説明

加圧式ボールペン

【課題】インキ補充可能としたボールペンレフィルを配設した加圧式ボールペンを提供する。
【解決手段】インキ収容筒に、インキ補充可能とするとともに、前記インキ収容筒の後端部に加圧機構を設け、前記軸筒から突出して配設したノック体を押圧することにより、前記加圧機構を作動させ、前記インキ収容筒の後端部を加圧する加圧式ボールペンであって、前記ボールの表面及び/又はボール抱持室の底壁の表面に耐摩耗被覆層を設けるとともに、前記加圧機構が、前記インキ収容筒の後端部を密閉する密閉部と、前記インキ収容筒の後端部に連通する、閉鎖された空間室とからなり、前記ノック体の前進によって、前記空間室を圧縮して、前記インキ収容筒の後端部に圧力を加えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンレフィルを、軸筒内に着脱自在に収納し、前記インキ収容筒の後端部に加圧機構を設け、コイルスプリングによって後方に付勢し、前記軸筒から突出して配設したノック体を押圧することにより、前記加圧機構を作動させ、前記インキ収容筒の後端部を加圧する加圧式ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インキ収容筒にボールペン用インキを直に充填するボールペンレフィルは、充填したボールペン用インキを使いきったらボールペンレフィルを交換することが一般的であり、特開平号公報などで開示されている。
【0003】
このボールペンレフィルの交換式に対し、万年筆やマーキングペンなどはインキタンク内にインキを補充するインキ補充式として、特開平8−156480号公報「筆記具」などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−156480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2のように、インキ収容筒に直にインキを充填したボールペンレフィルをインキ補充式とするには、筆記時のボールの回転によってチップ本体が摩耗するなどして、安定したインキ消費が得られず、滲み、ボテ、カスレなど筆跡が悪化すること、また、インキ補充時に、空気が混入すると、逆流現象が発生するなど問題があった。
【0006】
本発明の目的は、インキ補充可能としたボールペンレフィルを配設した加圧式ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インキ収容筒の先端に、ボール抱持室の底壁にボールを載置し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持したボールペンチップを、直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内にボールペン用インキを直に充填したボールペンレフィルを、軸筒内に着脱自在に収納し、前記インキ収容筒に、インキ補充可能とするとともに、前記インキ収容筒の後端部に加圧機構を設け、コイルスプリングによって後方に付勢し、前記軸筒から突出して配設したノック体を押圧することにより、前記加圧機構を作動させ、前記インキ収容筒の後端部を加圧する加圧式ボールペンであって、前記ボールの表面及び/又はボール抱持室の底壁の表面に耐摩耗被覆層を設けるとともに、前記加圧機構が、前記インキ収容筒の後端部を密閉する密閉部と、前記インキ収容筒の後端部に連通する、閉鎖された空間室とからなり、前記ノック体の前進によって、前記空間室を圧縮して、前記インキ収容筒の後端部に圧力を加えることを特徴とする。
【0008】
また、前記ボールペンチップが、軸筒内に没入した状態で、前記インキ収容筒の後端部に圧力が加わっていることを特徴とする。
【0009】
また、前記ノック体の前進によって、前記密閉されたインキ収容筒の後端部内の空間室を圧縮する体積が、前記インキ収容筒内に、直に充填するボールペン用インキの体積よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
また、前記インキ収容筒に、インキ終了表示部を設け、前記軸筒に形成した視認部を介して前記インキ終了表示部を視認可能としたことを特徴とする。
【0011】
本願発明の請求項1の構成によれば、前記ボールの表面及び/又はボール抱持室の底壁の表面に耐摩耗被覆層を設けることで、筆記によるチップ本体の摩耗を防止し、さらに、前記加圧機構が、前記インキ収容筒の後端部を密閉する密閉部と、前記インキ収容筒の後端部に連通する、閉鎖された空間室とからなり、前記ノック体の前進によって、前記密閉されたインキ収容筒の後端部内の空間室を圧縮して、前記インキ収容筒の後端部に圧力を加えることで、前記インキ収容筒に、インキ補充してボールペンレフィルを使用することができ、インキ補充時に空気が混入しても逆流現象を生じることを防止する効果を奏する。
【0012】
尚、本発明に用いる耐摩耗被膜層としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS)、二硫化モリブデン(MoS)、窒化チタン層(TiN)等、従来から知られている耐摩耗被膜層を適宜用いることができる。また、耐摩耗被膜層を被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した耐摩耗被膜層を含有した被覆層であってもよい。特に前記した耐摩耗被膜層の中でも、潤滑性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。
【0013】
また、本発明に用いるボール材としては、タングステンカーバイドの超硬材やジルコニアなどのセラミックス材、ステンレス鋼材等、特に限定されるものではく、チップ本体もステンレス鋼や銅合金、アルミニウム等、特に限定されるものではない。
【0014】
本願発明の請求項2の構成によれば、前記ボールペンチップが、軸筒内に没入した状態で、前記インキ収容筒の後端部内に圧力が加わっているために、インキ収容筒にボールペン用インキを補充後に、軸筒内に配設すれば、逆流現象を防止することができる。
【0015】
本願発明の請求項3の構成によれば、前記ノック体の前進によって、前記密閉されたインキ収容筒の後端部内の空間室を圧縮する体積が、前記インキ収容筒内に、直に充填するボールペン用インキの体積よりも大きくすることで、インキ収容筒に補充したボールペン用インキを確実に、ボールペンチップに供給することができる。
【0016】
本願発明の請求項4の構成によれば、前記インキ収容筒に、インキ終了表示部を設け、前記軸筒に形成した視認部を介して前記インキ終了表示部を視認可能とすることで、ボールペン用インキの終了時を確実に把握できるとともに、インキの後端がボールペンチップ内に進入する前に、ボールペン用インキを補充することで、空気の混入を抑制することができる。
【0017】
本願発明の請求項4の構成によれば、前記インキ収容筒に、インキ終了表示部を設け、前記軸筒に形成した視認部を介して前記インキ終了表示部を視認可能とすることで、ボールペン用インキの終了時を確実に把握できるとともに、インキの後端がボールペンチップ内に進入する前に、ボールペン用インキを補充することで、空気の混入を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、ノック体の係止部を軸筒の摺動孔に配設し易く、且つ外れ難いノック式筆記具を簡単な構造で提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の加圧式ボールペンを示す、縦断面図である。
【図2】図1におけるボールペンチップが突出した状態を示す図である。
【図3】図1におけるボールペンレフィルの要部拡大断面図である。
【図4】図1におけるボールペンチップの一部省略した要部拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の軸筒の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1
図1から図4に示す、加圧式ボールペン1は、前軸2と後軸3を螺着して軸筒本体を構成し、軸筒本体内に配設したボールペンレフィル11をピストン5内に、ボールペンレフィル保持部材9を介して、着脱自在に圧入装着するとともに、コイルスプリング受け部材25、26間に配設したコイルスプリング28によって、軸筒後端側のコイルスプリング受け部材25を介してピストン5及びボールペンレフィル保持部材9、ボールペンレフィル11、シリンダー6を、後軸3の後端方向に付勢して摺動自在に配設してある、ボールペンチップ13の出没機構を具備したノック式の加圧式ボールペン1である。
【0022】
ボールペンレフィル11のボールペンチップ12の出没機構は、従来から知られているもので、ノック体4を前軸2の先端開口部2a方向に押圧(図1の矢印F方向)すると、後軸3の摺動孔3aに摺動自在に配設したノック体4の外壁に形成した係止部4cが、クリップ10の先端部の被係止部10aに係止して、ボールペンレフィルのボールペンチップ12を、前軸2の先端開口部2aから突出した状態を維持し、クリップ10の後端部を押圧して、クリップの被係止部10aに係止した係止部4cを解除すると、コイルスプリング16の付勢力によって、ボールペンレフィル11のボールペンチップ13を前軸2の先端開口部2a内に没入することができる出没機構である。
【0023】
ボールペンレフィル11は、インキ収容筒12の先端に、ボール20を回転自在に抱持したボールペンチップ13を装着し、内部に、20℃、剪断速度3.8sec−1(10rpm)におけるインキ粘度が8000mPa・sであるニュートニアンの油性ボールペン用インキKを直に充填してある。
【0024】
ボールペンチップ13は、φ2.3mm、硬度が230Hv〜280Hvのステンレス鋼線材を所望の長さに切断し、ボール抱持室15、インキ流通孔19と、インキ流通孔19から放射状に伸びるインキ流通溝17を作製後、ボール抱持室15の底壁16に、略円弧面状のボール座18を形成してあり、ボール座18の表面には、予めダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる耐摩耗被膜層Sを被覆して設けてある。その後、ボール20をボール座18に載置し、チップ本体14のチップ先端部14aを内側へかしめる。
【0025】
また、チップ先端部14aの内壁には、略円弧形状のシール面14bを形成してあり、シール面14bの表面にも、予めダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを被覆して設けてある。
【0026】
具体的には、ボール20が、ボール座18に載置している状態のチップ先端より臨出するボール出は、ボール径の30.0%、かしめ角度αは93度、シール面14bの先端縁の内径は、ボール径の95.4%、ボール20の縦方向のクリアランスが20μmとし、ボール抱持室15の内径は、ボール径の110.0%、ボール座18の径は、ボール径の95.0%としてある。
【0027】
ボールペンレフィル11の後端部は、ピストン5内に圧入したボールペンレフィル保持部材9に圧入保持されており、ピストン5の後端部に形成した空気孔5aからピストン5の内外を連通してある。また、ピストン5を覆うように、後端を閉鎖したシリンダー6を配設し、このシリンダー6の先端面6aが、ピストン5の外壁に形成した外壁段部5bが当接し、シリンダー6に連動してピストン5を前軸2の先端開口部2a方向に移動可能に配設する。また、ピストン5とノック体4間にスプリング27を配設してあり、ノック体4を常時、後軸3の後端方向に付勢して配設してある。
【0028】
加圧機構及び出没機構を詳述すると、ボールペンチップ13が没入した位置からノック体4を押圧すると、シリンダー6の先端面6aが、ピストン5の外壁段部5bに当接するまで、シリンダー6内の空間部を圧縮することで、ピストン5の外壁面とシリンダー6の内壁面6cは、Oリング7によって互いに摺動自在に密閉してあるため、ピストン5内の空間部も圧縮されるため、ボールペンレフィル11の後端部に、さらに圧力を加えることができる。尚、ノック体の押圧によって圧縮する空間部の体積は、ボールペンレフィル内のインキの体積よりも大きくしてある。
【0029】
さらに、ノック体4を前軸2の先端開口部2a方向に前進すると、シリンダー6を介してピストン5、ボールペンレフィル11を前進させ、ノック体4の外壁に形成した係止部4cが、クリップ10の先端部の被係止部10aに係止して、加圧した状態及びボールペンレフィル11のボールペンチップ12を、前軸2の先端開口部2aから突出した状態を維持することができる。
【0030】
また、クリップ10の被係止部10aに係止した係止部4cを解除すると、先ず、スプリング15の付勢力によって、ノック体4が後軸3の後端方向に後退する。この時、シリンダー6もノック体4と共に、後軸3の後端方向に後退する。
【0031】
さらに、コイルスプリング14の付勢力によって、ピストン5及びボールペンレフィル11、シリンダー6を、後軸3の後端方向に後退させ、ボールペンレフィル11のボールペンチップ13を前軸2の先端開口部2aから没入する加圧機構及び出没機構である。
【0032】
インキ収容筒12には、インキ終了表示部12Aを設けてあり、前軸2を透明にした視認部を介して、インキ終了表示部Hを視認可能としてある。筆記によって、ボールペン用インキが、インキ終了表示部Hに達したら、ボールペンレフィル11を取り外し、インキ収容筒12の後端開口部12aから新たなボールペン用インキ(図示せず)を補充して、再度、ボールペン保持部材9に装着して筆記することができる。
【0033】
ボールペンレフィルを装着するには、ボールペンレフィル11の後端部が、ボールペンレフィル保持部材9に、圧入を開始した状態で、インキ収容筒12の後端部、ピストン5、シリンダー6内の空間は密閉され、さらに、長手方向への押し込み移動して、ボールペンレフィル11の後端部が、ボールペンレフィル保持部材9への装着が終了する時点では、圧入開始から装着終了までの長手方向への移動距離だけ、インキ収容筒12の後端部内に圧力が加わる。
【0034】
本実施例では、便宜上、ノック体4の外壁に形成した係止部4cが、クリップ10の先端部の被係止部10aに係止して、ボールペンレフィルのボールペンチップ12を、前軸2の先端開口部2aから突出した状態を維持し、クリップ10の後端部を押圧して、クリップの被係止部10aに係止した係止部4cを解除すると、コイルスプリング16の付勢力によって、ボールペンレフィル11のボールペンチップ12を前軸2の先端開口部2a内に没入する出没機構を用いているが、回転カム式など出没機構具は限定されるものではない。
【0035】
また、本実施例では、ニュートニアンインキである油性ボールペン用インキを用いているが、剪断減粘性を付与した油性インキや水性インキ、修正液、糊等、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度3.8sec−1(10rpm)における粘度が10000mPa・sを超えると、書き味が低下するため、10000mPa・s以下、好ましくは8000mPa・s以下とする。また、100mPa・s未満だと、チップ先端からの垂れ下がりが発生し易くなるため、100mPa・s以上、10000mPa・s以下とすることが最も好ましい。
【0036】
また、チップ先端からのインキ漏れ出しを抑制するため、チップ先端部の内壁にシール面を設けること、シール面の表面に耐摩耗被覆層を設けることが最も好ましい。また、図示はしていないが、インキ収容筒の後端部に、常時は閉鎖し、インキ収容筒の後方からの圧力によって開放する弁機構を具備した尾栓を嵌着することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の加圧式ボールペンは、インキや出没機構に限定されるものではないので、加圧式ボールペンとして広く利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 加圧式ボールペン
2 前軸
2a 先端開口部
3 後軸
3a 段部
4 ノック体
4a 嵌合突起
4b 係止部
4c 先端面
5 ピストン
5a 空気孔
6 シリンダー
6a 嵌合孔
6b 後端面
6c 内壁面
7 第一密閉部
8 第二密閉部
9 コイルスプリング
10 クリップ
10a 係止部
11 ボールペンレフィル
12 インキ収容筒
13 ボールペンチップ
14 チップ本体
14a チップ先端部
14b シール面
15 ボール抱持室
16 底壁
17 インキ流通溝
18 ボール座
19 インキ流通孔
21 スプリング受け部材
22 第2コイルスプリング
23 第3コイルスプリング
24 Oリング
25、26 コイルスプリング受け部材
27 スプリング
28 コイルスプリング
29 第2コイルスプリング
H インキ終了表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端に、ボール抱持室の底壁にボールを載置し、チップ先端部を内側にかしめることにより、ボールの一部をチップ先端縁より突出させて回転自在に抱持したボールペンチップを、直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内にボールペン用インキを直に充填したボールペンレフィルを、軸筒内に着脱自在に収納し、前記インキ収容筒に、インキ補充可能とするとともに、前記インキ収容筒の後端部に加圧機構を設け、コイルスプリングによって後方に付勢し、前記軸筒から突出して配設したノック体を押圧することにより、前記加圧機構を作動させ、前記インキ収容筒の後端部を加圧する加圧式ボールペンであって、前記ボールの表面及び/又はボール抱持室の底壁の表面に耐摩耗被覆層を設けるとともに、前記加圧機構が、前記インキ収容筒の後端部を密閉する密閉部と、前記インキ収容筒の後端部に連通する、閉鎖された空間室とからなり、前記ノック体の前進によって、前記空間室を圧縮して、前記インキ収容筒の後端部に圧力を加えることを特徴とする加圧式ボールペン。
【請求項2】
前記ボールペンチップが、軸筒内に没入した状態で、前記インキ収容筒の後端部に圧力が加わっていることを特徴とする請求項1に記載の加圧式ボールペン。
【請求項3】
前記ノック体の前進によって、前記密閉されたインキ収容筒の後端部内の空間室を圧縮する体積が、前記インキ収容筒内に、直に充填するボールペン用インキの体積よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の加圧式ボールペン。
【請求項4】
前記インキ収容筒に、インキ終了表示部を設け、前記軸筒に形成した視認部を介して前記インキ終了表示部を視認可能としたことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の加圧式ボールペン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43367(P2013−43367A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182408(P2011−182408)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】