説明

力制御装置

【課題】力覚センサの低コスト化を実現しながら、ロボットの先端部に作用する外力を高精度に算出すること。
【解決手段】モータにより駆動されるロボット3と、前記ロボット3の先端部が指令位置に追従するように前記モータを駆動する電流指令を生成するロボット制御手段2と、前記ロボット3の先端部の6個の動作方向のうち、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3個の動作方向の夫々にかかる外力を検出する力覚センサ31と、前記力覚センサ31の検出値、前記モータの位置、および前記電流指令に基づいて、前記ロボットの先端部のn個の動作方向のうちの少なくとも前記力覚センサ31が外力を非検出とする3つの軸の回転方向の外力算出に必要となる摩擦係数を夫々同定し、当該同定した摩擦係数に基づいて当該3つの軸の回転方向にかかるモーメントの推定値を算出する力推定オブザーバ4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば組立、ばりとり、研磨、基板実装、検査などを行うロボットや、自動組立装置、実装機、加工機、検査装置などに搭載されるロボットを制御する力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、各軸を駆動するトルク指令と各軸の駆動トルクの推定値との差を外部トルクとして算出し、算出した各軸の外乱トルクとロボットの作業座標系と関節座標系とのヤコビ行列からロボット先端位置に作用する外力を算出し、算出した外力を用いて力制御を行うロボット制御装置に関する技術が開示されている。当該ロボット制御装置は、具体的には、先端位置におけるコンプライアンスモデルを記憶しておき、前記コンプライアンスモデルを用いて外力に応じてロボットを駆動する位置指令を修正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−105138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術によれば、ロボット制御装置は、各軸の駆動トルクの推定値を算出する際、予め記憶してある摩擦係数を用いて摩擦トルクを算出し、慣性力トルク、重力トルク、摩擦力トルクを加算することで駆動トルク推定値を算出している。しかしながら、各軸の摩擦係数は温度などの条件で変動するため、季節あるいは朝晩でも変動するほか、ロボットを連続動作させて各軸の温度が上昇しても変動する。そのため、駆動トルクの推定値を算出する際の各軸の実際の摩擦力トルクと、摩擦係数を求めた際の各軸の摩擦力トルクは異なっており、駆動トルクの推定精度が劣化し、トルク指令と駆動トルクの差に基づいて算出するロボット先端部に作用する外力の推定値の精度も劣化する問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、力覚センサの低コスト化を実現しながら、ロボットの先端部に作用する外力を高精度に算出することができる力制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、モータにより駆動されるロボットと、前記ロボットの先端部が指令位置に追従するように前記モータを駆動する電流指令を生成するロボット制御手段と、前記ロボットの先端部のm個の動作方向のうち、n(m>n≧1)個の動作方向の夫々にかかる外力を検出する力覚センサと、前記力覚センサの検出値、前記モータの位置、および前記電流指令に基づいて、前記n−m個の動作方向にかかる外力の推定値を算出するために必要となるロボットの摩擦係数を夫々同定し、当該同定した摩擦係数に基づいて前記n−m個の動作方向にかかる外力の推定値を算出する力推定オブザーバと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、6軸力覚センサよりも廉価な例えば3軸力覚センサを用いても、当該3軸力覚センサでは測定できないモーメントを推定でき、力覚センサの低コスト化を実現しながら、ロボットの先端部に作用する外力を高精度に算出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、ロボット制御手段の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、各軸位置制御手段の構成例を示すブロック図である。
【図4】図4は、力覚考慮補正手段の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、力推定オブザーバの構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、実施の形態5の力制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、実施の形態5のロボット制御手段の詳細な構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる力制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる力制御装置の構成を示すブロック図である。図示するように、実施の形態1の力制御装置は、指令生成手段1と、ロボット制御手段2と、ロボット3と、力推定オブザーバ4とを備えている。
【0011】
指令生成手段1は、ロボット3に時々刻々の目標位置としての位置指令を与える。ロボット制御手段2は、与えられた位置指令にロボット3の先端部(エンド・エフェクタ)が追従するようにロボット3を制御する。ロボット3は、ロボット制御手段2の制御により動作するロボットであって、1軸もしくは複数軸を夫々駆動するモータを備えるものであり、例えば産業用ロボットと呼ばれる6軸垂直多関節ロボット、4軸水平多関節ロボットなどが該当する。
【0012】
ロボット3の先端部の近辺(ここではロボット3の手首)には当該先端部に作用する力を計測するための3軸力覚センサ31が取り付けられており、3軸力覚センサ31で測定された力は力測定値として力推定オブザーバ4に入力される。ここで、実施の形態1では、3軸力覚センサ31は、センサ座標系でのXYZ各方向の力を測定し、各軸まわりのモーメントは測定しないタイプのものであるとする。ロボット3を駆動する各軸のモータには、エンコーダやレゾルバなどの各軸のモータ位置を測定する位置センサ32が取り付けられており、位置センサ32が測定した各軸にかかるモータ位置はロボット制御手段2に入力される。
【0013】
力推定オブザーバ4には、3軸力覚センサ31が測定した力測定値に加えて、位置センサ32が検出した各軸のモータ位置およびロボット制御手段2が算出した各軸のモータ電流指令も入力される。力推定オブザーバ4は、力覚センサで測定できないXYZ各軸周りのモーメントを推定し、XYZ各方向の力測定値とともにロボット制御手段2に出力する。
【0014】
図2は、ロボット制御手段2の構成を示すブロック図である。図示するように、ロボット制御手段2は、加算器6、力覚考慮補正手段7、逆変換手段8、各軸位置制御手段9を備えている。力覚考慮補正手段7は、モータ位置および力推定値に基づいて位置指令を補正するための位置指令補正量を出力する。力覚考慮補正手段7の詳細な構成については後述する。加算器6は、指令生成手段1が生成した位置指令と力覚考慮補正手段7が出力した位置指令補正量とを加算する。逆変換手段8は、位置指令補正量の加算により補正された位置指令に対して、手先位置姿勢を実現する各軸のモータ位置を算出するための逆変換計算を行い、ロボット3の各軸の位置指令である関節位置指令に変換する。変換した関節位置指令は各軸位置制御手段9に入力される。各軸位置制御手段9は入力された関節位置指令に各軸のモータ位置が追従するように、ロボット3に対する電流指令を出力する。
【0015】
図3は、各軸位置制御手段9の構成例を示すブロック図である。図示するように、各軸位置制御手段9は、減算器91、比例手段92、微分手段93、減算器94、比例積分手段95を軸毎に備えている。ここでは、軸数はn個であるとしている。減算器91は、各軸の位置指令と当該軸のモータ位置との差分を算出し、算出結果は比例手段92に入力される。比例手段92は、入力された値を定数倍する。微分手段93は、モータ位置を微分してモータ速度を算出する。減算器94は、比例手段92の出力値と微分手段93が算出したモータ速度との差分を求める。比例積分手段95は、減算器94の出力値に対して比例積分演算を行って、電流指令を求める。この各軸位置制御手段9は、位置比例制御系の内部に速度比例積分制御系がある構成になっており、モータの位置制御系としてはよく使われる構成である。なお、本実施の形態1では、各軸位置制御手段9は、各軸ごとにモータ位置制御と速度制御とを行うフィードバック制御系の構成を有するものとしたが、各軸毎にオブザーバを含む制御系の構成を有するものであってもよいし、フィードフォワードを含む制御系の構成を有するものであっても構わない。また、全て各軸独立した構成ではなく、軸間の干渉トルクをフィードフォワードもしくはフィードバックで補正する構成であっても構わない。
【0016】
図4は、力覚考慮補正手段7の構成を示すブロック図である。図示するように、力覚考慮補正手段7は、減算器71、第1座標変換手段72、スティフネス行列部73、加算器74、減算器75、比例ゲインフィルタ76、第2座標変換手段77、積分手段78、微分手段79、ダンピング行列部80、第3座標変換手段81、順変換手段82を備えている。
【0017】
順変換手段82は、各軸モータ位置に対して順変換を行ってその時点での手先位置姿勢を算出する。減算器71は、指令生成手段1が生成した位置指令と算出された手先位置姿勢との差分を算出する。第1座標変換手段72は、減算器71が出力した差分値をツール座標系における値に座標変換する。ツール座標系とは、ロボット先端に取り付けたツールやハンドに固定された座標系である。
【0018】
スティフネス行列部73は、第1座標変換手段72の出力値とスティフネス行列とのベクトルの積を求め、求めた積を出力する。微分手段79は、第1座標変換手段72の出力の各要素の微分を算出する。ダンピング行列部80は、微分手段79の出力の各要素から構成されるベクトルとダンピング行列との積を求めて出力する。加算器74は、スティフネス行列部73の出力値とダンピング行列部80の出力値とを加算する。
【0019】
第3座標変換手段81は、力推定オブザーバ4が出力した力推定値をツール座標系における値に変換する。減算器75は、加算器74の出力値と第3座標変換手段81の出力値との差分を求めて出力する。比例ゲインフィルタ76は、減算器75の出力値に所定の比例ゲインを乗じる。第2座標変換手段77は、比例ゲインフィルタ76の出力値を直交座標系へ座標変換する。積分手段78は、第2座標変換手段77の出力値を積分し、得られた値を位置指令修正量(位置指令補正量)として出力する。
【0020】
図5は、力推定オブザーバ4の構成を示すブロック図である。力推定オブザーバ4は、外力算出手段41、推定トルク算出手段42、および摩擦係数推定手段43を備えている。
【0021】
摩擦係数推定手段43は、各軸の電流指令iを入力値とし、各軸のモータ位置qおよび力測定値を入力値とし、摩擦係数を求めるべきパラメータとしたシステム同定により摩擦係数を求める。以下に、摩擦係数推定手段43による演算処理について具体的に述べる。
【0022】
摩擦係数推定手段43には、各軸の電流指令i、各軸のモータ位置q、3軸力覚センサ31で測定した力測定値としての手先外力fが入力される。ロボット3が6軸垂直多関節ロボットである場合、電流指令i、モータ位置qは6要素のベクトルとなり、外力fは、3軸力覚センサ31の測定値なので、3要素のベクトルとなる。摩擦係数推定手段43は、まず、各軸のトルクτ(i=1〜6)を算出する。各軸のトルクτ(i=1〜6)は、各軸のトルク定数kt(i=1〜6)、各軸の減速比gen、各軸の電流指令をiとすると(i(添え字)=1〜6)、
τ=kt*i/gen (1)
により算出される。
【0023】
次に、摩擦係数推定手段43は、各軸のモータ位置qから各軸のリンク位置qlを次の式により求める。
ql=q/gen (2)
【0024】
さらに、摩擦係数推定手段43は、リンク速度v、リンク加速度aを前回周期の値との差をサンプリング時間で除算することで算出する。各軸のリンク位置、速度、加速度から構成されるベクトルをそれぞれql、v、aとし、慣性行列をM(ql)、遠心コリオリ力をh(ql,v)、重力をg(ql)とし、摩擦係数推定手段43は、摩擦力を除く駆動トルクの推定値τrを次の式により求める。
τr=M(ql)a+h(ql,v)+g(ql) (3)
【0025】
このとき、摩擦力をfr(v)、力覚センサ座標系を手先座標系としたときの手先速度vxと関節速度vとの関係をヤコビ行列をJ(q)を用いて
vx=J(q)v (4)
で表すとすると、手先座標系での各方向の外力及びモーメントで構成されるベクトルFallは、
Fall=(J(q)−1τd (5)
と表される。ここでτdは各軸の外力を並べたベクトルであり、
τd=τ−τr−fr(v) (6)
である。式(5)および(6)から、
Fall=(J(q)−1(τ−τr−fr(v)) (7)
が導き出せる。
【0026】
式(7)の左辺のFallの最初の3要素は3軸力覚センサ31により測定される力測定値である。また、式(7)の右辺の最初の3要素は、算出対象の摩擦係数を含む力推定値を示している。摩擦係数推定手段43は、式(7)における最初の3要素の右辺と左辺との対応関係を用いて摩擦係数を算出する。
【0027】
具体的には、各軸のクーロン摩擦係数をfci、粘性摩擦係数をfviとし、sgn(vi)を速度viが正のとき1、負のとき−1、0のとき0を取る関数とすると、各軸の摩擦力はfci*sgn(vi)+fvi*viで表される。(J(q)−1(τ−τr)−Fallの最初の3要素を取り出したベクトルをfa、(J(q)−1(fr(v))の最初の3要素を取り出したベクトルをfbとすると、fbの各要素はfci、fviに速度v、位置qの関数を乗じた構成になっているので、fci、fviを順番にたてからfc1、fv1、fc2、fv2、・・・と並べた12要素のベクトルをpとすれば、
fa=y(q,v)p (8)
とかける。ここでyは3行12列の行列である。第k番目の制御周期の演算結果を[k]で表記することとすると、摩擦係数推定手段43は、
R[k]=R[k−1]+st*(−k1*R[k−1]+y[k]y[k]) (9)
r[k]=r[k−1]+st*(−k1*r[k−1]+fa[k]y[k]) (10)
によりR[k]およびr[k]を算出し、
p[k]=p[k−1]−st*k2*(R[k]p[k−1]−r[k]) (11)
により各軸にかかる摩擦係数を構成要素とするpを算出する。なお、st、k1、k2は予め設定されるシステム同定のためのパラメータである。
【0028】
以上の演算により、摩擦係数推定手段43は、時々刻々変化する各軸の電流指令i、各軸のモータ位置qおよび力測定値に基づいて、その時点における摩擦係数を求めることができる。すなわち、摩擦係数推定手段43は、摩擦係数が温度などにより変化しても、その摩擦係数を求めることができる。
【0029】
推定トルク算出手段42は、摩擦係数推定手段43が推定した摩擦係数を用いて摩擦トルクfr(v)を算出し、
τd=τ−τr−fr(v) (12)
で各軸の外乱トルクの推定値τdを算出する。
【0030】
外力算出手段41では推定トルク算出手段42で算出した外乱トルクτdとヤコビ行列J(q)をもちいて、
F=(J(q)−1τd (13)
を算出する。このうち、最初の3要素は直接測定できるので、3軸力覚センサ31の測定値に置き換えて出力し、残りの3要素は(13)式の計算結果をそのまま出力する。
【0031】
なお、以上の説明においては、(8)式の関係から(9)式〜(11)式を用いて摩擦係数を算出したが(8)式の関係に対して最小二乗法などを適用することによって算出しても構わない。また本実施の形態1ではモータ電流としてモータ電流指令を用いたが、モータ電流のフィードバックを用いるようにしても構わない。またモータ位置としてモータ位置フィードバックを用いているが、最終的にモータに与えるモータ位置指令もしくはモータ位置指令から算出したモータモデル位置を用いるようにしても構わない。
【0032】
以上述べたように、本発明の実施の形態1によれば、モータにより駆動されるロボット3と、前記ロボット3の先端部が指令位置に追従するように前記モータを駆動する電流指令を生成するロボット制御手段2と、前記ロボット3の先端部の6個の動作方向のうち、x軸方向、y軸方向、z軸方向の3個の動作方向の夫々にかかる外力を検出する力覚センサ31と、前記力覚センサ31の検出値、前記モータの位置、および前記電流指令に基づいて、前記ロボットの先端部のn個の動作方向のうちの少なくとも前記力覚センサ31が外力を非検出とする3つの軸の回転方向にかかる摩擦係数を夫々同定し、当該同定した摩擦係数に基づいて当該3つの軸の回転方向にかかるモーメントの推定値を算出する力推定オブザーバ4と、を備えるように構成したので、6軸力覚センサよりも廉価な3軸力覚センサ31を用いても、当該3軸力覚センサ31では測定できないモーメントを推定でき、さらに、時々刻々変化する各軸の電流指令i、各軸のモータ位置qおよび力測定値に基づいて求めた摩擦係数を用いて測定できないモーメントを推定することができるので、予め設定された摩擦係数によりモーメントを推定する場合に比して高精度にモーメントを推定できる。すなわち、力覚センサの低コスト化を実現しながら、ロボットの先端部に作用する外力を高精度に算出することができる。
【0033】
また、前記ロボット制御手段2は、前記モーメントの推定値とモータ位置とに基づいて前記位置指令を補正し、前記ロボットの先端部が前記補正した位置指令に追従するように前記電流指令を生成する、ように構成したので、精度よく力制御をすることができる。
【0034】
実施の形態2.
実施の形態2の力制御装置の構成は、ロボット3の手首に取り付けられた力覚センサと、摩擦係数推定手段による摩擦係数の演算方法が異なるだけで、実施の形態1と等しい。実施の形態2の構成について実施の形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0035】
実施の形態2の力制御装置のロボット手首に取り付けられた力覚センサは、XYZ3方向の力を測定できるセンサ(3軸力覚センサ31)ではなく、Z軸方向のみの1軸方向の力のみを測定できる。実施の形態2の力制御装置によれば、(5)式のFallの第3要素のみ測定できるので、実施の形態1では、摩擦係数推定手段43は、(J(q))−1(τ−τr)−Fallの最初の3要素を取り出したベクトルをfa、(J(q))−1(fr(v))の最初の3要素をとりだしたベクトルをfbとして摩擦係数を算出したところ、実施の形態2では、(J(q)−1(τ−τr)−Fallの第3要素をfa、(J(q)−1(fr(v))をfbとし、第3要素のみを用いて摩擦係数を算出する。
【0036】
なお、本実施の形態2の説明では、Z軸方向のみの力を測定できるタイプの力覚センサが採用されたが、測定できる方向はX軸方向やY軸方向であっても構わない。また、当該力覚センサが測定可能な外力は、X、Y、Z軸の周りのモーメントのうちの何れか1つであっても構わない。
【0037】
以上述べたように、本発明の実施の形態2によれば、測定可能な方向は1方向しかない廉価な力覚センサを用いることができる。
【0038】
実施の形態3.
実施の形態3の力制御装置の構成は、摩擦係数推定手段による摩擦係数を算出する演算方法が異なるだけで実施の形態1と同等である。実施の形態3の構成について実施の形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0039】
実施の形態3の力制御装置によれば、摩擦係数推定手段は、各軸の摩擦係数を未知パラメータとして同定するのではなく、各軸の摩擦力を摩擦係数の初期値を用いて算出した摩擦力fv0(vi)=fc0i*sgn(vi)+fv0i*viに共通に乗じる係数p1の積で算出する、すなわち
fv=p1*fv0 (14)
で算出できるとみなし、p1を未知パラメータとして同定する。具体的にはfa=fbからp1を算出し、摩擦係数をp1*fc0i,p1*fv0iとして出力する。
【0040】
このように、本発明の実施の形態3によれば、実施の形態1のように摩擦係数そのものを未知のパラメータとしなくても、最終的に摩擦係数を用いることが可能となる。
【0041】
実施の形態4.
実施の形態4の力制御装置の構成は、力覚センサと、摩擦係数推定手段による摩擦係数を算出する演算方法とが異なるだけで実施の形態1と同等である。実施の形態4の構成について実施の形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0042】
実施の形態4にかかる力制御装置のロボット手首に取り付けた力覚センサは、XYZ3方向の力を測定できるセンサではなく、X方向およびY方向の力とZ軸方向周りのモーメントの3成分のみを測定できる。(5)式のFallの第1、2、6要素のみ測定できるので、摩擦係数推定手段は、実施の形態1では(J(q)−1(τ−τr)−Fallの最初の3要素を取り出したベクトルをfa、(J(q)−1(fr(v))の最初の3要素をとりだしたベクトルをfbとして摩擦係数を算出したが、実施の形態4では(J(q)−1(τ−τr)−Fallの第1、2、6要素をfa、(J(q)−1(fr(v))をfbとし、第1、2、6要素のみを用いて摩擦係数を算出する。
【0043】
なお、以上の説明においては、力覚センサは、X方向およびY方向の力とZ軸方向周りのモーメントの3成分のみを測定できるとしたが、本発明の実施の形態3は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、X軸を回転軸とした回転方向、Y軸を回転軸とした回転方向、およびZ軸を回転軸とした回転方向のうちの任意の3成分のみを測定できる力覚センサを採用した力制御装置に適用できる。
【0044】
このように、本発明の実施の形態4によれば、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、X軸を回転軸とした回転方向、Y軸を回転軸とした回転方向、およびZ軸を回転軸とした回転方向のうちの任意の3成分のみを測定できる力覚センサを採用した力制御装置であっても精度よく外力を算出することができる。
【0045】
実施の形態5.
図6は、実施の形態5の力制御装置の構成を示すブロック図である。図示するように、実施の形態5の力制御装置は、指令生成手段1、ロボット制御手段10、ロボット3、力推定オブザーバ4、および力情報モニター11を備えている。なお、本図において、実施の形態1と同じ構成要素には同一の符号を付している。すなわち、実施の形態5によれば、力推定オブザーバ4の出力をモニター用途にのみ用い、制御には用いない点が実施の形態1と異なっている。
【0046】
力情報モニター11は、例えば各方向の力とモーメントとが許容範囲であるかを監視し、許容範囲を超過した場合にエラー信号を発生する。また、力情報モニター11は、単に力推定値のログを取る、あるいは力推定値を表示出力する表示装置として機能するようにしてもよい。
【0047】
図7は、実施の形態5のロボット制御手段10の詳細な構成を説明するブロック図である。図示するように、実施の形態5では、力制御装置はコンプライアンス制御などは行わず、力情報(力推定値)をモニターするのみとする。したがって、ロボット制御手段10の内部構成は、力覚考慮補正手段7を備えない一般に知られた位置制御のための構成と同一である。
【0048】
このように、力推定値を制御ではなく状態の監視の用途に用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明にかかる力制御装置は、ロボットを制御する力制御装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 指令生成手段
2 ロボット制御手段
3 ロボット
4 力推定オブザーバ
6 加算器
7 力覚考慮補正手段
8 逆変換手段
9 各軸位置制御手段
10 ロボット制御手段
11 力情報モニター
31 3軸力覚センサ
32 位置センサ
41 外力算出手段
42 推定トルク算出手段
43 摩擦係数推定手段
71 減算器
72 座標変換手段
73 スティフネス行列部
74 加算器
75 減算器
76 比例ゲインフィルタ
77 座標変換手段
78 積分手段
79 微分手段
80 ダンピング行列部
81 座標変換手段
82 順変換手段
91 減算器
92 比例手段
93 微分手段
94 減算器
95 比例積分手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより駆動されるロボットと、
前記ロボットの先端部が指令位置に追従するように前記モータを駆動する電流指令を生成するロボット制御手段と、
前記ロボットの先端部のm個の動作方向のうち、n(m>n≧1)個の動作方向の夫々にかかる外力を検出する力覚センサと、
前記力覚センサの検出値、前記モータの位置、および前記電流指令に基づいて、前記ロボットの先端部のn個の動作方向のうちの少なくとも前記力覚センサが外力を非検出とするn−m個の動作方向の外力算出に必要となる摩擦係数を夫々同定し、当該同定した摩擦係数に基づいて前記n−m個の動作方向にかかる外力の推定値を算出する力推定オブザーバと、
を備えることを特徴とする力制御装置。
【請求項2】
前記ロボット制御手段は、前記外力の推定値とモータ位置とに基づいて前記位置指令を補正し、前記ロボットの先端部が前記補正した位置指令に追従するように前記電流指令を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の力制御装置。
【請求項3】
前記外力の推定値をモニタリングする力情報モニターをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の力制御装置。
【請求項4】
前記mは6であって、前記m個の動作方向は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、X軸を回転軸とした回転方向、Y軸を回転軸とした回転方向、およびZ軸を回転軸とした回転方向である、
ことを特徴とした請求項1〜3のうちの何れか一項に記載の力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−135825(P2012−135825A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288705(P2010−288705)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】