説明

加飾材および加飾物品

【課題】漆黒を背景色として、鮮明な彩色模様が得られる加飾材および加飾物品が実現する。
【解決手段】加飾材100においては、透明基材10と着色透明層20との界面に微細凹凸部40が形成されている。そのため、透明基材10側から加飾材100に入射する光は、一部が微細凹凸部40で反射されるようになり、微細凹凸部40に対応する位置に鮮明な図柄が得られる。また、黒色層30が光を吸収することにより深みがあり高級感を呈する漆黒を得ることができる。これにより、従来にはない美観が得られ、漆黒感のある背景色の中に、鮮明な彩色模様が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾材および加飾物品に関する。
【背景技術】
【0002】
漆黒塗装に関する技術として特許文献1乃至3に記載のものがある。
特許文献1には、基材上に、カーボンブラック顔料を特定量含む第1ベース塗料を塗装し、得られた塗膜上に、黒色染料を含む第2ベース塗料を塗装し、さらに得られた塗膜上に特定の艶調整剤を含むクリヤー塗料を塗装することによって、天然漆の如き質感を持つ漆調塗膜を得ることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、複数の塗膜の界面の面粗度の制御を行い、塗膜内での散乱光を低減することが記載されている。
【0004】
特許文献3には、複数の塗膜が含むカーボンブラックの量の制御を行って、塗膜の高級感を演出する方法が記載されている。
【0005】
複合的なカラー発色に関する技術として特許文献4乃至6に記載のものがある。
特許文献4には、新規な意匠性を付与するために、屈折率の異なる2種類以上の高分子化合物を交互に重ね合わせることにより、層間の反射干渉を引き起こし、見る角度によって色相を変化させ高輝感を持たせる方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献5には、屈折率の異なる2種類の高分子化合物を交互に重ね合わせて層間の反射干渉により発色させ、基体にカーボンブラックを含ませることによって、より鮮やかな色調を得ることが記載されている。
【0007】
特許文献6には、透明なシート状基材の裏面に凹凸層を形成しその外側に光反射層を積層させる装飾材の製造方法において、光と影による立体的で明瞭な図柄表現を行うことが可能な装飾材の製造方法が記載されている。
【0008】
また、透明なシート状基材の裏面に凹凸層を形成する技術として、特許文献7には、一方又は両方が凹凸模様を有する二枚のシートを貼り合わせて、凹凸模様が二枚のシートの貼り合わせ面になるように積層した化粧シートが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−239519号公報
【特許文献2】特開平6−15223号公報
【特許文献3】特開2001−179176号公報
【特許文献4】特開2001−347798号公報
【特許文献5】特開2002−67239号公報
【特許文献6】特開2007−216088号公報
【特許文献7】特開平10−34780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4乃至6記載の技術では、層間からの反射干渉光を利用するため光の乱反射によるキラキラ感が伴い、漆黒による落ち着いた雰囲気を醸し出すには適当ではない。さらに特許文献6の装飾材では黒色のバックアップ層を用いてもよいことが記載されているが、この装飾材は金属薄膜で光反射層を形成して黒みがかった金属色をえるものであった。
また特許文献7記載の技術は、化粧シートであるため透明性を確保しなければならず、漆黒を用いるには不都合が生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、高級感のある漆黒を背景色として鮮明な図柄を得るために鋭意検討を行った。その結果、より高級感のある漆黒色が得られないのは、光が黒色層に吸収されず反射するためである、という新たな知見を得た。そこで、入射光のうち、反射する光と吸収される光をともに用いることにより、従来にはない高級感のある漆黒を背景色とした鮮明な彩色模様が得られることが見出された。
【0012】
本発明によれば、微細凹凸部を上面に有する透明基材と、
前記透明基材の上に形成された着色透明層と、
前記着色透明層の上に形成された黒色層と、
を備え、
漆黒の背景色の中に、前記微細凹凸部に対応する位置に彩色模様を浮かび上がらせるように構成されたことを特徴とする加飾材が提供される。
【0013】
この加飾材においては、透明基材と着色透明層との間に微細凹凸部が形成されている。そのため、透明基材側から加飾材に入射する光は、一部が微細凹凸部で反射されるようになり、微細凹凸部に対応する位置に鮮明な図柄が得られる。また、黒色層が光を吸収することにより深みがあり高級感を呈する漆黒を得ることができる。これにより、従来にはない美観が得られ、漆黒感のある背景色の中に、鮮明な彩色模様が得られる加飾材が実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、漆黒感のある背景色の中に、鮮明な彩色模様が得られる加飾材および加飾物品が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明による加飾材の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の本実施形態では、図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる加飾材に光が入射した場合の原理を説明するための断面図である。
加飾材100は、微細凹凸部40を裏面(図1中の下面)に有する透明基材10と、透明基材10の下に形成された着色透明層20と、着色透明層20の下に形成された黒色層30と、を備える。加飾材100は、透明基材10を上面から見たときに、漆黒の背景色の中に、微細凹凸部40に対応する位置に彩色模様を浮かび上がらせるように構成されている。
【0017】
透明基材10の表面(図1中の下面)は、微細凹凸部40が全面に形成されてもよく、また一部にのみに形成されていてもよい。微細凹凸部40の形成領域により、図柄のバリエーションが増え、また背景色とのコントラストを利用した美観が得られるといった効果がある。図1は、微細凹凸部40が一部にのみ形成されている場合を示している。微細凹凸部40が一部にのみ形成されることにより、図柄領域を限定し、文様、字体、絵画などを表わすことができる。
透明基材10の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。また、透明基材10の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10mm以下、より好ましくは3mm以下である。
透明基材10は、透明樹脂プレート、ガラス板、および透明セラミック板のうち少なくともいずれかを用いることができる。また透明基材10は、単層または多層であってもよく、膜を含んでもよい。
また透明基材10は、無色であっても有色であってもよい。これにより、さまざまな色相の図柄を得ることができる。
【0018】
微細凹凸部40は、凹部または凸部であって、透明基材10の表面に対して凹部または凸部いずれかのみのものも含む。微細凹凸部40は、透明基材10の表面の粗面加工などによって得られる溝、孔、または穴を含む。また、微細凹凸部40は、マット形状、ヘヤライン形状、溝形状、シボ形状および回折格子形状のうち少なくともいずれかであることが好ましい。また、微細凹凸部40は、紫外線硬化型樹脂で形成されていてもよい。これにより、所望の形状または大きさの凹凸部が得られ、さまざまな機能を持つ図柄模様が容易に実現できる。
微細凹凸部40は、図柄領域(微細な凹凸を設けた領域)となって、加飾材100の上面(図1中の透明基材10の上面)に平面的または立体的な模様を浮かびあがらせる。微細凹凸部40は、透明基材10側から入射した光のうち、一部を反射するとともに、他の一部を透過することができる。また、光を乱反射する散乱体として機能することができる。
【0019】
微細凹凸部40の形状としては、形状は特に限定されないが、例えば図8に示すものが挙げられる。図8は、微細凹凸部40の断面を拡大した断面図である。
【0020】
図8(a)に示すように、微細凹凸部40は、透明基材10の表面の法線方向にほぼ平行に凹または凸になるように形成されている。
微細凹凸部40の算術平均粗さRa(JIS B0601)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。また、Raは、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。これにより、大きな反射光量を得ることができる。すなわち、この範囲のサイズの微細凹凸部40(散乱体)は、その形状および周辺との屈折率差にも依存するが、通常は、ミー散乱で記述される可視光に対する散乱能が2〜3の範囲であり、散乱体が大きくなった場合の散乱能2よりも大きな散乱能力を有しているために大きな反射光量を得ることができる。
【0021】
微小凹凸部40の個々の凹凸間の距離は、より好ましくは算術平均粗さRa程度である。これにより、反射光量も極大となる。すなわち、面内に存在する微細凹凸部40(散乱体)による反射光量は、個々の微細凹凸部40(散乱体)の散乱能と単位面積あたりの微細凹凸部40(散乱体)の個数に依存し、当然ながら、それぞれが大きいほど結果としての反射光量は増大する。このため、好ましくは、微細凹凸部40(散乱体)の平均サイズの間隔で分布している場合が散乱体密度は最も大きくなり、反射光量も極大となる。
【0022】
また、算術平均粗さRaとの関係では、たとえば、Raが1μmで微細凹凸部40(散乱体)を細密充填した場合、Raが3μmの場合に比較し、微細凹凸部40(散乱体)が相似形であれば、その個数は、9倍になる可能性がある。このため、散乱能との積を比較すると、Raが1μmの方が反射光量が大きくなる可能性がある
【0023】
また、図8(b)に示すように、微細凹凸部40は、深さが5μm以上の大凹部41が形成された第一の領域401と、大凹部41が形成されていない第二の領域402と、を有していてもよい。
この場合の第二の領域402における微細凹凸部40の算術平均粗さRa(JIS B0601)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。また、Raは、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。
大凹部41は微細凹凸部40の凹部よりも大きく、大凹部41の深さは5μm以上50μm以下である。また、大凹部41の開口幅は、特に限定されないが、好ましくは1μm以上である。
【0024】
大凹部41の内壁面に、さらに微細凹凸部40が設けられてもよい(図8(b))。これにより、微細凹凸部40の形成領域の法線方向がその透明基材10の面の法線方向と異なるため、同一方向からの入射光に対し、その表面反射および表層反射の反射光の反射方向が異なり、異なる図柄が異なる方向から視認できる。
【0025】
また、大凹部41の内壁面は、斜面であって、該斜面の法線方向が、図柄領域以外の滑らかな面または、滑らかな面内に設けた図柄領域の凹凸形成領域の法線方向と異なるものであってもよい。これにより、反射方向を特定化し、図柄を視認できる方向を制御することができる。
【0026】
さらに、微細凹凸部40の大凹部41の内壁面の方向性または角度を組み合わせて、微細凹凸部40(図柄領域)からの反射光の方向性を制御することによって、複数の図柄をそれぞれ特定の方向から視認することができる。
またさらに、微細凹凸部40および大凹部41は、図柄領域として微小凹凸領域を限定することにより、文様、字体、絵画などを表わすことができる。
【0027】
大凹部41が周期的に形成される場合、その平均間隔(ピッチ)は、特に限定されず、任意に設定することができる。大凹部41の平均間隔(ピッチ)は、加飾材100の表面形状を電子顕微鏡によって観察し大凹部41の平均周期を算出することにより、測定できる。大凹部41のピッチは、好ましくは1μm以上、50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0028】
微細凹凸部40の形成方法としては、粗面加工による方法が用いられる。特に、マット加工、ヘヤライン加工、溝加工、シボ加工および回折格子加工のうち少なくともいずれかを用いて形成されることが好ましい。これにより、微細凹凸部40による反射増強構造が得られる。また、これらの方法による加工方向を組み合わせて形成することによって、着色透明層20と透明基材10との境界面内に微小な微細凹凸部40を分布させた構造が得られる。
またさらに、微小な微細凹凸部40が線形状となりその分布が方向性を有することによって、表面反射および表層反射の反射光の反射方向が、線群の方向に垂直な面内に強く反射することができる。
【0029】
着色透明層20の材料としては、例えば、樹脂バインダーとして、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、非結晶ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂などが挙げられる。着色インキ等は、特に限定されないが、有機顔料が好ましい。着色透明層20は、カラークリヤー塗膜であって、透明の着色がされている。着色の色相は特に限定されないが、例えばスカイブルー、青色、黄色などが挙げられる。
着色透明層20の厚さは、特に限定されないが、1μm以上30μm以下が好ましい。
【0030】
着色透明層20の色相は特に限定されないが、着色透明層20の色相と微細凹凸部40の形状との組合せにより、所定の色彩の図柄が視認できる。
【0031】
黒色層30の材料としては、例えば、樹脂バインダーとして、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、非結晶ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂などが挙げられる。着色方法は、特に限定されないが、カーボンブラックなどにより黒色に着色することができる。
黒色層30の厚さは、特に限定されないが、1μm以上60μm以下が好ましい。
黒色層30は、黒色ベース塗膜であって、光を吸収する層として機能する。
【0032】
次に、加飾材100の効果について説明する。
【0033】
この加飾材100においては、透明基材10の下面に微細凹凸部40が形成されている。すなわち透明基材10と着色透明層20との間に微細凹凸部40が存在している。そのため、透明基材10側から加飾材100に入射する光は、一部が微細凹凸部40で反射されるようになり、微細凹凸部40に対応する位置に鮮明な図柄が得られる。また、黒色層30が光を吸収することにより深みがあり高級感を呈する漆黒を得ることができる。これにより、従来にはない美観が得られ、漆黒感のある背景色の中に、鮮明な彩色模様が得られる加飾材100が実現できる。
【0034】
さらに、図1,9を参照して、詳細を説明する。
図1は、本実施形態にかかる加飾材に光が入射した場合の原理を説明するための断面図である。図9は、従来の透明基材と着色透明層の積層体に光が入射した場合の原理について説明するための断面図である。
【0035】
図9に示すように、積層体300の透明基材10の上面に入射した入射光(白色光)L1は、透明基材10を通過したのち、着色透明層20を透過する透過光L2、着色透明層20の上面でわずかに反射する表面反射光および表層反射光L3(o)、または着色透明層20内に吸収される吸収光L4、のいずれかに分かれる。
また逆に、着色透明層20の下面に入射した照射光L5も、入射光L1と同様にして、着色透明層20を通過したのち、透明基材10を透過する透過光L6、透明基材10の下面でわずかに反射する表面反射光および表層反射光(図示なし)、または透明基材10内に吸収される吸収光(図示なし)、のいずれかに分かれる。
【0036】
すなわち、透明基材10の上面から積層体300を見た場合、透過光L2、反射光L3(o)、透過光L6によって、着色透明層20の色相が形成され、視認されることとなる。しかしながら、反射光L3(o)の光エネルギーは1%程度であり、透過光L2、透過光L6に比べて非常に小さいためその波長領域が透過光L2、透過光L6と異なったとしても、通常視認されることは困難である。したがって、透過光L2、透過光L6が主たる色相として視認される。
【0037】
これに対し加飾材100は、その断面構造として図1に示すような構造を採用している。すなわち、加飾材100は、透明基材10の上面から入射して透明基材10を透過した入射光のうち、一部は微細凹凸部40で反射して透明基材10の外に出射するとともに、他の一部は着色透明層20を透過して黒色層30に到達し吸収されるよう構成されている。以下、詳述する。
【0038】
図1に示すように、加飾材100は、着色透明層20の下面に黒色層30が設けられ、透明基材10の下面の一部に微細凹凸部40が形成されている。透明基材10の上面に入射した入射光L1は、透明基材10を通過したのち、着色透明層20を透過して黒色層30に吸収される吸収光L7、着色透明層20の上面でわずかに反射する表面反射光および表層反射光L3(o)、微細凹凸部40で反射する反射光L3(eo)、または着色透明層20内に吸収される吸収光L4、のいずれかに分かれる。この場合、図9で示された透過光L2=吸収光L7となる。
また逆に、黒色層30の下面に入射する照射光L5は、黒色層30に吸収されるため存在しない。
【0039】
ここで、透明基材10の下面の一部に微細凹凸部40が形成されている。微細凹凸部40により、微細凹凸部40で反射した反射光L3(eo)の反射光量を、反射光L3(o)よりも、著しく増強することができる。このように光量が増強された反射光L3(eo)は、視認されることができる。
このため、透明基材10の上面から加飾材100を見た場合、入射光L1のうち、一部が微細凹凸部40で反射して反射光L3(eo)となって、微細凹凸部40が鮮明に見える。一方、反射光L3(o)はほとんど視認されることはないため、漆黒感のある黒色が図柄の下地として視認される。
このようにして、従来にはない美観が得られ、漆黒を背景色として、鮮明で立体感のある図柄が浮き上がるようにして視認できる加飾材100が実現できる。
【0040】
次に、本実施形態における加飾材100の製造方法について説明する。
加飾材100は例えば、以下のようにして製造できる。
まず、表面が平坦な透明基材10を準備し、透明基材10の上面に微細凹凸部40を形成する。次に、透明基材10上に着色透明インクまたは塗料を塗布して着色透明層20を形成し、続けて、黒色インクまたは塗料を塗布して黒色層30を順に形成することによって製造できる。
【0041】
微細凹凸部40を形成する方法としては、粗面加工による方法が用いられる。特に、マット加工、ヘヤライン加工、溝加工、シボ加工および回折格子加工のうち少なくともいずれかが好ましい。
【0042】
さらに、加飾材100を表面に備えてなる加飾物品がえられる。例えば、漆黒を背景に深い色合いの図柄が得られるので、最近特に装飾性の高い表面塗装が要求され始めている、携帯電話、パーソナルコンピュータ、液晶テレビの筐体などの高級塗装物品に活用できる。さらに、高級家電品にも用いられる。また、自動車の塗装等、特殊壁紙に転用して高級感のある内装用加飾材等に使用することもできる。表面塗装には、公知の方法を用いることができる。
【0043】
本発明による加飾材およびその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0044】
上記実施形態において、第一の領域401に大凹部41が形成された例を示したが、第一の領域401には高さが5μm以上の大凸部が形成されていてもよい。この場合、大凸部は、微細凹凸部40の凸部よりも大きく、好ましくは最大幅が1μm以上である。また、大凸部の外壁面にさらに微細凹凸部40が設けられてもよい。このような大凸部によっても、上記大凹部41と同様の効果を得ることができる。また、第一の領域401には、大凹部41および大凸部のいずれか一方、または両方が形成されていてもよい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
(実験1)
実施例1を用いて、以下の実験を行った。
【0046】
(実施例1)
ポリカーボネートを用いた透明基板に、図柄を形成し、青色のカラークリヤー層(株式会社セイコーアドバンス製KKY 440 ブルー)と、黒色層(株式会社セイコーアドバンス製KKY 710 ブラック)とを順にシルクスクリーン印刷により塗膜積層した。図柄は、リング状のヘヤライン形状を紫外線硬化型樹脂によって塗膜形成し、これを透明基板上に設置して、加飾材1を得た。
得られた加飾材1に、透明基板側から光を照射したときの外観像を図2に示す。図2に示すように、漆黒の背景色の中に白色で示された斑点状の図柄(赤紫色)が浮かび上がって、立体的に視認できた。
【0047】
さらに、加飾材1の透明基板の表面に形成した微細な凹凸の状態を測定した。株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9500を用いて、加飾材1の表面形状を観察した結果、周期的に形成された大凹部の平均間隔が約50μmピッチであることが算出できた。また、図柄が視認された位置に相当する微細凹凸の「基準長さ」250μmにおける「最大高さRy」は〜1.5μm、「算術平均高さ Ra」は、〜0.3μmであった。
【0048】
(参照例1)
株式会社セイコーアドバンス製KKY 440 ブルーにより着色したカラークリヤー層を準備し、分光透過率分布(L2のスペクトル分布)を測定した。この場合、測定されたスペクトルは、図9で示したL2のスペクトルに相当する。
その結果を、図3に示す。
図3に示すように、スペクトルは、490nmにピーク(透過50%)があり、490nmを中心とするFWHM(半値全幅)は120nm程度であった。
図3より、カラークリヤー層に入射した光は、490nmを中心とするFWHM120nmの領域(370nm〜610nm)において透過し、580nmから740nmの領域ではほとんど透過しないことが分かった。また、透過率のピークは約50%であり、クリヤーな色合いとなった。
【0049】
(参照例2)
株式会社セイコーアドバンス製KKY 440 ブルーにより着色したカラークリヤー層と白色反射板の二層体の分光反射率分布(L6のスペクトル分布)を測定した。この場合、測定されたスペクトルは、図9で示したL6のスペクトルに相当する。当該測定では、図1のL2とL5がほぼ同一の場合に相当し、往復透過となる。
その結果を、図4に示す。
【0050】
図4に示すように、スペクトルは、470nmにピーク(反射53%、白色反射板からの反射率を100%とする。)があり、470nmを中心とするFWHMは90nm程度であった。また、560nmより長波長側において若干の反射光量があり、620nm、720nm付近になだらかなピークがあり、740nm以降で反射率が上昇していた。
図3の場合と異なり、半値全幅がおおよそ90nmへ減少し、560nmより長波長側において反射光があることが分かった。また、このような反射光量が、図9におけるL3(0)に対応し、カラークリヤー層の上面においてわずかな表面反射、表層反射が発生していることが分かった。
【0051】
(参照例3)
株式会社セイコーアドバンス製KKY 440 ブルーにより着色したカラークリヤー層と黒色層の二層体の分光反射率分布(L3(o)またはL3(eo)のスペクトル分布)を測定した。この場合、測定されたスペクトルは、図1で示したL3(o)またはL3(eo)のスペクトルに相当する。当該測定では、図1を用いて説明したように、黒色層の裏面(下面)からの入射光が全く存在しない。
その結果を、図5に示す。
【0052】
図5に示すように、反射率はおよそ1%前後であった。また、420nm付近、620nm付近、720nm付近、および740nm以降の領域で反射率が相対的に大きくなるピークがあった。この420nm付近のピークは、主たる波長領域である青色領域の裾野である。
これら4点のピーク光の合成結果は赤紫色であった。これは、図2中の白色で示された斑点状の模様と同じ色彩であった。
【0053】
図3〜5に示したように、カラークリヤー層の透過光を黒色層で吸収して漆黒の背景色を視認させると同時に、カラークリヤー層の上面での表面反射、表層反射を微細凹凸部で増強して、鮮明な図柄を視認でき、高級感のある装飾を実現するのに適した加飾材が得られた。
【0054】
(実験2)
以下に示す実施例2を用いて、以下の実験を行った。
【0055】
(実施例2)
上記実施例1で用いた青色のカラークリヤー層の代わりに、濃い青色の透明インク(株式会社セイコーアドバンス製 VIC コンク 400ウルトラブルー)により着色したカラークリヤー層を用いた以外は、実施例1と同様にして塗膜積層した。また、図柄は、直線状のヘヤライン加工状態を紫外線硬化型樹脂によって複写形成し、これを透明基板上に設置して、加飾材を得た。
得られた加飾材の分光反射率分布(L3(o)またはL3(eo)のスペクトル分布)(以下「黒耀色光」とする)を測定した。この場合、測定されたスペクトルは、図1で示したL3(o)またはL3(eo)のスペクトルに相当する。
その結果を、図6に「黒耀色光」として示す。
【0056】
(参照例4)
濃い青色の透明インク(株式会社セイコーアドバンス製 VIC コンク 400ウルトラブルー)により着色したカラークリヤー層と透明基板の二層体の、分光透過率分布(L2のスペクトル分布)(以下「透過光」とする)および分光反射率分布(L6のスペクトル分布)(以下「反射光」とする)を測定した。この場合、測定されたスペクトルは、図9で示したL2およびL6のスペクトルに相当する。
その結果を、図6に示す。
【0057】
図6に示すように、透過光は、主たる色相を示す波長領域以外の波長ではほとんど光量がないが、色が濃いため、ピーク値でも当該透過率は左側の縦軸に示されているように、10%程度であった。反射光は、主たる波長領域以外の範囲において、左側の縦軸に示されているように、おおよそ1%程度の反射率であった。これが、カラークリヤー層の表面反射および表層反射による反射光である。
【0058】
図6に示すように、黒耀色光のスペクトル分布は、右側の縦軸に示されるように極めて低い反射率(%)であった。しかし、カラークリヤー層の反射光のスペクトルと同様のピークを有していることがわかった。
【0059】
以上より、カラークリヤー層の表面反射および表層反射による反射光が増強されることによって視認される図柄領域の色は、480nm付近の青色と730nm以上の非常に深い色合いの赤を中心とし、580nm付近の橙色と660nm付近の赤色が重畳された橙色の混じった赤紫色として視認されることが分かった。
【0060】
さらに図6に示された測定値から、L3(o)およびL3(eo)の分光スペクトルを計算式によって求めた。
この結果を図7に示す。
【0061】
図6における透過率分布は、図9における透過光L2の分光スペクトルで、以下の式(1)によって与えられる。
透過光L2の透過率分布=入射光L1の波長分布×透明基板の透過率分布×カラークリヤー層の透過率分布 (1)
【0062】
同様に、図6における反射率分布は、図9におけるカラークリヤー層の後方に白色反射板を設置して測定するものであり、以下の式(2)によって与えられる。
図6の反射率分布=カラークリヤー層の反射光L3(o)の反射率分布+透過光L6の透過率分布=カラークリヤー層の反射光L3(o)の反射率分布+透過光L2の透過率分布×白色反射板の反射率分布×透過光L2の透過率分布 (2)
【0063】
以上の式(1)、式(2)より、図1に示される反射光L3(o)およびL3(eo)の分光スペクトルは、以下の式(3)によって与えられる。
反射光L3(eo)の反射率分布=図6の反射率分布−透過光L6の透過率分布=図6の反射率分布−透過光L2の透過率分布×白色反射板の反射率分布×透過光L2の透過率分布 (3)
【0064】
図6に示す測定値と白色反射板の反射率分布を用いて、上記の計算より求めた結果を図7に示す。計算結果と測定結果はほぼ一致しており、図1および図9で説明した発色の原理通りであることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態にかかる加飾材に光が入射した場合の原理を説明するための断面図である。
【図2】本実施形態にかかる加飾材を示す外観図である。
【図3】分光透過率分布(L2)を示す図である。
【図4】分光反射率分布(L3(o)+L6)を示す図である。
【図5】本実施形態にかかる分光反射率分布(L3(o))を示す図である。
【図6】分光特性を示す図である。
【図7】計算によって求めた分光特性を示す図である。
【図8】微細凹凸部の断面を拡大した断面図である。
【図9】透明基材と着色透明層の積層体に光が入射した場合の原理について説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 加飾材
10 透明基材
20 着色透明層
30 黒色層
40 微細凹凸部
41 大凹部
100 加飾材
300 積層体
401 第一の領域
402 第二の領域
L1 入射光
L2 透過光
L3 反射光
L4 吸収光
L5 照射光
L6 透過光
L7 吸収光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細凹凸部を上面に有する透明基材と、
前記透明基材の上に形成された着色透明層と、
前記着色透明層の上に形成された黒色層と、
を備え、
漆黒の背景色の中に、前記微細凹凸部に対応する位置に彩色模様を浮かび上がらせるように構成されたことを特徴とする加飾材。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾材において、
前記透明基材の下面から入射して前記透明基材を透過した入射光のうち、一部は前記微細凹凸部で反射して前記透明基材の外に出射するとともに、他の一部は前記着色透明層を透過して前記黒色層に吸収されるように構成されたことを特徴とする加飾材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の加飾材において、
前記微細凹凸部のJIS B0601で規定される算術平均粗さRaが、0.05μm以上5μm以下であることを特徴とする加飾材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の加飾材において、
前記微細凹凸部は、深さが5μm以上の大凹部および/または高さが5μm以上の大凸部が形成された第一の領域と、前記大凹部および/または前記大凸部が形成されていない第二の領域と、を有し、
前記第二の領域における前記微細凹凸部のJIS B0601で規定される算術平均粗さRaが、0.05μm以上5μm以下であることを特徴とする加飾材。
【請求項5】
請求項4に記載の加飾材において、
前記大凹部の内壁面および/または前記大凸部の外壁面に、さらに前記微細凹凸部が設けられたことを特徴とする加飾材。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の加飾材において、
前記微細凹凸部は、前記透明基材の一部にのみ形成されていることを特徴とする加飾材。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の加飾材において、
前記透明基材は、透明樹脂プレート、ガラス板、および透明セラミック板のうち少なくともいずれかを用いてなることを特徴とする加飾材。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の加飾材において、
前記微細凹凸部は、マット形状、ヘヤライン形状、溝形状、シボ形状および回折格子形状のうち少なくともいずれかであることを特徴とする加飾材。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の加飾材において、
前記微細凹凸部は、紫外線硬化型樹脂で形成されていることを特徴とする加飾材。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の加飾材を表面に備えてなることを特徴とする加飾物品。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−255373(P2009−255373A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106655(P2008−106655)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(594162537)株式会社ハイテック (6)
【出願人】(508116997)株式会社 スクリーン工芸 ワット (1)
【出願人】(592167787)株式会社セイコーアドバンス (13)
【Fターム(参考)】