説明

剛性評価支援装置、剛性評価支援方法及びプログラム

【課題】運動中の構造物の剛性評価を簡易かつ詳細に行うことを支援する剛性評価支援装置を提供する。
【解決手段】剛性評価支援装置1は、自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力する周波数応答関数手段21、入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行する曲線適合実行手段22、曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離する弾性モード分離手段23、分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードがどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を表示するモード寄与率表示手段24を具備する。更に、剛性評価支援装置1は、各弾性モードにおける構造物の変形の様子をアニメーションとして表示するアニメーション表示手段25を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動中の構造物の剛性評価を支援する剛性評価支援装置、剛性評価支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等の輸送機器構造物の設計では、車体の剛性を評価する仕組みが提案されている。例えば、車体の剛性評価を行うための試験としては、車体のリヤ側のサスペンション取り付け点を固定し、フロント側のサスペンション取り付け点の横方向に荷重を与える片持ち試験、リヤ側のアッパーサポートを固定し、フロント側の左右アッパーサポートに上下逆相の荷重を与える捩り試験、などが知られている。これらの方法は、複数の車体の剛性を横並びで評価する場合には適している。しかし、変形モードが、前述の試験の場合と実際の車両が走行している場合とでは異なるため、個別の車体の剛性を評価する場合には適さない。
【0003】
また、近年では、計算や実験によって、実際の車両が走行している場合の変形モードを求め、求めた変形モードに一致するように固定部位・負荷部位を定めた静的な剛性実験を行うことが提案されている(例えば、非特許文献1)。この方法によれば、実際の車両が走行している間の変形予測を行うことが可能となる。
【0004】
また、特許文献1では、実験モーダル解析によって、車両の後部車体フレームの取り付け部の剛性を計測する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−284340号公報
【非特許文献1】白石裕二、青木弘文、北村博史、上田悦広、牛村智也、 “操縦安定性に及ぼす車体剛性寄与メカニズムの解明”、 社団法人自動車技術会 学術講演会前刷集No.101−04、 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1のような方法において、実際の車両が走行している場合の変形モードに対応する静的な剛性実験の境界条件は、車両ごとに異なると考えられる。従って、車両ごとに変形モードを求めなくてはならない。また、静的な剛性実験において、比較する測定点が限定されるため、求めた変形モードが厳密に再現できているか分からない。すなわち、非特許文献1のような方法では、負荷が高いにも関わらず、精度が必ずしも高いとは言えない。
【0007】
また、本来、走行中の車体は固定されているわけではなく、アブソーバや柔らかいブッシュで支持され、いわば宙に浮いた状態(=自由支持状態)となっていることから、自由支持状態の剛性を求める必要がある。しかしながら、非特許文献1、特許文献1に記載された方法では、自由支持状態の剛性を求めているわけではない。また、非特許文献1、特許文献1に記載された方法では、変形モードごとの評価を行うことができない。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、運動中の構造物の剛性評価を汎用的かつ詳細に行うことを支援する剛性評価支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために第1の発明は、運動中の構造物の剛性評価を支援する剛性評価支援装置であって、自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力する周波数応答関数入力手段と、前記周波数応答関数入力手段によって入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行する曲線適合実行手段と、前記曲線適合実行手段によって実行された曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離する弾性モード分離手段と、前記弾性モード分離手段による分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードがどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を出力するモード寄与率出力手段と、を具備することを特徴とする剛性評価支援装置である。第1の発明に係る剛性評価支援装置は、運動中の構造物の剛性評価を簡易かつ詳細に行うことを支援する。
【0010】
前記弾性モード分離手段は、0Hzの周波数応答から剰余質量を無視して各弾性モードに分離することが望ましい。また、第1の発明に係る剛性評価支援装置は、各弾性モードにおける構造物の変形の様子をアニメーションとして表示するアニメーション表示手段、を更に具備することが望ましい。
【0011】
第2の発明は、運動中の構造物の剛性評価を支援する剛性評価支援方法であって、自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力する周波数応答関数入力ステップと、前記周波数応答関数入力ステップによって入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行する曲線適合実行ステップと、前記曲線適合実行ステップによって実行された曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離する弾性モード分離ステップと、前記弾性モード分離ステップによる分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードがどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を出力するモード寄与率出力ステップと、を具備することを特徴とする剛性評価支援方法である。
【0012】
第3の発明は、コンピュータを第1の発明に係る剛性評価支援装置として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、運動中の構造物の剛性評価を汎用的かつ詳細に行うことを支援する剛性評価支援装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を説明する前に、本発明の理論的背景について説明する。
【0015】
(1.走行状態の車両の剛性評価)
最初に、走行状態の車両の剛性評価について説明する。走行中の車体は固定されているわけではなく、自由支持状態に近い。特に、定常円旋回中の車両は、自由支持状態であり、横力と慣性力とが釣り合う状態である。このような状態における剛性評価が、商品開発や車両運動評価に重要となる。
【0016】
一方、車両運動のシミュレーション(数値解析)では、車両は剛体として扱われ、剛性は無限大として扱われている。また、従来の車両剛性の実験(実験解析)では、車両をサスペンション取り付け点で拘束し、静的な剛性試験を行っている。すなわち、従来の車両剛性の実験は、実際の車両運動状態と異なった拘束条件の下で行われている。
【0017】
前述の定常円旋回中の車両状態は、数値解析では慣性リリーフ解析と呼ばれる解析の境界条件と同じである。ここで、慣性リリーフ解析とは、自由支持状態で等加速度運動中の物体に作用する力から応力やひずみを求める線形静解析手法であり、運動中の飛行機や船の静解析に使用されている。慣性リリーフ解析の結果を実験解析で行うことができれば、従来の車両剛性の試験よりも、走行中の車両の剛性評価を行うことができるという意味において、意義が大きい。
【0018】
(2.慣性リリーフ解析と等価な実験解析)
慣性リリーフ解析の流れは、(1)慣性力の座標の基準となる支持点を決定、(2)作用荷重による支持点の剛体運動の加速度を算出、(3)全ての点の加速度の算出を行い、慣性力を計算、(4)支持点の変位を0として、慣性力と作用荷重を与えた時の変形を算出、となる。以下、これらの処理について数式を用いて説明する。最初に、慣性リリーフによって変形する自由度セットを添字l、支持点の自由度セットを添字rで表すと、運動方程式は次式となる。
【数1】

【0019】
次に、rセットの変位を0とし、lセットに対して、負荷された荷重に加えて慣性力に対応する各自由度の荷重を与え、静解析を実施する。最終的に解くべき運動方程式は次式となる。
【数2】

【0020】
図1は、2自由度のばね−質量系を示す図である。図1の例を式(2)に当てはめると、運動方程式は次式となる。
【数3】

そして、節点2を基準点(=サポート点)とすると、節点1の慣性リリーフ変形は次式となる。
【数4】

【0021】
一方、動的応答は、理論モード解析によって、モーダル座標系に変換したモード変位の重ね合わせにより表現することができる。以下では、モード合成を用いて、慣性リリーフ変形を示す。次式は、式(1)の運動方程式を略記したものである。
【数5】

次式は、式(5)の固有方程式である。
【数6】

式(5)で示された運動方程式は、式(6)の固有方程式を解いた結果のモーダルパラメータを用いると、次式で示される。
【数7】

【0022】
式(7)を式(5)に代入し、前からモードベクトル行列を乗じると、次式になる。
【数8】

【0023】
そして、式(8)を{ξ}について解き、式(7)に代入すると、次式になる。
【数9】

【0024】
式(9)は剛体成分(r=1〜6)と弾性成分(r=7〜n)とに分離することができる。そして、弾性成分のみの0Hzの変形を導出すると、次式になる。
【数10】

【0025】
ここで、慣性リリーフ変形は、式(10)で示す弾性モードの参照点(支持点)からの相対変形と考えることができる。すなわち、慣性リリーフ変形の計算は、u(評価点)−u(基準点)(ω->0)となる。
【0026】
以下では、図1の例において、理論モード解析による慣性リリーフ変形を導出する。図1の例を当てはめた固有方程式である式(3)から、固有値と固有ベクトルを導出すると、次式となる。
【数11】

【0027】
また、モード質量とモード剛性は、次式となる。
【数12】

【0028】
式(9)から、変位を剛体モードと弾性モードに分離すると、次式となる。
【数13】

【0029】
そして、弾性モードの参照点(図1の節点2)からの相対変形を導出すると、次式となる。
【数14】

式(16)は、式(4)と一致し、モード合成から求めた0Hz変形は、慣性リリーフ解析と等価であることが分かる。
【0030】
図2は、車体フレームの各試験の変形の一例を示す図である。図2に示す例は、同一の車体フレームを対象として、実際に行った静剛性試験の結果を解析するとともに、慣性リリーフ解析、理論モード解析を行った結果である。図2から分かるように、静剛性試験と慣性リリーフ解析の変形形状は異なっている。一方、慣性リリーフ解析とモード解析の0Hzの応答の変形形状は等価である。
【0031】
本発明の実施の形態では、慣性リリーフ解析と理論モード解析からの慣性リリーフ変形との解が等価になるという知見に基づいて、自由支持条件の下で加振試験を行い、実験モード解析によって運動中の構造物(車体フレーム等)の剛性評価を行う。ここで、自由支持条件は、構造物をワイヤで吊るす、柔らかいばねで支持する等によって実現する。これによって、試験結果は慣性リリーフ変形に相当する結果として扱うことができる。
【0032】
以下、図3から図9を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図3は、構造物の剛性評価を行うシステムの一例を示す図である。図3に示すように、本システムでは、例えば、剛性評価支援装置1、構造物3、加速度センサ5、ハンマー7、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザ9等がある。
【0033】
剛性評価支援装置1は、ユーザが使うコンピュータであって、ユーザの剛性評価作業を支援する。剛性評価支援装置1の詳細は後述する。
【0034】
構造物3は、剛性評価の対象である。構造物3は、例えば、4本のワイヤで吊るすことによって、自由支持状態とする。また、例えば、構造物3の複数箇所を柔らかいばねなどで支持するようにしても良い。
【0035】
加速度センサ5は、加速度を計測するセンサであって、構造物3に複数取り付けられる。加速度センサ5は、計測した加速度をFFTアナライザ9に出力する。加速度を計測する箇所は、例えば、構造物3が車体フレームの場合、サスペンション取り付け点の変位を評価するのであれば、サスペンション取り付け点とする。
【0036】
ハンマー7は、構造物3を加振するものである。また、ハンマー7は、力信号の検出を行い、FFTアナライザ9に力信号を出力する。加振する箇所は、例えば、構造物3が車体フレームの場合、サスペンション取り付け点の変位を評価するのであれば、サスペンション取り付け点とする。尚、加振方法は、ハンマー7を用いる場合に限定されるものではなく、例えば、動的な力を発生する加振器および力を伝達する駆動棒などを用いて行っても良い。
【0037】
FFTアナライザ9は、加速度センサ5、ハンマー7から出力される信号を入力とし、高速フーリエ変換(FFT)を主とする様々な信号処理を行い、周波数応答関数を出力する。ここで、周波数応答関数とは、振動数(周波数)を独立変数にとり、その関数として定義した伝達関数(=入力である加振力と出力である応答の比)である。尚、コンピュータに信号処理ソフトをインストールすることで、FFTアナライザ9の機能を実現しても良い。
【0038】
図4は、剛性評価支援装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。尚、図1のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
【0039】
剛性評価支援装置1は、制御部11、記憶部12、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、表示部16、周辺機器I/F部17等が、バス18を介して接続される。
【0040】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0041】
CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス18を介して接続された各装置を駆動制御し、剛性評価支援装置1が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部12、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0042】
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0043】
メディア入出力部13(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0044】
通信制御部14は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク19間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク19を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0045】
入力部15は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部15を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0046】
表示部16は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0047】
周辺機器I/F(インタフェース)部17は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部17を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部17は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0048】
バス18は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0049】
図5は、剛性評価支援装置1の機能の概要を示すブロック図である。図5に示すように、剛性評価支援装置1は、周波数応答関数入力手段21、曲線適合実行手段22、弾性モード分離手段23、モード寄与率表示手段24、アニメーション表示手段25等を備える。
【0050】
周波数応答関数入力手段21は、自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力する。入力された周波数応答関数は、記憶部12等に記憶される。周波数応答関数入力手段21は、例えば、FFTアナライザ9との接続インタフェースである周辺機器I/F部17である。但し、周波数応答関数入力手段21は、周辺機器I/F部17に限定されるわけではなく、周波数応答関数をメディアで入力する場合にはメディア入出力部13、ネットワーク19を介して入力する場合には通信制御部14等である。
【0051】
曲線適合実行手段22は、周波数応答関数入力手段21によって入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行する。曲線適合実行手段22は、制御部11によって実行される。曲線適合処理とは、周波数スペクトル曲線に適合するようにモード特性(固有振動数、モード減衰比、固有モード等)を決定する処理である。曲線適合には様々な方法があるが、本発明の実施の形態では、特に限定しない。
【0052】
弾性モード分離手段23は、曲線適合実行手段22によって実行された曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離する。弾性モード分離手段23は、制御部11によって実行される。
【0053】
弾性モード分離手段23は、0Hzの周波数応答から剰余質量を無視して各弾性モードに分離する。これは、前述の式(10)において、剛体成分と弾性成分とに分離し、弾性成分のみの0Hzの変形を導出したことに相当する。剛体モードは、コンプライアンス(=弾性変位)が0Hzで無限大になるため、無視する必要があるからである。弾性モード分離手段23によって、実験モード解析の結果から慣性リリーフ解析に相当する結果が得られる。
【0054】
図6は、弾性モードの分離を示す模式図である。図6の左図は、全応答の弾性変位を示している。図6の右図は、曲線適合処理の結果に基づいて、1次〜3次の弾性モード成分に分離した様子を示している。本発明の実施の形態では、このように分離した弾性モードの0Hzの周波数応答に着目し、剛性評価を行う。これは、0Hzの周波数応答が、慣性リリーフの解析結果と同等であるという知見に基づくものである。これによって、数値実験である慣性リリーフ解析を実験モード解析で行うことが可能となる。
【0055】
モード寄与率表示手段24は、弾性モード分離手段23による分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードの変形がどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を表示する。モード寄与率表示手段24は、制御部11によってモード寄与率が算出され、表示部16がモード寄与率をディスプレイ装置に表示する。k次の弾性モードのモード寄与率は、k次の弾性モードの0Hzの周波数応答/採用した全ての弾性モードの0Hzの周波数応答の総和×100(%)、で算出される。
【0056】
図7は、モード寄与率の表示の一例を示す図である。図7に示す例は、構造物3が車体フレームであって、サスペンション取り付け点の自己周波数応答関数の0Hzのモード次数とモード寄与率を示している。車両開発において低次の変形に対する剛性評価が経験的に行われている。図7に示す例では、1、3、4次の弾性変形に対策をすれば良いということが分かる。
【0057】
尚、モード寄与率は、表示部16に表示するだけでなく、ネットワーク19を介して他のコンピュータに送信しても良いし、プリンタ等に送信して印刷出力しても良い。
【0058】
アニメーション表示手段25は、各弾性モードにおける構造物の変形の様子をアニメーションとして表示する。アニメーション表示手段25は、制御部11によって各弾性モードにおける構造物3の変形を時系列で算出し、表示部16が弾性モードごとのアニメーションとしてディスプレイ装置に表示する。
【0059】
図8は、低次の変形の一例を示す図である。図8では、(1)1次上下曲げ変形、(2)1次ねじり変形、(3)1次横曲げ変形、が示されている。車両運動に関連する弾性モードの変形は、図8に示すように低次の曲げ、ねじりであることが経験的に知られている。ユーザは、アニメーション表示手段25によって表示されるアニメーションを考察し、各弾性モードがどの変形に当たるかを判別する。例えば、ユーザは、図6に示すような1次〜3次の弾性モードが、図8に示すような変形のどれに当たるかを判別する。
【0060】
ユーザが各弾性モードと変形の種類とを対応づけて、剛性評価支援装置1が図7に示すような弾性モードごとのモード寄与率を提示することで、ユーザは詳細な剛性評価を行うことができる。すなわち、個々の弾性モードを比較し、全体の剛性に対する曲げ剛性の割合、曲げ剛性とねじり剛性の比較等、従来ではできなかった剛性比較を行うことが可能である。
【0061】
図9は、本発明の実施の形態に係る剛性評価の流れを示すフローチャートである。
【0062】
ユーザは、図3に示すシステムにおいて、自由支持条件の下での加振試験を行う(S101)。FFTアナライザ9は、周波数応答関数の計測を行う(S102)。剛性評価支援装置1の制御部11は、周波数応答関数入力手段21によって、周波数応答関数の入力を行い、曲線適合処理実行手段22によって、周波数応答関数の曲線適合処理を行う(S103)。
【0063】
次に、ユーザは、剛性評価支援装置1の制御部11がアニメーション表示手段25によって表示部16に表示するアニメーションを考察し、弾性モードがどの変形に当たるかを判別する(S104)。判別結果は、入力部15を介して入力し、記憶部12に記憶させても良い。
【0064】
剛性評価支援装置1の制御部11は、弾性モード分離手段23によって弾性モード分離処理を行い(S105)、モード寄与率表示手段24によってモード寄与率表示処理を行う(S106)。ここで、剛性評価支援装置1の制御部11は、S104における判別結果とモード寄与率を合わせて表示し、弾性モードの寄与率と変形の種類とが対応付けられて表示されるようにしても良い。そして、ユーザは、これらの表示内容に基づいて、弾性モードごとの剛性評価を行う(S107)。
【0065】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、運動中の構造物の剛性評価を支援するために、剛性評価支援装置1は、自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力し、入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行し、曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離し、分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードがどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を表示する。
【0066】
本発明の実施の形態では、加振試験自体には特別な器具を必要としないことから、様々な構造物に適用可能である。また、弾性モードごとのモード寄与率を提示できることから、詳細な剛性評価を行うことが可能である。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る剛性評価支援装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】2自由度のばね−質量系を示す図
【図2】車体フレームの各試験の変形の一例を示す図
【図3】構造物の剛性評価を行うシステムの一例を示す図
【図4】剛性評価支援装置1を実現するコンピュータのハードウェア構成図
【図5】剛性評価支援装置1の機能の概要を示すブロック図
【図6】弾性モードの分離を示す模式図
【図7】モード寄与率の表示の一例を示す図
【図8】低次の変形の一例を示す図
【図9】本発明の実施の形態に係る剛性評価の流れを示すフローチャート
【符号の説明】
【0069】
1………剛性評価支援装置
3………構造物
5………加速度センサ
7………ハンマー
9………FFTアナライザ
11………制御部
12………記憶部
13………メディア入出力部
14………通信制御部
15………入力部
16………表示部
17………周辺機器I/F部
18………バス
19………ネットワーク
21………周波数応答関数入力手段
22………曲線適合実行手段
23………弾性モード分離手段
24………モード寄与率表示手段
25………アニメーション表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動中の構造物の剛性評価を支援する剛性評価支援装置であって、
自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力する周波数応答関数入力手段と、
前記周波数応答関数入力手段によって入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行する曲線適合実行手段と、
前記曲線適合実行手段によって実行された曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離する弾性モード分離手段と、
前記弾性モード分離手段による分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードがどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を出力するモード寄与率出力手段と、
を具備することを特徴とする剛性評価支援装置。
【請求項2】
前記弾性モード分離手段は、0Hzの周波数応答から剰余質量を無視して各弾性モードに分離することを特徴とする請求項1に記載の剛性評価支援装置。
【請求項3】
各弾性モードにおける構造物の変形の様子をアニメーションとして表示するアニメーション表示手段、を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の剛性評価支援装置。
【請求項4】
運動中の構造物の剛性評価を支援する剛性評価支援方法であって、
自由支持条件の下で行う加振試験の周波数応答関数を入力する周波数応答関数入力ステップと、
前記周波数応答関数入力ステップによって入力された周波数応答関数の曲線適合処理を実行する曲線適合実行ステップと、
前記曲線適合実行ステップによって実行された曲線適合処理後の0Hzの周波数応答を各弾性モードに分離する弾性モード分離ステップと、
前記弾性モード分離ステップによる分離結果に基づいて、0Hzの変形に各弾性モードがどの程度寄与しているかを示すモード寄与率を出力するモード寄与率出力ステップと、
を具備することを特徴とする剛性評価支援方法。
【請求項5】
コンピュータを請求項1に記載の剛性評価支援装置として機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−48741(P2010−48741A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215033(P2008−215033)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】