説明

加飾シート及び加飾樹脂成形品

【課題】加飾樹脂成形品の表面に、特異な立体的深み感を有する意匠を付与することのできる加飾シート、及び該加飾シートを用いた加飾樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】少なくとも透明基材フィルムと着色層とを有し、該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有する加飾シートであって、該着色層を含め該着色層より該透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率が20%以下であり、かつ、該エンボスの深さが10〜40μmである加飾シート、及びそれを用いて作製した加飾樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾シート及び加飾樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形物の表面を加飾した加飾樹脂成形品が建築内外装材、建具、家具、携帯電話部品、車両内外装部品等の各種用途で使用されている。例えば、特許文献1には、バッカー層を積層した成形用加飾シートを金型内壁面に形成した後、成形用樹脂を射出成形することにより、シートで表面が被覆された成形品を製造する方法、所謂インサート成形により成形品を製造する方法が提案されている。
このインサート成形において、通常、成形用加飾シートに施される模様としては、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダー樹脂とし、グラビア印刷等により平面的絵柄として形成されており、絵柄の耐久性(耐摩耗性等)を出すため、基材シートの裏面側(樹脂成形物側)に絵柄は印刷される。したがって、インサート成形品の表面は平坦、且つ均一な光沢の外観となり、そのままでは成形品表面に凹凸の意匠感を得ることはできない。
これまで様々な方法で成形品表面に凹凸の意匠感を付与する方法が提案されているが(例えば、特許文献2)、より立体的深み感を有する意匠を付与するための方法は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平8−2550号公報
【特許文献2】特開2010−82912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況下で、加飾樹脂成形品の表面に、特異な立体的深み感を有する意匠を付与することのできる加飾シート、及び該加飾シートを用いた加飾樹脂成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の加飾シート及び加飾樹脂成形品を提供するものである。
<1>
少なくとも透明基材フィルムと着色層とを有し、該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有する加飾シートであって、
該着色層を含め該着色層より該透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率が20%以下であり、かつ
該エンボスの深さが10〜40μmである、加飾シート。
<2>
少なくとも透明基材フィルム及び着色層を有する加飾層と、射出樹脂とを有する加飾樹脂成形品であって、
該加飾層と該射出樹脂の位置関係が、透明基材フィルム、着色層、射出樹脂の順となるような位置関係であり、
前記加飾層が、該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有し、
該着色層を含め該着色層より該透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率が20%以下であり、かつ
該エンボスの深さが5〜20μmである、加飾樹脂成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来表現できなかった特異な立体的深み感を有する意匠を加飾樹脂成形品に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の加飾シートの一つの態様の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.加飾シート
本発明の加飾シートは、少なくとも透明基材フィルムと着色層とを有し、該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有する加飾シートである。本発明の加飾シートにおいて、着色層を含め着色層より透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率は20%以下であり、かつ、エンボスの深さは10〜40μmである。
本発明の加飾シートは、可視光波長領域における全光線透過率が20%以下で、エンボス深さが10〜40μmとすることで、両者が相俟って、従来に無い特異な立体的深み感を有する意匠を発現することができる。
【0009】
本発明において、「着色層を含め着色層より透明基材フィルム側に存在する全層」には、その定義上、少なくとも着色層と透明基材フィルムが含まれるが、加飾シートの層構成によっては、それら以外の層もさらに含む場合がある。例えば、後述する接着剤層が透明基材フィルムと着色層の間に設けられている場合には、当該接着剤層も「着色層を含め着色層より透明基材フィルム側に存在する全層」に含まれることになる。一方、後述する支持フィルムは、着色層より透明基材フィルム側に存在しないため、「着色層を含め着色層より透明基材フィルム側に存在する全層」に含まれない。
本発明の加飾シートにおいて、着色層を含め着色層より透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率は20%以下であり、好ましくは15%以下である。前記全光線透過率が20%を超えると、エンボス加工を施しても、特異な立体的深み感を有する意匠が得られなくなる恐れがある。前記全光線透過率は、着色層に用いる着色剤の種類やその量、又は着色層の厚さなどを変更することで、制御することができる。なお、ここでいう全光線透過率とは、日本工業規格Z8722に記載された方法に基づいて測定した分光透過率値である。
【0010】
本発明の加飾シートは、上述した透明基材フィルム及び着色層に加え、必要に応じて、それら以外の層を更に有していてもよい。
以下に、本発明の加飾シートの構成について図1を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の加飾シートの一つの態様の断面を示す模式図であり、当該様態において、加飾シート10は、透明基材フィルム11と着色層12とを有しており、該着色層12の側から該透明基材フィルム11の側に向けてのエンボス13を有している。なお、本発明は当該様態に限定されるわけではない。
【0011】
1−1.透明基材フィルム
加飾シート10は透明基材フィルム11を有する。透明基材フィルム11としては、熱可塑性樹脂フィルムが好適に使用される。加飾シート10を成形して使用する際に、成形性が得易いからである。
また、透明基材フィルム11は透明性を有することが必要である。加飾シート10を用いた成形品は透明基材フィルム11側から観察されるためである。なお、ここでいう透明には内部の着色層12が視認される程度の半透明(例えば、艶消し調の乳白色透明)も含むものである。
【0012】
透明基材フィルム11に使用される熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体)、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はポリエチレンテレフタレート、成形性ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、又はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂等が好ましい。
これらの中でも、アクリル樹脂、成形性ポリエステル樹脂等が特に好ましい。
【0013】
アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等のアクリル樹脂を単体で又は2種以上混合して用いる。なお、本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
また、成形性ポリエステル樹脂としては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、非晶性ポリエステル等が使用できる。上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントに高結晶で高融点の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントにはガラス転移温度が−70℃以下の非晶性ポリエーテル等を使用したブロックポリマー等があり、該高結晶性で高融点の芳香族ポリエステルには、例えばポリブチレンテレフタレートが使用され、該非晶性ポリエーテルには、ポリテトラメチレングリコール等が使用される。また、前記非晶質ポリエステルとしては、代表的には、エチレングリコール−1,4−シクロヘキサンジメタノール−テレフタル酸共重合体がある。
【0014】
透明基材フィルム11としては、例えば上記の様な樹脂からなる単層又は多層構成の樹脂フィルムを使用する。また、透明基材フィルム11中には、必要に応じて適宜、安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の各種添加剤を、物性調整のために添加してもよい。
なお、透明基材フィルム11の厚みは、コスト面、インサート成形品に対する要求性能、成形用加飾シートの成形適性等の観点から、通常30〜300μm程度(多層の場合は総厚)が好ましいが、特に限定されない。なお、ここで言う透明基材フィルム11の厚みとは、エンボス13が施されていない部分における厚みを意味する。
また、透明基材フィルム11の表面、裏面、又は表裏両面には、透明基材フィルム11に接する他層との密着性向上のために、必要に応じ適宜、コロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の易接着処理を施してもよい。
【0015】
1−2.着色層
加飾シート10は着色層12を有する。着色層12は、着色層形成用のインキを、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等の従来公知の印刷方法で透明基材フィルム11上に印刷することにより形成することができる。あるいは、着色層形成用の樹脂組成物と透明基材フィルム形成用の樹脂組成物と共押出しすることにより、透明基材フィルム11上に着色層12を形成してもよいし、着色層形成用のフィルムを予め作製しておいてから、当該着色層形成用のフィルムと透明基材フィルム11とラミネートすることにより、透明基材フィルム11上に着色層12を形成してもよい。
上記着色層形成用のインキは、バインダー等からなるビヒクル、顔料や染料等の着色剤、これに適宜加える各種添加剤からなるが、バインダーの樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等より選択される1種単独の樹脂、又は2種以上の混合樹脂が用いられる。
上記着色層形成用の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に着色剤を添加したものであり、当該熱可塑性樹脂としては、透明基材フィルム11に使用される熱可塑性樹脂を使用することができる。また、上記着色層形成用のフィルムは、着色層形成用の樹脂組成物をフィルム状に成形することで作製することができる。
【0016】
上述したとおり、本発明の加飾シートにおいて、着色層を含め着色層より透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率は、着色層に用いる着色剤の種類やその量、又は着色層の厚さなどを変更することで、制御することができる。
着色剤としては、カーボンブラック、鉄黒等の無機顔料が好ましく、着色層12中における着色剤の含有量としては、10〜50質量%が好ましい。着色層を、黒色又は略黒色とすることで他色にはないカーボン調の特異な立体的深み感を有する意匠とすることができる。
また、着色層12の厚さは、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.5〜10μmである。なお、ここで言う着色層12の厚さとは、エンボス13が施されていない部分における厚さを意味する。
【0017】
1−3.エンボス
加飾シート10は、着色層12の側から透明基材フィルム11の側に向けてのエンボス13を有する。
加飾シート10にエンボス加工を施す方法としては、加熱加圧によるエンボス加工法が挙げられる。加熱加圧によるエンボス加工法は着色層12及び透明樹脂フィルム11の表面を加熱軟化させ、エンボス版で加圧してエンボス版の凹凸模様を賦形して、冷却し、固定化する方法であって、公知の枚葉式又は輪転式のエンボス機を用いることができる。
加熱加圧によるエンボス加工法では、着色層12が形成されている透明基材フィルム11上にエンボス加工を行う方法と、透明基材フィルム11に着色層12を塗工する工程で同時にエンボス加工を行う方法がある。
【0018】
エンボス13の深さは、10〜40μmの範囲である。加飾シート10は、加飾樹脂成形品の加飾層として成形加工されるが、その過程で熱と応力でエンボス13が平坦化することを考慮して、加飾シート10の製造時では大き目のエンボス深さを与えておくことで、加飾樹脂成形品として特異な立体的深み感を有する意匠を付与することができる。10μm未満であれば、加飾樹脂成形品に、特異な立体的深み感を有する意匠を付与することができない恐れがある。40μmを超えると着色層と射出樹脂との間に空隙が残り、密着性不良や耐久試験後の外観不良等物性低下となる恐れがある。また、表面の平滑性が損なわれた結果、意匠性が低下してしまう。更に後述する支持フィルムを設ける場合は、エンボスを付与した着色層と支持フィルム間に空隙が生じやすく、前述同様、物性低下となる恐れがある。エンボス13の深さは、エンボス版の版深によって容易に制御できる。ここで、エンボス13の深さは、(株)東京精密社製「ハンディサーフE35A」を使用し、測定されたものである。
また、エンボス13は着色層12の厚さよりも浅くなるように設けてもよいが、図1に示すように、着色層12の厚さよりも深くなるように設けた方が意匠性の点からはより好ましい。また、着色層12のエンボス加工により押し込まれる部分の厚さは、エンボス加工を受けていない部分と比較して薄くなる場合も有る。
【0019】
1−4.支持フィルム
加飾シート10は、所望により、支持フィルム(図示せず)を有してもよい。前記支持フィルムが設けられる場合には、加飾シート10が透明基材フィルム11と、着色層12と、支持フィルムとをこの順に有するように設けられる。
支持フィルムの材料としては、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。これらの樹脂の内、ABS樹脂及びポリプロピレン樹脂が特に好ましい。また、射出樹脂がABS樹脂である場合はABS樹脂が好ましく、射出樹脂がポリプロピレン樹脂である場合はポリプロピレン樹脂が好ましい。
支持フィルムは、加飾シート10を補強し、一体化物の形態を保持するために積層されるので0.1〜1.0mm程度の厚さが好ましい。
【0020】
1−5.接着剤層
加飾シート10は、所望により、接着剤層(図示せず)を有してもよい。前記接着剤層は、透明基材フィルム11と着色層12の間や、支持フィルムと着色層12の間に設けることで、層間の接着性を向上させることができる。
【0021】
前記接着剤層の材料としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール(ブチラール樹脂)、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレンや塩素化したポリオレフィン、α−メチルスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン等のアセタール樹脂、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリイミド、ポリ乳酸、ポリビニルアセタール樹脂、液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらは1種単独でも又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上組み合わせる場合は、これらの樹脂を構成するモノマーの共重合体でもよいし、それぞれの樹脂を混合して用いてもよい。また硬化性樹脂を用いることもでき、イソシアネートを硬化剤とする2液硬化型ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等も用いることができる。
これらのうち、特に支持フィルムとしてABS樹脂を用いる場合には、ABS樹脂と接着性の高い、(メタ)アクリル系樹脂又は塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましい。
接着剤層は、グラビア印刷、ロールコート等の公知の印刷又は塗工法により形成する。また、接着剤層の厚さは特に制限は無いが、通常は1〜50μm程度である。
【0022】
2.加飾樹脂成形品
本発明の加飾樹脂成形品は、本発明の加飾シートを用いて、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法などの各種射出成形法、好ましくはインサート成形法及び射出成形同時加飾法により作製されるものである。
本発明の加飾樹脂成形品は、少なくとも透明基材フィルム及び着色層を有する加飾層と、射出樹脂とを有する加飾樹脂成形品であって、該加飾層と該射出樹脂の位置関係が、透明基材フィルム、着色層、射出樹脂の順となるような位置関係であり、該加飾層は該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有し、該着色層を含め該着色層より該透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率が20%以下であり、かつ、該エンボスの深さが5〜20μmである。
本発明の加飾樹脂成形品の加飾層は、本発明の加飾シートから形成されるものであり、加飾樹脂成形品の加飾層においてエンボスの深さが5〜20μmであるのは、元々は深さ10〜40μmのエンボスを有する加飾シートが、加飾樹脂成形品の製造過程で、熱と応力の作用で平坦化して深さが5〜20μmである加飾層として形成されるためである。
また、支持フィルムを有する加飾シートを用いて加飾樹脂成形品を作製した場合には、透明基材フィルム、着色層、支持フィルム、射出樹脂の順となるように、加飾層が支持フィルムを有することになる。
なお、本願明細書において、「A,B,Cの順となるように」等の記載は、A,B,Cの位置関係についてそれらの順序だけを規定するものであって、AとB、BとCが必ずしも接触しているとは限らない。本発明の加飾樹脂成形品において、着色層と射出樹脂、着色層と支持フィルム、支持フィルムと射出樹脂などの間には必要に応じて接着剤層などの他の層を設けてもよい。
【0023】
前記射出樹脂は、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が代表的である。また、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂なども用途に応じ用いることができる。
【0024】
インサート成形法では、真空成形工程において、本発明の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
射出成形同時加飾法においては、本発明の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
なお、射出成形同時加飾法では、射出樹脂による熱圧を加飾シートが受けるため、平板に近く、加飾シートの絞りが小さい場合には、加飾シートは予熱してもしなくてもよい。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
透明基材フィルムである厚さ125μmのハイグロス透明アクリルフィルムの片面に、アクリル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂をバインダーとし、これにカーボンブラックを分散させた黒色インキ(カーボンブラックの濃度:30重量%)をグラビア印刷して着色層(厚さ2μm)を形成した。この透明基材フィルムと着色層からなる全層の全光線透過率を測定すると、可視光波長領域において、3%であることが確認された。
次に、前記着色層上に版深が70μmのエンボス版を用いてエンボス加工を行った。このようにして得られた加飾シートのエンボスの深さを測定すると、37μmであることが確認された。
【0027】
次に、上記の通り作製した加飾シートを用い、インサート成形により加飾樹脂成形品を作製した。具体的には、加飾シートを真空成形機(布施真空社製「VPF−T1」)に配し、ヒーターにて表面温度が160℃になるまで加熱し、真空成形を行った。真空成形品を取り出し、余分な部分をトリミングした後、当該トリミング後の加飾シートを射出成形金型にはめ込み、印刷層側から樹脂を射出して、加飾樹脂成形品を作製した。射出樹脂としては、ポリカーボネート(以下「PC」と記載する。)とABS樹脂の混合物(商品名:サイコロイIP1000 GEプラスチック製)を用いた。加飾樹脂成形品の加飾層(真空成形後の加飾シート)のエンボス深さは18μmであった。
このようにして製造された加飾樹脂成形品は、カーボン調の特異な立体的深み感を有する意匠を呈していた。
【0028】
実施例2
透明基材フィルムである厚さ125μmのハイグロス透明アクリルフィルムの片面に、アクリル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂をバインダーとし、これにカーボンブラックを分散させた黒色インキ(カーボンブラックの濃度:30重量%)をグラビア印刷して着色層(厚さ1μm)を形成した。この透明基材フィルムと着色層からなる全層の全光線透過率を測定すると、可視光波長領域において、6%であることが確認された。
次に、前記着色層上に版深が30μmのエンボス版を用いてエンボス加工を行った。このようにして得られた加飾シートのエンボスの深さを測定すると、12μmであることが確認された。
【0029】
次に、上記の通り作製した加飾シートを真空成形機(布施真空社製「VPF−T1」)に配し、ヒーターにて表面温度が160℃になるまで加熱し、真空成形を行った。真空成形品を取り出し、トリミングした後、インサート成形を行った。射出樹脂としては、ポリカーボネート(以下「PC」と記載する。)とABS樹脂の混合物(商品名:サイコロイIP1000 GEプラスチック製)を用いた。加飾樹脂成形品の加飾層(真空成形後の加飾シート)のエンボス深さは8μmであった。
このようにして製造された加飾樹脂成形品は、カーボン調の特異な立体的深み感を有する意匠を呈していた。
【0030】
比較例1
実施例1において、エンボス加工を施さなかった以外は実施例1と同様にして加飾シートを作製した。該加飾シートを用いて実施例1と同様の方法で製造した加飾樹脂成形品は、立体感が全く無く、意匠性の低いものであった。
【0031】
比較例2
実施例1において、黒色インキにおけるカーボンブラックの濃度を3%にした以外は実施例1と同様にして加飾シートを得た。この加飾シートの透明基材フィルムと着色層からなる全層の全光線透過率を測定すると、25%であった。該加飾シートを用いて実施例1と同様の方法で製造した加飾樹脂成形品には、特異な立体的深み感を有する意匠が表現されなかった。
【0032】
比較例3
実施例1において、版深が15μmのエンボス版を用いてエンボス加工を行った以外は実施例1と同様にして加飾シートを得た。このようにして得た加飾シートは、エンボスの深さが6μmであった。該加飾シートを用いて実施例1と同様の方法で製造した加飾樹脂成形品は、特異な立体的深み感を有する意匠が表現されなかった。なお、加飾樹脂成形品の加飾層(真空成形後の加飾シート)のエンボス深さは3μmであった。
【0033】
比較例4
実施例1において、版深が100μmのエンボス版を用いてエンボス加工を行った以外は実施例1と同様にして加飾シートを得た。このようにして得た加飾シートは、エンボスの深さが54μmであった。
該加飾シートを用いて実施例1と同様の方法で製造した加飾樹脂成形品は、シート層間に生じた空隙により、表面に凹凸が発生し平滑性が損なわれ、JISK5600記載のクロスカットテープ密着試験においても唯一表層の剥離が発生した。加飾樹脂成形品の加飾層(真空成形後の加飾シート)のエンボス深さは22μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の加飾シートを加飾樹脂成形品に用いることで、該加飾樹脂成形品に特異な立体的深み感を有する意匠を付与することができるため、該加飾樹脂成形品は建築内外装材、建具、家具、携帯電話部品、車両内外装部品等の各種用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 加飾シート
11 透明基材フィルム
12 着色層
13 エンボス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも透明基材フィルムと着色層とを有し、該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有する加飾シートであって、
該着色層を含め該着色層より該透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率が20%以下であり、かつ
該エンボスの深さが10〜40μmである、加飾シート。
【請求項2】
透明基材フィルム、着色層、支持フィルムの順となるように、さらに支持フィルムを有する、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
少なくとも透明基材フィルム及び着色層を有する加飾層と、射出樹脂とを有する加飾樹脂成形品であって、
該加飾層と該射出樹脂の位置関係が、透明基材フィルム、着色層、射出樹脂の順となるような位置関係であり、
該加飾層が、該着色層の側から該透明基材フィルムの側に向けてのエンボスを有し、
該着色層を含め該着色層より該透明基材フィルム側に存在する全層の可視光波長領域における全光線透過率が20%以下であり、かつ
該エンボスの深さが5〜20μmである、加飾樹脂成形品。
【請求項4】
透明基材フィルム、着色層、支持フィルム、射出樹脂の順となるように、前記加飾層がさらに支持フィルムを有する、請求項3に記載の加飾樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−213929(P2012−213929A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81151(P2011−81151)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】