説明

加飾シートおよび加飾シート付き成形体

【課題】
画像を高品質に表示でき、透明性に優れ、被着体との一体成形に適した加飾シートおよびそれを備える成形体を提供する。
【解決手段】
本発明は、厚さ50〜150μmの透明な樹脂製のカバーシート10と、疎水性の樹脂から成る厚さ12〜100μmの熱溶着性樹脂シート21の加飾エリア22の内部に、体積換算にて平均粒径0.5μm以下の粒子から成る顔料23を、熱溶着性樹脂シート21の厚さ方向の全ての位置に存在させるように分散した加飾接着シート20と、厚さ75〜500μmの樹脂製のバックアップシート30とをその順に積層して成る加飾シート1に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面または凹凸面に溶着可能な加飾シートおよびそれを備える成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
曲面あるいは凹凸面を有する物品に加飾する方法の一つに、所望の加飾を施した樹脂シートを当該曲面や凹凸面に貼り付ける方法がある。かかる方法に用いる加飾シートの一例として、接着層、基材層、仮基材層をその順に積層した積層シートであって、その接着層を、融点80℃以下の樹脂から構成すると共にインク受容性を有する層とした接着性材料が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、熱可塑性樹脂からなる基材シートと、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を含む感熱接着剤層とを積層してなる印刷シートの感熱接着剤層に、油性インクジェット方式で絵柄を印刷した化粧シートも知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−007637号公報
【特許文献2】特開2005−125651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来から公知の接着性材料あるいは化粧シートのようなシートは、感熱接着性を有する接着層に加飾しているので、被着体に加温してこれを貼付するだけで、被着体への加飾が可能となる。しかし、かかるシートには、次のような問題がある。
【0005】
従来のシートを被着体の曲面や凹凸面に貼り付けると、シートは部分的あるいは全体的に伸張される。この際、画像内に隙間が出来、また、画像の境界となる稜線に小さな凹凸が生じ、画像の解像度が低下していた。加えて、画像に微細なひび割れが生じ、画像の品質が低下していた。また、特許文献2に開示される技術にみられるように、ホットメルト樹脂(疎水性樹脂)に、インク受容性を持たせるための親水性樹脂を混ぜた場合、シートが海島構造になる。この結果、シートの透明性が低下し、画像本来の色を出しにくくなると共に、画像の存在しない箇所でも被着体の本来の色や模様を出しにくくなるという問題が生じる。さらに、上述した従来のシートは、接着剤側が露出しているため、被着体に、直接、熱溶着するシートとしては適している。しかし、加飾した接着剤側を高温に晒すと加飾エリアの画像が損傷することから、被着体の成形と同時にシートを一体化するには適していない。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであって、画像を高品質に表示でき、透明性に優れ、被着体との一体成形に適した加飾シートおよび加飾シート付き成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するための本発明の一形態は、厚さ50〜150μmの透明な樹脂製のカバーシートと、疎水性の樹脂から成る厚さ12〜100μmの熱溶着性樹脂シートの加飾エリアの内部に、体積換算にて平均粒径0.5μm以下の粒子から成る顔料を、熱溶着性樹脂シートの厚さ方向の全ての位置に存在させるように分散した加飾接着シートと、厚さ75〜500μmの樹脂製のバックアップシートとをその順に積層して成る加飾シートである。
【0008】
本発明の別の形態は、さらに、熱溶着性樹脂シートを、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂およびエチレン酢酸共重合樹脂の群から選択される1または2以上の樹脂から構成した加飾シートである。
【0009】
本発明の別の形態は、さらに、顔料の平均粒径を0.15μm以下とした加飾シートである。
【0010】
本発明の別の形態は、さらに、カバーシートをアクリル系樹脂から成るシートとし、バックアップシートをABS系樹脂から成るシートとした加飾シートである。
【0011】
本発明の一形態は、上記いずれかの加飾シートのバックアップシート側に樹脂成形体を固着して成る加飾シート付き成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、画像を高品質に表示でき、透明性に優れ、被着体との一体成形に適した加飾シートおよび加飾シート付き成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る加飾シートの斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す加飾シートのA−A線断面図およびその一部Xの拡大図である。
【図3】図3は、図1に示す加飾シートの製造過程を模式的に示す図である。
【図4】図4は、加飾シートの製造過程において、ウレタン系樹脂から成る熱溶着性樹脂シート(厚さ:約100μm)にマゼンタ色のインクを用いて印刷後にその片面にアクリル系樹脂から成るカバーシート(厚さ:約200μm)を接着した状態のシートの断面を示す光学顕微鏡写真である。
【図5】図5は、加飾シートの製造過程において、アクリル系樹脂から成る熱溶着性樹脂シート(厚さ:約60μm)にマゼンタ色のインクを用いて印刷後にその片面にアクリル系樹脂から成るカバーシート(厚さ:約200μm)を接着した状態のシートの断面を示す光学顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る成形体の一例であるスマートキー用の半割成形体の正面図である。
【図7】図7は、図6に示す半割成形体の矢印Cの方向から見た平面図である。
【図8】図8は、図6に示す半割成形体のB−B線断面図およびその一部Yおよびさらにその一部Zをそれぞれ拡大した拡大断面図である。
【図9】図9は、図6に示す半割成形体の製造過程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.加飾シート>
次に、本発明に係る加飾シートの好適な実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る加飾シートの斜視図である。図2は、図1に示す加飾シートのA−A線断面図およびその一部Xの拡大図である。
【0016】
この実施の形態に係る加飾シート1は、カバーシート10と、加飾接着シート20と、バックアップシート30とをその順に積層して成る。加飾接着シート20は、その表側の面20aから裏側の面20bにかけてインクを浸透させて形成する加飾エリア22を備える。
【0017】
(1)カバーシート
カバーシート10は透明な樹脂から成る。このため、加飾接着シート20に形成された加飾エリア22は、カバーシート10の外側から視認可能である。カバーシート10を構成する樹脂は、透明な熱可塑性樹脂であれば、特に制限はないが、好適には、透明性と防傷性に共に優れるアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂あるいはオレフィン系樹脂から成る。カバーシート10の厚さは、50〜150μm、好ましくは70〜130μmの範囲である。当該厚さが50μmより小さいと、フィルムの強度が低下し、取り扱いの際に、折れたり、シワが生じやすくなる。樹脂の種類を変えても折れにくく、またシワが生じにくいフィルム強度を確保する上では、70μm以上とするのが好ましい。一方、当該厚さが150μmより大きくなると、加飾シート1の成形の際に、成形の自由度が低くなる。また、インサート成形を行った場合にゲートバーンと称する現象も起きやすくなる。樹脂の種類を変えてもかかる問題を生じないようにするには、当該厚さは、130μm以下とするのが好ましい。
【0018】
(2)加飾接着シート
加飾接着シート20は、熱溶着性樹脂シート21の加飾エリア22の内部に顔料23を分散させたものである。加飾接着シート20は、それ自体、表側の面20aおよび裏側の面20bの両面にて接着性を有しており、顔料23を分散させた加飾エリア22においても接着性を有する。顔料23は、顔料23を有するインクを供給した側の熱溶着性樹脂シート21の片面上に偏在せず、該シート21の厚さ方向のどの面で切っても存在するように、厚さ方向に移動する。このため、当該片面の加飾エリア22においても接着性が失われない。
【0019】
熱溶着性樹脂シート21は、接着剤を介すことなく、それ自体を加温することにより被着体に溶着する樹脂製のシートである。熱溶着性樹脂シート21は、疎水性の樹脂から成り、好ましくは、熱溶着性を発揮し得るのに十分な熱可塑性樹脂を含む。また、本明細書において、「疎水性」とは、水と共存する系において、水と相分離した状態の方が、相溶した状態よりも安定な性質を意味する。接触角の観点で定義すれば、一般的に、疎水性は、接触角が50度以上180度以下の範囲、好ましくは90度以上180度以下、より好ましくは135度以上180度以下となる性質をいう。また、極性基の割合の観点で定義すれば、一般的に、疎水性の樹脂は、酸素、窒素または硫黄のいずれかの原子を含む極性基(例えば、−OH、−COOH、−NH基、−SOH基)の1分子当たりの平均の合計数(Pn)と、樹脂の重量平均分子量(Mw)との比(Pn/Mw)が0.01以下、好ましくは0.005以下である。本明細書において、疎水性を示す樹脂は、「接触角が50度以上180度以下」および「(Pn/Mw)が0.01以下」の少なくともいずれか一方を満たす樹脂を意味する。
【0020】
熱溶着性樹脂シート21を構成する樹脂材料は、疎水性を示す樹脂から成るシートであれば、特に樹脂の種類に制限はないが、好適には、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂およびエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA系樹脂)の内の1または2以上の組み合わせから成る。その中でも、特に、太陽光等によって黄変しにくい点で、アクリル系樹脂が好ましく、特に、アクリル変性エポキシポリマーがより好ましい。また、樹脂材料としては、環境に悪影響を与えない観点から、塩素を含まないものの方が好ましい。熱溶着性樹脂シート21を構成する樹脂材料は、親水性樹脂(上記疎水性の定義から外れる性質を持つ樹脂)を含まない。
【0021】
熱溶着性樹脂シート21の厚さは、12〜100μm、好ましくは20〜100μm、より好ましくは30〜50μmの範囲である。当該厚さが12μmより小さいと、加飾接着シート20の製造過程において、顔料23を含むインクを熱溶着性樹脂シート21に吐出して印刷している最中若しくは印刷後に、熱溶着性樹脂シート21が膨潤してしまい、加飾エリア22およびその近傍が突出する。膨潤を確実に防止する上では、当該厚さは20μm以上とするのが好ましく、さらには30μm以上とするのが好ましい。一方、当該厚さが100μmより大きくなると、加飾接着シート20の製造過程において気泡が入りやすく、かつ加飾接着シート20の表側の面20aおよび裏側の面20bにそれぞれカバーシート10およびバックアップシート30を積層して3次元形状に成形する場合、その総厚が大きくなり過ぎて、剛性が高くなるため、成形が難しくなる。3次元形状の成形の自由度をより広げるには、当該厚さを50μm以下とするのが好ましい。
【0022】
顔料23としては、加飾エリア22への配色に応じて、有機顔料若しくは無機顔料の1あるいは2以上を使用できる。有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジアセトアセトアリライド系などの顔料を好適に使用できる。また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどの顔料を好適に使用できる。これら有機顔料若しくは無機顔料は、単独あるいは複数混合して使用してもよい。
【0023】
黒色顔料としては、カラーインデックスナンバーで例示すると、例えば、ピグメントブラック7,26,28を使用できる。赤色あるいはマゼンタ顔料としては、カラーインデックスナンバーで例示すると、例えば、ピグメントレッド3,5,19,22,31,38,43,48:1,48:2,48:3,48:4,48:5,49:1,53:1,57:1,57:2,58:4,63:1,81,81:1,81:2,81:3,81:4,88,104,108,112,122,123,144,146,149,166,168,169,170,177,178,179,184,185,208,216,226,257,ピグメントバイオレット3,19,23,29,30,37,50,88,ピグメントオレンジ13,16,20,36を使用できる。青あるいはシアン顔料としては、カラーインデックスナンバーで例示すると、例えば、ピグメントブルー1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17−1,22,27,28,29,36,60を使用できる。黄色顔料としては、カラーインデックスナンバーで例示すると、例えば、ピグメントイェロー1,3,12,13,14,17,34,35,37,55,74,81,83,93,94,95,97,108,109,110,137,138,139,153,154,155,157,166,167,168,180,185,193を使用できる。白色顔料としては、カラーインデックスナンバーで例示すると、例えば、ピグメントホワイト1,2,4,5,6,7,11,12,18,19,21,22,23,24,26,27,28を使用できる
【0024】
顔料23の体積換算にて求められる平均粒径は、0.5μm以下であり、好ましくは0.15μm以下である。ここで、平均粒径は、コールター法によって測定される粒径を意味する。粒径の測定には、例えば、ベックマンコールター社製の装置(型番:N4PLUS)を好適に使用できる。平均粒径が0.5μmを超えると、顔料23を有機溶剤中に分散させたインクを、熱溶着性樹脂シート21の一方の面(表側の面)20aから供給した際、顔料23が当該シート21の厚さ方向に進行しにくくなり、熱溶着性樹脂シート21の厚さが100μmに近い場合に裏側の面20bに容易に到達しにくくなる。このため、顔料23の平均粒径は、0.5μm以下とする必要がある。さらには、熱溶着性樹脂シート21が12μmに近い場合でも、顔料23が当該シート21の裏側の面20bに到達するためには、平均粒径0.15μm以下とするのが特に好ましい。顔料23の平均粒径と、上述の熱溶着性樹脂シート21の厚さとの最適の組み合わせは、平均粒径0.15μm以下と厚さ30〜50μmの範囲である。
【0025】
(3)バックアップシート
バックアップシート30は熱可塑性樹脂から成る。バックアップシート30は、加飾接着シート20の加飾エリア22を保護し、加飾に損傷を与えないように保護する機能を有する。バックアップシート30を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であって、樹脂との溶融接着性に優れた樹脂であり、耐熱性があればより好ましく、特に、ABS樹脂あるいはポリカーボネート系樹脂であるのが好ましい。上述のカバーシート10と当該バックアップシート30との組み合わせとしては、カバーシート10をアクリル系樹脂としてバックアップシート30をABS樹脂とする組み合わせ、あるいはカバーシート10とバックアップシート30を共にポリカーボネート系樹脂とするのがより好ましい。バックアップシート30は、加飾接着シート20との接着性を向上させるため、加飾接着シート20と接する側の面に、易接着性処理を施しているのが好ましい。バックアップシート30の厚さは、75〜500μm、好ましくは100〜400μmの範囲である。当該厚さが75μmより小さいと、被着体を射出成形法にて成形する場合、金型内に配置される加飾シート1に向けて射出された溶融状態の樹脂とバックアップシート30との接触時に、バックアップシート30が焼け、その内方の加飾接着シート20を損傷する危険性がある。樹脂の種類を変えてもその危険性を確実に抑制するには、当該厚さを100μm以上とするのが好ましい。一方、当該厚さが500μmより大きくなると、加飾シート1の成形の際に、成形の自由度が低くなる。樹脂の種類を変えてもかかる問題を生じないようにするには、当該厚さは、400μm以下とするのが好ましい。
【0026】
(4)加飾シートの製造方法
図3は、図1に示す加飾シートの製造過程を模式的に示す図である。
【0027】
熱溶着性樹脂シート21の一方の面(裏側の面と称する)20bに離型シート24を備え、熱溶着性樹脂シート21の他方の面(表側の面と称する)20aの加飾エリア22の位置に、80〜95質量部の有機溶剤と1〜10質量部の顔料とを少なくとも混合して成るインク25を供給してインクジェット方式にて印刷する(印刷工程)。離型シート24は、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、離型処理を施したポリエチレンテレフタレートから成る樹脂シートの他、離型紙などの紙製のシートでも良い。
【0028】
インク25を構成する有機溶剤は、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、高級脂肪酸系溶剤などを好適に用いることができ、それらの内の1つのみを、あるいは複数を用いてもよい。有機溶剤としては、特に、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;ラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤;およびメタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤の群から選ばれる1種若しくは2種以上の組み合わせが好ましい。有機溶剤は、顔料23に対する質量比率にて80/10〜95/1の範囲とするのが好ましく、さらには、85/5〜93/3の範囲とするのが好ましい。インク25は、少なくとも顔料23と有機溶剤を含み、さらに、顔料23の分散性を高めるための分散剤の他、界面活性剤、樹脂、膜物性調整剤等を含んでいても良い。
【0029】
印刷工程の後、インク25が離型シート24まで到達しているので、熱溶着性樹脂シート21を乾燥させ、表側の面20aに、カバーシート10を接着する。この際、両側の面20a,20bから加温し、熱溶着性樹脂シート21の表側の面20aを溶着可能な状態として、カバーシート10に接着する。続いて、離型シート24を加飾接着シート20の裏側の面20bから分離して(分離工程)、続いて、バックアップシート30を当該裏側の面20bに接着する。バックアップシート30の接着の際も、両側の面20a,20bから加温し、熱溶着性樹脂シート21の裏側の面20bを溶着可能な状態として、バックアップシート30に接着する。なお、加温は、熱溶着性樹脂シート21の両面20a,20bにそれぞれカバーシート10およびバックアップシート30を配置してから行い、熱溶着性樹脂シート21の両面20a,20bを溶着可能な状態にして、カバーシート10およびバックアップシート30を同時に熱溶着性樹脂シート21に接着しても良い。この結果、カバーシート10、加飾接着シート20、バックアップシート30をその順に積層した加飾シート1を得ることができる。
【0030】
図4は、加飾シートの製造過程において、ウレタン系樹脂から成る熱溶着性樹脂シート(厚さ:約100μm)にマゼンタ色のインクを用いて印刷後にその片面にアクリル系樹脂から成るカバーシート(厚さ:約200μm)を接着した状態のシートの断面を示す光学顕微鏡写真である。図5は、加飾シートの製造過程において、アクリル系樹脂から成る熱溶着性樹脂シート(厚さ:約60μm)にマゼンタ色のインクを用いて印刷後にその片面にアクリル系樹脂から成るカバーシート(厚さ:約200μm)を接着した状態のシートの断面を示す光学顕微鏡写真である。
【0031】
図4に示すシートは、以下の製造方法にて製造されたものである。熱溶着性樹脂シート21には、縦300mm×横240mmの日清紡ケミカル株式会社製のモビロンフィルムを用いた。この熱溶着性樹脂シート21は、厚さ約100μmのウレタン系樹脂から成り、印刷時においてその片面に厚さ約150μmの離型シート24を備え、両面に熱溶着機能を持つシートである。インク25は、平均粒径0.1μmのキナクリドン系顔料3質量部と有機溶剤93質量部とを少なくとも含むマゼンタ色の顔料インクである。インク25中の有機溶剤は、ジエチレングリコールジエチルエーテル55〜60質量部と、γ−ブチロラクトン10〜20質量部と、テトラエチレングリコールジメチルエーテル10〜20質量部と、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル1〜5質量部を混合して成る。片面に離型シート24を付けた熱溶着性樹脂シート21をプリンタ(セイコーエプソン株式会社製、型番:GS6000)にセットして、上記インク25を用いたインクジェット方式により、熱溶着性樹脂シート21の離型シート24と反対側の面に印刷する。インク25の乾燥後、その面にアクリル系樹脂から成るカバーシート10(厚さ:約200μm)を接着する。接着の際、両側の面20a,20bから加熱し熱溶着性樹脂シート21をカバーシート10に溶着させ、その後、離型シート24を剥がす。図5に示すシートは、熱溶着性樹脂シート21に、厚さ約60μmのアクリル系樹脂から成るシートを用いた点以外を、図4に示すシートと同一の条件として製造したものである。
【0032】
図4および図5の各写真に示すように、インクに含まれる顔料は、熱溶着性樹脂シート21の一方の面からカバーシート10の貼付面にまで達するように、厚さ方向にほとんどムラなく存在していた。また、顔料23にて形成される画像は、極めて高品質であり、加飾接着シート20の伸縮を行っても、画像内に隙間が見られず、また画像内にひび割れ等も見られなかった。これは、顔料23が熱溶着性樹脂シート21の厚さ方向に濃密に充填され、かつ当該シート21の表面に偏在した層を形成していないからである。さらに、熱溶着性樹脂シート21に親水性樹脂を含んでいないので、それを含むものと比べて透明性に優れていた。その結果、インク25の色がほとんどそのまま加飾接着シート20上でも表現できていた。
【0033】
<2.加飾シート付き成形体>
次に、本発明に係る加飾シート付き成形体(以後、「成形体」と称する)の好適な実施の形態について説明する。
【0034】
(1)成形体
図6は、本発明の実施の形態に係る成形体の一例であるスマートキー用の半割成形体の正面図である。図7は、図6に示す半割成形体の矢印Cの方向から見た平面図である。図8は、図6に示す半割成形体のB−B線断面図およびその一部Yおよびさらにその一部Zをそれぞれ拡大した拡大断面図である。
【0035】
半割成形体40は、樹脂成形体41と、その正面側曲面の表側に固着される加飾シート1とを備える。半割成形体40は、その正面に、視認可能な加飾エリア22’を有する。図8に示すように、加飾シート1は、厚さ50〜150μmの透明な樹脂製のカバーシート10と、加飾接着シート20と、厚さ75〜500μmの樹脂製のバックアップシート30とをその順に積層して成る。加飾接着シート20は、疎水性の樹脂から成る厚さ12〜100μmの熱溶着性樹脂シート21の加飾エリア22’の内部に、体積換算にて平均粒径0.5μm以下の粒子から成る顔料23を、熱溶着性樹脂シート21の厚さ方向の全ての位置に存在させるように分散したシートである。
【0036】
この実施の形態では、カバーシート10を透明性および防傷性に共に優れるアクリル系樹脂から構成しているが、ポリカーボネート系樹脂等の他の熱可塑性樹脂から構成しても良い。また、熱溶着性樹脂シート21は、太陽光にて黄変しにくいアクリル系樹脂から成るが、それに変えて、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂およびEVA系樹脂の群から選択される1または2以上の樹脂から構成しても良い。また、バックアップシート30を、樹脂との溶融接着性に優れるABS樹脂から構成しているが、耐熱性に優れるポリカーボネート系樹脂等の他の熱可塑性樹脂から構成しても良い。加飾エリア22’中の顔料23には、平均粒径0.1μmのものを用いている。平均粒径0.5μm以下の顔料23であれば、他の平均粒径のものを用いても良い。ただし、顔料23を熱溶着性樹脂シート21の厚さ方向により均一に分散するには、顔料23の平均粒径を0.15μm以下とするのが好ましい。
【0037】
(2)成形体の製造方法
図9は、図6に示す半割成形体の製造過程を模式的に示す図である。
【0038】
図3を参照しながら説明した製造方法にて加飾シート1を得た後、当該加飾シート1を加熱して軟化させ、凹状金型51と凸状金型52とから構成される金型50の凹状金型51にセットして、凸状金型52を型締めする(A)。これによって、半割成形体40の正面表側の曲面に沿った形状の加飾シート1が得られる(B)。図9は、凹状金型51に1個の凹部を備え、凸状金型52に1個の凸部を備えるように、成形の状況を図示している。しかし、実際には、凹状金型51は複数の凹部を備え、凸状金型52は当該凹部と同数の凸部を備えている。このため、一回の成形にて、加飾シート1は、複数の成形部位を備える。なお、加飾シート1を、真空成形法、圧空成形法あるいは圧空真空成形法により(B)に示す形状に成形しても良い。
【0039】
次に、成形後の加飾シート1を別の金型60の凹状金型61に入れて、これと対向する金型62(金型60の一部)をその上からセットする(C)。凹状金型61と金型62とを合わせた状態では、成形後の加飾シート1と金型62との間には、樹脂成形体41を成形するための空間Vが存在する。金型62は、溶融状態の熱可塑性樹脂を空間V内に射出するための1または2以上の樹脂供給路を備える。凹状金型61と金型62とを合わせた後、当該樹脂供給路から、矢印Fの方向に溶融樹脂を射出する。樹脂成形体41を構成する樹脂は、製品に応じて、如何なる種類の熱可塑性樹脂でも良い。射出成形後、金型60を開き、成形品を取り出す(D)。最後に、破線Gで示すように、加飾シート1の不要な部分をトリミングする。なお、トリミング工程は、凹状金型61にセットする前に行っても良い。以上の工程にて、半割成形体40が得られる。
【0040】
<3.その他の実施の形態>
以上、本発明に係る加飾シートおよび加飾シート付き成形体の各実施の形態について説明したが、本発明は、上述の各実施の形態に限定されず、種々変更を施して実施することができる。例えば、加飾シート付き成形体は、半割成形体40に限定されず、電子機器のキーパネル、電化製品のカバー等の各種樹脂製の成形体に応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、3D成形用の加飾シートおよびそれを備える成形体として用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 加飾シート
10 カバーシート
20 加飾接着シート
21 熱溶着性樹脂シート
22,22’ 加飾エリア
23 顔料
30 バックアップシート
40 半割成形体(加飾シート付き成形体)
41 樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ50〜150μmの透明な樹脂製のカバーシートと、
疎水性の樹脂から成る厚さ12〜100μmの熱溶着性樹脂シートの加飾エリアの内部に、体積換算にて平均粒径0.5μm以下の粒子から成る顔料を、上記熱溶着性樹脂シートの厚さ方向の全ての位置に存在させるように分散した加飾接着シートと、
厚さ75〜500μmの樹脂製のバックアップシートと、
をその順に積層して成る加飾シート。
【請求項2】
前記熱溶着性樹脂シートは、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂およびエチレン酢酸共重合樹脂の群から選択される1または2以上の樹脂から成ることを特徴とする請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記顔料の前記平均粒径は、0.15μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記カバーシートをアクリル系樹脂から成るシートとし、
前記バックアップシートをABS系樹脂から成るシートとすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加飾シート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の加飾シートの前記バックアップシート側に樹脂成形体を固着して成ることを特徴とする加飾シート付き成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−171315(P2012−171315A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38099(P2011−38099)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】