説明

動作補助機能を有する腰掛け式便器と動作補助機能の制御方法

【課題】使用者の意思に沿って自動的に作動可能な動作補助機能を有する腰掛け式便器と動作補助機能の制御方法を提供する。
【解決手段】便器本体(2)と、便器本体の上側に配置されており、その前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者の背面に近接する方向に向けて回動可能な便座本体(28,38)と、前端側を支点として便座本体を回動させる回動手段(26)と、便座本体に設けられており、前端側に向かう使用者の重心の移動を検出可能な検出素子(48)と、検出素子の検出信号に応じて回動手段を駆動させる制御部(60)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋式の腰掛け式便器に用いられて好適な動作補助機能を有する腰掛け式便器及び動作補助機能の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の腰掛け式便器はその上側に便座を備えており、この便座は便器の後端側を支点し、使用者から離間する方向に向けて回動可能に構成されている。
そして、起立状態で便器を使用する場合には、使用者はその正面を便器に向け、水平位置の便座を使用者から離間する方向に向けて回動させ、便器の上面を露出してから使用する。一方、着座状態で便器を使用する場合には便座を水平位置にし、使用者はその背面を便器に向けてから便座に着座する。
【0003】
ここで、この着座状態で便器を使用した使用者には、その後、着座姿勢から起立姿勢に至る立ち上がり動作が必要になり、この動作は例えば足腰の弱い高齢者にとって非常に大きな負担になる。そこで、この立ち上がり動作を補助可能な技術が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−124200号公報
【特許文献2】特開2004−194780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、腰掛け式便器は、一般家庭の他、公共施設や店舗などにも設置され、多くの人が利用する故に、使用者が触れる箇所は可能な限り少ないことが望まれる。詳しくは、着座しなければならない便座部分を除き、例えば、手すりやスイッチ等には直接に触れさせない措置が必要になる。
しかしながら、上述した従来の技術は、いずれも椅子に関するものであり、当該措置については格別な配慮がなされていないし、また、起立状態で使用する点についても意図されていない。
【0006】
さらに、上記特許文献1に記載の技術では、上方に向けた負荷が座席に常時作用しており、これでは、前方への重心移動の他、座り直しのために単に腰を浮かせた場合にも起立させられることになる。つまり、当該技術には、使用者の意思に沿って作動させる点においても依然として課題が残されている。
一方、上記特許文献2に記載の技術では、下肢筋や大腿筋の状態などの検出を要しているので、構造が複雑になって腰掛け式便器の設置空間には適用困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消し、使用者の意思に沿って自動的に作動可能な動作補助機能を有する腰掛け式便器と動作補助機能の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の発明は、便器本体と、便器本体の上側に配置されており、その前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者の背面に近接する方向に向けて回動可能な便座本体と、前端側を支点として便座本体を回動させる回動手段と、便座本体に設けられており、前端側に向かう使用者の重心の移動を検出可能な検出素子と、検出素子の検出信号に応じて回動手段を駆動させる制御部とを具備する。
【0009】
第1の発明によれば、便座本体は、この便座本体の前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者に追従するように回動可能に構成されている。
ここで、検出素子が着座した使用者による前方への重心移動を検知した場合に、制御部は回動手段を駆動して便座本体を回動させる。つまり、この便座本体は、使用者の立ち上がり動作が検知されると、自動的に回動可能になることから、手すりやスイッチ等にも触れずに済む。
【0010】
また、この便座本体は、上方に向けた負荷が常時作用しているのではなく、検出素子の検出信号に基づいて回動可能であり、従来の如く座り直しのために単に腰を浮かせた場合であっても起立させられることがない。つまり、立ち上がりたいとの使用者の意思に沿った作動が真に可能になる。
しかも、使用者による前方への重心移動を検知しているので、従来に比して構造が複雑にならず、簡便で分かり易いし、使用者の立ち上がり動作を補助するタイミングも無理がなく極めて自然である。
【0011】
これらの結果、使用者が立ち上がり動作を行おうとした際に、この立ち上がり動作を、便座本体を備えたユニットのみで確実に補助することができる。したがって、本発明の腰掛け式便器は例えば足腰の弱い高齢者の介護や補助に非常に有効である。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の構成において、便座本体は、回動手段に連結され、その略中央部分に第1孔を有する第1板部と、第1板部の上側に配置され、その略中央部分に第1孔よりも径の小さな第2孔を有する第2板部と、後端側にて第1板部と第2板部とを連結し、略水平位置の第2板部を前端側から離間する方向に向けて回動自在に支持する連結部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
第2の発明によれば、第1の発明の作用に加えてさらに、着座状態で便器を使用する場合には、第2板部を水平位置にし、その径の小さな第2孔が使用者に向けて露出する。これに対し、起立状態で便器を使用する場合には、第2板部が後端側を支点として回動され、第1板部による径の大きな第1孔が使用者に向けて露出するので、上述した使用者の立ち上がり動作の補助のみならず、便器本来の機能も奏する。
【0014】
第3の発明は、第1や第2の発明の構成において、回動手段には、アクチュエータが用いられていることを特徴とする。
第3の発明によれば、第1や第2の発明の作用に加えてさらに、アクチュエータを用いて便座本体を回動させれば、使用者の立ち上がり動作をより確実に補助することができる。
【0015】
第4の発明は、第1から第3の発明の構成において、検出素子は、便座本体に少なくとも2個設けられていることを特徴とする。
第4の発明によれば、第1から第3の発明の作用に加えてさらに、検出素子が少なくとも2個設けられていることから、使用者の立ち上がり動作をより確実に検出可能になる。
【0016】
第5の発明は、第4の発明の構成において、各検出素子は、前端側の近傍と、後端側の近傍とにそれぞれ設けられていることを特徴とする。
第5の発明によれば、第4の発明の作用に加えてさらに、上述した少なくとも2個の検出素子は、前端側の近傍に少なくとも1個配置されるのに対し、後端側の近傍にも少なくとも1個配置されているので、前端側に向かう使用者の重心の移動をより一層確実に検出することができる。
【0017】
第6の発明は、第1から第5の発明の構成において、便座本体は、使用者が着座する前の時点では、後端側が着座前の使用者の背面に近接する方向に向けて回動され、略水平位置に対する所定の傾斜位置にて保持されていることを特徴とする。
第6の発明によれば、第1から第5の発明の作用に加えてさらに、便座本体の未使用時には使用者を迎えに行く状態、つまり、略水平位置に対し、前端側を支点とした所定の傾斜位置、具体的には、後端側が着座前の使用者の背面に近接する方向に向けて回動した位置で保持されている。よって、この使用者が着座する場合には、その起立姿勢から着座姿勢に至るまでの中間姿勢も補助可能になり、この点も、例えば足腰の弱い高齢者の介護や補助に非常に有効になる。
【0018】
第7の発明は、便器本体の上側に配置されており、その前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者の背面に近接する方向に向けて回動可能な便座と、前端側を支点として便座を回動させる回動手段と、便座に設けられており、使用者の重心の移動を検出可能な検出素子と、回動手段を駆動させる制御部とを備えた動作補助機能の制御方法である。そして、検出素子が、着座した使用者による前端側に向かう重心の移動を一定期間検出するステップと、制御部が、回動手段を駆動して使用者の立ち上がり動作の補助を開始するステップとを備えている。
【0019】
第7の発明によれば、検出素子が着座した使用者による前方への重心移動、つまり、使用者の前屈みの動作を一定期間検出した場合には、立ち上がりたいとの使用者の意思を擬制できる。そこで、制御部は回動手段を駆動して便座を回動させるので、この便座は、特別な操作を必要とせず、使用者の意思に沿った回動が自動的に可能になる。
【0020】
第8の発明は、第7の発明の構成において、回動手段が駆動する一方、便座が所定期間回動しない場合には、制御部が、回動手段の駆動を停止し、使用者の立ち上がり動作の補助を解除するステップをさらに備えている。
第8の発明によれば、第7の発明の作用に加えてさらに、検出素子が、前端側に向かう使用者の重心移動を一定期間検出し、制御部が、回動手段を駆動して使用者の立ち上がり動作の補助を開始するものの、この使用者がその腰を浮かせない場合には、便座は持ち上がらない。換言すれば、当該腰を浮かせない状態が所定期間継続した場合には、前屈みの姿勢を維持したいとの使用者の意思を擬制できる。そこで、制御部は回動手段の駆動を停止することから、この点も使用者の意思に沿った動作に寄与する。
【0021】
第9の発明は、第7や第8の発明の構成において、検出素子が、使用者の重心が着座時点から前端側にある旨を検出している場合には、制御部は、回動手段の駆動を禁止するステップをさらに備えている。
第9の発明によれば、第7や第8の発明の作用に加えてさらに、検出素子が着座した使用者による前方への重心移動を一定期間検出した場合には、立ち上がりたいとの使用者の意思を擬制できるのに対し、前方への重心移動がなく、その重心が着座時点から前端側にある状態を検出している場合には、この使用者が身長の低い例えば子供であることも想定される。よって、この場合には、立ち上がりたいとの使用者の意思を擬制せず、制御部は回動手段を駆動させないので、この点も使用者の意思に沿った動作に寄与する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、使用者が立ち上がり動作を行おうとした際に、この立ち上がり動作を便座だけで確実に補助可能な動作補助機能を有する腰掛け式便器と動作補助機能の制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本実施例に係る腰掛け式便器を右斜め上方からみた図であり、この便器1の前端側が同図の左手前に、便器1の後端側が右奥にそれぞれ対応する。なお、図2で云えば便器1の前端側が同図の左側に、その後端側が右側にそれぞれ対応している。
【0024】
当該便器1は例えば陶器製の便器本体2を備え、この便器本体2は図示しない排水管に連通した便鉢4を有している(図3)。便器本体2の上面14には、その略中央部分に略楕円形状の開口6が形成されており、この図3でみて開口6の前側が前面8、開口6の両側が側面10,10、そして、開口6の後側が背面12にそれぞれ囲繞される。
【0025】
この便器本体2の上方には便座ユニット16が配置されている。
具体的には、本実施例の便座ユニット16は、樹脂製の台座18や便座本体27、及びアクチュエータ(回動手段)26、図5の荷重センサ(検出素子)48,50、並びに図7のコントローラ(制御部)60から構成される。
この台座18は、その裏面が便器本体2の上面14に対峙しており(図2)、台座18の略中央部分には、図4に示される如く、当該裏面と表面20とを貫通した略楕円形状の開口22が穿設されている。この開口22は上述した上面14の開口6よりも小径に形成される。
【0026】
また、本実施例の台座18は、この図4でみて開口22の前側にアクチュエータ26の保持部24を備えている。詳しくは、図2にも示されるように、台座18の前側が下方に向けて窪んでおり、この窪み部分に保持部24が形成され、アクチュエータ26が設置されている。
なお、本実施例では、アクチュエータ26としてモータを用いて説明する。しかしながら、本発明のアクチュエータとしては、便座本体27が回動可能である限り、例えば、ダンパーやスプリング等の弾性部材の他、カム機構、或いは、ベルト駆動機構など周知の構成が適用可能である。
【0027】
本実施例の便座本体27は、載置部(第1板部)28と、便座(第2板部)38と、蝶番軸(連結部)52とからなり(図2)、上述した前端側を支点とし、後端側が便器本体2から離間し、使用者に近接する方向に向けて回動可能に構成されている。
より詳しくは、載置部28は、その裏面35が台座18の表面20に対峙し、その略中央部分には、台座18の開口22よりも小径に形成された略楕円形状の開口(第1孔)32が裏面35と表面30とを貫通して穿設される(図6)。
【0028】
また、この載置部28の裏面35において、開口32の前側には腕部36が下方に向けて延びており、この腕部36がアクチュエータ26の回転軸に連結されている。
これにより、当該回転軸が図2でみて反時計回りに回転すると、載置部28は、台座18の表面20から離間、より具体的には載置部28の後側が台座18の後側から離間し、腕部36を支点として同図の反時計回りに回動する。
【0029】
一方、再び図6に戻り、載置部28の表面30において、開口32の後側には上方に向けて延びた回動支持片34,34が形成され、便座38に連結可能に構成されている。
この便座38は、図5に示されるように、略O型状の裏面45が載置部28の表面30に対峙しており、便座38の略中央部分にもまた、裏面45と座面40とを貫通した略楕円形状の開口(第2孔)42が穿設されている。この開口42は上述した載置部28の開口32よりも小径に形成される。なお、これら座面40や裏面45は、略O型状の他、略U型状で形成されていても良い。
【0030】
便座38の裏面45において、開口42の後側にも回動支持片46,46が形成される。この回動支持片46,46は、下方に向けて延び、載置部28の回動支持片34,34の間にそれぞれ配置されており、また、これら回動支持片46と回動支持片34とは蝶番軸52を介して回動できる。
これにより、使用者が便座38の前端側を持ち上げると、便座38が図2の時計回りに回動するので、便座38は、載置部28の表面30から離間、より詳しくは便座38の前側が載置部28の前側から離間し、回動支持片46,46を支点として同図の時計回りに回動する。
【0031】
なお、便座ユニット16の上方には便ふた54が設けられている。この便ふた54は、座面40を遮蔽する遮蔽部56を有し、この遮蔽部56の後側には回動支持部57が形成されている(図1)。そして、例えば、表示部58に設置された図示しないセンサが使用者を検出すると、便ふた54は、図示しない駆動モータによって便座38の前側から離間し、回動支持部57を支点として図2の時計回りに回動することができる。
【0032】
ところで、本実施例の便座38の裏面45には、計4個の荷重センサ48,50が設置されている。
具体的には、図5に示されるように、上記前端側の近傍、詳しくは、開口42の中心を通る短軸よりも前寄りに2個の荷重センサ48,48が設けられており、これら各センサ48は、この開口42の中心を通る長軸を対称軸とした線対称の位置にそれぞれ配置される。
【0033】
これに対し、2個の荷重センサ50,50は、上記後端側の近傍、つまり、当該短軸よりも後寄りであって、上記の長軸を対称軸とした線対称の位置にそれぞれ配置されている。
これら荷重センサ48,50はコントローラ60に電気的に接続される。具体的には、図7に示されるように、このコントローラ60は、A/Dコンバータ62やCPU64を有しており、このCPU64はコンバータ62からの信号をリアルタイムで演算し、着座検出部70が使用者による現在の重心位置を特定する。このデータはメモリ66のRAMに格納される。
【0034】
また、このメモリ66のROMには、各種の制御プログラムが格納されており、出力制御部72は、使用者の重心位置に応じて所定のプログラムを実行し、その駆動信号をアクチュエータ26に出力している。
より詳しくは、図8は、プログラムがコントローラ60に実行させる処理を示しており、以下、上記の如く構成された腰掛け式便器1の本発明に係る作用について説明する。
【0035】
まず、使用者が便器1に近づくと、図9に示される如く便ふた54が開く。
ここで、仮に、この使用者が起立状態で便器1を使用したい場合には、便座38の前端側を持ち上げ、便座38を便ふた54に近接する方向に向けて回動させる(図10)。これにより、載置部28の開口32が露出し、その表面30が使用者に対峙する。
【0036】
一方、この使用者が着座状態で便器1を使用したい場合には、便座38が略水平位置、つまり、便座38の開口42が露出し、その座面40が使用者に対峙していることを確認し、使用者の背面を便ふた54に向けてから便座38に腰を下ろす。
続いて、同図のステップS801では、使用者が便座38に座っているか否かを判別する。
【0037】
着座検出部70が荷重センサ48,50の検出信号に基づいて座面40に着座していると判定した場合、すなわちYESのときにはステップS802に進み、現在の荷重センサ48,50の検出信号を取り込んで当該使用者の重心位置を測定し、さらに、このデータを基本データとしてメモリ66に保存する(ステップS803)。
【0038】
次いで、荷重センサ48,50の検出信号を継続して取り込み、ステップS804では、着座検出部70が使用者の重心位置が移動しているか否かを判別する。
メモリ66に保存された基本データと比較した結果、使用者の重心位置が移動していると判定した場合、すなわちYESのときにはステップS805に進み、着座検出部70は、当該重心位置の移動が便座38の前方に向けて移動しているか否かを判別する。
【0039】
そして、図11(a)にて矢印で示されるように、使用者の重心位置が便座38の前方に向けて移動し、この状態が一定期間継続していた場合、すなわちYESのときには、立ち上がりたいとの使用者の意思が擬制可能になるので、ステップS806に進む。
このステップS806では、着座検出部70が当該重心の移動量が大きいか否かを判別する。
【0040】
例えば、上述の荷重センサ50の検出値が小さくなり、且つ、荷重センサ48の検出値が大きくなった場合、或いは、荷重センサ50の検出値のみが小さくなった場合や、荷重センサ48の検出値のみが大きくなった場合のように、前方への重心の移動量が大きい旨を判定した場合にはステップS807に進む。
これにより、出力制御部72はアクチュエータ26に駆動信号を出力して補助開始状態になり、便座本体27には回動するためのトルクが付与される。なお、この補助開始と同時に、図示しないタイマが起動する。
【0041】
次いで、ステップS808では、当該使用者がその腰を座面40から浮かせようとしているか否かを判別する。
具体的には、トルクの付与された便座本体27、より詳しくは、載置部28が使用者の体重に抗して僅かながらも台座18から持ち上がり、着座検出部70が荷重センサ48,50の検出値、特に、荷重センサ50の検出値がさらに小さくなった旨を判定した場合には、使用者の立ち上がり動作を認識できる。
【0042】
そこで、ステップS809に進んで補助を継続すると、載置部28はその腕部36が支点となり、便座38とともに、その後端側が使用者の背面に近接する方向に向けてさらに回動し、この座面40が使用者のでん部を便器1の前方に向けて押し上げる。
この便座本体27による補助は、図11(b)に示すような、便座38及び載置部28が略水平位置から所定の傾斜位置に到達するまで継続する(ステップS810)。その後、便座本体27が当該傾斜位置に到達すると、この補助動作を終了し(ステップS811)、便座本体27が略水平位置に戻って一連のルーチンを抜ける。なお、この補助動作は、使用者のでん部が座面40から離れたときに終了しても良い。
【0043】
一方、着座検出部70が、上述したステップS804で重心位置の移動を検出しない、若しくは、ステップS805で当該重心位置の移動が便座38の前方に向けて移動していない、又は、ステップS806で重心の移動量が小さい旨を判定したときには、ステップS802に戻り、アクチュエータ26の駆動を禁止する。つまり、現在の荷重センサ48,50の検出信号を再び取り込み、出力制御部72はアクチュエータ26に駆動信号を出力しない。
【0044】
これは、重心位置の移動が検出されない場合には、使用者はその上半身を動かしていないか、若しくは、使用者が身長の低い例えば子供の如く、その重心が着座時点から同じ位置(例えば前端側)にあることが想定されるからである。
また、当該重心位置の移動が前方ではない場合には、その上半身を後方や側方に向けて反らしており、さらに、重心の移動量が小さい場合には、その上半身を単に揺らしており、いずれも着座状態を維持したいとの使用者の意思を擬制できるからである。
【0045】
さらにまた、上述したステップS808にて、載置部28が僅かながらも台座18から持ち上がらなかった場合にはステップS812に進み、着座検出部70は上記タイマの起動期間を読み込む。
そして、この補助に要した期間が、立ち上がりたいとの使用者の意思が初めから存在しなかったものと擬制可能な規定期間を超えるまではステップS809に進み、上述したステップS810からステップS807に戻ることになるが、当該規定期間を超えた場合、すなわちNOと判定したときには、出力制御部72はアクチュエータ26への駆動信号の出力を停止する。
【0046】
このように、便座本体27にトルクが付与されても、使用者の腰が座面40から浮かず、便座本体27が回動しない場合には、前屈みの姿勢を維持したい、例えば新聞などを読む姿勢を維持したいとの使用者の意思を擬制できる。そこで、この場合の出力制御部72はアクチュエータ26の駆動を停止し(ステップS811)、使用者の立ち上がり動作の補助を解除して一連のルーチンを抜けることになる。
【0047】
ところで、上述した実施例の便座本体27は、補助動作の終了後に略水平位置に戻っているが、この便座本体27は、図11(b)に示した傾斜位置に到達した後、そのままの位置で保持されていても良い。次の使用者の着座に有用な姿勢になるからである。
以上のように、本発明は、腰掛け式便器の使用者の重心移動をセンシングし、適切にアシストする点に着目したものである。
【0048】
そして、本実施例は、上面14に開口6を有する便器本体2と、この上面14の前寄りの位置に形成された腕部36を有する便座本体27と、この腕部36を支点として便座本体27を回動させるアクチュエータ26と、便座本体27に設けられており、使用者の着座姿勢を検出するための荷重センサ40,50と、アクチュエータ26を駆動制御するコントローラ60とを備えた腰掛け式便器1である。
【0049】
このコントローラ60は、荷重センサ40,50の検出信号に応じて、アクチュエータ26を駆動させることにより、便座本体27を回動させ、使用者の立ち上がり動作を補助している。
より詳しくは、便座本体27は、この便座本体27の前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者に追従するように回動可能に構成されている。
【0050】
ここで、荷重センサ40,50が着座した使用者による前方への重心の移動を検知した場合に、コントローラ60はアクチュエータ26を駆動して便座本体27を回動させる。つまり、この便座本体27は、使用者の立ち上がり動作が検知されると、自動的に回動可能になることから、手すりやスイッチ等にも触れずに済む。
【0051】
また、この便座本体27は、上方に向けた負荷が常時作用しているのではなく、荷重センサ40,50の検出信号に基づいて回動可能であり、従来の如く座り直しのために単に腰を浮かせた場合であっても起立させられることがない。つまり、立ち上がりたいとの使用者の意思に沿った作動が真に可能になる。
しかも、使用者による前方への重心の移動を検知しているので、下肢筋や大腿筋の状態に応じて動作する従来に比して、構造が複雑にならず、簡便で分かり易いし、使用者の立ち上がり動作を補助するタイミングも無理がなく極めて自然である。
【0052】
これらの結果、使用者が立ち上がり動作を行おうとした際に、この立ち上がり動作を、便座本体27を備えた便座ユニット16のみで確実に補助することができ、本発明の腰掛け式便器は例えば足腰の弱い高齢者の介護や補助に非常に有効である。
【0053】
また、着座状態で便器1を使用する場合には、便座38を水平位置にし、その径の小さな開口42が使用者に向けて露出するのに対し、起立状態で便器1を使用する場合には、便座38が後端側を支点として回動され、載置部28による径の大きな開口32が使用者に向けて露出するので、上述した使用者の立ち上がり動作の補助のみならず、便器本来の機能も奏し、使用者の着座や起立のいずれの状態にも容易に利用可能になる。
【0054】
さらに、アクチュエータ26を用いて便座本体27を回動させれば、使用者の立ち上がり動作をより確実に補助することができる。
さらにまた、荷重センサ40,50が少なくとも2個、本実施例で云えば計4個設けられていることから、使用者の立ち上がり動作をより確実に検出可能になるし、また、これら計4個の荷重センサ40,50は、上述した前端側の近傍に2個配置されるのに対し、後端側の近傍にも2個配置されているので、前端側に向かう使用者の重心移動をより一層確実に検出することができる。
【0055】
さらに、便座本体27の未使用時には使用者を迎えに行く状態、つまり、略水平位置に対し、前端側を支点とし、後端側が着座前の使用者の背面に近接する方向に向けて回動した所定の傾斜位置にて保持されていれば、この使用者が着座する場合には、その起立姿勢から着座姿勢に至るまでの中間姿勢も補助可能になり、この点も、例えば足腰の弱い高齢者の介護や補助に非常に有効になる。
【0056】
本発明は、上記実施例に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。例えば上記実施例の各構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせることができる。
また、上記実施例では、台座18の表面20にアクチュエータ26の保持部24が形成されている。しかし、必ずしもこの例に限定されるものではなく、この台座18を省略し、上述した載置部28の裏面35でアクチュエータ26を保持しても良い。
【0057】
さらに、上記実施例では、荷重センサ40,50が便座38の裏面45に配置されているが、この荷重センサ40,50は載置部28の裏面35に配置されていても良い。
さらにまた、計4個の荷重センサ40,50にも限定されるものではなく、1個の荷重センサでも達成可能であるし、また、本発明の検出素子は、使用者の重量や圧力を測定できる限り、この荷重センサの他、静電容量式やピエゾ式の圧力センサ、圧電素子等であっても良い。
【0058】
そして、これらいずれの場合にも上記と同様に、使用者の意思に沿って自動的に作動するとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施例に係る腰掛け式便器の外観斜視図である。
【図2】図1の便器の部分断面図である。
【図3】図1の便器本体の平面図である。
【図4】図1の台座の平面図である。
【図5】図1の便座の底面図である。
【図6】図1の載置部の平面図である。
【図7】図1の便器の制御ブロック図である。
【図8】図7のコントローラによるパワーアシスト制御の動作フローチャートである。
【図9】図1の便器による便ふたの開状態を示す図である。
【図10】図1の便器による便ふた及び便座の開状態を示す図である。
【図11】(a)は図1の便器にて前方への重心移動を示し、(b)は当該便器による立ち上がり動作の補助状態を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 腰掛け式便器
2 便器本体
26 アクチュエータ(回動手段)
27 便座本体
28 載置部(第1板部)
32 開口(第1孔)
38 便座(第2板部)
42 開口(第2孔)
48,50 荷重センサ(検出素子)
52 蝶番軸(連結部)
60 コントローラ(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体と、
該便器本体の上側に配置されており、その前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者の背面に近接する方向に向けて回動可能な便座本体と、
前記前端側を支点として該便座本体を回動させる回動手段と、
前記便座本体に設けられており、前記前端側に向かう前記使用者の重心の移動を検出可能な検出素子と、
該検出素子の検出信号に応じて前記回動手段を駆動させる制御部と
を具備することを特徴とする動作補助機能を有する腰掛け式便器。
【請求項2】
請求項1に記載の動作補助機能を有する腰掛け式便器であって、
前記便座本体は、
前記回動手段に連結され、その略中央部分に第1孔を有する第1板部と、
該第1板部の上側に配置され、その略中央部分に前記第1孔よりも径の小さな第2孔を有する第2板部と、
前記後端側にて前記第1板部と前記第2板部とを連結し、略水平位置の該第2板部を前記前端側から離間する方向に向けて回動自在に支持する連結部と
を備えていることを特徴とする動作補助機能を有する腰掛け式便器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の動作補助機能を有する腰掛け式便器であって、
前記回動手段には、アクチュエータが用いられていることを特徴とする動作補助機能を有する腰掛け式便器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の動作補助機能を有する腰掛け式便器であって、
前記検出素子は、前記便座本体に少なくとも2個設けられていることを特徴とする動作補助機能を有する腰掛け式便器。
【請求項5】
請求項4に記載の動作補助機能を有する腰掛け式便器であって、
前記各検出素子は、前記前端側の近傍と、前記後端側の近傍とにそれぞれ設けられていることを特徴とする動作補助機能を有する腰掛け式便器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の動作補助機能を有する腰掛け式便器であって、
前記便座本体は、前記使用者が着座する前の時点では、前記後端側が該着座前の使用者の背面に近接する方向に向けて回動され、略水平位置に対する所定の傾斜位置にて保持されていることを特徴とする動作補助機能を有する腰掛け式便器。
【請求項7】
便器本体の上側に配置されており、その前端側を支点とし、その後端側が着座した使用者の背面に近接する方向に向けて回動可能な便座と、前記前端側を支点として該便座を回動させる回動手段と、前記便座に設けられており、前記使用者の重心の移動を検出可能な検出素子と、前記回動手段を駆動させる制御部とを備えた動作補助機能の制御方法であって、
前記検出素子が、着座した使用者による前記前端側に向かう重心の移動を一定期間検出するステップと、
前記制御部が、前記回動手段を駆動して該使用者の立ち上がり動作の補助を開始するステップと
を備えた動作補助機能の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の動作補助機能の制御方法であって、
前記回動手段が駆動する一方、前記便座が所定期間回動しない場合には、前記制御部が、前記回動手段の駆動を停止し、前記使用者の立ち上がり動作の補助を解除するステップと
をさらに備えた動作補助機能の制御方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の動作補助機能の制御方法であって、
前記検出素子が、前記使用者の重心が着座時点から前記前端側にある旨を検出している場合には、前記制御部は、前記回動手段の駆動を禁止するステップと
をさらに備えた動作補助機能の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−285256(P2009−285256A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142122(P2008−142122)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】