説明

前紡工程のドラフト装置

【課題】トップローラをボトムローラ側に加圧する加圧部が共通の支持部で支持されたアームを有し、しかも吸引作用により従来の清掃装置に比べて簡単な構成でトップローラの清掃を行うことができる前紡工程のドラフト装置を提供する。
【解決手段】ドラフト装置11のトップローラ15〜18を支持する支持アーム23〜26は、トップローラ15〜18と対応する位置にアーム本体を上下方向に貫通する吸引孔23a〜26aが形成され、吸引孔23a等を挟んで両側にはトップローラ加圧部が設けられている。支持アーム23〜26が動作位置に配置された状態で吸引孔23a〜26aに対してその上側から吸引作用を及ぼす吸引口27a等を有する吸引ダクト27は、吸引口27a等が吸引孔23a等と対向して吸引孔23a等に吸引作用を及ぼす作用位置と、支持アーム23等の回動に支障を来さない退避位置とに移動可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前紡工程のドラフト装置に係り、詳しくはトップローラの清掃機構に特徴を有する前紡工程のドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
練条機やコーマのように複数本のスライバをドラフトした後に1本のスライバに束ねる工程を備えた前紡工程のドラフト装置では、トップローラを支持するアームとしては、4本のトップローラ(ターニング、フロント、ミドル、バック)を板金フレーム構造で支持する構成のものが使用されている。
【0003】
ドラフト装置を構成しているドラフトローラには、各ドラフトローラ対間で把持されない浮遊繊維や綿塵等が付着し易く、これが原因で当該ドラフトローラに更に他の繊維が巻き付くことがあり、その結果、紡出スライバのゲレン変動を生じたり、紡出不能になったりする場合がある。従来、練条機における5オーバー4線方式のドラフト装置のトップローラの清掃装置として、図8に示すクリヤラー装置(清掃装置)が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
このクリヤラー装置は、ドラフト装置Dのフロントトップローラ71及びターニングトップローラ72には無端状のクリヤラクロス73が接触状態で周回走行するアーメンス式クリヤラー装置Eを配設し、フロントトップローラ71より上流側の各トップローラ74には該ローラに接触してその清掃を行うワイパーバー75をそれぞれ配設している。また、ドラフト装置Dの上方に配置された吸引ヘッド76には、クリヤラクロス73からコーム77により除去された綿塵あるいは浮遊繊維等を吸引するための吸引口78と、各ワイパーバー75により除去された綿塵あるいは浮遊繊維等を吸引するための吸引口79aを有する複数のダクト(吸引パイプ)79を設けている。
【0005】
また、ドラフト装置の各トップローラをボトムローラに対して加圧状態で支持するトップローラのアーム構造として、各トップローラをそれぞれ独立して支持する門形の押圧アームがスライバの走行方向と直交する面内で回動可能に設けられたものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2では、図9に示すように、押圧アーム80は、2つの側部の空圧シリンダ81a,81bと、共通の支持要素82と、2つのカバー要素83a,83bとから門形に構成されている。押圧アーム80は、トップローラ84と共にピボット軸受85を中心に上方に回動される。トップローラ84を受容する軸受86a,86bは、空圧シリンダ81a,81bのラム(ピストンロッド)87a,87bにより押圧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7−33981号公報
【特許文献2】特開2004−60141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の清掃装置は、フロントトップローラ71等から綿塵を除去するアーメンス式クリヤラー装置Eと、フロントトップローラ71より上流側の各トップローラ74から綿塵を除去するワイパーバー75と、それらにより除去された綿塵あるいは浮遊繊維等を吸引除去する吸引ヘッド76とを備えるため構造が複雑で装置が大型化する。
【0008】
一方、ドラフト装置はドラフトローラ対が3対又は4対、場合によっては5対設けられるため、全てのトップローラを板金フレーム構造の1つのアームで支持するトップアームでは、ドラフトローラ対の数に対応してそれぞれ別構造のアームを準備する必要がある。しかし、特許文献2の押圧アーム80は、トップローラ毎に基本的に同じ構成の押圧アーム80を用いることで、ドラフトローラ対の数が異なるドラフト装置であっても、ドラフトローラ対の数に合わせて押圧アーム80を準備することで簡単に対応することができる。
【0009】
ところが、特許文献2の押圧アーム80は、トップローラの清掃に関しては配慮がなれていない。例えば、吸引式の清掃装置を設ける場合、トップローラに繊維が巻きつく前に低い吸引圧で吸引するには、押圧アーム80より上方に位置する吸引ダクトに連通する比較的太い吸引パイプを押圧アーム80の支持要素82の間から差し込んで吸引パイプの先端をトップローラに近づける必要がある。しかし、隣接する押圧アーム80の支持要素82の間隔は最小ローラゲージにより決まる間隔より大きくすることはできないため、必要な太さの吸引パイプを使用することが難しい。また、複数の押圧アーム80間に挿入された複数の吸引パイプを同時に退避位置に移動させる機構も複雑になる。さらに、複数の押圧アーム80の下に吸引パイプを設けると空圧シリンダ81a,81bを長くする必要があり押圧アーム80の剛性確保に不利となる。
【0010】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、トップローラをボトムローラ側に加圧する加圧部が共通の支持部で支持されたアームを有し、しかも吸引作用により従来の清掃装置に比べて簡単な構成でトップローラの清掃を行うことができる前紡工程のドラフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ドラフト部清掃装置を備えた前紡工程のドラフト装置であって、トップローラを支持する各支持アームは、トップローラ本体と対応する位置にアーム本体を上下方向に貫通する吸引孔が形成され、前記吸引孔を挟んで両側にはトップローラ加圧部が設けられている。そして、前記支持アームが動作位置に配置された状態で前記吸引孔に対してその上側から吸引作用を及ぼす吸引口を有する吸引ダクトが、前記吸引口が前記吸引孔と対向して前記吸引孔に吸引作用を及ぼす作用位置と、前記支持アームの回動に支障を来さない退避位置とに移動可能に設けられている。ここで、「前紡工程」とは、例えば、練条機やコーマのように複数本のスライバを、ドラフト装置でドラフトした後、1本のスライバに束ねる工程や、カードのようにドラフト装置でドラフトされた幅広の繊維束(ウェブ)をスライバにする工程を意味する。また、「支持アームの動作位置」とは、支持アームがトップローラをボトムローラと協同してスライバあるいは繊維束を押圧する状態となる位置を意味する。
【0012】
この発明では、トップローラを支持する支持アームに設けられた2つのトップローラ加圧部の間に、アーム本体を上下方向に貫通する吸引孔が形成され、吸引ダクトが作用位置に配置された状態でその吸引口が吸引孔の上端と対向した状態になる。そして、吸引孔を介してトップローラに吸引作用を及ぼす。したがって、吸引ダクトとトップローラの表面との距離が大きくても、トップローラに強い吸引作用を及ぼすことができる。したがって、トップローラをボトムローラ側に加圧する加圧部が共通の支持部で支持されたアームを有し、しかも吸引作用により従来の清掃装置に比べて簡単な構成でトップローラの清掃を行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記吸引ダクトは、全ての前記支持アームの前記吸引孔と対向可能な位置にそれぞれ前記吸引口が形成され、かつフロントトップローラより上流側に配置されるトップローラを支持する前記支持アームの前記吸引孔と対向可能な位置に形成されている前記吸引口の開口量調整部を備えている。
【0014】
フロントトップローラにはフロントトップローラより上流側に配置されているトップローラに比べて繊維が巻き付き易い。この発明では、フロントトップローラより上流側に配置されているトップローラに吸引作用を及ぼすための吸引口に設けられている開口量調整部でそれらの吸引口の開口量を調整することにより、吸引源の吸引力を大きくしなくてもフロントトップローラに吸引作用を及ぼす吸引口の吸引作用を大きくすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記吸引ダクトは、フロントトップローラと対向する前記吸引孔のみに吸引作用を及ぼすように前記吸引口が設けられている。この発明では、浮遊繊維やフリースの巻き付きが発生し易いフロントトップローラと対向する吸引孔にのみ吸引ダクトの吸引作用が及ぶため、吸引ダクトが接続された吸引源の吸引能力が低くても、フロントトップローラに浮遊繊維やフリースの一部が巻き付く前に除去すべき繊維や綿塵を吸引除去することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記吸引ダクトは、ドラフト装置のボトムローラが延びる方向と平行な方向に延びる円筒部を有し、その円筒部を回動中心として前記作用位置と前記退避位置とに移動可能に、かつ前記円筒部を介して吸引源に連通可能に構成されている。この発明では、吸引ダクトを作用位置と退避位置とに移動させる構成及び吸引ダクトに吸引源の吸引作用を効率良く及ぼす構成が簡単になる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記トップローラ加圧部は空圧シリンダにより構成され、前記支持アームには一方の前記空圧シリンダに供給された加圧エアを他方の空圧シリンダに供給する配管部が設けられている。この発明では、一方の空圧シリンダに加圧エアが供給されると、支持アームに設けられた配管部を介して他方の空圧シリンダに加圧エアが供給される。したがって、両空圧シリンダをそれぞれ独立して加圧空気源に配管を介して連通可能な構成にする場合に比べて、2つの空圧シリンダに加圧エアを供給するための配管構造が簡単になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トップローラをボトムローラ側に加圧する加圧部が共通の支持部で支持されたアームを有し、しかも吸引作用により従来の清掃装置に比べて簡単な構成でトップローラの清掃を行うことができる前紡工程のドラフト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態のドラフト装置の一部破断概略側面図。
【図2】支持アームの断面図。
【図3】吸引ダクトが作用位置に配置された状態のドラフト装置の概略斜視図。
【図4】吸引ダクトが退避位置に配置された状態のドラフト装置の概略斜視図。
【図5】支持アームの正面図。
【図6】開口量調整部の作用を説明する概略部分断面図。
【図7】(a)は別の実施形態の支持アームの断面図、(b)は別の実施形態の支持アームの一部破断正面図。
【図8】従来技術のクリヤラー装置の断面図。
【図9】従来技術のトップローラの支持アーム構造を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を前紡工程としてのコーマのドラフト装置に具体化した一実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
図1に示すように、図示しないコーマの複数のコーミングヘッドから供給される複数本のスライバSをドラフトするドラフト装置11は、フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14を備えている。各ボトムローラ12,13,14は、図示しないローラスタンドに支持されている。フロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14と対応する上側に、フロントトップローラ15、ミドルトップローラ16及びバックトップローラ17が配置されている。フロントボトムローラ12の上部前側には、フロントボトムローラ12及びフロントトップローラ15から送り出されるフリースFの進行方向を下方へ変更させるターニングトップローラ18が配設されている。即ち、このドラフト装置11は4オーバー3線方式となっている。
【0021】
フロントボトムローラ12より前側下方には、ギャザラー19が配設され、ギャザラー19の下方にはコイラ装置のコイラトランペット20、一対のコイラカレンダーローラ21が順に配設されている。そして、コイラ装置は、ギャザラー19から下方に向かって進行するとともにコイラカレンダーローラ21で再度圧縮された後のスライバSを、図示しないチューブホイールを用いてケンス内に収納する。
【0022】
ドラフト装置11の上方にはトップローラ15〜18の清掃を行うためのドラフト部清掃装置22が設けられている。図1に示すように、ドラフト部清掃装置22は、各トップローラ15〜18を支持する支持アーム23,24,25,26に形成された吸引孔23a,24a,25a,26aと、吸引孔23a,24a,25a,26aに対してその上側から吸引作用を及ぼす吸引口27a,27b,27c,27dを有する吸引ダクト27とを備えている。
【0023】
吸引ダクト27は、図1に示すように、各支持アーム23〜26が動作位置に配置された状態で各吸引口27a〜27dが各吸引孔23a〜26aと対向して吸引孔23a〜26aに吸引作用を及ぼす作用位置と、図4に示すように、支持アーム23〜26の回動に支障を来さない退避位置とに移動可能に設けられている。吸引ダクト27の下面には、図1に示すように、吸引ダクト27が作用位置に配置された状態で、吸引口28aがフロントトップローラ15及びターニングトップローラ18の近くに位置するように形成された扁平な筒状の吸引部28が突設されている。
【0024】
図1、図3及び図4に示すように、吸引ダクト27は、ドラフト装置11のボトムローラ12〜14が延びる方向と平行な方向に延びる円筒部29を有し、その円筒部29を回動中心として作用位置と退避位置とに移動可能に構成されている。また、円筒部29は図示しない配管を介して吸引源(負圧源)に連通可能に構成され、円筒部29を介して吸引ダクト27に吸引源の吸引作用が及ぶようになっている。
【0025】
図1に示すように、吸引ダクト27は、ミドルトップローラ16及びバックトップローラ17を支持する支持アーム24,25の吸引孔24a,25aと対向可能な位置に形成されている吸引口27b,27cの開口量調整部を備えている。開口量調整部として、吸引口27b,27cを覆う状態で吸引ダクト27の下面に吸着可能なゴム磁石製の蓋体30が、各吸引口27b,27cに対応してそれぞれ設けられている。そして、蓋体30の吸着位置を変更することにより、吸引口27b,27cの開口量が0%〜100%の間で連続的に調整可能になっている。また、吸引ダクト27の下面には、蓋体30と同じ厚さのゴム磁石製の環状部材31が吸引口27aを囲繞するように吸着されている。吸引ダクト27は、少なくとも蓋体30が吸着される部分は磁石が吸着可能な材質、例えば、鋼板で形成されている。
【0026】
次に支持アーム23〜26について説明する。各支持アーム23〜26は同じ構成のため、フロントトップローラ15用の支持アーム23について説明する。図2及び図3に示すように、支持アーム23は、トップローラ本体32と対応する位置にアーム本体33を上下方向に貫通する吸引孔23aが形成され、吸引孔23aを挟んで両側にはトップローラ加圧部34が設けられている。支持アーム23は、トップローラ本体32の両側に突出された回転軸32aを一対の支持部35で支持する。回転軸32aには軸受36が相対回転可能に取り付けられている。
【0027】
トップローラ加圧部34は空圧シリンダ37a,37bにより構成されている。アーム本体33には空圧シリンダ37a,37bを構成するピストン38及びピストンロッド38aを摺動案内する大径部及び小径部からなる連通孔39が一対形成され、ピストンロッド38aはその先端が連通孔39の小径部から突出して軸受36に当接するように配設されている。アーム本体33には、連通孔39の大径部を覆うようにハウジング40,41が固定され、一方のハウジング40には図示しない圧縮空気源に連通する配管42が接続されている。また、両ハウジング40,41は、配管(一部、図3及び図4に図示)で連通され、圧縮空気源から一方の空圧シリンダ37aに供給された加圧エアが他方の空圧シリンダ37bに供給されるようになっている。
【0028】
図2に示すように、支持アーム23は、一方の空圧シリンダ37aが設けられた側の端部において支軸43を介して支持ブラケットに対して回動可能に支持されている。支持アーム23には支軸43に支持された側と反対側の端部に、フロントトップローラ15をフロントボトムローラ12と共同してドラフトすべき繊維束を把持する状態に保持する動作位置に支持アーム23が配置された状態において、機台側に設けられた係止部44と係合して支持アーム23を動作位置に保持する係止レバー45が回動可能に設けられている。係止レバー45は、図2に実線で示す係止位置から反時計方向に回動すると、2点鎖線で示す非係止位置に配置される。
【0029】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。ドラフト装置11は、各支持アーム23〜26が動作位置に配置され、図1に示すように、吸引ダクト27の吸引口27a〜27dが各支持アーム23〜26の吸引孔23a〜26aと対向する作用位置に配置された状態で駆動される。各ボトムローラ12〜14は紡出条件に対応したドラフト比となるように駆動される。そして、複数本のスライバSが所定の倍率にドラフトされてフリースFとなってフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ15から送り出された後、ギャザラー19及びコイラトランペット20を通過して1本のスライバSに集束され、コイラカレンダーローラ21で再度圧縮された後、チューブホイールを経てケンスに収容される。
【0030】
ドラフト装置11の駆動中、吸引ダクト27は図1及び図3に示すように作用位置に配置され、吸引口27a〜27dが支持アーム23〜26の吸引孔23a〜26aの上端と対向する状態で、吸引源からの吸引作用が及ぶ状態に保持される。吸引ダクト27は、作用位置に配置された状態では環状部材31及び蓋体30が支持アーム23及び支持アーム24,25の上面にそれぞれ当接した状態で支持アーム23〜25上に載置される状態になる。そして、各トップローラ15〜18には吸引口27a〜27dの吸引作用が吸引孔23a〜26aを介して強く作用する。また、浮遊繊維が発生し易いフロントトップローラ15とターニングトップローラ18の近傍には吸引部28の吸引口28aから吸引作用が及ぶ。その結果、浮遊繊維等の繊維が各トップローラ15〜18に巻き付く前に吸引孔23a〜26aから吸引除去される。
【0031】
コーマの運転準備の際、複数のコーミングヘッドから供給される複数本のスライバSをボトムローラ12〜14とトップローラ15〜18との間に配置する場合や、ボトムローラ12〜14のメンテナンス作業を行う場合には、トップローラ15〜18が作業の邪魔にならないようにする必要がある。そのため、図5に2点鎖線で示すように、各支持アーム23〜26が退避位置に配置される。なお、図5ではフロントトップローラ15用の支持アーム23のみ図示している。各支持アーム23〜26が退避位置に配置される前に吸引ダクト27が退避位置に配置される必要がある。吸引ダクト27は、ボトムローラ12〜14の延びる方向と平行な方向に延びる円筒部29を回動中心として作用位置と退避位置とに移動される。各トップローラ15〜18に吸引作用を及ぼす構成として、支持アーム23〜26の吸引孔23a〜26aを設けずに、全て吸引部28のように吸引ダクト27から扁平な筒状の吸引部を各トップローラ15〜18に対応して設けると、吸引ダクト27が回動する際に一部の吸引部が支持アーム23〜26と干渉する。しかし、吸引ダクト27は、回動に支障とならない位置にのみ扁平な筒状の吸引部28が設けられ、他の位置には吸引口27a〜27dが設けられているので、回動により支障なく作用位置と退避位置とに移動される。
【0032】
また、各吸引口27a〜27dを介して各吸引孔23a〜26aに適切な吸引作用が及ぶように、吸引口27b,27cの開口量の調整が行われる。開口量の調整は、図6に示すように、蓋体30の吸着位置を変更することにより行われる。
【0033】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)トップローラ15〜18を支持する各支持アーム23〜26は、トップローラ本体32と対応する位置にアーム本体33を上下方向に貫通する吸引孔23a〜26aが形成され、吸引孔23a〜26aを挟んで両側にはトップローラ加圧部34が設けられている。そして、支持アーム23〜26が動作位置に配置された状態で吸引孔23a〜26aに対してその上側から吸引作用を及ぼす吸引口27a〜27dを有する吸引ダクト27が、吸引口27a等が吸引孔23a等と対向して吸引孔23a等に吸引作用を及ぼす作用位置と、支持アーム23等の回動に支障を来さない退避位置とに移動可能に設けられている。したがって、トップローラ15〜18をボトムローラ12〜14側に加圧する加圧部が共通の支持部で支持されたアームを有し、しかも吸引作用により従来の清掃装置に比べて簡単な構成でトップローラ15〜18の清掃を行うことができる。また、吸引ダクト27には吸引部28を除いてトップローラ15〜18の近傍まで延びる吸引部を有しないため、ダクトの形状が簡単になり、原価低減を図ることができる。
【0034】
(2)各トップローラ15〜18に吸引作用を及ぼす吸引孔23a〜26aは、各支持アーム23〜26の両側に設けられたトップローラ加圧部34の間に設けられている。したがって、吸引孔23a〜26aを設けるスペースの確保が容易になるとともに、吸引孔23a〜26aを形成する部材が各支持アーム23〜26と独立して形成される構成に比べて、各支持アーム23〜26を動作位置と退避位置とに簡単な構成で支障なく移動させることができる。
【0035】
(3)吸引ダクト27は、全ての支持アーム23〜26の吸引孔23a〜26aと対向可能な位置にそれぞれ吸引口27a〜27dが形成されている。そして、フロントトップローラ15より上流側に配置されるトップローラ16,17を支持する支持アーム24,25の吸引孔24a,25aと対向可能な位置に形成されている吸引口27b,27cの開口量調整部(蓋体30)を備えている。したがって、開口量調整部で吸引口27b,27cの開口量を調整する(絞る)ことにより、吸引源の吸引力を大きくしなくてもフロントトップローラ15及びターニングトップローラ18に吸引作用を及ぼす吸引口27a,27dの吸引作用を大きくすることができる。
【0036】
(4)吸引ダクト27は、ドラフト装置11のボトムローラ12〜14が延びる方向と平行な方向に延びる円筒部29を有し、その円筒部29を回動中心として作用位置と退避位置とに移動可能に、かつ円筒部29を介して吸引源に連通可能に構成されている。したがって、吸引ダクト27を作用位置と退避位置とに移動させる構成及び吸引ダクト27に吸引源の吸引作用を効率良く及ぼす構成が簡単になる。
【0037】
(5)トップローラ加圧部34は空圧シリンダ37a,37bにより構成されている。したがって、トップローラ加圧部34としてばねを利用したシリンダを使用する場合に比べて、加圧力の調整が簡単になる。
【0038】
(6)各支持アーム23〜26の両側に設けられた空圧シリンダ37a,37bに加圧エアを供給する構成として、一方の空圧シリンダ37aを配管42を介して圧縮空気源に連通可能に構成し、他方の空圧シリンダ37bには空圧シリンダ37aに供給された加圧エアを配管を介して供給する。したがって、各空圧シリンダ37a,37bに圧縮空気源から独立して加圧エアを供給する構成に比べて、各空圧シリンダ37a,37bに加圧エアを供給するための配管構造が簡単になる。
【0039】
(7)吸引ダクト27は、動作位置に配置された状態において相互の間隔が広い支持アーム23と支持アーム26との間に、フロントトップローラ15の近くまで延びる扁平な筒状の吸引部28を有する。したがって、吸引ダクト27の回動に支障を来すことなく、浮遊繊維等の巻き付きが発生し易いフロントトップローラ15への繊維の巻き付きをより効率良く防止することができる。
【0040】
(8)開口量調整部としてゴム磁石製の蓋体30を設け、蓋体30の吸引ダクト27に対する吸着位置を変更して吸引口27b,27cが覆われない量、即ち開口量を調整する。したがって、開口量を無段階で変更することができる開口量調整部の構成が簡単になる。
【0041】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ トップローラ加圧部34は空圧シリンダ37a,37bに限らず、図7(a)に示すように、例えば、コイルばね46によりピストン38をピストンロッド38aの突出方向へ付勢する構成を採用してもよい。この場合、加圧エアを供給するための構成が不要になり、構造が簡単になって製造コストも低くなる。
【0042】
○ 各支持アーム23〜26に一方の空圧シリンダ37aに供給された加圧エアを他方の空圧シリンダ37bに供給する配管部47を設けてもよい。例えば、支持アーム23について説明すると、図7(b)に示すように、アーム本体33の上部の吸引孔23aと干渉しない位置に、両連通孔39の近くまで延びるとともに上側が解放された溝48を形成し、連通孔39と溝48とを孔49で連通する。溝48の上側をカバー50で密封する。この場合、他方の空圧シリンダ37bにはハウジング41を設ける必要がなく、各空圧シリンダ37a,37bに圧縮空気源から独立して加圧エアを供給する構成に比べて、各空圧シリンダ37a,37bに加圧エアを供給するための配管構造が簡単になる。
【0043】
○ 吸引ダクト27を、フロントトップローラ15及びターニングトップローラ18と対向する吸引孔23a,26aのみに吸引作用を及ぼすように吸引口が設けられた構成としてもよい。浮遊繊維やフリースの巻き付きは、フロントトップローラ15やターニングトップローラ18で発生し易く、紡出繊維の種類によっては、ミドルトップローラ16やバックトップローラ17に対して専用の吸引部を設けなくても紡出に支障が生じない場合がある。そのような場合、支持アーム24,25の吸引孔24a,25aと対応する吸引口27b,27cを省略して、吸引口27a,27dのみを設けた構成にしてもよい。
【0044】
○ 吸引ダクト27に開口量調整部が設けられている場合、開口量を零にして吸引口27b,27cからの吸引作用が支持アーム24,25の吸引孔24a,25aに及ばない状態で使用してもよい。この場合、紡出繊維としてミドルトップローラ16やバックトップローラ17に対して専用の吸引部を設ける方が好ましい繊維を使用する場合、簡単に対応することができる。
【0045】
○ 吸引ダクト27の開口量調整部は、ゴム磁石製の蓋体30に限らず、吸引ダクト27に対してシャッターを回動可能あるいはスライド可能に取り付けた構成にしてもよい。この場合も無段階で開口量の調整が可能になる。
【0046】
○ 吸引ダクト27の開口量調整部は、無段階ではなく、例えば、全開と全閉の2段階あるいは全開、半開、全閉の3段階に開口量を調整可能な構成としてもよい。
○ 開口量調整部をゴム磁石製の蓋体30で形成する場合、吸引ダクト27の蓋体30が吸着される部分のみ磁石が吸着する磁性材で形成し、残りの部分を樹脂製や繊維強化樹脂製としてもよい。
【0047】
○ 吸引ダクト27を回動可能に支持する支持部は、吸引ダクト27を吸引源に連通させる機能を有する円筒部29に限らず、支持部と吸引源に連通させる部分とを独立して設けてもよい。
【0048】
○ 吸引部28を省略してもよい。
○ ドラフト装置11は3線式のドラフト装置に限らず、4線式及び5線式のドラフト装置であってもよい。また、フロントローラとバックローラの2線式のドラフト装置であってもよい。
【0049】
○ ドラフト装置11の前側に配置されるターニングトップローラ18を省略してもよい。
○ 前紡工程は練条機やコーマに限らず、複数本のスライバをドラフトした後に1本のスライバに束ねる工程を備えた紡機、例えば、スライバラップマシーンやリボンラップマシーンに適用してもよい。
【0050】
○ 前紡工程は複数本のスライバをドラフトした後に1本のスライバに束ねる工程を備えた紡機に限らず、カードのようにドラフト装置でドラフトされた幅広の繊維束(ウェブ)をスライバにする工程を備えた紡機であってもよい。
【0051】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項3に記載の発明において、前記開口量調整部は前記吸引口を覆う状態で前記吸引ダクト27に吸着可能なゴム磁石で形成されている。
【0052】
(2)請求項1〜請求項5及び前記技術的思想(1)のいずれかに記載の発明において、前記トップローラとしてフロントトップローラ及びターニングトップローラを備え、前記吸引ダクトにはその下面に、前記吸引ダクトが作用位置に配置された状態で、前記フロントトップローラ及びターニングトップローラの間を指向するように延びる扁平な筒状の吸引部が設けられている。
【符号の説明】
【0053】
11…ドラフト装置、12…フロントボトムローラ、13…ミドルボトムローラ、14…バックボトムローラ、15…フロントトップローラ、16…ミドルトップローラ、17…バックトップローラ、18…ターニングトップローラ、22…ドラフト部清掃装置、23,24,25,26…支持アーム、23a,24a,25a,26a…吸引孔、27…吸引ダクト、27a,27b,27c,27d,28a…吸引口、29…円筒部、32…トップローラ本体、33…アーム本体、34…トップローラ加圧部、37a,37b…空圧シリンダ、47…配管部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト部清掃装置を備えた前紡工程のドラフト装置であって、
トップローラを支持する各支持アームは、トップローラ本体と対応する位置にアーム本体を上下方向に貫通する吸引孔が形成され、前記吸引孔を挟んで両側にはトップローラ加圧部が設けられ、
前記支持アームが動作位置に配置された状態で前記吸引孔に対してその上側から吸引作用を及ぼす吸引口を有する吸引ダクトが、前記吸引口が前記吸引孔と対向して前記吸引孔に吸引作用を及ぼす作用位置と、前記支持アームの回動に支障を来さない退避位置とに移動可能に設けられていることを特徴とする前紡工程のドラフト装置。
【請求項2】
前記吸引ダクトは、全ての前記支持アームの前記吸引孔と対向可能な位置にそれぞれ前記吸引口が形成され、かつフロントトップローラより上流側に配置されるトップローラを支持する前記支持アームの前記吸引孔と対向可能な位置に形成されている前記吸引口の開口量調整部を備えている請求項1に記載の前紡工程のドラフト装置。
【請求項3】
前記吸引ダクトは、フロントトップローラと対向する前記吸引孔のみに吸引作用を及ぼすように前記吸引口が設けられている請求項1又は請求項2に記載の前紡工程のドラフト装置。
【請求項4】
前記吸引ダクトは、ドラフト装置のボトムローラが延びる方向と平行な方向に延びる円筒部を有し、その円筒部を回動中心として前記作用位置と前記退避位置とに移動可能に、かつ前記円筒部を介して吸引源に連通可能に構成されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の前紡工程のドラフト装置。
【請求項5】
前記トップローラ加圧部は空圧シリンダにより構成され、前記支持アームには一方の前記空圧シリンダに供給された加圧エアを他方の空圧シリンダに供給する配管部が設けられている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の前紡工程のドラフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−127007(P2012−127007A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276907(P2010−276907)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】