説明

劣化検出機能付き保安器

【課題】極めて低コストな構成で視覚により容易に保護素子の劣化を認識可能とし、しかもメンテナンス性も向上させた劣化表示機能付き保安器を提供する。
【解決手段】過電圧から各種機器を保護するための保護素子を備えた保安器において、所定温度で溶融する材料で形成され、前記保護素子に生じる熱が伝熱する箇所に設けられる低融点接続部26a,27aを有し、これら低融点接続部26a,27aが接続された状態を通常状態(白)と表示し、また、低融点接続部26a,27aが前記保護素子に生じる熱により所定温度になって溶融離脱した状態を劣化状態(赤)として表示する状態表示部26,27を備え、劣化状態であることを外部から一見して認識可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道用信号回路や電源回路等に使用されて雷サージから機器や人体を保護するための保安器に関し、特にバリスタ等の保護素子の劣化検出機能を備えた保安器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サージ電流や電圧を吸収して各種機器を保護する保安器は、バリスタ、アレスタ等の保護素子を備えているが、これらの保護素子はサージ電圧等が繰り返して印加されることにより次第に劣化し、動作開始電圧が規格外になるなど、保護機能が経時的に減退することが知られている。
従って、これらの保護素子の劣化を早期に検出して交換等を行うために、従来から各種の劣化検出方法や劣化検出回路が提供されている。
【0003】
例えば、本発明の先行技術としては、下記の特許文献1に記載された「保安器の劣化検出方法と劣化検出回路」、特許文献2に記載された「避雷装置及びその劣化検出方法」等が知られている。
【0004】
特許文献1の「保安器の劣化検出方法と劣化検出回路」は、外来のサージ電圧または電流を検出して内部電子機器を保護するために、外線と内線との境界に設けられる保安器の保安機能の劣化を検出する劣化検出方法において、保安器を介して内線側に入力される電流を検出し、検出した電流が予め定められたしきい値を超過したときに劣化検出信号を出力することを要旨とする。
【0005】
また、特許文献2の「避雷装置及びその劣化検出方法」は、サイリスタバルブとこのサイリスタバルブの点弧角を制御するバルブ制御装置とを備えた交直変換器に配設される避雷装置において、避雷装置が酸化亜鉛を主成分とする非直線抵抗体を備えた避雷器と、この避雷器の低圧側に接続される漏れ電流検出回路とからなり、この漏れ電流検出回路を保護素子と電流計とによるはしご形回路で構成したことを要旨としている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−21549号公報(請求項1等)
【特許文献2】特開平6−181109号公報(請求項1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1,2に記載された先行技術は、何れも保安器や避雷器を介した電流を検出して保護素子の劣化を検出するものであり、電流検出回路や比較回路、電流計等の専用の回路、測定器が不可欠であるため、装置の回路構成が複雑でコストも高くなるという問題があった。
また、保護素子の劣化を視覚によって簡単に認識できるものではないから、使い勝手も悪いものであった。
【0008】
そこで本発明は、極めて低コストな構成で視覚により容易に保護素子の劣化を認識可能とし、しかもメンテナンス性も向上させた劣化検出機能付き保安器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、劣化が進行した保護素子は過熱状態になって正常時よりも高温になることに着目してなされたものである。
すなわち、請求項1に記載した発明は、
過電圧から各種機器を保護するための保護素子を備えた保安器において、
所定温度で溶融する材料で形成され、前記保護素子に生じる熱が伝熱する箇所に設けられる接続部を有し、前記接続部が接続された状態を通常状態と表示し、また、前記接続部が前記保護素子に生じる熱により所定温度になって溶融離脱した状態を劣化状態として表示する状態表示部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載した発明は、
請求項1に記載した劣化検出機能付き保安器において、
前記保護素子および前記状態表示部を備える保護素子ユニットと、
前記保護素子ユニットが連結される基台と、
を備え、前記保護素子ユニットは基台に対して挿抜可能に構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載した発明は、
請求項1または請求項2に記載した劣化検出機能付き保安器において、
前記状態表示部は、
前記接続部に接続される移動部と、
前記接続部から離脱させる方向に前記移動部を付勢する付勢部と、
前記移動部とともに移動するようになされ、通常状態表示部および劣化状態表示部が設けられた表示部と、
表示部の通常状態表示部または劣化状態表示部の何れかを表示させる表示窓と、
を備え、
通常状態では通常状態表示部を表示窓から表示させ、劣化時に前記接続部が溶融して付勢部からの付勢力により移動部が移動して劣化状態表示部を表示窓から表示させることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載した発明は、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載した劣化検出機能付き保安器において、
前記保護素子がバリスタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記保護素子に生じる熱により接続部が所定温度になって溶融離脱した状態を検出して劣化状態として表示することで、劣化が進行して保護素子が過熱状態となったことを一見して認識することができる。このため、電流検出回路や測定器等を用いなくても保護素子の劣化を低コストかつ容易に検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明を鉄道用の保安器に適用した場合の実施形態であり、図1(a)は上面図、図1(b)は正面図である。図2は、分解した保安器の説明図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は側面図である。図3は、基台の平面図である。
劣化検出機能付き保安器1は、図1(a),(b)で示すように、基台10、保護素子ユニット20を備えている。基台10は、さらにライン端子L1,L2、および、接地端子Eを備える。
保護素子ユニット20は、さらにユニットベース21、透明ケース22、バリスタ23,24、アレスタ25、状態表示部26,27を備える。
また、基台10および保護素子ユニット20は、図2(a),(b)で示すように、基台10に対し保護素子ユニット20が抜き差し可能となるように構成されている。
【0015】
続いて、各部構成の詳細および機械的な特徴について説明する。10は基台であり、その上面ほぼ中央部には、図2(a),(b)や図3で示すように、上面視略四角状で四辺中央に円弧状の切り欠きが設けられた台座部11が形成され、さらにこの台座部11内には、挿入された接続端子を保持するホルダ12が設けられている。基台10には、端子L1,L2,Eが設けられ、後述するが個々のホルダ12に電気的に接続されている。各端子L1,L2,Eには外界から絶縁を確保するための端子カバー30が装着される。
【0016】
20は保護素子ユニットである。図1(a),(b)で示すように、ユニットベース21は箱状に形成され、このユニットベース21内には保護素子としての2個のバリスタ23,24、アレスタ25、状態表示部26,27が配置される。ユニットベース21の下側には、図2(a),(b)で示すように、ホルダ12に接続される接続端子28が設けられている。透明ケース22はこのユニットベース21、バリスタ23,24、アレスタ25、状態表示部26,27を包囲するように装着されるプラスチック製のケースである。このようなユニットベース21に透明ケース22をかぶせて略立方体状の保護素子ユニット20が完成する。このような保護素子ユニット20では透明ケース22により内部状態が確認できるように配慮されている。特に状態表示部26,27の表示窓26e,27eが透明ケース22を介して目視できるようになされている。
【0017】
このような保護素子ユニット20の接続端子28を、図2(a),(b)や図3で示すような基台10のホルダ12に差し込んで固定する。
ここに基台10のホルダ12および保護素子ユニット20の接続端子28の配置を、例えば、図3でも明らかなように上下で数(本形態では上側で二個、下側で一個)を異ならせて、接続位置が間違わないように配慮するようにしてもよい。
【0018】
続いて、劣化検出機能付き保安器1の回路構成および動作について説明する。図4は劣化検出機能付き保安器の回路構成図である。図5は状態表示動作の説明図であり、図5(a)は通常状態の説明図、図5(b)は溶融時の説明図、図5(c)は劣化状態の説明図である。
図4で示すように、バリスタ23,24の各一端は電源線路や信号線路側のライン端子L1,L2にそれぞれ接続され、バリスタ23,24の各他端と接地端子Eとはアレスタ(3極アレスタ)25の各端子にそれぞれ接続されている。
さらに、バリスタ23とアレスタ25との間には状態表示部26が、また、バリスタ24とアレスタ25との間には状態表示部27が、それぞれ設けられている。
【0019】
状態表示部26は、低融点接続部26a、移動部26b、付勢部26c、表示部26d、および、表示窓26e(図1(a)参照)を備える。同様に状態表示部27は、低融点接続部27a、移動部27b、付勢部27c、表示部27d、および、表示窓27e(図1(a)参照)を備える。以下、バリスタ23の状態を表示する状態表示部26についてのみ説明し、バリスタ24の状態を表示する状態表示部27については同様の動作をするものとして重複する説明を省略する。
【0020】
低融点金属26aは、例えばいわゆる低温はんだと呼ばれるものであり、温度が所定温度(約75℃〜90℃)まで上昇したときに溶融する。この低融点金属26aがバリスタ23とアレスタ25との間の電気経路上であって、バリスタ23に生じる熱が伝熱するようになされている。
移動部26bは、この低融点接続部26aにより固化接続され、通常時では移動できないように固定されている。
付勢部26cは、この移動部26bに対し付勢するバネやゴムなどの弾性体であり、低融点接続部26aから移動部26bを離脱させる方向に付勢している。
表示部26dは、移動部26bとともに移動するようになされ、また、通常状態表示部である白色部、および、劣化状態表示部である赤色部が設けられる。
表示窓26eは、表示部26dの通常状態表示部または劣化状態表示部の何れか一方のみを表示させる。先に図1(a)を用いて説明したように、透明ケース22を介して見えるものである。
【0021】
続いて劣化による状態表示について図5(a),(b),(c)を参照しつつ説明する。
初期における表示部26dは、表示窓26eを介して、通常状態表示部である白色部を表示している。
通常時では、図5(a)で示すように、バリスタ23で発生するジュール熱が電気経路を伝わって、各部を加熱するが、バリスタ23は劣化しておらず、雷電流のようなサージ電流や電圧が流れるときの抵抗値が十分低いため、ジュール熱が低く、低融点接続部26aは変化がなく、表示部26dは、表示窓26eを介して、通常状態表示部である白色部を表示し続ける。
【0022】
このような劣化検出機能付き保安器1に対し、長期間にわたり単発的に複数回(例えば3〜6回)サージ電流や電圧が印加された場合、一時に過大なサージ電流や電圧が印加された場合、または、短時間に繰り返しサージ電流や電圧が印加された場合、バリスタ23の劣化が進行して抵抗値が上昇し、バリスタ23で発生するジュール熱の温度が上昇する。そして、さらにサージ電流や電圧が印加されると、図5(b)で示すように、伝熱するジュール熱が低融点接続部26aを溶融させる所定温度(約75℃〜90℃)となり、低融点接続部26aが溶融する。
【0023】
すると、図5(c)で示すように、付勢部26cが低融点接続部26aから移動部26bを移動方向(図5(c)中の黒色の矢印方向)へ引き外し、移動部26bとともに状態表示部26dも移動させる。移動した表示部26dは、表示窓26eを介して、劣化状態表示部である赤色部を表示する。
【0024】
保守点検要員は、透明ケース22を介して状態表示部26の表示窓26eを観察するだけで、劣化状態を視覚的に認識することができる。そして、保守点検要員は、必要に応じて、劣化した保護素子であるバリスタ23が搭載された保護素子ユニット20を取り外し、携帯している未使用の保護素子ユニット20を差し込んでメンテナンスを完了する。この場合、基台10側のライン端子L1,L2や接地端子Eの接続を変える必要がない。このように本発明の劣化検出機能付き保安器1では、極めて簡単に異常検出と保守とを行うことが可能となる。
【0025】
なお、上記実施形態では本発明を鉄道用の保安器に適用した場合を説明したが、本発明の用途はこれに限定されるものではなく、バリスタ、アレスタ等の保護素子を構成要素とする各種保安器に適用可能であることは言うまでもない。
また、表示として通常状態表示部を白色で、また、異常状態表示部を赤色で表すものとしたが、例えば白色に加えて「正常」という文字や「○」のような記号を、また、赤色に加えて「異常」という文字や「×」のような記号を加えて、よりわかりやすくするように構成しても良い。通常状態表示部や異常状態表示部は、各種の選択が可能である。
【0026】
このような本発明の劣化検出機能付き保安器1では劣化を表示する状態表示部を内蔵することで、バリスタ23に過度なサージ電流や電圧が印加されたり、多重雷によって短時間に繰り返しサージ電流や電圧が印加されることでバリスタ23の劣化が進行し、最終的にバリスタ23のジュール熱が、低融点接続部26aの融点を超えるようなときに、低融点接続部26aが溶融することを利用して劣化を検知し、バリスタ23が劣化したことを表示させる構造となっている。このようにバリスタ23の劣化状況等を目視で確認することで交換時期を判断して適切に管理することができ、保安器の耐量以上の雷サージ侵入のため保護素子が破損した場合でも、破損保安器の確認が素早くでき、復旧時間が短縮できる。
また、本発明の劣化検出機能付き保安器1の状態表示部26,27では、特に電気的な構成を用いていないため、雷電流等に影響を受ける事態をなくし、極めて信頼性を高めている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を鉄道用の保安器に適用した場合の実施形態であり、図1(a)は上面図、図1(b)は正面図である。
【図2】分解した保安器の説明図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は側面図である。
【図3】基台の平面図である。
【図4】劣化検出機能付き保安器の回路構成図である。
【図5】状態表示動作の説明図であり、図5(a)は通常状態の説明図、図5(b)は溶融時の説明図、図5(c)は劣化状態の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
10:基台
11:台座部
12:ホルダ
L1,L2:ライン端子
E:接地端子
20:保護素子ユニット
21:ユニットベース
22:透明ケース
23,24:バリスタ
25:アレスタ
26,27:状態表示部
26a,27a:低融点接続部
26b,27b:移動部
26c,27c:付勢部(ばね)
26d,27d:表示部
26e,27e:表示窓
28:接続端子
30:端子カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過電圧から各種機器を保護するための保護素子を備えた保安器において、
所定温度で溶融する材料で形成され、前記保護素子に生じる熱が伝熱する箇所に設けられる接続部を有し、前記接続部が接続された状態を通常状態と表示し、また、前記接続部が前記保護素子に生じる熱により所定温度になって溶融離脱した状態を劣化状態として表示する状態表示部と、
を備えることを特徴とする劣化検出機能付き保安器。
【請求項2】
請求項1に記載した劣化検出機能付き保安器において、
前記保護素子および前記状態表示部を備える保護素子ユニットと、
前記保護素子ユニットが連結される基台と、
を備え、前記保護素子ユニットは基台に対して挿抜可能に構成されることを特徴とする劣化検出機能付き保安器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した劣化検出機能付き保安器において、
前記状態表示部は、
前記接続部に接続される移動部と、
前記接続部から離脱させる方向に前記移動部を付勢する付勢部と、
前記移動部とともに移動するようになされ、通常状態表示部および劣化状態表示部が設けられた表示部と、
表示部の通常状態表示部または劣化状態表示部の何れかを表示させる表示窓と、
を備え、
通常状態では通常状態表示部を表示窓から表示させ、劣化時に前記接続部が溶融して付勢部からの付勢力により移動部が移動して劣化状態表示部を表示窓から表示させることを特徴とする劣化検出機能付き保安器。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載した劣化検出機能付き保安器において、
前記保護素子がバリスタであることを特徴とする劣化検出機能付き保安器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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