説明

加工用原紙

【課題】 寸法安定性及び剥離剤の目止め性に優れ、製紙原料として再生可能な加工用原紙を提供する。
【解決手段】 カナダ標準ろ水度が300ml以上500ml以下の木材パルプを用いてなる基紙に、ガラス転移温度が20℃以上100℃以下のアクリル系樹脂を含浸させ、次いで、少なくとも片面に、少なくとも顔料及びバインダーからなる目止め層を設けてなる加工用原紙。前記バインダーが、ゲル含量が80%以上であるラテックスであり、前記目止め層の顔料とラテックスの質量比は100/45以上100/15以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維プリプレグや合成皮革などの製造工程中に、キャリアーとして使われる工程紙、又は、粘着ラベルや粘着シートなどに使用する剥離紙に加工するための加工用原紙に関し、特に寸法安定性や剥離剤の目止め性に優れると共に、製紙原料として再生可能な加工用原紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンラミネート紙、グラシン紙、クレーコート紙、プラスティックフィルムなどの基材に、シリコーン系樹脂やアルキド系樹脂などの剥離層を設けた離型シートは、炭素繊維プリプレグ、塩ビレザーやポリウレタンレザーなどの合成皮革、セラミックシートなどの製造工程に使用される工程紙や、粘着ラベル、粘着シート、粘着テープ等の剥離紙、食品分野におけるベーキングペーパーやベーキングトレーなど様々な用途に使用されている。このような離型シートの原紙に求められる品質として、シリコーンなどの剥離剤に対する目止め性以外にも、耐溶剤性、耐熱性、寸法安定性、平滑性、及び強度などが求められる。
【0003】
工程紙の用途の一つとして、繊維強化複合材料の炭素繊維プリプレグ用工程紙が挙げられる。上記炭素繊維プリプレグは、テニスラケットやゴルフクラブ、釣竿のシャフトなどのスポーツレジャー関連から飛行機の尾翼などの航空機関連まで広く用いられている。この炭素繊維プリプレグは炭素繊維シートにエポキシ系樹脂、ビスマレイミド系樹脂などの熱硬化性の樹脂を含浸して熱硬化したものであり、炭素繊維プリプレグの製造工程において上記した工程紙が用いられる。
【0004】
即ち、炭素繊維プリプレグは、工程紙上で炭素繊維シートに樹脂を含浸させ、熱で半硬化させることにより、柔軟性のある状態の炭素繊維プリプレグが、その片面または両面が剥離工程紙によって支持された状態で提供される。この剥離工程紙は成型品の製造時に剥がされ、柔軟性のあるプリプレグを成型した後、樹脂を完全に硬化することにより、最終成型品が得られる。
【0005】
このような用途に適応させるために、工程紙には適度な剥離性が必要とされる。一般に工程紙や剥離紙として、ポリエチレンラミネート紙、グラシン紙、上質紙、コート紙、プラスチックフィルム等の基材表面にアルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等の剥離層を設けたものが使用されている。
【0006】
ポリエチレンラミネート紙(特許文献1)は、剥離剤の目止め性が良好で剥離性が優れていること、良好な表面光沢を有していること、平滑性が得やすいこと、耐水性、耐溶剤性も良いことから、工程紙の基材として広く使用されている。しかしながら、近年環境適応性が重視されるに至り、疎水性であるため、回収し、製紙工程で再生利用することが困難であるポリエチレンフィルムは、廃棄処分されているというのが現状である。また、両面ポリエチレンラミネートしたものを、炭素繊維プリプレグや合成皮革の工程紙として使用した場合には、工程紙中の水分がラミネート層から蒸発しにくいため、樹脂を硬化させる工程で熱にさらされた時にブリスター(火膨れ)が起こるという欠点がある。
【特許文献1】特開平5−169598号公報
【0007】
一方、ポリエチレンラミネートタイプの基材と比較すると、シリコーン樹脂等の剥離剤溶液の浸透の抑制性能はやや劣るものの、高度に叩解したパルプを原料とすることにより剥離剤溶液の浸透を抑制した、グラシン紙タイプの剥離紙用原紙(特許文献2)も、我が国では広く用いられている。しかしながら、グラシン紙は高度に叩解されているため寸法安定性が劣り、工程紙として使用した場合、熱工程で収縮し、炭素繊維プリプレグや合成皮革が工程紙から剥がれて浮き上がり、工程紙とプリプレグとの間でボコツキが発生するという欠点がある。
【特許文献2】特開平9−41286号公報
【0008】
また、グラシン紙は原料のパルプを極度に叩解して製造されるため、繊維間結合が強固になっており、離解再生利用しようとしても、水中で容易に分散しないという欠点を有している。さらに、機械的処理を強化し、あるいは化学的処理を導入することによって水中に分散しても、高度に叩解処理された結果、繊維が著しく損傷している上離解処理でさらに繊維の損傷が進行するので、一般の紙の原料として再利用することは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の第1の目的は、特に産業用工程紙の基材として、あるいは剥離紙用原紙手して使用される加工用原紙であって、寸法安定性や剥離剤の目止め性に優れると共に、製紙原料として再生可能な加工用原紙を提供することにある。
本発明の第2の目的は、原紙の一方の表面に順次目止め層及び剥離層を設けた加工紙であって、寸法安定性に優れると共に、製紙原料として再生可能な加工紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題について鋭意研究を重ねた結果、カナダ標準ろ水度が特定の範囲にある木材パルプを用いてなる基紙の表面に、特定のアクリル系樹脂を含浸させ、得られた原紙の少なくとも片面に、少なくとも顔料及びバインダーからなる目止め層を設けた場合には、寸法安定性や剥離剤の目止め性に優れると共に、製紙原料として再生可能であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち本発明は、カナダ標準ろ水度が300ml〜500mlの木材パルプを用いてなる基紙に、ガラス転移温度が20℃〜100℃のアクリル系樹脂を含浸させてなる原紙の少なくとも片面に、少なくとも顔料及びバインダーからなる目止め層を設けてなる加工用原紙であって、前記バインダーが、ゲル含量が80質量%以上であるラテックスであると共に、前記目止め層の顔料とラテックスの質量比が100/45〜100/15であることを特徴とする加工用原紙である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の加工用原紙は、寸法安定性および剥離剤の目止め性に優れると共に、製紙原料として再生可能である。また、目止め層の上に剥離層を設けた加工紙は、種々の用途に使用することができ、離型シートとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の加工用原紙に用いられる基紙に対しては、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、サルファイトパルプ等の化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプ、リファイナーグラインドパルプ等の機械パルプ等、木材パルプを用いることが好ましいが、更に、新聞、コート紙、上質紙等から得られる再生パルプ等を、適宜配合してもよい。また、必要に応じてケナフ、麻、竹等の非木材系のパルプ、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等の、セルロース繊維以外の繊維材料を配合することも可能である。
【0014】
本発明で使用するパルプの叩解度は、カナダ標準ろ水度で300ml〜500mlであることが必要である。カナダ標準ろ水度が300ml未満であると、繊維間の結合面積が多いため、寸法安定性が悪いだけでなく、抄紙時のワイヤーパートにおける脱水性が低下するので抄紙速度が低下し、生産性が悪化する。また、カナダ標準ろ水度が500mlを超えるとポーラスな原紙構造になるため、剥離剤の目止め層や剥離剤が基紙にしみ込みやすくなるので、目止め層の塗工量が増加する上基紙の平滑性が低下するので好ましくない。
【0015】
上記基紙の抄造時に、寸法安定性、剥離剤の目止め性、離解性等に影響を与えない範囲であれば、紙力増強剤、定着剤、歩留り向上剤、染料などの内添薬品、及び、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、水酸化アルミニウムなどの内添填料を添加することができる。
【0016】
本発明の加工用原紙は、寸法安定性の観点から、加熱後の伸び率が0.7%以下であることが好ましい。0.7%を越えると、製造時の加熱工程で、炭素繊維プリプレグや合成皮革等が工程紙から浮き上がり、工程紙と炭素繊維プリプレグ、合成皮革等との間でボコツキが発生するので好ましくない。
【0017】
本発明においては、加工用原紙に寸法安定性を付与するために、基紙にガラス転移温度が20℃以上100℃以下のアクリル系樹脂を含有させることが必要である。上記アクリル系樹脂としては、アクリル系ポリマー、アクリル−スチレン系共重合体等のアクリル系樹脂共重合体や変性アクリル系樹脂共重合体を、単独で又は2種以上を混合して使用することが可能である。
【0018】
本発明で使用するアクリル系樹脂としては、例えばアクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられるが、さらに必要に応じて他のモノマー(スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルバーサテート、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド等)を共重合したものでもよい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、構成アルコールの炭素数が1〜20程度のものが好ましい。
【0019】
また、アクリル系樹脂のガラス転移点は、20℃〜100℃の範囲であることが必要である。ガラス転移点が20℃未満であると、樹脂の粘着性が高いため、再生時に離解し難くなる。また、ガラス転移点が100℃を超えると紙が硬くなり過ぎ、例えば、直径の小さいロールやバーを通過するときに紙が折れたり、亀裂が入るので好ましくない。
【0020】
アクリル系樹脂の含有量は、原紙の質量当たり3質量%〜20質量%であることが好ましい。3質量%未満では寸法安定性が十分に付与されず、また、20質量%を超えると、寸法安定性は十分であるが、樹脂量が過剰になるために再生性が損なわれるだけでなく、生産コストが高くなるので、実用的でない。また、アクリル系樹脂に、分散剤、離型剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、防腐剤、耐水化剤等の通常使用される各種助剤を含有させても良い。
なお、ここで示すアクリル系樹脂の含浸量は、アクリル系樹脂の含浸後の原紙の質量に対する割合で示され、原紙の上に設けられる塗工層(剥離剤の目止め層)、剥離層などの質量は、含浸するアクリル系樹脂の比率を計算するときの質量には含まれない。
【0021】
アクリル系樹脂を含有させる好ましい方法は含浸法であり、この場合、サイズプレス、ゲートロールコーター、シムサイザーなどの既知の含浸機を用いることができる。
【0022】
寸法安定性を得る観点から、前述のアクリル系樹脂は、基紙の表層だけではなくある程度紙層中に浸透されていることが好ましい。このため、基紙のステキヒトサイズ度は1秒以下であることが好ましく、無サイズ紙であることが特に好ましい。
【0023】
本発明の加工用原紙は、剥離剤の目止め性の観点から、王研透気抵抗度が4000秒以上あることが好ましい。4000秒未満では、溶剤系の剥離剤を使用した際の目止め性が不足する。従って、本発明の加工用原紙は、少なくとも片面に顔料及びバインダーを主成分とする目止め層を設ける。目止め層は、片面だけに設けても両面に設けてもよい。
【0024】
目止め層に使用するバインダーとしては、トルエンに対するゲル含量が80質量%以上であるラテックスを使用することが必要である。ラテックスとしては、スチレンブタジエン系共重合体ラテックス、アクリロニトリルブタジエン系共重合体ラテックス、酢酸ビニル系共重合体ラテックスなどの各種ラテックスを用いることができる。なお、本明細書において「ラテックスの重量」という場合は「ラテックス中の固形分の重量」を意味する。ゲル含量についても、ラテックス中の固形分中に含有されるゲルの割合を意味する。
【0025】
ゲル含量が80質量%未満であることは、以下の二つの観点から好ましくない。
(1)溶剤シリコーンなど、溶剤系の剥離剤液を塗布する際における、剥離剤液中のトルエンやヘキサン等の溶剤に対する原紙の耐溶剤性が不足する。従って溶剤により目止め層が劣化し、剥離剤が基紙に浸透して無駄になるので剥離性が低下する。
【0026】
(2)炭素繊維プリプレグや合成皮革の工程紙として使用した場合には、炭素繊維プリプレグに含浸する樹脂あるいは合成皮革に用いる合成樹脂は、トルエンやジメチルホルムアルデヒドなどの溶剤で希釈されているため、これらの溶剤によって目止め層が劣化し剥離しやすくなる結果、繰り返し使用回数が減少する。更に、目止め層が炭素繊維プリプレグや合成皮革に転移するので、炭素繊維プリプレグや合成皮革の外観不良の原因となる。
【0027】
本発明の加工用原紙の目止め層に使用するラテックスは、顔料100質量部に対して15〜45質量部配合することが好ましく、より好ましくは20〜35質量部である。15質量未満であると、顔料と顔料の間にラテックス樹脂を充分に充填することができず、微細な空隙が発生するので、剥離剤液が目止め層および基紙内部に浸透することを抑制することができない。従って、均一な剥離層を得るために、高価な剥離剤の塗工量を増加させなければならないので製造コストが高くなる。
【0028】
また、45質量部を超えると、造膜性の高い合成ラテックスの比率が高すぎて、剥離紙として使用した後の、再利用に際するパルパーによる離解性が低下するため、製紙原料として再利用することが困難になる。また、ラテックスが多すぎると加工用原紙表面のベタツキをより助長するため、巻取保管時にブロッキングを起こす可能性もあり、好ましくない。
【0029】
本発明の加工用原紙の目止め層に使用する顔料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、ホワイトカーボン、サチンホワイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏、水酸化アルミニウム、焼成カオリン、デラミネーテッドカオリン、シリカ、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、亜硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機顔料や、プラスチックピグメントなどの有機顔料が挙げられる。これらの顔料は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
目止め層に使用するバインダーとしては、前記した特定のゲル含量を有するラテックス以外に、耐溶剤性を損なわない範囲で、カゼイン、大豆蛋白や合成蛋白、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、エステル化デンプン等のデンプン類、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体澱粉、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン等の中から適宜選択して使用することができる。これらのバインダーは単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
目止め層の塗工量は7g/m以上20g/m以下の範囲であることが好ましい。塗工量が7g/m未満であると、基材表面のパルプ繊維間の空隙を完全に目止めすることが出来ないため、剥離剤の基材内部への浸透を抑えることが出来ない。また、塗工量が20g/mを超えても塗工量の増加に伴う品質の向上が期待できないので不経済である上、塗工面のベタツキが生じたり、離解再生性が低下するので好ましくない。
【0032】
本発明における目止め層には、分散剤、離型剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、防腐剤、耐水化剤等の通常使用される各種助剤を含有させても良い。離型剤としてはステアリン酸カルシウム等の脂肪酸若しくは高級脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、高級アルコール、ワックスエマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、ノニオン系界面活性剤等を使用することができる。
【0033】
目止め層の塗工液は、公知の如く、必要な成分を混合し、水を加えて固形分濃度を最終的に調整することによって容易に調製される。塗工液中の固形分濃度は40質量%〜70質量%であることが好ましい。原紙に上記塗工液を塗工する方式は、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の塗工機を用いた、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0034】
本発明の加工用原紙の坪量は、50g/m以上200g/m以下であることが好ましい。50g/m未満では、紙の腰及び強度が低いため、使用時に断紙やシワが発生しやすくなる。200g/mを越えると、抄紙時の乾燥負荷が増すので生産性が低下し、好ましくない。
【0035】
以上のようにして得られた本発明の加工用原紙は、使用目的に応じて種々の表面処理を施し、工程紙や剥離紙として使用することができる。
本発明の加工用原紙は、特に炭素繊維プリプレグ製造用の工程紙に適しているが、合成皮革、セラミックシート、マジックフィルム等の工程紙の基材にも利用できる。
【0036】
本発明の加工用原紙を剥離紙に加工するために使用する場合には、加工用原紙の目止め層の上に更に剥離剤を塗布してから、剥離層を設ける。剥離剤としては、シリコーン系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂など、既知の剥離剤を用いる事ができる。剥離剤は、溶剤系であっても、無溶剤系であってもよい。これらの剥離剤を加工用原紙に塗工する方法としては、マルチロールコーター、グラビアコーター等が使用される。この場合の塗工量は0.5〜2.0g/m、より好ましくは0.5〜1.5g/mの範囲で適宜調節される。なお、塗工量が0.5g/m未満では剥離層としての作用効果に劣り、2.0g/mを越えても効果は向上しないので不経済であり、実用的でない。
【0037】
更に、本発明の加工用原紙は、特に工程紙用の基材に適しているが、一般印刷、袋、粘着ラベル等、その他の用途にも利用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれらによって何等制約を受けるものではない。なお、例中の「部」、「%」は、それぞれ「質量部」、「質量%」を示す。
【0038】
<品質評価方法>
(1)ラテックスのゲル含量
50℃のホットプレート上に剥離紙を置き、ラテックス約0.2gを薄く伸ばしてシート状にした。シート状にしたフィルムを、送風乾燥機を用いて105℃で2時間乾燥した。予め乾燥し、質量を測定してあるポリエチレン製の茶袋に、作製したフィルムを入れ、質量を測定した。一定量のトルエンに、フィルムを入れた茶袋を浸漬してトルエンを茶袋中に充填し、16時間密閉して放置した。フィルムを茶袋から取り出し、トルエンで軽く洗浄した。ついで、防爆性乾燥機によって120℃で乾燥した後、質量を測定した。未溶解分の乾燥質量を、トルエン浸漬前のフィルム質量に対する%で記した。
【0039】
(2)寸法安定性
サンプルを幅方向に150mm幅に切断し、110℃で10分間加熱絶乾した。23℃、50%で2時間放置した後の伸び率によって寸法安定性を評価した。計算式は以下の通りである。
(2時間放置後の長さ−加熱絶乾直後の長さ)/加熱絶乾直後の長さ*100(%)
【0040】
(3)王研透気抵抗度
Japan Tappi No.5に準じて測定した。
【0041】
(4)剥離剤の目止め性
油性マジックインキを用いて剥離紙原紙の目止め付与剤を塗被した面に筆記し、非印字面へのマジックインキの裏抜けの程度を目視によって観察し、下記のように評価した。
評価基準
○:裏抜け無し
△:一部裏抜け
×:全面に裏抜け
【0042】
(5)離解性
Tappi標準の離解機を用い、試料濃度を1.5%、容量を2.0リットル、攪拌時間を10分間としたときの、剥離紙試料の離解の程度を評価した。
評価基準
○:離解性良好
△:一部未離解物が残る
×:離解不能
各評価結果を表1に示す。
【実施例1】
【0043】
LBKP(CSF350ml)が90質量%、NBKP(CSF600ml)が10質量%で混合ろ水度が375mlの原料パルプを用い、紙力剤としてカチオン化澱粉を原料パルプに対して0.3質量%添加した。次いで、硫酸バンドを原料パルプに対して1.5質量%添加した後、長網多筒式の抄紙機を用いて抄紙を行った。次いで、抄紙工程の中間に設置されたサイズプレスにより、ガラス転移温度が24℃のアクリル系樹脂(サイデン化学製の商品名:EK−61)を、紙質量当たり4質量%となるように含浸させて、坪量65g/mの原紙を製造した。
【0044】
この原紙に、顔料としてカオリン(エンゲルハルド社製の商品名:ウルトラホワイト90)100質量部、バインダーとしてゲル含量90%のスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(PA−0330、日本A&L社製)20質量部、及び分散剤、消泡剤、潤滑剤を適宜配合した目止め層の塗工液を調製した。
【0045】
上記の方法により、固形分が63%となるように水を加えて調製した塗工液を用い、基紙の片面に乾燥塗工量が10g/mになるように、塗工液をブレードコータで塗工して加工用原紙を製造した。この加工用原紙について寸法安定性、王研透気抵抗度、剥離剤目止め性、及び離解性の評価を行った。
【実施例2】
【0046】
アクリル系樹脂の含浸量を紙質量あたり10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【実施例3】
【0047】
塗工液のバインダーとして、ゲル含量が85%であるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(PA9276、日本A&L社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【実施例4】
【0048】
塗工液の顔料とラテックスの比率を100/35に変更したこと以外は実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0049】
[比較例1]
原料パルプとしてCSF250mlのLBKP100質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0050】
[比較例2]
サイズプレス液として、ガラス転移温度0℃のアクリル系樹脂(商品名:GF−5、日本NSC社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0051】
[比較例3]
アクリル系樹脂の含浸量を、原紙質量あたり2.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0052】
[比較例4]
アクリル系樹脂の含浸質量を原紙質量あたり25質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0053】
[比較例5]
塗工液のバインダーとして、ゲル含量が67%であるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(PA2055、日本A&L社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0054】
[比較例6]
塗工液中の顔料とラテックスの比率を100/10に変更したこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0055】
[比較例7]
塗工液中の顔料とラテックスの比率を100/50に変更したこと以外は、実施例1と同様にして加工用原紙を得た。
【0056】
以上の結果を表1に示した。
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜4は、透気抵抗度が高くて剥離剤の目止め性及び離解性に優れていることが実証された。一方、比較例1は寸法安定性及び離解性が悪く、比較例2、4、7は離解性が悪い。比較例3は寸法安定性が悪く、比較例5、6は透気抵抗度が低く目止め性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の加工用原紙は、寸法安定性及び剥離剤の目止め性に優れているので、更に表面処理を施すことにより、剥離紙として、あるいは炭素繊維プリプレグや合成皮革などの製造工程中にキャリアーとして使われる工程紙として利用できる上、粘着ラベルや粘着シートなどにも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カナダ標準ろ水度が300ml〜500mlの木材パルプを用いてなる基紙に、ガラス転移温度が20℃〜100℃のアクリル系樹脂を含浸させてなる原紙の少なくとも片面に、少なくとも顔料及びバインダーからなる目止め層を設けてなる加工用原紙であって、前記バインダーが、ゲル含量が80質量%以上であるラテックスであると共に、前記目止め層の顔料とラテックスの質量比が100/45〜100/15であることを特徴とする加工用原紙。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂の含有量が、基紙の質量と前記アクリル系樹脂の質量の合計に対し、3質量%〜20質量%である、請求項1に記載された加工用原紙。
【請求項3】
前記基紙のステキヒトサイズ度が1秒以下である、請求項1又は2に記載された加工用原紙。
【請求項4】
前記基紙が無サイズ紙である、請求項1〜3の何れかに記載された加工用原紙。
【請求項5】
用途が産業用工程紙原紙である請求項1〜4の何れかに記載された加工用原紙。
【請求項6】
用途が剥離紙用原紙である請求項1〜4の何れかに記載された加工用原紙。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載された加工用原紙の目止め層の上に、更に剥離層を設けてなる加工紙。

【公開番号】特開2006−274483(P2006−274483A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94474(P2005−94474)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】