説明

加熱加工ジャガイモおよびその製造方法

【課題】 黒変などの変色がなくて良好な色調を有し、形崩れがなくて外観に優れ、水っぽくなくてホクホクとしていて食感に優れ、異味がなくて食味に優れ、しかも前記した優れた品質を長期間の保存後も維持している加熱加工ジャガイモを提供すること。
【解決手段】 剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、酢酸を含有する水溶液中に浸漬した後、真空包装して高温で加熱処理して加熱加工ジャガイモを製造する本発明の方法により、上記した加熱加工ジャガイモが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間の保存が可能な加熱加工ジャガイモおよびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、黒変などの変色がなく明るくて良好な色調を有し、煮崩れなどの形崩れがなく、しかもジャガイモ本来の良好な食感および食味を有し、当該優れた特性が長期間の保存後も維持されている、長期間の保存が可能な加熱加工ジャガイモおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャガイモは、ポテトサラダ、コロッケ、カレー、肉ジャガ、ポテトグラタンなどをはじめとして種々の料理に広く用いられている。
ジャガイモの皮剥き、カット、加熱などは、調理工程の一環として、通常各々の調理現場で行われているが、近年、生活様式の変化や流通形態の変化などに伴って、ジャガイモの皮剥き、カット、加熱加工などの工程を各々の調理現場で行わずに、工場などで予めまとめて行い、皮剥きしたジャガイモ、皮剥きしカットしたジャガイモ、または皮剥きしカットし加熱加工したジャガイモを、スーパーマーケットなどで販売したり、飲食店、食堂、弁当や惣菜類の製造販売店、給食センターなどの調理現場などに納入することが広く行われるようになっている。
皮剥きしたジャガイモ、皮剥きしカットしたジャガイモ、または皮剥きしカットし加熱加工したジャガイモを購入した家庭や上記した調理現場では、皮剥きや加熱加工などの手間や時間のかかる処理工程を省略することができ、加熱加工を行なっていない剥皮したジャガイモは加熱加工を行なって、また加熱加工を行なってあるジャガイモはそのままで、調理の付け合わせとして用いたり、ポテトサラダ、コロッケ、ポテトグラタン、肉ジャガ、カレー、その他の各種ジャガイモ料理の材料として使用することができ、極めて便利であることから、その需要が伸びている。
【0003】
しかしながら、ジャガイモは、皮を剥いてしばらくすると、変色して黒ずんだ色になり、変色したジャガイモは料理の食味の低下や色調の低下をもたらすため、剥皮した状態で流通・販売されるジャガイモや、剥皮し加熱加工した状態で流通、販売されるジャガイモでは、ジャガイモの変色の防止が求められている。
ジャガイモの変色を防止する方法としては、剥皮したジャガイモをクエン酸を含有するpH調整液中に浸漬する方法や、剥皮したジャガイモをクエン酸、フィチン酸およびメタリン酸から選ばれるpH調整剤に接触させながら剥皮する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、クエン酸などのpH調整剤を用いるこの従来の方法による場合は、剥皮したジャガイモの変色防止が未だ不十分であり、しかも食味が悪くなる。
【0004】
また、剥皮したジャガイモや剥皮してカットしたジャガイモは、煮崩れなどの形崩れが生じやすく、かかる点から、形崩れの生じないジャガイモが求められている。
ジャガイモの形崩れ防止方法としては、カルシウム塩およびマグネシウム塩の少なくとも一方と、増粘多糖類、クエン酸やグルコノデルタラクトンなどのpH調整剤、糖類を含有する水溶液中でジャガイモなどを加熱処理する方法(特許文献2)、剥皮したジャガイモを0.05〜0.5%の水溶性カルシウムを含む水溶液で接液処理した後、0.5〜5.0%の水溶性カルシウムを含む調味液とともに加熱処理する方法(特許文献3)、剥皮したジャガイモを0.02〜0.8%のマグネシウム塩水溶液で接液処理した後、1.0〜6.0%のマグネシウム塩水溶液中で加熱処理する方法(特許文献4)が知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献2の方法は、野菜類の形崩れの防止のために、カルシウム塩またはマグネシウム塩、増粘多糖類、pH調整剤および糖類という多数の成分を添加した水溶液を使用する必要があるため、形崩れ防止用水溶液の調製に手間がかかり、しかもカルシウム塩および/またはマグネシウム塩を使用しているため、野菜類本来の味が失われたり、異味を生じ易い。また、特許文献3の方法もカルシウム塩を用いているため、ジャガイモ本来の味が低下し、また2段目の加熱処理を水溶性カルシウムを含む調味液中で行なっていてジャガイモに調味液が滲み込んでいるため、加熱処理後のジャガイモには調味液の味が滲み込んでおり、一般に味付けしていないボイルジャガイモや蒸煮ジャガイモを使用する料理、例えばポテトサラダ、コロッケなどには使用できない。さらに、特許文献4の方法も、マグネシウム塩を用いているため、ジャガイモ本来の味が失われ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−224966号公報
【特許文献2】特開2003−144080号公報
【特許文献3】特開2005−58002号公報
【特許文献4】特開2007−89422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、黒変などの変色がなくてジャガイモ本来の良好な明るい色調を有し、煮崩れなどの形崩れがなくて良好な外観および食感を有し、異味がせず食味に優れ、しかも長期間の保存が可能で、長期間の保存後も良好な色調、崩れのない良好な外観、良好な食感および食味を維持している加熱加工ジャガイモの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、酢酸を含有する水溶液中に浸漬した後、真空包装して高温で加熱処理すると、黒変などの変色がなくてジャガイモ本来の明るい良好な色調を有し、煮崩れなどの形崩れがなくて外観および食感に優れ、異味がなく食味に優れ、しかもその良好な色調、外観、食感および食味が長期にわたって維持される、長期間の保存が可能な加熱加工ジャガイモが得られることを見出した。
【0009】
その際に、本発明者らは、酢酸を含有する水溶液における酢酸の濃度は、0.05〜0.5質量%であることが、変色防止、形崩れ防止、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの食感および食味、風味、香りなどの点から好ましいこと、また酢酸を含有する水溶液としては醸造穀物酢を水で希釈して得られる水溶液が好適であることを見出した。
さらに、本発明者らは、酢酸を含有する水溶液中に浸漬するに当っては、酢酸を含有する水溶液の温度を10〜30℃の範囲にして、3〜10分間浸漬処理することが、変色および形崩れの防止、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの食感、食味、風味などがより良好になり、好ましいことを見出した。
さらに、本発明者らは、剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモの大きさを20〜100g/1個の範囲にして上記一連の処理を行なうと、煮崩れなどの形崩れの防止、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの食感、食味、風味が良好になること、また真空包装後の高温での加熱処理を85〜100℃の温度で行なうと、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの形崩れがより少なくなり、水っぽくなくてホクホクとした良好な食感および食味になり、しかも長期間の保存性に優れたものになることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、酢酸を含有する水溶液中に浸漬して処理した後、真空包装して高温で加熱処理することを特徴とする、加熱加工ジャガイモの製造方法である。
【0011】
そして、本発明は、
(2) 酢酸を含有する水溶液における酢酸の濃度が0.03〜0.2質量%である前記(1)の加熱加工ジャガイモの製造方法;
(3) 酢酸を含有する水溶液が、穀物酢を水で希釈した水溶液である前記(1)または(2)の加熱加工ジャガイモの製造方法;
(4) 剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、酢酸を含有する水溶液中に温度5〜30℃で1〜15分間浸漬する前記(1)〜(3)のいずれかの加熱加工ジャガイモの製造方法;
(5) 剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモの1個の大きさが20〜100gである前記(1)〜(4)のいずれかの加熱加工ジャガイモの製造方法;
(6) 酢酸を含有する水溶液中に浸漬して処理したジャガイモを、水洗せずに真空包装して高温で加熱処理する前記(1)〜(5)のいずれかの加熱加工ジャガイモの製造方法;および、
(7) 真空包装後の高温での加熱処理を85〜100℃で行なう前記(1)〜(6)のいずれかの加熱加工ジャガイモの製造方法;
である。
さらに、本発明は、
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかの製造方法で得られる加熱加工ジャガイモである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法を採用することにより、黒変などの変色がなくてジャガイモ本来の明るい良好な色調を有し、煮崩れなどの形崩れがなくて外観に優れ、水っぽくなくてホクホクとしていて食感に優れ、異味がなくて食味に優れる加熱加工ジャガイモを円滑に得ることができ、しかも本発明により得られる加熱加工ジャガイモは、長期間の保存後も、前記した良好な色調、外観、食感および食味を維持している。
本発明により得られる加熱加工ジャガイモは、例えば、10℃で30日間保存した後でも、黒変などの変色のない良好な色調、形崩れのない良好な外観、水っぽくなくてホクホクとした良好な食感、異味のない良好な食味を維持しており、しかも付着菌数が少なくて安全性および衛生性の点でも優れている。
特に、本発明では、ジャガイモの変色防止や形崩れの防止のために、剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、クエン酸などを添加した水溶液ではなく、カルシウム塩やマグネシウム塩を添加していない、酢酸を含有する水溶液中に浸漬処理しているために、ジャガイモの変色と形崩れが一層良好に防止され、しかも最終的に得られる加熱加工ジャガイモに異味がなく、食味、風味に優れている。
さらに、本発明では、酢酸を含有する水溶液中に浸漬処理し、冷却したジャガイモを真空包装して高温で加熱処理しているため、最終的に得られる加熱加工ジャガイモに、上記した長期間の保存性とともに、水っぽくなくホクホクとした良好な食感が付与される。
そのため、本発明の方法で得られる加熱加工ジャガイモは、スーパーマーケットなどで販売したり、飲食店、食堂、弁当や総菜類の製造販売店、給食センターなどの調理現場などで使用するのに極めて適しており、本発明の加熱加工ジャガイモを用いて、例えば、電子レンジ、蒸し庫(蒸し器)、熱湯、スチームコンベンションオーブン、オーブン、フライヤーなどを使用して短時間調理するだけで、食感、食味、外観、色調に優れる種々のジャガイモ料理を短い時間で簡単に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
ジャガイモは、ナス科、ナス族の植物の地下茎の部分(塊茎)を食用とするもので、ジャガイモには数十種類の品種があると云われている。本発明では、使用するジャガイモの種類は特に制限されず、食し得るジャガイモであればいずれでもよい。本発明で用い得るジャガイモとしては、例えば、男爵イモ、メークイン、キタアカリ、ワセシロ、トヨシロ、ホッカイコガネ、とうや、農林1号、ベニマル、マチルダ、インカのめざめ、花しべつ、シンシア、ベニアカリ、デジマ、アンデスレッドなどを挙げることができる。
【0014】
本発明では、剥皮した生のジャガイモまたは剥皮しカットした生のジャガイモを、酢酸を含有する水溶液(以下「酢酸含有水溶液」という)中に浸漬する。
酢酸含有水溶液中への浸漬処理は、ジャガイモのサイズ、ジャガイモの種類、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの用途などに応じて、カットせずに丸い状態のままの剥皮したジャガイモを用いて行なってもよいし、または剥皮し適当なサイズにカットしたジャガイモを用いて行なってもよい(以後、「カットせずに丸い状態のままの剥皮したジャガイモ」および「剥皮し適当なサイズにカットしたジャガイモ」を総称して「剥皮ジャガイモ」ということがある)。
剥皮ジャガイモの大きさは、ジャガイモの種類、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの用途などによって異なり得るが、一般的には、剥皮ジャガイモの大きさを、20〜100g/1個程度、特に30〜60g/1個程度にして、酢酸含有水溶液中への浸漬処理およびそれ以降の工程を行なうことが、変色の防止、煮崩れなどの形崩れの防止、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの食感および食味、風味などの点から好ましい。
【0015】
酢酸含有水溶液中に浸漬する前に行なうジャガイモの剥皮は、ジャガイモの表面に付着している泥や汚れを、水洗浄などの清浄処理によって取り除いてから行なうことが好ましい。
剥皮しカットしたジャガイモを用いて酢酸含有水溶液中に浸漬して処理するに当っては、剥皮はカット前に行なってもよいしまたはカット後に行なってもよい。
ジャガイモの芽は、剥皮前または剥皮後に取り除いておく。
【0016】
浸漬処理に用いる酢酸含有水溶液における酢酸の濃度は、0.03〜0.2質量%であることが好ましく、0.05〜0.15質量%であることがより好ましく、0.08〜0.1質量%であることが更に好ましい。
酢酸含有水溶液における酢酸の濃度が低すぎると、変色および形崩れを防止できなくなり、一方酢酸の濃度が高すぎると、ジャガイモ本来の味が低下する。
浸漬処理に用いる酢酸含有水溶液としては、酢酸の濃度が前記した範囲である水溶液であればいずれも使用できる。そのうちでも、最終的に得られる加熱加工ジャガイモの食感、食味、変色防止、形崩れ防止などの点から、醸造により得られた穀物酢を水で希釈して、酢酸の濃度を上記した好ましい範囲に調整した水溶液(穀物酢の希釈液)が好ましく用いられる。
その際の穀物酢としては、醸造により製造した米酢、米黒酢、大麦黒酢、粕酢、玄米酢、前記以外のいわゆる穀物酢などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、醸造により製造した米酢、米黒酢、大麦黒酢、穀物酢のうちの1種または2種以上が、食味の点から好ましく用いられる。
本発明で用いる酢酸含有水溶液が、酢酸以外の酸を含有する場合は、酢酸以外の酸の含有量は、酢酸の含有量の50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
また、本発明では、カルシウム塩やマグネシウム塩を添加していない酢酸含有水溶液を用いる。
【0017】
浸漬処理を行なう際の酢酸含有水溶液の温度は、5〜30℃であることが好ましく、10〜25℃であることがより好ましい。
また、酢酸含有水溶液中への浸漬処理の時間は、1〜15分間が好ましく、3〜10分間がより好ましい。
浸漬処理の時間が短すぎると、ジャガイモの変色が防止しにくくなり、一方浸漬処理が長すぎると、ジャガイモの食味の低下などが生じ易くなる。
【0018】
酢酸含有水溶液中で浸漬処理した後、ジャガイモを酢酸含有水溶液から取り出す。
酢酸含有水溶液から取り出したジャガイモは、水洗せずに、そのまま真空包装して高温で加熱処理することが好ましい。浸漬処理した後に水道水や井戸水などを用いて水洗してジャガイモの表面に付着している酢酸などを除いてから真空包装して高温で加熱処理すると、酢酸によるジャガイモ表面の変色防止効果が低下し、また酢酸によるpH低下がもたらす除菌効果も期待できなくなる。
【0019】
酢酸含有水溶液中での浸漬処理の済んだジャガイモを真空包装して、高温で加熱する。
真空包装用の包材としては、食品の真空包装に用いられている包材のいずれもが使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDC)フィルム、ナイロン(NY)/ポリエチレン(PE)積層フィルム、PE/PVDC/PE積層フィルム、NY/エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)/PE積層フィルム、PVDCコートナイロン(KNY)/PE積層フィルム、PVDCコート2軸延伸ポリプロピレン(KOP)/PE積層フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリプロピレン(PP)積層フィルム、PET/アルミニウム(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)積層フィルム、PET/PVDC/CPP積層フィルム、2軸配向ポリプロピレン(OPP)/EVOH/PE積層フィルム、PET/NY/Al/CPP積層フィルムなどを用いることができる。そのうちでも、包材としては、ナイロン/ポリエチレン積層フィルムが好ましく用いられる。
【0020】
真空包装は、真空包装用の包材から形成した袋やその他の包装容器に冷却したジャガイモを収容し、包装容器内が減圧吸引した後、包装容器を密封することによって行なう。
その際の、包装容器内の真空度は、一般に、1kPa以下であることが好ましく、0.6〜1.0kPaがより好ましく、0.6〜0.8kPaが更に好ましい。
【0021】
真空包装したジャガイモを、高温で加熱処理する。
加熱処理は、真空包装したジャガイモを、そのまま真空包装状態で、包装容器ごと熱湯中に浸漬して行なってもよいし、高温の蒸気を用いて行なってもよいし、熱湯による加熱と蒸気加熱を併用して行なってもよい。
加熱温度は、包装容器に収容したジャガイモが十分に殺菌されて長期間にわたって保存できるようにするために、通常、85〜100℃が好ましく、90〜100℃がより好ましい。加熱温度が低すぎると、ジャガイモの殺菌が不十分で長期間の保存が可能な加熱加工ジャガイモが得られなくなる。
真空包装したジャガイモを高温で加熱する際の加熱時間は、20〜60分間が好ましく、30〜45分間がより好ましい。
加熱時間が短すぎると、ジャガイモの殺菌が不十分で長期間の保存が可能な加熱加工ジャガイモが得られなくなり、一方加熱時間が長すぎると、ジャガイモの食感や食味の低下、崩れなどを生ずる。
【0022】
高温で加熱処理したジャガイモを、包装容器内に真空包装されたままの状態で冷却することによって、真空包装された加熱加工ジャガイモが得られる。
これにより得られる加熱加工ジャガイモは、真空包装されたままの状態で、保存、流通、販売される。真空包装された加熱加工ジャガイモは、変色や形崩れなどを生ずることなく、ジャガイモ本来の明るい良好な色調と崩れのない良好な外観を維持し、水っぽくなくてホクホクとした良好な食感と異味のない良好な食味を維持しながら、長期間にわたって保存することができる。例えば、10℃の温度で30日間保存した後でも、黒変などの変色が何ら生じておらず、形崩れもなく、良好な色調、外観、食感、食味、風味を維持しており、しかも付着菌数も少なく、安全性および衛生性にも優れている。
【0023】
上記した本発明の方法で得られる加熱加工ジャガイモは、真空包装後の高温での加熱処理によって、加熱調理が行なわれているため、そのままで料理の付け合わせとして用いたり、短時間焼き上げてベークドポテトにしたり、ポテトサラダ、コロッケ、ポテトグラタン、肉ジャガ、その他のジャガイモを用いる料理の材料として使用することができる。
本発明の製造方法で得られる加熱加工ジャガイモは、剥皮、または剥皮およびカットと、加熱調理が既に行なわれているため、上記したジャガイモ料理の製造に当っては、ジャガイモの皮を剥いたり、茹でたり蒸したりする手間や時間を省くことができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
以下の例で得られた加熱加工ジャガイモの変色度、形崩れ、食感および食味の評価並びに加熱加工ジャガイモに付着している一般生菌数の測定は以下の方法で行なった。
【0025】
(1)加熱加工ジャガイモの変色度、形崩れ、食感および食味品質:
加熱加工の変色度、形崩れ、食感および食味の評価を、5名のパネラーが下記の表1に記載した評価基準に基づいて評価し、その平均値を採ることによって品質の評価を行なった。
【0026】
【表1】

【0027】
(2) 加熱加工ジャガイモに付着している一般生菌数の測定:
検体(加熱加工ジャガイモ)25gを秤量し、滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)225gを加え、60秒間ストマッカー処理(細菌検査用ホモジナイザで60秒間均質化処理)をしたものを試料原液として用いて、さらに10倍段階希釈液を調製した。この希釈液を滅菌シャーレに1ml分注し、さらに滅菌した標準寒天培地(栄研化学株式会社製「デソキシコーレイト寒天培地」)を適量分注して混和した。それを35℃で48時間培養して、48時間培養後の集落(コロニー)の数を数えて、一般生菌数(CFU/g)とした。
【0028】
《実施例1》
(1) 穀物酢(ミツカン社製「いぶき」、酢酸濃度=4.2質量%)2質量部に水道水96質量部を加えて希釈して酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)(酢酸濃度=0.084質量%)を調製した。
(2) 男爵イモ(北海道、21年度産)500gを水で洗って表面の泥および汚れを落とした後、ピーラーで皮を剥き、芽の部分を除いてから半分にカットし(歩留り=約75%、カット後の剥皮ジャガイモ1個の平均質量=約40g)、剥皮しカットしたジャガイモを、上記(1)で調製した酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)2L中に直ちに投入して8分間浸漬処理(浸漬処理時の酢酸含有水溶液の温度20℃)した後、ジャガイモを酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)から取り出した。
(3) 酢酸含有水溶液から取り出したジャガイモを、真空包装袋(袋素材=ナイロン/ポリエチレン積層フィルム、福助社製「ナイロンポリ」)に入れ、真空包装機(東静電気社製「TOSPAK V」)を使用して45秒吸引脱気して包装容器内の真空度を0.8kPaにして密封した。
(4) 上記(3)で真空包装したジャガイモを、蒸し庫に入れて、100℃の水蒸気を用いて40分間加熱処理した後、真空包装したままの状態で水道水を流しながら約30分間流水冷却して(水道水の温度=約15℃)、加熱加工ジャガイモを製造した。これにより得られた加熱加工ジャガイモの変色度および形崩れを包装容器の外側から観察して上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(5) 上記(4)で得られた加熱加工ジャガイモを、真空包装したままの状態で10℃の冷蔵庫で30日間保存し、30日後に冷蔵庫から取り出して、変色度、形崩れ、食感および食感の評価並びに一般生菌数の測定を上記した方法で行なったところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0029】
《比較例1》
(1) 実施例1において、酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)の代りに、水道水(水温20℃)2Lを用いた以外は、実施例1の(2)〜(4)と同じ操作を行なって、加熱加工ジャガイモを製造した。これにより得られた加熱加工ジャガイモの変色度および形崩れを包装容器の外側から観察して上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた加熱加工ジャガイモを、真空包装したままの状態で10℃の冷蔵庫で30日間保存し、30日後に冷蔵庫から取り出して、変色度、形崩れ、食感および食感の評価並びに一般生菌数の測定を上記した方法で行なったところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0030】
《比較例2》
(1) 実施例1において、酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)(酢酸濃度=0.084質量%)の代りに、クエン酸を水道水に添加して調製したクエン酸含有水溶液(クエン酸の濃度=0.084質量%)(水温20℃)を用いた以外は、実施例1の(2)〜(4)と同じ操作を行なって、加熱加工ジャガイモを製造した。これにより得られた加熱加工ジャガイモの変色度および形崩れを包装容器の外側から観察して上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた加熱加工ジャガイモを、真空包装したままの状態で10℃の冷蔵庫で30日間保存し、30日後に冷蔵庫から取り出して、変色度、形崩れ、食感および食感の評価並びに一般生菌数の測定を上記した方法で行なったところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0031】
【表2】

【0032】
上記の表2の結果にみるように、実施例1では、剥皮ジャガイモを、酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)中に浸漬した後、取り出して、真空包装して高温で加熱処理して加熱加工ジャガイモを製造したことにより、得られた加熱加工ジャガイモは、10℃で30日間保存後も、黒変などの変色がなくて明るい淡黄色を有していて色調に優れ、形崩れがなく外観に優れ、しかも水っぽくなくてホクホクとしていて食感に優れ、異味がなくて食味にも優れており、その上、付着菌数が少なくて、安全性および衛生性にも優れている。
それに対して、比較例1では、水道水中に浸漬した後、取り出して、真空包装して高温で加熱処理して加熱加工ジャガイモを製造したことにより、得られた加熱加工ジャガイモは、黒変し、しかも形崩れしており、それを10℃で30日間保存したものは、変色および形崩れとともに、水っぽくてホクホクとしておらず、食感に劣っており、更に実施例1で得られた加熱加工ジャガイモに比べて、付着菌数が多い。
また、比較例2では、クエン酸含有水溶液中に浸漬した後、取り出して、真空包装して高温で加熱処理して加熱加工ジャガイモを製造したことにより、得られた加熱加工ジャガイモは、比較例1に比べて変色度は小さいものの、実施例1で得られた加熱加工ジャガイモに比べて、変色していて色調が劣っている。
【0033】
《実施例2》
(1) 実施例1の(1)で使用したのと同じ穀物酢を水道水で希釈して、下記の表3に示す酢酸濃度を有する酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)をそれぞれ調製し、それぞれの酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)を用いて、実施例1の(2)〜(4)と同じ操作を行なって、加熱加工ジャガイモを製造した。これにより得られた加熱加工ジャガイモの変色度および形崩れを包装容器の外側から観察して上記した方法で評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた加熱加工ジャガイモを、真空包装したままの状態で10℃の冷蔵庫で10日間保存し、10日後に冷蔵庫から取り出して、変色度、形崩れ、食感および食感の評価を上記した方法で行なったところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0034】
【表3】

【0035】
《実施例3》
(1) 実施例1の(2)において、酢酸含有水溶液(穀物酢の希釈液)(温度20℃)中での剥皮ジャガイモの浸漬時間を下記の表4に示すそれぞれの時間に変え、それ以外は実施例1の(1)〜(4)と同じ操作を行なって、加熱加工ジャガイモを製造した。これにより得られた加熱加工ジャガイモの変色度および形崩れを包装容器の外側から観察して上記した方法で評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた加熱加工ジャガイモを、真空包装したままの状態で10℃の冷蔵庫で10日間保存し、10日後に冷蔵庫から取り出して、変色度、形崩れ、食感および食感の評価を上記した方法で行なったところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0036】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による場合は、黒変などの変色がなくてジャガイモ本来の明るい良好な色調を有し、煮崩れなどの形崩れがなくて外観に優れ、水っぽくなくてホクホクとしていて食感に優れ、異味がなくて食味に優れる加熱加工ジャガイモを円滑に得ることができ、しかも本発明により得られる加熱加工ジャガイモは、長期間の保存後も、前記した良好な色調、外観、食感および食味を維持しているので、本発明の方法で得られる加熱加工ジャガイモは、スーパーマーケットなどで販売したり、飲食店、食堂、弁当や総菜類の製造販売店、給食センターなどの調理現場などで使用するのに極めて適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、酢酸を含有する水溶液中に浸漬して処理した後、真空包装して高温で加熱処理することを特徴とする、加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項2】
酢酸を含有する水溶液における酢酸の濃度が0.03〜0.2質量%である請求項1に記載の加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項3】
酢酸を含有する水溶液が、穀物酢を水で希釈した水溶液である請求項1または2に記載の加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項4】
剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモを、酢酸を含有する水溶液中に温度5〜30℃で1〜15分間浸漬する請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項5】
剥皮したジャガイモまたは剥皮しカットしたジャガイモの1個の大きさが20〜100gである請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項6】
酢酸を含有する水溶液中に浸漬して処理したジャガイモを、水洗せずに真空包装して高温で加熱処理する請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項7】
真空包装後の高温での加熱処理を85〜100℃で行なう請求項1〜6のいずれか1項に記載の加熱加工ジャガイモの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項の製造方法で得られる加熱加工ジャガイモ。