説明

加飾成形品及びその製造方法

【課題】 金属蒸着部分の剥離や腐食を完全に防止する加飾成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 加飾成形品は、その外周縁部分においては、所定の樹脂を成形してなる下部樹脂層10上に、所定の印刷インクの塗布によりなる周縁印刷層20が積層される。その周縁印刷層20上に、所定の透明樹脂を成形してなる上部樹脂層60がさらに積層される。また、加飾成形品の中央部分においては、下部樹脂層10上に、印刷部分及び金属の蒸着部分を保護するために所定の樹脂が塗布されてなる保護膜層30が形成される。この保護膜層30上には、所定の金属が蒸着されてなる金属蒸着層40が積層される。この金属蒸着層40の一部の上には、所定の印刷インクの塗布によりなる印刷層50が積層される。この印刷層50及び金属蒸着層40上には、前述の透明樹脂からなる上部樹脂層60が積層される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾成形品及びその製造方法に関し、特に、船舶、車両又は建築物の外装等主に室外で使用される加飾成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
社名を表す装飾文字や、企業ロゴを表す図形・模様が施された加飾成形品が、自動車・船舶のエンブレム、道路標識、看板又は広告板といった様々な製品等に取り付けられ、加飾目的で数多く使用されている。
この加飾成形品は、主に樹脂からなるものであるため、加工が容易かつ軽量で丈夫であり、温度変化や水に対して強い耐性を備えていることから、外気や風雨に曝される屋外で使用される様々な対象物に用いられている。
また、この加飾成形品に透明樹脂を用い、この透明樹脂に金属を蒸着させたものがある。この金属を蒸着させた加飾成形品によると、透明樹脂を通して、所定の模様等を形成した金属を視認することができ、全体として、高級感や重厚感を高めることが可能となっている。
【0003】
ところで、透明樹脂に金属を蒸着させる場合には、その透明樹脂の蒸着面に予め所定の樹脂からなるアンダーコート層を成層し、金属の透明樹脂への蒸着性(密着性)を高めておく必要がある。
しかしながら、透明樹脂の蒸着面にアンダーコート層を成層した場合、アンダーコート層を通して金属蒸着部分を見ることになるために、その金属蒸着部分がくすんで見えたり、白っぽく見えたりし、金属特有の高級感や重厚感を損なってしまうという問題がある。
また、透明樹脂の凹凸部分にアンダーコート層の樹脂が入り込み、結果として、その部分に樹脂が厚く塗布されてしまい、凹凸部分の輪郭がぼけてしまうという問題もある。
さらに、このアンダーコート層を設ける工程において、ゴミや異物がこの層上に付着するおそれもある。
【0004】
上記のようなアンダーコート層に起因する様々な問題を解決するための金属蒸着方法として、ダイレクト蒸着法が提案されている。このダイレクト蒸着法は、アンダーコート層を設けることなく、透明樹脂表面に直接金属を蒸着可能とする金属蒸着方法である。
このように、透明樹脂表面に直接金属を蒸着することにより、透明樹脂側から蒸着金属の模様等が明瞭に視認でき、金属特有の高級感や重厚感を損なうことなく表すことができる。
【0005】
このようなダイレクト蒸着法を用いた加飾成形品に関するものとして、特許文献1に開示されるダイレクト蒸着性に優れた熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
この特許文献1に開示される熱可塑性樹脂組成物は、ゴム含有グラフト共重合体と硬質共重合体とを所定量で構成し、又はこれにさらにポリカーボネートを加えて構成することにより、この樹脂に対する金属の蒸着性(密着性)を高めてダイレクト蒸着を可能にしている。
【0006】
また、その他のダイレクト蒸着法を用いた加飾成形品に関するものとして、特許文献2に開示される熱可塑性樹脂組成物及びその成形品が提案されている。
この特許文献2に開示される熱可塑性樹脂組成物及びその成形品は、イミド化共重合体とグラフト共重合体とポリカーボネート樹脂と芳香族ビニル系共重合体とを所定量で構成することにより、特許文献1と同様に、樹脂・金属間の蒸着性(密着性)を高めている。
【特許文献1】特開2001−2869
【特許文献2】特開2002−20572
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の特許文献1,2に開示の樹脂組成物には、以下のような3つの問題点がある。
1つ目の問題点は、前述のように、特許文献1,2に開示の樹脂組成物は、金属との間の蒸着性(密着性)を高めてはいるものの、やはりアンダーコート層を設ける場合と比べて、その蒸着性が劣り、金属が剥離しやすく、水等が浸透し金属の腐食が生じてしまうという点である。
2つ目の問題点は、前述のように、特許文献1,2の樹脂組成物は、複数種類の樹脂を所定量混合するとともに、その混合樹脂の粒子径についても調整が必要であるため、製造するための労力、時間及びコストが莫大なものとなるという点である。
3つ目の問題点は、上記のように、特許文献1,2の樹脂組成物は、複数種類の樹脂を所定量混合した特殊な樹脂組成物であるため、アクリル等の従来の透明樹脂を用いる場合と同程度の優れた耐久性や美観を期待することが困難であるという点である。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、特殊な樹脂組成物を用いる必要がなく、アンダーコート層を成層せずに、樹脂に蒸着した金属の剥離や腐食を完全に防止する加飾成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明は、樹脂基材間に、金属を蒸着してなる金属蒸着層が成層される加飾成形品であって、外周縁を除く部分に金属蒸着層が成層された第1の基材と、外周縁部分で第1の基材と着接する第2の基材とを有し、金属蒸着層を第1及び第2の基材により密封して構成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明における加飾成形品によれば、金属蒸着層は、所定の樹脂によるアンダーコート層を成層することなく、第1の基材上に成層されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明における加飾成形品によれば、金属蒸着層の第2の基材側の面には、保護用の樹脂を塗布することを特徴とする。
【0012】
また、本発明における加飾成形品によれば、保護用の樹脂は、樹脂を硬化させるために硬化剤が不要な一液型塗料用樹脂、硬化剤が必要な二液型塗料用樹脂、又は紫外線を吸収すると硬化する紫外線硬化性樹脂の少なくとも1つを塗料とすることを特徴とする。
【0013】
また、発明における加飾成形品によれば、第1及び第2の基材間には、所定の絵柄等が表された印刷層が成層されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明における加飾成形品によれば、第1及び第2の基材の着接部分に、略同一色の印刷がなされていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明における加飾成形品の製造方法は、略平板状の第1の樹脂基材の一方の面上の所定部分に印刷を行って印刷層を成層する印刷工程と、印刷層上及び第1の樹脂基材の一方の面上において第1の樹脂基材の外周縁部分を除く部分に金属を蒸着する金属蒸着工程と、金属が蒸着された第1の樹脂基材と、略平板状の第2の樹脂基材とを、それぞれ外周縁部分で溶着して、金属蒸着部分を密封する溶着密封工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明における加飾成形品の製造方法によれば、金属蒸着工程は、印刷層上及び第1の樹脂基材の一方の面上において、所定の樹脂によるアンダーコート層を設けることなく、金属を蒸着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明における加飾成形品は、略板状の樹脂基材の一方の面上の外周縁を除く部分に金属蒸着層を設け、その金属が蒸着されていない外周縁部分と、他の略板状の樹脂基材の外周縁部分とを互いに溶着して、上記金属蒸着層を密封するように構成されるので、重厚で美観に富み、表現が多彩であるというデザイン面において優れた特性を備えるとともに、耐候性に富み、金属の剥離や腐食等の発生しないという品質保持面においても優れた特性を備える加飾成形品を提供することが可能となる。
従って、本発明における加飾成形品は、海水や風雨に曝される機会が多い船舶や車両等の外装に使用する場合であっても、金属蒸着層の剥離や腐食を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<構成>
図1は、本発明の実施の形態における加飾成形品の表面側を示す平面図である。
図に示すように、この加飾成形品は、表面側から見ると、印刷部分100と、金属の蒸着部分200とにより、所定の絵柄、模様、文字又はこれらの組み合わせが表現される。また、これら印刷部分100及び金属の蒸着部分200は、優れた耐候性を備えた樹脂により完全に被覆されており、その印刷部分100及び金属の蒸着部分200に水等が入り込まないように構成されている。
【0019】
図2は、その図1に示されるA−A’部分の側面断面図である。
本図においては、図に向かって上側が視認する表面側とし、下側が裏面側とする。以下、説明する図面においてもこれと同様であるものとする。
以下、加飾成形品を、表面側から見た外周縁部分と、この外周縁部分により囲まれる中央部分に分けて、それぞれの積層構造について説明を進める。
【0020】
図に示すように、本実施の形態における加飾成形品は、その外周縁部分においては、
所定の樹脂を成形してなる下部樹脂層10上に、所定の印刷インクの塗布よりなる周縁印刷層20が積層される。この周縁印刷層20は、前述の印刷部分100の一部又は全部を形成する。
また、この外周縁部分の周縁印刷層20上に、所定の透明樹脂を成形してなる上部樹脂層60がさらに積層される。
【0021】
また、加飾成形品の中央部分においては、下部樹脂層10上に、前述の印刷部分100及び金属の蒸着部分200を保護するために所定の樹脂が塗布されてなる保護膜層30が形成される。
この保護膜層30上には、所定の金属が蒸着されてなる金属蒸着層40が積層される。この金属蒸着層40は、前述の金属の蒸着部分200を形成する。
この金属蒸着層40の一部には、所定の印刷インクの塗布よりなる印刷層50が積層される。この印刷層50は、前述の周縁印刷層20と合わせて、印刷部分100を形成する。
そして、この印刷層50及び金属蒸着層40上には、前述の透明樹脂からなる上部樹脂層60が積層される。
【0022】
上記の通り、金属蒸着層40及び印刷層50は樹脂層10,60により密封されているので、水等の浸入による品質劣化を防止することができる。また、視認側の上部樹脂層60が透明樹脂からなるので、金属蒸着層40及び印刷層50により表される絵柄等の輪郭や質感を直接的かつ明瞭に視認でき、優れた外観を実現することが可能となっている。
【0023】
<製造方法>
次に、本実施の形態における加飾成形品の製造方法について、図を用い詳細に説明する。この加飾成形品は、以下に述べるように、(1)上部樹脂基材1の作成工程、(2)印刷工程、(3)金属の蒸着工程、(4)保護膜層30の成層工程、(5)下部樹脂基材2の作成工程、(6)溶着工程で製造される。
【0024】
(1)上部樹脂基材1の作成工程
まず、前述の上部樹脂層60を形成する略平板状の上部樹脂基材1の作成工程について説明する。
図3は、その上部樹脂基材1を示す断面側面図である。また、図4は、その上部樹脂基材1を裏面側から見た平面図である。
この上部樹脂基材1は、耐候性に優れた透明樹脂製の基材であり、前述のように、加飾成形品の完成時には、上部樹脂層60を構成する。この上部樹脂基材1は、透明性及び耐候性に優れた所定の樹脂を所定の成形方法で成形した後に、加温してアニーリングし、樹脂の収縮によるたわみ等の除去を行って作成される。
【0025】
(2)印刷工程
次に、上部樹脂基材1の任意の位置に絵柄等を印刷する印刷工程について説明する。
図5は、その印刷工程後の上部樹脂基材1を示す断面側面図である。
図に示すように、前述の上部樹脂基材1の裏面側の任意の箇所に、ホットスタンプ印刷、パッド印刷又はスクリーン印刷等の処理により絵柄、模様、文字等を印刷する。
この印刷工程により、上部樹脂基材1の裏面側中央部分には印刷層50が形成されるとともに、裏面側外周縁部分には、上部樹脂基材1の周縁に沿って周回するように周縁印刷層20が形成される。
この周縁印刷層20は、上部樹脂基材1の外周縁に沿って周回するように形成される閉ループ状の上部周縁印刷部61と、この上部周縁印刷部61の内周側に等間隔をもって周回するように形成される閉ループ状の上部周縁印刷部62とから構成される。これら上部周縁印刷部61,62は、後述する下部樹脂基材2の溶着部分と略同一の色で印刷されて形成される。
また、このように上部周縁印刷部61,62が形成されることから、上部周縁印刷部61,62間には、上部樹脂基材1の外周縁部分を周回する無印刷部分63が形成される。
【0026】
(3)金属の蒸着工程
前述の印刷工程で、上部樹脂基材1の裏面側に絵柄等を印刷した後、金属の蒸着を行う。
図6は、その金属の蒸着工程の一例を示す図である。
本実施の形態では、以下に説明するように、上部樹脂基材1の裏面側に露出している上部樹脂層60及び印刷層50上にアンダーコート層を成層することなく、直接金属の蒸着を行う。
図に示すように、金属蒸着を行うときには、上部樹脂基材1の裏面側が内向きとなるように、上部樹脂基材1を治具301に固定して、例えばアルミニウム又は錫等の金属片302に対向させて真空容器303内に設置する。
また、同様に、この金属片302も治具304に固定される。
そして、電極の一方(負極305)を治具304に接続し、他方(正極306)を真空容器303又は治具301に接続する。
【0027】
次に、その真空容器303内を所定の真空度に調整した後に、不活性ガス導入バルブ307から不活性ガス(アルゴン等)を真空容器303内に注入する。
そして、真空容器303内の不活性ガス濃度が一定の値に達した後、前述の両電極間に所定の電圧を印加する。
すると、放電が発生し、不活性ガス粒子が正に帯電し、負極305に接続された金属片302側へ衝突を繰り返す。この衝突により、その金属片302から金属原子が放出され、対面の上部樹脂基材1の裏面側に蒸着して金属蒸着層40を成層する。
【0028】
図7は、上記金属の蒸着工程による金属蒸着後の上部樹脂基材1を示す断面側面図である。
図に示すように、上部樹脂基材1の裏面側中央部分(周縁突部61及び周縁溝部62を除く裏面側)に所定の金属が蒸着され、上部樹脂層60及び印刷層50の裏面側に金属蒸着層40が積層される。
【0029】
(4)保護膜層30の成層工程
前述の金属蒸着工程で金属を蒸着した後に、この金属蒸着層40を保護するための保護膜層30を成層する。
図8は、上記保護膜層30の成層工程後の上部樹脂基材1を示す断面側面図である。
図に示すように、上部樹脂基材1の裏面側に露出していた金属蒸着層40及び印刷層50上に所定の液状の樹脂を塗布して保護膜層30を積層する。これにより、金属蒸着層40及び印刷層50へ水等が浸入することを防止することができる。
この保護膜層30は、一層であってもよいし、二層以上であってもよい。
例えば、この保護膜層30としては、樹脂を硬化させるために硬化剤が不要な一液型塗料用樹脂、反対に必要な二液型塗料用樹脂、又は200〜400nmの波長の紫外線を照射すると硬化する紫外線硬化性樹脂等のうちの少なくとも1つの樹脂を塗料としたものを、金属蒸着層40及び印刷層50上へ塗布することにより成層する。
【0030】
(5)下部樹脂基材2の作成工程
次に、この上部樹脂基材1に溶着される略平板状の下部樹脂基材2を作成する。
なお、この下部樹脂基材2は、保護膜層30の成層工程後でなく、予め作成しておいてもよい。
図9は、その下部樹脂基材2の側面断面図であり、図10は、その裏面側の平面図である。
この下部樹脂基材2は、好ましくは耐候性に優れた樹脂製の基材であり、前述のように、加飾成形品の完成時には、下部樹脂層10を構成する。この下部樹脂基材2は、所定の樹脂を所定の成形方法で成形した後に、加温してアニーリングし、樹脂の収縮によるたわみ等の除去行って作成される。
【0031】
図に示すように、下部樹脂基材2の表面側の外周縁に沿って一周するように、凸条11が、下部樹脂基材2本体と一体に形成されている。
また、この凸条11の各外内周に隣接して一周するように当接部12,13がそれぞれ形成されている。後述する上部樹脂基材1と下部樹脂基材2との溶着時には、この当接部12,13は、前述の上部周縁印刷部61,62とそれぞれ当接する。また、これら上部周縁印刷部61,62間の無印刷部分63は、凸条11と当接する。
【0032】
(6)溶着工程
次に、このように作成された下部樹脂基材2と、前述の各層30〜60が成層された上部樹脂基材1との溶着を行う。
図11は、上部樹脂基材1と下部樹脂基材2とを溶着する工程を示す断面側面図である。また、図12は、その溶着部分を拡大した断面側面図である。
図に示すように、下部樹脂基材2の凸条11を上部樹脂基材1の上部周縁印刷部61,62間の無印刷部分63に当接させ、当接部12,13をそれぞれ上部周縁印刷部61,62に当接させて、これら当接部分(溶着部分)の溶着を行う。
【0033】
本実施の形態では、溶着方法の一例として、ウェルダー溶着法の1つである超音波溶着法を用いるものとする。この超音波溶着法では、超音波の振動を上記当接部分に伝達させると、上記当接部分において瞬間的に強力な振動による摩擦熱が発生する。この摩擦熱により、凸条11が溶融して平坦に潰れるように変形し、冷却後、上部樹脂基材1の無印刷部分63を中心とする外周縁部分と溶着する。
このとき、この変形後の凸条11の外内周(当接部12,13)には、この凸条11と略同一色の上部周縁印刷部61,62がそれぞれ当接して溶着されるので、上部樹脂基材1側からこの溶着部分を見たときに、その溶着部分の印刷による絵柄や模様等を明瞭に表すことができ、優れた外観を実現することができる。
前述のように、凸条11が変形して溶着が行われるため、この凸条11の両側に空気が入り込むことにより形成される空間、いわゆる「エア咬み」が生じる可能性がある。このように「エア咬み」が生じると、この「エア咬み」の空気が光って見えて、絵柄や模様等に意図しない光沢が表れ、その模様等が明瞭に見えないおそれがある。このような場合であっても、前述のように、「エア咬み」発生部分に上部周縁印刷部61,62が当接するように溶着するので、上記の意図しない光沢を抑えることができ、溶着後に凸条11及び上部周縁印刷部61,62が一体となって明瞭かつ美観に優れた絵柄や模様等を表現することが可能となる。
【0034】
また、各基材1,2の外周縁に沿って溶着を行って各層30〜50を加飾成形品外部から完全に封止することにより、水など金属等の腐食の原因となるものの侵入を完全に防止することが可能となる。
以上で、加飾成形品が完成する。
【0035】
なお、図12に示す例では、保護膜層30として、表面側から順に、一液型保護膜層31、二液型保護膜層32、紫外線硬化性樹脂層33が積層されている。
この一液型保護膜層31は、硬化に硬化剤が不要な一液型塗料用樹脂を、上部樹脂基材1の裏面側中央部分の金属蒸着層40及び印刷層50上に塗布した後に乾燥・硬化させて成層する。
また、二液型保護膜層32は、硬化に硬化剤が必要な二液型塗料用樹脂を、硬化した一液型保護膜層31上に塗布した後に乾燥・硬化させて成層する。
また、紫外線硬化性樹脂層33は、紫外線を照射すると硬化する紫外線硬化性樹脂を、硬化した二液型保護膜層32上に塗布した後に乾燥・硬化させて成層する。
これら各保護膜層31〜33を金属蒸着層40及び印刷層50上に塗布することにより、金属蒸着層40及び印刷層50への保護を一層強化することができる。
【0036】
<実施の形態のまとめ>
以上説明したように、本実施の形態によれば、樹脂製の基材1,2に対して金属蒸着や印刷処理を施して金属蒸着層40及び印刷層50を形成し、水分透過度が低く、耐候性・ガスバリア性に優れた各基材1,2の外周縁部分を溶着して完全にその金属蒸着層40及び印刷層50を封止するように加飾成形品を製造する。
従って、重厚で美観に富み、表現が多彩であるというデザイン面において優れた特性を備えるとともに、耐候性に富み、金属の剥離や腐食等の発生しないという品質保持面においても優れた特性を備える加飾成形品を提供することが可能となる。
このように、本実施の形態における加飾成形品は、外観及び耐久性に優れているので、車両や船舶の外装、企業・商店の看板や広告掲示板、又は道路標識等といった、風雨、温度変化及び日光等の影響を受けやすい屋外での用途において利用することができる。
【0037】
また、本実施の形態によれば、金属蒸着層40において溶着させるのではなく、溶着性に優れた樹脂製の基材1,2同士を溶着するので、加飾成形品を容易に製造できるとともに、高い密封性も保証することができる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、金属蒸着層40及び印刷層50上に保護膜層30を成層しているので、金属蒸着層40の剥離や腐食、印刷層50の劣化等をより確実に防ぐことが可能となる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、基材1,2の外周縁の溶着部分に絵柄等を表すときには、上部樹脂基材1の裏面側の外周縁部分に、下部樹脂基材2(凸条11)と略同一色の印刷を施して上部周縁印刷部61,62を設け、これら上部周縁印刷部61,62が、溶着時に凸条11の外内周に当接するようにしたので、溶着部分に「エア咬み」による光沢が生じて外観を損なうような場合であっても、上記上部周縁印刷部61,62により、その光沢を抑えることができ、溶着部分において美麗な模様等を表すことが可能となる。
【0040】
また、本実施の形態によれば、アンダーコート層を成層することなく、上部樹脂層60又は印刷層50上に直接金属を蒸着し、金属蒸着層40を成層するので、アンダーコート層の成層工程を省くことができ、この結果、金属蒸着加工物の製造の途中でゴミや異物が付着する機会を減少させ、優れた美観の装飾物を提供することが可能となる。
また、このようにアンダーコート層の成層工程を省くことにより、製造がより簡易になり、製造コストの削減も可能となる。
また、透明性を備えた上部樹脂層60と、金属蒸着層40又は印刷層50との間にアンダーコート層が形成されていないため、印刷や蒸着した金属による模様の輪郭や質感が、ぼやけることなく、より直接的かつ明瞭に加飾成形品の表面側から視認できるようになり、優れた外観を実現することができる。
【0041】
なお、図では、便宜上、下部樹脂層10及び上部樹脂層60とは別体に、一定の厚みをもった周縁印刷層20が形成されているように表されているが、実際には、溶着工程において、周縁印刷層20は、下部樹脂層10及び上部樹脂層60とともに一体に溶着され、加飾成形品全体が樹脂で完全に被覆され、封止した状態に構成されている。
従って、その溶着部分からは水等が浸入することはなく、金属蒸着層40の腐食等を完全に防止することが可能となっている。
【0042】
また、本実施の形態では、両基材1,2同士を溶着するために、溶着時に溶融する凸条11を設けているが、この凸条11を設けずに、両基材1,2における互いに平坦な溶着面同士を溶着させることもできる。
【0043】
また、本実施の形態における加飾成形品は、加飾成形品の周縁部、すなわち上部樹脂基材1と下部樹脂基材2との溶着部分に印刷するものであるが、この溶着部分に「エア咬み」が生じない場合、又は溶着部分に模様等を設けない場合には、前述の周縁印刷層20(上部周縁印刷部61,62)は、特に設けなくてもよい。この場合には、下部樹脂層10と上部樹脂層60とが、その外周縁部分において直接溶着される。
【0044】
また、本実施の形態における加飾成形品は、2つの樹脂層10,60間に、保護膜層30、金属蒸着層40及び印刷層50を設けて構成されているが、さらに樹脂層を多層構造とし、各樹脂層間にそれぞれ保護膜層30、金属蒸着層40及び印刷層50を同様に設けるようにしてもよい。
【0045】
本実施の形態において、上部樹脂基材1及び下部樹脂基材2は、互いに略同形状かつ略平板状に形成されるものであるが、前述のデザイン面及び品質保持面における効果を奏し得るものであれば、形状はこれに限定されない。
また、上部樹脂基材1及び下部樹脂基材2は、樹脂を所定の成形方法により成形してなるものであるが、この成形方法については、特に限定しないものとする。例えば、この成形方法としては、射出成形、トランスファー成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、押出し成形、注型成形。切削加工等の方法を用いて成形することができる。
【0046】
また、上部樹脂基材1及び下部樹脂基材2に用いる樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、特に、加工性及び樹脂の成形性に優れたものが好ましい。例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、塩化ビニル系樹脂及びそれらの変形ポリマー、アロイ配合物等が好ましい。
上部樹脂基材1に透明性が要求される場合には、特に、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びそれらの変形ポリマー、アロイ配合物等が好ましい。
【0047】
また、一液型保護膜層31又は二液型保護膜層32に用いる樹脂としては、それぞれエポキシ系樹脂やウレタン系樹脂等を選択的に用いることができる。
また、紫外線硬化性樹脂層33に用いる樹脂としては、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、又は紫外線硬化型エポキシ系樹脂等を選択的に用いることができる。
【0048】
また、金属蒸着層40形成時において蒸着される金属としては、例えば、アルミニウム、クロム、錫、金、銀、ニッケル、チタン、二酸化チタン等の金属、金属酸化物、あるいは硫化亜鉛等の金属硫化物等からなる。
また、金属蒸着層40の厚さは、特に限定されるものではないが、生産性、装飾性、安定化樹脂層への密着力、機械的強度等を考慮して、50〜5000オングストロームの厚さが好適である。なお、この金属蒸着層40は、スパッタリング法、エレクトロンビーム法、真空蒸着法、メッキ法等により形成することができる。
【0049】
また、本実施の形態では、上部樹脂基材1と下部樹脂基材2との溶着方法として、ウェルダー溶着法の1つである超音波溶着法を用いたが、その他のウェルダー溶着法(高周波溶着法,レーザ透過溶着法等)を用いるようにしてもよい。
【0050】
また、前述の実施の形態においては、アンダーコート層を成層することなく、直接金属蒸着層40を成層していたが、従来通り、アンダーコート層を成層するようにしてもよい。
また、基材1,2の溶着によって、高いガスバリア性及び密封性を実現可能であるので、用途によっては保護膜層30の成層を省略することができる。
【0051】
なお、上記の実施例は本発明の好適な実施の一例であり、本発明の実施例は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態における加飾成形品の表面側を示す平面図である。
【図2】図1に示されるA−A’部分の側面断面図である。
【図3】本実施の形態における上部樹脂基材を示す断面側面図である。
【図4】本実施の形態における上部樹脂基材を裏面側から見た平面図である。
【図5】本実施の形態における印刷工程後の上部樹脂基材を示す断面側面図である。
【図6】本実施の形態における金属の蒸着工程の一例を示す図である。
【図7】本実施の形態における金属の蒸着工程による金属蒸着後の上部樹脂基材を示す断面側面図である。
【図8】本実施の形態における保護膜層の成層工程後の上部樹脂基材を示す断面側面図である。
【図9】本実施の形態における下部樹脂基材の側面断面図であり、
【図10】本実施の形態における下部樹脂基材の裏面側から見た平面図である。
【図11】本実施の形態における上部樹脂基材と下部樹脂基材とを溶着する工程を示す断面側面図である。
【図12】本実施の形態における溶着部分を拡大した断面側面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 上部樹脂基材
2 下部樹脂基材
10 下部樹脂層
11 凸条
12,13 当接部
20 周縁印刷層
30 保護膜層
31 一液型保護膜層
32 二液型保護膜層
33 紫外線硬化性樹脂層
40 金属蒸着層
50 印刷層
60 上部樹脂層
61,62 上部周縁印刷部
63 無印刷部分
100 印刷部分
200 蒸着部分
301,304 治具
302 金属片
303 真空容器
305 負極
306 正極
307 不活性ガス導入バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材間に、金属を蒸着してなる金属蒸着層が成層される加飾成形品であって、
外周縁を除く部分に前記金属蒸着層が成層された第1の基材と、
前記外周縁部分で前記第1の基材と着接する第2の基材とを有し、
前記金属蒸着層を前記第1及び第2の基材により密封して構成することを特徴とする加飾成形品。
【請求項2】
前記金属蒸着層は、所定の樹脂によるアンダーコート層を成層することなく、前記第1の基材上に成層されることを特徴とする請求項1記載の加飾成形品。
【請求項3】
前記金属蒸着層の第2の基材側の面には、保護用の樹脂を塗布することを特徴とする請求項1又は2記載の加飾成形品。
【請求項4】
前記保護用の樹脂は、樹脂を硬化させるために硬化剤が不要な一液型塗料用樹脂、該硬化剤が必要な二液型塗料用樹脂、又は紫外線を吸収すると硬化する紫外線硬化性樹脂の少なくとも1つを塗料とすることを特徴とする請求項3記載の加飾成形品。
【請求項5】
前記第1及び第2の基材間には、所定の絵柄等が表された印刷層が成層されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の加飾成形品。
【請求項6】
前記第1及び第2の基材の着接部分に、略同一色の印刷がなされていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の加飾成形品。
【請求項7】
略平板状の第1の樹脂基材の一方の面上の所定部分に印刷を行って印刷層を成層する印刷工程と、
前記印刷層上及び前記第1の樹脂基材の一方の面上において前記第1の樹脂基材の外周縁部分を除く部分に金属を蒸着する金属蒸着工程と、
前記金属が蒸着された第1の樹脂基材と、略平板状の第2の樹脂基材とを、それぞれ外周縁部分で溶着して、前記金属蒸着部分を密封する溶着密封工程と、
を有することを特徴とする加飾成形品の製造方法。
【請求項8】
前記金属蒸着工程は、前記印刷層上及び前記第1の樹脂基材の一方の面上において、所定の樹脂によるアンダーコート層を設けることなく、金属を蒸着することを特徴とする請求項7記載の加飾成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−279834(P2009−279834A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134134(P2008−134134)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(391046562)株式会社倉本産業 (18)
【出願人】(000148704)株式会社村田金箔 (6)
【Fターム(参考)】