説明

加圧式トレーサ供給装置

【課題】水理模型実験での再現性を保持し、トレーサを供給する測定ポイントに水頭圧(水圧)が作用する場合であっても、設置場所の制約を受けることなく、容易にトレーサを測定ポイントに供給することを可能とする加圧式トレーサ供給装置を提供する。
【解決手段】この加圧式トレーサ供給装置100によれば、トレーサ供給ノズル3から供給されるトレーサの供給圧力を、ハンドル30に設けられた回転つまみ31、および、供給レバー32により、容易に調節することができる。その結果、水理模型実験でのトレーサの供給において、測定ポイントに水頭圧(水圧)が作用する場合であっても、トレーサ供給装置を高い位置に設置する必要はなく、測定ポイントの水頭圧に対応した供給圧で、各ポイントの流れ場における水の流れを乱さないようにして、トレーサを測定ポイントに供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水理模型実験に用いられる加圧式トレーサ供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水理模型実験において、測定ポイント(流れ場)の内部の様子を観察する場合、たとえば、水などの透明の流体であれば、染料などを用いた液体状のトレーサを液体の内部に供給して、染料の動きを追跡することで、測定ポイントにおける流体の流れ方向、流れ速度、流れの時系列変化を、目視により観測することができる。
【0003】
通常、水理模型実験においては、染料などのトレーサを流体に供給する場合には、直接流体の表面からトレーサを導入する方法や、水頭圧を利用して流体の内部からトレーサを導入する方法が挙げられる。トレーサを流体に供給する装置としては、下記特許文献1から特許文献4に開示されるものが挙げられる。
【0004】
ここで、図3から図7を参照して、水理模型実験の一例について説明する。図3は、水理模型実験を必要とする水力発電所200における水の流れを模式的に示す図である。水力発電所によっては、導水路201を通過する水は、一旦水槽202に蓄えられる。各水力発電所の現場によって水槽202の大きさは様々であるが、縦、横、深さが、それぞれ数十メートルの大きさとなる。水槽202に蓄えられた水は、水圧管路203内を落下し、水車発電機204を駆動させる。その後、水は、放水路205により排出される。
【0005】
水槽202内では、水圧管路203の流入口近傍の領域に渦(図4のU参照)が生じることが知られている。この渦が生じた場合には、渦による空気混入により、水圧管路203や水車発電機204に悪影響を及ぼす問題が生じる。そこで、各現場においては、予め水理模型実験を行なうことで、各現場毎に水槽内での水の流れを把握し、水槽に対して、渦の発生を抑制する形態を与える努力を行なっている。
【0006】
図4に、水槽202内での水の流れ観測するための水理模型200aを示す。図4においては、図3に示す水槽202を小型化したものであり、この水槽202aの大きさは、h=約1〜約2m、w1=約2m〜約3m、w2=約2m〜約3m程度の大きさである。また、導水路201aから流れ込む水は、水槽タンク202a内に一旦蓄えられて、水圧管路203aから排出される。水圧管路203aにおける水の落差は、約2m〜3mである。よって、この水理模型200aの水槽202aの上端部は、床面からは、約3m〜5m程度の高さとなる。
【0007】
トレーサを液体の内部に供給する場合には、図5の平面図、および、図6の縦断面図に示すように、複数の測定ポイントP(1,1,1)〜P(X,Y,Z)で、流体の流れ方向、流れ速度、流れの時系列変化が観測される。
【0008】
各測定ポイントにトレーサを供給する場合には、各測定ポイントにおける水の流れを乱さないように供給する必要がある。したがって、図7に示すように、測定ポイントが深いほど(S1>S2>S3>S4)、トレーサ供給装置(トレーサバッグ)300を高い位置(L1>L2>L3>L4)に設置することにより、水頭圧による影響が出ないようにしていた。これにより、各測定ポイントにおけるトレーサの供給圧が一定に保たれ、トレーサの動きを追跡することで、各測定ポイントにおける流体の流れ方向、流れ速度、流れの時系列変化を、目視により観測することを可能としている。
【特許文献1】特開2001−201510号公報
【特許文献2】特開2001−147234号公報
【特許文献3】特開2001−147235号公報
【特許文献4】特開平06−167416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記したトレーサの供給方法では、水頭圧を考慮してトレーサ供給装置を高い位置に設置する必要があるが、水理模型実験は、一般に建屋の中で行なうことが多いため建屋の天井位置の制限、その他設置場所の制約から、トレーサ供給装置を十分な高さ位置に配置できない場合がある。
【0010】
また、トレーサを供給する場合には、各測定ポイントにおける水の流れを乱さないように供給する必要があるために、慎重にトレーサ供給装置の設置位置の調節を行なう必要があるが、トレーサ供給装置が高い位置に設置されるほど、微妙な位置調節を行なうことが困難になる。
【0011】
さらに、測定ポイントの数(図5、図6の場合であれば、全部で80ポイント)だけトレーサ供給装置の位置調節を行なう必要があり、その作業は非常に煩わしいものである。
【0012】
したがって、本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、水理模型実験での再現性を保持し、トレーサを供給する測定ポイントに水頭圧(水圧)が作用する場合であっても、設置場所の制約を受けることなく、容易にトレーサを測定ポイントに供給することを可能とする加圧式トレーサ供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に基づいた加圧式トレーサ供給装置においては、水理模型実験において、測定ポイントの様子を観察するため流体に向けてトレーサを供給する、加圧式トレーサ供給装置であって、以下の構成を備えている。
【0014】
加圧された状態において、内部に上記トレーサを蓄積するための加圧タンクと、上記加圧タンクにチューブを介して連結されるハンドルと、上記ハンドルに連結され、上記加圧タンク内に蓄積されたトレーサを流体に供給するためのトレーサ供給ノズルとを備えている。
【0015】
さらに、上記ハンドルには、上記トレーサ供給ノズルから供給されるトレーサの供給圧力を調節するための供給圧調節機構と、上記トレーサ供給ノズルからのトレーサの供給において、閉状態から上記供給圧調節機構により選択された供給圧状態までの供給圧を調節可能とする供給レバーとが設けられている。
【発明の効果】
【0016】
この発明に基づいた加圧式トレーサ供給装置によれば、トレーサ供給ノズルから供給されるトレーサの供給圧力を、ハンドルに設けられた供給圧調節機構、および、供給レバーにより、容易に調節することができる。その結果、水理模型実験でのトレーサの供給において、測定ポイントに水頭圧(水圧)が作用する場合であっても、トレーサ供給装置を高い位置に設置する必要はなく、測定ポイントの水頭圧に対応した供給圧で、各ポイントの測定ポイントにおける水の流れを乱さないようにして、トレーサを測定ポイントに供給することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明に基づいた実施の形態における加圧式トレーサ供給装置について、図1および図2を参照して説明する。なお、図1は、本実施の形態における加圧式トレーサ供給装置100の構成を示す全体斜視図であり、図2は、長さの異なるトレーサ供給ノズルを示す図である。
【0018】
本実施の形態における加圧式トレーサ供給装置100は、水理模型実験において、測定ポイントの様子を観察するため流体に向けてトレーサを供給するために用いられ、加圧された状態において、内部に上記トレーサを蓄積するための加圧タンク1を有している。この加圧タンク1は加圧ピストン20を手動により駆動させて、タンク内に圧力を発生させるものである。なお、動力(駆動ポンプ)を用いてタンク内に圧力を発生させる構造の採用も可能である。
【0019】
加圧タンク1の上面にはチューブ2の一端が連結され、また、チューブ2の他端にはハンドル30が連結されている。さらに、このハンドル30には、加圧タンク1内に蓄積されたトレーサを流体に供給するためのトレーサ供給ノズル3が着脱可能に連結されている。トレーサ供給ノズル3は、トレーサの供給位置の深さに応じて取り替えることが可能に設けられ、図2には、一例として、ノズル長さの異なる3種類のトレーサ供給ノズル3A,3B,3Cを図示している。
【0020】
なお、トレーサ供給ノズル3自体を伸縮自在とする機構を設けることも可能である。また、この伸縮自在機構については、手動による機構、または電動による機構のいずれの機構の採用も可能である。これにより、手の届かない、離れた場所にトレーサを供給する場合であっても、トレーサ供給ノズルの交換作業を不要とすることが可能になる。
【0021】
また、ハンドル30には、トレーサ供給ノズル3から供給されるトレーサの供給圧力を調節するための供給圧調節機構を構成する回転つまみ31と、トレーサ供給ノズル3からのトレーサの供給において、閉状態から回転つまみ31により選択された供給圧状態までの供給圧を連続的に調節可能とする供給レバー32とが設けられている。
【0022】
回転つまみ31においては、トレーサの供給路の開口率を0〜100%までの間を選択できる機構が採用されており、100%を選択した場合には、加圧タンク1内の圧力がそのまま伝達されることになる。また、供給レバー32は、回転つまみ31により選択された開口率の供給路に対して、さらに、その開口率を0〜100%までの間で選択できる機構が採用されている。
【0023】
このように、回転つまみ31と供給レバー32とを組み合わせることで、たとえば、測定ポイントが水面の近く、または、水面から浅い深さの位置において、回転つまみ31を調節することで、予め低い圧力に設定した状態で、供給レバー32を徐々に開状態にすることで、測定ポイントにおける水の流れを乱さないようにして、最適な状態でトレーサを測定ポイントに容易に供給することができる。
【0024】
また、測定ポイントが深い位置の場合には、最もノズル長さ長いトレーサ供給ノズル3Aに取り替えるとともに、回転つまみ31を調節することで、予め高い圧力に設定した状態で、供給レバー32を徐々に開状態にすることで、測定ポイントにおける水の流れを乱さないようにして、また、水頭圧による水の逆流を防止しながら、最適な状態でトレーサを測定ポイントに容易に供給することができる。
【0025】
なお、回転つまみ31において、トレーサの供給路の開口率を0〜100%までの間を選択できる機構、および、供給レバー32による、トレーサの供給路の開口率を0〜100%までの間で選択できる機構については、公知の技術における機構を採用することが可能である。
【0026】
以上、本実施の形態における加圧式トレーサ供給装置100によれば、トレーサ供給ノズル3から供給されるトレーサの供給圧力を、ハンドル30に設けられた回転つまみ31、および、供給レバー32により、容易に調節することができる。その結果、水理模型実験でのトレーサの供給において、測定ポイントに水頭圧(水圧)が作用する場合であっても、トレーサ供給装置を高い位置に設置する必要はなく、測定ポイントの水頭圧に対応した供給圧で、各ポイントの測定ポイントにおける水の流れを乱さないようにして、トレーサを測定ポイントに供給することが可能となる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に基づいた実施の形態における加圧式トレーサ供給装置の構成を示す全体斜視図である。
【図2】この発明に基づいた実施の形態における加圧式トレーサ供給装置に採用される、長さの異なるトレーサ供給ノズルを示す図である。
【図3】水理模型実験を必要とする水力発電所における水の流れを模式的に示す図である。
【図4】水槽内での水の流れ観測するための水理模型を示す図である。
【図5】水理模型において、トレーサを液体の内部に供給するポイントを示す平面図である。
【図6】水理模型において、トレーサを液体の内部に供給するポイントを示す縦断面図である。
【図7】水理模型において、トレーサを液体の内部に供給する場合の、ポイント深さとトレーサ供給装置の高さ位置との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 加圧タンク、2 チューブ、3 トレーサ供給ノズル、3A,3B,3C トレーサ供給ノズル、20 加圧ピストン、30 ハンドル、31 回転つまみ、32 供給レバー、100 加圧式トレーサ供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水理模型実験において、測定ポイント(流れ場)の様子を観察するため流体に向けてトレーサを供給する、加圧式トレーサ供給装置(100)であって、
加圧された状態において、内部に前記トレーサを蓄積するための加圧タンク(1)と、
前記加圧タンク(1)にチューブ(2)を介して連結されるハンドル(30)と、
前記ハンドル(30)に連結され、前記加圧タンク(1)内に蓄積されたトレーサを流体に供給するためのトレーサ供給ノズル(3)と、を備え、
前記ハンドル(30)には、
前記トレーサ供給ノズル(3)から供給されるトレーサの供給圧力を調節するための供給圧調節機構(31)と、
前記トレーサ供給ノズル(3)からのトレーサの供給において、閉状態から前記供給圧調節機構(31)により選択された供給圧力状態までの供給圧を調節可能とする供給レバー(32)と、が設けられるトレーサ供給装置。
【請求項2】
前記トレーサ供給ノズル(3)は、長さの異なる複数のトレーサ供給ノズル(3A,3B,3C)が、前記ハンドル(30)に対して選択的に着脱可能に取り付けられる、請求項1に記載のトレーサ供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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