説明

包装されたカーボンナノチューブ成型体

【課題】 カーボンナノチューブは、その見かけかさ比重が低いため、使用時の作業性に非常な問題があり、カーボンナノチューブの特性を充分に引き出すことができなかった。
【解決手段】1種以上のカーボンナノチューブを混合し減圧後、加圧成型、また必要に応じてフィルムで包装することにより、見かけかさ比重を高め、樹脂マスターバッチ製造時や分散液作製時の作業性を向上でき、カーボンナノチューブの特性を充分にひきだすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブのハンドリング性などを向上させた成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、カーボンブラック、ダイヤモンド、黒鉛やフラーレンなどと違い、直径が数nm〜約500nm、長さが数10nm〜数10umというアスペクト比の大きなチューブ状の炭素同位体である。このカーボンナノチューブには、その製造法や後処理などにより様々なものがあるが、大きく分けると、シングルウォールカーボンナノチューブ、ダブルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブなどがある。ここではこれらを総称してカーボンナノチューブとする。
カーボンナノチューブの製造法としては、アーク放電法、触媒気相製造法、レーザーアブレーション法やその他の方法がある。(非特許文献1)これらの製造法によりカーボンナノチューブの最終形状がかわるが、副生成物や不純物を取り除き、精製した状態は、通常、カーボンナノチューブの極めて細い繊維が絡み合った、0.1kg/l以下というような、非常にかさ高い(見かけ比重の低い)ものが多い。また、マルチウォールカーボンナノチューブについては、その直径が製法や後処理法により分布をもちうるが、ここでは、その平均値を、そのカーボンナノチューブの直径として表記する。
【0003】
これに対し、カーボンブラックは平均粒子径が数10nm〜数100nmであり、アスペクト比はカーボンナノチューブに比較して非常に小さいものであり、その造粒技術として主に湿式と乾式が知られ、かさ比重もカーボンナノチューブと比較して大きいものが多い(非特許文献2)。このカーボンブラックについては、造粒技術が確立されており、そのメリットとしては、カーボンブラックの
1)飛散性を低減させることにより、人体への安全性や環境への汚染を低減させることができる。
2)造粒することによりハンドリング性も向上でき、樹脂マスターバッチなどの製造時の時間短縮ができる。
3)貯蔵量を増やすことができ、輸送時にはそのコストを低減できる。
4)梱包を容易にし、包装費用を低減できる。
などの効果があげられる。
【0004】
実用上充分な程度にまで嵩密度を高くする方法として、カーボンブラックを加圧成型することが海外では試みられている。例えば、イギリス特許551862やドイツ特許836159ではカーボンブラック、ランプブラック等のプレス脱気を行っている。これらの特許文献においては、カーボンブラック粉体粒子間のガス(空気)を脱気する方法として、カーボンブラック内に管を挿入し、加圧の際に発生する粒子間のガスを成型容器の外に除去している。この方法では、挿入された管に設置された濾過材を通してガスを脱気するために脱気の速度を速くすることができず、また、濾過材の目詰まりが発生し、長期間の連続運転は不可能であった。
【0005】
ドイツ特許1302382では、プレス型の上部、下部、側面に減圧用のポートを設置し濾過材をプレス型全面配し、濾過面積を広くして、上記イギリス特許551862やドイツ特許836159の問題点を解決する方法が提案されている。しかし、この方法を用いても濾過材を介してカーボンブラックの粒子間のガスを脱気する為に上記問題点の本質的な解決は成されていない。
【0006】
特開平09-143389号公報においては、上記目的を達成するために、カーボンブラックの成型装置を研究して、カーボンブラックを加圧成型する前に予め減圧チャンバーを用いてカーボンブラック粒子間にある気体(空気)を脱気し、しかる後加圧成型することにより、従来用いられていた濾過材を用いずに脱気、加圧成型が可能であることを見いだしている。すなわち、予めカーボンブラック粒子間の気体を減圧チャンバーを用いて脱気した後、加圧成形することを特徴とするカーボンブラック加圧成型体の製造方法、並びにかかる方法で得られたカーボンブラック成型体が開示されている。
また、特開平09-169509号公報においては、カーボンブラックの成型体を製造する際に、原料の充填および加圧を複数回繰り返して行なう方法、また最終の加圧操作の圧力がそれ以前の圧力よりも高いカーボンブラックの加圧成型方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来、問題であったカーボンナノチューブの飛散性、ハンドリングや作業性を改良するとともに、単独または複数のカーボンナノチューブの本来の機能を最大限引き出すことを目的とする。
カーボンブラックの造粒メカニズムとしては、各粒子間の隙間に、水、有機溶剤、界面活性剤、樹脂やその他、バインダーが浸透し毛細管力などの効果とともに、粒子を凝集させているとの考え方がある。これは、カーボンブラックが、通常、(1)結晶子が10〜15Åと小さく、(2)表面官能基量が多く950℃での揮発分が0.5%以上あり、(3)毛細管力が発生するほどにストラクチャーが発達していることが要因としてあげられ、常圧中、水で造粒するのが一般的である。これに対し、カーボンブラックと比較して、カーボンナノチューブには以下の構造上の特徴がある。
【0008】
(1)結晶子が大きく発達している
(2)官能基量が少ない
(3)直線状の構造で大きなアスペクト比をもつ
(4)かさ密度が小さく、多量の空気を含んでいる。
これらの特徴はいずれも水や溶剤との濡れを妨げる要因となっている。以下、詳細に説明する。
【0009】
(1)結晶子が大きく発達している
(2)官能基量が少ない
以上2点のためにカーボンナノチューブの極性は極めて小さい。極性が小さいと、水や溶剤の吸着点となる電荷をもつ構造部分がないため、濡れにくくなる。
(3)直線状の構造で大きなアスペクト比をもつ
表面が凸凹であれば、その凹部分に水や溶剤を取りこみ易くなる。しかし、カーボンナノチューブのような直線的な構造体では、表面に凸凹部分は存在しないため、水や溶剤が浸入しにくく、濡れにくい。
(4)かさ密度が小さく、多量の空気を含んでいる。
【0010】
濡らすためには、空気を水や溶剤で置き換えることが必要である。したがってカーボンナノチューブ中に空気量が多いことは、水や溶剤の濡れを妨げる要因となる。
そのため、カーボンナノチューブの造粒には、カーボンブラック以上の困難を伴うものと容易に予想できる。
【0011】
カーボンナノチューブについての造粒技術としては、高速気流中衝撃法での処理方法が提案されている(特許文献1,2)。この方法では、高速気流中で粉体を解砕し、かつ複合化する装置がもちいられている。この装置の本来の用途は、粉体母粒子表面に、異種の粉体微粒子を高速気流衝撃により付着させるというものであり、この装置の欠点としては、その回転の外周60〜100m/sという高速性により、その造粒粒子径は200um以下という非常に小さな造粒しかできないことであり、ミリメートルオーダーの造粒は困難である。そのため、飛散性にともなう安全性や環境への汚染性、ハンドリング性について課題を残している。また、そのハンドリングや作業性の悪さが、各用途におけるカーボンナノチューブの分散性を妨げ、その特性を充分に引き出せていないといえる。
【0012】
【特許文献1】特開2005-239531号公報
【特許文献2】特開2006-143532号公報
【非特許文献1】株式会社エヌ・ティー・エス発行 「カーボンナノチューブの基礎と工業化の最前線」 2002年 P6-18
【非特許文献2】カーボンブラック協会発行 「カーボンブラック便覧」 平成7年 P317-323
【0013】
ここで、本発明者らは特にカーボンナノチューブの上記(4)の性質、特に多量の空気を含んでいることに着眼して、本技術を見出すに至った。
即ち、カーボンナノチューブの造粒において、大きな障壁のひとつである、多量の空気は、上記特開平09-143389号公報の方法によって、改善が期待出来、また、減圧室を有する本成型機を用いると、成型体の包装も容易に行なうことが出来ることに思い至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、カーボンナノチューブの1種もしくは複数を混合し、減圧脱気、加圧成型することにより、飛散性が少なくハンドリング性が向上したカーボンナノチューブ加圧成型体を提供すること、併せて、その加圧成型体を包装することを目的とする。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、上記のようにカーボンブラック以上の困難さが予想される、カーボンナノチューブの加圧成型およびその包装が、減圧脱気後加圧あるいは減圧脱気後圧着等することによって、可能となるのではないかと思い至って、本発明を達成したものである。
上記(1)〜(3)の解決のためにカーボンナノチューブそのものの構造を改質し、水や溶剤に対する濡れを改善することは可能である。しかし、結晶子を小さくしたり、官能基量を増やしたり、直線的な構造を変えることは、カーボンナノチューブの持つ、導電性や熱伝導性や強度などの特性を損なってしまう。随意検討の結果、カーボンナノチューブの持つ機能を損なわない造粒方法として、以下の(A)(B)(C)の方法を開発した。
尚、(A)(B)(C)の内、複数の方法を組み合わせることも可能である。
【0015】
(A)水への浸漬と脱気をコントロールすることにより濡れ性を促進する方法
これは、(4)の濡れの阻害要因となっている空気を積極的に除去するという方法である。空気を除去することにより濡れを促進することができる。
(B)液―液の界面をコントロールして、界面にカーボンナノチューブを配向させることにより造粒する方法
これは、極性の異なる複数の溶剤を用いることがポイントである。カーボンナノチューブは極性が極端に小さいため、非極性溶剤に対する親和性と極性溶剤に対する親和性の差が大きい。カーボンナノチューブの水や溶剤に対する濡れが小さくても、この溶媒間の極性の差を利用して、溶媒間の界面にカーボンナノチューブを配向させることができる。
(C)異なる直径・アスペクト比をもつカーボンナノチューブもしくは直径・アスペクト比の分布の広いカーボンナノチューブを用い、カーボンナノチューブ同士の架橋構造をつくる方法
【0016】
この方法では、複数の大きさのカーボンナノチューブを用いることにより、幾何学的に絡ませ、凝集を生み、造粒させる。つまり、通常のカーボンナノチューブでは、その直線性のために水や溶剤を取りこむ構造がないが、形状の異なるカーボンナノチューブもしくは分布の広いカーボンナノチューブを用いることにより、水や溶剤の入りこむスペースをつくることができる。また、小さいカーボンナノチューブが架橋構造をつくるため、造粒物の強度を保つことができる。
以上のように、本発明者らは(A)(B)(C)の三つの方法を開発したが、(A)における、濡れの阻害要因となっている空気を積極的に除去するという課題を解決すべく、カーボンナノチューブを減圧後、加圧成型したところ、嵩密度の向上及び分散性を同時に満足しうるということを見出した。
以下、本発明を具体的に説明する。
【0017】
本発明においては、これらカーボンナノチューブを加圧して成型する。この際使用する型としては、成型時の印加圧力に耐えうる強度を有していれば如何なる材質の型を用いてもよい。例えば金属製の型としてはSUS304、SUS316等のステンレス製金型、タングステンカーバイド等の超鋼等が使用できる。又、樹脂製型としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリ三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリ四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン(FEP)等のフッ素樹脂(「テフロン」(登録商標))製型、ナイロン、ポリエチレン、ポリカーボネイト、フェノール樹脂等のプラスチック類、更に複合材料としてCFRP、GFRP等のFRP、セラミックス製型としては、アルミナ、ジルコニア、ムライト等が使用挙げられる。加圧に使用するプレス機としては、油圧機械式プレス機、油圧ハンドプレス機、機械式プレス機、エアーシリンダー式プレス機等、加圧成型できるものであれば如何なるプレス成型機でもよい。
【0018】
型の大きさは制限されないが、実用的には1cc以上、好ましくは10cc以上のものが好適である。1cc未満では輸送が煩雑となるためである。また、必要に応じて、大型の成型体を作製し、これを適当な大きさに切断し、その集合体として輸送・使用してもよい。得られる成型体が1cc以上となるように成型するのが好ましい。なお、目的、使用状況に応じた成型体の形状とするために、各種形状の型を用いることができる。例えば、大量を積載するのに適した角柱状の他、使用時の釜への投入の容易さを考慮した円柱状、溶剤中での分散性を考慮して孔を穿ってあってもよい。

型の形状も特に制限されず、所望の成型体の形状にしたがって、三角形あるいはその他の多角形の断面を有する柱状体、特に立方体あるいは直方体の成型体とすることができ、取り扱いの点からも好適である。
【0019】
カーボンナノチューブを上述の型に入れ、加圧することにより成型する。
なお、加圧成型に際しては、予めカーボンナノチューブ粒子間の気体を減圧して脱気した後、加圧成型する態様を採ることもできる。例えば図1に示す装置を用いて説明すると、以下の如き方法を採ることができる。まず、図1に本発明に用いることのできる成型機及び一連の成型操作(充填・減圧脱気・加圧・終了)を示す。ここで図1中、1はシリンダ(上)、2は成型シリンダ、3は減圧室、4は成型ポンチ(上)、5は成型ポンチ(下)、6は成型ダイ、7はシリンダ(下)である。図1に示すように、摺動可能なシリンダとピストンとを有する型に、成型しようとする原料であるカーボンナノチューブ粉末を充填する。シリンダー上部にセットした減圧室はガスケット材によりその外部と遮断される。続いて、減圧室に接続した真空ポンプを起動させて減圧状態を保持したまま、ピストンを下降させシリンダー内のカーボンナノチューブを加圧成型する。その後、真空ポンプの運転を停止し、減圧室の雰囲気圧力を大気圧に戻す。その後、減圧室とピストンを上昇させてカーボンナノチューブ成型体を取り出す。
【0020】
本発明において、減圧時の圧力は、0.001〜1気圧で行うのが好ましい。1気圧よりも高い場合、粒子中の脱気が行なえない。また、気圧を極めて低くしても差し支えはないが、0.001気圧以下にしてもカーボンナノチューブの成型性において格別な優位性を発揮することもなく、このような高真空とする工業的な意味はない。成型スピードと装置構造上、カーボンナノチューブをより脱気しやすい点で、特に0.002〜0.9気圧とするのが好ましい。
【0021】
所定の減圧度を達成する方法は如何なる方法でも構わないが、例えば、油回転式真空ポンプ、アスピレーター、摺動式真空ポンプ、フリーピストン式真空ポンプ、ダイヤフラム式真空ポンプ、拡散ポンプ、ターボ型真空ポンプ等が挙げられる。このようにして、本発明のカーボンナノチューブ成型体を得ることができる。
なお、本発明のカーボンナノチューブ成型体は、粉化率が50%以下、より好ましくは30%以下としたものが特に好ましい。粉化率としては、後述する実施例に記載した測定方法で求めることができる。粉化率を50%以下とすることにより、輸送中に成型体に加わる振動や摩擦等の外力による粉化を防止でき、ハンドリング性が特に優れたものとなる。
また、原料である粉状カーボンナノチューブの嵩密度とカーボンナノチューブ成型体の嵩密度との比(以下、「嵩密度比」ともいう。)が2倍以上10倍以下、より好ましくは4倍以上8倍以下とするのが良い。この嵩密度比が2よりも低い場合、成型体のコンパクト性が低下する。一方、嵩密度比が10を超えると、分散性が低下する傾向にある。嵩密度比が2以上10以下とすれば、コンパクト性と分散性とが同時に極めて好ましい範囲で満足される。加圧成型時の圧力(成型圧力)は、3kgf/cm2以上600kgf/cm2以下、より好ましくは5kgf/cm2 以上500kgf/cm2以下とするのがよい。成型圧力が3kgf/cm2を下回ると、コンパクト性が低下、粉化率が増加する傾向にある。一方、成型圧力が600kgf/cm2 よりも高い場合、通常のインクや塗料等の製造時に使用される分散機では、分散性が十分でないことがある。一方、これ以上圧力を高くしてもコンパクト性向上の効果は殆ど得ることができない。このため、インク、塗料、着色樹脂、ゴム等を工業的に製造する際に使用するカーボンブラック成型体としては、3kgf/cm2以上600kgf/cm2 以下で加圧成型するのが適当である。
【0022】
また、本成型機は、併せて成型したカーボンナノチューブをフィルムで包装する用途に、好適に用いることが出来るが、必ずしも包装に本装置を用いなくても良く、単にフィルムでキャラメル包装のような簡易包装をしたり、他の包装用機器を用いても良い。本包装機を用いる時の型の温度および加圧力は用いるフィルムの材質によって異なる。加圧力としては、概ね0.01kgf/cm2以上500kgf/cm2以下の値を用いることが出来る。
ここで包装とはカーボンナノチューブ成型体を樹脂フィルム等で覆うことをいう。特にカーボンナノチューブ成型体の表面の保護、形状の維持を重要視する等の要求には、予め成型体を熱溶融性の材質で覆っておき、加熱して包装を密着させることもできる。
以下、本成型機を用いて包装されたカーボンナノチューブ成型体を製造する方法について詳述する。図2において、その工程を説明する。
【0023】
まず、摺動可能なシリンダとピストンとを有する型に、包装用フィルムで包んだカーボンナノチューブ成型体を装入する。また、成型ポンチ(上)には、この包装用フィルムの蓋とすべく、フィルムを水、溶剤あるいは接着剤などで仮留めする。下部の包装用フィルムも上部のフィルムとの糊代が多くなるように、カーボンナノチューブ成型体と微量の水、溶剤、接着剤などで仮止めしてもよい。図2の細部の拡大を図3に示す。
【0024】
続いて、減圧室に接続した真空ポンプを起動させて減圧状態を保持したまま、ピストンを下降させシリンダー内のカーボンナノチューブ成型体と包装用フィルムとを加圧接着する。このとき、ポンチおよびダイの温度は、包装用フィルムが熱溶融する温度に設定する。その後、ポンチおよびダイを室温まで冷却し、真空ポンプの運転を停止して、減圧室の雰囲気圧力を大気圧に戻す。その後、減圧室とピストンを上昇させて、フィルムで包装されたカーボンナノチューブ成型体を取り出す。
こうしてカーボンナノチューブ成型体を包装することにより、環境汚染性を防止したり、輸送時のハンドリング性を向上させたりすることができる。包装に用いる材料は特に制限されず、例えばポリスチレン、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン類、ブチラール樹脂など、熱溶融性の樹脂が好適に用いられる。
【0025】
適用の態様としては、フィルムとして例えば縦ピロー包装、横ピロー包装、上包み包装、真空包装、カートン包装、ブリスター包装、キャラメル包装、スキンパッカー等が使用できる。また、キサンタンガムなどの多糖類やポリビニルアルコールのような水溶性材料を水に溶解させたものや油溶性材料を有機溶剤に溶解させた溶液を噴霧、スプレーコートしても良い。
【0026】
熱可塑性樹脂が好適に用いられるが、包装フィルムを除去して使用する用途などには、加熱プレスで熱硬化する樹脂も用いることが出来る。水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、デキストリン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ゼラチン、キトサン、カゼイン、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム等が一般に使用されているが、一般には溶融成型が不可能である。
ここで、ポリビニルアルコールも、その融点とほぼ同じ温度で熱分解を起こすため、溶融成型分野では用いられて来なかった。本発明者らは、近年溶融成型可能な水溶性ポリビニルアルコール(商標登録:エコマティAX、日本合成化学工業(株)製)が開発されているのを知り、これを用いて加熱シールすることに思い至った。これを用いると、成型機を用いてカーボンナノチューブ成型体を容易に加熱包装可能となり、本材質で包装されたカーボンナノチューブ成型体は、水系溶剤中にそのまま投入可能となる。
【0027】
このように、カーボンナノチューブ成型体を包装することにより、カーボンナノチューブを使用する際に発生する発塵による環境汚染を防止する効果が得られる。例えば、適当な材質を包装材料として選択して被覆すれば、カーボンナノチューブを使用する際に包装材料を剥がさずに使用でき、環境汚染に対してきわめて有効な防止策となる。また、カーボンナノチューブ成型体が輸送中に破損することを防止することもできる。
【0028】
本発明の包装されたカーボンナノチューブ加圧成型体は、ハンドリング性、環境汚染防止効果が特に優れている。例えば、インク、塗料、樹脂やゴムに溶解または混和する材料を用いて包装すれば、そのまま製品を製造する釜に投入することができ、使用時の粉塵発生をほぼゼロにすることができる。また、カーボンナノチューブの部分の密度が十分に大きく、輸送・貯蔵コスト削減の効果が著しいと同時に、粒子間の脱気が十分に行われているので、ビヒクルへの分散性が特に優れている。例えば包袋に粉体を充填して脱気する方法では、十分に粒子間の空気を抜き、更に成型体を形成するほどにカーボンナノチューブ粒子同士を結合させるのは困難であり、たとえ包袋ごと加圧してもカーボンナノチューブを成型体とするに至るのは容易ではないため、従来より包装を有するカーボンナノチューブ成型体、なかんずく良好な特性を発現するものは存在しなかったのである。これに対して本発明の包装されたカーボンナノチューブ加圧成型体は、上述の方法により容易に製造することができる。
【0029】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、カーボンナノチューブの1種もしくは複数を混合し、加圧成型することにより、飛散性が少なくハンドリング性が向上したカーボンナノチューブ成型体を提供し、さらにはそれをフィルムで包装することを目的とする。
すなわち、本発明は、
【0030】
(1)包装されたカーボンナノチューブ成型体。
(2)前記カーボンナノチューブ成型体が、カーボンナノチューブを型に入れて加圧成型してなることを特徴とする、(1)に記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
(3)前記加圧成型が減圧脱気後なされることを特徴とする、(1)または(2)に記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。

(4)前記包装が熱収縮しない材質であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。(5)前記包装が熱収縮する材質であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。(6)前記包装が溶融成型可能な材質であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【0031】
(7)前記包装が溶剤に可溶性の材質であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
(8) 前記溶剤が水であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
(9) 前記包装が溶融成型可能なポリビニルアルコールであることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、カーボンナノチューブを成型することにより、その飛散性をおさえ計量仕込みを簡便にするだけでなく、飛散による人体への影響や、周辺の汚染を防止する効果もある。また、移送・貯蔵を簡便にするとともに、樹脂マスターバッチや分散液を高濃度配合にすることもでき、強度特性・電気的特性・熱伝導特性など種々の性能が向上する。
その他、これまで1種のカーボンナノチューブで得られた強度特性・電気的特性・熱伝導特性などカーボンナノチューブの特性を、複数種のカーボンナノチューブを混合成型することにより更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明で、使用されうるカーボンナノチューブについては、特に制限はないが、通常、短径が数nm〜約500nm、長さが数10nm〜数10umのものが好適である。これらに関して、単独使用、複数種使用の何れも選択し得るが、単独使用の場合は、直径が200nm以下、長さが数um程度のものが好適であり、さらには直径や長さの分布が広いものがより好適である。また、複数種を使用する場合、そのカーボンナノチューブの特性を活かすために、直径を変えたものや長さをかえたものを混合し使用することが望ましい。
本発明により、製造されたカーボンナノチューブ成型体の硬さについては、ゴム用カーボンブラック-造粒粒子の特性-第3部:造粒粒子の硬さの求め方(JIS K6219-3:2006)を参考に、その硬さを測定することができる。ただし、JIS K6129-3:2006では、1.0mmもしくは1.4mmのふるいの網目に詰まったものを測定しているが、本発明によって成型されたカーボンナノチューブ集合体は、その粒子径を調整することもできるため、造粒物の全体像を反映する方法として、微粉末を除いた状態で測定することが望ましく、それ以外は、JIS K6129-3:2006に準拠することが望ましい。また、測定する機械については、自動のものと手動のものとがあるが、JIS K6129-3:2006に準拠して測定できる機械を選択することが望ましい。
以下、本発明について実施例に基いて詳述するが、本発明の目的を達成するために可能な方法であれば、以下の実施例に限定する必要はない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
成型金型を用いて、カーボンナノチューブの成型を行った。金型のダイの内寸法は縦20 mm、横15 mm、深さ20 mmである。ポンチにダイをセットし、直径150nm、長さ5μm、かさ比重0.08 kgf/cm2 のカーボンナノチューブを1.5 g投入した。ポンチにセットされた摺動可能な減圧室をダイに圧着した。アルバック社製油回転型真空ポンプを用いて減圧室内の空気を脱気した。減圧度が0.2気圧に達する迄に20秒を要した。減圧度が0.2気圧に達した後、直ちに成型圧力30 kgf/cm2 で成型した。減圧及び成型に費やした時間は40秒であった。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得た成型体を、厚さ100μmのエコマティAXフィルムを敷いた同成型機のポンチ(下)およびダイから成る型にセットした。型の温度は210℃に設定した。ポンチ(上)にも同じフィルムを接着し、アルバック社製油回転型真空ポンプを用いて減圧室内の空気を脱気した。減圧度が0.05気圧に達する迄に40秒を要した。減圧度が0.05気圧に達した後、直ちに成型圧力1 kgf/cm2 で成型した。減圧及び成型に費やした時間は70秒であった。フィルムの仮接着は、ポリビニルアルコール専用接着剤を用いた。
【0036】
(実施例3)
(1)成型体の作製 炭素鋼金型(内法15mm×15mm、高さ30mm)に直径150nm、長さ5μm、かさ比重 0.28 g/cc のカーボンナノチューブを1.8 g入れ、20ton油圧プレスにセットした。成型圧力40kgf/cm2で加圧成型し、成型密度を測定した所0.7g/ccであった。
(2)包装体の作製 厚さ30μmのエンボス加工した日合ポリビニルアルコールフィルムをセットしたオーバーラップ機に上記記載の直径150nm、長さ5μm、成型密度 0.7g/ccのカーボンナノチューブ成型体をセットし包装を実施した。フィルム同士の張り合わせは、ポリビニルアルコール専用接着剤にて接着した。 (3)結果 カーボンナノチューブ成型体はその形状を保ったまま、その外部に密着した状態でポリビニルアルコールフィルムで包装する事が出来た。カーボンナノチューブは袋から漏れる事無く、周囲の環境汚染は発生しなかった。
【0037】
(実施例4)

実施例3において、包装材として多孔質の木綿布を用いた。カーボンナノチューブは木綿布から漏れる事無く、周囲の環境汚染は発生しなかった。(実施例5)

実施例3において、包装材として熱収縮性のポリエチレンを用いた。カーボンナノチューブはポリエチレンフィルムから漏れる事無く、周囲の環境汚染は発生しなかった。
【0038】
(実施例6)実施例5で得たポリエチレンフィルムで被覆された成型体を90℃で3分間熱処理した。フィルムは収縮して、成型体に密着した。また、カーボンナノチューブはポリエチレンフィルムから漏れる事無く、周囲の環境汚染は発生しなかった。また、このポリエチレンフィルムで被覆された成型体を重ねて、室温で半年間放置したが、お互いに粘着は見られなかった。「ブロッキングテスト」は、以下のように行なった。即ち、ポリエチレンフィルムで被覆された成型体を重ねて、100gf/cm2の加重を加えて、60℃の高温下で48時間放置した後の粘着性を調べた。
【0039】
(実施例7)実施例5において、得られた成型体をトルエン溶剤に浸漬したところ、フィルムは溶解し、カーボンナノチューブ成型体のみが系中に存在した。
【0040】
(実施例8)実施例6において、ポリエチレンフィルムで被覆されたカーボンナノチューブ成型体を150℃に加熱したところ、フィルムは熱で融解し、カーボンナノチューブ成型体が剥き出しになった。
【0041】
〔密度の測定〕
密度の測定に際しては、直方体の縦と横と厚さをノギスにて測定し、その値から成型体の体積(cc)を算出した。また、電子式直読型上皿天秤にて成型体の重量(g)を測定した。成型体の重量と体積から成型体の密度(g/cc)を算出した。
【0042】
〔造粒物の硬さの測定〕
成型体の硬さについては、ペレットハードネステスターAS2000 PHT AUTO SYSTEMをもちいて、造粒物の全体像を反映するような方法として、微粉末を除いた状態で測定したこと以外は、JIS K6129-3:2006に準拠して測定を行った。
【0043】
〔粉化率の測定〕
粉化率の測定方法を以下に記載する。カーボンナノチューブ加圧成型体を3±1g(W)0.001g迄精秤し、JIS K−6221に準拠した直径200mm、目開き1mmの篩に入れる。この篩に受け皿と蓋を取り付け、JISKー6221に準拠した振とう機で20秒間打撃を与えながら振とうする。振とう機から受け皿を取り外し、受け皿中のカーボンナノチューブの重量を0.001g迄精秤し、これを振とう後の重量(WR)とし、次式によって粉化率を算出した。
【0044】
(数1)
粉化率(%) = (WR/W)×100
【0045】
本発明によって、得られる効果としては種々のものがある。一つは、カーボンナノチューブのかさ高さのために、樹脂マスターバッチ作製時や分散液作製時の仕込みの作業性の悪さの改善である。これは、カーボンナノチューブを、減圧後加圧成型することにより、その飛散性をおさえ計量仕込みを簡便にするだけでなく、飛散による人体への影響を抑えることができるとともに、周辺の汚染を防止する効果もある。また、成型物は、かさ比重が大きくなるためコンパクトに貯蔵することも可能である。このことにより、カーボンナノチューブを連続に均一に扱えることにより、樹脂マスターバッチや分散液を高濃度配合にすることもでき、強度特性・電気的特性・熱伝導特性など種々の性能が向上する可能性も考えられる。二つ目としては、複数のカーボンナノチューブを使用する場合、そのかさ高さから別々の樹脂マスターバッチや分散液を作製せざるをえなかったが、本発明による成型体をもちいることにより、樹脂マスターバッチや分散液を一つにすることができ、複数のカーボンナノチューブを同時に使用することが容易になる。また、複数のカーボンナノチューブを均一に分散することができる。これにより、これまで1種のカーボンナノチューブでは得られなかった強度特性・電気的特性・熱伝導特性など種々のカーボンナノチューブの特性を引き出す基礎となりうる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、産業上の利用分野としては、樹脂コンポジット、ゴム成型物、塗料、インクその他、幅広い分野での利用を可能とするものである。本発明のカーボンナノチューブ成型体は本発明の製造方法によって容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に用いることのできる成型機及び一連の成型操作(充填・減圧脱気・加圧・終了)を示した説明図である。
【図2】本成型機を用いて包装されたカーボンナノチューブ成型体を製造する方法の工程を示した説明図である。
【図3】図3に示すハンドスキャナの実施方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 シリンダ(上)
2 成型シリンダ
3 減圧室
4 成型ポンチ(上)、
5 成型ポンチ(下)
6 成型ダイ
7 シリンダ(下)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ成型体が、カーボンナノチューブを型に入れて加圧成型してなることを特徴とする、請求項1に記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項3】
前記加圧成型が減圧脱気後なされることを特徴とする、請求項1または2に記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項4】
前記包装が熱収縮しない材質であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項5】
前記包装が熱収縮する材質であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項6】
前記包装が溶融成型可能な材質であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項7】
前記包装が溶剤に可溶性の材質であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項8】
前記溶剤が水であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。
【請求項9】
前記包装が溶融成型可能なポリビニルアルコールであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の包装されたカーボンナノチューブ成型体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−184848(P2009−184848A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24242(P2008−24242)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【Fターム(参考)】