説明

動力伝達装置

【課題】動力を伝達する際に動力伝達機構において、収容ケースの圧接面に曲げモーメントが加えられることを抑制して、ケース間に隙間が形成されること抑制する。
【解決手段】デファレンシャルにおいて、リングギヤ12の回転軸線O2方向から側面視した際に、開口端面30および開口端面31を含むように延びる仮想平面S1と、ドライブピニオンギヤ13およびリングギヤ12の噛合部Pにてドライブピニオンギヤ13に加えられる反力Fの方向ベクトルとの交差角度うち、小さい方の交差角度θ2は、回転軸線O1と仮想平面S1との交差角度のうち、小さい方の交差角度θ1よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に登載される動力伝達装置としてのデファレンシャルについて、各種提案されている。たとえば、特開2007−315456号公報に記載されたデファレンシャルは、デファレンシャルが前上がり姿勢になったときに、各斜接形転がり軸受へのオイル供給量を平常姿勢時に比べて多くする流量調整機構を備えている。このデファレンシャルによれば、平常姿勢時に二つの斜接形転がり軸受の間へのオイル供給を過不足なく適量とする一方で、前上がり姿勢時に二つの斜接形転がり軸受の間へのオイル供給が確保されている。
【特許文献1】特開2007−315456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特開2007−315456号公報に記載されたデファレンシャルは、ドライブピニオンギアおよびこのドライブピニオンギアによって駆動される差動変速機と、上記ドライブピニオンギアおよび差動変速機を収容する収容ケースとを備えている。
【0004】
デファレンシャルケースは、フロントケースと、ドライブピニオンギアを回転可能に支持するリヤケースと、上記フロントケースおよびリヤケースを連結するボルトとを備えている。
【0005】
ここで、ドライブピニオンギアが差動変速機から受ける反力は、ドライブピニオンギアの回転軸線に対して、交差する方向となる。これにより、ドライブピニオンギアを支持するリヤケースには、ドライブピニオンギヤの回転軸線に対して交差する方向に押圧される。
【0006】
その一方で、リヤケースとフロントケースとの圧接面は、ドライブピニオンギアの回転軸線に対して垂直となるように配置されているので当該圧接面には、上記押圧力により曲げモーメントが加えられる。
【0007】
そして、この曲げモーメントにより、リアケースとフロントケースとの間に隙間が生じことがあった。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、動力を伝達する際に動力伝達機構において、収容ケースの圧接面に曲げモーメントが加えられることを抑制して、ケース間に隙間が形成されること抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る動力伝達機構は、第1回転軸線を中心に回転可能に設けられた第1歯車と、第1歯車を回転可能に支持すると共に、第1開口部が形成され、第1歯車を収容する第1収容ケースと、第1回転軸線と異なる方向に向けて延びる第2回転軸線を中心に回転可能に設けられると共に、第1歯車と噛合可能な第2歯車と、第2歯車を回転可能に支持すると共に、第2開口部が形成され、第2歯車を収容する第2収容ケースと、第1開口部を規定する第1収容ケースの第1開口端面と、第2開口部を規定する第2収容ケースの第2開口端面とを当接させて、第1収容ケースおよび第2収容ケースを連結する連結部材とを備える。そして、上記第2回転軸線方向から側面視した際に、第1および第2開口端面を含むように延びる仮想平面と、第1歯車および第2歯車の接触点にて第1歯車に加えられる接触力の方向ベクトルとの交差角度うち、小さい方の交差角度は、第1回転軸線と仮想平面との交差角度のうち、小さい方の交差角度よりも、大きくされる。
【0010】
好ましくは、第1収容ケースと第2収容ケースとによって第1歯車および第2歯車を収容可能な収容室が形成され、収容室内には、オイルが供給されており、仮想平面は、上方から下方に向かうに従って、収容室の底部から離れるように傾斜し、第1および第2開口端面のうち、最も下方に位置する部分は、収容室の底部よりも上方に位置する。
【0011】
好ましくは、上記仮想平面は、接触力の方向ベクトルに対して垂直となるように位置する。
【0012】
好ましくは、上記仮想鉛直平面と、仮想平面との交差角度をθとし、第1歯車のねじれ角をαとし、第1歯車の歯先円錐角をβとし、第1歯車および第2歯車の歯直角圧入角をγとすると、θ=Atan{-cosα/(tanγ×sinβ+sinα×cosβ)}とされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る動力伝達機構によれば、収容ケースの圧接面に曲げモーメントが加えれることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施の形態に係るおよびこのデファレンシャル50について、図1から図3用いて説明する。
【0015】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の特徴部分を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るデファレンシャル50の側断面図である。なお、本実施の形態に係るデファレンシャル50は、後輪駆動タイプの車両に適用され、車両の後方側に配置される。
【0017】
図1に示すように、デファレンシャル50は、ツーピニオンタイプとされている。デファレンシャル50は、図示されない変速機からの動力によって回転するドライブピニオンギヤ13と、ドライブピニオンギヤ13によって駆動される差動変速機構10と、これら、ドライブピニオンギヤ13および差動変速機構10を収容するデファレンシャルケース11とを備えている。
【0018】
デファレンシャルケース11は、ドライブピニオンギヤ13を回転可能に支持すると共に、ドライブピニオンギヤ13を収容するフロントケース11aと、差動変速機構10を収容するリヤケース11bとを備えている。
【0019】
フロントケース11aには、開口端面30によって規定される開口部が形成されており、リヤケース11bには、サイドギヤ40によって規定される開口部が形成されている。
【0020】
フロントケース11aと、リヤケース11bとは、複数のボルト20によって、互いに連結されており、フロントケース11aの開口端面(圧接面)30と、リヤケース11bの開口端面(圧接面)31とが互いに圧接している。これにより、デファレンシャルケース11が規定されており、デファレンシャルケース11の内部に、ドライブピニオンギヤ13や差動変速機構10を収容可能な収容室が規定されている。なお、フロントケース11aおよびリヤケース11bの開口縁部には、鍔部が形成されており、この鍔部の端面が開口端面30および開口端面31とされている。そして、各ボルト20は、開口端面30,31に対して垂直となるように設けられている。
【0021】
ドライブピニオンギヤ13には、ドライブピニオンギヤ軸14が接続されている。フロントケース11a内には、間隔を隔てて軸受15および軸受16が設けられており、ドライブピニオンギヤ軸14を回転可能に支持している。なお、ドライブピニオンギヤ軸14の端部のうち、ドライブピニオンギヤ13が設けられた端部と反対側に位置する端部は、フロントケース11aに形成された貫通孔を通って、外部に露出している。なお、当該フロントケース11aの貫通孔には、オイルシール19が設けられており、デファレンシャルケース11内のオイルが外部に漏れることが抑制されている。
【0022】
デファレンシャルケース11内にはオイルが充填されている。そして、リングギヤ12が回転して、デファレンシャルケース11内に貯留されたオイルをかき上げ、デファレンシャルケース11内に収容された軸受やギヤ同士の噛合部等にオイルが供給可能となっている。
【0023】
なお、リヤケース11bの底部Bは、デファレンシャルケース11のうち、最も下方に位置している。
【0024】
図2は、差動変速機構10の概略構成を示す平面図である。この図2において、差動変速機構10は、リングギヤ12と、リングギヤ12に固定されると共に、リヤケース11bに回転可能に支持されたデフケース45と、デフケース45内に設けられたピニオンギヤ48,49と、ドライブシャフト42,43にサイドギヤ40,41とを備えている。
【0025】
リングギヤ12と、ドライブピニオンギヤ13とは、ハイポイドギヤが採用されており、ドライブピニオンギヤ13のピッチ面S2は、円錐状となっており、リングギヤ12のピッチ面も、円錐状となっている。
【0026】
ピニオンギヤ48およびピニオンギヤ49は、デフケース45内に配置されたピニオンシャフト46に回転可能に支持されている。ピニオンシャフト46は、回転軸線O2に対して直交するように配置されている。そして、ドライブピニオンギヤ13と、リングギヤ12とが噛合し、サイドギヤ40およびサイドギヤ41は、ピニオンギヤ48,ピニオンギヤ49と噛合している。
【0027】
ここで、車両が前進している場合において、ドライブピニオンギヤ軸14に加えられた動力は、ライブピニオンギヤ13からリングギヤ12に伝達され、リングギヤ12が回転軸線O2を中心に回転する。リングギヤ12が回転することで、デフケース45およびピニオンシャフト46が回転する。
【0028】
ここで、左右の駆動輪にかかる負荷の割合は、前進している際には、同じであるので、ピニオンギヤ48,49は自転しない状態で、回転軸線O2を中心に回転する。これにより、サイドギヤ40,41が等速に回転し、サイドギヤ40,41が回転する。そして、ドライブシャフト42,ドライブシャフト43が左右の駆動輪を回転させる。
【0029】
車両が曲がっている場合には、いずれか一方の駆動輪に多くの駆動輪に動力が加えられる。これにより、ドライブシャフト42に連結されているサイドギヤ40と、ドライブシャフト43に連結されているサイドギヤ41との回転数に差が生じる。
【0030】
これにより、ピニオンギヤ48およびピニオンギヤ49がピニオンシャフト46を中心として自転する。これにより、外側を通り駆動輪の回転が上がる一方で、内側を通る駆動輪の回転数が低下し、スムースに車両が曲がることができる。なお、平面視した際には、仮想平面S1は、回転軸線O2と並行となるように配置されているが、仮想平面S1が回転軸線O2と交差するように開口端面30,31を形成してもよい。
【0031】
図1において、デファレンシャル50が駆動する際には、ドライブピニオンギヤ13は、リングギヤ12から反力Fを受ける。
【0032】
そして、フロントケース11aは、ドライブピニオンギヤ13を支持しているため、フロントケース11aには、反力Fが加えられる。
【0033】
ここで、差動変速機構10を回転軸線O2方向から側面視した際に、開口端面30,31を含むように位置する仮想平面S1と、反力Fの方向ベクトルとの交差角度のうち、小さい方の交差角度θ2は、回転軸線O1と仮想平面S1との交差角度θ1よりも大きくなるように位置している。
【0034】
これにより、従来のように交差角度θ1が90度となるように仮想平面S1が位置する場合よりも、反力F1によって開口端面30に加えられる曲げモーメントを低減することができ、開口端面30と開口端面31との間に隙間が生じることを抑制することができる。
【0035】
特に、反力Fの方向ベクトルと仮想平面S1とが垂直となるように配置するのが好ましい。このように、仮想平面S1が位置するように、開口端面30,31を配置することで、開口端面30には、開口端面30に対して垂直な荷重のみが働き、開口端面30に曲げモーメントが加えられることを抑制することができる。これにより、開口端面30と開口端面31との間に隙間が生じることを、効果的に抑制することができる。
【0036】
さらに、開口端面30と開口端面31とを圧接させるボルト20には、引張力のみが加えられ、せん断力が加えられることを抑制される。一般に、ボルトなどの棒状の締結部材は、せん断力よりも引張力に対する耐力が大きい。このため、ボルト20破断することを抑制することができる。
【0037】
図1に示すように、仮想平面S1は、上方から下方に向かうに従って、リヤケース11bの底部Bから離れるように傾斜している。さらに、回転軸線O2方向から側断面視した際に、リヤケース11bは、リングギヤ12の外周縁部に沿って延びている。
【0038】
このため、開口端面30,31のうち、最も下端部に位置する部分は、底部Bよりも上方に位置し、ドライブピニオンギヤ13とリングギヤ12との噛合部Pに近接する。これにより、開口端面30と開口端面31との接合部のうち、最も下方に位置する部分に加えられる曲げモーメントを低減することができ、開口端面30と開口端面31との接合部のうち、最も下端部に位置する部分に隙間が生じることを抑制することができる。
【0039】
これに伴い、オイル漏れ等の弊害の発生を抑制することができる。
ここで、回転軸線O2方向からデファレンシャルを側面視した際に、鉛直方向に延びる仮想鉛直面S3と、仮想平面S1との交差角度θ3は、ドライブピニオンギヤ13のねじれ角度をαとし、ドライブピニオンギヤ13の歯先円錐角αとし、ドライブピニオンギヤ13およびリングギヤ12の歯直角圧入角をγとすると、下記式(1)により示すことができる。
【0040】
θ3=Atan{−cosα/(tanγ×sinβ+sinα×cosβ)}・・・(1)
なお、「Atan」は、アークタンジェントを意味する。
【0041】
(実施の形態2)
図3は、本実施の形態2に係るデファレンシャルを示す側断面図である。なお、この図3に示す構成のうち、上記図1および図2に示された構成と同一または相等する構成については、同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0042】
この図3に示すように、仮想平面S1の一部が反力Fの方向ベクトルに沿って延びるように、仮想平面S1を屈曲させてもよい。
【0043】
このように、仮想平面S1が屈曲するように、開口端面30および開口端面31を屈曲させて配置することで、開口端面30,31の下端部のうち、最も下方に位置する部分を、さらに、噛合部Pに近接させることができる。これにより、開口端面30に加えられる曲げモーメントを低減することができ、開口端面30と開口端面31との間に隙間が生じることを抑制することができる。
【0044】
さらに、開口端面30,31の下端部を、底部Bより大きく上方に配置することができ、オイル漏れの抑制をさらに効果的に図ることができる。
【0045】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。さらに、上記数値などは、例示であり、上記数値および範囲にかぎられない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、動力伝達装置に適用することができ、特に車両に登載されるデファレンシャルに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態1に係るデファレンシャルの側断面図である。
【図2】差動変速機構の平断面図である。
【図3】本実施の形態2に係るデファレンシャルを示す側断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10 差動変速機構、11 デファレンシャルケース、11a フロントケース、11b リヤケース、12 リングギヤ、13 ドライブピニオンギヤ、13 ライブピニオンギヤ、14 ドライブピニオンギヤ軸、15,16 軸受、19 オイルシール、20 ボルト、30,31 開口端面、40,41 サイドギヤ、42,43 ドライブシャフト、45 デフケース、46 ピニオンシャフト、48,49 ピニオンギヤ、50 デファレンシャル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸線を中心に回転可能に設けられた第1歯車と、
前記第1歯車を回転可能に支持すると共に、第1開口部が形成され、前記第1歯車を収容する第1収容ケースと、
前記第1回転軸線と異なる方向に向けて延びる第2回転軸線を中心に回転可能に設けられると共に、前記第1歯車と噛合可能な第2歯車と、
前記第2歯車を回転可能に支持すると共に、第2開口部が形成され、前記第2歯車を収容する第2収容ケースと、
前記第1開口部を規定する前記第1収容ケースの第1開口端面と、前記第2開口部を規定する前記第2収容ケースの第2開口端面とを当接させて、前記第1収容ケースおよび前記第2収容ケースを連結する連結部材と、
を備え、
前記第2回転軸線方向から側面視した際に、前記第1および第2開口端面を含むように延びる仮想平面と、前記第1歯車および第2歯車の接触点にて前記第1歯車に加えられる接触力の方向ベクトルとの交差角度うち、小さい方の交差角度は、前記第1回転軸線と前記仮想平面との交差角度のうち、小さい方の交差角度よりも大きい、動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1収容ケースと前記第2収容ケースとによって前記第1歯車および第2歯車を収容可能な収容室が形成され、
前記収容室内には、オイルが収容され、
前記仮想平面は、上方から下方に向かうに従って、前記収容室の底部から離れるように傾斜し、前記第1および第2開口端面のうち、最も下方に位置する部分は、前記収容室の底部よりも上方に位置する、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記仮想平面は、前記接触力の方向ベクトルに対して垂直となるように位置する、請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
仮想鉛直平面と、前記仮想平面との交差角度をθとし、前記第1歯車のねじれ角をαとし、前記第1歯車の歯先円錐角をβとし、第1歯車および第2歯車の歯直角圧入角をγとすると、θ=Atan{-cosα/(tanγ×sinβ+sinα×cosβ)}とされた、請求項1から請求項3のいずれかに記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−25259(P2010−25259A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188731(P2008−188731)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】