説明

動力伝達装置

【課題】引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を抑制することが可能な動力伝達機構を提供する。
【解決手段】内燃機関2の出力軸2aと駆動軸4との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達機構11の状態を係合機構12にて変更することにより出力軸2aの回転数に対する駆動軸4の回転数を変更可能な動力伝達装置10において、係合機構12は、一対の摩擦部材51、52を係合状態と解放状態とに切り替え可能な湿式クラッチ50と、一対のクラッチ板41、42を係合状態と解放状態とに切り替え可能なドグクラッチ40と、を備え、第2摩擦部材52がケース13に固定されるとともに第1摩擦部材51が第2クラッチ板42と一体に回転するように設けられ、第1クラッチ板41が動力伝達機構11のサンギア31と一体に回転するように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達機構の状態を係合機構にて変更することにより入力軸の回転数に対する出力軸の回転数を変更する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と電動モータとを走行用動力源として備えたハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両は、内燃機関から出力された動力を分割したり、その回転を変速したりして駆動輪や発電機などの複数の出力先に伝達する駆動装置を備えている。動力の分割や回転の変速を行うための機構としては、例えば遊星歯車機構が用いられる。この装置では、例えば遊星歯車機構の回転要素のいずれか一つの回転を禁止したり、許可したりすることによって回転の変速や動力の分割を行う。このような駆動装置を備えたハイブリッド車両として、キャリアと内燃機関の出力軸とが接続されるとともにサンギアと発電機の伝達軸とが接続され、かつリングギアとユニット出力軸とが接続され、キャリアを介して入力された内燃機関の回転を変速してユニット出力軸から出力するプラネタリギアユニット(遊星歯車機構)を備え、発電機の伝動軸の他端側に設けられた湿式ブレーキを係合させる際は発電機の回転数をゼロに近付けてからそのブレーキを係合させることにより、ブレーキ係合時のトルク変動を軽減するものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2001−1773号公報
【特許文献2】特開平7−19363号公報
【特許文献3】特開2006−38136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、湿式ブレーキの係合部分が発電機の伝動軸に設けられているので、その係合部分が発電機のロータと同じ回転数で回転する。そのため、湿式ブレーキによる制動が解除されていても湿式ブレーキにおいてオイルのせん断力に起因する引き摺りトルクが発生し、動力が無駄に消費される。
【0005】
そこで、本発明は、引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を抑制することが可能な動力伝達機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置は、入力軸と出力軸との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達機構の状態を係合機構にて変更することにより前記入力軸の回転数に対する前記出力軸の回転数を変更可能な動力伝達装置において、前記係合機構は、一対の摩擦係合部材を係合させる係合状態と前記一対の摩擦係合部材を分離させる解放状態とに切り替え可能な摩擦クラッチと、一対の回転係合部材を係合させる係合状態と前記一対の回転係合部材を分離させる解放状態とに切り替え可能な噛み合いクラッチと、を備え、前記一対の摩擦係合部材の一方の摩擦係合部材が固定部材に固定されるとともに他方の摩擦係合部材が前記一対の回転係合部材の一方の回転係合部材と一体に回転するように設けられ、前記一対の回転係合部材の他方の回転係合部材が前記動力伝達機構の回転部材と一体に回転するように設けられていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の動力伝達装置によれば、摩擦クラッチと動力伝達機構の回転部材との間に噛み合いクラッチを設けたので、この噛み合いクラッチを解放状態にすることにより回転部材と摩擦クラッチとの間の回転の伝達を阻止することができる。これにより、他方の摩擦係合部材が回転部材とともに回転することを防止できるので、引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を抑制することができる。
【0008】
本発明の動力伝達装置の一形態においては、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ係合状態に切り替える所定の係合条件が成立した場合、まず前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替え、その後前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える制御手段をさらに備えていてもよい(請求項2)。噛み合いクラッチと比較して摩擦クラッチの方が解放状態から係合状態に切り替える際の回転数差から生じるショックやトルク変動が小さい。そのため、摩擦クラッチ及び噛み合いクラッチの両方を係合状態に切り替える場合にこの順番で各クラッチを係合状態に切り替えることにより、係合時のトルク変動及びショックを低減することができる。
【0009】
この形態において、前記制御手段は、前記所定の係合条件の成立後、前記一方の回転係合部材の回転数と前記他方の回転係合部材の回転数との差が所定の第1判定値未満に低下した場合に前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替え、その後前記一方の摩擦係合部材の回転数と前記他方の摩擦係合部材の回転数との差が前記所定の第1判定値より小さい所定の第2判定値未満に低下した場合に前記摩擦クラッチを係合状態に切り替えてもよい(請求項3)。このように一対の摩擦係合部材の回転数の差が第2判定値未満に低下した場合にこれら一対の摩擦係合部材を係合させることにより、係合時のトルク変動及びショックをさらに低減することができる。
【0010】
また、前記回転部材の回転数を調整する回転数調整手段をさらに備え、前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立して前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、前記一方の摩擦係合部材の回転数と前記他方の摩擦係合部材の回転数との差が前記第2判定値未満に調整されるように前記回転数調整手段を制御してもよい(請求項4)。このように回転数調整手段を制御することにより、摩擦クラッチを速やかに係合状態に切り替えることができる。
【0011】
制御装置を備えた本発明の動力伝達装置の一形態において、前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立して前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、かつ前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える前の期間内に前記出力軸から所定の判定トルク以上のトルクが予め設定した所定期間より長く出力されると判断した場合、前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替えてもよい(請求項5)。噛み合いクラッチが係合状態に切り替えられると回転部材と摩擦クラッチとが接続されるので、摩擦クラッチの引き摺りトルクによって無駄に動力が消費される。また、摩擦クラッチを無駄に動作させ、摩擦クラッチの耐久性を低下させる。そこで、このように噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、出力軸から所定の判定トルク以上のトルクが出力されると判断した場合は、噛み合いクラッチを解放状態に切り替え、摩擦クラッチと回転部材とを切り離す。これにより、摩擦クラッチの引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を抑制でき、また摩擦クラッチの耐久性の低下を抑制できる。
【0012】
制御装置を備えた本発明の動力伝達装置の一形態においては、前記回転部材の回転方向を切り替え可能な回転方向切替手段をさらに備え、前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立して前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、かつ前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える前の期間内に、前記摩擦クラッチを係合状態に切り替えたときに前記他方の摩擦係合部材に作用するトルクの方向と同じ方向に前記他方の摩擦係合部材が回転するように前記回転方向切替手段の動作を制御してもよい(請求項6)。このように摩擦クラッチを係合状態に切り替える前に他方の摩擦係合部材の回転方向を変更しておくことにより、他方の摩擦係合部材に回転を伝達する経路において発生する種々のガタ、例えば歯車間のバックラッシによる隙間などを詰めておくことができる。周知のように摩擦クラッチの係合時に経路上にガタがあるとこのガタによってショックやトルク変動が発生するため、このようにガタを詰めておくことにより、摩擦クラッチの係合時に発生するショックやトルク変動を低減することができる。
【0013】
制御装置を備えた本発明の動力伝達装置の一形態において、前記制御手段は、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ解放状態に切り替える所定の解放条件が成立した場合、まず前記摩擦クラッチを解放状態に切り替え、その後前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替えてもよい(請求項7)。噛み合いクラッチを先に解放状態に切り替えると、回転部材の回転を禁止させるための負荷が急に0になるため、各クラッチを解放状態に切り替えた際のショックやトルク変動が大きくなる。そこで、この順番で各クラッチを解放状態に切り替えることにより、クラッチを解放する際のトルク変動及びショックを低減することができる。
【0014】
制御装置を備えた本発明の動力伝達装置の一形態においては、前記動力伝達装置が車両に搭載されて前記入力軸と前記車両の走行用動力源とが連結されるとともに前記出力軸と前記車両の駆動輪とが連結され、前記制御手段は、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチのそれぞれが係合状態のときに前記車両に対して加速が要求された場合、前記車両の加速時に前記動力伝達装置にて伝達すべき要求トルクと前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ係合状態に維持した状態で前記動力伝達装置にて伝達可能なトルクの最大値である最大出力トルクとを比較し、前記要求トルクが前記最大出力トルク以下の場合は前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ係合状態に維持してもよい(請求項8)。この場合、無駄にクラッチの状態を変更することを防止でき、また車両を速やかに加速させることができる。
【0015】
この形態において、前記制御手段は、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチのそれぞれが係合状態のときに前記車両に対して加速が要求され、かつ前記要求トルクが前記最大出力トルクより大きい場合、前記車両の加速が開始される前に前記摩擦クラッチを解放状態に切り替え、その後前記車両の加速中に前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替えてもよい(請求項9)。噛み合いクラッチが係合状態であっても摩擦クラッチが解放状態に切り替えられていれば、回転部材を回転させることが可能となる。そこで、摩擦クラッチを解放状態に切り替えた状態で車両を加速させることにより、車両を速やかに加速させることができる。
【0016】
また、前記噛み合いクラッチは、前記一対の回転係合部材とそれぞれ噛み合って前記一対の回転係合部材を係合させる係合位置と前記一対の回転係合部材のいずれか一方のみと噛み合う分離位置とに切り替え可能な状態変更部材と、前記状態変更部材を前記係合位置と前記分離位置との間で駆動するとともに、前記状態変更部材を前記係合位置から前記分離位置に所定の第1駆動力と前記所定の第1駆動力よりも強い所定の第2駆動力とで駆動可能なアクチュエータ手段と、を備え、前記制御手段は、前記車両の加速中に前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替えるべく前記状態変更部材を前記係合位置から前記分離位置に駆動させる場合、前記状態変更部材が前記第2駆動力で駆動されるように前記アクチュエータ手段の動作を制御してもよい(請求項10)。このように車両の加速中は第2駆動力で状態変更部材を分離位置に駆動することにより、第1駆動力で駆動させる場合と比較して噛み合いクラッチを解放状態により確実に切り替えることができる。
【0017】
本発明の動力伝達装置の一形態においては、前記他方の摩擦係合部材及び前記一方の回転係合部材の少なくともいずれか一方の外周面に全周に亘って検出対象部が設けられ、前記係合機構が収容されるケースの内面のうち前記検出対象部が設けられた係合部材の外周面と対向する部分には、前記検出対象部に測定点が設定されて前記検出対象部が設けられた係合部材の周方向の位置を検出する回転角度検出手段が設けられていてもよい(請求項11)。この場合、回転角度検出手段にて一方の回転係合部材の周方向の位置を検出できるので、この検出した位置に基づいて一対の回転係合部材の位相合わせを行うことができる。そのため、シンクロナイザリングなどの一対の回転係合部材の位相合わせを行うための機構を省略することができる。この場合、噛み合いクラッチの構造を簡略化でき、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上に説明したように、本発明の動力伝達装置によれば、一方の摩擦係合部材が固定部材に固定される摩擦クラッチと動力伝達機構の回転部材との間に噛み合いクラッチを設けたので、この噛み合いクラッチを解放状態にすることによって摩擦クラッチと回転部材とを切り離すことができる。そのため、引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一形態に係る動力伝達装置が組み込まれた車両の要部の概略を示している。この車両1は、走行用動力源としての内燃機関2と、第1モータジェネレータ(MG)3と、内燃機関2及び第1MG3が連結される動力伝達装置10と、動力伝達装置10から出力された動力が伝達される駆動軸4と、駆動軸4に回転を伝達可能に連結される走行用動力源としての第2モータジェネレータ(MG)5とを備えている。駆動軸4の回転は、不図示の差動装置を介して車両1の駆動輪に伝達される。すなわち、車両1は、駆動輪を内燃機関2及び第2MG5にて駆動可能なハイブリッド車両である。なお、第1MG3及び第2MG5は、ハイブリッド車両に搭載され、電動機及び発電機として機能する周知のものと同じでよいため、詳細な説明は省略する。また、内燃機関2もハイブリッド車両の搭載される周知のものと同じでよいため。説明を省略する。
【0020】
動力伝達装置10は、動力伝達機構11と、係合機構12とを備えている。動力伝達機構11及び係合機構12は、車両1の車体に固定される固定部材としてのケース13内に配置される。動力伝達機構11は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30とを備えている。第1遊星歯車機構20は、第1MG3の出力軸3aにこの出力軸3aと一体回転するように設けられるサンギア21と、サンギア21と噛み合いつつその周囲を公転する複数のプラネタリギア(遊星ギア)22と、プラネタリギア22と噛み合うリングギア23と、プラネタリギア22を軸線Ax回りに回転自在に支持し、内燃機関2の出力軸2aと一体回転するように連結されるキャリア24とを備えている。第2遊星歯車機構30は、係合機構12の第1クラッチ板41と一体回転するように連結されるサンギア31と、サンギア31と噛み合いつつサンギア31の周囲を公転する複数の第1プラネタリギア32と、第1プラネタリギア32と噛み合いつつサンギア31の周囲を公転する複数の第2プラネタリギア33と、第2プラネタリギア33と噛み合い、内燃機関2の出力軸2a及び第1遊星歯車機構20のキャリア24と一体回転するように連結されるリングギア34と、第1プラネタリギア32及び第2プラネタリギア33を軸線Axの回りに回転自在に支持し、第1遊星歯車機構20のリングギア23及び駆動軸4と一体回転するように連結されるキャリア35と、を備えている。この動力伝達機構11によれば、内燃機関2の出力軸2aの回転数に対する駆動軸4の回転数を変更できる。そのため、内燃機関2の出力軸2aが本発明の入力軸に相当し、駆動軸4が本発明の出力軸に相当する。
【0021】
係合機構12は、噛み合いクラッチとしてのドグクラッチ40と、摩擦クラッチとしての湿式クラッチ50とを備えている。ドグクラッチ40は、一対の回転係合部材としての第1クラッチ板41及び第2クラッチ板42と、これらのクラッチ板41、42が一体に回転する係合状態と各クラッチ板41、42が異なる回転数で回転可能な解放状態とに第1クラッチ板41及び第2クラッチ板42の状態を切り替える状態切替機構43とを備えている。図1に示したように第1クラッチ板41は第2遊星歯車機構30のサンギア31と一体回転するように連結され、第2クラッチ板42は湿式クラッチ50と連結されている。第1クラッチ板41及び第2クラッチ板42の各外周には、全周に亘ってスプラインが形成されている。このように各クラッチ板41、42が連結されることにより、第1クラッチ板41が本発明の他方の回転係合部材に相当し、第2クラッチ板42が本発明の一方の回転係合部材に相当する。また、第2遊星歯車機構30のサンギア31が本発明の回転部材に相当する。
【0022】
状態切替機構43は、各クラッチ板41、42の各スプラインとそれぞれ噛み合う係合位置P1と第1クラッチ板41のスプラインのみと噛み合う分離位置P2とに駆動可能な状態変更部材としてのフォーク44と、フォーク44を係合位置P1に駆動するための第1電磁コイル45と、フォーク44を分離位置P2に駆動するための第2電磁コイル46と、フォーク44が分離位置P2に移動するようにフォーク44を図1の右側に付勢する復帰ばね47とを備えている。そして、第1電磁コイル45にてフォーク44の位置を係合位置P1に切り替えることにより第1クラッチ板41と第2クラッチ板42とを係合させ、第2電磁コイル46にてフォーク44の位置を分離位置P2に切り替えることにより第1クラッチ板41と第2クラッチ板42との係合を解除する。そのため、第1電磁コイル45及び第2電磁コイル46が本発明のアクチュエータ手段に相当する。第2電磁コイル46は、フォーク44を分離位置P2に移動させるための磁力の強さ、すなわちフォーク44を駆動するための駆動力の強さを2段階に変化させることができる。すなわち、第2電磁コイル46は、所定の第1駆動力と、第1駆動力よりも強い第2駆動力にてフォーク44を分離位置P2に駆動することができる。
【0023】
湿式クラッチ50は、交互に重ねて、かつ相対回転可能に配置される複数の第1摩擦部材51及び複数の第2摩擦部材52と、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52とに圧力を加え、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52とを摩擦接触させるための油圧ピストン53とを備えている。すなわち、湿式クラッチ50は、多板式の湿式クラッチである。複数の第1摩擦部材51は、ドグクラッチ40の第2クラッチ板42と一体回転する保持部材51aに一体に保持されている。一方、複数の第2摩擦部材52は、油圧ピストン53にて圧力が加えられた際に図1の左側に移動して第1摩擦部材51と摩擦接触するように軸線Ax方向に移動可能、かつ軸線Ax回りに回転不可となるようにケース13に一体に支持されている。この湿式クラッチ50においては、油圧ピストン53が第2摩擦部材52を図1の左側に押し、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52とが摩擦接触することにより、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52とが係合される。以下、この状態を係合状態と称することがある。一方、油圧ピストン53による第2摩擦部材52の押し付けが解除され、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52との摩擦接触が解除されることにより、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52とが分離する。以下、この状態を解放状態と称することがある。そのため、第1摩擦部材51及び第2摩擦部材52が本発明の一対の摩擦係合部材に相当する。また、第1摩擦部材51が本発明の他方の摩擦係合部材に相当し、第2摩擦部材52が本発明の一方の摩擦係合部材に相当する。
【0024】
複数の第1摩擦部材51を保持する保持部材51aには、その外周面に全周に亘って検出対象部としてのスプライン54が設けられている。そして、ケース13の内面のうちそのスプライン54と対向する部分には、スプライン54に測定点が設定される回転角度検出手段としての角度検出センサ55が設けられている。角度検出センサ55は、スプライン54の凹凸を磁気又はレーザなどで検出し、その検出結果に基づいて保持部材51aの周方向の位置、すなわち回転角度を検出する周知のセンサである。上述したように複数の第1摩擦部材51は保持部材51aに一体に保持されているため、角度検出センサ55にてこのように保持部材51aの回転角度を検出することにより、第1摩擦部材51の回転角度を検出することができる。
【0025】
この係合機構12によれば湿式クラッチ50の複数の第2摩擦部材52がケース13に回転不可に支持されているので、各クラッチ40、50をそれぞれ係合状態に切り替えることにより、第2遊星歯車機構30のサンギア31の回転を停止させることができる。また、これらクラッチ40、50の少なくともいずれか一方を解放状態に切り替えることにより、このサンギア31の回転を許可することができる。すなわち、係合機構12はサンギア31のブレーキとして機能する。
【0026】
図2は、動力伝達機構11の共線図の一例を示している。なお、図2において縦軸は回転数である。また、図2中の符号S、C、Rはそれぞれ第1遊星歯車機構20のサンギア21、キャリア24、リングギア23を示し、符号S’、C’、R’はそれぞれ第2遊星歯車機構30のサンギア31、キャリア35、リングギア34を示している。上述したように係合機構12の各クラッチ30、40をそれぞれ係合状態に切り替えることにより、このサンギア31の回転を禁止、いわゆるロックすることができる。この場合、図2に示したようにサンギア31の回転数を0に固定できるので、第1MG3の回転数を調整しなくても第2遊星歯車機構30のリングギア34と第2プラネタリギア33のギア比に応じて内燃機関2の回転を駆動軸4に変速して伝達することができる。この場合、駆動軸4の回転数を内燃機関2の出力軸2aの回転数以上に変速することができる。そのため、このように第2遊星歯車機構30のサンギア31をロックした状態をオーバードライブ状態と称することがある。一方、各クラッチ30、40をそれぞれ解放状態に切り替えた場合は第2遊星歯車機構30のサンギア31のロックが解除されるので、第1MG3の回転数を変更することにより、内燃機関2と駆動軸4との間の回転数比の変更範囲を広げることができる。
【0027】
第1電磁コイル45、第2電磁コイル46、及び油圧ピストン53の各動作は、モータジェネレータコントロールユニット(MGCU)60にてそれぞれ制御される。MGCU60は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、例えば要求される駆動力及び第1MG3、第2MG5に接続されたバッテリ(不図示)の充電状態などに基づいて第1MG3及び第2MG5が電動機又は発電機として機能するようにそれらの動作を切り替える周知のコンピュータユニットである。これらの制御は、アクセル開度に対応する信号を出力するアクセル開度センサ61、及び第1MG3及び第2MG5に設けられて各MG3、5の回転数に対応する信号を出力する回転数センサ(不図示)などMGCU60に接続される各種センサの出力信号を参照して行われる。また、角度検出センサ55もMGCU60に接続される。なお、MGCU60に接続される他のセンサについては図示を省略した。
【0028】
内燃機関2の制御は、エンジンコントロールユニット(ECU)70にて制御される。ECU70は、マイクロプロセッサ、及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサの出力信号に基づいて内燃機関2の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU70に接続されるセンサとしては、例えば内燃機関2の出力軸2aの回転速度(回転数)に対応する信号を出力するクランク角センサ71、車両の速度に対応する信号を出力する車速センサ72等がある。その他にもECU70には各種センサが接続されるが、それらの図示は省略した。そして、図1に示したようにMGCU60とECU70とは、互いに情報を共有可能なように接続されている。
【0029】
MGCU60は、運転者から車両に要求された出力及び車両の走行状態等に応じてドグクラッチ40及び湿式クラッチ50を係合状態及び解放状態のいずれの状態にて動作させるか判定し、状態の切り替えが必要な場合は動作させるべき状態に切り替わるように第1電磁コイル45、第2電磁コイル46、及び油圧ピストン53の各動作を制御する。例えば、MGCU60は、ドグクラッチ40及び湿式クラッチ50をそれぞれ解放状態から係合状態に切り替える所定の係合条件が成立した場合、まずドグクラッチ40を係合状態に切り替え、その後湿式クラッチ50を係合状態に切り替える。一方、ドグクラッチ40及び湿式クラッチ50をそれぞれ係合状態から解放状態に切り替える所定の解放条件が成立した場合は、まず湿式クラッチ50を解放状態に切り替え、その後ドグクラッチ40を解放状態に切り替える。
【0030】
図3〜図5は、MGCU60がドグクラッチ40及び湿式クラッチ50をそれぞれ制御するために実行する制御ルーチンを示している。図3及び図4は、ドグクラッチ40及び湿式クラッチ50を解放状態から係合状態に切り替えためのクラッチ係合制御ルーチンを示している。なお、図4は、図3に続くフローチャートである。図5は、ドグクラッチ40及び湿式クラッチ50を係合状態から解放状態に切り替えるためのクラッチ解放制御ルーチンを示している。
【0031】
まず、図3及び図4を参照してクラッチ係合制御ルーチンについて説明する。MGCU60は、その動作中にこの制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行する。このクラッチ係合制御ルーチンは、MGCU60が実行する他のルーチンと並行して実行される。この制御ルーチンを実行することにより、MGCU60が本発明の制御手段として機能する。
【0032】
図3のクラッチ係合制御ルーチンにおいてMGCU60は、まずステップS11でドグクラッチ40及び湿式クラッチ50の両方が解放状態か否か判断する。各クラッチ40、50が係合状態と判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、各クラッチ40、50が解放状態と判断した場合はステップS12に進み、MGCU60は内燃機関2の運転状態、及び車両の走行状態を取得する。内燃機関2の運転状態としては例えば内燃機関2の出力軸2aの回転数、アクセル開度などが取得される。車両の走行状態としては、例えば車速が取得される。次のステップS13においてMGCU60は、所定の係合条件が成立したか否か判断する。所定の係合条件は、例えば車両が高速で安定に走行しており、かつ内燃機関2の負荷が殆ど変化せず、駆動軸4から出力されるべきトルクが安定している状態が予め設定した所定の時間以上、連続して維持されている場合に成立したと判断される。所定の係合条件が不成立と判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。
【0033】
一方、所定の係合条件が成立したと判断した場合はステップS14に進み、MGCU60は第1クラッチ板41の回転数と第2クラッチ板42の回転数との差である回転数差Nc1を算出する。上述したように第1クラッチ板41は第2遊星歯車機構30のサンギア31と一体回転するように連結されているため、図2の共線図で示したように内燃機関2の回転数、第1MG3の回転数、駆動軸4の回転数に基づいて算出できる。一方、第2クラッチ板42の回転数は基本的に0である。これは、ドグクラッチ40が解放状態の場合、第2クラッチ板42には動力伝達機構11のいずれの回転要素からも回転が伝達されないためである。しかし、回転数差Nc1は、第1クラッチ板41の回転数とスプライン54及び角度検出センサ55から第2クラッチ板42の回転数を求めることにより算出できる。次のステップS15においてMGCU60は、算出した回転数差Nc1が予め設定した判定値K1未満か否か判断する。判定値K1には、ドグクラッチ40を係合させるときに発生するトルク変動やショックを適切に抑えることが可能な回転数差が設定される。このような回転数差としては、例えば200r.p.m.が設定される。回転数差Nc1が判定値K1以上と判断したばあいは、今回の制御ルーチンを終了する。
【0034】
一方、回転数差Nc1が判定値K1未満と判断した場合はステップS16に進み、MGCU60はドグクラッチ40を係合状態に切り替える係合処理を実行する。この係合処理では、まず角度検出センサ55の検出結果に基づいて第2クラッチ板42の回転角度を取得する。その後、第1電磁コイル45への通電を実行し、第1電磁コイル45から発生した磁力によってフォーク44を係合位置P1に駆動する。これにより、ドグクラッチ40を係合状態に切り替えることができる。第2クラッチ板42の外周に形成されるスプラインの各歯には、第1クラッチ板41に先端が向くようにそれぞれチャンファ部が設けられている。また、フォーク44において係合時に第2クラッチ板42と噛み合う部分にも同様に先端が第2クラッチ板42に向くようにチャンファ部が設けられている。そのため、第1MG3によって第1クラッチ板41の回転数をある程度まで低下させた後は、フォーク44を係合位置P1に駆動させれば互いのチャンファ部にて相手の歯を押し分けて自らの歯を相手の歯の間に入れることができるので、これによりドグクラッチ40を係合状態に切り替えることができる。また、このような係合処理は、湿式クラッチ50側のイナーシャが小さいために可能となる。続くステップS17においてMGCU60は、ドグクラッチ40を係合状態に切り替えてから経過した時間を計測するためのタイマTime1をリセットし、その後ステップS18においてMGCU60はタイマTime1のカウントを開始する。
【0035】
次のステップS19においてMGCU60は、運転者が車両に要求するトルクの最大値であるトルク要求最大値Tdmaxを算出する。このトルク要求最大値Tdmaxは、例えばアクセル開度などに基づいて算出する周知の算出方法で算出すればよい。続くステップS20においてMGCU60は、算出したトルク要求最大値Tdmaxが予め設定した判定トルクK2未満か否か判断する。判定トルクK2は、ドグクラッチ40に続いて湿式クラッチ50を係合状態に切り替えてもよいか否か、言い換えると所定の係合条件が継続して成立しているか否かを判定するための値であり、例えば各クラッチ40、50を係合しても動力伝達機構11を介して駆動軸4に出力可能なトルクの最大値に基づいて設定される。なお、このような値は、動力伝達機構11の構造に応じて変化するため、動力伝達機構11に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
トルク要求最大値Tdmaxが判定トルクK2未満と判断した場合はステップS21に進み、MGCU60はタイマTime1のカウントを開始してから予め設定した判定時間が経過したか否か判断する。所定の係合条件が成立してドグクラッチ40を係合状態に切り替えた後に所定の係合条件が不成立になった場合は、各クラッチ40、50を速やかに解放状態に切り替える必要がある。また、ドグクラッチ40が係合状態かつ湿式クラッチ50が解放状態の場合、湿式クラッチ50の第1摩擦部材51が軸線Ax回りに回転するため、引き摺りトルクが発生する。そこで、判定時間には、ドグクラッチ40が係合状態かつ湿式クラッチ50が解放状態となる期間が短縮でき、かつ所定の係合条件が不成立になった場合に速やかに各クラッチ40、50を解放状態に切り替えることが可能な時間、例えば3秒が設定される。判定時間が経過していないと判断した場合はステップS19に処理を戻し、ステップS19〜S21の処理を繰り返し実行する。
【0037】
一方、判定時間が経過したと判断した場合は図4のステップS22に進み、MGCU60は湿式クラッチ50の第1摩擦部材51の回転数と第2摩擦部材52の回転数との差である相対回転数Nc2を低減させる低減処理を実行する。この低減処理は、湿式クラッチ50を係合状態に切り替えた際に生じるトルク変動及びショックを低減させるために行う。上述したように第2摩擦部材52は、ケース13に回転不可に支持されている。そこで、この低減処理では、第1MG3の回転数を調整して第1摩擦部材51の回転数を低減させることによって相対回転数Nc2を低減させる。なお、第1摩擦部材51の回転数は、例えば予め低下させるべき回転数を設定し、この回転数ずつ徐々に低下させる。このように第1摩擦部材51の回転数を調整することにより、第1MG3が本発明の回転数調整手段として機能する。
【0038】
続くステップS23においてMGCU60は、湿式クラッチ50を係合させた後に第1摩擦部材51に作用するトルクの回転方向と同じ方向に第1摩擦部材51が回転するように第1摩擦部材51の回転方向を切り替える回転方向切替処理を実行する。この回転方向切替処理は、第1MG3の回転数及び回転方向をそれぞれ調整することにより行われる。このように第1摩擦部材51の回転方向を調整することにより、第1MG3が本発明の回転方向切替手段として機能する。次のステップS24においてMGCU60は、相対回転数Nc2が予め設定した判定値K4未満か否か判断する。判定値K4には、湿式クラッチ50を係合させたときに発生するトルク変動やショックを適切に抑制できる回転数の差が設定される。湿式クラッチ50を係合させると第2遊星歯車機構30のサンギア31がロックされるため、判定値K4としては例えば判定値K1よりも低い50r.p.m.が設定される。そのため、判定値K1が本発明の第1判定値に相当し、判定値K4が本発明の第2判定値に相当する、相対回転数Nc2が判定値K4以上と判断した場合はステップS22に処理を戻し、ステップS22〜S24の処理を繰り返し実行する。
【0039】
一方、相対回転数Nc2が判定値K4未満と判断した場合はステップS25に進み、MGCU60は油圧ピストン53にて第2摩擦部材52を移動させ、第1摩擦部材51と第2摩擦部材52とを摩擦接触させる湿式クラッチ50の係合処理を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0040】
ステップS20においてトルク要求最大値Tdmaxが判定トルクK2以上と判断した場合はステップS26に進み、MGCU60はタイマTime1の値が予め設定した判定期間K3より大きいか否か判断する。上述したようにドグクラッチ40が係合状態かつ湿式クラッチ50が解放状態の場合、湿式クラッチ50にて引き摺りトルクが発生する。また、上述したように所定の係合条件が不成立になった場合は各クラッチ40、50を速やかに解放状態に切り替える必要がある。ただし、一度トルク要求最大値Tdmaxが判定トルクK2以上と判断されても、その後トルク要求最大値Tdmaxが判定トルクK2未満になることもある。そこで、判定期間K3には、引き摺りトルクによる動力の消費を低減でき、かつ各クラッチ40、50の状態を切り替える判断を適切に行うことが可能な時間が設定される。タイマTime1の値が判定期間K3以下と判断した場合はステップS19に処理を戻す。
【0041】
一方、タイマTime1の値が判定期間K3より大きいと判断した場合は図4のステップS27に進み、MGCU60はドグクラッチ40を解放状態に切り替える解放処理を実行する。この解放処理では、第2電磁コイル46への通電を実行し、第2電磁コイル46から発生した磁力によってフォーク44を分離位置P2に駆動する。これにより、ドグクラッチ40を解放状態に切り替えることができる。この際、第2電磁コイル46には、フォーク44を少なくとも第1駆動力で分離位置P2に駆動する磁力が第2電磁コイル46から発生する電流が流される。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0042】
以上に説明したように、本発明の動力伝達装置10では各クラッチ40、50を係合状態に切り替える場合、まずドグクラッチ40を係合状態に切り替え、その後湿式クラッチ50を係合状態に切り替える。ドグクラッチ40と比較して湿式クラッチ50の方が解放状態から係合状態に切り替える際に生じるショックやトルク変動が小さいため、この順番で各クラッチ40、50を係合状態に切り替えることにより、係合時のトルク変動及びショックを低減することができる。また、ドグクラッチ40の係合状態への切り替えは回転数差Nc1が判定値K1未満に低下した場合に行い、摩擦クラッチ50の係合状態への切り替えは相対回転数Nc2が判定値K1より小さい判定値K4未満に低下した場合に行うので、各クラッチ40、50の係合時に生じるトルク変動及びショックをさらに低減することができる。
【0043】
ドグクラッチ40を係合状態に切り替えた後、トルク要求最大値Tdmaxが判定トルクK2以上になり、かつこの状態が判定期間K3より長い間継続されると判断した場合はドグクラッチ40を解放状態に切り替えるので、湿式クラッチ50の引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を抑制できるとともに、湿式クラッチ50の耐久性の低下を抑制できる。また、ドグクラッチ40を係合状態に切り替えた後、かつ湿式クラッチ50を係合状態に切り替える前に回転方向切替処理を実行して第1摩擦部材51の回転方向を湿式クラッチ50を係合させた後に第1摩擦部材51に作用するトルクの回転方向と同じ方向に切り替えておくことにより、第2遊星歯車機構30のサンギア31と第1プラネタリギア32との間のバックラッシなどのガタを詰めておくことができる。そのため、湿式クラッチ50の係合時に発生するショック及びトルク変動をさらに低減することができる。
【0044】
次に図5を参照してクラッチ解放制御ルーチンについて説明する。MGCU60は、動作中にこの制御ルーチンを所定の周期で繰り返し実行する。このクラッチ解放制御ルーチンも、MGCU60が実行する他のルーチンと並行して実行される。なお、図5において図3又は図4と同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0045】
図5の制御ルーチンにおいてMGCU60は、まずステップS31でドグクラッチ40及び湿式クラッチ50の両方が係合状態か否か判断する。各クラッチ40、50がそれぞれ解放状態と判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、各クラッチ40、50がそれぞれ係合状態と判断した場合はステップS12に進み、MGCU60は内燃機関2の運転状態及び車両の走行状態を取得する。続くステップS32においてMGCU60は、運転者が車両に要求する要求トルクとしてのトルク要求値Tdを算出する。このトルク要求値Tdは、取得したアクセル開度に基づいて算出する周知の算出方法で算出すればよい。次のステップS33においてMGCU60は、動力伝達装置10をオーバードライブ(O/D)状態にロックした状態において、すなわち各クラッチ40、50を係合状態に維持した状態において出力することが可能なトルクの最大値(以下、最大出力トルクと称することがある。)Todmaxを算出する。最大出力トルクTodmaxは車速とギア比から求まるエンジン回転数と、エンジントルク特性によって決定される。
【0046】
次のステップS34においてMGCU60は、トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きいか否かを判断する。トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きい場合は各クラッチ40、50を解放状態に切り替える必要がある。そのため、トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きい場合に所定の解放条件が成立したと判断できる。トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きいと判断した場合はステップS35に進み、MGCU60は湿式クラッチ50を解放状態に切り替える解放処理を実行する。この解放処理では、油圧ピストン53による第1摩擦部材51への第2摩擦部材52の押し付けを解除し、これにより第1摩擦部材51と第2摩擦部材52との摩擦接触を解除する。
【0047】
次のステップS36においてMGCU60は、内燃機関2のスロットル弁の開度を開き側に制御したり、内燃機関2に供給される燃料量を増加したりする車両1の加速制御を実行してもよいことを通知する車両加速可能信号をECU70に出力する。これにより、ドグクラッチ40を解放状態に切り替える前に車両1の加速を開始することができる。続くステップS37においてMGCU60は、フォーク44を第2駆動力で分離位置P2に駆動する磁力が第2電磁コイル46から発生するように第2電磁コイル46への電流値を増加する電流値増加処理を実行する。ドグクラッチ40が係合状態、かつ湿式クラッチ50が解放状態のときに車両の加速が開始された場合、ドグクラッチ40の第1クラッチ板41と第2クラッチ板42とを係合するフォーク44には、湿式クラッチ50の第1摩擦部材51の慣性及び湿式クラッチ50の引き摺りトルクが作用する。そこで、フォーク44が第2駆動力で分離位置P2に駆動されるように第2電磁コイル46への電流値を増加する。
【0048】
次のステップS38においてMGCU60は、ドグクラッチ40を解放状態に切り替える解放処理を実行する。この処理では、第2電磁コイル46から発生させた磁力によってフォーク44を第2駆動力で分離位置P2に駆動する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0049】
一方、ステップS34においてトルク要求値Tdが最大出力トルクTodmax以下と判断した場合はステップS39に進み、MGCU60は各クラッチ40、50を係合状態に維持したまま車両加速可能信号をECU70に出力する。次のステップS40においてMGCU60は、内燃機関2及び第2MG5にて駆動軸4を駆動する通常制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0050】
このように各クラッチ40、50を解放状態に切り替える場合は、湿式クラッチ50、ドグクラッチ40の順にそれぞれを解放状態に切り替える。そのため、各クラッチ40、50をクラッチを解放する際のトルク変動及びショックを低減することができる。また、トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmax以下と判断した場合は、各クラッチ40、50を係合状態に維持したまま車両加速可能信号をECU70に出力するので、無駄に各クラッチ40、50の状態を変更することを防止でき、また車両1を速やかに加速させることができる。
【0051】
トルク要求値Tdが最大出力トルクTodmaxより大きい場合は、湿式クラッチ50を解放状態に切り替えた状態で車両加速可能信号をECU70に出力し、その後ドグクラッチ40を解放状態に切り替えるので、車両1を速やかに加速させることができる。また、この際、第2駆動力でフォーク44が分離位置P2に駆動されるように第2電磁コイル46への電流値を増加するので、ドグクラッチ40を解放状態により確実に切り替えることができる。
【0052】
以上に説明したように、本発明の動力伝達装置10によれば、動力伝達機構11とケース13に固定される湿式クラッチ50との間にドグクラッチ40を設けたので、ドグクラッチ40を解放状態に切り替えることにより、湿式クラッチ50と動力伝達機構11との間の回転の伝達を阻止することができる。これにより、湿式クラッチ50が解放状態のときに動力伝達機構11の回転が第1摩擦部材51に伝達され、この第1摩擦部材51が回転することを防止できる。そのため、引き摺りトルクによる無駄な動力の消費を抑制することができる。
【0053】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、ドグクラッチは、上述した形態のものに限定されない。各クラッチ板にドグ歯を設け、これらのクラッチ板を軸線方向に接近させたり離間させたりしてドグ歯同士を噛み合わせたりその噛み合わせを解除させたりするドグクラッチを使用してもよい。また、摩擦クラッチは、多板式の湿式クラッチに限定されない。単板式のものでもよいし、乾式のものでもよい。
【0054】
上述した形態では、第1摩擦部材の保持部材にスプラインを設け、このスプラインに角度検出センサの測定点を設定したが、第2クラッチ板の外周面に検出対象部としてのスプラインを設け、角度検出センサの測定点をこの第2クラッチ板のスプラインに設定してもよい。第1摩擦部材と第2クラッチ板とは一体回転するように連結されているので、この場合も上述した形態と動揺に角度検出センサにて第1摩擦部材の保持部材の回転角度を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一形態に係る動力伝達装置が組み込まれた車両の要部の概略を示す図。
【図2】図1の動力伝達機構の共線図の一例を示す図。
【図3】図1のMGCUが実行するクラッチ係合制御ルーチンを示すフローチャート。
【図4】図3に続くフローチャート。
【図5】図1のMGCUが実行するクラッチ解放制御ルーチンを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
2 内燃機関(走行用動力源)
2a 出力軸(入力軸)
3 第1モータジェネレータ(回転数調整手段、回転方向切替手段)
4 駆動軸(出力軸)
10 動力伝達装置
11 動力伝達機構
12 係合機構
13 ケース(固定部材)
31 サンギア(回転部材)
40 ドグクラッチ(噛み合いクラッチ)
41 第1クラッチ板(他方の回転係合部材)
42 第2クラッチ板(一方の回転係合部材)
44 フォーク(状態変更部材)
45 第1電磁コイル(アクチュエータ手段)
46 第2電磁コイル(アクチュエータ手段)
50 湿式クラッチ(摩擦クラッチ)
51 第1摩擦部材(他方の摩擦係合部材)
52 第2摩擦部材(一方の摩擦係合部材)
54 スプライン(検出対象部)
55 角度検出センサ(回転角度検出手段)
60 モータジェネレータコントロールユニット(制御手段)
K1 判定値(第1判定値)
K2 判定トルク
K3 判定期間
K4 判定値(第2判定値)
Td トルク要求値(要求トルク)
Todmax 最大出力トルク
P1 係合位置
P2 分離位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と出力軸との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達機構の状態を係合機構にて変更することにより前記入力軸の回転数に対する前記出力軸の回転数を変更可能な動力伝達装置において、
前記係合機構は、一対の摩擦係合部材を係合させる係合状態と前記一対の摩擦係合部材を分離させる解放状態とに切り替え可能な摩擦クラッチと、一対の回転係合部材を係合させる係合状態と前記一対の回転係合部材を分離させる解放状態とに切り替え可能な噛み合いクラッチと、を備え、
前記一対の摩擦係合部材の一方の摩擦係合部材が固定部材に固定されるとともに他方の摩擦係合部材が前記一対の回転係合部材の一方の回転係合部材と一体に回転するように設けられ、前記一対の回転係合部材の他方の回転係合部材が前記動力伝達機構の回転部材と一体に回転するように設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ係合状態に切り替える所定の係合条件が成立した場合、まず前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替え、その後前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える制御手段をさらに備えている請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記所定の係合条件の成立後、前記一方の回転係合部材の回転数と前記他方の回転係合部材の回転数との差が所定の第1判定値未満に低下した場合に前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替え、その後前記一方の摩擦係合部材の回転数と前記他方の摩擦係合部材の回転数との差が前記所定の第1判定値より小さい所定の第2判定値未満に低下した場合に前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記回転部材の回転数を調整する回転数調整手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立して前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、前記一方の摩擦係合部材の回転数と前記他方の摩擦係合部材の回転数との差が前記第2判定値未満に調整されるように前記回転数調整手段を制御する請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立して前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、かつ前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える前の期間内に前記出力軸から所定の判定トルク以上のトルクが予め設定した所定期間より長く出力されると判断した場合、前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替える請求項2〜4のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記回転部材の回転方向を切り替え可能な回転方向切替手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立して前記噛み合いクラッチを係合状態に切り替えた後、かつ前記摩擦クラッチを係合状態に切り替える前の期間内に、前記摩擦クラッチを係合状態に切り替えたときに前記他方の摩擦係合部材に作用するトルクの方向と同じ方向に前記他方の摩擦係合部材が回転するように前記回転方向切替手段の動作を制御する請求項2〜5のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ解放状態に切り替える所定の解放条件が成立した場合、まず前記摩擦クラッチを解放状態に切り替え、その後前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替える請求項2〜6のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記動力伝達装置が車両に搭載されて前記入力軸と前記車両の走行用動力源とが連結されるとともに前記出力軸と前記車両の駆動輪とが連結され、
前記制御手段は、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチのそれぞれが係合状態のときに前記車両に対して加速が要求された場合、前記車両の加速時に前記動力伝達装置にて伝達すべき要求トルクと前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ係合状態に維持した状態で前記動力伝達装置にて伝達可能なトルクの最大値である最大出力トルクとを比較し、前記要求トルクが前記最大出力トルク以下の場合は前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチをそれぞれ係合状態に維持する請求項2〜7のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記摩擦クラッチ及び前記噛み合いクラッチのそれぞれが係合状態のときに前記車両に対して加速が要求され、かつ前記要求トルクが前記最大出力トルクより大きい場合、前記車両の加速が開始される前に前記摩擦クラッチを解放状態に切り替え、その後前記車両の加速中に前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替える請求項8に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記噛み合いクラッチは、前記一対の回転係合部材とそれぞれ噛み合って前記一対の回転係合部材を係合させる係合位置と前記一対の回転係合部材のいずれか一方のみと噛み合う分離位置とに切り替え可能な状態変更部材と、前記状態変更部材を前記係合位置と前記分離位置との間で駆動するとともに、前記状態変更部材を前記係合位置から前記分離位置に所定の第1駆動力と前記所定の第1駆動力よりも強い所定の第2駆動力とで駆動可能なアクチュエータ手段と、を備え、
前記制御手段は、前記車両の加速中に前記噛み合いクラッチを解放状態に切り替えるべく前記状態変更部材を前記係合位置から前記分離位置に駆動させる場合、前記状態変更部材が前記第2駆動力で駆動されるように前記アクチュエータ手段の動作を制御する請求項9に記載の動力伝達装置。
【請求項11】
前記他方の摩擦係合部材及び前記一方の回転係合部材の少なくともいずれか一方の外周面に全周に亘って検出対象部が設けられ、
前記係合機構が収容されるケースの内面のうち前記検出対象部が設けられた係合部材の外周面と対向する部分には、前記検出対象部に測定点が設定されて前記検出対象部が設けられた係合部材の周方向の位置を検出する回転角度検出手段が設けられている請求項1〜10のいずれか一項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−127840(P2009−127840A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307048(P2007−307048)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】