説明

加硫ゴムの架橋評価方法及び加硫ゴム

【課題】 加硫ゴムの架橋密度、分子構造、組成分析などの分析情報量や分析精度の向上を図ることができる加硫ゴムの架橋評価方法及び加硫ゴムを提供する。
【解決手段】 加硫ゴムの微粒子を含む分散液を架橋構造解析のための測定試料とする架橋評価方法であり、前記測定試料として加硫ゴムを溶媒で膨潤させた後、界面活性剤の存在下で冷凍粉砕し前記加硫ゴムの微粒子を形成し、該微粒子を水中に分散させた分散液を用いることができ、前記加硫ゴムの微粒子の平均粒子径が0.05〜10μmであり、前記分散液中の加硫ゴムの固形分が10〜60重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴムの架橋評価方法に関し、さらに詳しくは、加硫ゴムの微粒子を含む液体試料を用いてNMR装置などの分析装置により測定を行うことで、加硫ゴムの架橋密度、分子構造、組成分析などの分析情報を精度高く提供することのできる加硫ゴムの架橋評価方法及び加硫ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の分子構造、組成分析などの物理化学的性質の分析を行うために、近年では核磁気共鳴(NMR)等の機器分析装置が使用され多くの分析情報が提供されるようになり、ゴム工業においても加硫ゴムの架橋密度などの測定に利用されるようになっている(例えば、特許文献1)。
【0003】
NMRによる測定では、鮮明なNMRスペクトルを得るために測定対象となる試料が調整される。NMRによる測定対象は液体、固体、気体、ゲルなどの多様な測定試料を用いた分析が行われているが、一般的に加硫ゴムのような固体NMRは液体NMRに比べて測定に多くの制限を受け、例えば、液体NMRよりも分解能が低い、用いられるパルスプログラム数が少ない等の理由により得られる情報量が少ないという欠点がある。
【0004】
NMRによるゴム材料のミクロ構造などの分子構造の測定において、未架橋の生ゴムではクロロホルム等の有機溶媒に溶解し液体化した試料を用いた分析を実施することができるが、架橋され固体化した加硫ゴムをNMRで分析する場合、固体高分解能NMR装置を用いた測定が試みられている(例えば、非特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−71595号公報
【非特許文献1】森麻樹夫、J.L.Koenig 「高分解能NMRによるゴム加硫物の分析」 日本ゴム協会誌 第71巻 第2号(1998) P26〜35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の固体高分解能NMRは、上述のような制限があるため、固体化された加硫ゴムの正確な架橋構造の解析が行われていないのが実状である。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、加硫ゴムの架橋構造の解析を液体化試料を用いて行うことで、加硫ゴムの架橋密度、分子構造、組成分析などの分析情報量や分析精度の向上を図ることができる加硫ゴムの架橋評価方法、及びこの評価方法により測定される特定の架橋構造を有する加硫ゴムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、加硫ゴムの微粒子を含む分散液を架橋構造解析のための測定試料とすることを特徴とする加硫ゴムの架橋評価方法である。
【0008】
本発明の加硫ゴムの架橋評価方法によると、加硫ゴムの微粒子をラテックス状に分散させた分散液を試料とすることで、加硫ゴムの液体化試料によるNMRなどの分析装置による測定を可能とし、従来の固体試料による測定に比べて液体条件での測定により加硫ゴムのミクロ構造、架橋形態などの多くの分析情報を、精度高く得ることができるようになる。
【0009】
本発明の加硫ゴムの架橋評価方法においては、前記測定試料が、加硫ゴムを溶媒で膨潤させた後、界面活性剤の存在下で冷凍粉砕し前記加硫ゴムの微粒子を形成し、該微粒子を水中に分散させた分散液とすることで、加硫ゴムの微粒子をラテックス状に水中に分散させ液体化した液体試料を用いてNMRなどによる架橋構造の測定を実施することができる。
【0010】
また、本発明の加硫ゴムの架橋評価方法においては、天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスに加硫剤を添加し、ラテックス状態で加硫させた前記天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスの加硫されたゴム微粒子を含む分散液を測定試料とすることができ、ラテックス状態で加硫されたゴム成分を含む分散液をそのままで液体試料として用いることができる。
【0011】
本発明においては、前記加硫ゴムの微粒子の平均粒子径が0.05〜10μmであり、前記分散液中の加硫ゴムの固形分が10〜60重量%であることが好ましく、分散液中での加硫ゴム微粒子の浮遊や沈降を防いで分散性を向上し、固形分濃度を適度にして分析精度を向上することができる。
【0012】
そして、前記測定試料を高分解能NMRを用いて測定することで、加硫ゴムの架橋評価を情報量を多くして精度よく行うことができる。
【0013】
本発明の加硫ゴムは、上記加硫ゴムの架橋評価方法によって測定された架橋シグナル強度比が、0.1〜10であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加硫ゴムの架橋評価方法によると、一般的な固形ゴム、液体ゴム、或いはラテックスなどの各種の加硫ゴムの架橋構造について精度高く評価を行うことができるものである。すなわち、加硫後の架橋密度、ミクロ構造などの分子構造、組成分析などの物理化学的性質をNMR装置などを用いて正確に得られるようになり、従来の固体試料による測定では入手できなかった新たな分析情報が多く得られることができるという優れた効果を有し、種々のゴム材料の高性能化研究に多くの指針を与えるものとなり、工業的有効性を具えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の加硫ゴムの架橋評価方法において、対象となるゴム材料としては、通常の固体状態で供給される固形ゴム、常温で液状を示す低分子量の液状ゴム、ラテックス状の天然ゴムラテックス又は合成ゴムラテックスが挙げられる。
【0017】
固形ゴムとしては、天然ゴム(NR)、及び溶液または乳化重合による各種スチレンブタジエンゴム(SBR)、各種ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等のジエン系合成ゴム、ブチルゴム(IIR)クロロブチルゴム(CIIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)等のオレフィン系合成ゴム、ポリスルフィドゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)などの各種合成ゴムが挙げられ、その単独或いは複数を任意の割合でブレンドしたものが挙げられる。
【0018】
また、液状ゴムは常温では液状を示すが架橋されると高分子量化されて硬化し固形ゴムとなるもので、液状天然ゴム及び液状合成ゴムが挙げられ、液状合成ゴムとしては、液状IR、液状SBR、液状BR、液状NBRなど各種液状合成ゴムであり、その単独或いは複数を任意の割合でブレンドしたものが挙げられ、また上記固形ゴムとブレンドされたものでもよい。
【0019】
上記の固形ゴムや液状ゴム材料、或いはそれらのブレンドを用いた加硫ゴムは、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤で架橋されるもので、硫黄は通常のゴム加硫に使用されているゴム用粉末硫黄、オイル処理硫黄など、有機過酸化物としてはジクミルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、ジ−テルト−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5ジ(テルト−パーオキシ)−ヘキサンなどが挙げられる。また、有機多価アミン、変性フェノール樹脂、酸化マグネシウム等の金属酸化物などの加硫剤を用いて架橋されたものも用いられる。
【0020】
また、ゴム材料は、必要に応じて加硫促進剤、亜鉛華、ステアリン酸、オイルなどの軟化剤、老化防止剤などの各種のゴム用配合剤を含むものであってもよい。
【0021】
このような固形ゴムや液状ゴムを架橋した固体状態の加硫ゴムは、次のような調整方法により加硫ゴムの微粒子を含むラテックス状の分散液とすることで、加硫ゴムのNMR測定などにおける液体試料として使用することができる。
【0022】
この液体試料となる分散液の調整方法としては、(1)加硫ゴムを溶媒で膨潤させ膨潤ゴムを形成する工程、(2)前記膨潤ゴムを界面活性剤の存在下で冷凍粉砕し前記加硫ゴムの微粒子を形成する工程、(3)前記微粒子を水中に分散させる工程により加硫ゴムの微粒子を含む分散液を作成するものである。この場合、(4)前記溶媒及び/又は界面活性剤を前記加硫ゴムの微粒子から分離し除去する工程を有することが好ましい。
【0023】
上記(1)加硫ゴムを溶媒で膨潤させ膨潤ゴムを形成する工程では、平均粒径0.5〜5mm程度に予め小片化した加硫ゴム10〜500mg程度を密閉可能なガラス瓶等を用いて溶媒中に浸漬し膨潤させるものである。
【0024】
膨潤に用いられる溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類、酢酸エチル、フタル酸ジメチル等のエステル類などの各種有機溶媒が挙げられ、加硫ゴムが溶媒中に浸漬できる量で用いられ、その膨潤時間は、特に制限されるものではなく、ゴム材料と溶媒のそれぞれの種類や量、ゴム架橋度等により、加硫ゴムの膨潤状態を観察しながら適宜決めることができ、例えば加硫ゴムの体積が1.3〜2倍程度になることを目安にし、膨潤状態がほぼ平衡に達した状態で終了すればよい。
【0025】
(2)前記膨潤ゴムを界面活性剤の存在下で冷凍粉砕し前記加硫ゴムの微粒子を形成する工程では、前記(1)工程にて膨潤させた加硫ゴムが界面活性剤と共に冷凍粉砕機を用いて平均粒子径が0.05〜10μm程度の微粒子に粉砕される。粒子径が0.05μm未満であると液中への分散性が低下し、10μmを越えると微粒子の浮遊や沈降が生じやすくなりやはり分散性が低下する。
【0026】
ここで、界面活性剤の添加なしで冷凍粉砕を行うと、ポリマー鎖が切断されてラジカルが発生しゴム粒子同士が再結合を起こすが、界面活性剤の存在によりこの再結合を防ぎ水中への分散性を向上させることができる。
【0027】
冷凍粉砕機は、汎用の冷凍粉砕機を使用することができ、例えば、日本分析工業(株)製のJFC−300型が使用できる。冷凍媒体としては液体窒素が好適であり、加硫ゴム10〜500mgと界面活性剤を円柱状の粉砕カプセル容器に仕込み、凍結状態で上記平均粒子径の範囲になるまで粉砕処理される。
【0028】
上記界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、高級脂肪酸アルカリ塩などのアニオン系、高級アミンハロゲン酸塩などのカチオン系、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどの非イオン系、アミン酸などの両性系の各種界面活性剤が挙げられるが、本発明においてはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が好適に用いられる。
【0029】
この界面活性剤の使用量は、加硫ゴム重量(膨潤前)に対して2〜10倍程度の範囲が好ましい。また、界面活性剤は加硫ゴムの微粒子を水中に分散させる分散剤としての効果も有している。
【0030】
上記の膨潤処理と界面活性剤の存在下での粉砕処理とによる相互作用により水中への分散性を良好にするもので、すなわち、膨潤処理により従来よりも加硫ゴムの細かな微粒子化を実現するとともに粒子の再結合を防ぎ、界面活性剤によりポリマー鎖の切断発生を除いてゴム粒子の再結合を防止することで、ゴム微粒子の水中への分散性を容易にしラテックス状の液体化を可能とするものと考えられる。
【0031】
次の(3)前記微粒子を水中に分散させる工程は、上記(2)工程による加硫ゴムの微粒子を真空乾燥した後、蒸留水に加えて撹拌し分散液とするものである。撹拌の方法は特に制限されず、通常の化学実験用の撹拌装置を使用することができる。
【0032】
この場合の加硫ゴム微粒子の添加量は、蒸留水5mlに対しゴム重量(膨潤前)が10〜300mg程度であり、ゴム量が少ないと分散液中の加硫ゴム濃度が低くなり分解能が低下し分析結果の信頼性に欠け、ゴム量が多すぎると分散性が低下してゴム分が浮遊或いは沈降し好ましくない。すなわち、分散液の固形分濃度が10〜60重量%、好ましくは50重量%以上であることが望ましい。
【0033】
この分散液の調整方法においては、(4)前記溶媒及び/又は界面活性剤を前記加硫ゴムの微粒子から分離し除去する工程を有すことが好ましく、(1)及び(2)工程で使用した溶媒や界面活性剤をゴム微粒子から除去することにより、溶媒や界面活性剤の成分がNMRスペクトルなどの分析結果に表れるのを防ぎ、加硫ゴムの分析精度を向上することができる。
【0034】
前記溶媒は蒸留水に加硫ゴムの微粒子を添加した分散液を一度煮沸することで除去でき、界面活性剤は粉砕後の微粒子と界面活性剤との混合物を遠心分離機を用いて分離すればよい。
【0035】
この調整方法により得られた加硫ゴムの微粒子を含む分散液は、ラテックス状を呈して加硫ゴムをNMR測定などの液体測定試料として用いることができるようになり、従来の固体分析では得られなかった加硫ゴムの架橋形態(架橋密度)やシス結合、トランス結合などの定量によるミクロ構造、ポリマーの分子量などの新たな分析情報を加硫ゴムから入手することが可能となる。
【0036】
このように加硫ゴムに関する新たな知見を得ることで、配合系や加硫系などの調整によって架橋構造を制御することで加硫ゴムの物性向上を図り、各種の用途に最適なゴム組成物の開発を行うことができる。
【0037】
また、本発明の加硫ゴムの架橋評価方法においては、天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスに加硫剤を添加し、ラテックス状態で加硫させた天然ゴムラテックスや合成ゴムラテックスの加硫されたゴム微粒子を含む分散液を測定試料として用いることができる。
【0038】
このようなラテックスとしては、天然ゴムラテックス及び合成ゴムラテックスが挙げられ、合成ゴムラテックスとしては、SBR、BR、IR、NBR、CRなどのジエン系ゴムラテックス、IIR、EPM,EPDMなどのオレフィン系ゴムラテックス、その他にT、Q、U、FKM、ACM、CSMなどの各種合成ゴムのラテックスが挙げられ、それらの単独或いは複数を任意の割合でブレンドしたものが用いられる。
【0039】
上記のラテックスを用いた加硫ゴムは、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤で架橋されるもので、その加硫剤は固形ゴムの場合と同様のものが使用され、また、必要に応じて加硫促進剤、亜鉛華、ステアリン酸、オイルなどの軟化剤、老化防止剤などの各種のゴム用配合剤を含むものであってもよい。
【0040】
ラテックスに加硫剤を添加しラテックス中のゴム成分を架橋させることで、加硫ゴム成分がラテックス状態で微粒子となって液中に分散した分散液となり、NMR測定などの液体試料としてそのまま使用することができる。
【0041】
また、この場合も、加硫ラテックスの分散液中の固形分濃度が低いと分析精度低下の原因となるので、固形分濃度を10〜60重量%程度、好ましくは50重量%以上に調整するのが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0043】
本実施例は、天然ゴムの硫黄加硫による架橋構造をNMR装置を用いて測定した例を示し、加硫ゴムの液体化試料は下記のようにして調整した。
【0044】
天然ゴム(RSS#1)100重量部に対し、ゴム用粉末硫黄(JIS K6222に規定の1種)2重量部、加硫促進剤CBS(JIS K6202に規定)1重量部を試験用ロールを用いて混合し、得られたゴム組成物を150℃で30分間のプレス加硫を行い厚み2mmの加硫ゴムシートを作成した。
【0045】
NMR測定は、次の液体試料(A)、固体試料(B)の試料を調整し測定試料とした。液体試料(A)は、この加硫ゴムをカッターナイフで一片が5mm程度の小片に切断した後、その100mgをトルエン中に16時間浸漬して膨潤させた後、濾過した膨潤ゴム試料をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)400mgと共に冷凍粉砕機(日本分析工業(株)製、JFC−300型)を用いて平均粒子径0.1μmの微粒子に粉砕し、次いで、ゴム微粒子とSDSの混合物を蒸留水に添加し撹拌したものを汎用の遠心分離機を用いてSDSを分離除去し、得られた加硫ゴム微粒子を再度5mlの蒸留水に添加し撹拌したものを煮沸してトルエン成分を除去した後、再度遠心分離を行った後5mlの蒸留水に添加撹拌して加硫ゴム微粒子の分散液を作成し液体試料(A)(固形分濃度50重量%)を調整した。固体試料(B)は、加硫ゴムのままで試料(B)を調整した。
【0046】
上記(A)、(B)の試料を、核磁気共鳴(NMR)装置:BRUKER社製、DPX400型を使用し公知の方法でNMR測定を行い、そのNMRスペクトルを図1〜5に示した。
【0047】
図1は、液体試料(A)を測定試料とした13C−NMR法(溶液高分解能NMR)によるスペクトルで、図2は図1の要部拡大図である。図3は、固体試料(B)を測定試料としたDDMAS13C−NMR法によるスペクトルの要部拡大図、図4は液体試料(A)を測定試料としたDEPT135法(溶液高分解能NMR)によるスペクトルで、図5はその要部拡大図である。
【0048】
各スペクトルにおける各シグナルに付した符号1〜5は天然ゴムのイソプレン単位における各炭素元素のシグナルを示し(下記化学式参照)、符号6,7は界面活性剤SDSのシグナル、符号8,9は架橋シグナルを示している。
【0049】
【化1】

【0050】
図1,2に示す液体試料(A)を用いた13C−NMR法によるスペクトルは、図3に示す固体試料(B)を用いたDDMAS13C−NMR法に対して特に有利な点はなく、得られる情報量は同程度である。
【0051】
これに対して、図4,5に示すように、液体試料(A)を用いたDEPT135法によるスペクトルでは、CH(3)とCH(5)のシグナルが上向きに、CH(1,4)のシグナルが下向きに表れ、C(2)のシグナルは表れなくなる。そして、架橋シグナル(8)がわずかに上向きに表れ、シグナル(9)が下向きに表れる。すなわち、シグナル(8)が3級炭素と4級炭素であり、シグナル(9)が2級炭素であることが分かる。
【0052】
このことから、DEPT135法によるNMR測定では、炭素原子に結合している水素原子の数が分かり、すなわち加硫ゴムの架橋を構成する2級、3級、4級の各炭素原子を定量することでができるようになり、加硫ゴムの液体試料を用いることで従来の固体NMRでは困難であった架橋形態の評価を行うことが可能となり、加硫ゴムの架橋構造の解析が飛躍的に明確なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の加硫ゴムの架橋評価方法は、従来固形ゴムでしか測定できなかった加硫ゴム架橋構造の評価を、加硫ゴムの液体化試料により液体条件での加硫ゴムのNMR測定などの分析を可能とするもので、加硫ゴムの新たな知見を得ることでゴム材料の研究開発に広く応用される。そして、加硫ゴムの物性向上により、各種の用途に最適なゴム材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】13C−NMR法によるスペクトル図である。
【図2】同上の要部拡大図である。
【図3】DDMAS13C−NMR法よるスペクトル図である。
【図4】DEPT135法によるスペクトル図である。
【図5】同上の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0055】
1,4……CHのシグナル
2……Cのシグナル
3……CHのシグナル
5……CHのシグナル
6,7……SDSのシグナル
8,9……架橋シグナル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムの微粒子を含む分散液を架橋構造解析のための測定試料とする
ことを特徴とする加硫ゴムの架橋評価方法。
【請求項2】
前記測定試料が、加硫ゴムを溶媒で膨潤させた後、界面活性剤の存在下で冷凍粉砕し前記加硫ゴムの微粒子を形成し、該微粒子を水中に分散させた分散液である
ことを特徴とする請求項1に記載の加硫ゴムの架橋評価方法。
【請求項3】
前記測定試料が、天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスに加硫剤を添加し、ラテックス状態で加硫させた前記天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスの加硫されたゴム微粒子を含む分散液である
ことを特徴とする請求項1に記載の加硫ゴムの架橋評価方法。
【請求項4】
前記加硫ゴムの微粒子の平均粒子径が0.05〜10μmであり、前記分散液中の加硫ゴムの固形分が10〜60重量%である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加硫ゴムの架橋評価方法。
【請求項5】
前記測定試料を高分解能NMRを用いて測定する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加硫ゴムの架橋評価方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の加硫ゴムの架橋評価方法によって測定された架橋シグナル強度比が、0.1〜10である
ことを特徴とする加硫ゴム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−10462(P2006−10462A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187099(P2004−187099)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】