力線の視覚的表示システムおよび装置
【課題】構造解析結果等で求められる構造物内の主応力ベクトルを接線とする力線を数値幾何学的手法を用いて求めて表示する。
【解決手段】構造体表面、内部の任意の構造要素の代表点における主応力ベクトルをその近傍の点群における主応力ベクトルと組み合わせて、其の点を通る力線の接線と其の点の主応力ベクトル方向が一致するように生成される力線を数値幾何学的手法を用いて求め、各点の位置による主応力のパラメータの変化分を考慮して、主応力ベクトルが力線の接線となるような力の流れを計算機の処理能力を用いて描く。さらに、描かれた力の流れの理解を深めるため、力線となる曲線の特徴を捉え、力線上の各点における曲線の曲率、曲線上の接線の主応力の大きさ等を視覚的に表現する。
【解決手段】構造体表面、内部の任意の構造要素の代表点における主応力ベクトルをその近傍の点群における主応力ベクトルと組み合わせて、其の点を通る力線の接線と其の点の主応力ベクトル方向が一致するように生成される力線を数値幾何学的手法を用いて求め、各点の位置による主応力のパラメータの変化分を考慮して、主応力ベクトルが力線の接線となるような力の流れを計算機の処理能力を用いて描く。さらに、描かれた力の流れの理解を深めるため、力線となる曲線の特徴を捉え、力線上の各点における曲線の曲率、曲線上の接線の主応力の大きさ等を視覚的に表現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力が加わる構造物内を伝達する力の流れを構造解析及び計測により特定する構造物の表現システムとそれを表示し協働する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの計算能力は、飛躍的に発展し、ものづくりを強度等を予測的に評価する解析ソフト類が実用化されている。ものづくりの対象物の形状や材質等が提案されれば、その構造に対する評価は、物が実現しない段階でも大略予測できるようになった。すなわち、予測的に変形や応力等の強度や機能に関する項目を演繹的に導き出すことができるようになり、構造が予め決まっておれば、予測的に構造の機能を把握することはできる。
【0003】
逆に、要求される機能から構造を見出す創造的作業は難しい。どのような構造がよいかを課題とすると、このような創造的な要求をこれらの構造解析等の解析ソフトから直接演繹的に導くことはほとんどできていない。現在存在するのは、応力や変形に対する剛性の感度等を用いるかまたは遺伝的アルゴリズムを用いた帰納法的な手法で、いろいろな構造を設定しては、その構造の持つ機能を調べて繰り返し、その傾向をルール化して最適な解を導く手法である。基本構造が大略決まっておれば、形状または寸法の最適化は繰り返し手法で求めることは可能になってきた。
【0004】
位相すなわち基本構造の最適化に関して、構造の変化をある程度幅広く設定し、その構造の有する機能を解析的に求める工程を繰り返すことによるソフトウェアは、いくつか現存する。しかし適切な解を得るためには、適切なモデル化や構造変更の程度等の設定によるものが多い。構造の変更を大きくすると、得られる解の不安定性、解釈の難しい現実離れしている複雑な構造解(作りにくい、使いにくい等)、最適唯一性への保障不明等の課題が出てくる。更に、一般にこれを達成するには、飛躍的に大きい計算規模とそれを扱うオペレーションが要求される。
【0005】
また、出来上がった解は、構造的になぜそのような形になったかは不明であり、設計上の制約からその一部を変更するとどうなるか等のノウハウは得られない。このように創造的検討は手探り状態である。したがって、更に適切な繰り返し解析手法を探りながら考えて実行する必要があり、自動的には予測的な構造の提案はできていない。
【0006】
効率的な創造的ものづくりを行うためには、提案しようとする構造の特徴やメカニズムを理解し、その構造の特徴の弱点を顕在化し、それを補う方法を演繹的に見つけ出してゆくことが求められる。対象となる構造物のあるべき本質を創造し、考え、把握する努力を行うプロセスが重要となる。本発明は、このようなシンキングを行うための支援ツールを実現するシステムおよび装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-212683(数値解析結果の構成要素の挙動データから視覚化情報を計算し、表示画面上に表示するもの。具体的な挙動は特定していない。)
【特許文献2】特開2001-236377(板要素の応力のみを図化する手段を持つ図化処理装置である)
【特許文献3】国際公開番号W02007/052784(国内:特願2005-321695) (構造解析データより荷重点から対象点までのたわみと内部剛性を求め、両者の関係式からその点の剛性指標U*を算出し、其の大きさの分布から荷重伝達経路を求める手法の提案である)
【特許文献4】国際公開番号W02008/105221(国内:特願2007-49275) (構造解析データより荷重点から対象点までのたわみと荷重(応力)より局部的なひずみエネルギーを対象点の固定と非固定時比率からひずみエネルギー生じやすさをあらわすU**を算出して、その分布から荷重伝達経路を見出す手法の提案である)
【特許文献5】特開平8-83304(構造解析によって求まる応力等高線図から等高線に直交する方向にリブを付ける構造最適化の方法に関する提案)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岡村宏、林田興明著 「開発設計上流における機能から構造への アプローチ―シンキングCAE手法への試みー」 2002年度年次大会講演資料集 日本機械学会 (2002年)
【非特許文献2】岡村宏、林田興明著 「シンキングCAEの勧め」シミュレーション 第25巻第4号 小特集 日本シミュレーション学会(2006年12月)
【非特許文献3】岡村宏、長谷川浩志著 「教育的見地からのシンキングCAE」計算工学講演会論文集 Vol.13 計算工学会(2008年5月)
【非特許文献4】岡村宏、林田興明著 「ダイナミックシンキングCAE―機能から構造へのシンセシスー」No.03-04シンポジウム 自動車技術会(2004年1月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決する課題は、新しい構造物を提案する創造的な検討において、その基本構造に際する変形や強度等に関する予測的な解析を行う際に、構造物に作用する力の流れを可視化することである。これを用いて、従来から用いられる応力分布図、主応力分布図(図14、図15)、ひずみエネルギー分布図等を併用することにより、力の作用するメカニズムを明示することができる。今までは、応力の等高線図から最も応力値が大きい点や領域を見つけ出し、対処療法的に剛性不足として補強する手法が多かった。特許文献5に見られるアイディアもこの手法の一つである。
【0010】
また、特許文献3、特許文献4で提案されている荷重伝達経路に注目する手法もひずみに注目し、局部剛性や応力を加味するひずみエネルギーに関する特性による分布図から補強する手法も提案されている。これらは、適正な構造変更として有効な場合も多いが、かならずしもすべての構造適正化を網羅する手法とはいえない。近視眼的に補強することにより力の流れのバランスが変化して、高応力の箇所が発生してしまう事例も多い。
【0011】
力の流れ方(図12)を把握し、その流れのパターン全体より適切な構造変更(図13)を検討すべきである。従来の構造解析結果の表示法だけでは、適切な検討を行うには、限度があり、思いつくまま色々な構造変更を数多くトライアルアンドエラーを繰り返すことになる。深い経験を持つ技術者では、多くの事例を知っているため、なんとか正解となる構造変更にたどり着くことができることも多いが、不確実であり、まだ経験の少ない技術者にとっては高いハードルとなっている。
【0012】
したがって、一般の構造変更へのより適切な手法が求められている。非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3に示すシンキングCAE(Computer Aid Engineering:技術計算
を活用する工学的手法)は、これまでに活用されている各種図表や分布図・等高線図を組み合わせ、対象物の構造の本質・特徴を考えることで把握してゆく手法を提案している。しかし、今までの線図では、構造にどのような荷重や変形が加わり、構造が結果としてどのようになったかはある程度明らかになるが、どうしてそのような結果になるかを明示するための支援手法が用意されていないのが現状での課題である。
【0013】
具体的には文献等に示すシンキングCAEの手法の中で、力の流れを把握することによる考え方の詳細が記述されている。シンキングCAEでは、力の流れを力線として作成することを推奨している。しかし、この力の流れを正確に、かつその構造の特徴を細かく調べて制作するには、手作業では膨大な作業量となり、実用的でなかった。場合によっては、間違った方向に力線を描く等の不正確で、不安定な作業となり、高度の判断能力のある技術者以外には取扱いが困難であった。図14、図15を見ると、これらの主応力線図から三次元の力線を正確に制作するのは、かなりの困難を伴うことが理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ここでは、構造体表面、内部の任意の構造要素1の代表点における主応力ベクトル(図2、図3)をその近傍の点群における主応力ベクトルと組み合わせて(図10)、其の点を通る力線の接線と其の点の主応力ベクトル方向が一致するように生成される力線(図9)を数値幾何学的手法を用いて求める。立体では、一点を通る力線はお互いに直交する三本(図2)が存在する。また、断面や表面での二次元的表現やモデルでは、直交する二本(図3)となる。力線の表示に当たっては、主応力ベクトルの大きさや符号も同時に表現できる各種方式を取り入れる方が、構造の理解を容易とすることができる。
【0015】
また、力線の軌跡を計算する際に、有限要素法等の構造解析では、分割要素ごとにその代表点での主応力を得ることができる。一般には、分割要素のサイズと応力の変化の度合いとが適切な適合していれば、構造解析の結果への信頼性は確保できるが、同様に得られる主応力の分布を示す点群からの力線の作成精度も同様に評価することは可能である。しかし、力線の変化の大きい領域での点群の主応力の補間を行うことにより、より正確な力線を得ることができる。力線ではその曲率や大きさの変化は、重要な物理的意味があり、力線の微分要素成分の精度を向上させることは意味がある。
【0016】
以下に、主応力ベクトルの分布から力線を作成する手法について述べる。
(1) 構造解析結果(場合によっては、一部測定値も活用して)等で求められる構造物内の主応力ベクトル(図2、図3)を構造物内の離散された点群の構造力学的パラメータとして把握し、各点の位置による主応力のパラメータの変化分を考慮して、主応力ベクトルが力線の接線となるような力の流れを計算機の処理能力を用いて描く(図9)。
【0017】
(2) これらの力の流れの表示は、断面、表面等の平面、曲面上の二次元で表す場合もあるが、原則として、三次元での表示となる。その際、力の流れの表示は、従来からの三次元表示法の手法を流用し、計算機のグラフィック画面に表示される。同様に、代表的な断面や表面での力の流れの表示も、従来の表示手法を活用し、可能である。
【0018】
(3)さらに、描かれた力の流れの理解を深めるため、力線となる曲線の特徴を捉え、力線上の各点における曲線の曲率、曲線上の接線の主応力の大きさ等を視覚的に表現することでより多くの情報をビジュアルに把握することができる。すなわち、力線の太さ、断面形状、色彩等を用いて、視覚的に定量的な情報を直接読み取ることが可能である。
【0019】
(4)また、三次元表示での三軸方向のお互いに独立した力線群がすべて表示されると、そこから構造の特性を読み取ることは困難である。力線の数や力線群の種類を適切に設定する機能も付与することは、実用的に重要である。
【0020】
(5)ここで、力線の表現方法として、下記の二つの表現法がある。第一は、力線はその特性に応力(力/面積)の考え方を採用せず、断面積が無く、設定される一定値の力に関し正または負の符号及び大きさを持つ「単力線」として定義して表示する方式であり、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、主応力の大きさはその点での力線に垂直な単位断面積あたりの力線の数により表現される。第二は、力線は単位面積当たりの力の大きさ(応力)を特性として保有する「複力線」として定義して表示する方式を採用し、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、同時に力線上の各点は主応力の大きさの特性を有し、応力の大きさを力線の断面の面積や形状の大きさ、色彩、濃淡、透明度等で視覚的に表現される。
【0021】
(6)「単力線」と「複力線」との関係は、構造物内のある力線上の点における力線に垂直な単位面積に「単力線」が何本入っているかにより「複力線」の主応力値が決まることになる。複力線には、正負両方の単力線が包含される場合も出てくる。また、主応力値の精度を上げ、有効数字桁数を上げるためには、「単力線」の力の一定値を小さくすることで達成できるが、逆に、力線が増加し視覚的には逆効果となる関係にある。
【0022】
(7) 「単力線」、「複力線」共に、上述の手法で力線を描く場合、どこから力線を描き始めるかは課題である。本発明では、基本的な方式のみを請求範囲とし、自由に色々な方式が工夫されるものとして取り扱うものとする。力線の描画の出発点としては、荷重点または面、支持点または面、最大主応力または最小主応力の絶対値の最大値や局部的なピーク値、任意または一定の特性を有するの点、断面、集中応力部、構造ダメージのある領域等が考えられ、例えば、単一または複数点群から立体では3方向、面では2方向のお互いに直交する力線を伸ばし、またその力線上に、任意または一定の規則性を導入して再出発点を設定し網目状に力線を加えてゆく方法等である。
【0023】
特に、単力線では、力線上またはその近傍でのローカルな主応力の大きさによって、または力線の持つ曲率によって力線生成の再出発点の発生ピッチを細かくし、主応力が大きい時は単力線が多数集まってくることで、視覚的な理解を得る方式となる。複力線では、単力線の接近や応力面の変化による直交する他の主応力との関係で複雑に変化する。定義をつめてゆくと、その挙動は複雑であるが、有限要素法等の構造要素のやや離散的点群での力線の作成で大きな異差はなく、対象の構造物の全体の力の流れを分かりやすく描画できるものである。
【発明の効果】
【0024】
構造物の構造力学的特性は、主応力の配置パターンによって、引張・圧縮(図5)、せん断(図6)、曲げ(図8)、ねじり(図7)及びそれらの複合形態等を把握することにより、材料の強度、変形、耐久性、塑性等に対する評価を特定することができる。上述のような構造に対する負荷による挙動が全体または部分的に明らかになると、そのパターンにおける単純モデルでの典型的構造力学的本質をよく理解しておれば、複雑な実際の構造(図14、図15)における対応をシンキングすることは容易である。したがって、力線の表示による力の流れを正確に知ることで、構造の最適化への戦略を大略決めることが可能となる。思いつくまま色々な構造変更を繰り返すよりは、このような構造へのアプローチの戦略を支援する手法を用いることで、飛躍的に解析作業が効率化し、より高いレベルへ到達することができるだけでなく、検討時間も飛躍的に短縮することができ、更に、ベテランの技術者でなくても、対応が可能となる支援手法である。
【0025】
この発明によれば、図12のように、主応力の分布から力の流れが分かり、力線のパターンが把握できると、図13のように、主要な力線の軌跡に沿って基本構造の骨格を設定すると、負荷に対する強度が同等で、無駄な部分を削除する軽量化構造が得られる。
【0026】
また、図14、図15に示すような三次元に湾曲する厚板構造物の軽量化を目指すと上例(図12)のように単純ではなく、複雑なパターンを持っている力線が必要となる。ここでは、有限要素法で求めた主応力ベクトル分布から大略の力の流れが分かるため、大略の構造のメカニズムを説明する。外力の近傍では、せん断力の上に小さな曲げパターンが示されており、外力から離れた領域では、外力と外力までの距離を乗じる曲げモーメントにより曲げ主体のパターンが見られる。更に立体的に直角に曲がった領域は、図11で示したようなせん断応力が主体的で、ねじりパターンが主役である。その先、固定端に至る領域では、曲げとねじりが複合するパターンが見られる。各々の領域ごとに合理的な構造が存在する。力線が求まると、ここで述べた大略の構造の特性をより正確に把握でき、その分最適化へのより合理的な形状の取得や最適化への繰り返し回数の低減が可能である。
【0027】
これらの具体的な事例は、一種のノウハウであり、ここでは提示しない。しかし、例えば、曲げが主体の構造領域では、三角状骨組構造であるトラス構造が有効である。トラス構造でも具体的にはどのようなパターンにするかは、多くの選択肢があり、力線が求まっているとより具体的な構造に到達することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】創造性の高いデザインへのアプローチ
【図2】立体構造の応力面での応力状態と主応力面
【図3】平面構造の応力面での応力状態と主応力面
【図4】主応力面と主せん断応力面の関係
【図5】外力と発生応力‥引張・圧縮
【図6】外力と発生応力‥せん断力
【図7】外力と発生応力‥ねじり
【図8】外力と発生応力‥曲げ
【図9】力線:丸穴付板材引張の場合
【図10】主応力ベクトル分布:丸穴付板材引張の丸穴近傍
【図11】主応力ベクトル分布:せん断変形の場合
【図12】主応力による力の流れ
【図13】力の流れに沿った骨組み構造
【図14】三次元湾曲厚板構造の複雑な主応力分布(1)
【図15】三次元湾曲厚板構造の複雑な主応力分布(2)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0029】
この発明の一実施形態を、図9に示す。板状構造部材7の一端を固定支持し、それと相対する一端を均等な引張力で引っ張る場合を考える。この板材の中央に丸穴が無ければ、理論上からも容易に引張の最大主応力に関する力線は均一に左から右へ正目状に表示することができる。しかし、中央に丸穴があると、板の中央部を通過する力線は丸穴を避けるように其の軌跡を変えなくてはいけない。図10は力線の乱れる丸穴周りの有限要素法で算出した最大主応力ベクトル群を示したものである。この場合は、近接する主応力ベクトルを接線とする力線は、単純なパターンなため、容易に描くことができる。また、引張の力の流れに垂直方向に、最小主応力の力線が流れており、丸穴を避けて丸穴の周辺では左右に分かれて力線が流れている。厚みを持つ板材では、厚み方向に、中間主応力の力線が流れている。
【実施例2】
【0030】
図11には、図9と同じ丸穴付板状構造体に引張の変わりにせん弾変形を加える場合の丸穴周りの主応力分布を示す。これは、図10とはかなり異なった主応力分布をしている。特徴として、丸穴の左右の領域11では、正と負の主応力がほぼ同じ大きさで交差している。図4に示すように、これは、主応力方向と45゜回転する方向に主せん断応力があることを表しており、これらの主応力をつなぐ力線のパターンにより、どんな外力が加わって、どのようなメカニズムが起きているかを調べることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
わが国のように、資源の無い国は、もの造りによる付加価値の創生は不可欠である。構造解析の手法等の予測的なシミュレーションシステムが普及するようになり、設計・試作・実験・評価を何度も繰り返さなくとも、設計段階で予測的に評価が可能となってきた。このような計算手法は、もの造りの開発工程を短縮し、其の分構造の検討に時間をかけることが可能となり、製品の開発競争に多大の貢献をしている。しかし、同様な手法は多くのライバルにも同様な恩恵を与えており、競争に勝つためには、差別化が必要である。そのためには、より創造的な提案を可能とする必要がある。
【0032】
ここでは、技術者の持っているポテンシャルを最大限引き出す支援ツールが求められている。しかし、今までの構造解析等のシミュレーションは、結果を重視するばかり、自動で答えが得られる方向を向き、最適化ソフトウェアもより複雑なモデルでもこなせる自動化を試行してきた。
【0033】
力線の取得は、それ自身が自動的に答えを提示するものではなく、シンキングCAEとして技術者の考え方と組み合わせて創造的開発を支援するもので、あまり重視されてこなかった分野である。力線を把握しながら構造の最適化を行うと、どうして得られた構造が合理的であるのかが明示されるため、他の相反する設計条件との融和を図るために何をすべきかが事前に理解することができる。このような木目の細かい創造的仕事を行い、わが国の文化の特徴を訴える差別化を推進する必要がある。その意味で、本発明は、大きな力となり、もの造りに貢献することができると考える。
【符号の説明】
【0034】
1 立方体構造要素
2 応力面
3 主応力面
4 正方形構造要素
5 部材(対象構造物)
6 棒状部材(対象構造物)
7 板状部材(対象構造物)
8 固定端
9 力線
10 主応力ベクトル
11 正負主応力交差(せん断応力場)
12 骨組構造
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力が加わる構造物内を伝達する力の流れを構造解析及び計測により特定する構造物の表現システムとそれを表示し協働する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの計算能力は、飛躍的に発展し、ものづくりを強度等を予測的に評価する解析ソフト類が実用化されている。ものづくりの対象物の形状や材質等が提案されれば、その構造に対する評価は、物が実現しない段階でも大略予測できるようになった。すなわち、予測的に変形や応力等の強度や機能に関する項目を演繹的に導き出すことができるようになり、構造が予め決まっておれば、予測的に構造の機能を把握することはできる。
【0003】
逆に、要求される機能から構造を見出す創造的作業は難しい。どのような構造がよいかを課題とすると、このような創造的な要求をこれらの構造解析等の解析ソフトから直接演繹的に導くことはほとんどできていない。現在存在するのは、応力や変形に対する剛性の感度等を用いるかまたは遺伝的アルゴリズムを用いた帰納法的な手法で、いろいろな構造を設定しては、その構造の持つ機能を調べて繰り返し、その傾向をルール化して最適な解を導く手法である。基本構造が大略決まっておれば、形状または寸法の最適化は繰り返し手法で求めることは可能になってきた。
【0004】
位相すなわち基本構造の最適化に関して、構造の変化をある程度幅広く設定し、その構造の有する機能を解析的に求める工程を繰り返すことによるソフトウェアは、いくつか現存する。しかし適切な解を得るためには、適切なモデル化や構造変更の程度等の設定によるものが多い。構造の変更を大きくすると、得られる解の不安定性、解釈の難しい現実離れしている複雑な構造解(作りにくい、使いにくい等)、最適唯一性への保障不明等の課題が出てくる。更に、一般にこれを達成するには、飛躍的に大きい計算規模とそれを扱うオペレーションが要求される。
【0005】
また、出来上がった解は、構造的になぜそのような形になったかは不明であり、設計上の制約からその一部を変更するとどうなるか等のノウハウは得られない。このように創造的検討は手探り状態である。したがって、更に適切な繰り返し解析手法を探りながら考えて実行する必要があり、自動的には予測的な構造の提案はできていない。
【0006】
効率的な創造的ものづくりを行うためには、提案しようとする構造の特徴やメカニズムを理解し、その構造の特徴の弱点を顕在化し、それを補う方法を演繹的に見つけ出してゆくことが求められる。対象となる構造物のあるべき本質を創造し、考え、把握する努力を行うプロセスが重要となる。本発明は、このようなシンキングを行うための支援ツールを実現するシステムおよび装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-212683(数値解析結果の構成要素の挙動データから視覚化情報を計算し、表示画面上に表示するもの。具体的な挙動は特定していない。)
【特許文献2】特開2001-236377(板要素の応力のみを図化する手段を持つ図化処理装置である)
【特許文献3】国際公開番号W02007/052784(国内:特願2005-321695) (構造解析データより荷重点から対象点までのたわみと内部剛性を求め、両者の関係式からその点の剛性指標U*を算出し、其の大きさの分布から荷重伝達経路を求める手法の提案である)
【特許文献4】国際公開番号W02008/105221(国内:特願2007-49275) (構造解析データより荷重点から対象点までのたわみと荷重(応力)より局部的なひずみエネルギーを対象点の固定と非固定時比率からひずみエネルギー生じやすさをあらわすU**を算出して、その分布から荷重伝達経路を見出す手法の提案である)
【特許文献5】特開平8-83304(構造解析によって求まる応力等高線図から等高線に直交する方向にリブを付ける構造最適化の方法に関する提案)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岡村宏、林田興明著 「開発設計上流における機能から構造への アプローチ―シンキングCAE手法への試みー」 2002年度年次大会講演資料集 日本機械学会 (2002年)
【非特許文献2】岡村宏、林田興明著 「シンキングCAEの勧め」シミュレーション 第25巻第4号 小特集 日本シミュレーション学会(2006年12月)
【非特許文献3】岡村宏、長谷川浩志著 「教育的見地からのシンキングCAE」計算工学講演会論文集 Vol.13 計算工学会(2008年5月)
【非特許文献4】岡村宏、林田興明著 「ダイナミックシンキングCAE―機能から構造へのシンセシスー」No.03-04シンポジウム 自動車技術会(2004年1月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決する課題は、新しい構造物を提案する創造的な検討において、その基本構造に際する変形や強度等に関する予測的な解析を行う際に、構造物に作用する力の流れを可視化することである。これを用いて、従来から用いられる応力分布図、主応力分布図(図14、図15)、ひずみエネルギー分布図等を併用することにより、力の作用するメカニズムを明示することができる。今までは、応力の等高線図から最も応力値が大きい点や領域を見つけ出し、対処療法的に剛性不足として補強する手法が多かった。特許文献5に見られるアイディアもこの手法の一つである。
【0010】
また、特許文献3、特許文献4で提案されている荷重伝達経路に注目する手法もひずみに注目し、局部剛性や応力を加味するひずみエネルギーに関する特性による分布図から補強する手法も提案されている。これらは、適正な構造変更として有効な場合も多いが、かならずしもすべての構造適正化を網羅する手法とはいえない。近視眼的に補強することにより力の流れのバランスが変化して、高応力の箇所が発生してしまう事例も多い。
【0011】
力の流れ方(図12)を把握し、その流れのパターン全体より適切な構造変更(図13)を検討すべきである。従来の構造解析結果の表示法だけでは、適切な検討を行うには、限度があり、思いつくまま色々な構造変更を数多くトライアルアンドエラーを繰り返すことになる。深い経験を持つ技術者では、多くの事例を知っているため、なんとか正解となる構造変更にたどり着くことができることも多いが、不確実であり、まだ経験の少ない技術者にとっては高いハードルとなっている。
【0012】
したがって、一般の構造変更へのより適切な手法が求められている。非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3に示すシンキングCAE(Computer Aid Engineering:技術計算
を活用する工学的手法)は、これまでに活用されている各種図表や分布図・等高線図を組み合わせ、対象物の構造の本質・特徴を考えることで把握してゆく手法を提案している。しかし、今までの線図では、構造にどのような荷重や変形が加わり、構造が結果としてどのようになったかはある程度明らかになるが、どうしてそのような結果になるかを明示するための支援手法が用意されていないのが現状での課題である。
【0013】
具体的には文献等に示すシンキングCAEの手法の中で、力の流れを把握することによる考え方の詳細が記述されている。シンキングCAEでは、力の流れを力線として作成することを推奨している。しかし、この力の流れを正確に、かつその構造の特徴を細かく調べて制作するには、手作業では膨大な作業量となり、実用的でなかった。場合によっては、間違った方向に力線を描く等の不正確で、不安定な作業となり、高度の判断能力のある技術者以外には取扱いが困難であった。図14、図15を見ると、これらの主応力線図から三次元の力線を正確に制作するのは、かなりの困難を伴うことが理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ここでは、構造体表面、内部の任意の構造要素1の代表点における主応力ベクトル(図2、図3)をその近傍の点群における主応力ベクトルと組み合わせて(図10)、其の点を通る力線の接線と其の点の主応力ベクトル方向が一致するように生成される力線(図9)を数値幾何学的手法を用いて求める。立体では、一点を通る力線はお互いに直交する三本(図2)が存在する。また、断面や表面での二次元的表現やモデルでは、直交する二本(図3)となる。力線の表示に当たっては、主応力ベクトルの大きさや符号も同時に表現できる各種方式を取り入れる方が、構造の理解を容易とすることができる。
【0015】
また、力線の軌跡を計算する際に、有限要素法等の構造解析では、分割要素ごとにその代表点での主応力を得ることができる。一般には、分割要素のサイズと応力の変化の度合いとが適切な適合していれば、構造解析の結果への信頼性は確保できるが、同様に得られる主応力の分布を示す点群からの力線の作成精度も同様に評価することは可能である。しかし、力線の変化の大きい領域での点群の主応力の補間を行うことにより、より正確な力線を得ることができる。力線ではその曲率や大きさの変化は、重要な物理的意味があり、力線の微分要素成分の精度を向上させることは意味がある。
【0016】
以下に、主応力ベクトルの分布から力線を作成する手法について述べる。
(1) 構造解析結果(場合によっては、一部測定値も活用して)等で求められる構造物内の主応力ベクトル(図2、図3)を構造物内の離散された点群の構造力学的パラメータとして把握し、各点の位置による主応力のパラメータの変化分を考慮して、主応力ベクトルが力線の接線となるような力の流れを計算機の処理能力を用いて描く(図9)。
【0017】
(2) これらの力の流れの表示は、断面、表面等の平面、曲面上の二次元で表す場合もあるが、原則として、三次元での表示となる。その際、力の流れの表示は、従来からの三次元表示法の手法を流用し、計算機のグラフィック画面に表示される。同様に、代表的な断面や表面での力の流れの表示も、従来の表示手法を活用し、可能である。
【0018】
(3)さらに、描かれた力の流れの理解を深めるため、力線となる曲線の特徴を捉え、力線上の各点における曲線の曲率、曲線上の接線の主応力の大きさ等を視覚的に表現することでより多くの情報をビジュアルに把握することができる。すなわち、力線の太さ、断面形状、色彩等を用いて、視覚的に定量的な情報を直接読み取ることが可能である。
【0019】
(4)また、三次元表示での三軸方向のお互いに独立した力線群がすべて表示されると、そこから構造の特性を読み取ることは困難である。力線の数や力線群の種類を適切に設定する機能も付与することは、実用的に重要である。
【0020】
(5)ここで、力線の表現方法として、下記の二つの表現法がある。第一は、力線はその特性に応力(力/面積)の考え方を採用せず、断面積が無く、設定される一定値の力に関し正または負の符号及び大きさを持つ「単力線」として定義して表示する方式であり、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、主応力の大きさはその点での力線に垂直な単位断面積あたりの力線の数により表現される。第二は、力線は単位面積当たりの力の大きさ(応力)を特性として保有する「複力線」として定義して表示する方式を採用し、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、同時に力線上の各点は主応力の大きさの特性を有し、応力の大きさを力線の断面の面積や形状の大きさ、色彩、濃淡、透明度等で視覚的に表現される。
【0021】
(6)「単力線」と「複力線」との関係は、構造物内のある力線上の点における力線に垂直な単位面積に「単力線」が何本入っているかにより「複力線」の主応力値が決まることになる。複力線には、正負両方の単力線が包含される場合も出てくる。また、主応力値の精度を上げ、有効数字桁数を上げるためには、「単力線」の力の一定値を小さくすることで達成できるが、逆に、力線が増加し視覚的には逆効果となる関係にある。
【0022】
(7) 「単力線」、「複力線」共に、上述の手法で力線を描く場合、どこから力線を描き始めるかは課題である。本発明では、基本的な方式のみを請求範囲とし、自由に色々な方式が工夫されるものとして取り扱うものとする。力線の描画の出発点としては、荷重点または面、支持点または面、最大主応力または最小主応力の絶対値の最大値や局部的なピーク値、任意または一定の特性を有するの点、断面、集中応力部、構造ダメージのある領域等が考えられ、例えば、単一または複数点群から立体では3方向、面では2方向のお互いに直交する力線を伸ばし、またその力線上に、任意または一定の規則性を導入して再出発点を設定し網目状に力線を加えてゆく方法等である。
【0023】
特に、単力線では、力線上またはその近傍でのローカルな主応力の大きさによって、または力線の持つ曲率によって力線生成の再出発点の発生ピッチを細かくし、主応力が大きい時は単力線が多数集まってくることで、視覚的な理解を得る方式となる。複力線では、単力線の接近や応力面の変化による直交する他の主応力との関係で複雑に変化する。定義をつめてゆくと、その挙動は複雑であるが、有限要素法等の構造要素のやや離散的点群での力線の作成で大きな異差はなく、対象の構造物の全体の力の流れを分かりやすく描画できるものである。
【発明の効果】
【0024】
構造物の構造力学的特性は、主応力の配置パターンによって、引張・圧縮(図5)、せん断(図6)、曲げ(図8)、ねじり(図7)及びそれらの複合形態等を把握することにより、材料の強度、変形、耐久性、塑性等に対する評価を特定することができる。上述のような構造に対する負荷による挙動が全体または部分的に明らかになると、そのパターンにおける単純モデルでの典型的構造力学的本質をよく理解しておれば、複雑な実際の構造(図14、図15)における対応をシンキングすることは容易である。したがって、力線の表示による力の流れを正確に知ることで、構造の最適化への戦略を大略決めることが可能となる。思いつくまま色々な構造変更を繰り返すよりは、このような構造へのアプローチの戦略を支援する手法を用いることで、飛躍的に解析作業が効率化し、より高いレベルへ到達することができるだけでなく、検討時間も飛躍的に短縮することができ、更に、ベテランの技術者でなくても、対応が可能となる支援手法である。
【0025】
この発明によれば、図12のように、主応力の分布から力の流れが分かり、力線のパターンが把握できると、図13のように、主要な力線の軌跡に沿って基本構造の骨格を設定すると、負荷に対する強度が同等で、無駄な部分を削除する軽量化構造が得られる。
【0026】
また、図14、図15に示すような三次元に湾曲する厚板構造物の軽量化を目指すと上例(図12)のように単純ではなく、複雑なパターンを持っている力線が必要となる。ここでは、有限要素法で求めた主応力ベクトル分布から大略の力の流れが分かるため、大略の構造のメカニズムを説明する。外力の近傍では、せん断力の上に小さな曲げパターンが示されており、外力から離れた領域では、外力と外力までの距離を乗じる曲げモーメントにより曲げ主体のパターンが見られる。更に立体的に直角に曲がった領域は、図11で示したようなせん断応力が主体的で、ねじりパターンが主役である。その先、固定端に至る領域では、曲げとねじりが複合するパターンが見られる。各々の領域ごとに合理的な構造が存在する。力線が求まると、ここで述べた大略の構造の特性をより正確に把握でき、その分最適化へのより合理的な形状の取得や最適化への繰り返し回数の低減が可能である。
【0027】
これらの具体的な事例は、一種のノウハウであり、ここでは提示しない。しかし、例えば、曲げが主体の構造領域では、三角状骨組構造であるトラス構造が有効である。トラス構造でも具体的にはどのようなパターンにするかは、多くの選択肢があり、力線が求まっているとより具体的な構造に到達することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】創造性の高いデザインへのアプローチ
【図2】立体構造の応力面での応力状態と主応力面
【図3】平面構造の応力面での応力状態と主応力面
【図4】主応力面と主せん断応力面の関係
【図5】外力と発生応力‥引張・圧縮
【図6】外力と発生応力‥せん断力
【図7】外力と発生応力‥ねじり
【図8】外力と発生応力‥曲げ
【図9】力線:丸穴付板材引張の場合
【図10】主応力ベクトル分布:丸穴付板材引張の丸穴近傍
【図11】主応力ベクトル分布:せん断変形の場合
【図12】主応力による力の流れ
【図13】力の流れに沿った骨組み構造
【図14】三次元湾曲厚板構造の複雑な主応力分布(1)
【図15】三次元湾曲厚板構造の複雑な主応力分布(2)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0029】
この発明の一実施形態を、図9に示す。板状構造部材7の一端を固定支持し、それと相対する一端を均等な引張力で引っ張る場合を考える。この板材の中央に丸穴が無ければ、理論上からも容易に引張の最大主応力に関する力線は均一に左から右へ正目状に表示することができる。しかし、中央に丸穴があると、板の中央部を通過する力線は丸穴を避けるように其の軌跡を変えなくてはいけない。図10は力線の乱れる丸穴周りの有限要素法で算出した最大主応力ベクトル群を示したものである。この場合は、近接する主応力ベクトルを接線とする力線は、単純なパターンなため、容易に描くことができる。また、引張の力の流れに垂直方向に、最小主応力の力線が流れており、丸穴を避けて丸穴の周辺では左右に分かれて力線が流れている。厚みを持つ板材では、厚み方向に、中間主応力の力線が流れている。
【実施例2】
【0030】
図11には、図9と同じ丸穴付板状構造体に引張の変わりにせん弾変形を加える場合の丸穴周りの主応力分布を示す。これは、図10とはかなり異なった主応力分布をしている。特徴として、丸穴の左右の領域11では、正と負の主応力がほぼ同じ大きさで交差している。図4に示すように、これは、主応力方向と45゜回転する方向に主せん断応力があることを表しており、これらの主応力をつなぐ力線のパターンにより、どんな外力が加わって、どのようなメカニズムが起きているかを調べることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
わが国のように、資源の無い国は、もの造りによる付加価値の創生は不可欠である。構造解析の手法等の予測的なシミュレーションシステムが普及するようになり、設計・試作・実験・評価を何度も繰り返さなくとも、設計段階で予測的に評価が可能となってきた。このような計算手法は、もの造りの開発工程を短縮し、其の分構造の検討に時間をかけることが可能となり、製品の開発競争に多大の貢献をしている。しかし、同様な手法は多くのライバルにも同様な恩恵を与えており、競争に勝つためには、差別化が必要である。そのためには、より創造的な提案を可能とする必要がある。
【0032】
ここでは、技術者の持っているポテンシャルを最大限引き出す支援ツールが求められている。しかし、今までの構造解析等のシミュレーションは、結果を重視するばかり、自動で答えが得られる方向を向き、最適化ソフトウェアもより複雑なモデルでもこなせる自動化を試行してきた。
【0033】
力線の取得は、それ自身が自動的に答えを提示するものではなく、シンキングCAEとして技術者の考え方と組み合わせて創造的開発を支援するもので、あまり重視されてこなかった分野である。力線を把握しながら構造の最適化を行うと、どうして得られた構造が合理的であるのかが明示されるため、他の相反する設計条件との融和を図るために何をすべきかが事前に理解することができる。このような木目の細かい創造的仕事を行い、わが国の文化の特徴を訴える差別化を推進する必要がある。その意味で、本発明は、大きな力となり、もの造りに貢献することができると考える。
【符号の説明】
【0034】
1 立方体構造要素
2 応力面
3 主応力面
4 正方形構造要素
5 部材(対象構造物)
6 棒状部材(対象構造物)
7 板状部材(対象構造物)
8 固定端
9 力線
10 主応力ベクトル
11 正負主応力交差(せん断応力場)
12 骨組構造
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の構造解析結果・計測データ等により特定される主応力を構造物内の各点ごとに分布を把握し、それらの点群から主応力ベクトル方向を接線とする連続する線分である力線を求める方法により、構造物内の力の流れをコンピューター等のディスプレイ表示やプリントアウト等により表示し、構造を視覚的に理解できる任意の方向から力線を表現するシステム及びソフトウェアを搭載し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項2】
(請求項1)において、計算要素や測定位置により特定され点在する主応力点群における主応力の立体角ベクトル方向及び大きさに関して、点群間の位置による変化をなめらかに連続するように数学的処理(多点参照によるカーブ・曲面フィット、曲線・曲面のなめらかさの高次微係数の連続性維持等)により補間して点群を追加し点群の偏在を修正し、主応力ベクトル方向を接線とする連続する線分である力線を求める方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項3】
(請求項1)、(請求項2)において、主応力の立体角ベクトル方向の位置による変化をなめらかに連続するように数学的処理により補間する際に、主応力ベクトル方向を接線とする連続する線分である力線を形成する近傍の点在する点群データ領域からその中央部の力線の特性を設定し、この点群データ領域を順次移動させながら力線を求める方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項4】
(請求項1),(請求項2)、(請求項3)において、主応力点群を組織的に設定し、力の流れを表す力線の表現法として、力線はその特性に応力(力/面積)の考え方を採用せず、断面積が無く、設定される一定値の力に関し正または負の符号及び大きさを持つ「単力線」として定義して表示する方式を採用し、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、主応力の大きさはその点での力線に垂直な単位断面積あたりの力線の数により表現することで、協働して視覚的に力線により力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項5】
(請求項1),(請求項2)、(請求項3)において、主応力点群を組織的に設定し、力の流れを表す力線の表現法として、力線は単位面積当たりの力の大きさ(応力)を特性として保有する「複力線」として定義して表示する方式を採用し、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、同時に力線上の各点は主応力の大きさの特性を有し、応力の大きさを力線の断面の面積や形状の大きさ、色彩、濃淡、透明度等で視覚的に表現することで、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項6】
(請求項1),(請求項2)、(請求項3)、(請求項4),(請求項5)の力線による力の流れを表現する方式において、力線の各点が持つ力または応力の値の正負符号を視覚的に見分けるような方式をとり、正負符号のちがいを力線の断面の形状、矢印、色彩等で視覚的に表現することで、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項7】
(請求項1),(請求項2),(請求項3),(請求項4),(請求項5)、(請求項6)において、対象物の構造内に表現される力線において、力線上の任意の点における主応力の特性を図解的に表現する方法として、力線の接線、法線方向の主応力のベクトル方向、大きさ、力線の曲率等を表す一定の表示規則(矢印の種類・方向、太さ、長さ、色彩、力線の断面形状、数値表示等)にしたがって図示する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項8】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)において、力線生成の出発点を単一または複数点から立体では3方向、面では2方向の主応力に力線の接線が各主応力のベクトル方向と一致するように描画し、更に生成する力線上に任意または一定の規則性を導入して再出発点を設定しそこから新しい力線を同様な手法で描画し、その工程を何階層繰り返し行うかを決め、対象の構造物の力線を表現する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項9】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)において、いくつか生成された力線に対して、その力線上に新しい力線生成用再出発点を設定する方式として、一定の幾何学的距離で設定する方法、設定区間での点群の発生ピッチの増加または減少等パターンを設定する方法、力線上での接線方向の主応力の大きさによって点群の発生ピッチを設定する方法、力線の曲率等その軌跡の特性と連動して点群の発生ピッチを設定する方法等の一定の規則性を自動または手動で行うことができる方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項10】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)において、力線を形成する近傍の点在する主応力の立体角ベクトル方向の変化が大きい場合は、距離の移動による主応力ベクトル特性の変化を細かく補完し、接線から力線の線分を決定する幾何学的ピッチを細かくして、主応力の接線方向を結合する力線の軌跡を生成する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項11】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)において、外力が対象物の構造内でどのように伝わるかを直接示す力線として、少なくともその端点の一つが荷重点、線、面または支持点、線、面である主たる力の流れである力線だけでなく、その端点が自由表面に垂直にぶつかるまたは端点を持たない従力線に関しても力の流れとしての力線を図示する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項12】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)、(請求項11)において、設定するすべての力線を表示せずに、必要に応じて、必要な力線を選択して表示できるように設定する機能を兼ね備える方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項13】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)、(請求項11)、(請求項12)において、対象物の表面または薄板構造等のシェル、殻、平面等の2次元で表せる解析モデルにおける主応力ベクトルに関する力線を図示する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項14】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)、(請求項11)、(請求項12)、(請求項13)において、コンピューターのディスプレイ表示やプリントアウトにより図示する表示において、アクティブシャッター同期式や偏光版方式のような3Dめがねを用い、左右の目の視野を各々注視する画面上に再現させる方式、左右目の視野を画像側で分離する裸眼立体視方式、陰影・濃淡・半透明等のペインティングの組合せによる立体視方式等の立体視野機能を組み込み、対象物の構造内の主応力線図や力線を立体視する機能を組み合わせる方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項1】
構造物の構造解析結果・計測データ等により特定される主応力を構造物内の各点ごとに分布を把握し、それらの点群から主応力ベクトル方向を接線とする連続する線分である力線を求める方法により、構造物内の力の流れをコンピューター等のディスプレイ表示やプリントアウト等により表示し、構造を視覚的に理解できる任意の方向から力線を表現するシステム及びソフトウェアを搭載し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項2】
(請求項1)において、計算要素や測定位置により特定され点在する主応力点群における主応力の立体角ベクトル方向及び大きさに関して、点群間の位置による変化をなめらかに連続するように数学的処理(多点参照によるカーブ・曲面フィット、曲線・曲面のなめらかさの高次微係数の連続性維持等)により補間して点群を追加し点群の偏在を修正し、主応力ベクトル方向を接線とする連続する線分である力線を求める方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項3】
(請求項1)、(請求項2)において、主応力の立体角ベクトル方向の位置による変化をなめらかに連続するように数学的処理により補間する際に、主応力ベクトル方向を接線とする連続する線分である力線を形成する近傍の点在する点群データ領域からその中央部の力線の特性を設定し、この点群データ領域を順次移動させながら力線を求める方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項4】
(請求項1),(請求項2)、(請求項3)において、主応力点群を組織的に設定し、力の流れを表す力線の表現法として、力線はその特性に応力(力/面積)の考え方を採用せず、断面積が無く、設定される一定値の力に関し正または負の符号及び大きさを持つ「単力線」として定義して表示する方式を採用し、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、主応力の大きさはその点での力線に垂直な単位断面積あたりの力線の数により表現することで、協働して視覚的に力線により力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項5】
(請求項1),(請求項2)、(請求項3)において、主応力点群を組織的に設定し、力の流れを表す力線の表現法として、力線は単位面積当たりの力の大きさ(応力)を特性として保有する「複力線」として定義して表示する方式を採用し、力線はその接線方向で主応力ベクトルの方向である力の流れを表現し、同時に力線上の各点は主応力の大きさの特性を有し、応力の大きさを力線の断面の面積や形状の大きさ、色彩、濃淡、透明度等で視覚的に表現することで、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項6】
(請求項1),(請求項2)、(請求項3)、(請求項4),(請求項5)の力線による力の流れを表現する方式において、力線の各点が持つ力または応力の値の正負符号を視覚的に見分けるような方式をとり、正負符号のちがいを力線の断面の形状、矢印、色彩等で視覚的に表現することで、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項7】
(請求項1),(請求項2),(請求項3),(請求項4),(請求項5)、(請求項6)において、対象物の構造内に表現される力線において、力線上の任意の点における主応力の特性を図解的に表現する方法として、力線の接線、法線方向の主応力のベクトル方向、大きさ、力線の曲率等を表す一定の表示規則(矢印の種類・方向、太さ、長さ、色彩、力線の断面形状、数値表示等)にしたがって図示する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項8】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)において、力線生成の出発点を単一または複数点から立体では3方向、面では2方向の主応力に力線の接線が各主応力のベクトル方向と一致するように描画し、更に生成する力線上に任意または一定の規則性を導入して再出発点を設定しそこから新しい力線を同様な手法で描画し、その工程を何階層繰り返し行うかを決め、対象の構造物の力線を表現する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項9】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)において、いくつか生成された力線に対して、その力線上に新しい力線生成用再出発点を設定する方式として、一定の幾何学的距離で設定する方法、設定区間での点群の発生ピッチの増加または減少等パターンを設定する方法、力線上での接線方向の主応力の大きさによって点群の発生ピッチを設定する方法、力線の曲率等その軌跡の特性と連動して点群の発生ピッチを設定する方法等の一定の規則性を自動または手動で行うことができる方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項10】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)において、力線を形成する近傍の点在する主応力の立体角ベクトル方向の変化が大きい場合は、距離の移動による主応力ベクトル特性の変化を細かく補完し、接線から力線の線分を決定する幾何学的ピッチを細かくして、主応力の接線方向を結合する力線の軌跡を生成する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項11】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)において、外力が対象物の構造内でどのように伝わるかを直接示す力線として、少なくともその端点の一つが荷重点、線、面または支持点、線、面である主たる力の流れである力線だけでなく、その端点が自由表面に垂直にぶつかるまたは端点を持たない従力線に関しても力の流れとしての力線を図示する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項12】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)、(請求項11)において、設定するすべての力線を表示せずに、必要に応じて、必要な力線を選択して表示できるように設定する機能を兼ね備える方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項13】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)、(請求項11)、(請求項12)において、対象物の表面または薄板構造等のシェル、殻、平面等の2次元で表せる解析モデルにおける主応力ベクトルに関する力線を図示する方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【請求項14】
(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)、(請求項5)、(請求項6)、(請求項7)、(請求項8)、(請求項9)、(請求項10)、(請求項11)、(請求項12)、(請求項13)において、コンピューターのディスプレイ表示やプリントアウトにより図示する表示において、アクティブシャッター同期式や偏光版方式のような3Dめがねを用い、左右の目の視野を各々注視する画面上に再現させる方式、左右目の視野を画像側で分離する裸眼立体視方式、陰影・濃淡・半透明等のペインティングの組合せによる立体視方式等の立体視野機能を組み込み、対象物の構造内の主応力線図や力線を立体視する機能を組み合わせる方式を採用し、協働して視覚的に力の流れの表現を実現するシステムおよび装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−61837(P2013−61837A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200277(P2011−200277)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(300004278)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(300004278)
【Fターム(参考)】
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