説明

剥離型複水酸化物を使用した絶縁皮膜形成金属粉末及びその製造方法

【課題】不規則形状を有する金属粉末粒子においてもその表面全体を均一かつ薄膜に被覆することが可能な被覆材料により、高い比抵抗値を有する優れた絶縁皮膜が形成された金属粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属粉末を、水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させた分散ゾルで被覆した後、乾燥および焼成を行い、該金属粉末の表面にMg−Al系層状複水酸化物の焼成皮膜を形成させたことを特徴とする絶縁皮膜形成金属粉末およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離型複水酸化物を使用した絶縁皮膜形成金属粉末及びその製造方法に関し、特に皮膜形成が容易であり、かつFe系軟磁性材料からなる金属粉末などに適用した場合に高い比抵抗値を示す絶縁皮膜形成金属粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター、電磁弁、磁気センサーなどの電気部品などには、Fe粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Ni系鉄基軟磁性材料、Fe−Cr系鉄基軟磁性材料、Fe−Si系鉄基軟磁性材料、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Co系鉄基軟磁性材料、Fe−Co−V系鉄基軟磁性材料またはFe−P系鉄基軟磁性材料などからなる金属粉末を加圧成形し焼結して得られた磁心が用いられている。
【0003】
ところで、近年の電気部品の小型化・高性能化に伴い、これらの電気部品に用いられる磁心には、鉄損を小さく透磁率を大きくすることが求められている。
【0004】
ここで、鉄損とは、通常ヒステリシス損と渦電流損との和で表されるエネルギー損失である。また、そのうちのヒステリシス損は、軟磁性材料の種類、不純物の濃度、加工歪などに支配される軟磁性材料の磁束密度を変化させるために必要なエネルギーにより生じるエネルギー損失をいい、渦電流損は軟磁性材料の比抵抗、絶縁皮膜の完全さなどに支配される主として軟磁性材料からなる金属粉末粒子間を流れる渦電流によって生じるエネルギー損失をいう。
【0005】
したがって、上述された磁心の磁気的特性を向上させるためには、軟磁性材料からなる金属粉末粒子の表面に優れた絶縁性を有する絶縁皮膜を形成させて磁心の渦電流損を低減させること、および形成された絶縁皮膜の薄膜化、完全さを高めることによりヒステリシス損を低減させることが重要となる。そこで、現在では、このような観点から以下に示すような絶縁皮膜が形成された軟磁性材料からなる金属粉末の改良および開発が行われている。
【0006】
特許文献1は、アクチュエータ、ヨークなど各種電磁気回路部品に使用される金属軟磁性磁心材の製造方法について開示する。具体的には、軟磁性金属粉末にシリケート溶液にて軟磁性金属粉末表面を浸潤させたのち、撹拌乾燥を行い、プレス成形後、焼成することにより金属軟磁性磁心材を製造する方法において、前記シリケート溶液は、アルコキシシランのアルコール希釈溶液に水および反応促進のための酸を添加し、その後、アンモニアを添加して、pH:3以上で、かつ粘度:1〜10mPa・sとなるように調整したシリケート溶液であることを特徴とするものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてSiが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0007】
特許文献2は、高密度、高強度、高比抵抗および高飽和磁束密度を有する複合軟磁性焼結材の製造方法について開示する。具体的には、容量比でアルコキシシラン溶液:1に対してマグネシウムアルコキシド溶液:1〜3の範囲内の一定比率で混合して得られたMgOとSiO混合酸化物ゾル溶液を軟磁性金属粉末に添加し混合したのち加熱乾燥することにより軟磁性金属粉末の表面にMgOとSiO混合酸化物ゲル被覆層を形成した混合酸化物ゲル被覆軟磁性金属粉末を作製し、この混合酸化物ゲル被覆軟磁性金属粉末を圧粉成形したのち、温度:500〜1300℃で燒結する高密度、高強度、高比抵抗および高磁束密度を有する複合軟磁性焼結材の製造方法である。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてMgOとSiOが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0008】
特許文献3は、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法およびこの方法で作製したMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を用いて複合軟磁性材を製造する方法について開示する。具体的には、酸化雰囲気中、温度:40〜500℃で加熱処理した軟磁性金属粉末にMg粉末を添加し混合した混合粉末を、温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で加熱または転動させながら加熱することによりMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を製造し、このMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を用いて複合軟磁性材を製造するというものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてMgが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0009】
特許文献4は、比抵抗および機械的強度に優れた焼結複合軟磁性材の製造方法について開示する。具体的には、軟磁 性金属粉末または酸化処理した軟磁性金属粉末にMg粉末を添加し混合して得られた混合粉末を、温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの真空または不活性ガス雰囲気中で加熱することによりマグネシウム被覆軟磁性粉末を作製し、このマグネシウム被覆軟磁性粉末を酸化性雰囲気中に放置するかまたは酸化性雰囲気中で加熱することにより酸化マグネシウム被覆軟磁性粉末を作製し、この酸化マグネシウム被覆軟磁性粉末に酸化ケイ素を添加し混合して混合物を作製し、この混合物を圧縮成形して成形体を作製した後これを焼成するというものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてMgが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0010】
特許文献5は、Mg含有酸化膜被覆複合軟磁性金属粉末の製造方法およびこの方法で作製したMg含有酸化膜被覆複合軟磁性金属粉末を用いて複合軟磁性材を製造する方法について開示する。具体的には、酸化雰囲気中、温度:40〜500℃で加熱処理した軟磁性金属粉末にMg粉末を添加し混合した混合粉末を、温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で加熱または加熱しながら転動させながら加熱することによりMg含有酸化膜被覆複合軟磁性金属粉末を製造し、このMg含有酸化膜被覆複合軟磁性金属粉末を用いて複合軟磁性材を製造するというものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてMgが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0011】
特許文献6は、鉄損が小さく透磁率が大きい絶縁軟磁性金属粉末成形体の製造方法について開示する。具体的には、軟磁性金属粉末の表面に無機物による絶縁皮膜を形成し、圧粉して成形した後、熱処理して絶縁軟磁性金属粉末成形体を得る方法において、圧粉して成形したのち、真空または不活性ガス等の非酸化雰囲気中、軟磁性金属 のキュリー温度以上、かつ絶縁皮膜が破壊されない温度以下の高温で磁気焼鈍する工程と、該工程後にさらに大気等の酸化雰囲気中、400℃以上700℃以下の温度で熱処理する工程と、を含む絶縁軟磁性金属 粉末成形体の製造方法である。また、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてPが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0012】
特許文献7は、MgおよびSi含有酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法について開示する。具体的には、酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素粉末を添加し混合して真空雰囲気中、温度:400〜800℃保持の条件で加熱しさらにMg粉末を添加し混合して真空雰囲気中、温度:600〜1200℃保持の条件で加熱するか、または酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素粉末およびMgO粉末を同時に添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜1200℃保持の条件で加熱するか、または酸化物被覆軟磁性粉末にMg粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜800℃保持の条件で加熱しさらに一酸化ケイ素粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃保持の条件で加熱するというものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてMgおよびSiが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0013】
特許文献8は、渦電流損を低減することができ、かつ高強度の成形体を得ることのできる軟磁性材料およびこれを用いて製造された圧粉磁心について開示する。具体的には、軟磁性材料は、金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10を被覆する絶縁被膜20とを有する複数の複合磁性粒子30を備えた軟磁性材料である。また、複数の複合磁性粒子30の各々は、円相当径に対する最大径の比Rm/cが1.15を越えて1.35以下であり、絶縁被膜20は熱硬化性の有機物よりなっており、かつ熱硬化後の鉛筆硬度が5H以上であるというものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてシリコーン樹脂が用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0014】
特許文献9は、高強度の成形体を得ることができ、かつ絶縁被膜を形成した後の酸性水溶液の処理の問題が生じない軟磁性材料の製造方法、軟磁性材料、および圧粉磁心について開示する。具体的には、軟磁性材料の製造方法は、金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10を被覆する絶縁被膜20とを有する複数の複合磁性粒子30を備えた軟磁性材料の製造方法であって、金属磁性粒子10を酸性溶液に浸漬することで金属磁性粒子10の表面に凹凸を形成する凹凸形成工程と、凹凸形成工程後、金属磁性粒子10の表面に絶縁被膜20を形成する絶縁被膜形成工程とを備えているというものである。絶縁被膜形成工程は、金属磁性粒子10を有機溶剤に分散させる工程と、金属アルコキシドおよびリン酸水溶液を有機溶剤に加える工程と、金属磁性粒子10の表面を乾燥して有機溶剤を除去する工程とを含んでおり、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてAlが用いられた軟磁性材料を基材とする金属粉末である。
【0015】
特許文献10は、所望の磁気的特性が得られる軟磁性材料、軟磁性材料の製造方法、圧粉磁心および圧粉磁心の製造方法について開示する。具体的には、軟磁性材料は、複数の複合磁性粒子40を備えており、複数の複合磁性粒子40の各々は鉄を含む金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲み、非鉄金属を含む下層被膜20と、下層被膜20の表面を取り囲み、無機化合物を含む絶縁性の上層被膜30とを有する。無機化合物は、酸素および炭素の少なくともいずれか一方の元素を含有し、非鉄金属の酸素および炭素の少なくともいずれか一方に対する親和力は、鉄のその親和力よりも大きい。また、非鉄金属における酸素および炭素の少なくともいずれか一方の拡散係数は、鉄におけるその拡散係数よりも小さいというものである。このため、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてAl、Cr、Ni、Ti、Vが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0016】
特許文献11は、低中周波数域での使用に適した圧粉磁心について開示する。具体的には、特許文献11に記載の圧粉磁心は、絶縁皮膜で被覆されたFeを主成分とする軟磁性粉末を加圧成形してなる圧粉磁心において、前記軟磁性粉末は、Siを2〜5質量%含み、重量平均粒径が30〜70μmで、平均アスペクト比が1〜3であると共に保磁力(iHc)が200A/m以下の粒子からなり、軟磁性粉末の真密度(ρ)に対する嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ:%)が92%以上であると共に周波数が1〜50kHzの交番磁界中で使用されることを特徴とするというものである。また、低中周波数域用リアクトル等に特許文献11に記載の圧粉磁心を使用すると、優れた磁気特性が得られ、鉄損の低減が可能となる。なお、この製法の過程で生成される軟磁性金属粉末は、被覆剤としてSiが用いられたFeを基材とする金属粉末である。
【0017】
しかしながら、特許文献1〜11に記載されているように軟磁性材料からなる金属粉末の表面に絶縁皮膜を形成する場合、該絶縁皮膜を形成するために用いられる被覆剤のハンドリングが容易でないために比較的単純で安価な被覆方法を選択できないという問題があった。また、被覆剤の特性により、被覆剤付着後の熱処理等における温度制御等が複雑で、またその雰囲気も真空または不活性ガス下で行わなければならないなど製造プロセスが複雑であるために製品の生産性が低く高コストであるという問題点もあった。
【0018】
また、特許文献1〜11の中で開示されている被覆剤では、その性状により、特に不規則形状を有する軟磁性材料からなる金属粉末粒子の表面全体へ該被覆剤を均一かつ薄膜に付着させることが困難であった。このため、被覆剤の付着後、焼成等により金属粉末粒子の表面に形成される絶縁皮膜の絶縁性も必ずしも完全なものではない(欠落部分が生じ易い)という問題もあった。
【特許文献1】特開2006−57157号公報
【特許文献2】特開2006−89791号公報
【特許文献3】特開2006−97124号公報
【特許文献4】特開2006−108223号公報
【特許文献5】特開2006−241583号公報
【特許文献6】特開2007−12994号公報
【特許文献7】特開2007−13069号公報
【特許文献8】特開2007−129045号公報
【特許文献9】特開2007−92120号公報
【特許文献10】特開2007−42891号公報
【特許文献11】特開2004−288983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、本発明の目的は、不規則形状を有する金属粉末粒子であっても、その表面全体を均一かつ薄膜に被覆することが可能な絶縁被覆材料を開発し、かつかかる被覆材料を主に磁性材料からなる金属粉末に適用することにより、高い比抵抗値を有する優れた絶縁皮膜が形成された金属粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで、本発明者等は、ハンドリングが容易で、かつどのような表面形状に対しても均一かつ薄膜に被覆することができ、それでいて焼成後は高い比抵抗値を示す優れた絶縁皮膜を形成する被覆材料として、水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させた分散ゾルを使用することが最も適切であることを見い出した。そして、Fe粉末などの磁性材料からなる金属粉末の表面を、剥離型Mg−Al系層状複水酸化物を水に分散させた分散ゾルで塗布等により被覆して焼成することにより、高い比抵抗値を示す優れた絶縁皮膜が形成された金属粉末およびその製造方法を発明するに至った。
【0021】
具体的には、本発明によれば、金属粉末を、水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させた分散ゾルで被覆した後、乾燥および焼成を行い、該金属粉末の表面にMg−Al系層状複水酸化物の焼成皮膜を形成させたことを特徴とする絶縁皮膜形成金属粉末が提供される。また、この時、分散ゾルの乾燥は60〜200℃の温度で熱処理されることが好ましく、焼成は200〜750℃の温度で熱処理されることが好ましい。
【0022】
金属粉末粒子の絶縁皮膜による絶縁効果は60〜200℃といった比較的低い乾燥温度でも発現するが、密着性が高くより優れた絶縁効果を発揮させるためにはさらに高い温度で熱処理することが効果的である。熱処理温度としては、200〜750℃の温度で焼成することが好ましく、より好ましくは200〜600℃である。
【0023】
200℃未満の熱処理では、絶縁皮膜の密着性や強度が不十分となる場合があり、また一部皮膜の再分散などにより膜厚制御も困難となる傾向がある。また、750℃を超える温度では絶縁皮膜が脆くなり、皮膜に欠陥が生じ絶縁効果が低下するためである。さらに、600℃から750℃の間の熱処理温度では、投入した熱エネルギーに対する皮膜特性の向上率は極めて小さくなる(換言すれば、600℃以上の温度で熱処理する場合は、品質向上に掛けられる熱エネルギーの相当量が無駄となる)ため、経済的観点をも考慮すると600℃以下の温度での焼成することが好ましい。
【0024】
また、剥離型Mg−Al系層状複水酸化物を焼成することにより得られる絶縁皮膜は高い比抵抗値を示し、かつ不規則形状を有する金属粉末粒子の表面全体に隙間なく薄く形成されるため、加圧成形した後の圧粉体中における金属粉末粒子間の絶縁が確実となり、粒子の変形等にも極めて強固な優れた絶縁性を有する絶縁皮膜を形成することができる。
【0025】
本発明において、このような優れた特性を有する絶縁皮膜形成金属粉末は、
水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させるステップと;
金属粉末を分散ゾルで被覆するステップと;
分散ゾルで被覆された金属粉末を60〜200℃の温度で乾燥することにより、該金属粉末の表面にMg−Al系層状複水酸化物を復元するステップと;そして
乾燥した金属粉末をさらに200〜750℃の温度で焼成することにより、復元されたMg−Al系層状複水酸化物の焼成皮膜を形成させるステップと;
を含むことを特徴とする製造方法により作製することができる。
【0026】
また、本発明の製造ステップにおける金属粉末への分散ゾルの被覆方法は特に限定されるものではなく、例えば金属粉末を分散ゾルへ浸漬する浸漬方法、刷毛又はローラー等を用いて金属粉末へ分散ゾルを塗布する塗布方法、分散ゾルをスプレー等を用いて金属粉末へ吹きかけるスプレー塗布方法、金属粉末へ分散ゾルを電着する方法または金属粉末へ分散ゾルを添加した後、ミキサーにより混合・撹拌して付着及び被覆する添加・撹拌方法など公知の被覆方法を適用することができる。また、これらの被覆方法の複数を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
さらに、本発明の製造プロセスにおいて金属粉末に付着した分散ゾルの乾燥および焼成は、加熱温度および加熱時間を制御することにより1つのステップの中で終了させることもできる。ただし、付着した分散ゾルから確実な水分の除去を行うことにより金属粉末の表面に均質なMg−Al系層状複水酸化物を復元し、さらに復元されたMg−Al系層状複水酸化物から均質な焼成物が形成されることを重視する場合は、乾燥プロセスおよび焼成プロセスを分離・独立させることが制御性も高くなり好ましい。
【0028】
また、本発明の絶縁皮膜形成金属粉末の製造過程で使用されるMg−Al系層状複水酸化物は、
Mg1−XAl(OH) (I)
((I)式中、xは0.2ないし0.33である。)の金属複水酸化物からなる基本層と、該基本層間の中間層に酢酸又はアクリル酸のMg塩、および層間水がインターカレートされた、水中において可逆的に剥離するものが使用されることが好ましい。
【0029】
したがって、このMg−Al系層状複水酸化物は、剥離した状態で水に分散して分散液ないし分散ゾルを形成し、剥離したMg−Al系層状複水酸化物はナノサイズの微粒子として溶液中に分散しているためそのハンドリングが極めて容易である。また、この分散液または分散ゾルを脱水・乾燥すれば元のMg−Al系層状複水酸化物へ復元するため、この特性を利用して、不規則形状を有する金属粉末粒子であっても極めて容易にその表面全体をMg−Al系層状複水酸化物で被覆することができる。
【0030】
本発明において、このような剥離型のMg−Al系層状複水酸化物は、
〔Mg1−XAl(OH)〕〔(COX/2・HO〕 (II)
((II)式中、xは0.2ないし0.33であり、yは0より大きい実数である。)の炭酸型複水酸化物を熱分解するステップと;
生成する熱分解物を酢酸又はアクリル酸のMg塩の水溶液へ加え、反応させるステップと;
反応した固体生成物を反応液から分離するステップと;そして
分離した固体を乾燥し、粉砕するステップと;
を含む製造方法により作製することができる。
【0031】
また、本発明において、絶縁性皮膜で被覆される金属粉末は、その金属種、粒子径および粒子形状など特に限定されることなく使用することができるが、Fe粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Ni系鉄基軟磁性材料、Fe−Cr系鉄基軟磁性材料、Fe−Si系鉄基軟磁性材料、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Co系鉄基軟磁性材料、Fe−Co−V系鉄基軟磁性材料またはFe−P系鉄基軟磁性材料などの軟磁性材料に適用することが先述されたような磁気的特性の改善に役立つことから好ましい。
【0032】
ただし、本発明に用いられる剥離型のMg−Al系層状複水酸化物は、例えば金属基板上にその分散液または分散ゾルを塗布および乾燥する緻密な透明皮膜を形成する。したがって、この皮膜を高温で焼成した場合は、耐スクラッチ性の高い硬い皮膜を得ることができる。このため、本発明に用いられる剥離型のMg−Al系層状複水酸化物は、防錆皮膜を形成するための材料やプラスチックの難燃化を兼ねた補強フィラーなどとしても使用することができる。
【0033】
したがって、本来的に本発明に用いられる剥離型のMg−Al系層状複水酸化物は、磁性または導電性材料などからなる金属粉末に限らず、導電性ポリマー粒子などプラスチック粉末にも適用することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、金属粉末の被覆剤として水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させた分散ゾルを用いたことにより、塗布装置に使用する際のハンドリングが容易となり、かつ金属粉末のどのような表面形状に対しても均一かつ薄膜に付着させることができるようになる。
【0035】
また、金属粉末を、Mg−Al系層状複水酸化物で被覆したあと所定の温度で焼成すると、金属粉末の表面全体に均一かつ薄膜で、しかも高い比抵抗値を示す優れた絶縁性を有する絶縁皮膜を形成することが可能となる。
【0036】
この結果、金属粉末にFeの軟磁性材料を適用した場合は、高い比抵抗値を示し、かつ緻密で強固な絶縁皮膜の形成により渦電流損が低減され、そして絶縁皮膜の薄膜化によりヒステリシス損も低減されるため、本発明の絶縁皮膜形成金属粉末からは鉄損が小さく透磁率は大きい磁心を作製することが可能となる。また、本発明で用いられる剥離型Mg−Al系層状複水酸化物からなる分散ゾルのハンドリングが容易であり、かつ絶縁皮膜形成金属粉末の製造プロセスも単純であるので、本発明の製法により製造される絶縁皮膜形成金属粉末のコストも安価なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【実施例】
【0038】
第I部 水中で剥離するLDHの製造法
(実施例I―1)
酢酸マグネシウム0.28mol/L水溶液へ、予め700℃温度下において20時間熱処理を行ったMg−Al系層状複水酸化物(協和化学社製炭酸型複水酸化物DHT−6)を0.28mol/Lを加える。15時間室温にて撹拌後、得られた固形分生成物(ゲル状)をろ過にて分離後、そのまま90℃乾燥機にて10時間乾燥し、その後粉砕することによりLDH−1を得た。
【0039】
(実施例I−2)
酢酸マグネシウムをアクリル酸マグネシウムに変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、LDH−2を得た。
【0040】
第II部 水中で剥離する前LDH
(実施例II―1)
剥離のしていないLDHとして、水中で剥離するLDHの原料であるMg−Al系層状複水酸化物(協和化学社製炭酸型複水酸化物)DHT−6をLDH−3とした。
【0041】
第III部 Fe粉処理方法
(実施例III−1)
絶縁処理用Fe粉として、林純薬製Fe粉(平均粒径 100μm)を原料粉末Aとする。
【0042】
(実施例III−2)
90mL蒸発皿にLDH−1を0.15g入れイオン交換水にて2%分散液7.5gを作製する。そこへ原料粉末Aを3.5g投入し、150℃乾燥機にて水分を蒸発させた後、焼成るつぼに移し替え300℃−30min熱処理後さらに500℃−30minの熱処理を行い絶縁処理サンプルHLDH−1を得た。
【0043】
(実施例III−3)
LDH−1をLDH−2に変更する以外は、実施例III−2と同様の操作を行い、HLDH−2を得た。
【0044】
(実施例III−4)
LDH−1をLDH−3に変更する以外は、実施例III−2と同様の操作を行い、HLDH−3を得た。
【0045】
(実施例III−5)
ヒーター上に置かれている90ml蒸発皿に原料粉末Aを入れ原料粉末の温度が60〜80℃になるようにヒーターを調整する。加熱された原料粉末Aをスパーテルにてかき混ぜながら、ミスト発生装置にて霧状になったLDH−1イオン交換水2%分散液を7.5gふきかけ水分を蒸発させた後、焼成るつぼに移し替え300℃−30minの熱処理を行い絶縁処理サンプルHLDH−4を得た。
【0046】
(実施例III−6)
LDH−1をLDH−2に変更する以外は、実施例III−5と同様の操作を行い、HLDH−5を得た。
【0047】
(実施例III−7)
LDH−1をLDH−3に変更する以外は、実施例III−5と同様の操作を行い、HLDH−6を得た。
【0048】
(実施例III−8)
ヒーター上に置かれている90ml蒸発皿に原料粉末Aを入れ原料粉末の温度が60〜80℃になるようにヒーターを調整する。加熱された原料粉末Aをスパーテルにてかき混ぜながら、ミスト発生装置にて霧状になったLDH−1イオン交換水2%分散液を7.5gふきかけ水分を蒸発させた後、焼成るつぼに移し替え300℃−30min熱処理後さらに500℃−30minの熱処理を行い、絶縁処理サンプルHLDH−7を得た。
【0049】
(実施例III−9)
LDH−1をLDH−2に変更する以外は、実施例III−8と同様の操作を行い、HLDH−8を得た。
【0050】
(実施例III−10)
LDH−1をLDH−3に変更する以外は、実施例III−8と同様の操作を行い、HLDH−9を得た。
【0051】
(実施例III−11)
ヒーター上に置かれている90ml蒸発皿に原料粉末Aを入れ原料粉末の温度が120〜150℃になるようにヒーターを調整する。加熱された原料粉末Aをスパーテルにてかき混ぜながら、ミスト発生装置にて霧状になったLDH−1イオン交換水2%分散液を7.5gふきかけ水分を蒸発させた後、焼成るつぼに移し替え300℃−30minの熱処理を行い、絶縁処理サンプルHLDH−10を得た。
【0052】
(実施例III−12)
LDH−1をLDH−2に変更する以外は、実施例III−11と同様の操作を行い、HLDH−11を得た。
【0053】
(実施例III−13)
LDH−1をLDH−3に変更する以外は、実施例III−11と同様の操作を行い、HLDH−12を得た。
【0054】
(実施例III−14)
ヒーター上に置かれている90ml蒸発皿に原料粉末Aを入れ原料粉末の温度が120〜150℃になるようにヒーターを調整する。加熱された原料粉末Aをスパーテルにてかき混ぜながら、ミスト発生装置にて霧状になったLDH−1イオン交換水2%分散液を7.5gふきかけ水分を蒸発させた後焼成るつぼに移し替え300℃−30min熱処理後さらに500℃−30minの熱処理を行い、絶縁処理サンプルHLDH−13を得た。
【0055】
(実施例III−15)
LDH−1をLDH−2に変更する以外は、実施例III−14と同様の操作を行い、HLDH−14を得た。
【0056】
(実施例III−16)
LDH−1をLDH−3に変更する以外は、実施例III−14と同様の操作を行い、HLDH−15を得た。
【0057】
第IV部 絶縁処理Fe粉抵抗値測定
(実施例IV−1)
絶縁処理粉末HLDH−1〜15を各1.3gずつ採取し、島津製作所製フーリエ変換赤外分光光度計用KBr錠剤成形器(形式:202−32010)を用い700Kgf/cmの圧力をかけ、直径1.3mmの成形体SLDH1〜15を作製する。
【0058】
(比較例IV−1)
絶縁処理粉末HLDH−1〜15を原料粉末Aに変更する以外は、実施例IV−1と同様の操作を行い、Fe−1を得た。
【0059】
(実施例IV−2)
成形体SLDH1〜15及びFe−1を図1に示されるような抵抗測定用治具に入れ、次いで図2に示されるような抵抗値測定装置にて10Kgf/cmの圧力をかけながら、ADEX社製 AX−110A DIGITAL OHM METERを接続し抵抗値を測定した。
【0060】
第V部 絶縁処理Fe粉抵抗値測定結果
(実施例V−1)
抵抗値測定結果を表1に表した。
【表1】

【0061】
第VI部 絶縁処理Feコート確認試験
(実施例VI−1)
日本電子(株)製走査型電子顕微鏡JSM−6380LA型を用いて、絶縁処理サンプルHLDH−4の表面状態の確認及びMg、Al、Fe元素のマッピングを行った。その結果を図3a〜3dに示した。
【0062】
図4〜6で分かるように、測定粒子全面にMg及びAlが検出されているが、測定粒子の構成元素であるFeは検出されておらず、これにより、測定粒子の全面にLDH−1がコートされていることが確認された。
【0063】
(実施例VI−2)
成形体1〜15及びFe−1を1%NaCl水溶液の入っている50mlビーカーに浸け1時間浸透後取り出し、イオン交換水で洗浄し、60℃乾燥機にて乾燥させた後、成形体1〜15及びFe−1の外観を目視にて観察した。評価結果は、「○:変色無し」、「△:一部茶色に変色」、「×:全面が茶色に変色」として表2に示した。
【0064】
【表2】

【0065】
表2により明らかなように、SLDH−4〜5、及びSLDH−7〜8は原料粉末Aに対しLDH−1及びLDH−2の表面処理剤が全面にコートされる事により、原料粉末Aの酸化を防ぐことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の絶縁皮膜形成金属粉末の抵抗値を測定するために用いた抵抗測定用冶具の概略図である。
【図2】本発明の絶縁皮膜形成金属粉末の抵抗値を測定するために用いた抵抗値測定装置の概略図である。
【図3a】本発明による絶縁皮膜形成金属粉末の表面確認用顕微鏡写真である。
【図3b】本発明による絶縁皮膜形成金属粉末のMg分布確認用顕微鏡写真である。
【図3c】本発明による絶縁皮膜形成金属粉末のAl分布確認用顕微鏡写真である。
【図3d】本発明による絶縁皮膜形成金属粉末のFe分布確認用顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を、水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させた分散ゾルで被覆した後、乾燥および焼成を行い、該金属粉末の表面にMg−Al系層状複水酸化物の焼成皮膜を形成させたことを特徴とする絶縁皮膜形成金属粉末。
【請求項2】
前記焼成は、200〜750℃の温度で熱処理したことを特徴とする請求項1に記載の絶縁皮膜形成金属粉末。
【請求項3】
前記乾燥は、60〜200℃の温度で熱処理したことを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁皮膜形成金属粉末。
【請求項4】
前記Mg−Al系層状複水酸化物は、
Mg1−XAl(OH) (I)
((I)式中、xは0.2ないし0.33である。)の金属複水酸化物からなる基本層と、該基本層間の中間層に酢酸又はアクリル酸のMg塩および層間水がインターカレートされたものであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁皮膜形成金属粉末。
【請求項5】
前記金属粉末は、Fe粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Ni系鉄基軟磁性材料、Fe−Cr系鉄基軟磁性材料、Fe−Si系鉄基軟磁性材料、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Co系鉄基軟磁性材料、Fe−Co−V系鉄基軟磁性材料またはFe−P系鉄基軟磁性材料からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁皮膜形成金属粉末。
【請求項6】
水中において可逆的に剥離するMg−Al系層状複水酸化物を水に分散させるステップと;
金属粉末を分散ゾルで被覆するステップと;
分散ゾルで被覆された金属粉末を60〜200℃の温度で乾燥することにより、該金属粉末の表面にMg−Al系層状複水酸化物を復元するステップと;そして
乾燥した金属粉末をさらに200〜750℃の温度で焼成することにより、復元されたMg−Al系層状複水酸化物の焼成皮膜を形成させるステップと;
を含むことを特徴とする絶縁皮膜形成金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記Mg−Al系層状複水酸化物は、
〔Mg1−XAl(OH)〕〔(COX/2・HO〕 (II)
((II)式中、xは0.2ないし0.33であり、yは0より大きい実数である。)の炭酸型複水酸化物を熱分解するステップと;
生成する熱分解物を酢酸又はアクリル酸のMg塩の水溶液へ加え、反応させるステップと;
反応した固体生成物を反応液から分離するステップと;そして
分離した固体を乾燥し、粉砕するステップと;
を含む製法により製造されたものであることを特徴とする請求項6に記載の絶縁皮膜形成金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記分散ゾルによる被覆は、浸漬、塗布、スプレー塗布、電着または添加・撹拌方法を用いて実施されることを特徴とする請求項6に記載の絶縁皮膜形成金属粉末の製造方法。
【請求項9】
前記金属粉末は、Fe粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Ni系鉄基軟磁性材料、Fe−Cr系鉄基軟磁性材料、Fe−Si系鉄基軟磁性材料、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性材料、Fe−Co系鉄基軟磁性材料、Fe−Co−V系鉄基軟磁性材料またはFe−P系鉄基軟磁性材料からなるものであることを特徴とする請求項6に記載の絶縁皮膜形成金属粉末の製造方法。

















【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【公開番号】特開2009−185340(P2009−185340A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27125(P2008−27125)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】