説明

加工水、加工水製造装置、加工漬け方法

【課題】酸化を抑制する加工水、その製造装置、加工漬け方法を提供する。
【解決手段】窒素ガスボンベ(または大気中の窒素ガスを抽出する窒素ガス抽出器)と、生鮮食品の加工漬けに用いる加工水を加工対象である生鮮食品とともに保存する加工水タンクと、前記窒素ガス抽出機から抽出された窒素ガスを該加工水槽内の加工水に溶解させる窒素ガス溶解器とからなる加工水製造装置。窒素ガスを生鮮食品の加工漬けに用いる加工水と混合させ、その加工水に生鮮食品を投入する。生鮮食品の投入された加工水にさらに窒素ガスを混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類、青果物、畜肉など生鮮食品の保存・輸送の際に起こりえる雑菌の発生、酸化を抑制し、鮮度を保持するために用いる加工水、その製造装置、それを使用した加工漬けに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生鮮食品を漬け汁(本明細書においては、「加工水」と呼ぶ。)に漬けて、加工、輸送、保管などすることがなされている。特に、いか漁においては、漁船の内部に、味付け塩水または味付け醤油水などからなる加工水を保存する加工水タンクをあらかじめ準備して、漁獲したいかをすぐに加工水タンクの中に投入することがなされ、「いかの沖漬け」として知られている。
【0003】
また、鮮度保持のため冷水を摂氏零度近くまで冷却する場合もあり、雑菌の増殖を低減するために冷水詰めや氷詰め方法が生鮮食品の鮮度保持に多く利用されている。しかし、酸素などの気体が水に溶解する量は、低温になるについて増大する。したがって、冷水や氷は、酸化の媒体となる酸素の溶存量が多いという問題点があった。次の表は、温度と大気酸素溶解度との関係を示す表である。温度は摂氏であり、大気酸素溶解度は、DOすなわち1リットルあたりのミリグラム数で表している。
【0004】
【表1】

【0005】
生鮮食品とりわけ魚介類を生きたまま加工水に投入する場合には、該加工水に酸素の溶存量が多いことは、その魚介類の死後の酸化をひき起こしやすいのみならず、その魚介類の加工水投入後の呼吸を許すため、それが死に至るまでの時間を長くし、それまでにその魚介が暴れて加工水を汚すなどの好ましからぬ事態をもひき起こす可能性がある。
【0006】
特許文献1には、醤油に液体状態または超臨界状態の二酸化炭素を接触させて醤油を製造する方法が示されている。特許文献2には、液状食品に、超臨界ないし亜臨界状態の二酸化炭素流体を微小気泡状で接触させて、醤油などの液状食品の有臭成分を除去する方法が示されている。特許文献3には、窒素ガスを用いた保管庫が示されている。特許文献4には、窒素ガス循環型脱酸素装置が示されている。特許文献5には、大気中から窒素を得る窒素製造装置が示されている。非特許文献1には、窒素ガス置換包装の魚介類への応用について触れている。非特許文献2には、活魚輸送の問題点として溶存酸素が低下するとすぐに死ぬことが挙げられている。
【特許文献1】特開平3−27268号公報
【特許文献2】特開平5−207863号公報
【特許文献3】特開平9−224563号公報
【特許文献4】特開2000−176436号公報
【特許文献5】特開2005−200245号公報
【非特許文献1】株式会社流通システム研究センター著 「水産物の鮮度保持マニュアル」季刊フレッシュフードシステム増刊号第31巻3号通巻395号 平成14年6月10日発行
【非特許文献2】太田静行著 「水産物の鮮度保持 増訂版」筑波書房 1990年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、冷水が、酸素溶存量が多く、生鮮品の酸化、劣化を早めることを解決する点にある。すなわち、本発明の目的は、酸化を抑制する加工水、その製造装置、加工漬け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これまで鮮魚等を水槽で保存しようとすると、酸素を供給しなければならないという常識があったものに対して、逆転の発想として天啓を得て、完成されたものである。すなわち、個体の生命を維持することはあきらめて、組織体としての魚肉や内蔵などの鮮度を維持すべく、酸化、腐敗を防ぐ目的で、水槽内の酸素溶存度を下げる。そのために窒素を溶解させた加工水を用いるのが適切であると考えた。
【0009】
【表2】

【0010】
表2は、平成17年11月12日の朝10時から15時30分にかけて発明者が行った実験のデータを示す。当日の天気は晴れで、朝10時の気温は摂氏11度であった。タンクは300リットルのものを準備し、水道水を300リットル注入した後、実験開始まで30時間、静止状態を保った。窒素はボンベに入った窒素ガス3.5立方メートルを使用した。10時30分から15時30分までの5時間のうち、11時から12時までの一時間に渡って窒素ガスの水への注入圧を調整し、連続0.2パスカルで12時から15時30分まで注入し続けた。水中の酸素溶存量は、酸素溶存濃度計(又は溶存酸素計、DOセンサ)と呼ばれる市販の物を使用した。この実験にてわかるように、窒素ガスを水中に注入することにより、水中の酸素溶存量は、明らかに減少する。そして、醤油や塩水などからなる加工水の場合も同様の結果を示す。
本発明の発明者は、この知見に基づいて、本発明に係る加工水を発明した。すなわち、本発明に係る加工水は、生鮮食品の加工漬けに用いる加工水であって、該加工水中に窒素ガスを溶解させて、酸素溶存量を減少させたものである。
【0011】
また、本発明に係る加工水製造装置は、窒素ガスボンベ(または、大気中の窒素ガスを抽出する窒素ガス抽出器)と、生鮮食品の加工漬けに用いる加工水を加工対象である生鮮食品とともに保存する加工水タンクと、前記窒素ガス抽出機から抽出された窒素ガスを該加工水槽内の加工水に溶解させる窒素ガス溶解器と、からなる加工水製造装置である。前記窒素ガスボンベの代わりに、大気中の窒素ガスを抽出する窒素ガス抽出器を用いることもできる。
【0012】
本発明に係る加工漬け方法は、窒素ガスボンベから窒素ガスを供給する窒素ガス供給ステップと、該窒素ガス供給ステップにて供給された窒素ガスを生鮮食品の加工漬けに用いる加工水と混合させる窒素ガス溶解ステップと、該窒素ガス溶解ステップにて生成された窒素ガスの溶解した加工水に生鮮食品を投入する生鮮食品投入ステップとからなる加工漬け方法である。窒素ガスボンベから窒素ガスを供給する代わりに大気中の窒素ガスを抽出することとしてもよい。
【0013】
また、前記加工漬け方法において、生鮮食品を投入した後に、さらに窒素ガスを加工水に溶解させること、または溶解させ続けることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加工水を用いれば、溶存酸素量の低い加工水を提供できる。これにより生鮮食品の個体としての生命を窒息により早く終わらせて、組織体としての鮮度を保持することが期待できる。さらに、本発明に係る加工水製造装置及び加工漬け方法によれば、溶存酸素量の少ない加工水を製造し、鮮度保持の優れた加工漬けが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上述の表2に述べた実験においては、窒素ガスボンベを用いたが、大気中の窒素を抽出して用いれば、ボンベの移動などの作業が要らなくなる点において望ましい。特許文献5に示すような大気中から窒素を得る窒素製造装置が知られている。市販されているものでは、大阪市東淀川区の株式会社片山化学工業株式会社が提供する脱気装置を用いることができる。あらかじめ用意した加工水タンク内の窒素ガス溶解器に向けて、窒素ガスを送り、溶存酸素の少ない加工水を作ることにより、窒素ガスを封入した加工水が製造される。さらに、この装置を加工水タンクごと漁船などに積んで、魚介などの生鮮食品を投入前にこの装置を働かせるだけでなく、生鮮食品投入後も装置を働かせることにより、よりすぐれた鮮度保持ができる。
【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1の構成を示すブロック図である。図1の窒素ガスボンベ101は、気体の状態の窒素ガスの容器である。窒素ガスボンベ101内の窒素ガスは、電磁弁102、窒素ガス計103を経て、窒素ガス溶解器105に送られる。窒素ガス計の読み取った情報は、制御器104に伝わり、制御器104は、電磁弁102をオンオフ調整して窒素ガスの送る量を調整する。窒素ガス計103の代わりに溶存酸素計を用いることもできる。溶存酸素計は、液体中の溶存酸素を計る機能を有するのみならず、気体中の酸素量を測定することの可能なタイプのものもあるからである。溶存酸素計として、液体中の溶存酸素を計る機能のみを持つタイプを用いる場合は、その溶存酸素系のセンサー部が加工水タンク106の内部の加工水107に浸るように構成することとなる。窒素ガス溶解器105は、加工水タンク106の内部の加工水107に浸るように配置される。そして、窒素ガス溶解器105は、加工水107中に窒素ガスを放出し、加工水107中に窒素ガスを溶け込ませるように働く。加工水タンク106は、加工水107を保存するのみならず、魚介などの生鮮食品をも保存すべく、十分に頑強な構造をもつものである。加工水107は、塩水、醤油水などの漬け汁である。
【実施例2】
【0017】
図2は、図1に示す実施例1における窒素ガスボンベの代わりに、窒素ガス抽出器201を用いた実施例を示すブロック図である。窒素ガス抽出器は、大気中の窒素ガスを抽出する機能を有するものであり、上述した片山化学工業株式会社の提供する脱気装置を用いることができる。その他の構成は、図1に示す実施例1と同様である。本実施例においては、窒素ガス抽出器202により抽出された窒素ガスは、水タンク206の内部の加工水207中に所定の圧力で爆気され、注入される。必要があれば、窒素ガス抽出器202から抽出された窒素ガスを図示しないコンプレッサーを通すことにより爆気のための圧力を増すことも可能である。こうして加工水タンク206内の加工水207の酸素溶存量は減少する。
【実施例3】
【0018】
図3は、実施例3の構成を示すブロック図である。図3の実施例が図2の実施例と異なるのは、加工水タンク306内の加工水307をポンプ310で汲み上げて冷却器311で冷却して加工水タンク306に戻すことである。ほかの構成は図1や図2に示す実施例と同様である。加工水タンク306内の加工水307を冷却することにより、魚介などをすぐに殺す効果と死後の鮮度保持をする効果がより高く期待できる。冷却器311は、製氷機とすることもできる。たとえば、シャーベット上の氷をつくって加工水306に戻すことにより、加工水の水面がシャーベット上の氷で覆われるから、空気中の酸素が加工水に溶け込むことを防ぐ効果をも期待できる。
【実施例4】
【0019】
図4は、実施例4の構成を示すブロック図である。図4の液体窒素ボンベ401は、通常のガス状の窒素ボンベではなくて、液体窒素を詰めたボンベである。液体窒素ボンベ401から窒素ガスを抽出するには、気化器408を通す必要がある。実施例4では、この気化器408に熱交換器409を接触させて、液体窒素が気化する際に熱交換して、加工水407を冷却するものである。加工水タンク406内の加工水407は、ポンプ410により汲み上げられて熱交換器409を通って冷却されて、加工水タンク406に戻される。
【0020】
上記窒素ガス抽出器は、大気中の空気から窒素を抽出する機械をもちいることとしたが、電源の必要な機器である。その点、窒素ガスのボンベを用いることで、電源の不要な窒素ガス供給が可能となる。
【0021】
上記四つの実施例のうち、実施例3と実施例4においては、いずれも加工水を汲み上げて冷却することとしたが、その際に、汲み上げた加工水に窒素ガスを封入することとする他の実施例も可能である。その際には、汲み上げた管の途中に封入のための管をさらに設けて、そこから窒素ガスをコンプレッサーにより注入する構成が考えられる。さらに、魚介類の投入前は、加工水タンクの底近くに設けた窒素ガス溶解器から窒素ガスを放出し、魚介類投入後は、加工水を汲み上げて冷却する途中で窒素ガスを封入するように切り替えることとする、他の変形実施例も可能である。低温のほうが、ガスの溶解度が高まることに基づく。
【0022】
上記四つの実施例に於ける加工水タンクは、漁船などで漁獲した鮮魚を保存するのに用いる水槽として、そのまま用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
生鮮食品を水槽に入れて保存するのに適したもの、特に魚介類の保存に適した加工水を提供できる。特に漁船において漁獲した鮮魚を保管する水槽に用いるのに適している。海産魚は、酸素摂取能力が淡水魚に比べて弱いので溶存酸素量が低下するとすぐ死ぬといわれる。さんまやさばなどは、生産時に船内の水槽に入れるときまだ生きているが、死ぬまでの間に長い時間暴れるより、溶存酸素量の少ない加工水にいれ即殺するほうが、組織体や内蔵などの鮮度保持につながる。この加工水製造装置を、漁船に搭載することだけでなく、陸送に用いるトラックや貨物列車に搭載するコンテナなどに応用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の構成を示すブロック図。
【図2】実施例2の構成を示すブロック図。
【図3】実施例3の構成を示すブロック図。
【図4】実施例4の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0025】
101 窒素ガスボンベ
102、202 電磁弁
103、203 窒素ガス計(又は溶存酸素計)
104、204 制御器
105、205 窒素ガス溶解器
106、206 加工水タンク
107、207 加工水
201、301 窒素ガス抽出器
310、410 ポンプ
311 冷却器(または製氷機)
401 液体窒素ボンベ
408 気化器
409 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮食品の加工漬けに用いる加工水であって、該加工水中に窒素ガスを溶解させて、酸素溶存量を減少させた加工水。
【請求項2】
窒素ガスを供給する窒素ガスボンベと、
生鮮食品の加工漬けに用いる加工水を、加工対象である生鮮食品とともに保存する加工水タンクと、
前記窒素ガスボンベから供給される窒素ガスを該加工水槽内の加工水に溶解させる窒素ガス溶解器と、
からなる加工水製造装置。
【請求項3】
大気中の窒素ガスを抽出する窒素ガス抽出器と、
生鮮食品の加工漬けに用いる加工水を、加工対象である生鮮食品とともに保存する加工水タンクと、
前記窒素ガス抽出機から抽出された窒素ガスを該加工水槽内の加工水に溶解させる窒素ガス溶解器と、
からなる加工水製造装置。
【請求項4】
窒素ガスボンベから窒素ガスを供給する窒素ガス供給ステップと、
該窒素ガス供給ステップにて供給された窒素ガスを生鮮食品の加工漬けに用いる加工水と混合させる窒素ガス溶解ステップと、
該窒素ガス溶解ステップにて生成された窒素ガスの溶解した加工水に生鮮食品を投入する生鮮食品投入ステップと
からなる加工漬け方法。
【請求項5】
大気中の窒素ガスを抽出する窒素ガス抽出ステップと、
該窒素ガス抽出ステップにて抽出された窒素ガスを生鮮食品の加工漬けに用いる加工水と混合させる窒素ガス溶解ステップと、
該窒素ガス溶解ステップにて生成された窒素ガスの溶解した加工水に生鮮食品を投入する生鮮食品投入ステップと
からなる加工漬け方法。
【請求項6】
窒素ガスボンベから窒素ガスを供給する窒素ガス供給ステップと、
該窒素ガス供給ステップにて供給された窒素ガスを生鮮食品の加工漬けに用いる加工水と混合させる窒素ガス溶解ステップと、
該窒素ガス溶解ステップにて生成された窒素ガスの溶解した加工水に生鮮食品を投入する生鮮食品投入ステップと、
該生鮮食品投入ステップにて生鮮食品の投入された加工水にさらに窒素ガスを混合させる窒素ガス再混合ステップと
からなる加工漬け方法。
【請求項7】
大気中の窒素ガスを抽出する窒素ガス抽出ステップと、
該窒素ガス抽出ステップにて抽出された窒素ガスを生鮮食品の加工漬けに用いる加工水と混合させる窒素ガス溶解ステップと、
該窒素ガス溶解ステップにて生成された窒素ガスの溶解した加工水に生鮮食品を投入する生鮮食品投入ステップと、
該生鮮食品投入ステップにて生鮮食品の投入された加工水にさらに窒素ガスを混合させる窒素ガス再混合ステップと
からなる加工漬け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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