説明

動翼保持構造

【課題】軽量で強度に優れた動翼保持構造を提供する。
【解決手段】本発明の動翼保持構造は、動翼1のダブテール11をロータディスク2の周面に形成された溝部21に挿入し、溝部21の両端部を塞ぐことにより動翼1をロータディスク2に固定する動翼保持構造であって、溝部21の一端側に配置される動翼保持部材3を有し、動翼保持部材3は、ダブテール11との接触により形成される剪断力を受ける面にダブテール11と動翼保持部材3との接触により生じる曲げモーメントに基づいて形成された凸部35を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動翼保持構造に関し、特に、耐久性に優れた動翼保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
動翼を有する流体機械には、例えば、コンプレッサやタービン等が存在し、これらの流体機械は、タービンエンジンの主たる構成要素として使用されている。タービンエンジンは、コンプレッサ、燃焼器及びタービンの構成によって、ターボジェットエンジン、ターボファンエンジン、ターボプロップエンジン、ターボシャフトエンジン等に分類される。これらのタービンエンジンのファン、コンプレッサ及びタービンに使用される動翼は、一般に、流体を送る翼形部と、該翼形部から周方向に延設され流路面を構成するプラットホームと、該プラットホームの下方に配置され端部に膨らんだ部分(膨出部)が形成されたダブテールと、を有する。また、かかるファン、コンプレッサ及びタービンは、回転軸に接続されたロータディスクを有し、該ロータディスクは周面に略軸方向に形成された複数の溝部を有する。該溝部は、周面の開口部よりも径方向内方に向かって広くなるように形成されている。したがって、ロータディスクの溝部に動翼のダブテールを挿入すると、ロータディスクの開口部にダブテールの膨出部が係止され、動翼は径方向に拘束される(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
また、ロータディスクの溝部にダブテールが挿入された動翼は、軸方向にも拘束されなければならない。特許文献1〜特許文献3に記載された動翼保持構造は、溝部の一端側をロータディスクに略径方向に形成された保持溝に挿入される板状の動翼保持部材(例えば、リテーナ、保持板、キー等)により塞ぎ、溝部の他端側をロータディスクに隣接して固定される環状のリング部材(例えば、コーンやプレート等)により塞いでいる。ここで、動翼保持部材は、ダブテールの押さえ面を構成する本体部と、本体部の背面(押さえ面の裏側)に配置されたフランジ部と、を有しており、特許文献1及び特許文献2に記載された動翼保持部材では、フランジ部にボルト孔が形成され、ダブテールと溝部の隙間に挿入されるスペーサや板バネとボルト・ナット等の締結具により連結されて位置決めされている。また、特許文献3に記載された動翼保持部材では、フランジ部に薄肉部が形成され、ディスクに連結される留め部材(タペット)の薄肉部が係合されて位置決めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−195103号公報
【特許文献2】特開平6−33702号公報
【特許文献3】特開昭59−101598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したタービンエンジンは、鳥等の異物を吸い込む場合があり、その衝撃に耐えられるように設計されている。特に、動翼が1枚破損した場合であっても動力を供給できるか否かを確認するための試験をブレードアウト試験と称している。例えば、ターボファンエンジンのファンに特許文献1〜特許文献3に記載された動翼保持構造を採用した場合、上流の空気取入口側に動翼保持部材が配置されることが多い。また、ブレードアウト試験において、飛散した動翼が隣接した正常な動翼と接触した場合、流体を下流へ送るための翼形部の形状から、固定された正常な動翼は上流側に大きな荷重を受けることとなる。この現象は、鳥等の異物を吸い込んだ場合も同様である。したがって、異物の吸い込みに強いエンジンを設計したり、ブレードアウト試験をパスしたりするためには、動翼保持部材の強度が重要になってくる。
【0006】
ところが、上述した特許文献1や特許文献2に記載された動翼保持部材は、本体部の両端がロータディスクの保持溝に挿入されて支持されているため、ダブテールとの接触により本体部が上流側に大きな荷重を受けた場合に、剪断力だけでなく、ロータディスクからの反力による曲げモーメントも生じることとなり、強度的に弱い部分となり易い。したがって、動翼保持部材を厚くしなければならず、そのため重量が大きくなってしまう、動翼保持部材を厚くするための空間の確保が難しい形状には適用できない等の問題がある。
【0007】
また、特許文献3に記載された動翼保持部材は、ダブテールに形成されたヒールがディスクの上流側に支承された動翼を保持していることから、異物吸い込み時やブレードアウト試験時にはヒールと動翼保持部材とが接触することとなり、かかる接触部に衝撃力が集中し易いため、上述した問題がより顕著となってしまう。
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、軽量で強度に優れた動翼保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、動翼のダブテールをロータディスクの周面に形成された溝部に挿入し、該溝部の両端部を塞ぐことにより前記動翼を前記ロータディスクに固定する動翼保持構造であって、前記溝部の少なくとも一端側に配置される動翼保持部材を有し、該動翼保持部材は、前記ダブテールとの接触により形成される剪断力を受ける面に前記ダブテールと前記動翼保持部材との接触により生じる曲げモーメントに基づいて形成された凸部を有する、ことを特徴とする動翼保持構造が提供される。ここで、前記曲げモーメントは、例えば、異物の吸い込み又は飛散した動翼の衝突により生ずるものである。
【0009】
前記動翼保持部材は、前記ロータディスクの略径方向に形成された保持溝に挿入され前記ダブテールの押さえ面を構成する本体部と、該本体部の背面に配置されるとともに前記スペーサとの結合部を有するフランジ部と、を備えていることが好ましい。
また、前記フランジ部の略周方向の幅が前記ダブテールの略周方向の幅よりも大きく形成することにより前記凸部が形成されていてもよいし、前記本体部が前記保持溝よりも径方向外方に突出した突出部を有し該突出部に補強リブを形成することにより前記凸部が形成されていてもよい。
【0010】
また、前記動翼保持構造は、前記ダブテールと前記ロータディスクの隙間に挿入されるとともに前記動翼保持部材と結合されるスペーサを有していてもよいし、前記溝部の他端側に前記ロータディスクに固定される環状のリング部材が配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明に係る動翼保持構造によれば、ダブテールと動翼保持部材との接触により形成される剪断力を受ける面に凸部を形成したことにより、動翼保持部材の断面2次モーメントを大きくすることができ、ブレードアウト試験や異物の吸い込み等により動翼保持部材に生じる曲げモーメントに対して動翼保持部材を曲がり難くすることができ、動翼保持構造の軽量化及び強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る動翼保持構造の一実施形態を示す図であり、(A)は外観図、(B)は動翼保持部材の外観図、である。
【図2】動翼保持構造の断面図を示す図であり、(A)は図1に示した動翼保持構造の略周方向平面における断面図、(B)は図2(A)における動翼保持部材のZ−Z断面図、(C)は従来の動翼保持構造の略周方向平面における断面図、(B)は図2(C)における動翼保持部材のZ−Z断面図、である。
【図3】本発明に係る動翼保持構造の全体構成を示す図である。
【図4】動翼保持部材の変形例を示す図であり、(A)は動翼保持構造の略周方向平面における断面図、(B)は図4(A)における動翼保持部材のZ−Z断面図、である。
【図5】本発明に係る動翼保持構造を備えたターボファンエンジンを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図1〜図5を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る動翼保持構造の一実施形態を示す図であり、(A)は外観図、(B)は動翼保持部材の外観図、である。また、図2は、動翼保持構造の断面図を示す図であり、(A)は図1に示した動翼保持構造の略周方向平面における断面図、(B)は図2(A)における動翼保持部材のZ−Z断面図、(C)は従来の動翼保持構造の略周方向平面における断面図、(B)は図2(C)における動翼保持部材のZ−Z断面図、である。
【0014】
図1及び図2に示した動翼保持構造は、動翼1のダブテール11をロータディスク2の周面に形成された溝部21に挿入し、溝部21の両端部を塞ぐことにより動翼1をロータディスク2に固定する動翼保持構造であって、溝部21の一端側に配置される動翼保持部材3を有し、動翼保持部材3は、ダブテール11との接触により形成される剪断力を受ける面にダブテール11と動翼保持部材3との接触により生じる曲げモーメントに基づいて形成された凸部35(図2参照)を有する。ここで、動翼保持部材3は、ロータディスク2の略径方向に形成された保持溝25に挿入されダブテール11の押さえ面を構成する本体部31と、本体部31の背面に配置されるとともにスペーサ4との結合部(ボルト孔34)を有するフランジ部32と、を備えており、フランジ部32の略周方向の幅Fxがダブテール11の略周方向の幅Dxよりも大きく形成することにより凸部35が形成されている。なお、本発明において、略周方向とは、ロータディスク2の周面に沿った方向又はその接線方向を意味するものとする。
【0015】
前記動翼1は、ターボジェットエンジン、ターボファンエンジン、ターボプロップエンジン、ターボシャフトエンジン等のタービンエンジンを構成するコンプレッサ又はタービンに使用される動翼1であり、流体を送る翼形部12と、翼形部12から周方向に延設され流路面を構成するプラットホーム13と、プラットホーム13の下方に配置され端部に膨らんだ部分(膨出部14)が形成されたダブテール11と、を有する。
【0016】
前記ロータディスク2は、コンプレッサ又はタービンの回転軸に接続されており、ロータディスク2の周面には軸方向に複数の溝部21が形成されている。溝部21は、周面の開口部22よりも内側が広くなるように形成されている。したがって、溝部21の間に位置し、溝部21の側面を構成する柱状部23は略T字状の断面を有する。かかる溝部21に動翼1のダブテール11を挿入すると、ダブテール11の膨出部14が係止され、動翼1は径方向に拘束される。なお、説明の便宜上、図1(A)において、ダブテール11の膨出部14は点線で図示している。
【0017】
また、ロータディスク2の柱状部23は、ロータディスク2の軸方向に突出した突出部24を有し、突出部24の溝部21と隣接した部分に略径方向に形成された保持溝25が形成されている。そして、隣接した突出部24に形成された保持溝25と対になって動翼保持部材3を挿入可能なスロット部26を形成している。かかるスロット部26は、柱状部23が略T字状の断面を有することから、ここでは径方向外方に向かって間隔が狭くなるように形成されている。
【0018】
前記動翼保持部材3は、図1(A)に示したように、一対の保持溝25(すなわち、スロット部26)に挿入されダブテール11の端面を押えるプレート状の部材であり、リテーナや保持板と称されることもある。図1(B)に示したように、動翼保持部材3は本体部31とフランジ部32を有し、本体部31は、スロット部26に挿入可能な形状をなしている。例えば、本体部31は、スロット部26が径方向外方に向かって間隔が狭くなるように形成されている場合には、上部の間隔が狭くなるように両肩部にテーパ部33が形成される。なお、本体部31の外形はスロット部26の形状に適合するように形成されるものであり、図示した形状に限定されるものではなく、長方形状や半円形状であってもよい。
【0019】
また、フランジ部32は、本体部31の背面(押さえ面の裏側)の下部に略垂直に配置されている。かかるフランジ部32には、ボルト孔34が形成されており、ダブテール11と溝部21の隙間に挿入されるスペーサ4とボルト・ナット等の締結具5により連結できるように構成されている。なお、説明の便宜上、図1(A)において、締結具5は図を省略してある。
【0020】
そして、フランジ部32の略周方向の幅をFx、ダブテール11(膨出部14)の略周方向の幅をDxとすれば、図2(A)に示すように、幅Fx>幅Dxの関係を有している。したがって、図2(A)におけるZ−Z断面は、図2(B)に示すように、略L字形状をなす。ここで、Z−Z断面は、ダブテール11(膨出部14)の側端部が本体部31の押さえ面と接触する部分の断面、すなわち、剪断力を受ける面を構成している。よって、図2(A)及び(B)に示した動翼保持部材3は、ダブテール11と本体部31との接触により形成される剪断力を受ける面にダブテール11と本体部31との接触により生じる曲げモーメントに基づいて形成された凸部35が形成されるように、本体部31及びフランジ部32の形状が構成されていると言い換えることができる。
【0021】
また、本体部31の両端がスロット部26に挿入されて支持されているため、ダブテール11(膨出部14)との接触により本体部31が大きな荷重を受けた場合、剪断力を受ける面には、剪断力だけでなく、ロータディスク2からの反力による曲げモーメントも生じる。本発明は、この曲げモーメントに対する強度を向上させる発明である。かかる曲げモーメントは、例えば、鳥等の異物の吸い込みや飛散した動翼の衝突等により生ずる。
【0022】
ところで、従来の動翼保持構造は、図2(C)に示したように、幅Fx<幅Dxの関係を有している。したがって、Z−Z断面は本体部のみの断面となり、図2(D)に示したように、長方形状をなす。一般に、物体の曲がり難さは断面2次モーメントで表現することができ、長方形状よりもL字形状の方が断面2次モーメントを大きくすることができる。すなわち、フランジ部の幅Fxをダブテール11の幅Dxよりも大きく形成することにより、動翼保持部材3の断面2次モーメントを大きくすることができ、剪断力を受ける面に生じる曲げモーメントに対する剛性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明では剪断力を受ける面を略L字形状となるように構成しているため、ダブテール11と本体部31との接触により動翼保持部材3に生じる曲げモーメントを算出して本体部31又はフランジ部32の最適な形状を容易に選定することができる。例えば、フランジ部32の軸方向長さFz、本体部31の軸方向長さRz、本体部31の径方向長さRy等の条件を容易に設定することができる。特に、本発明では、本体部31の軸方向長さRzやフランジ部32の軸方向長さFzを従来の動翼保持部材よりも短くすることができるため、ロータディスク2の突出部24の長さも短くすることができ、軸方向に接近して翼列が配置されるコンプレッサやタービンに適した動翼保持構造を提供することができる。特に、高性能なゼロハブチップレシオファンに有利である。
【0024】
例えば、ダブテール11の周長Lが54.1mm、動翼保持部材3のZ−Z断面積(剪断面積)Sが304.2mm、モーメントアームの長さAが2.4mm、動翼保持部材3及びロータディスク2の高さHが24.7mmとし、ブレードアウト試験等の飛散した動翼の衝突により生ずる曲げモーメントを動翼保持部材3に負荷させた場合、図2(C)及び(D)に示した従来の動翼保持部材では本体部の軸方向長さRzが9.2mmも必要であったが、本発明で用いる動翼保持部材3では本体部31の軸方向長さRzを7.6mmに縮めることができた。このように、本体部31の軸方向長さRzを18%も縮めることができることは、同様に、ロータディスク2の突出部24の長さも短くすることができることを意味し、動翼1を有するコンプレッサやタービンの設計上の自由度を向上させることができ、大型化や高性能化にも容易に対応させることができる。
【0025】
次に、動翼保持構造の全体構成について説明する。ここで、図3は、本発明に係る動翼保持構造の全体構成を示す図である。なお、図1及び図2に示した実施形態と同じ構成部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
図3に示したように、本発明に係る動翼保持構造は、動翼1のダブテール11をロータディスク2の周面に形成された軸方向の溝部21に挿入し、溝部21の両端部を塞ぐことにより動翼1をロータディスクに固定する動翼保持構造であって、溝部21の一端側に動翼保持部材3が配置され、溝部21の他端側にロータディスク2に固定される環状のリング部材6が配置されている。ここでは、動翼保持部材3が上流側に配置され、リング部材6が下流側に配置されている場合を図示している。なお、図中、ロータディスク2の軸芯Lを一点鎖線で表示している。
【0026】
図3に示したように、ダブテール11と溝部21の隙間には板状のスペーサ4が挿入されており、動翼1の径方向の移動を抑制している。かかるスペーサ4は、単に隙間を埋める板状の部材であってもよいし、動翼1を径方向外方に付勢する板バネにより構成してもよい。また、スペーサ4は、端部にボルト孔が形成されており、動翼保持部材3のフランジ部32に形成されたボルト孔34と位置合わせされて、ボルト・ナット等の締結具5によりフランジ部32に結合される。
【0027】
また、リング部材6は、少なくとも溝部21を覆う面を有し、柱状部23に相当する部分や溝部21よりも径方向内方の部分に複数のボルト孔が形成されており、ボルト等の締結具61により、ロータディスク2に固定されている。かかるリング部材6は、溝部21を覆う環状のプレートを有するものであれば、専用部品であってもよいし、コーン等の他の部品の一部を構成する部分であってもよい。
【0028】
次に、本発明に係る動翼保持構造で用いる動翼保持部材3の変形例について説明する。ここで、図4は、動翼保持部材の変形例を示す図であり、(A)は動翼保持構造の略周方向平面における断面図、(B)は図4(A)における動翼保持部材のZ−Z断面図、である。なお、図1及び図2に示した実施形態と同じ構成部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0029】
図4(A)及び(B)に示した動翼保持部材3の変形例は、本体部31が保持溝25よりも径方向外方に突出した突出部36を有し、突出部36に補強リブ37が形成されている。具体的には、本体部31の径方向長さRyを保持溝25よりも長くすることにより突出部36を形成する。かかる構成によれば、図4(B)に示したように、剪断力を受ける面を略ト字形状に構成することができる。また、かかる動翼保持部材3は、ダブテール11と本体部31との接触により形成される剪断力を受ける面に凸部35が形成されていると言い換えることができる。補強リブ37は、図示した位置や形状に限定されるものではなく、本体部31の最上部に配置してもよいし、複数個配置してもよい。また、補強リブ37を形成したことにより、径方向内方から動翼保持部材3をスロット部26に挿入できない場合には、フランジ部32の幅Fxを柱状部23の隙間よりも小さく形成し、径方向外方から動翼保持部材3をスロット部26に挿入させるようにすればよい。
【0030】
さらに、柱状部23の隙間がダブテール11(膨出部14)の幅Dxよりも大きい場合には、フランジ部32の幅Fxをダブテール11(膨出部14)の幅Dxよりも大きく形成して、図1に示した実施形態と図4に示した変形例を組み合わせるようにしてもよい。
最後に、上述した本発明に係る動翼保持構造を備えたタービンエンジンについて説明する。ここで、図5は、本発明に係る動翼保持構造を備えたターボファンエンジンを示す概略構成図である。なお、図1及び図2に示した実施形態と同じ構成部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0031】
図5に示したターボファンエンジン7は、ファン71、コンプレッサ72、燃焼器73、及びタービン74を主たる構成要素としている。ここで、タービン74は、前段に高圧タービン、後段に低圧タービンを備え、高圧タービンによりコンプレッサ72を駆動させ、低圧タービンによりファン71を駆動させている。なお、図中、ターボファンエンジン7の軸芯Lを一点鎖線で表示している。
【0032】
前記ファン71は、タービン74(低圧タービン)により駆動されるスピナー75に埋め込まれて固定された動翼71aを有する。より具体的には、動翼71aは、スピナー75の一部を構成するロータディスク(図示せず)に固定されており、この固定手段として上述した本発明に係る動翼保持構造が適用されている。また、ファン71は、その駆動により前面の空気取入口76から空気をエンジンカウル77内に取り入れ、流入空気の一部をバイパスノズル78から噴出させ、残りの流入空気をコンプレッサ72に供給している。
【0033】
前記コンプレッサ72は、タービン74(高圧タービン)により駆動されるロータディスク(図示せず)に固定された複数の動翼72aを有する。かかる動翼72aの固定手段として上述した本発明に係る動翼保持構造を適用してもよい。また、コンプレッサ72は、ファン71から供給された空気を圧縮して燃焼器73に圧縮空気を供給する。
前記燃焼器73は、コンプレッサ72から供給された圧縮空気に燃料を供給して点火して燃料を燃焼させる。そして、かかる燃焼により生じた高速の排気ジェットは、タービン74に供給されてタービン74を駆動し、最終的にコアノズル79から噴出される。
【0034】
前記タービン74は、燃焼器73から排出された排気ジェットにより駆動されるロータディスク(図示せず)に固定された複数の動翼74aを有する。かかる動翼74aの固定手段として上述した本発明に係る動翼保持構造を適用してもよい。
かかるターボファンエンジン7におけるファン71の動翼71a等に本発明に係る動翼保持構造を適用することにより、動翼保持部材3の断面2次モーメントを大きくすることができ、ブレードアウト試験や異物の吸い込み等により動翼保持部材3に生じる曲げモーメントに対して動翼保持部材3を曲がり難くすることができ、動翼保持構造の軽量化及び強度の向上を図ることができ、ひいてはターボファンエンジン7の性能を向上させることができる。
【0035】
特に、ファン71のハブ側の動翼を上流側に向かって迫り出した構成のゼロハブチップレシオファンのように、せり出した部分を構成するスピナー動翼とその直後に配置されるファン動翼のように近接して配置される動翼を備えた構成の後側の動翼(ファン動翼)の固定手段として、本発明に係る動翼保持構造を適用すると効果的である。
本発明は上述した実施形態に限定されず、ターボジェットエンジン、ターボプロップエンジン、ターボシャフトエンジン等の動翼に適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1…動翼
2…ロータディスク
3…動翼保持部材
4…スペーサ
5…締結具
6…リング部材
7…ターボファンエンジン
11…ダブテール
12…翼形部
13…プラットホーム
14…膨出部
21…溝部
22…開口部
23…柱状部
24…突出部
25…保持溝
26…スロット部
31…本体部
32…フランジ部
33…テーパ部
34…ボルト孔
35…凸部
36…突出部
37…補強リブ
61…締結具
71…ファン
71a…動翼
72…コンプレッサ
72a…動翼
73…燃焼器
74…タービン
74a…動翼
75…スピナー
76…空気取入口
77…エンジンカウル
78…バイパスノズル
79…コアノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動翼のダブテールをロータディスクの周面に形成された溝部に挿入し、該溝部の両端部を塞ぐことにより前記動翼を前記ロータディスクに固定する動翼保持構造であって、
前記溝部の少なくとも一端側に配置される動翼保持部材を有し、該動翼保持部材は、前記ダブテールとの接触により形成される剪断力を受ける面に前記ダブテールと前記動翼保持部材との接触により生じる曲げモーメントに基づいて形成された凸部を有する、ことを特徴とする動翼保持構造。
【請求項2】
前記曲げモーメントは、異物の吸い込み又は飛散した動翼の衝突により生ずるものである、ことを特徴とする請求項1に記載の動翼保持構造。
【請求項3】
前記ダブテールと前記ロータディスクの隙間に挿入されるとともに前記動翼保持部材と結合されるスペーサを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の動翼保持構造。
【請求項4】
前記動翼保持部材は、前記ロータディスクの略径方向に形成された保持溝に挿入され前記ダブテールの押さえ面を構成する本体部と、該本体部の背面に配置されるとともに前記スペーサとの結合部を有するフランジ部と、を備えていることを特徴とする請求項3に記載の動翼保持構造。
【請求項5】
前記フランジ部の略周方向の幅が前記ダブテールの略周方向の幅よりも大きく形成することにより前記凸部が形成される、ことを特徴とする請求項4に記載の動翼保持構造。
【請求項6】
前記本体部が前記保持溝よりも径方向外方に突出した突出部を有し、該突出部に補強リブを形成することにより前記凸部が形成される、ことを特徴とする請求項4に記載の動翼保持構造。
【請求項7】
前記溝部の他端側には、前記ロータディスクに固定される環状のリング部材が配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の動翼保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−285880(P2010−285880A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138234(P2009−138234)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】