加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置
【課題】 簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置を提供すること。
【解決手段】内部にアルカリ金属蒸気Gを封入したアルカリ封入セルは、第1及び第2の加熱部材11、12を備える。アルカリ封入セル10は、互いに対向する第1及び第2の端面10a、10b、並びに両端面10a、10bを連結する側面10cを有する。第1及び第2の加熱部材11、12はそれぞれ、被覆部11B、12B及び延設部11C、12Cを有する。被覆部11B、12Bの内部には、アルカリ封入セル10の一部が挿入されている。一方、延設部11C、12Cは、アルカリ封入セル10から離れる方向に向かって伸びている。第1及び第2の加熱部材11、12は、第1及び第2の端面10a、10bの対向方向に間隔d0で離間して配置されている。
【解決手段】内部にアルカリ金属蒸気Gを封入したアルカリ封入セルは、第1及び第2の加熱部材11、12を備える。アルカリ封入セル10は、互いに対向する第1及び第2の端面10a、10b、並びに両端面10a、10bを連結する側面10cを有する。第1及び第2の加熱部材11、12はそれぞれ、被覆部11B、12B及び延設部11C、12Cを有する。被覆部11B、12Bの内部には、アルカリ封入セル10の一部が挿入されている。一方、延設部11C、12Cは、アルカリ封入セル10から離れる方向に向かって伸びている。第1及び第2の加熱部材11、12は、第1及び第2の端面10a、10bの対向方向に間隔d0で離間して配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光による溶接や切断などのレーザ加工分野において、高効率で、小型で、且つ安価な高出力、高ビーム品質なレーザが要求されている。そこで、例えば半導体レーザダイオードアレイをスタックして得られる高出力なレーザ光をレンズ等で集光して利用することが知られている。あるいは、例えば半導体レーザによって励起する固体レーザからの高出力レーザ光を利用することも知られている。
【0003】
しかし、半導体レーザダイオードアレイから出力されるレーザ光は、そのスペクトル幅が広がってしまい、またビーム品質も従来のランプ励起Nd:YAGレーザ及びCO2レーザの何れと比較しても劣るという問題を有している。また、固体レーザでは、レーザ媒質が固体であるため熱あるいは熱の不均一性に起因して、屈折率分布が生じてしまう、あるいは媒質に歪みが生じてしまう等といった問題を発生してしまう。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、アルカリ金属蒸気レーザ(以下、単にアルカリレーザという)が検討されている(例えば、特許文献1、非特許文献1〜4を参照)。アルカリレーザでは、アルカリ金属とバッファガスとを封入したアルカリ封入セルを加熱部材で昇温してセル内にアルカリ金属蒸気を発生させ、これをレーザ媒質とする。アルカリ蒸気レーザは、固体レーザと比較して媒質における熱の発生が少ないため、熱に起因する問題を抑制することができる。
【特許文献1】米国特許第6643311号明細書
【非特許文献1】W. F. Klupke et al., Optics Letters, Vol.28, 2336 (2003)
【非特許文献2】W. F. Klupke et al., Proc. SPIE, 5448 (2004)
【非特許文献3】R. J. Beach et al., Advanced Solid-State Photonics WC4 (2004)
【非特許文献4】R. J. Beach et al., J. Opt. Soc. Am B 21, 2151 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1〜4に記載のアルカリレーザでは、アルカリ封入セルを加熱し内部に封入されたアルカリ金属を昇温するために、アルカリ封入セル全体を覆うオーブンを用意する、あるいはアルカリ金属を貯えておくリザーバーをアルカリ封入セルに対して設置するといったことが必要となる。そのため、装置の構成が非常に複雑になってしまっていた。
【0006】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、本願発明者は、アルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置について鋭意研究を重ねたところ、以下のような事実を見出すに至った。すなわち、アルカリ金属が封入されたセルの励起光が入射する端面及びレーザ光が出射する端面にアルカリ金属が析出してしまった場合、析出したアルカリ金属は励起光を直接吸収してしまう。これにより、端面は加熱され、破損してしまうおそれがあるという新たな事実を見出した。そこで、本願発明者は、簡便な構成であって、しかも端面にアルカリ金属が析出することが抑制されたアルカリ封入セルについて鋭意研究を重ね、本願発明に想到した。
【0008】
このような研究結果を踏まえ、本発明によるアルカリレーザ装置用セルは、内部にアルカリ金属蒸気を封入したアルカリ封入セルを加熱する第1及び第2の加熱部材を備えた加熱部材付きアルカリ封入セルであって、アルカリ封入セルは、互いに対向し且つアルカリ金属蒸気を励起する励起光及び励起されたアルカリ金属蒸気から出力されるレーザ光を透過する第1及び第2の端面と、当該両端面を連結する側面とを有し、第1及び第2の加熱部材にはそれぞれ、一方の端部から他方の端部まで伸びる貫通空間が形成され、第1の加熱部材は、その一部の貫通空間内にアルカリ封入セルの第1の端面側の一部が挿入され、残りが第1の端面に対し第2の端面とは反対側に向かって伸びるように配置され、第2の加熱部材は、第1及び第2の端面の対向方向に所定の間隔で第1の加熱部材とは離間しているとともに、当該第2の加熱部材の一部の貫通空間内にアルカリ封入セルの第2の端面側の一部が挿入され、残りが第2の端面に対し第1の端面とは反対側に向かって伸びるように配置されていることを特徴とする。
【0009】
上記の加熱部材付きアルカリ封入セルは、貫通空間が形成された加熱部材に対し、当該貫通空間の一部にセルの一部を挿入しただけの構成である。したがって、簡便な構成でアルカリ封入セルを加熱することが可能である。また、上記の加熱部材付きアルカリ封入セルでは、第1及び第2の加熱部材はそれぞれアルカリ封入セルの一部のみを貫通空間内に挿入させ、且つ、セルの第1及び第2の端面の対向方向に所定の間隔で離間して配置されている。そのため、セルは端面から離れた部分に、加熱部材に覆われていない部分を有する。したがって、加熱部材に覆われていない部分の温度が端面での温度よりも低くなるようセルに加える熱を容易に制御することができ、上記のアルカリ封入セルでは端面にアルカリ金属が析出することを抑制することが可能となる。また、各加熱部材は、内部の貫通空間にアルカリ封入セルを挿入しておらず且つアルカリ封入セルの端面から離れるように伸びる部分を有する。各端面には、これらの部分から発せられる熱がさらに加えられるため、端面にアルカリ金属が析出することをより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0010】
また、熱伝導性及び弾性を有し、貫通空間を画成する各加熱部材の内壁とアルカリ封入セルの側面との間隙に嵌め込まれるスペーサを一対さらに備えることが好ましい。アルカリ封入セルと加熱部材との間隙に嵌め込まれるスペーサは弾性を有するため、セル、スペーサ、及び加熱部材の間での密着性が向上する。こうして熱伝導性を有するスペーサにより三者間での密着性を高めることで、加熱部材によって効率良くアルカリ封入セルを加熱することが可能となる。
【0011】
アルカリ封入セルの各端面に対して熱を加える一対の端面加熱部材をさらに備えることが好ましい。この場合、端面において、より一層均一な温度分布が可能となる。
【0012】
第1及び第2の端面は何れも円形であり、第1の加熱部材の残りの貫通空間が伸びる方向における長さは、第1の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であり、第2の加熱部材の残りの貫通空間が伸びる方向における長さは、第2の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。この場合、アルカリ封入セルのアルカリ金属蒸気に照射する励起光を加熱部材が遮ることが抑制され、各端面を全面に渡って好適に加熱することが可能となる。
【0013】
また、本発明によるアルカリレーザ装置は、アルカリ封入セル内にアルカリ金属蒸気が封入された上記の加熱部材付きアルカリ封入セルを共振光路上に有する共振器と、アルカリ金属蒸気に照射する励起光を出力する励起光出力装置と、備えることを特徴とする。
【0014】
上記の加熱部材付きアルカリ封入セルでは、簡便な構成でアルカリ封入セルを加熱することが可能である。また、アルカリレーザ装置は、アルカリ金属蒸気をレーザ媒質とするため、固体レーザに比べて熱の発生が少なく、熱に起因する問題の発生を抑制することができる。したがって、上記アルカリレーザ装置では、熱による問題の発生を抑制しつつ、高出力で小型のレーザ装置を実現することが可能となる。
【0015】
この場合、励起光出力装置は、半導体レーザからなる光源と、光源から出力された光を集光する集光光学系と、集光光学系で集光された光を回転させる回転光学系と、回転光学系によって回転された光の波長スペクトルの幅を狭くするボリュームブラッググレーティングと、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1〜図3を参照して、本実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セル10の構成を説明する。図1は、実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セルの斜視図である。図2は、実施形態に係るアルカリ封入セルの斜視図である。図3は、図1の加熱部材付きアルカリ封入セルのIII-III矢印断面図である。
【0019】
アルカリ封入セル10は、その内部にアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等)及びバッファガス(例えば、He、Ar、Kr、Ne、Xe等)Bを所定の圧力で封入している。アルカリ封入セル10には、当該セル10を加熱する第1及び第2の加熱部材11、12、並びにアルカリ封入セル10と第1及び第2の加熱部材11、12との間に嵌め込まれる一対のスペーサ13、14が備えつけられてる。これらの加熱部材11、12が加熱してセル10を所定の温度に昇温することにより、アルカリ封入セル10内の例えば固体のアルカリ金属からアルカリ金属蒸気Gを発生する。これにより、アルカリ封入セル10内にはアルカリ金属蒸気Gが封入されることとなる。
【0020】
アルカリ封入セル10は、例えばガラス製の密閉容器である。アルカリ封入セル10は、互いに対向する円形の第1及び第2の端面10a、10b、並びにこれらの両端面10a、10bを連結する側面10cを有する。なお、アルカリ封入セル10の一部(例えば、側面10c等)には、アルカリ金属及びバッファガスをセル内に導入するための突起部(図示は省略)が形成されていてもよい。
【0021】
第1及び第2の加熱部材11、12にはそれぞれ、一方の端部から他方の端部まで伸びる貫通空間11A、12Aが形成されている。第1及び第2の加熱部材11、12は、例えばオーブンであり、それぞれ独立して温度制御をすることができる。第1及び第2の加熱部材11、12では、図示していない温度コントローラによって、セル10を加熱する温度がそれぞれ独立に制御される。なお、第1及び第2の加熱部材11、12を駆動するための電源等(図示は省略)には、リード15、16を介して接続される。また、加熱部材11、12の内壁には、例えば熱電対等(図示は省略)が配置されている。
【0022】
第1の加熱部材11は、被覆部11B及び延設部11Cを有する。第1の加熱部材11の一部である被覆部11Bの貫通空間11A内には、アルカリ封入セル10の第1の端面10a側の一部が挿入されている。第1の加熱部材11の被覆部11B以外の残りの部分である延設部11Cの貫通空間11Aは、第2の端面10bとは反対側に向かって、第1の端面10aの位置から伸びている。
【0023】
第1の加熱部材11の延設部11Cの、貫通空間11Aが伸びる方向における長さh1は、第1の端面10aの直径(外径)d1に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。
【0024】
第2の加熱部材12は、被覆部12B及び延設部12Cを有する。第2の加熱部材12の一部である被覆部12Bの貫通空間12A内には、アルカリ封入セル10の第2の端面10b側の一部が挿入されている。第2の加熱部材12の被覆部12B以外の残りの部分である延設部12Cの貫通空間12Aは、第1の端面10aとは反対側に向かって、第2の端面10bの位置から伸びている。
【0025】
第2の加熱部材12の延設部12Cの、貫通空間12Aが伸びる方向における長さh2は、第2の端面10bの直径(外径)d2に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。
【0026】
第1及び第2の加熱部材12、13は、アルカリ封入セル10の第1及び第2の端面10a、10bの対向方向に間隔d0で離間して配置されている。
【0027】
スペーサ13、14は、熱伝導性及び弾性を有する。スペーサ13、14は、アルカリ封入セル10より熱伝導性が高いことが好ましい。スペーサ13は、第1の加熱部材11の貫通空間11Aを画成する第1の加熱部材11の内壁とアルカリ封入セル10の側面10cとの間隙に嵌め込まれる。スペーサ14は、第2の加熱部材12の貫通空間12Aを画成する第2の加熱部材12の内壁とアルカリ封入セル10の側面10cとの間隙に嵌め込まれる。スペーサ13、14は、例えばグラファイトからなる。
【0028】
なお、加熱部材付きアルカリ封入セル10は、各端面10a、10bに対して熱を加える一対の端面加熱部材(図示は省略)をさらに備えていてもよい。この場合、端面加熱部材として、例えばヒートガン等を用いる。
【0029】
続いて、図4及び図5を参照して、加熱部材付きアルカリ封入セル10を備えたアルカリレーザ装置1の実施形態を説明する。図4は、アルカリレーザ装置の実施形態の構成図である。図5は、図4に示したアルカリレーザ装置に用いられる励起光出力装置の構成図である。アルカリレーザ装置1では、励起光l1をアルカリ封入セル10内のアルカリ金属蒸気Gに照射して、レーザ光l2を出力している。なお、光線については、励起光l1及びレーザ光l2を一点鎖線で示している。
【0030】
アルカリレーザ装置1は、励起光出力装置2と、1/2波長板3と、集光光学系4と、偏光ビームスプリッタ5と、加熱部材付きアルカリ封入セル10と、ミラー6と、出力カプラ7とを備える。励起光出力装置2は、アルカリ封入セル10内に封入されたアルカリ金属蒸気Gに照射する励起光l1を出力する。励起光出力装置2から出力される励起光l1として、アルカリ封入セル10内のアルカリ金属原子の吸収スペクトルと波長が略一致する励起光が用いられる。
【0031】
1/2波長板3は、励起光l1の偏光を90°回転する。集光光学系4は、2つの集光レンズ41、42を有する。集光レンズ41は、入射した励起光l1を図4の紙面と垂直な方向に関して収束させる。集光レンズ42は、入射した励起光l1を図4の紙面と平行な面において励起光l1の光軸と垂直な方向に関してを収束させる。
【0032】
偏光ビームスプリッタ5は、励起光l1とレーザ光l2とを分離する。すなわち、偏光ビームスプリッタ5は、励起光l1を透過し、レーザ光l2を反射する。
【0033】
ミラー6と出力カプラ7とが、共振器を構成する。加熱部材付きアルカリ封入セル10は、ミラー6及び出力カプラ7によって構成される共振器の共振光路上に位置する。すなわち、ミラー6は、加熱部材付きアルカリ封入セル10の第2の端面10b側に位置する。出力カプラ7は、偏光ビームスプリッタ5によって反射されたレーザ光l2の光路上に位置する。
【0034】
図5に、励起光出力装置2の詳細な構成が示されている。励起光出力装置2は、図5に示されるように、アルカリレーザ装置1の励起光l1であるレーザ光を出力する半導体レーザアレイ21と、FAC(Fast Axis Collimator、速軸用コリメータ)レンズ22と、ビーム回転レンズ(回転光学系)23と、ボリュームブラッググレーティング(Volume Bragg Grating)24と、SAC(Slow Axis Collimator、速軸用コリメータ)レンズ25とを備えている。
【0035】
半導体レーザアレイ21は、半導体レーザチップを例えば1cm幅のバー状に一次元に配置したものである。ただし、図5は、半導体レーザアレイ21のうちの1つの半導体レーザチップのみを代表して図示する。半導体レーザアレイ21は、光軸Axに沿って、励起光l1であるレーザ光を出力する。FACレンズ22は、上下左右に拡散するレーザ光(励起光l1)を、速軸方向において平行光に変換するものである。速軸方向は、図5においては上下方向、すなわち図5の紙面において光軸Axと直交する方向に相当する。
【0036】
ビーム回転レンズ23は、ビームを90°回転させるものである。ボリュームブラッググレーティング24は、半導体レーザアレイ21から出力された光の波長を狭帯域化させる素子である。
【0037】
SACレンズ25は、ビーム回転レンズ23によって90°回転したレーザ光(励起光l1)を遅軸方向において平行光に変換するものである。遅軸方向は、ビームがビーム回転レンズ23によって90°回転されているため、図5において上下方向に相当する。したがって、FACレンズ22及びSACレンズ25は、集光光学系を構成する。
【0038】
次に、アルカリレーザ装置1の動作について説明する。まず、アルカリ封入セル10内にアルカリ金属とバッファガスBとを封入する。アルカリ封入セル10を加熱部材11、12によって所定の温度に昇温し、セル内にアルカリ金属蒸気Gを発生させる。
【0039】
半導体レーザアレイ21から出力されたレーザ光である励起光l1は、FACレンズ22、ビーム回転レンズ23、ボリュームブラッググレーティング24、及びSACレンズ25を通過する。これにより、励起光l1は、励起光出力装置2から略平行光として出力される。
【0040】
励起光l1はさらに、1/2波長板3及び集光光学系4を通過する。さらに、励起光l1は偏光ビームスプリッタ5を透過する。偏光ビームスプリッタ5は、所定の方向に偏光する励起光l1を透過させる。
【0041】
偏光ビームスプリッタ5を透過した励起光l1は、アルカリ封入セル10の第1の端面10aに入射する。アルカリセ封入セル10内に入射した励起光l1は、セル10内のアルカリ金属蒸気Gに吸収される。アルカリセ封入セル10内に封入されているバッファガスBは、アルカリ金属Gの励起光の吸収スペクトルの幅を増加させる。励起光l1を吸収することにより、アルカリ金属蒸気Gは励起状態になる。
【0042】
アルカリ金属蒸気Gに吸収されなかった励起光l1は、アルカリ封入セル10の第2の端面10bから出射し、ミラー6で反射する。ミラー6で反射した励起光l1は、再びアルカリ封入セル10の第2の端面10bに入射する。アルカリ封入セル10内に再び入射した励起光l1は、セル10内のアルカリ金属蒸気Gに吸収される。アルカリ金属蒸気Gに吸収されたなかった励起光l1は、アルカリ封入セル10の第1の端面10aから出射する。
【0043】
励起光l1を吸収することでアルカリ封入セル10内のアルカリ金属蒸気Gはレーザ発振に必要な反転分布状態となり、特定の波長の光を誘導放出する。具体的には、励起光l1をアルカリ金属原子が吸収することで、アルカリ金属原子は基底状態E0(2S1/2)から励起状態E2(2P3/2)に励起される。励起されたアルカリ金属原子は、続いて励起状態E1(2P1/2)に緩和され、最終的には励起状態E1(2P1/2)から基底状態E0(2S1/2)へと遷移する。遷移の際、誘導放出光が発生し、後述のようにレーザ発振に至る。
【0044】
こうして誘導放出された光がアルカリ封入セル10内を伝搬する間、誘導放出が生じ、光が増幅される。増幅された光は、ミラー6及び出力カプラ7によって共振され、レーザ光l2として出力カプラ7から出射する。
【0045】
加熱部材付きアルカリ封入セル10は、貫通空間11A、12Aが形成された加熱部材11、12に対し、被覆部11B、11Cの貫通空間11A、12Aにセル10の一部を挿入しただけの構成である。したがって、例えばオーブンによってアルカリ封入セル全体を覆う場合に比べ、簡便な構成でアルカリ封入セル10を加熱することが可能である。
【0046】
また、簡便な構成でアルカリ封入セル10を加熱することができるため、例えばリザーバーを用いる場合のように複雑な形状のセルを用いる場合に比べて、容易に且つ精密にアルカリ封入セル10の温度制御を行うことが可能となる。
【0047】
また、第1及び第2の加熱部材11、12はそれぞれ、アルカリ封入セル10の一部のみを貫通空間内に挿入させている。さらに、第1及び第2の加熱部材11、12はアルカリ封入セル10の第1及び第2の端面10a、10bの対向方向に間隔d0で離間して配置されている。そのため、アルカリ封入セル10は第1及び第2の端面10a、10bの双方から離れた中央部分に、加熱部材11、12に覆われていない部分を有する。したがって、アルカリ封入セル10において、加熱部材11、12に覆われていない部分、すなわちアルカリ封入セル10の長手方向における中央部分の温度が端面10a、10b近傍での温度よりも低くなるよう、容易に第1及び第2の加熱部材11、12を制御することができる。
【0048】
アルカリ封入セル10内の温度分布を図6に示す。図6は、第1及び第2の加熱部材11、12を制御することによって得られるアルカリ封入セル10内の温度分布を、アルカリ封入セル10と対応させて説明するための図である。図6(a)は、アルカリ封入セル10内の温度分布を表すグラフであり、図6(b)はアルカリ封入セルの断面図である。図6(a)のグラフの横軸はアルカリ封入セル10の長手方向での位置を表し、図6(a)のグラフの縦軸は各位置での温度tを表す。図6に示されているように、第1及び第2の加熱部材11、12付きのアルカリ封入セル10では、第1及び第2の加熱部材11、12が間隔d0だけ離れて配置されているため、端面10a、10b近傍での温度t2が長手方向の中央部分付近での温度t1よりも高くなるように制御することが可能である。
【0049】
アルカリ封入セル10内には、通常、所定の温度でアルカリ金属の飽和蒸気を発生させるために必要な量以上のアルカリ金属が充填されている。したがって、所定の温度で過剰となったアルカリ金属はアルカリ封入セル10内の温度の低い部分に固体として析出することになる。そのため、第1の端面10a又は第2の端面10b近傍の温度が中央部分付近の温度よりも低い場合、アルカリ金属は第1の端面10a又は第2の端面10bに固体として析出してしまう。析出したアルカリ金属の固体は、励起光l1を吸収して熱を発生するため、アルカリ金属が析出した端面10a、10bが破損してしまうおそれがある。特に、アルカリ金属は他の金属と比べて蒸気圧が高いため、温度の低いところに固体化したアルカリ金属が集中して付着しやすく、温度制御の問題は重要である。また、アルカリレーザ装置1の出力を大きくすべく、励起光出力装置2の出力を大きくした場合には、析出したアルカリ金属が励起光l1を吸収して発生する熱がより一層増大するため、析出したアルカリ金属が端面を加熱する温度がより一層上昇し、端面破損のおそれが大きくなってしまう。
【0050】
こうした問題に対し、従来のようにアルカリ封入セル全体をオーブンで覆うことによってセルを加熱する場合、励起光の入射面及び出射面(第1及び第2の端面10a、10bに対応)だけを除いて覆っている。さらに、従来においては、アルカリ封入セル10の温度分布、すなわち励起光の入射面及び出射面(第1及び第2の端面10a、10b)と中央部分との間の温度差を小さくすることについては何ら検討されていない。そのため、従来のアルカリ封入セル全体をオーブンで覆ったものでは、励起光の入射面及び出射面(第1及び第2の端面10a、10b)にアルカリ金属が析出してしまい、アルカリ封入セル10が破損してしまうおそれがある。
【0051】
一方、本実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セル10では、容易に端面10a、10b近傍で温度が長手方向の中央部分付近での温度よりも高くなるように第1及び第2の加熱部材11、12のセル10への加熱を制御することができるため、アルカリ封入セル10の破損の発生を抑制することが可能となる。
【0052】
また、端面10a、10bにアルカリ金属が析出してしまうことが好適に抑制されることにより、アルカリレーザ装置1では安定した動作が可能となる。
【0053】
また、第1及び第2の加熱部材11、12の間隔d0を変えることによってアルカリ封入セル10の長手方向(第1及び第2の端面10a、10bの対向方向)の温度分布を制御することが可能となる。
【0054】
各端面10a、10b上での温度分布を考えると、加熱部材11、12からの距離が遠い中心部と加熱部材11、12からの距離が近い周辺部とでは、温度差が存在すると考えられる。特に、第1及び第2の加熱部材11、12がそれぞれ被覆部11B、12Bしか有さず延設部11C、12Cを有さないとすると、距離の差によって生じる温度差がそのまま存在してしまうため、各端面10a、10bの中心部の温度は周辺部の温度に比べ低くなってしまう。通常、励起光l1は各端面10a、10bの中心部付近から入射又は出射される。そのため、各端面10a、10bの中心部にアルカリ金属が析出してしまうと、そこに励起光l1を照射することになってしまう。析出されたアルカリ金属は励起光l1を吸収して発熱するため、この場合端面10a、10bを破損してしまうおそれが増大される。
【0055】
そこで、本実施形態に係る第1及び第2の加熱部材11、12付きのアルカリ封入セル10を考えると、第1及び第2の加熱部材11、12は何れも、内部の貫通空間11A、12Aにアルカリ封入セル10を挿入しておらず、且つアルカリ封入セル10の端面10a、10bから離れるように伸びる、すなわちアルカリ封入セル10の端面10a、10bから突出するように伸びる延設部11C、12Cを有する。アルカリ封入セル10の各端面10a、10bには、これらの延設部11C、12Cから発せられる熱がさらに加えられる。これにより、各端面10a、10bにおいて中心部と周辺部との温度差を小さくすることが可能となる。その結果、第1及び第2の端面10a、10bにアルカリ金属が析出することをより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0056】
特に、各端面10a、10bに対して熱を加える端面加熱部材(例えばヒートガン等)を用いて各端面10a、10bの中心部を加熱することが好ましい。この場合、各端面10a、10bは、より一層均一に温度分布することが可能となる。
【0057】
図7は、アルカリ封入セル10の端面10a、10bにおける温度分布を色の濃淡で表す図である。すなわち、色が濃い(黒い)ほど温度が高いことを表し、薄い(白い)ほど温度が低いことを表す。図7(a)は各加熱部材が延設部を有さない場合の温度分布を、図7(b)は加熱部材が延設部を有する場合の温度分布を表す。図7(a)に示されるように、各加熱部材11、12が延設部11C、12Cを有さない場合、端面10a、10bでは周辺部の温度に比べ中心部の温度が低くなってしまう。一方、図7(b)に示されるように、各加熱部材11、12が延設部11C、12Cを有する場合、各端面10a、10bでは中心部と周辺部とで温度が均一に分布する。
【0058】
また、アルカリ封入セル10と各加熱部材11、12との間隙にそれぞれ、熱伝導性を有するスペーサ13、14が嵌め込まれている。これらのスペーサ13、14は弾性を有するため、セル10、及び加熱部材11、12の間隙に密着して嵌め込まれる。こうして熱伝導性を有するスペーサ13、14により、アルカリ封入セル10、スペーサ13、14、及び加熱部材11、12間での密着性が高められることにより、加熱部材11、12によって効率良くアルカリ封入セル10を加熱することが可能となる。また、スペーサ13、14によって、三者間が密着することにより、各端面10a、10bの温度をより一層均一に分布することが可能となる。
【0059】
各加熱部材11、13の延設部11C、12Cの、貫通空間11A、12Aが伸びる方向における長さh1、h2はそれぞれ、アルカリ封入セル10の対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。すなわち、延設部11C、12Cの長さh1、h2がそれぞれ、対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍未満の場合、各端面10a、10bの中心部の温度が周辺部の温度に比べ著しく低くなってしまうおそれがある。一方、延設部11C、12Cの長さh1、h2がそれぞれ、対応する端面10a、10bの直径d1、d2の1.5倍より大きい場合、アルカリ封入セル10内のアルカリ金属蒸気Gに照射する励起光l1が加熱部材11、12によって遮られてしまうおそれがある。したがって、延設部11C、12Cの長さh1、h2がそれぞれ、アルカリ封入セル10の対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下である場合、セル内10のアルカリ金属蒸気Gに照射する励起光l1を加熱部材11、12が遮ることを抑制しつつ、各端面10a、10bを全面に渡って好適に加熱することが可能となる。
【0060】
また、アルカリレーザ装置は、アルカリ金属蒸気をレーザ媒質とするため固体レーザに比べて熱の発生が少なく、熱に起因する問題の発生を抑制することが可能である。したがって、本実施形態に係るアルカリレーザ装置1によれば、熱による問題の発生を抑制しつつ、高出力で小型のレーザ装置を実現することが可能となる。
【0061】
なお、アルカリレーザ装置1において熱の発生が少なく抑えられる原因は以下のように考えられる。すなわち、以下の式(1)で表されるアルカリレーザ装置のレーザ効率ηを検討すると、アルカリレーザ装置は高いレーザ効率を示すことができる。
η=E1/E2 …(1)
E1、E2:アルカリ金属の励起状態
【0062】
例えば、Cs金属をアルカリ封入セル10に封入して用いたCsレーザ装置の場合、レーザ効率ηは約95%を示す。あるいは、例えばRb金属をアルカリ封入セル10に封入して用いたRbレーザ装置の場合、レーザ効率ηは約98%を示す。このように、アルカリレーザ装置1は、一般に非常に高いレーザ効率を示す。また、レーザ効率が高いことから、アルカリレーザ装置1では、熱の発生が抑制されるものと考えられる。
【0063】
以上述べたように、加熱部材11、12付きアルカリ封入セル10を備えるアルカリレーザ装置1は、小型で且つ安価で且つ高出力且つ高ビーム品質のレーザ装置を実現することが可能である。したがって、アルカリレーザ装置1は、例えばレーザ加工分野を中心とした産業界において広く好適に利用可能である。
【0064】
また、本実施形態では、励起光出力装置2がボリュームブラッググレーティング24を備えている。そのため、励起光出力装置2は、スペクトル幅が狭く、またピーク強度が大きい励起光l1を出力することができる。アルカリ金属の吸収スペクトルの幅は非常に狭いため、スペクトル幅の狭い光は励起光として好適である。
【0065】
図8は、半導体レーザからの出力光のスペクトルを表すグラフである。図8のグラフでは、横軸が波長(nm)を、縦軸が強度(a.u.)を表す。また、図8のグラフにおいて、実線で表されたグラフAがボリュームブラッググレーティングを備える場合を、点線で表されたグラフBがボリュームブラッググレーティングを備えない場合を示す。図8のグラフAとグラフBとを比較すると、グラフAの方がグラフBよりスペクトル幅が狭く、またピーク強度が高いことが理解される。したがって、ボリュームブラッググレーティングを備えることで、出力光のスペクトル幅を狭くし、さらにピーク強度を増大させることが可能となる。
【0066】
続いて、実施形態に係るアルカリレーザ装置の実施例について説明する。アルカリ封入セル10として、各端面10a、10bの直径(外径)が20mmのガラス製セルを用意した。第1及び第2の加熱部材11、12として、リングヒータを用いた。第1及び第2の加熱部材11、12を、貫通空間11A、12Aが伸びる方向での延設部11C、12Cの長さがそれぞれ20mm(各端面10a、10bの直径に対して1.0倍)となるようにアルカリ封入セル10に配置した。ここで、図9に実施例として使用した加熱部材11、12であるリングヒータの斜視図を示す。図9では、リングヒータの外表面の一部を切り欠いて示す。リングヒータ11(12)には、非発熱部15A(16A)及びアダプタ部15B、(16B)を有するリード15、16が形成されている。リングヒータ11(12)は、真鍮からなる円筒であり、さらに外表面はステンレススチールのカバーで覆われている。また、貫通空間11A(12A)の伸びる方向における両端部には、約1mmの非発熱部11D、11Eがそれぞれ設けられている。また、リングヒータ11(12)として、ワット密度の分割可能なヒータを用いた。リングヒータ11(12)内部には、電熱線ELが内壁に沿って配置されている。
【0067】
アルカリ封入セル10内に、He及びエタンの混合ガスとCs金属とを600Torrの圧力で封入した。He及びエタンの混合ガスは、バッファガスである。He及びエタンの混合ガスとCs金属とが封入されたアルカリ封入セル10を約120℃に加熱し、セル内にCs蒸気を発生させた。
【0068】
Cs原子の吸収スペクトルに合わせて、励起光出力装置2の半導体レーザアレイ21として波長852nmのレーザ光を出力する半導体レーザを用いた。半導体レーザアレイ21は、擬似CW動作で動作させた。
【0069】
こうして実施されたアルカリレーザ装置から出力されたレーザ光のスペクトルを図10に示す。図10のグラフにおいて、横軸が波長(nm)を表し、縦軸が強度(a.u.)を表す。また、図10のグラフは、半導体レーザアレイに流す電流を100Aとし、温度を30℃とし、1kHzでのDuty比を5%とした場合に得られるスペクトルである。レーザ光のスペクトルのピーク波長は895nmであり、Cs原子の励起状態E1(2P1/2)と基底状態E0(2S1/2)との間のエネルギー差に対応している。また、スペクトル幅Δλは、測定に用いたスペクトルアナライザーの分解能(0.10nm)以下と非常に狭い。
【0070】
図11に、半導体レーザアレイ21に流す電流とCsレーザのピークパワーとの関係を示すグラフである。図11のグラフより、半導体レーザアレイ21に流す電流が約90A以上において、1W以上のピークパワーを実現していることがわかる。ただし、光学系の最適化、励起光の狭スペクトル化、励起用半導体レーザの高出力化(例えば、半導体レーザアレイのスタック化等)、アルカリ封入セル内に封入するバッファガスの圧力の増大等により、アルカリレーザ装置のさらなる高出力化が可能になると考えられる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、実施例ではアルカリ金属としてCsを用いたが、本発明はCsに限らず他のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)を用いたアルカリレーザ装置に適用することも可能である。ただし、アルカリ金属の吸収スペクトルの波長と一致する波長の励起光を用いることが望ましい。
【0072】
また、アルカリ封入セル10内に封入するバッファガスBは、He及びエタンの混合ガスに限らず、例えばHeに代えて、Ar、Kr、Ne、あるいはXeを用いてもよい。また、アルカリ封入セル10内のガス封入圧も600Torrに限らず、例えば600Torr未満であっても、あるいは600Torrより大きくてもよい。特に、高圧でガスを封入する場合、アルカリ金属原子と励起光との吸収スペクトル幅が増大するので、吸収効率が増大される。
【0073】
アルカリ封入セル10の形状は、上記実施形態で示した形状に限らず、例えば三角柱状、あるいは四角柱状等であってもよい。したがって、アルカリ封入セル10の端面10a、10bの形状も円形に限らず、楕円状、三角形状、あるいは四角形状等であってもよい。また、第1及び第2の加熱部材11、12の形状も、上記実施形態で示した形状に限らず、例えば内部に貫通空間を有する三角柱状、あるいは内部に貫通空間を有する四角柱状等であってもよい。また、加熱部材11、12の形状は、上記実施形態及び実施例に記載された形状に限られない。
【0074】
また、アルカリ封入セル10及び加熱部材11、12の大きさは、上記実施例に記載された大きさに限られない。
【0075】
また、アルカリ封入セル10は、励起光が入射する面及び出射する面が励起光を透過し且つレーザ光が入射する面及び出射する面がレーザ光を透過すれば、ガラス製に限らず、例えば金属等からなっていてもよい。特に、アルカリ封入セル10内の圧力が大気圧よりも高い場合には、金属等の堅牢な材料からなるセルを用いることが好適である。
【0076】
また、実施形態では偏光ビームスプリッタ5により励起光l1とレーザ光l2とを分離してレーザ光l2を取り出しているが、レーザ光l2の出射方向はこれに限らず、様々な方向が考えられる。
【0077】
また、励起光出力装置2の構成は実施形態の構成に限定されず、例えば半導体レーザアレイ21、FACレンズ22、ビーム回転レンズ23、ボリュームブラッググレーティング24、及びSACレンズ25をすべて備えていなくてもよい。また、半導体レーザはアレイに限らず、例えば1つの半導体レーザを搭載した半導体レーザチップ、あるいは半導体レーザチップを一列に配置した半導体レーザバー、あるいは半導体レーザバーを複数積層させた半導体レーザスタック等であってもよい。
【0078】
あるいは、アルカリレーザ装置1は、半導体レーザからの出力光ではなく、例えばチタンサファイアレーザからの出力光を励起光として用いてもよい。チタンサファイアレーザは、波長可変可能で且つスペクトル幅の非常に狭いレーザ光を出力することができるため、励起光の波長とアルカリ金属原子の吸収スペクトルの波長とを一致させるのが容易である点で好適である。一方、半導体レーザは、チタンサファイアレーザに比べて装置を小型化でき、また安価である点で好適である。
【0079】
また、アルカリレーザ装置1には、アルカリ封入セル10と第1及び第2の加熱部材11、12との間に嵌め込まれるスペーサ13、14が備えられていなくてもよい。
【0080】
また、各加熱部材11、13の延設部11C、12Cの、貫通空間11A、12Aが伸びる方向における長さh1、h2はそれぞれ、アルカリ封入セル10の対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍未満、あるいは1.5倍より大きくてもよい。
【0081】
また、アルカリレーザ装置1は、λ/2波長板3を有していなくてもよい。ただし、偏光ビームスプリッタ5を用いて励起光l1とレーザ光l2とを分離する場合には、λ/2波長板3は励起光l1の偏光性を高めるため有効である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セルの斜視図である。
【図2】実施形態に係るアルカリ封入セルの斜視図である。
【図3】図1の加熱部材付きアルカリ封入セルのIII-III矢印断面図である。
【図4】実施形態に係るアルカリレーザ装置の構成図である。
【図5】図4に示したアルカリレーザ装置に用いられる励起光出力装置の構成図である。
【図6】実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セル内の温度分布を説明するための図である。
【図7】アルカリ封入セルの端面における温度分布を表す図である。
【図8】半導体レーザからの出力光のスペクトルを表すグラフである。
【図9】実施例として使用したリングヒータの斜視図である。
【図10】実施例のアルカリレーザ装置の出力レーザ光のスペクトルを表すグラフである。
【図11】励起用半導体レーザアレイに流す電流とCsレーザのピークパワーとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0084】
1…アルカリレーザ装置、2…励起光出力装置、3…1/2波長板、4…集光光学系、5…偏光ビームスプリッタ、6…ミラー、7…出力カプラ、21…半導体レーザアレイ、22…FACレンズ、23…ビーム回転レンズ、24…ボリュームブラッググレーティング、25…SACレンズ、10…アルカリ封入セル、11…第1の加熱部材、12…第2の加熱部材、13、14…スペーサ、15、16…リード。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光による溶接や切断などのレーザ加工分野において、高効率で、小型で、且つ安価な高出力、高ビーム品質なレーザが要求されている。そこで、例えば半導体レーザダイオードアレイをスタックして得られる高出力なレーザ光をレンズ等で集光して利用することが知られている。あるいは、例えば半導体レーザによって励起する固体レーザからの高出力レーザ光を利用することも知られている。
【0003】
しかし、半導体レーザダイオードアレイから出力されるレーザ光は、そのスペクトル幅が広がってしまい、またビーム品質も従来のランプ励起Nd:YAGレーザ及びCO2レーザの何れと比較しても劣るという問題を有している。また、固体レーザでは、レーザ媒質が固体であるため熱あるいは熱の不均一性に起因して、屈折率分布が生じてしまう、あるいは媒質に歪みが生じてしまう等といった問題を発生してしまう。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、アルカリ金属蒸気レーザ(以下、単にアルカリレーザという)が検討されている(例えば、特許文献1、非特許文献1〜4を参照)。アルカリレーザでは、アルカリ金属とバッファガスとを封入したアルカリ封入セルを加熱部材で昇温してセル内にアルカリ金属蒸気を発生させ、これをレーザ媒質とする。アルカリ蒸気レーザは、固体レーザと比較して媒質における熱の発生が少ないため、熱に起因する問題を抑制することができる。
【特許文献1】米国特許第6643311号明細書
【非特許文献1】W. F. Klupke et al., Optics Letters, Vol.28, 2336 (2003)
【非特許文献2】W. F. Klupke et al., Proc. SPIE, 5448 (2004)
【非特許文献3】R. J. Beach et al., Advanced Solid-State Photonics WC4 (2004)
【非特許文献4】R. J. Beach et al., J. Opt. Soc. Am B 21, 2151 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1〜4に記載のアルカリレーザでは、アルカリ封入セルを加熱し内部に封入されたアルカリ金属を昇温するために、アルカリ封入セル全体を覆うオーブンを用意する、あるいはアルカリ金属を貯えておくリザーバーをアルカリ封入セルに対して設置するといったことが必要となる。そのため、装置の構成が非常に複雑になってしまっていた。
【0006】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、本願発明者は、アルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置について鋭意研究を重ねたところ、以下のような事実を見出すに至った。すなわち、アルカリ金属が封入されたセルの励起光が入射する端面及びレーザ光が出射する端面にアルカリ金属が析出してしまった場合、析出したアルカリ金属は励起光を直接吸収してしまう。これにより、端面は加熱され、破損してしまうおそれがあるという新たな事実を見出した。そこで、本願発明者は、簡便な構成であって、しかも端面にアルカリ金属が析出することが抑制されたアルカリ封入セルについて鋭意研究を重ね、本願発明に想到した。
【0008】
このような研究結果を踏まえ、本発明によるアルカリレーザ装置用セルは、内部にアルカリ金属蒸気を封入したアルカリ封入セルを加熱する第1及び第2の加熱部材を備えた加熱部材付きアルカリ封入セルであって、アルカリ封入セルは、互いに対向し且つアルカリ金属蒸気を励起する励起光及び励起されたアルカリ金属蒸気から出力されるレーザ光を透過する第1及び第2の端面と、当該両端面を連結する側面とを有し、第1及び第2の加熱部材にはそれぞれ、一方の端部から他方の端部まで伸びる貫通空間が形成され、第1の加熱部材は、その一部の貫通空間内にアルカリ封入セルの第1の端面側の一部が挿入され、残りが第1の端面に対し第2の端面とは反対側に向かって伸びるように配置され、第2の加熱部材は、第1及び第2の端面の対向方向に所定の間隔で第1の加熱部材とは離間しているとともに、当該第2の加熱部材の一部の貫通空間内にアルカリ封入セルの第2の端面側の一部が挿入され、残りが第2の端面に対し第1の端面とは反対側に向かって伸びるように配置されていることを特徴とする。
【0009】
上記の加熱部材付きアルカリ封入セルは、貫通空間が形成された加熱部材に対し、当該貫通空間の一部にセルの一部を挿入しただけの構成である。したがって、簡便な構成でアルカリ封入セルを加熱することが可能である。また、上記の加熱部材付きアルカリ封入セルでは、第1及び第2の加熱部材はそれぞれアルカリ封入セルの一部のみを貫通空間内に挿入させ、且つ、セルの第1及び第2の端面の対向方向に所定の間隔で離間して配置されている。そのため、セルは端面から離れた部分に、加熱部材に覆われていない部分を有する。したがって、加熱部材に覆われていない部分の温度が端面での温度よりも低くなるようセルに加える熱を容易に制御することができ、上記のアルカリ封入セルでは端面にアルカリ金属が析出することを抑制することが可能となる。また、各加熱部材は、内部の貫通空間にアルカリ封入セルを挿入しておらず且つアルカリ封入セルの端面から離れるように伸びる部分を有する。各端面には、これらの部分から発せられる熱がさらに加えられるため、端面にアルカリ金属が析出することをより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0010】
また、熱伝導性及び弾性を有し、貫通空間を画成する各加熱部材の内壁とアルカリ封入セルの側面との間隙に嵌め込まれるスペーサを一対さらに備えることが好ましい。アルカリ封入セルと加熱部材との間隙に嵌め込まれるスペーサは弾性を有するため、セル、スペーサ、及び加熱部材の間での密着性が向上する。こうして熱伝導性を有するスペーサにより三者間での密着性を高めることで、加熱部材によって効率良くアルカリ封入セルを加熱することが可能となる。
【0011】
アルカリ封入セルの各端面に対して熱を加える一対の端面加熱部材をさらに備えることが好ましい。この場合、端面において、より一層均一な温度分布が可能となる。
【0012】
第1及び第2の端面は何れも円形であり、第1の加熱部材の残りの貫通空間が伸びる方向における長さは、第1の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であり、第2の加熱部材の残りの貫通空間が伸びる方向における長さは、第2の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。この場合、アルカリ封入セルのアルカリ金属蒸気に照射する励起光を加熱部材が遮ることが抑制され、各端面を全面に渡って好適に加熱することが可能となる。
【0013】
また、本発明によるアルカリレーザ装置は、アルカリ封入セル内にアルカリ金属蒸気が封入された上記の加熱部材付きアルカリ封入セルを共振光路上に有する共振器と、アルカリ金属蒸気に照射する励起光を出力する励起光出力装置と、備えることを特徴とする。
【0014】
上記の加熱部材付きアルカリ封入セルでは、簡便な構成でアルカリ封入セルを加熱することが可能である。また、アルカリレーザ装置は、アルカリ金属蒸気をレーザ媒質とするため、固体レーザに比べて熱の発生が少なく、熱に起因する問題の発生を抑制することができる。したがって、上記アルカリレーザ装置では、熱による問題の発生を抑制しつつ、高出力で小型のレーザ装置を実現することが可能となる。
【0015】
この場合、励起光出力装置は、半導体レーザからなる光源と、光源から出力された光を集光する集光光学系と、集光光学系で集光された光を回転させる回転光学系と、回転光学系によって回転された光の波長スペクトルの幅を狭くするボリュームブラッググレーティングと、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1〜図3を参照して、本実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セル10の構成を説明する。図1は、実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セルの斜視図である。図2は、実施形態に係るアルカリ封入セルの斜視図である。図3は、図1の加熱部材付きアルカリ封入セルのIII-III矢印断面図である。
【0019】
アルカリ封入セル10は、その内部にアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等)及びバッファガス(例えば、He、Ar、Kr、Ne、Xe等)Bを所定の圧力で封入している。アルカリ封入セル10には、当該セル10を加熱する第1及び第2の加熱部材11、12、並びにアルカリ封入セル10と第1及び第2の加熱部材11、12との間に嵌め込まれる一対のスペーサ13、14が備えつけられてる。これらの加熱部材11、12が加熱してセル10を所定の温度に昇温することにより、アルカリ封入セル10内の例えば固体のアルカリ金属からアルカリ金属蒸気Gを発生する。これにより、アルカリ封入セル10内にはアルカリ金属蒸気Gが封入されることとなる。
【0020】
アルカリ封入セル10は、例えばガラス製の密閉容器である。アルカリ封入セル10は、互いに対向する円形の第1及び第2の端面10a、10b、並びにこれらの両端面10a、10bを連結する側面10cを有する。なお、アルカリ封入セル10の一部(例えば、側面10c等)には、アルカリ金属及びバッファガスをセル内に導入するための突起部(図示は省略)が形成されていてもよい。
【0021】
第1及び第2の加熱部材11、12にはそれぞれ、一方の端部から他方の端部まで伸びる貫通空間11A、12Aが形成されている。第1及び第2の加熱部材11、12は、例えばオーブンであり、それぞれ独立して温度制御をすることができる。第1及び第2の加熱部材11、12では、図示していない温度コントローラによって、セル10を加熱する温度がそれぞれ独立に制御される。なお、第1及び第2の加熱部材11、12を駆動するための電源等(図示は省略)には、リード15、16を介して接続される。また、加熱部材11、12の内壁には、例えば熱電対等(図示は省略)が配置されている。
【0022】
第1の加熱部材11は、被覆部11B及び延設部11Cを有する。第1の加熱部材11の一部である被覆部11Bの貫通空間11A内には、アルカリ封入セル10の第1の端面10a側の一部が挿入されている。第1の加熱部材11の被覆部11B以外の残りの部分である延設部11Cの貫通空間11Aは、第2の端面10bとは反対側に向かって、第1の端面10aの位置から伸びている。
【0023】
第1の加熱部材11の延設部11Cの、貫通空間11Aが伸びる方向における長さh1は、第1の端面10aの直径(外径)d1に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。
【0024】
第2の加熱部材12は、被覆部12B及び延設部12Cを有する。第2の加熱部材12の一部である被覆部12Bの貫通空間12A内には、アルカリ封入セル10の第2の端面10b側の一部が挿入されている。第2の加熱部材12の被覆部12B以外の残りの部分である延設部12Cの貫通空間12Aは、第1の端面10aとは反対側に向かって、第2の端面10bの位置から伸びている。
【0025】
第2の加熱部材12の延設部12Cの、貫通空間12Aが伸びる方向における長さh2は、第2の端面10bの直径(外径)d2に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。
【0026】
第1及び第2の加熱部材12、13は、アルカリ封入セル10の第1及び第2の端面10a、10bの対向方向に間隔d0で離間して配置されている。
【0027】
スペーサ13、14は、熱伝導性及び弾性を有する。スペーサ13、14は、アルカリ封入セル10より熱伝導性が高いことが好ましい。スペーサ13は、第1の加熱部材11の貫通空間11Aを画成する第1の加熱部材11の内壁とアルカリ封入セル10の側面10cとの間隙に嵌め込まれる。スペーサ14は、第2の加熱部材12の貫通空間12Aを画成する第2の加熱部材12の内壁とアルカリ封入セル10の側面10cとの間隙に嵌め込まれる。スペーサ13、14は、例えばグラファイトからなる。
【0028】
なお、加熱部材付きアルカリ封入セル10は、各端面10a、10bに対して熱を加える一対の端面加熱部材(図示は省略)をさらに備えていてもよい。この場合、端面加熱部材として、例えばヒートガン等を用いる。
【0029】
続いて、図4及び図5を参照して、加熱部材付きアルカリ封入セル10を備えたアルカリレーザ装置1の実施形態を説明する。図4は、アルカリレーザ装置の実施形態の構成図である。図5は、図4に示したアルカリレーザ装置に用いられる励起光出力装置の構成図である。アルカリレーザ装置1では、励起光l1をアルカリ封入セル10内のアルカリ金属蒸気Gに照射して、レーザ光l2を出力している。なお、光線については、励起光l1及びレーザ光l2を一点鎖線で示している。
【0030】
アルカリレーザ装置1は、励起光出力装置2と、1/2波長板3と、集光光学系4と、偏光ビームスプリッタ5と、加熱部材付きアルカリ封入セル10と、ミラー6と、出力カプラ7とを備える。励起光出力装置2は、アルカリ封入セル10内に封入されたアルカリ金属蒸気Gに照射する励起光l1を出力する。励起光出力装置2から出力される励起光l1として、アルカリ封入セル10内のアルカリ金属原子の吸収スペクトルと波長が略一致する励起光が用いられる。
【0031】
1/2波長板3は、励起光l1の偏光を90°回転する。集光光学系4は、2つの集光レンズ41、42を有する。集光レンズ41は、入射した励起光l1を図4の紙面と垂直な方向に関して収束させる。集光レンズ42は、入射した励起光l1を図4の紙面と平行な面において励起光l1の光軸と垂直な方向に関してを収束させる。
【0032】
偏光ビームスプリッタ5は、励起光l1とレーザ光l2とを分離する。すなわち、偏光ビームスプリッタ5は、励起光l1を透過し、レーザ光l2を反射する。
【0033】
ミラー6と出力カプラ7とが、共振器を構成する。加熱部材付きアルカリ封入セル10は、ミラー6及び出力カプラ7によって構成される共振器の共振光路上に位置する。すなわち、ミラー6は、加熱部材付きアルカリ封入セル10の第2の端面10b側に位置する。出力カプラ7は、偏光ビームスプリッタ5によって反射されたレーザ光l2の光路上に位置する。
【0034】
図5に、励起光出力装置2の詳細な構成が示されている。励起光出力装置2は、図5に示されるように、アルカリレーザ装置1の励起光l1であるレーザ光を出力する半導体レーザアレイ21と、FAC(Fast Axis Collimator、速軸用コリメータ)レンズ22と、ビーム回転レンズ(回転光学系)23と、ボリュームブラッググレーティング(Volume Bragg Grating)24と、SAC(Slow Axis Collimator、速軸用コリメータ)レンズ25とを備えている。
【0035】
半導体レーザアレイ21は、半導体レーザチップを例えば1cm幅のバー状に一次元に配置したものである。ただし、図5は、半導体レーザアレイ21のうちの1つの半導体レーザチップのみを代表して図示する。半導体レーザアレイ21は、光軸Axに沿って、励起光l1であるレーザ光を出力する。FACレンズ22は、上下左右に拡散するレーザ光(励起光l1)を、速軸方向において平行光に変換するものである。速軸方向は、図5においては上下方向、すなわち図5の紙面において光軸Axと直交する方向に相当する。
【0036】
ビーム回転レンズ23は、ビームを90°回転させるものである。ボリュームブラッググレーティング24は、半導体レーザアレイ21から出力された光の波長を狭帯域化させる素子である。
【0037】
SACレンズ25は、ビーム回転レンズ23によって90°回転したレーザ光(励起光l1)を遅軸方向において平行光に変換するものである。遅軸方向は、ビームがビーム回転レンズ23によって90°回転されているため、図5において上下方向に相当する。したがって、FACレンズ22及びSACレンズ25は、集光光学系を構成する。
【0038】
次に、アルカリレーザ装置1の動作について説明する。まず、アルカリ封入セル10内にアルカリ金属とバッファガスBとを封入する。アルカリ封入セル10を加熱部材11、12によって所定の温度に昇温し、セル内にアルカリ金属蒸気Gを発生させる。
【0039】
半導体レーザアレイ21から出力されたレーザ光である励起光l1は、FACレンズ22、ビーム回転レンズ23、ボリュームブラッググレーティング24、及びSACレンズ25を通過する。これにより、励起光l1は、励起光出力装置2から略平行光として出力される。
【0040】
励起光l1はさらに、1/2波長板3及び集光光学系4を通過する。さらに、励起光l1は偏光ビームスプリッタ5を透過する。偏光ビームスプリッタ5は、所定の方向に偏光する励起光l1を透過させる。
【0041】
偏光ビームスプリッタ5を透過した励起光l1は、アルカリ封入セル10の第1の端面10aに入射する。アルカリセ封入セル10内に入射した励起光l1は、セル10内のアルカリ金属蒸気Gに吸収される。アルカリセ封入セル10内に封入されているバッファガスBは、アルカリ金属Gの励起光の吸収スペクトルの幅を増加させる。励起光l1を吸収することにより、アルカリ金属蒸気Gは励起状態になる。
【0042】
アルカリ金属蒸気Gに吸収されなかった励起光l1は、アルカリ封入セル10の第2の端面10bから出射し、ミラー6で反射する。ミラー6で反射した励起光l1は、再びアルカリ封入セル10の第2の端面10bに入射する。アルカリ封入セル10内に再び入射した励起光l1は、セル10内のアルカリ金属蒸気Gに吸収される。アルカリ金属蒸気Gに吸収されたなかった励起光l1は、アルカリ封入セル10の第1の端面10aから出射する。
【0043】
励起光l1を吸収することでアルカリ封入セル10内のアルカリ金属蒸気Gはレーザ発振に必要な反転分布状態となり、特定の波長の光を誘導放出する。具体的には、励起光l1をアルカリ金属原子が吸収することで、アルカリ金属原子は基底状態E0(2S1/2)から励起状態E2(2P3/2)に励起される。励起されたアルカリ金属原子は、続いて励起状態E1(2P1/2)に緩和され、最終的には励起状態E1(2P1/2)から基底状態E0(2S1/2)へと遷移する。遷移の際、誘導放出光が発生し、後述のようにレーザ発振に至る。
【0044】
こうして誘導放出された光がアルカリ封入セル10内を伝搬する間、誘導放出が生じ、光が増幅される。増幅された光は、ミラー6及び出力カプラ7によって共振され、レーザ光l2として出力カプラ7から出射する。
【0045】
加熱部材付きアルカリ封入セル10は、貫通空間11A、12Aが形成された加熱部材11、12に対し、被覆部11B、11Cの貫通空間11A、12Aにセル10の一部を挿入しただけの構成である。したがって、例えばオーブンによってアルカリ封入セル全体を覆う場合に比べ、簡便な構成でアルカリ封入セル10を加熱することが可能である。
【0046】
また、簡便な構成でアルカリ封入セル10を加熱することができるため、例えばリザーバーを用いる場合のように複雑な形状のセルを用いる場合に比べて、容易に且つ精密にアルカリ封入セル10の温度制御を行うことが可能となる。
【0047】
また、第1及び第2の加熱部材11、12はそれぞれ、アルカリ封入セル10の一部のみを貫通空間内に挿入させている。さらに、第1及び第2の加熱部材11、12はアルカリ封入セル10の第1及び第2の端面10a、10bの対向方向に間隔d0で離間して配置されている。そのため、アルカリ封入セル10は第1及び第2の端面10a、10bの双方から離れた中央部分に、加熱部材11、12に覆われていない部分を有する。したがって、アルカリ封入セル10において、加熱部材11、12に覆われていない部分、すなわちアルカリ封入セル10の長手方向における中央部分の温度が端面10a、10b近傍での温度よりも低くなるよう、容易に第1及び第2の加熱部材11、12を制御することができる。
【0048】
アルカリ封入セル10内の温度分布を図6に示す。図6は、第1及び第2の加熱部材11、12を制御することによって得られるアルカリ封入セル10内の温度分布を、アルカリ封入セル10と対応させて説明するための図である。図6(a)は、アルカリ封入セル10内の温度分布を表すグラフであり、図6(b)はアルカリ封入セルの断面図である。図6(a)のグラフの横軸はアルカリ封入セル10の長手方向での位置を表し、図6(a)のグラフの縦軸は各位置での温度tを表す。図6に示されているように、第1及び第2の加熱部材11、12付きのアルカリ封入セル10では、第1及び第2の加熱部材11、12が間隔d0だけ離れて配置されているため、端面10a、10b近傍での温度t2が長手方向の中央部分付近での温度t1よりも高くなるように制御することが可能である。
【0049】
アルカリ封入セル10内には、通常、所定の温度でアルカリ金属の飽和蒸気を発生させるために必要な量以上のアルカリ金属が充填されている。したがって、所定の温度で過剰となったアルカリ金属はアルカリ封入セル10内の温度の低い部分に固体として析出することになる。そのため、第1の端面10a又は第2の端面10b近傍の温度が中央部分付近の温度よりも低い場合、アルカリ金属は第1の端面10a又は第2の端面10bに固体として析出してしまう。析出したアルカリ金属の固体は、励起光l1を吸収して熱を発生するため、アルカリ金属が析出した端面10a、10bが破損してしまうおそれがある。特に、アルカリ金属は他の金属と比べて蒸気圧が高いため、温度の低いところに固体化したアルカリ金属が集中して付着しやすく、温度制御の問題は重要である。また、アルカリレーザ装置1の出力を大きくすべく、励起光出力装置2の出力を大きくした場合には、析出したアルカリ金属が励起光l1を吸収して発生する熱がより一層増大するため、析出したアルカリ金属が端面を加熱する温度がより一層上昇し、端面破損のおそれが大きくなってしまう。
【0050】
こうした問題に対し、従来のようにアルカリ封入セル全体をオーブンで覆うことによってセルを加熱する場合、励起光の入射面及び出射面(第1及び第2の端面10a、10bに対応)だけを除いて覆っている。さらに、従来においては、アルカリ封入セル10の温度分布、すなわち励起光の入射面及び出射面(第1及び第2の端面10a、10b)と中央部分との間の温度差を小さくすることについては何ら検討されていない。そのため、従来のアルカリ封入セル全体をオーブンで覆ったものでは、励起光の入射面及び出射面(第1及び第2の端面10a、10b)にアルカリ金属が析出してしまい、アルカリ封入セル10が破損してしまうおそれがある。
【0051】
一方、本実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セル10では、容易に端面10a、10b近傍で温度が長手方向の中央部分付近での温度よりも高くなるように第1及び第2の加熱部材11、12のセル10への加熱を制御することができるため、アルカリ封入セル10の破損の発生を抑制することが可能となる。
【0052】
また、端面10a、10bにアルカリ金属が析出してしまうことが好適に抑制されることにより、アルカリレーザ装置1では安定した動作が可能となる。
【0053】
また、第1及び第2の加熱部材11、12の間隔d0を変えることによってアルカリ封入セル10の長手方向(第1及び第2の端面10a、10bの対向方向)の温度分布を制御することが可能となる。
【0054】
各端面10a、10b上での温度分布を考えると、加熱部材11、12からの距離が遠い中心部と加熱部材11、12からの距離が近い周辺部とでは、温度差が存在すると考えられる。特に、第1及び第2の加熱部材11、12がそれぞれ被覆部11B、12Bしか有さず延設部11C、12Cを有さないとすると、距離の差によって生じる温度差がそのまま存在してしまうため、各端面10a、10bの中心部の温度は周辺部の温度に比べ低くなってしまう。通常、励起光l1は各端面10a、10bの中心部付近から入射又は出射される。そのため、各端面10a、10bの中心部にアルカリ金属が析出してしまうと、そこに励起光l1を照射することになってしまう。析出されたアルカリ金属は励起光l1を吸収して発熱するため、この場合端面10a、10bを破損してしまうおそれが増大される。
【0055】
そこで、本実施形態に係る第1及び第2の加熱部材11、12付きのアルカリ封入セル10を考えると、第1及び第2の加熱部材11、12は何れも、内部の貫通空間11A、12Aにアルカリ封入セル10を挿入しておらず、且つアルカリ封入セル10の端面10a、10bから離れるように伸びる、すなわちアルカリ封入セル10の端面10a、10bから突出するように伸びる延設部11C、12Cを有する。アルカリ封入セル10の各端面10a、10bには、これらの延設部11C、12Cから発せられる熱がさらに加えられる。これにより、各端面10a、10bにおいて中心部と周辺部との温度差を小さくすることが可能となる。その結果、第1及び第2の端面10a、10bにアルカリ金属が析出することをより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0056】
特に、各端面10a、10bに対して熱を加える端面加熱部材(例えばヒートガン等)を用いて各端面10a、10bの中心部を加熱することが好ましい。この場合、各端面10a、10bは、より一層均一に温度分布することが可能となる。
【0057】
図7は、アルカリ封入セル10の端面10a、10bにおける温度分布を色の濃淡で表す図である。すなわち、色が濃い(黒い)ほど温度が高いことを表し、薄い(白い)ほど温度が低いことを表す。図7(a)は各加熱部材が延設部を有さない場合の温度分布を、図7(b)は加熱部材が延設部を有する場合の温度分布を表す。図7(a)に示されるように、各加熱部材11、12が延設部11C、12Cを有さない場合、端面10a、10bでは周辺部の温度に比べ中心部の温度が低くなってしまう。一方、図7(b)に示されるように、各加熱部材11、12が延設部11C、12Cを有する場合、各端面10a、10bでは中心部と周辺部とで温度が均一に分布する。
【0058】
また、アルカリ封入セル10と各加熱部材11、12との間隙にそれぞれ、熱伝導性を有するスペーサ13、14が嵌め込まれている。これらのスペーサ13、14は弾性を有するため、セル10、及び加熱部材11、12の間隙に密着して嵌め込まれる。こうして熱伝導性を有するスペーサ13、14により、アルカリ封入セル10、スペーサ13、14、及び加熱部材11、12間での密着性が高められることにより、加熱部材11、12によって効率良くアルカリ封入セル10を加熱することが可能となる。また、スペーサ13、14によって、三者間が密着することにより、各端面10a、10bの温度をより一層均一に分布することが可能となる。
【0059】
各加熱部材11、13の延設部11C、12Cの、貫通空間11A、12Aが伸びる方向における長さh1、h2はそれぞれ、アルカリ封入セル10の対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることが好ましい。すなわち、延設部11C、12Cの長さh1、h2がそれぞれ、対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍未満の場合、各端面10a、10bの中心部の温度が周辺部の温度に比べ著しく低くなってしまうおそれがある。一方、延設部11C、12Cの長さh1、h2がそれぞれ、対応する端面10a、10bの直径d1、d2の1.5倍より大きい場合、アルカリ封入セル10内のアルカリ金属蒸気Gに照射する励起光l1が加熱部材11、12によって遮られてしまうおそれがある。したがって、延設部11C、12Cの長さh1、h2がそれぞれ、アルカリ封入セル10の対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下である場合、セル内10のアルカリ金属蒸気Gに照射する励起光l1を加熱部材11、12が遮ることを抑制しつつ、各端面10a、10bを全面に渡って好適に加熱することが可能となる。
【0060】
また、アルカリレーザ装置は、アルカリ金属蒸気をレーザ媒質とするため固体レーザに比べて熱の発生が少なく、熱に起因する問題の発生を抑制することが可能である。したがって、本実施形態に係るアルカリレーザ装置1によれば、熱による問題の発生を抑制しつつ、高出力で小型のレーザ装置を実現することが可能となる。
【0061】
なお、アルカリレーザ装置1において熱の発生が少なく抑えられる原因は以下のように考えられる。すなわち、以下の式(1)で表されるアルカリレーザ装置のレーザ効率ηを検討すると、アルカリレーザ装置は高いレーザ効率を示すことができる。
η=E1/E2 …(1)
E1、E2:アルカリ金属の励起状態
【0062】
例えば、Cs金属をアルカリ封入セル10に封入して用いたCsレーザ装置の場合、レーザ効率ηは約95%を示す。あるいは、例えばRb金属をアルカリ封入セル10に封入して用いたRbレーザ装置の場合、レーザ効率ηは約98%を示す。このように、アルカリレーザ装置1は、一般に非常に高いレーザ効率を示す。また、レーザ効率が高いことから、アルカリレーザ装置1では、熱の発生が抑制されるものと考えられる。
【0063】
以上述べたように、加熱部材11、12付きアルカリ封入セル10を備えるアルカリレーザ装置1は、小型で且つ安価で且つ高出力且つ高ビーム品質のレーザ装置を実現することが可能である。したがって、アルカリレーザ装置1は、例えばレーザ加工分野を中心とした産業界において広く好適に利用可能である。
【0064】
また、本実施形態では、励起光出力装置2がボリュームブラッググレーティング24を備えている。そのため、励起光出力装置2は、スペクトル幅が狭く、またピーク強度が大きい励起光l1を出力することができる。アルカリ金属の吸収スペクトルの幅は非常に狭いため、スペクトル幅の狭い光は励起光として好適である。
【0065】
図8は、半導体レーザからの出力光のスペクトルを表すグラフである。図8のグラフでは、横軸が波長(nm)を、縦軸が強度(a.u.)を表す。また、図8のグラフにおいて、実線で表されたグラフAがボリュームブラッググレーティングを備える場合を、点線で表されたグラフBがボリュームブラッググレーティングを備えない場合を示す。図8のグラフAとグラフBとを比較すると、グラフAの方がグラフBよりスペクトル幅が狭く、またピーク強度が高いことが理解される。したがって、ボリュームブラッググレーティングを備えることで、出力光のスペクトル幅を狭くし、さらにピーク強度を増大させることが可能となる。
【0066】
続いて、実施形態に係るアルカリレーザ装置の実施例について説明する。アルカリ封入セル10として、各端面10a、10bの直径(外径)が20mmのガラス製セルを用意した。第1及び第2の加熱部材11、12として、リングヒータを用いた。第1及び第2の加熱部材11、12を、貫通空間11A、12Aが伸びる方向での延設部11C、12Cの長さがそれぞれ20mm(各端面10a、10bの直径に対して1.0倍)となるようにアルカリ封入セル10に配置した。ここで、図9に実施例として使用した加熱部材11、12であるリングヒータの斜視図を示す。図9では、リングヒータの外表面の一部を切り欠いて示す。リングヒータ11(12)には、非発熱部15A(16A)及びアダプタ部15B、(16B)を有するリード15、16が形成されている。リングヒータ11(12)は、真鍮からなる円筒であり、さらに外表面はステンレススチールのカバーで覆われている。また、貫通空間11A(12A)の伸びる方向における両端部には、約1mmの非発熱部11D、11Eがそれぞれ設けられている。また、リングヒータ11(12)として、ワット密度の分割可能なヒータを用いた。リングヒータ11(12)内部には、電熱線ELが内壁に沿って配置されている。
【0067】
アルカリ封入セル10内に、He及びエタンの混合ガスとCs金属とを600Torrの圧力で封入した。He及びエタンの混合ガスは、バッファガスである。He及びエタンの混合ガスとCs金属とが封入されたアルカリ封入セル10を約120℃に加熱し、セル内にCs蒸気を発生させた。
【0068】
Cs原子の吸収スペクトルに合わせて、励起光出力装置2の半導体レーザアレイ21として波長852nmのレーザ光を出力する半導体レーザを用いた。半導体レーザアレイ21は、擬似CW動作で動作させた。
【0069】
こうして実施されたアルカリレーザ装置から出力されたレーザ光のスペクトルを図10に示す。図10のグラフにおいて、横軸が波長(nm)を表し、縦軸が強度(a.u.)を表す。また、図10のグラフは、半導体レーザアレイに流す電流を100Aとし、温度を30℃とし、1kHzでのDuty比を5%とした場合に得られるスペクトルである。レーザ光のスペクトルのピーク波長は895nmであり、Cs原子の励起状態E1(2P1/2)と基底状態E0(2S1/2)との間のエネルギー差に対応している。また、スペクトル幅Δλは、測定に用いたスペクトルアナライザーの分解能(0.10nm)以下と非常に狭い。
【0070】
図11に、半導体レーザアレイ21に流す電流とCsレーザのピークパワーとの関係を示すグラフである。図11のグラフより、半導体レーザアレイ21に流す電流が約90A以上において、1W以上のピークパワーを実現していることがわかる。ただし、光学系の最適化、励起光の狭スペクトル化、励起用半導体レーザの高出力化(例えば、半導体レーザアレイのスタック化等)、アルカリ封入セル内に封入するバッファガスの圧力の増大等により、アルカリレーザ装置のさらなる高出力化が可能になると考えられる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、実施例ではアルカリ金属としてCsを用いたが、本発明はCsに限らず他のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)を用いたアルカリレーザ装置に適用することも可能である。ただし、アルカリ金属の吸収スペクトルの波長と一致する波長の励起光を用いることが望ましい。
【0072】
また、アルカリ封入セル10内に封入するバッファガスBは、He及びエタンの混合ガスに限らず、例えばHeに代えて、Ar、Kr、Ne、あるいはXeを用いてもよい。また、アルカリ封入セル10内のガス封入圧も600Torrに限らず、例えば600Torr未満であっても、あるいは600Torrより大きくてもよい。特に、高圧でガスを封入する場合、アルカリ金属原子と励起光との吸収スペクトル幅が増大するので、吸収効率が増大される。
【0073】
アルカリ封入セル10の形状は、上記実施形態で示した形状に限らず、例えば三角柱状、あるいは四角柱状等であってもよい。したがって、アルカリ封入セル10の端面10a、10bの形状も円形に限らず、楕円状、三角形状、あるいは四角形状等であってもよい。また、第1及び第2の加熱部材11、12の形状も、上記実施形態で示した形状に限らず、例えば内部に貫通空間を有する三角柱状、あるいは内部に貫通空間を有する四角柱状等であってもよい。また、加熱部材11、12の形状は、上記実施形態及び実施例に記載された形状に限られない。
【0074】
また、アルカリ封入セル10及び加熱部材11、12の大きさは、上記実施例に記載された大きさに限られない。
【0075】
また、アルカリ封入セル10は、励起光が入射する面及び出射する面が励起光を透過し且つレーザ光が入射する面及び出射する面がレーザ光を透過すれば、ガラス製に限らず、例えば金属等からなっていてもよい。特に、アルカリ封入セル10内の圧力が大気圧よりも高い場合には、金属等の堅牢な材料からなるセルを用いることが好適である。
【0076】
また、実施形態では偏光ビームスプリッタ5により励起光l1とレーザ光l2とを分離してレーザ光l2を取り出しているが、レーザ光l2の出射方向はこれに限らず、様々な方向が考えられる。
【0077】
また、励起光出力装置2の構成は実施形態の構成に限定されず、例えば半導体レーザアレイ21、FACレンズ22、ビーム回転レンズ23、ボリュームブラッググレーティング24、及びSACレンズ25をすべて備えていなくてもよい。また、半導体レーザはアレイに限らず、例えば1つの半導体レーザを搭載した半導体レーザチップ、あるいは半導体レーザチップを一列に配置した半導体レーザバー、あるいは半導体レーザバーを複数積層させた半導体レーザスタック等であってもよい。
【0078】
あるいは、アルカリレーザ装置1は、半導体レーザからの出力光ではなく、例えばチタンサファイアレーザからの出力光を励起光として用いてもよい。チタンサファイアレーザは、波長可変可能で且つスペクトル幅の非常に狭いレーザ光を出力することができるため、励起光の波長とアルカリ金属原子の吸収スペクトルの波長とを一致させるのが容易である点で好適である。一方、半導体レーザは、チタンサファイアレーザに比べて装置を小型化でき、また安価である点で好適である。
【0079】
また、アルカリレーザ装置1には、アルカリ封入セル10と第1及び第2の加熱部材11、12との間に嵌め込まれるスペーサ13、14が備えられていなくてもよい。
【0080】
また、各加熱部材11、13の延設部11C、12Cの、貫通空間11A、12Aが伸びる方向における長さh1、h2はそれぞれ、アルカリ封入セル10の対応する端面10a、10bの直径d1、d2に対して0.5倍未満、あるいは1.5倍より大きくてもよい。
【0081】
また、アルカリレーザ装置1は、λ/2波長板3を有していなくてもよい。ただし、偏光ビームスプリッタ5を用いて励起光l1とレーザ光l2とを分離する場合には、λ/2波長板3は励起光l1の偏光性を高めるため有効である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、簡便な構成によりアルカリ封入セルを加熱することができる加熱部材付きアルカリ封入セル及びアルカリレーザ装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セルの斜視図である。
【図2】実施形態に係るアルカリ封入セルの斜視図である。
【図3】図1の加熱部材付きアルカリ封入セルのIII-III矢印断面図である。
【図4】実施形態に係るアルカリレーザ装置の構成図である。
【図5】図4に示したアルカリレーザ装置に用いられる励起光出力装置の構成図である。
【図6】実施形態に係る加熱部材付きアルカリ封入セル内の温度分布を説明するための図である。
【図7】アルカリ封入セルの端面における温度分布を表す図である。
【図8】半導体レーザからの出力光のスペクトルを表すグラフである。
【図9】実施例として使用したリングヒータの斜視図である。
【図10】実施例のアルカリレーザ装置の出力レーザ光のスペクトルを表すグラフである。
【図11】励起用半導体レーザアレイに流す電流とCsレーザのピークパワーとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0084】
1…アルカリレーザ装置、2…励起光出力装置、3…1/2波長板、4…集光光学系、5…偏光ビームスプリッタ、6…ミラー、7…出力カプラ、21…半導体レーザアレイ、22…FACレンズ、23…ビーム回転レンズ、24…ボリュームブラッググレーティング、25…SACレンズ、10…アルカリ封入セル、11…第1の加熱部材、12…第2の加熱部材、13、14…スペーサ、15、16…リード。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にアルカリ金属蒸気を封入したアルカリ封入セルを加熱する第1及び第2の加熱部材を備えた加熱部材付きアルカリ封入セルであって、
前記アルカリ封入セルは、互いに対向し且つ前記アルカリ金属蒸気を励起する励起光及び励起された前記アルカリ金属蒸気から出力されるレーザ光を透過する第1及び第2の端面と、当該両端面を連結する側面とを有し、
前記第1及び第2の加熱部材にはそれぞれ、一方の端部から他方の端部まで伸びる貫通空間が形成され、
前記第1の加熱部材は、その一部の前記貫通空間内に前記アルカリ封入セルの前記第1の端面側の一部が挿入され、残りが前記第1の端面に対し前記第2の端面とは反対側に向かって伸びるように配置され、
前記第2の加熱部材は、前記第1及び第2の端面の対向方向に所定の間隔で前記第1の加熱部材とは離間しているとともに、当該第2の加熱部材の一部の前記貫通空間内に前記アルカリ封入セルの前記第2の端面側の一部が挿入され、残りが前記第2の端面に対し前記第1の端面とは反対側に向かって伸びるように配置されていることを特徴とする加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項2】
熱伝導性及び弾性を有し、前記貫通空間を画成する前記各加熱部材の内壁と前記アルカリ封入セルの前記側面との間隙に嵌め込まれるスペーサを一対さらに備えることを特徴とする請求項1記載の加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項3】
前記アルカリ封入セルの前記各端面に対して熱を加える一対の端面加熱部材をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載の加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項4】
前記第1及び第2の端面は何れも円形であり、
前記第1の加熱部材の前記残りの前記貫通空間が伸びる方向における長さは、前記第1の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であり、
前記第2の加熱部材の前記残りの前記貫通空間が伸びる方向における長さは、前記第2の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項5】
前記アルカリ封入セル内にアルカリ金属蒸気が封入された請求項1〜4の何れか1項記載の加熱部材付きアルカリ封入セルを共振光路上に有する共振器と、
前記アルカリ金属蒸気に照射する励起光を出力する励起光出力装置と、
を備えることを特徴とするアルカリレーザ装置。
【請求項6】
前記励起光出力装置は、
半導体レーザからなる光源と、
前記光源から出力された光を集光する集光光学系と、
前記集光光学系で集光された光を回転させる回転光学系と、
前記回転光学系によって回転された光の波長スペクトルの幅を狭くするボリュームブラッググレーティングと、を有することを特徴とする請求項5に記載のアルカリレーザ装置。
【請求項1】
内部にアルカリ金属蒸気を封入したアルカリ封入セルを加熱する第1及び第2の加熱部材を備えた加熱部材付きアルカリ封入セルであって、
前記アルカリ封入セルは、互いに対向し且つ前記アルカリ金属蒸気を励起する励起光及び励起された前記アルカリ金属蒸気から出力されるレーザ光を透過する第1及び第2の端面と、当該両端面を連結する側面とを有し、
前記第1及び第2の加熱部材にはそれぞれ、一方の端部から他方の端部まで伸びる貫通空間が形成され、
前記第1の加熱部材は、その一部の前記貫通空間内に前記アルカリ封入セルの前記第1の端面側の一部が挿入され、残りが前記第1の端面に対し前記第2の端面とは反対側に向かって伸びるように配置され、
前記第2の加熱部材は、前記第1及び第2の端面の対向方向に所定の間隔で前記第1の加熱部材とは離間しているとともに、当該第2の加熱部材の一部の前記貫通空間内に前記アルカリ封入セルの前記第2の端面側の一部が挿入され、残りが前記第2の端面に対し前記第1の端面とは反対側に向かって伸びるように配置されていることを特徴とする加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項2】
熱伝導性及び弾性を有し、前記貫通空間を画成する前記各加熱部材の内壁と前記アルカリ封入セルの前記側面との間隙に嵌め込まれるスペーサを一対さらに備えることを特徴とする請求項1記載の加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項3】
前記アルカリ封入セルの前記各端面に対して熱を加える一対の端面加熱部材をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載の加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項4】
前記第1及び第2の端面は何れも円形であり、
前記第1の加熱部材の前記残りの前記貫通空間が伸びる方向における長さは、前記第1の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であり、
前記第2の加熱部材の前記残りの前記貫通空間が伸びる方向における長さは、前記第2の端面の直径に対して0.5倍以上且つ1.5倍以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の加熱部材付きアルカリ封入セル。
【請求項5】
前記アルカリ封入セル内にアルカリ金属蒸気が封入された請求項1〜4の何れか1項記載の加熱部材付きアルカリ封入セルを共振光路上に有する共振器と、
前記アルカリ金属蒸気に照射する励起光を出力する励起光出力装置と、
を備えることを特徴とするアルカリレーザ装置。
【請求項6】
前記励起光出力装置は、
半導体レーザからなる光源と、
前記光源から出力された光を集光する集光光学系と、
前記集光光学系で集光された光を回転させる回転光学系と、
前記回転光学系によって回転された光の波長スペクトルの幅を狭くするボリュームブラッググレーティングと、を有することを特徴とする請求項5に記載のアルカリレーザ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−41697(P2008−41697A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209886(P2006−209886)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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