説明

動力伝達用シャフト

【課題】大きな減衰効果を得ることのできる動力伝達用シャフトを提供する
【解決手段】動力伝達用シャフト50は、動力を伝達するシャフト本体52と、シャフト本体52と中心線が一致するように配置された多重円筒部材54と、を備え、多重の円筒部材54は、その片側の端部のみがシャフト本体52の一方側の端部に一体的に取り付けられた第1の円筒部材56と、その片側の端部のみがシャフト本体52の他方側の端部に一体的に取り付けられた第2の円筒部材58とを有し、第1の円筒部材56と第2の円筒部材58との間には粘性体の封入空間Y1〜Y3が円筒状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達用シャフトに係り、特にエンジン試験装置においてエンジンとダイナモメータとの間で動力を伝達する動力伝達用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン試験装置としてエンジンベンチが知られている。エンジンベンチは、供試エンジンが所定の性能を備えているかを評価する装置であり、供試エンジンは台上に取り付けられ、その出力軸がシャフトを介してダイナモメータに連結される。そして、ダイナモメータでエンジンの出力軸の回転力を吸収しながら、トルクや回転数を計測することによって、エンジンの性能が測定・評価される。
【0003】
ところで、エンジンベンチでは、シャフトにおいて特定の振動数(回転数)で共振が発生するおそれがある。共振ゲインは、固有振動数を頂点として大きくなり、その周辺振動数で共振現象が発生する。そこで従来は、シャフトの剛性やシャフトに連結した慣性の慣性値を調節することによって、共振を避けた領域で運転するよう、設計している。また、別の対策として、特許文献1は、軸にフライホイルを着脱自在に取り付けたり、剛性の異なるカップリングを用いたりすることによって共振域をずらしている。特許文献2は、共振点をアイドリング周波数以下に設定している。
【0004】
しかし、特許文献1、特許文献2は共振点を運転領域からずらすだけなので、共振点をうまくずらせない場合には、運転領域に制限がかかったり、運転中の装置が破損したりするおそれがあった。
【0005】
そこで、本願出願人は特許文献3において、共振そのものを抑制するシャフトを提案している。これを、図8に示す基本的なネジリ共振の系で説明する。同図に示す系では、シャフト3の両側に2つの回転円盤1、2が設けられている。シャフト3はネジリ剛性がk、減衰係数がcであり、回転円盤1は慣性がJ1、変位角がθ1であり、回転円盤2は慣性がJ2、変位角がθ2である。この系の運動方程式は以下のように示される。
【0006】
【数1】

この式の第2項から分かるように、角速度差が生じる部位に減衰機構を設置することで共振ゲインを抑えることができ、且つ、その角速度差が大きいほど減衰効果が大きくなる。そこで、特許文献3では、ネジリ共振時に角速度差が生じる部位に粘性体の封入空間を形成し、減衰を行っている。具体的には、図9に概念図を示すように、シャフト本体4の外側に円筒部材5を配置し、その片側の端部5aのみをシャフト本体4の一方の端部に取り付けるとともに、シャフト本体4と円筒部材5との間に粘性体6を封入している。その結果、円筒部材5の他方側の端部5bとシャフト本体4との間には角速度差が生じ、その角速度差に伴って減衰効果が得られ、共振ゲインを抑制することができる。実際、特許文献3に示すシャフトを用いれば、共振ゲインを抑制する効果が得られることが試験結果から分かっている。そして、現状では、より大きな減衰効果が得られるシャフトが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-178616号公報
【特許文献2】特許3918435号
【特許文献3】特願2010-19860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、より大きな減衰効果を得ることのできる動力伝達用シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、動力を伝達するシャフト本体と、前記シャフト本体と中心線が一致するように配置された多重の円筒部材と、を備え、前記多重の円筒部材は、前記シャフト本体の一方側の端部に片側の端部のみが固定された第1の円筒部材と、前記シャフトの他方側の端部に片側の端部のみが固定された第2の円筒部材とを有し、前記第1の円筒部材と第2の円筒部材との間には粘性体の封入空間が円筒状に形成されることを特徴とする動力伝達用シャフトを提供する。
【0010】
本発明によれば、粘性体の封入空間が第1の円筒部材と第2の円筒部材との間に形成されている。第1の円筒部材はその片側の端部のみがシャフト本体の一方側の端部に取り付けられているので、その回転速度は略一様にシャフト本体の一方側の端部と同じ回転速度になる。一方、第2の円筒部材はその片側の端部のみがシャフト本体の他方側の端部に取り付けられているので、その回転速度は略一様にシャフト本体の他方側の端部と同じ速度になる。したがって、第1の円筒部材と第2の円筒部材に挟まれた円筒状の封入空間は、軸方向に全体にわたって一定の速度差(すなわち、第1の円筒部材の速度と第2の円筒部材の速度との差)になる。よって、封入空間では、ネジリ共振時に全体にわたって大きな回転速度差が生じることになり、大きな減衰効果が得られる。
【0011】
請求項2に記載の発明は請求項1において、前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材が交互に複数設けられ、前記粘性体の封入空間が多重に形成されることを特徴とする。本発明によれば、粘性体の封入空間が多重に形成されるので、粘性体による減衰効果をさらに大きくすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は請求項1または2において、前記シャフト本体の表面に対向して配置された前記第1または第2の円筒部材と前記シャフト本体の表面との間には、前記粘性体が封入されることを特徴とする。本発明によれば、シャフト本体との間にも粘性体が封入されるので、この部分においても減衰効果を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1において、前記動力伝達用シャフトは、エンジンの出力軸とダイナモメータの回転軸とを連結するシャフトであることを特徴とする。本発明はねじり振動が発生しやすいエンジン試験装置のシャフトとして特に有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シャフト本体の一方側の端部に取り付けた第1の円筒部材とシャフト本体の他方側の端部に取り付けた第2の円筒部材との間に粘性体の封入空間を形成するようにしたので、封入空間の内部には全体にわたって略一様な回転速度差が発生し、粘性体によって大きな減衰効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用されたエンジンベンチの概略構成図
【図2】第1の実施形態の動力伝達用シャフトを示す部分斜視図
【図3】第1の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【図4】第2の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【図5】第3の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【図6】第4の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【図7】第5の実施形態の動力伝達用シャフトを示す断面図
【図8】基本的なネジリ共振の系を示す図
【図9】別提案の動力伝達用シャフトを説明する概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って、本発明に係る動力伝達用シャフトの好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施の形態の動力伝達用シャフト(以下、単にシャフトという)50が適用されたエンジン試験装置10の概略構成図である。
【0017】
同図に示すエンジン試験装置10は、試験対象であるエンジン12の性能を測定・評価する装置であり、主としてエンジン12、ダイナモメータ14、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、制御装置20、及び、シャフト50を含むシャフト部材32で構成される。
【0018】
エンジン12は、架台22に固定されており、その内部には燃焼室(不図示)が設けられる。燃焼室には空気吸引用の吸気管24が接続されており、その吸気管24には流入量調節用のスロットル26が設けられる。また、燃焼室には排気管28が接続されており、この排気管28には排ガス浄化用の触媒装着部30が設けられる。
【0019】
エンジン12は、その出力軸がシャフト部材32を介してダイナモメータ14に接続されている。シャフト部材32は、本発明のシャフト50(図2参照)を含む複数の軸部材が連結されることによって構成されている。また、シャフト部材32にはトルクメータ36が取り付けられ、このトルクメータ36によってトルクが計測される。なお、本実施の形態は、トルクメータ36によってトルクを計測するようにしたが、これに限定するものではなく、たとえばダイナモメータ14の出力値からトルクを検出してもよい。また、トルクメータ36の他に、クラッチ、変速機、各種の連結手段等を目的に応じて挿入してもよい。さらに、トルク以外のエンジン12の状態(たとえば排ガスの温度など)を計測する手段を挿入してもよい。
【0020】
ダイナモメータ14は、エンジン12に所定の負荷トルクを与える装置であり、電流・電圧を可変させることで負荷トルクを設定できるようになっている。ダイナモメータ14としては、低慣性ダイナモメータを用いることが好ましく、低慣性ダイナモを用いることによって、低速回転から高速回転までの急激な回転数の変化に応じた安定した出力が得られる。
【0021】
ダイナモメータ14にはダイナモ制御部16が接続されている。ダイナモ制御部16は、ダイナモメータ14に印加する電流・電圧を可変制御する手段であり、このダイナモ制御部16で電流・電圧を可変制御することによって、ダイナモメータ14に接続されたエンジン12の負荷トルクが制御される。
【0022】
一方、エンジン12は、エンジン制御部18に接続される。エンジン制御部18は、スロットル開度や点火進角等の制御指令値をエンジン12に与えることによって、エンジン12を駆動制御する手段であり、通常はECU、もしくはECUにバイパス回路を付加したエンジン制御回路で実現される。ECUの代わりに仮想ECUと称されるDSP(Digital Signal Processor)で実現してもよい。このエンジン制御部18によってエンジン12に制御パラメータ(たとえば所定のスロットル開度)が与えられる。これにより、エンジン12が回転し、その回転がシャフト50を介してダイナモメータ14に伝達される。なお、エンジン制御部18から与えられる制御パラメータとしては、回転数、スロットル開度の他、燃料注入量、空気注入量、燃料と空気の混合比、点火時間(ガソリンエンジンの場合)、燃料噴射制御方法(ジーゼルエンジンの場合)など様々なパラメータがある。
【0023】
上述したダイナモメータ14、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、トルクメータ36は、制御装置20に接続されている。制御装置20には、トルクメータ36からトルク・回転数などのデータが入力されるとともに、エンジン制御部18からスロットル開度等の制御データが入力される。入力されたデータはメモリに一時的に格納された後、必要に応じて演算処理回路に出力され、トルク等が演算される。その際、各種信号処理回路によってノイズ除去などのデータ信号処理を行ってもよい。
【0024】
なお、制御装置20において、得られたデータからエンジンのモデルを作成したり、そのモデルを用いてシミュレーションを実行したりするようにしてもよい。また、制御装置20において、各種の条件設定、たとえばスロットル開度、燃料噴射時期、点火進角、噴射時間、VVT、EGRなどの制御パラメータや、吸気温度、排気温度、燃料注入量、空気注入量、NО密度、HC密度、CО濃度、CО濃度、燃料消費量、水温などの計測パラメータを設定するようにしてもよい。
【0025】
次に本発明の特徴部分であるシャフト50について説明する。図2は第1の実施形態のシャフト50の内部構成を示す部分斜視図であり、一部分を切り欠いた状態を示している。また、図3は、シャフト50の断面図である。
【0026】
これらの図に示すようにシャフト50は主として、シャフト本体52、連結部材53、多重円筒部材54で構成されている。
【0027】
シャフト本体52は、動力(回転力)を入力側(モータ等)から出力側(ダイナモメータ等)に伝える部材であり、たとえばチタン6Al−4V合金やステンレス等の金属によって円柱状に形成されている。ここで、図3の左側を入力側、右側を出力側とする。なお、シャフト本体52の材質は、上記に限定されるものではなく、カーボン等の他の材料であってもよい。
【0028】
シャフト本体52の両端はカップリング部材(不図示)を介して連結部材53に取り付けられ、さらに連結部材53が他の軸部材(不図示)に連結されている。カップリング部材の構成は特に限定するものではないが、たとえば板バネカップリング(たわみ継手)が用いられる。板バネカップリングの構成は図示しないが、円盤状に形成された一対の継手本体がボルト等によって連結されており、その継手本体の間には、リング状に形成された金属製の板ばねが設けられ、この板ばねが継手本体に固定される。このような板バネカップリングを用いることによって、板ばねで軸心のずれを調整することができるとともに、曲げモーメントを伝えずに軸トルクのみを伝えることができ、大きいトルクや高速回転に対応することができる。また、上記の如く構成された板バネカップリングは、簡単に着脱することができるので、後述の多重円筒部材54をシャフト本体52に容易に取り付けることができる。
【0029】
多重円筒部材54は、径の異なる複数の円筒部材が同心円状に配置された多重の筒構造になっており、この多重円筒部材54にシャフト本体52が挿通された状態で固定される。本実施の形態の多重円筒部材54は4重の円筒構造になっており、2重の円筒構造の入力側円筒部材(第1の円筒部材に相当)56と、2重の円筒構造の出力側円筒部材(第2の円筒部材に相当)58とで構成される。
【0030】
図3に示すように、入力側円筒部材56は、径の異なる2つの筒部56Aと筒部56Bを備えている。筒部56Aはその径がシャフト本体52の外径よりも若干大きく形成されており、シャフト本体52が挿通された状態で固定されている。また、筒部56Aはシャフト本体52と同心円状に配置されており、シャフト本体52の外周面と筒部56Aとの間には、円筒状の封入空間Xが形成される。この封入空間Xは、軸方向に且つ周方向に一定の隙間となるように形成されている。
【0031】
入力側円筒部材56の筒部56Bは、筒部56Aと中心線が一致するように配置されている。また、筒部56Bは、その径が出力側円筒部材58の筒部58Aよりも大きく、且つ、筒部58Bよりも小さく形成されており、取付状態において筒部58A、筒部58Bの間に挿入される。
【0032】
上述の筒部56Aと筒部56Bは、その入力側(図3の左側)の端部のみがシャフト本体52の入力側の端部に一体的に取り付けられており、反対側の端部は固定されずにフリーの状態になっている。なお、図3には、筒部56Aと筒部56Bが一体品である例を示したが、これに限定するものではなく、別部材で構成してもよい。その場合、筒部56Aと筒部56Bをシャフト本体52の入力側の端部で一体的に取り付けるようにするとよい。
【0033】
入力側円筒部材56と同様に、出力側円筒部材58は、径の異なる2つの筒部58Aと筒部58Bを備えている。筒部58Aは、その径が入力側円筒部材56の筒部56Aよりも若干大きく、且つ、入力側円筒部材56の筒部56Bよりも若干小さく形成されている。取付状態において筒部58Aは筒部56A、56Bの間に挿入され、且つ、筒部56A、56Bと同心円状に配置される。これにより、筒部56Aと筒部58Aとの間に円筒状の封入空間Y1が形成されるとともに、筒部56Bと筒部58Aとの間に円筒状の封入空間Y2が形成される。封入空間Y1と封入空間Y2は、軸方向に且つ周方向に一定の隙間となるように形成されている。
【0034】
出力側円筒部材58の筒部58Bは、筒部58Aと中心線が一致するように配置されている。また、筒部58Bは、その径が入力側円筒部材56の筒部56Bよりも若干大きく形成されており、取付状態において筒部56Bの外側に配置され、且つ、筒部56Bと同心円状に配置される。これにより、筒部56Bと筒部58Bとの間には、円筒状の封入空間Y3が形成される。封入空間Y3は、軸方向にかつ周方向に一定の隙間となるように形成されている。
【0035】
筒部58Bは、筒部58Aよりよりも長く形成されており、その先端は入力側円筒部材56よりの入力側まで延設されている。筒部58Bの先端には円盤状の封止部材58Dが設けられる。封止部材58Dの中央には、シャフト本体52が挿通される孔が形成されており、シャフト本体52に対して若干の隙間を持って配置される。この封止部材58Dを設けることによって、シャフト50の回転時に、粘性体が遠心力によって封入空間Xや封入空間Y1〜Y3から漏洩することを防止できる。
【0036】
筒部58Aと筒部58Bは、その出力側(図3の右側)の端部のみがシャフト本体52の出力側の連結部材53に一体的に取り付けられており、反対側の端部は固定されずにフリーの状態になっている。なお、図3には、筒部58Aと筒部58Bを一体品として示したが、これに限定するものではなく、別部材で構成してもよい。その場合、筒部58Aと筒部58Bをシャフト本体52の出力側の端部で一体的に取り付けるようにするとよい。また、本実施の形態では、筒部58Aと筒部58Bを出力側の連結部材53に固定したが、シャフト本体52の出力側の端部に直接固定してもよい。
【0037】
上述したように、多重円筒部材54は、入力側円筒部材56と出力側円筒部材58から成り、入力側円筒部材56と出力側円筒部材58との間には円筒状の封入空間Y1、Y2、Y3が形成されている。また、入力側円筒部材56とシャフト本体52との間には円筒状の封入空間Xが形成されている。
【0038】
これらの封入空間Y1〜Y3と封入空間Xにおいて隙間の大きさ(内周面と外周面の間隔)は特に限定するものではなく、様々な態様が可能である。ただし、内側の封入空間になるほど、隙間が小さくなるように設定することが好ましい。これにより、後述の減衰効果をより大きくすることができる。
【0039】
上述した封入空間Y1〜Y3と封入空間Xは連通しており、同一の粘性体が封入される。粘性体の種類は特に限定するものではなく、振動を吸収できる程度の粘性(具体的には、隙間の大きさによって決定される粘度)が得られるものであればよく、たとえば高粘度のグリースが用いられる。グリースは、シャフト50を組み立てる際、封入空間Y1〜Y3や封入空間Xになる位置に付着させておき、組み立てた後にはみ出たグリースを塗布することによって、封入空間Y1〜Y3に充填させることができる。
【0040】
次に上記の如く構成されたシャフト50の作用について説明する。
【0041】
上述したようにシャフト本体52には多重円筒部材54が装着されており、シャフト本体52の周囲には円筒状の封入空間Xと封入空間Y1〜Y3が形成されている。これらの封入空間Xと封入空間Y1〜Y3には粘性体が封入されており、その内周面側の回転速度と外周面側の回転速度との間に差が生じると、生じた回転速度差の大きさに応じて減衰効果が得られる。
【0042】
ここで、シャフト50にネジリ共振が発生する状態について説明する。ネジリ共振が発生する状態では、シャフト本体52にねじれが生じており、シャフト本体52の入力側と出力側で回転速度が異なっている。以下、シャフト本体52の入力側の回転速度をω1、出力側の回転速度をω2として、封入空間Xや封入空間Y1〜Y3に生じる回転速度差について説明する。
【0043】
シャフト本体52は、軸方向において入力側から出力側へ、回転速度がω1からω2に徐々に変化している。その一方で、多重円筒部材54の入力側円筒部材56は、入力側の端部がシャフト本体52の入力側の端部に固定されており、出力側の端部はフリーの状態(すなわち固定されていない状態)になっている。したがって、入力側円筒部材56は全体(すなわち筒部56Aと筒部56B)が略一様な回転速度ω1で回転する。これに対して、出力側円筒部材58は、出力側の端部がシャフト本体52の出力側の端部に固定されており、入力側の端部はフリーの状態になっている。したがって、出力側円筒部材58は全体(すなわち筒部58Aと筒部58B)が略一様な回転速度ω2で回転する。
【0044】
ところで、封入空間Xは、シャフト本体52の外周面と入力側円筒部材56の筒部56Aとに挟まれている。上述したように、筒部56Aは略一様な回転速度ω1であるのに対して、シャフト本体52はω1からω2へと変化している。このため、封入空間Xにおいて内周面と外周面との間で生じる回転速度差は、出力側の端部が|ω1−ω2|と大きいのに対して、入力側の端部では両方がω1であるために略零になっている。したがって、封入空間Xで得られる粘性体による減衰効果は、入力側の端部で小さくなり、全体としても減衰効果が略半減する。
【0045】
これに対して、封入空間Y1〜Y3はそれぞれ、入力側円筒部材56と出力側円筒部材58とに挟まれている。上述したように、入力側円筒部材56は略一様な回転速度ω1であり、出力側円筒部材58は略一様な回転速度ω2である。このため、封入空間Y1〜Y3では、内周面と外周面との間の回転速度差が軸方向において常に|ω1−ω2|になる。したがって、封入空間Y1〜Y3では、軸方向のどの部分でも大きな回転速度差になり、全体としても大きな減衰効果が得られる。
【0046】
このように本実施の形態は、入力側円筒部材56の入力側端部のみをシャフト本体52の入力側端部に固定し、出力側円筒部材58の出力側端部のみをシャフト本体52の出力側端部に固定したので、両者の間に形成される封入空間Y1〜Y3では、軸方向において一様な回転角度差|ω1−ω2|が発生し、全体として大きな減衰効果が得られる。特に本実施の形態では、多重円筒部材54を4重にすることによって封入空間Y1〜Y3を3重に形成したので、3倍の減衰効果を得ることができる。
【0047】
さらに、本実施の形態では、封入空間Y1〜Y3のほかに封入空間Xを形成している。すなわち、シャフト本体52と多重円筒部材54との隙間を封入空間Xとして利用している。したがって、本実施の形態はさらに大きな減衰効果を得ることができる。なお、本実施の形態では、シャフト本体52と多重円筒部材54との隙間(封入空間X)にも粘性体を封入するようにしたが、これに限定するものではなく、封入空間Y1〜Y3のみに粘性体を充填するようにしてもよい。この点は以下の実施形態でも同様である。
【0048】
また、上述した実施形態は、多重円筒部材54を4重に構成し、封入空間Y1〜Y3を3重に形成したが、これに限定するものではなく、それ以上の多重の構成としてもよい。たとえば、図4に示す第2の実施形態のシャフト60は、多重円筒部材64が6重に構成されている。具体的に説明すると、入力側円筒部材56は筒部56A、筒部56Bのさらに外側に筒部56Cが形成されており、この筒部56Cは、筒部56A、56Bとともにシャフト本体52の入力側の端部に固定されている。また、筒部56Cは、出力側円筒部材58の筒部58Bより大きく形成されており、筒部56Cと筒部58Bとの間には円筒状の封入空間Y4が形成される。一方、出力側円筒部材58は筒部58A、筒部58Bのさらに外側に筒部58Cが形成されており、この筒部56Cは、筒部58A、58Bとともにシャフト本体52の出力側の端部に固定されている。また、筒部58Cは、入力側円筒部材56の筒部56Bよりも大きく形成されており、筒部58Cと筒部56Bとの間には円筒状の封入空間Y5が形成される。これらの封入空間Y4、Y5にも粘性体が封入されており、その内周面と外周面との回転速度差|ω1−ω2|に応じて減衰効果が得られる。このように構成されたシャフト60によれば、封入空間Y1〜Y5が5重に形成されているので、さらに大きな減衰効果を得ることができる。
【0049】
なお、上述した実施形態は、内周面と外周面の回転速度差が略一様となる円筒状の封入空間Y1〜Y5を複数設けたが、1つのみでもあってもよい。たとえば図5に示す第3の実施形態のシャフト70は、多重円筒部材74が2重に構成されている。多重円筒部材74の入力側円筒部材56は筒部56Aのみを備え、出力側円筒部材58は筒部58Aのみを備えている。したがって、封入空間Y1は、筒部56Aと筒部58Aとの間に1つのみ形成される。この場合にも回転速度差が略一様となるので、大きな減衰効果を得ることができる。なお、図5では省略したが、最も外側の筒部58Aの先端には、粘性体が封入空間Y1から漏洩することを防止する漏洩防止手段を設けることが好ましい。漏洩防止手段としては、たとえば上述した実施形態ように円盤状の封止部材58Dを設けたり、或いはラビリンス構造を設けたりする方法が考えられる。
【0050】
また、上述した実施形態は、入力側円筒部材56と出力側円筒部材58が同じ数の筒部を有する例であるが、これに限定するものではなく、入力側円筒部材56と出力側円筒部材58の筒部の数が異なっていてもよい。たとえば、図6に示す第4の実施形態のシャフト80は、多重円筒部材84が3重に形成されており、入力側円筒部材56が2つの筒部56A、56Bを備え、出力側円筒部材58は1つの筒部58Aのみを備えている。この場合にも、回転速度差が略一様となる封入空間Y1、Y2が形成されるので、大きな減衰効果を得ることができる。なお、図6の場合も図5の場合と同様に、最も筒部56Bの先端に漏洩防止手段を設けることが好ましい。
【0051】
また、上述した実施の形態では、シャフト本体52の外側に封入空間Y1〜Y5を形成したが、これに限定するものではなく、シャフト本体52の内側に形成してもよい。たとえば図7に示す第5の実施形態のシャフト90は、シャフト本体92が筒状に形成されており、その内部に多重円筒部材94が挿入されている。多重円筒部材94は、入力側円筒部材96と、出力側円筒部材98とから成り、入力側円筒部材96は筒部96Aと筒部96Bとを備え、出力側円筒部材98は筒部98Aと筒部98Bを備えている。なお、最も内側の筒部98Bは円柱状であってもよい。また、最も内側の筒部98Bの先端には、ラビリンス構造などの何らかの粘性体封止手段を設けることが好ましい。
【0052】
入力側円筒部材96の筒部96Aと筒部96Bは入力側の端部のみがシャフト本体92の入力側端部の内周面に固定され、出力側の端部は固定されないフリーの状態になっている。出力側円筒部材98の筒部98Aと筒部98Bは出力側の端部のみが連結部材53を介してシャフト本体92の出力側端部に固定されており、入力側の端部は固定されないフリーの状態になっている。なお、入力側の端部には、ラビリンス構造などの何らかの粘性体封止手段を設けることが好ましい。また、入力側円筒部材96は、連結部材53を介さずに筒部98Aと筒部98Bをシャフト本体92の出力側の端部に直接固定してもよい。
【0053】
多重円筒部材94は、筒部96A、筒部98A、筒部96B、筒部98Bの順に径が小さくなっており、それらの間には円筒状の封入空間Y1、Y2、Y3が形成されている。また、筒部96Aとシャフト本体92との間には円筒状の封入空間Xが形成されている。これらの封入空間Y1〜Y3と封入空間Xには粘性体が充填され、筒部98Bの先端に設けた円盤状の封止部材98Dによって封止されている。このように構成されたシャフト90の場合にも、内周面と外周面との速度差が略一様な円筒状の封入空間Y1〜Y3が形成されるので、大きな減衰効果を得ることができる。
【0054】
なお、上述した実施形態は、封入空間Xと封入空間Y1〜Y5をそれぞれ連通するように形成したが、これに限定するものではなく、各封入区間X、Y1〜Y5を区切ってもよい。また、上述した実施形態は、全ての封入空間X、Y1〜Y5に同一の粘性体を封入したが、これに限定するものではなく、たとえば粘度の異なる粘性体を封入するようにしてもよい。
【0055】
また、上述した実施形態は本発明をエンジン試験装置に適用した例であるが、本発明はこれに限定するものではなく、他の動力伝達用シャフトに適用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…エンジン試験装置、12…エンジン、14…ダイナモメータ、16…ダイナモ制御部、18…エンジン制御部、20…制御装置、34…シャフト部材、50…(第1の実施形態の)シャフト、52…シャフト本体、53…連結部材、54…多重円筒部材、56…入力側円筒部材、56A〜56C…筒部、58…出力側円筒部材、58A〜58C…筒部、58D…封止部材、60…(第2の実施形態の)シャフト、64…(第2の実施形態の)多重円筒部材、70…(第3の実施形態の)シャフト、74…(第3の実施形態の)多重円筒部材、80…(第4の実施形態の)シャフト、84…(第4の実施形態の)多重円筒部材、90…(第5の実施形態の)シャフト、92…(第5の実施形態の)シャフト本体、94…(第5の実施形態の)多重円筒部材、96…(第5の実施形態の)入力側円筒部材、96A〜96B…(第5の実施形態の)筒部、98…(第5の実施形態の)出力側円筒部材、98A〜98B…(第5の実施形態の)筒部、98D…(第5の実施形態の)封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝達するシャフト本体と、
前記シャフト本体と中心線が一致するように配置された多重の円筒部材と、を備え、
前記多重の円筒部材は、前記シャフト本体の一方側の端部に片側の端部のみが固定された第1の円筒部材と、前記シャフトの他方側の端部に片側の端部のみが固定された第2の円筒部材とを有し、前記第1の円筒部材と第2の円筒部材との間には粘性体の封入空間が円筒状に形成されることを特徴とする動力伝達用シャフト。
【請求項2】
前記第1の円筒部材と前記第2の円筒部材が交互に複数設けられ、前記粘性体の封入空間が多重に形成されることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達用シャフト。
【請求項3】
前記シャフト本体の表面に対向して配置された前記第1または第2の円筒部材と前記シャフト本体の表面との間には、前記粘性体が封入されることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達用シャフト。
【請求項4】
前記動力伝達用シャフトは、エンジンの出力軸とダイナモメータの回転軸とを連結するシャフトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の動力伝達用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−36809(P2013−36809A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171879(P2011−171879)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】