説明

加飾樹脂成形品の製造方法

【課題】樹脂成形品の成形と表面加飾を同時的に実施し、しかも加飾シートの位置ずれをなくすことが可能な加飾樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】加飾シート10の両幅端部に、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロール17および巻き取りロール19のそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ一対の金型間におけるキャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにした。これにより一対の金型間に送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設する場合に、加飾シートの印刷柄等加飾柄の位置ずれがなく、常に歩留まりのよい安定した樹脂成形品を得ることができ、また樹脂成形物の成形と樹脂成形物表面に対する加飾シートの一体貼付工程とが同時的におこなわれるところから工程数が削減でき、生産性と低コスト化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建材や自動車内装部品、あるいは電化製品の部品、携帯電話部品など各種プラスチック成形品の表面を加飾する方法に関し、作業の効率化とコストの低減、さらには品質の向上をはかることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来例えば携帯電話機のキートップや各種筐体など樹脂製部品表面に加飾する技術としては、樹脂成形体上面および側面に加飾用のフィルム(多層積層フィルム)を接着剤により接着し、その上に文字などを印刷表示するとともに、さらに透明な樹脂カバーを接着剤を介して被覆するようにしたものが知られている(特開2006−216493公報明細書[0041]〜[0044]の記載、および図3を参照)。また上記の樹脂成形体については、本願の図6にもあらわしたように、射出成形用の一対の射出成形金型(本例では可動の下金型1と固定の上金型2)間に狭いゲート3より樹脂を流し込んで樹脂成形体4を成形するのが一般的である。
【特許文献1】特開2006−216493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記した特許文献1に記載の発明にあっては、樹脂製部品の成形作業工程や、樹脂成形品表面に加飾用のフィルムを貼る工程などが個別におこなわれるところから工程数が多く生産性に劣り、また成形された樹脂成形品の表面に対する加飾用のフィルムの貼る工程において位置ずれを生じ易いところから、不良品が多くなり製品歩留まりの面においても問題が多い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明にあっては、樹脂成形品の加飾に際しての工程数を削減し、生産性を向上するとともに樹脂成形品の表面に施される加飾フィルムの位置ずれを無くして良好な表面性状の加飾樹脂成形品を低コストで得ることができるようにしたものであって、具体的には、第1発明は、送りロールと巻き取りロール間に設置された射出成形金型における、該金型が相互に開いている状態の一対の固定側金型部と可動側金型部の間のキャビティ内に、上記送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内の加飾シート裏面との間に可塑化された樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体成形する場合において、上記加飾シートの両幅端部には、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロールおよび巻き取りロールのそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ、上記一対の金型が開いている状態の固定側金型部と可動側金型部間のキャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにしたことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法に関する。
【0005】
また第2発明は、送りロールと巻き取りロール間に設置された射出成形金型における、該金型が相互に開いている状態の一対の固定側金型部と可動側金型部の間のキャビティ内に、上記送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内の加飾シート裏面との間に可塑化された樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体成形する場合において、上記加飾シートの両幅端部には、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロールおよび巻き取りロールのそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ、しかも上記送りロールに比して巻き取りロールの回転速度を幾分早める方向に引っ張りテンションをかけながら上記キャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにしたことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
第1発明は、加飾シートの両幅端部に、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロールおよび巻き取りロールのそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ射出成形金型の一対の金型が開いている状態において該一対の金型のキャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにしたために、金型が開いている状態においての固定側金型部と可動側金型部の間のキャビティ内に送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設する場合に、加飾シートの印刷柄等加飾柄の位置ずれがなく、常に歩留まりのよい安定した樹脂成形品を得ることができ、また樹脂成形物の成形と樹脂成形物表面に対する加飾シートの一体貼付工程とが同時的におこなわれるところから工程数が削減でき、生産性と低コスト化を実現することができる。
【0007】
第2発明は、加飾シートの両幅端部に、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロールおよび巻き取りロールのそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ、しかも上記送りロールに比して巻き取りロールの回転速度を幾分早める方向に引っ張りテンションをかけながら金型が開いている状態においての一対の固定側金型部と可動側金型部間のキャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにしたために、金型が開いている状態での一対の金型間のキャビティ内に送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設する場合に、加飾シートの予熱による伸縮があっても殆ど影響が無く、加飾シートの印刷柄等加飾柄の位置が常に正常に保たれる結果、常に歩留まりのよい安定した樹脂成形品を得ることができるばかりでなく、常に加飾シートに張りが保たれるところから、完成した樹脂成形品の表面に施された加飾柄の皺の発生を防止でき、高品質の加飾樹脂成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において本発明の具体的な内容を図示の実施例をもとに説明をする。図において10は加飾シート、13は射出成形金型、16は樹脂注入口をあらわしている。加飾シート10は樹脂成形品の表面を被覆して装飾性をもたせるための比較的薄いフィルム状物であり、図4にあらわしたように樹脂成形品の表面に付着させる為に本射出成形によって形成されるベース樹脂層11と、該ベース樹脂層11上に施された加飾層(本実施例においては金属調層)12とから構成される。
【0009】
なお図4の加飾シート10は、最も単純な構成のものを示したものであって、このほかにもベース樹脂層11/加飾層12/透明保護層(図示省略)の構成からなるものや、あるいは加飾層12が比較的薄い、あるいは半透明の着色材であったり、あるいはパール顔料を施したもの、またベース樹脂層11がルチル型パール色顔料を混入したもの、加飾層12との間に印刷を施したものなど、種々のバリエーションが考えられる。
【0010】
また加飾層12として金属調層を用いる場合においても、アクリル系、ウレタン系、ビニル系、セルロース系等の樹脂を用いた蒸着アンカー層を介して金属蒸着を施し、あるいはスパッタリング法、イオンプレーティング法など既知の手段により形成することができる。なおこの場合における蒸着法としては真空蒸着、あるいは電子線放射法などによって実施可能である。
【0011】
また用いられる金属としては、低コストであることからCrが最良であるが、このほかにもSn、In、Al、Ni、Ag、Auなどの単体又はそれらの化合物でもよい。さらに加飾シートが、ベース樹脂付着層と塗膜層又は金属調層等の加飾用フィルムとの積層体である場合なども考えられる。なおこれら金属調の光輝性を有した加飾シート1の例としては大日本インキ化学(株)の商品名「メタラーレ」などが用いられる。
【0012】
さらにベース樹脂層11としては、一般的にはアクリルニトリル系、スチレン系、ブタジェン系、塩化ビニル系、ポリプロピレン系、ポリカーボネート系、あるいはこれらの混成系など各種の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0013】
上記加飾シート10の両幅端部には、該フィルムの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴10aが形成されており、また該加飾シート10の幅中央部には、予め少なくとも樹脂成形物21の長さ以上の間隔毎に注入穴10bが形成されている。また後記する射出成形金型13を跨いだ位置に設置され、加飾シート10を巻回させる送りロール17および巻き取りロール19のそれぞれの両側に付設させた送りギア18・20のそれぞれの歯先18a・20aを、それぞれ順次上記した送り穴10aに噛合させて加飾シート10を送りつつ、一対の金型14・15間のキャビティ内に位置合わせして加飾シート10を敷設する。
【0014】
一方射出成形金型13は図1にあらわしたように、本実施例では縦型の成形金型が用いられており、固定された凹状の上金型15と、該上金型15に向けて接離させるべく、上下方向に可動可能な凸状の下金型14とにより一対の射出成形金型13が構成されている。さらに樹脂注入口16は、固定の上金型15の端部であって、該上金型15の上面から下金型14に向けて貫通させて設けられ、先端を下金型の上面に予め敷設された加飾シート10上に向けられている。
【0015】
なお本実施例においては縦型の成形金型を用いた場合について説明をしたが、1対の金型を水平方向に配置した横型の成形金型を用いることもできる。また成形物樹脂21を形成するために樹脂注入口16より一対の射出成形金型13のキャビティ内に射出される溶融樹脂21aに関しては、汎用の多くの種類の樹脂が用いられる。
【0016】
上記した実施例の構成において、送りロール17および巻き取りロール19の送りギア18・20を回転させてこれらの歯先18a・20aに送り穴10aを歯合させた加飾シート10を巻き取りロール19側へと順次送り込んで上下金型14間に加飾シート10を、本実施例の場合には表面側(加飾層12側)を上にした状態で金型のキャビティ内に位置あわせして敷設し、さらに下金型14を上金型15に向けて上昇させるとともに、樹脂注入口16、およびこの樹脂注入口16の射出先端開口部に臨ませた加飾シート10の注入穴10bを介して可動側金型部である下金型14と加飾シート10との間に溶融樹脂21aを射出して前記加飾シート10と重合一体成形状態において固化させる。
【0017】
なお、この場合に加飾シート10の両幅端に形成した送り穴10aに送りロール17および巻き取りロール19のそれぞれの両側に付設させた送りギア18・20の歯先18a・20aを順次噛合させて送りつつ、しかも上記送りロール19に比して巻き取りロール19の回転速度を幾分早める方向に引っ張りテンションをかけながら可動側金型部である下金型14のキャビティ内に位置合わせして加飾シート10を敷設するようにした場合においては、可動側金型部である下金型14内への加飾シート10の敷設に際して皺の発生を防止して表面性状の良好な加飾樹脂成形品を得ることができる。
【0018】
なお、射出成形金型13内において固化された溶融樹脂21aは、可動側金型部である下金型14が型締め後において再度下降して開いた後、加飾シート10の先端が巻き取りロール19に巻き取られる過程において、例えば汎用のトムソン型22により周辺の余分な加飾シート10をせん断してトリミングし、製品である加飾樹脂成形品23を完成する(図5参照)。
【0019】
さらに加飾シート10の両幅端に、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎に形成された送り穴10aの形状についても、シートの長さ方向に向けた長穴またはシートの幅方向に向けた長穴の何れか一方または両方の混合でもよく、またシートの長さ方向に向けた長穴と、これに交差するシートの幅方向に向けた長穴とによる十字状の穴、あるいは円形、楕円形、長円形などであってもよい。
【0020】
これらの場合においては、送りロール17および巻き取りロール19の、それぞれの両側に付設させた送りギア18・20の歯先18a・20aについても、これら送り穴10aの形状に合致する形状のものとすると、例えば送り穴10aと、これに歯合する歯先18a・20aとがシートの長さ方向に向けた共に長穴状である場合には、加飾シート10の特に長さ方向の位置ずれが十分に規制される。
【0021】
また送り穴10aと、これに歯合する歯先18a・20aとがシートの幅方向に向けた共に長穴状である場合には、加飾シート10の特に幅方向の位置ずれが十分に規制される。さらに送り穴10aと、これに歯合する歯先18a・20aとがシートの長さ方向に向けた長穴と、これに交差するシートの幅方向に向けた長穴とによる十字状である場合においては、加飾シート10の長さ方向と幅方向との両方向についての位置ずれが十分に規制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施に供される射出成形金型を中心とした加飾樹脂成形品製造のための装置の概略断面図。
【図2】図1の片方の固定側金型部を除いた状態の平面図。
【図3】一対の金型間において加飾シートと、射出された成形物樹脂との一体化による加飾樹脂成形品を成形中の状態をあらわした要部断面図。
【図4】本発明において用いられる加飾シートの一例をあらわした部分断面図。
【図5】図3により成形固化された樹脂成形物を取り出してトムソン型によりトリミングをする状態をあらわした説明図。
【図6】従来より汎用されてきた樹脂成形品の成形金型の断面図。
【符号の説明】
【0023】
10 加飾シート
10a 送り穴
10b 注入穴
11 ベース樹脂層
12 加飾層
13 射出成形金型
14 下金型
15 上金型
16 樹脂注入口
17 送りロール
18 送りギア
18a 歯先
19 巻き取りロール
20 送りギア
20a 歯先
21 成形物樹脂
21a 溶融樹脂
22 トムソン型
23 加飾樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送りロールと巻き取りロール間に設置された射出成形金型における、該金型が相互に開いている状態の一対の固定側金型部と可動側金型部の間のキャビティ内に、上記送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内の加飾シート裏面との間に可塑化された樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体成形する場合において、上記加飾シートの両幅端部には、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロールおよび巻き取りロールのそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ、上記一対の金型が開いている状態の固定側金型部と可動側金型部間のキャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにしたことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
送りロールと巻き取りロール間に設置された射出成形金型における、該金型が相互に開いている状態の一対の固定側金型部と可動側金型部の間のキャビティ内に、上記送りロールより送り込まれた加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内の加飾シート裏面との間に可塑化された樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体成形する場合において、上記加飾シートの両幅端部には、該シートの長さ方向に向けて一定間隔毎の送り穴を形成するとともに、該送り穴に送りロールおよび巻き取りロールのそれぞれの両側に付設させた送りギアを順次噛合させて送りつつ、しかも上記送りロールに比して巻き取りロールの回転速度を幾分早める方向に引っ張りテンションをかけながら上記キャビティ内に位置合わせして加飾シートを敷設するようにしたことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
加飾シートの両幅端部にシートの長さ方向に向けて一定間隔毎に形成された送り穴がシートの長さ方向に向けた長穴またはシートの幅方向に向けた長穴の何れか一方または両方の混合であるところの請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
加飾シートの両幅端部にシートの長さ方向に向けて一定間隔毎に形成された送り穴がシートの長さ方向に向けた長穴と、これに交差するシートの幅方向に向けた長穴とによる十字状の穴であるところの請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
両幅端部に送り穴が形成された加飾シートの幅中央部には、予め少なくとも樹脂成形物の長さ以上の間隔毎に注入穴が形成されているところの請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−119978(P2008−119978A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307409(P2006−307409)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(503112112)ビクター工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】