説明

加熱用部材およびこれを用いた加熱装置

【課題】 対象物を載置する表面内の温度ばらつきを低減することができる加熱用部材を提供する。
【解決手段】 上面に対象物が載置される第1基板10と、該第1基板10の下面に対向するように設けられた第2基板12と、第1基板10と第2基板12との間に設けられた配線16とを有し、第1基板10の下面および該下面に対向する第2基板12の上面の少なくとも一方は凹部22を有し、配線16は、少なくとも一部が凹部22内に位置するように第1基板10の下面に接合され、配線16と第2基板12の上面との間に空間26が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱用部材およびこれを用いた加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体のフォトリソグラフィ(Photolithography)工程において、ウェハに感光剤を塗布し、現像を行うため、コータ/デベロッパ(coater/developer)が用いられている。コータ/デベロッパは、ウェハの温度をできるだけ一定に保つために必要な装置である。温度を一定にするために用いられる装置としては、例えばセラミックヒータが知られている。
【0003】
近年のウェハに形成される配線の微細化に伴い、ウェハ上での温度の差をできるだけ小さくすることができるセラミックヒータが要求されている。つまり、ウェハ全体の温度をできるだけ狭い範囲内に保つことができるセラミックヒータが要求されている。
【0004】
特許文献1には、ガラスで接合された2つの窒化アルミニウム(AlN)基板と、この基板の間に埋め込んだ炭化珪素(SiC)焼結体からなるスパイラル状のヒータエレメントと、一方の基板の上部に形成された電極板と、さらに上部の被覆上部板と、からなるセラミックスヒータが記載されている。ヒータエレメントは、AlN基板に形成された凹溝全体に形成されている。さらに、ヒータエレメントは、ヒータエレメントが形成された一方のAlN基板と、ガラス層とで挟持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−277239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたセラミックヒータを用いて、ウェハなどの対象物を支持しても、対象物の主面(上面)全体における温度のばらつきが大きく、その主面を狭い温度範囲に保つことができないという問題があった。
【0007】
この原因は、次のように考えられる。特許文献1のセラミックヒータは、ヒータエレメントで発生した熱が対象物の方向だけでなくその反対方向にも多く多く伝わってしまう構造である。このため、ヒータエレメントで発熱させた熱が、対象物が載置される基板の表面に効率良く伝わらず、結果として、その基板表面における温度のばらつきが大きくなってしまう。よって、その基板表面に載置された対象物の主面全体における温度のばらつきも大きくなり、その温度を所望の範囲内に保つことができない。
【0008】
このような問題に鑑み、本発明は、対象物を載置する表面内の温度ばらつきを低減することができる加熱用部材およびこれを用いた加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る加熱用部材によれば、対象物を加熱する加熱用部材であって、上面に前記対象物が載置される第1基板と、該第1基板の下面に対向するように設けられた第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた配線とを有し、前記第1基板の下面および該下面に対向する前記第2基板の上面の少なくとも一方は凹部を有し、前記配線は、少なくとも一部が前記凹部内に位置するように前記第1基板の下面に接合され
、前記配線と前記第2基板の上面との間に空間が形成されている。
【0010】
本発明の一態様に係る加熱装置によれば、前記加熱用部材と、前記加熱用部材の前記配線に電気的に接続された複数の導線と、前記複数の導線間に電圧を印加するための電源とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る加熱用部材によれば、対象物を載置する表面内の温度ばらつきを低減することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る加熱装置によれば、加熱する対象物の表面における温度ばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る加熱用部材を用いた加熱装置を模式的に示した斜視図である。
【図2】(a)は本発明の一実施形態に係る加熱用部材の上面図、(b)は底面図である。
【図3】(a)は本発明の一実施形態に係る加熱用部材の断面図、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
【図4】(a)は本発明の一実施形態に係る加熱用部材の変形例を示す断面図、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
【図5】(a)は本発明の一実施形態に係る加熱用部材の変形例を示す断面図、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
【図6】(a)−(g)は、本発明の一実施形態に係る加熱用部材の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の一実施形態に係る加熱用部材は、例えば、図1に例示した加熱装置用の部材として用いることができる。加熱装置1は、加熱用部材2と、加熱用部材2の配線(後述する)に電気的に接続された複数の導線3と、複数の導線3間に電圧を印加するための電源4とを有している。また、加熱装置1は、加熱用部材2を載置する断熱板5と、加熱用部材2および断熱板5を支持する支持台6とを有している。加熱用部材2は、その上面に半導体ウェハなどの対象物Wが載置され、対象物Wを加熱する。
【0016】
加熱用部材2の下には断熱板5が設けられ、加熱用部材2の下方へ熱が伝わり難い構造となっている。断熱板5の材質は、例えばアルミナ質焼結体などからなる。
【0017】
断熱板5の下には、支持台6が設けられている。支持台6は、さらに不図示の容器(チャンバ)の内側と接触している場合がある。支持台6の材質は例えば金属からなる。支持台6の内部には、冷却水を通すための流路が形成され、容器が加熱されないような構造となっている。
【0018】
加熱用部材2は、第1基板10と、第2基板12と、第1基板10と第2基板12との間に設けられた配線16とを有している。本実施の形態による加熱用部材2では、第1基板10の上面10aが加熱用部材2の上面を構成し、第2基板12の下面12bが加熱用部材2の底面を構成している。配線16は、加熱用部材2の内部、具体的には、第1基板10の下面10bと第2基板12の上面12aとの間に位置し、例えば図2において点線
で示すように、蛇行した形状をしている。
【0019】
配線16の両端部には、電源4の端子から延びた導線3がそれぞれ接続される。導線3は、電源4から支持台6に設けられた貫通孔を介して加熱用部材2まで延びている。加熱用部材2の底面には、導線3を配線16に電気的に接続するための金属製の複数のネジ18が係合されている。導線3によってネジ18の間に電圧が印加され、その結果、配線16の両端部の間に電圧が印加されると、配線16に電流が流れて電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変わり、配線16が発熱する。そして、この熱が、対象物Wに伝わる。なお、配線16に流れる電流は、直流電流および交流電流のいずれであってもよい。
【0020】
また、加熱用部材2には、複数の貫通孔20が設けられている。これらの貫通孔20は、第1基板10および第2基板12を貫通している。貫通孔20は、例えば、支持台6が真空吸着装置である場合に排気に利用され、対象物Wを加熱用部材2の上面に吸着させる機能がある。貫通孔20は、図2において3個であるが、これに限られず、対象物Wを吸
着可能であれば1個以上の任意の個数であってよい。
【0021】
図3(a)は、図2のA−A1線における断面図、図3(b)は、(a)の部分Bの拡大断面図である。対象物Wは、第1基板10の上面10aに載置される。第2基板12は、その上面12aが第1基板10の下面10bに対向するように設けられている。第1基板10の下面10bと第2基板の上面12aとの間には、配線16が設けられている。配線16は、第1の配線層16aと第2の配線層16bとにより構成されている。
【0022】
第1基板10の下面10bには凹部22aが形成され、第2基板12の上面12aには凹部22bが形成されている。各凹部22a,22bの内部には、配線16の一部がそれぞれ位置している。第1の配線層16aは、凹部22aの内部において第1基板10の下面10bに、接合層(以下、「第1の接合層」ともいう。)24aを介して接合されている。また、第2の配線層16bと第2基板12の上面12aとは離間しており、配線16と第2基板12の上面12aとの間には空間26が形成されている。
【0023】
第1の基板10の下面10bと第2基板12の上面12aは、凹部22a,22bが形成されている領域以外の領域において、接合層(以下、「第2の接合層」ともいう。)24bを介して接合されている。
【0024】
第1基板10および第2基板12は、セラミック焼結体からなることが好ましい。セラミック焼結体の主成分は、炭化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化珪素、サイアロンのうち少なくとも1種からなることが好ましい。
【0025】
第1基板10および第2基板12は、ともに炭化珪素が主成分であることがさらに好ましい。炭化珪素は熱伝導率が高く、加熱用部材2として必要な耐熱応力性にも優れているからである。
【0026】
第1基板10および第2基板12の少なくとも一方が炭化珪素を主成分とするセラミック焼結体からなり、この炭化珪素を主成分とするセラミック焼結体の体積固有抵抗が概ね10Ω・cm以下、すなわち半導電性または導電性を有する場合には、電気的に絶縁する目的で、セラミック焼結体と配線16(第1の配線層16a)との間に絶縁層を形成する必要がある。この場合、接合層24aは上記絶縁層を含んでいてもよい。なお、接合層24aが上記絶縁層を兼ねていると、接合層24aの厚みを薄くすることができるため、
配線16において生じた熱を対象物Wに効率良く伝えることができ、より好ましい。
【0027】
また、第2の配線層16bは、第1の配線層16aよりも厚み(第1および第2の配線
層16a,16bの積層方向における距離)が厚いことが好ましい。そして、その場合、配線16の主たる部分である第2の配線層16bは、金属からなることが好ましい。例えば、第2の配線層16bとして、Moから成る金属板(以下、「Mo板」、「モリブデン板」ともいう。)を選択することができる。第2の配線層16bは、第1の配線層16aおよび第1の接合層24aを介して、第1基板10に強固に接合されている。
【0028】
第1の配線層16aは、第1の接合層24aと第2の配線層16bとを接合している。第1の配線層16aの材質としては、モリブデンとマンガンを含む導体が好ましい。第1の配線層16bにモリブデンが含まれ、第2の配線層16bがMo板からなる場合、第1の配線層16aに含まれるモリブデンが第2の配線層16bのMo板と結合して、第1および第2の配線層16a,16bが強固に接合されると考えられる。また、この場合、第1の基板10がセラミックスを含む場合は、第1の接合層24aは必ずしも必要ではない。すなわち、第1の配線層16aがモリブデンとマンガンを含む導体からなり、第1の基板10がセラミックスを含む場合は、第1の配線層16aと第1の基板10とを直接接合することができる。
【0029】
なお、本実施の形態による加熱用部材2において、配線16は、2つの配線層16a、16bからなる場合について説明したが、配線16は、単一の配線層、例えば第1の配線層16aのみから構成されてもよい。その場合、第1の配線層16a(配線16)および第1の接合層24aにそれぞれガラス成分を含有させることにより、配線16と第1の接合層24aとを強固に接合することができる。その場合、配線16は合金、例えばPt−Au合金などにガラス成分を含有させた発熱抵抗体からなってもよい。
【0030】
なお、第1の配線層16aの材質をモリブデンとマンガンを含む導体とし、第2の配線層16bをモリブデン板とすれば、第1の配線層16aおよび第2の配線層16bにガラス成分を添加しなくても、第1の配線層16aと第2の配線層16bとを接合することができる。また、第1の配線層16aの材質をモリブデンとマンガンを含む導体とし、第1の接合層24aがガラスからなる(後述する)場合には、第1の配線層16aにガラス成分を添加しなくても、第1の配線層16aと第1の接合層24aとを接合することができる。これらの場合、ガラス成分による配線16の抵抗値の低下を抑制することができるとともに、配線16の発熱効率を良好に保持することができる。
【0031】
また、第1の接合層24aおよび第2の接合層24bは、それぞれガラスからなることが好ましい。このガラスは、珪素(Si)、イットリウム(Y)、およびアルミニウム(Al)の3元素を含み、各元素をSiO、Y、Al換算で合計90質量%以上含むことが好ましい。なお、第1の接合層24aと第2の接合層24bが接する場合には、互いに固溶または拡散した部分が両者の間に存在してもよい。
【0032】
第1基板10と配線16とを接合する第1の接合層24aは、絶縁性を有することが好ましい。第1基板10と配線16が絶縁性を有する第1の接合層24aによって接合されていれば、第1基板10が半導電性または導電性のセラミックスからなる場合でも、第1基板10と配線16とを電気的に絶縁することができる。例えば、第1基板10が比較的熱伝導率が高く耐熱応力性にも優れた炭化珪素からなる場合でも、第1基板10と配線16を電気的に絶縁することができる。なお、第1基板10の体積固有抵抗が10Ω・cm以下の場合は、第1の接合層24aは絶縁性を有していることが好ましい。
【0033】
また、第1基板10と第2基板12とを接合する第2の接合層24bは、絶縁性を有することが好ましい。第2の接合層24bが絶縁性を有していれば、第1基板10および第2基板12が半導電性または導電性のセラミックスからなる場合でも、第1基板10と第2基板12とを電気的に絶縁することができる。例えば、第1基板10および第2基板1
2が比較的熱伝導率が高く耐熱応力性にも優れた炭化珪素からなる場合でも、第1基板10と第2基板12とを電気的に絶縁することができる。
【0034】
また、第2の接合層24bは、第1の接合層24aよりも熱伝導率が低いことが好ましい。第1基板10と第2基板12が第1の接合層24aよりも熱伝導率が低い第2の接合層24bにより接合されていれば、配線16で発生した熱が第1基板10により伝わりやすくなり、該熱が第2基板12に伝わることを抑制することができる。このため、配線16で発生した熱を対象物Wへより効率よく伝えて、対象物Wの温度範囲をより狭い範囲内にすることができる。
【0035】
本実施の形態による加熱用部材2は、配線16と第2基板12の上面12aとが離間しているため、配線16において発生した熱が第2基板12に伝わることを抑制でき、結果として、配線16において発生した熱を第1基板10に選択的に伝えることができる。これにより、配線16において生じた熱を、対象物Wが載置される第1基板10の上面10aに効率良く伝えることができるため、第1基板10の上面10aにおける温度のばらつきを低減することができる。その結果、配線16の発熱量を制御して対象物Wにおける温度ばらつきを低減し、その温度をより狭い範囲内に保つことができる。特に、電流が交流電流の場合には、表皮効果により、配線16の下部は、第1基板10に接合される配線16の上部よりも温度が高くなりやすいため、より効果が大きいと考えられる。
【0036】
図4は、本実施形態による加熱用部材の変形例を示す図であり、図4の(a),(b)は、加熱用部材2の図3(a),(b)に対応する図である。図4(b)は、図4(a)のC部の拡大断面図である。この変形例の加熱用部材32は、加熱用部材2とは異なり、凹部22が第1基板10の下面10bのみに形成され、配線16は、この凹部22の内部に位置している。そして、配線16と第2基板12の上面12aとの間には、少なくとも第2の接合層24bの厚み分の距離を有する空間26が形成される。また、配線16の厚みを凹部2の深さよりも小さくして、配線16と第2基板12の上面12aとの間の空間26をより大きくしてもよい。この構成によれば、配線16によって生じた熱が、より効率よく第1基板10に伝わるので、第1基板10の上面10aにおける温度のばらつきを低減することができ、その結果、配線16の発熱量を制御して対象物Wの温度をより狭い範囲内に保つことができる。
【0037】
また、図5は、本実施形態による加熱用部材の変形例を示す図であり、図5(a),(b)は、加熱用部材2の図3(a),(b)に対応する図である。図5(b)は、(a)のD部の拡大断面図である。この変形例の加熱用部材42は、加熱用部材2とは異なり、凹部22が第2基板12の上面12aにのみに形成され、配線16が、この凹部22の内部に位置している。この構成によれば、第2基板12の上面12aに凹部22を形成することにより、第1基板10の厚みを薄くすることができるため、配線16によって生じた熱を第1基板10に効率よく伝えることができる。よって、第1基板10に上面10aにおける温度のばらつきを低減することができ、その結果、配線16の発熱量を制御して対象物Wの温度をより狭い範囲内に保つことができる。
【0038】
なお、第1基板10に凹部2が形成されていないため、第1基板10の厚みを薄くしたとしても、第1基板10の弾性変形が抑制される。
【0039】
なお、図3および図5のように、第2の基板12に凹部が設けられ、配線16と凹部22の底面との間により大きな空間26が形成されていると、配線16から発生する熱が第2基板12へ伝わることをより効果的に抑制することができるため、より好ましい。
【0040】
また、図3、図4および図5に示すように、配線16は、凹部22の内表面を構成する
表面であって、第1基板10の下面10b以外の表面から離間していることが好ましい。特に、第2基板12に凹部が形成されている場合は、その凹部の側壁面から離間していることが好ましい。これにより、配線16から発生する熱が第2基板12へ伝わることをさらに抑制することができる。その結果、配線16の発熱量と第1基板10の上面10aの温度との間にさらに強い相関関係が生じ、配線16の発熱量を制御することにより、対象物Wの温度をさらに狭い範囲内に保つことが容易となる。
【0041】
また、配線16と第2基板12の上面12aとの間に形成された空間26の内部は、真空または減圧されていることが好ましい。これにより、配線16で発生する熱が第2基板12に特に伝わり難くなるので、その熱が第1基板10に特に効率的に伝えられることが可能になる。その結果、対象物Wの温度をより狭い範囲内にすることができる。
【0042】
なお、配線16と第2基板12の上面12aとの間に形成される空間26の内部を、真空または減圧するためには、第1基板10と第2基板12を接合した後に、ネジ穴18aにネジ18をロー付け等により固定する工程を、真空中で行うとよい。
【0043】
次に、加熱用部材2の製造方法について、第1基板10および第2基板12が炭化珪素を主成分とするセラミック焼結体からなる場合を例に説明する。なお、図6(a)−(g)は、図3の加熱用部材2の製造方法を説明するための断面図である。
【0044】
(a)第1基板の準備工程
炭化珪素焼結体からなる円板形状の第1基板10を準備する。貫通孔20(図示せず)は予め形成しておく。
【0045】
(b)凹部22の形成工程
第1基板10の一方の主面(下面10b)に凹部22aを形成する。凹部22aは、例えば図2(a)、(b)のように、蛇行した凹状の溝である。
【0046】
(c)接合層24aの形成工程
凹部22aの少なくとも底面に、加熱により第1の接合層24aとなる、生のガラスペーストを塗布する。ガラスペーストは、ガラス粒子、有機バインダ、および分散液からなる。ガラス粒子の主成分は、硼珪酸ガラスなどが選択される。次に、加熱によりガラスペーストを溶融させ、第1基板10の下面10bに接合された第1の接合層24aを得る。
【0047】
(d)配線層16の形成工程
第1の接合層24a上に、加熱により第1の配線層16aとなるペーストを塗布する。第1の配線層16a用のペーストとしては、モリブデンおよびマンガンを含むペーストが選択される。一方、第2の配線層16bとしてモリブデン板を準備する。モリブデン板は、凹部22aに沿って蛇行した形状を有している。第1の接合層24a上に第1の配線層16a用のペーストを塗布後、第2の配線層16bとなるモリブデン板を第1の配線層16a上に配置し、(c)工程の加熱温度よりも低い温度で加熱する。これにより、第1の配線層16aを溶融させて、第1の接合層24aと第1の配線層16aとを接合するとと
もに、第1の配線層16aと第2の配線層16bとを接合する。
【0048】
(e)第2の配線層16bの研磨工程
この工程は、必ずしも必要ではない。この工程の目的は、第2の配線層16bの厚みを一定にすることにより、第1基板10の上面10a側(対象物W側)全体に渡って発熱量をさらに高い精度で一定にするためである。発熱量が一定であれば、対象物Wの全体にわたって、温度範囲をより一定に保つことができる。第2の配線層16bの研磨は、砥石などの加工用工具50を用いて行われる。
【0049】
(f)第2基板12を有する部材の準備工程
この工程は、上記(a)−(e)とは別個に予め行っても良い。円板形状の第2基板を準備する。貫通孔20は予め形成しておく。金属ネジ18を嵌めるためのネジ穴18aも予め形成しておく。次に、第2基板の上面12aを加工して凹部22bを形成する。凹部22bは、第2の配線層16bに対向するように形成される。また、第2の基板12の上面12aにおける凹部22b以外の領域に、加熱によって第2の接合層24bとなるガラスペーストを塗布する。
【0050】
(g)第1基板10と第2基板12の接合
第1基板10の下面10bと第2基板12の上面12aとを、第2の接合層24bとなるガラスペーストを介して貼り合わせる。その後、加熱してガラスペーストを溶融させ、第1基板10と第2基板12とを接合する。加熱温度は、工程(d),(f)よりも低い温度とする。なお、図6(g)は、第1基板10と第2基板12とを張り合わせる前の状態を示している。以上の工程により、加熱用部材2が製造される。
【0051】
この加熱用部材2を用いて加熱装置1を作製することができる。この場合、第2基板12に形成した、金属ネジ18を嵌め込むための2つのネジ穴18aに金属製のネジ18をそれぞれはめ込む。2つのネジ18は、導線3を介して電源4の各端子に電気的に接続することができる。このとき、2つのネジ18間に電圧を印加して、配線16に直流電流または交流電流を流すことができる。また、支持台6と断熱板5、断熱板5と加熱用部材2をそれぞれ固定する。この加熱装置1の上面に対象物Wを載置し、貫通孔20を介して吸引すれば、対象物Wは加熱用部材2の上面に吸着される。
【0052】
本発明の一実施形態に係る加熱用部材およびその製造方法、並びに加熱装置は、上記に示した実施形態に限定されない。
【実施例】
【0053】
(実施例)
直径300mm、厚みが15mmの炭化珪素焼結体の板を複数個準備し、第1基板10および第2基板12を作製するための基材とした。実施形態に記載した工程(a)−(g)により、図3に示す加熱用部材2を作製した。凹部22a,22bの幅はそれぞれ5mm、深さはそれぞれ2mmとした。第2の配線層16bとして準備したモリブデン板の厚みは0.2mmとした。配線16と第2基板12との間(空間26)の間隔は0.8mmとした。
【0054】
加熱装置1の上面(第1基板10の上面10a)全体の温度バラツキ(温度差)を、温度計測器を用いて測定した。周囲の温度は25℃で一定とし、無風状態とした。
【0055】
電源2より実効値200Vの交流電圧を印加し、温度コントローラ(不図示)を用いて、対象物Wの温度が300℃になるように制御した。
【0056】
その結果、第1基板10の上面10aの温度は、全体として297〜303℃の範囲内で制御することができた。すなわち、第1基板10の上面10aにおける温度ばらつきを比較的小さくすることができた。
【0057】
(参考例)
第2基板12に凹部22bを設けない、又は凹部22bの深さを小さくするなどして、空間26を設けずに、配線16と第2基板12とを接触させた以外は、上記実施例と同様にして、加熱用部材を作製し、実施例と同様に評価した。その結果、対象物を載せる第1基
板10の上面10aの温度は、295〜305℃の範囲内でしか制御できず、温度ばらつきは大きくなった。
【符号の説明】
【0058】
1:加熱装置
2,32,42:加熱用部材
3:導線
4:電源
5:断熱板
6:支持台
W:対象物
10:第1基板
10a:第1基板の上面
10b:第1基板の下面
12:第2基板
12a:第2基板の上面
12b:第2基板の下面
16:配線
16a:第1の配線層
16b:第2の配線層
18:ネジ
18a:ネジ穴
20:貫通孔
22,22a,22b:凹部
24a,24b:接合層
26:空間
50:加工用工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を加熱する加熱用部材であって、上面に前記対象物が載置される第1基板と、該第1基板の下面に対向するように設けられた第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた配線とを有し、
前記第1基板の下面および該下面に対向する前記第2基板の上面の少なくとも一方は凹部を有し、
前記配線は、少なくとも一部が前記凹部内に位置するように前記第1基板の下面に接合され、前記配線と前記第2基板の上面との間に空間が形成されている加熱用部材。
【請求項2】
前記第1基板の厚みが前記第2基板よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の加熱用部材。
【請求項3】
前記配線は、絶縁性を有する第1の接合層を介して前記第1基板の下面に接合され、前記第1基板と前記第2基板は、前記第1の接合層よりも熱伝導率が低い第2の接合層を介して互いに接合されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加熱用部材。
【請求項4】
前記配線は、前記第1基板側に位置する第1配線層と、前記第2基板側に位置する第2配線層とを有し、前記第1配線層がモリブデンとマンガンを含有し、前記第2配線層がモリブデンからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の加熱用部材。
【請求項5】
前記配線は、前記第1基板の下面以外の前記凹部の内表面を構成する表面から離間していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の加熱用部材。
【請求項6】
前記配線層と前記第2基板の上面との間に形成された空間の内部は、真空または減圧されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の加熱用部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の加熱用部材と、
前記加熱用部材の前記配線に電気的に接続された複数の導線と、
前記複数の導線間に電圧を印加するための電源と
を有することを特徴とする加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−204456(P2011−204456A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70386(P2010−70386)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】