説明

加熱殺菌処理食品の保存方法

【課題】加熱殺菌処理が必要な食品の包装材料として好適なガスバリア性を有するポリプロピレン多層容器及び蓋体により形成された保存方法を提供する。
【解決手段】ポリプロピレンを主成分とする層、接着性熱可塑性樹脂からなる接着層、および実質的に水酸基を有していないガスバリア樹脂からなる層がこの順に積層された3層以上の層構成を有する容器と、ガスバリア層を有する蓋体を用いて食品を密封し、80℃以上の加熱殺菌処理を行うことを特徴とする加熱殺菌処理食品の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌処理食品の優れた保存方法に関する。詳しくは、耐酸化性、防湿性に優れ、加熱殺菌及び保存時における食品の変色、褪色を防止することにより食品の賞味期限を延長することを可能とする保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱殺菌処理食品を保存する方法としては、加熱殺菌処理時及び保存時における食品の劣化、変色、褪色を防ぐことが必要とされることから缶詰が用いられていた。しかしながら、缶詰を用いた場合においては、酸素や水蒸気等の各種ガスバリア性については高い効果を発現するが、開封前には内容物を視認することが出来ない、電子レンジを用いた加熱処理が出来ない、充填食品を皿等に盛りつける際に食品を取り出しにくい、使用後の廃棄において重ねることが出来ないことから廃棄缶詰がかさばり廃棄処理適正に欠けるという問題があった。
【0003】
これに変わる食品保存容器としては、熱可塑性樹脂からなる熱成型容器が挙げられ、広く利用されている。特にポリプロピレン(以下、PPと略することがある)からなる容器は、融点がレトルト殺菌処理温度よりも高いことから、レトルト処理を必要とする食品の保存容器としても広く利用されている。しかしながら、PPは防湿性に優れるものの食品の劣化、変色、褪色の原因となる酸素が透過しやすい性質を有しているため、食品を長期保存するための容器としては性能が不十分である。
【0004】
PPからなる容器で食品の長期保存を可能とする方法としては、中間層として酸素バリア性を持つ熱可塑性樹脂を存在させた多層容器を用いる方法が知られている。ガスバリア層を構成する樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略することがある)が知られている。EVOHは優れた酸素バリア性を持つ樹脂であり、様々な食品を長期保存するための容器に広く利用されているが、バリア樹脂組成中に水酸基を有することから酸素バリア性の湿度依存性が高い欠点を有する。特に100℃以上の加熱殺菌処理を必要とする食品を収納、保存する場合においては、加熱殺菌処理時に熱水または水蒸気に一定時間さらされることになるため、EVOHをガスバリア層とした多層容器は加熱殺菌処理時に大きく酸素バリア性が低下する。しかも、加熱殺菌処理後においてもEVOHは酸素バリア性が大幅に低下したままであり、経時的に元の酸素バリア性能に回復していくものの、完全な回復には長い時間を要するため、その間に大量の酸素透過を許すこととなり、加熱殺菌処理食品の保存性には問題が残るものであった。
【0005】
EVOH以外に酸素バリア性に優れた熱可塑性樹脂としては、ポリメタキシリレンアジパミド(以下、N−MXD6と略することがある)が知られており、PPと組み合わせた多層容器が開示されている(特許文献1参照)。ポリメタキシリレンアジパミドはメタキシリレンジアミンとアジピン酸を重縮合させて得られるポリアミド樹脂であり、樹脂組成中に水酸基を有していないことからEVOHよりも湿度依存性が低く、加熱殺菌処理時においても酸素バリア性低下が小さい特徴を有しているため、容器内部への酸素透過量を低く抑えることができ、加熱殺菌処理食品の保存性を高めることができる。しかしながら、ポリメタキシリレンアジパミドは、PPの熱成型温度である150〜180℃では結晶化速度が非常に早いことから、N−MXD6層の切断や厚みむら、白化がみられ、ガスバリア性、透明性、形状等の性能が低下するという欠点を有していた。
【0006】
N−MXD6を中間層としたPP多層容器を得るためにはN−MXD6の結晶化速度を遅くする必要があり、N−MXD6に難晶又は非晶のポリアミド樹脂を混合する方法(特許文献2参照。)や、N−MXD6に第3成分として芳香族ジカルボン酸を共重合させる方法(特許文献3参照)が開示されている。しかし、難晶または非晶のポリアミド樹脂を混合した場合、N−MXD6に比べてガスバリア性能の低いポリアミド樹脂を混合するため、得られる多層構造物のガスバリア性能は低下する。そのため容器のコーナー部など厚みが薄い箇所において食品の劣化、変色、褪色が生じるという問題があった。また、第3成分として芳香族ジカルボン酸を共重合する場合、N−MXD6の非晶性を高めすぎると、得られたポリマーはPPと複合化して多層容器を形成する材料としての溶融粘度に調整することが困難であった。
【特許文献1】特公昭56―23792号公報
【特許文献2】特開平1−141737号公報
【特許文献3】特開平6−287298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、加熱殺菌処理が必要な食品の包装材料として好適なガスバリア性を有するPP多層容器及び蓋体により形成された保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、加熱殺菌処理食品の保存方法について鋭意研究を重ねた結果、容器のガスバリア層として23℃、60%RH環境下における酸素透過係数が1.0ml・mm/m・day・atm以下であり実質的に水酸基を有していないものを積層したPP多層容器と、23℃、60%RH環境下における酸素透過率が20ml/m・day・atm以下のガスバリア層を有する蓋体を用いて食品を密封することにより、80℃以上の加熱殺菌処理後においても食品の保存性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、ポリプロピレンを主成分とする層(A)、接着性熱可塑性樹脂からなる接着層(B)、および23℃、60%RH環境下における酸素透過係数が1.0ml・mm/m・day・atm以下であり実質的に水酸基を有していない樹脂からなるガスバリア層(C)がこの順に積層された3層以上の層構成を有する多層容器と、23℃、60%RH環境下における酸素透過率が20ml/m・day・atm以下のガスバリア層を有する蓋体を用いて食品を密封し、80℃以上の加熱殺菌処理を行うことを特徴とする加熱殺菌処理食品の保存方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の保存方法は、レトルト食品の保存性に優れ、缶詰代替による顧客の利便性向上として、その工業的価値は非常に高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いられる多層容器は、ポリプロピレンを主成分とする層(A)(PP層)、接着層(B)、およびガスバリア層(C)の少なくとも3層がこの順に積層されてなるものである。該多層容器は前記3層がその順に積層されていればよく、その層間に中間層が積層されていても良い。また、この3層の外側に更に接着層やPP層、または別の樹脂からなる層が積層されていても良い。
【0012】
本発明に用いられる蓋体は、23℃、60%RH環境下における酸素透過率が20ml/m・day・atm以下のガスバリア層を有する。蓋体として使用する都合上、シーラント層、およびガスバリア層の少なくとも2層がこの順に積層されてなるものが好ましい。該蓋体は前記2層がその順に積層されていればよく、その層間に中間層が積層されていても良い。また、この2層の外側にPET層、または別の樹脂からなる層が積層されていても良い。
【0013】
本発明に用いられる多層容器、蓋体を構成するPP層は、PPを主成分とする層であり、ガスバリア層を食品から隔離する役割、容器に食品を収納後、トップフィルムと接着するためのシーラントとしての役割を有する。PPは公知のものを使用することができる。具体的にはその化学構造から、ホモポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダムコポリマー、プロピレン−エチレンブロックコポリマーが挙げられる。PP層にはその美観を整えるために、酸化チタン等の着色顔料を添加することができ、さらにPPの酸化劣化を防止するための酸化防止剤や艶消剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を加えることができる。また、場合によってはPPの物性を改質するためにポリエチレンやエチレン−α−オレフィン共重合体等の熱可塑性樹脂を加えることもできる。
【0014】
本発明に用いられる多層容器を構成する接着層(B)は、PP層とガスバリア層を十分な強度で接着する役割を有する。接着層に使用される接着性熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン類等が挙げられる。この中でも、ポリプロピレンを主成分とし、これを変性した系がPPとの接着性の面から特に好ましく用いられる。
【0015】
本発明に用いられる多層容器を構成するガスバリア層(C)は、23℃、60%RH環境下における酸素透過係数が1.0ml・mm/m・day・atm以下であり実質的に水酸基を有していない樹脂からなる。ガスバリア層(C)は、好ましくはメタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と80〜97モル%のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸と3〜20モル%の芳香族ジカルボン酸とからなるジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミド樹脂からなり、容器外部から進入する酸素を遮断し、食品の酸化劣化を防止する役割を有する。
【0016】
ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分としては、メタキシリレンジアミンが70モル%以上含まれることが必要であり、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。ジアミン成分中のメタキシリレンジアミンが70モル%以上であると、それから得られるポリアミド樹脂は優れたガスバリア性を発現することができる。メタキシリレンジアミン以外に使用できるジアミンとしては、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
またポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸成分は、80〜97モル%のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸と3〜20モル%の芳香族ジカルボン酸とからなり、好ましくは、85〜96モル%のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸と4〜15モル%の芳香族ジカルボン酸、より好ましくは、90〜95モル%のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸と5〜10モル%の芳香族ジカルボン酸である。α,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数4〜20のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸のうち1種以上が使用され、特に好ましくはアジピン酸が使用される。また、芳香族ジカルボン酸としてはイソフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる1種以上が使用され、特に好ましくはイソフタル酸である。ジカルボン酸成分のうち、α,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸が80モル%以上であると、ガスバリア性の低下や結晶性の過度の低下を避けることができる。また芳香族ジカルボン酸が3モル%以上であると、ポリアミド樹脂の非晶性が増加して結晶化速度が低下するため、容器成形時の熱成形性が良好になる。ただし、芳香族ジカルボン酸が20モル%を超えると、多層シート成形に必要な溶融粘度まで重合することができないことから多層シートの作製が困難となる。またポリアミド樹脂は結晶性をほとんど示さなくなるため、該ポリアミド樹脂をガスバリア層として用いたPP多層容器は加熱殺菌処理後に白化するため好ましくない。
【0018】
上記のポリアミド樹脂は、溶融重縮合法により製造された後、さらに固相重合されたものである。溶融重縮合法としては、例えばジアミン成分とジカルボン酸成分からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法がある。また、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸成分に直接加えて、重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を均一な液状状態に保つために、ジアミン成分をジカルボン酸成分に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミド樹脂の融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。溶融重縮合で得られたポリマーは一旦取り出された後、さらに固相重合する。固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱装置より、気密性に優れ高度に酸素とポリアミド樹脂との接触を絶つことができる回分式加熱装置が好ましく、特にタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置およびナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
ポリアミド樹脂の固相重合工程は、例えば、ポリアミド樹脂ペレット同士が融着したり、ポリアミド樹脂ペレットが装置内壁に付着しないよう、ポリアミド樹脂の結晶化度を高める第一の工程、ポリアミド樹脂の分子量を高める第二の工程、所望の分子量まで固相重合を進めた後にポリアミド樹脂を冷却する第三の工程により進められる。第一の工程はポリアミド樹脂のガラス転移温度以下で行うことが好ましい。第二の工程は減圧下でポリアミドの融点よりも低い温度で行うことが好ましいが、本発明で行われるポリアミド樹脂の固相重合はこれに限定されるものではない。
【0020】
上記のポリアミド樹脂には、溶融成形時の加工安定性を高めるため、あるいはポリアミド樹脂の着色を防止するためにリン化合物が含まれていても良い。リン化合物としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むリン化合物が好適に使用され、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のリン酸塩、次亜リン酸塩、亜リン酸塩が挙げられ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の次亜リン酸塩を使用したものがポリアミド樹脂の着色防止効果に特に優れるため好ましく用いられる。また、上記ポリアミド樹脂には上記のリン化合物の他に本発明の効果を損なわない範囲で滑剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤等を加えることもできるが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合しても良い。
【0021】
また、本発明の特徴を損なわない範囲で上記ポリアミド樹脂には、他の熱可塑樹脂を配合して使用することができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンやポリプロピレン等の各種ポリオレフィン、PETやポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等の各種ポリエステル、ポリアミド6やポリアミド66、非晶性ポリアミド等の各種ポリアミド樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリスチレン、アイオノマー等、種々の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0022】
本発明で使用するポリアミド樹脂は、場合によっては吸水によって結晶化して白化し、多層容器の外観を損なうことがある。このような現象を防ぐために、本発明ではポリアミド樹脂に、白化防止剤として、特定の脂肪酸金属塩、ジアミド化合物あるいはジエステル化合物を添加したものを容器の中間層として使用することが好ましく行われる。このようにすることで内容物を充填した多層容器を長期間保存してもポリアミド樹脂の白化が防止される。
【0023】
本発明に用いる脂肪酸金属塩は、脂肪酸金属塩の炭素数18〜50、好ましくは、炭素数18〜34の脂肪酸金属塩である。炭素数が18以上であればポリアミド樹脂が吸水した際の白化が防止できる。また、炭素数が50以下で樹脂組成物中への均一分散が良好となる。脂肪酸は側鎖や二重結合があってもよいが、ステアリン酸(C18)、エイコ酸(C20)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)、トリアコンタン酸(C30)などの直鎖飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸と塩を形成する金属に特に制限はないが、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、ストロンチウム、アルミニウム、亜鉛等が例示され、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アルミニウム、および亜鉛が特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる脂肪酸金属塩は、上記のうち1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明では、脂肪酸金属塩の形状に特に制限はないが、粒径が小さい方が樹脂組成物中に均一に分散させることが容易に行えるため、その粒径は0.2mm以下が好ましい。
【0025】
本発明において、脂肪酸金属塩の添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.005〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部、特に好ましくは0.12〜0.5重量部である。脂肪酸金属塩の添加量が0.005重量部未満であると実用的な白化防止効果が得られない。また、1.0重量部より多いと脂肪酸金属塩の影響でポリアミドが白く濁るため好ましくない。
【0026】
本発明で用いられるジアミド化合物は、炭素数8〜30の脂肪酸と炭素数2〜10のジアミンから得られるジアミド化合物である。脂肪酸の炭素数が8以上、ジアミンの炭素数が2以上で白化防止効果が期待できる。また、脂肪酸の炭素数が30以下、ジアミンの炭素数が10以下で組成物中への均一分散が良好となる。
【0027】
ジアミド化合物に用いられる脂肪酸は、側鎖や二重結合があってもよいが、直鎖飽和脂肪酸が好ましい。例として、ステアリン酸(C18)、エイコ酸(C20)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)、トリアコンタン酸(C30)が例示でき、中でもモンタン酸が好ましい。ジアミド化合物に用いられるジアミンとして、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサンジアミン、キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が例示でき、中でもエチレンジアミンが好ましい。これらを組み合わせて得られるジアミド化合物が本発明に用いられる。ジアミド化合物は1種類でも良いし、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
本発明で用いられるジエステル化合物は、炭素数8〜30の脂肪酸と炭素数2〜10のジオールから得られるジエステル化合物である。脂肪酸の炭素数が8以上、ジオールの炭素数が2以上で白化防止効果が期待できる。また、脂肪酸の炭素数が30以下、ジオールの炭素数が10以下で組成物中への均一分散が良好となる。
【0029】
ジエステル化合物に使用される脂肪酸として、ステアリン酸(C18)、エイコ酸(C20)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)、トリアコンタン酸(C30)等が例示でき、中でもモンタン酸が好ましい。ジエステル化合物に使用されるジオールとして、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が例示でき、中でもエチレングリコールあるいは1,3−ブタンジオールが好ましい。これらを組み合わせて得られるジエステル化合物が本発明に用いられる。ジエステル化合物は1種類でも良いし、2種以上を併用しても良い。
【0030】
本発明において用いられるジアミド化合物とジエステル化合物は単独で用いても良いし、併用して用いても良い。
本発明において、ジアミド化合物および/またはジエステル化合物の添加量は、ポリアミド100重量部に対して0.005〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部、特に好ましくは0.12〜0.5重量部である。ジアミド化合物および/またはジエステル化合物の添加量が0.005重量部未満であると実用的な白化防止効果が得られない。また、1.0重量部より多いとジアミド化合物および/またはジエステル化合物の影響でポリアミドが白く濁るため好ましくない。
【0031】
ポリアミド樹脂に上記白化防止剤を添加する方法は公知の混合法を適用できる。たとえば、回転中空容器内にポリアミド樹脂ペレットと白化防止剤を投入し混合して使用してもよい。また、高濃度の白化防止剤を含有する組成物を製造した後、白化防止剤を含有しないポリアミドペレットで所定の濃度で希釈し、これらを溶融混練する方法、溶融混練後、引き続き、射出成形などにより成形体を得る方法などが採用される。
【0032】
本発明では、さらに優れた酸素バリア性を付与するために、上記ポリアミド樹脂に元素周期律表の第VIII族の遷移金属、マンガン、銅及び亜鉛から選択された一種以上の金属原子を混合して、ガスバリア層に酸素吸収機能を付与することができる。
【0033】
本発明において前記金属原子をポリアミド樹脂中に添加、混合するには金属原子を含有する化合物(以下、金属触媒化合物と称する)を用いることが好ましい。金属触媒化合物は前記金属原子の低価数の無機酸塩、有機酸塩又は錯塩の形で使用される。無機酸塩としては、塩化物や臭化物等のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。一方、有機酸塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等が挙げられる。また、β−ジケトンまたはβ−ケト酸エステル等との遷移金属錯体も利用することができる。特に本発明では酸素吸収機能が良好であることから、前記金属原子を含むカルボン酸塩、ハロゲン化物、アセチルアセトネート錯体を使用することが好ましい。本発明において、ポリアミド樹脂には上記金属触媒化合物のうち一種以上を添加することができるが、コバルト金属原子を含むものが特に酸素吸収機能に優れており、好ましく用いられる。
【0034】
本発明でポリアミド樹脂に添加できる前記金属原子の濃度は特に制限はないが、ポリアミド樹脂100重量部に対して金属原子を0.01〜0.10重量部の範囲で添加することが好ましく、より好ましくは0.02〜0.08重量部である。金属原子の添加量が0.01重量部より少ない場合、酸素吸収機能が十分に発現せず、多層容器の酸素バリア性の向上効果も低いものとなる。また0.10重量部より多い場合、多層容器の酸素バリア性向上効果に変化はないため、不経済である。
【0035】
ポリアミド樹脂に金属触媒化合物を添加する方法は、ポリアミド樹脂と金属触媒化合物を押出機等を用いて溶融混合する方法、金属触媒化合物を溶媒と混合して溶解又はスラリー状にした後、ポリアミド樹脂と混合してから溶媒を除去してポリアミド樹脂に付着させる方法、多層容器を製造する装置に金属触媒化合物を添加できる装置を設けてポリアミド樹脂に金属触媒化合物を添加する方法等を用いることができるが、これらの中でも容易に金属触媒化合物をポリアミド樹脂中に混合することが可能であることからポリアミド樹脂と金属触媒化合物を押出機等を用いて溶融混合する方法が好ましく行われる。
【0036】
さらに本発明では、前記ポリアミド樹脂に層状珪酸塩を添加したものをガスバリア層として使用することもできる。このようにすることで容器の酸素バリア性だけではなく、炭酸ガス等の他のガスに対するバリア性も向上させることができる。
【0037】
層状珪酸塩は、0.25〜0.6の電荷密度を有する2−八面体型や3−八面体型の層状珪酸塩であり、2−八面体型としては、モンモリロナイト、バイデライト等、3−八面体型としてはヘクトライト、サボナイト等が挙げられる。これらの中でも、モンモリロナイトが好ましい。
【0038】
層状珪酸塩は、高分子化合物や有機系化合物等の有機膨潤化剤を予め層状珪酸塩に接触させて、層状珪酸塩の層間を拡げたものとすることが好ましい。有機膨潤化剤として、第4級アンモニウム塩が好ましく使用できるが、好ましくは、炭素数12以上のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも一つ以上有する第4級アンモニウム塩が用いられる。
【0039】
有機膨潤化剤の具体例として、トリメチルドデシルアンモニウム塩、トリメチルテトラデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム塩、トリメチルエイコシルアンモニウム塩等のトリメチルアルキルアンモニウム塩;トリメチルオクタデセニルアンモニウム塩、トリメチルオクタデカジエニルアンモニウム塩等のトリメチルアルケニルアンモニウム塩;トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリエチルテトラデシルアンモニウム塩、トリエチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリエチルオクタデシルアンモニウム等のトリエチルアルキルアンモニウム塩;トリブチルドデシルアンモニウム塩、トリブチルテトラデシルアンモニウム塩、トリブチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリブチルオクタデシルアンモニウム塩等のトリブチルアルキルアンモニウム塩;ジメチルジドデシルアンモニウム塩、ジメチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジタロウアンモニウム塩等のジメチルジアルキルアンモニウム塩;ジメチルジオクタデセニルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデカジエニルアンモニウム塩等のジメチルジアルケニルアンモニウム塩;ジエチルジドデジルアンモニウム塩、ジエチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジエチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジエチルジオクタデシルアンモニウム等のジエチルジアルキルアンモニウム塩;ジブチルジドデシルアンモニウム塩、ジブチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジブチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジブチルジオクタデシルアンモニウム塩等のジブチルジアルキルアンモニウム塩;メチルベンジルジヘキサデシルアンモニウム塩等のメチルベンジルジアルキルアンモニウム塩;ジベンジルジヘキサデシルアンモニウム塩等のジベンジルジアルキルアンモニウム塩;トリドデシルメチルアンモニウム塩、トリテトラデシルメチルアンモニウム塩、トリオクタデシルメチルアンモニウム塩等のトリアルキルメチルアンモニウム塩;トリドデシルエチルアンモニウム塩等のトリアルキルエチルアンモニウム塩;トリドデシルブチルアンモニウム塩等のトリアルキルブチルアンモニウム塩;4−アミノ−n−酪酸、6−アミノ−n−カプロン酸、8−アミノカプリル酸、10−アミノデカン酸、12−アミノドデカン酸、14−アミノテトラデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、18−アミノオクタデカン酸等のω−アミノ酸などが挙げられる。また、水酸基及び/又はエーテル基含有のアンモニウム塩、中でも、メチルジアルキル(PAG)アンモニウム塩、エチルジアルキル(PAG)アンモニウム塩、ブチルジアルキル(PAG)アンモニウム塩、ジメチルビス(PAG)アンモニウム塩、ジエチルビス(PAG)アンモニウム塩、ジブチルビス(PAG)アンモニウム塩、メチルアルキルビス(PAG)アンモニウム塩、エチルアルキルビス(PAG)アンモニウム塩、ブチルアルキルビス(PAG)アンモニウム塩、メチルトリ(PAG)アンモニウム塩、エチルトリ(PAG)アンモニウム塩、ブチルトリ(PAG)アンモニウム塩、テトラ(PAG)アンモニウム塩(ただし、アルキルはドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシルなどの炭素数12以上のアルキル基を表し、PAGはポリアルキレングリコール残基、好ましくは、炭素数20以下のポリエチレングリコール残基またはポリプロピレングリコール残基を表す)などの少なくとも一のアルキレングリコール残基を含有する4級アンモニウム塩も有機膨潤化剤として使用することができる。中でもトリメチルドデシルアンモニウム塩、トリメチルテトラデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジドデシルアンモニウム塩、ジメチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジタロウアンモニウム塩が好ましい。なお、これらの有機膨潤化剤は、単独でも複数種類の混合物としても使用できる。
【0040】
本発明では、ポリアミド樹脂100重量部に対し、有機膨潤化剤で処理した層状珪酸塩を0.5〜8重量部添加したものが好ましく用いられ、より好ましくは1〜6重量部、さらに好ましくは2〜5重量部である。層状珪酸塩の添加量が0.5重量部より少ないとガスバリア性の改善効果が小さいため好ましくない。また8重量部より多いと中間層が濁って容器の透明性が損なわれるため好ましくない。
【0041】
ポリアミド樹脂において、層状珪酸塩は局所的に凝集することなく均一に分散していることが好ましい。ここでいう均一分散とは、ポリアミド樹脂中において層状珪酸塩が平板状に分離し、それらの50%以上が5nm以上の層間距離を有することをいう。ここで層間距離とは平板状物の重心間距離のことをいう。この距離が大きい程分散状態が良好となり、透明性等の外観が良好で、かつ酸素、炭酸ガス等のガスバリア性を向上させることができる。
【0042】
ポリアミド樹脂と層状珪酸塩を混合する方法としては、特に制限はないが、本発明では溶融混練法が好ましく用いられる。例えば、ポリアミド樹脂の重縮合中に層状珪酸塩を添加し攪拌する方法、単軸もしくは二軸押出機等の通常用いられる種々の押出機を用いて溶融混練する方法等の公知の方法を利用することができるが、これらのなかでも、二軸押出機を用いて溶融混練する方法が本発明において好ましい方法である。
【0043】
以上述べたように、本発明に用いられる多層容器におけるガスバリア層を構成するポリアミド樹脂には白化防止剤や、酸素吸収機能を付与する金属触媒化合物、あるいはガスバリア性を高める効果を有する層状珪酸塩を添加することができる。これらの添加物は組み合わせて使用しても良い。
【0044】
本発明に用いられる多層容器の製造方法は、例えば、3台の押出機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール、巻き取り機等を備えた多層シート製造装置を用い、1台目の押出機からPPを、2台目の押出機から接着性樹脂を、3台目の押出機からガスバリア性樹脂をそれぞれ押し出し、フィードブロックを介してPP層/接着性樹脂層/ガスバリア層/接着性樹脂層/PP層の3種5層構造の多層シートを製造し、これを加熱軟化した後、真空、圧空、又は真空と圧空を併用した熱成形法によってシートを金型に密着させて容器形状に成形し、これをトリミングして容器を得る方法が挙げられる。なお、多層シート製造装置や容器の成形方法についてはこれらに限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。
【0045】
本発明に用いられる多層容器におけるガスバリア層の厚みは、多層容器の総厚みに対して2〜20%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは3〜18%であり、さらに好ましくは5〜15%である。ガスバリア層の厚み比が2%を下回ると、多層容器の形状によっては容器コーナー部等総厚みが薄くなる箇所におけるガスバリア性能が発揮されず、レトルト食品の劣化、変色、褪色を生じる。また20%を超えると、容器のガスバリア性能は優れたものになるものの、容器のコストが高くなるため不経済であり、場合によっては隣接する層との流速バランスが崩れて多層シートの外観が悪化することがある。
【0046】
本発明に用いられる多層容器は、必要に応じてPP層、接着性樹脂層、ガスバリア層以外に各種熱可塑性樹脂層を積層することができる。例えば、多層シート及び多層容器製造時にトリミングしてできたトリミングくずを粉砕して、粉砕物を単独で、又はPPや他の熱可塑性樹脂と混合してリサイクル樹脂層としてPPと接着性樹脂層の間に中間層として積層することができる。また、多層容器に特徴を持たせるためにPP層の表側に、ポリカーボネートや各種イージーピール性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を積層することができる。これらに限らず、目的に応じて様々な熱可塑性樹脂層を積層することが可能である。
さらに本発明に用いられる多層容器には、そのフランジ部分にイージーピール機能を付与するための特殊加工を施すことが可能である。
【0047】
本発明に用いられる蓋体は、23℃、60%RH環境下における酸素透過率が20ml/m・day・atm以下のガスバリア層を有するものを用いる。上記ガスバリア層としては、アルミ等の金属薄膜、シリカ、アルミ、アルミナ等の無機蒸着をPET、ナイロン6(Ny6)等に施したもの、エチレン−ビニルアルコール共重合体やN−MXD6、Ny6とN−MXD6との多層、ブレンドフィルムが使用できる。これらと他の材料を積層した多層構造のガスバリア層でもよい。好ましくは、アルミ箔積層フィルム、シリカ蒸着ラミネートフィルム、アルミナ蒸着ラミネートフィルムが用いられる。上記蓋材は、加熱殺菌処理時及び加熱殺菌処理後の保存時において蓋体部から進入する酸素を遮断し、食品の酸化劣化を防止する役割を有する。
【0048】
本発明に用いられる蓋体の層構成としては、最外層から最内層の順に記載すれば、PET/金属薄膜(ガスバリア層)/CPP(無延伸ポリプロピレン)、PET/金属薄膜/Ny6/CPP、無機蒸着PET(ガスバリア層)/CPP、無機蒸着PET/Ny6/CPP等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。加熱殺菌処理後のピンホール、クラック等が少ないものが好ましく、更に好ましくはこれらが無いものである。
【0049】
本発明に用いられる蓋体は、本発明に用いられる容器と同様にN−MXD6にコバルト等金属化合物を二軸混練したものや、鉄粉をポリエチレンに二軸混練した酸素吸収性樹脂層を設けることが出来る。
【0050】
本発明における加熱殺菌処理は、水蒸気式、熱水貯湯式、シャワー式等が挙げられる。また、殺菌処理温度としては、80℃〜140℃の範囲であり、殺菌時間としては10〜120分である。
【0051】
本発明の保存方法により保存出来る加熱殺菌処理食品としては、水産加工品、畜産加工品、飯類、液体食品が挙げられる。例えば、マグロ、カツオ、サケ、マス、サバ、イワシ、サンマ、ニシン、ウナギ、カニ、ホタテ、赤貝、アサリ、カキ、バイ貝、北寄貝、トップシェル、イカ、海苔、ヒジキ、寒天、クキワカメ、昆布等の水煮、油漬、燻製油漬、味付、蒲焼き、トマト漬け等の水産加工品、コンビーフ、牛肉、ソーセージ、ハム、豚肉、鶏肉、鶏卵、うずら卵等の塩漬、油漬、水煮、味付等の畜産加工品、白飯、赤飯、五目ごはん、粥、雑炊等の飯類、カレー、シチュー、ハッシュドビーフ、パスタソース、調理用ソース等のソース類や洋風スープ、中華スープ、和風スープ等のスープ類等の液体食品、ミカン、桃、パインアップル、サクランボ、アンズ、クリ、ブドウ等や、トマト、コーン、タケノコ、キノコ類等の農産加工品がある。加熱殺菌処理が必要な食品、犬や猫等向けのペットフード食材がある。特に加熱殺菌処理温度が100℃以上と高く、酸素の影響を受けやすいマグロやカツオなどのツナや白飯の保存に適している。
【実施例】
【0052】
以下実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において各種測定は以下の方法により行った。
(1)レトルト処理後の食品の変色・褪色
食材を充填した容器を下記条件にてレトルト処理後、保存時の食品の色調について観察した。変色・褪色が見られなかったものを○(良好)、若干の変色・褪色が見られたものを△(やや不良)、明らかに変色・褪色が見られたものを×(不良)と評価した。
レトルト処理条件:
処理装置:トミー精工製SR−240
処理温度:121℃
処理時間:30分(処理時間に加熱及び冷却時間は含まない)
(2)ガスバリア性
ASTM D3985に準じて測定した。
モダンコントロールズ社製OX−TRAN 10/50Aを使用し、23℃、60%RH環境下における多層容器のガスバリア層の酸素透過係数(ml・mm/m・day・atm)と蓋体のガスバリア層の酸素透過率(ml/m・day・atm)を測定した。
また、モダンコントロールズ社製、OX−TRAN 2/61を使用し、23℃、容器内部の相対湿度100%、外部の相対湿度50%の雰囲気下にて、レトルト処理後の多層容器の酸素透過率(ml/0.21atm・day・package)を測定した。測定した酸素透過率から容器内へ透過した累積酸素透過量(ml/0.21atm・package)を算出した。
【0053】
実施例1
3台の押出機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール、巻き取り機等を備えた多層シート製造装置を用い、1台目の押出機からPP(日本ポリプロ社製、商品名;ノバテックPP、グレード名;FY6、メルトインデックス;2.3)を240℃で、2台目の押出機から接着性樹脂(三井化学社製、商品名;アドマー、グレード;QB550)を230℃で、3台目の押出機からポリアミド樹脂1(メタキシリレンジアミンからなるジアミン成分とアジピン酸94モル%、イソフタル酸6モル%からなるジカルボン酸成分を重縮合してなるポリアミド樹脂)を250℃でそれぞれ押し出し、フィードブロックを介してPP層/接着性樹脂層/ガスバリア層/接着性樹脂層/PP層の3種5層構造の多層シートを製造した。なお各層の厚みは、425/25/80/25/425(μm)とした。
次いで、プラグアシストを備えた真空圧空成形機を使用して、シート表面温度が170℃に達した時点で熱成形を行い、口径62mm×底径52mm×深さ28mm、表面積73cm、容積70mlのカップ状容器を得た。該容器のガスバリア層の酸素透過係数は、0.07ml・mm/m・day・atmであった。
次いで、容器内に裁断したニンジン、水を満注充填し、CPP/アルミ箔/PET=50/9/12(μm)のフィルムからなる蓋体(ガスバリア層(アルミ箔)の酸素透過率は検出限界(0.1ml/m・day・atm)以下)で開口部をヒートシールした後、オートクレーブを使用して、30分間、121℃で密封容器をレトルト処理した。次いで、23℃、50%RH環境下で1ヶ月保存し、ニンジンの色調変化について観察した。結果を表1に示す。
また容器内に水のみを満注充填した以外は上記と同様にして、レトルト処理を行った。次いで、フィルム(蓋体)に穴を開けて水を60ml抜いた後、ガス導入管及びガス排出管を挿しこみ、挿しこみ部をエポキシ系接着剤で固めて封した後、ガス導入管より窒素ガスを10ml/min流し、酸素透過率測定装置を用いて酸素透過率を測定し累積酸素透過量を算出した。結果を表2に示す。
【0054】
実施例2
容器内にマグロ油漬けを満注充填した以外は実施例1と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0055】
実施例3
容器内にカツオの水煮を満注充填した以外は実施例1と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0056】
実施例4
蓋体として酸素吸収層を有するフィルム(三菱ガス化学製、商品名;エージレス・オーマック)を用いた以外は実施例1と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0057】
実施例5
蓋体として酸素吸収層を有するフィルム(三菱ガス化学製、商品名;エージレス・オーマック)を用いた以外は実施例2と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例6
蓋体として酸素吸収層を有するフィルム(三菱ガス化学製、商品名;エージレス・オーマック)を用いた以外は実施例3と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0059】
実施例7
ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂2(メタキシリレンジアミンからなるジアミン成分とアジピン酸85モル%、イソフタル酸15モル%からなるジカルボン酸成分を重縮合してなるポリアミド樹脂)を用いた以外は実施例2と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。該容器のガスバリア層の酸素透過係数は、0.07ml・mm/m・day・atmであった。
また容器内に水のみを満注充填した以外は上記と同様にして、レトルト処理を行った。次いで、フィルム(蓋体)に穴を開けて水を60ml抜いた後、ガス導入管及びガス排出管を挿しこみ、挿しこみ部をエポキシ系接着剤で固めて封した後、ガス導入管より窒素ガスを10ml/min流し、酸素透過率測定装置を用いて酸素透過率を測定し累積酸素透過量を算出した。結果を表2に示す。
【0060】
実施例8
ポリアミド樹脂として前記ポリアミド樹脂2を用いた以外は実施例3と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0061】
比較例1
3台の押出機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール、巻き取り機等を備えた多層シート製造装置を用い、1台目の押出機からPP(日本ポリプロ社製、商品名;ノバテックPP、グレード名;FY6、メルトインデックス;2.3)を220℃で、2台目の押出機から接着性樹脂(三井化学社製、商品名;アドマー、グレード;QF551)を210℃で、3台目の押出機からEVOH(クラレ社製、商品名;エバール、グレード;F101B、融点;175℃、ガスバリア層を形成)を220℃でそれぞれ押し出し、フィードブロックを介してPP層/接着性樹脂層/ガスバリア層/接着性樹脂層/PP層の3種5層構造の多層シートを製造した。なお各層の厚みは、425/25/80/25/425(μm)とした。
次いで、プラグアシストを備えた真空圧空成形機を使用して、シート表面温度が180℃に達した時点で熱成形を行い、口径62mm×底径52mm×深さ28mm、表面積73cm、容積70mlのカップ状容器を得た。該容器のガスバリア層の酸素透過係数は、0.01ml・mm/m・day・atmであった。
次いで、容器内に裁断したニンジン、水を満注充填し、CPP/アルミ箔/PET=50/9/12(μm)のフィルムからなる蓋体で開口部をヒートシールした後、オートクレーブを使用して、30分間、121℃で密封容器をレトルト処理した。次いで、23℃、50%RH環境下で1ヶ月保存し、ニンジンの色調変化について観察した。結果を表1に示す。
また容器内に水のみを満注充填した以外は上記と同様にして、レトルト処理を行った。次いで、フィルム(蓋体)に穴を開けて水を60ml抜いた後、ガス導入管及びガス排出管を挿しこみ、挿しこみ部をエポキシ系接着剤で固めて封した後、ガス導入管より窒素ガスを10ml/min流し、酸素透過率測定装置を用いて酸素透過率を測定し累積酸素透過量を算出した。結果を表2に示す。
【0062】
比較例2
容器内にマグロ油漬けを満注充填した以外は比較例1と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0063】
比較例3
容器内にカツオの水煮を満注充填した以外は比較例1と同様にして、レトルト処理後、保存時の色調について観察した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
以上の実施例及び比較例の結果から、発明の詳細な説明に示したように特定のポリアミドをバリア層とした容器に充填した実施例1乃至8の食品は変色、褪色することなく保管することが出来るものであった。一方、EVOHをバリア層とした容器に食品を充填した比較例1乃至3は、蓋体はガスバリア性を有しているものの食品の変色、褪色を生じた。レトルト処理後による酸素透過率を測定した結果、実施例1及び7のレトルト処理による酸素透過率の上昇は小さいものであった。一方、EVOHをバリア層とした比較例1は、レトルト処理により酸素透過率の上昇が大きく、回復にも時間を要していることから、容器内への酸素透過量は実施例1と比べて大きくなり酸素バリア性に劣るものであった。これは、容器のガスバリア層に水酸基を有しているEVOHを用いていることから、ガスバリア性の湿度依存性が大きくなっているためと考える。そのため、比較例1乃至3のように加熱殺菌処理を必要とする食品を充填した場合、保存時において食品の変色、褪色を生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを主成分とする層(A)、接着性熱可塑性樹脂からなる接着層(B)、および23℃、60%RH環境下における酸素透過係数が1.0ml・mm/m・day・atm以下であり実質的に水酸基を有していない樹脂からなるガスバリア層(C)がこの順に積層された3層以上の層構成を有する多層容器と、23℃、60%RH環境下における酸素透過率が20ml/m・day・atm以下のガスバリア層を有する蓋体を用いて食品を密封し、80℃以上の加熱殺菌処理を行うことを特徴とする加熱殺菌処理食品の保存方法。
【請求項2】
酸素吸収性樹脂層を多層容器又は蓋材のどちらか一方以上に有する請求項1に記載の保存方法。
【請求項3】
多層容器に用いられるガスバリア樹脂がメタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、α,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸80〜97モル%と芳香族ジカルボン酸3〜20モル%を含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリアミド樹脂である請求項1または2に記載の保存方法。
【請求項4】
蓋体のガスバリア層が、金属薄膜、無機蒸着膜、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびポリアミド樹脂から選択される1種以上からなる層である請求項1または2に記載の保存方法。
【請求項5】
層(C)の厚みが、多層容器の総厚みに対して2〜20%である請求項1〜4のいずれかに記載の保存方法。
【請求項6】
食品が、水産加工品、畜産加工品、飯類、液体食品または果物類である請求項1〜5のいずれかに記載の保存方法。

【公開番号】特開2009−65923(P2009−65923A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239092(P2007−239092)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】