説明

動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法

【課題】 アテローム性動脈硬化症を予防し、また症状を改善せしめることの可能な、動脈硬化症予防改善剤を提供すること。
【解決手段】 小豆種皮を有効成分として含有するアテローム性動脈硬化症予防改善剤は、血圧の上昇を抑制し、血管内皮における活性酸素の産生を抑制し、NAD(P)Hオキシダーゼのサブユニットの発現を抑制し、炎症性サイトカイン(MCP−1)を抑制し、炎症反応で誘導されるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現を抑制することができ、アテローム性動脈硬化症の予防改善を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法に係り、特に身近な食材である植物資源を用いて、動脈硬化症、殊にアテローム性動脈硬化症を予防し、また症状を改善せしめることの可能な、動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小豆は和菓子の原料や料理の素材として日本人にはなじみが深い食物のひとつである。特に、あんの加工やあんの色調などに関連した知見は数多く得られている。古来より薬用としても用いられた小豆は、「健康によい」とされながら、生活習慣病をはじめとする疾病の予防・改善に関連した実証例は従来ほとんど存在しない。
【0003】
後掲特許文献1は、ガン、肝疾患、内分泌代謝疾患および腎臓疾患用の治療食の提供を目的として、玄米に、大豆・黒豆・小豆などの豆類の群、大麦・ハト麦・丸麦・小麦などの麦類の群、そしてキビ・アワおよびヒエの雑穀群から選ばれた少なくとも1種の穀類を加え、さらに葉緑素・酵素・胚芽を混ぜた治療食を提案している。しかし、ここでも小豆は、原材料として選択し得る豆類の一例に過ぎず、生活習慣病を始めとする疾病の予防・改善に関連した実証例といえるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−172192号公報「治療食」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、高血圧の長期放置によって生じるアテローム性動脈硬化症およびその合併症では、血管内皮機能の障害がその一因であることが知られている。つまり、
〈1〉NAD(P)Hオキシダーゼ(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸オキシダーゼ)、キサンチンオキシダーゼ等の酸化酵素の活性化による活性酸素(特に、スーパーオキシド)の産生の増大、
〈2〉マクロファージ系等の炎症細胞の遊走・活性化の増大、
〈3〉さらに遊走・活性化を誘発するmonocyte chemotactant protein−1(MCP−1)などのサイトカイン産生の亢進や炎症反応を進行させるプロスタノイド産生に関わるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の活性化等、が血管内皮機能障害を引き起こし、アテローム性動脈硬化症の発症や進展に関与するということである。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、これら因子や活性の増大を抑制することによって動脈硬化症、殊にアテローム性動脈硬化症を予防し、また症状を改善せしめることの可能な、動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで本願発明者らはこれまで、小豆種皮における疾病改善効果の可能性に着目し、研究を重ね、得られた知見を開示してきた。たとえば、「糖尿病モデルラットにおける腎症の小豆種皮による軽減改善効果」(Sato S.et al. J Nutr Biochem,16,547−553,2005.)、「抗がん剤(シスプラチン)誘発される腎障害の小豆種皮による軽減改善効果」(Sato S.et al. Nutrition,21,504−511,2005.)であり、小豆種皮の有する血漿中の過酸化脂質の産生抑制効果、それによる酸化ストレス軽減効果等を明らかにしてきた。
【0008】
今般、本願発明者は上記課題への取り組みとして、アテローム性動脈硬化症における小豆種皮の予防改善効果の如何を明らかにするために検討を行った。つまり、小豆種皮を高血圧自然発症ラット(SHR)に投与し、
〈1〉血圧上昇を抑制するか、
〈2〉血管内皮の活性酸素の生成を抑制するか、
〈3〉血管内皮の活性酸素を産生するNAD(P)Hオキシダーゼのサブユニットの発現を抑制するか、
〈4〉血管内皮の炎症性サイトカイン(MCP−1)の発現量を抑制するか、
〈5〉炎症反応の進行においてサイトカインなどの刺激により誘導されるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現量を抑制するか、
を調べ、アテローム性動脈硬化症の予防改善剤としての有効性を検討した。
【0009】
その結果、アテローム性動脈硬化症の予防改善剤として小豆種皮が有効であることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 小豆種皮を有効成分として含有する血圧上昇抑制剤。
〔2〕 小豆種皮を有効成分として含有する動脈硬化症予防改善剤。
〔3〕 血圧上昇によって大動脈で過剰産生される血管内皮での活性酸素(特に、スーパーオキシド)量を抑制できることを特徴とする、〔2〕に記載の動脈硬化症予防改善剤。
〔4〕 スーパーオキシドの主な発生源であり血管内皮で活性化するNAD(P)HオキシダーゼのサブユニットのmRNA発現量を抑制できることを特徴とする、〔2〕または〔3〕に記載の動脈硬化症予防改善剤。
〔5〕 動脈硬化症の発症に関連するマクロファージの活性・遊走因子(MCP−1)の血管内皮での発現を抑制できることを特徴とする、〔2〕ないし〔4〕のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤。
【0011】
〔6〕 動脈硬化症の発症に関連する炎症反応時に誘導されるCOX−2の発現を抑制できることを特徴とする、〔2〕ないし〔5〕のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤。
〔7〕 対象疾病がアテローム性動脈硬化症であることを特徴とする、〔2〕ないし〔6〕のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤。
〔8〕 〔2〕ないし〔7〕のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤を用いることによる、動脈硬化症予防方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法は上述のように構成されるため、これによれば、殊にアテローム性動脈硬化症発症の要因となる血管内皮での活性酸素(特に、スーパーオキシド)量を抑制するなど、関係する因子や活性の増大を抑制できるため、それによって動脈硬化症、殊にアテローム性動脈硬化症を予防し、また症状改善に役立てることができる。
【0013】
具体的には、本発明の動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法によって、次のような効果が得られる。
〈1〉血圧上昇の抑制。
〈2〉血圧上昇によって大動脈で過剰産生される血管内皮での活性酸素(特に、スーパーオキシド)量の抑制<活性酸素産生抑制作用>。このことは、酸化ストレスを軽減できるということである。
【0014】
〈3〉スーパーオキシドの主な発生源であり、血管内皮で活性化するNAD(P)Hオキシダーゼのサブユニット(p47phox)のmRNA発現量の抑制<すなわち、サブユニットの発現の抑制作用>。
〈4〉動脈硬化症の発症に関連するマクロファージの活性・遊走因子(MCP−1)の血管内皮での発現の抑制<MCP−1の抑制作用>。
【0015】
〈5〉動脈硬化症の発症に関連する炎症反応時に誘導されるCOX−2の発現の抑制<COX−2の発現の抑制作用>。
なお、このことから、炎症時にCOX−2を介して亢進するプロスタグランジンE2(血管透過性などに作用)やプロスタグランジンI2(血管拡張および発痛などに作用)をも抑制しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】小豆種皮の製造工程を示すフロー図である。
【図2】小豆種皮投与による収縮期血圧の経時変化を示すグラフである。
【図3】小豆種皮投与による活性酸素量の変化を示すグラフである。
【図4】小豆種皮投与によるNAD(P)Hオキシダーゼを構成する各サブユニットのmRNA発現状況を示すグラフである。
【図5】NAD(P)Hオキシダーゼのサブユニット構成を示す説明図である。
【図6】小豆種皮投与によるマクロファージの活性・遊走因子の発現状況を示すグラフである。
【図7】小豆種皮投与によるCOX−2タンパク質の発現状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の動脈硬化症予防改善剤は、有効成分として含まれる小豆種皮によって、血圧上昇抑制作用、血管内皮における活性酸素(特に、スーパーオキシド)の産生抑制作用、NAD(P)Hオキシダーゼのサブユニットの発現の抑制作用、炎症性サイトカイン(MCP−1)の抑制作用、炎症反応で誘導されるCOX−2の発現の抑制作用を有する。これにより本発明によれば、動脈硬化症、特にアテローム性動脈硬化症の予防改善が可能である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
<1 小豆種皮の調製>
図1は、小豆種皮の製造工程を示すフロー図である。図示するように、まず使用する小豆粒の重量を測定し(○付き数字1 以下{1}のように示す)、これに4容量(weight/volume)の蒸留水を加える{2}。そしてそのまま25℃で一晩静置し{3}た後、小豆粒から種皮を剥離する{4}。その後、剥離した小豆種皮を37℃にて乾燥させる{5}。このようにして、小豆粒に対して約8%(重量比)の小豆種皮を得ることができた。なお、小豆はエリモショウズ(学名;Vigna angularis)を用いた。
【0019】
<2 小豆種皮の成分>
表1は、調製した小豆種皮の成分測定結果を示す。小豆種皮は、総ポリフェノール量と食物繊維量が多いのが特徴である。
【0020】
【表1】

【0021】
<3 試験の方法>
調製した小豆種皮を、標準動物飼料であるMF固形試料(オリエンタル酵母工業)に0.1%、および1.0%の濃度で添加して飼料を作製した。SHR(高血圧自然発症ラット)と正常血圧のWistar Kyoto rat(WKY)に標準動物食(通常食;MF飼料)または異なる濃度(0.1および1.0%)の小豆種皮含有飼料を8週間投与した。表2に試験区の構成を示す。
【0022】
【表2】

【0023】
試験項目および方法の実際は、次の通りである。
〈1〉血圧を、尾部カフ法により測定した。
〈2〉大動脈のNAD(P)Hオキシダーゼ由来のスーパーオキシド(O−)量を、ルシゲニンを用いた化学発光法により測定した。
〈3〉大動脈から総RNAを抽出し、NAD(P)HオキシダーゼのサブユニットであるNOX4、p22phoxおよびp47phoxのmRNAの発現量をリアルタイムPCR法にて測定した。
【0024】
〈4〉大動脈から総RNAを抽出し、monocyte chemotactant protein−1(MCP−1)のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法にて測定した。
〈5〉大動脈をホモジネイトして、そのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、一次抗体として抗COX−2抗体を用いたウエスタンブロット法により、COX−2タンパク質の発現量を測定した。
【0025】
<4 結果と考察>
〈1〉血圧
図2は、小豆種皮投与による収縮期血圧の経時変化を示すグラフである。図示するように、小豆種皮を投与した結果、高血圧自然発症ラット(SHR)の血圧上昇が抑制された。また、対照であるWistar Kyoto rat (WKY)では、小豆種皮の投与にかかわらず変化はなかった。すなわち、小豆種皮はSHRの血圧上昇を抑制することが示された。
【0026】
〈2〉活性酸素(スーパーオキシド)量
図3は、小豆種皮投与による活性酸素量の変化を示すグラフである。図示するように、小豆種皮を投与した結果、血圧上昇によって大動脈で過剰産生される血管内皮での活性酸素(特に、スーパーオキシド)量が抑制された。このことは、酸化ストレスを軽減したことを示す。
【0027】
〈3〉NAD(P)HオキシダーゼのサブユニットのmRNA発現量
図4は、小豆種皮投与によるNAD(P)Hオキシダーゼを構成する各サブユニットのmRNA発現状況を示すグラフである。図示するように、小豆種皮を投与した結果、スーパーオキシドの主な発生源であり血管内皮で活性化するNAD(P)Hオキシダーゼのサブユニットのうち、サブユニットp47phoxのmRNA発現量が抑制された。
【0028】
なお図5は、NAD(P)Hオキシダーゼのサブユニット構成を示す説明図である。図示するように、スーパーオキシドを産生する酵素であるNAD(P)Hオキシダーゼは、サブユニット(gp91phox/Nox2/Nox4、p22phox、p47phox、Rac1など)から構成されている。本実施例ではこのうち、Nox4、p22phoxおよびp47phoxの各サブユニットのmRNA発現量を調べたものである(図4)。
【0029】
〈4〉マクロファージの活性・遊走因子の発現
図6は、小豆種皮投与によるマクロファージの活性・遊走因子の発現状況を示すグラフである。図示するように、小豆種皮を投与した結果、動脈硬化症の発症に関連するマクロファージの活性・遊走因子(MCP−1)の血管内皮での発現が抑制された。
【0030】
〈5〉COX−2の発現
図7は、小豆種皮投与によるCOX−2タンパク質の発現状況を示すグラフである。図示するように、小豆種皮を投与した結果、動脈硬化症の発症に関連する炎症反応時に誘導されるCOX−2の発現が抑制された。このことから、炎症時にCOX−2を介して亢進するプロスタグランジンE2(血管透過性などに作用)やプロスタグランジンI2(血管拡張および発痛などに作用)が抑制されていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の動脈硬化症予防改善剤および動脈硬化症予防方法によれば、殊にアテローム性動脈硬化症において関係する因子や活性の増大を抑制できるため、これを予防し、また症状改善に役立てることができる。したがって、産業上利用性が高い発明である。














【特許請求の範囲】
【請求項1】
小豆種皮を有効成分として含有する血圧上昇抑制剤。
【請求項2】
小豆種皮を有効成分として含有する動脈硬化症予防改善剤。
【請求項3】
血圧上昇によって大動脈で過剰産生される血管内皮での活性酸素(特に、スーパーオキシド)量を抑制できることを特徴とする、請求項2に記載の動脈硬化症予防改善剤。
【請求項4】
スーパーオキシドの主な発生源であり血管内皮で活性化するNAD(P)HオキシダーゼのサブユニットのmRNA発現量を抑制できることを特徴とする、請求項2または3に記載の動脈硬化症予防改善剤。
【請求項5】
動脈硬化症の発症に関連するマクロファージの活性・遊走因子(MCP−1)の血管内皮での発現を抑制できることを特徴とする、請求項2ないし4のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤。
【請求項6】
動脈硬化症の発症に関連する炎症反応時に誘導されるCOX−2の発現を抑制できることを特徴とする、請求項2ないし5のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤。
【請求項7】
対象疾病がアテローム性動脈硬化症であることを特徴とする、請求項2ないし6のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれかに記載の動脈硬化症予防改善剤を用いることによる、動脈硬化症予防方法。











【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−229069(P2010−229069A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77625(P2009−77625)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(508105186)公立大学法人青森県立保健大学 (8)
【Fターム(参考)】