説明

加熱・保温具及びその製造方法

【課題】
加熱に至る取扱が簡便で、何回でも繰り返し使用することができ、長時間の保温が可能である、マイクロ波によって発熱する加熱・保温具を提供すると共に、過熱や素材劣化による内容物の著しい体積膨張によって、加熱・保温具が爆発する危険を防ぐ。
【解決手段】
発熱材料と保温・断熱材料と結合材料を用いて固化・作製した発熱部を、耐熱性と断熱性をもつ素材からなる断熱層で包埋し、さらに耐熱性容器3に封入することにより、電子レンジによって安全に加熱することが可能で、繰り返し使用が可能である加熱・保温具を提供する。加熱・保温器具の使用に際して、加熱・保温具の各部が到達する温度において充分な耐熱性をもった素材を用いることにより、内容物の破裂や爆発などの一切の危険を排しており、事故の危険性が無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波によって誘導加熱される発熱部を構成要素とする加熱・保温具に係り、加熱及び保温対象は人、動物、食料、飲料、服など多岐に渡る。
【背景技術】
【0002】
従来の湯たんぽなど、加熱した水を熱媒体とする保温具は、金属、プラスチック、陶器等からなる容器にお湯を注入する構造であったので、次のような欠点があった。
【0003】
湯たんぽなど保温具を使用する度に、時間を掛けてお湯を沸かさなければならない。熱容量が小さいので大量の水を容器に入れる必要がある。使用しないときには、容器の腐食防止や衛生上の観点から、中の水を排出し乾燥しておかなければならない。お湯の注入、排出等に手間がかかり、取扱が面倒である。
【0004】
また、市販の使い捨て携帯懐炉などの保温具は、鉄の酸化熱を利用するもので、次のような欠点があった。
【0005】
一度使用すると、再度発熱することはない。
【0006】
従来の電子レンジを用いた保温具は、プラスチック、ビニール等からなる容器に、マイクロ波により誘導加熱される液体もしくはゲル状の発熱性蓄熱材を注入する構造であったので、次のような欠点があった。
【0007】
すなわち、特許文献1においては分子量500〜6000のポリエチレングリコ−ルを蓄熱媒体とし、これを熱可塑性樹脂シートで包んだ構造の「蓄熱あんか」が記載されており、通常の使用では30〜65℃で使用されるものとしている。ところが、特許文献2においては、こうした製品が指定時間以上に電子レンジで加熱されると、畜熱媒体であるポリエチレングリコールの異常加熱や製品の破裂が起こることが記載されている。このように沸点が比較的高い有機化合物を畜熱媒体に用いた場合でも、過剰に加熱すると蓄熱媒体が設定温度以上に加熱され、異常膨張や製品の破裂が起こり、事故につながることが懸念される。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−220864号公報
【特許文献2】特開平07−255767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上述べた従来技術の欠点を解消するためになされたもので、発熱に至る取扱が簡便で、何回でも繰り返して使用することができ、長時間の保温が可能であり、爆発の危険性のない安全な加熱・保温具の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の加熱・保温具は、マイクロ波で安全に加熱することが可能な発熱部と、これを、耐熱性及び断熱性をもつ素材からなる断熱層で包埋し、さらに耐熱性容器に封入してなることを特徴とするものである。
発明2は、上記発熱部が、マイクロ波を吸収し発熱する炭化珪素やフェライトの発熱材料と、珪藻土、パーライトまたはセラミックバルーンからなる多孔質断熱材料とを混合し、これらをポルトランドセメント、アルミナセメント、石膏またはシリコンで固めてなる発熱部を用いることを特徴とする加熱・保温具の製造方法である。
発明3は、上記断熱層が、耐熱繊維や断熱素材からなる加熱・保温具である。
発明4は、上記耐熱性容器が、陶磁器もしくは耐熱性樹脂からなることを特徴とする保温具である。
【0011】
本発明の実施の形態の一例を図面を参照しながら説明するに、図1と図2に示すように、電子レンジで安全に加熱可能な発熱部1を、耐熱性及び断熱性を持つ素材からなる断熱層2で包み、さらに耐熱性容器3に封入した。
【0012】
発熱部1としては、例えば、マイクロ波を吸収し発熱する炭化珪素やフェライトに、珪藻土、パーライトなどの多孔質断熱材料を混合し、さらにポルトランドセメント、アルミナセメント、石膏、シリコンゴムなどの結合材を加え、円盤状、半球状など任意の形状に固めたものを使用する。
【0013】
断熱層2は、セラミックファイバーなどの耐熱繊維やパーライトなどの断熱素材などを用いて、発熱部1全体を覆う。
【0014】
耐熱性容器3は、陶磁器や、ポリメチルペンテン、ポリエステル、ナイロン、ポリカ−ボネ−ト、フッソ樹脂などの耐熱性樹脂を用途に合わせて、例えば、図1に示すような形状、その他の適当な形状に成形加工して用いる。
【0015】
発熱部1と、断熱層2の耐熱性容器3への封入は、例えば、耐熱性容器3を分割した状態で成形加工し、これに発熱部1、断熱層2の順序で封入した後に、耐熱性を有するシリコン系接着剤などで耐熱性容器3を接着して完成するなどの方法によって行う。
【0016】
発熱部の加熱温度は、発熱部の配合条件によって変化させることが出来るが、加熱温度をよい高く、また保温時間をより長くするためには、発熱部1の配合は発熱成分である炭化珪素またはフェライトの配合割合を増量したものとなる。発熱部1を家庭用の電子レンジで数分程度加熱すると、発熱部1の温度は、高いものでは300℃程度に上昇することから、断熱層2の耐熱温度は少なくとも300℃以上であることが必要である。ただし、発熱部の到達温度は既述のようにその配合条件により調整することが出来るので、低い到達温度に設定された発熱部を用いる際には、断熱層2の耐熱温度はその設定温度に合わせて低いものを用いることが可能となる。
【0017】
発熱部の設定温度をより高く設定し、発熱部の温度が300℃程度に達した場合、断熱層2の温度は、その外縁部において100℃程度であるため、耐熱性容器3の耐熱温度は少なくとも100℃以上であることが必要である。
【0018】
耐熱性容器3の形状については、特に限定はなく、持ち運び用の取手などを設けてもよい。保温具自体が容器を兼ねる場合もあり、例えば、電子レンジ加熱により調理した食品をそのまま保温するような用途においては、調理具や食器の形状をとることになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上述のように構成されているので、次のような効果を奏する。お湯を沸かしたり、お湯を注入したり、排出したりする手間が一切不要である。電子レンジで加熱するという料理と同様の簡単な作業で使用できる。耐用年数が長い(容器の寿命とほぼ同程度)ので経済的である。何回でも繰り返し使用することができ、省資源の加熱・保温手段となる。発熱部による発熱量が大きいので、長時間の保温が可能である。発熱部は発熱した後にそれ自身に蓄熱する機能があるため、短時間で高温に達した後に、熱量を蓄えつつ外部に伝熱していくことが可能である。構造が簡単であるので、故障が起こりにくい。構成材料が固体のため、熱膨張による爆発事故の危険性が無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施例を図1、図2に基づいて説明する。なお、本発明は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
発熱部1として発熱材料にフェライト(酸化鉄、結晶相は磁鉄鉱)粉末20重量部を用い、これに多孔質材として珪藻土粉末20重量部、アルミナセメント60重量部を混合し、水100重量部を加えてスラリー化した後に成形枠に流し込み、固めてなるものを用いた。発熱試験には、上記固化体を室温にて2日間養生後、80℃で充分に乾燥したものを用いた。この発熱部1を包埋する断熱層2は、図2に図示するように発熱部1の周囲に約10mmの厚みで充填した。断熱層2は耐熱能力を有するセラミックファイバーで構成した。
【0022】
一方、耐熱性容器3は耐熱性と外観の美しさ・多様性を表現するために二つの磁器製部品で構成し、内部に発熱部1及び断熱層2を封入し、磁器製部品同士を耐熱性を有するシリコン樹脂により接着した。耐熱性容器の一部には内圧上昇を防ぐために、直径3mmの空気穴を開けた。
【0023】
耐熱性容器3の形状は使用時の機能性を考慮して設計したものである。すなわち平面部を上に向けて使用することにより両手で安定に持つことが出来、安全に持ち運ぶことを可能とした。一方、平面部を下に向けて使用することにより、安定に設置することが可能になった。
【0024】
以上のように構成した加熱・保温具を発熱させる場合には、この加熱・保温具を電子レンジ内に入れ、マイクロ波によって発熱部中に含まれるフェライトを誘導加熱する。本実施例においては300gの発熱部1を加熱・保温具中に封入している。発熱部1を単独で電子レンジ内に置き、5分間の誘導加熱を行ったところ、設定温度である約300℃に温度上昇することを確認した。
【0025】
次に、上記の発熱部、断熱層、耐熱性容器から構成される加熱・保温具の、マイクロ波誘導加熱による温度変化を調べた。この加熱・保温具は「あんか」を想定して作られた試作品であり、その構造と形態は図1,図2にぞれぞれ示したものと同一である。この加熱・保温具を定格出力600Wの電子レンジの中に置き、マイクロ波を5分間照射した後に直ちに取り出して、その表面温度を放射温度計により調べた。さらに、この加熱・保温具を、実際の製品の使用状況を想定し、フリース素材で作製した袋に入れて、その後の温度変化を記録した。同様な実験をフリース素材の袋の代わりに綿布団を用い、同様に操作して、その表面温度の変化を調べた。
【0026】
上記の加熱・保温具の表面温度変化を次に示す。周辺の温度はいずれも25℃である。
(フリース素材の袋の場合)
加熱直後:48℃、30分後:46℃、1時間後:43℃、2時間後:38℃、3時間後:35℃
(綿布団の場合)
加熱直後:48℃、30分後:55℃、1時間後:60℃、2時間後:55℃、3時間後:48℃、4時間後:45℃、5時間後:40℃、6時間後:39℃、7時間後:37℃、8時間後:36℃
【0027】
以上のように、フリース素材の袋に入れた状態では3時間、布団で包んだ状態では8時間経過した時点で、いずれも34℃以上を保っていた。フリース素材または綿布団を用いたときの温度変化の違いは、本発明の加熱・保温具を包んだ際のそれぞれの保温力の違いによるものである。周辺温度が25℃であることと、人の体温を併せ考えれば、35℃付近に達する時間が、本実施例による加熱・保温具のおおよその使用時間と考えられる。
この実施例のように、断熱層2を、発熱部1を包埋しかつ耐熱性を有する素材であるセラミックファイバーで構成することにより、耐熱性容器3における表面温度を、温熱治療や身体保温用の熱源として使用できる温度範囲である30℃〜65℃の範囲に設定することができると共に、その温度範囲でセラミックファイバーがもつ熱容量をも利用して効率良く蓄熱することができる。
【実施例2】
【0028】
実施例1で用いた加熱・保温具は、を、定格出力600wの電子レンジ内で20分間加熱した後にファンによる強制冷却を20回繰り返し、過剰に加熱・冷却された場合の製品の状態変化を目視で調べた。
【0029】
別に、この加熱・保温具の発熱部のみを電子レンジで20分間加熱する実験を行ったが、そのときの発熱部の表面温度は350℃に達していた。
【0030】
このように、加熱・保温具の中心部においては350℃もの温度に達する操作を20回繰り返したにも拘わらず、加熱・保温具は耐熱性容器の外観上の変化は全くなく、また、実験後に耐熱性容器を開いて、発熱部やその周囲にある断熱層を観察したが、過剰な加熱を繰り返した後であったにも拘わらず、崩壊やなどの現象はまったく認められなかった。
【0031】
これは、発熱部自身の断熱・保温性と断熱層による断熱効果により、耐熱容器には100℃を超えるような温度上昇が起こらなかったためであると考えられる。このように、本発明による加熱・保温具は、従来用いられてきた、液体またはゲル状物質を封入した構造の蓄熱製品に見られるような危険性は全くないことが証明された。
【実施例3】
【0032】
以上説明した実施例では、発熱部1として発熱材料にフェライト(酸化鉄)粉末を用い、これに多孔質断熱材として珪藻土粉末を混合し、結合材としてアルミナセメントを用いて固めてなるものを発熱部1として用いた。さらに耐熱能力を有するセラミックファイバーで構成する断熱層2の断熱効果を用いることにより、耐熱性容器3における表面温度を、温熱治療や身体保温用の熱源として使用できる温度範囲である30℃〜65℃の範囲に維持することができるようにした。発熱部1の発熱材料はフェライト以外でも、例えば、炭化珪素を用いれば、フェライトの場合と同様に電子レンジにより発熱状態を得ることが可能である。
【0033】
発熱部1を構成する多孔質断熱材は珪藻土に限定されるものではなく、例えばパーライト(真珠岩発泡材料)のような耐熱能力を有する材料ならば、珪藻土と同様の効果をもたらすことができる。
【0034】
発熱部1を固めることに用いられる結合材料はアルミナセメントに限定されるものではなく、例えば、ポルトランドセメント、石膏、シリコン樹脂のような材料を、設定到達温度である150℃〜300℃に応じて用いることが出来る。
【0035】
既述のようにマイクロ波誘導加熱による発熱部の到達温度はその配合割合によって変化する。実施例2では、発熱部の配合とその到達温度の関係を調べた結果を記載する。表1に記載する配合により、実施例1と同様の方法で発熱部を作製し、定格600wの電子レンジ内で一律5分間マイクロ波を照射した。マイクロ波照射停止後すぐに発熱部試料を取り出してその表面温度を測定した結果を表1に合わせて示した。なお、表中、Pセメントはポルトランドセメントを、Aセメントはアルミナセメントをそれぞれ示す。表1に示されるように、発熱部は、発熱材料、断熱・保温材料、結合材料の割合を変えることにより、マイクロ波誘導加熱(5分間照射)による到達温度を変化させることが出来る。
【0036】
発熱部の配合割合とマイクロ波加熱誘導加熱による到達温度(5分間照射)
【表1】

【0037】
その他、本発明は、耐熱性容器3の材質、構造及び形状を、使用目的に応じて適宜変更したり、或は、断熱層2の増量もしくは減量によって容器3表面温度の増減を達成する等、発明要件を逸脱しない範囲内で、種々変更して実施できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明による加熱・保温具は、人、動物、食品、飲料、衣料など様々な対象に対する加熱・保温に用いることが出来る。食品の調理にマイクロ波を用いる場合には、調理が完了した食品を引き続き保温出来るほか、マイクロ波による加熱・調理に引き続いて、発熱部から供給される熱による調理を時間を掛けて継続することが可能である。衣料の加熱、保温では、それを着用する人の保温に活用される他、アイロンのように衣料の皺を伸ばしたり、折り目を付けるなどの目的に用いることが出来る。また、飲料の場合には、加熱により温めた飲料を、引き続き保温することが出来る。このように、本発明による加熱・保温具は、マイクロ波による誘導加熱によって発生した熱量を、その保温・断熱機能によって徐々に外部に伝えていく機能があるため、人や動物に対する暖房具、食品・飲料の加熱・調理・保温器具、または衣料の加熱・保温・しわ伸ばし(アイロン)など、様々な製品や用途に安全かつ簡便に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る一実施例を示す保温具の縦断面図である。
【図2】図1に図示の保温具の外観図である。
【符号の説明】
【0040】
1……発熱部
2……断熱層
3……耐熱性容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波で誘導加熱される発熱部を、耐熱性及び断熱性を有する素材からなる断熱部で包埋し、更に同断熱部を耐熱性容器に封入してなることを特徴とする加熱・保温具及びその製造方法
【請求項2】
上記発熱部の配合成分として、マイクロ波を吸収し発熱する材料として炭化珪素またはフェライトの少なくともいずれか一つを用い、保温・断熱する材料として珪藻土、パーライト、セラミックスバルーンのうち少なくともいずれか一つを用い、さらに、これらを分散・結合する材料としてポルトランドセメント、アルミナセメント、石膏、シリコンゴムの少なくともいずれか一つを用い、これらを固化させてなる発熱部を用いることを特徴とする加熱・保温具の製造方法。
【請求項3】
上記断熱層が、耐熱繊維や断熱素材からなることを特徴とする請求項1に記載の加熱・保温具。
【請求項4】
上記耐熱性容器が、陶磁器もしくは耐熱性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の加熱・保温具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−106432(P2009−106432A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280169(P2007−280169)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(507029133)
【Fターム(参考)】