説明

劣化度診断方法、劣化度診断装置、および劣化診断プログラム

【課題】構造物の局所的な腐食減肉による劣化にも対応することができ、構造物の建設時または健全時の情報がなくても、簡便で客観的かつ定量的な評価を行い得る構造物の劣化診断方法を提供すること。
【解決手段】構造物に衝撃的な力を加え、加えられた衝撃による前記構造物の振動強度の時間波形を計測するステップと、計測された振動強度の時間波形から構造物の固有振動数を求めるステップと、求められた固有振動数から構造物に加わる応力レベルを求めるステップと、構造物に周期的な力を加え、加えられた力による熱弾性効果で生ずる構造物の温度変化を赤外線カメラで計測するステップと、計測された温度変化から構造物に加わる応力の分布を求めるステップと、求められた応力レベルおよび応力分布から構造物に加わる最大応力を算出するステップと、算出された最大応力から前記構造物の劣化度を診断するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトコンベアのフレーム構造部のような構造物の劣化度を診断する劣化度診断方法、劣化度診断装置、および劣化診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所には種々の構造物が用いられているが、中には建設後30年以上経過している鋼構造物も多く存在し、安全・安心という観点から、健全性の評価が重要な課題となっている。また、重大事故回避のため、保守・老朽更新範囲は拡大傾向にある。中でも、総機長100km以上に達する原料搬送用ベルトコンベアは広範囲な保守・更新を行っている。コンベアの中には高炉装入コンベアのように、その故障が生産に重大な影響を及ぼす設備も多いため、安易な保守・更新時期の先送りは許されない。一般的なコンベアは、溝形鋼や山形鋼で構成されるトラスフレーム上に、ローラー・ベルトなどの搬送部を有しているが、設備によってはフレーム部の腐食減肉にともなう強度低下により、補修や更新に至っている。
【0003】
従来、ベルトコンベアのフレーム構造の劣化診断は保全員の目視点検に基づく主観的評価に依存していたため、客観的かつ定量的評価が可能な技術が望まれていた。構造物の腐食減肉による劣化に対しては、部材にかかる最大応力を求め、それが許容範囲内か否かで定量に絶対評価することが理想である。しかしながら、部材にかかる応力を直接測定することは困難であるため、何らかの手法で間接的に応力を求める必要がある。例えば、上弦材、下弦材などの各部材の肉厚を丹念に測定し、腐食減肉度によって評価することも考えられるが、フレーム構造建設時の初期キャンパー量が不明なことが多かったり、現場での正確なたわみ量測定が困難だったりすることから、これも定量的評価には適していない。
【0004】
比較的簡便な手法としては、構造物の振動測定に基づく劣化診断がある。固有振動数や減衰比、モード形などのモーダルパラメータに着目するのが一般的で、剛性の低下や減衰の増大で構造物の劣化診断が可能であるとされている(例えば、非特許文献1、2)。しかしながら、これらはいずれも基本的に健全状態からの相対的変化で評価するので、(1)健全時のデータが必要、(2)絶対評価が困難という問題がある。
【0005】
そこで、構造物の建設時や健全時の情報がなくても、簡便で客観的かつ定量的な評価を行い得る構造物の劣化診断手法として、構造物の固有振動数から部材にかかる応力を求め(以下、固有振動応力測定法と呼ぶ)、求められた応力から構造物の劣化度を評価する手法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
他の応力推定方法として、熱弾性応力測定法がある(例えば、非特許文献3)。この手法は、赤外線サーモグラフィを応用し、部材表面の応力分布(主応力和の変化)を可視化するものである。熱弾性効果による温度変化ΔTと主応力和の変化Δσは以下の(1)式のように比例関係にあるので、温度変化ΔTを赤外線カメラで計測することにより、部材表面の主応力和の変化Δσを画像計測することができる。
ΔT=―k・T・Δσ ……(1)
(k:熱弾性係数、T:部材の絶対温度)
【非特許文献1】R. D. Adams, P. Cawley, C. J. Pyeand B. J. Stone, “A Vibration Technique for Non-Destructively Assessing theIntegrity of Structures”, Journal of Mechanical Engineering Science, vol. 20,No.2, pp. 93-100, 1978
【非特許文献2】A. E. Aktan, D. L. Brown, C. R.Farrar, A. Helmicki, V.Hunt and J. Yao, “Objective Global Condition Assessment”,Proceedings of the 15th International Modal Analysis Conference, Orlando, FL,pp. 364-373, 1997
【非特許文献3】赤外線サーモグラフィによる設備診断・非破壊評価ハンドブック、6.1 熱弾性応力法の原理と基礎、(社)日本非破壊検査協会編、2004年
【特許文献1】特開2002−22596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、構造物の腐食減肉による劣化を客観的かつ定量的に評価するのに必須である応力測定(推定)法として従来から検討されている上記固有振動応力測定法および熱弾性応力測定法は以下に示すような欠点を有する。
【0008】
まず、固有振動応力測定法は、構造物全体が一様に腐食減肉するような劣化における応力推定には極めて有効であるが、構造物の一部が局所的に減肉するような場合の応力推定には適していない。これは、構造物の極一部の局所的な腐食減肉は、構造物全体の固有振動数には大きな影響を及ぼさない、すなわち、仮に構造物の一部が局所的に減肉しても固有振動数がほとんど変化しないことによる。したがって、実際は腐食減肉によって局所的に応力が増大しているにもかかわらず、固有振動数に変化がないために推定応力値も変わらないので、正確な劣化診断ができない。
【0009】
次に、熱弾性応力測定法は熱弾性効果に基づく部材の温度変化から主応力和の変化量を推定するものであるため、部材にかかる応力の絶対値が求められるものではなく、構造物に作用する外力の動的変化に対する応力変化を推定しているに過ぎない。例えばベルトコンベアのフレーム構造の劣化診断を行う際には、自重および搬送物の重量による部材にかかる静的応力の最大値と許容応力値との比較によって評価をしたいので、応力の変化量だけでは情報として不十分である。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、構造物の局所的な腐食減肉による劣化にも対応することができ、構造物の建設時または健全時の情報がなくても、簡便で客観的かつ定量的な評価を行い得る構造物の劣化診断方法および構造物の劣化診断装置、および劣化診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、構造物にかかる全体的な応力レベルと構造物の各部位における応力の分布を求めることができれば、これらを適切に組み合わせることで、構造物の局所的な応力増大も含めた最大応力値を推定することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、固有振動応力測定法により構造物の部材にかかる全体的な応力レベルを求め、熱弾性応力測定法により構造物の各部位における応力の分布を求めることで、構造物の最大応力値を推定し、これによって局所的な腐食減肉による劣化も含めた構造物の劣化診断を行うことができる。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、第1の観点では、構造物に衝撃的な力を加え、加えられた衝撃による前記構造物の振動強度の時間波形を計測するステップと、計測された振動強度の時間波形から前記構造物の固有振動数を求めるステップと、求められた固有振動数から前記構造物に加わる応力レベルを求めるステップと、前記構造物に周期的または衝撃的な力を加え、加えられた力による熱弾性効果で生ずる前記構造物の温度変化を赤外線カメラで計測するステップと、計測された温度変化から前記構造物に加わる応力の分布を求めるステップと、求められた応力レベルおよび応力分布から前記構造物に加わる最大応力を算出するステップと、算出された最大応力から前記構造物の劣化度を診断するステップとを含むことを特徴とする劣化診断方法を提供する。
【0014】
上記第1の観点において、前記構造物に周期的な力を加える際、その周波数を前記構造物が自重により静的に撓む形と同等の振動モード形を有する固有振動数に合わせることが好ましい。ベルトコンベアのフレーム構造のような構造物の劣化診断を行う際には、構造物にかかる静的応力の最大値と許容応力との比較によることが望ましいが、熱弾性応力測定法で求められるのは外力による主応力和の動的変化量のみである。このとき、外力により構造物が動的に変化する形、すなわち振動モード形が自重により静的に撓む形と同等であれば、そのときの応力変化量の分布は静的応力の分布に等しいと考えられる。そのため、熱弾性応力測定の際に構造物に加える外力の周波数は、前記構造物が自重により静的に撓む形と同等の振動モード形を有する固有振動数に合わせることが好ましいのである。
【0015】
また、前記構造物がベルトコンベアのフレーム構造部であり、該フレーム構造部の劣化度を評価するものであることが好ましい。これは、ベルトコンベアのフレーム構造部(1スパン)は通常トラス構造であり、構造が比較的単純なので、一様断面両端単純支持梁と同様に最大応力σと鉛直一次曲げ固有振動数fの関係を以下の(2)式で表すことができ、鉛直一次曲げ固有振動数fから最大応力値σを推定することができるからである。また、ベルコンベアのフレーム構造部の場合は、この鉛直一次曲げの振動モード形が自重により静的に撓む形と同等の形となるので、熱弾性応力測定の際に構造物に加える外力の周波数は鉛直一次曲げ固有振動数に合わせればよい。
σ=a・H/(f・L) ……(2)
(H:コンベア高さ、L:スパン長、a:H/Lによって定まる比例定数)
【0016】
本発明の第2の観点では、構造物の振動強度の時間波形を計測する振動計測部と、この振動計測部で計測された振動強度の時間波形から前記構造物の固有振動数を求める固有振動数抽出部と、この固有振動数抽出部で求められた固有振動数から、前記構造物に加わる応力レベルを推定する応力レベル推定部と、前記構造物の温度変化を赤外線カメラで計測する温度計測部と、求められた応力レベルおよび応力分布から前記構造物に加わる最大応力を算出する最大応力推定部と、この最大応力推定部で算出された最大応力から前記構造物の劣化度を診断する劣化度評価部とを具備することを特徴とする劣化診断装置を提供する。
【0017】
上記第2の観点において、前記構造物を振動させる加振部を具備し、この加振力による熱弾性効果で生じる前記構造物の温度変化を計測するように構成することが好ましい。また、前記構造物がベルトコンベアのフレーム構造部であり、該フレーム構造部の劣化度を評価するものであることが好ましい。
【0018】
本発明の第3の観点では、 構造物に衝撃的な力を与えた際の振動を検出して求められる構造物の振動強度の時間波形と、前記構造物に加えられた力による熱弾性効果で得られる熱画像とからコンピュータに構造物の劣化を診断する劣化診断プログラムであって、コンピュータに送られた振動強度の時間波形を周波数分析し、複数の共振ピークの中から固有振動数を抽出し、その固有振動数から応力レベルを推定する応力レベル推定機能と、熱画像から構造物の温度変化量を抽出し、熱弾性効果による温度変化と主応力和の変化との関係に基づいて、前記構造物の応力分布を推定する応力分布推定機能と、前記応力レベル推定機能で推定された応力レベルと前記応力分布機能で推定された応力分布とから、最大応力発生部位とその最大応力値を求める最大応力推定機能と、前記最大応力推定機能で推定された最大応力値と許容応力値とを比較することで、前記構造物の劣化度を評価する劣化度評価機能とを有することを特徴とする劣化診断プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、構造物の固有振動数から部材にかかる応力の全体レベルを求めるとともに、構造物表面の温度変化に基づく主応力和の変化から応力分布を求めるので、構造物の局所的な腐食減肉による劣化にともなう応力増大も捉えられるようになり、その際の最大応力値を推定することができる。その結果、構造物の建設時または健全時の情報がなくても、簡便で客観的かつ定量的に構造物の劣化を診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。
ここでは、構造物としてベルトコンベアのフレーム構造の劣化度を評価する劣化診断装置について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る劣化診断装置の概略構成を示す図である。
【0021】
この劣化診断装置は、フレーム構造10の振動を検出する振動センサ11と、フレーム構造10の各部位の熱画像を撮影するための赤外線カメラ12と、ベルトコンベアのフレーム構造10に振動を与える加振装置13と、振動センサ11からの出力信号および赤外線カメラ12からの情報に基づいてベルトコンベアのフレーム構造10の劣化度を診断するための情報処理を行う情報処理部14とを備えている。
【0022】
振動センサ11は、ベルトコンベアのフレーム構造10に加えられた衝撃的な力により生じるフレーム構造10の振動を検出するものであり、図では1個のみ描かれているが、必要に応じて複数個設置することもできる。振動の与え方としては、検査員がベルトコンベアのフレーム構造10に隣接する歩廊上でジャンプした際の衝撃を用いたり、コンベアの急停止・急始動による衝撃を用いたりする方法がある。
【0023】
加振装置13は、ベルトコンベアのフレーム構造10に周期的な力を与えて加振するものである。そして、赤外線カメラ12は、加振装置13による加振によってベルトコンベアのフレーム構造10に周期的な振動が生じている状態でフレーム構造10の各部位の熱画像を撮影する。
【0024】
情報処理部14は、振動センサ11からの出力信号および赤外線カメラ12からの情報を収集して所定の処理を行うデータ収集器15と、加振装置13を制御するとともに、データ収集器15で処理された情報に基づいてフレーム構造の劣化度診断のための所定の演算を行うコンピュータ16と、コンピュータ16に入力された情報や演算した結果得られた劣化度情報等を表示するディスプレイ17と、コンピュータ16上で実行される劣化度診断プログラム20が記憶された記憶部18とを有する。
【0025】
データ収集器15は、振動センサ11からの出力信号が入力され、デジタルデータに変換し、振動強度の時間波形としてコンピュータ16に送る。また、赤外線カメラ12で撮影された熱画像が入力され、デジタルデータに変換し、デジタル画像としてコンピュータ16に送る。
【0026】
コンピュータ16では、これら振動センサ11からデータ収集器15を経て入力された振動データおよび赤外線カメラ12からデータ収集器15を経て入力された熱画像データに基づいて、劣化診断プログラム20が実行される。劣化診断プログラム20は、応力レベル推定機能21、応力分布推定機能22、最大応力推定機能23、劣化度評価機能24を有する。
【0027】
応力レベル推定機能21は、コンピュータ16に送られた振動強度の時間波形を周波数分析し、複数の共振ピークの中から鉛直一次固有振動数を抽出し、その固有振動数から応力レベルとして最大応力値σを算出する。
【0028】
ベルトコンベアのフレーム構造10(1スパン)は通常トラス構造であり、構造が比較的単純なので、一様断面両端単純支持梁と同様に最大応力σと鉛直一次曲げ固有振動数fの関係を上述したように、以下の(2)式で表すことができ、鉛直一次曲げ固有振動数fから最大応力値σを推定することができる。
σ=a・H/(f・L) ……(2)
(2)式において、Hはコンベア高さ、Lはスパン長である(図1参照)。また、aはH/Lによって定まる比例定数である。また、最大応力がかかる部位もH/Lによって決まることがわかっており、例えば長スパン(H/Lが小)の場合には下弦材中央部である。したがって、フレーム構造10の下弦材中央部付近の応力レベルが概ね上述のようにして算出されたσ程度であると推定することができる。
【0029】
応力分布推定機能22は、赤外線カメラ12で撮影された熱画像から、フレーム構造10の各部位の温度変化量を抽出し、上記(1)式に示す熱弾性効果による温度変化ΔTと主応力和の変化Δσの関係に基づいて、主応力和の変化Δσを算出する。熱画像が鉛直一次固有振動数で加振された際のものであれば、その振動モード形はフレーム構造10が自重により静的に撓む形と同等なので、算出されたΔσの分布は、静的応力分布と同等と考えることができる。
【0030】
最大応力推定機能23は、応力レベル推定機能21で推定された応力レベルと応力分布機能22で推定された応力分布とから、最大応力発生部位とその最大応力値を求めるものである。応力分布推定機能22で推定された応力分布はあくまでも各部位間の相対的なものに過ぎないが、応力レベル推定機能21で推定された応力レベルを組み合わせることで、絶対的な応力分布に変換することができる。
【0031】
劣化度評価機能24は、最大応力推定機能23で推定された最大応力値と許容応力値とを比較することで、ベルトコンベアのフレーム構造10の老朽等による劣化度を評価するものである。
【0032】
次に、このように構成された劣化診断装置によりベルトコンベアのフレーム構造10の劣化診断を行う際の手順について説明する。図2は劣化診断を行う際の手順を示すフローチャートである。
【0033】
まず、対象構造物であるベルトコンベアのフレーム構造10に衝撃的な力を加え(S1)、この衝撃的な振動を振動センサ11で検出し、データ収集器15でデジタルデータに変換して収録する(S2)。
【0034】
そして、データ収集器15からコンピュータ16に送られた振動強度の時間波形を劣化度診断プログラム20の応力レベル推定機能21により周波数分析し、複数の共振ピークの中から鉛直一次固有振動数を抽出し(S3)、その固有振動数から上記(2)式により最大応力値σ(応力レベル)を算出する(S4)。
【0035】
一方、上述の振動測定とは別に、対象構造物であるベルトコンベアのフレーム構造10に加振装置13により周期的な力を与えて加振し(S5)、これにより周期的な振動が生じているフレーム構造10の各部位の熱画像を赤外線カメラ12により撮影し、データ収集器15でデジタルデータに変換し、デジタル画像として収録する(S6)。
【0036】
そして、データ収集器15からコンピュータ16に送られたデジタルデータに変換された熱画像から劣化診断プログラム20の応力分布推定機能22によりフレーム構造10の各部位の温度変化量を抽出し(S7)、上記(1)式に示す熱弾性効果による温度変化ΔTと主応力和の変化Δσの関係に基づいて、主応力和の変化Δσ(応力分布)を算出する(S8)。すなわち、上述したように、熱画像が鉛直一次固有振動数で加振された際のものであれば、その振動モード形はフレーム構造10が自重により静的に撓む形と同等なので、算出されたΔσの分布は、静的応力分布と同等となる。
【0037】
次に、応力レベル推定機能21で推定された応力レベルと応力分布推定機能22で推定された応力分布とから、劣化診断プログラム20の最大応力推定機能23により、最大応力発生部位とその最大応力値を求める(S9)。そして、劣化診断プログラム20の劣化度評価機能24によりその最大応力値と許容応力値とを比較し(S10)、ベルトコンベアのフレーム構造10の老朽等による劣化度を評価する(S11)。
【0038】
コンピュータ16は、このようにして得られた劣化度の評価結果をディスプレイ17に表示し、検査員はこれに基づいてベルトコンベアのフレーム構造10の補修や更新の要否を判定する(S12)。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では構造物としてベルトコンベアのフレーム構造を用いた例について示したが、これに限るものではなく、他の構造物に対しても適用可能である。また、上記実施形態では、応力分布を推定するために周期的な力を用いたが、熱弾性効果で生ずる温度変化を求められれば衝撃的な力でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ベルトコンベアのフレーム構造等の大型の構造物の劣化診断に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る劣化診断装置の概略構成を示す図。
【図2】図1の劣化診断装置によりベルトコンベアのフレーム構造部の劣化診断を行う際の手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0042】
10;ベルトコンベアのフレーム構造
11;振動センサ
12;赤外線カメラ
13;加振装置
14;情報処理部
15;データ収集器
16;コンピュータ
17;ディスプレイ
18;記憶部
20;劣化度診断プログラム
21;応力レベル推定機能
22;応力分布推定機能
23;最大応力推定機能
24;劣化度評価機能





【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に衝撃的な力を加え、加えられた衝撃による前記構造物の振動強度の時間波形を計測するステップと、計測された振動強度の時間波形から前記構造物の固有振動数を求めるステップと、求められた固有振動数から前記構造物に加わる応力レベルを求めるステップと、前記構造物に周期的または衝撃的な力を加え、加えられた力による熱弾性効果で生ずる前記構造物の温度変化を赤外線カメラで計測するステップと、計測された温度変化から前記構造物に加わる応力の分布を求めるステップと、求められた応力レベルおよび応力分布から前記構造物に加わる最大応力を算出するステップと、算出された最大応力から前記構造物の劣化度を診断するステップとを含むことを特徴とする劣化診断方法。
【請求項2】
前記構造物に周期的な力を加える際、その周波数を前記構造物が自重により静的に撓む形と同等の振動モード形を有する固有振動数に合わせることを特徴とする請求項1に記載の劣化診断方法。
【請求項3】
前記構造物がベルトコンベアのフレーム構造部であり、該フレーム構造部の劣化度を評価することを特徴とする請求項2に記載の劣化診断方法。
【請求項4】
構造物の振動強度の時間波形を計測する振動計測部と、この振動計測部で計測された振動強度の時間波形から前記構造物の固有振動数を求める固有振動数抽出部と、この固有振動数抽出部で求められた固有振動数から、前記構造物に加わる応力レベルを推定する応力レベル推定部と、前記構造物に周期的または衝撃的な力を与えた際の熱弾性効果による温度変化を赤外線カメラで計測する温度計測部と、求められた応力レベルおよび応力分布から前記構造物に加わる最大応力を算出する最大応力推定部と、この最大応力推定部で算出された最大応力から前記構造物の劣化度を診断する劣化度評価部とを具備することを特徴とする劣化診断装置。
【請求項5】
前記構造物を振動させる加振部を具備し、この加振力による熱弾性効果で生じる前記構造物の温度変化を計測することを特徴とする請求項4に記載の劣化診断装置。
【請求項6】
前記構造物がベルトコンベアのフレーム構造部であり、該フレーム構造部の劣化度を評価することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の劣化診断装置。
【請求項7】
構造物に衝撃的な力を与えた際の振動を検出して求められる構造物の振動強度の時間波形と、前記構造物に加えられた力による熱弾性効果で得られる熱画像とからコンピュータに構造物の劣化を診断する劣化診断プログラムであって、
コンピュータに送られた振動強度の時間波形を周波数分析し、複数の共振ピークの中から固有振動数を抽出し、その固有振動数から応力レベルを推定する応力レベル推定機能と、
熱画像から構造物の温度変化量を抽出し、熱弾性効果による温度変化と主応力和の変化との関係に基づいて、前記構造物の応力分布を推定する応力分布推定機能と、
前記応力レベル推定機能で推定された応力レベルと前記応力分布機能で推定された応力分布とから、最大応力発生部位とその最大応力値を求める最大応力推定機能と、
前記最大応力推定機能で推定された最大応力値と許容応力値とを比較することで、前記構造物の劣化度を評価する劣化度評価機能と
を有することを特徴とする劣化診断プログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−232708(P2008−232708A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70366(P2007−70366)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】