説明

前面が凹んだ組み合わせ工具

【課題】雌ねじを作成する。
【解決手段】本発明は、(a)少なくとも一つの刃先(11,13)を有する少なくとも一つの切削領域(5)と、(b)少なくとも一つのねじ山成形領域(6)と、を備え、(c)切削領域(5)とねじ山成形領域(6)とが工具軸(A)の周りに共に回転可能であるかまたは共に回転するように互いに接続されており、(d)少なくとも一つの切削領域(5)が前面工具端(19)に少なくとも一部形成されており、および/または少なくとも一つの切削領域(5)が前面工具端(19)と隣接しており、(e)チップを受け入れることを目的とする前面凹部(15)が前面工具端(19)に形成されている、ねじ山、特に雌ねじを作成する工具(2)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ山、特に雌ねじを作成する工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ山を作成するために、特にねじ結合用のねじ山を作成するために、切削作用を有する工具およびチップレス作用を有する工具が知られている。
【0003】
切削作用を有する工具は刃先を備える。このグループにはドリルとフライス(ミリングカッタ)が含まれる。ドリルは、特に連続切削すなわち刃先と材料とを連続的に係合させた状態で被加工物を加工する。フライスは、特に不連続あるいは中断した切削すなわち刃先と材料との係合を不連続にして被加工物を加工する。
【0004】
チップレスでねじ山を作成(すなわち成形加工)するために、ねじ山作成工具が知られている。ねじ山作成工具は、被加工物を成形し、圧力によって被加工物にねじ山を作成することに基づいている。これらチップレスのねじ山作成具の範囲と近いものとして、「ねじ山成形具(thread former)」がある。これは、外側に突出する加圧ローブ(すなわち成形ウェッジ)を用いて被加工物の材料を成形するものである。
【0005】
通常、工具は工具柄と工具柄に形成される作用領域とを備える。概して、工具柄は少なくとも略円筒形の設計とされており、ねじ山作成装置のチャックに収容されて保持される。作用領域は切削特徴または非切削特徴を有する。例えば、ねじ山の作成または再加工のために設けられる刃先または加圧ローブである。
【0006】
既存の穴にねじ山を作成するために、前面に作用領域を有する工具が、工具柄の長手方向軸に対して軸方向に、対応する送り速度で被加工物すなわち被加工物の穴の中へと挿入され、同時にこの長手方向軸周りに工具が回転する。プロセスにおいて、刃先または加圧ローブ(pressing lobe)が被加工物すなわち穴の表面に押しつけられる。プロセスにおいて、切削特徴(刃先)が材料を除去し、非切削特徴(加圧ローブ)が主に半径方向、言い換えると穴の長手方向軸すなわち工具軸に対して直角方向に被加工物の材料を押しのける。後者の場合、この方法で変形した材料の一部が固まり、別の部分がねじ山成形具の加圧ローブ間の凹部すなわち溝に押し込まれ、この結果として最終的に被加工物にねじ山が作成される。
【0007】
切削領域と成形領域の両方が、被加工物の純粋に軸方向の加工専用に設計されてもよい。すなわち、それぞれの作用領域すなわち工具が単に工具軸周りに回転し、軸送り速度で被加工物の中へと移動する場合である。さらに、切削領域と成形領域の両方が、被加工物の円形加工専用に設計されてもよい。すなわち、工具軸周りの回転と被加工物内への送りに加えて、それぞれの作用領域すなわち工具が工具軸と平行に延びる別の軸周りで円形に回転し、工具軸からオフセットされる。したがって、工具は、自転の他に、被加工物内へとらせん運動する。
【0008】
純粋に軸方向の加工の場合、切削特徴または成形特徴は、通常、工具軸の周りに少なくとも本質的にらせん状に配置される。言い換えると、工具軸周りにあるピッチで並ぶように工具に配置される。この配置は、作成されるねじ山のはめ合いを最終的に構成する。すなわち、この配置のピッチはねじ山のピッチである。しかしながら、円形運動については、通常は配置が環状であり、ピッチがない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
チップレス工具の利点は、表面の変形とそれに伴う硬化のために、ねじ山側面の領域で材料の硬さが増加し、したがってより摩耗に強いねじ山が作成されることである。しかしながら、純粋にチップレスのねじ山作成、すなわち加圧ローブによってねじ山が完全に成形されるねじ山作成の欠点は、高い荷重とそれに伴う加圧ローブの摩耗の多さである。
【0010】
この荷重を低減するために、事前の行程で最初にねじ山を作成しておくことが知られている。切削工具によって最初にねじ山を作成してもよい。この結果、この二段階のねじ山作成過程において、切削によるねじ山作成とチップレスのねじ山作成の利点を組み合わせることができる。しかしながら、この場合、別々の工具を使用する少なくとも二つの個別の行程が必要になる。
【0011】
さらに、未公開のドイツ特許出願DE 10 2005 022 503.9は、切削作用とチップレス作用の両方を有し、そのために少なくとも一つの刃先と少なくとも一つのねじ山成形領域とを備える組み合わせ工具を開示している。この工具を用いると、組み合わせねじ山作成、すなわち切削と成形の両方によるねじ山作成を、単一の工具を用いて一行程で時間とコストを節約して実行することが可能である。しかしながら、この場合の欠点は、切削領域によって作成される被加工物のチップが後続のねじ山成形領域によってねじ山の中に押し込まれることがあり、その結果ねじ山の望ましくない欠陥につながりうることである。
【0012】
本発明の目的は、ねじ山、特に雌ねじの作成に用いる新規な工具であり、上述の欠点を解決するか少なくとも軽減する工具を特定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1の特徴によって達成される。本発明による工具の有利な構造および発展については、請求項1の従属項から得られる。
【0014】
請求項1によると、ねじ山、特に雌ねじを作成する工具が提供される。この工具は、
a)少なくとも一つの刃先を有する少なくとも一つの切削領域と、
b)少なくとも一つのねじ山成形領域と、を備える。
したがって、これは組み合わせ工具である。この工具において、
c)切削領域とねじ山成形領域とが、工具軸の周りに共に回転可能であるかまたは共に回転するように互いに接続されており、
d)前面工具端に少なくとも一部形成されており、および/または少なくとも一つの切削領域が前面工具端と隣接しており、
e)チップを受け入れることを目的とする前面凹部が前面工具端(19)に形成されている。
【0015】
通常、工具軸に対して軸方向の所定の送り方向が、工具、特に少なくとも一つの切削領域にとって優れており、または少なくとも一つの刃先と少なくとも一つのねじ山成形領域の配置にとって優れている。概して、前面の(自由)工具端はこの送り方向に移動する。言い換えると、前面の(自由)工具端は工具の所定の送り方向における工具の末端である。反対側の端は、通常、工作機械のクランプ装置でクランプされる。
【0016】
前面凹部が受け入れようとするチップは、切削領域(またはその刃先)による被加工物の切削加工の間に生成される被加工物のチップである。
【0017】
本発明による工具の利点は、特に、切削領域により被加工物の機械加工の間に生成されるチップが前面凹部で集められ、そのためチップがねじ山成形領域に移ることがなく、したがって成形の間にねじ山にチップが押しつけられることがないという事実にある。さらに、この工具は、切削過程および成形過程による組み合わせ作成についての上述の利点の全てと、組み合わせ工具についての上述の利点とを有している。
【0018】
工具において、工具が操作される回転方向、すなわち少なくとも一つの切削領域または少なくとも一つの刃先の配列が設計されている回転方向は、通常優れている。少なくとも一つのねじ山成形領域は、この回転方向で同様に作用する。
【0019】
好ましい発展形態によると、前面凹部は、前面工具端から始まって、工具軸に沿っておよび/または工具の送り方向と反対方向に延びて工具内部に入る。
【0020】
変形例では、前面凹部は、前面工具端から始まって本質的に円錐台形状(frustoconically)にまたは円筒形状に工具の内部へと延びる。
【0021】
別の実施形態によると、工具軸に対して直角方向の前面凹部の断面積は、少なくとも前面工具端において、工具断面積の少なくとも30%、特に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%を占める。これに加えて、前面工具端からの距離が増加するにつれて、前面凹部の断面積が減少するようにしてもよい。
【0022】
目的にかなった変形例では、前面凹部は、切削領域の前面工具端と隣接する刃先および/または刃先の列よりも、工具の内部へと深く延びる。特に、前面工具端と隣接する切削領域の長さの半分よりも深く延びる。こうすることで、チップを受け入れるのに十分な空間が前面凹部に確保される。
【0023】
前面凹部が前面工具端の中心に形成され、および/またはシェルによって前面凹部が半径方向に囲まれていると都合がよい。好適かつ特別の目的にかなった発展形態によると、前面凹部を半径方向に囲むシェルは、チップを前面凹部へと進ませることができる一つ以上の開口部を有する。基本的な機能において、これらの開口部は従来の切削工具における溝と対応する。つまり、開口部はチップ除去の機能を持つ。しかしながら、チップが開口部を介して前面凹部に供給されるのであり、従来の工具の溝のように、工具の後部へとチップが送られるのではない。切削方向において開口部が切削領域の刃先よりも先行すると都合がよい。
【0024】
変形例によると、開口部は、前面工具端から始まり工具に沿って延びる。開口部は、工具に沿って刃先の配列と平行に延びてもよい。
【0025】
代わりにまたは追加して、開口部が直線状に、特に工具軸と平行に延びてもよいし、および/または斜め方向に延びてもよいし、および/または工具軸周りにらせん状に巻き付くように延びてもよい。
【0026】
本発明による工具の第1変形例では、被加工物表面にねじ山を作成または準備するために、少なくとも一つの切削領域が当てられている。そして、この被加工物表面にねじ山を押しつけるすなわち成形することによってねじ山をチップレスで作成するための少なくとも一つのねじ山成形領域が設けられる。
【0027】
第1変形例と組み合わせることも可能な第2変形例では、被加工物表面にねじ山を切削で前加工する(すなわち、粗いねじ山を作成する)ために、少なくとも一つの切削領域が当てられている。そして、被加工物表面にねじ山を押しつけるすなわち成形することによって、前加工されたねじ山をチップレスで再加工、特に平滑化およびさらに形作るために、少なくとも一つのねじ山成形領域が設けられる。したがって、被加工物表面には、成形プロセスの前に前加工されたねじ山(pre-thread)がある。
【0028】
第1変形例の工具を使用すると、被加工物の中実材料にねじ山を作成することも可能である。これは、切削領域が被加工物自身から材料を除去することによって、ねじ山成形領域のために被加工物の表面を作成するからである。したがって、被加工物を前もって機械加工する必要がない。特に、追加することが可能な工程ではあるが、雌ねじを作成する場合に穴(芯穴)を最初に作成する必要がない。
【0029】
二つの変形例の組み合わせは、第1切削領域が、材料を除去することによって被加工物表面、特に通常は円筒形である被加工物の壁部分を内壁として雌ねじ作成のために準備し、第2切削領域が、第1切削領域によって準備された被加工物表面にねじ山の前加工を施し、最後に少なくとも一つのねじ山成形領域がチップレスで前加工されたねじ山を再加工すなわち仕上げするという可能性を含む。
【0030】
第1変形例において、被加工物表面を切削作成するための切削領域は、特に、連続切削すなわち刃先と被加工物の材料とが連続的に係合するドリル錐として設計されることが好ましい。
【0031】
同様に、第2変形例において、前加工されたねじ山を切削作成するための切削領域が有利な実施形態におけるタップであり連続切削として機能するか、または、別の実施形態におけるねじ山フライス(ミリングカッター)であり非連続切削として機能する。
【0032】
そのため、第1の基本的な実施形態では、被加工物に対する送り方向における軸方向すなわち直線送り運動でしか工具を移動することができない。
【0033】
軸方向送りのみであるこの実施形態では、ねじ山成形領域は、回転運動と送り運動で構成されるねじ山成形領域の移動の間に被加工物のねじ山へと複製される外形を有する。特に、この外形は工具軸周りをらせん状に走る基本的な外形であり、作成されたまたは作成されるねじ山と同じピッチを有する。工具上のねじ山成形領域のこの形成ねじ山は、被加工物に作成されるねじ山とほぼはめ合いとなる外形をしており、概して複数のねじ山ターンを有する。この場合のねじ山ターンは、工具周りにらせん状の線を旋回または巻き付けたものに対応する。したがって、長手方向断面すなわちねじ山の側面において、ねじ山成形領域は、歯と溝が交互に並ぶ本質的にギザギザの形状を有する。ねじ山成形領域のこの実施形態は、軸方向のねじ山成形領域に対応する。
【0034】
切削領域は被加工物表面を作成可能であり、または、別の過程であるいはねじ山成形領域の作用運動と同時に、ねじ山の前加工を実施可能である。別の過程における別の作用運動の場合、切削領域は、まず最初に、ねじ山成形の間、ねじ山成形領域の作用運動とは独立して軸方向にまたは円形に運動することができる。単一の作用運動の場合、切削領域とねじ山成形領域とは同時に移動する。例えば、軸方向ドリル領域としての切削領域が、排他的な軸方向送り運動によって、穴すなわち被加工物表面を作成することができる。または、ドリル領域が円形状に動作する場合、ドリル領域の切削方向に工具を回転させる円形送り運動によって、切削領域が穴すなわち被加工物表面を作成することができる。
【0035】
原理上は、組み合わせ工具において、あらゆる所望のタイプの切削領域を、あらゆる所望のタイプのねじ山成形領域と組み合わせることができる。こうして多様な応用形態に対する特別な工具を作成することができる。
【0036】
発展形態では、ねじ山のコアと比べて拡大された段状のまたは面取りされた入口領域すなわち開口領域を作成するための追加の切削領域として、送り方向とは反対の方向でねじ山成形領域と隣接する切削領域を設けることができる。
【0037】
後述する加圧ローブ、成形ウェッジまたは成形歯は、ねじ山を形作るために被加工物表面へと少なくとも部分的に進入するねじ山成形領域の範囲である。この場合、加圧ローブまたは成形ウェッジは、通常、断面において外側が減少する。すなわち半径方向外方にテーパーを有する。ねじ山成形領域は、複数の加圧ローブまたは成形ウェッジを備えてもよい。連続する加圧ローブまたは成形ウェッジの加圧側面すなわち有効側面が変化してもよい。例えば、加圧ローブまたは成形ウェッジの幅および/または高さおよび/または目盛り(graduation)が変化してもよいし、加圧ローブまたは成形ウェッジが互いに補完する形態であって、被加工物のねじ山側面に複製される共通の有効側面または重ね合わされる有効側面を有していてもよい。
【0038】
工具軸は、概して長手方向軸であり、および/または工具の慣性主軸であり、および/または工具の中央を貫通する軸である。工具柄は、概して本質的に円筒形状である。言い換えると、断面が本質的に円形である。工具柄は、クランプ装置、工具ホルダまたは工作機械の工具チャックに一端で保持およびクランプされるか、またはクランプ可能である。工具柄は、円形以外にも、任意の他の所望の断面形状を有していてよい。工具柄は、増減する断面積を有していてもよいし、および/または工具軸に沿って断面積が変動してもよい。
【0039】
切削領域および/またはねじ山成形領域は、工具柄と一体的に形成されていてもよいし、例えば焼きばめ、ろう付け、溶接、接着接合またはねじ締結によって作成済みの部分として工具柄と接合されてもよい。さらに、工具またはその作用領域に耐摩耗コーティングを追加的に施してもよい。工具柄および切削部分が工具鋼、特に高速度鋼で作成されていると、特に有利である。これは、例えば、超高速度鋼(HSS鋼)またはコバルト合金超高速度鋼(HSSE鋼)であってもよい。作用領域は、HSS、HSSE、HSSE−PM、特にPグレードまたはKグレードであるカーバイドまたはカーバイド合金、サーメット、特に炭化タングステン、窒化チタン、炭化チタン、チタン炭窒化物、酸化アルミニウムである焼結炭化物、特に多結晶窒化ホウ素(PCBN)である切削用セラミック、特にコーティングまたは例えば適所にろう付けされるストリップとしての多結晶ダイアモンド(PCD)等で作成されることが好ましい。
【0040】
特別な実施形態では、少なくとも一つのねじ山成形領域の外形が、少なくとも一つの断面において、送り方向と反対に好ましくは円錐状にまたは線形に増加することが好ましい。ねじ山成形領域が送り方向において先細であるという事実には、例えば、被加工物表面すなわち穴の内壁への最初の加圧ローブの進入が容易になるという利点がある。少なくとも一つのねじ山成形領域の外形が送り方向に対して一様であっても、有利なこともある。
【0041】
少なくとも一つのねじ山成形領域が、送り方向と反対方向に外形が増加する領域を有しており、この領域が成形領域すなわち初期成形領域として指定されており、初期成形領域の後に外径が一様でありガイド領域または較正領域とも呼ばれる領域が続くと、特に好ましい。ガイド領域は、主に工具をねじ山に導く役割を果たしており、その結果形成領域においてねじ山を作成するために与えられる力が一様に伝達され、したがって被加工物表面への損失が可能な限りなくなる。同時に、ガイド領域は、作成済みのねじ山表面すなわちねじ山側面を平滑化および較正する機能を有してもよい。結果として、ねじ山を高精度で作成することができる。同様に、切削領域は、初期切削領域と、工具の送り方向と反対方向でこれに隣接する完全切削領域とを有していてもよい。
【0042】
特に有利な実施形態では、少なくとも一つのねじ山成形領域および/または少なくとも一つの切削領域の周縁に、特にクーラントおよび/または潤滑剤である流体、および/または圧縮空気および/または冷気などである空気を導くための一つ以上の溝、開口部および/または通路が工具に設けられていてもよい。これは、摩擦および/または熱の進展を低減し、発生した熱を発散し、および/または生成されたチップ(フルート)を取り除くためのものである。溝、開口部および/または通路は、工具軸に対して直線状におよび/または平行にまたは軸方向に延びるか、および/または工具軸に対して斜め方向に延びるか、および/または工具の長手方向に延びる。あるいは、溝、開口部および/または通路は、工具の周囲または工具軸周りにねじれたりまたは回転するように、工具軸周りのねじれた形態またはらせん形態(らせん溝)となるように設計されてもよい。
【0043】
例示的な実施形態および添付の図面を参照して、さらなる特徴および利点について本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
互いに対応する部分および量には、図1および図2で同一の符号が与えられている。
【0045】
図1は、本発明による工具2の一実施形態を示す斜視図である。工具2は、工具柄3と、工具柄3に配置された作用ヘッド4とを有する。工具長手方向軸Aと、被加工物を加工するための想定送り方向Vも示されている。図2は、図1に示す工具2の作用ヘッド4の一部の長手方向断面図である。
【0046】
工具2の作用ヘッド4は、工具柄3と堅固に接続され、特に工具柄3と一体になるように設計されていてもよい。しかしながら、作用ヘッド4は工具柄3と取り外し可能に接続されていることが多い。例えば、作用ヘッド4を着脱可能とし、差し込み式の(slip-on)交換可能な部品として作用ヘッド4を設計するなどである。
【0047】
工具2は組み合わせ工具である。正確に言うと、ねじ山切削/成形工具である。作用ヘッド4は、切削部分として指定可能な切削領域5と、成形部分として指定可能なねじ山成形領域6とを備える。切削領域5とねじ山成形領域6とは、両方とも工具軸A周りに回転可能である。
【0048】
切削領域5は、工具2の送り方向Vの前端である、前面(自由)工具端19と隣接している。ねじ山成形領域6は、送り方向Vと反対方向で切削領域5と隣接している。
【0049】
多数の刃先(切り歯ともいう)11、13が、切削領域5における切削要素として配置される。切削領域5は、前面工具端19と隣接する初期切削領域7(ここでは初期切削テーパー7)と、工具2の送り方向Vと反対方向で初期切削領域7と隣接する完全切削領域8とに分割される。初期切削領域7においては、通常の刃先11よりも半径方向の広がりが小さい粗い切り歯13として切り歯が設計されている。この粗い切り歯13の外径(工具軸からの最大半径方向距離)は、工具2の送り方向Vと反対方向に増加する。
【0050】
多数の加圧ローブ(または成形ウェッジ、成形歯ともいう)12、14が、ねじ山成形領域6における成形要素として設けられる。ねじ山成形領域6は、工具2の送り方向Vと反対方向で切削領域5と隣接する初期成形領域9(ここでは初期成形テーパー9)と、送り方向Vと反対方向で初期成形領域9と隣接する完全成形領域(または、ガイド領域)10とに分割される。開始領域9においては、通常の加圧ローブ12よりも半径方向の広がりが小さい粗い成形歯14として加圧ローブが設計されている。通常の加圧ローブ12の外径(工具軸からの最大半径方向距離)は、切削領域5における切り歯11の外径よりもわずかに大きい。
【0051】
工具2は、前面工具端19に前面凹部(または、前面切り欠き)15を有する。後者は、切削領域5の刃先11、13による被加工物の切削加工の間に生成されるチップを受け入れるように設計され、そのように意図されている。これにより、少なくとも起こりうる最大の程度として、チップがねじ山成形領域6に流れ込むこと、被加工物に作成中のねじ山または将来作成されるねじ山に向けて、加圧ローブ12、14によってチップが押し込まれること、およびその結果としてのチップにより適切なねじ山成形が妨げられることが防止される。
【0052】
前面凹部15は、前面工具端19から始まって、工具2の送り方向Vと反対方向に工具軸Aに沿って工具2の内部へと延びる。工具軸Aに対して直角方向の前面凹部15の断面積は、前面工具端19からの距離が増えるにつれて減少する。前面凹部15の形状は、本質的に略円錐台形状である。前面凹部15は、初期切削テーパー7を越えて工具2の内部へと延びる。
【0053】
前面凹部15は、前面工具端19の中心に形成され、シェル20によって半径方向が囲まれている。切削領域5は、シェル20上の半径方向外側に配置されている。シェル20は、刃先11、13から始まり、前面凹部15へとチップを進入させることが可能である複数の開口部16を有する。開口部16はそれぞれ、切削方向において、切削領域5の刃先11、13よりも先行する。開口部16は、前面工具端19から始まって工具軸Aと平行に工具2に沿って本質的に直線に延びる。
【0054】
その機能の点で、開口部16は、従来の切削工具における溝とおおむね対応している。主要な役割は、いずれの場合もチップの除去にある。溝は、それぞれの工具の送り方向Vと反対方向にチップを運び、工具の後方領域へと送る。しかしながら、開口部16は、チップを受け入れるために設けられた前面凹部15内へとチップを運ぶ。
【0055】
内部クーラント供給の出口孔18が開口部16に配置されている。この出口孔18と開口部16とを介して、刃先11、13の方向にクーラントを流すことができる。
【0056】
ねじ山成形領域6には溝17が形成される。溝17には、内部クーラント供給の出口孔18が同様に配置される。この出口孔18と溝17とを介して、加圧ローブ12、14の方向にクーラントを流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による工具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の工具の作用ヘッドの一部を示す長手方向断面図である。
【符号の説明】
【0058】
2 工具、 3 工具柄、 4 作用ヘッド、 5 切削領域、切削部分、 6 ねじ山成形領域、成形部分、 7 初期切削テーパー、初期切削領域、 8 完全切削領域、 9 初期成形テーパー、初期成形領域、 10 完全成形領域、ガイド領域、 11 刃先、切り歯、 12 加圧ローブ、成形ウェッジ、成形歯、 13 粗い切り歯、 14 粗い成形歯、 15 前面凹部、前面切り欠き、 16 開口部、 17 溝、 18 内部クーラント供給の出口孔、 19 前面工具端、自由端、 20 シェル、 A 工具軸、工具長手方向軸、 V 送り方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも一つの刃先(11,13)を有する少なくとも一つの切削領域(5)と、
b)少なくとも一つのねじ山成形領域(6)と、を備え、
c)前記切削領域(5)と前記ねじ山成形領域(6)とが、工具軸(A)の周りに共に回転可能であるかまたは共に回転するように互いに接続されており、
d)少なくとも一つの切削領域(5)が前面工具端(19)に少なくとも一部形成されており、および/または前面工具端(19)と隣接しており、
e)チップを受け入れることを目的とする前面凹部(15)が前面工具端(19)に形成されている
ことを特徴とする、ねじ山、特に雌ねじを作成する工具(2)。
【請求項2】
前面凹部(15)が前面工具端(19)から始まって工具軸(A)に沿って工具(2)の内部に延び、および/または、前面凹部(15)が前面工具端(19)から始まって本質的に円錐台形状にまたは円筒状に工具(2)の内部へと延びることを特徴とする請求項1に記載の工具。
【請求項3】
少なくとも前面工具端(19)において、工具軸(A)に対して直角方向の前面凹部(15)の断面積が、工具断面積の少なくとも30%、特に少なくとも50%、好ましくは70%を占め、
および/または、前面工具端(19)からの距離が増えるにつれて前面凹部(15)の断面積が減少し、
および/または、前面凹部(15)が、前面工具端(19)と隣接する切削領域(5)の刃先(13)および/または刃先の列よりも工具(2)の内部に深く延び、特に前面工具端(19)と隣接する切削領域(5)の長さの半分よりも深く内部に延びることを特徴とする請求項1または2に記載の工具。
【請求項4】
前面凹部(15)が前面工具端(19)の中心に形成され、および/または前面凹部(15)がシェル(20)によって半径方向に囲まれていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の工具。
【請求項5】
前面凹部(15)を半径方向に囲むシェル(20)が、チップを前面凹部(15)へと進入させることが可能な一つ以上の開口部(16)を有することを特徴とする請求項4に記載の工具。
【請求項6】
切削方向において、開口部(16)が切削領域(5)の刃先(11,13)よりも先行し、
および/または、開口部(16)が前面工具端(19)から始まって工具(2)に沿って延び、
および/または、開口部(16)が刃先の配列と平行に工具(2)に沿って延び、
および/または、開口部(16)が直線状に特に工具軸(A)と平行に延び、および/または斜めに延び、および/または工具軸(A)の周りにらせん状にねじれて延びることを特徴とする請求項5に記載の工具。
【請求項7】
a)被加工物表面にねじ山を作成するか、および/または被加工物表面にねじ山の前加工の切削をするための、少なくとも一つの切削領域(5)が形成されおよび/または設けられており、
b)被加工物表面への加圧または成形によって、ねじ山をチップレスで作成するか、チップレスで再加工するか、ねじ山の前加工の仕上げをするための、少なくとも一つのねじ山成形領域(6)が形成されおよび/または設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の工具。
【請求項8】
少なくとも一つの切削領域(5)または少なくとも一つの刃先(11,13)の配置が、工具軸(A)周りの時計回りまたは反時計回りの所定の回転方向となるように設計されており、少なくとも一つのねじ山成形領域(6)が、この回転方向でねじ山を作成するかまたは前加工されたねじ山を再加工するように設計および配置されており、
および/または、少なくとも一つの切削領域(5)または少なくとも一つの刃先(11,13)の配置が、工具(2)から見たときに工具軸(A)に対して軸方向に配置された前面工具端(19)へと向かう方向である送り方向(V)である、工具軸(A)に対して軸方向の所定の送り方向(V)となるように設計されており、少なくとも一つのねじ山成形領域(6)が、この送り方向(V)でねじ山を作成するかまたは前加工されたねじ山を再加工するように設計および配置されており、
および/または、少なくとも一つの切削領域がドリル領域であり、
および/または、少なくとも一つのねじ山成形領域が、工具軸周りの回転運動と工具軸に平行な軸方向送り運動とによって排他的に作用するねじ山成形領域であり、
および/または、少なくとも一つの切削領域が前面工具端に少なくとも一つの前面刃先または面取りを備え、および/または工具の円周領域に少なくとも一つの円周刃先を備え、
および/または、少なくとも一つの切削領域(5)と少なくとも一つのねじ山成形領域(6)とが工具軸(A)に対して軸方向に交互に配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の工具。
【請求項9】
工具軸周りの回転運動と工具軸に平行な軸方向送り運動とによって排他的に作用する工具として設計されており、
および/または、特にクーラントおよび/または潤滑剤である流体、圧縮空気および/または冷気である空気、および/または除去されたチップを導くための溝(17)、通路、および/または開口部(16)を備える工具として設計されており、
溝(18)、通路、および/または開口部(16)が、好ましくは工具(2)の周縁、工具(2)の内部、切削領域(5)、および/またはねじ山成形領域に延びるかおよび/またはそれらで開口しており、特に、工具軸(A)と平行な主方向を少なくとも持つか、直線状または工具軸(A)周りのねじれまたはらせん状に延びるか、および/または工具(2)の長手方向に延びることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の工具。
【請求項10】
各ねじ山成形領域(6)および各切削領域(5)が共通の工具柄(3)または共通の工具コアに形成されるかまたはそれと接続されており、好ましくは工具ホルダまたは工具チャックで工具(2)を保持またはクランプするための工具柄(3)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の工具。
【請求項11】
少なくとも一つのねじ山成形領域(6)が半径方向外側に突出する少なくとも一つの加圧ローブ(12,14)または成形ウェッジ(12,14)を備えており、特に、工具軸(A)を取り囲む曲線に沿って、好ましくは工具軸(A)をらせん状に取り囲む曲線に沿って、複数の加圧ローブ(12,14)または成形ウェッジ(12,14)が配置されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の工具。
【請求項12】
少なくとも一つのねじ山成形領域(6)または工具軸に対して軸方向に並ぶ複数の加圧ローブ(14)の工具軸(A)からの半径方向距離または半径方向外形寸法が、断面または初期成形領域(9)において工具(2)の送り方向(V)とは反対方向に増加するか、および/または少なくとも一つのガイド領域(10)において半径方向距離または半径方向外形寸法が一様であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の工具。

【図1】
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【図2】
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