説明

加圧スチーム延伸装置

【課題】アクリル系重合体糸条を加圧スチーム延伸するに際し、同時に多数の糸条を加圧スチーム延伸装置に導糸しても安定な延伸を達成できる加圧スチーム延伸装置を提供する。
【解決手段】加圧スチームを用いてアクリル繊維を延伸するための加圧スチーム延伸装置であって、加圧スチーム延伸装置の入口近傍および出口近傍に、複数のピンガイドBを有する固定バーが設けられ、入口近傍のピンガイドBの間隔を、出口近傍のピンガイドBの間隔の0.5〜0.8倍とした加圧スチーム延伸装置。多数の糸条を同時に加圧スチーム延伸する際の延伸工程の安定性を向上させ、毛羽の発生を低減する事、特に、炭素繊維用アクリル系前駆体繊維においては、後の炭素繊維の毛羽低減にもつながり、炭素繊維製造工程を安定化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル繊維を加圧スチーム延伸するに際し、同時に多数の糸条を加圧スチーム延伸装置に導糸しても安定な延伸を達成できる加圧スチーム延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクリル繊維の加圧スチーム延伸を行う方法としては、アクリル繊維を紡糸し、浴中延伸した後に加圧スチーム延伸するにあたって、走行中の糸条をできるだけ、安定に延伸する技術として、加圧スチーム延伸装置に入る前に糸条の走行位置姿勢を維持させる事や、スチーム延伸装置に入る前の糸条の形態を整える事が知られている。(特許文献1,2)
また、アクリル繊維の生産性を上げる方法としては、単繊維繊度を増やして糸条の総繊度を大きくするか、構成錐数を増やして、紡糸機台あたりの生産性をあげる事が最も有効である。しかし、糸条の総繊度を大きくしたり、構成錐数を増やしたりしていくと、ロール上での隣接錐間の糸条間隔が狭くなり、糸条間同士の干渉、混繊が発生し単繊維の損傷、糸切れ、毛羽および接着など工程通過性が阻害される問題が生じる。そのため浴中での処理の際に湾曲ガイドを用いて、その後、溝付きロールを用い糸条幅をコントロールし、品質の高いアクリル繊維糸条の製造を行う事が提案されている。(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−44132号公報
【特許文献2】特開2008−240203号公報
【特許文献3】特開2002−161432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、乾燥ならびに緻密化工程時を通過する頃には糸条幅が広がり、この糸条幅の広がった多数の糸条をそのまま加圧スチーム延伸室内に導糸して、加圧スチーム延伸を行っていた。この場合、蒸気により糸条が振動しやすく、隣接錐同士が擦れ合って毛羽が発生するか、または糸条の重なりにより、均一な蒸気付着が阻害され、延伸性が低下する場合があった。さらには、加圧スチーム延伸装置の幅を広げることや、隣接錐間隔を広げる事は、高額な設備投資や、作業性の低下を伴うので望ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、加圧スチームを用いてアクリル繊維を延伸するための加圧スチーム延伸装置であって、
加圧スチーム延伸装置の入口近傍および出口近傍に、
ピンガイドを有する固定バーが設けられた加圧スチーム延伸装置において、
入口近傍のピンガイドの間隔を、出口近傍のピンガイドの間隔の0.5〜0.8倍とした加圧スチーム延伸装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアクリル繊維の製造方法によれば、多数の糸条を同時に加圧スチーム延伸する際の延伸工程の安定性を向上させ、毛羽の発生を低減する事ができる。特に、炭素繊維用アクリル系前駆体繊維においては、後の炭素繊維の毛羽低減にもつながり、炭素繊維製造工程を安定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリル繊維の製造方法は、アクリロニトリルと、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類の、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体を、溶剤に溶解させた紡糸原液を用いる。溶剤は、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、塩化亜鉛水溶液、硝酸を使用することができる。
本発明においては、このアクリル系重合体溶液を少なくとも紡糸し、浴中延伸する必要がある。紡糸は直接凝固浴中に紡出してもよいし、一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させてもよい。浴中延伸は紡出糸を直接行っても良いし、また一旦水洗して溶媒を除去した後に行っても良い。浴中延伸は通常60〜100℃の延伸浴中で2〜6倍に延伸されるが本発明はこれに限定されない。
この後、アクリル系重合体糸条が炭素繊維用前駆体糸条である場合には、乾熱ロール等で乾燥して更に緻密化を行った後、本発明の装置を用いて加圧スチーム延伸を行う。
【0008】
本発明において特徴的な点はラビリンスシールの糸条入口近傍にピンガイドを有する固定部材、出口近傍にも入口近傍と同様の固定部材を設け、ラビリンスシールに導入される糸条を等間隔に分繊する事で、加圧スチーム延伸装置内での隣接錐間における糸条の接近を防ぐことにある。
加圧スチーム延伸装置入口のピンガイドの間隔が加圧スチーム延伸装置導入前の糸条幅より大きければ、糸条の分繊において不十分かつ加圧スチーム延伸装置内での糸条のばたつきが発生しやすくなり好ましくない。また、加圧スチーム延伸装置入口のピンガイドの間隔がスチーム延伸導入前の糸条幅に対して85%未満であればガイドと糸条の過大な接触負荷により毛羽がより多く発生してしまう。本発明において最も効果を見出すには、加圧スチーム延伸装置入口のピンガイドの間隔は加圧スチーム延伸導入前の糸条幅に対して90%〜98%が最も好ましい。
加圧スチーム延伸装置入口近傍のピンガイドの間隔が、加圧スチーム延伸装置出口近傍のピンガイドの間隔の0.8倍より大きければ、加圧スチーム延伸装置内での糸条のばたつきが発生しやすくなり適当ではない。
また、前記入口近傍のピンガイドの間隔が、前記出口近傍のピンガイドの間隔の0.5倍未満であればガイドと糸条の過大な接触負荷により毛羽がより多く発生してしまう。
本発明において最も効果を見出すには、前記入口近傍のピンガイドの間隔が、前記出口近傍のピンガイドの間隔の0.5〜0.8倍であることが必要である。
【0009】
本発明において、加圧スチーム延伸導入前の糸条幅はスチーム延伸装置直前の巻き出しロール上での糸条幅の事を指す。
【0010】
ピンガイドの材質は特に限定されないが、腐食しにくいステンレス材などが好ましい。
さらにピンガイドと糸条の接触抵抗によるダメージをあたえないようなメッキ加工を施したものが望ましい。
【実施例】
【0011】
以下、本発明装置を使用して加圧スチーム延伸を行った具体例を比較例と共に説明する。
アクリロニトリル(AN)、メチルアクリレート(MA)、メタクリル酸(MAA)の共重合モル比、AN/MA/MAA=96/2/2であるアクリル系共重合体のジメチルアセトアミド(DMAc)溶液(ポリマー濃度20質量%、粘度500ポイズ、温度70℃)を口金孔径0.060mm、24000ホールの紡糸口金を通してDMAc水溶液(濃度65質量%、温度35℃)中に吐出して水洗後、熱水浴中で約3倍に延伸し、135℃で乾燥、緻密化し糸条を得た。
糸条は走行速度で巻き出しロールから送り出され、加圧スチーム延伸装置の入口に設けた分繊用のピンガイドを有する固定部材で糸条を分繊する。なお、ピンガイド分繊前の各糸条幅は27mmであり、隣接錐間幅は1mmであり、ピンガイド径はすべて1mmであった。
毛羽の評価方法については、ボビンに巻き取られた2本の糸条をエアサッカーにより10m/sで引き出し、目視によって毛羽の通過回数を測定した。評価基準は糸条10000m中に毛羽の通過が2回以下は良好として○、糸条10000m中に毛羽の通過が3回〜6回は可として△、糸条10000m中に毛羽の通過が7回以上は不可として×とした。
【0012】
【表1】

【0013】
表の結果から本発明のスチーム延伸装置を用いると延伸工程の毛羽の発生が抑えられることが分かる。また、ピンガイド間隔が糸条幅に比べ、極端に狭いと逆に毛羽が発生し、延伸安定性が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を例示説明するための加圧スチーム延伸装置の概略横断面図である。
【図2】本発明を例示説明するための加圧スチーム延伸装置の概略上断面図である
【符号の説明】
【0015】
A 糸条
B ピンガイド
C ラビリンス
D 固定ガイド
E 加圧延伸室
F 巻き出しロール
a 加圧スチーム延伸装置入口近傍ピンガイド間隔
b 加圧スチーム延伸装置出口近傍ピンガイド間隔
c ピンガイド径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧スチームを用いてアクリル繊維を延伸するための加圧スチーム延伸装置であって、
加圧スチーム延伸装置の入口近傍および出口近傍に、
複数のピンガイドを有する固定バーが設けられ、
入口近傍のピンガイドの間隔を、出口近傍のピンガイドの間隔の0.5〜0.8倍とした加圧スチーム延伸装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−261113(P2010−261113A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110961(P2009−110961)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】