説明

動圧流体軸受

【課題】動圧の安定化と圧力向上を図った動圧流体軸受の提供である。
【解決手段】回転軸線方向に傾斜して、即ち螺旋状に形成される傾斜溝において、回転方向に沿う溝の幅寸法を回転軸線方向側の一端側と他端側とでは変えている。一端側12の溝寸法bを小さく、他端側13の溝寸法cを大きくしている。動圧発生力は、F2cで表される。この場合において、溝幅が他端側13から一端側12に向けて徐々に小さく変化していることから、分力F2c方向の溝断面積が徐々に小さくなっている。このためこの分力F2cにより生じる動圧は、溝端部、即ち一端側12に向かうに従って増大され、この勾配は従来の溝構造よりも急になる。この現象は、流体学上のレイノルズの式が適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受の動圧発生用溝形状に関する。更に詳しくは、ハードディスク用のスピンドルモータに使用されているヘリングボーンタイプの動圧発生用溝形状の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等のディスクドライブに使用されるスピンドルモータは、近年その軸受部に高精度の動圧軸受が採用されている。このとき発生する動圧は軸体等の回転体の外周部から回転体の中心に向かって押圧する圧力である。ヘリングボーンタイプの動圧軸受は、へリングボーン形状において、回転体の回転に伴い、動圧溝部であるヘリングボーン形状の回転動作でポンピングを行い潤滑流体(気体、液体)に動圧を発生させ、回転体を支承させるものである。軸受はスリーブ又は軸体が固定受け部に対し相対回転して回転可能に支承する構成のもので、一般にラジアル部又はラジアル部とスラスト部から構成されている。
【0003】
この軸受はスリーブ又は軸体の回転部分にポンピング動作を行わせるための溝が設けられている。特にラジアル軸受はヘリングボーン形状のものが広く使用されている。この溝は非常に小さく、かつ浅い溝で数も多いことから種々の成形方法が提案されているが、形状は回転方向に沿って概ね、魚の骨の配置に似ており「V字状」又は「ハ字状」と定まっていて、溝幅及び溝深さが一定のものである。このヘリングボーン形状の動圧軸受は種々提案され、例えば記録ディスクの駆動装置等に適用したものが知られている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2004−19755号公報
【特許文献2】特開2001−74040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、へリングボーン形状の動圧軸受は、それなりに定着して効果のある軸受であるが、軸受に要求される全ての条件を満たすものではない。従来のへリングボーン形状は溝幅が平行であり、溝深さも一定であることから、溝位置にかかわらず溝断面積は溝長さに沿って一定である。このため動圧は、溝の外側から溝の中央側に向かうに従ってほぼ直線的に圧力が上昇する傾向がある。
【0005】
そして、軸受に負荷が作用したときに変位が生じるが、変位を元に戻す力が小さく、又その方向も位相が大きく、そのために回転精度を維持することができないこともあり、ときには一端に集中する傾向がある。このため回転中に変動要素があるとスムーズに回転状態を維持できないこともあって、ときには振れ回り等の不安定な現象もあり、バランスのよい軸受とは言い難い点があった。より安定化をはかるには、回転体への押圧力を高めると同時に動圧の圧力分布範囲を広くすることが望まれる。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点を解決するために想起されたもので、下記の目的を達成する。
本発明の目的は、安定した支承状態の維持、動圧力の向上した動圧軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1の動圧流体軸受は、円筒状の軸又はスリーブである回転体を回転軸線と直交する面で切断したとき、前記周面に現れる外周線に沿って両側に複数の動圧発生用溝群が配置されたヘリングボーン形状のラジアル動圧軸受であって、流体を保持する前記動圧発生用溝は、前記回転軸線の方向に所定角度傾斜して前記周面に配置され、前記回転軸線方向を直角に横切る方向の前記動圧発生用溝の溝断面積は、前記回転軸線方向の中央側(b)が小さく外側(c)が大きく設定されたものであることを特徴とする。
【0008】
本発明2の動圧流体軸受は、本発明1に記載された動圧流体軸受において、前記溝断面積の変化は、前記動圧発生用溝の全長に亘って連続的に変化させたものであることを特徴とする。
【0009】
本発明3の動圧流体軸受は、本発明1又は2に記載された動圧流体軸受において、前記溝断面積の変化は、前記動圧発生用溝の前記周面の幅寸法により変化させたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明4の動圧流体軸受は、本発明1又は2に記載された動圧流体軸受において、前記溝断面積の変化は、前記動圧発生用溝の前記周面からの深さ寸法により変化させたものであることを特徴とする。
【0011】
本発明5の動圧流体軸受は、本発明1又は2に記載された動圧流体軸受において、前記動圧発生用溝の縁形状は、前記周面を平面に展開したときに、直線状に前記回転軸線方向に所定角度傾斜して設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明6の動圧流体軸受は、本発明1又は2に記載された動圧流体軸受において、前記動圧発生用溝の溝形状は、前記周面を平面に展開したときに、曲線状に所定角度傾斜して設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明7の動圧流体軸受は、本発明1又は2に記載された動圧流体軸受において、前記動圧発生用溝は、複数個の群が前記外周線の両側に対称的に配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明8の動圧流体軸受は、本発明7に記載された動圧流体軸受において、前記動圧発生用溝は、隣接部の溝の前記中央側が接して互いに連通して配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明9の動圧流体軸受は、本発明7に記載された動圧流体軸受において、前記動圧発生用溝は、隣接部の溝の前記中央側が離間して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の動圧軸受は、溝の幅又は深さを徐々に変化させたもので、ポンピングされた潤滑油は、溝の外側(外端部)より中央側に向かうに従って徐々に発生圧力が増大するとともに、一方では圧力の漏洩が減少し、軸受部全体の圧力の積分値が大きく得られる。更に負荷によって偏心を生じた場合に変位を元に戻す力が大きく、又その方向も負荷に向かうような位相に近づく。このような作用によって回転体を一層安定して回転させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明を適用したHDD用駆動モータ1(以下「駆動モータ」と称する。)の断面を示している。但し、図1の動圧軸受部のヘリングボーン形状3は、溝幅寸法が溝端で異なる形状のものであるが、斜線で簡略的に表示している。ヘリングボーンの形状の詳細は後述する(図2及び図3参照)。本実施の形態の動圧流体軸受2は、回転体(軸体)の外周面の斜線部に形成されている。本実施の形態の動圧流体軸受2の配置は、図形的に魚の骨に似ているのでヘリングボーン形状3と呼ばれている構成である。このヘリングボーン形状3は回転体に形成され、具体的には軸体4の外周面又はスリーブの内周面に形成される。軸受は、一方が回転体であれば、他方は固定部となる。
【0018】
通常このヘリングボーン形状3の溝は、複数個形成されており群を構成し回転軸線方向に沿って離間し2箇所に設けられる。しかし小型モータ等に適用する場合は、1箇所に設けられる。この動圧流体軸受2を適用した駆動モータ1は、固定部と回転部から構成され、図1の構成は回転部が軸体4と固定されている。従って、この軸体4と一体になっている回転部の外周面にヘリングボーン形状3の溝が形成されている。以降、実施の形態は軸側が回転する側として、即ちヘリングボーン形状3が軸体4側に設けられることで説明する。この軸体4と一体の回転部にはロータマグネット5(リング状磁石)が備え付けられていて、ディスクが取り付けられて回転する。この取付構造とは逆で軸体が固定で、軸体を受けるスリーブ側が回転する場合でも同様である(図示せず)。この場合は、スリーブの内径部にヘリングボーン形状が設けられることになる。
【0019】
軸体4側が回転する本実施の形態において、固定部には軸体4のロータマグネット5に対向してステータコアとこのステータコアに巻回されたコイルのいわゆるステータ6が設けられている。コイル6aには図示しない制御回路から駆動電流が流されると、ステータコアとロータマグネット5との間に磁力が発生し回転駆動力が生じる。軸体4の回転により、この軸体4に設けられた動圧溝部のへリングボーン形状3の動圧溝と、これに対面する平滑面の相対的回転動作で溝に保持された潤滑流体に動圧が発生する。潤滑流体は、気体、あるいは油等の液体が対象である。
【0020】
どちらを選択するかは動圧軸受の構成によって決定される。本実施の形態においては軸体4に本発明になるヘリングボーン形状3が形成されている。この動圧は軸体4の回転部を回転中心方向に押圧する力となる。全周から動圧が軸体4に加えられ、軸体4は固定側のスリーブに対し安定的に回転支承される。次にこの軸体4とスリーブとの関係をラジアル動圧軸受としてその詳細を説明する。図2、図3は、従来から一般的に採用されているヘリングボーン形状7の動圧発生用溝の形状を示すものである。一般にこのヘリングボーン形状7は、V字状又はハ字状に対称的に溝群として構成される。図2に示すものは1ヶ所に設けた例であり軸体8の長さが短い場合に有効である。軸体8が長い場合は図3に示すように軸体8の両側2ヶ所に設けられる。
【0021】
図に示すヘリングボーン形状7は模式的に展開図として示しており、以降説明する図においても同様に展開図である。この溝は、展開した状態では直線状であるが、回転軸線方向に螺旋状に傾斜して配置されている。又、説明は1つの溝において分析した説明になっているが、実際の動圧軸受における形状は2点鎖線に示すように複数の溝が回転軸線方向に沿って対称に配置されている。図4に示すように、従来構成の溝幅は、2つの溝側壁が平行になっている。従って、溝幅寸法aは一端側9と他端側10とは同寸である。
【0022】
この一端側と他端側については、以降、前記溝が回転軸線方向に沿って配置される前記へリングボーン形状7の中央側(イ)を一端側とし、外側(ロ)を他端側として説明する。又、図示していないが溝深さも溝底面と回転面とが平行になっている。へリングボーン形状7に伴う動圧は次のように発生する。図4に示すように、軸体あるいはこれに対面する平滑面の相対的回転によって潤滑流体が回転方向に導かれるが、溝があるためこの溝形状の影響を受けて潤滑流体は作用する。
【0023】
仮に潤滑流体が矢印に示す方向に流れるとする。以下の説明も同様である。図に示すように潤滑流体の流れ方向にF1aの力で溝壁に作用すると仮定すると、溝壁は傾斜面になっているので、溝壁に対しては図に示すように分力F1b、及びF1cが生じ、溝壁の法線方向にF1bの力が、溝壁面に沿ってF1cの力が発生する。軸体8は円周方向に回転しているので、潤滑流体がこの方向に流れようとする力になり、潤滑流体はF1cの分力方向に流れる。これがいわゆる動圧軸受におけるポンピング作用の原理である。潤滑流体に生じた圧力はすきま各部の壁面に伝播されて軸体を軸受のスリーブの内周孔内で浮き上がらせる力となる。
【0024】
この動圧は浮き上がりに伴ない回転面にも達するので、軸体をヘリングボーン形状幅に沿って、回転円環状に支持することになる。溝幅と回転面(丘部とも称する)幅との比を最適値にする方策も検討されているが、本発明の趣旨と異なるので説明は省く。このヘリングボーン形状は前述のとおり回転円周方向に沿って全周に亘って複数個形成されている。
【0025】
従って、軸体の回転動作での浮き上がり力は連続的に発生することになる。圧力は軸線に向かうに従ってほぼ直線的に上昇し、一端側9にて最大値となる。しかし圧力が上昇するとともに力学的バランス条件も変化するが、従来の構造ではその変化に追随できず、例えば圧力の漏洩を防止する作用が劣り十分な動圧を得られない。又、微細加工を伴うので、へリングボーン形状7の加工形状が一定しないことも多いことから、端部に集中する動圧が安定しないおそれもある。
【0026】
次に、本実施の形態のヘリングボーン形状について説明する。図5は、その説明図である。この例は、回転軸線方向に傾斜して、即ち螺旋状に形成される傾斜溝において、回転方向に沿う溝の幅寸法を回転軸線方向側の一端側と他端側とでは変えている。即ち、一端側12の溝寸法bを小さく、他端側13の溝寸法cを大きくしている。図6は図5の変形例であるが、図に示すように、へリングボーン形状14の一端側15の溝寸法bが0の場合(先端で溝幅が実質的にない状態。)、即ち先尖り状の場合である。他端側16の溝寸法cは変わらない。図6の例は、対称的に隣接している溝(二点鎖線)と中央側が相通している場合を示しているが、この場合溝相互の潤滑流体の移動はない。
【0027】
図5及び図6に示す溝形状においても、動圧発生についての分力は前述と同じである。即ち、本実施の形態において動圧発生力は、F2cで表される。この場合において、溝幅が他端側13から一端側12に向けて徐々に小さく変化していることから、分力F2c方向の溝断面積が徐々に小さくなっている。このためこの分力F2cにより生じる動圧は、溝端部即ち図5においては一端側12、図6においては一端側15に向かうに従って増大され、この勾配は従来の溝構造よりも急になる。この現象は、流体学上のレイノルズの式が適用できる。
【0028】
レイノルズの式によると、壁面の運動方向に向かって溝断面積が小さくなると、流体潤滑圧力が大きくなる、という理論に基づいている。図5、及び図6の場合は、溝は回転軸線方向に所定角度傾斜して(螺旋状)回転体の回転周面に設けられている。その溝の前記傾斜角方向を直角に横切る溝断面積、即ち、F2cに沿う方向の傾斜方向を直角に横切る溝断面積は、その位置で異なる。即ち、対称に配置されたヘリングボーン形状の溝寸法が、回転軸線方向において、中央側が小さく外側が大きく設定された溝となり、この溝間で連続して変化するように形成される。
【0029】
つまり、溝幅が外側から中央側に寄るに従って小さくすることで、外側の断面積は中央側に寄るに従い連続的に小さく変化していくことになる。図5及び図6の場合は、従来の形状に比し、その圧力分布が広がることになり、従来のものに比してより潤滑性能を高めることになる。一方、圧力の流路が減少するので圧力の漏洩が減少する。これらの相乗効果によって軸受部の圧力の積分値が増大する。このことは、結果的に、軸受として負荷を支承する力が大きくなることを意味する。
【0030】
次に、図7により溝深さが変化する形状の場合を説明する。本実施の形態の形状は、回転面17に対し前述の図5に対応するヘリングボーン形状11について、溝幅の小さい一端側12の溝深さeを浅く、他端側13の溝深さfを深くした寸法にしている。このことは、前述の場合と同様に、溝深さが他端側13から一端側12に向けて徐々に小さく変化していることから、分力F2c方向の溝断面積も徐々に小さくなっている。
【0031】
このためこの分力F2cにより生じる動圧は、溝端部即ち一端側12に向かうに従って増大され、この勾配は従来の溝構造よりも急になる。この場合も溝断面積が外側から中央側に寄るに従って小さくなり、F2cに沿う方向の傾斜方向を直角に横切る溝断面積は、対称に配置されたヘリングボーン形状の溝断面積が回転軸線方向で中央側が小さく外側が大きく設定されており、このために溝断面積は、連続して変化するように形成される。前述同様に、その圧力分布が広がることになり、従来に比し潤滑圧力を高めることになる。本実施の形態においては、溝幅と溝深さを同時に変えているので相乗効果をなしている。
【0032】
一方、圧力の流路が減少するので圧力の漏洩が減少する。これらの相乗効果によって軸受部の圧力の積分値が増大する。このことは、結果的に、軸受として負荷を支承する力が大きくなることを意味する。更に、本実施の形態においては、回転する軸体側に溝を設けた構成例になっており、溝低部における回転中心O位置からの寸法が異なる。即ち、図に示すように溝深さの浅い一端側12の溝底径(半径)gが溝深さの深い他端側13の溝底径(半径)hより大きい。このため溝底部の回転周速が異なり、浅い方の一端側12の溝底部の回転周速が大きい。従って、溝底の潤滑油は矢印で示すように他端側13から一端側12に移動する力が加わる。このように、溝寸法を幅と深さを変える形状としたことにより、寸法の小さい一端側12に積分的に動圧が高まる。
【0033】
この溝は回転方向に沿い複数個形成して図8に示すように溝群18をなしている。この図8のへリングボーン形状は図6に対応する。図8のへリングボーン形状の向きは図5、図6の場合と逆向きに表示されているが、実質的にも変わらない。この溝群18は回転軸線方向に沿って対向し、同じ構成のものを隣接させている。このようにすることで、寸法の小さい一端側12に高められる動圧を、対向する反対側においては反対向きに動圧で高められる。これにより動圧は寸法の小さい一端側12に両方から寄せられ同一箇所でバランスがとれるのである。
【0034】
このことは従来構成も同様であるが、前述したとおり本発明の場合とは圧力分布が異なっている。図8に示す溝群18は、全く同じ形状のものを対称させた構成になっている。しかしながら、図示しないが回転軸線方向の溝群幅が対称同士で、一方が狭く、他方が広い場合もある。
【0035】
本実施の形態の場合は、従来のものより広がりのある圧力分布となり回転軸を安定して支持することになる。本発明を種々の形態で示したのが図9〜図12である。図9、図10は隣接する一端側12を相通させた場合で、図9は本発明構成を軸体19に単体群として適用した例で、図10は図9の構成を軸体19の回転軸線方向に間隔を置いて配置した例である。図11、図12は隣接する一端側12を離間させた場合で、図11は本発明構成を軸体19に単体群として適用した例で、図12は図11の構成を軸体19の回転軸線方向に間隔を置いて配置した例である。へリングボーン形状幅寸法iと離間寸法jは、図8に示す溝寸法cと回転面17幅寸法kとの比の最適値も考慮して決定される。
【0036】
この軸体19を支承する状態を動圧20の分布で示したのが図13である。軸方向の圧力分布の積分値が大きくなると、軸体19が偏心したとき軸体19を押し戻そうとする力が働き、又動圧自体も従来形状のへリングボーン形状より大きい動圧を得られる。更に、圧力分布を積分したベクトルは従来の溝構造よりも負荷を押し戻す方向に近い位相角となる。従来との比較で、軸方向に沿っての圧力変化の状態を論理的に示したのが図14である。
【0037】
この図は、回転軸線方向に沿っての動圧分布を示している。縦軸が動圧を、横軸が軸線方向の位置を示す。それぞれのへリングボーン溝位置に対応したsに応じたカーブ構成を示していて、従来のへリングボーン形状においては、pのカーブを示す。前述のとおり動圧は中央部で最大値となる傾向になる。一端部側9が急激に圧力変化している。これに対し、本発明の実施の形態の形状の場合は、qのカーブに示す。
【0038】
動圧は前述のように積分されるので、一端側12近傍の圧力は徐々に変化し滑らかな曲線を描き圧力が高められる。軸体19に対しては圧力分布の広い範囲で支承することになる。しかも従来のものより大きな動圧となることが可能である。このため、回転中の微妙な変動を吸収して、振れ回り等の発生のおそれもなく安定的な回転動作が得られる。この結果、本発明の動圧軸受は剛性の高い軸受となる。
【0039】
次に他の実施の形態について説明する。前述までの説明は、溝の傾斜面は直線状、即ちスパイラルに近い形状の溝として説明しているが、図15はへリングボーン形状21を、展開図において曲線とした場合である。この場合は小さい寸法の一端側22と大きい寸法の他端側23との間の溝壁は連続する曲線である。この場合の動圧の分力は図16に示すように一定ではなく変化している。図に示すように曲線は他端側23から一端側22に対して徐々に緩やかになっている。この曲線の分力はF3c、F4c、F5cの順に一端側22に向けて小さくなっている。
【0040】
この場合は、圧力勾配が大きい状態から緩やかになるので、前述の直線状で変化するのに比較して圧力分布を緩やかに変化させることになる。このように曲線状にすることによって、中央側の潤滑流体の圧力は軸線方向の他端に漏洩することが拒まれるのでより高い圧力分布が得られることになる。この部分を設けると、動圧部分の動圧発生状態を安定させるのに寄与する可能性がある。又、この曲線形状のものを溝群として構成することは、前述同様であるので、その説明は省略する。更に、へリングボーン形状の群の組み合わせも可能である。例えば、図17に示すのは、2つのへリングボーン形状の群構成の例である。XとYの2つの溝群で構成される変形例である。
【0041】
要旨でないので説明は省略しているが、潤滑流体の供給は、別に設けられたタンクからポンプを介して潤滑油を供給させる方式でもよく、潤滑油を含有するスリーブ体から自ら潤滑油を供給する方式のものであってもよい。又、加工方法も要旨でないので詳細説明はしていないが、エッチング、プレス、成形、焼結、切削、サンドブラスト等最適な方法が適用される。加工方法によっては、例えば軸体に溝を設ける場合、前述した溝の一方が開放された形状になれば、この場合は開放側に別部品を添えて溝を閉じるようにして最終的に前述した溝形状にすることもある。
【0042】
以上、種々の例について説明したが、本発明は、本実施の形態に限定されないことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明を適用した駆動モータの断面図である。
【図2】図2は、従来のへリングボーン形状の軸受断面図で、単体受け状態を模式的に示す説明図である。
【図3】図3は、従来のへリングボーン形状の軸受断面図で、2つの受け状態を模式的に示す説明図である。
【図4】図4は、従来のへリングボーン形状における動圧分力構成を示す説明図である。
【図5】図5は、本発明のへリングボーン形状における動圧分力構成を示す説明図である。
【図6】図6は、図5における一端が先尖の場合の構成を示す説明図である。
【図7】図7は、図5における構成の溝深さについての説明図である。
【図8】図8は、本発明に関わるへリングボーン形状の溝群構成での説明図である。
【図9】図9は、軸体上に設置されるへリングボーン形状の溝群で一端が相通する単体の場合の構成を示す説明図である。
【図10】図10は、軸体上に設置されるへリングボーン形状の溝群で一端が相通する2ヶ所設置の場合の構成を示す説明図である。
【図11】図11は、軸体上に設置されるへリングボーン形状の溝群で一端が離間する単体の場合の構成を示す説明図である。
【図12】図12は、軸体上に設置されるへリングボーン形状の溝群で一端が離間する2ヶ所設置の場合の構成を示す説明図である。
【図13】図13は、回転体を支承する状態の動圧分布を示す説明図である。
【図14】図14は、軸方向に沿っての圧力変化の状態について、従来と本発明の場合との比較を示す説明図である。
【図15】図15は、他の実施の形態におけるへリングボーン形状を示す説明図である。
【図16】図16は、他の実施の形態におけるへリングボーン形状の動圧分力構成を示す説明図である。
【図17】図17は、他の実施の形態におけるへリングボーン形状で2つの群構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1…駆動モータ
2…動圧流体軸受
3…へリングボーン形状
4…軸体
9、12、15,22…一端側
10,13、16、23…他端側
17…回転面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の軸又はスリーブである回転体を回転軸線と直交する面で切断したとき、前記周面に現れる外周線に沿って両側に複数の動圧発生用溝群が配置されたヘリングボーン形状のラジアル動圧軸受であって、
流体を保持する前記動圧発生用溝は、前記回転軸線の方向に所定角度傾斜して前記周面に配置され、
前記回転軸線方向を直角に横切る方向の前記動圧発生用溝の溝断面積は、前記回転軸線方向の中央側(b)が小さく外側(c)が大きく設定されたものである
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項2】
請求項1に記載された動圧流体軸受において、
前記溝断面積の変化は、前記動圧発生用溝の全長に亘って連続的に変化させたものである
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された動圧流体軸受において、
前記溝断面積の変化は、前記動圧発生用溝の前記周面の幅寸法により変化させたものである
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された動圧流体軸受において、
前記溝断面積の変化は、前記動圧発生用溝の前記周面からの深さ寸法により変化させたものである
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された動圧流体軸受において、
前記動圧発生用溝の縁形状は、前記周面を平面に展開したときに、直線状に前記回転軸線方向に所定角度傾斜して設けられている
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項6】
請求項1又は2に記載された動圧流体軸受において、
前記動圧発生用溝の溝形状は、前記周面を平面に展開したときに、曲線状に所定角度傾斜して設けられている
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項7】
請求項1又は2に記載された動圧流体軸受において、
前記動圧発生用溝は、複数個の群が前記外周線の両側に対称的に配置されている
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項8】
請求項7に記載された動圧流体軸受において、
前記動圧発生用溝は、隣接部の溝の前記中央側が接して互いに連通して配置されている
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項9】
請求項7に記載された動圧流体軸受において、
前記動圧発生用溝は、隣接部の溝の前記中央側が離間して配置されている
ことを特徴とする動圧流体軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−90524(P2006−90524A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280146(P2004−280146)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(594167141)株式会社ニッセー (13)
【Fターム(参考)】