説明

加工食品製造方法および焼魚用のマイクロ波調理用加工食品

【課題】魚介類を未加熱処理の状態から電子レンジで加熱調理した際に、直火で魚を焼いた状態と同様な好ましい焼き色と適度に水分が蒸発して素材のうま味が濃縮された良好な香味および食感を呈し、通常の焼魚と同様の食感および食味を得ることのできる、焼魚用のマイクロ波調理用加工食品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】魚介類材料21に糖22を加える処理を行う糖処理工程P21と、糖処理工程P21を経た魚介類材料23を乾燥処理する乾燥処理工程P22と、乾燥処理工程P22を経た魚介類材料25を油脂26により処理する油脂処理工程P23とを経て、最終的にマイクロ波調理用加工食品28を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工食品製造方法および焼魚用のマイクロ波調理用加工食品に係り、特に、電子レンジ調理用として冷蔵または冷凍状態にて供用可能であって、焼魚仕様の電子レンジ調理が可能な、加工食品製造方法および焼魚用のマイクロ波調理用加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭においては、調理の手間や時間を省くための簡便な調理方法として、電子レンジで加熱するだけで喫食できる加工食品の需要がますます高まり、かかる食品の開発は活発に行われ、また製造・販売量も増加している。電子レンジを使用した食品の加熱調理の原理は、食品にマイクロ波が照射されることで食品中の水分子がマイクロ波を吸収して振動・回転し、その摩擦熱によって食品の温度が上昇し加熱される、というものである。
【0003】
電子レンジを使用しない一般的な加熱調理の場合は、外部から食品に直接的に熱を加える(焼く、炒める)か、水や油などの熱媒体を通じて加熱を行う(煮る、揚げる、蒸す)。加熱温度は100℃程度に限定されるというものではなく、加熱方法によって、さらに高温での処理が可能である。一方電子レンジ調理の場合は、食品中の水分子の振動による加熱であるため、食品内部からの発熱に限定され、また調理温度も最高100℃程度に限定される。
【0004】
なお、電子レンジ調理を前提とした加工食品については、従来さまざまな技術的取り組みがなされている。このうち後掲特許文献1に開示されている技術は、焙焼時に容易に適度な焼色を付与でき、焙焼後、電子レンジで再加熱した場合であってもドリップの発生等に伴う焼き魚特有の食感の低下を抑制可能な焼魚の製造方法として、焙焼する前に魚の表皮を貫通する複数の孔を穿設し、加熱凝固性蛋白質溶液を魚の表面に接触・付着させるという技術である。
【0005】
また、特許文献2に開示されている技術は、電子レンジを用いた加温調理によって実際に焼いた直後の風味・食感を得られる焼魚の提供を目的として、魚類原料を食塩水に浸漬し、中心温度約45℃〜約65℃になるように表面に焼き色を付け、冷却した後レトルト処理するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−4840号公報「焼き魚の製造方法」
【特許文献2】特開平8−9927号公報「レトルト焼魚の製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、魚を焼く場合は一般的に、グリルやオーブン等で200〜250℃程度の高温環境下にて加熱することにより、好ましい焼き色(焦げ目)や良好な風味と食感が得られる。しかし、従来の方法で魚を電子レンジで加熱調理した場合は、好ましい焼き色や香ばしい風味が得られることはなく、水っぽい食感であり、焼いた状態というよりは蒸すか煮たような状態となり、焼き魚のイメージとは程遠いものであった。
【0008】
上述の特許文献開示技術はいずれも、予め焙焼処理されて焼魚の状態となったものについて、電子レンジによる再加熱時における食感等の低下抑制を目的とする技術であり、未加熱状態の魚介類から電子レンジ調理によって初めて焼魚の状態を得る技術ではない。
【0009】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、魚介類を未加熱処理の状態から電子レンジで加熱調理した際に、直火で魚を焼いた状態と同様な好ましい焼き色と適度に水分が蒸発して素材のうま味が濃縮された良好な香味および食感を呈し、通常の焼魚と同様の食感および食味を得ることのできる、焼魚用のマイクロ波調理用加工食品およびその製造方法を提供することである。
【0010】
すなわち換言すれば、電子レンジによる焼魚様の調理が可能な、焼魚用のマイクロ波調理用加工食品およびその製造方法を提供することである。さらに本発明の課題は、電子レンジ調理用として冷蔵または冷凍状態にて供用可能な焼魚用のマイクロ波調理用加工食品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、前処理した魚介類に味付けした後、材料の表面を糖を含有する溶液で濡らす処理をし、その後に乾燥を行い、さらに食用油脂を材料の表面に塗布するという方法を着想した。そして、かかる方法により得た魚介類加工品は、電子レンジを用いた調理のみによって、生(未加熱)の状態の魚介類を直火で魚を焼いた時と同じような好ましい外観と香味を提供可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成した。すなわち、上述の課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0012】
(1) 魚介類材料に糖を加える処理を行う糖処理工程と、該糖処理工程を経た魚介類材料を乾燥処理する乾燥処理工程とを経て、マイクロ波調理用加工食品を得る、加工食品製造方法。
(2) 前記マイクロ波調理用加工食品は、マイクロ波調理によって焼魚様の外観を呈し得るものであることを特徴とする、(1)に記載の加工食品製造方法。
(3) 前記糖処理工程は、前記魚介類材料に糖液塗布処理または糖液中への浸漬処理を施す工程であり、これにより該魚介類材料の表面に糖が添加されることを特徴とする、(1)または(2)に記載の加工食品製造方法。
【0013】
(4) 前記乾燥処理工程の後に、前記魚介類材料を油脂により処理する油脂処理工程が設けられることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の加工食品製造方法。
(5) 前記糖処理工程に供される魚介類材料は、予め調味処理されたものであることを特徴とする、(1)ないし(4)のいずれかに記載の加工食品製造方法。
(6) 前記糖処理工程において用いられる糖には、キシロースまたはその他の還元糖が含まれることを特徴とする、(1)ないし(5)のいずれかに記載の加工食品製造方法。
【0014】
(7) 表面に糖が塗布され、かつ乾燥状態となっている魚介類材料からなり、マイクロ波調理により焼き色を伴う焼魚様を呈し得る、焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
(8) 前記魚介類材料にはさらに油脂が塗布されていることを特徴とする、(7)に記載の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
(9) 前記魚介類材料と、調理時に該魚介類材料に添加するための油脂または調味料の少なくともいずれか一方がセットされてなることを特徴とする、(7)に記載の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
(10) 前記魚介類材料が冷凍されていることを特徴とする、(7)ないし(9)のいずれかに記載の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の加工食品製造方法および焼魚用のマイクロ波調理用加工食品は上述のように構成されるため、これによれば、電子レンジで加熱調理するという簡単な操作のみによって、直火で魚を焼いた状態と同様な好ましい焼き色と適度に水分が蒸発して素材のうま味が濃縮された良好な香味および食感が呈され、通常の焼魚と同様の食感および食味を得ることができる。すなわち、電子レンジによる焼魚様の調理が可能となる。
【0016】
つまり本発明によれば、従来の電子レンジ調理における水っぽい食感や、蒸すか煮たような食感・食味、焼き魚からは程遠いイメージといった問題を全て解消し、好ましい焼き色や香ばしい風味・食感を得ることができる。
【0017】
また、本発明による加工食品は、従来のように予め焙焼処理されて焼魚の状態となったものを電子レンジで再加熱するものではなく、生つまり未加熱状態の魚介類から電子レンジ調理によって初めて焼魚の状態を得られるものである。したがって本発明によれば、出来合の物の温め直しでは得られない出来立て感や充実度、満足感を得ることができる。さらに本発明によれば、電子レンジ調理用として冷蔵または冷凍状態にて供用することが可能である。
【0018】
また、マイクロ波調理用であるため調理時間が短時間で済むことはもちろん、1人前、2人前、あるいは3人前といった少量の調理の場合にも手軽に用いることができる。実際、本発明によるマイクロ波調理用加工食品は、電子レンジでの加熱調理に要する時間はせいぜい、4〜5分間程度である。しかも、冷凍品として提供する場合でも、これを解凍する必要はなく、冷凍のままで、あるいは冷凍状態の魚介類に後述する調味料や油脂を添加するだけで、後は電子レンジで加熱調理すればよい。したがって調理は簡便であり、少人数の家庭や単身者、職場での調理などにも便利である。
【0019】
なお近年、電子レンジ調理により焼き魚仕様を得るための食材包装用シートが提供されているが、ある程度の焦げ目・焼き色を得られはするものの、決して十分なものとはいえない。また、魚介類がシートに接着してしまって蒸し焼き状態になったり、調理後に魚肉が剥離して形が損なわれるなど、思わしくない仕上がりとなる場合もある。しかし本発明によれば、十分な焼き色を得ることができ、かつ十分な仕上がり形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明加工食品製造方法の基本的構成を示すフロー図である。
【図2】本発明加工食品製造方法の別の構成を示すフロー図である。
【図3A】実施例18による加工食品(サバ)の写真である。
【図3B】実施例18による加工食品(サバ)を電子レンジ調理した状態を示す写真である。
【図4A】実施例19による加工食品(紅サケ)の写真である。
【図4B】実施例19による加工食品(紅サケ)を電子レンジ調理した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明について、図も用いてさらに詳細に説明する。
図1は、本発明加工食品製造方法の基本的構成を示すフロー図である。図示するように本発明製造方法は、魚介類材料1に糖2を加える処理を行う糖処理工程P1と、糖処理工程P1を経た魚介類材料3を乾燥処理する乾燥処理工程P2とを経て、最終的にマイクロ波調理用加工食品8を得るものであることを、主たる構成とする。
【0022】
かかる構成により本製造方法によれば、まず糖処理工程P1において魚介類材料1に糖2を加える処理がなされ、ついで乾燥処理工程P2において糖処理された魚介類材料3が乾燥処理され、これらの工程を経て、最終的にマイクロ波調理用加工食品8が得られる。得られたマイクロ波調理用加工食品8は、これを電子レンジを用いたマイクロ波調理に供することのみによって、焼魚様の外観の仕上がりを得ることができる。すなわち、焼魚様の焼き色、形態、食感・物性、香味を得ることができる。
【0023】
ここで、魚介類材料1は後述するように予め調味等のなされたものとすることができる。しかし、予め何らかの加熱処理のなされている必要は、全くない。しかも本製法工程中にも、何らかの加熱処理工程を設ける必要も、全くない。したがって本製法によれば、未加熱状態(生)の魚介類材料1に所定の工程P1、P2を適用し、依然として未加熱状態(生)のままのマイクロ波調理用加工食品8とするだけで、これを事後にマイクロ波調理に供した場合に、焼魚様の仕上がりを得ることができる。
【0024】
本発明に係る魚介類材料1には、魚類のみならずイカ・タコ・貝類といった軟体類も、またエビ・カニ・ウニ・クジラ、その他、海水・淡水・汽水域から得られる食用可能な水棲動物が広く含まれる。また魚介類材料1の形態は、まるごと(元の形態のまま)であっても、フィーレ・開き・切り身・殻剥き・その他、魚介類材料1を食用とするための何らかの処理がなされたものであってもよい。また、未加熱状態である限り、生鮮品であっても冷凍品であってもよい。
【0025】
なお、本願において「焼魚様」との表現を用いるが、上述のとおり本発明に係る魚介類材料1は魚類以外を含む広範なものである。したがって、「焼魚様」とは、狭く魚類のみに係るものではなく、本発明に係る魚介類材料を原料として製造される本発明に係る加工食品がマイクロ波調理によって呈し得る、焙焼されたと同様の形態のことを、広く指すものである。
【0026】
糖処理工程P1において用いる糖としては、特に、キシロースまたはその他の還元糖を用いるものとすることができる。キシロースを初めとする還元糖を用いることで、マイクロ波調理用加工食品8にマイクロ波調理による加熱処理がなされた場合、焼魚様の焼き色を良好に付けることができるからである。要するに糖処理工程P1においては、加工食品8が製造された後、マイクロ波調理に供した際に、焼き色を良好に発現せしめるための糖が用いられればよい。
【0027】
糖処理工程P1における糖処理は、これによって魚介類材料1の表面に糖が添加されるようになされればよい。たとえば、糖の水溶液などの糖液を準備し、これを魚介類材料1に対して塗布する塗布処理や、糖液中に魚介類材料1を浸漬する浸漬処理により、魚介類材料1の表面に糖を良好に添加することができる。もちろん、良好な糖添加がなされる限り、糖液を用いる以外の方法であってもよい。また糖処理に供する糖は、1種類のみでなく2種類以上の混合や併用であってもよい。
【0028】
糖処理工程P1を経た魚介類材料3が供される乾燥処理工程P2においてなされる乾燥処理の方法は、特に限定されずいかなる乾燥方法であってもよい。しかしながら、本発明加工食品8はその使用時においてマイクロ波調理され、焼き魚様すなわち焙焼されたと同様の形態に仕上げることを予定しているものであるため、使用前に相当の硬さとなってはいない方が望ましい。たとえば冷風中や、非熱風・非温風中に数時間静置するといった乾燥方法は本発明に適しており、かつまた十分な効果を得られるものである。
【0029】
図2は、本発明加工食品製造方法の別の構成を示すフロー図である。図示するように本発明製造方法は、魚介類材料21に糖22を加える処理を行う糖処理工程P21と、糖処理工程P21を経た魚介類材料23を乾燥処理する乾燥処理工程P22と、乾燥処理工程P22を経た魚介類材料25を油脂26により処理する油脂処理工程P23とを経て、最終的にマイクロ波調理用加工食品28を得るものであることを、主たる構成とする。
【0030】
かかる構成により本フローによれば、糖処理工程P21において、魚介類材料21に糖22を加える処理がなされて糖処理された魚介類材料23が得られ、ついで乾燥処理工程P22において、糖処理された魚介類材料23が乾燥処理されて乾燥処理された魚介類材料25となり、ついで油脂処理工程P23において、乾燥処理された魚介類材料25が油脂26により処理され、これらの工程を経て、最終的にマイクロ波調理用加工食品28が得られる。
【0031】
油脂処理工程P23においては、乾燥処理された魚介類材料25の表面に油脂26が塗布されている状態が形成されればよい。マイクロ波調理用加工食品28に油脂26が処理されていることによって、これをマイクロ波調理に供した際、上述した焼魚様の焼き色は、魚介類材料上においてより広い範囲に亘って形成され、かつ、より濃く形成されるため、一層良好な焼魚様を呈することができる。
【0032】
なお、ここで油脂処理工程P23に用いる油脂26としては、食用油脂である限り特に限定されずにいかなるものでも用いることができる。また、1種類だけでなく2種類以上の混合まもしくは併用の形態であってもよい。
【0033】
なおまた、図では油脂処理工程P23は乾燥処理工程P22の後に設ける構成を示したが、これらの工程は逆であってもよい。つまり、糖処理された魚介類材料23がついで油脂処理され、その後乾燥処理される工程を経て、最終的にマイクロ波調理用加工食品を得る、という製造方法であってもよい。
【0034】
また、油脂処理工程を設けるか否かに関わらず、本発明製造方法においては、糖処理工程に供される魚介類材料として、予め調味処理されたものを用いることとしてもよい。
【0035】
以上述べた本発明製造方法により、焼魚用のマイクロ波調理用加工食品を得ることができる。これは、表面に糖が塗布され、かつ乾燥状態となっている魚介類材料からなるものであり、使用時、すなわちマイクロ波調理を行うことによって、焼き色を伴う焼魚様の仕上がりを得ることができる。なお、魚介類材料はさらに、油脂も添加された仕様であってもよい。
【0036】
さて、本発明のマイクロ波調理用加工食品は、少なくとも糖が塗布されて乾燥状態となっている魚介類材料と、調理時に魚介類材料に添加するための油脂または調味料の少なくともいずれか一方とが備えられたセットの形態としてもよい。つまり、下記のようなセットのパターンは、いずれも本発明の範囲内である。
〔1〕糖が塗布されて乾燥状態となっている魚介類材料 + 使用時添加用調味液
〔2〕糖が塗布されて乾燥状態となっている魚介類材料 + 使用時添加用油脂
〔3〕糖が塗布されて乾燥状態となっている魚介類材料 + 使用時添加用調味液 + 使用時添加用油脂
〔4〕糖が塗布されて乾燥状態となっていて油脂も添加されている魚介類材料 + 使用時添加用調味液
〔5〕糖が塗布されて乾燥状態となっていて油脂も添加されている魚介類材料 + 使用時添加用油脂
〔6〕糖が塗布されて乾燥状態となっていて油脂も添加されている魚介類材料 + 使用時添加用調味液 + 使用時添加用油脂
【0037】
かかるセットの構成とすることによって、使用者はマイクロ波調理の際に、自身の好みに合わせて焼き色の状態を調節することができ、便利である。なお、調味料の形態としては調味液が便利であるが、ペースト状や粉末状など、特に形態には限定されない。また、調味料の種類・組成も適宜のものとすることができる。また、本発明の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品においては、これを構成する魚介類材料は冷凍されたものとすることもできる。
【0038】
なお本発明の原理は、魚介類材料以外のタンパク質を主成分とする食材に対しても適用することが可能である。たとえば、魚介類材料に替えて畜肉、鶏肉、加工食品(ちくわ・かまぼこ、ハム・ソーセージなど)等を用いて上述した処理を施すことで、焙焼様の仕上がりを得ることの可能なマイクロ波調理用加工食品とすることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。また、本発明を完成するに到った実験過程の一部を説明する中で、実施例について説明する。
<1 糖濃度と焼き色について>
本項では、実施例1〜6および比較例1が記載される。
1−1.各濃度糖液の調製
還元糖であるキシロースを、表1に示す濃度となるように水と混合し、それぞれの濃度となる糖液を調製した。
【0040】
【表1】









【0041】
1−2.原料(サバ)への糖液塗布
本項の各実施例では、原料としてノルウエー産サバのフィーレを使用した。1枚約125gのサバフィーレを二分の一にカットし、各濃度の糖液にそれぞれ浸すことで全体に糖液を塗布した。
【0042】
1−3.乾燥、冷凍工程
糖液を塗布したサバをサンテナー(登録商標 網目を備えたコンテナー)に並べ、20℃、2時間冷風乾燥を行なった。冷風乾燥後、サバ全体になたね油を塗布して、これをマイクロ波調理用加工食品試料とした。各実施例および比較例試料は、−40℃のフリーザーに入れて凍結した。
【0043】
1−4.焼き色の比較
フリーザーから凍結した各試料(サバ)を取り出し、2切れずつ重ならないように皿に並べ、電子レンジで加熱調理(500W、3分間)した。中心温度が80℃以上になっていることを確認し、それぞれの焼き色(以下、「焦げ目」ともいう。)の範囲と色の濃さについて、10名のパネラーにより評価した。評価結果を表2に示す。なおパネラーの概要は下記のとおりである。
性別:男性5名、女性5名
年齢層:20代3名、30代3名、40代3名、50代1名
【0044】
【表2】

【0045】
なお、表2中の数値の意味は下記のとおりである(以下の各表においても同じ)。
1:ほとんど焦げ目が見られない
2:多少の焦げ目は見られるものの褐色が薄く範囲も狭い
3:原料の1/4未満の焦げ目があり、一部にはっきりとした褐色が見られる
4:原料の1/4程度の範囲に焦げ目があり、一部にはっきりとした褐色が見られる
5:原料の1/4を超える範囲に焦げ目があり、はっきりとした褐色が見られる
【0046】
評価の結果、比較例1では焦げ目は見られたものの、範囲は狭く、色も薄い褐色であった。しかし、各実施例において糖濃度を増加させるにしたがい、範囲が広がり、褐色も次第に濃くなる傾向にあり、その焦げ目は食欲をそそるものであった。糖濃度10%以上とした実施例2〜6はいずれも、焼き色として十分に評価できる焦げ目を得ることができた。
【0047】
また、糖濃度を20%以上にした場合である実施例4〜6の間では、明確な焦げ目の違いは見られなかった。したがって、糖濃度は20%で十分であると考えられた。なおまた、官能検査を実施した結果、最も糖濃度の高い30%キシロースを用いた実施例6においても、はっきりとした甘味を感じることは無かった。つまり実施例1〜6とも、糖処理によって明確な甘味は感じられず、糖処理により余計な甘味が付かないことが確認された。
【0048】
<2 糖の種類による焦げ目の比較>
本項では、実施例7〜11および比較例2が記載される。
用いる糖を表3に示した種類に変えた他は、上述の実施例4と同様の条件にて各実施例および比較例を作製し、同様の方法により焦げ目の比較を行なった。評価結果を表4に示す。
【0049】
【表3】








【0050】
【表4】

【0051】
評価の結果、還元糖であるキシロースを使用した場合(実施例7)において、最も食欲をそそる焦げ目がついた。また、水飴を使用した場合も(実施例11)、キシロースほどではなかったものの、他の糖を用いた場合(実施例8〜10)と比較すれば色の濃い焦げ目がついた。
【0052】
また、異性化液糖(実施例10)では糖を添加しない場合(比較例2)と同程度の焦げ目しか見られなかった。官能検査を実施した結果、異性化液糖(実施例10)の場合のみ多少の甘味を感じたものの、他の糖では明確な甘味は感じられなかった。以上の結果から、糖処理に用いる糖としては、キシロースを初めとする還元糖や水飴が好適であることが示された。
【0053】
<3 乾燥時間による焦げ目の比較>
本項では、実施例12〜16および比較例3が記載される。
冷風乾燥時間を表5に示す条件に変更した他は、上述の実施例4と同様の条件にて各実施例および比較例を作製し、同様の方法により焦げ目の比較を行なった。すなわち、糖はキシロースを使用し、濃度は20%に調整した。評価結果を表6に示す。
【0054】
【表5】








【0055】
【表6】

【0056】
評価の結果、乾燥1時間のもの(実施例12)や、乾燥を行わないもの(比較例3)であっても、ある程度の焦げ目がついたものの、乾燥2時間以上のもの(実施例13〜18)の方がきれいな焦げ目となっており、またその範囲も広かった。また、乾燥5時間(実施例15)、8時間(実施例16)のものはいずれも、焦げ目としては食欲をそそる良好なものであったが、官能検査を行なった結果、身が硬く、食感は決して良いものでは無かった。以上より、食感も考慮して、乾燥時間は2時間〜3時間程度が好適であると判断された。
【0057】
<4 油脂の塗布の有無による焦げ目の比較>
本項では、実施例17および比較例4が記載される。
上述の実施例4において、油脂を塗布するか否かの条件で調味した場合について焦げ目の比較を行なった。凍結前に、適量のなたね油を塗布するか否か以外の条件は実施例4と同様に行なった。評価結果を表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
評価の結果、油脂を塗布しなかった場合(比較例4)であっても、焦げ目はついた。しかしながら、油を塗布した場合(実施例17)の方が、範囲、色の濃さともに良い評価となった。したがって、範囲や色の濃さにおいてより良好な焦げ目を得るためには、油脂塗布処理が効果を有することが示された。
【0060】
<5 実施例18:サバの塩焼き>
ひと切れ約125gのサバのフィーレを、重量が約半分になるように切り、3%塩水で軽く水洗いを行い、魚の表面の血合いや汚れを除去した後、サバ原料に対して、水50重量%、岩塩3重量%、清酒2重量%の調味液に1夜(16時間)漬け込んだ。その後、上記1〜4の結果を踏まえて、20%キシロース液に浸漬させた後、冷風乾燥を2時間行った。乾燥終了後、サバの皮面になたね油を適量塗布し、−40℃のフリーザーで凍結した。凍結したことを確認後、サバを取り出し、電子レンジで調理し(500W、3分間)、焦げ目の範囲、褐色の濃さについて評価し、また官能評価も行った。
【0061】
図3Aは、実施例18による加工食品(サバ)の写真である。また、
図3Bは、実施例18による加工食品(サバ)を電子レンジ調理した状態を示す写真である。写真にも示されるように、官能評価の結果、本実施例加工食品には電子レンジ調理によって食欲をそそるような焦げ目がつき、また食味についても、糖の甘さも特段感じられることはなく、外観・香味・食感ともに、グリルで焼いたような良好なサバの塩焼きとなった。
【0062】
<6 実施例19:サケの塩焼き>
塩分3%の定塩紅サケを重量約60gの切り身にカットし、キシロース20重量%、食塩3重量%、L−アスコルビン酸0.3重量%の浸漬液に浸漬して鮭の表面に糖液を塗布した後、冷風乾燥を2時間行った。乾燥終了後、皮面に綿実油を適量塗布し、−40℃のフリーザーで凍結した。凍結したことを確認後、サケを取り出し、電子レンジで調理し(500W、3分間)、焦げ目の範囲、褐色の濃さについて評価し、また官能評価も行った。
【0063】
図4Aは、実施例19による加工食品(紅サケ)の写真である。また、
図4Bは、実施例19による加工食品(紅サケ)を電子レンジ調理した状態を示す写真である。写真にも示されるように、官能評価の結果、本実施例加工食品には電子レンジ調理によって、実施例18のサバと同様の食欲をそそるような良好な焦げ目がつき、また食味についても、塩味が利き、外観・香味・食感ともに、直火で焼いたような鮭の塩焼きとなった。
【0064】
<7 実施例20:サバの照り焼き>
国産の真サバを使用し、ひと切れ約60gの切り身にした。このサバ切り身に対して、濃口しょうゆ12重量%、異性化液糖6重量%、清酒6重量%、みりん6重量%、水20重量%の調味液に1夜(16時間)浸漬を行なった。その後砂糖20重量%、水飴10重量%、醤油20重量%、清酒5重量%、増粘多糖類1重量%を配合した二次調味液を原料に塗布し、冷風乾燥を2時間行った。乾燥終了後、なたね油を皮面に適量塗布し、−40℃のフリーザーで凍結した。凍結したことを確認後、凍結したサバを取り出し、電子レンジで調理し(500W、3分間)、焦げ目の範囲、褐色の濃さについて評価し、また官能評価も行った。なお、二次調味液中の砂糖、水飴の濃度は合わせて30重量%である。
【0065】
官能評価の結果、本実施例加工食品には電子レンジ調理によって、サバの塩焼き(実施例18)、サケの塩焼き(実施例19)のような濃淡のはっきりした焦げ目ではなく、全体的に黄金色の照りのよい、良好な焦げ目がつき、食欲をそそるような色に仕上がった。また、ふっくらとした食感に仕上がり、外観・香味・食感ともに良好なサバの照り焼きとなった。
表8は、実施例18、19および20の評価結果をまとめたものである。
【0066】
【表8】

【0067】
以上、実施例を説明したが、これらの他にも、ブリ照り焼き、イカ照り焼き、エビのスパイス焼き、その他種々の魚介類材料について良好に焼魚用のマイクロ波調理用加工食品を製造できることを確認済みである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の加工食品製造方法および焼魚用のマイクロ波調理用加工食品によれば、従来の電子レンジ調理における水っぽい食感や、蒸すか煮たような食感・食味、焼き魚からは程遠いイメージといった問題を全て解消し、好ましい焼き色や香ばしい風味・食感を得ることができる。また、出来合の物の温め直しでは得られない出来立て感や充実度、満足感を得ることもできる。したがって、食品加工分野および関連産業分野において、利用性が極めて高い発明である。
【符号の説明】
【0069】
1、21…魚介類材料
2、22…糖
3、23…糖処理された魚介類材料
25…乾燥処理された魚介類材料
26…油脂
8、28…マイクロ波調理用加工食品
P1、P21…糖処理工程
P2、P22…乾燥処理工程
P23…油脂処理工程













【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類材料に糖を加える処理を行う糖処理工程と、該糖処理工程を経た魚介類材料を乾燥処理する乾燥処理工程とを経て、マイクロ波調理用加工食品を得る、加工食品製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ波調理用加工食品は、マイクロ波調理によって焼魚様の外観を呈し得るものであることを特徴とする、請求項1に記載の加工食品製造方法。
【請求項3】
前記糖処理工程は、前記魚介類材料に糖液塗布処理または糖液中への浸漬処理を施す工程であり、これにより該魚介類材料の表面に糖が添加されることを特徴とする、請求項1または2に記載の加工食品製造方法。
【請求項4】
前記乾燥処理工程の後に、前記魚介類材料を油脂により処理する油脂処理工程が設けられることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の加工食品製造方法。
【請求項5】
前記糖処理工程に供される魚介類材料は、予め調味処理されたものであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の加工食品製造方法。
【請求項6】
前記糖処理工程において用いられる糖には、キシロースまたはその他の還元糖が含まれることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の加工食品製造方法。
【請求項7】
表面に糖が塗布され、かつ乾燥状態となっている魚介類材料からなり、マイクロ波調理により焼き色を伴う焼魚様を呈し得る、焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
【請求項8】
前記魚介類材料にはさらに油脂が塗布されていることを特徴とする、請求項7に記載の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
【請求項9】
前記魚介類材料と、調理時に該魚介類材料に添加するための油脂または調味料の少なくともいずれか一方がセットされてなることを特徴とする、請求項7に記載の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。
【請求項10】
前記魚介類材料が冷凍されていることを特徴とする、請求項7ないし9のいずれかに記載の焼魚用のマイクロ波調理用加工食品。


【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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