説明

動力循環式試験装置

【課題】運転中にトルクを変化させることができると共に、トルク抜けが防止され安定してトルクを負荷することの可能な動力循環式試験装置を提供する。
【解決手段】第1低速回転部22Aの軸内部には、ロータリーアクチュエータ40が配置されている。ロータリーアクチュエータ40は、油圧式モータを用いて構成され閉鎖動力循環路12にトルクを負荷するものであり、油圧サーボバルブ42により、出力トルクが制御されている。ロータリーアクチュエータ40は、減速機構50を介して第2低速回転部22Bと連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車、無端ベルト、チェーン等の動力伝達部材の強度、耐久性等を試験するための、動力循環式試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝達部材(歯車等)についての耐久性能試験を行う試験機として、動力循環式試験装置が提案されている(特許文献1、2参照)。動力循環式試験装置は、閉ループを構成して該閉ループ内に供試体を設置し、駆動力を閉ループ内で循環させて連続運転を行うものである。したがって動力循環式試験装置では、閉ループ内における損失分の駆動力を付加することにより試験機を連続運転することができ、エネルギーの消費量を抑制することができる。
【0003】
ところで、このような動力循環式試験装置を用いる場合、閉ループにトルクを負荷する機構が必要となる。従来は、トーションスプリングなどのバネや、油圧シリンダを用いて、トルクを負荷していた。しかしながら、トーションスプリングなどのバネでトルクを負荷した場合、連続運転中にトルクを変化させることが難しい。
【0004】
また、無段変速機構であるCVTベルト等のように、閉ループ内にスリップを発生させる可能性のある供試体について試験する場合には、当該スリップによりトルク抜けが生じてしまうという問題が生じる。油圧シリンダを用いてトルクを負荷する場合には、運転中にトルクを変化させることができ、ある程度までのスリップには追随することができる。しかしながら、油圧シリンダのストロークエンドに至ると、それ以上の捩り力を出力できないため、前記と同様に供試体のスリップによりトルク抜けが生じてしまうという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−260628号公報
【特許文献2】特開平8−145853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して成されたものであり、運転中にトルクを変化させることができると共に、トルク抜けが防止され安定してトルクを負荷することの可能な動力循環式試験装置を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る動力循環式試験装置は、駆動力が循環するように複数の回転軸が連結されて構成された、閉鎖動力循環路と、
前記閉鎖動力循環路の回転軸に駆動力を供給する駆動機と、
前記閉鎖動力循環路の前記回転軸に連結され、前記回転軸にトルクを負荷する無限循環回転可能なロータリーアクチュエータと、前記回転軸の回転を吸収して前記ロータリーアクチュエータへ駆動力エネルギーを供給する回転差吸収機構と、前記閉鎖動力循環路に設けられ、試験対象となる供試体を取り付ける供試体取付部と、を備えている。
【0008】
本発明に係る動力循環式試験装置は、閉鎖動力循環路内で駆動力が循環するように複数の回転軸が連結されており、この閉鎖動力循環路に設けられた供試体取付部に試験対象となる供試体が取り付けられる。駆動機により回転軸に供給された駆動力は、閉鎖動力循環路内で循環する。したがって、連続運転するために閉鎖循環路内で損失された分の駆動力を付加すればよいため、本発明の動力循環式試験装置では、非循環式の試験機と比較して、エネルギーの消費を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る動力循環式試験装置では、回転軸へのトルクの負荷を、無限循環回転可能なロータリーアクチュエータで行なう。ロータリーアクチュエータとしては、油圧モータ、電動モータ、その他の無限循環回転可能なロータリーアクチュエータを用いることができる。ロータリーアクチュエータは、回転軸と連結され、回転軸にトルクを負荷する。トルクの負荷は、ロータリーアクチュエータが、回転軸に捩り力を作用させることで行われる。このように、ロータリーアクチュエータを用いることにより、このロータリーアクチュエータの回転トルクを制御することにより、連続運転中に閉鎖動力循環路への負荷トルクを、変化させることができる。
【0010】
また、回転軸の回転を吸収してロータリーアクチュエータへ駆動力エネルギーを供給する回転差吸収機構を備えているので、ロータリーアクチュエータ自体を回転軸と共に回転させつつ、ロータリーアクチュエータの駆動部分を駆動させることができる。
【0011】
また、本発明のロータリーアクチュエータは、無限循環回転が可能とされているので、捩りエンドがなく、供試体のスリップに無限循環回転により追随でき、トルク抜けを防止して、閉鎖動力循環路に安定してトルクを負荷することができる。
【0012】
本発明の請求項2に係る動力循環式試験装置は、前記ロータリーアクチュエータと前記回転軸との間に、前記ロータリーアクチュエータから出力されるトルクを増幅して前記回転軸に伝達する減速機構を備えたこと、を特徴とする。
【0013】
このように、減速機構を用いることにより、ロータリーアクチュエータから出力されるトルクを増幅して回転軸に伝達することができる。そのため、ロータリーアクチュエータ自体のトルクは試験機に求められるトルクよりも小さくてもよいため、ロータリーアクチュエータの小型化を図ることができる。
【0014】
本発明の請求項3に係る動力循環式試験装置は、前記閉鎖動力循環路が、互いに平行配置され変速機構を介して連結された一対の回転軸を含んで構成され、前記ロータリーアクチュエータが、前記一対の回転軸のうちの低速回転軸に配置されていること、を特徴とする。
【0015】
このように、ロータリーアクチュエータを低速回転軸に配置することにより、ロータリーアクチュエータ自体の回転速度も低速回転軸に対応した低速となる。したがって、ロータリーアクチュエータ、及び、このロータリーアクチュエータと接続されるカップリングやスリップリングなどの部材への負荷を軽減することができる。
【0016】
本発明の請求項4に係る動力循環式試験装置は、前記回転軸の軸端に構成され、前記閉鎖動力循環路の一部を構成して互いに直列的に接続された二重筒を備え、該二重筒の内軸と外筒との間の駆動系に前記供試体取付部が配置されていること、を特徴とする。
【0017】
このように、回転軸の軸端を二重筒構造として、二重筒の内軸と外筒との間の駆動系に前記供試体を取り付ける供試体取付部を構成することにより、回転軸の中央部に供試体取付部を配置する場合と比較して、供試体の着脱、交換を容易に行うことができる。
【0018】
本発明の請求項5に係る動力循環式試験装置は、前記供試体取付部が、前記二重筒と対向配置されて供試体が取り付けられる供試体取付軸を備え、該供試体取付軸は、前記二重筒との間の軸間距離が可変とされていること、を特徴とする。
【0019】
このように、供試体取付部における試供体取付軸と二重筒との間の軸間距離を可変とすることにより、供試体に応じて軸間距離を容易に調整することができる。
【0020】
本発明の請求項6に係る動力循環式試験装置は、前記閉鎖動力循環路におけるトルクを検出するトルク検出器と、前記トルク検出器で検出されたトルクに基づいて、前記ロータリーアクチュエータの出力トルクを制御するトルク制御手段と、を備えている。
【0021】
このように、トルク検出器で閉鎖動力循環路におけるトルクを検出し、検出されたトルクに基づいてトルク制御手段でロータリーアクチュエータの出力トルクを制御することにより、閉鎖動力循環路に所望のトルクを安定して負荷することができる。
なお、ロータリーアクチュエータの出力トルクの制御は、ロータリーアクチュエータの回転数の制御、ロータリーアクチュエータのトルク自体の制御を行うことにより実施することができる。
【0022】
本発明の請求項7に係る動力循環式試験装置は、前記ロータリーアクチュエータが、油圧式ロータリーアクチュエータであること、を特徴とする。
【0023】
このように、ロータリーアクチュエータとして油圧式ロータリーアクチュエータを用いることにより、電動式のものと比較して容易に高トルクを出力できる。また、回転軸と共に回転するロータリーアクチュエータへは、回転差吸収機構として回転カップリングを介して動力源となる流体を供給するので、電動式の場合のように給電用スリップリングが不要となり、電磁ノイズの発生をなくすことができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の動力循環式試験装置によれば、運転中にトルクを変化させることができると共に、トルク抜けが抑制され安定してトルクを負荷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係る動力式試験装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る動力式試験装置の供試体取付部付近の拡大断面図である。
【図3】本実施形態に係る動力式試験装置の第1変速ユニット付近の拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係る動力式試験装置の回転カップリングの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明に係る動力循環式試験装置の詳細について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
(全体構成)
図1には、本発明に係る動力循環式試験装置10の全体構成の概略が示されている。動力循環式試験装置10は、機台11に、一対の回転軸(一方側を「低速回転軸22」、他方側を「高速回転軸24」とする)、第1変速ユニット26、第2変速ユニット28、駆動機30、及び、供試体取付部60を備えている。
【0028】
動力循環式試験装置10は、低速回転軸22と高速回転軸24とが、第1変速ユニット26、第2変速ユニット28、及び、供試体取付部60を介して連結されて、閉ループの閉鎖動力循環路12が構成されている。駆動機30から供給された駆動力は、閉鎖動力循環路12内で循環する。このように駆動力を循環させることにより、非循環式の試験機を用いる場合と比較して、エネルギーの消費を抑制することができる。
【0029】
低速回転軸22と高速回転軸24とは、互いに平行になるように配置されており、第1変速ユニット26、及び、第2変速ユニット28により互いに連結されている。低速回転軸22のプーリー23には、駆動機30の出力軸30Aが駆動ベルト31を介して連結されており、駆動機30からの駆動力が低速回転軸22へ供給される。低速回転軸22は、第1変速ユニット26側の第1低速回転部22Aと、第2変速ユニット28側の第2低速回転部22Bを有している。第1低速回転部22Aと第2低速回転部22Bとは、同軸的に配置されており、互いに相対回転可能とされている。
【0030】
なお、本実施形態では、駆動機30は、出力軸30Aが駆動ベルト31を介して低速回転軸22の第1低速回転部22Aに連結されているが、駆動機30を低速回転軸22の軸端に同軸的に配置して、駆動機30の出力軸30Aを低速回転軸22に直接接続する構成にすることもできる。
【0031】
高速回転軸24の第2変速ユニット28側の軸端部は、二重筒構造部25とされており、内軸25Bの外周に外筒25Aが配置されて構成されている。この二重筒構造部25の先端部に、供試体取付部60が設けられている。供試体取付部60の詳細については、後述する。
【0032】
図3にも示すように、第1変速ユニット26は、ギア26A及びギア26Bを備えている。ギア26Aは第1低速部22Aに固定され、ギア26Bは高速回転軸24に固定されている。ギア26Aとギア26Bとは互いに噛み合っており、低速回転軸22の回転がギア26A、26Bのギア比(速度比)で増速されて高速回転軸24へ伝達されるように、低速回転軸22と高速回転軸24とを連結している。第1低速部22Aは、ギア26A近傍で軸受け21により機台11へ支持され、高速回転軸24は、ギア26B近傍で軸受け23により機台11に支持されている。
【0033】
図1に示すように、第2変速ユニット28は、ギア28A及びギア28Bを備えている。ギア28Aは第2低速部22Bに固定され、ギア28Bは高速回転軸24の二重筒構造部25の外筒25Aに固定されている。ギア28Aとギア28Bとは互いに噛み合っており、第2低速部22Bの回転が、第1変速ユニット26と同一の速度比で増速されて高速回転軸24へ伝達されるように、第2低速部22Bと高速回転軸24とを連結している。
【0034】
高速回転軸24は、第1変速ユニット26側から一体的に延びる高速本体軸24Aの先端側(右側)に、第2変速ユニット28側の二重筒構造部25を備えている。図2に示すように、高速本体軸24Aは、二重筒構造部25の内軸25Bと一体的に構成され、ギア28B近傍で軸受け27により機台11へ支持されている。高速本体軸24Aと内軸25Bは、一体的に回転する。外筒25Aには、ギア28Bが固定されており、外筒25Aはギア28Bの近傍で軸受け29により機台11へ支持されている。内軸25Bは、外筒25Aの筒内に挿入され、先端が外筒25Aの端部から突出されている。外筒25Aの内周面と内軸25Bの外周面との間には隙間が構成されており、隙間の両端部に各々プレートベアリング25Cが配置されて内軸25Bは外筒25A内に支持され、外筒25Aと内軸25Bとは、互いに相対回転可能な構成とされている。
【0035】
図3に示されるように、低速回転軸22の第1低速回転部22Aの軸内部には、ロータリーアクチュエータ40が配置されている。ロータリーアクチュエータ40は、油圧式モータを用いて構成され閉鎖動力循環路12にトルクを負荷するものであり、図1に示される機台11上に設置された油圧サーボバルブ42により、出力トルクが制御されている。ロータリーアクチュエータ40は、減速機構50を介して第2低速回転部22Bと連結され、閉鎖循環路12の一部を構成している。ロータリーアクチュエータ40及び減速機構50の詳細については、後述する。
【0036】
図1に示されるように、高速回転軸24の第1変速ユニット26と第2変速ユニット28の間には、トルク検出器14が取り付けられている。トルク検出器14は、閉鎖動力循環路12における高速回転軸24部分のトルクを検出する。トルク検出器14は、コントローラ16と接続されており、検出したトルクについてのトルク信号をコントローラ16へ出力する。
【0037】
コントローラ16は、CPU、ROM、RAMなどを含んで構成されており、入力されたトルク信号に基づいて、ユーザーにより設定された負荷トルクがロータリーアクチュエータ40から出力されるように、油圧サーボバルブ42へ制御信号を出力する。油圧サーボバルブ42は機台11上に設置されており、回転カップリング44を介してロータリーアクチュエータ40と接続されている。油圧サーボバルブ42は、入力された制御信号に基づいて、PWM制御によりロータリーアクチュエータ40へ供給する流体の油圧を制御し、ロータリーアクチュエータ40の出力トルクを制御する。
【0038】
なお、コントローラ16は、負荷トルクの値、負荷トルクの時系列プロファイルなど、各種の情報を記憶するメモリ16Mを有している。また、コントローラ16には、負荷トルクの値、負荷トルク値の時系列プロファイルなど、ユーザーからの各種の情報が入力される入力部18が接続されている。
【0039】
(ロータリーアクチュエータの構成)
本実施形態では、ロータリーアクチュエータ40は、油圧式モータで構成されており、図3に示すように、モータ本体40Aと出力部であるモータ回転軸40Sを有している。ロータリーアクチュエータ40は、第1低速回転部22A内に配置され、モータ回転軸40Sが第1低速回転部22Aの軸心Sと同軸となるように設置されている。第1低速回転部22Aは、機台11上に設置されるハウジング20上に軸受け21により回転可能に支持されている。ロータリーアクチュエータ40のモータ本体40Aは第1低速回転軸22Aの軸内に固定され、第1低速回転軸22Aと共に回転するように構成されている。
【0040】
ロータリーアクチュエータ40には、第1低速回転部22Aが取り付けられた軸端側に、回転差吸収機構としての回転カップリング44が取り付けられている。回転カップリング44は、油圧サーボバルブ42に連結されている。ロータリーアクチュエータ40には、回転カップリング44を介して油圧サーボバルブ42からの流体が供給される。回転カップリング44の詳細については後述する。
【0041】
ロータリーアクチュエータ40のモータ回転軸40Sは、無限循環回転が可能とされている。モータ回転軸40Sには、連結シャフト46が取り付けられている。連結シャフト46は、モータ回転軸40Sに一体的に固定され、かつ、モータ回転軸40Sと同軸的に設けられ、第1低速回転部22Aの内壁とは離間して配置されている。連結シャフト46の先端には、減速機構50が連結されている。これにより、第1低速回転部22Aは、減速機構50を介して第2低速回転部22Bと連結されている。
【0042】
なお、本実施形態では、ロータリーアクチュエータ40を低速回転軸22(第1低速回転部22A)の軸内に配置しているが、ロータリーアクチュエータ40は、低速回転軸22の軸外(外側)に配置してもよい。
【0043】
(減速機構の構成)
次に、減速機構50について説明する。減速機構50としては、種々の動力減速機構(ハーモニックドライブ減速機構、ボール減速機構、サイクロイド減速機構等)を用いることができるが、ここでは一例として、遊星歯車減速機構を用いた例で説明する。
【0044】
減速機構50は、太陽歯車51、遊星歯車52、及び内歯車54を備えている。太陽歯車51は、連結シャフト46に固定されている。内歯車54は第1低速回転部22Aと一体的に形成されており、モータ回転軸40Sと同軸的に、太陽歯車51の径方向外側に配置されている。遊星歯車52は、太陽歯車51と内歯車54の間に配置されている。遊星歯車52は、内歯車54及び太陽歯車51と噛み合っている。遊星歯車52の自転軸52Sは、第2低速回転部22Bに軸支されている。ロータリーアクチュエータ40からの駆動力は、連結シャフト46、太陽歯車51、遊星歯車52を介して第2低速回転部22Bへ伝達される。当該駆動力は、回転速度が大きく減速されると共に、トルクは大幅に増幅されて伝達される。
【0045】
なお、試験運転中は、ロータリーアクチュエータ40のモータ回転軸40Sは、第1低速回転部22Aとの間で相対回転することなく、第1低速回転部22Aに対して停止した状態、すなわち、第1低速回転部22Aと共に回転しつつ、トルクを負荷する。
【0046】
(油圧カップリングの構成)
低速回転軸22と共に回転するロータリーアクチュエータ40へは、回転差吸収機構としての回転カップリング44を介して、流体が供給されている。図4に示すように、回転カップリング44は、回転部72と固定部74を有している。
【0047】
回転部72は、第1低速回転部22Aに対向配置されて第1低速回転部22Aに固定される円板状のローター部72A、及び、ローター部72Aから第1低速部22Aと離れる方向に延びる被支持部72Bを有している。ローター部72Aと被支持部72Bは一体的に構成され、第1低速回転部22Aと共に回転する。回転部72には、第1低速回転部22Aの軸心の延長部分に沿った第1回転流路73Aと、第1回転流路73Aの径方向外側に構成される円筒状の第2回転流路73Bが、回転部72を貫通するように構成されている。第1回転流路73Aは、ロータリーアクチュエータ40の第1流路22Eと連通され、第2回転流路73Bは、ロータリーアクチュエータ40の第2流路22Fと連通されている。第1流路22E及び第2流路22Fの一方は、ロータリーアクチュエータ40内に設けられた不図示の回転子(歯車等)に供給されて、流体の油圧により当該回転子を回転させ、モータ回転軸40Sに回転駆動力を出力する。第1流路22E及び第2流路22Fの他方からは回転子を回転させた後の流体を排出する。
【0048】
固定部74は、支持部74A、及び、供給流路部74Bを有している。支持部74Aは、被支持部72Bの径方向外側に配置され、軸受け71を介して回転部72を回転可能に支持している。供給流路部74Bは、第1低速回転部22Aから遠い側に配置され、第1回転流路73Aと連通される第1供給流路75A、及び、第2回転流路73Bと連通される第2供給流路75Bが構成されている。第1供給流路75A、及び、第2供給流路75Bは、固定部74の半径方向に貫通し、油圧バルブ42と連結されている。
【0049】
回転部72と固定部74の境界部分には、シール部76A、76Bが設けられている。シール部76A、76Bにより、回転部72と固定部74との間が相対回転可能にシールされている。
【0050】
(供試体取付部の構成)
次に、図2に示す供試体取付部60の構成について説明する。供試体取付部60は、プレート基板62、可動支持部64、及び、軸部材66を備えている。軸部材66は、軸心Vが高速回転軸24の軸心T及び低速回転軸22の軸心Sと平行になるように配置され、軸受け65により可動支持部64上で自由に回転可能となるように支持されている。プレート基板62上には、ボールネジ62A、及び、ガイド軸62Bが設けられている。ボールネジ62A、及び、これと平行なガイド軸62Bは、軸部材66の軸方向と直交する方向に沿って配置されている。可動支持部64は、ボールネジ62A及びガイド軸62Bと係合され、ガイド軸62Bに沿って移動可能とされている。
【0051】
プレート基板62は機台11上にボルトB1〜B4を介して取り付けられており、B1を中心にして機台11に対して矢印R方向に回転した位置で取り付けることが可能とされている。これにより、通常は、内軸25B(及び外筒25A)の軸心Tに対して平行に配置される軸部材66を、軸心Tに対して傾け、供試体61A、61Bの回転軸を偏角状態にすることも可能となっている。
【0052】
軸部材66の端部には、供試体取付軸63が取り付けられている。供試体取付軸63は、二重筒構造部25の外筒25A及び内軸25Bと対向し平行となるように配置されている。供試体取付軸63は、軸部材66と一体的に回転するように軸部材66に取り付けられている。供試体取付軸63には、軸方向に並べて2個の供試体61A、61Bを同軸的に取り付け可能とされている。この実施形態では、供試体61A、61Bは、互いに同一寸法であり、供試体取付軸63と一体的に回転するように供試体取付軸63へ固定されている。本実施形態では、供試体61A、61Bは、歯車で構成されている。
【0053】
二重筒構造部25の内軸25Bは、先端部が外筒25Aから突出され、突出された内軸25Bの外周には歯車27Bが同軸的に固定されている。歯車27Bは、一方の供試体61Bと噛合する。二重筒構造部25の外筒25Aの先端外周には、歯車27Bと同一寸法の歯車27Aが固定されている。この実施形態では、歯車27A、27Bは同一寸法とされている。歯車27Aは、他方の供試体61Aと噛合する。これにより、駆動力は、外筒25A、歯車27A、供試体61A、供試体取付軸63、供試体61B、歯車27B、内軸25Bへと順に伝達され、供試体61A、61Bが閉鎖動力循環路12に直列的に介在されるように構成されている。
【0054】
なお、本実施形態では、歯車27A、27B、供試体61A、61Bが歯車である場合について説明しているが、これらの歯車に代えて、外筒25A、内軸25Bにプーリーやスプロケットを取り付け、供試体取付軸63にもプーリーやスプロケットを取り付けることにより、CVT(無段変速機)用のベルトや、チェーンなどを供試体とすることもできる。また、歯車27A、27B、供試体61A、61Bの歯車は、閉鎖動力循環路12を構成する任意の大きさに設定することができる。
【0055】
(作用)
次に、本実施形態の動力循環式試験装置10の作用について説明する。
試験運転中に、ロータリーアクチュエータ40は、第1低速回転部22Aと共に回転しながら、油圧サーボバルブ42から供給される流体を駆動源として駆動され、当該駆動力が連結シャフト46、太陽歯車51、遊星歯車52へ伝達される。そして、遊星歯車52によってトルクが増幅されて第2低速回転部22Bに伝達される。これによって、第1低速回転部22Aと第2低速回転部22Bは、反対方向に相対回転し、閉鎖動力循環路12に試験用負荷トルクが付与される。ロータリーアクチュエータ40の回転力は、遊星歯車52を介して大きく減速されると共に、大幅に増力されるので、加える負荷トルクの微調整が容易である。
【0056】
試験運転中は、駆動機30からの駆動力が、駆動ベルト31を介して第2低速回転部22Bに入力される。第2低速回転部22Bに入力された駆動力は、第2変速ユニット28で増速されて外筒25Aへ伝達される。外筒25Aへ伝達された駆動力は、歯車27Aを介して供試体61Aへ伝達され、供試体取付軸63を経て供試体61Bに伝達される。供試体61Bへ伝達された駆動力は、歯車27Bを介して内軸25B、高速本体軸24Aへ伝達される。高速本体軸24Aへ伝達された駆動力は、第1変速ユニット26で減速されて第1低速回転部22Aへ伝達され、駆動力が閉鎖動力循環路12内で循環される。駆動機30は、閉鎖動力循環路12内での損失分の駆動力を付加するように連続作動される。
【0057】
閉鎖動力循環路12における負荷トルクは、トルク検出器14により検出され、検出したトルクに応じたトルク信号がコントローラ16へ送られる。コントローラ16は、入力されたトルク信号を設定された負荷トルクと比較し、設定負荷トルクと検出負荷トルクに差がある場合には、その差分に相当する制御信号を油圧サーボバルブ42へ送って、フィードバック制御を行う。油圧サーボバルブ42は、入力された制御信号に基づいて、相当する油圧を回転カップリング44を介してロータリーアクチュエータ40へ送り、第1低速部22Aと第2低速部22Bとの相対回転力を調整する。この調整は、トルク検出器14での検出トルクが設定値になる迄くり返される。なお、実際には、ロータリーアクチュエータ40への供給油圧は、PWM制御で調圧される。
【0058】
連続運転中に閉鎖動力循環路12への負荷トルクを変える場合には、入力部18からコントローラ16へ、変更後の負荷トルク値を入力し、変更の指示を行う。これにより、油圧サーボバルブ42が制御され、ロータリーアクチュエータ40での出力トルクが変更される。
【0059】
また、所定の時系列プロファイルで負荷トルクを変更する場合には、負荷トルクの時系列プロファイルを入力部18からコントローラ16へ入力する。入力された負荷トルクの時系列プロファイルは、メモリ16Mに記憶される。コントローラ16は、メモリ16Mに記憶された情報に基づいて油圧サーボバルブ42を制御し、ロータリーアクチュエータ40での出力トルクを時系列プロファイルに沿って変更する。
【0060】
供試体がベルトを用いた無段変速機の場合などであって、供試体内でスリップが生じた場合には、閉鎖動力循環路12内の負荷トルクが一旦減少するが、ロータリーアクチュエータ40は、所定のトルクが閉鎖動力循環路12に負荷されるように制御されているので、閉鎖動力循環路12への負荷トルクは、自動的に回復される。
【0061】
本実施形態の動力循環式試験装置10によれば、ロータリーアクチュエータ40を用いて閉鎖動力循環路12にトルクを負荷しているので、運転中に容易にトルクを変化させることができる。したがって、負荷トルクを変更させたパターン運転や、急加減速運転を想定した試験についても実施することができる。
【0062】
また、ロータリーアクチュエータ40は、無限循環回転可能とされているので、油圧シリンダなどを用いた場合などのようにストロークエンドがない。したがって、ベルトなどの滑りを発生させる可能性のある供試体を用いる場合でも、スリップに伴う変化に無限循環回転で追随してトルクの減少を自動的に回復させることができ、トルク抜けを防止して、安定して閉鎖動力循環路12にトルクを負荷することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、ロータリーアクチュエータ40を、減速機構50を介して低速回転軸22に連結したが、減速機構50は必須構成ではなく、ロータリーアクチュエータ40のモータ回転軸40Sを減速機構50を介することなく低速回転軸22と連結してもよい。特に、本実施形態では、減速機構50を設けることにより、ロータリーアクチュエータ40のトルクを増幅して低速回転軸22に伝達することができるので、ロータリーアクチュエータ40自体での出力トルクは試験機に求められる負荷よりも小さくてもよい。したがって、ロータリーアクチュエータ40の小型化を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、ロータリーアクチュエータ40は、低速回転軸22側に配置され、低速回転軸22にトルクを負荷したが、ロータリーアクチュエータ40は、高速回転軸24側に設けてもよい。特に、本実施形態のように、ロータリーアクチュエータ40を低速回転軸22側に配置した場合には、ロータリーアクチュエータ40自体の回転速度も低速回転軸22に対応した低速とすることができ、ロータリーアクチュエータ40が保護されると共に、接続される回転カップリング44への負荷を軽減することができる。
【0065】
また、本実施形態では、高速回転軸24の軸端に二重筒構造部25を設け、この二重筒構造部25を利用して供試体取付部60を構成したが、当該構成は必須構成ではない。高速回転軸24の第1変速ユニット26と第2変速ユニット28の間に、供試体取付部を設け、この位置に供試体を配置する構成としてもよい。本実施形態のように、軸端に二重筒構造部25を設けて供試体取付部60を構成した場合には、供試体の着脱を容易に行うことができる。また、二重筒構造とすることにより、2本の別軸構造にした場合と比較して、コンパクトな構成にすることができる。
【0066】
また、本実施形態では、供試体取付部60において、二重筒構造部25部分に対向して供試体取付軸63を配置し、この供試体取付軸63と二重筒構造部25部分との距離を可変としているので、供試体に応じて、軸間距離を変更することにより、試験条件を変更したり、異なる供試体についての試験を容易に実施することができる。
【0067】
また、本実施形態では、供試体取付部60において、プレート基板62を機台11に対して面方向(矢印R方向)に回転させることができるので、意図的に供試体の回転軸を偏角状態として、ミスアライメント等の試験を行うこともできる。
【0068】
また、本実施形態では、二重筒構造部25に対向するように配置された供試体取付軸63に供試体を取り付けて歯車の試験を行う例について説明したが、トランスミッションアセンブリなどのユニットを供試体とする場合には、供試体取付軸63を用いることなく、二重筒構造部25へ当該ユニットを接続して試験を行うことができる。例えば、トランスミッションアセンブリを接続する場合には、トランスミッションアセンブリの入力端を外筒25Aと接続し、トランスミッションアセンブリの出力端を回転速度を戻す変速機を介して内軸25Bに接続すればよい。
【0069】
また、本実施形態では、トルク検出器14を設置して、コントローラ16にトルク信号を出力し、閉鎖動力循環路12における負荷トルクをフィードバック制御しているが、当該フィードバック制御は必須ではない。本実施形態のように、負荷トルクを制御する場合には、連続運転中において正確なトルクの負荷を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態では、トルク検出器14を高速回転軸24の中間部分に配置したが、トルク検出器14は、高速回転軸24または低速回転軸22の軸端に配置することもできる。この場合には、供試体取付部60で採用した二重筒構造を他の軸端に追加し、トルク検出器14を取り付けることができる。このように、トルク検出器14を軸端に設置することにより、トルク検出器の着脱が容易になり、メンテナンス性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態では、ロータリーアクチュエータ40として、油圧式モータを用いたが、油圧式モータに代えて他の無限循環回転可能なロータリーアクチュエータ、例えば、電動式モータを用いることもできる。この場合には、回転カップリング44に代えて、回転差吸収機構として、給電用スリップリングを用いる。本実施形態のように、油圧式モータを用いる場合には、電動式モータと比較して容易に高トルクを出力することができる。また、回転軸と共に回転するロータリーアクチュエータへは、油圧カップリングを介して動力源となる流体を供給するので、電動式の場合のように給電用スリップリングが不要となり、電磁ノイズの発生をなくすことができる。
【符号の説明】
【0072】
10 動力循環式試験装置
12 閉鎖動力循環路
14 トルク検出器
16 コントローラ(トルク制御手段)
22 低速回転軸(一対の回転軸)
24 高速回転軸(一対の回転軸)
25A 外筒
25B 内軸
25 二重筒構造(二重筒)
26 第1変速ユニット(変速機構)
28 第2変速ユニット(変速機構)
30 駆動機
40 ロータリーアクチュエータ
42 油圧サーボバルブ
44 回転カップリング(回転差吸収機構)
50 減速機構
60 供試体取付部
61A 供試体
61B 供試体
63 供試体取付軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が循環するように複数の回転軸が連結されて構成された、閉鎖動力循環路と、
前記閉鎖動力循環路の回転軸に駆動力を供給する駆動機と、
前記閉鎖動力循環路の前記回転軸に連結され、前記回転軸にトルクを負荷する無限循環回転可能なロータリーアクチュエータと、
前記回転軸の回転を吸収して前記ロータリーアクチュエータへ駆動力エネルギーを供給する回転差吸収機構と、
前記閉鎖動力循環路に設けられ、試験対象となる供試体を取り付ける供試体取付部と、
を備えた動力循環式試験装置。
【請求項2】
前記ロータリーアクチュエータと前記回転軸との間に、前記ロータリーアクチュエータから出力されるトルクを増幅して前記回転軸に伝達する減速機構を備えたこと、を特徴とする請求項1に記載の動力循環式試験装置。
【請求項3】
前記閉鎖動力循環路は、互いに平行配置され変速機構を介して連結された一対の回転軸を含んで構成され、
前記ロータリーアクチュエータは、前記一対の回転軸のうちの低速回転軸に配置されていること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力循環式試験装置。
【請求項4】
前記回転軸の軸端に構成され、前記閉鎖動力循環路の一部を構成して互いに直列的に接続された二重筒を備え、該二重筒の内軸と外筒との間の駆動系に前記供試体取付部が配置されていること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力循環式試験装置。
【請求項5】
前記供試体取付部は、前記二重筒と平行配置されて供試体が取り付けられる供試体取付軸を備え、
該供試体取付軸は、前記二重筒との間の軸間距離が可変とされていること、
を特徴とする請求項4に記載の動力循環式試験装置。
【請求項6】
前記閉鎖動力循環路におけるトルクを検出するトルク検出器と、
前記トルク検出器で検出されたトルクに基づいて、前記ロータリーアクチュエータの出力トルクを制御するトルク制御手段と、
を備えた請求項1〜5のいずれか1項に記載の動力循環式試験装置。
【請求項7】
前記ロータリーアクチュエータは、油圧式ロータリーアクチュエータであること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の動力循環式試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−7902(P2012−7902A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141544(P2010−141544)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(393015634)株式会社スペースクリエイション (7)
【Fターム(参考)】