説明

加圧セル

【課題】微小試料であっても十分なピーク強度を有する良好な赤外吸収スペクトルを得ることが出来る加圧セルを提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも下台セルと、前記下台セルを固定する下台ホルダーと、前記下台セルと接触している上台セルと、前記上台セル及び前記下台ホルダーと接触している上台ホルダーを備えた赤外分光分析を行うための赤外分光分析用加圧セルであって、前記上台セルと下台セルの少なくとも一方が表面に複数の柱状の試料保持部を有することを特徴とする赤外分光分析用加圧セルとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に赤外分光分析時に用いられる加圧セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体関連分野や液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の平面ディスプレイなどの産業分野はますます発展を遂げているが、そのような製造工程には少なからず微小な異物が存在し、製品に混入することで欠陥となり歩留まり低下の原因となっている。
これらの微小異物を分析・解析し、異物や欠陥の発生原因を解明し、収率向上や品質管理のための対策を立てることが重要な課題となっている。
【0003】
そのような微小異物の分析には、顕微赤外分光分析が広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。顕微分光分析を行う為には試料の適切な前処理が必要である。多くの場合、金属製ニードルを装着したハンディータイプの器具、もしくはマイクロマニピュレーターシステムを用いて試料のサンプリングを行った後、試料を適切な厚みに調整する作業をおこなう。
【0004】
一般的なプラスチック素材において良好なスペクトルを得るために、試料の厚みを数μmもしくはそれ以下に加工することが望ましい。このような作業を行う時に、KBrプレートやダイヤモンドセルを用いてプレスする方法が知られている。
【0005】
特にダイヤモンドセルは操作が簡便且つ素材の硬度や靭性に優れる点などから広く用いられている。例えば図6で示すように2枚1組のセル板20のダイヤモンド部21に試料22を挟み、ネジ23で締め付けることにより試料を圧延し、その後試料が付着しているセル板1枚を用いて測定を行う方法がおこなわれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】FT−IRの基礎と実際(第2版) 1994年3月25日発行 (株)東京化学同人
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらダイヤモンドセルを使用する際、試料の性質や形状などの理由(軟らかい、粉っぽいなど)によりプレス後に1枚のセルを取り除くと2枚のセル両方に試料が付着してしまうことがある。2枚のセルに同じ材料、同じ表面状態のものを使用した場合は、各セルと異物の密着力が同等である為、どちら側のセルに圧延された異物は、偶然どちらか一方に全て残る可能性もあり、また両側のセルにそれぞれ圧延された異物の一部が残存することもある。このような現象が発生すると、通常1枚のセルを用いて測定を行う関係上、試料濃度が低下してしまい赤外吸収スペクトルの強度が十分に得難いことがある。この場合、片方のセル上の試料をサンプリングしなおし、もう片方のセルに集めて測定しなおすことが考えられるが、一度プレスした試料をきれいに回収することは容易ではない。また2枚重ねて測定することも考えられるが、ダイヤモンドセル間が平行になることによりスペクトルに干渉縞が発生しやすくなり、良好なスペクトルが得難いという問題点がある。
【0008】
そこで本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、微小試料であっても十分なピーク強度を有する良好な赤外吸収スペクトルを得ることが出来る加圧セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、少なくとも下台セルと、前記下台セルを固定する下台ホルダーと、前記下台セルと接触している上台セルと、前記上台セル及び前記下台ホルダーと接触している上台ホルダーを備えた赤外分光分析を行うための赤外分光分析用加圧セルであって、前記上台セルと下台セルの一方が表面に複数の柱状の試料保持部を有することを特徴とする赤外分光分析用加圧セルである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記下台ホルダーが、可動機構を持つ複数の筒状の上台下台セル固定部を有することを特徴とする請求項1記載の赤外分光分析用加圧セルである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記下台セルと上台セルが赤外透過材料からなる赤外線透過部を備えることを特徴とする請求項1記載の赤外分光分析用加圧セルである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、一方が表面に複数の柱状の試料保持部を有する上台セル、下台セル間に分析試料を配置する工程と、前記分析試料を挟んだ上台セルと下台セルを上台ホルダー及び下台ホルダーに固定し、前記上台セルと前記下台セルに圧力を印加し、分析試料を圧延する工程と、前記上台セルと前記下台セルを接触面に対し平行に移動する工程とを順に備えることを特徴とする赤外分析用の分析試料の作製方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明において、複数の柱状の試料保持部を表面に有する上台セルもしくは下台セルを用いることにより、試料作製のため上台セルと下台セルを用いて試料を圧延する際に、試料の大半を柱状の試料保持部を備える上台セルもしくは下台セルに付着させることが可能となるため、分析試料のロスをなくすことができる。
【0014】
本発明において、可動機構を持つ複数の筒状の上台下台セル固定部を有する下台ホルダーを用いることにより、分析試料を圧延後に上台セルを下台セルに対して平行に取り外すことが出来るため、下台セルで得られた試料の大半を下台セルのみに付着される効果をより高めることが可能となり、分析試料のロスをなくすことができる。
【0015】
よって本発明の赤外分光分析用加圧セルを用いることにより、前処理として微小試料を圧延する時に試料のロスを大幅に軽減できる。このため、顕微赤外分光分析が必要とされる様な微小試料に対しても貴重な分析試料をロスすることなく適切な厚みに調整することができるようになり、良好な赤外吸収スペクトルを得ることができると同時に、サンプル調整に失敗することによる再作業を無くすことができ、分析時間及び解析時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の赤外分光分析用加圧セル一式の構成の一例を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の赤外分光分析用加圧セルの下台セル2の(a)上面図及び(b)側面図である。
【図3】図3は本発明の赤外分光分析用加圧セルの上台セル1の(a)上面図及び(b)側面図である。
【図4】図4は本発明の赤外分光分析用加圧セル下台ホルダー4の構成の一例を示す(a)上面図及び(b)斜視図である。
【図5】図5は本発明の赤外分光分析用加圧セルを用いた赤外分析用の分析試料の作製方法の説明図である。
【図6】従来市販されている赤外分光分析用加圧セルの構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明である加圧セルを実施の形態に沿って図1〜5を参照しながら詳細に説明する。
なお図1〜5は本発明の実施例の一つである。
【0018】
図1は本発明の赤外分光分析用加圧セル一式の構成の一例を示す側面概略図である。本発明の赤外分光分析用加圧セルは、上台セル1、下台セル2、上台ホルダー3、下台ホルダー4から構成されている。
上台ホルダー3と下台ホルダー4は、試料を挟んだ上台セル1と下台セル2に対し、圧力を加え試料を圧延する機構を有する。図1の赤外分光分析用加圧セルにあっては、外縁部にネジ機構Xを有し、上台ホルダー3と下台ホルダー4を締め上げることにより上台セル1と下台セル2に圧力を加えることができる。
【0019】
上台ホルダー3と下台ホルダー4は上台セル3と下台セル2を内部に固定しながら、上台セル3と下台セル2間にある分析試料を圧延することのできる機構を有する。図1にあっては、上台ホルダー3と下台ホルダー4の外縁部にあるネジ機構によって分析試料を圧延することができるが、分析試料を圧延できる機構にあっては図1のネジ機構に限定されるものではない。
【0020】
図2は本発明の赤外分光分析用加圧セルの下台セル2の(a)上面図及び(b)側面図である。下台セルにあっては、赤外線透過部7とともに、試料を固定するための柱状の試料保持部5が設けてある。赤外透過部7を設けることにより顕微赤外分光分析において透過光を測定することが可能となる。
【0021】
図3は本発明の赤外分光分析用加圧セルの上台セル1の(a)上面図及び(b)側面図である。上台セル1にあっては、赤外線透過部7を備える。本発明にあっては、上台セル1と下台セル2の少なくとも柱状の試料保持部5を備える。
【0022】
上台セル1及び下台セル2の赤外線透過部の材質はダイヤモンド、ゲルマニウム、セレン化亜鉛などの赤外線透過材料が使用できる。特に洗浄の簡便さ、硬度、靭性の点から赤外線透過部の材質としてはダイヤモンドが好適である。
【0023】
下台セル1の試料保持部5は形状や材質や数に特に制限はないが、好ましくは柱状でその数は4個以上であり、また試料を最適な厚みに調整する関係上、好ましくは試料保持部5の高さが0.5〜5μm、赤外分光分析の分析能力上、試料保持部5の柱状突起物同士の間隔は5〜50μmであることが好ましい。なお、試料保持部5はドライエッチング等の公知の方法により形成することができる。
【0024】
図4は本発明の赤外分光分析用加圧セル下台ホルダー4の構成の一例を示す(a)上面図及び(b)斜視図である。下台ホルダー4にあっては上台セル1と下台セル2を固定するための上台下台セル固定部6とともに、下台セル2を固定するための下台セル固定部8が設けてある。
【0025】
下台ホルダー4において下台セルは、下台セル固定部8と上台下台セル固定部6によって形成される内側の領域に設置され、固定される。下台ホルダー4において上台セルは上台下台セル固定部6によって形成される内側の領域に固定される。このとき、上台セルは下台セルと分析試料を挟んで固定される。
【0026】
下台ホルダー4の上台下台セル固定部6は、高さが上台セル1と下台セル2を重ね合わせた厚み以下なら特に制限はないが、好ましくは直径が1〜5mm、且つ上台セル1と下台セル2を重ねあわせた厚みの3/5〜5/6であることが好ましい。また上台下台セル固定部6の数は3個以上あれば特に制限はない。
【0027】
下台ホルダー4に設けられる上台下台セル固定部6は上台セルを平行にスライドさせるために可動機構を有することが好ましい。上台下台セル固定部6が可動機構を備えることにより、下台ホルダーと上台ホルダーによって上台セルと下台セル間の分析試料を圧延した後の上台セルと下台セルの取り外しの際に、上台セルを下台セルに対し平行に移動させることができる。
【0028】
このとき、上台下台セル固定部6の可動範囲は下台ホルダー4内であれば特に制限はないが、上台セル1を平行に容易に取り出せればよいので、好ましくは上台セル1の直径の1/3〜1/2である。また、上台下台セル固定部6はすべてが可動機構を有する必要はなく、少なくとも1つが可動機構を有せばよい。
【0029】
下台ホルダー4の下台セル固定部8は、高さが下台セル2の厚み以下なら大きさに特に制限はないが、好ましくは直径が1〜5mm、下台セル2の厚みの1/2〜3/4である。また下台セル固定部8の数は3個以上あれば特に制限はない。
【0030】
上台セル1及び下台セル2自体の形状、大きさは特に制限はないが、好ましくは円板状が好ましく、このとき直径は1〜20mm、厚さ0.5〜5mmであることが好ましい。
【0031】
上台ホルダー3自体の形状、大きさは特に制限はないが、好ましくは円板状が好ましく、このとき直径は30〜80mm、高さ2〜12mmであることが好ましい。
【0032】
下台ホルダー4自体の形状、大きさは特に制限はないが、好ましくは縦45〜95mm、横45〜95mm、高さ1〜11mmであることが好ましい。
【0033】
図5に本発明の赤外分光分析用加圧セルを用いた赤外分析用の分析試料の作製方法の説明図を示した。分析試料9は上台セル1と下台セル2の間に配置され、下台ホルダー(図示せず)に固定される(図5(a))。次に、上台ホルダー(図示せず)を下台ホルダーと固定することにより、上台セル1と下台セル2の圧力を印加し分析試料9を圧延する(図5(b))。圧延後上台ホルダーを下台ホルダーから外し、上台セル1を下台セル2に対し平行に移動(スライド)させる(図5(c))。上台セル1と下台セル2を接触面に対し平行に移動させることにより、分析試料9は試料保持部5のある下台セルに固定される。
【実施例】
【0034】
上記の発明について具体的な実施例を以下に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
本発明の赤外分光分析用加圧セルとして、上台セル1は全体の大きさが直径15mm、厚み2mmの円盤状で赤外線透過部に2mm角、厚さ0.5mmのダイヤモンド板を使用したものを用意した。
【0036】
下台セル2は、全体の大きさが直径15mm、厚み2mmの円盤状で赤外線透過部に2mm角のダイヤモンドを使用したものをベースとし、赤外線透過部に直径2μm、高さ3μmの試料保持部5の円柱状突起物を30μm間隔に縦5個×横5個の合計25個設けたものを用意した。前記ダイヤモンド板への試料保持部の形成は、詳細は省略するが、通常のマグネトロンスパッタ装置を用いてダイヤモンド板にステンレス鋼SUS304の薄膜を3μmの厚さで形成し、通常のフォトリソグラフィー技術を用いて所望のパターンを有するエッチングマスクをSUS304薄膜上に形成し、反応性リアクティブイオンエッチング(RIE)法により、直径2μm、高さ3μmの円柱状の試料保持部を30μm間隔に縦5個×横5個形成することができた。薄膜材料としてはSUS304のほかにもチタンなどの基板との密着力が強い材料が適している。この他にも電鋳法、その他の方法で形成することが可能であり、ここで説明した形成方法に限定するものではない。
【0037】
上台ホルダー3は、全体の大きさが直径35mm、高さが5mmの円盤状のものを用意した。
【0038】
下台ホルダー4は、全体の大きさが60mm角のものをベースとし、直径2mm、高さ3mm、可動範囲1mmの上台下台セル固定部6を等間隔に3個設けたもの、及び直径2mm、高さ1.3mmの下台セル固定部8を等間隔に3個設けたものを用意した。
【0039】
次に試料として30μm角の大きさであるポリエチレン片を用意し、金属製ニードル若しくはプローブを装着したサンプリングハンドルを持つマイクロマニピュレータを用いて試料のサンプリングを行った後、下台セル2の試料保持部5に設置した。
【0040】
そして上台セル1を下台セル2に重ねて試料を圧延した後、可動する上台下台固定部6の一つを外側に引き、少し押さえつけるように上台セル1だけをスライドさせて下台セル2から離した。
【0041】
プレスしたダイヤモンドセルのうち、サンプルが付着した下台セル2を用い、顕微赤外分光分析装置(日本分光(株)製、商品名;FT/IR―6000及びIRT−3000)の試料ステージに設置し、顕微赤外分光分析を100回連続して行った。
<比較例>
実施例と同様にサンプリングを行った後、図6に示すような試料保持部を持たないThermo社製Micro Sample Plan w/Diamond Windows(比較品)を用いて試料を圧延し、サンプルが付着した方のセルを用い顕微赤外分光分析を100回連続して行い、ノイズの低減を行った。
<評価>
以下、実施例と比較例の結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
試料が下台セルに付着した割合については◎:1%未満、○:1〜20%未満、△:20%以上、試料が2枚のセルに分離した割合については◎:5%未満、○:5〜50%未満、△:50%以上、2900cm−1付近ピーク強度については、ベースラインからピークトップを差し引いた値が100回測定の平均で◎:光透過率80%以上、○:光透過率60%〜光透過率80%未満、△:光透過率60%未満であることを意味する。
【0044】
本発明の赤外分光分析用加圧セルによって、微小な試料であっても複数の柱状の突起物からなる構造体を具備した1枚のセルのみにサンプルを付着させることで、圧延による試料のロスを減らすことができるため十分なピーク強度を有する良好な赤外吸収スペクトルを得ることが出来る。そのためスペクトル解析も容易である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・上台セル
2・・・下台セル
3・・・上台ホルダー
4・・・下台ホルダー
5・・・試料保持部
6・・・上台下台セル固定部
7・・・赤外線透過部
8・・・下台セル固定部
X・・・ネジ機構
9・・・分析試料
20・・・セル板
21・・・ダイヤモンド部
22・・・分析試料
23・・・ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下台セルと、前記下台セルを固定する下台ホルダーと、前記下台セルと接触している上台セルと、前記上台セルと接触しながら前記下台ホルダーを固定する上台ホルダーを備えた赤外分光分析を行うための赤外分光分析用加圧セルであって、前記上台セルと前記下台セルの少なくとも一方が表面に複数の柱状の試料保持部を有することを特徴とする赤外分光分析用加圧セル。
【請求項2】
前記下台ホルダーが、可動機構を持つ複数の筒状の上台下台セル固定部を有することを特徴とする請求項1記載の赤外分光分析用加圧セル。
【請求項3】
前記下台セルと前記上台セルが赤外透過材料からなる赤外線透過部を備えることを特徴とする請求項1記載の赤外分光分析用加圧セル。
【請求項4】
少なくとも一方が表面に複数の柱状の試料保持部を有する上台セル、下台セル間に分析試料を配置する工程と、
前記分析試料を挟んだ上台セルと下台セルを上台ホルダー及び下台ホルダーに固定し、前記上台セルと前記下台セルに圧力を印加し、分析試料を圧延する工程と、
前記上台セルと前記下台セルを接触面に対し平行に移動する工程と
を順に備えることを特徴とする赤外分析用の分析試料の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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