説明

加飾成形体の製法およびそれによって得られる加飾成形体

【課題】
立体的に視認される印象深い模様を少ない工程で、しかも短時間に成形体に付与することができる優れた加飾成形体の製法と、それによって得られる加飾成形体を提供する。
【解決手段】
透明な成形体の裏面に、複数の区画を有する模様を印刷し、その印刷模様の上に重なるように、上記複数の区画のうち少なくとも2区画が異なる方向に延びる微細な凹凸が形成されるよう、直接もしくは箔を挟んで型押しを行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な成形体表面において、模様が立体的に視認される加飾成形体の製法およびそれによって得られる模様が立体的に視認される加飾成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料を収容したコンパクト容器や口紅容器等には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインである、といった意匠性も要求される。このような要求に応える技術として、透明な成形体の表面あるいは裏面から転写,インモールド,印刷等を行い、所望の模様を付与して意匠性を高めることが一般的に行なわれている。しかし、このような模様は平面的に表されるものであり、印象に残る特徴的なデザインを施すには限界がある。そこで、模様を立体的に表し興趣に富む模様を付与させる技術として、例えば、レーザで形成される微細な透かし模様と凹凸模様を組み合わせるものが開示されている(例えば、参考文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−334122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のものは、立体感あふれる美麗な透かし模様が成形体に付与されるものの、インモールド転写成形等において、透かし模様形成予定部に、予め微細な凹凸形状を付与しておく必要があり、また、次工程において、上記凹凸形状付与部に、レーザによる透かし模様を付与しなければならず、工程が複雑で、レーザによる加工に時間が長くかかるという問題があり、さらなる改良が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストで簡単に、しかも短時間に立体感あふれる美麗な模様を成形することができる、優れた加飾成形体の製法と、それによって得られる加飾成形体の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の加飾成形体の製法は、所定形状が付与された透明な成形体を準備する工程と、上記成形体の裏面に印刷によって複数の区画を有する模様を付与する印刷模様付与工程と、上記印刷模様に対応する領域に、上記複数の区画のうち少なくとも2区画において、互いに異なる方向に延びる微細凹凸を付与するよう形成された模様付与部が形成されている版を用いて、上記印刷模様の上に成形体の裏面方向から重ねて、直接もしくは箔を挟んで型押しを行い、上記成形体の裏面に上記印刷模様の複数の区画のうち少なくとも2区画において互いに異なる方向に延びる微細凹凸を形成する微細凹凸形成工程とを備え、成形体表面において、上記印刷模様が立体的に視認されるようにしたことを第1の要旨とする。
【0007】
なお、本発明において、模様が立体的に視認されるとは、ホログラム調模様(見る角度によって現出する、立体感のある模様)だけでなく、模様が浮き上がって見える、あるいは模様に奥行き感が感じられるものなどを含む意味である。
【0008】
さらに、本発明は、上記第1の要旨である製法によって得られる加飾成形体であって、成形体裏面に複数の区画を有する印刷模様が形成され、その複数の区画のうち少なくとも2区画において、互いに異なる方向に延びる微細凹凸が形成されており、成形体表面において、上記印刷模様が立体的に視認されるようになっていることを特徴とする加飾成形体を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、透明な成形体の裏面の少なくとも一部に印刷によって複数の区画を有する模様を付与し、その印刷模様部分に重なるように箔押しまたは型押しを行うことにより、上記成形体の裏面に区画ごとに異なる方向に延びる微細な凹凸を形成し、上記成形体を通過する光の経路を微妙に変化させて、成形体表面において、上記印刷模様が立体的に視認されるようにしたものである。この製法によれば、立体的に視認される印象深い模様を少ない工程で、しかも短時間に成形体に付与することができ、作業効率がよい。特に、従来、ホログラム箔やシールを用いての形成が困難であった極小面積(微細模様)にも立体的に視認される模様を容易に付与することができるという利点を有する。
【0010】
そして、成形体に印刷によって印刷模様を形成するため、イメージどおりの色彩模様を容易に付与することができる。特に、単なる箔押しでは困難である複数の色彩を用いた複雑な色彩模様の付与が可能であるため、興趣に富んだ印象深いデザインの成形体を容易に製造することができる。また、その色彩模様の変更が容易であるため、流行やニーズに応じた多種多様なデザインの提供が可能となる。さらに、微細凹凸の付与に先立って、比較的平面な(微細凹凸が形成されていない)状態の成形体への印刷模様の形成を行うため、色むらや欠けが発生しない所望どおりの印刷模様を成形体に付与することができる。
【0011】
しかも、本発明において、上記微細凹凸は、たとえば、彫刻や腐食などにより反転微細凹凸が形成されている版を用いて箔押しまたは型押しを行うことで瞬時に形成することができる。そのため、レーザ照射で微細凹凸を形成するものと比較すると、製造にかかる時間を大幅に削減することができ、大量製造が可能となる。また、成形体裏面に印刷模様および微細凹凸を付与するから、成形体表面から立体的に視認される模様が、経時的に摩耗・損傷したり剥げたりすることがなく、美麗な外観を長期間に渡って保つことができる。したがって、本発明による加飾成形体は、長期に渡って立体的に視認される模様を美麗に保つことができ、店頭において、または使用時に興趣に富むものとなる。
【0012】
また、本発明のなかでも、特に、成形体の裏面に微細な凹凸を形成する微細凹凸形成工程に続いて、成形体の裏面に金属薄膜層を形成する工程を加えたものは、成形体を透った光の経路が微細凹凸だけでなく、その金属薄膜層での反射によってさらに変化するため、成形体表面において、立体的に視認される模様がより浮き上がってみえるなど、一層興趣に富んだものとなる。
【0013】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記印刷模様付与工程が、複数の色彩を有する色彩模様を付与するものは、従来の箔押し等の工程では困難であった多彩色の模様を付与できるのはもちろん、次に付与する上記微細凹凸の深さや延びる方向の向き等の特性を考慮して、その特性に合うように色彩に変化を持たせることができ、より立体的に視認できる模様を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の斜視図である。
【図2】図1のX−X’断面図である。
【図3】上記実施例における蓋体の分解斜視図である。
【図4】上記実施例における立体模様の説明図である。
【図5】(a)、(b)はともに、上記実施例における立体模様の形成方法の説明図である。
【図6】本発明の他の実施例の説明図である。
【図7】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はいずれも、本発明の他の実施例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明を実施するための形態であるコンパクト容器の斜視図であり、図2は、図1のX−X’断面図である。また、図3は、その部分的な分解斜視図である。なお、図2において、各層の断面は模式的であり、実際の厚みとは異なっている(以下の図においても同じ)。そして、これらの図において、1は本体部で、図2に示すように、その内側の向かって左側に設けられた凹部2には、ファンデーション等の化粧料が収容保持されるようになっている。また、向かって右側に設けられた凹部3には、化粧料を肌に塗布するためのパフが収容保持されるようになっている。
【0017】
そして、上記本体部1の上部開口を蓋する蓋体4は、その分解斜視図である図3に示すように、蓋枠体6と、その上面全面に貼着される金属箔7と、この金属箔7が貼着された蓋枠体6の上面に接合一体化される蓋板8とで構成されている。
【0018】
上記蓋枠体6の後端部には、下向きにヒンジ部6aが突設されており、このヒンジ部6aが本体部1の後端部を係合することにより、図1において鎖線で示すように、蓋体4が上方に開くようになっている。また、上記蓋枠体6の内側面には、鏡5が貼着されている(図2参照)。
【0019】
また、上記蓋板8は、透明アクリル樹脂成形体からなる透明部材で構成されており、その裏面に、印刷による彩色模様(花模様S)と、その花模様Sの上に微細凹凸αが形成されている。そして、この微細凹凸αが形成された花模様Sが、透明な蓋板8の表面側において、立体的に視認される模様P(以下「立体模様P」とする)になっている。なお、図2において、花模様Sは黒塗り部分で示している。
【0020】
この蓋板8の立体模様Pの拡大図を図4に示す。この立体模様Pをより詳しく説明すると、まず、蓋板8の裏面に、花模様Sの萼部分(a)が緑色に、花びら部分が花の外側から中心に向かって色彩が淡くなるピンク色に着色された複数の区画を有する模様が印刷されている(色彩に関しては図示せず)。そして、その印刷された花模様Sに重ねて、区画(例えば、花びらの一枚b,b’)ごとに延びる方向が異なる筋状の微細凹凸(凹条が平行して同じ方向に延びる)が形成され、蓋板8の表面において、立体的に視認できるようになっている。
【0021】
なお、上記立体模様Pは、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、複数の区画を有する模様(花模様S)を付与するための印刷データQを準備し、その印刷データQに基づいて、上記樹脂成形体の裏面にインクジェット印刷により複数の区画および色彩を有する花模様Sを印刷する。つぎに、区画ごとに異なる方向に延びる微細凹凸を施すためのエンボス版(図示せず)を準備する。このエンボス版は、上記印刷データQを利用して作製することができるので、作業の効率化を図るとともに、印刷模様と微細凹凸の位置を正確に合わせることが容易となる。
【0022】
このエンボス板について、より詳しく説明すると、図4において、蓋板8側の花模様Sの最外の輪郭線より外側の部分をすべて黒に塗り潰したフォトマスクを用意し、銅板の上にネガ型レジスト層を形成し、用意したフォトマスクをこのレジスト層上にのせて露光する。そして、現像により非露光部(フォトマスクの黒い部分)を除去し、残った露出部分に区画ごとに異なる方向に延びる微細凹凸を形成するための腐食を行うことにより、エンボス版9を得ることができる。そして、図5(a)に示すように、このエンボス版9を加熱し、蓋板8の裏面から印刷された花模様Sに重なるよう型押しを行うと、図5(b)に示すように、印刷模様(花模様S)に重ねて、少なくとも2区画において異なる方向に延びる微細凹凸(α)を形成することができる。これにより、蓋板8の表面に、立体模様Pが現れるようになる。
【0023】
なお、上記の印刷には、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、水圧転写法、含浸印刷、インモールドデコレーションなどを用いることができる。なかでも、熱に強い、あるいは熱によって発色特性が高まるインクを用いて印刷を行うことが好ましい。また、本発明において、印刷模様における「複数の色彩」とは、色相,彩度,明度のいずれか一つでも異なる色を2以上有することをいい、グラデーションも含む意味である。
【0024】
そして、エンボス版は、腐食法に限らず、彫刻法などによっても作製することができ、その版の材質も銅に限らず、鉄、真鍮、マグネシウムなどを用いることができる。また、上記微細凹凸の延びる方向は、区画ごとに全て異なっているとより立体感を現すことができるためより好ましいが、図6に示すように、複数の区画のうち、少なくとも2区画が異なっていれば充分に立体感を演出することができる。さらに、複数の区画のなかに微細凹凸が形成されていない区画があってもよい。
【0025】
なお、本発明において、微細凹凸の「微細」の程度は、微細凹凸の各凹部が、深さ1〜10μmの線状もしくは点状に、型押しによって形成されることが、本発明の優位性を示す範囲となり、好適である。すなわち、この範囲を外れると、立体模様Pが立体的に見えにくくなり、また、成形体の強度にも影響を及ぼすことが考えられるからである。
【0026】
この微細凹凸は、図7(a)〜(c)に示すように、実線,点線,破線等が規則的に並ぶことによって筋状に形成されるが、いずれもその延びる方向が重要である。また、各線が直線でなく、図7(d),(e)に示すように、屈曲,湾曲していてもよい。
【0027】
そして、上記立体模様Pが現れた蓋板8は、上記金属箔7が貼着された蓋枠体6と接合一体化されている。なお、上記接合は、上記金属箔7の上面もしくは蓋板8の裏面に、接着剤を塗布したり、接着テープ等を用いることによって行われる。もちろん、両者に係合部を設けて互いに係合させることにより、両者を接合一体化しても差し支えない。
【0028】
この構成によれば、上記蓋板8の立体模様Pは、その下の金属箔7が透けて見えるため、異なる区画(例えば、花びらの一枚ごと)が、見る角度によってより異なる色調に光るようになっており、非常に立体的で美麗な模様となる。また、区画ごとに色彩および微細凹凸の延びる方向が異なるため、その区画ごとに立体的に見える度合い(奥行き感)が異なっており、さらに立体模様Pに遠近感をあたえている。
【0029】
そして、上記立体模様Pは、透明な蓋板8の裏面側から形成されており、蓋板8の表面自体は、本来の平滑性が維持されているため、この立体模様Pが経時的に摩耗・損傷したり、汚れたりすることがない。また、上記立体模様Pを構成する色彩模様は印刷によって簡単に付与することができ、その調整や変更も容易であり、さらに、上記立体模様Pを構成する微細凹凸は、エンボス版を型押しすることによって瞬時に付与することができることから、ニーズに合わせた商品展開が容易となるという利点を有する。
【0030】
また、少なくとも2区画において異なる方向に延びる微細凹凸は、複数の区画を有する色彩模様のデータを利用して行うため、形成が容易であり、また、複雑な手順なしに印刷された色彩模様に重ねることができるという利点を有する。
【0031】
そして、図1のものは、蓋板8が、無色透明なアクリル樹脂からなっているが、その他にもメタクリル樹脂(PMMA),アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS),アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂 (ABS),ポリプロピレン(PP),ポリエチレンテレフタレート (PET)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。ここで、本発明において「透明」とは、その裏面(内側)の模様を視認できれば足りるため、無色透明に限らず、有色であってもよい。
【0032】
また、図1のものは、立体模様Pにより立体感を与えるための金属薄膜層である金属箔7として、アルミニウム箔を用いているが、これに代えて、他の金属箔や金属光沢を有するフィルム等を用いることができる。また、ホログラム箔やオーロラ調シートといった、見る角度によって色調の変わる金属光沢を有するシートを用いるようにしてもよい。この場合、より多彩な印象の立体模様Pを表現できる。もちろん、立体模様Pの立体感がそれ程要求されない場合、特に金属箔7を用いる必要はない。
【0033】
さらに、図1のものは、成形体である蓋板8に金属箔をのせずに型押しを行っているが、これに代えて、金属箔をのせて型押し(いわゆる「箔押し」)を行うようにしてもよい。この場合も、より多彩な印象の立体模様Pを表現できるので好適である。また、エンボス版は腐食によって作製しているが、彫刻によって行うようにしてもよい。この場合、微細凹凸の深さを任意に設定できるため、より印象的な立体模様Pを表現できる。
【0034】
この場合も、上記の例のように、立体模様Pにより立体感を与えるための金属薄膜層である金属箔7を用いることができる。その場合、箔押しされた微細凹凸が金属箔7に反射するようになるため、立体模様Pにより立体感を与えることができる。
【0035】
なお、図1は、本発明をコンパクト容器に適用したものであるが、本発明を適用する成形品は、容器に限らず、各種の樹脂成形品、あるいは樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品等に適用可能である。例えば、携帯電話、文房具、家電製品、各種ケース等に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 本体部
4 蓋体
5 鏡
P 立体模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状が付与された透明な成形体を準備する工程と、上記成形体の裏面に印刷によって複数の区画を有する模様を付与する印刷模様付与工程と、上記印刷模様に対応する領域に、上記複数の区画のうち少なくとも2区画において、互いに異なる方向に延びる微細凹凸を付与するよう構成された模様付与部が形成されている版を用いて、上記印刷模様の上に成形体の裏面方向から重ねて、直接もしくは箔を挟んで型押しを行い、上記成形体の裏面に上記印刷模様の複数の区画のうち少なくとも2区画において互いに異なる方向に延びる微細凹凸を形成する微細凹凸形成工程とを備え、成形体表面において、上記印刷模様が立体的に視認されるようにしたことを特徴とする加飾成形体の製法。
【請求項2】
上記請求項1において、成形体の裏面に微細な凹凸を形成する微細凹凸形成工程に続いて、成形体の裏面に金属薄膜層を形成する工程を加えた請求項1記載の加飾成形体の製法。
【請求項3】
上記印刷模様付与工程が、複数の色彩模様を付与する工程である請求項1または2記載の加飾成形品の製法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製法によって得られる加飾成形体であって、成形体裏面に複数の区画を有する印刷模様が形成され、その複数の区画のうち少なくとも2区画において、互いに異なる方向に延びる微細凹凸が形成されており、成形体表面において、上記印刷模様が立体的に視認されるようになっていることを特徴とする加飾成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−173294(P2011−173294A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37982(P2010−37982)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】