説明

加熱調理用油脂組成物

【課題】 衣の食感が良い揚げ物を作ることができ、また該調理品が冷めた場合においても揚げたての衣の食感を維持できる揚げ物調理用油脂組成物を提供すること。衣の厚い天ぷらなどを調理した際には、特に外観と食感のバランスの良い揚げ物を作ること。
【解決手段】 ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の1種又は2種以上とを0.01〜1重量%含有し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該乳化剤の比率が1:1〜10であることを特徴とする油脂組成物。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤が有機酸モノグリセリド及び/又はHLB6〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱調理、特に揚げ物調理に適した油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルについて、有機酸モノグリセリドやポリグリセリン脂肪酸エステルの油溶性、低温での保存安定性を高める効果(特許文献1)、糖アルコールやポリグリセリンを油脂中に均一に溶解又は分散させて沈降を防止する効果(特許文献2)、植物ステロールの食用油脂からの析出を抑制する効果(特許文献3)が知られている。
特許文献4には、「HLBが6以上の乳化剤と、HLBが3〜5で水酸基価が50以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルとを含有することを特徴とする揚げ物用油脂組成物」が開示されているが、「HLBが3〜5で水酸基価が50以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル」として、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを用いると、「HLBが6以上の乳化剤」の効果を消してしまうので好ましくないことが記載されている(段落番号0022)。
【0003】
ポリグリセリン脂肪酸エステルについて、揚げ物用油脂組成物に使用することは広く知られており、HLBが6以上の乳化剤(これにはポリグリセリン脂肪酸エステル自身も含まれる)との併用(特許文献4)、有機酸モノグリセリドとの併用(特許文献1)、ショ糖脂肪酸エステルとの併用(特許文献5)、ショ糖脂肪酸エステルとジグリセライドとの併用(特許文献6)、ポリグリセリン脂肪酸エステルの一種であるジグリセリンモノ脂肪酸エステルを利用した調理用油脂組成物(特許文献7)などが開示されている。
【0004】
有機酸モノグリセリドについて、ポリグリセリン脂肪酸エステルとの併用(特許文献1)、HLBが3〜5で水酸基価が50以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルとの併用(特許文献4)、ローズマリー抽出物などの香辛料抽出物、脂肪酸モノグリセリド、及び脂肪酸ジグリセリドと特定の比率での併用(特許文献8,9)、特定の界面張力となるような配合での利用(特許文献10)などが開示されている。
【0005】
揚げ物用油脂組成物に関し、揚げ物の食感改良を目的としたものとして、水との界面張力に着目した技術も開示されている(特許文献10〜13)。
例えば、特許文献11では、「液状油脂に、該液状油脂に対して4.0重量%以下となる量の乳化剤を添加・溶解して得られる油脂組成物であって、該油脂組成物の水との80℃における界面張力が界面形成時より3秒後に7mN/m以下となるように乳化剤が選ばれていることを特徴とする揚げ物調製用油脂組成物。」により、「(1)天ぷらの衣の花咲性(散り状態)を向上させる。(2)衣の水分蒸散速度を促進させて、得られる揚げ物の食感を向上させる。(3)揚げ物調製時(揚げ作業時)での油はねを抑制する。(4)揚げ物調製の加熱時の劣化臭(嫌悪感のある臭い)の発生を抑制する。(5)油脂の劣化を抑制する。」効果が発揮されるとある。また、特許文献10では、「水との80℃における界面張力が界面形成時より5秒後に10〜30mN/mとなるように、調製された食用油からなる、あるいは、食用油に食用乳化剤を添加してなる油脂組成物であることを特徴とする揚げ物用油脂組成物。」が開示され、好ましい食用乳化剤として有機酸モノグリセリドが例示されている。
水との80℃における界面張力が界面形成時より3秒後に7mN/m以下となる場合、揚げ物の食感改良効果はあるが、天ぷらにおける散り状態は過度となってしまい、揚げカスが多量に発生するほか、外観が貧弱となり好ましくない。これを改善する手段として、水との80℃における界面張力が界面形成時より5秒後に10〜30mN/mとすることで、外観、風味、並びに食感のバランスがとれた「おいしい」揚げ物が得られるが、消費者ニーズの変化により最近ではより歯応えのある食感が好まれる傾向にあり、外観を良好に保った状態で食感のみをより歯応えのある状態に改良する技術の開発が必要となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開平9−74999
【特許文献2】特開平8−131070
【特許文献3】特開2002−209516
【特許文献4】特開2001−8618
【特許文献5】特開平7−16051
【特許文献6】特開2003−284492
【特許文献7】特開平8−131071
【特許文献8】特開平6−113742
【特許文献9】特許第3180109号
【特許文献10】特開平9−163929
【特許文献11】特開平7−16052
【特許文献12】特開2002−101819
【特許文献13】特許第3244354号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、衣の食感が良い揚げ物を作ることができ、また該調理品が冷めた場合においても揚げたての衣の食感を維持できる揚げ物調理用油脂組成物を提供することを目的とする。
また衣の厚い天ぷらなどを調理した際には、特に外観と食感のバランスの良い揚げ物を作ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、単独で用いても何ら有益な効果を発揮しないポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに着目し、加熱調理用途で広く利用されているポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤、好ましくは有機酸モノグリセリド及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルとの併用により相乗効果を発揮し、目的を達成したものである。
即ち本発明は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の1種又は2種以上とを0.01〜1重量%含有し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該乳化剤の比率が1:1〜10である油脂組成物を提供することにより目的を達成したものである。
好ましくはポリグリセリン縮合リシノレイン酸以外の乳化剤が有機酸モノグリセリド及び/又はHLB6〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【発明の効果】
【0009】
衣の食感が良い揚げ物を作ることができ、また該調理品が冷めた場合においても揚げたての衣の食感を維持できる揚げ物調理用油脂組成物を提供することができる。
また衣の厚い天ぷらなどを調理した際には、特に外観と食感のバランスの良い揚げ物を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる油脂は、天ぷらなどの揚げ油として一般的に使用可能とされている各種の油から任意に選んで用いることができる。その例としては、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ひまわり油、綿実油、オリーブ油、胡麻油、パーム油、米ぬか油、魚油、牛脂、ラード等の動植物油脂を挙げることができる。これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよく、さらには、エステル交換、水添などにより構造的な変換処理を施して用いてもよい。またトコフェロールなどの抗酸化剤を添加しても良い。
【0011】
本発明に用いられるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノレイン酸のエステル化合物であり、PGPRと略称されることもある。
【0012】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドなど)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどが例示され、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましくは、有機酸モノグリセリド及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを利用するのが良い。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいては、HLB6〜14のものが好ましい。
【0013】
HLB6〜14の範囲以外のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いると特に天ぷらを調理した際は、サク味、歯応えの良好な調理品が得られない。
【0014】
有機酸モノグリセリドの好ましい具体例としてはクエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリドなどが挙げられる。HLB6〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノミリステート、ペンタグリセリントリオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエートなどが挙げられる。
【0015】
油脂組成物中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の含有量は0.01〜1重量%が好ましい。より好ましくは0.05〜0.5重量%である。
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の添加量が1%以上など多い場合は、特に天ぷらを調理したときに花咲き性が強すぎて、調理中の油脂に揚げかすが増えるため油脂の劣化を早め、さらに乳化剤に由来する風味が該調理品の食味を低下させる結果となり、またポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の量、割合が少ない場合はサク味のある食感が得られない。
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の比率は1:1〜10が好ましい。より好ましくは1:1〜5である。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの割合が、他の乳化剤より多い場合は十分な効果は得られない。
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
[実施例1〜18、比較例1〜9]
表1〜3に示す通り配合した揚げ油500gを180℃に加熱し、天ぷらバッター(昭和天ぷら粉黄金+加水160%)を4cm四方の厚さ0.4cmの大きさに切りそろえたさつまいも6枚につけた後、1.5分揚げて、揚げた直後及び4時間放冷後に10名の専門パネラーにて試食し、以下の項目にて評価を行った。また調理後の揚げかすの残った様子を観察した。
【0017】
評価法
外観
A:ボリューム感が非常にあって、適度な花咲き性があり見た目が良い
B:ボリューム感があって、ほどほど花咲き性もあり見た目が良い
C:ボリューム感がほどほどにある
D:花咲き性が強く、ボリューム感が無い
E:花咲き性が強すぎてボリューム感が非常に無く、貧弱に見える
食感(揚げ直後のサク味、放冷4時間後のサク味)
A:サク味があって歯応えが非常にある
B:サク味があって歯応えもほどほどにある
C:サク味がほどほどにある
D:硬いまたは湿って歯切れ悪い
E:非常に硬いまたは湿って歯切れが非常に悪い
調理後の揚げかす量(調理後、揚げかすが液面に広がる量を目視で評価)
A:揚げかす量が非常に少なく良好
B:揚げかす量が少ない
C:揚げかす量がほどほどにある
D:揚げかす量が多い
E:揚げかす量が非常に多く、油が汚れやすい
天ぷらとしてのおいしさ
A:とてもおいしい
B:おいしい
C:普通
D:おいしくない
E:とてもおいしくない
【0018】
表1〜3中、下記のものを用いた。
大豆油:昭和大豆白絞油
ジグリセリンモノオレエート:ポエムDO-100V〔理研ビタミン(株)製〕、HLB=8.0
ジグリセリンモノパルミテート:ポエムDP-95RF〔理研ビタミン(株)製〕、HLB=8.0
ジグリセリンモノミリステート:ポエムDM-100〔理研ビタミン(株)製〕、HLB=9.0
ペンタグリセリントリオレエート:サンソフトA-173E〔太陽化学(株)製〕、HLB=7.0
ヘキサグリセリンモノオレエート:SYグリスターMO-500〔阪本薬品工業(株)製〕、HLB=11.6
ヘキサグリセリンモノラウレート:SYグリスターML-500〔阪本薬品工業(株)製〕、HLB=13.5
ヘキサグリセリンモノステアレート:SYグリスターMS-500〔阪本薬品工業(株)製〕、HLB=11.0
デカグリセリンモノオレエート:リョートーポリグリエステルO-50D〔三菱化学フーズ(株)製〕、HLB=8.0
クエン酸モノグリセリド:サンソフト623M〔太陽化学(株)製〕
ジアセチル酒石酸モノグリセリド:サンソフト641D〔太陽化学(株)製〕
コハク酸モノグリセリド:サンソフト681NU〔太陽化学(株)製〕
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル:SYグリスターCRS-75〔阪本薬品工業(株)製〕
ヘキサグリセリンペンタオレエート:SYグリスターPO-500〔阪本薬品工業(株)製〕、HLB=4.9
テトラグリセリンペンタオレエート:SYグリスターPO-310〔阪本薬品工業(株)製〕、HLB=3.0
デカグリセリンモノラウレート:SYグリスターML-750〔阪本薬品工業(株)製〕、HLB=14.8
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
・実施例1〜14と比較例1〜7の結果より
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと有機酸モノグリセリド又はHLBが6〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することにより、天ぷらがボリューム感のある外観になり、またサク味が強く、歯応えのある食感となり、天ぷらが冷めた場合においてもサク味と歯応えの持続性があることが解る。
またポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤を2種以上組み合わせることにより、ボリューム感のある外観となり、また揚げかす量も減少するなど、相乗効果を得ることも可能である。
【0023】
・実施例15、16、17と比較例8の結果より
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の添加量が多い場合はサク味の強い天ぷらにはなるものの、花咲き性が強すぎるため外観も貧弱になり、衣が具材よりはがれやすいため揚げかすが多くなり、油が傷みやすいと考えられる。
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の添加量は0.01〜1重量%が好ましく、外観とサク味のバランスのとれた天ぷらを作ることができる。
【0024】
・実施例18、19と比較例9の結果より
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの添加量が、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤より多い場合は、良好な効果が得られない。
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の添加量の比は1:1〜10が好ましい。
【0025】
[実施例20〜23、比較例10〜13]
表4に示す通り配合した揚げ油500gを180℃に加熱し、市販冷凍コロッケ(ニチレイ(株))製を4分揚げて、揚げた直後及び2時間放冷後に10名の専門パネラーにて試食し、以下の項目にて評価を行った。
【0026】
評価法
食感(揚げ直後のサク味、放冷2時間後のサク味)
A:サク味があって、歯切れがよい
B:サク味がある
C:やや油っぽいが、ある程度の硬さはある
D:ややしなっとして、歯切れが悪い
E:べたついており、歯切れが非常に悪い
コロッケとしてのおいしさ
A:とてもおいしい
B:おいしい
C:普通
D:おいしくない
E:とてもおいしくない
【0027】
表4中、下記のものを用いた。
コーン油:昭和コーンサラダ油
ペンタグリセリントリオレエート:サンソフトA-173E〔太陽化学(株)製〕、HLB=7.0
クエン酸モノグリセリド:サンソフト623M〔太陽化学(株)製〕
ジグリセリンモノオレエート:ポエムDO-100V〔理研ビタミン(株)製〕、HLB=8.0
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル:SYグリスターCR-ED〔阪本薬品工業(株)製〕
【0028】
【表4】

【0029】
・実施例20〜23と比較例10〜13の結果より
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤を1種又は2種以上添加することにより、サク味が強い食感となり、コロッケが冷めた場合においてもサク味の持続性があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
衣の食感が良い揚げ物を作ることができ、該調理品が冷めた場合においても揚げたての衣の食感を維持でき、また衣の厚い天ぷらなどを調理した際は、特に外観と食感のバランスの良い揚げ物を作ることができる揚げ物調理用油脂組成物を提供することができ、消費者のニーズの変化に対応可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の1種又は2種以上とを0.01〜1重量%含有し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該乳化剤の比率が1:1〜10であることを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤が有機酸モノグリセリド及び/又はHLB6〜14のポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1の油脂組成物。