLa細胞からのGM−CSF産物の制限分析およびELISA試験によって確認した。次いで、組換えウイルスを2回のプラーク精製に供した。プラークからの組換えウイルスを制限酵素マッピングし、293細胞(Microbiological Associatesからの保証された細胞)内での増殖による2回の継代を行って、研究用ウイルスストックを作製した。ウイルス中のGM−CSF遺伝子の配列を、研究用ウイルスストックから調製したウイルスDNAの直接配列決定によって決定した。最終的に、研究用ウイルスストックからの組換えウイルスを、マイコプラズマおよび無菌性について試験し、陰性であるとわかった場合、マスターウイルスストックとして細胞を感染させるために用いた。
【0170】
実施例2:自己の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験
9人の患者が、自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験に参加した。各患者は、測定可能な転移性疾患の所見またはホルモン療法歴がなく、かつ、処置の開始時に少なくとも1.0ng/mlよりも高いベースラインPSAを有する、2回の連続的なPSAレベルの異常上昇によって規定されるような、外科手術後に進行性の微小転移性前立腺癌を有する18歳以上であった。患者は、外科手術とともに適切な併用薬を受けた。疾患の病理学的診断および病期分類は、外科手術の間に終えた。
【0171】
切除した腫瘍の一部を初代培養で増殖させ、GM−CSF遺伝子を有するMFGウイルスベクターで形質導入し、照射して細胞を増殖不能にし、そして自己GVAX(登録商標)ワクチンを調製するために使用されるまで液体窒素中で保存した。外科手術の約60日後に、ワクチンは臨床施設で使用可能であった。各ワクチン接種について、細胞を0.9%塩化ナトリウム溶液中または2.5%ヒト血清アルブミンを含む0.9%塩化ナトリウム溶液中で融解、洗浄、および再懸濁することによって、GVAX(登録商標)ワクチンを注射用に調製および処方した。
【0172】
外科手術の約60日後に、ワクチン接種前来診では、ベースライン値を得、かつ自己の非形質導入細胞の最初のDTH評価を開始する予定であった。血清を採取し、そしてPSAのレベルをRT−PCRによって測定した。ワクチン接種前来診の2日後に、各患者は、各14日間の3回のワクチン接種サイクルが予定された。3回のワクチン接種の後、累積的毒性が認められず、かつ、十分なワクチン細胞が残存した場合、この患者は、最大3回までの追加接種(計6回のワクチン接種)を受ける適格者であった。
【0173】
ワクチン接種部位の間隔および位置を、以下の表2に示す。各用量を、外来患者方式で患者に投与した後、退院前に外来診療部門で臨床観察を行った。
【0174】
【表2】
注射剤は、グリッドパターンにしたがって患者の肢に皮内投与した。各注射は、隣接する注射から針侵入位置で少なくとも5cmである。用量レベル1については、注射剤を1本の肢に、連続サイクルごとに異なる肢を用いて、3人の患者に投与した。用量レベル2については、注射剤を6人の患者に、連続サイクルごとに2本の異なる肢を用い、所定のサイクルで2本の肢に等分して投与した。最初のワクチン接種を0日目に行い、続いて14日目、28日目、42日目、56日目、および70日目に行った。局所毒性および全身毒性、ならびに抗腫瘍免疫応答の誘導の評価を続いて行った。自己免疫の徴候も評価した。
【0175】
NCI CTC用量制限毒性は、計41回の十分に評価可能なワクチン接種を受けた、8人のワクチン接種患者間で観察されなかった。皮内部位の生検は、有効性の前臨床モデルにおいて観察されたのと類似の、マクロファージ、樹状細胞、好酸球およびT細胞で構成される特有の炎症性浸潤を示した。100%の患者が、形質導入されていない自己のPCA標的細胞に対するDTH反応性を示した。外科手術前の血清PSAの中央値は28.85(6.7〜7.5の範囲)であり、最初のワクチン接種時のPSAレベルの中央値は0.65(0.1〜30.4の範囲)であった。高感度の血清PSAによると、8人中6人の患者が、外科手術後およびワクチン接種後に進行した:平均F/U24か月。この研究は、インビボでGM−CSF遺伝子を形質導入したPCAワクチンの実現可能性、外来患者安全性、および生物活性を実証している。
【0176】
実施例3:同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験
30人の患者が、第2の自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験に参加した。各患者は、測定可能な転移性疾患の疾患またはホルモン療法歴がなく、かつ、処置の開始時に少なくとも1.0ng/mlよりも高いベースラインPSAを有する、2回の連続的なPSAレベルの異常上昇によって規定されるような、外科手術後に進行性の微小転移性前立腺癌を有する18歳以上であった。同種異系の前立腺癌細胞株ワクチンは、24時間で106細胞当たり148〜639ngのGM−CSFを分泌するように遺伝子改変された、等しい細胞用量の2種の同種異系前立腺癌細胞株(LNCaPおよびPC−3)で構成される。あるいは、ワクチンは、24時間で106細胞当たり200〜300ngのGM−CSFを分泌するように遺伝子改変された、3種の異なる照射済み自己前立腺癌細胞株(LNCaP、PC−3およびDU145)の混合物で構成される。ワクチンの各バイアルは、グリセロールおよびヒト血清アルブミン中の直接注射可能物質として調製される。各細胞株ワクチン接種の用量を、下の表3に示す。
【0177】
【表3】
所定のワクチン接種日に、総細胞数1.2×108細胞(1つの細胞株当たり6×107細胞)を、各1.0ccの4回の皮内注射(1つの細胞株当たり2回の注射)で、患者に投与した。各注射は皮内注射であった。0日目以降のワクチン接種日には、注射部位を交代した。1.2×108細胞の全量を、4回の注射に分けて、毎週1回、8週間投与している。
【0178】
処置サイクルの間、ワクチン接種に対する局所的全身性反応の評価を、ワクチン接種日に行った(1、2、3、4、5、6、7および8週目)。1回目のワクチン接種から始めて、
PSA測定値を4ヶ月間、毎月決定し、次いで第2部の研究においては、2年間、4ヶ月ごとに決定した。臨床的に必要であれば、PSAレベルを4ヶ月ごとよりも頻繁に評価した。PCR試験用の血液サンプルは、1回目のワクチン接種の前に採取した。第1部の最後の来診は、最後のワクチン接種(8週目)の2週間後に行った。少なくとも1回のワクチン接種を受けた登録患者は、PSAチェックのために長期追跡調査評価に参加した。患者は、患者が死亡するかまたは同種異系前立腺癌細胞株ワクチンがFDAに認可されるまで、健康診断およびその後の臨床評価を年1回か、あるいは臨床的に必要であればより頻繁に受けた。
【0179】
実施例4:前立腺腫瘍関連抗原の同定
A.血清の調製
研究に用いた血清は、自己のまたは同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、ワクチン接種の2時間前および最後のワクチン接種の2週間後に患者から採取された血液から調製した。
【0180】
B.細胞可溶化物の調製
前立腺間質、前立腺上皮、前立腺平滑筋、および肺線維芽細胞に由来する初代細胞株をClontenics(San Diego,CA)から購入し、SCGM、PrEGM、SmGM、およびFGM−2培地(Clontenics,San Diego,CA)で生育した。細胞を10%ウシ胎仔血清、ペニシリウム/ストレパビジン(strepavidin)、およびグルタミンを含むDMEM+F12培地(JHR bioscience,Lenexa,KS)で生育した。細胞密度がT−175フラスコ(Becton,Dickinson & Company,Franklin Lakes,NJ)中で80%コンフルエンスに達すると、細胞をPBSで2回洗浄し、続いてVersene(Gibco BRL,Grand Island,NY)中で10〜30分間インキュベーションして、細胞をフラスコから剥離させた。次いで、細胞を収集し、卓上遠心機(CS−6R,Beckman,Palo Alto,CA)で、1,000rpmで10分間遠心沈殿した。細胞をPBSで3回洗浄した。非接着細胞(ジャーカット細胞および末梢血細胞)については、細胞を収集し、遠心沈殿し、そしてPBSで3回洗浄した。洗浄後、2×107細胞を1mlの溶解緩衝液(10mMトリス(pH7.4)、1mM EDTA、10%グリセロール、1%NP40、1mM PMSF、および1%プロテアーゼインヒビターカクテルセットIII(カタログ番号539134,Calbiochem,San Diego,CA))で溶解し、続いて氷上で1時間インキュベーションした。次いで、不溶性の細胞片を4℃で30分間、卓上エッペンドルフ遠心機を用いて遠心除去した。上清を除去し、タンパク質濃度をBCA(Pierce,Rockford,IL)で測定した。
【0181】
C.ウエスタンブロット分析
示された量の細胞可溶化物中のタンパク質(25〜35μg/レーン)または精製PSA(Calbiochem,San Diego,CA)または他の癌関連マーカーを、4〜20%勾配SDS−PAGE(Norvex,San Diego,CA)で分離し、続いて膜転写装置(Xcell II,Blot Module,Norvex,San Diego,CA)で、25mVの定電圧で2〜3時間、ニトロセルロース膜(Norvex,San Diego,CA)に電気的転写した。転写後、ニトロセルロース膜をブロッキング溶液(10%脱脂乳/0.05%Tween20/PBS)で4℃にて一晩ブロットした。一晩ブロッキングの後、膜を患者の血清(PBS+0.05%Tween20中で1:1000希釈)とともに室温で2時間インキュベートし、続いてPBS+0.1%Tween20で5回洗浄した。HPRT結合ヤギ抗ヒトIgM+G+A(Zymed,South San Francisco,CA;PBS+0.05%Tween20中で1:3000希釈)を膜とともに1時間インキュベートし、続いてPBS+0.1%Tween20で6回洗浄した。結果を、化学蛍光発光(例えば、ECLウエスタンブロッティングシステム(Amersham Life Science,Arlington Heights,IL)を用いて)によって示した。
【0182】
実施例5:自己GVAX(登録商標)臨床試験において同定される前立腺腫瘍関連抗原
1つの研究において、癌関連抗原を以下のように同定した。自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチンを調製するために、前立腺腫瘍を8人の患者から摘出して、初代前立腺癌細胞株を作製した。ヒトGM−CSFを含むレトロウイルスベクターをこれらの初代細胞株に形質導入して、GM−CSFを分泌する細胞を作製した。患者にワクチンを、皮内注射によって2週ごとに、これらのGM−CSFを発現する自己の初代前立腺癌細胞の形態で投与した。患者1、2、および3には、1×107細胞を6回投与し;患者4には、1×107細胞を5回投与し;患者5および7には、5×107細胞を6回投与し;患者7には、1×107細胞を3回投与し;そして患者8には、5×107細胞を3回投与した。以下の研究に用いた血清は、ワクチン接種の2時間前(ワクチン接種前として)および最後のワクチン接種の2週間後(ワクチン接種後として)に採取した血液から調製した。
【0183】
最後のワクチン接種後の自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、患者の血清中の抗体によって認識される特異的な抗原の同定を、LNCaP前立腺癌細胞株のウエスタンブロット分析によって行った。25μgのLNCaP溶解物を、4〜20%勾配SDSポリアクリルアミドゲル上で泳動し、続いてニトロセルロース膜に転写した。0.05%Tween20含有PBS中の患者血清の1:1000〜1:3000の範囲での希釈物を、ウエスタンブロット分析における一次抗体に用いた。ペルオキシダーゼ結合ポリクローナルヤギ抗ヒトIgG+M+Aの1:3000の希釈物を、二次抗体に用いた。結果を化学蛍光発光ECLキットによって示した。PSAに無関係であり、かつ、LNCaP細胞によって発現される種々の抗原(「pan」腫瘍関連抗原を含む)が、WO/0026676にさらに記載されるように、自己GVAX(登録商標)ワクチン試験においてワクチン接種の前後に得られた血清を比較することによって、新たに同定された。
【0184】
実施例6:同種異系のGVAX(登録商標)臨床試験において同定される前立腺腫瘍関連抗原
新規の抗原も、同種異型のGVAX(登録商標)ワクチンで処置した患者の血清によって同定された。同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、21人の患者を、1.2×107個のGM−CSF発現LNCaP(LNCaP/GM)細胞およびGM−CSF発現(PC−3/GM)細胞の両方で、8週間毎週ワクチン接種した。血清は、GVAX(登録商標)ワクチン投与の2時間前(「ワクチン接種前」として)および最後のGVAX(登録商標)ワクチン投与の2週間後(「ワクチン接種後」として)に採取した血液から調製した。数人の同種異系のGVAX(登録商標)ワクチン処置患者に由来する血清を、さらなる研究のために選択した。このデータを以下の表4に要約する;
【0185】
【表4−1】
【0186】
【表4−2】
大多数の場合に、LNCaP細胞および/またはPC3細胞に対する体液性免疫応答が観察された。このような抗PC3抗体応答および抗LNCaP抗体応答の誘導、ならびに同種異系のGVAX(登録商標)ワクチン処置を行った前立腺癌患者21人中15人に観察されたPSA速度の低下により、同種異系のGVAX(登録商標)の場合、前立腺腫瘍の処置において体液性免疫応答が治療的役割を果たすことが示唆される。次いで、同種異系のGVAX(登録商標)ワクチン処置後の患者由来の血清の能力を、PSAに対する抗体について試験した。3μgのPSAを4〜20%勾配SDS−PAGEで分析し、続いて患者301、305、314、307、および312からの血清を用いてウエスタン分析を行った。これらの結果は、PSAがこれらの血清によって認識されないことを示し、これは、PSAが腫瘍成長を根絶するのに応じた免疫応答を惹起することができないことを示す。これらの新規の抗原をさらに特徴づけするために、多数の患者に由来するワクチン接種前後の血清を用いてウエスタンブロット分析を行った。以下の癌細胞株のパネルを試験した:LNCaP(前立腺);PC−3(前立腺);A549(肺);LS−174T(大腸);MCF7(乳房);DU−145(前立腺);KLEB(卵巣);ジャーカット(白血病);およびMDA−MB−435S(乳房)。SDS−PAGEにより決定される、約278kDおよび約160kD抗原の組織/細胞特異的発現を、この癌細胞株および正常初代前立腺細胞株のパネルを用いて特徴づけした。約160kD抗原は、PC−3癌および正常前立腺上皮細胞に発現がみられ、A549(肺癌)およびMCF7(乳癌)に弱く発現がみられたが、試験した他のタイプの癌にも、そして前立腺間質または平滑筋細胞にも発現がみられなかった。これらの結果は、約160kD抗原(p160)が前立腺特異的抗原であることを示す(データは示さず)。同実験により、SDS−PAGEにより決定される約278kDの分子量を有する腫瘍関連抗原(p278)が、前立腺癌細胞株PC−3およびDU−145、ならびにA549肺癌に発現することが見出された。p278はまた、正常前立腺上皮細胞にも発現がみられたが、間質細胞または平滑筋細胞には発現がみられなかった。これらの結果は、p278が、少なくとも前立腺特異的抗原および腫瘍関連抗原であることを強く示唆している。正常な前立腺特異的抗原(例えば、p278およびp160)に対する抗体応答が存在するという事実から、同種異系のGVAX(登録商標)ワクチンは寛容を破綻させ、腫瘍関連抗原を認識することによりこのような腫瘍に対する免疫系の応答の開始を引き起こし得ることが示される。
【0187】
実施例7:第二段階の同種異系GVAX(登録商標)臨床試験において同定される前立腺腫瘍関連抗原
他の新規の抗原も、さらなる臨床試験において、同種異型のGVAX(登録商標)ワクチンで処置した患者の血清によって同定された。この同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、転移性骨疾患を有する24人のホルモン抵抗性の患者に、初回用量の5億個のGM−CSF発現LNCaP細胞およびGM−CSF発現PC−3細胞を投与した後、2週間間隔で12回の追加抗原投与量(各々1億個の細胞)を投与し、そして10人の患者には、同じ初回用量およびより高い追加抗原投与量である3億個の細胞を投与した。血清は、GVAX(登録商標)ワクチン投与の2時間前(「ワクチン接種前」として)および最後のGVAX(登録商標)ワクチン投与の2週間後(「ワクチン接種後」として)に採取した血液から調製した。患者由来の血清を、さらに研究した。SDS−PAGEおよびウエスタンブロットによってワクチン接種後に認識されたいくつかの抗原を、以下の表5に要約する:
【0188】
【表5−1】
【0189】
【表5−2】
大多数の場合に、LNCaP細胞および/またはPC3細胞に対する体液性免疫応答が観察された。ワクチン接種後の血清は、抗PSA抗体を全く含まなかった。患者804に対して完全なPSA応答が観察された(図2)。患者804とPC−3またはLNCaP細胞型のいずれかとの間のHLAクラスI型適合はなかった。
【0190】
患者804のGVAX(登録商標)処置に対する体液性応答を特徴付けするために、患者804由来のワクチン接種前後の血清をウエスタンブロット分析に用いた。ワクチン接種後血清は、PC−3細胞に存在するがLNCaP細胞に存在しない約278kDに移動する抗原を認識することが見出された(図3)。約278kD抗原はまた、初代正常前立腺上皮、前立腺間質、および前立腺平滑筋(PrEC、PrSC、およびPrSmC)細胞株においても検出されたが、PC−3細胞におけるよりも低レベルであった(図4)。この抗原はまた、非小細胞肺癌細胞株であるH157において過剰発現している(図5)。
【0191】
PC−3細胞可溶化物を、水平次元に沿って3.5〜10のpH勾配を有する2次元ゲル電気泳動に供した。約278kD抗原の移動を、ブロット分析によって決定した。関連するバンドを切り取り、MALDI−MSタンパク質配列決定に供した。約278kD抗原のタンパク質配列は、GenBank登録番号NP_001448(アクチン結合タンパク質)に見られるβ−フィラミンの配列と一致した。
【0192】
Chemicon International(Temecula,CA)のウサギ抗ヒトフィラミンモノクローナル抗体は、ウエスタンブロットにより、PC−3において発現されるがLNCaP細胞においては発現されない約278kDタンパク質と反応することが実証された(図6)。
【0193】
実施例8:β−フィラミンおよびGM−CSFを発現する同種異系細胞のワクチン接種
WO/0026676に記載されるような標準技術を用いて、GenBank登録番号NM_001457に記載して示すβ−フィラミンのコード領域とGM−CSFのコード配列を一緒に挿入することによって、レトロウイルスベクターを調製する。PC−3細胞およびLNCaP細胞は、β−フィラミンを発現するように形質導入および遺伝子改変されるが、PC−3細胞は、形質導入されていないPC−3細胞よりも高レベルのβ−フィラミンを発現するように遺伝子改変される。形質導入されたPC−3細胞およびLNCaP細胞を1:1の割合で混合して細胞ワクチンを形成し、そしてこれらの細胞を照射によって増殖不能にする。いずれのワクチンの2億の細胞も、1日当たり106細胞当たり約100μgのGM−CSFを分泌する。
【0194】
前立腺腺癌を有し、PSAが上昇し、ECOG一般状態が0〜1であり、正常な肝臓、腎臓および骨髄機能を有し、化学療法または遺伝子治療歴がなく、活動性自己免疫疾患がなく、前立腺癌の併用療法がなく、そして骨スキャン陽性であるが麻薬性鎮痛薬を必要とする骨痛のない転移性疾患を有する患者を選択した。群Aの患者をワクチンAで処置し、群Bの患者をワクチンBで処置する。各群につき、初回用量の5億細胞に続いて、2週間間隔で12回の追加抗原投与量の1億または2億細胞を投与する。血清を、最初のワクチン投与の2時間前および最後のワクチン投与の2週間後に各患者から採取された血液から調製する。
【0195】
骨スキャン、骨密度評価、CTスキャン、PSAレベル、および生存によって測定されるような疾患の進行に対する応答を、時間とともにモニターする。
【0196】
【表6】
前述の発明は、明瞭さや理解のために、説明および実施例を挙げていくらか詳細に記載されているが、特定の変更および改変がなされ得ることは当業者に明白である。本発明の種々の局面は、一連の実験によって達成され、それらの一部は、以下の非限定的な実施例によって説明される。従って、この説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、添付の特許請求の範囲により示される。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1A】図1Aは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1B】図1Bは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1C】図1Cは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1D】図1Dは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1E】図1Eは、本発明の方法およびワクチンに有用な、GM−CSFをコードするアデノウイルスベクター(AV−GM−CSF)の略図である。
【図1F】図1Fは、本発明の方法およびワクチンに有用な、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)のベクタープラスミド(SSV9/MD2−hGM)の略図である。
【図1G】図1Gは、本発明の方法およびワクチンに有用な、HIV LTRに隣接したGM−CSF発現カセットを含む、組換えレンチウイルスベクターの略図である。
【図1H】図1Hは、本発明の方法およびワクチンに有用な、ICP22 HSV遺伝子に置き換えてGM−CSF発現カセットを含む、HSV−I系ベクターの略図である。
【図1I】図1Iは、本発明の方法およびワクチンに有用な、GM−CSF発現カセット、SV40複製開始点、およびウイルスの後期遺伝子を含む、SV40系プラスミド(pSV MD GM−CSFII)の略図である。
【図1J】図1Jは、本発明の方法およびワクチンに有用な、ワクシニアウイルスプロモーターおよび終始配列ならびにGM−CSF cDNAを含む、ワクシニアウイルス発現カセットの略図である。
【図2】図2は、同種異系前立腺のGVAX(登録商標)臨床試験における患者804の完全なPSA応答を示す。ワクチン処置の初回量は、0日目に投与された。
【図3】図3は、ウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、ワクチン接種後の患者804由来の血清が、LNCaP細胞ではなくPC−3細胞に存在する、約278kDに移動する抗原を認識することが見出されたことを示す。
【図4】図4は、ワクチン接種前(0週目)およびワクチン接種後(24週目)の患者804由来の血清を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、ワクチン接種後の患者804由来の血清が、約278kD抗原を認識することが見出されたことを示し、この抗原はまた、初代正常前立腺上皮細胞株、前立腺間質細胞株、および前立腺平滑筋細胞株(それぞれ、PrEC、PrSC、およびPrSmC)において検出されるが、PC−3におけるよりも低いレベルである。
【図5】図5は、ワクチン接種前(0週目)およびワクチン接種後(24週目)の患者804由来の血清を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、ワクチン接種後の患者804由来の血清はまた、約278kD抗原を認識することが見出されたことを示し、この抗原は、非小細胞肺癌(NSCLC)H157において過剰発現されるが、H1395 NSCLC腺癌細胞株においては発現されない。
【図6】図6は、Chemicon International(Temecula,CA)によるウサギ抗ヒトフィラミンモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、PC−3細胞において発現されるがLNCaP細胞においては発現されない、約278kDのタンパク質との反応性を示す。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、前立腺癌の処置のためにワクチンとして用いるための、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞に関する。より詳細には、本発明は、抗原であるβ−フィラミン(これは、遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞を前立腺癌患者へ投与することによって検出される)に対する増強された免疫応答の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
免疫系は、多種多様な癌の病因に重要な役割を果たしている。癌が進行すると、免疫系が十分に応答しないか、または適切に応答せず、癌細胞が増殖可能になると広く考えられている。現在、化学療法、外科手術、放射線療法および細胞療法を含む、癌のための標準の医学的処置は、効力と毒性のいずれについても明らかな限界を有する。現在まで、これらのアプローチは、癌のタイプ、患者の全身的な健康状態、診断時の病期などに応じて、さまざまな程度で成功している。標準の医学的処置と組み合わせた、癌に対する免疫応答の特定の操作を組み合わせる改良ストラテジーは、効力の増強および毒性の低下のための手段を提供し得る。
【0003】
免疫系が機能すると、抗原が処理されて、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIおよびクラスII分子に関して細胞表面上に提示される。MHCクラスIおよびクラスII分子は、抗原に複合体化されると、それぞれCD8+T細胞およびCD4+T細胞に認識される。この認識により、2次的な細胞内シグナルおよび特異的サイトカインのパラクリン放出の両方が生じ、これらは、細胞間の相互作用を媒介し、疾患を撃退するための宿主防御を促進する。次いで、サイトカインの放出は、抗原特異的免疫細胞の増殖を引き起こす。
【0004】
多数のサイトカインが、腫瘍に対する免疫応答の調節に影響を及ぼすことがわかっている。例えば、米国特許第5,098,702号(特許文献1)は、既存の腫瘍を治療するのに相乗的に有効な量のTNF、IL−2およびIFN−βの組み合わせを使用することを記載している。米国特許第5,078,996号、同第5,637,483号および同第5,904,920号(特許文献2〜4)は、腫瘍の処置のためにGM−CSFを使用することを記載している。しかし、癌治療のためのサイトカインの直接投与は、しばしば全身的に毒性であるため、実用的ではない場合がある。(例えば、Asherら、J.Immunol.146:3227−3234,1991およびHavellら、J.Exp.Med.167:1067−1085,1988(非特許文献1および2)を参照のこと)。
【0005】
このアプローチの拡大は、ワクチン部位で局所的にサイトカインを発現する、遺伝子改変された腫瘍細胞の使用に関連する。IL−4、IL−2、TNF−α、G−CSF、IL−7、IL−6およびGM−CSFを含む多種多様な免疫調節サイトカインを用いた腫瘍モデルにおいて、それぞれ以下に記載されるように、活性が証明されている:Golumbeck PTら、Science 254:13−716,1991;Gansbacher Bら、J.Exp.Med.172:1217−1224,1990;Fearon ERら、Cell 60:397−403,1990;Gansbacher Bら、Cancer Res.50:7820−25,1990;Teng Mら、PNAS 88:3535−3539,1991;Columbo MPら、J.Exp.Med.174:1291−1298,1991;Aokiら、Proc Natl Acad Sci USA.89(9):3850−4,1992;Porgador Aら、Nat Immun.13(2−3):113−30,1994;Dranoff Gら、PNAS 90:3539−3543,1993;Lee CTら、Human Gene Therapy 8:187−193,1997;Nagai Eら、Cancer Immunol.Immonther.47:2−80,1998およびChang Aら、Human Gene Therapy 11:839−850,2000(非特許文献3〜14)。抗腫瘍免疫を増強するためのワクチンとしての自己癌細胞の使用が、ここしばらく探究されてきた。例えば、Oettgenら、「The History of Cancer Immunotherapy」,Biologic Therapy of Cancer,Devitaら(編)J.Lippincot Co.,pp87−199,1991;Armstrong TDおよびJaffee EM,Surg Oncol Clin N Am.11(3):681−96,2002;およびBodey Bら、Anticancer Res 20(4):2665−76,2000(非特許文献15〜17)を参照のこと。
【0006】
GM−CSFを分泌する自己または同種異系の腫瘍細胞ワクチンを用いた、いくつかの第一/第二段階の人体試験が実施されている(Simonsら、Cancer Res 1999 59:5160−8;Soifferら、Proc Natl Acad Sci USA 1998 95:13141−6;Simonsら、Cancer Res 1997 57:1537−46;Jaffeeら、J Clin Oncol 2001 19:145−56;Salgiaら、J Clin Oncol 2003 21:624−30;Soifferら、J Clin Oncol 2003 21:3343−50;Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.2004年2月18日、96(4):326−31;BorelloおよびPardoll,Growth Factor Rev.13(2):185−93,2002;ならびにThomasら、J.Exp.Med.200(3)297−306,2004(非特許文献18〜26))。
【0007】
遺伝子改変されたGM−CSFを発現する癌細胞を患者に投与すると、免疫応答の増強が結果として認められ、前立腺癌または他の癌に対する予備的な臨床効果が、第一/第二段階の臨床試験において証明された。しかしながら、前立腺癌の処置に用いるための細胞ワクチンの使用に関するストラテジーの改善の必要性が、依然として残されている。
【特許文献1】米国特許第5,098,702号明細書
【特許文献2】米国特許第5,078,996号明細書
【特許文献3】米国特許第5,637,483号明細書
【特許文献4】米国特許第5,904,920号明細書
【非特許文献1】Asherら、J.Immunol.146:3227−3234,1991
【非特許文献2】Havellら、J.Exp.Med.167:1067−1085,1988
【非特許文献3】Golumbeck PTら、Science 254:13−716,1991
【非特許文献4】Gansbacher Bら、J.Exp.Med.172:1217−1224,1990
【非特許文献5】Fearon ERら、Cell 60:397−403,1990
【非特許文献6】Gansbacher Bら、Cancer Res.50:7820−25,1990
【非特許文献7】Teng Mら、PNAS 88:3535−3539,1991
【非特許文献8】Columbo MPら、J.Exp.Med.174:1291−1298,1991
【非特許文献9】Aokiら、Proc Natl Acad Sci USA.89(9):3850−4,1992
【非特許文献10】Porgador Aら、Nat Immun.13(2−3):113−30,1994
【非特許文献11】Dranoff Gら、PNAS 90:3539−3543,1993
【非特許文献12】Lee CTら、Human Gene Therapy 8:187−193,1997
【非特許文献13】Nagai Eら、Cancer Immunol.Immonther.47:2−80,1998
【非特許文献14】Chang Aら、Human Gene Therapy 11:839−850,2000
【非特許文献15】Oettgenら、「The History of Cancer Immunotherapy」,Biologic Therapy of Cancer,Devitaら(編)J.Lippincot Co.,pp87−199,1991
【非特許文献16】Armstrong TDおよびJaffee EM,Surg Oncol Clin N Am.11(3):681−96,2002
【非特許文献17】Bodey Bら、Anticancer Res 20(4):2665−76,2000
【非特許文献18】Simonsら、Cancer Res 1999 59:5160−8
【非特許文献19】Soifferら、Proc Natl Acad Sci USA 1998 95:13141−6
【非特許文献20】Simonsら、Cancer Res 1997 57:1537−46
【非特許文献21】Jaffeeら、J Clin Oncol 2001 19:145−56
【非特許文献22】Salgiaら、J Clin Oncol 2003 21:624−30
【非特許文献23】Soifferら、J Clin Oncol 2003 21:3343−50
【非特許文献24】Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.2004年2月18日、96(4):326−31
【非特許文献25】BorelloおよびPardoll,Growth Factor Rev.13(2):185−93,2002;
【非特許文献26】Thomasら、J.Exp.Med.200(3)297−306,2004
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を含む、被検体における前立腺癌を処置するための組成物および方法を提供する。1つの局面において、本発明は、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を、前立腺癌の処置のために被検体に投与することによって、被検体における前立腺癌を処置する方法を含む。
【0009】
この方法は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)を産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変(形質導入)し、この第1の腫瘍細胞集団を単独かまたは第2の腫瘍細胞集団と組み合わせて被検体に投与することによって実行される。遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞の投与後、SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答が検出されるが、この免疫応答は、サイトカイン発現細胞を投与する前には検出されない。約278kD抗原は、β−フィラミンと同定された。
【0010】
腫瘍細胞は、同じ個体由来の(自己の)腫瘍細胞であっても、異なる個体由来の(同種異系の)腫瘍細胞であっても、バイスタンダー細胞であってもよく、典型的には投与前に増殖不能にされる。典型的には、腫瘍細胞は、処置される腫瘍または癌と同じ型のものである。例えば、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞は、前立腺細胞または前立腺癌細胞(例えば、PC−3細胞またはLNCaP細胞)であり、被検体は、前立腺癌を有する。免疫応答は、体液性免疫応答であっても、細胞性免疫応答であってもよい。
【0011】
サイトカイン発現細胞を前立腺癌患者に投与後に、患者に対する治療結果の改善が明らかであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の上記および他の目的、その種々の特徴、ならびに本発明自体は、以下の説明が添付の図面と共に読まれると、より完全に理解され得る。
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施では、他に指示がない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA、遺伝学、免疫学、細胞生物学、細胞培養およびトランスジェニック生物学の従来技術を利用し、これらは、当該分野の範囲内である。
【0014】
【化1】
(定義)
他に指示がない限り、本明細書中で使用されるすべての用語は、当業者が意図する意味と同じ意味を有する。
【0015】
本明細書中に記載のすべての特許、特許出願、刊行物(公表された特許出願を含む)、およびデータベース登録番号を含む、刊行物および他の材料は、本発明の背景を明らかにするために、特に、実施についてさらなる詳細を提供する場合に、本明細書中で使用される。
【0016】
本発明を記載するにあたり、以下の用語が使用され、これらの用語は下記のように定義されることが意図される。
【0017】
用語「核酸」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のそれらの重合体(「ポリヌクレオチド」)のことをいう。特に限定しない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドに類似した様式で代謝される、天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。他に指示がない限り、特定の核酸分子/ポリヌクレオチドはまた、保存的に改変されたそれらの改変体(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列を、明示的に示された配列と同様に、暗に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの第3位が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。ヌクレオチドは、その塩基によって以下の標準的な略称に従って示される:アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、およびグアニン(G)。
【0018】
用語「コード配列」および「コード領域」とは、mRNA、rRNA、tRNA、snRNA、センスRNAまたはアンチセンスRNAなどのようなRNAに転写される核酸配列をいう。1つの実施形態において、このRNAは、次いで細胞内で翻訳されてタンパク質を産生する。
【0019】
用語「ORF」は、オープンリーディングフレームを意味する。
【0020】
用語「遺伝子」とは、ゲノム内に位置し、かつ、上記コード配列に加えて、発現(すなわち、コード部分の転写および翻訳)の制御を担う他の(主に調節)核酸配列を含む、規定領域をいう。遺伝子はまた、他の5’および3’非翻訳配列および終止配列も含み得る。遺伝子の供給源に依存して、存在し得るさらなるエレメントは、例えばイントロンである。
【0021】
用語「異種の」および「外来の」とは、プロモーターおよび遺伝子コード配列などのような核酸分子に関連して本明細書中で使用される場合、特定のベクターまたは宿主細胞にとって外来の供給源に由来する配列か、あるいは、同一の供給源に由来する場合には、その元の形態から改変された配列をいう。従って、ウイルスまたは細胞の異種遺伝子は、特定のウイルスまたは細胞にとって内因性であるが、例えばコドン最適化によって改変された遺伝子を含む。用語「異種の」および「外来の」はまた、天然に存在する核酸配列の天然に存在しない複数のコピーに関しても用いられ得る。従って、これらの用語は、ウイルスまたは細胞にとって外来または異種の核酸セグメント、あるいは、ウイルスまたは細胞にとって同種であるが、宿主ウイルスまたは細胞ゲノム内で通常見出されるのとは異なる位置に存在する核酸フラグメントをいう。
【0022】
用語「同種の」とは、核酸分子に関連して本明細書中で使用される場合、宿主ウイルスまたは細胞に天然に関連する核酸配列をいう。
【0023】
用語「相補体」および「相補的」とは、逆平行ヌクレオチド配列中の相補的な塩基残基間の水素結合形成の際に互いに対形成可能な逆平行ヌクレオチド配列を含む、2つのヌクレオチド配列をいう。
【0024】
用語「ネイティブの」とは、野生型のウイルスまたは細胞のゲノムに存在する遺伝子またはタンパク質をいう。
【0025】
用語「天然に存在する」または「野生型の」は、人によって人工的に作製されたものを除外して、天然に見出され得る対象物を記述するために使用される。例えば、生物体(ウイルスを含む)に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列であって、天然の供給源から単離され得、かつ、実験室で人によって意図的に改変されていないものは、天然に存在する。
【0026】
用語「組換えの」とは、核酸分子に関連して本明細書中で使用される場合、組換えDNA技術を用いて子孫核酸分子に連結される核酸分子の組合せをいう。ウイルス、細胞、および生物体に関連して本明細書中で使用される場合、用語「組換えの」、「形質転換された」、および「トランスジェニック」とは、異種核酸分子が導入された宿主ウイルス、細胞、または生物体をいう。核酸分子は、宿主のゲノム中に安定的に組み込まれてもよく、核酸分子はまた、染色体外分子として存在してもよい。このような染色体外分子は、自己複製することができる。組換えウイルス、細胞、および生物体は、形質転換プロセスの最終産物のみならず、その組換え後代をも包含すると理解される。「非形質転換」、「非トランスジェニック」、または「非組換え」宿主とは、異種核酸分子を含まない野生型のウイルス、細胞、または生物体をいう。
【0027】
「調節エレメント」は、ヌクレオチド配列の発現の制御に関与する配列である。調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、および終止コドンを含む。調節エレメントはまた、典型的にはヌクレオチド配列の適切な翻訳に必要な配列も包含する。
【0028】
用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼIIの結合部位を含み、DNAの転写を開始させる、コード領域の上流に通常位置する非翻訳DNA配列をいう。プロモーター領域はまた、遺伝子発現の調節因子として作用する他のエレメントを含んでもよい。用語「最小プロモーター」とは、プロモーターエレメント(特に、不活性であるか、または上流の活性化エレメントの非存在下でプロモーター活性が大幅に低下している、TATAエレメント)をいう。
【0029】
本発明の意味の範囲内での用語「エンハンサー」は、任意の遺伝因子(例えば、コード配列に作動可能に連結された場合に、プロモーター自体によって達成される転写活性化よりも高い程度まで、プロモーターに作動可能に連結されたコード配列の転写を増加させる(すなわち、プロモーターからの転写を増加させる)ヌクレオチド配列)であってもよい。
【0030】
用語「発現」とは、細胞内における内因性遺伝子、導入遺伝子またはコード領域の転写および/または翻訳をいう。アンチセンス構築物の場合、発現とは、アンチセンスDNAのみの転写のことをいってもよい。
【0031】
用語「アップレギュレートされた」とは、本明細書中で使用される場合、標的細胞において、別の細胞と比較して、特定の遺伝子のRNAがより多量に検出され得ることを意味する。例えば、腫瘍細胞が、非腫瘍細胞と比較してより多くのテロメラーゼRNAを産生する場合、腫瘍細胞は、テロメラーゼの発現をアップレギュレートしている。発現は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)中の特定のRNAの量が、別の細胞(非腫瘍細胞)中におけるよりも少なくとも3倍大きい場合、アップレギュレートされたとみなされる。別の実施形態において、特定のRNAの量は、少なくとも5倍大きい。別の実施形態において、特定のRNAの量は、当業者によって慣用的に使用される技術(例えば、ノーザンブロット法)を用いて、少なくとも10倍大きい。
【0032】
用語「ベクター」、「ポリヌクレオチドベクター」、「ポリヌクレオチドベクター構築物」、「核酸ベクター構築物」、および「ベクター構築物」は、本明細書中で交換可能に使用され、当業者によって理解されるように、遺伝子導入のための任意の核酸構築物を意味する。本発明において利用されるベクターは、必要に応じて選択マーカーをコードし得る。
【0033】
本明細書中で使用される場合、用語「ウイルスベクター」は、当該分野で認められている意味に従って使用される。ウイルスベクターは、ウイルス起源の少なくとも1つのエレメントを含み、ウイルスベクター粒子中にパッケージングされ得る、核酸ベクター構築物をいう。ウイルスベクター粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかでDNA、RNAまたは他の核酸を細胞内に運搬する目的で利用され得る。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、ワクシニアベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター(例えば、HSV)、バキュロウイルスベクター、サイトメガロウイルス(CMV)ベクター、パピローマウイルスベクター、シミアンウイルス(SV40)ベクター、シンドビスベクター、セムリキ森林ウイルスベクター、ファージベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。適切なウイルスベクターは、米国特許第6,057,155号、同第5,543,328号および同第5,756,086号(本明細書中に参考として明示的に援用される)に記載される。
【0034】
用語「ウイルス」、「ウイルス粒子」、「ベクター粒子」、「ウイルスベクター粒子」、および「ビリオン」は、交換可能に用いられ、例えば、本発明のウイルスベクターが、感染性粒子の産生のために、適切な細胞または細胞株へ形質導入される場合に形成される、感染性ウイルス粒子を意味するものとして広く理解されるべきである。本発明に従うウイルス粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかでDNAを細胞内に運搬する目的で利用され得る。
【0035】
核酸配列が、別の核酸配列と機能的な関係で配置されている場合、「作動可能に連結される」。例えば、プロモーターまたは調節DNA配列とRNAまたはタンパク質をコードするDNA配列の2つの配列が作動可能に連結される場合、あるいは、プロモーターまたは調節DNA配列がコードDNA配列または構造DNA配列の発現レベルに影響を及ぼすように位置する場合、該プロモーターまたは調節DNA配列は、該RNAまたはタンパク質をコードするDNA配列に「作動可能に連結された」といわれる。作動可能に連結されたDNA配列は、典型的には近接しているが、必ずしもそうであるとは限らない。
【0036】
「選択マーカー」は、細胞内における発現が、その細胞に選択的優位性を与えるタンパク質である。選択マーカー遺伝子で形質転換された細胞が有する選択的優位性は、非形質転換細胞と比較して、ネガティブ選択薬剤(例えば、抗生物質)の存在下で成長する能力に起因し得る。この形質転換された細胞が有する選択的優位性はまた、非形質転換細胞の成長と比較して、栄養分、成長因子またはエネルギー源として添加された化合物を利用する、増強された能力かまたは新規の能力に起因してもよい。選択マーカータンパク質としては、形質導入細胞の検出を可能にし、かつ、非形質転換細胞からの形質導入細胞の分離をできる限り可能にするものが挙げられる。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)は、選択マーカーとして用いられ得る。1つの実施形態において、細胞は、β−フィラミンまたはその免疫原性フラグメントとGFPタンパク質の両方をコードするベクターで形質導入される。これらのGFPを発現する形質導入細胞は、蛍光標識細胞分取(FACS)を用いて分離される。選択マーカータンパク質により、形質導入細胞は、非形質導入細胞から大部分分離されることが可能になる。選択技術および分離技術が通常100%ではないこと、ならびに、わずかな比率の非選択細胞集団が本発明では許容されることは、当業者であれば理解する。
【0037】
用語「本質的に〜からなる(consists essentially of)」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、特定のヌクレオチド配列に関連して本明細書中で使用される場合、特定の配列が、5’末端または3’末端のいずれかあるいはその両方にさらなる残基を有し得ることを意味し、このさらなる残基は、記載された配列の基本特性および新規特性に実質的に影響しない。
【0038】
用語「形質導入」とは、物理的手段によって細胞内に外来性核酸を導入することを意味する。例えば、形質導入には、本発明のウイルス粒子を用いて細胞内に外来性核酸を導入することが含まれる。哺乳動物細胞を操作するための種々の技術については、Keownら、Methods of Enzymology 185:527−537(1990)を参照のこと。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「パッケージング細胞」は、ウイルスゲノムまたはウイルス粒子を産生するために改変されたゲノムをパッケージ可能な細胞である。これにより、欠失した遺伝子産物またはその等価物を提供し得る。従って、パッケージング細胞は、ウイルスゲノムにおいて欠失している遺伝子を補完する機能を提供し得、ウイルス粒子中にウイルスゲノムをパッケージ可能である。このような粒子の産生は、ゲノムが複製され、かつ、感染性ウイルスを構築するのに必要なタンパク質が産生されることを必要とする。これらの粒子はまた、ウイルス粒子の成熟に必要な特定のタンパク質も必要とし得る。このようなタンパク質は、ベクターによるかまたはパッケージング細胞によって提供され得る。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「レトロウイルストランスファーベクター」とは、導入遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含み、かつ、ベクターのパッケージングに必要なヌクレオチド配列をさらに含む発現ベクターをいう。好ましくは、レトロウイルストランスファーベクターはまた、細胞内で導入遺伝子を発現するのに必要な配列も含む。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「第2世代」レンチウイルスベクターシステムとは、機能的なアクセサリー遺伝子を欠くレンチウイルスパッケージングシステム(例えば、アクセサリー遺伝子のvif、vpr、vpuおよびnefが欠損しているかまたは不活性化されたもの)をいう。例えば、Zuffereyら、1997,Nat.Biotechnol.15:871−875を参照のこと。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「第3世代」レンチウイルスベクターシステムとは、第2世代ベクターシステムの特性を有し、さらに機能的なtat遺伝子も欠く、レンチウイルスパッケージングシステム(例えば、tat遺伝子が欠損しているかまたは不活性化されたもの)をいう。典型的には、revをコードする遺伝子は、別個の発現構築物上で提供される。例えば、Dullら、1998,J.Virol.72(11):8463−8471を参照のこと。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「シュードタイプ(偽型の)」とは、ネイティブのエンベロープタンパク質を、異種のエンベロープタンパク質かまたは機能的に改変されたエンベロープタンパク質と置き換えたものをいう。
【0044】
用語「曝露すること」とは、本明細書中で使用される場合、導入遺伝子をコードするベクターを標的細胞と接触させて運び込むことを意味する。このような「曝露すること」は、インビトロでも、エキソビボでも、またはインビボで行われてもよい。
【0045】
本明細書中で使用される場合、用語「安定的に形質転換された」、「安定的にトランスフェクトされた」および「トランスジェニック」とは、非ネイティブの(異種の)核酸配列がゲノムに組み込まれた細胞をいう。安定な形質転換は、トランスフェクトするDNAを含む娘細胞集団から構成される細胞株またはクローンの確立によって実証される。ある場合には、「形質転換」は安定ではない(すなわち、一過性である)。一過性の形質転換の場合には、外来DNAまたは異種DNAが発現されるが、導入された配列はゲノムへ組み込まれない。
【0046】
本明細書中において、用語「サイトカイン」または文法的に等価なものは、リンホカイン、モノカインなどを含む免疫系の細胞のホルモンの一般的分類を意味する。この定義は、限定されないが、局所的に作用し、かつ血中を循環しないホルモンを包含し、このホルモンが本発明に従って使用される場合、個体の免疫応答の変更をもたらす。用語「サイトカイン(単数)」または「サイトカイン(複数)」とは、本明細書中で使用される場合、免疫系の細胞に影響を及ぼす生物学的分子の一般的分類をいう。この定義は、局所的に作用するか血中を循環し得る生物学的分子を包含することを意味するが、これらに限定されず、この生物学的分子が本発明の組成物または方法で使用される場合、癌に対する個体の免疫応答を調節または変調する役割を果たす。本発明の実施に用いられる例示的なサイトカインとしては、IFN−α、IFN−β、およびIFN−γ、インターロイキン(例えば、IL−1〜IL−29、特に、IL−2、IL−7、IL−12、IL−15およびIL−18)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF−αおよびTNF−β)、エリスロポエチン(EPO)、MIP3a、ICAM、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
サザンおよびノーザンハイブリダイゼーションのような核酸ハイブリダイゼーション実験に関連して、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントな洗浄条件」は、配列依存的であり、異なる環境パラメータ下では異なる。配列が長いほど、高い温度でハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションについての広範なガイドは、Tijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Acid Probes、第1部、第2章「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」Elsevier,New Yorkに見出される。一般に、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列に対する熱融点(Tm)よりも約5〜20℃(好ましくは5℃)低くなるように選択される。典型的には、高度にストリンジェントな条件下では、プローブはその標的サブ配列にハイブリダイズするが、他の無関係の配列にはハイブリダイズしない。
【0048】
Tmは、標的配列の50%が、完全に一致するプローブにハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度およびpHで)である。非常にストリンジェントな条件は、特定のプローブのTmに等しくなるように選択される。サザンまたはノーザンブロットのフィルター上での100を超える相補的残基を有する相補的な核酸のハイブリダイゼーションのためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、1mgのヘパリンを含む50%ホルムアミドで42℃にてハイブリダイゼーションを一晩行う条件である。高度にストリンジェントな洗浄条件の例は、0.15M NaClで72℃にて約15分間である。ストリンジェントな洗浄条件の例は、65℃にて15分間の0.2×SSC洗浄である(SSC緩衝液の説明については、Sambrook(下記)を参照のこと)。高ストリンジェンシー洗浄は、しばしば、バックグラウンドのプローブシグナルを除去するために、低ストリンジェンシー洗浄の後に行われる。例えば100ヌクレオチドを超える二重鎖のための例示的な中程度のストリンジェンシー洗浄は、1×SSCで45℃にて15分間である。例えば100ヌクレオチドを超える二重鎖のための例示的な低ストリンジェンシー洗浄は、4〜6×SSCで40℃にて15分間である。短いプローブ(例えば、約10〜50ヌクレオチド)についてのストリンジェントな条件は、典型的には、塩濃度が約1.0M Naイオン未満であり、典型的には約0.01〜1.0M Naイオン濃度(または他の塩)(pH7.0〜8.3)であり、そして温度が、典型的には少なくとも約30℃である。ストリンジェントな条件はまた、脱安定剤(例えば、ホルムアミド)の添加によって達成され得る。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて、無関係なプローブに見られるシグナル/ノイズ比に比べて2倍(または、より高い)シグナル/ノイズ比は、特異的なハイブリダイゼーションの検出を示す。
【0049】
2以上の核酸配列またはタンパク質配列に関連して、用語「同一」または「同一性」パーセントとは、本明細書中に記載される配列比較アルゴリズムの1つを用いるかまたは目視検査によって測定されるように、最大に一致するように比較および整列された場合に、同一であるか、あるいは同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドを特定の割合(パーセント)で有する、2以上の配列またはサブ配列をいう。
【0050】
配列比較について、典型的には、1つの配列は試験配列が比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを用いる場合は、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要であればサブ配列座標が指定され、そして配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定のプログラムパラメータに基づき、参照配列と比較して試験配列(単数または複数)の配列同一性パーセントを算出する。
【0051】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、局所ホモロジーアルゴリズム(Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981))によって、ホモロジーアラインメントアルゴリズム(Needleman & Wunsch,J.MoI.Biol.48:443(1970))によって、類似性検索方法(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:2444(1988))によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化した実行(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.)によって、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公に入手可能なソフトウェアを用いる、BLASTアルゴリズム(Altschulら、J.MoI Biol.215:403−410(1990))によって、あるいは、目視検査(概して、Ausubelら(下記)を参照のこと)によって、行われ得る。本発明の目的のために、比較のための配列の最適なアラインメントは、最も好ましくは、局所ホモロジーアルゴリズム(Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981))によって行われる。
【0052】
「正常な細胞状態」または「正常な生理的状態」は、正常な生理的条件で存在し、非分裂性かまたは調節された様式で分裂する細胞(すなわち、正常な生理的状態の細胞)の状態である。「異常な細胞状態」は、非分裂状態/調節された分裂状態で、かつ正常な生理的条件下の、同じ型の細胞に関して定義される。要するに、「異常な細胞状態」を有する細胞は、無秩序な細胞分裂を示すということである。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「癌」、「癌細胞」、「新生細胞」、「新生物形成」、「腫瘍」、および「腫瘍細胞」(交換可能に使用される)とは、相対的に自律的増殖を示し、その結果、細胞増殖の著しい制御不能を特徴とする、異常増殖の表現型または異常な細胞状態を示す細胞をいう。腫瘍細胞は、過形成細胞であっても、インビトロまたはインビボでの増殖の接触阻止の欠如を示す細胞であっても、インビボで転移できない細胞であっても、あるいはインビボで転移できる細胞であってもよい。新生細胞は、悪性であっても良性であってもよい。要するに、癌細胞は、異常な細胞状態を有するとみなされる、ということである。「腫瘍細胞」は、原発腫瘍由来であっても、腫瘍転移由来であってもよい。この「腫瘍細胞」は、患者から最近単離されたものであっても(「原発腫瘍細胞」)、長期のインビトロ培養の産物であってもよい。
【0054】
用語「原発腫瘍細胞」は、当該分野における意味に従って使用される。原発腫瘍細胞は、哺乳動物の腫瘍から単離され、インビトロで広く培養されていない癌細胞である。
【0055】
用語「腫瘍細胞由来の抗原」および「腫瘍抗原」および「腫瘍細胞抗原」は、本明細書中で交換可能に使用され得、免疫応答を惹起することができる、腫瘍細胞に由来するかまたは腫瘍細胞によって発現される任意のタンパク質、ペプチド、炭水化物または他の成分をいう。この定義は、全腫瘍細胞、腫瘍細胞フラグメント、腫瘍細胞から採取された原形質膜、腫瘍細胞の細胞表面または細胞膜から精製されたタンパク質、腫瘍細胞の細胞表面に付随する特有の炭水化物成分あるいは細胞内のベクターから発現される腫瘍抗原を包含することを意味するが、これらに限定されない。この定義はまた、アクセスするには細胞の特別な処理を必要とする、細胞の表面由来の抗原も包含する。
【0056】
用語「遺伝子改変された腫瘍細胞」とは、本明細書中で使用される場合、導入遺伝子を発現させるために遺伝子改変され、癌処置レジメンの一部として患者に投与される、細胞の集団を含む組成物をいう。遺伝子改変された腫瘍細胞ワクチンは、処置を受ける患者にとって「自己の」または「同種異系の」腫瘍細胞、あるいは患者から採取された腫瘍細胞と混合された「バイスタンダー細胞」を含む。GM−CSFを発現する遺伝子改変腫瘍細胞ワクチンは、本明細書中で「GVAX」(登録商標)と呼ばれ得る。サイトカイン(例えば、GM−CSF)を発現するように遺伝子改変され、続いて癌の処置のために患者に再投与された、自己の癌細胞および同種異系の癌細胞は、米国特許第5,637,483号、同第5,904,920号、同第6,277,368号および同第6,350,445号に記載される。膵癌の処置のためのGM−CSFを発現する遺伝子改変癌細胞の1つの形態、すなわち「サイトカイン発現細胞ワクチン」は、米国特許第6,033,674号および同第5,985,290号(これらはいずれも本明細書中に参考として明示的に援用される)に記載される。一般的な免疫調節性のサイトカインを発現するバイスタンダー細胞株は、米国特許第6,464,973号(本明細書中に参考として明示的に援用される)に記載される。
【0057】
用語「発現の増強」とは、本明細書中で使用される場合、天然に存在する細胞またはその細胞が由来する親細胞によって産生されるよりも高いレベルの特定のタンパク質を産生する細胞をいう。細胞は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)または抗原(この抗原に対する免疫応答が、サイトカイン発現細胞ワクチン(例えば、GVAX(登録商標))の投与後に増強される)の発現を増大させるために、遺伝子改変されてもよい。内因性抗原の発現は、抗原の産生を増大させるために、ゲノム配列のプロモーター領域を遺伝子改変するか、または細胞のシグナル伝達経路を遺伝子操作するなどの当該分野で公知の任意の方法を用いて増大され得る。また、細胞は、抗原またはその免疫原性フラグメントをコードするベクターで形質導入されてもよい。
【0058】
本明細書中において、用語「全身性の免疫応答」または文法的に等価なものは、局所的ではなく個体全体として影響を及ぼすことにより、同じ刺激に対する特定のその後の応答を可能にする免疫応答を意味する。
【0059】
本明細書中で使用される場合、用語「増殖不能の」または「不活化された」とは、複数回の有糸分裂を行うことはできないが、サイトカインまたは腫瘍抗原のようなタンパク質を発現する能力を依然として保持している細胞をいう。これは、当業者に公知の多数の方法によって実現され得る。本発明の実施形態は、少なくとも約95%、少なくとも約99%または実質的に100%の細胞がさらに増殖するのを阻害する処理を含むが、これに限定されない。1つの実施形態において、これらの細胞は、哺乳動物に投与される前に、約50〜約200ラド/分または約120〜約140ラド/分の線量で照射される。典型的には、照射を用いる場合、必要とされるレベルは、2,500ラド、5,000ラド、10,000ラド、15,000ラドまたは20,000ラドである。本発明のいくつかの実施形態において、これらの細胞は、照射2日後、生細胞数について標準化した場合に照射前のレベルの少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約50%または少なくとも約100%の率で、β−フィラミンまたはその免疫原性フラグメントを産生する。本発明の1つの実施形態において、細胞は、被験体への投与前に照射によって増殖不能にされる。
【0060】
用語「個体」、「被験体」またはその文法的に等価なものは、任意の1個体の哺乳動物を意味する。
【0061】
本明細書中において、用語「定着腫瘍の逆転」または文法的に等価なものは、先在する腫瘍の抑制、退縮、または部分的もしくは完全な消失を意味する。この定義は、先在する腫瘍のサイズ、勢力または成長速度の任意の減少を含むことを意味する。
【0062】
用語「処置」、「治療用途」、または「医薬用途」は、本明細書中で使用される場合、どのような方法であれ、疾患状態または症状を改善するか、あるいは、疾患または他の望ましくない症状の進行を阻止するか、妨害するか、遅らせるか、または逆転させる、特許請求される組成物のありとあらゆる用途をいうものとする。
【0063】
用語「投与された」とは、哺乳動物に本発明の細胞(例えば、癌ワクチン)を導入する任意の方法をいう。これには、皮内、非経口、筋肉内、皮下、腹腔内、鼻腔内、静脈内(留置カテーテルによる方法を含む)、腫瘍内、輸入リンパ管による方法、または患者の状態を考慮して適切な別の経路による方法が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、被験体の任意の部位に投与されてもよい。例えば、本発明の組成物は、原発腫瘍に対して「遠位の」部位に、または原発腫瘍から「離れた」部位に送達され得る。
【0064】
用語「免疫応答の増加」とは、本明細書中で使用される場合、特定の免疫活性化の検出可能な増加(例えば、B細胞および/またはT細胞応答の増加)が検出可能であることを意味する。免疫応答の増加の例は、本発明のサイトカイン発現細胞ワクチンの投与前には検出されないか、またはより低いレベルで検出される抗原に結合する抗体の量の増加である。別の例は、細胞性免疫応答の増加である。細胞性免疫応答にはT細胞が関与し、インビトロ(例えば、クロム遊離法によって測定される)またはインビボで観察され得る。免疫応答の増加は、典型的には、特定の免疫細胞集団の増加を伴う。
【0065】
用語「腫瘍の成長を遅延させること」とは、腫瘍の成長速度の緩徐化、腫瘍サイズまたは腫瘍細胞数の増加の阻害、あるいは腫瘍細胞数、腫瘍サイズ、または腫瘍の数の減少を意味する。
【0066】
用語「腫瘍成長を阻害すること」とは、腫瘍重量、腫瘍体積、腫瘍細胞の量または腫瘍の成長速度の任意の測定可能な減少をいう。腫瘍重量の測定可能な減少は、当業者に公知の多数の方法によって検出され得る。これらの方法としては、接近可能な腫瘍の直接測定、腫瘍細胞(例えば、血液中に存在する)の計数、腫瘍抗原(例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、αフェトプロテイン(AFP))の測定、および種々の視覚化技術(例えば、MRI、CATスキャンおよびX線)が挙げられる。腫瘍成長速度の減少は、典型的には、癌を有する哺乳動物のより長い生存時間と相関する。
【0067】
本明細書中において、用語「治療有効量」または文法的に等価なものは、刺激または抑制のいずれかによって個体の免疫応答を変調するのに十分な、薬剤(例えば、本発明のサイトカイン発現細胞ワクチン)の量をいう。この量は、異なる個体、異なる腫瘍型、および異なる調製物について、異なってもよい。「治療有効量」は、「治療結果の改善」がもたらされるように、当業者によって慣例的に用いられる手順を用いて決定される。
【0068】
癌に関連して本明細書中で使用される場合、用語「治療結果の改善」および「治療効力の改善」とは、癌細胞または充実性腫瘍の成長の緩徐化または減少、あるいは癌細胞の総数または全身腫瘍組織量の減少をいう。従って、「治療結果の改善」または「治療効力の改善」は、平均余命の増加または生活の質の改善(本明細書中にさらに記載されるように)を含む、任意の臨床的に許容可能な基準に従う患者の状態の改善があることを意味する。
【0069】
本明細書中において、用語「不活性化された細胞」および「増殖不能の細胞」または文法的に等価なものは、増殖不能にする処理によって不活性化された細胞を意味する。この処理により、複数回の有糸分裂を行うことができないが、サイトカインおよび/または腫瘍抗原のようなタンパク質を発現する能力を依然として保持している細胞を得る。これは、当業者に公知の多数の方法によって実現され得る。「照射を受けた細胞」は、このような不活性化された細胞の一例である。このような照射を受けた細胞は、増殖不能にするのに十分な照射に曝露されている。
【0070】
(本発明の細胞ワクチン組成物)
本発明は、癌の治療的処置の一部として、遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を被験体に投与することにより、被検体における前立腺癌を処置する方法に関する。この方法は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)を産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変(形質導入)し、この第1の腫瘍細胞集団を単独でまたは第2の腫瘍細胞集団と組み合わせて被検体に投与することによって実行され、その結果、投与後に、SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答が検出されるが、この免疫応答は、サイトカイン発現細胞を投与する前には検出されない。腫瘍細胞は、同じ個体由来の(自己の)腫瘍細胞であっても、異なる個体由来の(同種異系の)腫瘍細胞であっても、バイスタンダー細胞(以下にさらに記載される)であってもよい。典型的には、腫瘍細胞は、処置される腫瘍または癌と同じ型の腫瘍細胞株に由来する。例えば、改変された細胞は、前立腺または前立腺癌細胞であり、患者は、前立腺癌を有する。約278kD抗原は、β−フィラミンであると同定された。
【0071】
本発明の1つの局面において、免疫応答は、体液性免疫応答である。典型的には、遺伝子改変された腫瘍細胞は、投与前に増殖不能にされる。1つの実施形態において、哺乳動物は、遺伝子改変されたサイトカイン発現腫瘍細胞と同じ型の前立腺腫瘍細胞を有するヒトである。好ましい実施形態において、治療結果の改善は、被験体への遺伝子改変されたサイトカイン発現腫瘍細胞の投与後に明らかである。当業者に公知の、前立腺癌患者に対する治療結果の改善の種々のパラメータのいずれかが、遺伝子改変されたサイトカイン発現腫瘍細胞療法の効力(例えば、血中PSA濃度の減少)を評価するのに用いられ得る。
【0072】
なお別の局面において、本発明は、増殖不能の遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞の治療有効量を被験体に投与することによって、前立腺癌患者における全身性の免疫応答を刺激する方法を提供する。腫瘍に対する全身性の免疫応答は、腫瘍退縮をもたらすか、または腫瘍の成長を阻害し得る。
【0073】
本発明の1つの好ましい実施形態において、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを利用して、エキソビボでヒトGM−CSF導入遺伝子(コード配列)をヒト腫瘍細胞に送達する。形質導入後、これらの細胞を照射して、増殖不能にする。次いで、この増殖不能のGM−CSF発現腫瘍細胞は、患者に再投与され(例えば、皮内または皮下経路によって)、それによって、癌ワクチンとして機能する。ヒト腫瘍細胞は、原発腫瘍細胞であっても、腫瘍細胞株由来であってもよい。
【0074】
一般に、本発明の実施に用いられる遺伝子改変された腫瘍細胞としては、1種以上の自己腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞および腫瘍細胞株(すなわち、バイスタンダー細胞)が挙げられる。これらの腫瘍細胞は、インビトロで、エキソビボで、またはインビボで形質導入され得る。サイトカイン(例えば、GM−CSF)を発現するように遺伝子改変され、続いて癌の処置のために患者に再投与された、自己癌細胞および同種異系癌細胞は、米国特許第5,637,483号、同第5,904,920号および同第6,350,445号に記載される。膵癌の処置のための、GM−CSFを発現する遺伝子改変癌細胞の1つの形態、すなわち「サイトカイン発現細胞ワクチン」(「GVAX」(登録商標))は、米国特許第6,033,674号および同第5,985,290号に記載される。一般的な免疫調節性の遺伝子改変されたバイスタンダー細胞株は、米国特許第6,464,973号に記載される。
【0075】
細胞ワクチンがDU145、PC−3、およびLNCaPからなる群より選択される1種以上の前立腺腫瘍細胞株を含む、GVAX(登録商標)の同種異系の形態は、WO/0026676に記載される。LNCaPは、PSAを産生する前立腺腫瘍細胞株であり、一方、PC−3およびDU−145は、PSAを産生しない前立腺腫瘍細胞株である(Pang S.ら、Hum Gene Ther.1995年11月;6(ll):1417−1426)。
【0076】
GM−CSF発現細胞ワクチン(GVAX(登録商標))を用いた臨床試験は、前立腺癌、黒色腫、肺癌、膵癌、腎癌、および多発性骨髄腫の処置のために行われてきた。とりわけ黒色腫、ならびに前立腺癌、腎癌および膵癌において、GVAX(登録商標)細胞ワクチンを用いた多くの臨床試験が記載されてきた(Simons JWら、Cancer Res.1999;59:5160−5168;Simons JWら、Cancer Res 1997;57:1537−1546;Soiffer Rら、Proc.Natl.Acad.Sci USA 1998;95:13141−13146;Jaffeeら、J Clin Oncol 2001;19:145−156;Salgiaら、J Clin Oncol 2003 21:624−30;Soifferら、J Clin Oncol 2003 21:3343−50;Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.,2004年2月18日,96(4):326−31)。
【0077】
例として、1つのアプローチにおいて、遺伝子改変されたGM−CSF発現腫瘍細胞が同種異系またはバイスタンダー細胞株として提供され、そして1つ以上のさらなる癌治療薬が処置レジメンに含まれる。別のアプローチにおいて、1つ以上のさらなる導入遺伝子が同種異系またはバイスタンダー細胞株によって発現され、一方、サイトカイン(すなわち、GM−CSF)が自己細胞または同種異系細胞によって発現される。GM−CSFコード配列は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターおよび当業者に一般に使用される慣用的な方法を用いて、腫瘍細胞に導入される。GM−CSFの好ましいコード配列は、Huebner K.ら、Science 230(4731):1282−5(1985)に記載されたゲノム配列であるが、いくつかの場合においては、GM−CSFのcDNA形態が、本発明を実施するのに役立つことが見出されている(Cantrellら、Proc.Natl.Acad.Sci.,82,6250−6254,1985)。
【0078】
一般に、遺伝子改変された腫瘍細胞は、投与の前に凍結保存される。好ましくは、遺伝子改変された腫瘍細胞は、患者に投与される前に、約50〜約200ラド/分、さらにより好ましくは約120〜約140ラド/分の線量で照射される。好ましくは、細胞は、細胞のさらなる増殖を実質的に100%阻害するのに十分な総線量で照射される。従って、細胞は、約10,000〜20,000ラドの総線量で、最適には、約15,000ラドの総線量で照射されるのが望ましい。
【0079】
サイトカイン(例えば、GM−CSF)産生細胞は、典型的には2回以上、治療過程で被験体に投与される。特定の治療過程に応じて、複数回の注射が単一時点で投与され、この処置が種々の時間間隔で繰り返されてもよい。例えば、初期処置または「初回刺激」処置に続いて、1回以上の「追加免疫」処置を行ってもよい。このような「初回刺激」および「追加免疫」処置は、典型的には、同じ投与経路で、および/またはほぼ同じ部位に投与される。複数回投与で投与される場合、最初の免疫化用量は、引き続く免疫化用量よりも高くてもよい。例えば、5×106個の初回刺激用量に続いて、複数回の106〜3×106個の追加抗原投与量で、GM−CSF産生細胞を投与してもよい。
【0080】
サイトカイン産生細胞の単回投与は、典型的には、約106〜108個の間の細胞、例えば、1×106個、2×106個、3×106個、4×106個、5×106個、6×106個、7×106個、8×106個、9×106個、107個、2×107個、5×107個、さらには108個の細胞である。1つの実施形態において、単位用量あたり106〜108個の間のサイトカイン産生細胞が存在する。サイトカイン産生細胞の数は、所定のサイトカイン産生細胞ワクチンによって産生されるサイトカインのレベルに従って調整され得る。
【0081】
本発明の実施形態には、100万個の細胞あたり24時間で少なくとも500ngのGM−CSFを産生することができる用量のサイトカイン産生細胞が含まれるが、これらに限定されない。最適な細胞投与量および割合の決定は、後に実施例の項で記載するように、日常的な決定事項であり、本明細書中に提供される開示を考慮すれば、当業者の技術範囲内である。
【0082】
本発明の組成物および方法を用いた前立腺癌患者の処置において、主治医は、より低用量のサイトカイン発現腫瘍細胞ワクチンを投与して、患者の応答を観察してもよい。より大用量のサイトカイン発現腫瘍細胞ワクチンを、治療結果の改善が明らかになるまで投与してもよい。
【0083】
本発明のサイトカイン産生細胞は、細胞を調製するのに用いられるほとんどの追加成分を除去するために処理される。特に、培地中のウシ胎仔血清、ウシ血清成分、または他の生物学的補充物質が除去される。1つの実施形態において、細胞は、例えば穏やかな遠心分離を繰り返すことによって、適切な薬理学的適合性の賦形剤中に洗い込まれる。適合性の賦形剤としては、生理学的適合性の緩衝液、例えばリン酸塩またはHepes、および栄養分、例えばデキストロース、生理学的適合性のイオン、またはアミノ酸(特に、他の免疫原性成分を含まないもの)を含むかあるいは含まない、種々の細胞培養培地、等張食塩水が挙げられる。担持試薬、例えばアルブミンおよび血漿画分ならびに非活性増粘剤も用いられ得る。
【0084】
(自己由来)
自己の遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞の使用は利点を有する。なぜなら、各患者の腫瘍が、別の患者に由来する、組織学的に類似した、MHCが一致する腫瘍細胞上に見出される腫瘍抗原のセットとは異なり得る、ユニークな腫瘍抗原のセットを発現するためである。例えば、Kawakamiら、J.Immunol.,148,638−643(1992);Darrowら、J.Immunol.,142,3329−3335(1989);およびHornら、J.Immunother.,10,153−164(1991)を参照のこと。対照的に、MHCが一致する腫瘍細胞は、遺伝子改変された腫瘍細胞の産生のための患者の腫瘍のサンプルを得るために、患者に外科手術を行う必要がないという利点を有する。
【0085】
1つの好ましい局面において、本発明は、以下の工程を実施することにより前立腺癌を処置する方法を含む:(a)前立腺腫瘍を有する哺乳動物被験体から腫瘍細胞を得る工程;(b)この腫瘍細胞を、未改変の腫瘍細胞と比較して上昇したレベルのGM−CSFの産生を可能にするために、遺伝子改変する工程;(c)この改変された腫瘍細胞を増殖不能にする工程;および(d)この遺伝子改変された腫瘍細胞を、この腫瘍細胞が得られた元の哺乳動物被験体へ、またはこの腫瘍細胞が得られた元の哺乳動物と同じMHC型を有する哺乳動物へ、再投与する工程。投与された腫瘍細胞は、自己由来であり、MHCが宿主と一致する。好ましくは、組成物は、哺乳動物被験体に皮内投与、皮下投与、または腫瘍内投与される。
【0086】
いくつかの場合において、単一の自己腫瘍細胞は、GM−CSFのみを発現しても、またはGM−CSFに加えて1つ以上のさらなる導入遺伝子を発現してもよい。他の場合において、GM−CSFおよび1つ以上のさらなる導入遺伝子は、異なる自己腫瘍細胞によって発現され得る。本発明の1つの局面において、自己腫瘍細胞は、GM−CSFをコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。別の局面において、この同じ自己腫瘍細胞または別の自己腫瘍細胞は、少なくとも1つのさらなる導入遺伝子をコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。この1つ以上の導入遺伝子をコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを用いて、同じかまたは異なる自己腫瘍細胞に導入される。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結された選択マーカー配列をさらに含んでも、含まなくてもよい。望ましくは、自己腫瘍細胞は、高レベルのGM−CSFを発現する。
【0087】
(同種異系)
Jaffee(Seminars in Oncology,22,81−91(1995))らによって概説されるように、研究者らは、腫瘍ワクチンとして、自己由来の、MHCが一致する細胞の代替を探求した。初期の腫瘍ワクチンストラテジーは、ワクチン接種細胞が、そのMHCクラスIおよびクラスII分子上に腫瘍抗原を提示する抗原提示細胞(APC)として機能して、免疫系のT細胞アームを直接活性化するという理解に基づいていた。Huangら(Science,264,961−965,1994)の結果は、ワクチン接種細胞よりもむしろ宿主のプロフェッショナルAPCが、GM−CSFのようなサイトカイン(単数または複数)を分泌し、その結果、骨髄由来APCが腫瘍の部位に補充されることによって、免疫系のT細胞アームを初回刺激することを示している。骨髄由来APCは、腫瘍の全細胞タンパク質をプロセシングのために取り込み、次いで抗原ペプチド(単数または複数)をMHCクラスIおよびクラスII分子上に提示することによって、免疫系のCD4+およびCD8+の両方のT細胞アームを初回刺激し、その結果、全身性の腫瘍特異的な抗腫瘍免疫応答を引き起こす。理論に制約されるわけではないが、これらの結果から、抗癌免疫応答を惹起するために自己細胞またはMHCが一致する細胞を用いることは必須ではないか、または最適ではない場合があること、および同種異系のMHC遺伝子(同じ種の遺伝的に異なる個体に由来する)の転座が腫瘍免疫原性を増強し得ることが示唆される。より詳細には、ある場合において、同種異系のMHCクラスI分子を発現する腫瘍の拒絶により、未改変の親腫瘍でのその後のチャレンジに対する全身性の免疫応答が増強される。例えば、Jaffeeら(前出)、およびHuangら(前出)を参照のこと。
【0088】
本明細書中に記載されるように、「腫瘍細胞株」は、初めに腫瘍に由来した細胞を含む。このような細胞は、典型的には形質転換されている(すなわち、培養下で無限の増殖を示す)。1つの好ましい局面において、本発明は、以下の工程を実施することにより前立腺癌を処置する方法を提供する:(a)腫瘍細胞株を得る工程;(b)この腫瘍細胞株を遺伝子改変して、これらの細胞がサイトカイン(例えば、GM−CSF)を未改変の腫瘍細胞株と比較して上昇したレベルで産生できるようにする工程;(c)この改変された腫瘍細胞株を増殖不能にする工程;および(d)この腫瘍細胞株を、この腫瘍細胞株が得られた元の腫瘍と同じ腫瘍型の少なくとも1つの腫瘍を有する哺乳動物被験体(宿主)に投与する工程。投与された腫瘍細胞株は、宿主と同種異系であり、MHCが一致しない。このような同種異系細胞株は、予め調製され、特徴づけられ、既知数の導入遺伝子(例えば、GM−CSF)発現細胞を含むバイアルに分取され、そして保存(すなわち凍結)され得るので、患者への投与のために十分に特徴づけられた細胞が得られるという利点を有する。遺伝子改変された同種異系細胞の産生方法は、例えばWO00/72686に記載される。
【0089】
遺伝子改変された、GM−CSFを発現する同種異系細胞を調製する1つのアプローチにおいて、GM−CSFを単独でコードするかまたは1つ以上のさらなる導入遺伝子の核酸コード配列と組み合わせてコードする核酸配列(導入遺伝子)が、同種異系の腫瘍細胞株(すなわち、処置される個体以外の個体由来)である細胞株に導入される。別のアプローチにおいて、GM−CSFを単独でコードするかまたは1つ以上のさらなる導入遺伝子の核酸コード配列と組み合わせてコードする核酸配列(導入遺伝子)が、別々の同種異系の腫瘍細胞株に導入される。さらに別のアプローチにおいて、2つ以上の異なる遺伝子改変された同種異系のGM−CSF発現細胞株(例えば、LNCaPおよびPC−3)が、組み合わせて(典型的には1:1の比で)投与される。一般に、細胞または細胞の集団は、処置される腫瘍または癌(例えば、前立腺癌)と同じ型の腫瘍細胞株に由来する。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを用いて、同じかまたは異なる同種異系腫瘍細胞に導入されてもよい。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結された選択マーカー配列をさらに含んでも、含まなくてもよい。望ましくは、同種異系細胞株は、高レベルのGM−CSFを発現する。
【0090】
本発明の別の局面において、1つ以上の、遺伝子改変された、GM−CSFを発現する同種異型細胞株は、抗原に対する患者の免疫応答がGM−CSF(例えば、GM−CSFを発現するように遺伝子改変された同種異系細胞またはバイスタンダー細胞)の存在下で増大するように、抗原に曝露される。このような曝露は、エキソビボで行われてもインビボで行われてもよい。1つの好ましい実施形態において、この抗原は、β−フィラミンであると同定された、SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原である。β−フィラミンは、被験体に投与される細胞によって(細胞上に)提供されるか、または患者にネイティブな細胞によって提供され得る。このような場合、組成物は、典型的には照射(本明細書中にさらに記載されるように、これらの同種異型細胞は、組織培養プレート中で平板培養され、Cs線源を用いて室温で照射される)によって、増殖不能にされる。本発明の同種異系細胞ワクチン組成物は、同種異系細胞に加えて、遺伝子改変されていてもされていなくてもよい他の細胞(すなわち、異なる型の同種異型細胞、自己細胞、またはバイスタンダー細胞)を含み得る。遺伝子改変されている場合、異なる型の同種異型細胞、自己細胞、またはバイスタンダー細胞は、GM−CSFまたは別の導入遺伝子を発現し得る。所定の投与における同種異系細胞と他の細胞の比は、その組み合わせに応じて変動する。
【0091】
同種異型細胞株の組成物を患者へ導入するために、任意の適切な投与経路が用いられ得、好ましくは、この組成物は、皮内に、皮下にまたは腫瘍内に投与される。
【0092】
本発明の実施における同種異系細胞株の使用は、遺伝子改変されたGM−CSF発現細胞株を癌患者へ投与することにより、自己癌抗原(GM−CSFのパラクリン産生)とともに、腫瘍に対する有効な免疫応答を引き起こすという、治療上の利点をもたらす。これにより、各患者につき自己腫瘍細胞を培養して形質導入する必要性が除去される。
【0093】
(バイスタンダー)
1つのさらなる局面において、本発明は、少なくとも1つの導入遺伝子を発現する、一般的な免疫調節性の遺伝子改変された導入遺伝子を発現するバイスタンダー細胞を提供する。同じ一般的なバイスタンダー細胞株が、2つ以上の導入遺伝子を発現してもよく、異なる一般的なバイスタンダー細胞株によって、個々の導入遺伝子が発現されてもよい。一般的なバイスタンダー細胞株は、主要組織適合性クラスI(MHC−I)抗原および主要組織適合性クラスII(MHC−II)抗原を天然に欠失するか、またはMHC−I抗原およびMHC−II抗原を欠失するように改変された細胞を含む。本発明の1つの局面において、一般的なバイスタンダー細胞株は、導入遺伝子(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)をコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。別の局面において、この同じ一般的なバイスタンダー細胞株または別の一般的なバイスタンダー細胞株は、少なくとも1つのさらなる導入遺伝子をコードする核酸配列(その発現に必要なプロモーターおよび発現制御配列に作動可能に連結されている)を含むベクターの導入によって改変される。この導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを用いて、同じかまたは異なる一般的なバイスタンダー細胞株に導入され得る。導入遺伝子(単数または複数)をコードする核酸配列は、プロモーターに作動可能に連結された選択マーカー配列をさらに含んでも、含まなくてもよい。抗腫瘍免疫応答を刺激する導入遺伝子(単数または複数)の任意の組み合わせが、本発明の実施に役立つことが見出されている。好ましくは、一般的なバイスタンダー細胞株は、規定培地(すなわち、無血清培地)中で、好ましくは懸濁液として、培養される。
【0094】
好ましい一般的なバイスタンダー細胞株の一例は、K562(ATCC CCL−243;Lozzioら、Blood 45(3):321−334(1975);Kleinら、Int.J.Cancer 18:421−431(1976))である。ヒトバイスタンダー細胞株の作製の詳細な記載は、例えば米国特許第6,464,973号に記載される。
【0095】
望ましくは、一般的なバイスタンダー細胞株は、高レベルの導入遺伝子(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)を発現する。
【0096】
本発明の実施において、1つ以上の一般的なバイスタンダー細胞株は、例えば自己腫瘍細胞によって提供される、自己癌抗原(一般的なバイスタンダー細胞株組成物を一緒に含む)とともにインキュベートされ、次いで、この一般的なバイスタンダー細胞株組成物が患者に投与される。一般的なバイスタンダー細胞株組成物を患者へ導入するために、任意の適切な投与経路が用いられ得る。好ましくは、この組成物は、皮内に、皮下にまたは腫瘍内に投与される。
【0097】
典型的には、自己癌抗原は、処置される癌の細胞(すなわち、自己癌細胞)によって提供される。このような場合、組成物は、照射(上に詳述されるように、これらのバイスタンダー細胞および癌細胞は、組織培養プレート中で平板培養され、Cs線源を用いて室温で照射される)によって、増殖不能にされる。
【0098】
所定の投与におけるバイスタンダー細胞と自己癌細胞の比は、その組み合わせに応じて変動する。GM−CSFを産生するバイスタンダー細胞に関して、所定の投与におけるバイスタンダー細胞と自己癌細胞の比は、治療上有効レベルのGM−CSFが産生されるような比であるべきである。GM−CSFの閾値とは別に、バイスタンダー細胞と自己癌細胞の比は、1:1を超えるべきではない。バイスタンダー細胞と腫瘍細胞または腫瘍抗原との適切な比は、当該分野で公知の慣用的な方法を用いて決定され得る。
【0099】
本発明の実施におけるバイスタンダー細胞株の使用は、サイトカインを発現するバイスタンダー細胞株および少なくとも1つのさらなる癌治療薬(同じかまたは異なる細胞によって発現される)を癌患者へ投与することにより、自己癌抗原(免疫調節性サイトカインのパラクリン産生)とともに、腫瘍に対する有効な免疫応答を引き起こすという、治療上の利点をもたらす。これにより、各患者につき自己腫瘍細胞を培養して形質導入する必要性が除去される。
【0100】
最大約30,000ラドまでの線量が許容可能であるが、典型的には、最小線量の約3500ラドが、細胞を不活性化し、かつ増殖不能にするのに十分である。いくつかの実施形態において、細胞は、哺乳動物に投与される前に、約50〜約200ラド/分または約120〜約140ラド/分の線量で照射される。照射を用いる場合、必要なレベルは、典型的には2,500ラド、5,000ラド、10,000ラド、15,000ラドまたは20,000ラドである。1つの実施形態において、細胞を不活性化し、かつ増殖不能にするために、約10,000ラドの線量が用いられる。照射は、細胞を増殖不能にする1つの方法にすぎず、細胞が複数回の細胞分裂を行うことは不可能になるが、導入遺伝子(例えば、サイトカイン)を発現する能力は保持する他の不活性化方法も、本発明に包含されると理解される(例えば、マイトマイシンC、シクロヘキシミド、および概念的に類似する薬剤を用いた処理、または細胞による自殺遺伝子の取り込み)。
【0101】
(サイトカイン)
「サイトカイン」または文法的に等価なものは、限定されないが、局所的に作用し、かつ血中を循環しないホルモンを包含し、このホルモンが本発明に従って使用される場合、個体の免疫応答の変更をもたらす。このサイトカインの定義には、個体の免疫応答の変更をもたらす接着分子またはアクセサリー分子も含まれる。従って、サイトカインの例としては、IL−1(aまたはP)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF、M−CSF、G−CSF、LIF、LT、TGF−P、y−IFN、a−IFN、P−IFN、TNF−a、BCGF、CD2またはICAMが挙げられるが、これらに限定されない。上記のサイトカインおよび他の適用可能な免疫調節薬の説明は、「Cytokines and Cytokine Receptors」、A.S.Hamblin,D.Male(編)、Oxford University Press,New York,NY(1993))、または「Guidebook to Cytokines and Their Receptors」、N.A.Nicola(編),Oxford University Press,New York,NY(1995))に見出され得る。ヒトにおける治療用途が意図される場合、サイトカインは、好ましくはヒト型のタンパク質に実質的に類似しているか、ヒト配列に由来する(すなわち、ヒト起源のサイトカイン)。1つの好ましい実施形態において、導入遺伝子は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)である。
【0102】
さらに、ヒト型の所定のサイトカインと実質的な構造上の相同性および/またはアミノ酸配列同一性を有する他の哺乳動物のサイトカインは、ヒト免疫系に対して類似の活性を示すことが証明されている場合に、本発明において有用である。同様に、任意の特定のサイトカインに実質的に類似しているが、タンパク質配列に保存的な変化を有するタンパク質もまた、本発明における用途が見出される。従って、タンパク質配列における保存的置換は、タンパク質分子の機能的能力を妨害することなく行われ得るので、タンパク質は、本発明においてサイトカインとして機能するが、現在既知の配列とはわずかに異なるアミノ酸配列を有するように作製され得る。このような保存的置換としては、典型的には、以下の群内での置換が挙げられる:グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0103】
顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、線維芽細胞、内皮細胞、T細胞およびマクロファージによって産生されるサイトカインである。このサイトカインは、顆粒球およびマクロファージ系の造血細胞の増殖を誘導することが示されている。さらに、このサイトカインはまた、免疫系の主要な抗原提示細胞(APC)である樹状細胞の抗原プロセシングおよび提示機能を活性化する。動物モデル実験の結果は、GM−CSF産生細胞(すなわち、GVAX(登録商標))が親の非形質転換細胞に対する免疫応答を誘導し得ることを、納得のいくように示した。
【0104】
GM−CSFは、強い抗腫瘍応答を刺激し得る樹状細胞(DC)のサブクラスの抗原提示能力を増強する(Gassonら、Blood、1991年3月15日;77(6):1131−45;Machら、Cancer Res.2000年6月15日;60(12):3239−46;MachおよびDranoff、Curr Opin Immunol.2000年10月;12(5):571−5に概説)。例えば、BoonおよびOld、Curr Opin Immunol.1997年10月1日;9(5):681−3を参照のこと)。流入領域リンパ節におけるT細胞への腫瘍抗原エピトープの提示により、腫瘍転移に対する全身性の免疫応答が生じると予想される。また、照射されたGM−CSF発現腫瘍細胞は、腫瘍チャレンジに対する強力なワクチンとして機能することが示された(「GVAX(登録商標)」と題される、下記の節でさらに記載されるように)。遺伝子改変された細胞によって送達された局所的に高濃度の特定のサイトカインは、腫瘍退縮をもたらすことが見出されている(Abeら、J.Cane.Res.Clin.Oncol.121:587−592(1995);Gansbacherら、Cancer Res.50:7820−7825(1990);Forniら、Cancer and Met.Reviews 7:289−309(1988)。PCT公開番号WO200072686は、種々のサイトカインを発現する腫瘍細胞を記載する。
【0105】
本発明の1つの実施形態において、細胞ワクチンは、ワクチンの細胞内での発現のための調節エレメントに作動可能に連結された、GM−CSFコード配列を含む。GM−CSFコード配列は、マウスまたはヒトのGM−CSFをコードし得、ゲノムDNA(配列番号1)またはcDNA(配列番号2)の形態であり得る。cDNAの場合、GM−CSFのコード配列は、翻訳前にスプライスアウトされるイントロン配列を含まない。対照的に、ゲノムGM−CSFについては、コード配列は、翻訳前にスプライスアウトされる少なくとも1つのネイティブのGM−CSFイントロンを含む。1つの実施形態において、GM−CSFコード配列は、配列番号3をコードする。GM−CSFコード配列の他の例は、GenBank登録番号AF373868、AC034228、AC034216、M10663およびNM000758に見出される。
【0106】
本発明によるGM−CSFコード配列は、ストリンジェントな条件下で配列番号1または配列番号2に示される配列にハイブリダイズする、完全長の相補体であってもよい。「にハイブリダイズする」という句は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物中に存在する(例えば、全細胞の)DNAまたはRNAである場合、ストリンジェントな条件下でこのヌクレオチド配列に分子が結合するか、二重鎖を形成するか、またはハイブリダイズすることをいう。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸の間の相補的なハイブリダイゼーションをいい、標的核酸配列の所望の検出を達成するために、ハイブリダイゼーション培地のストリンジェンシーを低下させることにより適応され得る、軽微なミスマッチを包含する。
【0107】
従って、本発明によれば、GM−CSFのようなサイトカインのコード配列は、ネイティブのGM−CSFコード配列に対し、その全長にわたって少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性パーセントを有することになる。例えば、本発明によるGM−CSFコード配列は、配列比較アルゴリズムで(上記のように)または目視検査によって測定されるように、最大一致について比較および整列される場合、配列番号1または配列番号2で示される配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約50ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約100ヌクレオチド長の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約200ヌクレオチド長の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、配列の全長にわたって存在する。
【0108】
さらに、本発明によれば、GM−CSFのようなサイトカインのアミノ酸配列は、最大一致について比較および整列される場合、配列番号3で示される配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。
【0109】
1つの実施形態において、細胞は、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)の発現を増強するように操作(遺伝子改変)され、かつ、前立腺癌に対する免疫応答を増強する1つ以上のタンパク質(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)を発現するようにさらに操作されるか、または前立腺癌に対する免疫応答を増強する1つ以上のタンパク質(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)を発現するようにさらに操作された異なる細胞と組み合わせて投与される。
【0110】
(β−フィラミン)
本発明の1つの実施形態は、β−フィラミンのような抗原に対する免疫応答の増強を引き起こす様式で前立腺癌を処置する方法であり、この免疫応答の増強は、被験体に対する治療結果の改善(例えば、患者の血清中のPSAレベルの低下、癌に関連した痛みの減少、または任意の臨床的に許容可能な基準による患者の状態の改善(転移の減少、平均余命の増加、もしくは生活の質の改善が挙げられるが、これらに限定されない))と関連する。β−フィラミンは、患者のネイティブな細胞によって内因的に発現されてもよく、または被験体(患者)に外因的に提供されてもよい。
【0111】
哺乳動物は、3つのフィラミン遺伝子、フィラミン−A、フィラミン−B(β−フィラミン;フィラミン−3)およびフィラミンCを有する。ヒトフィラミンは、N末端のアクチン結合ドメインに続いて24個の特徴的な繰り返しを含む、280kDaのタンパク質である。ヒトフィラミンはまた、多くの他の細胞タンパク質と相互作用する。フィラミンは、通常、他のフィラミンとともに形成された約560kDAのホモダイマーまたはヘテロダイマーとして見出される。β−フィラミンはまた、ABP−278/276としても知られている(Xuら、1998、Blood 92:1268−1276)。例えば、Takafutaら1998 J Biol Chem 273:17531−17538;Flierら、J.Cell Biol.,156(2)361−376,2002を参照のこと。2602アミノ酸のβ−フィラミンタンパク質配列は、GenBank登録番号NP_001448で見出され得る。フィラミンBおよびフィラミン−Aの発現パターンは、例えば、Sheenら、Human Mol.Gen.11(23)2845−2854,2002に記載される。Leedmanら(Proc Natl Acad Sci USA.90(13):5994−8,1993)は、後に指定されたβ−フィラミンである、アクチン結合タンパク質に関連するタンパク質のクローニングを記載する。
【0112】
本発明に従う1つの実施形態において、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)のコード配列は、ストリンジェントな条件下で配列番号4に示した配列にハイブリダイズする全長の相補体を有する。「にハイブリダイズする」という句は、特定のヌクレオチド配列が複雑な混合物(例えば、全細胞)中に存在するDNAまたはRNAである場合、ストリンジェントな条件下でこのヌクレオチド配列に分子が結合するか、二重鎖を形成するか、またはハイブリダイズすることをいう。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸の間の相補的なハイブリダイゼーションをいい、標的核酸配列の所望の検出を達成するために、ハイブリダイゼーション培地のストリンジェンシーを低下させることにより適応され得る、軽微なミスマッチを包含する。
【0113】
従って、本発明によれば、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)のコード配列は、ネイティブのコード配列に対し、その全長にわたって少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性パーセントを有することになる。例えば、本発明によるβ−フィラミンコード配列は、配列比較アルゴリズムで(上記のように)または目視検査によって測定されるように、最大一致について比較および整列される場合、配列番号4で示される配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。1つの実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約50ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約100ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、少なくとも約200ヌクレオチド長の配列の領域にわたって存在する。別の実施形態において、所定の配列同一性パーセントは、配列の全長にわたって存在する。
【0114】
さらに、本発明によれば、前立腺癌に対する免疫応答と関連する抗原(例えば、β−フィラミン)のアミノ酸配列は、最大一致について比較および整列される場合、配列番号5で示されるネイティブのβ−フィラミン配列に対して少なくとも80%、85%、87%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する。
【0115】
本発明の実施において、β−フィラミンに対する免疫応答は、サイトカイン発現細胞ワクチン、例えば、GM−CSF発現腫瘍細胞(すなわちGVAX(登録商標))の患者への投与の後に増強される。
【0116】
本発明の1つの実施形態において、β−フィラミンを発現する細胞の集団は、細胞ワクチンの一部として患者に投与される。β−フィラミン発現細胞は、GM−CSFのようなサイトカインを発現する細胞と同じであっても、異なっていてもよい。本発明の別の実施形態において、細胞ワクチンは、精製されたβ−フィラミンタンパク質またはその免疫原性フラグメントから構成される。細胞ワクチンは、免疫増強剤(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン、アジュバントなど)をさらに含み得る。本発明の実施において、完全長のβ−フィラミンタンパク質は、抗原として用いられ得る。しかし、β−フィラミンに対する検出された免疫応答は、β−フィラミンのフラグメントへの被験体の曝露後か、または外因的に提供されたβ−フィラミンの非存在下における細胞ワクチン(例えば、GVAX(登録商標))の投与の際にも明らかであることが、当業者には理解される。β−フィラミンフラグメントは、完全長のアミノ酸配列または選択的スプライシングバリアントの線状セグメント、欠失変異体あるいは他の変異体を含み得る。本発明で有用であるために、β−フィラミンフラグメントは、免疫原性フラグメントである(すなわち、免疫応答を惹起し得る)べきである。
【0117】
細胞は、当業者に公知の種々の方法によって、β−フィラミン発現について増強され得る。例えば、細胞は、β−フィラミンコード配列に作動可能に連結された、β−フィラミンをコードするベクターで形質導入され得る。適切なプロモーターは、当業者に公知であり、かつ入手可能である。細胞を形質導入するのに有用なベクターは、β−フィラミンの発現の増強をもたらすのに有効な任意のベクターであり得る。1つの実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクターのようなレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクター)である。ベクターはまた、被験体における癌に対する免疫応答を増強するタンパク質(例えば、GM−CSFのようなサイトカイン)のコード領域を細胞に形質導入するのに用いられ得る。このコード領域とβ−フィラミンコード領域は、1つのベクターに配置されても、別々のベクターに配置されてもよく、かつ、同じ細胞に導入されても、異なる細胞に導入されてもよい。別々のベクターに配置される場合、この別々のベクターは、同じ起源の(例えば、レトロウイルスの)ベクターであっても、異なる起源のベクターであってもよい。1つの実施形態において、細胞は、まずβ−フィラミンをコードするベクターで形質導入され、次いで、GM−CSFをコードするベクターで形質導入される。別の実施形態において、細胞は、まず前立腺癌に対する免疫応答を増強する少なくとも1つのタンパク質をコードするベクターで形質導入され、次いで、β−フィラミンをコードするベクターで形質導入される。
【0118】
本発明の1つの実施形態において、ベクター内のβ−フィラミンコード配列は、ネイティブ配列(GenBank NM_001457;配列番号4)または「再コード化(recoded)」配列である。「再コード化」遺伝子とは、核酸によってコードされるポリペプチドがもとの配列のまま変化しないが、ポリペプチドをコードする核酸配列が変化するように改変されるコード配列をいう。遺伝暗号の縮重のため、同じアミノ酸翻訳産物をコードし得る複数のDNAおよびRNAコドンが存在することが、当該分野で周知である。さらに、異なる生物体は、アミノ酸を合成するための特定のコドンの利用について異なる優先度を有することも公知である。従って、本発明の1つの実施形態において、ベクターは、ヒトに好ましいコドンで再コード化されたβ−フィラミンコード配列を含む。1つの実施形態において、β−フィラミンコード配列は、選択的にスプライスされた形態のβ−フィラミンをコードする。選択的にスプライスされた形態のβ−フィラミンは、GenBank登録番号AF353666およびAF353667ならびにvan der Flierらに記載される。
【0119】
本発明の別の実施形態は、腫瘍細胞および/またはβ−フィラミンに対する免疫応答を増加させる方法であって、この方法は、本発明の遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を前立腺癌患者に投与して、患者に治療結果の改善をもたらす工程を包含する。本発明の別の実施形態は、腫瘍細胞および/またはβ−フィラミンに対する免疫応答を増加させる方法であって、この方法は、β−フィラミンの発現の増強を示す遺伝子改変されたサイトカイン発現細胞を前立腺癌患者に投与し、この投与後に、前立腺癌に対する患者の免疫応答が増加する工程を包含する。本発明のさらに別の実施形態は、腫瘍細胞およびβ−フィラミンに対する免疫応答を増加させる方法であって、この方法は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)の発現の増強を示す遺伝子改変された細胞を前立腺癌患者に投与し、投与後に、β−フィラミンに対する哺乳動物の免疫応答が増加する工程を包含する。1つの実施形態において、増加した免疫応答は、体液性である。なお別の実施形態において、増加した免疫応答は、細胞性である。なおさらなる実施形態において、増加した免疫応答は、細胞性および体液性の両方である。本発明の好ましい局面において、遺伝子改変されたサイトカイン産生細胞の投与後に、前立腺癌細胞の増殖が阻害される。
【0120】
これらの細胞が、検出可能なレベルのβ−フィラミンを発現するか否か、および/または、β−フィラミンに対する免疫応答が、サイトカイン発現細胞ワクチンの投与後に変化したか否かを決定するアッセイとしては、ELISA、ウエスタンブロット、免疫蛍光アッセイ(IFA)、FACSまたは電気化学発光(ECL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
(癌ワクチンとして使用するための細胞の遺伝子改変)
本発明の方法および組成物は、特定のベクターシステムによって本明細書中に詳細に例示されるが、同じ方法および組成物が、遺伝子送達システムとは無関係に、前立腺癌の処置に有用であることが見出されることを、当業者は容易に理解する。
【0122】
本発明は、哺乳動物細胞へのGM−CSFまたはβ−フィラミンのような導入遺伝子の導入のための任意のベクターの使用を企図する。例示的なベクターとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス(Ad)ベクター(その複製可能型、複製欠損型および弱い型(gutless form)を含む)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルス40(SV−40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン−バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、Harveyマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクターおよび非ウイルス性プラスミドベクターのような、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。1つの好ましいアプローチにおいて、ベクターは、ウイルスベクターである。ウイルスは、効率的に細胞に形質導入して、ウイルス自体のDNAを宿主細胞に導入することができる。組換えウイルスベクターを作製する際に、非必須遺伝子は、異種(または非ネイティブの)タンパク質の遺伝子またはコード配列に置換される。
【0123】
ウイルスベクターを構築する際に、非必須遺伝子は、1つ以上の治療化合物または因子をコードする1つ以上の遺伝子に置換される。典型的には、ベクターは、複製開始点を含み、かつ、ベクターは、ベクターを同定および選択可能にする「マーカー」または「選択マーカー」機能をさらに含んでも、含まなくてもよい。任意の選択マーカーが使用され得るが、このような発現ベクターで用いる選択マーカーは、一般に当該分野で公知であり、適切な選択マーカーの選択は、宿主細胞に依存する。抗生物質または他の毒素に対する耐性を付与するタンパク質をコードする選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン、メトトレキサート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southernら、J.,J MoI Appl Genet.1982;1(4):327−41(1982))、ミコフェノール酸(Mulliganら、Science 209:1422−7(1980))、ピューロマイシン、ゼオマイシン、ハイグロマイシン(Sugdenら、MoI Cell Biol.5(2):410−3(1985))またはG418が挙げられる。
【0124】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターは、インビトロでの強力な発現、優れた力価、ならびにインビボでの分裂および非分裂細胞に形質導入する能力を示すことが知られている(Hittら、Adv in Virus Res 55:479−505(2000))。これらのベクターは、インビボで用いられる場合、ベクター骨格に対して惹起される免疫応答により、強力であるが一過性の遺伝子発現を引き起こす。本発明で用いられる組換えAdベクターは、以下を含む:(1)複製欠損Adビリオンへのベクターの組み込みを可能にするパッケージング部位;および(2)治療化合物コード配列。感染性ビリオンへの組み込みに必要であるか、または組み込みに役立つ他のエレメントとしては、5’および3’Ad ITR、E2およびE3遺伝子などが挙げられる。
【0125】
本発明の組換えAdベクターをカプセル化する複製欠損Adビリオンは、Adパッケージング細胞およびパッケージ技術を用いる当該分野で公知の標準技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,872,005号(その全体が本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。治療化合物をコードする遺伝子は、一般に、アデノウイルスのウイルスゲノムの欠失させたE1A、E1BまたはE3領域に挿入される。本発明の実施に用いられる好ましいアデノウイルスベクターは、1つ以上の野生型Ad遺伝子産物(例えば、E1a、E1b、E2、E3、E4)を発現しない。好ましい実施形態は、典型的に、E1、E2A、E4および必要に応じてE3遺伝子領域の機能を補完するパッケージング細胞株とともに用いられるビリオンである。例えば、米国特許第5,872,005号、同第5,994,106号、同第6,133,028号および同第6,127,175号を参照のこと。アデノウイルスベクターは、当該分野で公知の標準技術を用いて、精製および処方される。組換えAAVベクターは、標的化細胞において選択された遺伝子組換え産物の発現および産生を行わせ得ることを特徴とする。従って、組換えベクターは、キャプシド形成に必須のAAVの配列および標的細胞の感染のための物理的構造の少なくともすべてを含む。
【0126】
本発明の実施に用いられる組換えAAV(rAAV)ビリオンは、当業者に公知の標準的な方法論を用いて作製され得、かつ、これらのビリオンは、構成要素が転写の方向に作動可能に連結されるように、転写開始および終止配列を含む制御配列、ならびに治療化合物のコード配列またはその生物活性フラグメントを含むように構築される。これらの構成要素は、機能的AAV ITR配列によって5’および3’末端に結合される。「機能的AAV ITR配列」とは、ITR配列が、AAVビリオンのレスキュー、複製およびパッケージングを目的として機能することを意味する。従って、本発明のベクターで用いるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更されてもよく、あるいはAAV ITRは、いくつかのAAV血清型のうちのいずれかに由来するものであってもよい。AAVベクターは、アデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターであり、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいAAVベクターは、野生型REPおよびCAP遺伝子の全部または一部を欠失しているが、機能的なフランキングITR配列を保持している。表1は、遺伝子導入に用いる例示的なAAV血清型を示す。
【0127】
【表1】
典型的には、AAV発現ベクターは、プロデューサー細胞内へ導入され、続いてAAVヘルパー構築物の導入が行われるが、このヘルパー構築物は、プロデューサー細胞内で発現され得るAAVコード領域を含み、AAVベクターに欠けているAAVヘルパー機能を補完する。ヘルパー構築物は、米国特許第6,548,286号に記載されるように、典型的にはp5に続く開始コドンをATGからACGまで変異させることによって、大きなREPタンパク質(Rep78およびRep68)の発現をダウンレギュレートするように設計され得る。続いて、プロデューサー細胞内へのヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターの導入が行われるが、このヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターは、効率的なrAAVウイルス産生を支持し得る補助機能を提供する。次いで、このプロデューサー細胞は培養されて、rAAVを産生する。これらの工程は、標準的な方法論を用いて実施される。本発明の組換えAAVベクターをカプセル化する複製欠損AAVビリオンは、AAVパッケージング細胞およびパッケージング技術を用いる当該分野で公知の標準技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,436,146号;同第5,753,500号、同第6,040,183号、同第6,093,570号および同第6,548,286号に見出され得る。AAVをパッケージングするためのさらなる組成物および方法は、Wangら(US2002/0168342)に記載され、当業者の知識の範囲内の技術を含む。
【0128】
AAVの多数の血清型が現在公知であるが、新しい血清型および既存の血清型の変種が今日依然として同定されており、本発明の範囲内であると考えられる。Gaoら(2002),PNAS 99(18):11854−6;Gaoら(2003),PNAS 100(10):6081−6;BossisおよびChiorini(2003),J.Virol.77(12):6799−810)を参照のこと。特定の標的細胞の形質導入を最適化するために、または特定の標的組織(例えば、脳)内の特定の細胞型を標的化するために、種々のAAV血清型が用いられる。種々のAAV血清型の使用は、悪性組織の標的化を容易にし得る。AAV血清型(1型、2型、4型、5型および6型を含む)は、脳組織に形質導入することが示されている。例えば、Davidsonら(2000),PNAS 97(7)3428−32;Passiniら(2003),J.Virol 77(12):7034−40)を参照のこと。特定のAAV血清型は、標的組織または細胞をより効率的に標的化し得、そして/あるいは標的組織または細胞内で複製し得る。単一の自己相補的AAVベクターは、形質導入効率を増加させ、その結果、導入遺伝子発現のより速い開始をもたらすために、本発明の実施に用いられ得る(McCartyら、Gene Ther.2001年8月;8(16):1248−54)。
【0129】
本発明の実施において、rAAVビリオンを産生するための宿主細胞としては、哺乳動物細胞、昆虫細胞、微生物および酵母が挙げられる。宿主細胞はまた、AAVのREPおよびCAP遺伝子が宿主細胞内に安定して維持されるパッケージング細胞であってもよく、あるいは宿主細胞は、AAVベクターゲノムが安定して維持されるプロデューサー細胞であってもよい。例示的なパッケージング細胞およびプロデューサー細胞は、293細胞、A549細胞またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当該分野で公知の標準技術を用いて精製および処方される。
【0130】
レトロウイルスベクターは、遺伝子送達のための一般的なツールである(Miller,1992,Nature 357:455−460)。レトロウイルスベクター、およびより詳細にはレンチウイルスベクターは、本発明を実施するのに用いられ得る。レトロウイルスベクターは、試験されて、広範な標的細胞のゲノムDNAへ種々の目的の遺伝子を安定して導入するのに適した送達ビヒクルであることが見出されている。再配列されていない単一コピー導入遺伝子を細胞内に送達するレトロウイルスベクターの能力により、レトロウイルスベクターは、遺伝子を細胞内に移すのに十分に適したものになっている。さらに、レトロウイルスは、宿主細胞上の特定細胞表面レセプターへのレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質の結合によって、宿主細胞に入る。従って、コードされたネイティブのエンベロープタンパク質が、このネイティブのエンベロープタンパク質とは異なる細胞特異性を有する(例えば、ネイティブのエンベロープタンパク質と比較して異なる細胞表面レセプターに結合する)異種エンベロープタンパク質で置換された、シュードタイプレトロウイルスベクターも、本発明の実施に有用であることが見出され得る。特定の型の標的細胞に対して導入遺伝子をコードするレトロウイルスベクターの送達を行う能力は、遺伝子治療用途に非常に望ましい。
【0131】
本発明は、例えば、1つ以上の導入遺伝子配列を含むレトロウイルストランスファーベクターおよび1つ以上のパッケージングエレメントを含むレトロウイルスパッケージングベクターを含む、レトロウイルスベクターを提供する。特に、本発明は、シュードタイプレトロウイルスを産生するために、異種のエンベロープタンパク質かまたは機能的に改変されたエンベロープタンパク質をコードする、シュードタイプレトロウイルスベクターを提供する。
【0132】
本発明のレトロウイルスベクターのコア配列は、例えば、B型、C型およびD型レトロウイルス、ならびにスプマウイルスおよびレンチウイルスを含む、多種多様なレトロウイルスから容易に得られ得る(RNA Tumor Viruses,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory,1985を参照のこと)。本発明の組成物および方法に用いるのに適したレトロウイルスの例としては、レンチウイルスが挙げられるが、これに限定されない。本発明の組成物および方法に用いるのに適した他のレトロウイルスとしては、ニワトリ白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、マウス白血病ウイルス、ミンク細胞フォーカス誘導ウイルス(Mink−Cell Focus−Inducing Virus)、マウス肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルスおよびラウス肉腫ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましいマウス白血病ウイルスとしては、4070Aおよび1504A(HartleyおよびRowe,J.Virol.19:19−25,1976)、Abelson(ATCC番号VR−999)、Friend(ATCC番号VR−245)、Graffi、Gross(ATCC番号VR−590)、Kirsten、Harvey肉腫ウイルスおよびRauscher(ATCC番号VR−998)、ならびにモロニーマウス白血病ウイルス(ATCC番号VR−190)が挙げられる。このようなレトロウイルスは、American Type Culture Collection(「ATCC」;Rockville,Md.)のような保管所またはコレクションから容易に得られるか、または一般に利用可能な技術を用いて既知の供給源から単離され得る。
【0133】
好ましくは、本発明のレトロウイルスベクター配列は、レンチウイルスに由来する。好ましいレンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス、例えば、1型または2型(すなわち、HIV−1またはHIV−2であり、HIV−1は、以前はリンパ節症関連ウイルス3(HTLV−III)および後天性免疫不全症候群(AIDS)関連ウイルス(ARV)と呼ばれていた)、あるいは、同定されており、AIDSまたはAIDS様疾患に関連する、HIV−1またはHIV−2に関連する別のウイルスである。他のレンチウイルスベクターとしては、ヒツジビスナ/マエディウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシレンチウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、およびヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)が挙げられる。
【0134】
本組成物および方法に用いるのに適したレトロウイルスの種々の属および系統は、当該分野で周知である(例えば、Fields Virology、第3版、B.N.Fieldsら編、Lippincott−Raven Publishers(1996)を参照、例えば、第58章、Retroviridae:The Viruses and Their Replication,Classification、1768−1771頁(表1を含む)を参照(本明細書中に参考として援用される))。
【0135】
本発明は、レトロウイルスを産生するプロデューサー細胞およびプロデューサー細胞株を作製するためのレトロウイルスパッケージングシステム、ならびにこのようなパッケージングシステムを作製する方法を提供する。従って、本発明はまた、このようなパッケージングシステム内にレトロウイルストランスファーベクターを導入することによって(例えば、トランスフェクションまたは感染によって)作製されるプロデューサー細胞および細胞株、ならびにこのようなパッケージング細胞および細胞株を作製する方法も提供する。
【0136】
本発明の実施に用いられるレトロウイルスパッケージングシステムは、以下の少なくとも2つのパッケージングベクターを含む:gag遺伝子、pol遺伝子、またはgagおよびpol遺伝子を含む第1のヌクレオチド配列を含む、第1のパッケージングベクター;ならびに異種のエンベロープ遺伝子かまたは機能的に改変されたエンベロープ遺伝子を含む第2のヌクレオチド配列を含む、第2のパッケージングベクター。好ましい実施形態において、レトロウイルスエレメントは、レンチウイルス(例えば、HIV)に由来する。好ましくは、ベクターは、機能的なtat遺伝子および/または機能的なアクセサリー遺伝子(vif、vpr、vpu、vpx、nef)を欠く。別の好ましい実施形態において、このシステムは、rev遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む、第3のパッケージングベクターをさらに含む。このパッケージングシステムは、第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、および必要に応じて第3のヌクレオチド配列を含むパッケージング細胞の形態で提供され得る。
【0137】
本発明は、種々のレトロウイルスのシステムに適用可能であり、レトロウイルスの異なる群間で共有される共通のエレメントを当業者は認識する。本明細書中での記載は、代表的な例としてレンチウイルスのシステムを用いる。しかし、すべてのレトロウイルスは、表面突起で包まれたビリオンの特徴を共有し、1分子の直鎖状のポジティブセンス一本鎖RNA、ダイマーからなるゲノム、ならびに共通のタンパク質であるgag、polおよびenvを含む。
【0138】
レンチウイルスは、エンベロープ糖タンパク質SU(gpl20)およびTM(gp41)(これらは、env遺伝子によってコードされる);CA(p24)、MA(p17)およびNC(p7−11)(これらは、gag遺伝子によってコードされる);ならびにpol遺伝子によってコードされるRT、PRおよびINを含む、いくつかの構造ビリオンタンパク質を共有する。HIV−1およびHIV−2は、ウイルスRNAの合成およびプロセシングならびに他の複製機能の調節に関与する、アクセサリータンパク質および他のタンパク質を含む。vif、vpr、vpu/vpx、およびnef遺伝子によってコードされるアクセサリータンパク質は、組換えシステムから削除(または不活性化)され得る。さらに、tatおよびrevは、例えば変異または欠失によって、削除または不活性化され得る。
【0139】
第1世代のレンチウイルスベクターパッケージングシステムは、gag/polおよびenvごとに別個のパッケージング構築物を提供し、そして典型的には、安全上の理由で、異種のエンベロープタンパク質かまたは機能的に改変されたエンベロープタンパク質を用いる。第2世代のレンチウイルスベクターシステムでは、アクセサリー遺伝子(vif、vpr、vpuおよびnef)が削除されるかまたは不活性化される。第3世代のレンチウイルスベクターシステムは、tat遺伝子が削除されたかさもなければ不活性化されたものである(例えば、変異によって)。
【0140】
tatによって通常提供される転写の調節に対する補償は、強力な構成的プロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス前初期(HCMV−IE)エンハンサー/プロモーター)の使用によって提供され得る。他のプロモーター/エンハンサーは、当該分野で理解されるように、構成的プロモーター活性の強さ、標的組織に対する特異性(例えば、肝臓特異的プロモーター)、または発現の所望の制御に関連する他の因子に基づいて選択され得る。例えば、いくつかの実施形態において、制御された発現を達成するために、tetのような誘導性プロモーターを使用することが望ましい。Revをコードする遺伝子は、好ましくは別個の発現構築物上に提供され、その結果、典型的な第3世代レンチウイルスベクターシステムは、以下の4つのプラスミドを含む:gagpolのプラスミド、revのプラスミド、エンベロープのプラスミドおよびトランスファーベクターのプラスミド。使用されたパッケージングシステムの世代にかかわらず、gagおよびpolは、単一の構築物上かまたは別個の構築物上に提供され得る。
【0141】
典型的には、パッケージングベクターは、パッケージング細胞内に含まれており、トランスフェクション、形質導入または感染によってこの細胞内に導入される。トランスフェクション、形質導入または感染の方法は、当業者に周知である。本発明のレトロウイルストランスファーベクターは、トランスフェクション、形質導入または感染によってパッケージング細胞株へ導入されて、プロデューサー細胞または細胞株を作製し得る。本発明のパッケージングベクターは、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを含む標準方法によって、ヒト細胞または細胞株へ導入され得る。いくつかの実施形態において、パッケージングベクターは、優性選択マーカー(例えば、neo、DHFR、Gln合成酵素またはADA)とともに細胞へ導入され、続いて、適切な薬剤の存在下での選択およびクローンの単離が行われる。選択マーカー遺伝子は、パッケージングベクターによってコードされる遺伝子に物理的に連結され得る。
【0142】
パッケージング機能が適切なパッケージング細胞によって発現されるように構成されている、安定な細胞株が公知である。例えば、米国特許第5,686,279号;およびOryら、Proc.Natl.Acad.Sci.(1996)93:11400−11406(これらは、パッケージング細胞について記載する)を参照のこと。安定な細胞株の作製のさらなる記載は、Dullら、1998,J.Virology 72(11):8463−8471;およびZuffereyら、1998,J.Virology 72(12):9873−9880;Zuffereyら、1997,Nature Biotechnology 15:871−875に見出され得、これらは、HIV−1エンベロープ遺伝子を含むpolの3’配列が削除されているレンチウイルスパッケージングプラスミドを教示する。この構築物は、tatおよびrev配列を含み、3’LTRがポリA配列で置換されている。5’LTRおよびpsi配列は、別のプロモーター(例えば、誘導性プロモーター)で置換されている。例えば、CMVプロモーターまたはその誘導体が用いられ得る。
【0143】
目的のパッケージングベクターは、レンチウイルスタンパク質発現を増強し、かつ、安全性を高めるために、パッケージング機能にさらなる変更を含み得る。例えば、gagの上流のHIV配列はすべて除去され得る。また、エンベロープの下流の配列も、除去され得る。さらに、ベクターを改変する工程を行って、RNAのスプライシングおよび翻訳を増強し得る。
【0144】
必要に応じて、Dullら(1998、J.Virology 72(11):8463−8471)に記載されるように、条件付きパッケージングシステムが用いられる。また、例えばZuffereyら(1998,J.Virology 72(12):9873−9880)に記載されるように、HIV−1末端反復配列(LTR)の欠失によってベクターのバイオセイフティーを改善する、自己不活性化ベクター(SIN)の使用も好ましい。誘導性ベクターも用いられ得る(例えば、tet誘導性LTRによる)。
【0145】
(調節エレメント)
本発明の遺伝子治療ベクターは、典型的には、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、腫瘍選択的プロモーターおよびエンハンサーが挙げられるがこれらに限定されない、異種の制御配列を含み、これらとしては、E2Fプロモーターおよびテロメラーゼ(hTERT)プロモーター;サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチン/ウサギβ−グロビンプロモーター(CAGプロモーター;Niwa H.ら1991.Gene 108(2):193−9);伸長因子1−αプロモーター(EF1−αプロモーター)(Kim DWら、1990.Gene.91(2):217−23およびGuo ZSら1996.Gene Ther.3(9):802−10);グリア特異的プロモーター(例えば、グリア細胞繊維性酸性タンパク質プロモーター)およびニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロン特異的エノラーゼプロモーターまたはシナプシンプロモーター)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
いくつかの場合において、構成的プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、CAGプロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ−1プロモーター(PGK)またはSV−40プロモーター)が使用され得る。本発明の遺伝子治療ベクターはまた、シグナルペプチドのエンハンサーおよびコード配列も含み得る。ベクター構築物は、イントロンを含んでも含まなくてもよい。従って、本発明の遺伝子治療ベクターが、多数の導入遺伝子、導入遺伝子の組み合わせ、および導入遺伝子/調節エレメントの組み合わせのうちのいずれかを含み得ることが理解される。
【0147】
(本発明の方法および組成物)
本発明は、単独で用いられても従来の治療法と組み合わせて用いられてもよい、前立腺癌の処置に対する代替アプローチを提供する。
【0148】
本発明の1つの実施形態は、遺伝子改変された細胞(代表的には、前立腺癌患者への投与後にβ−フィラミンタンパク質に対する免疫応答の増強が検出される、GM−CSFのようなサイトカインを発現する細胞)から構成される癌ワクチンである。さらなる実施形態において、細胞は、哺乳動物の腫瘍細胞と同じ型である。一般に、癌ワクチンは、遺伝子改変された腫瘍細胞から構成されるが、非腫瘍性前立腺細胞もまた、本発明の実施に有用であることが見出されている。これらの細胞は、インビトロで増殖および維持される樹立細胞株であってもよい。本発明の実施に用いられる樹立腫瘍細胞株としては、PC−3細胞(ATCC番号CRL−1435)、HeIa細胞(ATCC番号CCL−2)、A549細胞(ATCC番号CCL−185)、LNCaP細胞(ATCC番号CRL−1740)、H157細胞(ATCC番号CRL−5802)、またはH1359細胞が挙げられるが、これらに限定されない。1つのアプローチにおいて、遺伝子改変された細胞は、被験体から単離された腫瘍細胞に由来し、サイトカイン(例えば、GM−CSF)の発現の増強を引き起こすベクターで形質導入される。次いで、遺伝子改変された細胞は、癌ワクチンの一部として、もとの同じ被験体かまたは異なる被験体に投与され得る。細胞の子孫が、親細胞と完全には同一でなくてもよい(形態学的に、遺伝子型的に、または表現型的に、のいずれかで)ことが理解される。さらに、細胞は、未選択の細胞の集団または特定の細胞のクローンのいずれかであり得る。例えば、細胞は、GM−CSFのようなサイトカインまたはβ−フィラミンのような抗原の高い発現レベルについてスクリーニングされ得るか、あるいは遺伝子改変され得る。これらの細胞は、典型的にはヒト細胞であり、そして一般に、被験体に投与される前に凍結保存された細胞である。典型的には、これらの細胞は、増殖不能である。1つの実施形態において、細胞は、エキソビボ培養で樹立された原発前立腺腫瘍の子孫である。
【0149】
前立腺癌の重症度は、種々の系に基づき、その1つは以下に例示する疾患の病期分類である:
病期1:癌は非常に小さく、完全に前立腺の内部であり、直腸診を行った場合、正常に感じられる。
【0150】
病期2:癌は依然として前立腺の内部であるが、より大きく、直腸診を行った場合、しこりまたは硬い領域が感じられる場合がある。
【0151】
病期3:癌は前立腺の被膜を通り抜けて、膀胱頸または精嚢内に成長している場合がある。
【0152】
病期4:癌は体の別の部分に転移し、前立腺癌が転移する最も一般的な部位は骨である。他の臓器に転移することはめったにない。
【0153】
前立腺癌疾患の重症度を評価するために適用される別の基準は、グリーソンスコア(等級を表す別の方法)である。生検が行われると、癌細胞を示す各領域が、細胞の外観に従い、重症度が最も低いかまたは最も正常に見える場合を1とし、重症度が最も高いかまたは最も正常には見えない場合を5として、1〜5段階で評価される。グリーソンスコアは、重症度が最も高い細胞を含む2つの領域の平均に基づいて作成され、これらのスコアを合計してグリーソンスコアを得る。
【0154】
グレード/グリーソンは、単に、いかに前立腺癌が進行し、かつ/または処置に応答するかの見解を医師に与えるにすぎない。
【0155】
本発明によるサイトカイン発現細胞ワクチンを含む薬学的組成物は、被験体における前立腺癌を処置するための他の治療に続いて、他の治療に先行して、他の治療の代わりに、または他の治療と組み合わせて、前立腺癌の任意の段階で患者を処置するのに用いられ得る。例えば、被験体は、以下にさらに記載されるように、化学療法、外照射放射線療法、および他の形態の免疫療法/細胞療法によって、予めまたは同時に処置され得る。
【0156】
前立腺癌の処置レジメンは、外科手術(すなわち、前立腺全摘出術);放射線療法(すなわち、外照射または近接照射療法);例えば「アンドロゲン除去」(例えば、抗アンドロゲンの投与)のようなホルモン療法;および化学療法の1つ以上を含むがこれらに限定されない、ある範囲の治療選択肢を含み、かつ変動する。
【0157】
前立腺癌の処置において最もよく用いられる抗アンドロゲンとしては、前立腺癌を処置するのに用いられる注射可能な合成ホルモンである、ロイプロリドが挙げられるが、これに限定されない。ロイプロリド(リュプロン)は、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログであり、進行した前立腺癌の処置に使用され得る。ロイプロリドは、ゴセレリン(ゾラデックス(登録商標))およびカソデックス(ビカルタミド)の一方または両方と組み合わせて用いられ得る。ゴセレリン(ゾラデックス(登録商標))は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)(性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニストアナログとしても公知)の合成デカペプチドアナログを含む。カソデックス(ビカルタミド)は、活性成分ビカルタミドを含む経口非ステロイド性抗アンドロゲンである。カソデックス(ビカルタミド)は、テストステロンのような男性ホルモンの作用をブロックすることによって作用する。
【0158】
フルタミドもまた、進行した前立腺癌の処置に使用され得る。フルタミドは、テストステロンが前立腺のアンドロゲンレセプターに結合するのを阻止することによって作用する。フルタミドはまた、視床下部と呼ばれる脳の領域にも作用し、体内で産生されるテストステロンの量を最終的に減少させる。前立腺癌の処置において、フルタミドは、しばしばLHRHアナログと組み合わせて用いられる。LHRHアナログは、前立腺癌の標準的な処置の1つであり、ブセレリン、ゴセレリン、リュープロレリンおよびトリプトレリンなどの医薬が挙げられる。
【0159】
前立腺癌の処置に用いられる別の薬物は、アンドロゲンレセプターに対して親和性を有する(しかし、プロゲストゲンレセプター、エストロゲンレセプター、またはグルココルチコイドレセプターに対しては有さない)、非ステロイド性抗アンドロゲンのニルタミド(アナンドロン(登録商標))である。
【0160】
American Society of Clinical Oncologyの第38回年次大会およびAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)の第40回年次大会で示された結果によると、タキソテール(登録商標)(ドセタキセル)、エストラムスチン(Emcyt(登録商標))およびプレドニゾンを含む処置レジメンは、ホルモン抵抗性前立腺癌(HRPC)の処置においてかなり有効であった。
【0161】
本発明によるサイトカイン発現細胞ワクチンを含む薬学的組成物は、現在使用されている任意の前立腺癌治療(そのいくつかの例は、上に記載される)に続いて、または現在使用されている任意の前立腺癌治療と組み合わせて、前立腺癌患者に投与されてもよい。
【0162】
被検体における前立腺癌をモニタリングする代表的な手段は、当該分野で一般に公知のように、抗原に対する免疫応答(この抗原に対する免疫応答の増強は、本発明によるサイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンの投与後に検出される)の評価と組み合わせて実施される。患者は、腫瘍重量、腫瘍体積、腫瘍細胞の数または腫瘍の成長速度の評価のような多数の方法のいずれかをモニターされ得る。評価され得るパラメータとしては、接近可能な腫瘍の直接測定、腫瘍細胞(例えば、血中の)の計数、腫瘍抗原(例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、αフェトプロテイン(AFP)など)の測定、種々の可視化技術(例えば、MRI、CATスキャンおよびX線)、骨密度の決定、または骨転移の評価が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分析から得られた情報は、個体の応答を最適化し、かつ前立腺癌に関する治療結果の改善をもたらすために、細胞ワクチンの投与の用量またはスケジュールを調整するのに有用である。所望の作用が得られるまで、典型的には隔週の頻度で、さらなる用量が必要に応じて投与され得る。その後、さらなる追加免疫用量または維持量が、必要に応じて投与されてもよい。典型的な処置レジメンにおいて、サイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンは、腕、脚または腹部の皮膚に皮内注射(皮膚の下に直接針が配置される)で投与される。
【0163】
本発明の1つの局面は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンの最初の投与前に、および処置の開始後の種々の時点で、前立腺癌患者から血清サンプルを得ることによってβ−フィラミンに対する免疫応答を検出するためのアッセイを含む。次いで、各時点でのβ−フィラミンに結合する抗体の量が比較される。サンプル中の抗β−フィラミン抗体の量を定量する任意のアッセイが、β−フィラミンに結合する抗体について血清を分析するのに用いられ得る。β−フィラミンに結合する抗体についての血清の分析に用いられ得るアッセイの例としては、ELISA、ウエスタンブロット、免疫蛍光アッセイ(IFA)、FACSまたは電気化学発光(ECL)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、ウエスタンブロットは、β−フィラミン抗原の供給源として、PC−3細胞の細胞溶解物を用いる。
【0164】
本発明の実施において、β−フィラミンに対する細胞性免疫応答は、抗原特異的細胞アッセイ、増殖アッセイ、細胞溶解性細胞アッセイ、および組換え腫瘍関連抗原または免疫原性フラグメントまたは抗原由来のペプチドを用いたインビボ遅延型過敏性試験を用いて、サイトカイン(例えば、GM−CSF)発現細胞ワクチンの最初の投与前に、および処置の開始後の種々の時点で、患者において評価され得る。免疫応答の増加を測定するためのさらなる方法としては、遅延型過敏性試験、ペプチド主要組織適合遺伝子複合体テトラマーを用いたフローサイトメトリー、リンパ球増殖アッセイ、酵素結合免疫吸着検定法、酵素結合免疫スポット検定法(enzyme−linked immunospot assay)、サイトカインフローサイトメトリー、直接細胞毒性アッセイ、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によるサイトカインmRNAの測定、および限界希釈法のような、T細胞応答を測定するのに現在用いられているアッセイが挙げられる。例えば、Lyerly HK,Semin Oncol.2003年6月;30(3補遺8):9−16を参照のこと。
【0165】
本発明を以下の実施例を参照することにより説明するが、これらの実施例は、例示の目的で挙げられるものであり、本発明を限定することを何ら意図するものではない。当該分野で周知の標準技術または以下に具体的に記載される技術が利用される。
【0166】
本発明の方法および組成物は、種々の実施形態(その少数のみが本明細書中に開示される)の形態で組み込まれ得ることが理解される。他の実施形態が存在し、本発明の趣旨から逸脱しないことが、当業者には明らかである。従って、記載された実施形態は例示的なものであって、限定的なものとして解釈されるべきでない。
【実施例】
【0167】
実施例1:GVAX(登録商標)ワクチンの調製のための組換えウイルスベクターの作製
サイトカインをコードする以下のウイルスベクターを、腫瘍細胞株中かまたは切除されたヒト腫瘍から得られた原発腫瘍細胞中への導入のために構築した。
(1)レトロウイルスベクター
レトロウイルスベクターの構築には、当該分野で十分に理解されている標準的な連結技術および制限技術を使用する。目的のサイトカインをコードする遺伝子(単数または複数)を含む種々のレトロウイルスベクターを用いた。MFGベクターは、米国特許第6,544,771号および同第5,637,483号に記載される。これらはまた、特にサイトカインをコードする遺伝子の組み込みおよび発現に関して以下に記載される。さらに、数種のMFGベクターがATCCに寄託されている:未改変のMFGベクターは、ATCC受諾番号68754として寄託され;第VIII因子が挿入されたMFGベクターは、ATCC受諾番号68726として寄託され;そしてtPAが挿入されたMFGベクターは、ATCC受諾番号68727として寄託された。MFGベクターは、pEmベクターと類似している(以下に記載され、かつ米国特許第6,544,771号および同第5,637,483号に記載される)が、パッケージング細胞株における組換えゲノムのキャプシド形成を増加させるために、MoMuLVの1038塩基対のgag配列を含み、かつ、スプライスアクセプター配列を含むMOV−9に由来する350塩基対を含む。Nco I部位およびBam HI部位を含む18塩基対のオリゴヌクレオチドは、MOV−9配列に直接続き、適合する部位での遺伝子の簡便な挿入を可能にする。この遺伝子のコード領域を、Nco I部位およびBam HI部位でMFGベクターの骨格に導入した。ATG開始メチオニンコドンをNco I部位にインフレームでサブクローン化し、かつ、生成物を不安定にすることと、あいまいな部位を導入することを避けるために、終止コドンより後にはわずかな(たとえあったとしても)配列も含まなかった。結果として、インサートのATGは、ベクター中の野生型ウイルスATGが存在する部位に存在した。従って、スプライスは、モロニーマウス白血病ウイルスで生じるスプライスと本質的に同じであり、ウイルスは非常に良好に機能した。MoMuLV LTRは転写を制御し、そして得られたmRNAは、ネイティブのgag転写産物の真正の5’非翻訳領域(その後に、挿入された遺伝子のオープンリーディングフレームが直接続く)を含む。このベクターにおいて、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo−MuLV)末端反復配列を用いて、全長ウイルスRNA(ウイルス粒子中へのキャプシド形成のため)、および挿入された配列の発現を担うサブゲノムmRNA(Mo−MuLV env mRNAと類似している)の両方を産生させた。このウイルスgag領域に両方の配列を保持するベクターは、env mRNAの産生に必要な正常な5’および3’スプライス部位ならびにウイルスRNAのキャプシド形成の改善を示した。すべてのオリゴヌクレオチド結合を、ジデオキシ終止法およびT7 DNAポリメラーゼを用いて配列決定した。このウイルスは、優性選択マーカーを含まない(必要に応じて挿入され得るが)という点でマーカーフリーであり、かつ、ベクターの構造に固有の高レベルの形質導入効率および発現を示し、MFG誘導体での形質導入は、一般に選択工程を含まないかまたは必要としない。
【0168】
以下のタンパク質の遺伝子を含むMFGベクターを構築した:マウスIL−2、GM−CSF、IL−4、IL−5、γ−IFN、IL−6、ICAM、CD2、TNF−αおよびIL−1−RA(インターロイキン−1−レセプターアンタゴニスト)。さらに、公的に利用可能な配列情報を用いて、TNF−α、GM−CSFおよびIL−2をコードするヒト配列を構築した。MFGへサブクローン化された正確なcDNA配列は、以下のとおりであった:マウスIL−2塩基対49−564;マウスIL−4塩基対56−479;マウスIL−5塩基対44−462;マウスGM−CSF(29)塩基対70−561;マウスICAM−1塩基対30−1657;マウスCD2塩基対48−1079;マウスIL−1レセプターアンタゴニスト塩基対16−563;ヒトTNF−α塩基対86−788。
(2)アデノウイルスベクター
ヒトGM−CSFのコード配列の細胞への導入のためのアデノウイルスベクター(ヒトGM−CSF;AV−GM−CSF)は、アデノウイルス5型のE1遺伝子で置換され、ウイルスゲノムのE3領域をさらに欠失しているGM−CSF発現カセットを含む。Ad5の完全なGenBank配列(登録番号M73260)によれば、欠失はE1領域の455〜3327である。番号付けは、左側逆方向末端反復の第一塩基から始まる。
【0169】
アデノウイルスベクターの構築には、当該分野で十分に理解されている標準的な連結技術および制限技術を使用する。野生型300(H.Ginsbergより)(0〜27330)とdl324(Thimmappayaら(1982)Cell 31:543−551)(21561〜右端)との間の重複組換えによって、E3欠失を導入した。CRE8細胞におけるpAdlox MC hGMとE3欠失アデノウイルスとの間のcre/lox媒介組換えによって、GM−CSF発現カセットをE1領域に組み込んだ(Hardyら(1997)J.Virol.71:1842−1949)。pAdlox MD hGMは、pAdlox(Hardyら(1997)およびpMD.G(Naldiniら、(1996)Science 272:263−267)から誘導され、以下の配列を含む:Ad5に由来する0〜455、pBC12/CMV/IL−2(Cullen(1986)Cell 46:973−982)に由来するサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター/エンハンサー(ヌクレオチド位置−670〜+72、GenBank登録番号X03922)、ヒトβグロビンエキソン2の小領域および短縮された第2介在配列(IVS2)(ヌクレオチド位置62613〜62720+63088〜63532、GenBank登録番号J00179)、ヒトβグロビンに由来するエキソン3およびポリアデニル化シグナル(ヌクレオチド位置63532〜64297)、エキソン3(位置63530)に挿入されたGM−CSF cDNA、SV40に由来する第2ポリアデニル化部位(位置2681〜2534)、(GenBank登録番号J02400)およびloxP部位に続いてBluescriptに由来する細菌の配列。GM−CSF cDNAは、プラスミドから得た(DNAX Research Institute of Molecular and Cellular Biology(Palo Alto,CA))。DNA配列は、哺乳動物細胞における機能的発現によりコンカナバリンA活性化ヒトT細胞クローンから調製されたcDNAライブラリーから単離した。このcDNA(遺伝子の全配列を含む)の単離および特徴づけは、科学文献に報告されている。(Leeら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)82:4360−4364)。クローンの同一性は、受け取った際に制限エンドヌクレアーゼ消化によって確認した。MD発現カセットは、IVS2の下流に導入遺伝子の挿入のためのPmlI、EcoRIおよびBglIIの制限酵素認識部位を含むように、PCRによって改変した。GM−CSF cDNAを、pMFG−S hGM(Dranoffら(1997)Human Gene Ther.7:111−123)からPmlIおよびBamHIを用いて除去し、MDカセットのPmlIおよびBglII部位に挿入した。アデノウイルス(Ad GMウイルス)に組み込まれたpAdlox MD hGMプラスミドの領域を、両鎖について配列決定した。初期のウイルス構築物の正確な構造は、感染HeLa細胞からのGM−CSF産物の制限分析およびELISA試験によって確認した。次いで、組換えウイルスを2回のプラーク精製に供した。プラークからの組換えウイルスを制限酵素マッピングし、293細胞(Microbiological Associatesからの保証された細胞)内での増殖による2回の継代を行って、研究用ウイルスストックを作製した。ウイルス中のGM−CSF遺伝子の配列を、研究用ウイルスストックから調製したウイルスDNAの直接配列決定によって決定した。最終的に、研究用ウイルスストックからの組換えウイルスを、マイコプラズマおよび無菌性について試験し、陰性であるとわかった場合、マスターウイルスストックとして細胞を感染させるために用いた。
【0170】
実施例2:自己の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験
9人の患者が、自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験に参加した。各患者は、測定可能な転移性疾患の所見またはホルモン療法歴がなく、かつ、処置の開始時に少なくとも1.0ng/mlよりも高いベースラインPSAを有する、2回の連続的なPSAレベルの異常上昇によって規定されるような、外科手術後に進行性の微小転移性前立腺癌を有する18歳以上であった。患者は、外科手術とともに適切な併用薬を受けた。疾患の病理学的診断および病期分類は、外科手術の間に終えた。
【0171】
切除した腫瘍の一部を初代培養で増殖させ、GM−CSF遺伝子を有するMFGウイルスベクターで形質導入し、照射して細胞を増殖不能にし、そして自己GVAX(登録商標)ワクチンを調製するために使用されるまで液体窒素中で保存した。外科手術の約60日後に、ワクチンは臨床施設で使用可能であった。各ワクチン接種について、細胞を0.9%塩化ナトリウム溶液中または2.5%ヒト血清アルブミンを含む0.9%塩化ナトリウム溶液中で融解、洗浄、および再懸濁することによって、GVAX(登録商標)ワクチンを注射用に調製および処方した。
【0172】
外科手術の約60日後に、ワクチン接種前来診では、ベースライン値を得、かつ自己の非形質導入細胞の最初のDTH評価を開始する予定であった。血清を採取し、そしてPSAのレベルをRT−PCRによって測定した。ワクチン接種前来診の2日後に、各患者は、各14日間の3回のワクチン接種サイクルが予定された。3回のワクチン接種の後、累積的毒性が認められず、かつ、十分なワクチン細胞が残存した場合、この患者は、最大3回までの追加接種(計6回のワクチン接種)を受ける適格者であった。
【0173】
ワクチン接種部位の間隔および位置を、以下の表2に示す。各用量を、外来患者方式で患者に投与した後、退院前に外来診療部門で臨床観察を行った。
【0174】
【表2】
注射剤は、グリッドパターンにしたがって患者の肢に皮内投与した。各注射は、隣接する注射から針侵入位置で少なくとも5cmである。用量レベル1については、注射剤を1本の肢に、連続サイクルごとに異なる肢を用いて、3人の患者に投与した。用量レベル2については、注射剤を6人の患者に、連続サイクルごとに2本の異なる肢を用い、所定のサイクルで2本の肢に等分して投与した。最初のワクチン接種を0日目に行い、続いて14日目、28日目、42日目、56日目、および70日目に行った。局所毒性および全身毒性、ならびに抗腫瘍免疫応答の誘導の評価を続いて行った。自己免疫の徴候も評価した。
【0175】
NCI CTC用量制限毒性は、計41回の十分に評価可能なワクチン接種を受けた、8人のワクチン接種患者間で観察されなかった。皮内部位の生検は、有効性の前臨床モデルにおいて観察されたのと類似の、マクロファージ、樹状細胞、好酸球およびT細胞で構成される特有の炎症性浸潤を示した。100%の患者が、形質導入されていない自己のPCA標的細胞に対するDTH反応性を示した。外科手術前の血清PSAの中央値は28.85(6.7〜7.5の範囲)であり、最初のワクチン接種時のPSAレベルの中央値は0.65(0.1〜30.4の範囲)であった。高感度の血清PSAによると、8人中6人の患者が、外科手術後およびワクチン接種後に進行した:平均F/U24か月。この研究は、インビボでGM−CSF遺伝子を形質導入したPCAワクチンの実現可能性、外来患者安全性、および生物活性を実証している。
【0176】
実施例3:同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験
30人の患者が、第2の自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験に参加した。各患者は、測定可能な転移性疾患の疾患またはホルモン療法歴がなく、かつ、処置の開始時に少なくとも1.0ng/mlよりも高いベースラインPSAを有する、2回の連続的なPSAレベルの異常上昇によって規定されるような、外科手術後に進行性の微小転移性前立腺癌を有する18歳以上であった。同種異系の前立腺癌細胞株ワクチンは、24時間で106細胞当たり148〜639ngのGM−CSFを分泌するように遺伝子改変された、等しい細胞用量の2種の同種異系前立腺癌細胞株(LNCaPおよびPC−3)で構成される。あるいは、ワクチンは、24時間で106細胞当たり200〜300ngのGM−CSFを分泌するように遺伝子改変された、3種の異なる照射済み自己前立腺癌細胞株(LNCaP、PC−3およびDU145)の混合物で構成される。ワクチンの各バイアルは、グリセロールおよびヒト血清アルブミン中の直接注射可能物質として調製される。各細胞株ワクチン接種の用量を、下の表3に示す。
【0177】
【表3】
所定のワクチン接種日に、総細胞数1.2×108細胞(1つの細胞株当たり6×107細胞)を、各1.0ccの4回の皮内注射(1つの細胞株当たり2回の注射)で、患者に投与した。各注射は皮内注射であった。0日目以降のワクチン接種日には、注射部位を交代した。1.2×108細胞の全量を、4回の注射に分けて、毎週1回、8週間投与している。
【0178】
処置サイクルの間、ワクチン接種に対する局所的全身性反応の評価を、ワクチン接種日に行った(1、2、3、4、5、6、7および8週目)。1回目のワクチン接種から始めて、
PSA測定値を4ヶ月間、毎月決定し、次いで第2部の研究においては、2年間、4ヶ月ごとに決定した。臨床的に必要であれば、PSAレベルを4ヶ月ごとよりも頻繁に評価した。PCR試験用の血液サンプルは、1回目のワクチン接種の前に採取した。第1部の最後の来診は、最後のワクチン接種(8週目)の2週間後に行った。少なくとも1回のワクチン接種を受けた登録患者は、PSAチェックのために長期追跡調査評価に参加した。患者は、患者が死亡するかまたは同種異系前立腺癌細胞株ワクチンがFDAに認可されるまで、健康診断およびその後の臨床評価を年1回か、あるいは臨床的に必要であればより頻繁に受けた。
【0179】
実施例4:前立腺腫瘍関連抗原の同定
A.血清の調製
研究に用いた血清は、自己のまたは同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、ワクチン接種の2時間前および最後のワクチン接種の2週間後に患者から採取された血液から調製した。
【0180】
B.細胞可溶化物の調製
前立腺間質、前立腺上皮、前立腺平滑筋、および肺線維芽細胞に由来する初代細胞株をClontenics(San Diego,CA)から購入し、SCGM、PrEGM、SmGM、およびFGM−2培地(Clontenics,San Diego,CA)で生育した。細胞を10%ウシ胎仔血清、ペニシリウム/ストレパビジン(strepavidin)、およびグルタミンを含むDMEM+F12培地(JHR bioscience,Lenexa,KS)で生育した。細胞密度がT−175フラスコ(Becton,Dickinson & Company,Franklin Lakes,NJ)中で80%コンフルエンスに達すると、細胞をPBSで2回洗浄し、続いてVersene(Gibco BRL,Grand Island,NY)中で10〜30分間インキュベーションして、細胞をフラスコから剥離させた。次いで、細胞を収集し、卓上遠心機(CS−6R,Beckman,Palo Alto,CA)で、1,000rpmで10分間遠心沈殿した。細胞をPBSで3回洗浄した。非接着細胞(ジャーカット細胞および末梢血細胞)については、細胞を収集し、遠心沈殿し、そしてPBSで3回洗浄した。洗浄後、2×107細胞を1mlの溶解緩衝液(10mMトリス(pH7.4)、1mM EDTA、10%グリセロール、1%NP40、1mM PMSF、および1%プロテアーゼインヒビターカクテルセットIII(カタログ番号539134,Calbiochem,San Diego,CA))で溶解し、続いて氷上で1時間インキュベーションした。次いで、不溶性の細胞片を4℃で30分間、卓上エッペンドルフ遠心機を用いて遠心除去した。上清を除去し、タンパク質濃度をBCA(Pierce,Rockford,IL)で測定した。
【0181】
C.ウエスタンブロット分析
示された量の細胞可溶化物中のタンパク質(25〜35μg/レーン)または精製PSA(Calbiochem,San Diego,CA)または他の癌関連マーカーを、4〜20%勾配SDS−PAGE(Norvex,San Diego,CA)で分離し、続いて膜転写装置(Xcell II,Blot Module,Norvex,San Diego,CA)で、25mVの定電圧で2〜3時間、ニトロセルロース膜(Norvex,San Diego,CA)に電気的転写した。転写後、ニトロセルロース膜をブロッキング溶液(10%脱脂乳/0.05%Tween20/PBS)で4℃にて一晩ブロットした。一晩ブロッキングの後、膜を患者の血清(PBS+0.05%Tween20中で1:1000希釈)とともに室温で2時間インキュベートし、続いてPBS+0.1%Tween20で5回洗浄した。HPRT結合ヤギ抗ヒトIgM+G+A(Zymed,South San Francisco,CA;PBS+0.05%Tween20中で1:3000希釈)を膜とともに1時間インキュベートし、続いてPBS+0.1%Tween20で6回洗浄した。結果を、化学蛍光発光(例えば、ECLウエスタンブロッティングシステム(Amersham Life Science,Arlington Heights,IL)を用いて)によって示した。
【0182】
実施例5:自己GVAX(登録商標)臨床試験において同定される前立腺腫瘍関連抗原
1つの研究において、癌関連抗原を以下のように同定した。自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチンを調製するために、前立腺腫瘍を8人の患者から摘出して、初代前立腺癌細胞株を作製した。ヒトGM−CSFを含むレトロウイルスベクターをこれらの初代細胞株に形質導入して、GM−CSFを分泌する細胞を作製した。患者にワクチンを、皮内注射によって2週ごとに、これらのGM−CSFを発現する自己の初代前立腺癌細胞の形態で投与した。患者1、2、および3には、1×107細胞を6回投与し;患者4には、1×107細胞を5回投与し;患者5および7には、5×107細胞を6回投与し;患者7には、1×107細胞を3回投与し;そして患者8には、5×107細胞を3回投与した。以下の研究に用いた血清は、ワクチン接種の2時間前(ワクチン接種前として)および最後のワクチン接種の2週間後(ワクチン接種後として)に採取した血液から調製した。
【0183】
最後のワクチン接種後の自己前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、患者の血清中の抗体によって認識される特異的な抗原の同定を、LNCaP前立腺癌細胞株のウエスタンブロット分析によって行った。25μgのLNCaP溶解物を、4〜20%勾配SDSポリアクリルアミドゲル上で泳動し、続いてニトロセルロース膜に転写した。0.05%Tween20含有PBS中の患者血清の1:1000〜1:3000の範囲での希釈物を、ウエスタンブロット分析における一次抗体に用いた。ペルオキシダーゼ結合ポリクローナルヤギ抗ヒトIgG+M+Aの1:3000の希釈物を、二次抗体に用いた。結果を化学蛍光発光ECLキットによって示した。PSAに無関係であり、かつ、LNCaP細胞によって発現される種々の抗原(「pan」腫瘍関連抗原を含む)が、WO/0026676にさらに記載されるように、自己GVAX(登録商標)ワクチン試験においてワクチン接種の前後に得られた血清を比較することによって、新たに同定された。
【0184】
実施例6:同種異系のGVAX(登録商標)臨床試験において同定される前立腺腫瘍関連抗原
新規の抗原も、同種異型のGVAX(登録商標)ワクチンで処置した患者の血清によって同定された。同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、21人の患者を、1.2×107個のGM−CSF発現LNCaP(LNCaP/GM)細胞およびGM−CSF発現(PC−3/GM)細胞の両方で、8週間毎週ワクチン接種した。血清は、GVAX(登録商標)ワクチン投与の2時間前(「ワクチン接種前」として)および最後のGVAX(登録商標)ワクチン投与の2週間後(「ワクチン接種後」として)に採取した血液から調製した。数人の同種異系のGVAX(登録商標)ワクチン処置患者に由来する血清を、さらなる研究のために選択した。このデータを以下の表4に要約する;
【0185】
【表4−1】
【0186】
【表4−2】
大多数の場合に、LNCaP細胞および/またはPC3細胞に対する体液性免疫応答が観察された。このような抗PC3抗体応答および抗LNCaP抗体応答の誘導、ならびに同種異系のGVAX(登録商標)ワクチン処置を行った前立腺癌患者21人中15人に観察されたPSA速度の低下により、同種異系のGVAX(登録商標)の場合、前立腺腫瘍の処置において体液性免疫応答が治療的役割を果たすことが示唆される。次いで、同種異系のGVAX(登録商標)ワクチン処置後の患者由来の血清の能力を、PSAに対する抗体について試験した。3μgのPSAを4〜20%勾配SDS−PAGEで分析し、続いて患者301、305、314、307、および312からの血清を用いてウエスタン分析を行った。これらの結果は、PSAがこれらの血清によって認識されないことを示し、これは、PSAが腫瘍成長を根絶するのに応じた免疫応答を惹起することができないことを示す。これらの新規の抗原をさらに特徴づけするために、多数の患者に由来するワクチン接種前後の血清を用いてウエスタンブロット分析を行った。以下の癌細胞株のパネルを試験した:LNCaP(前立腺);PC−3(前立腺);A549(肺);LS−174T(大腸);MCF7(乳房);DU−145(前立腺);KLEB(卵巣);ジャーカット(白血病);およびMDA−MB−435S(乳房)。SDS−PAGEにより決定される、約278kDおよび約160kD抗原の組織/細胞特異的発現を、この癌細胞株および正常初代前立腺細胞株のパネルを用いて特徴づけした。約160kD抗原は、PC−3癌および正常前立腺上皮細胞に発現がみられ、A549(肺癌)およびMCF7(乳癌)に弱く発現がみられたが、試験した他のタイプの癌にも、そして前立腺間質または平滑筋細胞にも発現がみられなかった。これらの結果は、約160kD抗原(p160)が前立腺特異的抗原であることを示す(データは示さず)。同実験により、SDS−PAGEにより決定される約278kDの分子量を有する腫瘍関連抗原(p278)が、前立腺癌細胞株PC−3およびDU−145、ならびにA549肺癌に発現することが見出された。p278はまた、正常前立腺上皮細胞にも発現がみられたが、間質細胞または平滑筋細胞には発現がみられなかった。これらの結果は、p278が、少なくとも前立腺特異的抗原および腫瘍関連抗原であることを強く示唆している。正常な前立腺特異的抗原(例えば、p278およびp160)に対する抗体応答が存在するという事実から、同種異系のGVAX(登録商標)ワクチンは寛容を破綻させ、腫瘍関連抗原を認識することによりこのような腫瘍に対する免疫系の応答の開始を引き起こし得ることが示される。
【0187】
実施例7:第二段階の同種異系GVAX(登録商標)臨床試験において同定される前立腺腫瘍関連抗原
他の新規の抗原も、さらなる臨床試験において、同種異型のGVAX(登録商標)ワクチンで処置した患者の血清によって同定された。この同種異系の前立腺GVAX(登録商標)ワクチン試験において、転移性骨疾患を有する24人のホルモン抵抗性の患者に、初回用量の5億個のGM−CSF発現LNCaP細胞およびGM−CSF発現PC−3細胞を投与した後、2週間間隔で12回の追加抗原投与量(各々1億個の細胞)を投与し、そして10人の患者には、同じ初回用量およびより高い追加抗原投与量である3億個の細胞を投与した。血清は、GVAX(登録商標)ワクチン投与の2時間前(「ワクチン接種前」として)および最後のGVAX(登録商標)ワクチン投与の2週間後(「ワクチン接種後」として)に採取した血液から調製した。患者由来の血清を、さらに研究した。SDS−PAGEおよびウエスタンブロットによってワクチン接種後に認識されたいくつかの抗原を、以下の表5に要約する:
【0188】
【表5−1】
【0189】
【表5−2】
大多数の場合に、LNCaP細胞および/またはPC3細胞に対する体液性免疫応答が観察された。ワクチン接種後の血清は、抗PSA抗体を全く含まなかった。患者804に対して完全なPSA応答が観察された(図2)。患者804とPC−3またはLNCaP細胞型のいずれかとの間のHLAクラスI型適合はなかった。
【0190】
患者804のGVAX(登録商標)処置に対する体液性応答を特徴付けするために、患者804由来のワクチン接種前後の血清をウエスタンブロット分析に用いた。ワクチン接種後血清は、PC−3細胞に存在するがLNCaP細胞に存在しない約278kDに移動する抗原を認識することが見出された(図3)。約278kD抗原はまた、初代正常前立腺上皮、前立腺間質、および前立腺平滑筋(PrEC、PrSC、およびPrSmC)細胞株においても検出されたが、PC−3細胞におけるよりも低レベルであった(図4)。この抗原はまた、非小細胞肺癌細胞株であるH157において過剰発現している(図5)。
【0191】
PC−3細胞可溶化物を、水平次元に沿って3.5〜10のpH勾配を有する2次元ゲル電気泳動に供した。約278kD抗原の移動を、ブロット分析によって決定した。関連するバンドを切り取り、MALDI−MSタンパク質配列決定に供した。約278kD抗原のタンパク質配列は、GenBank登録番号NP_001448(アクチン結合タンパク質)に見られるβ−フィラミンの配列と一致した。
【0192】
Chemicon International(Temecula,CA)のウサギ抗ヒトフィラミンモノクローナル抗体は、ウエスタンブロットにより、PC−3において発現されるがLNCaP細胞においては発現されない約278kDタンパク質と反応することが実証された(図6)。
【0193】
実施例8:β−フィラミンおよびGM−CSFを発現する同種異系細胞のワクチン接種
WO/0026676に記載されるような標準技術を用いて、GenBank登録番号NM_001457に記載して示すβ−フィラミンのコード領域とGM−CSFのコード配列を一緒に挿入することによって、レトロウイルスベクターを調製する。PC−3細胞およびLNCaP細胞は、β−フィラミンを発現するように形質導入および遺伝子改変されるが、PC−3細胞は、形質導入されていないPC−3細胞よりも高レベルのβ−フィラミンを発現するように遺伝子改変される。形質導入されたPC−3細胞およびLNCaP細胞を1:1の割合で混合して細胞ワクチンを形成し、そしてこれらの細胞を照射によって増殖不能にする。いずれのワクチンの2億の細胞も、1日当たり106細胞当たり約100μgのGM−CSFを分泌する。
【0194】
前立腺腺癌を有し、PSAが上昇し、ECOG一般状態が0〜1であり、正常な肝臓、腎臓および骨髄機能を有し、化学療法または遺伝子治療歴がなく、活動性自己免疫疾患がなく、前立腺癌の併用療法がなく、そして骨スキャン陽性であるが麻薬性鎮痛薬を必要とする骨痛のない転移性疾患を有する患者を選択した。群Aの患者をワクチンAで処置し、群Bの患者をワクチンBで処置する。各群につき、初回用量の5億細胞に続いて、2週間間隔で12回の追加抗原投与量の1億または2億細胞を投与する。血清を、最初のワクチン投与の2時間前および最後のワクチン投与の2週間後に各患者から採取された血液から調製する。
【0195】
骨スキャン、骨密度評価、CTスキャン、PSAレベル、および生存によって測定されるような疾患の進行に対する応答を、時間とともにモニターする。
【0196】
【表6】
前述の発明は、明瞭さや理解のために、説明および実施例を挙げていくらか詳細に記載されているが、特定の変更および改変がなされ得ることは当業者に明白である。本発明の種々の局面は、一連の実験によって達成され、それらの一部は、以下の非限定的な実施例によって説明される。従って、この説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、添付の特許請求の範囲により示される。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1A】図1Aは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1B】図1Bは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1C】図1Cは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1D】図1Dは、本発明の方法および組成物に有用な、MFGベクターの略図である。
【図1E】図1Eは、本発明の方法およびワクチンに有用な、GM−CSFをコードするアデノウイルスベクター(AV−GM−CSF)の略図である。
【図1F】図1Fは、本発明の方法およびワクチンに有用な、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)のベクタープラスミド(SSV9/MD2−hGM)の略図である。
【図1G】図1Gは、本発明の方法およびワクチンに有用な、HIV LTRに隣接したGM−CSF発現カセットを含む、組換えレンチウイルスベクターの略図である。
【図1H】図1Hは、本発明の方法およびワクチンに有用な、ICP22 HSV遺伝子に置き換えてGM−CSF発現カセットを含む、HSV−I系ベクターの略図である。
【図1I】図1Iは、本発明の方法およびワクチンに有用な、GM−CSF発現カセット、SV40複製開始点、およびウイルスの後期遺伝子を含む、SV40系プラスミド(pSV MD GM−CSFII)の略図である。
【図1J】図1Jは、本発明の方法およびワクチンに有用な、ワクシニアウイルスプロモーターおよび終始配列ならびにGM−CSF cDNAを含む、ワクシニアウイルス発現カセットの略図である。
【図2】図2は、同種異系前立腺のGVAX(登録商標)臨床試験における患者804の完全なPSA応答を示す。ワクチン処置の初回量は、0日目に投与された。
【図3】図3は、ウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、ワクチン接種後の患者804由来の血清が、LNCaP細胞ではなくPC−3細胞に存在する、約278kDに移動する抗原を認識することが見出されたことを示す。
【図4】図4は、ワクチン接種前(0週目)およびワクチン接種後(24週目)の患者804由来の血清を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、ワクチン接種後の患者804由来の血清が、約278kD抗原を認識することが見出されたことを示し、この抗原はまた、初代正常前立腺上皮細胞株、前立腺間質細胞株、および前立腺平滑筋細胞株(それぞれ、PrEC、PrSC、およびPrSmC)において検出されるが、PC−3におけるよりも低いレベルである。
【図5】図5は、ワクチン接種前(0週目)およびワクチン接種後(24週目)の患者804由来の血清を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、ワクチン接種後の患者804由来の血清はまた、約278kD抗原を認識することが見出されたことを示し、この抗原は、非小細胞肺癌(NSCLC)H157において過剰発現されるが、H1395 NSCLC腺癌細胞株においては発現されない。
【図6】図6は、Chemicon International(Temecula,CA)によるウサギ抗ヒトフィラミンモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す。この図から、PC−3細胞において発現されるがLNCaP細胞においては発現されない、約278kDのタンパク質との反応性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体における前立腺癌を処置する方法であって、以下の工程:
(a)GM−CSFを産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変する工程;
(b)該腫瘍細胞を被検体に投与する工程;
(c)SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答を検出する工程であって、該免疫応答は、該投与の前には検出されない、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記約278kD抗原が、β−フィラミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の腫瘍細胞集団が、増殖不能である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の腫瘍細胞集団が、PC−3細胞またはLNCaP細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第2の腫瘍細胞集団がGM−CSFを産生するように遺伝子改変され、前記第1の腫瘍細胞集団と同時投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の腫瘍細胞集団が、PC−3細胞またはLNCaP細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の腫瘍細胞集団が、増殖不能である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項6に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項6に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の腫瘍細胞集団がPC−3細胞であり、前記第2の腫瘍細胞集団がLNCaP細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前立腺癌患者におけるPSAのレベルを低下させる方法であって、該方法は、以下の工程:
GM−CSFを産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変する工程;
該細胞を被検体に投与する工程;
SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答を検出する工程であって、該免疫応答は、該投与の前には検出されない、工程
を包含する、方法。
【請求項26】
前記約278kD抗原が、β−フィラミンである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の腫瘍細胞集団が、増殖不能である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記第1の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の腫瘍細胞集団が、PC−3細胞、LNCaP細胞、および、PC−3細胞+LNCaP細胞からなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項1】
被検体における前立腺癌を処置する方法であって、以下の工程:
(a)GM−CSFを産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変する工程;
(b)該腫瘍細胞を被検体に投与する工程;
(c)SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答を検出する工程であって、該免疫応答は、該投与の前には検出されない、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記約278kD抗原が、β−フィラミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の腫瘍細胞集団が、増殖不能である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の腫瘍細胞集団が、PC−3細胞またはLNCaP細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第2の腫瘍細胞集団がGM−CSFを産生するように遺伝子改変され、前記第1の腫瘍細胞集団と同時投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の腫瘍細胞集団が、PC−3細胞またはLNCaP細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の腫瘍細胞集団が、増殖不能である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項6に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項6に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の腫瘍細胞集団がPC−3細胞であり、前記第2の腫瘍細胞集団がLNCaP細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前立腺癌患者におけるPSAのレベルを低下させる方法であって、該方法は、以下の工程:
GM−CSFを産生するために第1の腫瘍細胞集団を遺伝子改変する工程;
該細胞を被検体に投与する工程;
SDS−PAGEにより決定される約278kD抗原に対する免疫応答を検出する工程であって、該免疫応答は、該投与の前には検出されない、工程
を包含する、方法。
【請求項26】
前記約278kD抗原が、β−フィラミンである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫応答が、体液性免疫応答である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の腫瘍細胞集団が、増殖不能である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の腫瘍細胞集団が、同種異系の腫瘍細胞集団である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記第1の腫瘍細胞集団が、自己の腫瘍細胞集団である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の腫瘍細胞集団が、バイスタンダー細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の腫瘍細胞集団が、PC−3細胞、LNCaP細胞、および、PC−3細胞+LNCaP細胞からなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図1I】
【図1J】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図1I】
【図1J】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公表番号】特表2008−512491(P2008−512491A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531416(P2007−531416)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/032357
【国際公開番号】WO2006/031703
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(597078983)セル ジェネシス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/032357
【国際公開番号】WO2006/031703
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(597078983)セル ジェネシス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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