説明

動電学的な濃縮装置及びその使用方法

【課題】対象種を濃縮する及び/又は液体の流れを制御することのできる装置及びその使用方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備える装置を使用して、ナノチャネルに電場を誘起させて、マイクロチャネル及びナノチャネルが接続された接続領域にイオン欠乏をもたらし、対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層をマイクロチャネル内に形成することによって、マイクロチャネル内の所定の領域で濃縮を行う方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の荷電対象種を濃縮するための装置及びその使用方法を提供するものである。本発明は、さらに荷電対象種を分離及び解析することができるような、荷電対象種に対して動電学的なトラップをする濃縮装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
プロテオミクスが直面している大きな課題の1つは、血清又は細胞抽出物などの生体分子試料の複雑性の高さである。一般的な血液試料は、10,000種を越える様々なタンパク種を含んでいることもあり、その濃度が9桁以上も異なるものがある。このようなタンパク質の多様性に加えて、その非常に広い濃度の範囲は、プロテオミクスにおける試料調整に大きな課題をもたらしている。
【0003】
多次元分離解析及び質量解析(MS)に基づく従来のタンパク質解析法は、最大分離能力(〜3000まで)及び検出ダイナミックレンジ(〜10まで)の制限により、十分なものではなかった。マイクロ流体の生体分子解析システム(通称、μTAS)は、生体分子の自動処理に期待されているものである。マイクロチップで化学反応及び化学増幅を最小限にすることに加えて、様々な生体分子を分離及び精製するステップは、けた違いの速さの試料の分離及び処理を実現している。また、マイクロ流体は、2つの異なる分離ステップを1つの多次元分離装置に統合させることが知られている。しかしながら、試料の分離及び処理を行うマイクロ流体装置のほとんどは、検体量のミスマッチという重要な問題を抱えている。マイクロ流体装置は、1pL〜1nLの試料流体の取扱い及び処理をするのに極めて有効である。しかし、ほとんどの生体分子試料は、1μLを越える液体体積で使用する又は取り扱われる。従って、マイクロチップを用いた分離法は、ほとんどの場合、使用する試料のわずかな量だけを解析しているため、全体の検出感度は著しく制限されている。プロテオミクスでは、多くの情報を含んだシグナル伝達分子(例えば、サイトカイン及びバイオマーカ)が微量濃度(nM〜pMの範囲)でしか存在していないこと、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のようなタンパク質及びペプチド用のシグナル増幅法がないということが、この問題を深刻にしている。
【0004】
マイクロリットル又はそれより多い量が標準的な検体量として取り扱われ、分子がより小さい体積に濃縮されることによって、より良好な感度で試料の分離及び検出を行うことができるようになる、効率的な試料濃縮器が求められている。現在のところ、液体中の試料の前濃縮を行ういくつかの方法があり、そのようなものには、スタッキング法(FAS)、等速電気泳動法(ITP)、界面動電現象によるトラップ、ミセル動電現象によるスイーピング、クロマトグラフィーによる前濃縮、及び膜による前濃縮が含まれる。これら手法の多くは、本来はキャピラリー電気泳動のために開発されたものであり、特殊な緩衝液の配合及び又は試薬を必要とする。クロマトグラフィー及びフィルタを用いた前濃縮法の効果は、ターゲット分子の疎水性及び大きさに依存する。動電学的なトラップ(electrokinetic trapping)は、様々な種の荷電生体分子に用いることができるが、一般に、実行するには、ナノ多孔性の電荷選択的な膜が必要である。全体として、現存の前濃縮法で示される濃縮係数は、最大で1000にとどまっていることから、試薬及び材料の要件などの実行上の様々な制限により、それらを統合マイクロシステムに用いることは困難である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一実施形態では、濃縮装置を提供するものであり、前記濃縮装置は、マイクロチャネルと、ナノチャネルと、前記ナノチャネル内に電場を誘起させるためのユニットと、前記マイクロチャネル内に界面動電駆動流又は圧力駆動流を発生させるためのユニットと、対象種を含む液体がその中を流れることができるようにした導管とを備え、前記マイクロチャネルは前記ナノチャネルと接続し、前記導管は前記マイクロチャネルと接続しているものである。
【0006】
一実施形態では、対象種を含む液体を前記装置に導入し、前記電場を前記ナノチャネル内及び前記マイクロチャネル内に別個に誘起させることによって、前記対象種を前記マイクロチャネル内で濃縮する。
【0007】
別の実施形態では、前記ナノチャネル内、前記マイクロチャネル内、又はその組み合わせにおいて、電場を誘起させるための手段は電源である。一実施形態では、50mV乃至500Vの電圧が印加される。一実施形態では、電源は、マイクロチャネルの陽極側及び陰極側に等しい電圧を印加するようなものであり、或いは別の実施形態では、電源は、前記マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側に印加する電圧と比較して、より大きい電圧を印加するようなものである。
【0008】
一実施形態では、マイクロチャネルの幅は、1〜100μmの間であり、別の実施形態では、マイクロチャネルの奥行きは、0.5〜50μmの間である。別の実施形態では、ナノチャネルの幅は、1μm〜50μmの間であり、別の実施形態では、前記ナノチャネルの奥行きは、20〜100ナノメートルの間である。
【0009】
一実施形態では、マイクロチャネルの表面は、前記表面への前記対象種の吸着を減少させる又は促進させるような機能性を有するようにしたものである。別の実施形態では、ナノチャネル及び/又はマイクロチャネルの表面は、装置の動作効率を高める又は下げるような機能性を有するようにしたものである。別の実施形態では、装置の動作効率を高める又は下げるように、外部ゲート電位が装置の基質に与えられる。別の実施形態では、装置は透明な材料からなるものである。別の実施形態では、透明な材料は、パイレックス(登録商標)、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、石英又はSU−8である。
【0010】
別の実施形態では、装置は、分離システムと接続しており、或いは別の実施形態では、検出システムと接続しており、或いは別の実施形態では、解析システムと接続しており、或いは別の実施形態では、それらを組み合わせたものと接続している。別の実施形態では、装置は照明用光源と接続している。
【0011】
別の実施形態では、装置は、複数のマイクロチャネル、ナノチャネル又はその組み合わせを含むものである。一実施形態では、マイクロチャネル、ナノチャネル又はその組み合わせは、所定の配置をとるように構成され、その配置には、一実施形態では、マイクロチャネルが前記ナノチャネルに対して垂直に配置されることを含む。
【0012】
本発明は、一実施形態では、液体中の対象種を濃縮するための方法を提供するものであり、前記方法は、本発明の装置を使用することを含むものである。
【0013】
本発明は、一実施形態では、本発明の装置を含むマイクロ流体ポンプを提供するものであり、前記マイクロ流体ポンプは、一実施形態では、液体の流速が10μ/秒乃至10mm/秒である。
【0014】
本発明は、一実施形態では、液体中の対象種を濃縮するための方法を提供するものであり、その方法は、対象種を含む液体を、前記液体の供給源から、ナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備える濃縮装置に導入するステップと、前記ナノチャネル内に電場を誘起して、前記ナノチャネルと接続した前記マイクロチャネルの領域内にイオン欠乏を発生させ、前記対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層(space charge layer)を形成するステップと、前記マイクロチャネル内に液体の流れを発生させるステップとを含むものである。
【0015】
一実施形態では、前記流れは電気浸透流であり、別の実施形態では、マイクロチャネル内での電場の誘起によって、マイクロチャネル内に電気浸透流を発生させる。別の実施形態では、前記流れは圧力駆動流である。
【0016】
一実施形態では、マイクロチャネルの陽極側及び陰極側に等しい電圧が印加され、或いは別の実施形態では、マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側に印加される電圧と比較して、より大きい電圧が印加される。別の実施形態では、前記マイクロチャネルの陽極側に、前記より大きい電圧を印加する前に、マイクロチャネル内に空間電荷層が形成される。
【0017】
一実施形態では、液体は溶液である。別の実施形態では、液体は懸濁液であり、別の実施形態では、懸濁液は、臓器ホモジネート、細胞抽出物又は血液試料である。一実施形態では、対象種は、タンパク質、ポリペプチド、核酸、ウイルス粒子、又はその組み合わせを含むものである。
【0018】
一実施形態では、前記方法は、対象種にキャピラリー電気泳動を受けさせるステップをさらに含むものである。一実施形態では、前記方法は、対象種を装置から放出するステップをさらに含むものである。別の実施形態では、前記方法は、前記対象種が検出下限より低い濃度で前記液体中に存在するとき、前記対象種を検出するために用いられるものである。
【0019】
本発明は、別の実施形態では、システム内の液体の流れを制御するための方法を提供するものであり、前記方法は、荷電種又は中性種を含む前記液体を、前記液体の供給源から、ナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備える前記システムのポンプ装置に供給するステップと、前記ナノチャネル内に電場を誘起して、前記ナノチャネルと接続した前記マイクロチャネルの領域内にイオン欠乏を発生させ、前記対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層を形成するステップと、前記マイクロチャネル内に電場を誘起することによって、前記マイクロチャネル内に電気浸透流を発生させるステップとを含むものであり、前記流れは、前記液体をさらに前記装置に導入するようにするものであり、前記電場の強度によって制御されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、一実施形態では、対象種を濃縮するための濃縮装置及びその使用方法を提供するものである。
【0021】
一実施形態では、本発明は濃縮装置を提供するものであり、前記濃縮装置は、マイクロチャネルと、ナノチャネルと、前記ナノチャネル内で電場を誘起させるためのユニットと、前記マイクロチャネル内に界面動電駆動流又は圧力駆動流を発生させるためのユニットと、対象種を含む液体がその中を流れることができるようにした導管とを含むものであり、前記マイクロチャネルは前記ナノチャネルと接続し、前記導管は前記マイクロチャネルと接続しているものである。
【0022】
濃縮装置(以下、”濃縮器”と称する)は、別の実施形態では、少なくとも1つのマイクロチャネル及び少なくとも1つのナノチャネルを含むものである。一実施形態では、各チャネルを形成するために、濃縮器の形成がマイクロ加工及びナノ加工技術を利用して行われる。
【0023】
マイクロ加工技術、又はマイクロ技術或いはMEMS技術は、一実施形態では、例えば、物理的構造の形成に半導体製造用のツール及びプロセスを適用する。マイクロ加工技術は、一実施形態では、1mm未満(<1mm)から数センチメートルの寸法範囲で、チップに機構(例えば、ウェル、チャネル)を精密に設計することが可能である。他の実施形態では、チップはシリコン、ガラス、又は樹脂製のものである。そのような技術は、一実施形態では、濃縮器のマイクロチャネルを作成するために使用することもできる。
【0024】
別の実施形態では、NEMS技術又はナノ技術が、濃縮器のナノチャネルを作成するために用いられる。一実施形態では、ナノチャネルはナノインプリントリソグラフィー(NIL)で作成することができる。このことは、Z. N. Yu, P. Deshpande, W. Wu, J. Wang and S. Y. Chou, Appl. Phys. Lett. 77 (7), 927 (2000)、S. Y. Chou, P. R. Krauss, and P. J. Renstrom, Appl. Phys. Lett. 67 (21), 3114 (1995)、Stephen Y. Chou, Peter R. Krauss and Preston J. Renstrom, Science 272, 85 (1996)及び米国特許第5,772,905号に記載されており、それらに言及することをもって、あらゆる意味で、その内容の全体を本出願の一部とするものとする。一実施形態では、ナノチャネル及び/又はマイクロチャネルは、ナノインプリントリソグラフィー、干渉リソグラフィー、自己集合的な共重合体のパターン転写、スピンコーティング、電子ビームリソグラフィー、集束イオンビームミリング、フォトリソグラフィー、反応性イオンエッチング、ウェットエッチング、プラズマ化学蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタ蒸着、及びその組み合わせによって形成される。また、その他の従来の方法が、ナノチャネル及び/又はマイクロチャネルを形成するために使用されて良い。
【0025】
一実施形態では、ナノチャネル及びマイクロチャネルは、後述の実施例1の例示のように形成される。このことは、J. Han, H. G. Craighead, J. Vac. Sci. Technol., A 17, 2142-2147 (1999)及びJ. Han, H. G. Craighead, Science 288, 1026-1029 (2000)に記載されており、それらに言及することをもって、あらゆる意味で、その内容の全体を本出願の一部とするものとする。
【0026】
一実施形態では、標準的なリソグラフィーツールでナノチャネルのパターンをつけた後に、一連の反応性イオンエッチングが実施される。一実施形態では、所定の配置をとるようにしてエッチングが実施される。別の実施形態では、その配置は、マイクロチャネル及び/又はナノチャネルの間の界面を画定するものである。一実施形態では、マイクロチャネルを作成するエッチングは、ナノチャネルを作成するためのエッチングが行われた平面に沿って実施される。別の実施形態では、例えば、導入用の孔を作成するなど、濃縮器に構造を追加するため、さらにエッチングを追加して行うことがあり、例えば、一実施形態では、KOHエッチングが用いられる。
【0027】
別の実施形態では、濃縮器を電気的に絶縁させる。一実施形態では、そのような絶縁は、濃縮器の窒化物除去及び熱酸化によって達成される。別の実施形態では、濃縮器の表面は、基質に取り付けられるようにすることもできる。前記表面は、別の実施形態では、濃縮器の底面であり、前記基質は、例えば、一実施形態では、パイレックス(登録商標)製のウエハである。一実施形態では、ウエハは、陽極結合法を用いて取付けられる。
【0028】
一実施形態では、濃縮器の構造は、当業者には良く知られた方法によって、即ち、例えば、米国特許第6,753,200号に記載されているような方法を適用することによって得られる。米国特許第6,753,200号については、それに言及することをもって、あらゆる意味で、その内容の全体を本出願の一部とするものとする。
【0029】
一実施形態では、成形した犠牲層を用いて作成することもでき、犠牲層は、最終的に下層になるフロア層及び上層になるシーリング層の間にサンドイッチされるようにして挟まれる。犠牲層の形状は、動作ギャップを画定するものである。犠牲層が取り除かれると、動作ギャップは、所望の構造を有する流体チャネルとなる。一実施形態では、この方法により、流体装置の構造内の、内部動作空間の高さ、幅及び形状、即ち流体チャネルを精密に画定することができる。
【0030】
犠牲層は基質に形成されるものであり、例えば、適切なリソグラフィー加工によって成形され、シーリング層によってカバーされる。そして、犠牲層はウェット化学エッチングによって取り除かれ、濃縮器の流体チャネル及びチャンバに使用し得る動作ギャップを形成する空間を、フロア層及びシーリング層の間に残す。このような装置では、動作ギャップの垂直方向の寸法、即ち高さは、犠牲層の膜の厚さによって決定される。犠牲層の膜は化学蒸着(CVD)法で精密に作成されるため、この寸法を極めて小さくすることができる。
【0031】
犠牲層を取り除くために使用するエッチング溶液が、構造体内の犠牲層までアクセスすることができるように、1つ又は複数のアクセス用の孔がシーリング層を貫通するように設けられ、これらの孔を介してウェットエッチングにより犠牲層は取り除かれる。装置の完成品を構成するフロア層及びシーリング層を破壊することなく、アクセス用の孔から横方向に著しく離れた犠牲層にエッチングすることができるようにするために、極めて高いエッチングの選択性が、犠牲層及び誘電体層の間で必要であり得る。そのような処理に用いられ得る材料の組み合わせには、犠牲層がポリシリコン、フロア層及びシーリング層が窒化ケイ素の組み合わせなどがある。極めて高いエッチングの選択性は、塩基性溶液によって得ることができ、塩基性溶液は、いくつかの実施形態では、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)であり、或いは別の実施形態では、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)である。
【0032】
別の実施形態では、最上層に設けられたアクセス用の孔を覆うようにする。この目的のため、二酸化ケイ素の密封層が、アクセス用の孔を埋めるためにシーリング層の上に蒸着され得る。そして、この追加の薄い膜の層は、動作ギャップからの流体の漏れ又は蒸発に対する良好な密封能力をもたらす。二酸化ケイ素の薄膜を形成するCVD法は、例えば、極低温酸化(VLTO)蒸着などの膜のコンフォーマリティを少なくする他の実施形態を代表するものであり、アクセス用の孔付近の詰まりによって、装置の面積が過剰に失われることなく、信頼性の高い密封を形成する。所望であれば、シーリング層の孔の代わりに又はそれに加えて、アクセス用の孔を最下層を貫通するように開けることもでき、後から二酸化ケイ素の層を蒸着させることによって密封する。
【0033】
例えば、いくつかの実施形態では、化学蒸着(CVD)は、最終的に装置の壁となる材料を含む装置の材料を蒸着するために使用し得る。装置の材料は、通常、窒化ケイ素又は二酸化ケイ素などの誘電材料であり、暫定的に用いられる犠牲層の材料は、アモルファスシリコン又はポリシリコンなどである。
【0034】
一実施形態では、マイクロチャネル及びナノチャネルは、互いに対して垂直になるように配置される。一実施形態では、「垂直」又は「垂直に」という用語は、1つのチャネルの配置が、もう一方のチャネルの長手方向の軸線に対して、90°の角度であること、或いは別の実施形態では、90°+/−5℃の角度であること、或いは別の実施形態では、90°+/−10°の角度であること、或いは別の実施形態では、90°+/−20°の角度であることを意味するものとして用いられる。
【0035】
一実施形態では、本発明の濃縮器のマイクロチャネル及びナノチャネルを接続する界面領域が設けられる。一実施形態では、デフラクション傾斜リソグラフィー(DGL)が、本発明のマイクロチャネル及びナノチャネルの間に傾斜界面を形成するために用いられる。一実施形態では、傾斜界面領域は、濃縮器の中を流れる流れを調整して良く、或いは別の実施形態では、マイクロチャネル内に形成される空間電荷層を調整して良く、そのような調整は、別の実施形態では、電場の強度に応じて行われ、或いは別の実施形態では、マイクロチャネル内の空間電荷層を生成するのに必要な電圧に応じて行われる。
【0036】
一実施形態では、傾斜界面領域は、水平方向の空間的な傾斜構造となるように形成され、その断面の大きさは、長さスケールの値がミクロンからナノメートルになるまで細くなっている。別の実施形態では、傾斜界面領域は、垂直方向に傾斜した傾斜構造で形成される。別の実施形態では、傾斜構造は、水平方向及び垂直方向の傾斜の両方を備えることもできる。
【0037】
一実施形態では、濃縮装置は、デフラクション傾斜リソグラフィーによって、基質に1つ又は複数のナノチャネル、1つ又は複数のナノチャネル、及びその両者の間に傾斜界面領域を形成することによって作成される。一実施形態では、傾斜界面領域は、ブロッキングマスクをフォトマスク及び/又はフォトレジストの上に配置することによって、フォトリソグラフィーの実行中に形成することもできる。ブロッキングマスクのエッジは、光強度傾斜をもたらすように、フォトレジストに回折を与える。
【0038】
一実施形態では、濃縮器は複数のチャネルを含んで良く、それらには、複数のマイクロチャネル、又は複数のナノチャネル、又はその組み合わせが含まれる。一実施形態では、「複数のチャネル」という用語は、2つ以上のチャネル、或いは別の実施形態では、5つ以上のチャネル、或いは他の実施形態では、10、96、100、384、1,000、1,536、10,000、100,000又は1,000,000以上のチャネルを意味するものとして用いられる。
【0039】
一実施形態では、マイクロチャネルの幅は1〜100μmの間であり、或いは別の実施形態では、1乃至15μmであり、或いは別の実施形態では、20乃至50μmであり、或いは別の実施形態では、25乃至75μmであり、或いは別の実施形態では、50乃至100μmである。一実施形態では、マイクロチャネルの奥行きは、0.5〜50μmの間であり、或いは別の実施形態では、0.5乃至5μmであり、或いは別の実施形態では、5乃至15μmであり、或いは別の実施形態では、10乃至25μmであり、或いは別の実施形態では、15乃至50μmである。
【0040】
別の実施形態では、ナノチャネルの幅は、1μm〜50μmの間であり、或いは別の実施形態では、1乃至15μmであり、或いは別の実施形態では、10乃至25μmであり、或いは別の実施形態では、15乃至40μmであり、或いは別の実施形態では、25乃至50μmである。別の実施形態では、ナノチャネルの奥行きは、20〜100ナノメートルの間であり、或いは別の実施形態では、20乃至50ナノメートルであり、或いは別の実施形態では、20乃至75ナノメートルであり、或いは別の実施形態では、30乃至75ナノメートルであり、或いは別の実施形態では、50乃至100ナノメートルである。
【0041】
一実施形態では、濃縮器は、図1で示す図のように構成される。ナノチャネル(1−10)は、幅が5〜50μm、奥行きが40nmであり、マイクロチャネル(1−10)に対して垂直に配置される。ただし、マイクロチャネルは、幅が10〜20μm、奥行きが1.5μmである。
【0042】
本発明の別の形態では、濃縮器は、1つ又は複数のマイクロチャネルと流体連通する、少なくとも1つの試料容器をさらに含む。図1に示す実施形態では、試料容器(1−30)は、マイクロチャネルに近接して配置されている。別の実施形態では、試料容器は、対象種を含む流体又は液体を放出可能なものである。一実施形態では、試料容器は導管を用いてマイクロチャネルと接続される。導管は、マイクロチャネルと同様の寸法を有するものであって良く、又は上述の傾斜界面領域を含むものであって良い。
【0043】
一実施形態では、対象種を含む液体を装置内に導入し、ナノチャネル及びマイクロチャネル内に電場を独立して誘起させることによって、マイクロチャネル内で対象種を濃縮する。
【0044】
一実施形態では、濃縮器は、緩衝溶液を含んだフラットなナノ流体フィルタを、イオン選択膜として使用し、動電学的なトラップを行うためのイオン欠乏領域を生成する。その実施例は後述する。
【0045】
一実施形態では、マイクロチャネル内で発生する、流体を試料容器からマイクロチャネルまで高速で流入させるような非線形の電気浸透流(通常の電気浸透流よりも強い流れ)により、装置は荷電分子を効率的に収集する。なぜなら、マイクロチャネルがナノチャネルと接続する領域において、マイクロチャネル内の空間電荷層で、陰性荷電分子に対するエネルギ障壁が生成されるからである。
【0046】
一実施形態では、図1Bで示すように、2つの電場が別々に濃縮器に与えられ、各々は独立して制御される。ナノ流体チャネル内の電場(E)は、陰性荷電分子をトラップするイオン欠乏領域及び拡張空間電荷層(extended space charge layer)を発生させる。ナノ流体チャネル内の電場の接線方向にある、マイクロ流体チャネルの陽極側の、マイクロ流体チャネル内の電場(E)は、電気浸透流を発生させ、分子を容器からトラップ領域(1−40)に流入させる。
【0047】
一実施形態では、本発明の装置内の緩衝液の状態を調整することによって、空間電荷領域をさらに安定させられる。それは、例えば図7に示しているが、その詳細は後述する。一実施形態では、装置は2つのマイクロチャネル又は一連の2つのマイクロチャネルを含み、各々はナノチャネルを介して接続される。この実施形態によれば、時間とともに、上側のマイクロチャネル内のイオン欠乏が、下側のマイクロチャネル内にイオン濃縮をもたらすため、分離処理が長期間実施され、下側のマイクロ流体チャネル内の緩衝液濃度が上昇する。この実施形態では、低濃度の緩衝液を、一実施形態では、所定の期間、別の実施形態では、又は継続的に、電気浸透駆動流によって、或いは別の実施形態では、圧力駆動流によって、下側のマイクロチャネル内に提供するため、その作用が抑制される。
【0048】
本発明の別の実施形態では、例えば、図8に示すように、ナノ流体チャネルを、マイクロチャネルと流体連通するようにして、マイクロチャネルの両側に配置することによって、材料の前濃縮を促進させる。マイクロチャネル及びナノチャネル間の界面において開始するイオン欠乏は、マイクロチャネルの両側にナノチャネルを配置することによって促進され、いくつかの実施形態では、より安定性のある空間電荷領域が生成される。
【0049】
一実施形態では、流れは圧力駆動によって生じるものであって良く、当業者には良く知られた様々な手段によって達成されて良い。別の実施形態では、流れは圧力駆動流及び界面動電駆動流を複合したものであって良い。
【0050】
一実施形態では、「圧力駆動流」という用語は、その駆動された電流が中を流れるチャネルセグメントの外部にある圧力源によって駆動される流れのことを意味するものである。これに対して、一実施形態では、チャネルセグメント内に電場を与えることによって、当該チャネルセグメントの中に発生する流れを、本明細書では、「界面動電駆動流」と呼ぶこととする。
【0051】
圧力源の実施例は、陰圧源及び陽圧源、又は当該チャネルセグメントの外部にあるポンプを含む。ポンプは、動電学的な圧力ポンプ、例えば、当該チャネルセグメントから分離しているポンプチャネル内で動電学的な圧力を発生させるポンプを含む。そのようなポンプは、当該チャネルセグメントの外部に備えられる(米国特許第6,012,902号及び同第6,171,067号を参照されたい。この両者について、それに言及することをもって、あらゆる意味で、その内容の全体を本出願の一部とするものとする)。
【0052】
一実施形態では、「界面動電駆動流」という用語は、誘起された電場の下で、流体又は流体に含まれる物質が移動することを意味するものである。界面動電駆動流は、一般に、電気泳動及び電気浸透現象の一方或いは両方を含むものである。電気泳動は、例えば、荷電種を含んだ媒体又は流体中で荷電種が移動するものであり、電気浸透現象は、例えば、バルク流体がその構成要素の全てを含めて、電気的な駆動によって移動するものである。従って、界面動電駆動流に関して言及するとき、種の移動が主に或いは実質的に全て電気泳動による場合から、例えば非荷電物質などの物質の移動が主に電気浸透流によって駆動される場合までにわたる、広範囲の動電的な駆動流を含み、その2種類の動電学的な駆動流の移動の範囲及び比率は、それらが取り得る最大値の中に収まることを理解されたい。
【0053】
一実施形態では、「液体の流れ」という用語は、経路内、導管内、チャネル内又は表面上を流れる流体又はその他の材料の流れの、いずれかの又は全ての特性を含むものとして用いられる。その特性は、以下のものに限定するわけではないが、流速、流量、流体又はその他の材料の流れの構造及び関連する拡散プロフィールに加えて、例えば、層流、クリーピング流、乱流などの流れの、より一般的なその他の特性を含む。
【0054】
一実施形態では、複合流は、物質の動電学的な移動に続いて、圧力によって、液体試料をチャネルのネットワークに送り込むことを含み、或いは別の実施形態では、圧力駆動流に続いて、液体を動電学的に移動させることを含む。
【0055】
一実施形態では、電源から装置に電圧を印加することによって、各チャネル内に電場を誘起させる。一実施形態では、電圧は、少なくとも一方向に、少なくともチャネルの一部に電場を与えることが可能なように配置した少なくとも1組の電極を用いて印加される。電極の金属製のコンタクトは、標準的な集積回路製造技術を利用して一体化させることができ、少なくとも1つのマイクロチャネル、或いは別の実施形態では、少なくとも1つのナノチャネル、或いは別の実施形態では、その組み合わせと接続するようにして、方向性のある電場を形成するように配置される。交流(AC)、直流(DC)、又はその両方の電場を与えることができる。電極は、ほとんどのものが金属製であり、一実施形態では、画定された線状の経路に薄いAl/Au金属層を蒸着したものを含む。一実施形態では、一方の電極の少なくとも1つの端部が、容器内の緩衝液と接触する。
【0056】
別の実施形態では、濃縮器は少なくとも2組の電極を含み、各々が方向が異なる電場を与える。一実施形態では、電場のコンタクトは、電場の方向及び振幅を独立して変化させるために用いることができ、一実施形態では、空間電荷層を方向付けるようにし、或いは別の実施形態では、マクロ分子を所望の速度で又は方向に移動させるようにし、或いは別の実施形態では、その組み合わせを行わせるようにする。
【0057】
一実施形態では、50mV乃至500Vの電圧が印加される。一実施形態では、電源は、マイクロチャネルの陽極及び陰極側に等しい電圧を印加し、或いは別の実施形態では、電源は、マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側と比較して、より大きい電圧を印加する。
【0058】
一実施形態では、電源は、様々な電源であって良く、所望の電圧を供給するのに用いられる。電源は、所望の電圧を発生することができる、様々な電力供給源であって良い。例えば、電源はピゾ電源(pizoelectrical source)、バッテリ、又は家庭用電流によって作動する装置であり得る。一実施形態では、ガスイグナイタ(gas igniter)からのピゾ電気放電を使用し得る。
【0059】
一実施形態では、装置内の動電学的なトラップ及び試料の収集は、時間の経過とともに行うことができ、或いは別の実施形態では、数時間にわたって維持することができる。一実施形態では、時間の経過とともに行われる濃縮は、10〜10ほどの高い濃縮係数をもたらし、別の実施形態では、例えば、マイクロチャネル及びナノチャネル間の界面、印加電圧、液体の塩濃度、液体のpH値、又はその組み合わせを変化させて、濃縮中の条件を最適化することによって、さらに濃縮係数を高いものにすることができる。
【0060】
別の実施形態では、濃縮器は、濃縮器の1つ又は複数のマイクロチャネル、若しくは1つ又は複数のナノチャネルと流体連通する少なくとも1つの廃棄用容器をさらに備える。一実施形態では、廃棄用容器は、流体を貯留可能なものである。
【0061】
一実施形態では、マイクロチャネルの表面は、濃縮器の表面への対象種の吸着を減少させる又は促進させるような機能性を有するようにしたものである。別の実施形態では、ナノチャネル及び/又はマイクロチャネルの表面は、装置の動作効率を高める又は下げるような機能性を有するものである。別の実施形態では、装置の動作効率を高める又は下げるように、外部ゲート電位が装置の基質に与えられる。別の実施形態では、装置は透明な材料からなる。別の実施形態では、透明な材料は、パイレックス(登録商標)、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、石英又はSU−8である。
【0062】
別の実施形態では、濃縮器は対象種の解析が行われるように構成され、一実施形態では、解析は濃縮器内で行われ、或いは別の実施形態では、濃縮器の下流側で行われる。一実施形態では、濃縮器の下流側での解析のため、装置から濃縮された種を取り出し、それを解析のために適切な配置場所に配置する、或いは別の実施形態では、濃縮された材料を濃縮器から解析のために適切な配置場所まで送る導管を構成する。一実施形態では、そのような解析は、信号の取得を含むものであり、別の実施形態では、データプロセッサを含む。一実施形態では、信号とは、光子、電流/インピーダンスの測定値又は測定値の変化のことである。本発明の濃縮装置は、その簡素さ、性能、構造安定性、並びにその他の分離及び検出システムとの統合のしやすさから、生物解析用のマイクロシステムを含む様々な解析システムに有用なものであり、本発明の装置をそのようなシステムに統合することは、本発明の一部であることを理解されたい。
【0063】
別の実施形態では、濃縮器は、或いは別の実施形態では、1つ又は複数のマイクロチャネルは、2次元検出器を用いて撮像することもできる。濃縮器、又はその一部を画像に撮ることは、放出信号の収集に適切な装置に、濃縮器、又はその一部を表示させることによって達成し得る。適切な装置とは、例えば、いくつかの実施形態では、マイクロチャネルからの光を収集する光学素子である。
【0064】
別の実施形態では、装置は分離システムと接続し、或いは別の実施形態では、検出システムと接続し、或いは別の実施形態では、解析システムと接続し、或いは別の実施形態では、その組み合わせと接続する。別の実施形態では、装置は照明用光源と接続する。
【0065】
一実施形態では、濃縮器は、使い捨てできるものであり、別の実施形態では、個々にパッケージに入れられたものであり、別の実施形態では、個々の流体試料を含有する能力が1〜50,000個のものである。一実施形態では、濃縮器は、例えば樹脂のような適切なハウジングに入れることができ、市販することもできるような使い勝手の良いカートリッジ又はカセットで提供する。一実施形態では、濃縮器は、ハウジングの外側又は内側に、装置を挿入する、ガイドする、又は整合させるための適切な機構を備えており、例えば、試料充填室が、濃縮器と接続する別の装置の容器と整合できるようにするものなどがある。例えば、本発明の装置により濃縮処理を自動化させるため、濃縮器は、挿入用スロット、トラック、又はその組み合わせ、若しくはその他の適切な物を備え得る。
【0066】
濃縮器は、一実施形態では、複数の試料をハイスループットスクリーニングするように構成され、そのようにしたものは、プロテオミクスアプリケーションに有用であることは、当業者には容易に理解されるであろう。
【0067】
一実施形態では、濃縮器は電極に接続されている。電極は、電位ジェネレータに接続されており、別の実施形態では、金属製コンタクトで接続するものである。適切な金属製コンタクトは、外部との接触面を有するものであり、別の実施形態では、外部のスキャナ/撮像装置/電場チューナに接続することもできる。
【0068】
本発明の一実施形態では、濃縮器は、大型システムの一部を構成するものであり、そのような大型システムには、チャネル内で分子を励起し、それによって発生する信号を検出し、収集するような装置を含む。一実施形態では、レーザビームを試料プラグに集中させるようにすることもでき、別の実施形態では、フォーカスレンズを利用して集中させるようにすることもできる。マイクロチャネルの分子から生成された光信号は、フォーカス/収集レンズによって収集されるようにし、別の実施形態では、ダイクロイックミラー/バンドパスフィルタに反射して光路に入るようにし、別の実施形態では、CCD(電荷結合装置)カメラに送られるようにすることもできる。
【0069】
別の実施形態では、励起光源を、濃縮器の上面から、ダイクロイックミラー/バンドパスフィルタボックス及びフォーカス/収集レンズを通過させるようにすることもある。光信号を検出するため、様々な光学部品及び装置をシステムに用いることもでき、そのようなものには、例えば、デジタルカメラ、PMT(光電子増倍管)、及びAPD(アバランシェフォトダイオード)などがある。
【0070】
別の実施形態では、システムはさらにデータプロセッサを含んでいて良い。一実施形態では、データプロセッサは、CCDからの信号を処理するために用いられ、濃縮された種のデジタル画像をディスプレイに表示させる。一実施形態では、データプロセッサは、デジタル画像を解析することもでき、サイズ統計、ヒストグラム、核型、写像、診断情報などの特性情報を提供し、それら情報をデータ読み出しに適したフォームで表示する。
【0071】
一実施形態では、装置は、マイクロチャネル内に活性薬剤を含むようにさらに変更したものである。例えば、一実施形態では、マイクロチャネルは、濃縮された分子がトラップされる領域を、本発明の方法に従って酵素でコーティングする。この形態では、プロテアーゼのような酵素が、濃縮されたタンパク質と接触して、それらを消化する。この形態では、本発明はプロテオーム解析用の方法を提供する。例えば、ポリペプチドの複数の細胞を含む試料が、マイクロチャネル内で濃縮され、実質的に精製された複数のポリペプチドを得る。ポリペプチドは、マイクロチャネル内に固定化したプロテアーゼに対して、実質的にポリペプチドを消化するのに十分な状態の下で露出されるため、消化産物又は消化ペプチドを生成する。消化産物は、別の実施形態では、下流側の分離モジュールに送られて分離され、別の実施形態では、分離された消化産物は、そこからペプチド解析モジュールに送られる。ポリペプチドの配列を生成するべく、消化産物のアミノ酸配列は決定及びアセンブルされ得る。ペプチド解析モジュールに送る前に、ペプチドは、インターフェイスモジュールに送られるようにすることもでき、分離、濃縮、及び/又は集束の1つ又は複数の追加のステップを順に実行しても良い。
【0072】
他の実施形態では、プロテアーゼは、以下のものに限定するわけではないが、ペプチダーゼ、例えば、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、及びエンドペプチダーゼ(例として、トリプシン、キモトリプシン、サーモリシン、エンドプロテアーゼLysC、エンドプロテアーゼGluC、エンドプロテアーゼArgC、エンドプロテアーゼAspN)を含む。アミノペプチダーゼ及びカルボキシペプチダーゼは、翻訳後修飾を特徴付けること及びそのイベントを処理することに有用である。プロテアーゼの合成物を用いることもできる。一実施形態では、プロテアーゼ及び/又はその他の酵素は、吸着又は共有結合手法を利用して、マイクロチャネルの表面に固定化される。いくつかの実施形態では、共有結合による固定化の実施例には、プロテアーゼを、グルタルアルデヒド、イソチオシアネート、及び臭化シアンなどの配位子を有する表面に直接共有結合させることを含む。他の実施形態では、プロテアーゼは結合パートナーを用いて結合し得る。その結合パートナーは、特にプロテアーゼに反応する、若しくはそれ自身がプロテアーゼと結合(例えば、共有結合)するような分子と結合する又は反応するようなものである。結合させるためのペアには、シトスタチン/パパイン、バルフォスファナーテ/カルボキシペプチダーゼA、ビオチン/ストレプトアビジン、リボフラビン/リボフラビン結合タンパク質、抗原/抗体結合のペア、又はその組み合わせを含む。
【0073】
一実施形態では、所定細胞から得られたポリペプチドを濃縮するステップは、消化産物を生成し、タンパク質配列を決定するために消化産物を解析する。そのステップは、所定試料に対して同時に及び/又は繰り返し実行され、ポリペプチドが得られた細胞のプロテオーム写像を提供する。複数の異なる細胞のプロテオーム写像は、これら細胞内で異なった形で表されるポリペプチドを同定するために比較される。他の実施形態では、細胞は様々な処置を受けさせられ、様々な状態にさせられ、又は様々な供給源から抽出され、それによって生成されたプロテオーム写像が、細胞の状態によって異なったタンパク質発現を映し出す。
【0074】
本発明の一部の実施形態では、濃縮器は、濃縮物をマイクロチャネルから廃棄用容器に送るための装置を含み得る。
【0075】
一実施形態では、本発明は、濃縮器を少なくとも10,000倍まで拡大可能なアレイアーキテクチャを備え、画面上に適切に映し出すようにする。
【0076】
一実施形態では、公知の比率で濃縮器に導入された、ラベル付けされたタンパク質又はポリペプチドを使用して、ラベル付けされた濃縮タンパク質又はポリペプチドを検出することによって濃縮効率が決定され得る。その実施例は後述する。信号強度は、暗騒音を越えるものを時間の関数として測定したものである。
【0077】
一実施形態では、本発明の濃縮器は、物理化学パラメータで調整されるようにすることもでき、そのようなパラメータには、温度、pH値、塩濃度、又はその組み合わせを含む。
【0078】
一実施形態では、ナノチャネルを、荷電ゲル又はランダムに孔が開いたナノ多孔性材料と置換し、荷電群がナノ多孔性材料に埋め込まれるようにする。一実施形態では、本発明のこの形態において、荷電ゲル又はナノ多孔性材料は、同程度の大きさの孔を有していて良い。本発明のこの形態では、本明細書に記載及び例示したナノチャネル内に形成される空間電荷層と同様の空間電荷層が、荷電ゲル又はランダムに孔が開いたナノ多孔性材料中に生成される。ナノチャネル内に誘起される電場と同様の電場が、ナノ多孔性の荷電ゲル又は荷電材料中に誘起される。
【0079】
一実施形態では、本発明は、液体中の対象種を濃縮する方法を提供し、それには本発明の装置を使用することも含む。
【0080】
一実施形態では、本発明は、本発明の装置を備えるマイクロ流体ポンプを提供する。一実施形態では、液体の流速は、10μm/秒乃至10mm/秒である。
【0081】
一実施形態では、本発明は、液体中の対象種を濃縮する方法を提供し、その方法は、対象種を含む液体を、前記液体の供給源から、ナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備える濃縮装置に導入するステップと、前記ナノチャネル内に電場を誘起して、前記ナノチャネルと接続した前記マイクロチャネルの領域内にイオン欠乏を発生させ、前記対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層を形成するステップと、前記マイクロチャネル内に液体の流れを発生させるステップとを含む。
【0082】
一実施形態では、その流れは電気浸透流であり、別の実施形態では、マイクロチャネル内の電場の誘起によって、マイクロチャネル内に電気浸透流を発生させる。別の実施形態では、その流れは圧力駆動流である。
【0083】
一実施形態では、細いナノ流体チャネル内において、デバイ層(Debye layer)内で、イオン電流の選択的透過が対イオンによって引き起こされ、その選択的透過された部分のイオン電流は、ナノチャネルの中を流れる全イオン電流と比較して、無視することができないものである。従って、電場が与えられると、共イオンより多くの対イオン(デバイ層から)がナノチャネルに移動し、陽極側から陰極側への電荷(対イオン)の純移転及び濃度分極効果をもたらす。(図2)。本発明のこの実施形態では、ナノ流体チャネル付近のイオン欠乏層が、デバイ層を厚くさせ、ナノ流体チャネル内においてその重なりがより大きなものとなるようにし、濃度分極効果を加速する。そして、所定のしきい値Eを越えると、後述の説明のように、第2次の電気浸透流をもたらす。
【0084】
本発明のこの形態では、ナノ流体チャネルからの対イオン欠乏、及びマイクロチャネル内のバルク溶液中の拡張空間電荷層の生成が、この領域において共イオンの移動を防止する。一実施形態では、電場(E及びE)を制御して、2つの力(空間電荷層からのアニオン反発力対容器からの非線形の電気浸透流)のバランスを取るようにし、その界面を安定化させる、本発明のこの形態では、その場にてアニオン性の対象種がトラップされる及び収集される。
【0085】
一実施形態では、等しい電圧が、マイクロチャネルの陽極側及び陰極側に印加される、或いは別の実施形態では、マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側に印加される電圧と比較して、より大きい電圧が印加される。別の実施形態では、空間電荷層は、前記マイクロチャネルの陽極側に前記より大きい電圧を印加する前に、マイクロチャネル内に生成される。
【0086】
一実施形態では、液体は溶液である。別の実施形態では、液体は、懸濁液であり、それは、別の実施形態では、臓器ホモジネート、細胞抽出物又は血液試料である。一実施形態では、対象種には、タンパク質、ポリペプチド、核酸、ウイルス粒子又はその組み合わせを含む。一実施形態では、対象種は、細胞内にみられる又は細胞から排出されるタンパク質、核酸、ウイルス又はウイルス粒子であり、別の実施形態では、タンパク質の量の10%にも満たない極少量の、細胞のタンパク質抽出物から抽出されるものである。
【0087】
一実施形態では、本発明の方法及び本発明の装置は、比較的大きな検体量(〜1μL又はそれ以上)から分子の収集をすることができ、それらを少量(1pL〜1nL)に濃縮することができる。その濃縮された試料は、他の実施形態では、検体容量の少ないマイクロ流体生体分子選別/検出システム全体の検出感度を犠牲にすることなく、マイクロ流体システムによって、効率的に選別、分離又は検出を行うことができる。
【0088】
一実施形態では、本発明の方法及び濃縮装置は、分子の信号強度を著しく増大させた後に検出を行えるようにし、別の実施形態では、マイナーなタンパク質又はペプチドなどの微量濃度の分子の検出能を犠牲にすることなく、試料から、よりアグレッシブな分子選別及び/又はタンパク質などの存在量の多い分子の除去を行えるようにする。
【0089】
別の実施形態では、本発明の濃縮のための装置及び方法は、複数のラベル付けを行わない検出法(例えば、UV吸着)に使用することも可能である。それらは従来のマイクロ流体チャネルの経路長が短く、内部体積が少ないために使用不可能であった。従って、別の実施形態では、本発明の濃縮のための装置及び方法は、濃縮及び分子選別を組み合わせたものであり、バイオマーカ検出、環境解析、及び化学物質−生物製剤検出のための統合マイクロシステムに理想的なプラットフォームを提供するものである。
【0090】
一実施形態では、その方法は、対象種を装置から放出するステップをさらに含む。一実施形態では、その方法は、対象種にキャピラリー電気泳動を受けさせるステップをさらに含む。
【0091】
キャピラリー電気泳動は、試料の構成要素を分離させるため、分子の電気泳動特性及び/又は小さなキャピラリー管内の試料の電気浸透流を活用する手法である。一般的には、100μm以下の内径の溶融石英キャピラリーが、電解液を含む緩衝溶液で満たされる。キャピラリーの各端部には、電解液を含む緩衝溶液を貯留する流体用容器が個別に配置される。電位差が緩衝液の容器の一方に与えられ、第2の電位差がもう一方の緩衝液の容器に与えられる。陽性及び陰性荷電種は、緩衝液の容器に与えられた2つの電位差によって形成された電場の影響により、キャピラリーの中を互いに反対方向に移動する。流体の各構成要素の電気浸透流及び電気泳動移動度は、流体の各構成要素に対して全体的な移動量を決定する。電気浸透流がもたらす流体の流れの形状は、分離チャネルの壁に沿って摩擦抵抗で変形するためフラットな形状をしている。測定された移動度は、電気浸透流及び電気泳動の移動度を合計したものであり、測定された速度は、電気浸透流及び電気泳動の速度を合計したものである。
【0092】
本発明の一実施形態では、キャピラリー電気泳動システムは、装置に取り付けられるマイクロマシンであり、本明細書に記載された濃縮装置の一部、又は分離したものである。装置に取り付けられるキャピラリー電気泳動システムをマイクロマシニングする方法は、当業者にはよく知られており、例えば、米国特許第6,274,089号、同第6,271,021号、Effenhauser et al., 1993, Anal. Chem. 65: 2637-2642、Harrison et al., 1993, Science 261: 895-897、Jacobson et al., 1994, Anal. Chem. 66:1107-1113、及びJacobson et al., 1994, Anal. Chem. 66: 1114-1118などに記載されている。
【0093】
一実施形態では、キャピラリー電気泳動による分離は、MALDI−MS及び/又はESI−MS/MSに基づくタンパク質解析の両者に使用し得る試料を提供する(例えば、Feng et al., 2000, Journal of the American Society For Mass Spectrometry 11: 94-99、Koziel, New Orleans, La. 2000、Khandurina et al., 1999, Analytical Chemistry 71: 1815-1819を参照されたい)。
【0094】
他の実施形態では、本発明の濃縮器と相互作用する下流側の分離装置には、以下のものに限定するわけではないが、逆相カラム、イオン交換カラム、及び親和性カラムなどの高性能小型液体クロマトグラフィーカラムを含む。
【0095】
濃縮装置の下流側に接続される様々なシステム、装置などの正確な構成は本発明の一部であり、その構造は、所望の用途に適したものとなるように様々に変化し得ることを理解されたい。一実施形態では、濃縮装置の下流側に配置された、濃縮されたペプチドを分離するためのモジュールは、分離媒体及びその端部の間に電場が与えられるキャピラリーを含むものである。キャピラリーシステム内の分離媒体の移動、及び被検試料(例えば、ペプチド及び/又は部分的に消化されたポリペプチドを含む試料バンド)の分離媒体への注入は、ポンプ及びバルブを利用して実行される、或いは別の実施形態では、キャピラリーの様々な位置に与えられる電場によって実行される。
【0096】
別の実施形態では、その方法は、対象種が液体中に検出下限より低い濃度で存在するとき、前記対象種を検出するように用いられる。
【0097】
例示のように(図3)、装置に貯留された33pMの緑色蛍光タンパク質(GFP)の溶液は、蛍光顕微鏡検査法で測定すると、検出下限を下回っていた。上述したような溶液の濃縮により、33pMのGFPを検出することができた。33fMのさらに低濃度のGFPタンパク質溶液は、約3時間以上観測して、10〜10の桁の濃縮係数を得ることができた。
【0098】
一実施形態では、濃縮速度は高速である。後述するように、10倍の濃度のGFP溶液が、1時間以内に得られた。濃縮されたプラグのおおよその体積は、約0.5pL(〜1.5μm×20μm×20μm)であるため、濃縮装置は1μLぐらいの液体量の試料をチャネルを介してポンプを使用して送り込み、その量の液体からGFPをトラップする。本実施例では、濃縮時間は最大で10秒であったことから、試料の平均流速は1mm/秒と同じぐらいの速さであろう。
【0099】
別の実施形態では、本発明は、システム内の液体の流れを制御するための方法を提供する。その方法は、荷電種又は中性種を含む液体を、前記液体の供給源から前記システム内のナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備えるポンプ装置に供給するステップと、前記ナノチャネル内に電場を誘起して、前記ナノチャネルと接続した前記マイクロチャネルの領域内にイオン欠乏を発生させ、前記対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層を形成するステップと、前記マイクロチャネル内に電場を誘起することによって、前記マイクロチャネル内に電気浸透流を発生させるステップとを含むものであり、前記電気浸透流は、前記液体を前記装置にさらに導入するものであり、前記電場の強度によって制御されるものである。
【0100】
液体の流れを制御する方法には、幅広い分野において多数の方法があることは、当業者には明らかであろう。一実施形態では、液体の流れを制御する方法及び/又は対象種を濃縮する方法は、バイオセンサ装置に用いられる。一実施形態では、マイクロ流体システム内の容器への及び容器からの試料及び様々な反応物質の流れ及び混合が必要なバイオセンサにとって、液体の流れの制御は必須である。別の実施形態では、検出のために少量の対象種を濃縮することは、バイオセンサ装置の重要な要素である。一実施形態では、その方法は、潜伏又は胞子状態の有機体を検出するのに特に有用であり、それ以外の方法では有機体の検出は困難である。
【0101】
他の実施形態では、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の方法を様々なものに適用することができる。例えば、流体の流れを制御する方法では、複数のマイクロチャネルが、流体の流れが中央の容器に向かうように配置することもでき、中央の容器に追加のマイクロチャネルを接続することもできる。この形態では、流体は容器に入るとすぐに混合され、さらに次の操作を実行するために、第2の一連のマイクロチャネルを通過し、それらに接続された別の容器までポンプを使用して移動させられる。本発明のポンピング方法は、水及び生体液を含む様々な種類の流体に使用できることを理解されたい。
【0102】
本発明の濃縮及びポンピング方法の実施例を用いることによって、本発明の装置と直接相互作用し、対象種を濃縮する及び/又は液体をポンピングするようなハイスループットの自動アッセイシステムが可能になる。
【0103】
本発明を実行するための様々なモードは、特許請求の範囲に記載の本発明の対象を明確に主張する請求項の範囲内に含まれるものである。
【実施例】
【0104】
材料及び方法
【0105】
装置の作成
【0106】
作成手法は、以下の文献で既に説明されたものである(J. Han, H. G. Craighead, J. Vac. ScL Technol, A 17, 2142-2147 (1999)、J. Han, H. G. Craighead, Science 288, 1026-1029 (2000))。2つの反応性イオンエッチングを使用した。標準的なリソグラフィーツールで、5〜20μm幅のナノチャネルをパターニングした後、第1の反応性イオンエッチング(RIE)が、40nmのナノチャネルをエッチングするために約10秒間実施され、第2のエッチングで、ナノフィルタと交わる、2つの平行な1.5μmのマイクロ流体チャネルを作成した。奥行きが30乃至70nmのナノフィルタは、緩衝液濃縮及びチャネルの奥行きの効果を示すために作られた。RIEエッチングの終了後、KOHエッチングを用いて挿入孔をエッチングした。窒化物を除去した後に、適切な電気絶縁を提供する熱酸化を実施した。次に、装置の底面を、標準的な陽極結合手法を用いて、パイレックス(登録商標)製のウエハに接着した。
【0107】
生体分子及び試薬の準備
【0108】
pH9.1の10mMのリン酸緩衝液(第二リン酸ナトリウム)が主に使用され、細菌の増殖を防ぐために10μMのEDTAが加えられた。良好な前濃縮が、pH4.6の10mMのリン酸緩衝液の条件の下で示された。pH3.5の10mMの緩衝酢酸溶液、及び1X TBE緩衝液(〜80mM)の条件では、著しい前濃縮の効果はなかった。
【0109】
10mMのリン酸緩衝液の条件の下では、50nmより大きい奥行きのチャネル内で分極効果は観測されなかった。それは恐らく、低pH値(表面イオン化が抑制された)又は強すぎる緩衝液のイオン強度(デバイ長が短いためにナノフィルタの選択的透過性が低くなった)によるものである。使用した分子及びダイには、rGFP(BD bioscience, Palo Alto, CA)、FITC−BSA(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)、HTC−オボアルブミン(Molecular Probes, Eugene, OR)、FITC−BSA(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)、FITCダイ(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)、Mito Orange(Molecular Probes, Eugene, OR)、及びラムダDNA(500μg/ml)が含まれる。DNA分子は、使用説明書に従って、YOYO−1挿入ダイ(Molecular Probles, Eugene, OR)でラベル付けした。
【0110】
また、NH−GCEHH−COOH(SEQ ID NO:1)(pI4.08)ペプチド分子は、マサチューセッツ工科大学のバイオポリマ研究所にて合成し、チオール接合ダイでラベル付けした。その方法は、次のようなものである。HPLC精製ペプチド試料を、まず原液として、10mMのペプチド濃縮溶液(pH7.4の0.1Mのリン酸緩衝液)に再構成し、次に1mMまで希釈した。希釈された原液は、10mMのTCEP(Molecular Probes, Eugene, OR)及び5−TMRIAダイ(Molecular Probes, Eugene, OR)と、1対1の比率で混合した。24時間、4℃で反応が行われるようにし、光への露出を遮断するようにした。続いて、100mMの2−メルカプトエタノール(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を加えて非反応ダイを処理し、小型透析キット(Amersham Bioscience, Piscataway, NJ)を用いて1kDaのカットオフ値で透析した。
【0111】
光学的検出の設定
【0112】
全ての実験は、蛍光励起光源が取り付けられた倒立顕微鏡(IX−71)で実施した。熱電冷却式のCCDカメラ(Cooke Co., Auburn Hill, MI)を、蛍光画像検出用に使用した。画像の配列は、IPLab3.6(Scanalytics, Fairfax, VA)によって解析した。自家製の電圧分割器を、異なる電位を容器に分配するために使用した。備え付けの100Wの水銀ランプを光源として使用し、減光フィルタを利用して光強度を減少させ、検出のダイナミックレンジを広げた。
【0113】
分子濃縮の定量化
【0114】
チャネル内の分子濃縮の定量化を、図Xで示す。装置は、検出用のCCDアレイを飽和させる試料プラグを生成することができるため、少なくとも12%透過が可能な減光フィルタ(Olympus、32ND12)を70%開口で用いて(これは正しいか? 正しい)(50%透過)、励起光強度を減少させた。光強度を0.6%に減少させることによって、検出器のダイナミックレンジを広げ、その一方で、退色の速度を遅くさせた。
【0115】
チャネルを3.3μM及び0.33μMのGFP溶液で満たし、チャネル内の溶液からの蛍光信号を測定した。カメラのシャッタは、収集された分子の退色を最小限にするために、周期的な露光(〜1秒)時のみ開くようにした。
【0116】
タンパク質の非特定結合を防止するために、新たに作成された装置及び新たに充填された装置を用いるのに加えて、各実験の前後に、壁についた蛍光タンパク質の非特定結合に起因する残存蛍光物質を完全に消滅させるのに十分な時間をかけて、チップをレーザに露出させ、キャリーオーバ効果を排除した。
【0117】
コーティングされたチャネル内の前濃縮
【0118】
未処理のシリカ表面への試料の吸着を防止するために、標準的なポリアクリルアミドコーティング(S. Hjerten, J. Chromatogr. 347, 191-198 (1985))を塗布した。接着促進剤として、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリル樹脂を、装置にコーティングした。次に、5%のポリアクリルアミド溶液を、0.2%のVA−086光開始剤(WAKO, Richmond, VA)と混合し、重合を開始させるためにUVランプを5分間あてた。コーティングの後、装置に目立った吸着はなかった。ポリアクリルアミドのコーティング加工は、表面電位及び表面電荷密度を減らすことを期待されていたが、より大きな作動電位を加えることによって、誘電分極及び試料のトラッピングパターンが同様に観測された(効率は悪いが)。その効率の悪さは、緩衝液のイオン強度をさらに低くすることによって克服された。
【0119】
様々な状態の緩衝液による前濃縮
【0120】
様々な状態の緩衝液に対する装置の適応性を示すため、装置を様々なpH値(5〜9)の濃縮緩衝液、様々な緩衝溶液及び様々なイオン強度で評価した。一般的なプロテオミクス調査環境で、ポリアクリルアミドゲルスライスから直接もたらされる抽出溶液を用いて、還元、アルキル化、トリプシン化、及びペプチド分離を実施した後、バイオ試料を使用して装置内のゲル電気泳動から直接シミュレートを行って、装置の動作もテストした。タンパク質を含まず、少量の塩及び小さな分子を含んだ抽出溶液は、試料又は電気泳動緩衝液(トリス、グリシン、ドデシル硫酸ナトリウム、グリセロール、ジチオスレイトール、潜在的なケラチン汚染物質)からのゲル内、染色液(クマシーブルー)からのゲル内、及び/又は、還元及びアルキル化ステップ(トリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィン塩酸塩、ヨードアセトアミド、重炭酸アンモニウム)からのゲル内に存在していた。超音波処理による抽出は、20μLの20%のギ酸による酵素不活性化に続いて、トリプシン溶液(60μL;10ng/μLのトリプシン及び/又は重炭酸アンモニウム緩衝液内のトリプシンペプチド)で実行した。この抽出溶液は、スピードバック内で収集及び濃縮を行った。超音波処理による抽出は、200μLの100mMの重炭酸アンモニウム、水中の0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)、アセトニトリルと水の比率が50:50の水中に含まれる0.1%のTFA(これは2回実施)を用いて連続的に実施した。抽出溶液がスピードバックに収集されると、前のステップからの抽出溶液とともに貯留され、略10μLになるまで濃縮される。次に、この複合溶液は、ラベル付けされたGFP分子を加えて、「試料緩衝液」として使用した。前濃縮ステップでは、シミュレートされた試料溶液は、10mMのリン酸緩衝液(比率1:9)で希釈し、チャネルに導入した。
【0121】
実施例1
【0122】
電気浸透流及び動電学的なトラップを介した荷電種の濃縮
【0123】
生体分子は、装置内で効率的に濃縮される。装置は、装置のチャネル内で発生する非線形の電気浸透流(通常の電気浸透流よりも強い流れ)を提供し、装置内に誘起された空間電荷層で発生した分子に対するエネルギ障壁と組み合わさって、生体分子を高流速で「トラップ領域」まで送る。これら2つの現象の組み合わせは、装置のマイクロ流体チャネル内で、例えば、タンパク質及びペプチドなどの荷電した生体分子の迅速な濃縮をもたらし、様々な物理的な障壁又は試薬を用いることなく、最大で10〜10倍の濃度にする。
【0124】
装置の一実施形態を、図1A及び1Bに図式的に示す。1つ又は複数の細いナノ流体チャネル(1−10)が、少なくとも2つのマイクロ流体チャネル(1−20)と接続している。ナノ流体チャネルは、一般的に厚さが50nm未満である。2つの電場が別々に装置に与えられ、独立して制御されることを図1Bに示す。ナノ流体チャネル(E)内の電場は、アニオン性の生体分子をトラップするイオン欠乏領域及び拡張空間電荷層を発生させるために用いられる。ナノ流体チャネル内の電場の接線方向に誘起される、マイクロ流体チャネルの陽極側の、マイクロ流体チャネル内の電場(E)は、電気浸透流を発生させ、分子を容器(1−30)からトラップ領域(1−40)まで送る。
【0125】
装置の別の実施形態を、図2に図式的に示す。1つのナノ流体チャネル(2−10)が、2つのマイクロ流体チャネル(2−20)と接続している。図示のとおり、電極(2−30)を利用して電場が装置に与えられる。ナノ流体チャネル(E)内の電場は、アニオン性の生体分子をトラップするイオン欠乏領域及び拡張空間電荷層を発生させるために用いられる。ナノ流体チャネル内の電場の接線方向に誘起される、マイクロ流体チャネルの陽極側の、マイクロ流体チャネル内の電場(E)は、電気浸透流を発生させ、分子を試料容器(2−40)からマイクロチャネル内のトラップ領域まで送る。試料容器は、流体中に懸濁した又は可溶化した試料を収容する。マイクロチャネルと接続する、緩衝液が入ったその他の容器は、図中では(2−50)として示す。ただし、本明細書では、廃棄用容器、収集手段などとしていくつかの機能を記載している。
【0126】
上述したように、標準的なフォトリソグラフィー及び反応性イオンエッチング技術を利用して装置を作成した。ナノ流体チャネルの構造の厚さ及び均一性は、電子顕微鏡写真をスキャンすることによって確認された。その作成技術を利用して、チャネルを著しく変形させることなく又はつぶれさせることなく、20nmの細さのナノ流体チャネルを作成した(データは示さず)。
【0127】
ナノ流体チャネル(50nmまでの厚さ)は、イオン電流の選択的透過を支持することができ、それはイオン交換膜で発生するものと同様なものである。そのような細いナノ流体チャネル内では、デバイ層内で、イオン電流の選択的透過が対イオンによって引き起こされ、その選択的透過された部分のイオン電流は、ナノチャネルの中を流れる全イオン電流と比較して、無視することができないものである。従って、電場が与えられると、共イオンよりも多くの対イオン(デバイ層から)が、ナノチャネル内を移動する(図3)。これにより、電荷(対イオン)の陽極側から陰極側への純移転をもたらし、濃度分極効果のため、陰極側の全イオン濃度が減少する(図3)。
【0128】
ナノ流体チャネル付近でのイオン欠乏(濃度分極に起因するもの)は、デバイ層を厚くさせ、ナノ流体チャネル内でさらにその重なりが大きなものとなるようにし、濃度分極を加速させる。所定のしきい値Eを越えると、チャネルを移動するイオンの移動は、新たな非線形の形態(第2の動電学的な現象)に入る。それは、これまでイオン交換膜で行われてきたものである。この形態(図3C)では、対イオンがナノ流体チャネルから欠乏し、拡張空間電荷層(電気二重層(electrical double layer)が誘起されたもの)が、この場合ナノ流体チャネルの付近に、マイクロ流体チャネル内のバルク溶液中に形成される。この誘起された電気二重層内では、電気的中性が局所的に破壊され(これら電荷は、ナノチャネル内の固定表面電荷をスクリーニングする)、共イオンの負電位はデバイ層内にあるような負電位のため、この領域から共イオン(生体分子)が排除される。
【0129】
その誘起された可動イオン層は、電場(E)にその接線方向の成分が与えられると、強い電気浸透流を発生させるようにすることもできる(図3D)。慎重に電場(E及びE)を制御することによって、2つの力(空間電荷層からのアニオンの反発力対容器からの非線形の電気浸透流)のバランスを保つようにすることができ、その界面を安定させる。この界面は、アニオン性の生体分子がトラップされる及び収集されるところである。
【0130】
非線形の電気浸透流は、電場の非線形関数(この場合、〜E)の流速を有する。通常の電気浸透流(デバイ層の表面電荷に起因するもの)と比較して、より強い電気浸透流の流速を発生させることもできる(一般的には、10〜100倍の速さ)。荷電膜のビーズを用いるその他のものは、第2種の電気浸透現象の発生を示したが、その流れは、強いけれども制御できない渦流を、混合を高速に行うために使用された膜付近で発生させた。そのようなシステムにおいて、拡張空間電荷層が不安定で、非平衡な状態では、無秩序な又は振動するようなイオン移動行動が生じる。
【0131】
以前の報告とは対照的に、本発明の電気浸透現象は適切に制御された。それは、電荷選択的な界面で発生したソリッドステートのナノ流体が安定しているからであり、また、それは濃縮効率にも貢献した。
【0132】
実施例2
【0133】
電気浸透流及び動電学的なトラップを介したタンパク質濃縮
【0134】
図4は、チャネル内の分子濃縮の定量化に用いられる方法を示す。実施例の装置は、検出用のCCDアレイを飽和させる試料プラグを生成することができるため、減光フィルタを使用することもある。収集されたGFPタンパク質プラグの濃度は、チャネル内の分子からの蛍光信号を測定することによって推定した。チャネルを3.3μM及び0.33μMのGFP溶液で満たして、0.33μMのGFP溶液をわずかに検出した(図4C)。分子の前濃縮の後に、2つの強度のレベルを、特定の強度のレベルと比較した(図4D)。
【0135】
図5は、実施例の装置の安定性及び性能を示す。図5A〜図5Cでは、33pMのGFP(緑色蛍光タンパク質)の溶液を試料容器に導入し、蛍光顕微鏡検査法によって、結果としてトラップされたタンパク質のピークを観測した。タンパク質濃縮は、長期間(数時間)にわたって安定的に維持され、100万を越える濃縮係数を可能にした。図5D及び図5Eは、略3時間の間に観測された、33nM、33pM及び33fMのGFPタンパク質希釈溶液の濃度を示す。実施例の装置では、10〜10倍のタンパク質の濃度を得た。プラグの濃度が高いとき(〜1μM)、収集速度は遅くなる。これは恐らく、チャネル表面での過度のタンパク質の非特定結合に原因がある。
【0136】
実施例の装置の濃縮速度は高速であった。10倍の濃縮を1時間以内に得た。濃縮プラグのおおよその体積は、約0.5pL(〜1.5μm×20μm×20μm)であることから、実施例の装置は、最大で1μLの体積の液体試料をチャネルを介してポンプを使用して送り込み、その体積の液体試料からGFPをトラップした。本実験における10秒までの濃縮時間においては、試料の平均流速は、1mm/秒に達するような高速なものであり、これは通常の電気浸透流(一次)では得ることができない速度である。通常の電気浸透流は、本実験で用いるような電場(〜10V/cm)では、最大でも10〜100μm/秒までの速さにしかならない。迅速な収集(及び迅速な試料流体のポンピング)は、二次運動による電気浸透現象の発生によってのみ説明することができる。電場(E)によって、マイクロチャネル内に空間電荷層が誘起され、その電場の接線方向にある電場(E)は、これら誘起された空間電荷層を陰極側の容器に移動させる。したがって、本明細書に記載の前濃縮器は、分子をトラップするだけではなく、試料液体を極めて効率よく送り込むことができる。試料の濃縮に加えて、実施例の装置は、マイクロ流体のポンプ装置として機能しても良く、それは電気浸透流(動電学的な)によるポンピングよりも効率的であり、交流(AC)の動電学的なポンピングより簡単に実行することができる。
【0137】
実施例の装置を用いて生体分子濃縮を評価するためのその他の条件には、使用する緩衝液のイオン強度を変化させることを含む。緩衝液のイオン強度が減少すると、前濃縮の効率は改善されるため、緩衝液の状態が10mMのリン酸であっても作用させることができる。
【0138】
ナノ流体チャネルの厚さ、及び/又は緩衝液のイオン強度或いは組成を変化させて評価することも行った(データは示さず)。一般に、ナノ流体チャネルの厚さの増加と、実施例の装置の作動に必要な緩衝液のイオン強度は反比例する。
【0139】
さらに、所定装置のナノフィルタの大きさ及び数量を変化させると、装置の濃縮効率に影響を及ぼす。それは、システム内に様々な電場が分布しているためである。
【0140】
溶液中のタンパク質(図4)、合成ペプチド(図5)、蛍光ダイ、及び蛍光ビーズを濃縮する際の、実施例の装置の能力をテストした(データは示さず)。さらに、装置の表面を、生体分子の非特定結合を防止するためのポリアクリルアミドポリマでコーティングした装置の動作もテストした。全ての場合において、与えられた異なる条件を関数として変化する濃縮速度にて、分子のトラップを達成した。
【0141】
このことは、さらなる統合に向けて、装置のフレキシビリティ及び適応性を明確に示している。ゲル電気泳動のゲル内消化から直接得られる複合溶液(高イオン強度で、複数の有機溶媒を含む)でさえ、10mMのリン酸緩衝液で希釈した後に使用することができる。このことは、ゲル電気泳動又はその他の従来の精製法(高イオン強度の緩衝液を用いるもの)から直接得られる試料を、前濃縮装置に使用することができるという可能性を広げる。
【0142】
実施例3
【0143】
電気浸透流及び動電学的なトラップによって濃縮されたタンパク質の解析
【0144】
実施例の装置における分子のトラップは、Eを排除することで止めることができる。緩衝溶液は、電場がなくなるとすぐに、イオンバランスを取り直すことが求められる。収集されたピークは、電場がなくなると、すぐに元のピーク幅の約2倍まで分散されるが、それ以上の分散は観測されなかった。したがって、実施例の装置で発生した分子プラグは、電場(電気泳動)又は圧力駆動流のどちらを用いても、容易に調節することができる。図6は、実施例の装置によって収集された2つのタンパク種のキャピラリー電気泳動を示す。その結果は、実施例の装置及び下流側の解析ツール、ここでは、自由溶液中のキャピラリー電気泳動の効率的な結合を示す。
【0145】
実施例4
【0146】
空間電荷領域の安定性を向上させる緩衝液の状態の調節
【0147】
本発明の装置は、緩衝液の状態を調節することによって、空間電荷領域をさらに安定させることが可能である(図7)。一実施形態では、装置は2つの又は一連の2つのマイクロチャネルを含み、各々のマイクロチャネルはナノチャネルによって接続されている。この実施形態では、時間とともに、上側マイクロチャネル(7−10)内のイオン欠乏が、下側マイクロチャネル(7−20)内のイオン濃縮をもたらすため、分離処理が長期間実施されることにより、下側マイクロ流体チャネル内の緩衝液の濃縮を促進させる。一実施形態では、特に、ナノチャネル(7−30)に最も近接した部分が影響を受ける。時間とともに、ナノ流体チャネルのイオン選択性が弱まり、上側チャネル内のイオン欠乏が不安定になるという結果をもたらし得る。しかしながら、低濃度の緩衝液を、その供給源から、電気浸透流によって、或いは別の実施形態では、圧力駆動流によって、一実施形態では、所定期間毎に供給する、別の実施形態では、又は継続的に供給することが可能である。
【0148】
実施例5
【0149】
空間電荷領域の安定性を向上させられるチャネルの特定の配置
【0150】
本発明の別の実施形態では、ナノ流体チャネル(8−10)を、マイクロチャネルと流体連通するようにして、マイクロチャネル(8−20)の両側に配置することによって、材料の前濃縮を促進する。なぜなら、イオン欠乏はマイクロチャネル及びナノチャネルの界面で発生するものであり、1つのナノチャネルだけがマイクロチャネルに近接して存在しているとき、分離が行われる前に、イオン欠乏がマイクロ流体チャネルの全長にわたって広がらなくてはならないからである。図8で示すように、マイクロチャネルの両側にナノチャネルを配置することは、迅速で、より十分なイオン欠乏(8−30)をもたらし、いくつかの実施形態では、より安定した空間電荷領域をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】タンパク質濃縮装置の実施形態を図式的に示す図である。(A)装置の実施形態のレイアウト図である。(B)タンパク質濃縮装置の実施形態の、図1(A)において点線で囲んだ領域を拡大した概略図である。マイクロチャネル(1−20)に対するナノチャネル(1−10)の配置を示す。所定電圧を印加することによって、図に示すとおり、トラップ領域(1−40)及び欠乏領域(1−50)を形成させ、最終的に、試料容器(1−30)から流体の電気浸透流(EOF)を流しやすくする。Eはイオン欠乏領域を横断するように与えられる電場であり、Eはマイクロフィルタと交わるナノフィルタの電場である。
【図2】タンパク質濃縮装置の実施形態を図式的に示す図である。ナノ流体チャネル(2−10)が2つのマイクロ流体チャネル(2−20)と接続している。図のように、電極(2−30)を用いて装置に電場が与えられる。上述したように、分子は試料容器(2−40)から装置に送り込まれる。マイクロチャネル(2−50)と接続する、緩衝液が入ったその他の容器を図示している。
【図3】装置内の荷電種の濃縮のメカニズムの実施形態を図式的に示す図である。(A)ナノフィルタ(E)に小さな電場が与えられているとき、濃縮分極効果は観測されない。(B)Eが大きくなると、イオンの移動は拡散が支配的になり、イオン欠乏層を生成する。しかしながら、その領域は電気的中性を維持する。(C)強い電場(E)が与えられるとすぐに、ナノチャネルは誘起された空間電荷層を成長させるため、電気的中性が維持されなくなる。(D)マイクロ流体チャネルの陽極側に、そのチャネルに沿って追加の電場(E)を与えることによって(VからVまで)、非線形の界面動電駆動流(第2の電気浸透流と呼ぶ)を発生させ、誘起された空間電荷層に向かって迅速に生体分子を集積させる。
【図4】チャネル内の濃縮されたタンパク質(GFP)の蛍光画像を示す図である。(A)GFPの濃縮はナノフィルタ付近で発生している。当初33pMのGFP溶液を導入し、試料の収集を50分間行った後に得られた画像である。マイクロチャネル(幅20μm、奥行き1μm)はグレーの線で示し、ナノフィルタは固形体のブロック(奥行き40nm)で示している。(B)ノイズレベルよりも下にある、当初の濃度(33pMのGFP溶液)でのチャネルの蛍光信号のプロフィールである。(C)CCD検出装置ではほとんど検出できない、濃度が0.33μMのGFPのチャネルの蛍光信号のプロフィールである。(D)図2Aのチャネル内の濃縮されたGFPの蛍光信号のプロフィールである。プラグの濃度は、図4Cのプラグの濃度よりも高い。
【図5】装置の一実施形態の安定性及び効率を示す図である。(A)実施例の装置の上側マイクロ流体チャネルに33pMのGFP試料を導入したすぐ後に得られた蛍光画像である。(B)V=10V、V=5V、及びVB=VB=0Vを25分間印加した後に得られた画像である。(C)容器に同電位を与えてから100分後に得られた画像である。(D)3つの異なる濃度のGFP希釈溶液の、収集されたGFPプラグの局所的な濃度をプロットしたグラフである。(E)図5Dの33fMのGFPの実験を拡大したグラフである。少なくとも10倍の濃度を40分以内に達成したことを示している。
【図6】収集された生体分子の放出を示す図である。(A)濃縮及び放出(キャピラリー電気泳動)ステップ中に容器に印加された電圧を示す概略図である。(B)0〜250秒までは、廃棄用チャネルを設け、フィルタに電圧を印加して、トラップ現象を引き起こす。それによって、下流側に配置された検出器が、CCDアレイから暗騒音だけを読み出す。0〜30秒までの状態を示す信号は、検出器及びナノフィルタ間(約10mm)から放出された33pMのGFP溶液から得られた信号である。各ステップの詳細を示すため、減光フィルタは使用しなかった。濃度がpMレベルのGFP試料は、検出範囲に入っている。250秒後、上側チャネル内に収集された分子を放出するように、それらを廃棄用チャネルから流した。(C)蛍光標識を付けたペプチド試料の収集及び放出である。使用するCCDアレイを飽和させる、極めてシャープな試料プラグが形成された(500秒で1000倍を越える前濃縮をしたもの)。(D)5分間一緒に収集してから放出した(放った)、2つの異なるタンパク質のキャピラリー電気泳動による分離を示すグラフである。
【図7】。
【図8】。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮装置であって、
少なくとも1つのマイクロチャネルと、
少なくとも1つのナノチャネルと、
前記ナノチャネル内に電場を誘起させるためのユニットと、
前記マイクロチャネル内に界面動電駆動流又は圧力駆動流を発生させるためのユニットと、
対象種を含む液体がその中を流れることができるようにした導管とを備え、
前記マイクロチャネルは前記ナノチャネルと接続し、前記導管は前記マイクロチャネルと接続していることを特徴とする装置。
【請求項2】
対象種を含む液体を前記装置に導入し、前記ナノチャネル内及び前記マイクロチャネル内に前記電場を別個に誘起させることによって、前記対象種が前記マイクロチャネル内で濃縮されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ナノチャネル内、前記マイクロチャネル内、又はその組み合わせにおいて、前記電場を誘起させるための前記手段は電源であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電源によって印加される電圧は、50mV乃至500Vであることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記電源が、前記マイクロチャネルの陽極側及び陰極側に等しい電圧を印加するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記電源が、前記マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側に印加する電圧と比較して、より大きな電圧を印加するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記マイクロチャネルの幅は、1〜100μmの間であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記マイクロチャネルの奥行きは、0.5〜50μmの間であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ナノチャネルの幅は、1μm〜50μmの間であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記ナノチャネルの奥行きは、20〜100ナノメートルの間であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記マイクロチャネルの表面が、前記表面への前記対象種の吸着を減少させる又は促進させるような機能性を有するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記ナノチャネル及び/又は前記マイクロチャネルの表面が、前記装置の動作効率を高める又は下げるような機能性を有するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記装置の動作効率を高める又は下げるように、外部ゲート電位が前記装置の基質に与えられることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記マイクロチャネル、前記ナノチャネル又はその組み合わせは、リソグラフィー及びエッチング加工によって前記装置内に形成されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記装置は、透明な材料からなることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記透明な材料は、パイレックス(登録商標)、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、石英又はSU−8であることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記装置は、少量の自己発光する蛍光物質でコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記装置は、分離システム、検出システム、解析システム又はその組み合わせと接続していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記装置は、照明用光源と接続していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記装置は、複数のマイクロチャネル、ナノチャネル又はその組み合わせを備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項21】
前記複数のマイクロチャネル、ナノチャネル又はその組み合わせは、所定の配置をとるように構成されることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記配置は、前記マイクロチャネルを前記ナノチャネルに対して垂直に配置することを含むことを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記各マイクロチャネルは、前記マイクロチャネルに対して垂直に配置された2つのナノチャネルと接続することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記装置は、1つのナノチャネルと接続した第1及び第2の各マイクロチャネルを備え、
前記第1のマイクロチャネル内の懸濁用緩衝液又は緩衝溶液の中に試料を入れ、前記第2のマイクロチャネル内に低濃度の前記懸濁用緩衝液又は緩衝溶液を入れることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項25】
マイクロ流体ポンプであって、
請求項1に記載の前記装置を含むことを特徴とするポンプ。
【請求項26】
前記ポンプは、液体の流速が10μm/秒乃至10mm/秒であることを特徴とする請求項25に記載のポンプ。
【請求項27】
液体中の対象種を濃縮するための方法であって、
液体中の対象種の濃縮に請求項1に記載の前記装置を使用することを含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
液体中の対象種を濃縮するための方法であって、
前記対象種を含む前記液体を、前記液体の供給源から、ナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備える濃縮装置に導入するステップと、
前記ナノチャネル内に電場を誘起して、前記ナノチャネルと接続した前記マイクロチャネルの領域内にイオン欠乏を発生させ、前記対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層を形成するステップと、
前記マイクロチャネル内に液体の流れを発生させるステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
前記流れは、電気浸透流であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記電気浸透流は、前記マイクロチャネル内での電場の誘起によって、前記マイクロチャネル内に発生することを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記流れは、圧力駆動流であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記各ステップは、周期的に実行されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記電場は、前記ナノチャネル内、前記マイクロチャネル内、又はその組み合わせにおいて誘起されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記ナノチャネル内、前記マイクロチャネル内、又はその組み合わせにおいて誘起される前記電場は、前記ナノチャネル、前記マイクロチャネル、又はその組み合わせに電圧を印加することによって誘起されることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1つのマイクロチャネルが少なくとも1つのナノチャネルと接続し、前記マイクロチャネルは、前記ナノチャネルに対して垂直に配置されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記各マイクロチャネルは、前記マイクロチャネルに対して垂直に配置された2つのナノチャネルと接続されることを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
第1及び第2の各マイクロチャネルが1つのナノチャネルと接続し、
前記第1のマイクロチャネル内の懸濁用緩衝液又は緩衝溶液の中に試料を入れ、
前記第2のマイクロチャネル内に低濃度の前記懸濁用緩衝液又は緩衝溶液を入れることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項38】
前記電圧は、50mV乃至500Vであることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項39】
前記マイクロチャネルの陽極側及び陰極側に等しい電圧が印加されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項40】
前記マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側に印加される電圧と比較して、より大きい電圧が印加されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項41】
前記マイクロチャネルの前記陽極側に、前記より大きい電圧を印加する前に、空間電荷層が前記マイクロチャネル内に生成されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記マイクロチャネルの幅は、1〜100μmの間であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項43】
前記マイクロチャネルの奥行きは、0.5〜50μmの間であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項44】
前記ナノチャネルの幅は、1μm〜50μmの間であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項45】
前記ナノチャネルの奥行きは、20〜100ナノメートルの間であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項46】
前記マイクロチャネルの表面が、前記表面への前記対象種の吸着を減少させる又は促進させるような機能性を有するようにしたことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項47】
前記ナノチャネル及び/又は前記マイクロチャネルの表面が、前記装置の動作効率を高める又は下げるような機能性を有するようにしたことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項48】
前記装置の動作効率を高める又は下げるように、外部ゲート電位が前記装置の基質に与えられることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項49】
前記マイクロチャネル又は前記ナノチャネル又はその組み合わせは、リソグラフィー及びエッチング加工によって、前記装置内に形成されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項50】
前記液体は、懸濁液又は溶液であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項51】
前記懸濁液は、臓器ホモジネート、細胞抽出物又は血液試料であることを特徴とする請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記対象種は、タンパク質、ポリペプチド、核酸、ウイルス粒子又はその組み合わせを含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項53】
前記装置は、透明な材料からなることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項54】
前記透明な材料は、パイレックス(登録商標)、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、石英又はSU−8であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項55】
前記装置は、少量の自己発光する蛍光物質でコーティングされていることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項56】
前記装置は、分離システム、検出システム、解析システム又はその組み合わせと接続していることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項57】
前記装置は、照明用光源と接続していることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項58】
前記対象種にキャピラリー電気泳動を受けさせるステップをさらに含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項59】
前記対象種を前記装置から放出するステップをさらに含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項60】
前記対象種が検出下限より低い濃度で前記液体中に存在するとき、前記対象種を検出するために前記方法を用いることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項61】
システム内の液体の流れを制御するための方法であって、
荷電種又は中性種を含む前記液体を、前記液体の供給源から、ナノチャネルと接続したマイクロチャネルを備える前記システムのポンプ装置に供給するステップと、
前記ナノチャネル内に電場を誘起して、前記ナノチャネルと接続した前記マイクロチャネルの領域内にイオン欠乏を発生させ、前記対象種のエネルギ障壁となる空間電荷層を形成するステップと、
前記マイクロチャネル内に電場を誘起することによって、前記マイクロチャネル内に電気浸透流を発生させるステップとを含み、
前記電気浸透流は、前記液体をさらに前記ポンプ装置に導入するようにし、前記電気浸透流は、前記電場の強度によって制御されることを特徴とする方法。
【請求項62】
前記電場は、前記ナノチャネル内、前記マイクロチャネル内、又はその組み合わせにおいて誘起されることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記ナノチャネル内、前記マイクロチャネル内、又はその組み合わせにおいて誘起される前記電場は、前記ナノチャネル、前記マイクロチャネル、又はその組み合わせに電圧を印加することによって誘起されることを特徴とする請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記電圧は、50mV乃至500Vであることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項65】
前記マイクロチャネルの陽極側及び陰極側に、等しい電圧が印加されることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項66】
前記マイクロチャネルの陽極側に、その陰極側に印加される電圧と比較して、より大きい電圧が印加されることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項67】
前記マイクロチャネルの前記陽極側に、前記より大きい電圧を印加する前に、空間電荷層が前記マイクロチャネル内に生成されることを特徴とする請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記マイクロチャネルの幅は、1〜100μmの間であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項69】
前記マイクロチャネルの奥行きは、0.5〜50μmの間であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項70】
前記ナノチャネルの幅は、1μm〜50μmの間であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項71】
前記ナノチャネルの奥行きは、20〜100ナノメートルの間であることを特徴とする請求項61に記載の方法。
【請求項72】
前記電気浸透流は、速度が500μm/秒乃至1mm/秒であることを特徴とする請求項61に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−532733(P2008−532733A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553185(P2007−553185)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/002550
【国際公開番号】WO2006/081270
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(591013573)マサチューセッツ・インスティチュート・オブ・テクノロジー (26)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【Fターム(参考)】