説明

動力伝達装置

【課題】腐食環境下や温度変化のある環境下で使用される際にも環境変化の影響を受けにくく、安定して目標とするトルク遮断性能を発揮可能な信頼性の高い動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動側回転部材と従動側回転部材の間を連結部材で連結し、連結部材と回転部材をそれらとは別の柱状固定部材で過大トルク伝達時に離脱可能に固定し、柱状固定部材と連結部材との間に、一方の部材に設けられ他方の部材に向かって突出する突起が柱状固定部材のかしめにより他方の部材に係合することにより両部材が互いに係合し合う係合部を設け、かつ、両部材間における係合部によるトルク伝達方向の拘束力F2が、柱状固定部材のかしめによる両部材の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1よりも大きいことを特徴とする動力伝達装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動側回転部材から従動側回転部材にトルクを伝達し、伝達されるトルクが設定値を越えて過大になったときトルク伝達を遮断できるようにした動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルク遮断機能を有する動力伝達装置として、例えば圧縮機に駆動源からの駆動力を伝達し、伝達トルクが過大になったときトルク伝達を遮断できるようにした動力伝達装置(トルクリミッタ)が、特許文献1、特許文献2、特許文献3等に記載されている。これら特許文献に記載されている動力伝達装置においては、例えば図8に示すように、プーリからなる駆動側回転部材101に駆動源(例えば、エンジン)からの動力が伝達されて駆動側回転部材101が102方向に回転される。駆動側回転部材101の駆動力は、連結部材としてのリーフスプリング103を介して、圧縮機の駆動軸側に連結された従動側回転部材104に伝達される。リーフスプリング103は、その一端が、ピンまたは突起状固定部材105を介して従動側回転部材104に固定され、他端が、ピンまたは突起状固定部材106を介して駆動側回転部材101に固定されている。固定部材105、106は、回転部材101、104、リーフスプリング103のいずれかに一体的に設けられている。そして、駆動側回転部材101への固定部では、リーフスプリング103の先端部で固定部材106を両側から挟み込んでおり、伝達トルクが過大になったときに、固定部材106がリーフスプリング103から離脱し、駆動側回転部材101を従動側回転部材104に対して空回りさせることによってトルク伝達を遮断するようになっている。
【特許文献1】特開2004−197928号公報
【特許文献2】特開2004−197929号公報
【特許文献3】特開2005−308203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の動力伝達装置には、以下のような問題がある。
まず、リーフスプリング103の先端部で固定部材106の外周部をその径方向のみで挟み込むことによりトルク伝達しているため、振動や駆動源の回転変動によるトルク変動により、挟み込み接触部がフレッチング摩耗(荷重負荷下における微小相対摺動による面摩耗)を起こし、挟み込み力が低下し、誤作動(所定値以下で動力伝達を遮断)してしまうおそれがある。すなわち、耐久性の低下や、トルク伝達の遮断特性の信頼性が低下するおそれがある。
【0004】
また、振動等に耐え得る挟み込み力を発生させるためには、リーフスプリング103の板厚、重ね枚数、材料強度、硬度等を増加させる必要があり、そうすると、製品のコストアップや大型化、組立性の悪化を招く。
【0005】
さらに、リーフスプリング103の先端部における固定部材106を両側から挟み込む部分が、リーフスプリング103の延在方向に延びており、リーフスプリング103の開口部も、リーフスプリング103の延在方向に沿って開口するように形成されている。したがって、トルク伝達の遮断時には、固定部材105の中心を軸にリーフスプリング103の回転が先に始まり、その後、固定部材106がリーフスプリング103の先端部から離脱する構造となっている。そのため、固定部材106側の挟み込み力を大きくすると、固定部材106側にもフレッチング摩耗を生じるおそれがあり、固定部材106の破損等による誤作動を引き起こすおそれがあり、やはり、耐久性の低下や、トルク伝達の遮断特性の信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、製品のコストアップや大型化、組立性の悪化を防ぎつつ、耐久性やトルク遮断特性等に関する信頼性を向上し、しかも、腐食環境下や温度変化のある環境下で使用される際にも環境変化の影響を受けにくく、安定して目標とするトルク遮断性能を発揮可能な、極めて信頼性の高い動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る動力伝達装置は、同心状に配置された駆動側回転部材および従動側回転部材と、駆動側回転部材と従動側回転部材の間に延び駆動側回転部材と従動側回転部材を連結する連結部材と、駆動側回転部材と連結部材を固定する第1の固定部材および従動側回転部材と連結部材を固定する第2の固定部材とを有し、駆動側回転部材から連結部材を介して従動側回転部材にトルクを伝達するとともに、伝達トルクが設定値を越えたときに第1の固定部材または第2の固定部材を連結部材から離脱させてトルク伝達を遮断するようにした動力伝達装置において、前記連結部材から離脱される固定部材を、前記回転部材および連結部材とは別体の柱状固定部材から構成し、該柱状固定部材を該柱状固定部材が連結部材から離脱可能に該柱状固定部材の軸方向にかしめることにより、回転部材と連結部材を固定するとともに、該柱状固定部材と連結部材との間または/および連結部材と回転部材との間に、一方の部材に設けられ他方の部材に向かって突出する突起が前記柱状固定部材のかしめにより他方の部材に係合することにより両部材が互いに係合し合う係合部を設け、かつ、該両部材間における前記係合部によるトルク伝達方向の拘束力F2が、前記柱状固定部材のかしめによる前記両部材の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1よりも大きいことを特徴とするものからなる。
【0008】
この本発明に係る動力伝達装置においては、過大トルク伝達時に離脱される固定部材が、両回転部材および連結部材とは別体の柱状固定部材から構成されているので、この柱状固定部材のみを独立に塑性変形させてかしめることができる。柱状固定部材を、回転部材および連結部材を間に存在させて両側から加圧して軸方向にかしめると、回転部材および連結部材を両側から挟んで固定する力、および、軸方向かしめの際に生じる柱状固定部材の径方向への膨張による内径側からの保持力により、回転部材と連結部材を、かしめ力に応じた最適な固定力で確実に固定することが可能になり、かつ、過大トルク伝達時には確実に所定の離脱を行わせることが可能になる。このかしめ力は、固定部材の軸方向加圧力を制御することにより容易に目標とする力に制御できるから、回転部材と連結部材の固定部材を介した固定力も、容易に目標とする力に精度よく制御できる。また、このかしめによる固定は、基本的に柱状固定部材の塑性変形によるものであるから、固定部材と回転部材との間、および固定部材と連結部材との間には、微小相対摺動が生じる要因は無く、フレッチング摩耗は発生しない。したがって、初期設定されたトルク遮断特性がそのまま精度よく維持されることになり、耐久性やトルク遮断特性の信頼性が向上される。さらに、柱状固定部材と連結部材との間または/および連結部材と回転部材との間に、一方の部材に設けられた突起を用いて互いに係合し合う係合部を設けてあるので、この係合部により、上記柱状固定部材の塑性変形によって固定される回転部材と連結部材との間の固定強度、さらには固定部材と連結部材との間の固定強度が増大され、固定部材が連結部材から離脱されるまでの間における固定がより確実なものとされる。したがって、フレッチング摩耗等の発生がより確実に防止され、初期設定されたトルク遮断特性がそのまま精度よく維持されて、耐久性やトルク遮断特性の信頼性が一層向上される。
【0009】
また、かしめ固定と上記係合部の係合により目標とする耐久性やトルク遮断特性が確保されるので、連結部材の板厚を増加させたり、複数の連結部材を重ねたり、連結部材に特別な材料を使用したりする必要は全くなく、それらに伴うコストアップや大型化、組立性の悪化は確実に防止される。さらに、単にかしめてそのかしめ力を制御するだけで目標とする良好な耐久性やトルク遮断特性が得られるので、組立は極めて容易に行われる。
【0010】
このような本発明に係る動力伝達装置では、トルク伝達および過大トルク伝達の遮断の特性は、上記係合部によるトルク伝達方向の拘束力F2と、上記柱状固定部材のかしめによる上記両部材の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1に依存している。すなわち、遮断トルクTを構成する力の関係は、T=r(F1+F2)となり、上記摩擦力F1と拘束力F2の和に、その力が作用する部位の回転中心からの半径rを乗じたものとなる。ところがこれら摩擦力F1と拘束力F2のうち、両部材の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1は、環境の変化、例えば、腐食環境の変化や温度変化の影響を受けて変動しやすい。したがって、(F1+F2)に対してF1の割合が大きいと、環境の変化により動力伝達装置のトルク遮断特性が変動しやすくなり、上述の如き本発明に係る動力伝達装置の優れたトルク遮断特性が損なわれるおそれが生じる。そこで本発明では、(F1+F2)に対して環境の変化の影響を受けにくいF2の割合が大きくし、上述の如き本発明に係る動力伝達装置の優れたトルク遮断特性を安定して維持できるようにしている。すなわち、上記両部材間における上記係合部によるトルク伝達方向の拘束力F2が、上記柱状固定部材のかしめによる上記両部材の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1よりも大きく設定されているのである。これによって、目標としたトルク遮断特性が、環境が変化した際にも大きく変動することなく、安定して維持される。
【0011】
本発明に係る動力伝達装置においては、上記拘束力F2が、該拘束力F2と上記摩擦力F1との和の60〜80%の範囲内にあることが好ましい。このような範囲内に設定することにより、環境の変化の影響を受けにくいF2のトルク伝達、伝達トルク遮断の特性に対する寄与度を適切に拡大でき、柱状固定部材のかしめによる上記両部材の固定の容易性を損なうことなく、上記の如き安定した目標とするトルク遮断特性が得られる。
【0012】
このような拘束力F2と摩擦力F1との割合は、とくに上記突起の高さで制御することが可能である。また、それに加えて、あるいはそれとは別に、拘束力F2と摩擦力F1との割合は、上記柱状固定部材のかしめ荷重で制御することが可能である。いずれにしても、拘束力F2の割合を大きくするので、柱状固定部材のかしめ荷重は比較的小さな荷重で済む。
【0013】
また、本発明に係る動力伝達装置においては、上記係合部としては、上記突起を用いかしめ力を利用したものであれば、特に限定しない。例えば、上記係合部が、突起が柱状固定部材のかしめにより上記他方の部材に食い込むことにより形成されている構造とすることもできるし、突起が柱状固定部材のかしめにより上記他方の部材に設けられた穴部に嵌合することにより形成されている構造とすることもできる。
【0014】
また、本発明に係る動力伝達装置においては、上記連結部材に、柱状固定部材が連結部材から離脱可能な、上記回転部材の回転方向に開口する切り欠きが設けられていることが好ましい。柱状固定部材のかしめと上記係合部の係合により上述の如く最適な固定力で連結部材と回転部材が固定されているので、過大トルク伝達時に固定部材が連結部材から離脱する際には、極力障害なく円滑に離脱させることが望まれる。したがって、連結部材に上記方向の切り欠きが設けられていると、固定部材は引っ掛かり等を生じることなく円滑に連結部材から離脱することが可能になる。
【0015】
また、上記柱状固定部材としては、柱状軸部とその一端に柱状軸部よりも大径の頭部を備えたリベット状部材を用いることができ、該リベット状部材が軸方向にかしめられるようにすればよい。このようなリベット状部材を用いることにより、組立、かしめともに容易に行うことが可能になる。
【0016】
また、連結部材としては、比較的厚みの薄い平板状部材に形成できる。これによって、所望のトルク伝達、過大伝達トルク遮断機能を持たせつつ、装置全体の小型化が達成可能となる。
【0017】
また、連結部材は、回転部材の回転方向に複数配置(例えば、回転方向に3つ等配)されていることが好ましい。複数配置により、とくに通常のトルク伝達(過大伝達トルク発生時以外)をより円滑に行うことが可能になる。
【0018】
また、連結部材は、上記連結部材から離脱される固定部材とは反対側の固定部材周りに回動可能に回転部材に固定されていることが好ましい。このように構成すれば、伝達トルク遮断時に、一端から固定部材が離脱された連結部材が、邪魔にならないように(一方の回転部材が空回り可能なように)、自身が回動して容易にかつ適切に退避することが可能になる。
【0019】
とくに、連結部材が、回転部材の半径方向に対し回転部材の回転方向に傾斜させて配置されていると、上記回動がより円滑に行われるとともに、通常のトルク伝達時にも、より円滑な力の伝達方向とすることができ、かつ、トルク変動にも適切に対応することが可能になる。
【0020】
本発明に係る動力伝達装置においては、上記駆動側回転部材と上記連結部材の間または上記従動側回転部材と上記連結部材の間に、該回転部材に一体回転可能に固着されたディスクが設けられており、該ディスクと連結部材が固定部材を介して固定されている構造を採用することもできる。このディスクは、対応する回転部材にボルト結合等により緊密に固定されればよく、回転部材と一体物のように構成すればよい。このようなディスクを設けることにより、例えば、ディスクと連結部材の固定部材を介しての連結、場合によっては、ディスクが一体化される回転部材とは反対側の回転部材と連結部材の固定部材を介しての連結まで含めて、予めアッセンブリされた部品として仮組しておくことが可能になる。このようにすれば、仮組されたアッセンブリのディスクを、それに対応する回転部材側に組み付ければ、所定の組立が完成することになり、組立性が一層向上される。また、アッセンブリの段階でかしめを行うことができるので、かしめ力の制御も一層容易に行うことができるようになる。
【0021】
本発明に係る動力伝達装置は、基本的には、あらゆる装置における動力伝達装置として適用可能であるが、とくに、駆動源にトルク変動があり、高精度の過大伝達トルク遮断性能の維持が求められる場合に有効なものである。例えば、上記駆動側回転部材の駆動源が、車両用原動機からなる場合に有効なものである。その場合に、とくに、圧縮機用に用いられる動力伝達装置として好適なものである。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明に係る動力伝達装置によれば、装置のコストアップや大型化、組立性の悪化を招くことなく、耐久性を向上し、トルク遮断特性の信頼性を向上することができ、また、遮断トルクの設定、制御の容易化、高精度化およびその安定維持を達成することができるとともに、とくに、腐食環境下や温度変化のある環境下で使用される際にも環境変化を受けにくく、安定して目標とするトルク遮断性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施態様に係る動力伝達装置を示しており、(A)はその正面図、(B)は図(A)のB−B線に沿う断面図を示している。図1において、1は、エンジン(図示略)等の駆動源からベルト等を介して駆動力が伝達されてくるプーリからなる駆動側回転部材、2は、例えば圧縮機の駆動軸等に連結固定される従動側回転部材を示しており、これらは同心に配置されている。駆動側回転部材1は、軸受3を介して、圧縮機等の本体側に対して回転自在に支持されている。これら駆動側回転部材1と従動側回転部材2は、平板状部材からなる連結部材4を介して連結されており、駆動側回転部材1からのトルクが連結部材4を介して従動側回転部材2に伝達されるようになっている。
【0024】
駆動側回転部材1と連結部材4の一端部とは、第1の固定部材5により固定されており、従動側回転部材2と連結部材4の他端部とは、第2の固定部材6により固定されている。本実施態様では、駆動側回転部材1からのトルクが連結部材4を介して従動側回転部材2に伝達される際、伝達トルクが設定値を越えたときに、第1の固定部材5が連結部材4から離脱することによりトルク伝達が遮断されるようになっている。このトルク伝達の遮断は、第2の固定部材6側で行うようにすることも可能である。トルク伝達の遮断のために連結部材4から離脱できるように構成された固定部材、本実施態様では第1の固定部材5は、両回転部材1、2および連結部材4とは完全別体の柱状固定部材に構成されている。本実施態様では、この固定部材5は、装着前には、柱状軸部7の一端側に柱状軸部7よりも大径の頭部8を備えたリベット状部材からなり、該リベット状部材がその軸方向にかしめられることにより、固定部材5を介して駆動側回転部材1と連結部材4が固定されるようになっている(9はかしめ部を示している)。本実施態様では、離脱を目的としない第2の固定部材6側にも同様のかしめによる固定構造が採用されているが、こちら側の固定構造は特に限定されない。ただし、固定部材5が連結部材4から離脱した際には、連結部材4が第2の固定部材6周りに回動可能に設定されている。そして本実施態様では、柱状固定部材5と連結部材4との間または/および連結部材4と回転部材1との間に、互いに係合し合う係合部12が設けられている。
【0025】
また、本実施態様では、3つの連結部材4が回転方向(図1(A)の矢印R方向)に当配されており、各連結部材4は、回転部材1、2の半径方向に対し該回転部材の回転方向Rに傾斜させて配置されている。各連結部材4には、第1の固定部材5の柱状軸部7が挿通される穴部10が形成されており、この穴部10に接続されて、回転部材の回転方向Rに開口する切り欠き11が設けられている。この切り欠き11を通して、第1の固定部材5が回転部材の回転方向Rに離脱可能となっている。
【0026】
図2は、本発明の第2実施態様に係る動力伝達装置を示しており、(A)はその正面図、(B)は図(A)のB−B線に沿う断面図を示している。この第2実施態様においては、図1に示した第1実施態様に比べ、一方の回転部材に対しそれと一体回転可能に固着されたディスク(ディスク状部材)が設けられている点のみが異なり、その他は基本的に第1実施態様と同じであるので、図2において図1に示したのと同一部材については、図1と同一の符号を付すことにより説明を省略する。図2に示す構造においては、駆動側回転部材1と連結部材4との間に、駆動側回転部材1と一体回転可能にディスク21が設けられており、該ディスク21は、固定ボルト22を介して駆動側回転部材1に固着されている。したがって、図2における駆動側回転部材1とディスク21を合わせて、本発明で言う駆動側回転部材とみなすことができる。なお、図2における23は、かしめられた固定部材5との干渉を避けるために駆動側回転部材1に形成された穴を示している。このようなディスク21を設けることにより、前述したように、例えばディスク21と連結部材4を先に固定部材5を介してアッセンブリしておくことが可能となり、そのアッセンブリを駆動側回転部材1にボルト締結することが可能となる。その結果、組立の容易化や、固定部材5のかしめ力の制御の容易化、係合部12における互いの部材の位置合わせの容易化、ひいてはトルク遮断特性の設定の容易化、高精度化をはかることが可能になる。
【0027】
図3および図4に、図2に示した態様に関して、固定部材5をかしめる際の様子および係合部の構成について例示する。図3に示す構造においては、図3(A)に示すように、かしめ前には、固定部材5は、柱状軸部7と、その一端に頭部8を有している。本例では、連結部材4に、固定部材5の頭部8側に向けて突出する突起13が形成されている。この固定部材5の柱状軸部7が、連結部材4の穴部10と、ディスク21に形成された穴24に挿通され(図3(B))、柱状軸部7の頭部8とは反対側端部がかしめられる(図3(C))。かしめ部9は、塑性変形により形成される。このとき、突起13が固定部材5の頭部8の内面(連結部材4側の対向面)に食い込み、かしめ力によって凸部としての突起13に対応する凹部14を形成し、凸部としての突起13と凹部14が自動的に互いに係合し合い、所定の係合部が形成される。なお、連結部材4の穴部10とディスク21の穴24の径は、柱状軸部7の外径よりも若干大きめに設定されていることが好ましく、それによって挿入の容易化がはかられる。
【0028】
図4に示す構造においては、図3に示した構造に比べ、図4(A)に示すように、連結部材4に、ディスク21側に向けて突出する突起15が形成されており、ディスク21の対応位置には、貫通する穴部16が形成されている。かしめ前には、固定部材5は、柱状軸部7と、その一端に頭部8を有している。固定部材5の柱状軸部7が、連結部材4の穴部10と、ディスク21に形成された穴24に挿通され(図4(B))、柱状軸部7の頭部8とは反対側端部がかしめられる(図4(C))。かしめ部9は、塑性変形により形成される。このとき、凸部としての突起15がディスク21の穴部16に嵌合されるとともに食い込み、凸部としての突起15と穴部16が互いに係合し合って所定の係合部が形成される。なお、ディスク21に穴部16を設けずに、図3に示した形態と同様、かしめ時に食い込む形態とすることも可能である。また、ディスク21に設ける穴部16を貫通しない穴部に形成したり、穴部ではなく凹部に形成したりすることも可能である。
【0029】
上記のように固定部材5がかしめられると、固定部材5の頭部8とかしめ部9とによって軸方向に強固な固定力が発揮され、ディスク21と連結部材4が確実に固定される。また、かしめの際に柱状軸部7が径方向に膨張されるので、柱状軸部7が連結部材4の穴部10とディスク21の穴24の内周面に圧縮力を作用させ、この間でも固定部材5とディスク21および連結部材4との固定が確実に行われることになる。このように、塑性変形を伴う固定部材5のかしめにより、連結部材4は所望の力で保持されることになる。この固定部材5を介した連結部材4とディスク21との固定においては、固定部材5のかしめ荷重によって、固定部材5の連結部材4からの離脱力をコントロールすることができ、かしめ荷重は、かしめの際に固定部材5の軸方向両側から負荷する力をコントロールすることにより容易に最適な力に設定できるので、過大伝達トルク発生の際の遮断トルク値は、高精度に所望の値に設定される。このように、固定部材5の塑性変形を伴うかしめによる固定により、固定部材5を連結部材4から離脱させる過大伝達トルクが、精度よくかつ容易に所望の値に設定されることになる。さらに、係合部12が存在することにより、固定部材5と連結部材4の間の相対回動がより確実に防止され、フレッチング摩耗等の発生がより確実に防止されて、一層高精度に所望の遮断トルク値が設定されることになる。
【0030】
この固定部材5による連結部材4の固定、および過大伝達トルク発生の際の固定部材5の連結部材4からの離脱に関し、図3に示した形態について、図5〜図7を参照しながら説明する。
【0031】
図5および図6に示すように、固定部材5のかしめにより、連結部材4と固定部材5(固定部材5の頭部8)との間には、係合部12によるトルク伝達方向(図5の矢印方向)の拘束力F2と、連結部材4と固定部材5(固定部材5の頭部8)の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1とが発生し、これらF2とF1の和にその部分の回転中心からの半径rを乗じた値が伝達可能トルクTとなる(T=r(F1+F2))。これ以上の過大トルクが伝達されると、図7に示すように、固定部材5が連結部材4から離脱し、トルク伝達が遮断されてディスク21(駆動側回転部材)が空回りする。
【0032】
本発明に係る動力伝達装置では、上記係合部12によるトルク伝達方向の拘束力F2が、連結部材4と固定部材5の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1よりも、意図的に大きく設定されている。前述したように、これら摩擦力F1と拘束力F2のうち、摩擦力F1は、環境の変化、例えば、腐食環境の変化や温度変化の影響を受けて変動しやすい。したがって、(F1+F2)に対してF1の割合が大きいと、環境の変化により動力伝達装置のトルク遮断特性が変動しやすくなる。そこで本発明では、(F1+F2)に対して環境の変化の影響を受けにくいF2の割合を大きくし、目標としたトルク遮断特性が環境が変化した際にも大きく変動することなく、安定して維持されるようにしている。
【0033】
上記連結部材4と固定部材5の対向面間の摩擦力F1を、係合部12無しの形態について連結部材4の引抜き試験によって求め、次に係合部12有りの形態について連結部材4の引抜き試験によって、(F1+F2)とともに拘束力F2を求め、各種かしめ荷重と突起13の高さにより、F1とF2の割合がどのように変化するかを調べた。その結果、例えばF1:F2=7:3であったものが、突起13の高さを0.3mmから0.5mmに変更することにより、F1:F2=3:7とすることが可能になった。また、この時同時に、同じ遮断トルク値の設定を行う場合に、かしめ荷重を75kNから40kNへと低下させることができた。したがって、突起13の高さを変更することにより、拘束力F2が、拘束力F2と摩擦力F1との和の60〜80%の範囲(つまり、好ましい範囲)内に容易に設定できることが確認でき、その場合、固定部材5のかしめ荷重を大幅に低減可能で生産性向上に寄与できることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る動力伝達装置は、基本的にあらゆる装置におけるトルク伝達、過大伝達トルクの遮断に適用可能である。とくに、駆動源にトルク変動がある場合のトルク伝達、例えば、車両用原動機を駆動源とするトルク伝達(例えば、車両用原動機を駆動源として圧縮機を駆動)の場合に用いて好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施態様に係る動力伝達装置の正面図(A)および図(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図2】本発明の第2実施態様に係る動力伝達装置の正面図(A)および図(A)のB−B線に沿う断面図である。
【図3】図2の装置の固定部材のかしめおよび係合部構造の一例を示す概略部分断面図である。
【図4】図2の装置の固定部材のかしめおよび係合部構造の別の例を示す概略部分断面図である。
【図5】図3の形態における連結部材と固定部材の固定、係合部の拡大部分正面図である。
【図6】図5に示した部位の図5のA−A線に沿う部分拡大断面図である。
【図7】図5に示した部位のトルク遮断時状態を示す正面図である。
【図8】従来の動力伝達装置の正面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 駆動側回転部材
2 従動側回転部材
3 軸受
4 連結部材
5 第1の固定部材(柱状固定部材)
6 第2の固定部材
7 柱状軸部
8 頭部
9 かしめ部
10 連結部材の穴部
11 切り欠き
12 係合部
13 突起
14 凹部
15 突起
16 穴部
21 ディスク
22 固定ボルト
23 駆動側回転部材に形成された穴
24 ディスクに形成された穴
R 回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心状に配置された駆動側回転部材および従動側回転部材と、駆動側回転部材と従動側回転部材の間に延び駆動側回転部材と従動側回転部材を連結する連結部材と、駆動側回転部材と連結部材を固定する第1の固定部材および従動側回転部材と連結部材を固定する第2の固定部材とを有し、駆動側回転部材から連結部材を介して従動側回転部材にトルクを伝達するとともに、伝達トルクが設定値を越えたときに第1の固定部材または第2の固定部材を連結部材から離脱させてトルク伝達を遮断するようにした動力伝達装置において、前記連結部材から離脱される固定部材を、前記回転部材および連結部材とは別体の柱状固定部材から構成し、該柱状固定部材を該柱状固定部材が連結部材から離脱可能に該柱状固定部材の軸方向にかしめることにより、回転部材と連結部材を固定するとともに、該柱状固定部材と連結部材との間または/および連結部材と回転部材との間に、一方の部材に設けられ他方の部材に向かって突出する突起が前記柱状固定部材のかしめにより他方の部材に係合することにより両部材が互いに係合し合う係合部を設け、かつ、該両部材間における前記係合部によるトルク伝達方向の拘束力F2が、前記柱状固定部材のかしめによる前記両部材の対向面間のトルク伝達方向の摩擦力F1よりも大きいことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記拘束力F2が、該拘束力F2と前記摩擦力F1との和の60〜80%の範囲内にある、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記拘束力F2と前記摩擦力F1との割合が、前記突起の高さで制御されている、請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記拘束力F2と前記摩擦力F1との割合が、前記柱状固定部材のかしめ荷重で制御されている、請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記係合部が、前記突起が前記柱状固定部材のかしめにより前記他方の部材に食い込むことにより形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記係合部が、前記突起が前記柱状固定部材のかしめにより前記他方の部材に設けられた穴部に嵌合することにより形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記連結部材に、前記柱状固定部材が連結部材から離脱可能な、前記回転部材の回転方向に開口する切り欠きが設けられている、請求項1〜6のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記柱状固定部材が、柱状軸部とその一端に柱状軸部よりも大径の頭部を備えたリベット状部材からなり、該リベット状部材が軸方向にかしめられる、請求項1〜7のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記連結部材が、回転部材の回転方向に複数配置されている、請求項1〜8のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記連結部材が、該連結部材から離脱される固定部材とは反対側の固定部材周りに回動可能に回転部材に固定されている、請求項1〜9のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項11】
前記連結部材が、回転部材の半径方向に対し回転部材の回転方向に傾斜させて配置されている、請求項1〜10のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項12】
前記駆動側回転部材と前記連結部材の間または前記従動側回転部材と前記連結部材の間に、該回転部材に一体回転可能に固着されたディスクが設けられており、該ディスクと前記連結部材が固定部材を介して固定されている、請求項1〜11のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項13】
前記駆動側回転部材の駆動源が、車両用原動機からなる、請求項1〜12のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項14】
圧縮機用に用いられる、請求項1〜13のいずれかに記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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