説明

加熱乾燥装置、加熱乾燥方法、及び有機EL素子の製造方法

【課題】印刷法で有機機能層(発光層、インターレイヤー層、電子輸送層等)の皮膜を基板上に形成するたびに必要となる残留溶媒の除去及びベーク処理を皮膜全体で均一に行い同質となるようにして、且つ消費エネルギーをできるだけ低減しつつ、設備の設置面積を抑えて省スペース化を可能にした、基板熱乾燥装置を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも、赤外線ヒータ炉により基板を所定温度まで加熱するための第一加熱炉と、所定温度まで加熱された基板を熱風循環式多段炉にて高温で維持するための第二加熱炉と、を備えることを特徴とする基板加熱乾燥装置である。該加熱乾燥装置は、前記第二加熱炉から取り出した基板の温度を、少なくとも50℃以下まで下げるための冷却室、及び第一加熱炉、第二加熱炉又は冷却室の全て若しくはいずれかは、不活性ガス雰囲気を気密に保持できる密閉構造を有することをができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機膜を基板上に形成する装置に係わり、特には、有機エレクトロルミネッセンス素子等の有機機能層を乾燥するための加熱乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子の一種である有機エレクトロルミネセンス素子(以下、「有機EL素子」と記す)は、自発光性の全固体素子であるため視認性が高く、またブラウン管、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイに比べて素子の厚みを薄くすることができ、更には消費電力も小さいため、早期の商品化が期待されている。有機EL素子の作製には、一般に数十から数千nm程度の膜厚を有する有機機能層を基板上にパターン形成する必要がある。
【0003】
有機機能性材料には低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化するほどパターニング精度が出にくいという問題がある。
また、蒸着法では蒸着源が通常ボートのピンホールや坩堝のような点形状であるため、大型化した基板に対し膜厚が均一になるように層を形成するのは困難である。また、蒸着法は高真空下で行われることが多く、そのために大掛かりな真空装置が必要になる。
【0004】
一方、高分子有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた塗工液(インキ)にし、これをウェットプロセスにて薄膜形成する方法が試みられている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法・バーコート法・ディップコート法等がある。特に高精細パターニングするためには、塗り分けやパターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効と考えられる。
【0005】
印刷法により有機EL素子を製造する方法は非常に有効である。特に高分子材料を用いた場合には、容易に平坦で均一な有機機能性層を基板上にパターン形成することが可能である。しかしながら、基板上に印刷された有機機能層は溶媒を含むために、その溶媒を除去するための乾燥工程が必要となり、その技術として、減圧乾燥法(例えば、特許文献1参照)、加熱乾燥法(例えば、特許文献2参照)、加圧加熱乾燥法(例えば、特許文献3参照)等が開示されている。
【0006】
また、有機機能層に残留する高沸点溶媒(以下、残留溶媒と記す)の除去を目的としての乾燥以外に、有機機能層の下地となるインターレイヤー層の形成には200℃程度の高温による10分以上のベーク処理が必要である。インターレイヤー層については図5を参照のこと。
【0007】
インターレイヤー層のベーク条件は、該レイヤーの上に形成される有機機能層の特性に影響を及ぼすことが知られている。すなわち、インターレイヤー層のベーク処理時に、基板内の面内温度均一性にバラツキがあると、基板面内での有機機能層の特性にもバラツキが生じ、ディスプレイとして使用したときに、表示ムラの発生の原因となる。
【0008】
ここで、基板を加熱乾燥させるために使用する一般的な加熱炉としては、(1)熱風循環方式、(2)ホットプレート方式、(3)遠赤外線方式、等が挙げられる。熱風循環方式の加熱炉は、多段化が容易であって、スペース効率に優れる利点があるが、加熱温度分布の制御が難しい欠点があり、基板全体の温度均一性を保って昇温させる必要のある有機機能層の加熱乾燥には適していない。
【0009】
また、ホットプレート方式は、基板の下面からの伝熱加熱であって、基板が小型である場合は、その均熱加熱(全面均一温度加熱)、昇温速度において優れている。しかし、大型基板の場合には、均熱加熱が難しく、しかも加熱処理を施したい有機機能層は、基板上面に塗布されているために、下記に記載の遠赤外線方式に比較して、加熱効率が悪く、連続処理の場合には、設置面積が大きくなるという問題がある。
【0010】
遠赤外線方式は、溶剤乾燥等においては、乾燥効率に優れ、またヒーターの温度制御を行うことで、被乾燥物の各部分の加熱温度を比較的高い精度で制御可能である。しかし、遠赤外線方式は、輻射加熱であるために、加熱部(遠赤外線放射部)と被乾燥物とを対向させるのが一般的であり、搬送機構によって被乾燥物を一枚ずつ水平に設置して通過させる連続炉(トンネル炉)が多い。この連続炉においては、単位時間当りの処理枚数を増やしたり、大型基板を加熱させる場合には、加熱炉の長さを長くせざるを得ず、これにより加熱炉が長大化して、設置面積が大きくなるという問題が発生する。
【0011】
そこで、遠赤外線方式による多段炉とし、装置の全長を短くする方式(例えば、特許文献4参照)が考案されているが、必要な赤外線ヒータの数は連続炉と同程度必要な上、実際には各段ごとに加熱条件に差異があるという問題がある。例えば、多段炉の最上段や最下段では赤外線ヒータの出力を他の段と同様に設定しても基板の温度上昇が他の段に比べて若干遅くなる傾向が見られる。そのため、投入された全ての基板が共通のヒータの下を移動していく連続炉に比べ、多段炉では基板ごとに昇温プロファイルに差が発生し、ひいては製造された有機ELパネルごとに特性の違いが生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−97679号公開公報
【特許文献2】特開2002−313567号公開公報
【特許文献3】特開2005−26000号公開公報
【特許文献4】特許第3833439号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
有機EL素子用加熱乾燥装置は、基板面内を均一に昇温する必要があるため、基板を1枚ずつ炉内に投入し搬送しながら赤外線ヒータにより加熱する連続炉が最も適した方式である。それもできるだけ短時間で乾燥処理できることが望ましい。
ところが、一般に基板1枚当りの加熱処理時間が10分以上必要で、連続炉方式で一定時間内の処理枚数を増やして、より大型の基板に対応するためには、より多くのヒータを並列に配置し加熱炉を長くする必要があるため、装置の設置面積が大きくなり、電力消費量が大きくなるという問題がある。
【0014】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、印刷法で有機機能層(発光層、インターレイヤー層、電子輸送層等)の皮膜を基板上に形成するたびに必要となる残留溶媒の除去及びベーク処理を皮膜全体で均一に行い同質となるようにして、且つ消費エネルギーをできるだけ低減しつつ、設備の設置面積を抑えて省スペース化を可能にした、有機EL素子製造用加熱乾燥装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、少なくとも、赤外線ヒータ炉により基板を所定温度まで加熱するための第一加熱炉と、所定温度まで加熱された基板を熱風循環式多段炉にて高温で維持するための第二加熱炉と、を備えることを特徴とする加熱乾燥装置としたものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記第二加熱炉から取り出した基板の温度を、少なくとも50℃以下まで下げるための冷却室を備えることを特徴とする請求項1に記載の加熱乾燥装置としたものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、第一加熱炉、第二加熱炉又は冷却室の全て若しくはいずれかは、不活性ガス雰囲気を気密に保持できる密閉構造を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱乾燥装置としたものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記基板の投入側及び排出側に、大気と不活性ガス雰囲気とを置換する手段を有するロードロック室を備えることを特徴とする請求項3に記載の加熱乾燥装置としたものである。
【0019】
請求項5に記載の発明は、第一加熱炉又は冷却室の両方、若しくはいずれか一方が、大気と不活性ガス雰囲気とを置換する手段を有するロードロック室内に収容されていることを特徴とする請求項4に記載の加熱乾燥装置としたものである。
【0020】
請求項6に記載の発明は、塗布膜を形成した基板を赤外線ヒータ炉にて所定温度まで加熱する工程と、当該所定温度に保たれた熱風循環式多段炉に前記基板を移動し、加熱乾燥する工程と、を有することを特徴とする加熱乾燥方法としたものである。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の加熱乾燥装置を使用して製造したことを特徴とする有機EL素子としたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明になる基板加熱乾燥炉は、基板を所望の乾燥温度まで加熱する最初の工程では、温度設定可能な赤外線ヒータにより高い温度精度で基板全体を加熱し、次いで、基板温度を高温で維持する工程では、赤外線ヒータで高温を維持する代わりに、多段に構成された棚に基板を設置し、熱風循環式過熱炉にて加熱するという乾燥方式を採用した。
その結果、基板面内及び基板間の温度ムラが著しく抑制され、乾燥皮膜の膜質が基板全面で均一となった。同時に、乾燥装置の設置面積を少なくすることができて、省スペース化が図られ消費エネルギーも低く抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明になる加熱乾燥装置の側面断面視の概略図。
【図2】本発明になる加熱乾燥装置の別の実施例の側面断面視の概略図。
【図3】本発明になる加熱乾燥装置の別の実施例の側面断面視の概略図。
【図4】本発明になる加熱乾燥装置の別の実施例の側面断面視の概略図。
【図5】有機EL素子の構成を説明する断面視の図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施形態の一例を説明する。
【0025】
図1は、本発明になる加熱乾燥装置の構成の一例を模式的に示す側断面視図である。
【0026】
有機機能層を形成した基板を加熱処理する場合、加熱時に酸素や水が共存すると、それらが有機機能層と化学反応を起こし素子特性を劣化させるという問題がある。特に酸素は、機能性材料として多く用いられるπ電子系分子の二重結合部位と反応を起こしやすいため、それらの有機機能層を高温過熱する場合には、酸素の少ない窒素やアルゴンのような不活性ガス雰囲気下で行う必要がある。
【0027】
そのため、まず加熱乾燥装置の基板投入側には、投入側ロードロック室1が備えられる。投入側ロードロック室1の基板投入口1aは基板6が通過可能なスリット状であり、シャッターにより外気と遮断されている、また、投入側ロードロック室1と第一加熱炉2の接続口である基板搬送口2aもシャッターにより遮断されている。投入側ロードロック室1内は、基板6及び搬送手段を収容可能な最小限の容積としており、大気と不活性ガス雰囲気を置換する機構が設けられている。
【0028】
まず、基板投入口1aのシャッターを開き、投入側ロードロック室1に基板6を投入する工程と、次いで、基板投入口1aのシャッターを閉じ投入側ロードロック室1内の大気を不活性ガス雰囲気に置換する工程と、第一加熱炉2との接続口である基板搬送口2aのシャッターを開き基板6を第一加熱炉2内に搬送する工程によって、基板6を本発明になる加熱乾燥装置内に投入する。
【0029】
基板6の搬送手段としては、コンベア式、搬送ロール式等が考えられるが、基板6の表面温度の均一性(均熱精度)への影響をできるだけ抑えるためには、基板6の端面や基板6の裏面を点接触もしくは線接触で保持する搬送アームでのピッチ送り機構がより望ましい。
【0030】
次いで第一加熱炉2では、箱状に密閉された室内に、配置される基板6と相対するように赤外線ヒータ2bが、基板6の上面側に設置されている。
第一加熱炉2の赤外線ヒータ2bは、ジルコニア、アルミナ等の遠赤外線放射セラミックス層が、0.01〜0.2 mmの厚さで片面、もしくは両面に被覆されたパネル状の放熱板の内部に発熱体を有する構造となっており、内部の発熱体により放熱板が加熱されることにより遠赤外線放射セラミックス層から遠赤外線が放射される。このパネル型をした赤外線ヒータ2bが、基板6設置位置の上方に、遠赤外線セラミックス層を基板6に相対する様に配置されて、基板6は、その上面が輻射加熱される。
【0031】
このとき、加熱される基板6の均熱精度を確保するために、赤外線ヒータ2bが適宜分割されたパネル状のものを並列に配置し、基板6面内の温度分布が均一になるようパネルごとに温度を制御できる機構としても良い。例えば、基板6中央に比べ基板6端面からは熱が逃げやすいため、基板6中央部の直上の赤外線ヒータよりも基板6両端部の赤外線ヒータの出力を大きくするなどの方式が考えられる。また、第一加熱炉2の両側部に、赤外線ヒーターから成る補助加熱用の側面ヒーターを配設し、設置された基板6の周縁部を補助的に加熱する方式も考えられる。
ここでは、パネル型遠赤外線ヒータを使用した例を紹介したが、代わりに複数の棒状遠赤外線ヒータや近赤外線ランプヒータを使用してもかまわない。
【0032】
また、第一加熱炉2には、窒素ガスやアルゴンガスのような不活性ガスの供給口と排気口が設けられ、第一加熱炉2内の不活性ガス雰囲気を保つと共に、室内に揮発した溶剤の濃度を一定以下に保つようにする。供給される不活性ガスの温度は、常温でも加熱されたものでもかまわないが、基板6の均熱精度を低下させないように、室内に噴射された不活性ガスが直接基板6に当らないような位置に供給口を設置する必要があり、更に風向板等を設置するのが好ましい。
【0033】
次いで、第二加熱炉3では、箱状に密閉された室内に、20〜100mmピッチ程度の多段の棚3bが設置されており、棚3bの各段に第一加熱炉2から搬送されてきた基板6を挿入する手段を有する。例えば、棚3b全体が昇降する機構になっており、基板6を差し込む棚の高さを第一加熱炉2のパスラインと同じ高さになるよう棚3bを昇降させて、保持アームなどで支えた基板6を第一加熱炉2から、第二加熱炉3の棚の3b所望の棚に
平行移動させる方式などが考えられる。他にも、図2に示すように、棚3bは固定式とし、基板6を受け取る腕が昇降可能な搬送ロボット3cを使用する方式でもかまわない。
【0034】
第二加熱炉3内の多段の棚3bは、側壁や床面や天板が無く、必要最小限の枠のみで構成され、第二加熱炉3内を循環する熱風が通りやすい構造とし、各棚での基板6保持は、基板6の端面や基板6の裏面を点接触もしくは線接触で保持する。
【0035】
第二加熱炉3内は、不活性ガスによる熱風循環式オーブンとなっており、所定の温度で室温を維持し続ける機構を有する。第一加熱炉2で常温から所定の温度まで均一に加熱された基板6が、恒温室の棚3bに多段に設置されることにより、基板6表面温度は所定の温度にて所望の時間だけ維持することが可能となる。棚3bの段数を多くするほど、基板6の温度保持時間をより長く、単位時間当たりの基板受入枚数をより多くすることが可能になるが、連続炉の様に装置の床面積が増大することも無く、また、第二加熱炉3は熱風循環式オーブンであるため、棚の1段ごとにヒータを設置しなくとも温度維持が容易で、消費エネルギーは赤外線ヒータによる多段炉よりも遥かに低く抑えることが出来る。
【0036】
第一加熱炉2と第二加熱炉3は、基板搬送口3aで接続されており、どちらも不活性ガス雰囲気であるため、基板搬送口3aは遮断しなくてもかまわないが、熱風循環式オーブンからの気流が第一加熱炉2内の基板6の均熱精度に影響を与える恐れがあるため、基板搬送口3aは基板6搬送時以外はシャッター等で閉じられていることがより望ましい。
【0037】
次いで、第二加熱炉3とは基板搬送口4aで接続された冷却室4がある。冷却室4は箱状に密閉され、基板6搬送時以外は、第二加熱炉3側の基板搬送口4aや、次の排出側ロードロック室5側の基板搬送口5aともシャッターで遮蔽されている。冷却室4内に第二加熱炉3から搬送した高温の基板6を保持し、第二加熱炉3の加熱された雰囲気から遮断することにより基板6を冷却させる。冷却室4内にも常温の不活性ガスを循環させる機構を有し、基板6に形成された有機機構層の劣化を抑えるようにする。
また、基板6の冷却を促進するため、常温の不活性ガスを基板6に直接吹きかける機構や、基板6の裏面から水冷ジャケットにより直接冷却もしくは輻射冷却をする機構や冷却室4の壁面を循環冷却水で冷却し続ける機構等を取り付けても良い。
【0038】
次いで、冷却室4と基板搬送口5aで接続された排出側ロードロック室5がある。投入側ロードロック室1と同様の機構を有し、基板排出口5aのシャッターを閉じ排出側ロードロック室5内の大気を不活性ガス雰囲気に置換する工程と、次いで、冷却室4からの基板搬送口の5aシャッターを開き、排出側ロードロック室5に基板6を投入する工程と、冷却室4からの基板搬送口5aのシャッターを閉じた後、基板排出口5bのシャッターを開き基板6を装置外に排出する工程で動作する。
【0039】
本加熱乾燥装置により、基板は、100〜250℃の範囲で所望の温度まで昇温時でも基板面内の温度バラツキがレンジ5℃以内、100〜250℃の所望温度での温度保持時には所望温度±1.5℃以内でのベーク処理を行うことが出来た。
【0040】
また、本発明による加熱乾燥装置の別の実施例として、以下の機構等も考えられる。
【0041】
図3に示すように、搬入側ロードロック室11内が第一加熱炉となっており、基板投入口1aのシャッターを開き、投入側ロードロック室11に基板6を投入する工程と、次いで、基板投入口1aのシャッターを閉じ投入側ロードロック室兼第一加熱炉11内の大気を不活性ガス雰囲気に置換する工程と、赤外線ヒータにより基板6を所定温度まで輻射過熱する工程と、第二加熱炉3との接続口のシャッターを開き基板6を第二加熱炉3内に搬送する工程で動作する方式である。
【0042】
また、図4に示すように、排出側ロードロック室51内が冷却室となっており、基板排出口5bのシャッターを閉じ排出側ロードロック室5内の大気を不活性ガス雰囲気に置換する工程と、次いで、第二加熱炉3からの基板搬送口5aのシャッターを開き、排出側ロードロック室兼冷却室51に基板6を投入する工程と、第二加熱炉3からの基板搬送口5aのシャッターを閉じ基板6を所望の温度に冷却する工程と、基板排出口5bのシャッターを開き基板6を装置外に排出する工程で動作する方式である。
【0043】
以下、本発明の加熱乾燥装置を、有機EL素子の乾燥に適用した例について説明する。有機EL素子の断面視の構成は図5に示した。
【0044】
まず、ガラスからなる基板21の上には陽極としてパターニングされた画素電極22が設けられる。画素電極22の材料としては、ITO(インジウム錫複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることなどからITOが好ましい。ITOはスパッタ法により基板上に形成されフォトリソ法によりパターニングされライン状の画素電極22となる。
【0045】
このライン状の画素電極22を形成後、隣接する画素電極との間に感光性材料を用いて、フォトリソグラフィ法により絶縁性の隔壁23が形成される。隔壁23を形成する感光性材料としてはポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよく、市販のもので構わないが、十分な絶縁性を有する必要がある。なお、隔壁が十分な絶縁性を有さない場合には隔壁を通じて隣り合う画素電極に電流が流れてしまい表示不良が発生してしまう。具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といったものが挙げられるが、これに限定するものではない。また、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させても良い。
【0046】
また、隔壁23を形成する感光性樹脂はスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の塗布方法を用いて塗布され、フォトリソ法によりパターニングされる。また、感光性樹脂を用いずにグラビアオフセット印刷法、反転印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法等を用いて絶縁層を形成してもよい。
【0047】
以上のようにして隔壁23を形成した後、正孔輸送層24を形成する。
【0048】
正孔輸送層24を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等を用いても良い。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ、正孔輸送材料インキとなり、凸版印刷法、グラビア印刷、反転オフセット印刷、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の各種塗布法で形成することができる。
【0049】
また、正孔輸送層24を形成する正孔輸送材料としては、前記有機化合物の他にも、酸化バナジウム(VOx)、酸化モリブデン(MoOx)、酸化ニッケル(NiOx)等をはじめとする無機酸化物が挙げられる。これらの材料はスパッタ法、抵抗加熱法などの各種蒸着法で形成することが出来る。
【0050】
正孔輸送層24は、画素電極22からインターレイヤー25a及び有機発光層25へ正孔が注入されやすくなるよう、注入障壁を下げるために設置される。
【0051】
正孔輸送層24に次いで、インターレイヤー25aを形成する。インターレイヤー25
aは、有機発光層25から陽極側へ移動する電子を堰き止め有機発光層内での電荷結合確率を上げる電子ブロック層としての役割、励起状態の有機発光材料と正孔輸送層との接触による消光防止、有機発光材料と正孔輸送材料との化学反応による発光効率低下の防止などを目的として設置される。
【0052】
インターレイヤー25aに用いる材料としては、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子材料や、これらの高分子材料に芳香族アミンなどの低分子を混ぜた物を用いることが出来、特に、ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−alt−(1,4−フェニレン−((4−sec−ブチルフェニル)アミノ)−1,4−フェニレン)が好適に用いられる。通常、このインターレイヤー25aは有機発光層との混色を避けるため、インターレイヤー25a成膜後有機発光層形成前に、およそ200℃程度で10分以上の加熱処理により不溶化される。
【0053】
次いで、有機発光層25を形成する。
【0054】
有機発光層25の形成方法としては、塗り分けを要する場合には、凸版印刷法、グラビア印刷、反転オフセット印刷等の印刷法、インクジェット法等を用いることができる。有機発光層5を形成する有機発光材料は、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系などの発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが本発明ではこれらに限定されるわけではない。
【0055】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの単独またはこれらの混合溶媒が上げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0056】
正孔輸送層、インターレイヤー層、有機発光層以外に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層といった層を必要に応じ選択した積層構造をとることができる。また、これらの層を塗布法で形成した際に本発明の形成方法を使用することができる。すなわち、塗布法を用いて形成した層は、乾燥させて溶媒を除去する必要があり、このために本発明の加熱乾燥装置を用いることができる。各層を形成後、前記加熱乾燥装置に基板を設置し、先に説明した加熱乾燥の工程で加熱乾燥する。加熱乾燥は、塗布形成した層ごとに装置に設置して行なっても良いし、場合によっては複数の層を形成した後に行っても良い。
【0057】
上記加熱乾燥方法を用いれば、赤外線ヒータで加熱した後に、熱風循環炉で加熱乾燥することで、一定の温度雰囲気での温度制御を容易にすることができる。このため、加熱時の損傷を抑制し、なおかつ本発明の加熱乾燥装置によれば、省スペース、省エネルギーでの加熱乾燥が可能となる。
【0058】
次に、以上のように有機発光層25を含む発光媒体層を形成した後、陰極層6を画素電極のラインパターンと直交するラインパターンで形成する。この陰極層26の材料としては、有機発光層の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としてはマスクを用いた真空蒸着法による形成方法
が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、基板上に塗布された有機膜を製造する装置に関するものである。また、乾燥工程を含む有機ELの製造装置に関するものである。
本発明になる加熱乾燥装置及び加熱乾燥方法は、有機薄膜トランジスタや、有機太陽電池などの電子デバイス、あるいは導電性材料などを含む塗工液を用いて塗布法にて電子回路を形成する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ・・・投入側ロードロック室
1a・・・基板投入口
2 ・・・第一加熱炉
2a・・・基板搬送口
2b・・・赤外線ヒータ
3 ・・・第二加熱炉
3a・・・基板搬送口
3b・・・棚
3c・・・基板搬送ロボット
4 ・・・冷却室
4a・・・基板搬送口
5 ・・・排出側ロードロック室
5a・・・基板搬送口
5b・・・基板排出口
6 ・・・基板
7 ・・・基板搬送アーム
11・・・投入側ロードロック室兼第一加熱炉
51・・・排出側ロードロック室兼冷却室
21・・・基板
22・・・画素電極
23・・・絶縁性の隔壁
24・・・正孔輸送層
25a・・インターレイヤー層
25・・・有機発光層
26・・・陰極層
27・・・ガラスキャップ
28・・・接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、赤外線ヒータ炉により基板を所定温度まで加熱するための第一加熱炉と、所定温度まで加熱された基板を熱風循環式多段炉にて高温で維持するための第二加熱炉と、
を備えることを特徴とする加熱乾燥装置。
【請求項2】
前記第二加熱炉から取り出した基板の温度を、少なくとも50℃以下まで下げるための冷却室を備えることを特徴とする請求項1に記載の加熱乾燥装置。
【請求項3】
第一加熱炉、第二加熱炉又は冷却室の全て若しくはいずれかは、不活性ガス雰囲気を気密に保持できる密閉構造を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱乾燥装置。
【請求項4】
前記基板の投入側及び排出側に、大気と不活性ガス雰囲気とを置換する手段を有するロードロック室を備えることを特徴とする請求項3に記載の加熱乾燥装置。
【請求項5】
第一加熱炉又は冷却室の両方、若しくはいずれか一方が、大気と不活性ガス雰囲気とを置換する手段を有するロードロック室内に収容されていることを特徴とする請求項4に記載の加熱乾燥装置。
【請求項6】
塗布膜を形成した基板を赤外線ヒータ炉にて所定温度まで加熱する工程と、
当該所定温度に保たれた熱風循環式多段炉に前記基板を移動し、加熱乾燥する工程と、
を有することを特徴とする加熱乾燥方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の加熱乾燥装置を使用して製造したことを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−218812(P2010−218812A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62820(P2009−62820)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】