説明

加飾製品の製造方法

【課題】基材表面上に金属薄膜を形成した成膜品に更に塗装を施すことにより得られる加飾製品において、塗装欠陥や塗装不良の発生を有利に防止し、且つ、塗装欠陥や塗装不良を惹起する成膜品上に付着する付着異物の有無を、作業者の眼の健康を確保しつつ効果的に検査し得るようにした加飾製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】成形された基材を成膜チャンバ内に搬送して、所定の成膜処理を施し、基材表面に所望の金属薄膜を形成した後、その得られた成膜品に塗装を施すことにより、加飾製品を製造するに際して、かかる成膜品を前記成膜チャンバから取り出した後、成膜品に対して除電・除塵操作を実施し、次いで緑色光を照射して、成膜品表面における付着異物の有無の検査を行なって、成膜品を選別し、そして得られた付着異物の認められない成膜品に対して、前記塗装が施されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾製品の製造方法に係り、特に、スパッタリングや蒸着等の成膜処理により金属薄膜を形成した後、その得られた成膜品に塗装を施すことにより、目的とする加飾製品を製造するに際して、塗装欠陥や塗装不良のない高品質の加飾製品を有利に製造することの出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形品等の表面を加飾してなる加飾製品の製造方法の一つとして、樹脂成形品(基材)の表面に成膜処理を施すことにより、所望の金属薄膜を形成した後、その得られた成膜品の表面に塗装を施す方法が、知られている。
【0003】
例えば、特開2007−1247号公報(特許文献1)には、合成樹脂からなる基材を用いて、それを除電・除塵して表面を清浄化した後、かかる基材表面にアンダーコートを塗布し、次いでスパッタリング又は蒸着により、金属薄膜を10nm〜50nmの厚さで成膜し、更にその上に、略透明のトップコートを10〜20μmの厚さで塗布することによって、加飾製品を製造する手法が、明らかにされている。そして、このようにして得られる加飾製品は、基材に対して、容易に且つ安価に金属調の光沢を付与することが可能であるところから、様々な意匠的要求のある自動車内装部品等に広く使用され得ることが認められている。
【0004】
しかしながら、そのようにして得られる従来の加飾製品にあっては、トップコート塗装されたときに、塗装欠陥や塗装不良を生じることがあり、そしてそれによって不良品を発生させたり、品質を低下させて、商品価値を下げたりする等の問題が惹起される恐れを有している。また、この問題は、トップコート塗装に際して、成膜品の取扱いに、作業者が如何に注意を払ったところで、回避され得るものではなかったのである。
【0005】
ところで、製品等の表面上に存在乃至は付着する異物の有無の検査は、従来から、一般に、ブラックライトの照射の下で、目視により異物の有無を確認することによって、行なわれて来ている。例えば、特開2001−272306号公報(特許文献2)には、紫外光を発する光源(ブラックライト)より光を照射し、異物或いは汚れの発する蛍光或いは燐光を検知する異物の検査方法が、明らかにされており、このような異物の検査方法によれば、微小な異物や汚れが存在した場合であっても、これらが蛍光或いは燐光を発するため、検出し易く、検査の信頼性が高いとされている。
【0006】
しかして、そのような従来からのブラックライトを使用した異物の有無についての検査方法は、上述したような金属薄膜表面上に付着した異物の有無の検査には有効ではないことが明らかとなった。即ち、そのような金属薄膜上に付着する異物は、上述したようなブラックライトによる照射を行なっても、金属薄膜又は異物の一方のみが蛍光或いは燐光を発するようなことはなく、また、異なる強度で蛍光或いは燐光を発することもないのであり、そこでは、異物のみが蛍光発光或いは燐光発光することにより、異物の有無の確認が容易となるという、ブラックライトを利用することの利点を、何等享受し得るものではないことが、明らかとなったのである。
【0007】
また、本発明者等が検討したところによると、衣服の繊維等から発生する塵や埃等の、一般的な異物にあっても、金属調の光沢を有する金属薄膜上に付着した場合には、ブラックライトの照射による検査方法では、異物の有無の確認が困難であることも明らかとなった。これは、金属薄膜の形成された成膜品の表面は金属光沢を有し、高い反射率で光を反射するところから、塵や埃等の異物が、ブラックライトの照射によって蛍光発光或いは燐光発光をしても、異物の発光があまり目立たず、更に、ブラックライトは、水銀線から出る可視部の光線を遮断し、約360nm付近の近紫外線だけを透過させるようになっているものであるところから、可視光領域の光量が少なく、異物の陰影の強度も小さくなってしまうためであると考えられるのである。
【0008】
しかも、そこで用いられるブラックライトは、300nm〜400nm付近の近紫外線を放射するものであるところから、人体に有害とされる紫外線領域の波長(UVB:315〜280nm、UVC:280〜100nm)の光は殆ど放射しないものの、その長時間の使用は、健康上において好ましいものではない、と考えられる。
【0009】
そこで、そのような蛍光現象或いは燐光現象を利用することが困難な異物の検査の場合には、ブラックライトに代えて、自然光等の白色光(可視光)を用いるようにすることも考えられるが、単に、そのような白色光を用いるようにしても、スパッタリング等により形成される金属薄膜上の異物の有無を検査する場合には、金属薄膜の有する金属光沢により、成膜品表面から高い反射率で光が反射し、作業者の眼に負担が掛かるという問題が内在する。そして、そのような環境下での作業が長時間に亘って行なわれると、反射光により眼が疲れたり、チラついたりして、目視にて異物の有無を確実に検査することが困難となり、塗装不良等の発生を充分に防止し得なくなると共に、作業者の眼の健康が害されるという問題が惹起される恐れがある。
【0010】
【特許文献1】特開2007−1247号公報
【特許文献2】特開2001−272306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明者等は、先ず、前記した成膜品表面における塗装欠陥等の発生原因について種々検討した結果、基材上に、スパッタリングの如き成膜処理により金属薄膜を形成する場合には、スパッタ装置の釜(チャンバ)内において、スパッタ処理が行なわれる度毎に、かかる釜内の治具等には、スパッタリングにより生じた金属粉が積層することとなり、そしてそのような幾層にも積層された金属粉は剥れ易く、スパッタ処理の終了した成膜品の金属薄膜の表面に落下したり、また成膜品を釜内から取り出す際等に、直接に、又は作業者の手等を介して、表面に付着するようになることが、明らかとなったのである。また、スパッタ処理中においては、釜内には全体に金属粉が飛び散るため、スパッタ処理の終了した成膜品を釜内から取り出す際に、スパッタ室内全体に金属粉が拡がり、室内に浮遊することとなるのであり、そして次工程(塗装工程)までの待ち時間の間、そのような環境下で成膜品を保管すると、空気中に浮遊している金属粉が、成膜品の表面に付着するという問題が生じ、更に、そのような表面に金属粉が付着した成膜品に対して、そのまま塗装処理を実施すると、金属粉(異物)の付着箇所に、塗装不良を惹起することが、明らかとなったのである。
【0012】
加えて、成膜品の金属薄膜表面に付着する異物、特に、上記した金属粉の如き異物の有無についても、その検査手法を種々検討した結果、そのような成膜品表面に付着する金属粉は、従来の異物の有無の検査方法と同様にして、ブラックライトの照射下における検査を行なっても、塵や埃等の一般的な異物と異なり紫外線を吸収せず、そのため、異物の有無の判別が困難となることが判明したのであり、そのようなブラックライト(近紫外線)に代えて、緑色光を検査光として用いることにより、目視においても付着異物の存在の有無が効果的に判断され得るようになることが明らかとなったのである。またそのような緑色光は、作業者の眼にも優しいものとなるのであって、成膜品検査において最適なものであることが認められたのである。
【0013】
従って、本発明は、上述の如き知見に基づいて完成されたものであって、その解決課題とするところは、基材表面上に金属薄膜を形成した成膜品に更に塗装を施すことにより得られる加飾製品において、塗装欠陥や塗装不良の発生を有利に防止し、且つ、塗装欠陥や塗装不良を惹起する成膜品上に付着する付着異物の有無を、作業者の眼の健康を確保しつつ効果的に検査し得るようにした加飾製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明は、かかる課題の解決のために、成形された基材を成膜チャンバ内に搬送して、所定の成膜処理を施し、該基材表面に所望の金属薄膜を形成した後、その得られた成膜品に塗装を施すことにより、目的とする加飾製品を製造するに際して、かかる成膜品を前記成膜チャンバから取り出した後、該成膜品に対して除電・除塵操作を実施し、次いで緑色光を照射して、成膜品表面における付着異物の有無の検査を行なって、該成膜品を選別し、そして得られた付着異物の認められない成膜品に対して、前記塗装が施されるようにしたことを特徴とする加飾製品の製造方法を、その要旨とするものである。
【0015】
なお、このような本発明に従うところの加飾製品の製造方法の望ましい態様の一つによれば、前記緑色光は、490〜580nmの波長の光であり、また他の望ましい態様の一つによれば、前記緑色光としては、緑色フィルタを通過した光線が用いられる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う加飾製品の製造方法にあっては、基材表面に金属薄膜を形成した後に、除電・除塵操作を実施して、成膜チャンバから取り出されて塗装の施される成膜品における、成膜処理によって発生する表面付着異物を効果的に除去するようにしたものであるところから、塗装終了後に得られる加飾製品において、そのような付着異物による塗装不良等の発生が、有利に抑制乃至は防止され得ることとなるのである。
【0017】
しかも、本発明にあっては、上記したような、基材に対して金属薄膜を形成してなる成膜品に特有の付着異物である金属粉や、塵や埃等の一般的な異物の有無の検査を、緑色光を照射して行なうようにするものであるところから、人体に悪影響を及ぼす恐れもなく、また作業者の眼に優しく、従って、眼が疲れたり、チラついたりするようなことが有利に防止され、以て、異物の有無の検査を、確実に行ない得ることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施形態の一つについて、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0019】
先ず、図1の(a)には、本発明手法に従って製造される加飾製品の一例として、自動車用内装部品として使用される加飾製品2が、斜視形態において示されており、また図1の(b)には、かかる加飾製品2のB−B断面における拡大説明図が、概略的に示されている。
【0020】
そこにおいて、基材4は、自動車用内装部品等の加飾製品の形成材料として一般に採用される熱可塑性の樹脂材料(例えば、ABS樹脂等)を用いて、射出成形された射出成形品にて、構成されている。また、かかる基材4の表面側の全面に形成される金属薄膜6は、公知のスパッタ装置等の成膜装置により、厚さ:約10nm〜50nmにて形成されている。更に、かかる金属薄膜6の表面側の全面には、クリア塗膜8が形成されて、その表面側が、意匠面10とされている。ここで、クリア塗膜8は、公知のクリア塗料が従来と同様な手法により塗布されることで、10μm〜20μm程度の厚さにおいて形成されており、これによって、加飾製品2の表面側において、金属調の意匠面10が効果的に形成されると共に、加飾製品2の表面側部分の耐候性や耐衝撃性が高められて、意匠面10に傷が付き難くなっている。
【0021】
ところで、このような加飾製品2を、本発明に従って製造するに際しては、先ず、図2(a)及び図3に示されるように、目的とする加飾製品2の形状を有する基材4が、射出成形等の公知の樹脂成形手法によって成形されることとなる。なお、図2(a)〜(c)は、加飾製品2の製造工程を、図1(b)に対応する形態において、順を追って示しており、また図3は、加飾製品2の製造工程を、フロー図において説明している。
【0022】
そこでは、先ず、準備された基材4に対して、好ましくは、後で詳述する除電・除塵操作が、従来と同様に実施されることとなる(図3参照)。この除電・除塵操作が実施されることにより、基材4の表面上に、かかる基材4の金型からの離型の際等に発生する静電気等により付着した、衣服の繊維等の塵や埃等の異物が、効果的に除去せしめられる。そして、このように表面が清浄化されてなる基材4に対して、後述する成膜処理が施されることによって、得られる成膜品12にあっては、その金属薄膜6に、付着異物により惹起される成膜欠陥や成膜不良等が発生することが、有利に回避され得るのであり、以て、最終的に得られる加飾製品2の品質の低下が、有利に防止され得ることとなるのである。
【0023】
次いで、そのような除電・除塵操作の後、好ましくは、基材4表面上に存在する付着異物の有無が、目視等により検査されることとなる(図3参照)。そこにおいて、付着異物の有無の検査は、例えば、ブラックライトの照射による蛍光現象或いは燐光現象を利用した検査方法や、室内の蛍光灯等の白色光による照明下での検査方法等の、従来から用いられて来ている公知の手法が、何れも採用可能であるが、ここでは、有利には、後述する緑色光を照射する方法にて行なわれることとなる。かかる緑色光を用いた検査方法を採用した場合には、緑色光が眼に優しく、作業者の眼が疲れたり、チラついたりするようなことが有利に回避され得るところから、検査の精度を有利に向上せしめることが可能となるからである。
【0024】
その後、図2(b)及び図3に示されるように、成形された基材4には、その表面側の略全面に、公知の成膜処理が施されることとなる。具体的には、成形された基材4を、成膜チャンバ(図示せず)内に搬送して、所定の成膜処理を施し、かかる基材4表面上に、金属薄膜6が所定厚さにおいて形成されるのである。なお、そこにおいて、成膜処理としては、基材4表面上に金属薄膜6を形成し得るものであれば、何等限定されるものではなく、例えば、スパッタリングや真空蒸着、イオンプレーティング、CVD等の公知の成膜処理が、何れも採用可能である。また、金属薄膜6の厚さとしても、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜に決定されることとなるが、一般に、10nm〜50nm程度の膜厚にて形成されることとなる。
【0025】
そして、本発明にあっては、そのようにして得られた成膜品12が、前記成膜チャンバから取り出された後、かかる成膜品12に対して、除電・除塵操作が実施されることとなるのである(図2(b)及び図3参照)。この除電・除塵操作には、公知の除電・除塵装置の中から、目的に応じて適宜の装置が用いられ得るものであって、例えば、特開2005−211797号公報において明らかにされている如きガンタイプの除電・除塵装置や、特開2006−7012号公報において明らかにされている如きボックスタイプの除電・除塵装置等が用いられて、実施されることとなる。
【0026】
具体的には、そのような除電・除塵操作を、ガンタイプの除電・除塵装置を用いて実施するに際しては、図4の(a)及び(b)に示されるように、作業ボックス14内の取付けパイプ16上に取り付けられた取付け台18上に、成膜品12を載置乃至は固定し、そして、イオンを発生するイオン発生装置と、高速空気を噴射するエアガンとを有するガンタイプの除電・除塵装置(図示せず)を操作して、成膜品12の表面全体に、イオンと高速空気を吹き付けることにより、異物(図示せず)を除去するようにするのである。このように、イオンを吹き付けて除電を行なうことにより、静電気により付着した付着異物が離れ易くなると共に、成膜品12の表面に対して、高速空気が吹き付けられることによって、成膜品12表面に付着した付着異物が有利に除去(除塵)されることとなる。なお、イオンと高速空気とによって吹き飛ばされた異物は、図4(a)に示されるように、取付パイプ16の下方に配置されている排気ファン(図示せず)により、排気ダクト20を通じて排出され、それにより、作業ボックス14内の空気の清浄状態が保たれるようになっている。
【0027】
また、イオン及び高速空気の吹付けの際には、先ず、成膜品12の裏側、換言すれば、基材4に対して金属薄膜6が形成(成膜)されていない側に対して吹付けを行なった後、最後に成膜品12の表面側、換言すれば、基材4に対して金属薄膜6が形成(成膜)されている側に対して吹付けを行なうようにするのが、好ましい。このような順序で吹付けを行なうことにより、成膜品12表面側への異物の再付着が、有利に防止されて、成膜品12の表面を、より有利に付着異物の存在しない、清浄なものとすることが可能となるのである。更に、成膜処理の後、次工程(塗装工程)までの待ち時間が生じる場合には、塗装工程へ移る直前に、除電・除塵操作を実施するようにすることが望ましい。このようにすることで、除電・除塵操作後に、異物が再付着するようなことが、より一層有利に防止され得るのである。
【0028】
このように、本発明に従う加飾製品の製造方法にあっては、成膜品12が、成膜チャンバから取り出された後に、かかる成膜品12表面に付着した付着異物が、除電・除塵操作により、除去せしめられることとなるところから、従来の加飾製品の製造方法に比して、極めて有利に、成膜品12の表面が付着異物の存在しない清浄なものと為され得るのである。即ち、成膜品12は、基材4に対して金属薄膜6を形成してなるものであるところから、成膜処理の実施によって、前述したように、成膜チャンバ内や成膜室内には、金属粉が多数浮遊し、表面に付着するようになるのであるが、そのような成膜品12に特有の付着異物である金属粉が、成膜処理後の除電・除塵操作によって効果的に除去せしめられることによって、次いで行なわれる塗装工程において、成膜品12上へのクリア塗膜8の形成が、塗装欠陥乃至は塗装不良の発生を何等惹起することなく、有利に行なわれ得るのであり、以て、最終的に得られる加飾製品2が、不良品となったり、品質が低下せしめられるようなことが、有利に防止され得ることとなるのである。
【0029】
なお、成膜後に、そのような除電・除塵操作を実施することなく、クリア塗膜8を形成せしめるような、従来の加飾製品の製造方法にあっては、金属薄膜6の形成時に、チャンバ内で生じた金属粉が、成膜品12のチャンバ内からの取出し時や、成膜室内での保管時において、作業者が気が付かない間に表面に付着するようになり、そして、作業者が気付くことなく、そのような異物を付着せしめたまま、その後の塗装工程においてクリア塗膜8が形成されることによって、かかる付着異物の付着箇所上のクリア塗膜8に塗装欠陥や塗装不良が惹起されて、加飾製品2が、製品基準を満たさない不良品となったり、品質が低下せしめられたりすることとなるのである。
【0030】
そして、本発明にあっては、上記のようにして成膜品12に対して除電・除塵操作が実施された後、更に、その表面検査のために、成膜品12に対して緑色光が照射されて、成膜品12表面における付着異物の有無が検査されることとなる(図3参照)。そこにおいて、かかる付着異物の有無の検査は、検査精度及び経済的な観点から、一般に、目視にて行なわれることとなるが、何等これに限定されるものではなく、例えば、モニター等を介して行なうようにしたり、またその際に、画像処理等を行なうようにすることも可能である。
【0031】
また、そのような表面検査に用いられる緑色光とは、略単一の波長の光からなる単色光であっても、波長の異なる光が混合した複合光であっても何等差支えなく、何等限定されるものではないが、単色性が強すぎると、色の違いが判別し難くなり、異物の発見が困難となる恐れがあるため、複合光を用いることが望ましい。更に、そのような緑色光とは、本発明においては、500〜560nm(緑色)の範囲内の波長の光のみならず、490〜500nm(青緑色)の波長の光や560〜580nm(黄緑色)の波長の光をも含むものであり、また、そのような波長以外の光を若干含むものであってもよいが、好ましくは、490〜580nmの波長を有する光が用いられる。特に、本発明にあっては、500〜560nm(緑色)の波長領域にピーク波長を有し、490〜580nm以外の波長の光を実質的に含まないものが、より一層有利に用いられ得る。
【0032】
そして、本発明に従う加飾製品の製造方法では、そのような緑色光の光を用いて、成膜品12表面上に付着する異物の有無が検査されるものであるところから、それにより、目視においても付着異物の存在の有無が効果的に判別され得ることとなり、また、そのような緑色光は、作業者の眼にも優しいものであるという利点を有しているのである。即ち、緑色光は、人間の眼が最も強く感じることの出来る、換言すれば、最も弱い光で感じることの出来る、555nm付近の波長にて構成されているところから、眼に掛かる負担が少ないのであり、従って、長時間の検査作業によっても、作業者の眼が疲れたり、チラついたりするようなことが有利に回避されることとなるのである。そしてそれにより、付着異物の有無の検査の精度が有利に向上せしめられ得るのであって、以て加飾製品2において、不良品の発生や、品質の低下が有利に防止され得ると共に、作業者の眼の健康が害されるようなことも、有利に回避され得るのである。
【0033】
なお、そのような緑色光は、その光源として如何なるものを用いてもよく、例えば、直接緑色光を発する緑色LED等を用いるようにしてもよいが、有利には、白色光等を発する光源からの光や自然光(太陽光)を、緑色フィルタを通過せしめることによって得られる光線が用いられ、これにより、既存の光源を利用して、容易に且つ安価に緑色光を得ることが出来ることとなる。なお、かかる白色光を発する光源としては、例えば、白熱電球、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を例示することが出来るが、その中でも、本発明にあっては、明るい、寿命が長い、容量が小さい等の点から、ハロゲンランプが有利に用いられることとなる。
【0034】
また、そこにおいて用いられる緑色フィルタとしても、特に限定されるものではなく、光源の前面に、緑色光を透過し、それ以外の光をカットする緑色の透明フィルムを配置したり、またライト(光源)やライト前面に位置するライトカバー等に、緑色光を透過し、それ以外の光をカットする緑色の透明塗料を塗布する等、従来から公知のフィルタの中から、使用する光源の種類等を考慮して、適宜に選択されることとなる。
【0035】
さらに、前記した光源としては、光のチラつきがない、直流点灯方式によるものを用いることが、好ましい。このようなチラつきのない光を使用することにより、特に、長時間の検査作業によって、眼が疲れたり、眼の健康が害されたりするようなことが有利に回避され、これにより、付着異物の有無の検査において、付着異物が見落とされるようなことが、有利に抑制乃至は防止され、以て、塗装欠陥や塗装不良等の発生が、有利に低減され得るのである。
【0036】
次いで、このようにして、成膜処理された成膜品12に対して、付着異物の有無の検査が順次行なわれた後、付着異物の認められない成膜品12が、選別されることとなる。なお、かかる検査により、付着異物の認められた成膜品12に対しては、再度、除電・除塵操作が実施されて、付着異物が除去されることとなるのであるが、有利には、図4(a)に示されるように、作業ボックス14の天井に、緑色光を照射するライト22を設置し、かかる作業ボックス14内で、除電・除塵操作を実施するのと同時に乃至は交互に、ライト22から照射される緑色光により、付着異物の有無が判別されることとなる。このようにすることにより、成膜品12表面に付着する付着異物を、有利に効率良く除去することが、可能となるのである。
【0037】
その後、上述のようにして得られた付着異物の認められない成膜品12に対して、所定の塗装が施され、クリア塗膜8が形成されることとなる(図2(c)及び図3参照)。そこにおいて、かかる塗装に用いられる塗料としては、従来から公知のものが、何れも採用可能であり、一般に、加飾製品のトップコート塗料として用いられている、紫外線硬化型のアクリル樹脂系の塗料や、熱乾燥型のウレタン樹脂系或いはエポキシ樹脂系の塗料等の中から、目的に応じて適宜に選択されることとなる。なお、そこで用いられる塗料としては、下地の金属薄膜が透けて見える透明塗料であれば、有色であっても、無色であってもよく、そのような塗料を適宜に選択することによって、得られる加飾製品2に、より一層高度な意匠性を付与することが可能となる。更に、クリア塗膜8の膜厚は、加飾製品2表面の保護機能を充分に果たす上で、10〜20μm程度とされることとなるが、何等これに限定されるものではない。
【0038】
そして、本発明に従う加飾製品の製造方法によれば、上述のようにして、付着異物の有無の検査が行なわれて、成膜品が選別された後、付着異物の認められない成膜品12に対して、塗装が施されるものであるところから、形成されるクリア塗膜8において、付着異物に起因する塗装欠陥や塗装不良等の発生が、有利に回避され得ることとなるのであり、以て、最終的に得られる加飾製品2において、不良品の発生や、品質の低下が惹起されるようなことが、有利に抑制乃至は防止され得るのである。
【0039】
なお、本発明においては、上述した成膜処理、除電・除塵処理、塗装処理は、何れも、風が循環させられているクリーンルーム内で行われることが望ましく、それにより、室内に浮遊する異物の除去が有利に行なわれて、成膜品12表面への異物の付着を、より一層有利に回避し得ることとなる。また、そのようなクリーンルーム間の成膜品12等の受渡しには、従来から一般に用いられているパスボックスを用いることが望ましく、それにより、クリーンルーム間の異物の移動が最小限に抑えられることとなる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述してきたが、それらは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、基材4上に付着した付着異物の除去を行なっていたが、かかる工程は、本発明においては適宜に採用されるところであって、何等必須の工程ではない。
【0042】
また、当然のことながら、基材4の形状も、上記実施例で例示されている形状に何等限定されるものではなく、目的とする加飾製品2の形状に対応した形状を有する基材4が、適宜に用いられることとなる。
【0043】
さらに、上記実施形態においては、図4(a)に示されるように、ライト22は線光源であったが、本発明は、何等それに限定されるものではなく、線光源に代えて、点光源や面光源から、緑色光を照射するようにしてもよい。しかし、特に、点光源や線光源から照射するようにした場合には、付着異物の陰影が深く現われることから、付着異物の有無の確認が容易となるため、好ましい。また、光源を当てる角度としても、上記実施形態に何等限定されるものではなく、望ましくは、成膜品12の表面に付着する付着異物の陰影が深くなるような角度が、成膜品12の形状等に応じて適宜に調節されて、設定されることとなるのであり、それにより、成膜品12上に付着する付着異物の有無が、より一層有利に検査され得ることとなる。
【0044】
加えて、上記実施形態においては、成膜品12が、作業ボックス14内の取付パイプ16上に取り付けられた取付台18上に、載置乃至は固定されて、除電・除塵操作が実施されるようになっていたが、成膜品12が小さい場合や軽い場合には、直接手に持って行なうようにしたり、器具で挟んで持つようにしても、何等差支えない。
【0045】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変形、修正、改良等を加えた態様において、実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
【実施例】
【0046】
先ず、図1(a)に示されるような形状を有する基材4(約400mm×約160mm×約30mm)を、ABS樹脂の射出成形操作によって、100個準備した。次いで、かかる準備された基材4を、パスボックスを用いて作業室(クリーンルーム)内に搬送し、それを、作業室内に設置された、図4(a)に示される如き作業ボックス14内の取付け台18上に、図4(b)に示されるように、固定した。その後、かかる基材4の裏面及び表面に対して、ガンタイプの除電・除塵装置を用いて、除電・除塵操作を実施した。そして、作業ボックス14内に取り付けられた、ハロゲンランプ22(ランプ前面に緑色フィルムが設けられて、緑色光を照射するようになっている)を点灯し、緑色光の照射の下で、基材4上に付着する付着異物の有無を目視にて検査し、付着異物の認められた基材4に対しては、再度、除電・除塵操作を実施し、付着異物の除去を図った。
【0047】
次いで、付着異物の除去された基材4を、パスボックスを用いてスパッタ室(クリーンルーム)内に移動し、そして、スパッタ装置のスパッタチャンバ内で、通常のスパッタリングを実施することにより、100個の基材上に、それぞれ、厚さ:約40nmの金属薄膜6を形成した。そして、かかる金属薄膜6の形成された成膜品12を、スパッタチャンバ内から取り出し、パスボックスを用いて、前記作業室とは別の作業室(クリーンルーム)に移動させた。
【0048】
その後、かかる作業室内に設置された、図4(a)に示されるような作業ボックス14内において、上記と同様にして、成膜品12の100個に対して、ガンタイプの除電・除塵装置を用いて、それぞれ除電・除塵操作を実施し、また上記と同様にして、緑色光の照射の下で、成膜品12上に付着する付着異物の有無の検査を目視にて行なった。そして、付着異物の認められた成膜品12に対しては、再度、除電・除塵操作を行なった後、緑色光の照射の下で、付着異物が認められないことを確認した。
【0049】
上記のようにして、付着異物の認められなくなった成膜品12の100個を、パスボックスを用いて塗装室に移動させ、無色透明のクリア塗料(オリジン電気株式会社製、商品名:オリジツーク#200)を、噴霧塗装により厚さ:約20μmで塗布し、クリア塗膜8を形成せしめ、次いで、乾燥室内で乾燥させることにより、100個の加飾製品2を得た。そして、その得られた加飾製品2の100個について、白色光の照射の下で、目視により塗装欠陥又は塗装不良の有無の検査を行なった。その結果を、下記表1に示す。なお、下記表1において、良否の判定は、加飾製品2全体で0.3mm以上の大きさの塗装欠陥又は塗装不良が認められる場合、又は100mm×100mmの領域内に、0.1mm以上の大きさの塗装欠陥又は塗装不良がある場合に、不良とし、それ以外を良品として、行なった。
【0050】
−比較例−
成膜品12上の付着異物の有無の検査を、緑色光に代えて、蛍光灯の白色光により行なったこと以外は、上記実施例と同様にして、100個の加飾製品2を作製し、そして上記実施例と同様にして、塗装欠陥又は塗装不良の有無を検査し、評価を行なった。その結果を、下記表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従って、成膜品12上の付着異物の有無を、緑色光により検査した場合には、加飾製品2における不良品発生率は1%と極めて低く、成膜品12上の付着異物の有無の検査が、高精度で行なわれたことが分かった。また、そのような緑色光の照射の下での検査作業において、作業者は、眼に、何等かの異常や負担を感じるようなことはなかった。一方、成膜品12上の付着異物の有無を、緑色光に代えて、白色光で行なった場合には、成膜品12表面に形成されている金属薄膜6の光沢により、作業者が眩しさを感じて、成膜品12上の異物の有無の検査が充分に行なわれ得ず、不良品発生率が高くなった。また、かかる検査を行なった作業者は、作業中や作業後に、眼が疲れたり、チラついたりする等の症状を訴え、作業者の眼の健康上において、好ましくないものであることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に従って製造される加飾製品の一例を示す図であって、(a)は、その斜視説明図であり、(b)は、(a)におけるB−B断面拡大説明図である。
【図2】本発明に従う加飾製品の製造工程を、順を追って示す図であって、(a)〜(c)は、それぞれ各工程の図1(b)に対応する形態における説明図である。
【図3】本発明に従う加飾製品の製造工程を、フロー図により説明する図である。
【図4】本発明に従う加飾製品の製造方法を説明するための図であって、(a)は、除電・除塵操作等が行なわれる作業ボックスの一例を示す斜視説明図であって、(b)は、成膜品が、作業ボックス内で、取付け台に固定されている状態を示す斜視拡大説明図である。
【符号の説明】
【0054】
2 加飾製品 4 基材
6 金属薄膜 8 クリア塗膜
10 意匠面 12 成膜品
14 作業ボックス 16 取付けパイプ
18 取付け台 20 排気ダクト
22 ライト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形された基材を成膜チャンバ内に搬送して、所定の成膜処理を施し、該基材表面に所望の金属薄膜を形成した後、その得られた成膜品に塗装を施すことにより、目的とする加飾製品を製造するに際して、
かかる成膜品を前記成膜チャンバから取り出した後、該成膜品に対して除電・除塵操作を実施し、次いで緑色光を照射して、成膜品表面における付着異物の有無の検査を行なって、該成膜品を選別し、そして得られた付着異物の認められない成膜品に対して、前記塗装が施されるようにしたことを特徴とする加飾製品の製造方法。
【請求項2】
前記緑色光が、490〜580nmの波長の光であることを特徴とする請求項1に記載の加飾製品の製造方法。
【請求項3】
前記緑色光として、緑色フィルタを通過した光線が用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加飾製品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−84660(P2009−84660A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258740(P2007−258740)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】