説明

創傷治療用非熱的プラズマ及び関連する装置並びに方法

【課題】プラズマの滅菌効果を高め、プラズマ療法における創傷の治癒を促進する。
【解決手段】本発明は表面を治療するため、特に創傷1を治療するための、非熱的プラズマに関するものであり、プラズマは部分的イオン化搬送気体と、治療表面に対する滅菌効果を有することが好ましく及び/又は創傷1の治癒を促進する少なくとも一の添加物とを備える。さらに、本発明は対応する装置及び方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の治療用、特に生体組織の治療用、具体的には創傷の治療用の非熱的プラズマに関する。
【0002】
また本発明は、特に生体組織の治療用として、具体的には創傷の治療用として非熱的プラズマを供給するための装置及びこれに対応する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
創傷の生体内滅菌用として非熱的プラズマを利用することは、例えば国際特許出願公報第WO2007/031250号(特許文献1)、及び国際特許出願番号第PCT/EP2008/003568号(特許文献2)において開示されている。
【0004】
しかしながら、創傷に対するプラズマの滅菌効果を高め、これによって創傷の治癒を促進することの方が望ましいといえる。
【0005】
さらに、米国特許出願公開第2007/029500号明細書(特許文献3)、米国特許出願公開第2006/084158号明細書(特許文献4)、国際特許出願公開第WO2005/000363号(特許文献5)、国際特許出願公開第WO02/32332号(特許文献6)、米国特許出願公開第2004/094400号明細書(特許文献7)も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許出願公報第WO2007/031250号
【特許文献2】国際特許出願番号第PCT/EP2008/003568号
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/029500号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/084158号明細書
【特許文献5】国際特許出願公開第WO2005/000363号
【特許文献6】国際特許出願公開第WO02/32332号
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/094400号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の主な目的は、プラズマの滅菌効果を高め、プラズマ療法における創傷の治癒を促進することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
このような目的は、滅菌効果を有し、及び/又は創傷治癒を促進する、少なくとも一の添加物を含む新規の非熱的プラズマによって達成される。したがって、本発明に係るプラズマは、例えば創傷、皮膚等の生体組織を治療し、健常な組織を損傷しないよう特に設計された特定のプラズマと言える。
【0009】
ここで「滅菌」とは、102分の1(すなわち汚染除去)、104分の1(すなわち消毒)、又は106分の1(滅菌)に減少させることを含み、またプラズマにより細菌の濃度を減少させること意味する。
【0010】
また添加物は、塩類(例えば硫酸塩、塩化物)、金属、有機物、無機物、及びこれら物質の化合物又は混合物等を含む多様な物質から選択できる。他の添加物の例としては、生体分子、タンパク質、酵素等が挙げられる。
【0011】
具体的には、添加物は、硼素、臭素、タリウム、シリコン、鉄、アルミニウム、銀(特にコロイド状銀)、銅、亜鉛、マンガン、ZnSO4、K2、MnO4,FeSO4、Ti2SO4、沃素、SiO2、KMnO4、硫酸亜鉛、塩化銅(I)又は塩化銅(II)、硝酸銀、塩化銀、硫酸マンガン(II)、(2−臭素−2−ニトロビニル)ベンゾール、又はこれら物質の化合物若しくはこれらの混合物よりなる群から選択できる。
【0012】
他の添加物の例としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、一酸化窒素、酸素、水素、六フッ化硫黄、亜酸化窒素、メタン、フッ化炭素、フルオロホルム、二酸化炭素、エタノール、空気、水、又はこれら物質の混合物等が挙げられる。
【0013】
ここで、添加物がプラズマ治療に関して有益な効果を有していることが必須の条件となる。また添加物が、器官組織又は生体組織に対して有益な効果を有することが好ましい。換言すれば、添加物は健康を増進するものであることが好ましい。例えば、添加物は滅菌効果を有する物質、及び/又は創傷治癒を促進する物質であるのが良い。したがって添加物は、殺細菌性、殺真菌性、及び/又は抗ウイルス性であることが好ましい。ただ、添加物がプラズマ生成又はプラズマ印加を改善するものであってもよい。
【0014】
また、本発明に係る非熱的プラズマは、異なる特性を有する別個の添加物を含んでもよいことに留意すべきである。例えば、第1の添加物として殺細菌剤を、第2の添加物として殺真菌剤を使用しても良い。
【0015】
さらに、添加物は気体、固体又は液体とすることもできる点にも留意すべきである。
【0016】
さらにまた、新規なプラズマ内の添加物を、出発物質と比べて活性化可能な物質としてもよい。したがって、このプラズマは活性化された形態又は非活性の形態の、いずれの添加物をも含むことができる。いずれの場合も、後の工程で添加物を活性化できる。
【0017】
さらにまた、プラズマ中の添加物は分解性でも非分解性でも良いことに留意すべきである。
【0018】
さらにまた、添加物は、加熱効果又は他の理由により凝固可能な材質としてもよい。したがって、プラズマは凝固形態又は非凝固形態の物質を含むことができる。
【0019】
さらに、新規なプラズマはイオン化形態又は実質的に非イオン化形態の添加物を含むことができる。
【0020】
また本発明は、創傷、生体組織又は器官組織を治療するための、上述した非熱的プラズマの新たな用途も含む。
【0021】
本発明に係る非熱的プラズマに関する他の用途分野は、人体又は動物体の自然又は人工体腔を滅菌すること、及び/又は体腔を通じて人体又は動物体の内腔内に医療器具を挿入する際に、この医療器具を滅菌することが挙げられる。このような医療器具としては、カテーテルが好適に利用できる。例えば、体腔を介した細菌又は他の病原体の侵入を回避するために、プラズマの流れを体腔へ指向させることができる。さらに、医療器具によって体内に病原体が侵入することがないよう、体内へ器具を挿入する際に医療器具(例えばカテーテル)に対してプラズマを指向させても良い。
【0022】
また、本発明に係るプラズマは、例えば皮膚、腎臓、肝臓、心臓、肺臓等、移植組織の滅菌にも使用できる。
【0023】
さらに本発明に係るプラズマの他の用途分野として、皮膚疾患又は皮膚障害の治療にも適用できる。
【0024】
さらにまた、本発明に係るプラズマは、人体又は動物体の腹腔又は内腔の滅菌又は治療のため、特に口腔又は腸内空洞の滅菌に使用できる。
【0025】
最後に、本発明に係るプラズマは、創傷又は生体組織を治療するための医薬品の製造に用いることができる。この用途においては、プラズマ自体は、例えば皮膚障害又は皮膚疾患の治療に使用可能な医薬品の構成要素となり、創傷治癒を改善できる。
【0026】
さらに、本発明には、前述した非熱的プラズマを供給するための装置、特に創傷を治療するための装置も包含する。
【0027】
本発明に係る装置は、例えばアルゴンや外気等、搬送気体を供給する少なくとも一の搬送気体供給源を備えている。ただ、本発明は搬送気体を特定の種類に限定するものでない。したがって、例えばヘリウムや窒素等、他の種類の搬送気体も使用できる。
【0028】
また本発明に係る新規のプラズマは、複数の異なる搬送気体の混合物を含むこともできる。したがって本発明に係る装置は、混合された異なる搬送気体を供給する複数の搬送気体供給源を備えてもよい。
【0029】
さらに本発明に係る装置は、搬送気体供給源から供給される搬送気体をイオン化するために少なくとも一のプラズマ発生器を備えており、このプラズマ発生器で非熱的プラズマを生成する。プラズマ発生器は、例えば国際特許出願公開第WO2007/031250号(特許文献1)及び国際特許出願番号第PCT/EP2008/003568号(特許文献2)に開示される従来型のプラズマ発生器とすることもできるが、他の種類のプラズマ発生器も利用できる。さらに、直列又は並列に配設可能な複数のプラズマ発生器としてもよい。
【0030】
さらにまた本発明の装置は、添加物を供給する少なくとも一の添加物供給源を備えている。この添加物供給源は、例えば添加物を気相の形態で収容する単純なガスボンベとできる。
【0031】
あるいは、添加物供給源をプラズマ発生器内における塗膜状の電極配列としてもよい。塗膜は添加物で構成され、添加物が塗膜から抜け出て搬送気体に入る。この実施形態においては、プラズマ発生器は、添加物と搬送気体とを混合する混合器も構成している。
【0032】
本発明の他の実施形態では、添加物供給源は一部品(例えば加熱されたワイヤ又は加熱可能な銀リング)とする。この構成部品は、装置の作動中に添加物が構成部品から抜け出るように、添加物が塗布されている。例えば、構成部品を加熱又はスパッタすることにより、添加物を構成部品から抽出できる。さらに、この構成部品は、添加物で構成された塊状の構成部品とすることもできる。この実施形態では、前記構成部品は、添加物と搬送気体とを混合する混合器を形成している。
【0033】
さらに、本発明に係る新規のプラズマは、複数の異なる添加物の混合物を含むこともできる点に留意すべきである。よって本発明に係る装置は、混合された異なる添加物を供給する複数の添加物供給源を備えることもできる。
【0034】
最後に、本発明に係る装置は、添加物と、非イオン化搬送気体及び/又はイオン化プラズマとを混合する混合器を備えている。例えば、この混合器は、一方で搬送気体を送出し、他方で添加物を送出する2つの管路を単に接合したものとしてもよい。ただ、混合器は上述した他の態様で実現することもできる。
【0035】
混合器は、概ね搬送気体と添加物の比率を決定するものであり、一方でプラズマ発生器は、プラズマのイオン化度、すなわちイオン化原子又は分子の割合を決定する。したがって混合器は、添加物と搬送気体の比率を変化できるよう調整可能とすることが好ましい。さらにプラズマ発生器は、プラズマのイオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)を変化できるように調整可能とすることが好ましい。
【0036】
本発明の第1の実施形態においては、添加物は、非イオン化搬送気体、すなわち搬送気体をイオン化する前の状態のものと混合される。この実施形態において、混合器はプラズマ発生器の上流に配置されており、非イオン化搬送気体と非イオン化添加物とを混合することで、プラズマ発生器が搬送気体と添加物との混合物をイオン化する。
【0037】
また第2の変形例においては、混合器は、添加物と、イオン化プラズマ、すなわち搬送気体をイオン化した後の状態のものとを混合する。この変形例において、混合器は、プラズマ発生器の下流に配置されており、プラズマ発生器によって供給されるイオン化搬送気体と添加物供給源により供給される、実質的に非イオン化添加物とを混合する。
【0038】
さらに第3の変形例において、混合器はイオン化搬送気体とイオン化添加物とを混合する。したがって混合器は、一又は複数のプラズマ発生器の下流に配置されている。例えば、搬送気体をイオン化するための第一プラズマ発生器と、添加物をイオン化するための第二プラズマ発生器とを配設することができる。この場合、両方のプラズマ発生器の出力部が混合器に連結されているので、混合器は両方のプラズマ発生器の下流に配置されている。
【0039】
さらに、複数の異なる添加物を搬送気体及び/又はイオン化プラズマと混合できることにも留意すべきである。したがって本発明に係る装置は、異なる添加物を供給するために複数の異なる添加物供給源を備えることもできる。
【0040】
さらに、異なる添加物を非イオン化搬送気体及び/又はイオン化プラズマと混合するため、複数の混合器を設けても良い。
【0041】
プラズマ発生器は、搬送気体と、多分に添加物とを電気的に励起するための電極配列を備えることが好ましい。これにより、例えば国際特許出願公開第WO2007/031250号(特許文献1)に開示されるようにプラズマを発生させることができる。さらに本装置は、プラズマ発生器の電極配列に接続された高電圧装置を備えることが好ましい。
【0042】
ただ、他の種類のプラズマ発生器も利用できる。例えば、アンテナ配列によって、又は光イオン化によってプラズマを生成してもよい。
【0043】
本発明の一実施形態において、混合器はプラズマ発生器よりも上流に配置されているので、プラズマ発生器は搬送気体と添加物の混合物を受領する。ただ添加物供給源は、不連続的に添加物を混合器に供給するので、添加物の供給が途絶える時間間隔がある。この時間帯では、添加物がプラズマ発生器に供給されず、一方で添加物が供給される時間間隔がある。この時間帯では、プラズマ発生器は添加物供給源から添加物を受領している。添加物供給源の不連続的な動作制御は、例えば添加物供給源とプラズマ発生器との間に制御可能な弁を設けることで実現できる。この実施形態において、プラズマ発生器を添加物の供給が途絶える時間間隔だけ起動させることが好ましい。これにより、添加物をプラズマ発生器に通過させても、添加物がプラズマ発生器内で実質的にイオン化されることを回避できる。
【0044】
この実施形態においては、本装置はさらに、プラズマ発生器の起動中に添加物がプラズマ発生器に供給されない態様で、プラズマ発生器の起動と、添加物供給源からプラズマ発生器への気体流入の両方を制御するコントローラを備えることが好ましい。
【0045】
ただ、これとは別に、添加物の混合とプラズマ発生器内におけるイオン化とが時間的に重複するような態様で、コントローラがプラズマ発生器の起動と、添加物供給源からプラズマ発生器への気体流入とを制御するような構成も利用可能である。このような実施形態においては、添加物のイオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)は、一方ではプラズマ発生器が起動される時間帯と、他方では添加物がプラズマ発生器に供給される時間帯との間の、重複した時間枠とによって決定される。したがって、前記重複した時間枠を調整することにより、添加物のイオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)を調整できる。
【0046】
本発明の一実施形態において、プラズマ発生器の前記高電圧装置は、時間間隔を隔てて分離された複数のパルスからなるパルス列を生成する。これは、コントローラを介して高電圧装置のスイッチを定期的にON/OFFすることで実現できる。あるいは、このパルス列は高電圧装置とプラズマ発生器との間のスイッチングによっても実現できる。スイッチは定期的に開閉される。この実施形態において、所定の間隔においてのみ添加物をプラズマ発生器に供給できるので、添加物がプラズマ発生器を通過しても、この添加物はプラズマ発生器によって実質的にイオン化されることはない。
【0047】
さらに本装置は、プラズマ発生器と治療対象(例えば創傷)との間に配置されるUVシールド(UVは紫外光)を備えることもできる。これにより、プラズマ発生器から発されるあらゆる紫外光を、少なくとも部分的にUVシールドで遮蔽できる。したがって、紫外光、又は本来的に生成される紫外光の内、極く僅かでも治療対象に達することはない。
【0048】
UVシールドを備える実施形態においては、混合器はUVシールドの下流に配置できる。このため、添加物はUVシールドの下流におけるプラズマに加えられ、その結果、添加物はプラズマ発生器によって生成される紫外光で影響を受けることを回避できる。
【0049】
他の実施形態において、自然又は人工体腔を通じて人体又は動物体の内腔内にプラズマを注入するためのカテーテルが提供される。このカテーテルは、例えば食道を滅菌するために経口にて食道に挿入できる。これは食道癌の治療に有用となる。この場合、プラズマは悪性細胞を不活性化するために細胞毒性を有するような態様で設計される。
【0050】
最後に、本発明は表面、特に創傷を治療する方法も含んでおり、このことは上記説明からも明らかである。
【0051】
さらに、添加物は部分的にイオン化されているのが好ましい。イオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)は、プラズマ生成領域において測定した場合、1×10-9、2×10-9、5×10-9、10-8、2×10-8、5×10-8又は10-7超であることに留意すべきである。あるいは、添加物は実質的にイオン化されていなくても良く、イオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)は10-15、10-16、10-17又は10-18未満である。ここで「部分的に」とは、イオン化原子又分子が何分の一かでも存在することを意味する。
【0052】
さらに本発明に係るプラズマは、治療表面で測定した場合、プラス100℃、プラス75℃、プラス50℃又はプラス40℃未満の気体温度(すなわち原子又は分子の温度)を含むことが好ましいことを記しておく。さらに、プラズマの圧力は大気圧に等しいことが好ましい。この圧力は、治療表面で測定した場合、好ましくは800hPa〜1200hPaの範囲内、さらに好ましくは900hPa〜1100hPaである。さらにまた、搬送気体のイオン化度(すなわちイオン化原子又分子の割合)は、プラズマ生成領域において測定した場合、好ましくは1×10-9、2×10-9、5×10-9、10-8、2×10-8、5×10-8又は10-7超である。
【0053】
さらに、プラズマは800hPa未満の、特に低圧力の環境下において、表面(例えば創傷)に印加できることにも留意すべきである。
【0054】
本発明及びその具体的な特徴並びに利点は、添付図面を参照しながら説明する以下の詳細な説明から、一層明らかなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る装置であって、添加物を含み、創傷治癒を向上させる非熱的プラズマを供給する装置を示す概略図である。
【図2】創傷治療用として非熱的プラズマを供給する装置であって、添加物と搬送気体の両方がイオン化され、次いで混合される装置に関する他の実施形態を示す概略図である。
【図3】創傷治療用として非熱的プラズマを供給する装置であって、複数の異なる添加物が搬送気体と混合される装置に関する他の実施形態を示す概略図である。
【図4】紫外光を遮蔽するUVシールドを備えるプラズマ供給源の出力部を示す概略図である。
【図5】図4に係る実施形態の変形例であって、添加物がUVシールドよりも下流におけるプラズマと混合される変形例を示す概略図である。
【図6】体腔を通じて人体の内腔に非熱的プラズマを注入するためのカテーテルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1は、創傷1の治療用として改良された非熱的プラズマを供給する装置を示す概略図である。
【0057】
本装置が備えるプラズマ発生器2は、例えば国際特許出願公開第2007/031250号(特許文献1)において開示される従来型のプラズマ発生器も利用可能である。
【0058】
さらに本装置は、搬送気体を供給する搬送気体供給源3と、創傷治癒を向上させる気体状の添加物を供給する添加物供給源4とを備えている。
【0059】
添加物供給源4は、制御可能な弁6.1を介して混合器5に連結され、搬送気体供給源3は他の制御可能な弁6.2を介して混合器5に連結されている。
【0060】
したがって混合器5は、搬送気体供給源3から非イオン化搬送気体(例えばアルゴン)と、添加物供給源4から非イオン化添加物とを受領し、これらの気体を混合する。次いで、混合器5は搬送気体と添加物との混合物をプラズマ発生器2に供給し、このプラズマ発生器2が搬送気体及び添加物の両方をイオン化し、これによりプラズマを生成する。
【0061】
プラズマ発生器2により生成されたプラズマは、次に創傷1に印加される。添加物が創傷1に対する滅菌効果を備えており、創傷1における治癒を促進する。
【0062】
さらにプラズマ発生器2は、プラズマ生成用の電極配列を備えている。この電極配列は、プラズマを励起するパルスと、逐次的に連続するパルス間の間隔とからなるパルス列を生成する高電圧装置に接続されている。したがってパルス発生器2は、プラズマ発生器2が起動されていない間隔で間欠的にON/OFFする動作にて、不連続的に搬送気体と添加物との混合物をイオン化する。
【0063】
さらに本装置は、高電圧装置7により生成されるパルス列と、プラズマ発生器2が高電圧装置7によって起動される間隔の間に添加物が供給されないよう、弁6.1、6.2を制御するコントローラ8を備えている。ここでコントローラ8は、高電圧装置7により生成されるパルス列が逐次的に連続するパルス間の間に弁6.1を開き、これによりプラズマ発生器2が非動作の間だけ、添加物がプラズマ発生器2に供給される。したがって、添加物がプラズマ発生器2を通過しても、添加物はプラズマ発生器2によって実質的にイオン化されることはない。
【0064】
さらにコントローラ8は、弁6.1、6.2を制御することにより、搬送気体と添加物との比率を調整する。
【0065】
さらにまた高電圧装置2及び弁6.1は、プラズマ発生器2が作動している間隔と弁6.1が開いている間隔が重複し、この重複時間間隔の間に添加物がイオン化される態様でも制御できることに留意すべきである。したがって重複した時間間隔を調整することで、イオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)を調整できる。
【0066】
図2は、改良された非熱的プラズマを供給する装置に関する他の実施形態を示す概略図である。図2の実施形態は図1の実施形態と類似しているので、図1に関する上記説明を参照し、同一の参照符号を対応する部品及び構成要素にも使用する。
【0067】
この実施形態における一の特長は、添加物及び搬送気体の両方が別個にイオン化されることである。したがって、添加物及び搬送気体のそれぞれをイオン化するために、2つのプラズマ発生器2.1、2.2を設けている。
【0068】
プラズマ発生器2.1、2.2は、イオン化される添加物とイオン化される搬送気体とを混合する混合器5に連結されている。
【0069】
次に混合器5は、創傷治癒を向上させるために創傷1に指向されるプラズマ流を形成するノズル8に結合されている。
【0070】
図3は、非熱的プラズマを供給する装置に関する他の実施形態を示す概略図である。この装置も、上述した図1及び図2に係る装置と類似しているので、上記説明を参照し、同一の参照符号を、対応する部品、構成要素及び細部にも使用する。
【0071】
本形態における一の特長は、コントローラ8が、添加物供給源4.1、4.2、4.3と混合機5.1、5.2、5.3との間にある弁6.1、6.2、6.3と、高電圧装置7とを能動的に制御している点である。またコントローラ8は、搬送気体供給源3と混合器5.1との間にある弁6.4も制御する。このコントローラ8は、供給源4.1からの添加物がプラズマ発生器2を通過する間の時間帯と、搬送気体がプラズマ発生器2を通過する間の時間帯とが、プラズマ発生器2が起動される間の時間帯とは時間的に異なって重複する態様で、弁6.1、6.4及び高電圧装置7を同調させる。したがって供給源4.1からの添加物のイオン化度(すなわちイオン化原子又は分子の割合)と搬送気体のイオン化度とは異なっており、互いに独立に調整できる。
【0072】
この実施形態では、弁6.2、6.3を介して混合器5.2、5.3に異なる添加物を送出するための、さらに2つの添加物供給源4.2、4.3が設けられている。混合器5.2、5.3はプラズマ発生器2の下流に配置されているので、添加物供給源4.2、4.3から供給された添加物を、プラズマ発生器2がイオン化することはない。
【0073】
また図4は、本発明に係る装置の出力部9を示す概略図であり、出力部9はプラズマを創傷1に印加する。
【0074】
本質的に、出力部9はプラズマを案内する出力チューブ10で構成されており、プラズマ発生器からの紫外光も出力チューブ10に入る。
【0075】
したがって出力部9は、出力チューブ10の膨らんだ部分である出力チューブ10の中間に配置されたUVシールド11を備えており、プラズマはUVシールド11周りを流れる。UVシールド11は紫外光遮蔽材料(例えば通常の窓硝子)より構成されており、これにより出力チューブ10に入る紫外光を遮蔽する。したがって、紫外光が出力部9から出ることは実質的にないといえ、創傷1が紫外光や極僅かの量で影響を受けることはない。
【0076】
図5の実施形態は図4の実施形態によく似ているので、図4に関する上記の説明を参照し、さらに同一の参照符号を、対応する部品、構成要素及び詳細に用いる。
【0077】
本実施形態における一の特長は、管路12が添加物をUVシールド11の下流にある出力チューブ10へ放出し、この管路12が出力チューブ10内のプラズマ流に添加物を送り込む構成である。したがってUVシールド11は、出力部9に入る紫外光によって添加物が影響を受けることがないように構成している。
【0078】
最後に、図6は体表面15の人工又は自然体腔14を経て人体の内腔に挿入可能な中空カテーテル13を示す概略図である。例えば体腔14をヒトの口腔とすることもできるので、カテーテル13を食道内に挿入して、そこでカテーテル13が滅菌用添加物を含む非熱的プラズマを食道に印加することもできる。
【0079】
以上、各部材や特長、その他に関して特定の配置例を参照しながら本発明を説明した。ただ、これらは各特長に関して採用可能な他のあらゆる配置を否定するものでなく、また現実に他に多くの改良や変形例が存在することは当業者にとって自明である。
【符号の説明】
【0080】
1…創傷
2、2.1、2.2…プラズマ発生器
3…搬送気体供給源
4…添加物供給源
4.1…添加物供給源1;4.2…添加物供給源2;4.3…添加物供給源3
5、5.1、5.2、5.3…混合器
6.1、6.2、6.3、6.4…弁
7…高電圧装置;8…ノズル;9…出力部;10…出力チューブ
11…UVシールド
12…管路
13…カテーテル
14…体腔
15…体表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を治療するための、特に生体組織を治療するための、具体的には創傷(1)を治療するための非熱的プラズマであって、
該プラズマは、治療表面に対する滅菌効果及び/又は生体組織に対する有益な効果を有することが好ましく、及び/又は創傷(1)の治癒を促進する少なくとも一の添加物を特徴とする、部分イオン化搬送気体を含んでなる非熱的プラズマ。
【請求項2】
請求項1に記載の非熱的プラズマであって、前記添加物が、
a)硫酸塩、
b)塩化物、
c)塩類、
d)金属、
e)有機物、
f)無機物、
g)生体分子、
h)タンパク質、
i)酵素、
j)上記物質の化合物又は混合物、
よりなる群から選択されてなることを特徴とする非熱的プラズマ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非熱的プラズマであって、添加物が、
a)硼素、
b)臭素、
c)タリウム、
d)シリコン、
e)鉄、
f)アルミニウム、
g)銀、特にコロイド状銀、
h)銅、
i)亜鉛、
j)マンガン、
k)ZnSO4
l)K2MnO4
m)FeSO4
n)Ti2SO4
o)沃素、
p)SiO2
q)KMnO4
r)硫酸亜鉛、
s)塩化銅(I)又は塩化銅(II)、
t)硝酸銀、
u)塩化銀、
v)硫酸第二マンガン、硫酸マンガン(II)、
w)(2−臭素−2−ニトロビニル)ベンゾール、
x)ヘリウム、
y)ネオン、
z)クリプトン、
aa)キセノン
ab)一酸化窒素、
ac)酸素、
ad)水素、
ae)六フッ化硫黄、
af)亜酸化窒素、
ag)ヘキサフルオロエタン、
ah)メタン、
ai)フッ化炭素、
aj)フルオロホルム、
ak)二酸化炭素、
al)エタノール、
am)空気、
an)水、
ao)アルゴン、
ap)上記物質の化合物又は混合物、
よりなる群から選択されてなることを特徴とする非熱的プラズマ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一に記載の非熱的プラズマであって、
a)添加物は不活性又は活性のいずれかとなる物質であり、プラズマは実質的に不活性の形態を取る添加物を含み、又は
b)添加物は不活性又は活性のいずれかとなる物質であり、プラズマは実質的に活性の形態を取る添加物を含み、及び/又は、
c)添加物は解離性又は非解離性のいずれかとなる物質であり、プラズマは実質的に解離性の形態を取る添加物を含み、又は
d)添加物は解離性又は非解離性のいずれかとなる物質であり、プラズマは実質的に非解離性の形態を取る添加物を含み、及び/又は、
e)添加物は凝固形態又は非凝固形態のいずれかとなる物質であり、プラズマは実質的に凝固形態を取る添加物を含み、又は
f)添加物は凝固形態又は非凝固形態のいずれかとなる物質であり、プラズマは実質的に非凝固形態を取る添加物を含み、及び/又は
g)添加物はイオン化又は未イオン化物質であり、プラズマは実質的にイオン化形態を取る添加物を含み、又は
h)添加物はイオン化又は非イオン化物質であり、プラズマは実質的に非イオン化形態を取る添加物を含んでなることを特徴とする非熱的プラズマ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一に記載の非熱的プラズマの利用であって、
a)創傷(1)の治療用、
b)生体組織の治療用、
c)器官組織の治療用、
d)人体又は動物体の自然又は人工体腔(14)の滅菌用、及び/又は該体腔(14)を通じて人体又は動物体の内腔内に医療器具を挿入する際の該医療器具の滅菌用、
e)移植組織の滅菌用、
f)皮膚疾患又は皮膚障害の治療用、
g)任意の医療用、
h)人体又は動物体の腹腔又は内腔の滅菌用、特に口腔又は腸内空洞の滅菌用、又は、
i)創傷(1)又は生体組織を治療するための医薬品の製造用としての非熱的プラズマの利用。
【請求項6】
特に創傷(1)の治療用として、
a)搬送気体を供給する搬送気体供給源(3)と、
b)前記搬送気体供給源(3)により供給された搬送気体をイオン化し、それによりプラズマを生成するためのプラズマ発生器(2,2.1,2.2)と、
を備えた非熱的プラズマを供給する装置であって、
c)添加物を供給する添加物供給源(4,4.1,4.2,4.3)と、
d)添加物を非イオン化搬送気体及び/又はイオン化プラズマと混合する混合器(5、5.1、5.2、5.3)と、
を備えてなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項7】
請求項6に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、
a)混合器がプラズマ発生器の上流に配置され、非イオン化搬送気体と非イオン化添加物を混合して、プラズマ発生器が搬送気体と添加物との混合物をイオン化する、又は、
b)混合器(5,5.2,5.3)がプラズマ発生器(2,2.1,2.2)の下流に配置され、プラズマ発生器(2,2.1,2.2)によって供給されるイオン化搬送気体と、添加物供給源(4,4.2,4.3)によって供給される非イオン化添加物とを混合してなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、さらに、
a)それぞれが異なる添加物を供給する複数の添加物供給源(4.1,4.2,4.3)及び/又は、
b)異なる添加物を非イオン化搬送気体及び/又はイオン化プラズマと混合するための複数の混合器(5.1,5.2,5.3)及び/又は、
c)複数のプラズマ発生器(2.1,2.2)
を備えてなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、
a)プラズマ発生器(2,2.1,2.2)は、搬送気体を電気的に励起してプラズマを生成するための電極配列又はアンテナ配列を備えており、
b)該電極配列又はアンテナ配列に高電圧装置(7)が接続されてなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項10】
請求項9に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、
a)混合器(5,5.1)はプラズマ発生器(2)の上流に配置されて、プラズマ発生器(2)が搬送気体と添加物との混合物を受領し、
b)添加物供給源(4,4.1)は不連続的に添加物を混合器(5,5.1)に供給することで、添加物がプラズマ発生器(2)に供給されない添加物無しの間隔が存在し、
c)プラズマ発生器(2)は添加物無しの間隔の間だけ起動され、又は
d)添加物のイオン化及び混合を時間的に重複させ、該重複した時間帯に添加物が部分的にイオン化されてなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項11】
請求項10に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、さらに、
a)プラズマ発生器(2)が起動している間に添加物がプラズマ発生器(2)に供給されない態様で、又は、
b)添加物のイオン化及び混合を時間的に重複させて、該重複した時間帯に添加物が部分的にイオン化される態様で、
プラズマ発生器(2)の起動と、添加物供給源(4,4.1)からプラズマ発生器(2)への気体流とを制御するコントローラ(8)を備えてなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、
a)高電圧装置(7)は所定の時間間隔で分離されているパルスを生成し、
b)前記間隔の間のみ添加物がプラズマ発生器(7)に供給されることで、添加物を実質的にイオン化させないことを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれか一に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、
a)プラズマ発生器(2,2.1,2.2)の電極配列は少なくとも部分的に被覆材で被覆されているか、又は添加物よりなり、該添加物は被覆材から抜け出て搬送気体内へと入るか、又は、
b)添加物供給源は添加物からなる構成要素又は添加物で被覆された構成要素を備えており、該添加物は構成要素から抜け出るが、該構成要素は添加物を構成要素から引き出すために加熱可能であることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項14】
請求項6乃至13のいずれか一に記載の非熱的プラズマを供給する装置であって、
a)UVシールド(11)がプラズマ発生器(2,2.1,2.2)と治療対象(1)との間に配置され、プラズマ発生器(2,2.1,2.2)から発せられる紫外光又は微量光が、UVシールド(11)によって少なくとも部分的に遮蔽されて対象(1)に到達させず、及び/又は、
b)混合器(10,12)はUVシールド(11)の下流に配置されて、添加物がUVシールド(11)の下流においてプラズマに加わり、該添加物がプラズマ発生器(2,2.1,2.2)によって生成される紫外光によって影響を受けず、及び/又は、
c)自然又は人工体腔(14)を通じてプラズマを人体又は動物体の内腔内に挿入するためのカテーテル(13)が提供されてなることを特徴とする非熱的プラズマを供給する装置。
【請求項15】
対象物(1)、特に器官組織及び/又は生体組織、具体的には創傷(1)を治療する方法であって、
a)搬送気体の混合物を供給する工程と、
b)該搬送気体をイオン化してプラズマを生成する工程と、
c)該プラズマを対象(1)に印加する工程と、
を含んでおり、前記方法は更に、
d)プラズマを対象(1)に印加する前に、搬送気体及び/又はプラズマを添加物と混合させる工程を含んでなることを特徴とする治療方法。
【請求項16】
請求項15に記載の治療方法であって、
a)添加物は、イオン化工程の上流で、搬送気体の混合物と混合され、又は、
b)添加物は、イオン化工程の下流で、イオン化搬送気体と混合されることで、該添加物がイオン化されないことを特徴とする治療方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の治療方法であって、
a)添加物は、搬送気体のイオン化工程の上流で、搬送気体と混合され、及び/又は、
b)添加物の混合とイオン化とを時間的に重複させないことで、添加物を実質的にイオン化させず、又は、
c)添加物のイオン化と混合とを時間的に重複させて、該重複した時間内に添加物が部分的にイオン化されてなることを特徴とする治療方法。
【請求項18】
請求項15乃至17のいずれか一に記載の治療方法であって、さらに
a)複数の異なる添加物を搬送気体及び/又はプラズマと混合し、及び/又は、
b)自然又は人工体腔(14)を通じてプラズマを人体又は動物体の内腔内に導入して該内腔を治療する工程を含むことを特徴とする治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−509689(P2012−509689A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524230(P2011−524230)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005957
【国際公開番号】WO2010/022871
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(501497655)マックス プランク ゲゼルシャフト ツゥアー フェデルゥン デル ヴィッセンシャフテン エー フォー (10)
【Fターム(参考)】