説明

加飾樹脂成形品の製造方法

【課題】樹脂成形品の成形と表面加飾を同時的に実施し、しかも加飾層表面に対する保護層の形成工程を省略して低コストでしかも高品質の加飾樹脂成形品を得る。
【解決手段】固定側金型部と可動側金型部からなる一対の射出成形金型のキャビティ内に加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内に可塑化された溶融樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体化した成形品を成形する場合において、加飾シートは加飾層およびこれを担持するベース樹脂層の積層体からなり、しかもキャビティ内に射出される可塑化樹脂が成形後において光透過性を有する透明若しくは半透明のものであって、これをベース樹脂層の反対側面である加飾層の上面側に対して射出・成形するようにした。これにより視覚的に著しい深みと重厚感のある光沢や色調を表現することができ、また表面保護のための被覆工程が不要となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建材や自動車内装部品、あるいは電化製品の部品、携帯電話部品など各種プラスチック成形品の表面を加飾する方法に関し、樹脂成形工程と加飾工程とを同時に実施することにより作業工程の効率化とコストの低減をはかり、しかも加飾品質の向上により従来にない高級感を発揮させ、さらに加飾面の十分な保護をはかることにより品質の著しい向上をはかることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来例えば携帯電話機のキートップや各種筐体など樹脂製部品表面に加飾する技術としては、樹脂成形体上面および側面に加飾用のフィルム(多層積層フィルム)を接着剤により接着し、その上に文字などを印刷表示するとともに、さらに透明な樹脂カバーを接着剤を介して被覆するようにしたものが知られている(特開2006−216493公報明細書[0041]〜[0044]の記載、および図3を参照)。また上記の樹脂成形体については、本願の図6にもあらわしたように、射出成形用の一対の射出成形金型(本例では可動の下金型1と固定の上金型2)間に狭いゲート3より樹脂を流し込んで樹脂成形体4を成形するのが一般的である。
【特許文献1】特開2006−216493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記した特許文献1に記載の発明にあっては、樹脂製部品の成形作業工程や、樹脂成形品表面に加飾用のフィルムを貼る工程などが個別におこなわれるところから工程数が多く生産性に劣り、また作業者として熟練を要し、成形された樹脂成形品の表面に対する加飾用のフィルムを貼る工程において位置ずれを生じ易いところから、不良品が多くなり製品歩留まりの面においても問題が多い。
【0004】
さらに樹脂製部品あるいは樹脂成形品の表面に施された加飾面が摺れなどにより痛みやすく、そのために加飾層を担持する厚手のベース樹脂層のほかに、通常は加飾層表面に薄い透明な保護層(オーバーレイ樹脂層)を施して摺れなどによる加飾層の毀損を無くして耐久性を向上させることがおこなわれているために作業工程が増加し、またコスト高となるのを免れない。
【0005】
またこれまでの加飾樹脂成形品にあっては、成形品の表面にベース樹脂層を介して鍍金や金属あるいは塗膜などによる加飾層が施されているだけであるために、加飾層による装飾機能が比較的単純で高級感に欠けるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明にあっては、樹脂成形工程と加飾工程とを同時に実施し、しかも従来のような加飾表面に対する保護皮膜形成工程を要することなく、在来品以上に十分な加飾面保護を可能とすることにより、加飾樹脂成形作業の効率化とコストの低減をはかり、また在来品にはみられない深みと重厚感のある光沢や色調の表現を可能とした高品質の加飾樹脂成形品を得ることができるようにしたものである。
【0007】
具体的には、本発明は固定側金型部と可動側金型部からなる一対の射出成形金型のキャビティ内に加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内に可塑化された溶融樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体化した成形品を成形する場合において、加飾シートは加飾層およびこれを担持するベース樹脂層の積層体からなり、しかもキャビティ内に射出される可塑化樹脂が成形後において光透過性を有する透明若しくは半透明のものであって、これをベース樹脂層の反対側面である加飾層の上面側に対して射出・成形するようにしたことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、射出成形金型のキャビティ内に可塑化された樹脂を射出する場合に、従来の一般的な加飾方法のような加飾シートの裏面、すなわち加飾層を担持するベース樹脂層の裏側面に成形材樹脂を射出するのではなしに、成形材樹脂そのものを成形後において光透過性を有する透明もしくは半透明の可塑化樹脂を用いてこれをベース樹脂層に担持された加飾層の上面(表面側)に射出成形することにより、成形材樹脂それ自体をもって加飾層の保護手段を兼ねる、という、いわば在来の逆発想(逆加飾)の手法により生産性の著しい向上と、しかも重厚感のある表面光沢・色調を具現化することができる。
【0009】
すなわち、金型内に敷設した加飾シートに向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出する場合に、従来のような加飾シートにおけるベース樹脂層の裏側に対してではなしに、ベース樹脂層に担持されている加飾層の表面側に、成形後において光透過性を有する透明もしくは半透明の可塑化樹脂を射出成形するようにしたために、光透過性を有する透明もしくは半透明の固化成形物樹脂側表面より入光した光が加飾層で反射され、再び成形物樹脂層を透過して該固化成形物樹脂表面側において上記加飾層による光沢や色調などが視認されるために、視覚的に著しい深みと重厚感のある光沢や色調を表現することができる。
【0010】
また本発明においては金型内において、光透過性を有する透明もしくは半透明の溶融熱可塑性樹脂をベース樹脂層に担持された加飾層上面に射出して加飾樹脂成形品を形成するようにしたために、加飾層表面に対してあらためて保護膜の形成などの表面保護のための被覆工程が不要となるばかりでなく、十分に厚みのある保護層として機能させることができる。
【0011】
さらに樹脂成形工程と加飾工程とを同一の金型内において同時におこなうことができるために、作業工程が短縮し、しかも低コストを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において本発明の具体的な内容を図示の実施例をもとに説明をする。図において1は加飾シート、4は射出成形金型、7は該金型内への樹脂注入口、10は金型4内に射出される溶融可塑化樹脂をあらわしている。加飾シート1は、基本的には図2にあらわしたように加飾層(本実施例においては金属調層)2と、該加飾層2を担持するための比較的厚手のベース樹脂層3、および上記加飾層2の表面に被覆された透明な薄い保護層(オーバーレイ樹脂層)2aの積層体からなり、一般的には成形物樹脂の表面を被覆して装飾性をもたせるために用いられるものである。
【0013】
なお上記の加飾層2としては、例えばベース樹脂層3に対する金属蒸着、鍍金、塗膜の形成など、あるいは金属などの光輝性フィルムあるいは着色されたフィルムの重合貼付などにより形成することができる。
【0014】
図2に例示した加飾シート1は、ベース樹脂層3上に担持された加飾層2の表面に透明な薄い保護層(オーバーレイ樹脂層)2aを被覆したものであるが、本発明において用いられる加飾シート1については、必ずしも上記した保護層(オーバーレイ樹脂層)2aを施していないものであっても使用できる。さらに保護層2aを施したものであっても、金型1のキャビティ内に射出される可塑化樹脂の射出時に高温による悪影響を受けないようにするための耐熱性のある樹脂を用いた透明な薄い樹脂保護膜を施すようにすると一層良好である。
【0015】
なお、この場合に適する加飾層2の保護層2aを形成する保護膜用樹脂としては、例えば一般的なポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル系樹脂などのほかに、より耐熱性に優れたポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、あるいはポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ふっ素樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステルエラストマー、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂、さらにはメチルペンテンポリマーやポリスチレン系等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0016】
またこれらの場合に、加飾層2が比較的薄い、あるいは半透明の着色材であったり、あるいはパール顔料を施したもの、またベース樹脂層3との間に印刷を施したもの、など種々のバリエーションが考えられる。なおベース樹脂層3に担持させる加飾層2として金属調層を用いる場合においては、アクリル系、ウレタン系、ビニル系、セルロース系等の樹脂を用いた蒸着アンカー層を介して金属蒸着を施し、あるいはスパッタリング法、イオンプレーティング法など既知の手段により形成することができる。
【0017】
この場合における蒸着法としては真空蒸着、あるいは電子線放射法などによって実施可能である。さらにここで用いられる金属としては、低コストであることからCrが最良であるが、このほかにもSn、In、Al、Ni、Ag、Auなどの単体又はそれらの化合物でもよい。さらに加飾シート1が、ベース樹脂付着層と塗膜層又は金属調層等の加飾用フィルムとの積層体である場合なども考えられる。なおこれら金属調の光輝性を有した加飾シート1の例としては大日本インキ化学(株)の商品名「メタラーレ」などがある。
【0018】
またベース樹脂層3として使用可能な樹脂は、一般的には加飾層2より厚手のアクリルニトリル系、スチレン系、ブタジェン系、塩化ビニル系、ポリプロピレン系、ポリカーボネート系、あるいはこれらの混成系など各種の光透過性のある熱可塑性樹脂が用いられる。
【0019】
さらに金型内に射出される溶融可塑化樹脂10は、例えば携帯電話のケース本体など金型内への射出後に固化して目的の成形品を成形するための素材となるものであって、成形後において光透過性を有する透明もしくは半透明の可塑化樹脂である必要がある。つまりこの場合に用いられる樹脂の種類については格別限定はされないが、金型4内において加飾シート1の加飾層2あるいはその表面保護層2aの面上に射出後、固化して固化成形物樹脂10aとし、周辺トリミングなど最終仕上げにより製品化した場合に、固化成形物樹脂10aが光透過性を有する透明もしくは半透明であり、その表面から入光した光が、これに重合されている加飾層2によって反射され、その反射光を固化成形樹脂10aの表面に現出させることが可能であることが必要である。
【0020】
なおこの場合に、樹脂成形品Pの表面に対して色調を施すことについては、単に樹脂成形品の表面に塗料を施すだけでも種類によってはある程度の光透過性の得られるものがあるが、一般的に深みと重厚感のある光沢や色調を得るには十分ではない。その点で本願発明で用いられる樹脂は、樹脂成形品自体を透明若しくは半透明とし、これを加飾シート1の加飾層2あるいはその表面保護層2a上に一体に重合形成することにより、単に表面に塗料を施す場合に比べると遥かに高い深みと重厚感のある光沢や色調を得ることが可能である。
【0021】
金型内に射出される溶融可塑化樹脂10に、ルチル型パール色顔料や微細な光輝性の金属粉、あるいはその他の微細な装飾粉を混入したもの、さらには加飾層2との間に印刷を施したものなどの場合においては、固化成形物樹脂10a層の表面から入光した光が、これに重合されている加飾層2によって反射され、その反射光を再度固化成形物樹脂10a層の表面に現出させる場合に、上記したルチル型パール色顔料など、あるいは加飾層3付近の印刷層などによって光が偏向し、偏向色となって視覚的に特異な審美性をもたらすことができる。
【0022】
一方射出成形金型4は図1および図3にあらわしたように、本実施例では縦型の成形金型が用いられており、固定された凹状の上金型6と、該上金型6に向けて接離させるべく、上下方向に可動可能な凸状の下金型5とにより一対の射出成形金型4が構成されている。さらに樹脂注入口7は、固定の上金型6の端部であって、該上金型6の上面から下金型5との間に形成されるキャビティ内に向けて貫通させて設けられ、溶融樹脂の射出先端を下金型5の上面に予め敷設された加飾シート1上に向けられている。
【0023】
なお本実施例においては縦型の成形金型を用いた場合について説明をしたが、1対の金型を水平方向に配置した横型の成形金型について適用することもできる。
【0024】
上記した実施例の構成において、巻き取りロール9を回転させて送りロール8に巻回されている加飾シート1を巻き取りロールに向けて引き出しつつ、これを加飾層2もしくはその表面保護層2aを施した面を上金型6の内面に対面させた状態で凹状の上金型6と凸状の下金型5間におけるキャビティ内に位置あわせして敷設する。
【0025】
さらに下金型5を上金型6に向けて上昇させて金型4の型締めをした後、下金型5と上金型6間に形成されたキャビティ内に、樹脂注入口7から固定側金型部である上金型6と加飾シート1の表面、すなわち加飾層2もしくは保護層2aとの間に溶融された可塑化樹脂を射出して前記加飾シート1と重合一体成形させた状態において固化させて固化成形物樹脂10aとした後、上下の金型6・5を開放し、キャビティ内より固化した固化成形物樹脂10aを取り出し(図4参照)、加飾シート1の先端が巻き取りロール9に巻き取られる過程において、例えば汎用のトムソン型(図示省略)により射出残存樹脂部10Xなどをはじめとし、周辺の余分な加飾シート部分をせん断してトリミングし、製品である加飾樹脂成形品P(図5参照)を完成する。
【0026】
上記の実施例においては、下金型5と上金型6間に形成されたキャビティ内にあらかじめ敷設する加飾シート1として送りロール8に巻回されている加飾シート1を巻き取りロール9を回転させることにより送りロール8から引き出しつつおこなう場合について説明をしたが、このほかにも下金型5と上金型6間に形成されたキャビティ内の大きさに合わせて予めカード状もしくは方形のシート状に成形しておき、これを射出成形の都度1枚宛キャビティ内に敷設するようにしてもよい。
【0027】
なお在来の加飾樹脂成形品にあっては、表面に施された加飾層単体が樹脂成形品の外観となり、該加飾層単体の表面性状がそのまま装飾外観となるが、本発明による加飾樹脂成形品Pによる場合においては、成形品樹脂自体が透明もしくは半透明であって、その表面から入光した光が固化成形物樹脂10aの層内を透過し、これと重合一体化された加飾層2で反射され、加飾層2による加飾性状を再び成形品樹脂の層内を透過して表面外観としてあらわされるものおであるために、在来の加飾樹脂成形品にはみられない深みと重厚感のある独特の表面加飾を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施に供される射出成形金型を中心とした加飾樹脂成形品製造のための装置の概略断面図。
【図2】本発明において用いられる加飾シートの一例をあらわした部分拡大断面図。
【図3】図1に示した一対の金型間において加飾シートと、射出された成形物樹脂との一体化による加飾樹脂成形品を成形中の状態をあらわした概略断面図。
【図4】図3により金型内において成形・固化させた後に取り出した成形物。
【図5】本発明により得られた加飾樹脂成形品の一例をあらわした部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0029】
1 加飾シート
2 加飾層
2a 保護層
3 ベース樹脂層
4 射出成形金型
5 下金型
6 上金型
7 樹脂注入口
8 送りロール
9 巻き取りロール
10 溶融可塑化樹脂
10a 固化成形物樹脂
P 加飾樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型部と可動側金型部からなる一対の射出成形金型のキャビティ内に加飾シートを敷設し、さらに上記金型の型締め後において上記キャビティ内に可塑化された溶融樹脂を射出して前記加飾シートと重合一体化した成形品を成形する場合において、加飾シートは加飾層およびこれを担持するベース樹脂層の積層体からなり、しかもキャビティ内に射出される可塑化樹脂が成形後において光透過性を有する透明若しくは半透明のものであって、これをベース樹脂層の反対側面である加飾層の上面側に対して射出・成形するようにしたことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
一対の射出成形金型のキャビティ内に敷設される加飾シートが、ベース樹脂層に担持された加飾層の表面に透明な保護層を施した積層体からなるものである請求項1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
一対の射出成形金型のキャビティ内に敷設される加飾シートが、一対の射出成形金型を挟んで一方に設置された送りロールに巻回されており、他方に設置された巻き取りロールの巻き取り回転により送りロールから巻き取りロールに向けて引き出しつつ順次キャビティ内に敷設されるものであるところの請求項1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
一対の射出成形金型のキャビティ内に敷設される加飾シートが、予めカード状もしくは方形のシート状に成形され、射出成形の都度1枚宛キャビティ内に敷設するようにしたものであるところの請求項1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
加飾シートの加飾層が、金属蒸着、鍍金、塗膜のいずれかにより形成されているところの請求項1〜4の何れか1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
加飾シートの加飾層が、金属などの光輝性フィルムからなるものであるところの請求項1〜4の何れか1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
加飾シートのベース樹脂層が、加飾層より厚手のアクリルニトリル系、スチレン系、ブタジェン系、塩化ビニル系、ポリプロピレン系、ポリカーボネート系、あるいはこれらの混成系など各種の透明もしくは半透明体より構成されているところの請求項1〜6の何れか1に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−265085(P2008−265085A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109176(P2007−109176)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(503112112)ビクター工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】