説明

加工大豆粉末素材、大豆飲料および豆腐様食品

【課題】大豆の栄養素を実質的に全て含有し、官能的に優れた食感を有し、美味しくて且つ消化、吸収性が優れた大豆飲料乃至豆腐様食品を容易に製造する技術、およびそのための、青臭みがなく、蛋白質の熱変性を極力抑えられており、しかも単に水中に溶解乃至分散および均質化するだけで目的とする大豆飲料などを製造可能な優れた加工適性および溶解性を有する加工大豆粉末素材を提供する。
【解決手段】生大豆を加熱処理して得られ、水溶性窒素指数が55-70であり、LOX値が20以下であり、n-ヘキサナールを含まないか僅かに含み、ブリックス値が3.0-6.0であることを特徴とする加工大豆粉末素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工大豆粉末素材、大豆飲料および豆腐様食品、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆は、畑の肉と呼ばれているように、動物性蛋白質と類似するアミノ酸組成の蛋白質を豊富に含み、油分(脂質)の50%以上が、血液中のコレステロールを下げる働きをするリノール酸であり、成人病、特に高血圧の予防に有効であることおよびレシチンをもその栄養素として含有しており、脳細胞に作用してボケに効果のあることが知られている。
【0003】
大豆は、また、体内の酸化を防ぐ成分であるビタミンEをはじめとする各種のビタミン類、例えばビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンKなどと共にカルシウム、カリウム、食物繊維などもその栄養素として含有している。従って、その摂取は、老化防止、疲労回復、便秘予防などに役立つ。
【0004】
また、大豆に含まれるイソフラボンは、緩和な女性ホルモン様作用を持ち、更年期障害、骨粗鬆症などに有効であることが近年注目されている。大豆に含まれるオリゴ糖は、腸内細菌の栄養源として腸内環境を改善することが知られている。更に、大豆の摂取によれば、慢性的な体力虚弱、疲労、倦怠感、動悸などの改善も図り得ることも知られている。
【0005】
大豆の主な加工品としては、古来より、醤油、味噌、納豆、豆乳、豆腐、豆腐加工品(厚揚げ、油揚げ、がんもどき)などが知られている。これらの大豆加工品、特に加熱加工品は、大豆蛋白質の吸収率が高く、特に豆腐では95%にもおよぶものであり、かかる加熱加工品の形での摂食が従来よりよく行われている。
【0006】
しかるに、例えば、大豆加熱加工品である豆腐は、その製造過程でオカラを分離した豆乳に、にがりなどの凝固剤を加えて製造されており、その製造過程で約30%ものオカラが副産物として発生する。これは現在、大部分が産業廃棄物として処分されている現状にある。このオカラは、一部「卯の花」などとして食用にも供されているように、大豆由来の優良な栄養分をなお多く含んでおり、豆腐、豆乳の製造に当たって、このオカラを有効利用する技術の開発が、この種の業界において種々検討されてきている。
【0007】
その例としては、例えば呉からオカラを分離して得られる豆乳を、別の豆乳製造の際の引き水として利用して、オカラを分離しない呉を予め高圧ホモゲナイズ処理して豆乳を得る方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法は、オカラの一部を再利用するだけであり、依然として、有効利用されないオカラが発生することは避けられない。勿論、得られる豆乳は大豆由来の全栄養素を含むものではない。
【0008】
また、蒸煮粉砕した大豆液から一旦濾過により分離したオカラを酵素処理してオカラ乳とした後、これを豆乳に再混合して全豆乳および豆腐を製造する技術も知られている(特許文献2,3参照)。この技術はオカラの再利用技術としては評価できるものの、別途オカラの分離およびオカラの酵素処理が必要となる煩雑さがあり、しかも得られる豆乳は、酵素処理によってその組成が大きく変化しており、豆乳本来の味、食感が変化しており、また大豆の全栄養素を含むものとはいえないものになっている。
【0009】
以上のように、現在、大豆の栄養素を有効な形で実質的に全て含み、しかも、官能的に優れた食感を有しており美味しくて且つ消化、吸収性が優れた豆乳製品乃至豆腐製品を、容易且つ簡便に製造する技術は、いまだ開発されておらず、そのような技術の開発が、当業界で切望されている。
【特許文献1】特開2001-218933号明細書
【特許文献2】特開平11-299442号明細書
【特許文献3】特開平11-299443号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、大豆の栄養素を実質的に全て含有し、しかも、官能的に優れた食感を有し、美味しくて且つ消化、吸収性が優れた豆乳製品(大豆飲料)乃至豆腐製品(豆腐様食品)を、容易に製造する技術を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、上記大豆飲料乃至豆腐様食品を製造するための、青臭みがなく、蛋白質の熱変性を極力抑えられており、しかも単に水中に溶解乃至分散および均質化するだけで目的とする大豆飲料を製造可能な優れた加工適性および溶解性を有する加工大豆粉末素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、下記要旨の発明によれば上記目的が達成できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、生大豆を加熱処理して得られ、水溶性窒素指数(NSI, Nitrogen Solubility Index、以下「NSI」ということがある)が55-70であり、リポキシゲナーゼ値(以下、「LOX値」ということがある)が20以下であり、n-ヘキサナールを含まないかまたは生大豆中に含まれる量を100%としたときの相対値で10%以下の量で含み、且つ10重量%の濃度となるように水に溶解させた液の糖度屈折率(以下、単に「ブリックス値」ということがある)が3.0-6.0であることを特徴とする加工大豆粉末素材を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記加工大豆粉末素材を固形分濃度で5-25重量%含有し均質化されていることを特徴とする大豆飲料を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記加工大豆粉末素材を固形分濃度で10-25重量%含有する大豆液を凝固させて得られる豆腐様食品を提供する。
【0016】
また、本発明は、生大豆を95-105℃の温度下に蒸気で120-210秒間熱処理後、微粉末化して上記加工大豆粉末素材を得ることを特徴とする加工大豆粉末素材の製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記加工大豆粉末素材を固形分濃度で5-25重量%となる濃度で水中に分散、溶解し、次いで混合液を均質化することを特徴とする上記大豆飲料の製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、上記加工大豆粉末素材を固形分濃度で10-25重量%含有する大豆液を調製し、該液に凝固剤を加えて凝固させることを特徴とする上記豆腐様食品の製造方法を提供する。
【0019】
本発明加工大豆粉末素材は、大豆の有する全栄養素を実質的に損失することなく含んでおり、しかも該栄養素、特に蛋白質の分解や変性などをできるだけ少なくして、高い水溶性窒素指数を有することから、大豆飲料および豆腐様食品を調製するための粉末形態の大豆素材として有用である。
【0020】
以下、本発明加工大豆粉末素材、大豆飲料及び豆腐様食品につき詳述する。
【0021】
(1) 本発明加工大豆粉末素材
本発明加工大豆粉末素材は、生大豆を加熱処理することにより得られ、NSIが55-70であり、LOX値が20以下であり、n-ヘキサナールを含まないかまたは生大豆中に含まれる量を100%としたときの相対値で10%以下の量で含み、且つブリックス値が3.0-6.0であることを特徴とする。
【0022】
ここで、NSIは、後記実施例に詳述する日本油脂協会制定の食品成分検査分析法に従って測定されるものであり、この値が55-70の範囲にある場合は、大豆の加熱処理による蛋白質の熱変性が少なく、得られる加工大豆粉末の溶解性が高く、しかも該粉末を水に溶解、分散させて得られる大豆飲料の食感にザラツキが残らない。
【0023】
LOX値は、後記実施例に詳述する文献記載の方法に従うリポキシゲナーゼ(LOX)の力価測定法により求められる。LOXは、ハイドロパーオキシダーゼ(HPO)と共に、大豆の青臭みの原因となる例えばリノール酸などの多不飽和脂肪酸の分解によるn-ヘキサナールの生成に関与する酵素である。
【0024】
従来、豆乳飲料の製造における大豆臭の抑制は、一般に高温加熱によって、このLOXとHPOとの両者を失活させてきたが、過度の加熱処理は大豆蛋白の変性、不溶化を招き、それ故、豆乳製造時にオカラとして廃棄される蛋白質成分の増加と、得られる豆乳自体の食感、特に舌触りにおけるザラツキを回避し難く風味および滑らかさに問題があった。本発明者らは、従来の高温加熱処理によらずとも、LOX値を20以下とする穏和な加熱処理によって、大豆臭(青臭み)が解消でき、しかも大豆蛋白質の過剰な熱変性、不溶化が防止でき、かくして、溶解性に優れしかも食感においてザラツキのない大豆飲料の製造のための、加工適性に優れた加工大豆粉末が得られることを見出している。LOX値の好ましい範囲としては、約2-10を挙げることができる。
【0025】
本発明加工大豆粉末におけるn-ヘキサナール含量は、該粉末を大豆飲料乃至大豆液としたときに大豆臭(青臭み)を感じないものとして規定される。この青臭みを感じないn-ヘキサナール含量は、後記実施例に詳述するとおり、生大豆(非加熱)中に含まれるn-ヘキサナール量を100%としたときの相対値で10%を上限とする。
【0026】
また、ブリックス値(糖度屈折率)とは、本発明加工大豆粉末の溶解性(分散性)および加工適性を示す一つの指標であり、該ブリックス値が大きいほど溶解性に優れており、加工適性が良好であることを意味する。従来の豆乳製造のための大豆の高温加熱処理によれば、青臭みは解消できる反面、大豆蛋白質の熱変性、不溶化によって、得られる大豆処理液(呉)のブリックス値は非常に低い(例えば約2)。従って、従来このような呉は、粉末化することなく、一旦オカラを分離して豆乳としていた。しかるに、本発明により提供される加工大豆粉末は、そのブリックス値が3.0-6.0、好ましくは5.0-6.0の範囲にあり、溶解性および加工適性に優れたものであり、従って、その利用によって高濃度の大豆飲料を調製することができ、得られる大豆飲料は、大豆由来の栄養素を豊富に含有しており、しかも食感にザラツキを与えるおそれもない。
【0027】
本発明加工大豆粉末素材の製造は、より詳しくは、例えば次の如くして実施される。即ち、大豆の皮を剥き、離脱した皮を分離し、半割した後、加熱処理する。この加熱処理は、水蒸気雰囲気中に一定時間保持するか、またはコンベアにより移動させながら水蒸気と接触させることにより実施できる。
【0028】
原料大豆としては、その品種などに限定なく、各種のものを利用できる。該原料大豆は、一般的なこの種の加熱大豆加工品の製造と同様に予め割豆、破砕豆、虫食豆、他の種子類、異物などを取り除くための精選処理および大豆の表面に付着している土ほこりなどを取り除くための水洗などの洗浄処理を行うことができる。
【0029】
上記原料大豆を、次いで、常法に従って、適当な脱皮機、補助脱皮機などを用いて脱皮、半割処理する。この処理では、割れ、破壊のような子葉に対する機械的な損傷を最小限にして皮を分離することが重要である。この理由は子葉の細胞が物理的に損傷されると酵素類が大豆油に作用して、青臭みを発現するからである。
【0030】
本発明では、次いで加熱処理する。この加熱処理における原料大豆と水蒸気との接触は、大豆が65-105℃の温度を30秒から30分間保つ条件、より好ましくは95-105℃の温度を120-210秒間保つ条件から、適宜選択して行うことができる。この加熱処理の条件は、得られる本発明加工大豆粉末素材の品質に重大な影響を与える。即ち、この温度条件が過酷な場合、従来の高温加熱処理と同様に、NSIを向上させることはできず、ブリックス値も低いものとなる欠点がある。好ましい温度および時間条件の組合せは、65℃前後で20-30分、80℃前後で10-20分、90℃前後で3-10分、100℃前後で1-5分の範囲から選ばれるのがよい。より具体的には、例えば70℃-15分、75℃-12分、80℃-10分、85℃-6分、90℃-5分、95℃-3分30秒、100℃-140秒、105℃-120秒など、好ましくは95℃-3分30秒、100℃-140秒および105℃-120秒を挙げることができる。
【0031】
本発明では、加熱処理後の処理大豆を微粉末化する。この微粉末化は、通常の粉末化のための各種装置などを用いて実施することができる。該装置としては粉砕処理機、磨砕処理機などを挙げることができる。具体的微粉末化処理は、例えば先ずロールがけにより圧偏してフレーク状とし、次いで乾燥し、最終的にグラインダーなどを用いて磨砕することにより行われる。上記における乾燥は、特に限定されるものではないが、一般には、大豆フレークの含水量を3-6重量%程度の範囲となるように行われるのが好ましい。なお、上記微粉末化処理は、加熱処理後に冷却して行われる必要はなく、従って加温条件下に実施されてもよいが、その際、採用される温度条件は、前記加熱処理の際の条件よりも充分に低いものとする。また、微粉末化の程度も、特に限定されるものではないが、一般には、平均粒子径が約50μm程度以下とするのが好ましい。また、平均粒子径150μm以上の粒子が10%以下となるようにするのが好ましい。
【0032】
かくして、前述した各種の優れた物性を有する本発明所期の加工大豆粉末を得ることができる。このものは、粉末であることに基づいて、保存安定性に優れていることは勿論のこと、後記するように単に水に溶解、分散させるだけで非常に容易に濃厚な大豆液を調製可能であるため、その利用によれば、従来豆乳の製造において必須の工程であった大豆の浸漬(膨潤)工程が不要となり、これに基づいて、浸漬水に溶解して流出する栄養分の損失もなければ、該浸漬水の排水処理も不必要となり、製造時間の短縮も図り得る利点がある。
【0033】
(2) 本発明大豆飲料(豆乳)
本発明大豆飲料は、前記(1)に記載の本発明加工大豆粉末素材を固形分濃度で5-25重量%含有し、均質化されていることにより特徴づけられる。
【0034】
本発明加工大豆粉末素材は、前述した通り、大豆蛋白の熱変性が少なく、水溶性蛋白含量が高く、溶解性に優れているため、これを単に水中に溶解、分散させるのみで、容易に各種濃度の大豆液とすることができ、これを常法に従って均質化(ホモジナイズ)することで、従来例をみない高濃度の大豆飲料を得ることもできる。しかも、該大豆飲料は、大豆の青臭みはなく、食感におけるザラツキや沈殿の発生もなく、味、風味などの点でも非常に優れたものであり、更に、従来、絞り処理(分離)により分離され廃棄されていたオカラの成分をも全て含む点で大豆本来の栄養素を全て有効に含むものである。
【0035】
本発明大豆飲料の調製に当たり、加工大豆粉末素材の水に対する配合量は、5-25重量%の範囲で任意に決定することができ、これによって各種濃度の大豆飲料(豆乳)製品を得ることができる。特に好ましい配合量は、10-15重量%程度とするのが好ましい。なお、本発明により得られる大豆飲料は、繊維質を除去したものではないため、農林水産省日本農林規格(JAS規格)品質表示基準に規定する「豆乳」には該当しない。
【0036】
大豆液の調製に当たっては、特に必要ではないが、pH調整、安定化のためのpH調整剤、緩衝剤など(炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、硫酸など)を適宜使用することができる。また、一般的飲料と同様に、各種の着香料、風味物質、甘味料などを添加配合することもできる。
【0037】
得られる大豆液の均質化は、一般的なホモジナイザーを利用して行うことができ、これによって、一層優れた食感、とくに滑らかさを有する大豆飲料製品を得ることができる。具体的には、該均質化は、例えばガウリン(GAULIN)社製高圧ホモジナイザー(LAB40)を用いて、約200-1000kgf/cm2、好ましくは約300-800kgf/cm2の条件で実施することができる。
【0038】
また、本発明大豆飲料の調製に当たっては、大豆成分を充分に液中に抽出させると共に残存する酵素類(LOX、トリプシンインヒビターなど)を失活させるために、加熱手段を採用することもできる。該加熱のための温度および時間としては、好ましくは約80-110℃、1-15分間を挙げることができる。
【0039】
かくして得られる大豆飲料は、常法に従いこれを適当な殺菌または滅菌処理後、適当な容器に無菌的に充填して、製品とすることができる。
【0040】
(3) 本発明豆腐様食品
本発明豆腐様食品は、前記(2)で得られる本発明大豆飲料乃至本発明加工大豆粉末素材を水中に溶解、分散させて調製した大豆液を、従来の豆乳に代えて利用することにより調製できる。得られる本発明豆腐様食品は豆腐そのものであるが、オカラの成分をも含むものである(繊維質を除去していない)ため、前記本発明大豆飲料が豆乳の規格に合致しないと同様に、農林水産省食品流通局長通達による「豆腐」には該当しない。従って、本発明では豆腐様食品という。
【0041】
本発明豆腐様食品は、木綿豆腐、絹ごし豆腐、充填豆腐などに相当する各種の豆腐様食品とすることができる。これらの調製は、その種類に応じて、従来よりよく知られている。
【0042】
より詳しくは、例えば木綿豆腐は、本発明大豆飲料(または均質化前の大豆液)に、凝固剤を加えて蛋白質を凝固させ(凝固工程)、次いで崩ずし工程、型入れ・圧搾工程、型出し工程、カット・水晒し工程および包装工程を経て得ることができる。絹ごし豆腐は、原料大豆液を型入れ後、凝固、カット・水晒しおよび包装することにより調製できる。また、充填豆腐は、原料大豆液を冷却後、凝固工程、容器に充填する工程、加熱・凝固工程および冷却工程を経て製造することができる。
【0043】
いずれの場合も凝固剤としては、例えば塩化マグネシウム(にがり)、硫酸カルシウム(すまし粉)、グルコノデルタラクトンなどを利用することができる。凝固剤の配合割合は、大豆に対して2-5重量%程度となる量、通常、原料大豆液に対して約0.1-1重量%程度の範囲から選ばれるのが普通である。また、凝固工程に先だって、本発明大豆飲料の項で説明したような均質化処理を行うのが望ましく、更に、必要に応じて大豆液は減圧下に脱気処理したり、適当な消泡を加えて泡の発生を抑えておくこともできる。凝固工程は、通常約30分〜1時間で完結する。なお、本発明加工大豆粉末素材およびこれを利用して得られる大豆液は、豆腐様食品製造時の凝固剤による凝固性も良好である利点を有している。
【0044】
かくして、滑らかで、栄養価が高く、消化性もよく、しかも大豆由来の甘さがあり、風味がよくて香ばしい濃厚な豆腐様食品を得ることができる。得られる豆腐様食品は、その保存安定性にも優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。
【0046】
実施例1
本発明加工大豆粉末素材の調製
選別により小石や他種物の種などの夾雑物を除いた大豆を用いた。
【0047】
該大豆を以下の通り脱皮した。即ち、選別された大豆を脱皮しやすく割れやすい状態になるまで、90℃の温度で0.5-5分間加熱した。
【0048】
脱皮機および補助脱皮機(原田産業株式会社製の選別脱皮システムを利用した)を用いて皮を剥いで半割に分割して脱皮大豆を得た。
【0049】
得られた脱皮大豆を冷却して、次の熱処理工程に供した。即ち、脱皮大豆を密閉した装置(日阪製作所製RIC-15T)内に均等に入れ、大豆が100℃の温度に達するまで装置内に生蒸気を送り続けて、大豆を140秒間100℃に保った。
【0050】
尚、上記熱処理工程は、これに代えて、脱皮大豆を密閉装置内で105℃の加圧下にコンベア式連続式蒸し機を用いて加熱処理(脱皮大豆が105℃、2分間コンベア内に滞留するように加熱処理)することによっても実施できる。このような装置の利用によれば、同時に均一な加熱が確実に実施できる。
【0051】
次に蒸気を止め、熱く蒸されている大豆を、熱いうちにロールの隙間を0.6-1.0mmにセットしたローラーミルのローラ間に通して、フレーク状処理大豆(全体に多数の亀裂がある)を得た。
【0052】
得られた大豆フレークを、網状のパンに薄く広げ、80℃に設定した箱型熱風乾燥機に入れて3-6%の含水量となるまで乾燥した。フレーク温度は80℃以下に保たれるように調整した。その後、30℃あるいはそれ以下に冷した。
【0053】
次いで、大豆フレークをエアーグラインダーを用いて60℃以下の低温で粉砕した。該粉砕は、粉砕粒子の径150μm以上が10%以下になるように行った。
【0054】
かくして、粉末化された処理大豆粉末は、青臭みがほとんどなく、大豆のほのかな香ばしさとわずかな甘み、旨味があり、口当たりが良かった。特に、コンデンスミルクのような旨味、甘みのある味を呈していた。
【0055】
実施例2および3
実施例1において、熱処理工程における温度および時間条件である100℃、140秒に代えて105℃、120秒(実施例2)および95℃、180秒(実施例3)を採用して、同様にして本発明大豆粉末素材試料を得た。
【0056】
比較例1
実施例1において、熱処理工程における温度及び時間条件を100℃、140秒から100℃、10分間に代えて同様にして、比較大豆粉末素材試料を得た。
【0057】
比較例2
実施例1と同様にして得られた、半割に分割した脱皮大豆を冷却後、乾燥し、次いで同様にエアーグラインダーを用いて60℃以下の低温で粉砕して比較大豆粉末素材試料を調製した。
【0058】
試験例1
物性試験
実施例1-3および比較例1-2で得た各大豆粉末素材試料の物性を、次のとおり試験した。
【0059】
(1) NSI (Nitrogen Solubility Index):
食品成分検査における公的分析法の一つである基準油脂分析試験法(日本油脂協会制定の分析法)の1.1.4.6水溶性窒素定数の中の1.1.4.6.A-71水溶性窒素指数(標準法)、またはAOCS(The American Oil Chemist's Society, 米国)の公式分析法BA-11-65 NSIに従う方法で分析した。
【0060】
(2) LOX (Lipoxigenase):
文献(Methods in Enzymology, 1962, No.5, p.539)に記載の酵素番号:1.13.1.12リポキシゲナーゼの力価の測定方法に従って分析した。
【0061】
(3) n-ヘキサナールの測定:
供試試料中のn-ヘキサナール量を液体クロマトグラフィーを用いて分析した。本発明試料の測定値は、比較例2で調製した試料における液体クロマトグラフィー分析結果を100%とする相対値(%)にて表示した。
【0062】
(4) ブリックス値 (Brix):
試料を10%となるように水に溶解し、攪拌器で撹拌後、内容物が沈殿しない間に、京都電子工業株式会社製屈折計RA-510にて分析した。このブリックス値は、蔗糖10%液のブリックス値を10(基準)として、試料中の水溶性固形分の含量を相対的に表すものである。
【0063】
得られた結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
試験例2
官能試験
実施例1-3および比較例1-2で得られた各試料および対照品試料について、年齢30-50歳の男女各5名をパネラーとして、それらの色、香りおよび味を下記基準によりパネルテストした。
評価基準:
5:非常によい
4:よい
3:どちらでもない
2:わるい
1:非常にわるい
得点は、10名の点数の平均点(小数点以下第2位を四捨五入)で評価した。また、各試料の色、香りおよび味について得られた平均点の総和を総合として評価した。得られた結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示す結果より、次のことが明らかである。
【0068】
即ち、実施例1-3で得られた本発明試料は、色合いが比較例2で得られた対照試料と同等にきれいで褐変がないばかりでなく、対照試料にはみられない甘さがあり、生臭味がなく、美味しく、見栄えも良いことが判った。
【0069】
これに対して、比較例1で得た比較試料は、色が変色し、甘さはあるが少し過加熱による苦味もあった。
【0070】
試験例3
成分分析試験
実施例2および比較例1-2で得られた本発明試料および比較試料について、それらに含有される糖質成分及び香気成分の分析を以下の通り実施した。なお、分析用サンプルは、各試料粉末を15w/w%の濃度となるように脱イオン水に分散させ、40℃にて1時間加温後、濾過して調製した。
【0071】
即ち、糖質成分の分析は、カラムとして「コスモシル 5NH2-MS」(ナカイラテスク社製)を利用したハイパーミュエーションリキッドクロマトグラフィー(HPLC, 島津製作所製)にて行い、示唆屈折計を用いて各糖質成分(スクロース、フラクトース、スタキオースなど)を検出した。
【0072】
また、香気成分の分析は、以下のヘッドスペース分析によった。即ち、BC-WAX(J&W社製)カラムを利用したガスクロマトグラフHP6890(Hewlett Packard社製)にサンプルを供し、トータルイオンクロマトグラムにて香気成分(アセトアルデヒド、ヘキサナール等の青臭み、生臭さの原因である香気成分、及びアミルアルコール、1-オクテン-3-オール等のきな粉臭及び穀物臭の原因である香気成分)を検出、定量した。なお、分析用サンプルとしては、各試料粉末に同重量の脱イオン水を加え、80℃にて1時間加温して調製したものを使用した。
【0073】
上記試験の結果、次のことが明らかとなった。
【0074】
即ち、香気成分の分析の結果、実施例2で得た本発明試料では、青臭み、生臭みの原因物質である低級アルデヒド類、特にヘキサナールが比較例2に示す対照試料(生大豆)を基準(1)としたとき1/10程度ではあるが僅かに検出された。また、実施例2で得た本発明試料におけるアミルアルコールなどのきな粉臭(焦げ臭み)の原因である香気成分の含有量は、対照とする比較例2の試料(生大豆)のそれに比して、約2倍に増加していることが明らかとなった。
【0075】
糖質成分の分析結果によれば、実施例2で得た本発明試料は、比較例2に示す対照試料(生大豆)に比して、スクロース、フラクトース、スタキオース等の糖質成分の含有量の上昇が明らかとなった。
【0076】
これらのことから、生大豆では特有の青臭みと渋みが強く、甘さは感じられないのに対して、本発明大豆粉末素材は、生臭みはないが仄かに青臭みが感じられ、また特有の穏やかな甘みのあることが明らかとなった。なお、大豆を過剰に加熱すると、甘みと共に加熱による焦げ臭さが増大し、美味しさは低下する。
【0077】
実施例4
大豆飲料の製造
予め0.02-0.3%の炭酸水素ナトリウムおよび0.02-0.3%のクエン酸三ナトリウムを溶解させた水に、実施例1-3で得た本発明大豆粉末素材を5-25重量%添加して分散溶解させ、15分以上膨潤させた。
【0078】
上記で得られた溶液を80-110℃で、1-15分間加熱して大豆中の水溶性成分を抽出し、さらに大豆中に含まれるLOX、トリプシンインヒビターなどの酵素を失活させた。
【0079】
尚、上記加熱は、添加水量を調節して、蒸気を直接溶液に注入して行うこともできる。
【0080】
加熱後、80℃以上の温度を保持したまま、0.02-0.3%のクエン酸水溶液を添加して、pHを中性に戻した。
【0081】
さらに、70℃以上の温度を保持したまま、均質機(ガウリン(GAULIN)社製LAB40)を用い、200-1000kgf/cm2の範囲の条件下で均質化処理を行った後、冷却して、ベース液を得た。
【0082】
上記で得られたベース液は、必要に応じて、希釈、調味することができる。
【0083】
得られたベース液またはその希釈もしくは調味液を、直接式殺菌機(スチームインジェクションまたはスチームインフュージョン)を用いて、所定時間、殺菌または滅菌処理した。その後、フラッシュ冷却(減圧冷却)によって70-80℃まで冷却した。フラッシュ冷却後、70℃以上の温度を保持したまま、アセプティック均質機を用い、150-300kgf/cm2の条件で均質化を行い、プレート冷却した。
【0084】
かくして得られた大豆飲料を、容器に無菌充填して大豆飲料製品とした。この際、容器としては、大豆飲料に風味劣化などの悪影響を及ぼす光、酸素などをできるだけ遮断することができる仕様とするのがよく、これによって、長期間、沈殿やオフフレーバーの発生しにくい大豆飲料製品を得ることができる。
【0085】
比較例3-4
実施例4において、実施例1-3で得た本発明大豆粉末素材に代えて、比較例1-2で得た比較大豆粉末素材を用いて、同様にして、大豆飲料製品を調製した。
【0086】
試験例4
官能試験
各製品試料について、年齢30-50歳の男女各5名をパネラーとして、それらの色、香りおよび味を下記基準によりパネルテストした。但し、供試試料としては各例中、粉末素材の15%添加分散溶液を用い、95℃、8分間の条件で抽出を行い、均質化を600kgf/cm2の条件で行ったものを利用した。
評価基準:
5:非常によい
4:よい
3:どちらでもない
2:わるい
1:非常にわるい
得点は、10名の点数の平均点(小数点以下第2位を四捨五入)で評価した。また、各試料の色、香りおよび味について得られた平均点の総和を総合として評価した。得られた結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3に示す結果より、次のことが明らかである。
【0089】
即ち、実施例1-3で得た本発明大豆粉末素材を利用して得られた大豆飲料製品は、いずれも甘み、旨味があり、濃厚な手作り豆腐のような味わいがあり、比較例2で得た比較大豆粉末素材を利用して得られた大豆飲料製品に比べ、甘くて、渋みや非加熱の生臭味もないものであった。また、比較例1で得た比較大豆粉末素材を利用して調製した大豆飲料製品に比べて、色も白く、きれいでザラツキがなく、喉越しもよいものであった。
【0090】
実施例5
まるごと大豆豆腐の製造
この例は、実施例1-3で得られた本発明大豆粉末素材を用いて、まるごと大豆を利用した豆腐(豆腐様食品)を製造する例であり、以下の通り実施された。
【0091】
(1) 大豆液の調製
即ち、先ず本発明大豆粉末素材150gを850gの水に撹拌しながら溶解した。約10-60分間放置した後、湯煎上で加熱(または蒸気を直接溶液に注入し加熱)した。94-102℃の適当な温度まで昇温し、所定の温度に達した後、湯葉まくが生じないように撹拌しながら2-15分間保持した。
【0092】
本発明大豆粉末素材の濃度が10-25重量%の範囲になるように水または温水加えて濃度調整して十分に撹拌した後、70℃以上の液温を保ちながら、均質機(ガウリン(GAULIN)社製LAB40)を用いて、200-1000kgf/cm2の条件で均質化した。均質化した大豆液を冷却処理し、10℃以下に冷却した。
【0093】
上記大豆液を用いて、以下の通り、充填タイプおよび絹ごしタイプ豆腐様食品のそれぞれを下記方法により製造した。
【0094】
(2) 充填タイプ豆腐様食品の製造
上記(1)で得た大豆液に、重量比率で0.2-0.8%になるように、MgCl2(にがり)水溶液、CaSO4(すまし粉)およびGDL(グルコノデルタラクトン)からなる群から選ばれる少なくとも1種の凝固剤を分散溶解させた。加工大豆粉末素材濃度が15重量%になるように加水して調製した凝固剤を加えた大豆液を、減圧下に脱気処理するかまたは消泡剤(信越シリコーンKM72F)0.01-0.015%を添加して泡の発生を抑えた後、樹脂容器(例えば、東缶興業社製、「ラミコンカップLS115-315」)に注入し、気泡を生じないように充填後、シール熱圧着した。
【0095】
充填熱圧着シール後は、食品衛生法に記載の充填豆腐の製造法に従い、90℃以上、30分以上の加熱処理を行い、次いで氷冷または水冷して、所望の豆腐様食品製品を得た。
【0096】
(3) 絹ごしタイプ豆腐様食品の製造
上記(1)で得た大豆液15重量%を、湯葉膜が生じない様に加熱撹拌しながら90℃以上に昇温した。次いで、溶液に対して重量比率で0.2-1.0%になるように、溶解したMgCl2、CaSO4およびGDLからなる群から選ばれる少なくとも1種の凝固剤を分散溶解させた。投入後、静置によって、30分間-1時間で液は凝固した。得られた凝固物を流水中にさらし、適当な大きさに切って、絹ごし豆腐様食品を得た。
【0097】
尚、もめん豆腐様食品なども、上記(1)で調製した大豆液から通常の方法に従って調製することができる。
【0098】
かくして得られた豆腐様食品は、いずれも、本発明大豆粉末素材の利用に基づいて、以下の如き利点を有している。即ち、本発明大豆粉末素材は、その加工適性が優れており、加熱レベルを抑えて調製されたものであるため蛋白質の熱変性の程度も少なく、溶解性が高く、しかも青臭みがないため、その利用によれば、従来オカラとして廃棄していた成分をも利用して豆腐様食品を得ることができる。また、この方法では、従来の膨潤(浸漬)工程も不要であり、廃水の低減と製造時間の短縮が可能である。更に、得られる豆腐様食品は、青臭みのない乳的な風味があり、しかも香ばしい濃厚な味わいを有している。更に、加熱処理によって細菌数が抑制されており保存性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生大豆を加熱処理して得られ、水溶性窒素指数が55-70であり、リポキシゲナーゼ(LOX)値が20以下であり、n-ヘキサナールを含まないかまたは生大豆中に含まれる量を100%としたときの相対値で10%以下の量で含み、且つ10重量%の濃度となるように水に溶解させた液の糖度屈折率(ブリックス値)が3.0-6.0であることを特徴とする加工大豆粉末素材。
【請求項2】
請求項1に記載の加工大豆粉末素材を固形分濃度で10-25重量%含有する大豆液を凝固させて得られる豆腐様食品。
【請求項3】
生大豆を95-105℃の温度下に水蒸気で120-210秒間熱処理後、微粉末化して請求項1に記載の加工大豆粉末素材を得ることを特徴とする加工大豆粉末素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の加工大豆粉末素材を固形分濃度で10-25重量%含有する大豆液を調製し、該液に凝固剤を加えて凝固させることを特徴とする請求項2に記載の豆腐様食品の製造方法。

【公開番号】特開2006−129877(P2006−129877A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35616(P2006−35616)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【分割の表示】特願2003−339284(P2003−339284)の分割
【原出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【出願人】(000206945)大塚食品株式会社 (17)
【Fターム(参考)】