説明

包括二次元ガスクロマトグラフィのための二バルブスイッチング調節装置

本発明は、二次元包括ガスクロマトグラフィの改良である。本改良は、二つの異なるタイプの分離カラムを結合する二バルブスイッチング調節装置である。本発明の利点は、(1)簡単なシステムが、容易に入手可能な部品によって構築されることができること、(2)特殊な物質が、システムを運転するのに(電気以外を)全く必要としないこと、特にいかなるタイプの冷却材をも必要としないこと、(3)いかなるGCにも、外付け装置として構築されることができること、(4)第一次元および第二次元カラムの流れが、独立に制御され、実験を設計することがより容易であること、および(5)コスト効率がよく、このシステムを構築するコストが、他のタイプの調節より安価であることである。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0001】
本発明は、包括二次元ガスクロマトグラフフィシステムの改良である。この改良は、包括二次元ガスクロマトグラフィ(GCxGC)のために設計され、かつ構築されたバルブスイッチング調節システムある。このバルブスイッチング調節システムは、二つの四ポートバルブスイッチを、各調節期間内で同時に用いて、調節が行われる。
【0002】
本発明には多くの利点がある。これらには、いかなるタイプの冷却材も全く不要であることが含まれる。加えて、一次および二次元流が、独立に制御される。
【0003】
包括二次元ガスクロマトグラフィ(GCxGC)は、強力な分離技術であり、複雑な混合物に対して優れたクロマトグラフィタイプの分離を提供する。それは、ガスクロマトグラフ技術の分野で、近年最も重要な開発である。従来のGCを、包括二次元ガスクロマトグラフ(GCxGC)にする鍵は、調節システムである。先行技術では、調節は、「熱調節」と呼ばれるトラップアンドリリースメカニズムによって行われる。GCxGCのための調節のこの方法は、運転するのに冷却材(液体窒素または液体二酸化炭素)を必要とする。それは、比較的不便であり、冷却材の取扱い状況では、特に、離れた場所または製造プラントの環境では問題を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
包括二次元ガスクロマトグラフィ(GCxGC)は、およそ10年前に、学会で発表された。この10年間、世界中の科学者は、更に、二次元分離が複雑な混合物へ適用されることができることを示してきた。GCxGC技術の主な利点は、向上された分解能(二カラム分離)、および強化された感度(調節は、この場合には、極低温集束)である。水素炎イオン化検出器(FID)の結果は、パラフィンおよび芳香族を階層分離する、優れた分離という利点を示す。
【0005】
GCxGCシステムには、インジェクター、次いで二つのカラム、およびこれに続く検出器が含まれる。調節システムは、カラムの間に配置される。インジェクターは、キャリヤまたは移動相を第一のカラムに供給する。本発明においては、キャリヤガスは、インジェクターの前で分枝される。
【0006】
従来のGCを、包括二次元ガスクロマトグラフィ(GCxGC)にするための鍵は、調節システムである。調節を行うのには数種の方法がある。一方法は、熱調節と呼ばれるトラップアンドリリースメカニズムを用いる。このタイプの調節は、トラップ過程を行うのに、冷却材として液体窒素または液体二酸化炭素を必要とする。本発明は、他の方法を示す。この方法は、スイッチングバルブ調節と呼ばれる差圧流量メカニズムを用いる。このタイプの調節は、調節を行うのに、差圧流量およびスイッチングバルブシステムを必要とする。本発明は、差圧流量調節の一タイプである。詳細な構造を図1に示す。
【0007】
この調節システムは、二つのバルブを調節期間内で同時に切替えることによって、調節を行う。本システムには、移送ラインAおよびBが含まれる。これは、図1および2に示されるように、キャリヤガスおよび溶出物を移送する。両移送ラインは、正確に、同じ内径および同じ長さを有することを必要とする。詳細な調節過程を、次に説明する。即ち、
(1)バルブが、一つの調節期間内に、位置Xにある場合(図1の左側のバルブ)
(a)溶出液は、第一次元カラムから出て、移送ラインBへ入る。
(b)第二次元カラム流は、直前の調節期間から移送ラインA上に入った溶出液を、第二次元カラムへ押流す。
(2)次の調節期間において、バルブは、位置Yへ切替えられる(図1の右側のバルブ)
(a)溶出液は、第一次元カラムから出て、移送ラインAへ入る。
(b)第二次元カラム流は、直前の調節期間から移送ラインB上に入った溶出液を、第二次元カラムへ押流す。
【0008】
この調節システムは、全実験を通して、位置XおよびYの間で連続的に切替えて、包括二次元ガスクロマトグラフィが行われる。
【0009】
図2は、本発明の2DGC−スイッチングバルブシステムの概略図を示す。これは、第一のカラムから、バルブ調節システムを通って第二のカラムへ流れる流体流を示す。
(1)第一の調節期間(両バルブは位置X)においては、キャリヤガスは、インジェクターを通り、第一次元カラムを通って流れ、溶出液を移送ラインBへ移送する。第二のカラム流は、キャリヤガスの分枝(インジェクターの前で分枝される)であるが、これは、移送ラインAを通って押し流れ、第二次元カラムを通って、検出器へ流れる。
(2)第二の調節期間(両バルブは位置Y)においては、キャリヤガスは、インジェクターを通り、第一次元カラムを通って流れ、溶出液を移送ラインAへ移送する。第二のカラム流は、キャリヤガスの分枝(インジェクターの前で分枝される)であるが、これは、移送ラインBを通って押し流れ、第二次元カラムを通って、検出器へ流れる。
(3)第(2n+1)番目の調節期間(両バルブは位置X)においては、キャリヤガスは、インジェクターを通り、第一次元カラムを通って流れ、溶出液を移送ラインBへ移送する。第二のカラム流は、キャリヤガスの分枝(インジェクターの前で分枝される)であるが、これは移送ラインAを通って押し流れ、第二次元カラムを通って、検出器へ流れる。
(4)第(2n+2)番目の調節期間(両バルブは位置Y)においては、キャリヤガスは、インジェクターを通り、第一次元カラムを通って流れ、溶出液を移送ラインAへ移送する。第二のカラム流は、キャリヤガスの分枝(インジェクターの前で分枝される)であるが、これは移送ラインBを通って押し流れ、第二次元カラムを通って、検出器へ流れる。
【0010】
移送ラインの流れ方向により、スイッチングバルブ調節システムはまた、図1に示されるものと異なる接続を有することができる。図5は、本発明の包括二次元ガスクロマトグラフィースイッチングバルブ調節システムの別の構成の概略図を示す。
【0011】
この調節システムは、調節期間内に同時に二つのバルブを切替えることによって、調節が行われる。詳細な調節過程は、図1の調節バルブシステムに関するものとして、正確に説明される。
【0012】
しかし、この調節システムは、位置XおよびYのバルブ間の切替えを逆にして、包括二次元ガスクロマトグラフィが行われる。図5の構造および図1の構造の間の相違は、図1においては、バルブは、第一のカラムの端部を第二のカラムに接続し、および図5においては、バルブは、第一のカラムの端部を第二のカラム流に接続することである。図1の構造においては、第一のカラムの端部への接続部および第二のカラムへの接続部は、同じバルブ内にある。しかし、図5の構造においては、第一のカラムの端部への接続部および第二のカラムへの接続部は、異なるバルブ内にある。
【0013】
調節システムはまた、4個超のポートを有する二つのバルブで構築されることができる。しかし、付随する余分なループおよびポートのために、それは、4ポートバルブほど簡単かつ良好には機能しないであろう。
【0014】
調節システムはまた、少なくとも12個のポートを有する一つのバルブで構築されることができる。図6は、単一のバルブを含むバルブ調節システムの概略図を示す。詳細な調節過程を、以下に説明する。
(1)バルブが、一つの調節期間において、位置Xにある場合(図6の左側のバルブ)
(a)溶出液は第一次元カラムから現れ、ポート1を通って流れ、ポート12を通過し移送ラインBに入り、ポート8およびポート9を通って、排出される。
(b)第二次元カラム流は、ポート3からポート2へ進み、直前の調節期間から移送ラインA上に入った溶出液を、ポート6を通ってポート7へ、および二次元カラムへ押し流す。
(2)次の調節期間には、バルブは位置Yへ切替えられる(図6の右側のバルブ)
(a)溶出液は第一次元カラムから現れ、ポート1を通って流れ、ポート2を通過し、移送ラインAに入り、ポート6およびポート5を通って、排出される。
(b)第二次元カラム流は、ポート11からポート12へ進み、直前の調節期間からの移送ラインAに沈積された溶出液を、ポート8を通ってポート7へ、および第二次元カラムへ押し流す。
【0015】
調節システムはまた、12個超のポートを有する一つのバルブで構築されることができる。しかし、付随する余分なループおよびポートのために、それは、一つの12ポートバルブほど簡単かつ良好には作動しないであろう。
【0016】
二バルブスイッチングのために、調節システムは、第二次元カラム流を第一次元カラム流から独立させる。即ち、第二次元カラムの分離は、より良好に制御されることができる。第二次元カラム内の流れを変えることによって、異なる成分間の分離は、分離の目的または所望の目的によって、増減されることができる。従って、第二次元カラムにおけるピーク幅および分離は、独立して調節されることができる。
【0017】
第二次元カラムにおける分離を制御する他の方法の一つは、温度である。二バルブスイッチングのために、調節システムは、第二次元カラム流および第二次元カラムを、第一次元カラムおよび第一次元カラム流から完全に独立させる。第二次元カラム流および第二次元カラムは、異なるオーブンに置かれて、異なる温度を有し、分離が増減されることができる。これは、分離の目的または所望の目的によるであろう。
【実施例】
【0018】
二つの実施例が、バルブスイッチング包括二次元ガスクロマトグラフィを例示するのに示される。
【0019】
実施例1
この試験で用いられたナフサ原料は、典型的な製油所ストリームであり、65℃(150゜F)〜215℃(420゜F)で沸騰し、炭素数約C〜C12を有する。
【0020】
設備および条件
GCxGCシステムは、Agilent 6890ガスクロマトグラフ(Agilent Technology、Wilmington、DE)からなり、インジェクター、カラム、および検出器で構成される。100段のオートサンプラーを有するスプリット付き/スプリットなしの注入システムが用いられる。二次元キャピラリーカラムシステムは、弱極性の第一のカラム(007〜1、30m、内径0.25mm、5.0μm薄膜)(Quadrex Inc.Corp、Woodbridge、CT、USA)、および極性の第二のカラム(Sol−Gelワックス、3m、内径0.25mm、1.0μm薄膜)(SGE Inc.、Austin、TX)を用いる。本発明に基づくスイッチング二バルブ調節アセンブリは、これらの二つのカラム間に取付けられる。バルブは、電気的に作動される(VICI Valco Instruments Co.Inc.、Houston、TX、USA)。移送ラインは、内径0.25mmおよび20cm長を有するプレカットされた一組の1/16インチのステンレス鋼管(Alltech Associate Inc.、State College、PA、USA)である。検出器は、水素炎イオン化検出器(FID)である。これは、Agilent GC systemから得られる。
【0021】
1.0μlの試料を、オーブン温度36℃の定頭圧方式(15psi)で、スプリット50:1(300℃)で注入した。オーブンを、36℃で2分間保持し、3℃/分で240℃へ昇温し、0分間保持し、全運転時間70分でプログラミングした。第二のカラムは、定頭圧8psiである。調節期間は、10秒である。検出器の試料採取速度は、100Hzであった。
【0022】
データを収集した後、それを定性分析に付した。定性分析により、データは、二次元画像へ転換される。これは、市販プログラム「Transform」(Research Systems Inc.、Boulder、CO)によって処理される。二次元画像は、更に、「PhotoShop」プログラム(Adobe Systems Inc.、San Jose、CA)によって処理されて、公開可能な画像が作成される。図3は、ナフサの包括二次元ガスクロマトグラムである。
【0023】
図3は、このナフサの詳細な組成を示す。これは、この二次元クロマトグラムに表示されることができる。全ての化合物の層別は、明瞭に、二次元で分離される。二バルブスイッチング調節は、この低温二次元分離を達成させている。
【0024】
実施例2
この試験で用いられたディーゼル燃料は、典型的な製油所ストリームであり、150℃(300゜F)〜430℃(800゜F)で沸騰し、炭素数約C〜C28を有する。
【0025】
GCxGCシステムは、Agilent 6890ガスクロマトグラフ(Agilent Technology Wilmington、DE)からなり、注入口、カラム、および検出器から構成される。100段のオートサンプラーを有するスプリット付き/スプリットなしの注入システムが用いられる。二次元キャピラリーカラムシステムは、弱極性の第一のカラム(SBP−1、15m、内径0.53mm、1.0μm薄膜)(SUPELCO Inc.、Bellefonte、PA、USA)、および極性の第二のカラム(Wax−10、0.5m、内径0.53mm、1.0μm薄膜)(SUPELCO Inc.、Bellefonte、PA、USA)を用いる。本発明に基づくスイッチング二バルブ調節アセンブリは、これらの二つのカラム間に取付けられる。バルブは、電気的に作動される(VICI Valco Instruments Co.Inc.、Houston、TX、USA)。移送ラインは、内径0.50mmおよび20cm長を有するプレカットされた一組の1/16インチのステンレス鋼管(Alltech Associate Inc.、State College、PA、USA)である。検出器は、水素炎イオン化検出器(FID)である。これは、Agilent GC Systemから得られる。
【0026】
1.0μlの試料を、オーブン温度60℃の一定頭圧方式(3psi)で、スプリット20:1(300℃)で注入した。オーブンを、60℃から、2℃/分で240℃へ昇温し、0分間保持し、全運転時間90分でプログラミングした。第二のカラムは、頭圧2.0psiから、0.01psiで2.9psiへ昇圧するようプログラミングした。調節期間は、10秒である。検出器の試料採取速度は、100Hzであった。
【0027】
データを収集した後、それを定性分析に付した。定性分析により、データは、二次元画像へ転換される。これは、市販プログラム「Transform」(Research Systems Inc.、Boulder、CO)によって処理される。二次元画像は、更に、「PhotoShop」プログラム(Adobe Systems Inc.、San Jose、CA)によって処理されて、公開可能な画像が作成される。図4は、ディーゼルの包括二次元ガスクロマトグラムである。
【0028】
図4は、このディーゼルの詳細な組成を示す。これは、この二次元クロマトグラムに表示されることができる。全ての化合物の層別は、明瞭に、第二次元で分離される。二バルブスイッチング調節は、この高温二次元分離を達成させている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のバルブ調節システムの概略図を示す。
【図2】第一のカラムから、バルブ調節システムを通って第二のカラムへ流れる流体流を示す概略図を示す。
【図3】本発明のバルブ調節システムを用いるナフサの包括二次元ガスクロマトグラムを示す。
【図4】本発明のバルブ調節システムを用いるディーゼルの包括二次元ガスクロマトグラムを示す。
【図5】本発明の包括二次元ガスクロマトグラフィのスイッチングバルブ調節システムについて、別の構成の概略図を示す。
【図6】単一のバルブを含むバルブ調節システムの概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二バルブスイッチング調節装置を含むことを特徴とする改良された二次元包括ガスクロマトグラフィシステム(GCxGC)。
【請求項2】
前記二バルブスイッチング調節装置は、キャリヤガスを、両ガスクロマトグラフを通って保持することを特徴とする請求項1に記載のGCxGC。
【請求項3】
前記キャリヤガスは、ヘリウム、水素、窒素、または他の不活性(非反応性)ガスであることを特徴とする請求項2に記載のGCxGC。
【請求項4】
前記調節装置は、二つのバルブおよび二つの移送ラインを含むことを特徴とする請求項3に記載のGCxGC。
【請求項5】
前記キャリヤガスは、前記移送ラインの間で切替えられることを特徴とする請求項4に記載のGCxGC。
【請求項6】
前記調節装置は、第一次元カラム、第二次元カラム、第二次元カラム流および排気を接続し、二つ以上のタイプのバルブを有することができることを特徴とする請求項5に記載のGCxGC。
【請求項7】
前記第二次元カラム流は、独立に制御することができることを特徴とする請求項6に記載のGCxGC。
【請求項8】
前記第二次元カラムの温度は、独立に制御することができることを特徴とする請求項7に記載のGCxGC。
【請求項9】
前記調節装置のスイッチングシステムは、単一のバルブによって完成しうることを特徴とする請求項8に記載のGCxGC。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−530611(P2009−530611A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500446(P2009−500446)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/006360
【国際公開番号】WO2007/106505
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY